【新着】マティアス・グリュネルトの天地創造ミサ(ハイドン)

HMV ONLINEに注文していたアルバムがようやく届きました。最近リリースされたアルバム。

Grunert.jpg
HMV ONLINEicon / TOWER RECORDS

マティアス・グリュネルト(Matthias Grünert)指揮のドレスデン聖母教会室内合唱団(Kammerchor der Frauenkirche Dresden)、ロイシシェス室内管弦楽団(Reussisches Kammerorchester)の演奏で、ハイドンの天地創造ミサ、ヨハン・クリスティアン・バッハのシンフォニアOp.21-1の2曲を収めたアルバム。収録は光学機器で有名なカール・ツァイス社の創業地として知られるドイツのイェーナのすぐ東隣のタールビュルゲル(Thalbürgel)にある修道院でのライヴ。レーベルはライプツィヒのRONDEAU PRODUCTION。

ソロは下記の通り。

ソプラノ:ウテ・ゼリビック(Ute Selbig)
アルト:ラヘル・ハール(Rahel Haar)
テノール:エリック・シュトクローサ(Eric Stokloßa)
バス:アンドレアス・シャイブナー(Andreas Scheibner)

指揮者もオケもコーラスもまったくはじめて聴く組み合わせ。

指揮者のマティアス・グリュネルトは1973年、ドイツのニュルンベルク生まれの指揮者、オルガン奏者。バイエルン教会音楽大学、リューベック音楽大学などで教会音楽、オルガン、声楽などを学び、オルガン奏者としてキャリアをスタートさせました。その後リューベック、ボーザウなどドイツ北部の街の教会などでアシスタントやオルガニストとして働き、2000年からはイェーナ近くのグライツの聖マリア教会のカントールを務め、2003年にはバッハの全オルガン作品を演奏、翌2004年にはグライツ・バッハ・フェスティバルを創設するなどバッハを得意としているようです。2005年にこのアルバムの合唱団の所属するドレスデン聖母教会の首席カントールとなり、音楽監督として教会の音楽行事を管理することになりました。ドレスデン聖母教会には120名の大合唱団と30名の室内合唱団をつくり、この室内合唱団とは日本にも来ているそうです。

ハイドンのミサ曲のうち最後の6曲は、1796年から1年ごとに1曲のペースで作曲され、毎年マリア・ヘルメネギルト・エステルハージ公爵夫人の命名祝日にアイゼンシュタットのベルク教会で演奏されたものです。今日取り上げる天地創造ミサは最後の一つ前の1801年の作品で、グローリアにオラトリオ「天地創造」のアダムとエヴァのデュエットの一部が使われていることからこの名がついたもの。当ブログでは、これまでミサ曲はネルソンミサにレビューが集中しているため、すこし他のミサも取りあげるべきという事で天地創造ミサを取りあげた次第。

Hob.XXII:13 / Missa "Schöpfungsmesse" 「天地創造ミサ」 [B flat] (1801)
キリエ
ライヴということですが、セッション録音と遜色ない鮮明な録音。教会での録音らしく音が塊で飛んでくるような図太い響き。演奏はキレのよい誠実な演奏のオケに非常に豊な響きのコーラスが被さり、まるで教会の中で聴いているような理想的なまとまり。グリュネルトのコントロールは淡々とした音楽の自然な流れを重視したもの。オケはしっかりエッジを立ててクッキリとした響きをつくっているのでだれた感じはまったくしません。テンポは一貫していてあまり揺らす事はありません。キリエでは精度の高い響きが挨拶がわり。

グローリア
続くグローリアに入ると、少し表現がしなやかになり、ドラマチックなところも出てきます。ゆったり静かに語る部分の美しさが垣間見えてきます。ソロは名前を知らない人ばかりですが、声の美しさとしっかりとコントロールされた歌いぶりから、それぞれかなりの力量とみました。コーラスは少人数ですので透明感もあり、精度もバッチリ。オケの響きが非常にクッキリしているので、響きが引き締まります。途中の天地創造からの引用の部分のちょっとコミカルな演出も悪くありません。

クレド
冒頭の速いテンポから、中間部の沈む部分、そして朗々とした終盤と変化します。それぞれの部分自体の表現の幅が大きいわけではありませんが、キレの良い響きがベースにあるので単調に感じることはありません。もう少し劇的な演奏を期待たいところでもありますが、これがグリュネルトのスタイルなんでしょう。教会音楽を最初に学んだだけあって敬虔さというか、誠実さがにじみ出てくるような生真面目さを聴くべきでしょう。淡々とした演奏のなかから沸き上がる高揚感もあると言う事です。

サンクトゥス
オケとコーラスのバランスが普通の演奏よりコーラスが若干強いように感じます。短いサンクトゥスですが、だんだん奏者の集中力が上がって演奏に起伏がついてきました。

ベネディクトゥス
ここにきて滔々たる大河の流れのような表情になり、音楽に呑まれるようになります。自然な演奏からじわりと伝わる感興。どっぷりと雄大な音楽の流れに身を任せます。

アニュス・デイ
癒しに満ちた最後のアニュス・デイ。微妙な表情を描き分けるグリュネルトも素晴しいのですが、そもそもハイドンが各曲に仕込んだデリケートな音楽にいまさらながら惹き付けられます。クリュネルトは最後までプレーンに音楽をこなして、曲自体からにじみ出る音楽の素晴しさを聴けと言っているよう。これはこれで酔眼でしょう。ライヴと言う事ですが拍手はありません。

最初のキリエを聴き始めた時にはきっちりしてはいるものの、若干単調さを危惧する演奏だと感じたんですが、聴き進むうちに徐々に表現が深まり、自然に音楽に引き込まれる名演奏だとわかりました。先日取りあげたヒギンボトムの演奏とは若干スタイルが異なりますが、音楽の表現の角度は近い物があります。まだまだ若い指揮者と若い団体の演奏ゆえ、今後の録音が期待されますね。評価は[+++++]とします。

次に収められたクリスチャン・バッハのシンフォニアですが、余裕たっぷりの姿勢でゆったりと演奏され、実に趣きある演奏です。こちらもオススメとしましょう。

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tag : 天地創造ミサ ライヴ録音

ジェーン・グラヴァーの天地創造ミサ

今日は当ブログではじめて取りあげる曲。手元のアルバムはNAXOSのハイドンのミサ曲集。

GloverMasses.jpg
HMV ONLINEicon

このNAXOSのミサ曲全集は前に一度当ブログで紹介していますが、演奏に踏み込んだレビューはしていません。

2010/03/06 : ハイドン–声楽曲 : NAXOSのミサ曲全集

CD8枚にわたって主要なミサ曲やスタバト・マーテルまで収録された素晴らしい企画。今日はその中から、ジェーン・グラヴァー指揮の天地創造ミサを取りあげます。

ジェーン・グラヴァー(Jane Glover)指揮のレーベル・バロック・オーケストラ(Rebel Baroque Orchestra)、トリニティ合唱団の演奏でハイドンの天地創造ミサ。収録は2008年9月8日~9日、おそらくニューヨーク、ウォール街のトリニティ(三位一体)教会での録音。歌手は有名どころは入っていませんが、次のとおり。

ソプラノ:ニコル・パーマー(Nicole Palmer)
ソプラノ:ニナ・ファイア(Nina Faia)※グロリアのみ
アルト:キルステン・ソレック(Kirsten Sollek)
テノール:ダニエル・ムトゥル(Daniel Mutlu)
テノール:マシュー・ヘンスルッド(Matthew Hensrud)※グロリアのみ
バス:アンドリュー・ノレン(Andrew Nolen)

こちらが、分売盤。

GloverCreationMass7.jpg
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ジェーン・グラヴァーはイギリスの女流指揮者でハイドンの交響曲もロイヤル・フィルやロンドン・モーツァルト・プレイヤーズと何曲かの録音があります。1949年生まれということでこの天地創造ミサの演奏時は60歳近いことになります。オックスフォード大学セント・ヒュー・カレッジを卒業し、1975年にウェクスフォード・フェスティヴァルでデビュー。1981年から1985年までグラインドボーン・ツーリング・オペラ、1984年から1991年までロンドン・モーツァルト・プレイヤーズ、2002年からシカゴのミュージック・オブ・ザ・バロックの音楽監督をつとめています。古楽器オケを中心にモーツァルトなどを取りあげているようですね。

合唱のトリニティー合唱団とオケのレーベル・バロック・オーケストラはニューヨークのウォール街にあるトリニティ教会を本拠地とする合唱団とオケ。響きを聴く限り本格的な腕をもつ集団。

天地創造ミサは、もちろんオラトリオの天地創造とは異なる曲。ハイドン69歳の1801年に作曲され、1796年から1802年にかけて作曲された6曲のミサ曲の最後から2番目の曲。この一連のミサ曲はハイドンが長年に渡って仕えたニコラウス・エステルハージ侯爵が1790年に亡くなり、その後を継いだアントン侯が4年で亡くなったため、新しい君主となったニコラウス二世候がことのほか教会音楽に感心を示し、侯爵夫人のマリア・ヘルメネギルトの命名日の祝祭のために毎年新しいミサ曲を作曲するようハイドンに命じた事から作曲されたもの。
グローリアに3年前に完成した天地創造のアダムとエヴァのデュエットの中の旋律が9小節に渡って引用されていることから天地創造ミサと呼ばれています。
天地創造ミサが初演された1801年のハンガリーの新聞によれば、アイゼンシュタットのエステルハージ家の宮殿で開かれた夫人の命名日にはウィーンから多くの貴族が招待され、記念して開かれた舞踏会は数多の蝋燭で彩られ、豪華な食事と素晴らしい音楽が流れたと記されています。

Hob.XXII:13 / Missa "Schöpfungsmesse" 「天地創造ミサ」 [B flat] (1801)
キリエ
ネルソンミサなどの激しい導入とは異なり、穏やかなキリエの導入部。ジェーン・グラヴァーのコントロールは古楽器の引き締まった響きの魅力を保ちながら、流麗で豊かな感興をともなうタイトな響きが魅力。オケはコンパクトにまとまり、コーラスとの調和も見事。速めのテンポで一気にフレーズを描ききるような演奏。スタティックな感じはなく、ダイナミックかつ分厚い響きが特徴。

グローリア
ほの暗い旋律ながらゴムまりのように弾むリズムが印象的な楽章。ティンパニと金管楽器が打ち鳴らされる豪放な曲想。弦楽器がさざ波のように行き来る装飾を加えるうちに天地創造のアダムとエヴァの聴き慣れたデュエットに登場するメロディーが聴こえてきます。ここまで非常に一体感のあるメロディー。流れに一貫性があると言うか、遮るものがない滑らかな演奏。これはグラヴァーの意図でしょう。コーラスの透明感も素晴らしいもの。印象的な間などはありませんが、流れの良さが非常に印象的。トラックが変わった後半はコーラスとオケの響きの坩堝ような楽章。やはり一貫した流れで一気に聴かせます。

クレド
ネルソンミサやテレジアミサのような印象に残るわかりやすいメロディーが少ないかわりにぐいぐい進む推進力が魅力の曲が続きます。トラック12はオルガンの素朴な響きを楽しめる曲。オルガンの響きに耳を傾けていると突然の爆音に驚かされます。グラヴァーのコントロールはやはり速い楽章のテンションの高さが魅力。弾む弾むメロディー。デュナーミクの緻密なコントロールも見事。活き活きとした古楽器オケ。旋律をクリアに分解しようとする意図は感じず、弾む音のかたまりによるエネルギー感が持ち味。

サンクトゥス
不思議な魅力のある曲。華があるのに枯れている曲想。後半にはコーラスが大活躍で、最後は大迫力のティンパニ乱れ打ち。

ベネディクトス
折り重なるように歌われる女声ソロが印象的。冒頭のメロディーが繰り返されるうちに響きの渦の中にいることに気づかされるような曲。途中の転調によってほんのりと明るさが射してくるようすがわかります。派手さはないものの非常にデリケートな音楽の進行が心にしみる曲。

アニュス・デイ
ゆったりとした序奏を聴くうちに徐々に幸福感につつまれてきます。天上から楔を打たれるような強音により音楽が一転しますが、再びゆったりした音楽、そしてまた楔。この曲の白眉でしょう。ハイドンの音楽の真髄を感じる楽章。そして最終曲は総決算のように印象的なメロディーのさざ波のようなフーガによる祝祭的な雰囲気で盛り上がる曲。クライマックスは低音弦と金管、コーラスの複雑なメロディー。地味ですが慈しみ深い曲でした。

実は天地創造ミサは昔からあまりしっくり来る曲ではなく、あんまり聴き込んでは来ませんでした。それゆえブログでも何回か取りあげようとしていましたが、今ひとつ記事にしにくかったのが正直なところ。いろいろなミサ曲を聴いて記事をいくつか書いてきたのでようやく取りあげられるような心境になった次第。やはり他のミサ曲にくらべて曲の構成が複雑で、派手さもないため地味な印象を与えますが、音楽自体は実に深いものがあります。ジェーン・グラヴァーの演奏はこの複雑な曲に一貫した表情を与え、古楽器オケとしては異例の弾む感じを基調としたユニークな解釈でしょう。評価は[++++]とします。このところコッホのネルソンミサなど突き抜けた演奏を聴いて耳が肥えていますので。この曲はハイドンを好きな方でも上級者向けですね。

もう少しいろいろな演奏を聴いて曲の真髄に近づいてみたいですね。

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tag : 天地創造ミサ 古楽器 ミサ曲全集

プロフィール

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なぜかハイドン(Franz Joseph Haydn)が特に気に入り膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。東京在住のごく普通のサラリーマンです。

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