【新着】ゴルトムント四重奏団の弦楽四重奏曲集(ハイドン)

弦楽四重奏曲の新譜です。当ブログにいつも含蓄のあるコメントをいただくSkunjpさんから「レビューせよ」とのお告げをいただいていたもの(笑)

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TOWER RECORDS / amazon / ローチケHMVicon

ゴルトムント四重奏団による、ハイドンの弦楽四重奏曲Op.1のNo.1、Op.33のNo.5、Op.77のNo.1の3曲を収めたアルバム。収録は2016年4月18日から21日にかけて、ミュンヘンの北の街、イスマニンング(Ismaning)のガブリエル教会(Gabrielkirche)でのセッション録音。レーベルは、な、なんとNAXOS。

なんと、NAXOSと言ったのは、もちろん廉価盤の雄であり、作曲家の作品のフルレコーディングに執念を燃やし、しかもハイドンの弦楽四重奏曲についてはすでにコダーイ四重奏団との素晴らしい全集を完成させたあのNAXOSが、新たな奏者との録音を始めたとの驚きを隠せないからに他なりません。コダーイ四重奏団との全集がリリースされ始めたのはかなり前になりますが、リリース当初は廉価盤ゆえ一流の演奏とは差があるだろうとたかをくくっていましたが、リリースされるたびにその円熟の演奏の素晴らしさが判明し、現在選択できる弦楽四重奏曲全集でも、1、2を争う素晴らしいものであるのは皆さんご存知の通り。そのNAXOSが新たに世に問う弦楽四重奏曲の新譜ということで、ちょっと普通のアルバムとは見方が違ってしまうのは無理からぬことでしょう。

しかも、選曲は、作品ごとではなく、Op.1、Op.33、Op.77と初期、中期、晩年の作品からセレクトしたもの。さらに、ジャケットに写る姿がまた意味ありげです。まるでコダーイ四重奏団の偉業である弦楽四重奏曲全集をアルプスの山に象徴させ、それを遠景に自信ありげに崖に立ちすくむ4人組。まるでコダーイを過去のものにしてしまうことを暗喩するようなジャケット写真にこのクァルテットに寄せられる期待の大きさと、NAXOSというレーベルの尽きない野心を感じてしまうのは私だけでしょうか。

ゴルトムント四重奏団は、ミュンヘンで学んでいた学生たちによって2009年に設立されたドイツのクァルテット。マドリードの室内楽国際研究所でアルバン・ベルク四重奏団のゲルハル卜・シュルツとギュンター・ピヒラーに師事。デビューはミュンヘンのプリンツレゲンテン劇場(Prinzregententheater)で、以来国際的な音楽祭などに出演を重ねて腕を磨いてきたとのこと。メンバーは下記の通り。

第1ヴァイオリン:フローリアン・シェッツ(Florian Schötz)
第2ヴァイオリン:ピンカス・アド(Pinchas Adt)
ヴィオラ:クリストフ・ヴァンドリー(Christoph Vandory)
チェロ:ラファエル・パラ卜ーレ(Raphael Paratore)

Goldmund Quartet

彼らのウェブサイトを見ると、これまでにリリースされたアルバムは今日取り上げるハイドンだけしか掲載されていませんので、もしかしたらこれがデビュー盤かもしれませんね。

いずれにせよ楽しみなアルバムに他なりませんね。

Hob.III:1 String Quartet Op.1 No.1 [B flat] (c.1757-59?)
音に芯を感じる現代楽器による堅実な響き。ハイドンらしいリズムの軽さもあり、正攻法の演奏です。何気に精度も高く、規律もあっていきなりハイドンらしい朗らかな良さがじわじわと伝わってきます。これは名演の予感。
初期のクァルテットは5楽章構成で2楽章、4楽章にメヌエットが挟まりますが、このメヌエットが実に心地よい演奏。短い楽章の中に流麗さ、規律、機知、ハーモニーの全てが感じられる実に深い演奏。ここでもハイドンらしい明るくユーモアのある規律が支配しています。
アダージョに入るとそれに精妙さが加わり、深い陰影の美しさが際立ちます。ヴァイオリンのフローリアン・シェッツの弱音から伸びやかに響きわたるメロディーの美しさはかなりのもの。アンサンブルも音色がそろって緊張感を保ちます。
後半のメヌエットもよく聴くと非常にニュアンス豊か。シンプルなメロディから非常に多彩な音楽を繰り出してきます。このメヌエットからこのクァルテットの力量がよくわかります。
フィナーレに入って、ヴァイオリンが牙をむいてきました。ただ軽やかにまとめてくるかと思いきや、ヴァイオリンが意外性のある踏み込みをみせて、只者ではないとさりげなく主張しているよう。最後にチラッと牙を剥くあたりのセンスも秀逸です。ハイドンの最初の弦楽四重奏曲を1曲目に持ってきながら、この曲でこれだけの表現を仕込んでくるあたり、大物ですね。非常に完成度の高い演奏です。

Hob.III:41 String Quartet Op.33 No.5 [G] (1781)
冒頭からハイドンの筆致の変化に驚きます。前曲に比べると驚くほど豊かな響き。この曲の配置は秀逸。この曲でも速めのテンポにってリズミカルかつ規律ある演奏。アクセントのつけ方もフレージングもわずかに個性的な変化をつけて新鮮さを感じさせます。曲の起伏を急な音量変化で印象付けながら、流麗さは保っているので流れの自然さと、ユニークさを両立させています。この表現力、創造力によって聴き慣れたこの曲が実にスリリングに響きます。
2楽章のラルゴ・カンタービレはヴァイオリンのくっきりと浮かび上がるメロディーを強調、冴え冴えとしたこの曲の魅力が際立ちます。あえてヴァイオリンだけにスポットライトを当てた割り切りが見事。
前曲でもメヌエットが絶品でしたが、この曲でも素晴らしい躍動感が味わえます。ハイドンのメヌエットの理想形。要所での崩しと、流れの維持のコントラストも見事。創意が冴えまくってます。
フィナーレは変奏。リズムと戯れるのが楽しくてしょうがないような演奏。天真爛漫とはこのことでしょう。ハイドンがこの曲に込めたニュアンスを見事に掘り起こして、我々に最上の形でとどけてくれたような演奏。絶品です。

Hob.III:81 String Quartet Op.77 No.1 [G] (1799)
最後は最晩年の曲。やはり速めの快活な入り。最初の数フレーズを聴いただけで、巧みなアクセントと豊かなデュナーミクに惹きつけられます。冴え渡るアイデア。聴き慣れた曲の垢がすっかり落ちてメロディーが実に新鮮に響き渡ります。ボウイングのキレが良いというのではなく、パート間のやりとりのスリリングさが尋常ではないレベルで火花が散っています。それでいて古典の規律は守っているところが素晴らしいところ。
アダージョもやはり精妙な入りですが、太めのチェロの音色がぐっと迫りながら波を作ってき、それに各パートが合わせていく感じ。途中すっと音量を落として静けさを感じさせるところの演出も巧み。音の硬軟を鮮やかに切り替えながら音楽を作っていきます。ふと気づくと、深い音楽の淵をのぞいているような気分にさせられます。ハイドンの晩年の心境を鮮やかに再現。
そしてゴルトムント得意のメヌエットはここでも神々しいほどの切れ味でリズミカルなメヌエットから、ただリズミカルなだけでなく古典期のハイドンが到達した極北の表現の深さを描き切ります。このメヌエットは絶品。千変万化、快刀乱麻、風味絶佳!
フィナーレはこのアルバムの終結にふさわしいキレと風格と規律が高次にバランスしたもの。曲が進むに連れて軽やかな音楽の深みにはまっていきます。最後はキレよく多彩な響きの織りなすクライマックスに至り、すっと終わります。いやいや見事。

NAXOSレーベルが放つ、新たなハイドンの弦楽四重奏曲の第一矢は、このレーベルがこれまで築きあげてきた、大手レーベルの存在を脅かすような品質、ブランドの底力を示す、素晴らしいプロダクションです。新たなシリーズに発展するかどうかの情報はありませんが、これは新たな金字塔になる予感も感じさせます。ゴルトムント四重奏団、素晴らしい才能の持ち主と見抜きました。ハイドンの演奏にこれほどふさわしいクァルテットをよくぞ掘り起こしたというのが正直な感想。これは是非シリーズ化してほしい。いや、シリーズ化しないと人類の損失です。もちろん、評価は全曲[+++++]とします。

少し前に記事にしたキアロスクーロ四重奏団といい、このゴルトムント四重奏団といい、新たな才能を感じさせる若手クァルテットが次々とハイドンに挑み、しかも素晴らしい演奏を聴かせてくれるということで、ハイドンの弦楽四重奏曲の演奏も新時代に突入したという印象を強くしました。このアルバムも是非、聴いてみてください。

Skunjpさん、こんなところで如何でしょうか!

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tag : 弦楽四重奏曲Op.1 弦楽四重奏曲Op.33 弦楽四重奏曲Op.77

ジェルノ・ジュスムース/シンフォニア・クラシカの哲学者、受難など(ハイドン)

今日は交響曲ですが、アルバムにはディヴェルティメントと弦楽四重奏曲の管弦楽版が含まれた変わった趣向のもの。

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ジェルノ・ジュスムース(Gerno Süssmuth)指揮のシンフォニア・クラシカ(Sinfonia Classica)の演奏で、ハイドンのディヴェルティメント(Hob.X:3)、交響曲22番「哲学者」、弦楽四重奏曲Op.1のNo.1の管弦楽版、交響曲49番「受難」の4曲を収めたアルバム。収録は2007年、イングランド南西部のタウストック(Tawstock)にある教区教会でのセッション録音。レーベルは英LandorRecords。

このアルバム、例によって湖国JHさんから貸していただいているもの。だだの交響曲のアルバムと思いきや、そうではありませんでした。指揮者のジェルノ・ジェスムースは、以前取り上げたペターセン四重奏団の第2ヴァイオリン奏者。ペターセン四重奏団といえば、ハイドンの最初の弦楽四重奏曲Op.1のあまりに見事な演奏が記憶に新しいところです。

2014/08/09 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : 絶品! ペターセン四重奏団の弦楽四重奏曲Op.1(ハイドン)

その緻密な構成をオケで再現したらと思うと、ちょっとゾクゾクします。しかも収録曲には管弦楽の演奏にもかかわらず、弦楽四重奏曲Op.1のNo.1まで含まれており、否が応でも期待が高まります。はやる期待を抑えて奏者の情報をライナーノーツなどからさらっておきましょう。

シンフォニア・クラシカは、2003年イングランド南西部のヨーヴィル(Yeovil)とバーンスタプル(Barnstaple)のホールでEU室内管弦楽団のメンバーとはじめてコンサートを行った新進オケ。以来この2都市で毎年のように演奏しています。今日取り上げるアルバムがデビュー盤のようです。
指揮者のジェルノ・ジュスムースは9歳でハイドンのヴァイオリン協奏曲を演奏会で演奏したという経歴があり、また若い演奏者のための様々なコンクールの入賞歴があります。1980年にベルリンのハンス・アイスラー音楽院に入学し、旧東独にあった音楽院のオケのリーダーを務めました。その後ベルリン放送交響楽団のコンサートマスターとして働き始め、2003年にはザルツブルクとイギリスで新ベルリン室内管弦楽団を率いてコンサートを開いています。先に触れたペターセン四重奏団には1991年から1999年まで所属し、その間多くの賞を受賞しており、フィレンツェで行われたヴィットリオ・グイ室内楽コンクールで1等を獲っているとのこと。以後バレンボイム率いるベルリン国立歌劇場で首席奏者、ワイマール国立歌劇場でコンサートマスターなどを務めました。近年ではハンス・アイスラー音楽院で教職についています。

腕利きのヴァイオリン奏者であるジュスムースが率いる新進のシンフォニア・クラシカがペターセン四重奏団ばりの緊密な音楽を生み出すのでしょうか。興味津々。

Hob.X:3 / Divertimento : Baryton Octet Nr.3 [a/A] (1775)
実はジャケットには曲名がHob.X:10と記載されているのですが、聴いてみると明らかに違う曲。X系列の曲を他のアルバムで確認するとこれはHob.X:3であることがわかりました。もともとバリトン八重奏曲として書かれた曲ですが、弦楽合奏にオーボエとホルンのソロが加わったもの。バリトンが加わった演奏は何種か手元にあるのですが、バリトンの不可思議な音色と古楽器の音色のハーモニーを楽しむ曲です。ところがこの演奏ではキレの良いオケによって、バリトンでの演奏で薄れがちなメロディーをしっかり描いた面白さが存分に味わえます。
テンポは中庸、短調のほの暗い響きから入ります。オケはキリリとリズムが引き締まりながらも適度にリラックスして余裕のある演奏。そう、私の好きなタイプの演奏です。アダージョ、アレグロ、アレグレットの3楽章構成で、最後のアレグレットが長い変わったもの。2楽章は晴朗、快活なハイドンらしい曲。こうした曲では演奏のキレの良さが引き立ち、まさに弾むような音楽。ペターセン四重奏団の精妙な演出にはちょっと敵わないとは思いますが、基本的に質の高い演奏。特に第1ヴァイオリンのキレっぷりは見事です。旋律がクッキリと浮かび上がり曲の構造が透けて見えるようです。3楽章はオーボエとホルンのソロが活躍。変奏が次々と進み、バリトン八重奏曲というよりは普通のディヴェルティメントのように聴こえます。こうして聴くと実に穏やかないい曲。音楽の造りはペターセン四重奏団と共通する全体の見通しの良さが感じられます。

Hob.I:22 / Symphony No.22 "Philosopher" 「哲学者」 [E flat] (1764)
1楽章から独特の曲想がユニークな哲学者、聴き進むうちにトランス状態になりそうな実に穏やかな曲です。かなりクッキリとした規則正しい伴奏のリズムに乗って穏やかなメロディがホルンなどの楽器をつなぎながら奏でられていきます。特にヴァイオリンのメロディーのキレの良さが印象的なのは前曲同様。ハイドンの曲のツボを完全に掌握しています。各パートの丁寧な描写から穏やかな曲に潜む音楽の面白さがにじみ出るような秀演。やはり音楽の構成は精妙。
つづくプレストは竹を割ったような直裁な響きのオケが見事な一体感で攻めてきます。デュナーミクの精緻なコントロールが鮮やか。鮮明、クッキリなオケがグイグイ音楽をまとめていきます。一呼吸おいてさっとメヌエットに移ります。リズムの変化の繊細さも見事。途中から入るホルンも見事なアンサンブル。癖のない精緻なアンサンブルの魅力をストレートに聴かせてきます。フィナーレも慌てず、堅実なアンサンブルが続きます。最後に及んで、湧き上がる喜びのようなものを実にうまく表現していきます。メロディーのエッジをキリリと立てて隈取りクッキリ。素晴らしい推進力。

Hob.III:1 / String Quartet Op.1 No.1 [B flat] (c.1757-59?)
弦楽四重奏の演奏とは次元の異なる分厚い響きに最初から圧倒されます。同じく弦楽合奏ではエミール・クライン盤も素晴らしい演奏でしたが、クライン盤が優雅かつ典雅な方向の演奏だったのに対し、こちらはタイトでダイナミックに切り込む感じ。穏やかなばかりの演奏ではありません。楽章ごとに音の厚みというか奏者の人数を変え、楽章間のコントラストはかなりきっちりつけて曲の構造をクッキリと印象づけます。1楽章は分厚くタイトに切れ込み弦楽四重奏では出しにくい力感を見事に描きます。2楽章は少し力を緩めてメヌエットを描きますが、素晴らしいのは中間部のピチカートの部分。ゾクゾクするような立体感。そしてアダージョは弦楽四重奏そのままのように楽器を絞って精妙なハーモニーを聴かせます。4楽章のメヌエットは静けさを切り裂くような弦の強音から入り、強弱の対比をつけながら曲を展開。印象に残る響きを創るのが非常に上手いですね。フィナーレはさっとキレ良く終了。この曲の新たな魅力をまた知った感じです。

Hob.I:49 / Symphony No.49 "La passione" 「受難」 [f] (before 1768)
最後にシュトルム・ウント・ドラング期の名曲を持ってきました。基本的に鮮明でキレの良いオケですが、音楽に一貫した姿勢があり表現過多には聴こえず、むしろ曲ごとに緻密な設計があって、それを忠実に表現しているよう。この曲では出だしの印象的なアダージョはキレの良さよりも、しっとりとしたほの暗さをうまく演出して、徐々に明るい光が射していく場面への変化も見事です。一貫した味わいのある現代楷書のよう。表現手法はオーソドックスなのに、表現にキレがあり全体のバランスも実にいい感じ。オケの経験と力量からすると、ジェスムースが緻密にコントロールしているということでしょう。
2楽章のアレグロ・アッサイに入ると力感が増しますが、冷静に細部をコントロールしているようでもあり、没入してしまうことはありません。適度な高揚感のもと響きを磨き込むことを意識して、クリアにまとめます。メヌエットはほの暗さを保ったまま、比較的穏やかにまとめ、フィナーレに備えます。期待通りフィナーレに入るとオケのテンションが上がりパート間でせめぎ合います。ただし、曲が進むにつれてテンションがさらに上がるかと思いきや、だんだん抑えてきて最後にあっさりと終わるさらりと粋なところを見せます。

ペターセン四重奏団のメンバーだったジェルノ・ジェスムースの振るシンフォニア・クラシカのデビューアルバム。オケとしての演奏の精度は見事なものがあり、他の有名指揮者による演奏と比べてもクッキリとした表情の描き方は素晴らしいものがあります。最初のディヴェルティメントと哲学者ではその辺の長所が活きて、曲ともマッチしていたのですが、3曲目の弦楽四重奏曲では、その演出がちょっと強くなった分、曲の新たな魅力を引き出す一方、曲自体の面白さを生かした他の演奏との印象の違いも少々気になる部分を残してしまいました。最後の受難では指揮者のもう一段の踏み込みがあってもいいかもしれないという印象でした。ということで評価は前半2曲は[+++++]、後半2曲は[++++]とします。受難はきっちりとまとまり良い表現に一段良い評価をする人もあるかと思いますが、ちょっと響きに関心が集中しすぎてるのではとの思いです。

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tag : ディヴェルティメント 哲学者 弦楽四重奏曲Op.1 受難

珍盤 カスバル・ダ・サロ四重奏団のひばり、皇帝など(ハイドン)

ちょっと前にディスクユニオンで仕入れたアルバム。

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カスバル・ダ・サロ四重奏団(Caspar Da Salo Quartet)の演奏による、ハイドンの弦楽四重奏曲Op.1のNo.1、Op.64のNo.5「ひばり」、Op.76のNo.3「皇帝」の3曲を収めたアルバム。収録年、収録場所の表記はなくPマークが1988年とだけ記載されています。レーベルはDigital Concerto。

このアルバム、音楽専門のレーベルではなく、量販店で売られるクラシックベスト的な感じの造りで、なんとなく怪しい雰囲気のもの。日本向けのものではなく解説は英語のみですが、ハイドンに関する短い解説と、このシリーズの有名作曲家による名曲を集めたシリーズの一覧カタログが載ったもの。ジャケットの下部には誇らしげに”60+ MINUTES”と書かれているあたりも思いっきり安っぽい感じです(笑)

店頭で見かけた時は、もちろん手に入れるのを躊躇しましたが、ハイドンのコレクションを充実させるという目的のみで入手。しばらく未聴盤ボックスに寝かしてありましたが、先日何気なしに聴いてみると、意外や意外、なかなかいい演奏なんです、これが!

あわててネットで奏者であるカスバル・ダ・サロ四重奏団について調べてみても情報はなし。メンバーもわかりません。英語のサイトをいくつかたどると、気になる書き込みがあり、このクァルテット名は恐らく仮名で、実際は別のクァルテットではないかとのこと。このアルバムこうした廉価盤として長らく流通しており、おそらく欧米では知られた存在なのでしょう。なんだかよくわかりませんが、実際の演奏は素直な名演奏ということで、取り上げることにしました。たまには珍盤も良いでしょう。

Hob.III:1 / String Quartet Op.1 No.1 [B flat] (c.1757-59?)
木質系の弦楽器の直裁な響きがダイレクトにつたわる素直な録音。やや速めのテンポでサクサクと進めていくことで非常に快活な印象。ハイドン最初の弦楽四重奏曲の面白さが実に素直に表現されています。先日聴いたペターセン四重奏団はアーティスティックなまでに昇華された見事な演奏でしたが、こちらはまさにオーソドックスな演奏。弦楽四重奏曲の見本のような端正さ。とても廉価盤レーベルの録音とは思えない、なかなかいい演奏です。奏者間のバランスと対比も見事。
この曲は5楽章構成のはずですが、このアルバムではなぜか4トラック。聴いてみると4楽章と5楽章が一緒になっているのはいいのですが、本来2楽章はメヌエットで、3楽章がアダージョであるところ、2楽章はアダージョで3楽章はメヌエットとの表記。この辺も廉価盤レーベルならではということでしょう。演奏がいいだけに惜しいところです。続くメヌエットでは一糸乱れぬアンサンブルの緻密さ、アダージョに入ると誰だかわからない第1ヴァイオリンの落ち着きながらもピンと張り詰めたヴァイオリンの美音にグッときます。しっとりと染み渡るような演奏。これはかなりの腕前です。4楽章のメヌエットは程よいメリハリ、そしてフィナーレでは自然な流れで壮麗な雰囲気をうまく描いていきます。なかなか聴き応えのある演奏でした。

Hob.III:63 / String Quartet Op.64 No.5 "Lerchenquartetett" 「ひばり」 [D] (1790)
前曲同様速めのテンポであっさりとしながらも勘所を抑えた入り。有名なこの曲も実に堅実な音楽に引き込まれます。演奏の安定感というか、スタンスの一貫性も流石なところ。ちょっとやそっとの腕前ではここまで安定した音楽を奏でることはできません。テンポのせいか、非常に見通しの良い音楽となっています。ハイドンの音楽は素直な演奏ほどその良さが生きるということでしょうが、聴き進むとフレーズごとの表情付けも見事で、この一貫性とそのなかでの音楽の造りかたのバランスは絶妙。前曲以上に演奏の上手さに驚きます。
続くアダージョ・カンタービレは圧巻。一貫したスタイルはそのままに、大きく波打つ音楽を凛々しく表現。弦楽四重奏曲の真髄に迫る鬼気迫る音楽を奏でます。ここまでの演奏が聴けるとは思いませんでした。他の一流どころの演奏に引けをとるどころか、全く遜色ないもの。この楽章でこれほどの音楽を聴かせる演奏は滅多にありません。
すっかり奏者のペースにはまってしまっています。メヌエットも、各奏者が代わる代わるメロディーを引き継いでいくところのやりとりの見事さに耳を奪われます。そしてフィナーレに続きますが、ほどよいキレと少し溜めるような音階の表現が最後に個性を残すよう。いやいや見事なひばりでした。

Hob.III:77 / String Quartet Op.76 No.3 "Kaiserquartetett" 「皇帝」 [C] (1797)
最後は名曲皇帝。すでに耳は鋭敏になり、前のめりで聴きます。相変わらず速めのテンポでサクサク入ります。すぐにアンサンブルの面白さに引き込まれます。よく聴くと、速めのサクサク進める部分と、ゆったりとメロディーを奏でる部分の対比をうまく使いわけて音楽に活気を保っていることがわかります。それが実に自然に変化するので実に味わい深い音楽になって聴こえるということでしょう。
ドイツ国歌の2楽章は自然なしっとり感を残した柔らかな表情で淡々と耳に残るメロディーを奏でていきます。ゆったりと歌われるメロディー。チェロのちょっと燻らしたような音色が独特の味わいを加えています。この楽章の深みも見事なもの。これだけの深い淵を聴かせる演奏はそうはありません。絶品!
一転、軽いタッチの音楽に変わります。自ら奏でる音楽の範囲の中での安定した表情の変化。安心して音楽に没頭することができます。メヌエットでも描き方で音楽の印象が大きく変わりますが、この安定感は流石です。そしてフィナーレは前曲同様、華やかさだけを狙うのではなく、あえて少し重さもともなった落ち着いたもの。技巧重視でくるとグイグイ攻め立ててくるパターンもありますが、この落ち着いたフィナーレこそ、曲の流れを崩さないものと言いたげです。終盤すこし音程が落ち着かないところもありますが、よくまとまった演奏でした。

カスバル・ダ・サロ四重奏団によるハイドンの弦楽四重奏曲集。奏者の実態もわからず、廉価盤然とした造りにもかかわらず、演奏は一級品と言っていいでしょう。特に「ひばり」は見事の一言。オーソドックスな演奏ではかなりいい線いっています。このアルバム、他の有名なクァルテットの演奏のコピーである可能性も否定できませんが、手元のアルバムのタイミングを見ても近いものがなく、その線はなさそう。逆に腕利きの奏者たちが、なんらかの理由で名を明かさずに録音したものかもしれません。その辺は想像しているうちが楽しいわけであります。万一このアルバムの出自がわかる方がありましたら教えていただければと思います。さて、評価はひばりが[+++++]、残り2曲は[++++]とします。

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tag : 弦楽四重奏曲Op.1 弦楽四重奏曲Op.64 弦楽四重奏曲Op.76 ひばり 皇帝

絶品! ペターセン四重奏団の弦楽四重奏曲Op.1(ハイドン)

今日は弦楽四重奏曲でも滅多に取りあげないOp.1。このアルバム、コート姿のちょっとイケてない4人が並んだ、ちょっと不思議なジャケット。この妖気が気になり手に入れた次第。聴いてみると、これが超絶名盤でした。

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ペターセン四重奏団(Petersen Quartett)の演奏による、ハイドンの弦楽四重奏曲Op.1のNo.1~No.6の6曲を収めた2枚組のアルバム。収録は前半3曲が1995年9月4日から9日、後半3曲が1996年2月18日から23日、ドイツのヴッパータールにあるインマヌエル教会でのセッション録音。レーベルはCAPRICCIO。

ペターセン四重奏団は、1979年、当時ベルリンのハンス・アイスラー音楽院の学生だったメンバーが設立したクァルテット。カラヤン時代のベルリンフィルのコンサートマスターだった、トーマス・ブランディスやシャーンドル・ヴェーグらに師事し、1985年エヴィアンで開催された国際室内楽コンクールで2等、1986年フィレンツェで開催された国際室内楽コンクールで優勝しています。その後それぞれのメンバーがベルリンやライプツィヒの主要なオーケストラメンバーとして働き、1998年にはベルリン放送のレジデント・クァルテットとなっています。1992年に現在の第1ヴァイオリンのコンラッド・ムックが加入し、ヨーロッパをはじめとして世界の楽壇で活躍しているということです。

この演奏当時のメンバーは下記のとおり。

第1ヴァイオリン:コンラッド・ムック(Conrad Muck)
第2ヴァイオリン:ジェルノ・ジュスムース(Gernot Süssmuth)
ヴィオラ:フリードマン・ヴァイクル(Friedemann Weigle)
チェロ:ハンス=ヤコブ・エシェンブルグ(Hans-Jakob Eschnburg)

この時はメンバーではありませんでしたが、創設メンバーにウルリカ・ペターセン(Ulrike Petersen)という人がおり、それゆえペターセン四重奏団という名前のようです。ウルリカ・ペターセンは一旦メンバーから外れましたが、2008年に復帰し、現在はメンバーとなっています。

さてこのOp.1、ハイドン最初の弦楽四重奏曲であり、後に確立された4楽章の緊密な構成には至っていない曲ながら、メロディーの美しさと素朴な表情はそれなりに魅力的。しかしながら録音は他曲よりぐっと少なくなります。これまでは弦楽四重奏ではなく弦楽合奏で伸びやかに演奏したエミール・クライン盤などが印象に残っていますが、このペターセン四重奏団盤は、弦楽四重奏という本来の構成での名演奏ということができるでしょう。曲ごとに特徴をかいつまんで書いておきましょう。

Hob.III:1 / String Quartet Op.1 No.1 [B flat] (c.1757-59?)
鮮烈な響き。速めのテンポで入り、この曲も緊密な構成であることを誇示するようなアンサンブル。のどかな演奏から迸るゆったりとした感興とは異なるキビキビとした響き。しかもインテンポで畳み掛けるように攻め込んできます。素晴しい立体感と緊張感。この曲集では全曲5楽章構成で、2楽章と4楽章にメヌエットが置かれています。そのメヌエットに入るとヴァイオリンのコンラッド・ムックの見事なヴァオリンに釘付け。素晴しい緊張感。そして3楽章に置かれたアダージョの磨き抜かれた演奏は、奏者たちの素晴しいテクニックに裏付けられたもの。録音も鮮明で素晴しい演奏を余すところなく伝えます。4楽章のメヌエットではところどころかなりハッキリとしたアクセントをつけますが、これが実に自然で効果的。センスいいですね。フィナーレは痛快そのもの。速いパッセージにも余裕があり、抜群のメリハリでハイドンの初期のクァルテットをこともなげに超絶名演。

Hob.III:2 / String Quartet Op.1 No.2 [E flat] (c.1757-59?)
1曲目からのけぞらんばかりの名演に、身を乗り出して聴きます。やはり第1ヴァイオリンのコンラッド・ムックのヴァイオリンの素晴しいプレゼンスに惹き付けられます。前曲では爽快な演奏でしたが、このNo.2では音楽を楽しむように、ひとつひとつのメロディーを丁寧に描き、メロディーの描き方の上手さを見せつけます。ハイドンのメロディーメーカーとしての才能はご存知のとおりですが、この演奏によって、こうした初期の弦楽四重奏曲においても素晴しいメロディーの波に襲われるような快感を味わうことごができます。特にバリトンを思わせるピチカートをそこここに配したりと創意も噴出。アダージョの美しいメロディーとピチカートに痺れます。静寂と弦の美しい響きの織りなす綾。そしてフィナーレの小気味好いアンサンブル。絶品!

Hob.III:3 / String Quartet Op.1 No.3 [D] (c.1757-59?)
このクァルテット、曲ごとの描き分けも見事。曲に潜む気配のようなものを捉えて、そのデリケートなニュアンスを非常にうまく表現しています。No.3の静寂から徐々に響きを立ち上がってくるあたりの表現は鳥肌もの。そして天に届かんばかりのヴァイオリンの伸びきった高音の響き。次々とメロディーが重なって行く非常に繊細な表情。ピチカートを交えた穏やかなメヌエットを経て、この曲のみ3楽章にプレストがきます。正確なボウイングでさっとプレストをこなし、再びメヌエット。やはり聴き所は濃密なメヌエットのメロディー。やはり音楽の気配を良くつかんで緊張感を保ちます。フィナーレは変化に富んだ曲調で、このクァルテットの表現力を遺憾なく発揮。ここまで引き込まれっぱなし。

Hob.III:4 / String Quartet Op.1 No.4 [G] (c.1757-59?)
CD2で録音日が異なります。1枚目の鮮烈な録音とは少し印象が異なり、オンマイク度がほんの少し下がり、響きの余韻が微妙に多くなったよう。アンサンブルが溶け合い、CD1ほどの鮮烈さは感じさせないものの、音楽は練れてきた感じ。メヌエットに入ると、このクァルテット独特のキリリとしたアクセントが顔を覗かせはじめ、CD1同様、どんどん引き込まれていきます。なんといっても素晴しいのがつづく7分を越えるアダージョ。おそらく録音の効果でしょうが、一部のパートがかなり距離を置いて遠くと会話するようなメロディーのやりとり。この曲がこのようなユニークな面白さを持っていたとは知りませんでした。録音会場の静けさのなかに浮かぶアンサンブル。会場の外を走る車の音がかすかに聞こえるほど。クッキリと表情をつけたメヌエットですが、中間部のさざめくような表現も秀逸。楽章ごとに聴き所満載です。フィナーレは弦楽器の多様な響きの面白さを見せつけられるよう。

Hob.II:6 / String Quartet Op.1 No.0 [E flat] (c.1757-59?)
最初の楽章がまるでフィナーレの様な曲調。CD1の演奏よりも曲の流れを重視しているように聴こえます。流れの中での有機的な変化の面白さという感じ。メヌエットの面白さは相変わらずですが、この曲も聴き所はアダージョ。しっとりとした語り口の面白さと、弦楽四重奏ならではの各パートの絡みあうメロディーの受け渡しの妙が際立ちます。パートごとの楽器の音色の違いも興味深いですね。続くメヌエットもハイドンの仕込んだユーモアを見事に捉えてにんまりするような演奏。フィナーレもコンラッド・ムックの軽やかな弓さばきの鮮やかさにうっとり。

Hob.III:6 / String Quartet Op.1 No.6 [C] (c.1757-59?)
最後の曲。やはり速いテンポでクッキリとした表情を作っていきます。鮮烈、鮮明な演奏、ヴァイオリンがリードしてくっきりと隈取りをつけていきます。もはや彼らのメヌエットの魅力にハマっていますので、安心して身を任せることができます。メヌエットの中間部との表現のコントラストはペターセン四重奏団の特徴の一つ。中間部へ入るときのちょっとした間と、変化が非常に上手い。アダージョはピチカートをベースにした聴き慣れた曲ですが、ペターセンの演奏で聴くと実に新鮮。空間に響くピチカートの余韻の美しさは絶品。雄弁なメヌエットを挟んで、最後のフィナーレはキツい音寸前のプレゼンスでコンラッド・ムックのヴァイオリンが迫ってきます。最後はぐっと沈み込んで終わります。

ジャケット写真を見た瞬間の妖気は、このアルバムのもつエネルギーを表したものでした。ペターセン四重奏団のハイドンの弦楽四重奏曲のOp.1は、間違いなくこの曲のベスト盤。このハイドン初期の弦楽四重奏の魅力を余すところ無くつたえる名盤です。この曲集がこれほど素晴しかったと気づかせてくれたのはまさにこの演奏の素晴しさがあってのこと。世評はわかりませんが、ペターセン四重奏団の素晴しい音楽性はこのアルバムだけでもよくわかります。これまで聴いた弦楽四重奏のアルバムでも屈指の出来であることは間違いありません。もちろん、このアルバムの評価は全曲[+++++]とします。

弦楽四重奏曲好きの方、必聴です。

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tag : 弦楽四重奏曲Op.1

デカニー弦楽四重奏団のOp.1(ハイドン)

以前ファイン・アーツ四重奏団の演奏を取りあげた時に、小鳥遊さんからコメントをいただいたデカニー四重奏団ですが、その後iTunesでダウンロードして聴いていたところ、いつもこちらの所有盤にないアルバムを貸していただく湖国JHさんから、このアルバムを借りる事ができました。

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デカニー弦楽四重奏団(Dekany String Quartet)の演奏によるハイドンの弦楽四重奏曲Op.20の6曲とOp.1のNo.1、No.2のあわせて8曲を収めたアルバム。収録は1964年とだけ表記されています。レーベルは米VOXBOX。

今日取り上げるアルバムのライナーノーツには曲目解説はありますが、演奏者であるデカニー弦楽四重奏団の情報は掲載されていません。いつものようにネットを調べても、略歴などをまとめた記事は探し当てられませんでした。ネットで得た断片的な情報をまとめると次のとおり。

デカニー弦楽四重奏団はこのアルバムをリリースしているVOXプロダクションの要望により1962年、ハイドンの弦楽四重奏曲全集を録音するために設立されたクァルテット。メンバーはハンガリー出身の、何れも素晴しい腕をもつ音楽家で、オランダのブラバンツ音楽院で教職にあった人。

第1ヴァイオリン:ベラ・デカニー(Belá Dekany)
第2ヴァイオリン:ジャック・ハルトグ(Jacques Hartog)
ヴィオラ:アーウィン・シファー(Erwin Schiffer)
チェロ:ゲオルク・シファー(George Schiffer)

ベラ・デカニーはフィルハーモニア管弦楽団のコンサートマスターをしていた人ということです。

VOXレーベルのハイドンの弦楽四重奏曲全集はデカニー弦楽四重奏団とファイン・アーツ四重奏団で曲をわけて録音したようで、LPでは完結したようです。ファイン・アーツ四重奏団の演奏は過去に3度取りあげています。

2013/10/05 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : ファイン・アーツ四重奏団のOp.74
2012/05/07 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : ファイン・アーツ四重奏団の「ひばり」
2011/01/04 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : ファイン・アーツ四重奏団のOp.77

ということで、燻し銀の演奏が印象的なファイン・アーツとともにハイドンの弦楽四重奏曲全集を録音したということは、ハイドンの弦楽四重奏曲の演奏史でも無視できない存在であるのは間違いありません。

このアルバムをいろいろ聴いてみると、Op.20も素晴しいのですが、演奏の質としてはOp.1の2曲の方が張りのある良い演奏。ということで、今日は珍しいOp.1の方を取りあげることにします。

Hob.III:1 / String Quartet Op.1 No.1 [B flat] (c.1757-59?)
CD2の3曲目に収められたこの曲。一聴してOp.20よりもクリアな響き。1964年録音としてはかなり鮮明な録音。まるでLPを聴いているようなカッチリと実体感のある音。入りの演奏はあっさりとしたもので、アンサンブルはかなりの精度でクッキリとメロディーを描いていきます。第1ヴァイオリンのベラ・デカニーの描くメロディーにドロップシャドウをつけたように他の3人が完璧に重なります。1楽章はクッキリ爽やかでなかなかの存在感。
続くメヌエットに入ると徐々にベラ・デカニーのヴァイオリンの魅力が際立ってきます。デカニーのヴァイオリンは伸び伸びとした高音の魅力に溢れたもの。惚れ惚れとするような響き。流石にレーベルの威信をかけたハイドンの弦楽四重奏曲全集のために結成されただけのことはあります。
秀逸なのはつづくアダージョ。この時代のハイドンの演奏としてはウルトラモダンなものだったでしょう。ヴァイオリンの突き抜けるような美音に圧倒されます。Op.1のアダージョがここまで美しく響くとは想像していませんでした。以前聴いた、エミール・クラインの弦楽合奏盤も穏やかな表情で良かったのですが、これはクァルテットの真髄をつく名演奏。凛とした美しさ。
再びメヌエットですが、ささっと弾き急ぐようなさっぱりた演出。弦楽器の音色の美しさを保ちながら楽章間の変化をつけていきます。
フィナーレは速めのテンポで疾風のように駆け抜けます。速めのパッセージも素晴しいキレ。全員軽々とこの速めの音階をこなしていくあたり、流石に腕利き揃いですね。このシンプルな曲がかなりの聴き応え。

Hob.III:2 / String Quartet Op.1 No.2 [E flat] (c.1757-59?)
つづいてNo.2。響きは変わらず鮮明なもの。チェロの音量がかなり抑えられているのは鮮明さをだそうとした録音上の意図でしょうか。シンプルな曲をこれだけ饒舌に演奏し、弦楽四重奏曲の醍醐味を味あわせてくれるのは相当の音楽性があってのことでしょう。ハイドンの初期のディヴェルティメントなのに、その弱みを感じさせないのはすごいことですね。
メヌエットは弾むリズムとしっとりとしたメロディーとの対比が見事。この活き活きとした音楽はなんでしょう。一人一人の演奏が乗りに乗って、まさに演奏を楽しんでいるようすが鮮明に伝わります。
この曲でもアダージョの美しさは絶品。やはりデカニーのヴァイオリンが心に刺さります。溢れ出す音楽。4人の弓から音楽が噴出する感じ。深い陰影。磨き抜かれた響き。メロディーが踊ります。まさに至福。
さっと雰囲気を変えてメヌエットに移ります。ここではリズムではなく長調から短調への変化を鮮明に演出。聴く側の脳の様々な回路に訴えてきます。この雰囲気の切り替えがあまりに鮮やか。音楽が深いですね。
最後のフィナーレもハイドンらしいいたずらっぽい仕掛けがそこここにあり、その仕掛けをひとつづつ楽しませてくれるような演奏。変化に富んだメロディをここでも軽々とこなしながら、早送りでコミカルな紙芝居をみているような微笑ましい音楽。いやいや、文句なしに素晴しいですね。

本当はOp.20を取りあげようと思って聴き始めたんですが、アルバムの最後に収められたOp.1というハイドンではかなりマイナーな曲にすっかりやられました。これは絶品。この小曲をこれほどまでに研ぎすまされた演奏に仕上げてくるあたり、デカニー弦楽四重奏団の実力を思い知らされました。たしかにハイドンの音楽の真髄をつく演奏。ベートーヴェンでもモーツァルトでもなく、ハイドンの弦楽四重奏の面白さをこれほどまでに感じさせてくれる演奏はそうあるものではありません。CDではこのアルバム以外には出回っていないようですが、LPは丹念にさがせばまだ手に入りそうですので、他の曲も手に入れてみたいと思います。評価は両曲とも[+++++]です。脱帽。

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tag : 弦楽四重奏曲Op.1

イギリス弦楽四重奏団のOp.1、Op.42、Op.103

弦楽四重奏曲が続きます。湖国JHさんにお借りしているアルバム。

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イギリス弦楽四重奏団(The English String Quartet)の演奏で、ハイドンの弦楽四重奏曲Op.1のNo.5(No.0)、Op.42、Op.103の3曲を収めたアルバム。収録はPマークが1986年との表記しかありません。レーベルは良い録音の多い英Meridian。

ライナーノーツによれば、ハイドンの数多の弦楽四重奏曲の中から、独立した作品として書かれたものを初期、中期、後期から1曲づつ選んで取りあげたとの企画。珍しいのはOp.1のNo.5でしょうか。

演奏者のイギリス弦楽四重奏団は初めて耳にするクァルテット。古くからイギリス、ヨーロッパでは有名なクァルテットだそうですが、日本ではあまり知られた存在ではないようです。1982年にメンバーが交代し、この録音のメンバーとなったようです。

第1ヴァイオリン:ダイアナ・カミングス(Diana Cummings)
第2ヴァイオリン:コリン・キャロー(Colin Callow)
ヴィオラ:ルチアーノ・ロリオ(Luciano Iorio)
チェロ:ジェフリー・トーマス(Geoffrey Thomas)

ヴァイオリンのダイアナ・カミングスとヴィオラのルチアーノ・ロリオは夫婦とのこと。2人とも直前はロンドンの著名なオケのメンバーとして働いていたようですが1982年にこのクァルテットのメンバーとなったそうです。ダイアナ・カミングスは同年に王立音楽アカデミーの教授となっています。現在リリースされているアルバムもわずかであり、情報も少ないため、詳しいことはわかりません。

純粋に演奏から彼らの音楽を楽しむ事としましょう。

Hob.II:6 / String Quartet Op.1 No.0 [E flat] (c.1757-59?)
ながらく消失していた曲で、1931年にマリオン・スコットとガイリンガーによって別々に発見された曲。1986年の制作としては鮮明な録音。特に高音が鮮明というか、少々クッキリしすぎかもしれない独特の録音。MeridianらしくAKGのマイク、Nagraのテープレコーダー、AGFAのテープが使われいるとの記載があります。録音のせいかヴァイオリンがクッキリ鋭い音に聴こえます。イギリス弦楽四重奏団の響きは華麗、華美な印象。演奏は初期のハイドンの弦楽四重奏曲に共通なディヴェルティメントに近い明るく優雅な舞曲のような味わいを上手く表現しています。非常にオーソドックスな音楽のつくりですが、クッキリとしたヴァイオリンによって非常に華やか。リズムもはっきり刻んでいるので、音楽に活気があります。5楽章構成プレスト-メヌエット-アダージョ-メヌエット-フィナーレと言う構成。一貫して舞曲風で演奏者自身が楽しむための曲のようです。

Hob.III:43 / String Quartet Op.42 [d] (1785)
1785年にハイドンがスペインのオスナ公爵夫人に送った3曲のうちの1曲(他の2曲は消失)と考えられているそう(大宮真琴さんの新版ハイドンから)。録音の冴えは一段あがり、高音域はクッキリを通り越して超鮮明。前曲が華やかな印象だったのは曲のせいもありますが、短調のこの曲では、三次元デジタル的に鮮明な峻厳な響きに印象が一変します。この曲は2楽章がメヌエットで3楽章がアダージョ。どちらの楽章も実に良く練られた演奏。鮮度、リズム感、ゆったりと沈み込むアダージョのフレージングと申し分なし。特に超鮮明な録音でリアルながら、実に良く歌うアダージョが秀逸。音量のコントロールが非常に丁寧で、アダージョがクリスタルのように輝きます。そして美しく輝きながらも鬼気迫るフィナーレ。フーガ風に繰り返すメロディーがクリアな響きで畳み掛けます。この曲は、超鮮明な録音とクッキリした響きが曲のイメージに合っていて、いい出来。

Hob.III:83 / String Quartet Op.103 [d] (before 1803)
そしてハイドン最後の曲。前記事のリンゼイ四重奏団の演奏でも取りあげたばかり。やはりこの曲では穏やかな演奏に変わります。鮮明な音響によって、この穏やかな曲に不思議と絢爛豪華な印象も加わります。リンゼイ四重奏団の演奏では弦楽器の響きの中に力みというか力の入れ具合の変化の面白さが感じられたのに対し、こちらのイギリス弦楽四重奏団の演奏では全楽器の響きがクッキリと重なり、鮮明な隈取りで実に豪華な響きが耳に残り、聴かせどころが全く変わります。鮮明な音響にもかかわらず、音楽には澄みきった静けさのようなものが宿ります。つづくメヌエットも同様。峻厳な響きで一気に聴かせきってしまいます。アンサンブルの精度は抜群、デュナーミクのコントロールもきっちりして、演奏は第一級です。

ちょっと録音に癖があるので、最初は独特な印象をもったのですが、何回か聴いているうちに彼らの音楽のポイントがわかってきました。よく聴くとアンサンブルは鮮明、音楽も実に良く練られた演奏です。ハイドンの弦楽四重奏曲のうち、単独で残っている曲を時代ごとにならべるというアルバムの企画意図も冴えていてなかなか興味深いアルバムです。まだ手に入るようですので、弦楽四重奏曲好きな方にはオススメのアルバムですね。評価はOp.1のNo.0が[++++]、他は[+++++]とします。

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tag : 弦楽四重奏曲Op.1 弦楽四重奏曲Op.42 弦楽四重奏曲Op.103

イムレ・ローマン/ザルツブルク・モーツァルト・アンサンブルのピアノ協奏曲など

今日は珍しいアルバム。

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ザルツブルク・モーツァルト・アンサンブル(Salzburg Mozart Ensemble)の演奏で、モーツァルトのディヴェルティメント(K.251)、ハイドンのピアノ協奏曲(XVIII:11)、同じくザルツブルク・モーツァルト・アンサンブルの演奏で、弦楽四重奏曲Op.1のNo.1の3曲を収めたアルバム。ハイドンのピアノ協奏曲でピアノを担当するのはイムレ・ローマン(Imre Rohmann)。収録は2003年11月22日から23日にかけて、オーストリア、ザルツブルクの東にあるモンゼー(Mondsee)という街にある柱状ホール(säulensaal)でのセッション録音。レーベルは墺PREISER RECORDS。

ザルツブルク・モーツァルト・アンサンブルは、モーツァルテウム管弦楽団とモーツァルテウム大学の教師からなるアンサンブル。ライナーノーツによれば、レパートリーはモーツァルトとウィーン古典派ということで、まさにこのアルバムに収められた曲などが中心。このアルバムでもピアノのソロを務めているイムレ・ローマンとはたびたび共演しているそうです。

イムレ・ローマンは1953年、ブダペスト生まれのハンガリーのピアニスト。ブダペストのフランツ・リスト・アカデミーで学び、その後、ヨルグ・デムスに師事。ブダペスト放送コンクール、リスト=バルトーク・コンクール、アメリカのブルーミントン・コンクールなどに入賞して頭角を現しました。1990年よりモーツァルテウムでピアノを教えています。

このアルバム、何が珍しいかというと、ハイドンのピアノ協奏曲の伴奏が各パート一人という最小限のアンサンブルというところ。OVPP(One Voice Per Part)というのでしょうか。普段聴く厚みのあるアンサンブルとは異なり、非常に透明感あるタイトなアンサンブルが特徴です。しかもモーツァルテウムの腕利き奏者揃いということで、アンサンブルの精度も抜群。普段とは違う構成で聴く事で、ピアノ協奏曲の名曲がどう姿を変えるのでしょうか。

Hob.XVIII:11 / Concerto per il clavicembalo(l'fortepiano) [D] (1784)
序奏からクリア。当たり前ですが響きは削ぎ落され、室内楽のような響き。録音は基本的にデッドでクリアなもの。アンサンブルの人数が少ない上に残響も押さえ気味で、特に弦楽器がかなり鋭い音色を聴かせます。ピアノは残響が少ない訳ではありません。ソロのはじまる前の序奏からピアノがかなり装飾音をともなって出てくるタイプの演奏。頭の中にオーケストラによる演奏が刷り込まれているので、最初はちょっと違和感が強いですが、聴きすすめていくうちにタイトな音響の魅力に慣れてきます。イムレ・ローマンのピアノはオケに合わせてか、ピアノを響かせるというよりは響きの芯で聴かせるような、手堅い響き。音階のキレは良く、速いパッセージは音がころがるような滑らかさ。ピアノ協奏曲よりもピアノトリオに近い緊密な響き。序奏と同様全曲にわたってピアノは伴奏にも加わります。鮮度の高い録音によって曲の構造がクッキリ浮かび上がり、レントゲン写真のような趣も。ピアノもオケもインテンポでたたみ掛け、緊密なアンサンブルを楽しめます。カデンツァはかなり変わったもので、畳み掛けるように攻め込んだと思うと、一転、かなり抑えてピアノの表現の枠を使い切るようなイメージ。
オケでの演奏では癒しを感じることが多いアダージョは、やはり響きを削ぎ落した伴奏で印象が変わり、ピアノソロの明晰なメロディーにヴァイオリンが装飾音を加えるような趣。1楽章よりも曲の良さをうまく表現できているように感じます。やはりピアノの存在感がポイントでしょう。現代音楽のような峻厳な雰囲気を感じさせるところもあり、この曲の新たな魅力を見いだしています。
演奏が乗ってきているのか、こちらの耳が慣れてきているのかわかりませんが、フィナーレに至り、アンサンブルの緊密さはかなりのレベルに至り、スリリングなこの曲の魅力が際立ちます。アルゲリッチとクレーメルのアンサンブルを彷彿とさせる掛け合い。これはなかなかの演奏です。

Hob.III:1 / String Quartet Op.1 No.1 [B flat] (c.1757-59?)
アルバムの最後は、弦楽四重奏曲Op.1のNo.1。もちろん弦楽器4人での演奏です。非常にシンプルな曲想の曲。演奏はシンプルな曲を、演奏者自体が楽しんでいるような演奏。専門の弦楽四重奏団の演奏とはちょっと異なり、精妙な弦の重なりに表現の主体があるのではなく、あくまでもアンサンブルとして響きの細部よりは曲の構造に素直に演奏しているのが違いでしょうか。この曲は弦楽合奏によるエミール・クラインの名演奏が記憶に残っていますが、クラインほど楽天的ではなく、キリリと引き締まった響きを保って、なかなか良いバランスです。

ハイドンのピアノ協奏曲をOVPPで演奏した珍しいアルバム。オケの響きが研ぎすまされ、普段聴くこの曲とはかなり異なる印象を与えます。ピアノのイムレ・ローマンのかなりストイックなピアノと、ザルツブルク・モーツァルト・アンサンブルの腕利き奏者のタイトなアンサンブルの魅力が聴き所でしょう。弦楽四重奏曲の方は、弦楽四重奏曲というよりはディヴェルティメントらしい演奏。どちらも室内楽好きの方にはなかなか刺激的な演奏であることは間違いありません。評価は両曲とも[++++]とします。

このアルバムの聴き所はやはり1曲目に置かれたモーツァルトのディヴェルティメント。やはりモーツァルテウムだけあって、モーツァルトはお手の物ということでしょう。説得力がハイドンとは一段違います。

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tag : ピアノ協奏曲XVIII:11 弦楽四重奏曲Op.1

エミール・クライン/ハンブルク・ソロイスツのディヴェルティメント集

前記事で大上段に構えたカラヤン/ベルリンフィルの演奏を取りあげた反動(笑)

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エミール・クライン(Emil Klein)指揮のハンブルク・ソロイスツの演奏で、ハイドンのディヴェルティメント3曲を収めたアルバム。収録曲目はHob.III:1、III:2、III:3の3曲。ディヴェルティメントといっても最初期の弦楽四重奏曲Op.1の最初の3曲でもあります。収録は1995年5月7日から9日、ヤマハ・ヨーロッパのテスト・ザールとの記載。どこでしょう? レーベルはARTE NOVA。

このアルバムは初期の弦楽四重奏曲12曲を弦楽オーケストラで演奏した4枚組のアルバムの第1巻。手に入れたのはおそらく15年以上前ですが、立派な事に現役盤のようです。実は昔はかなり聴いていた、愛着あるアルバム。ハイドンの素朴な音楽の楽しさを、素朴で楽天的に仕上げた絶妙の演奏なんですね。このアルバムもほぼ10年振りくらいに聴きたくなったので、取りあげる事としました。

指揮のエミール・クラインは1955年、ルーマニア生まれの指揮者、チェリスト。ブカレスト音楽院で学び、ハンブルクでダヴィド・ゲリンガスにチェロを学びました。国際的な名声を得るようになったのは、ヨーロッパ、アメリカ、アフリカへのツアーを通じてとのこと。ソリストとしてハンブルク交響楽団、ブカレスト放送交響楽団などと共演、その他室内楽でも活躍し、1990年には室内楽の演奏のためにこのアルバムのオケであるハンブルク・ソロイスツを設立したということです。私自身はこのアルバムによってクラインを知りましたが、音楽をこれほど気楽に楽しめる演奏はそれほどありません。

Hob.III:1 / String Quartet Op.1 No.1 [B flat] (c.1757-59?)
1750年代とハイドンがモルツィン伯爵に仕えるようになる前の作曲。最初期の弦楽四重奏曲らしくシンプルで穏やかな起伏を伴って描かれたハイドン初期の傑作と言う位置づけでしょう。弦楽合奏で演奏された4声の曲でこの頃は5楽章構成。ストイックな表情は全くなく、小編成の弦楽オーケストラによって弦楽四重奏曲を演奏しているので、適度に楽天的であり、また穏やかな表情なのに迫力もそこそこある演奏。弦楽器が良くそろって、響きのいいホールで演奏しているような録音。1楽章、終楽章がプレストで、2楽章、4楽章にメヌエット、3楽章にアダージョがおかれると言う構成。このアルバムに収められた3曲はすべてこのような構成。曲は家庭で食事時にでものんびり聴くのに相応しい音楽という感じ。エミール・クラインは特段攻めにくるそぶりは全く見せず、ひたすら音楽を心地よく聴かせることに集中しているよう。このアルバム、密かに愛聴している人が多いのではないかと想像しています。この曲の白眉は3楽章のアダージョ以降。後年の成熟した筆致とは差があるものの、ハイドン20歳代の作曲とは思えない深みを感じさせます。4楽章のメヌエットも心に刺さるメロディー。曲想が明解なだけにその良さもわかりやすいもの。メロディーメーカーとしてのハイドンの才能が早くも開花した作品。フィナーレは推進力とその力を静かに鎮める様子を描いた秀逸なものでした。

Hob.III:2 / String Quartet Op.1 No.2 [E flat] (c.1757-59?)
続く2曲目も1曲目の特徴を引き継ぐいい演奏。この安定感は見事。ただただ音楽を紡いでいくクラインの至芸と言えるでしょう。まさに弦楽四重奏曲という様式美の完成前夜の音楽。弦楽四重奏曲集ではなく、ディヴェルティメント集というパッケージとしたのも酔眼。20代のハイドンが書いた素晴らしい音楽をただただ楽しむアルバム。やはり前曲と形式が似ているという印象は与えず、1曲1曲創意が尽くされています。この曲も3楽章のアダージョ以降の充実が印象に残ります。アダージョ楽章におかれたピチカートによる箸休めのようなフレーズを挟んで曲想が大胆に変化していくあたりはまさに天才的。そしてフィナーレも後年の充実した筆致を感じさせる曲。クラインの演奏に身を委ねる快感。

Hob.III:3 / String Quartet Op.1 No.3 [D] (c.1757-59?)
このアルバム最後の曲は1楽章が極端に短く2分弱というもの。ほの暗さも垣間見せるなかリズムにかなりの創意を凝らした曲。逆に3楽章のアダージョは7分超のこの頃の曲の楽章としては大曲。曲ごとにアイデアが良くこれだけ湧くものです。クラインの演奏は本当に安心して音楽に浸れる、演奏者が消えて見えなくなり、そこにハイドンの音楽だけが残るような秀逸なもの。3曲目に至り、曲の起承転結のようなもののキレがはっきりわかるようになります。クラインのコントロールもメリハリをクッキリ描き、曲に合わせた奥行きを感じさせるところは流石です。

エミール・クライン指揮の弦楽合奏による最初期の弦楽四重奏曲集。もちろん弦楽四重奏曲はOp.20で飛躍的な進歩を遂げる事になるのですが、その萌芽を感じるOp.1。弦楽四重奏としてはまだまだ成熟を見せる余地がありますが、こうして弦楽合奏で聴く音楽は朗らか、のどかのみならず、後年の才能の開花を思わせる断片や美しいメロディーがちりばめられた佳曲。クラインはそのへんのところをよく踏まえて、音楽の楽しさを存分に表現。これは秀逸と言わざるを得ないでしょう。久しぶりにクラインの魔力にやられた感じです。昔このアルバムを聴いた頃を思い出しました。評価はもちろん3曲とも[+++++]とします。

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tag : 弦楽四重奏曲Op.1

プロ・アルテ弦楽四重奏団のOp.1のNo.1、Op.20のNo.5

今日はまた古めの弦楽四重奏曲に戻ります。

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プロ・アルテ弦楽四重奏団(The Pro Arte String Quartet)の演奏によるハイドンの弦楽四重奏曲集。第1巻(3枚組)、第2巻(4枚組)の計7枚にハイドンの弦楽四重奏曲27曲と、旧来ハイドンのものと思われていたホフシュテッターの弦楽四重奏曲2曲を収めたアルバム。収録は1931年から38年にかけてロンドンのアビーロードスタジオでのセッション録音。レーベルはヒストリカルの正統派復刻者であるTESTAMENT。

このアルバムも手に入れたのは10年以上前。以前はかなり古い録音とあっさりした演奏ということで、あまり聴きこんではいませんでした。最近ヒストリカルな弦楽四重奏の魅力にすっかりハマり、あらためて取り出して聴きなおしたところ、やはり歴史を経て発売され続ける魅力が十分あるアルバムであることがよくわかりました。今日は第1巻のCD1に収められた最初の2曲を取りあげてみましょう。

プロアルテ弦楽四重奏団は1911年から12年にかけてベルギーのブリュッセル音楽院の生徒で設立されたクァルテット。1913年にデビューすると間もなく現代音楽のスペシャリストとみなされるようになりました。バルトークやミヨー、オネゲルなどが作品の初演を委嘱するようになります。バルトークの弦楽四重奏曲4番は1928年の作曲で彼らに捧げられたもので1930年にプロ・アルテ弦楽四重奏団によって初演された曲。

このアルバムに収められた演奏の頃のメンバーは次のとおり。

第1ヴァイオリン:アルフォンス・オンヌー(Alphonse Onnou)
第2ヴァイオリン:ローラン・アルー(Laurent Halleux)
ヴィオラ:ジェルマン・プレヴォー(Germain Prévast)
チェロ:ロベール・マース(Robert Maas)

この少し後になる1941年には活動の場をアメリカ、ウィスコンシン州のマディソンに移し、そして、なんと現在もメンバーが変わって活動を続けています。現在はウィスコンシン音楽大学に所属するクァルテットのようですね。いつものようにオフィシャルサイトへのリンクを張っておきましょう。

PRO ARTE QUARTET

今回,聴き直してみると、同時代のカペーやレナーなどのポルタメントを効かせたある意味時代がかった演奏が多かった時代にあっては、流石に現代音楽を得意としていただけに、非常に新しいスタイルの演奏だったと思います。キレのいい表現と感情を抑制し音自体に音楽を語らせるような表現は今聴いても十分通用するもの。当時のパースペクティヴに浮かび上がる前衛性といってもいいでしょう。ハイドンのクァルテットも屹然とした語り口が心地よい演奏ですね。

Hob.III:1 / String Quartet Op.1 No.1 [B flat] (c.1757-59?)
滅多に聴かないハイドン最初期の弦楽四重奏曲。5楽章構成でハ長調のシンプルなメロディーの曲。録音は1938年11月5日。1楽章は序奏のようなプレスト、2楽章と4楽章のメヌエットが置かれ、3楽章がアダージョ、そしてフィナーレもプレストという練習曲のような曲調。録音はSP原盤のようで若干のスクラッチノイズが入りますが、クァルテットの音楽自体は直接音重視のキレのいいもの。鮮明さも時代を考えると十分でいい復刻です。
ちょっと聴くとあっさりした演奏なんですが、音量を上げて聴くと、情緒に溺れない毅然としたカッチリとした演奏。やはり現代音楽を得意としているだけに、現代音楽の冷静な視点からハイドンの最初期の曲を眺めているよう。1楽章から速めのテンポで冷静というか若干覚めた視点も感じさせつつタイトで緊密な演奏。一番特徴がでているのがアダージョ。キリッと流麗かつタイトなアダージョ。白磁の美しさのような趣。4楽章のメヌエットも青白い炎のような冷徹かつタイトは響き。フィナーレは後年の曲の成熟を予感させる快速なもの。プロ・アルテの確かなテクニックを感じさせるクリアでタイトな演奏。初期の曲をこれだけタイトに聴かせる見事な演奏。

Hob.III:35 / String Quartet Op.20 No.5 [f] (1772)
続いてシュトルム・ウント・ドラング期の傑作。この曲は1934年10月29日の録音。演奏精度は今ひとつながら1楽章の冒頭から迸るタイトなエネルギーに圧倒される演奏。音階にわずかながらポルタメントのような面取りが聴こえますが、演奏の特色は一貫して速めのテンポと緊密感。音響もダイレクト感溢れるもの。意外とデュナーミクの幅も大きくかなりの起伏でハイドンの名曲の構成美というか骨格美をあらわにします。1楽章はテンション高くすすめてきて最後にふっと力を抜いて終わる絶妙なセンス。2楽章はメヌエットで古い録音から聴こえてくるカミソリのような切れ味鋭い演奏。録音を通して演奏者のオーラが伝わってくるような素晴らしい気合い。3楽章のアダージョは前曲同様ひきしまって淡々とした運びがかえって情感を生むような見事さ。ヴァイオリンの突き抜けるような純度の高い響きが心に刺さります。ヴィオラとチェロのさりげないサポートが曲の深みを増しています。フィナーレのフーガはプロ・アルテの面目躍如。ヴェーベルン編曲のバッハのリチェルカーレを聴くような、現代音楽のような険しさをもった素晴らしいフーガ。ハイドンのクァルテットの緊密な構成と現代にも通じる音楽性にスポットライトを当てた見事な演奏と言っていいでしょう。

やはり現在まで聴かれ続ける理由のあるずばらしい演奏。1930年代の演奏としては驚くほど現代的でかつ、その時は前衛的だったことと想像されます。ポルタメントを効かせた懐かしい響きのハイドンも悪くありませんが、プロ・アルテ弦楽四重奏団の聴かせる冷徹かつタイトなハイドンも素晴らしい魅力を持ったものでした。評価はOp.1が[++++]、Op.20は[+++++]とします。

これまで古い演奏を多く取りあげてきましたが、このあとは少し新しいものも聴いていきたいと思います。

テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽

tag : 弦楽四重奏曲Op.1 弦楽四重奏曲Op.20 ヒストリカル おすすめ盤

ヤコブ・リンドベルイのリュートによる室内楽

今日は珍しいアルバムを。

Lindberg.jpg
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ヤコブ・リンドベルイ(Jacob Lindberg)のリュート、ドロットニングホルム・バロック・アンサンブルのメンバーによる演奏で、ハイドンの弦楽四重奏曲のOp.1 No.1(Hob.III:1)、Op.1 No.6(Hob.III:6)、Op.2 No.1(Hob.III:8)、そしてハイドンの真作かどうか疑わしい三重奏曲(Hob.IV:F2)の4曲を収めたアルバム。収録は1987年1月29日~31日、スウェーデンのストックホルムの近郊の街、ストックスンドのペトロ教会でのセッション録音。レーベルは響きの美しい録音で知られるスウェーデンのBIS。

ヤコブ・リンドベルイは1952年、ストックホルム近郊の街ユルスホルム(Djursholm)の生まれ。最初はビートルズの音楽に惹かれギターを弾くようになり、すぐにクラシック音楽に興味を持つようになったとのこと。14歳でリュートに興味をもち、ストックホルム大学で音楽を学んだ後、イギリスに渡り英国王立音楽大学でギターとリュートを修めた。以来リュート奏者として欧米や日本でもコンサートを重ね、ルネッサンスからバロックにかけてのリュート音楽の第一人者という立場でしょう。リンドベルイのサイトがありますのでリンクを張っておきましょう。

ヤコブ・リンドベリのウェブサイト(英文)

私もギターやリュートは好きで、ギターはアンドレス・セゴビアの演奏を偏愛してます。セゴビアの演奏するバッハの無伴奏チェロ組曲3番の演奏はチェロの演奏よりもセゴビアのギターの演奏の方が好きなくらいです。リュートはリンドベルイやポール・オデットのアルバムをいろいろ手に入れて、リュート独特の響き渡る美しい音色をたまに楽しんでます。

このアルバムは好きなリュートの演奏によるハイドンの曲を演奏したアルバムということで手に入れたもの。先に紹介したように、収録曲目はハイドンの初期の弦楽四重奏曲などを集めたもので、第一ヴァイオリンをリュートで弾いたものとなっています。

アルバムのライナーノーツには、リュートの歴史とともにこのアルバムの位置づけが書かれています。ルネサンス期からバロック期に最高潮だったリュートの人気はハイドンの時代の始め頃まで続き、バロック期の13コースのリュートはヨーロッパの貴族社会においても好まれ続けたとのこと。それゆえハイドンのごく初期のリュートと弦楽器のための曲として残された2種の弦楽四重奏曲に由来する楽譜が残されていることも不自然なことではないわけですね。

これらのリュートのための曲のもととなった弦楽四重奏曲はハイドンがウィーンの合唱団を退団してから1761年にエステルハージ家に副楽長として採用される間のごく初期の曲。技術的な熟成は後年に譲るとして、若いハイドンの素直で明るい曲調を楽しむ曲でしょう。

なお、リュートの構造などについて私は詳しくありませんが、Wikipediaをみたところかなり詳しい情報が掲載されていますので、一度ご覧ください。

Wikipedia:リュート

演奏はリュートの雅な音色とヴァイオリン、ヴィオラ、チェロの端正なアンサンブルによる美しい響きをただただ楽しむべき演奏。BISらしい空間へ響く余韻の美しい録音。どの曲も非常に自然な演奏。中庸なテンポ、楽譜に身を任せるような非常に自然な作為のない穏当な演奏。

カッサシオン(Hob.III:1 弦楽四重奏曲Op.1 No.1)1760年以前作曲
弦楽四重奏曲としてもあまり聴く機会の多くないOp.1のNo.1。聞き覚えのあるフレーズですが、以前取り上げた別の曲のフルート版の編曲のときの違和感とはちが、素直に美しいリュートの音色を楽しむことができます。元の曲の記憶が薄い分良いのかもしれませんね。曲自体も技巧を凝らしたものというよりは、ハイドンの初期の美しいメロディの習作のようなこの曲を、あくまで自然に奏でるだけで十分美しい演奏になってます。3楽章の素直な曲。

カッサシオン(Hob.III:6 弦楽四重奏曲Op.1 No.6)1760年以前作曲
前曲からはだいぶ筆が込んで来て、聴き応えもだいぶ上がります。それでもクァルテットの緊密なアンサンブルを追求するような曲ではなく、あくまで楽天的に聴くような曲でしょう。2楽章のメヌエットはダウランドのリュート曲のような響きも感じさせ、リュートの響きの美しさを楽しめます。3楽章はハイドンのシンプルな曲想の芽生えのような素晴らしい曲。伴奏にまわったリュートの響きに乗ってヴァイオリンの奏でるメロディーの美しいこと。極上のひと時。ハイドンの才能がこれほど初期から迸っていたかと感慨深いものがあります。4楽章も力を抜いた典雅なフィナーレ。技巧を凝らすだけではなく、ただ演奏するだけで心に届く純粋さを感じる素晴らしい演奏。これも音楽の本質でしょう。

カッサシオン(Hob.III:8 弦楽四重奏曲Op.2 No.2)1760年~62年作曲
5楽章構成のOp.2のNo.2。曲を聴いているとハイドンの筆がまたすこし進んで、音楽の幅と深さが増してように聴こえます。1楽章はこの先に何か起こりそうな期待感のような不思議な感覚を感じます。2楽章のメヌエットは不思議なリズムとメロディーによる変化のあるメヌエット。3楽章は期待のアダージョ。全曲同様至福の一時。何と豊かな心境になることでしょう。このシンプルな曲のリュートによる研ぎすまされた響き。純粋無垢な魅力に溢れています。技巧とは無縁の静穏な魅力に圧倒されます。4楽章は再びメヌエット。リュートによるメロディーがクッキリと浮かび上がる演奏。フィナーレも見事に力が抜けてます。弦だけのときよりリュートに合わせるために他の弦楽器奏者が音量を抑えていることがうまい具合に力が抜けた演奏になっている理由のかもしれませんね。

カッサシオン(Hob.IV:F2)ハイドン真作の可能性低い
最初からリュートを前提に書かれている唯一の曲とのことですが、ハイドンの真作の可能性は低いとのこと。私に判定する力はありませんが、明らかに曲調が変わります。この曲はアルバム上はオマケといった存在でしょう。

さて、曲自体は未成熟な曲ながら、そのリュートによる演奏は技巧を超えて素晴らしい自然さ。まるで宝石箱のような美しさに溢れた演奏でした。私がリュートが好きなところが影響しているかもしれませんが、室内楽が好きな人には是非一度聴いていただきたい演奏だと思います。評価は1曲目が[++++]、2曲目、3曲目が[+++++]、最後の曲は対象外とします。

何となく書いているうちに、今度はセゴビアのギターについても一度書かなくてはならないかなと思ってきました。こちらはまた折りをみて。

テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽

tag : 弦楽四重奏曲Op.1 弦楽四重奏曲Op.2 おすすめ盤 リュート

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Daisy


Author:Daisy

なぜかハイドン(Franz Joseph Haydn)が特に気に入り膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。東京在住のごく普通のサラリーマンです。

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