スミソン弦楽四重奏団のOp.77/103(ハイドン)

先日取り上げたコダーイ四重奏団のOp.9の記事にSkunJPさんからコメントをいただき、スミソン弦楽四重奏団のOp.9の入ったアルバムを発注したのですが、そのアルバムはまだ到着せず、同時に注文したこちらが先に着いたので、こちらを取り上げます。もちろん、演奏が素晴らしいからに他なりません。

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スミソン弦楽四重奏団(Smithson String Quartet)の演奏による、ハイドンの弦楽四重奏曲Op.77のNo.1、No.2、Op.103の3曲を収めたアルバム。収録は1988年11月17日から20日にかけて、スイスのベルン州にあるブルーメンシュタインのプロテスタント教会(Evangelischen kirche Blumenstein)でのセッション録音。レーベルはdeutsche harmonia mundi。

スミソン弦楽四重奏団のアルバムは以前、1度取り上げています。

2011/06/10 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : スミソン弦楽四重奏団のOp.54

古楽器のヴァイオリニストのヤープ・シュレーダー率いる古楽器によるクァルテット。略歴は以前の記事を参照いただきたいのですが、前記事と録音年も近いことから、メンバーは同一です。

第1ヴァイオリン:ヤープ・シュレーダー(Jaap Schröder)
第2ヴァイオリン:マリリン・マクドナルド(Marilyn McDnald)
ヴィオラ:ジャドソン・グリッフィン(Judson Griffin)
チェロ:ケネス・スロウィック(Kenneth Slowik)

Hob.III:81 String Quartet Op.77 No.1 [G] (1799)
教会での録音らしく残響は少々多めですが、木質系のしなやかな響きなのでむしろ心地良い感じ。冒頭からテンポよく勢いのある演奏。古楽器の音色の美しさはなかなかのもので、響きの魅力にまず惹きつけられます。リズムに生気が宿り、実にイキイキとした演奏。晩年のハイドンの澄み切った心境を映すような演奏という感じ。ほぼ30年前の演奏ながら、録音も演奏も全く古さを感じさせない、素晴らしい充実度。
続くアダージョでは響きの美しさを存分に聴かせます。ヤープ・シュレーダーのヴァイオリンは自然体のボウイングの美しさと、この曲が本来もつ枯れた雰囲気をも感じさせる円熟の演奏。ハーモニーは透明感高く、ソロ部分では孤高の心境が宿るよう。
落ち着いた演奏を断ち切るようにメヌエットに移ります。鋭いボウイングによってハイドンの書いた音楽のキレが強調されます。ちょっと驚くのが中間部をどっしりとまとめてきたところ。色々な演奏を聴いていますが、なかなかのアイデアですね。これによって両端のメヌエットの鮮やかさが一層引き立ちます。
そしてフィナーレは軽やかに入ったと思っていたところ、リズムを変えて次々に襲いくるメロディーの特に低音のアクセントを強調したり、複雑に絡み合うメロディーのエッジが綺麗に立って音楽の綾を実に魅力的に仕上げてきます。目眩く変化する音楽の面白さに釘付けになります。これは見事。なんと鮮やかなフィナーレでしょう!

Hob.III:82 String Quartet Op.77 No.2 [F] (1799)
前曲の鮮やかさを受け継ぐような壮麗な入り。ヤープ・シュレーダーのヴァイオリンは絶好調。鮮度高く、滑らかさと勢いのバランスも絶品。耳を澄ますとクッキリとしたメロディーと流すような音階との対比をかなり鮮明につけています。ヤープ・シュレーダーの自在なボウイングにうっとりしっぱなし。秀逸なのが、展開部の途中でかなり音量を落として沈み込むところのセンス。ゾクゾクさせるようなスリリングさ。この曲でこんな印象を持ったのは初めてのこと。シュレーダー以外のメンバーも見事な音楽性でシュレーダーの冴え冴えとした演奏を支えます。見事。
続くメヌエットでも美しいヴァイオリンの音色とキレは健在。生気漲るとはこのことでしょう。その勢いと見事な対比を見せて沈む中間部が実に印象的。音量のみならず表情の対比がこれほど決まる演奏はそうはありません。
そしてこの曲の白眉の枯れたアンダンテ。この曲に込められた寂しさを帯びた明るさがしっかりと描かれます。音楽が展開するごとに深みが増していく喜び。この曲を書いたハイドンの心情をトレースしていくような演奏に心打たれます。これは絶品、世の中にこれほどシンプルに豊かな心情を表す音楽があるでしょうか。
素晴らしい音楽の締めくくりにふさわしいフィナーレ。天真爛漫に歌う小鳥のようなメロディーを3本の楽器が支えます。フレーズの受け渡しの面白さと、ユニークなメロディに低音の意外にメリハリのついた演奏と最後まで気を抜けません。ヴァイオリンのさえずりを聞かせて、最後はしっかりと展開した音楽をまとめて終わります。この曲も最高。

Hob.III:83 String Quartet Op.103 [d] (before 1803)
ハイドン絶筆の曲。流石に力が抜けてきますが、音楽の豊かさは変わらす。ハイドン最後の音楽を微笑みながら演奏している姿が目に浮かびます。構成感をしっかりと印象づけながらも、落ち着いてゆったりと音楽を紡いでいく姿勢に打たれます。たっぷりと墨を含んだ太い筆でゆったりと筆を運ぶように音楽を作っていきます。
そして、最後のメヌエットは残った力を振り絞るような渾身の音楽。ここにきてチェロの力強さにハッとさせられます。妙に染みる中間部を挟んで、切々としたメヌエットに戻り、残った音符の数を惜しむように曲を結びます。最後の厳しい和音を書き、ハイドンが筆を置いた心境がオーバーラップします。

ふと手に入れたこのアルバムですが、このロプコヴィッツ四重奏曲3曲のベスト盤と言っていいでしょう。演奏によってはハイドン最後の音楽という深みを感じられないものもありますが、この演奏は別格の深さを持っています。古楽器での演奏ながらヤープ・シュレーダーの自在なボウイングから繰り出される音楽の表情は非常に多彩。そしてアンサンブル全体に生気が漲った超がつく名演です。このアルバムを聴いてようやくこの曲の真髄に触れた気になりました。評価はもちろん全曲[+++++]とします。弦楽四重奏曲好きな皆さん、手に入るうちにどうぞ!

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tag : 弦楽四重奏曲Op.77 弦楽四重奏曲Op.103 古楽器

コチアン四重奏団のOp.77、Op.103(ハイドン)

しばらくコンサートレポートにかまけており、レビューは久しぶりです。室内楽の秋ということで、これまで取り上げてこなかった奏者の演奏を選びました。

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コチアン四重奏団(Kocian Quartet)による、ハイドンの弦楽四重奏曲Op.77のNo.1、No.2、Op.103の3曲を収めたアルバム。収録は2000年6月21日から23日にかけてプラハの福音派教会(The Evangelic Church)でのセッション録音。レーベルはPRAgA Digitals。

コチアン四重奏団はチェコのクァルテット。1972年に設立され、1975年から名ヴァイオリニストのヤロスラフ・コチアンの名を冠してコチアン四重奏団と名乗っています。チェコの先達、スメタナ四重奏団のチェリスト、アントニン・コホウトに師事し、今やチェコを代表するクァルテットです。レパートリーはモーツァルト、ハイドン、ベートーヴェン、ブラームスなどの他、スメタナ、ドヴォルザーク、ヤナーチェク、マルティヌーなどのチェコの音楽も得意としており、またヒンデミットの弦楽四重奏曲全集の世界初録音などで知られているとのこと。このアルバム録音時のメンバーは下記の通り。

第1ヴァイオリン:パヴェル・ヒューラ(Pavel Hůla)
第2ヴァイオリン:ヤン・オトストルチル(Jan Odstrčil)
ヴィオラ:ズビニェク・パドーレク(Zbyněk Paďourek)
チェロ:ヴァーツラフ・ベルナシェク(Václav Bernášek)

チェコは弦楽器の名奏者の宝庫。ついこの間もパノハ四重奏団やの名演奏に触れたばかりです。コチアン四重奏団の演奏はこれまで手元になかったんですが、amazonを検索中に見かけて気になって手に入れたもの。このアルバムの他に、Op.74やOp.20のアルバムもリリースされているようで、気になる存在です。

Hob.III:81 String Quartet Op.77 No.1 [G] (1799)
いきなり鮮度の高いリズミカルなアンサンブルが展開します。教会の録音としては残響は少なめでいい雰囲気の中ダイレクトにクァルテットが定位する理想的なもの。演奏は響きを揃えるという拘りに囚われず、一人一人の音楽が揃いながらも自発性が感じられる実に玄人好みの演奏。第1ヴァイオリンのパヴェル・ヒューラの存在感もありながら一人一人の演奏の味わい深さが感じられて悪くありません。一貫してリズミカルでハイドンの書いた曲をキリリと引き締めながらさりげなくクァルテットの醍醐味を感じられる素晴らしい1楽章です。
続くアダージョは沈むのではなく晴朗かつ張りのある響きにハッとさせられます。響きは鮮明なのに燻し銀の味わいに満ちた響きはクァルテットの年輪を感じさせます。曲が進むにつれて徐々に弦の響きが柔らかく変化し、微妙に表情をコントロールしていることがわかります。知らぬ間にアダージョの深い呼吸の安らぎの音楽に引き込まれていました。
ハイドン晩年の澄み切った心境を表すような吹っ切れたメヌエット。この演奏で聴くとくっきりとしたメロディーに、ほのかに味わいのようなものが感じられる絶妙なバランス。これは若手には真似のできない至芸と言っていいでしょう。演奏そのものに年輪を感じさせる素晴らしいひととき。
フィナーレは予想に反してそっと入ってきました。各パートの音程が少し揺らぐ感じも味わいの範囲。それぞれのパートが音楽の勢いに乗りながらアンサンブルをまとめていきます。まさに円熟の境地のようなフィナーレ。曲の最後にたどり着いたクライマックスで牙を剥くような演奏もありますが、テクニックの誇示ではなく、逆に絡み合う音符の糸を少し荒くざっくりと編んでいくような温もりのある演奏。もう少しキレがあってもいいように感じる瞬間もありますが、逆にフィナーレの頂きの高さを感じさせる演奏でもあります。

Hob.III:82 String Quartet Op.77 No.2 [F] (1799)
この曲でも鮮明かつ推進力に溢れた入り。前曲同様、この晩年の曲の澄み切った心境を鮮明に映した演奏。あまりに鮮明な風情が心地よいほど。主題が展開し始めると活力溢れる各パートのせめぎ合いのごとき様相。微妙に音色が重なり渋めなのにうっすらと色彩が乗って明るさを保ちます。チェロの意外に図太い音色が印象的。それでも一貫した推進力に支えられてテンポよく進むのが心地よいですね。
2楽章のメヌエットも推進力抜群。ハイドンの演奏を楽しんでいるのでしょう、リズムは弾み、ボウイングは冴え、音楽が転がります。中間部でふと息を抜いて興奮を冷まし、再びリズムが弾むのを楽しみます。
ハイドンの最晩年の境地を表すようなアンダンテ。さっぱりとした演奏から情感が滲み出す素晴らしい楽章。コチアンの演奏はその理想的な表現と言っていいでしょう。どの演奏で聴いてもぐっとくるこの楽章、ことさら媚びずに淡々と演奏するほどに枯れた心情が滲む見事なものです。これまでの人生を振り返りながら、秋空の下を晴れやかな気持ちで散歩するような音楽。良い思い出を回想しながら景色や花に目をやり、遊ぶ子供の声の喧騒を楽しみ、空に目をやる、そんな気分にさせられます。冴え渡った演奏ではなく手作りの音楽のように演奏するコチアンのセンス。この絶妙なセンスこそがこのアルバムの聴きどころでしょう。幸せな音楽に感極まります。
そしてなんと見事なフィナーレの入り。人生の総決算に用意された舞台の幕が上がるようなフォーマルな雰囲気。そして、音楽は様々に展開して遊びまわります。前曲のフィナーレが少し安定感に欠けるような雰囲気があったのとは異なり、こちらは見事な完成度。というか完璧でしょう。艶やかかつ伸びやかなヴァイオリンの魅力と燻し銀のアンサンブル。素晴らしい演奏にノックアウト。

Hob.III:83 String Quartet Op.103 [d] (before 1803)
ご存知ハイドン絶筆の作品。これまでの演奏同様、さりげなさの中に味わいが満ちた演奏。パヴェル・ヒューラの媚びないヴァイオリンの魅力がこの曲でも深みをもたらしています。耳を澄ますと、これまでの曲以上にデュナーミクの変化の幅を大きくとって、音楽の自然な起伏を強調してきます。あっと言う間に2楽章となり、適度に劇的な音楽をさりげなくこなしていきます。過去の心の振れを回想しながらも、今だに揺れ動く心情を表すような、劇性と冷静さを行き来するような音楽がコチアンの演奏でぐさっと刺さりました。

チェコを代表するコチアン四重奏団によるハイドンの晩年のクァルテット集。知と情のバランスがとれ、テクニックを誇示することなく、オーソドックスながら実に味わい深い演奏でした。胸のすくような精緻な演奏もある中、純粋に演奏から音楽の面白さが滲みてくる玄人好みの演奏です。聴く人によっては最初の曲の4楽章のちょっと不安定な印象があるところを欠点とみなす方もあるかもしれませんが、色々クァルテットを聴いてきた私の耳には味わいというか、逆にハイドンの書いた音楽のすごさを感じさせるポイントとも取れるところ。私はこの演奏、気に入りました。評価は全曲[+++++]とします。

こりゃ、コチアンの未入手のアルバム、集めねばなりませんね!

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tag : 弦楽四重奏曲Op.77 弦楽四重奏曲Op.103

フランチスカス四重奏団の弦楽四重奏曲集(ハイドン)

私ごとで恐縮ですが、金曜日は朝からちょっと体調が優れず、会社に行ってみたものの、どうもだるい。朝から打ち合わせ続きでだんだん調子が悪くなり、しまいには体が火照ってきたので仕方なく夕方早退。家に帰って熱を測ってみると39度近く。そりゃだるいわけです。というわけで、金曜日は大学の先輩との実に久しぶりの飲み会が入っていたのですが、残念ながらキャンセル。もちろん家に帰っても音楽を聴くという体調ではなく食事をとってすぐに休みました。ちょっと思い当たる節もあり翌朝病院に行くと、やはり予想通り。4月に足の甲に怪我をした際の傷口からまたバイキンが入ったことが原因。もちろん傷は治っているのですが、時折痒くて掻いてしまうとかさぶたができるんですね。4月も草むしりの後でしたが、今回も先週末に草むしりで泥だらけになったのがいけなかったのでしょうか。幸い、熱も下がって、今日は父の月命日ちょっと遅れの墓参りなどに出かけましたが、まだちょっとだるさが残っております。まあ、前回同様抗生物質を飲めば快方に向かうでしょうとのことで一安心です。

ここは一発、いい音楽を聴いて元気を取り戻さねばと思っていますが、不思議とこういう時に試練が訪れるものです。

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フランチスカス四重奏団(Franciscus Quartet)によるハイドンの弦楽四重奏曲Op.54のNo.2、Op.77のNo.1、Op.103の3曲を収めたアルバム。収録は1998年7月2日から4日にかけて、オランダ、フェルメールの絵で有名なデルフトの復古カトリック教会(Oud Katholieke Kerk)でのセッション録音。

実はこのアルバム、いつも含蓄に富みまくったコメントをいただくSkunjpさんから送り込まれたもの。世評が高いとされるこのアルバムの真価は如何にとの何やら果し状めいた一文と共に送られて参りました。何となく道場破り、はたまた何でも鑑定団的雰囲気もなくはない中、いつも的確なコメントをいただき、当ブログの奥行きを深めていただいているSkunjpさんからの刺客に向き合わざるをえません。まずは奏者の情報をさらっておきます。

フランチスカス四重奏団は1993年にオランダで設立されたクァルテット。メンバーはオランダのオーケストラで働いていたつながりで集まったようです。デビューと同時に評判をとり、1997年にはコンセルトヘボウにデビューしたとのこと。その後バイエルン放送からの招聘でミュンヘンで演奏したり、1996年オランダのヒルヴェルスムで行われた音楽祭でオランダの放送局からハイドン、モーツァルト、ベートーヴェン、シューベルトなどのCDをリリースしたそうですが、現在市場に出回っているのはChallange Classicsからリリースされているアルバム1枚のみ。今日取り上げるアルバムも入手はなかなか難しいでしょう。

アルバムにメンバーの表記はありませんが、録音年代とネットの情報を見ると下記のメンバーでしょう。

第1ヴァイオリン:ダイアナ・モリス(Diana Morris)
第2ヴァイオリン:レイチェル・イッサーリス(Rachel Isserlis)
ヴィオラ:ギレス・フランシス(Giles Francis)
チェロ:セバスチャン・ファン・エック(Sebastiaan van Eck)

さあ、ここは襟をだだし、シャワーを浴びて身を清め、抗生物質を飲み体調を整え(笑)、いざレビューです。

Hob.III:57 String Quartet Op.54 No.2 [C] (1788)
冒頭から多目の残響と適度な距離感に心地よく響くクァルテットの響き。このアルバムのデジタルマスタリングの担当がヴァイオリンのダイアナ・モリスとチェロのセバスチャン・ファン・エックの名がクレジットされているので、メンバー自体がアルバムの録音にも深く関与しているようですね。この心地よさがハイドンのこの曲の楽天的な雰囲気にピタリときます。演奏は楽天的な雰囲気の中、のびのびとして、屈託のないもの。
この曲は2楽章のアダージョが聴きどころです。最近ではジュリアードの引き締まった演奏にリンゼイの素晴らしい覇気に満ちた演奏に触れたばかり。フランチスカスの演奏はまるでペルトの曲のような暗澹たる持続音に艶やかなヴァイオリンによるメロディーを絡ませたもの。あえてリズムと起伏を抑えて現代的な雰囲気を作っているのでしょうか。この曲のグイとえぐるような踏み込みを期待して聴くと肩透かしを食います。
続くメヌエットの軽やかな入りは見事。相変わらず響きの艶やかさに耳を奪われます。美しい響きと軽やかなリズムでさらりと聴かせるメヌエット。
何度聴いても驚きに満ちたこの曲のフィナーレ。フランチスカスの演奏はじっくりとメロディーをかみしめるように入ります。呼吸の深いメロディーの表現の美しさはかなりのもの。今まで、ちょっとが多目の残響がちょっと楽天的な雰囲気を残して、緊迫度が逆に下がって聴こえていましたが、ここにきてじっくりとしたアプローチに音楽に深みが出てきました。やはりこの終楽章の演奏に焦点を合わせて、あえてそれまでの楽章が泡沫のように響くことを狙っているような気もします。深く心をえぐるハイドンではなく、心地よく美しく響くハイドンのクァルテットといったところでしょうか。

Hob.III:81 String Quartet Op.77 No.1 [G] (1799)
この曲でも非常に美しい響きが印象的な入り。冒頭に刻まれるリズムは意外にしっかりと刻んで、しっかりとした足取り。ヴァイオリンのダイアナ・モリスのボウイングはちょっとクラシックの奏者とは異なり、ムード音楽のように音の中央部のたっぷりと膨らませて弾くのが特徴。それがちょっと楽天的な響きの印象に大きく影響しているよう。それに合わせるように他のパートも、パートの独立性よりも全体のハーモニーを重視して、弦楽四重奏と言うよりオーケストラぽい弾き方に聴こえます。なんとなくこのクァルテットの特徴が分かってきました。その結果、やはり非常に磨かれて美しい、輝くような1楽章になっています。
続く短調のアダージョでは輝かしさとの対比か、このクァルテットにしてはツヤを抑えてじっくりとメロディーを描いていきます。ここではヴィオラもチェロもよく楽器を鳴らしてパート間の緊張感を感じさせるクァルテットらしいところも見せます。
メヌエットはハイドンが晩年にたどり着いた澄み切った心境を感じさせる、屈託のない艶やかさが心地よいですね。このクァルテットの長所が活きた楽章。中間部はデュナーミクの幅が広くグッと踏み込んだ演奏。
そしてフィナーレの晴れやかなメロディーの輝かしさは予想どおり。ヴァイオリンの鮮やかなボウイングに他のパートも刺激されて鮮やかなメロディーが続きます。美音の饗宴。

Hob.III:83 String Quartet Op.103 [d] (before 1803)
ハイドンの作曲人生の最後に書いた曲。淡々とした入りから穏やかな演奏が続きいい具合に枯れた感じが滲みでてきます。これまでの美音尽くしてき表情から一変して、曲の描かれた背景を踏まえた演奏に変わります。特にすっとテンポを落とした以降はさらに枯れた表現が際立ちます。長い休符も印象的。我々がこの曲に抱くイメージの理想の姿のような演奏。ここではヴァイオリンは要所以外は輝きを抑えて、曲の緊張感を保ちます。
そして終楽章になってしまったメヌエットもグイとえぐるような入りからテンションを保ちながら影の部分の深い闇をきちんと描いてきます。音楽に漂う不安な印象と決意のようなものが浮かび上がる迫力の演奏。中間部の張り詰めた感じも悪くありません。そして本当に最後になってしまう冒頭のメロディーに戻るときの無心の鋭さがかえって心に響きます。このメロディーを書いて筆を置いたときのハイドンの心境を表しているような険しさ。これは名演ですね。

私自身はその存在は知っていたものの、Skunjpさんから送られてきて、はじめて聴いたアルバム。確かに磨き抜かれた美しい響きがこのアルバムの魅力であり、このフランチスカス四重奏団の魅力でもあります。おそらくこの響きの美しさと表情の豊かさの魅力が支持される理由かと思いますが、ハイドンのクァルテットにはさらなる深みもあります。途中に書いたように、特に前2曲については、若干響きの美しさに集中しすぎて、少々外面的な演奏に聴こえなくもありません。ハイドンの弦楽四重奏曲を美しくまとめ上げたという点では素晴らしい演奏ですが、聴き方によってはそこがちょっと気になるという人もいるかもしれませんね。最後のOp.103については、曲の真髄を突く名演奏と言っていいでしょう。評価はOp.103が[+++++]、前2曲が[++++]とします。

フランチスカス四重奏団の現役番にはハイドンの弦楽四重奏曲Op.2のNo.3などが含まれているようなので、こちらも手に入れて聴いてみなくてはなりませんね。

Skunjpさん、こんなところでお許しください!

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tag : 弦楽四重奏曲Op.54 弦楽四重奏曲Op.77 弦楽四重奏曲Op.103

タカーチ四重奏団のOp.77、Op.103(ハイドン)

今日はちょっと古めのアルバム。

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タカーチ四重奏団(Takács Quartet)の演奏による、ハイドンの弦楽四重奏曲Op.77のNo.1、No.2およびOp.103の3曲を収めたアルバム。収録は1989年6月、ロンドン近郊のクラウチ・エンド(Clouch End)にあるThe Church Studioという教会をスタジオに改装したところでのセッション録音。レーベルは往時のDECCA。

このアルバムは最近手にいれたもの。タカーチ四重奏団は近年hyperionに移籍してOp.71、Op.74などのアルバムをリリースしており、当ブログでも1度取り上げています。

2012/01/18 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : タカーチ四重奏団のOp.71(ハイドン)

移籍前ははDECCAの看板四重奏団という立場にあり、バルトークやベートーヴェンや弦楽四重奏曲が有名であり、ハイドンでもOp.76のアルバムをリリースしており、流麗快活な素晴らしい演奏でした。ただし今日取り上げるアルバムの存在は最近まで気づいていませんでした。

タカーチ四重奏団は、上の記事の略歴に記したように近年はメンバーが入れ替わって現在も活動していますが、今日取り上げるアルバムはOp.76同様、1975年の創設以来、栄華を誇ったDECCA時代の創設メンバーによるもの。

第1ヴァイオリン:ガボール・タカーチ=ナジ(Gábor Takács-Nagy)
第2ヴァイオリン:カーロイ・シュランツ(Károy Schranz)
ヴィオラ:ガボール・オーマイ(Gábor Ormai)
チェロ:アンドラーシュ・フェエール(András Fejér)

第2ヴァイオリンとチェロは創設以来現在も現役メンバーです。ヴィオラのガボール・オーマイは1995年に亡くなっています。第1ヴァイオリンのガボール・タカーチ=ナジは、1956年生まれのハンガリーのヴァイオリン奏者、指揮者。フランツ・リスト・アカデミーで学び、イェネー・フバイ賞に輝いています。1975年にタカーチ四重奏団を結成し、HungarotonやDECCAに多くの録音を残すことになりますが、1992年、腕の病気によりタカーチ四重奏団を離れざるをえなくなります。その後音楽療法などにより演奏に復帰し、タカーチ・ピアノ・トリオを結成したり、ブダペスト祝祭管弦楽団のコンサートマスターに就任。2005年以降は指揮者としても活躍しています。

ということで、全盛期の流麗な響きが聴かれるでしょうか。

Hob.III:81 String Quartet Op.77 No.1 [G] (1799)
比較的残響の多い録音ですが、鮮明さもあり、聴きやすい録音です。冒頭からテンポよく非常に流麗な演奏。4人とも絶妙な弓裁きで活き活きと音楽を運びます。流麗さに加えて躍動感に満ち、各パートがダイナミックに音量を変え、それでいてしっかりと一体感を感じさせる演奏。豪華絢爛流麗華麗な演奏と言えばいいでしょうか。ハイドンのイメージはもう少し素朴なものかもしれませんが、不思議と違和感はありません。
そのままの印象だったら少々表面的に感じたかもしれませんが、アダージョに入ると、ぐっとテンポを落として、深みを感じさせます。フェエールのチェロが実に深い音色ではっとさせられます。4本の楽器が織りなすしっとりと深い陰影が実に美しい。アンサンブルはすでに神々しいオーラを帯びていて、弦楽四重奏という構成でここまでの精緻さがだせるものと驚くような精度で曲を進めていきます。あまりの美しさに恍惚となります。
そしてメヌエットで勢いを取り戻しますが、活き活きとしたアンサンブルにさらに磨きがかかり、メロディーが踊るよう。これほど躍動感を感じさせるメヌエットは聴いたことがありません。中間部での磨き抜かれた厳しい表現も秀逸。ガボール・タカーチ=ナジの張り詰めた美音が耳に残ります。
そしてフィナーレは完璧なアンサンブルでまったく破綻せず畳み掛ける迫力が素晴らしいですね。速いパッセージのキレは痛快そのもの。テクニックを意識させないほど完成度が高く、ただただ唸るのみ。ガボール・タカーチ=ナジばかりでなく全員の弓裁きがキレまくってます。ハイドン最晩年の名曲の完璧な演奏! 1曲目から恐ろしいほどの完成度に圧倒されっぱなしです。

Hob.III:82 String Quartet Op.77 No.2 [F] (1799)
演奏の躍動感と精度は全く変わらず、この曲のリズムの面白さの表現に冒頭から引き込まれます。アクセントのつけ方が絶妙で、普段聴いている他の演奏で慣れた耳に新鮮な刺激が走ります。なんという面白さ。キリリと引き締め、すっと力を抜くかと思うと、ぐうっと力を入れるなど自由自在。緩急のコントロールの面白さも加わって、実に豊かな音楽となります。もちろん全員キレキレですが、聴かせどころはキレではなく音楽の表情のめくるめく多彩さ。それに各楽器の音色の違いが加わり、驚くほど刺激に満ちた演奏。前曲以上の完成度に完全に圧倒されます。
続くメヌエットはさらに面白い。ハイドンが書いた楽譜に、作曲者が思いつかなかった色彩を加えて、音楽の色彩の豊かさをさらに豊かなものにしています。リズムのキレとしっとりとした癒しの対比も見事。そしてさっと表情を変える切り替えの妙。
そしてハイドン最晩年の枯淡の境地がにじみ出るアンダンテ。それを踏まえて表情の変化を抑えて淡々と演奏しますが、徐々に豊かな表現力が顔をのぞかせ、なんとも言えない味わい深い音楽に変化していきます。チェロの渋い音色に寄り添うようにヴァイオリンが蝶のように飛び回ります。まさにハイドン最晩年の澄み切った心境を表すような純粋無垢な音楽。弦楽四重奏というジャンルを作ったハイドンが最後に到達した澄み切った世界。あまりに美しいチェロの音色にとろけそうです。最後にぐっと高まり、再び平安な音楽にもどるところの音楽を書いたハイドンの心境はどのようなものだったか、遠い昔に思いを馳せます。
郷愁を断ち切るようなグランドフィナーレ。完成した最後の弦楽四重奏曲の終楽章は、過去へのこだわりも何もない純粋に弦楽四重奏の充実した響きを聴かせる楽章。心なしか力を抜いてゆったりと演奏することで、明るいアンサンブルに寂しさのような影がほんのりと帯びています。翳りのある快活さと言えばいいでしょうか。最後も豊かな響きの中にどこか優しさのあるハーモニーで終わります。

Hob.III:83 String Quartet Op.103 [d] (before 1803)
そしてハイドン絶筆の作品。アンダンテは前曲の終楽章同様、意外にさっぱりとした表情のなかにほのかな詩情が漂います。テンポは速めですが、行書の筆使いのようにしなやかな音楽が流れます。最後になっても途切れぬ創意を感じさせる展開。はっとするような変化に、すっと静寂を聴かせたり、聴き手の予想を超える音楽が流れます。
そして最後のメヌエットも弦楽器4本が響きあってつくられる音楽としては実に意欲的な展開を聴かせます。タカーチ四重奏団はハイドンの創意に敬意を払うかのように、これまで多彩な響きを聴かせてきたのとは対照的に力の抜けた演奏で応じます。演奏者の心境もハイドン自身に近づいていこうとしているようです。これが絶筆とは思えないほどの筆致。この曲のつづきはハイドンの頭のなかにだけ響いていたのでしょうが、それを楽譜に記す力残っていなかったのでしょうね。

タカーチ四重奏団全盛期の演奏でハイドンの最後の3つのクァルテット。演奏の是非ということすら忘れさせる素晴らしいものでした。全曲とも豊かな音楽が流れ、奏者が魂て弾いているような素晴らしい演奏です。ハイドンの弦楽四重奏曲の演奏の頂点と言ってもいい素晴らしさ。特にこの最晩年の作品の澄み切った心情を実によく表していると思います。時代とともに演奏スタイルも変わっていきますが、この豊かさを超えるのは難しいでしょうね。心を揺さぶる1枚でした。評価は[+++++]とします。未聴の方は手に入るうちにどうぞ。

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tag : 弦楽四重奏曲Op.77 弦楽四重奏曲Op.103

アルカン四重奏団のOp.77、Op.103(ハイドン)

室内楽のアルバムが続きますね。

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アルカン四重奏団(Quatuor Alcan)の演奏で、ハイドンの弦楽四重奏曲Op.77のNo.1、No.2、Op.103の3曲を収めたアルバム。収録は1995年7月、カナダのケベック州ミラベル(Mirabel)にあるサン=トーギュスタン教会(Église Saint-Augustin)でのセッション録音。レーベルはカナダ、モントリオールののANALEKTA fleurs de lys。

このアルバム、ちょっと手に入りにくいものですが、例によっていつも素晴らしいアルバムを貸していただく湖国JHさんから送り込まれたもの。いろいろ集めているつもりですが、全く未知のアルバムはまだまだあるものですね。ということで、いつものように未知のアルバムを聴くときのワクワク感を抱きながらいろいろ調べます。

アルカン四重奏団は1989年に設立されたカナダのクァルテット。カナダではオーフォード四重奏団以来の世界に通用するクァルテットとして知られ、本拠地はケベック州のケベックシティーの北方の街シクティーミー(Chicoutimi)。アルミ製造で知られる同名のアルカン社からの助成金を得て活動しているとのこと。最近ではベートーヴェンの弦楽四重奏曲全集を録音しており、カナダでは有名な存在ということでしょう。このアルバムの録音当時のメンバーは下記の通り。

第1ヴァイオリン:ブレット・モルツァン(Brett Molzan)
第2ヴァイオリン:ナタリー・カミュ(Nathalie Camus)
ヴィオラ:リュク・ベアシュマン(Luc Beauchemin)
チェロ:デイヴィッド・エリス(David Ellis)

第1ヴァイオリンが現在とは異なりますね。

このアルバムの演奏、ちょっと線が細いのですが、ヴァイオリンの美しい音色を聴いているうちに、昔、オーディオショップで羨望の眼差しで聴いたSpendorの銘スピーカーBC-IIが奏でる弦楽四重奏の高貴で繊細な高音の響きを思い出してちょっと感慨深くなったので取り上げた次第。精緻の限りを尽くした演奏もいいですし、まったりと味わい深い演奏もしかり、そしてこのアルバムのように独特の美しさをにじませる演奏もいいものです。ハイドンの最晩年のクァルテットが実に趣深く響きました。

Hob.III:81 String Quartet Op.77 No.1 [G] (1799)
冒頭からしなやかな第1ヴァイオリンの音色にうっとり。強さは感じないんですが、弦を伸びやかに鳴らす弓裁きが独特の美しさを醸し出しています。教会での録音らしく残響の脚が長い。アンサンブルは厚みよりもしなやかな旋律の表現重視で、なかなかの味わい。終始第1ヴァイオリンがクッキリとした表情をリードして、他のパートはそれを補う役に徹する感じ。気負いも力みもなく、淡々と曲を進めるのは私好み。1楽章は緊張感の適度な感じが心地よい余韻を残します。
つづくアダージョではヴァイオリンの美しさに磨きがかかって、淡々としながらも張り詰めた音色の魅力を等身大に表現。このちょうどいい感じがこのクァルテットの真骨頂でしょうか。必要十分な踏み込みが、ハイドンにちょうどいい感じと言ったらいいでしょうか。徐々に表現の起伏が大きくなってきても安心して聞いていられる安定感と美しいガラス細工のような透明感を保っています。これは録音のバランスがヴァイオリンが一番鮮明で全体に若干高域寄りなこともあってのことでしょう。
ここまで楽章間のバランスも非常によく、テンポ設定も非常に自然。意外にこのあたりはクァルテットの実力が垣間見えるところでもあり、ハイドンの演奏としては隙のないところ。メロディーの描きかたも堂に入ってます。
そしてフィナーレも手堅くまとめてきます。非常にオーソドックスな演奏ながら、上手いなと思わせる瞬間が多々あります。この安定感は見事。一貫した演奏スタイルが堅固に守られています。ハイドンの弦楽四重奏曲の演奏としてはかっちり完璧。箱庭的な美しさもあり、古典期の弦楽四重奏曲の演奏見本のようですね。気に入りました。

Hob.III:82 String Quartet Op.77 No.2 [F] (1799)
晩年の作品だという印象を感じさせず、前曲同様カッチリとしたアンサンブルから入ります。逆にハツラツとした印象を感じなくもありません。安定したテンポ感にクッキリとした表情、そしてバランスの良いアンサンブルが非常に心地よいですね。線は細いものの各パート間のメロディーの受け渡しも鮮やか。アンサンブルの音楽の一貫性に唸ります。
続くリズミカルなメヌエットはこのクァルテットの魅力が最もよく分かる楽章。コミカルな表現とメロディーの切り替え、間の取り方、クッキリとした抑揚によって、曲が小気味好く進みます。中間部の穏やかなメロディーへの変化もさらりとこなし、再びリズミカルな音楽に戻りますが、こうした変化をさらりとこなすあたりに円熟を感じます。
そして、枯れた世界に一転するアンダンテ。このクァルテットにとってハイドンは基本なのでしょう、どの楽章でも抜群の説得力。解釈を変更する必要は微塵もなく、聴き進むうちにこの演奏の説得力の大きさに気づいてきました。じわりとにじみ出る味わい。そして決して情に流されない展開。展開するうちにチェロの音色の美しさにもぐっときます。最後の静けさにもはっとします。
最後のヴィヴァーチェは鮮やかさを取り戻し、音楽がクルクルまわるような面白さを印象づけます。円熟の筆致。適度にキレているのに味わい深い演奏。これまた隙のない演奏に唸ります。

Hob.III:83 String Quartet Op.103 [d] (before 1803)
ハイドン最後のクァルテット。あえて速めのテンポによるさらりとした入りがなんとなく感慨深い印象を残します。この曲のツボをおさえて淡々と進め、最晩年のハイドンの澄み切った心境を表すがごとき達観の演奏。聴き進めるうちにこの演奏の魅力に引き込まれます。もうひとつ楽章を書いたところで作曲の筆を置く心境となったことが信じられないほどに充実した音楽が響きます。ハイドンの心境が乗り移ったかのように演奏に集中力が増します。
絶筆の2楽章にはこのアルバムでもっとも力が入った演奏。ここにクライマックスをもってきていましたか。奏者の気高い心意気がつたわってくるような、バランスを崩さない緊張感。テンポもアンサンブルのバランスもボウイングも適度な範囲を保ちながら、ひしひしとつたわる気合ののようなもの。限られた演奏者にしか到達できない音楽の高みに昇りつめたような気配が漂います。最後のフレーズは作曲家人生の終わりなのに実にさりげなく、楽章の終わりも感じさせないもの。深いですね。

最初に聞いた時には特段踏み込んだ個性を感じるほどの演奏ではありませんでしたが、何度か間をおいてアルバムに耳を通すうちにこのアルバムの演奏の深さにようやく気付いた次第。弦楽器のアンサンブルの音色の多様さ、たった4本の楽器の奏でる音楽の多様さにいつもながら驚きます。そしてハイドンが到達した音楽の高み。特殊な高みではなくわれわれの身近なところにある、手が届きそうな高みなんですが、聴いていくうちに、常人にはつくりえないその高みに畏敬の念を禁じえないものとわかります。アルカン四重奏団の演奏はオーソドックスなアプローチながらそうしたハイドンの高みを実にうまく表現していると思います。室内楽好きな人にはこの良さが沁みるはずですね。評価は[+++++]とします。

湖国JHさん、そろそろ次の指令をお願いします!

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tag : 弦楽四重奏曲Op.77 弦楽四重奏曲Op.103

マッジーニ四重奏団のOp.77、Op.103(ハイドン)

マイナー盤を巡る旅は続きます。こちらも湖国JHさんから送り込まれたアルバム。

MagginiQ.jpg
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マッジーニ四重奏団(The Maggini Quartet)の演奏で、ハイドンの弦楽四重奏曲Op.77のNo.1、No.2、Op.103の3曲を収めたアルバム。収録はPマークが1996年とだけ記載されています。レーベルははじめて見る英CLAUDIO RECORDS。

なにやら妖気漂うジャケットが気になります。ライナーノーツによれば、これはロンドンのテイト・ギャラリー蔵のサー・ジョシュア・レイノルズの1787年作の天使の頭部という絵とのこと。

マッジーニ四重奏団は、1988年に結成されたイギリスのクァルテット。クァルテットの名前は16世紀のイタリアのヴァイオリン製作者、ジョヴァンニ・パオロ・マッジーニに由来するそうです。イギリス音楽を得意としているようで、NAXOSからかなりの枚数のアルバムがリリースされています。ハイドンのアルバムは1996年の録音ということで、比較的早い時期の録音ということになります。調べてみると、このアルバムの他にハイドンのOP.33から3曲を録音しているようで、そのアルバムが彼らのディスコグラフィで一番古い録音のようです。これらのハイドンのアルバムの収録後、イギリス音楽の録音を重ねたという流れのようで、このアルバムの演奏は彼らの原点たる演奏といってもいいかもしれません。

このアルバム演奏当時のメンバーは下記のとおり。

第1ヴァイオリン:ローレンス・ジャクソン(Laurence Jackson)
第2ヴァイオリン:デイヴィッド・エンジェル(David Angel)
ヴィオラ:マーティン・ウートラム(Martin Outram)
チェロ:ミハウ・カズノフスキ(Michal Kaznowski)

ウェブサイトがみつかりましたので紹介しておきましょう。第1ヴァイオリンはすでに変わっていますね。

Maggini Quartet

さて、ちょっと不思議なジャケットが気になるマッジーニ四重奏団のハイドンの弦楽四重奏曲集。しかも最晩年に作曲された3曲ということで、出来はいかなるものでしょうか。

Hob.III:81 / String Quartet Op.77 No.1 [G] (1799)
快活な出だし。アンサンブルは適度に粗いものの音楽に一体感があり、悪くありません。録音はヴァイオリンの響きをうまく捉えて、多少デッド気味ながら木質系の弦の音色が美しいもの。ローレンス・ジャクソンのヴァイオリンはちょっと震えるような音色で、流麗とはいきませんが、不思議と印象に残る味のあるヴァイオリン。4人が対等に鬩ぎ合うアンサンブル。4人ともキレがいいので、アンサンブルは非常に緊密。音色の上ではチェロもかなりいい味出してます。味のある音色の演奏ですが、聴き所はタイトに攻め込むところ。まさに手に汗握るもの。意外にダイナミックレンジの広い演奏。
アダージョでは4人の呼吸をピタリと合わせながら、かなりメリハリをつけます。深淵とか、枯淡という言葉は似合わず、斧で手荒く彫り込んだ木彫のような風情。険しいわけでもなく、木肌のぬくもりも感じられる独特の表情。独特ながら音楽は確信に満ちて淀みなく、潔く流れていきます。クァルテットの演奏スタイルが鮮明なのは流石なところ。
メヌエットはキリリと鋭くグイグイ力強い音楽がが心地よい演奏。フレーズ毎のコントラストもかなり鮮明。演奏によってはくどく感じるリスクもありますが、潔さが勝っていい感じ。フィナーレも同様、タイトに攻め込みつづけてハイドンのフィナーレの複雑に絡み合うメロディーを解剖図を見るようなクッキリさで描いていきます。時折音程がふらつくところもありますが、それもいい意味で臨場感として聴かせてしまいます。1曲目から踏み込んだテンションの高い演奏。

Hob.III:82 / String Quartet Op.77 No.2 [F] (1799)
録音セッションが違うのか、音色に若干燻らしたような風味が加わります。すこし中域の柔らか味が加わり自然な響きになります。前曲のクッキリ明快な演奏スタイルに近いのですが、すこし余裕を感じるのが不思議なところ。やはり4人のアンサンブルはピタリと息が合って、音色に粗さはあるものの精度は見事です。聴き進めると前曲以上に曲の構成感にこだわり、テンポの変化とコントラストをはっきりとつけてきます。1楽章の最後はかなりテンポを落としてメリハリをつけます。
つづくメヌエットではチェロの素朴な音色がいい効果をあげています。鋭いヴァイオリンに対してチェロが柔らかくサポートしてタイトになりすぎないようにしています。
アンダンテに入ると雰囲気をガラリと変え、木質系の弦楽器の素朴な音色を楽しめと言っているような朴訥な演奏。変奏が加わり響きにタイトさが垣間見えるようになる部分もありますが、基本的にチェロの柔らかな音色に支配された幸せな音楽が流れ、ようやく終盤にクッキリとした響きが帰ってきます。
フィナーレはさざめくような気配をうまく表現しながら、クッキリとメロディーラインを描き、晴れ晴れとした表情が心地よい音楽をつくっていきます。ヴァイオリンはこの曲で一番の流麗さ。もともとテンションの高い表現でしたが、堂々とした風格が加わり曲が締まります。音色や演奏スタイルの変化を楽しめる玄人好みの演奏といっていいでしょう。

Hob.III:83 / String Quartet Op.103 [d] (before 1803)
ハイドン最後のクァルテットは気負いなくさらりサラサラした入り。リズムも練ることはなく、あっさりとした表情。必然的に4人の織りなす響きの綾に耳が集中します。適度に粗い音色がアンサンブルの面白さを際立たせているよう。中盤から持ち味であるクリアなテンションで音楽を膨らませてゆき、欲はないのに振幅の大きい音楽を作っていきます。適度に悟ったような晩年のハイドンの心境を感じさせながらも、音量を極端に抑えたところをもうけてクッキリコントラストをつけて曲の深みを表現しています。
最後のメヌエットは絶筆の楽章ですが、ハイドンに残された創意のエネルギーが消えゆくような絶妙な心情を感じさせる演奏。覇気に満ちた響きと、回想するような過去への憧憬、そして印象的な間をちりばめます。オルガンを思わせる重厚な響き、クリアなヴァイオリンの響き、絶妙なスロットルコントロールなどを織り交ぜ、複雑ながら深く心に残る音楽に仕立ててきました。表現意欲の塊のような演奏ですが、不思議にくどくなく、素直に聴くことができました。

イギリスの作曲家の演奏では知られたクァルテットだと想像されますが、ハイドンの弦楽四重奏曲の演奏は知る人ぞ知る、つまり知らない人は知らない存在であるマッジーニ四重奏団の奏でるハイドンの最後の3つのクァルテット。聴き込んでみると、実に深い音楽が流れます。洗練された演奏でも、流麗でも、精緻でもありませんが、かっちりと存在感のある響きを基調とした、表現意欲に富んだ演奏でした。これはいろいろな演奏を聴きこんだ、クァルテット好きの玄人向けの演奏でしょう。私は非常に気に入りました。彼らの音楽に対する真剣な姿勢が心を打つ演奏です。評価はやはり[+++++]を進呈すべきでしょう。

手元にないOp.33のアルバム、発注しました。到着が楽しみです。

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tag : 弦楽四重奏曲Op.77 弦楽四重奏曲Op.103

イギリス弦楽四重奏団のOp.1、Op.42、Op.103

弦楽四重奏曲が続きます。湖国JHさんにお借りしているアルバム。

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HMV ONLINEicon / amazon / iTunesicon

イギリス弦楽四重奏団(The English String Quartet)の演奏で、ハイドンの弦楽四重奏曲Op.1のNo.5(No.0)、Op.42、Op.103の3曲を収めたアルバム。収録はPマークが1986年との表記しかありません。レーベルは良い録音の多い英Meridian。

ライナーノーツによれば、ハイドンの数多の弦楽四重奏曲の中から、独立した作品として書かれたものを初期、中期、後期から1曲づつ選んで取りあげたとの企画。珍しいのはOp.1のNo.5でしょうか。

演奏者のイギリス弦楽四重奏団は初めて耳にするクァルテット。古くからイギリス、ヨーロッパでは有名なクァルテットだそうですが、日本ではあまり知られた存在ではないようです。1982年にメンバーが交代し、この録音のメンバーとなったようです。

第1ヴァイオリン:ダイアナ・カミングス(Diana Cummings)
第2ヴァイオリン:コリン・キャロー(Colin Callow)
ヴィオラ:ルチアーノ・ロリオ(Luciano Iorio)
チェロ:ジェフリー・トーマス(Geoffrey Thomas)

ヴァイオリンのダイアナ・カミングスとヴィオラのルチアーノ・ロリオは夫婦とのこと。2人とも直前はロンドンの著名なオケのメンバーとして働いていたようですが1982年にこのクァルテットのメンバーとなったそうです。ダイアナ・カミングスは同年に王立音楽アカデミーの教授となっています。現在リリースされているアルバムもわずかであり、情報も少ないため、詳しいことはわかりません。

純粋に演奏から彼らの音楽を楽しむ事としましょう。

Hob.II:6 / String Quartet Op.1 No.0 [E flat] (c.1757-59?)
ながらく消失していた曲で、1931年にマリオン・スコットとガイリンガーによって別々に発見された曲。1986年の制作としては鮮明な録音。特に高音が鮮明というか、少々クッキリしすぎかもしれない独特の録音。MeridianらしくAKGのマイク、Nagraのテープレコーダー、AGFAのテープが使われいるとの記載があります。録音のせいかヴァイオリンがクッキリ鋭い音に聴こえます。イギリス弦楽四重奏団の響きは華麗、華美な印象。演奏は初期のハイドンの弦楽四重奏曲に共通なディヴェルティメントに近い明るく優雅な舞曲のような味わいを上手く表現しています。非常にオーソドックスな音楽のつくりですが、クッキリとしたヴァイオリンによって非常に華やか。リズムもはっきり刻んでいるので、音楽に活気があります。5楽章構成プレスト-メヌエット-アダージョ-メヌエット-フィナーレと言う構成。一貫して舞曲風で演奏者自身が楽しむための曲のようです。

Hob.III:43 / String Quartet Op.42 [d] (1785)
1785年にハイドンがスペインのオスナ公爵夫人に送った3曲のうちの1曲(他の2曲は消失)と考えられているそう(大宮真琴さんの新版ハイドンから)。録音の冴えは一段あがり、高音域はクッキリを通り越して超鮮明。前曲が華やかな印象だったのは曲のせいもありますが、短調のこの曲では、三次元デジタル的に鮮明な峻厳な響きに印象が一変します。この曲は2楽章がメヌエットで3楽章がアダージョ。どちらの楽章も実に良く練られた演奏。鮮度、リズム感、ゆったりと沈み込むアダージョのフレージングと申し分なし。特に超鮮明な録音でリアルながら、実に良く歌うアダージョが秀逸。音量のコントロールが非常に丁寧で、アダージョがクリスタルのように輝きます。そして美しく輝きながらも鬼気迫るフィナーレ。フーガ風に繰り返すメロディーがクリアな響きで畳み掛けます。この曲は、超鮮明な録音とクッキリした響きが曲のイメージに合っていて、いい出来。

Hob.III:83 / String Quartet Op.103 [d] (before 1803)
そしてハイドン最後の曲。前記事のリンゼイ四重奏団の演奏でも取りあげたばかり。やはりこの曲では穏やかな演奏に変わります。鮮明な音響によって、この穏やかな曲に不思議と絢爛豪華な印象も加わります。リンゼイ四重奏団の演奏では弦楽器の響きの中に力みというか力の入れ具合の変化の面白さが感じられたのに対し、こちらのイギリス弦楽四重奏団の演奏では全楽器の響きがクッキリと重なり、鮮明な隈取りで実に豪華な響きが耳に残り、聴かせどころが全く変わります。鮮明な音響にもかかわらず、音楽には澄みきった静けさのようなものが宿ります。つづくメヌエットも同様。峻厳な響きで一気に聴かせきってしまいます。アンサンブルの精度は抜群、デュナーミクのコントロールもきっちりして、演奏は第一級です。

ちょっと録音に癖があるので、最初は独特な印象をもったのですが、何回か聴いているうちに彼らの音楽のポイントがわかってきました。よく聴くとアンサンブルは鮮明、音楽も実に良く練られた演奏です。ハイドンの弦楽四重奏曲のうち、単独で残っている曲を時代ごとにならべるというアルバムの企画意図も冴えていてなかなか興味深いアルバムです。まだ手に入るようですので、弦楽四重奏曲好きな方にはオススメのアルバムですね。評価はOp.1のNo.0が[++++]、他は[+++++]とします。

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tag : 弦楽四重奏曲Op.1 弦楽四重奏曲Op.42 弦楽四重奏曲Op.103

リンゼイ四重奏団のOp.77、Op.103

今日はコレクションの穴埋めで最近手に入れたアルバム。

Lindsays77.jpg
TOWER RECORDS / iTunesicon

リンゼイ四重奏団(The Lindsays)の演奏による、ハイドンの弦楽四重奏曲Op.77のNo.1、No.2、Op.42、Op.103の4曲を収めたアルバム。収録は2004年1月20日から22日にかけて、イギリス中部のシェフィールドの北にあるウェントワース(Wentworth)という街の三位一体教会(Holy Trinity Church)でのセッション録音。レーベルは英ASV。

リンゼイ四重奏団の演奏は以前に一度取りあげています。演奏者の紹介はこちらをご覧ください。

2010/12/20 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : 【年末企画】リンゼイ四重奏団の弦楽四重奏曲Op.20「太陽四重奏曲」

前記事を読んでいただければわかるとおり、ちょっと癖のある演奏をするクァルテットですが、私は気に入っています。リンゼイ四重奏団にはかなりの量のハイドンの弦楽四重奏曲の録音があり、手元にもかなりのアルバムがあるのですが、まだ数枚未入手盤があります。このアルバム、先日ディスクユニオンの店頭で見かけて、すかさず手に入れたもの。コレクションの穴となっているアルバムに店頭で出会うのは実に嬉しいものです。

今日取り上げるアルバムは2004年の録音。彼らは2005年に解散していますので、解散目前の時期の演奏。しかもハイドン最後の作品であるOp.103を含むということで、彼ら自身にとっても思い入れのあるアルバムなのではないでしょうか。

第1ヴァイオリン:ピーター・クロッパー(Peter Cropper)
第2ヴァイオリン:ロナルド・バークス(Ronald Birks)
ヴィオラ:ロビン・アイルランド(Robin Ireland)
チェロ:バーナード・ グリゴア=スミス(Bernard Gregor-Smith)

Hob.III:81 / String Quartet Op.77 No.1 [G] (1799)
独特の力感と弾力がある響き。いかつい顔のピーター・クロッパーが丁寧に弓を操る姿が目に浮かぶような演奏。基本的にインテンポでグイグイ推進していきます。録音は教会の空気感をとらえた鮮明なもので、教会での録音ということで想像されるほど残響は多くなく、ちょうどいいもの。かなりオンマイクで録っているように聴こえます。ちょっと黒光りするボディービルダーの肉体のように筋骨隆々としたハイドン。チェロやヴィオラが雄弁なことと、微妙に溜めをつくっているのでそう感じるのでしょうか。
つづくアダージョは奏者それぞれのメロディーラインがくっきりと浮かび上がり、それぞれの丁寧なボウイングが印象的。ヴァイオリンのピーター・クロッパーの音程が微妙に揺らぐのが少し気になります。
メヌエットはこれまでの流れの延長で力感溢れる演奏ではあるのですが、良く聴くとすこし枯れた感じもあるのが味わいにつながっています。フィナーレに入るとフレーズのひとつひとつをしっかりと描いていくので、複雑にからまる音符をわかりやすく解きほぐしながら演奏しているよう。最後に向けての盛り上げ方はライヴさながらの迫力。ヴァイオリンの速い音階のキレは流石です。

Hob.III:82 / String Quartet Op.77 No.2 [F] (1799)
息の合ったクァルテットらしく、演奏の安定感は素晴しいものがあります。前曲同様、音楽の骨格をしっかりと感じさせながら、弱音部の扱いも非常にデリケート。このクァルテット独特の音感を感じさせます。武骨な感じがあるのにデリケートな一面もあり、弦楽四重奏の面白さ、演奏の個性というものを考えさせられます。この曲では2楽章がメヌエットで、速めの舞曲という感じで颯爽と進めますが、中間部の弱音の演奏で思い切った音量ダウンとスタイルチェンジでハッとさせ、後半の鮮やかなキレを引き立てるあたりは演出上手。つづくアンダンテも耳をそばだてたくなるような軽いタッチを際立たせ、この曲の展開の面白さ、深み、ウィットを実に上手く表現していきます。アンダンテでスイッチが入ったのか、フィナーレは音楽が活き活きと弾み、アンサンブルの集中度も一段上がり、リンゼイ四重奏団の魅力が炸裂します。

Op.42はスキップして、ハイドン最後の作品へ。

Hob.III:83 / String Quartet Op.103 [d] (before 1803)
やはり、力感が特徴のリンゼイであっても、この曲では力を少し抜いて、枯れた印象を感じさせます。丁寧なフレージングはそのままに、流すようなイメージの弓運び。曲のそこここに仕掛けられたハイドン独特の創意を上手く拾って、表情を与えていきます。フレーズ毎の演出の巧みさはハイドンの曲に精通したた彼らならではのもの。1楽章も最後に至るところではきっちり決めてきます。
ハイドン最後の楽章は鬼気迫るメヌエットですが、八分の力で曲をなぞるような演奏。抑えながらもクッキリ表情をつけてくるあたりは流石です。最後になって彼らの丁寧なフレージングの良さが印象的。しっかりとした響きで毅然と終わります。この2楽章を書いたあと、筆を置き、ハイドンが「我が力すでに萎えたり、齢をかさね、力、衰えぬ」と歌詞をつけた歌をそえて、最後の作品として出版された話は有名ですね。リンゼイ四重奏団の演奏は、ハイドンが自身の創造力の陰りを知り、力を残して筆をおいたとように感じる演奏でした。

久々に聴いたリンゼイ四重奏団のハイドン。最近いろいろなクァルテットのハイドンを聴いて、ハイドンの弦楽四重奏の演奏の表現の多様さを認識するなか、彼らのアプローチはオーソドックスながら、個性ある表現の面白さを再認識した次第。武骨さもありながら繊細さもあるという、彼らの個性、ハイドンの弦楽四重奏曲の面白さをしっかり伝えていると思います。評価は最初のOp,77のNo.1が[++++]、それ以外の曲は[+++++]とします。

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tag : 弦楽四重奏曲Op.77 弦楽四重奏曲Op.103

【新着】エンデリオン弦楽四重奏団の弦楽四重奏曲集

また一枚お気に入り盤がみつかりました。

EndellionSQ.jpg
HMV ONLINEicon / amazon / TOWER RECORDS

エンデリオン弦楽四重奏団(Endellion String Quartet)によるハイドンの弦楽四重奏曲4曲(Op.76 No.1、Op.20のNo.4、Op.64のNo.5「ひばり」、Op.103)を収めたアルバム。収録は2012年7月19日から22日にかけて、英ブリストル北方のモンマス(Monmouth)にあるウィアストン・コンサート・ホール(Wyastone Concert Hall)でのセッション録音。レーベルはWarner Classics。

エンデリオン弦楽四重奏団にはハイドンの弦楽四重奏曲Op.54とOp.74のアルバムがVirgin Classicsからリリースされていて、手元にもあるのですが、特別な印象はもっていませんでした。今回手に入れたアルバムも未入手のアルバムということで、最近聴いてよかったエルサレム四重奏団の未入手アルバムを頼むついでに注文していたもので、何気なく手に入れたというのが正直なところ。

ところがどっこい、これが予期せぬ素晴らしい演奏で、メガネが崑ちゃんのごとく鼻まで落ちました(古いか、、)

エンデリオン弦楽四重奏団は1979に創設されたクァルテット。名前の由来はイギリス南西端に突き出す半島にある聖エンデリオン教会からとったものとのこと。1992年からはケンブリッジ大学の招聘クァルテットとなっています。2008年にはベートーヴェンの弦楽四重奏曲全集をこのアルバムと同じWarrer Classicsからリリースしていますので、世間的にはメジャーな存在なのでしょうか。メンバーは創設当初から変わらないということで下記のとおり。

第1ヴァイオリン:アンドリュー・ワトキンソン(Andrew Watkinson)
第2ヴァイオリン:ラルフ・デ・ソウザ(Ralph de Souza)
ヴィオラ:ガーフィールド・ジャクソン(Garfield Jacson)
チェロ:デイヴィット・ウォータマン(David Waterman)

探したところエンデリオン弦楽四重奏団のウェブサイトがありましたが、かなりポップでカジュアルな感じ。なかなか面白い構成ですね。

the Endellion String Quartet

Hob.III:75 / String Quartet Op.76 No.1 [G] (1797)
かなり残響が豊かな録音ですが、音像は鮮明なため問題ありません。冒頭から一人一人の音色がはっきり異なり、それぞれ独立して響くのですが、一人一人が他者の音をよく聴いて音をそっと乗せている感じがあり、アンサンブルの面白さが際立ちます。まさに弦楽四重奏の真髄にいきなり触れる感じです。4人の織りなす自在で柔らかな響きに引き込まれます。4人とも絶妙のリズム感とテクニックの持ち主と聴きましたが、牙は剥かずにハイドンの曲の演奏を心からリラックスして楽しんでいるような演奏。まさに楽しげなようすが録音からもじわりと伝わってきます。メロディーの受け渡しも絶妙。流石34年目のクァルテットの至芸。最初のトラックから絶妙の演奏です。
アダージョは予想通り、じつに慈しみ深い演奏。ゆったりと深い呼吸の演奏ですが、聴覚が鋭敏に冴え渡ります。アンドリュー・ワトキンソンのヴァイオリンは線は細めで響きは繊細ですが、ここぞという時の高音の素晴らしい伸びは絶品。この楽章では4人がピタリとそろって弾くメロディーの一体感が素晴らしいです。チェロのデイヴィット・ウォータマンもユーモラスな弓さばきを見せて音楽を豊かにしています。
メヌエットはテンポの自在に変化させ、ピチカートを美しく響かせるところが聴き所。速いパッセージでようやくスロットルを開いて9分の力まで出します。
フィナーレもリズムの自在な変化の上にアクセントがきっちりついて、曲の最後を引き締めます。険しい表情で畳み掛けてくる演奏が多い中、エンデリオン弦楽四重奏団は手作りの音楽であるの誇示するように、あくまで一人一人の自在な変化の上で、個性をぶつけ合いながら、合わせるところはきっちり合わせており、画一的な音楽ではなく実に豊かな緊張感ある音楽を作っています。いきなりハイドンの真髄に触れる素晴らしい演奏。

Hob.III:34 / String Quartet Op.20 No.4 [D] (1772)
2曲目以降は簡単に。ゾクゾクするような緊張感溢れる入り。微妙に音色や響きにズレもありますが、テンポだけはピタリと合っていて、肝心なところでは響きもピタリと合って完璧なアンサンブルを聴かせます。それが4人の個性を生かしたアンサンブルであることを物語っています。いたずらをするように跳ね入るメロディーのユーモラスな感じも完璧。
2楽章は前曲同様、非常に慈しみ深い演奏。一人一人の奏者がゆったり奏でるメロディーが絡まりながら豊穣な音楽を創っていきます。とくにチェロの表情の豊かさが際立ちます。終盤は変奏が拡大して峻厳な雰囲気になり神々しさも感じさせます。
短くユーモラスなメヌエットを経て流麗なフィナーレに。フィナーレの弓をザクザクと刻むような激しいアンサンブルにこの曲のクライマックスがありました。激しい部分でも不思議と音楽を楽しむ余裕を感じさせるのがこのクァルテットの真髄でしょう。アドレナリン噴出の素晴らしいキレ。

Hob.III:63 / String Quartet Op.64 No.5 "Lerchenquartetett" 「ひばり」 [D] (1790)
そして名曲ひばり。まさに期待通りの演奏。このクァルテットの特徴が良く出ています。美しい旋律が活き活きとした表情で描かれ、ハイドンの仕込んだユーモラスな雰囲気、純粋に音楽と演奏を楽しむ素材としての完璧です。むしろ完璧すぎる完成度の曲を、リラックスして楽しむ事に集中した方がいいと忠告しているような演奏。書の達人は手本通りではなく、あちこち崩しながらも味わいの深さにおいては他を寄せ付けない深みを持つのににた、解脱の境地でしょうか。フィナーレまでエンデリオンの至芸に打たれっぱなし。

Hob.III:83 / String Quartet Op.103 [d] (before 1803)
最後はハイドン最後の弦楽四重奏曲、というより最後の作品。創作を極めたハイドンが最後にたどり着いた境地をまさにそのまま音にしたような演奏。力は抜けて、美しいメロディーが純粋に響きます。演奏も無欲に弓を動かしながら、音符をおいていくよう。最後の最後に書いたメヌエットは非常に意欲的なものでしたが、これを最後に筆を置き2楽章までの未完の作品となり、後年未完のまま出版されたというのは良く知られた話ですね。エンデリオン弦楽四重奏団の演奏は、この曲がハイドン最後の曲ということを暗示させるような諦観すら漂う名演でした。

このアルバムの最後にはこのOp.103出版されるときにハイドン自身によってつけられた12の音符によるヴァイオリンのメロディーの演奏も最後に収められています。これも心を打つもの。ハイドン自身が創作を終えたことを現す歌詞もつけられています。

「わが力すでに萎えたり。齢をかさね、力、衰えぬ。」(大宮真琴「新版ハイドン」より)

エンデリオン弦楽四重奏団の弦楽四重奏曲集は、ちょっと予想外の素晴らしい演奏でした。普段、レビューするアルバムについて、あまり人の書いた物は読まないようにしていますが、それは先入観をもって聴くよりも、純粋に演奏を聴いた時の印象を大事にしたいからに他なりません。このアルバムも届いてすぐに、何も調べずに聴きましたが、最初の一音からただならぬ演奏だとすぐにわかる独特の響きが聴かれました。聴きすすむうちに、これぞ弦楽四重奏の真髄と感じ入った次第。ライナーノーツの表紙の裏側には笑顔で微笑む4人のとてもいい写真がつけられています。このアルバム、選曲、演奏、プロダクションともに非常に良く出来た名盤だと思います。もちろん評価は全曲[+++++]とします。エンデリオン弦楽四重奏団が1980年代に入れたもう一枚のアルバムも聴き直さねばなりませんね。

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フェステティチ四重奏団のOp.77、Op.103旧盤

久しぶりにオークションで手に入れたアルバム。

Festetics77.jpg
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フェステティチ四重奏団(Quatuor Festetics)の演奏によるハイドン最晩年の弦楽四重奏曲Op.77のNo.1、No.2、Op.103の3曲を収めたアルバム。収録は1990年9月、ブダペストのユニテリアン教会でのセッション録音。ARCANAの現役盤ではなくharmonia mundi FRANCEによる旧録音です。

当ブログの読者の方ならご存知のことと思いますが、フェステティチ四重奏団の現在リリースされているARCANA盤はデッドな録音と力の入った演奏により、私は何となくしっくり来ていません。フェステティチ四重奏団にはARCANA盤以前にHUNGAROTONやharmonia mundi FRANCEからいくつかのアルバムがリリースされており、なんとなくこれらの旧盤の方を好んできました。そのへんの状況は過去のレビューをご覧ください。

2011/11/14 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : フェステティチ四重奏団のOp.9のNo.4新旧比較
2011/05/01 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : フェステティチ四重奏団のOp.33(旧録音)

このアルバムは、そうしたなか、たまたまオークションで見かけたもの。フェステティチの旧盤ということで、狙いをつけて落札しました。

このOp.77とOp.103はARCANA盤も持っているので、レビューの前にちょっと聴いてみたところ、やはりOp.9の記事で書いたのと同様、鮮明ながらちょっと大上段にダイナミックな演奏で、ハイドンの演奏に必要な力の抜けた感じがもう少し欲しいと思わせるものと感じました。

さて、この旧盤、ハイドンの最晩年の成熟した音楽をどう聴かせてくれるでしょうか。好きなアーティストの好きなアルバムに針をおとす(本当はCDプレイヤーにかけるだけですが、、、)ドキドキ感がたまりません。

Hob.III:81 / String Quartet Op.77 No.1 [G] (1799)
直前に聴いたARCANA盤がオンマイク、デッドで鮮明な録音だったのと比べると、豊かな残響と、少し遠くに定位するクァルテット、そして若干ハイ落ちの少し古びた録音という一聴してわかる違いがあります。ただ、音楽は瑞々しさと、いい意味で楽天的な優雅な響きがあり、ハイドンの晩年の傑作を力を抜いて演奏を楽しむような余裕があります。この瑞々しさがフェステティチの旧盤の特徴。まさに期待していた通りの弾む音楽。フェステティチ独特の燻製にしたような渋い響きの弦楽器の魅力が溢れています。やはりハイドンの演奏はこのくらいの余裕ある演奏がなじみ、安心して音楽に浸れます。所々のアクセントがびしっと決まり、やはり月並みな演奏とは異なる淀みないながらもキリッと引き締まった演奏です。
2楽章のアダージョはフェステティチの燻らしたような響きの魅力がさらに活きた演奏。この独特な音色は他のクァルテットとは明らかに違います。精妙というよりは、木が響き合うという言葉がふさわしい演奏。絶え間なく流れるのに、旋律のつなぎ目の部分にハッとするような間が入ったりして楽しませてくれます。
そしてメヌエットはまさに4台の楽器が素晴らしい一体感で攻めて来るような演奏。スピーディーな演奏なんですが、非常に自然な印象を残し、全員の息がピタリとあっていることがよくわかります。後半は素晴らしい推進力。
フィナーレは抜群のテクニックで、キレというよりは吹き上がるエネルギーを感じさせる演奏。まさに4人のアンサンブルは完璧に一体化して、掛け合いというよりアンサンブルから吹き出す音楽が跳ね回るよう。ハイドンのクァルテットの最高の一つであることは確かです。

Hob.III:82 / String Quartet Op.77 No.2 [F] (1799)
前曲に続き、フェステティチサウンド炸裂です。図太いチェロの響き(録音によるところが大きいでしょう)をふくめて、すばらしいエネルギーの充実。古楽器は雅で精妙な響きという先入観を打ち砕く、力感溢れ、推進力抜群の演奏。まるで最上のライヴを聴くような緊張感。おそらく一発録りではないかと思います。この演奏のエネルギーと緊張感はセッション録音のものとは思えません。ハイドンの曲なのに演奏は燃え上がってます。奏者全員がノリに乗っている感じがつたわって来ます。1楽章は嵐のような素晴らしさ。
この曲は2楽章がメヌエット。1楽章の余韻さめやらぬ中、響きに宿るエネルギーはそのままに、曲想にあわせて、すこし演奏の熱を冷ますような間を入れて、秩序を保ちます。1楽章での白熱した演奏が良い方向に働いて、メヌエットも力を適度に抜いているのに、類いまれなライヴ感が音楽を豊かにしています。もはや完全に空間を音楽で支配しているよう。
アンダンテは異次元の洗練。もともとハイドンの素晴らしさが良くでた曲なんですが、この演奏は神憑っています。さりげないメロディーから音楽の悦びがじわりとにじみ出てくるもの。脳内にアドレナリン噴出です。あまりの素晴らしさにじんと来ます。至福のひと時。はじめてシスティーナ礼拝堂を訪れたときの息を飲む感じが蘇ります。
フィナーレはもう解説の必要はないでしょう。完璧な音楽の流れ。完璧なテクニック。そして音楽が心にしみ込みます。この完成度で7年後に最録音が必要なんでしょうか。

Hob.III:83 / String Quartet Op.103 [d] (before 1803)
ハイドンが1803年、2楽章までを書き終えたところで「わが力すでに萎えたり。齢をかさね、力、衰えぬ」と書き加えて出版されたハイドンが最後に書いた曲。フェステティチの演奏からは、前曲の素晴らしいエネルギーは影をひそめ、枯れた心境を表すように淡々とした音楽が聴こえてきます。このへんの演奏スタンスは見事の一言。この曲間の対比はまさに音楽の真髄を知ったものの仕業にちがいありません。淡々としたというには緻密なテクニックと音楽性があってはじめてできる、研ぎすまされた淡々さがあるようです。メヌエットは最後の力を振り絞ったハイドンに対する畏敬ともいえる迫真の緊張感で曲を締めくくります。

やはり、期待通り、フェステティチ四重奏団の旧盤は図抜けた迫力とハイドンの曲の深い理解にもとづく素晴らしい演奏が聴かれました。上でも書きましたが、この演奏の録音を残して、新盤を録音するということはどうゆうことでしょう。新盤との比較でも、私は間違いなく旧盤を推します。評価はもちろん、3曲とも[+++++]です。ハイドンの弦楽四重奏が好きな方は是非探し出して手に入れるべき至宝と断言します。

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Daisy


Author:Daisy

なぜかハイドン(Franz Joseph Haydn)が特に気に入り膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。東京在住のごく普通のサラリーマンです。

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