スミソン弦楽四重奏団のOp.9、Op.17(ハイドン)

1501記事目は先日コダーイ四重奏団のOp.9を激賞した記事を書いた際に、いつも含蓄に富みまくったコメントをいただくSkunJPさんからその存在を教えていただき入手したアルバム。ようやく手に入りました!

SmithonSQ_9.jpg
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スミソン弦楽四重奏団(Smithson String Quartet)の演奏による、ハイドンの弦楽四重奏曲Op.9のNo.4、Op.17のNo.3とNo.5の3曲を収めたアルバム。収録は1986年10月23日から25日にかけて、米国ワシントンD.C.のスミソニアン美術館レンリック・ギャラリー(Renwick Gallery of the Smithsonian American Art Museum)のグランド・サロンでのセッション録音。レーベルは優秀録音の多いDORIAN。

このアルバム、冒頭に書いたようにSkunJPさんから教えていただいたもの。このアルバムと同時に頼んで先についたOp.77とOp.103があまりに見事な出来だったので、そちらを先に記事にしてしまったもの。それも合わせて、このアルバムが3枚目のレビューとなります。

2017/06/13 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : スミソン弦楽四重奏団のOp.77/103(ハイドン)
2011/06/10 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : スミソン弦楽四重奏団のOp.54

スミソン弦楽四重奏団については、リンク先をご覧ください。録音年代はOp.54が1985年、Op.77が1988年、今日取り上げるアルバムが1986年ということで、集中した時期に録音されていることがわかります。したがって、このアルバムも前出2盤と同じメンバーでの録音ということになります。

第1ヴァイオリン:ヤープ・シュレーダー(Jaap Schröder)
第2ヴァイオリン:マリリン・マクドナルド(Marilyn McDnald)
ヴィオラ:ジャドソン・グリッフィン(Judson Griffin)
チェロ:ケネス・スロウィック(Kenneth Slowik)

まだ、Op.77とOp.103の名演の余韻が耳に残る中、早速聴きはじめます。

Hob.III:22 String Quartet Op.9 No.4 [d] (c.1769-70)
Op.20の前の目立たない存在の曲ですが、作曲年代は名作が並ぶシュトルム・ウント・ドラング期。しかも短調のグッと沈む曲想が見事な曲。前盤同様古楽器の木質系の響きの美しさは見事なもの。前盤がヴァイオリンのヤープ・シュレーダーがとりわけ目立っていたのに対し、この演奏では4人のバランスの良いアンサンブルで聴かせる演奏。しかもその一体感は絶妙なるレベルでこの曲の魅力をゆったりと描いていきます。たっぷりを墨を含んだ鮮やかな筆の運びでメロディーが活き活きと躍動するところは流石スミソンと唸ります。この時期はこのクァルテットにとっても絶頂期だったのでしょう。神がかったような妙技に冒頭から惹きつけられます。
続くメヌエットもしなやかなアンサンブルが仄暗い舞曲の魅力を存分に炙り出していきます。徐々にヤープ・シュレーダーの美音の存在感が増してきて、演奏の隈取りがキリリと明らかになってきます。素晴らしいのが中間部の音色を少しざらつかせた表現。艶やかな音色との対比で音楽の深みを増しています。このあたりの音楽の造りは絶妙。
そしてラルゴに入ると晴れやかな音楽の魅力が全開。糸を引くようにシュレーダーのヴァイオリンのメロディーが伸び伸びと躍動します。そしてすっと翳ったかと思うと、再び伸びやかに展開する妙技の連続。この曲の面白さを再認識させられます。他のパートもも音量を絶妙にコントロールしてヴァイオリンパートを引き立てます。終盤カデンツァのようなヴァイオリンのソロが印象的。
フィナーレはフーガのような展開からハイドンならではの複雑に絡み合う音楽。全パートのボウイングが冴えまくってここぞクライマックスという緊張感に包まれます。これほど緊密なこの曲のフィナーレは聴いたことがありません。予想通りとはいえ見事すぎる演奏にいきなりノックアウト。

Hob.III:27 String Quartet Op.17 No.3 [E flat] (1771)
いつもながらハイドンのアイデアというかメロディーの展開の見事さに驚きます。冒頭からメロディーラインの面白さに釘付け。特にクァルテットというジャンルはメロディーと各パートの絡み合う展開の面白さを純粋に味わえるため、この曲でも冒頭から全神経が曲の展開の面白さに集中します。もちろんスミソンの演奏は絶妙を通り越して神々しささえ漂うレベルなのは前曲同様。Op.17ももちろんシュトルム・ウント・ドラング期の作品。こうして聴くとOp.20と比較しても決して劣らない素晴らしい作品であることがわかります。この曲ではメンバーも演奏を存分に楽しんでいる様子が伝わります。それこそが音楽。溢れんばかりの楽しさに包まれます。
驚くのがメヌエットのメロディーの奇抜さ。奏者もハイドンのアイデアの冴えの素晴らしさを解して、微笑みながら演奏しているよう。創意に満ち溢れる音楽。これぞハイドンの音楽の真髄でしょう。
そしてアダージョのなんたる癒し。大海原にプカプカと浮かびなながらのんびりとする心境になったかと思うと切々と切り込んでくるヴァイオリンの美しいメロディーにうっとり。しかも間近で聴くライヴのような素晴らしい録音によってグイグイとこちらの心に浸透してきます。ヴァイオリン以外のパートも素晴らしい演奏で迫ってきます。絶品。
深い感動の淵から涼風に目覚めさせられたようなフィナーレの入り。軽やかな各パートのさえずりからはじまり、音色とダイナミクスがめくるめくように変化していく快感に浸れます。

Hob.III:29 String Quartet Op.17 No.5 [G] (1771)
Op.17の最後の曲。もうすぐそこに太陽四重奏曲があります。このアルバムに収められた3曲がどうして選ばれたかはわかりませんが、この3曲にはハイドンの音楽のエッセンスが全て含まれているような気がします。有名曲ではありませんが、ハイドンのアイデアと創意の豊富さと音楽の展開の独創性の面で突き抜けた魅力をもつ3曲のように感じます。ひばりや皇帝も素晴らしいですが、こうした曲にこそハイドンの音楽の真髄が詰まっていますね。この曲でもハイドンの斬新さに驚かせられ続けます。なんたるアイデア。なんたる展開。なんたる構成力。もう全てがキレキレ。そしてスミソンもキレキレ。ハイドンの時代の人々が聴いたら前衛音楽と聴こえたかもしれません。
この曲でも2楽章がメヌエット。ハイドンのアイデアの暴走は止まりません(笑) ユニークなメロディーを展開しながら曲としてまとめていく手腕の鮮やかさ。これぞ創意とハイドンがほくそ笑む姿が目に浮かびます。
そしてアダージョではグッと沈み、闇の深い黒色のグラデーョンの魅力で聴かせる音楽のような入り。そしてさっと光が射し、ゆったりとした音楽のほのかな輝きが、入りの闇の深さによって浮かび上がります。こうした表情の変化の面白さはスミソンの素晴らしい演奏だからこそ楽しめるもの。並みの演奏ではハイドンの音楽の真髄にはたどり着けません。
フィナーレはリズミカルな入りから意外にオーソドックスな展開に逆に驚きます。ここまでの3楽章のユニークさからするとちょっと意外でしたが、ハイドンの意図が聴くものを驚かせるような創意にあるとすれば、ユニークな曲の連続をオーソドックスなフィナーレで締めることこそハイドンの意図だったのかもしれません。最後はなんとフェードアウト! あまりに見事な展開にやられた感満点(笑) 曲の真髄に迫る素晴らしい演奏ゆえ、演奏ではなく曲自体を楽しめたということでしょう。

SkunJPさんに教えていただいたアルバムですが、やはりただのアルバムではありませんでした。このアルバムの中にハイドンの弦楽四重奏曲の真髄が全て詰まっています。Op.77とOp.103の方も曲の本質を突く素晴らしい演奏でしたが、こちらはさらに一歩、ハイドンの創意の源に迫る迫真の演奏。選曲、演奏、録音とも絶品。全ての人に聴いていただくべき名盤と断じます。もちろん評価は[+++++]といたします。

前記事でブログ開設1500記事となりましたが、実はこのアルバムのレビューとしてまとめる予定でした。ただ、聴き進むうちに、単独の記事としてまとめるべきアルバムだと思い別記事にした次第。その痕跡を前記事の写真に残したところ、すかさずSkunJPさんに気づかれてしまいました(笑) いやいや素晴らしいアルバムの情報をありがとうございました!

(追伸)
月末企画は次の記事です! 遅れてスミマセン!

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tag : 弦楽四重奏曲Op.9 弦楽四重奏曲Op.17 古楽器

アウリン四重奏団のOp.17(ハイドン)

9月は室内楽を意識して取り上げます。少し涼しくなってきたので、弦楽四重奏の音色に癒されたいところ。ということでこれまであまり取り上げてこなかったOp.17からこのアルバムを選びました。

AurynOp17.jpg
TOWER RECORDS / amazon / HMV ONLINEicon

アウリン四重奏団(Auryn Qurartet)の演奏による、ハイドンの弦楽四重奏曲Op.17の6曲を収めたアルバム。収録は2008年、ドイツ、ケルンの東20kmほどにある街ホンラートにあるホンラート教会でのセッション録音。レーベルはドイツのTACET。

アウリン四重奏団の演奏はこれまでに3度取り上げています。

2013/02/24 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : アウリン四重奏団の「五度」「皇帝」
2012/08/03 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : アウリン四重奏団のOp.77
2012/01/07 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : アウリン四重奏団のOp.74

現代楽器による研ぎ澄まされた演奏によるハイドンの弦楽四重奏曲の全集として魅力的なものですが、全集としてまとめてリリースされているわけではなく、全巻レギュラープライスでのバラでのリリースということで、ちょっと手を出しにくいもの。最近ではびっくりするくらい安い価格でいろいろな全集が手に入る上、Apple Musicなど定額制のサービスでいろいろ聴けるとあって、レギュラープライスでのバラ全集は敷居が高いですね。調べたところアウリン四重奏団のアルバムはApple Musicで聴けるものの、TACETのアルバムは登録されていないようです。ということで現在このシリーズを収集中の方は収集を続ける価値があるかもしれません(笑) 私も1巻づつボチボチ集め始めて気付いたらあと1枚でコンプリートというところまで来ました。

奏者は変わらず、次の通り。

第1ヴァイオリン:マティアス・リンゲンフェルダー(Matthias Lingenfelder)
第2ヴァイオリン:イェンス・オッパーマン(Jens Oppermann)
ヴィオラ:ステュワート・イートン(Steuart Eaton)
チェロ:アンドレアス・アーント(Andreas Arndt)

奏者の情報については上のOp.74の記事をご参照いただくとして、早速レビューに入りましょう。

Hob.III:25 String Quartet Op.17 No.1 [E] (1771)
このシリーズ共通ですが、教会での録音ということで残響が比較的多めながら鮮明さも失わない好録音。ハイドン初期の楽天的かつ素朴な魅力が溢れる曲をゆったりと鳴らしていきますが、マティアス・リンゲンフェルダーの張りのある伸び伸びとしたヴァイオリンの音色に隈取られた精度の高いアンサンブルが絶品。先日取り上げて皆さんに好評だったダイダロス四重奏団の演奏が禁欲的な緊張感を持っていたのに対し、アウリン四重奏団の演奏は精度の高さは引けをとらないものの、基本的に楽器を良く鳴らしてどちらかというと楽天的なテイストを持っており、弦楽四重奏曲を肩肘張らずに楽しめる演奏です。このOp.17など、晴朗な曲想もあって、アウリンの演奏は実に心地良く響きます。楽天的といってもアーティスティックな範囲の中でのことゆえ、微笑みを芸術的に表現したものといったところでしょうか。そういえばこのシリーズ、ジャケットのハイドンの肖像もアーティスティック。
2楽章のメヌエットがまさに晴れ渡る青空のような汚れのない音楽。そして3楽章の短調のアダージョでは豊かなトーンのモノクロ写真のようなデリケートな響きの美しさを堪能できます。
フィナーレは鮮烈な響きから入り、グイグイ推進していきます。後年の曲ほどの成熟はないものの、逆に新鮮さを楽しむべき曲なんでしょう、アウリン四重奏団の演奏では若書きのハイドンの曲の鮮やかな響きに集中できる良さがあります。

Hob.III:26 String Quartet Op.17 No.2 [F] (1771)
いつもながらハイドンの1曲1曲、しっかりと描き分けて曲が書かれていることに驚きます。前曲とはアイデアもメロディーも構成もがらっと変わりますが、主題のメロディーが次々に発展、展開していく面白さには感服。特にこの1楽章の展開の見事さにはうなるばかり。そのあたりをマティアス・リンゲンフェルダーが実に自然かつ美しく描いていきます。ヴァイオリンのピンと張り詰めた音色の美しさはこの人ならでは。聴いていると音楽の躍動が体につたわってきます。恍惚の弓裁き。絶品。
続いてすこし腰を落としてのメヌエット。音楽の流れの変化のつけ方がうまく、メヌエットが挟まれた意味が滲みます。リズムの起伏のさりげない変化を聴かせどころにしながらも、メロディーの展開の面白さを聴かせます。
そして、アダダージョの生成りの響きの美しさ。磨きこんだ音色だけがクァルテットの醍醐味ではないぞとのメッセージのよう。ハイドンの音楽の多様な魅力を確信犯的に次々と繰り出し、聞くものを音楽の快感に浸らせます。アドレナリン充満。またまた絶品。
フィナーレはどの曲にも似ていない展開。こちらの期待の遥か上からハイドンが音楽を投じてきます。われわれ凡人と同じ目線なのに音楽のなんと創造的なことでしょう。アウリンの演奏は音楽に一体化して邪心も私欲もなくハイドンの意図通りに素直に音楽を奏でていきますが、その響きの美しさは突き抜けています。この曲のベストの演奏でしょう。

Hob.III:27 String Quartet Op.17 No.3 [E flat] (1771)
すっかりアウリンの演奏のペースにはまってます。アウリンの演奏はハイドンの音楽と波長が完全にミートするのか、演奏の隅々にまで創意が宿り、それがアウリンの創意なのにあたかもハイドンの創意のように聴こえます。アウリンとは異なるアプローチの素晴らしい演奏もいろいろあるのですが、アウリンの演奏こそが最も説得力をもつという印象さえ与えます。この曲でもその説得力は揺るぎなく、相変わらずマティアス・リンゲンフェルダーの弓裁きの美しいことといったら例えようもありません。ヴァイオリンのメロディーがすうっと空間に響きが吸い込まれていくような快感を伴います。1楽章後半の地道な変奏の展開で新たな魅力を示します。
この曲のメヌエットもユニーク。曲ごとに次々と新たなメロディーと構成を繰り出すハイドンのあまりの想像力に圧倒されっぱなし。なかなか集中して聴く機会のなかったOp.17ですが、どれも名曲と今更ながらに気づきます。
そして、これまたアダージョの美しいこと。磨かれた音楽の所々に深い陰りと柔らかい日差しが織り込まれ、宝石箱のような楽章。1週間の仕事の疲れが洗い流され癒しに包まれます。そう、サラリーマンにとってビジネスとは現実と妥協のせめぎ合い。美しい音楽で毎週洗い流さねば(笑) ふとライナーノーツを見るとこのアダージョ、この楽章だけで12分と長大なもの。あまりの美しさに時を忘れるとはこのことでしょう。
フィナーレは、長いアダージョを受けて、軽やかなリズムの曲。さりげなくリズミカルに曲が進みますが、ゆったりとした流れから入ったのでリズムのキレが引き立ちます。この辺の聴かせかたの巧妙さも唸るところです。最後は実にさりげなく曲を終えます。

レビューはCD1枚目の3曲までということで。

聴くたびに発見のあるアウリン四重奏団の演奏ですが、このOp.17も絶品でした。Op.20以降の曲は良く聴かれているでしょうが、それ以前の曲は正直マイナーです。ただ、このアウリン四重奏団の演奏は、ハイドンのマイナー曲であっても様々に創意の込められた素晴らしい曲であることに気づかせてくれます。評価はもちろん全曲[+++++]です。このアルバム、ハイドンの弦楽四重奏の必聴アルバムです。Op.17をこれから聴くという方は是非このアルバムで。

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tag : 弦楽四重奏曲Op.17

シネ・ノミネ四重奏団の弦楽四重奏曲集

先日、ディスクユニオンで発見したアルバム。マイナー盤がつづきます。

SineNomineQ.jpg
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シネ・ノミネ四重奏団(Quatuor Sine Nomine)の演奏によるハイドンの弦楽四重奏曲Op.17のNo.4、Op.20のNo.4、Op.54のNo.2の3曲を収めたアルバム。収録は1992年5月、スイス、ローザンヌのギィ・ファロ・スタジオでのセッション録音。レーベルはスイスのCASCAVELLE。

まったく未知の四重奏団。調べてみるとシューベルトやブラームスの録音がある他、ハイドンもこの他に「十字架上のキリストの最後の七つの言葉」があるようです。

シネ・ノミネとはラテン語で「名前のない」という意とのこと。ということで、「名も無き四重奏団」といったところでしょうか。彼らのウェブサイトがありましたので、紹介しておきましょう。

Quatuor Sine Nomine

本拠地はローザンヌのようで、ライナーノーツに記載されたこの演奏当時のメンバーは下記のとおり。

第1ヴァイオリン:パトリック・ジュネ(Patrick Genet)
第2ヴァイオリン:フランソワ・ゴトロー(François Gottraux)
ヴィオラ:ニコラシュ・バシュ(Nicholas Pache)
チェロ:マルク・ジェルマン(Marc Jaermann)

ウェブサイトに記載されたメンバーはヴィオラが変わっていますが、3人はそのままです。ウェブサイトなどの情報によれば、設立は1982年で、間もなく1985年のエヴィアン国際コンクールと、1987年イタリアのレッジョ・エミリアのパオロ・ボルチャーニ国際コンクールでの優勝によって、国際的に知られるようになり、ロンドンのウィグモア・ホール、アムステルダムコンセルトヘボウ、ニューヨークのカーネギーホールなどでコンサートを開く一流アーティストの仲間入りを果たしました。その後、メロス四重奏団への師事やアンリ・ディティユーの作品のレコーディングの経験が彼らの演奏に大きな影響を与えたとの事です。レパートリーはハイドンから現代音楽までと幅広く、現代の作曲家の作品の初演も多く手がけています。
 
Hob.III:28 / String Quartet Op.17 No.4 [c] (1771)
独特の燻したような木質系の弦の音色がユニーク。ヴァイオリンは伸び伸びとした演奏で、ハイドンの初期の弦楽四重奏曲を溌剌とした音楽に仕立て上げています。若さ溢れるのびのびとしたハイドン。延ばす音の張りのあるフレージングとリズムの鮮度が良いので、素朴な造りの曲と演奏スタイルがマッチして、これはこれで完成度の高さを感じます。録音は奥行き感が少し浅めで、狭い部屋での録音のように聴こえます。鮮明さは十分。
2楽章がメヌエットになりますが、後年の迫力はまだ感じられず、曲調はシンプル。それだけに鮮度のよい表現が功を奏して、楽しい曲調が素直に表せています。つづくアダージョ・カンタービレではくだけた表現が加わり、表現の幅が広がります。それぞれのパートの演奏を奏者自身が楽しんでいる笑顔が見えてくるような演奏。初期の弦楽四重奏曲の特徴であるじわりとくる朗らかさが上手く表現できています。各パートが本当に良く歌っています。ここに来て表現に深みが加わり、シネ・ノミネ四重奏団の音楽が少し見えてきました。
フィナーレは畳み掛けるようなアンサンブルの面白さがよくわかる演奏。各パートのフレージングが手に取るように独立してわかる演奏ゆえ、音の重なりの面白さはかなりのもの。1曲目からいいところを狙ってます。

Hob.III:34 / String Quartet Op.20 No.4 [D] (1772)
おなじみ太陽四重奏曲集から。独特の燻したような音色が、前曲よりもさらに曲想に合って実にいい雰囲気。聴き進むと前曲では素朴さが曲調に合っていましたが、曲の構えが大きくなると、表現の幅がもう少し大きければと感じるようになります。音色も演奏もかなりいい線言っているのですが、もう一段の構えの大きさや個性が欲しくなってしまうところ。おそらく独特の音色の響きや、フレーズ単位の磨き上げに感心が集中しているからでしょう。
2楽章も同様ですが、短調による寂しげなメロディーが繰り返すところの切々とした感じは逆に上手く表現できています。途中からのチェロがメロディーを担当する部分では、意外に雄弁なチェロのボウイングがかなりのインパクト。ちょっと彼らの表現のツボがわかってきました。音数が少ないフレーズでもしっかりとメロディーラインを紡いでいくところが上手いですね。
3楽章のメヌエットを聴き進むと、すこしリズムの重さを感じるようになり、それが少々単調さをはらむようになります。
フィナーレは第1、第2ヴァイオリンのキレの良い掛け合いが見事な演奏。全体にいい演奏だと思いますが、独特の音色と少々空間の狭さを感じる録音で、すこしスケール感がスポイルされている印象があります。

Hob.III:57 / String Quartet Op.54 No.2 [C] (1788)
前2曲に比べて音楽の表現の多彩さが印象に残ります。ハイドンの音楽の進化を感じます。音楽の構成の面白さが大きく進歩します。この曲はこのアルバムでも聴き所でしょう。シネ・ノミネ四重奏団の表現スタイルと曲が一番マッチした演奏に聴こえます。続く2楽章は非常に変わった曲。引きずるようなヴァイオリンのメロディーラインが古典派の枠を超えていくよう。そして鮮やかなスタイルチェンジで、3楽章の軽妙なメヌエットへ入ります。ハイドンの実験心を覗き見るような微笑ましい曲。こういった素朴な表現は独特の音色もあって、なかなか効果的です。そしてフィナーレは荘重なアダージョから入る、かなり変則的なもの。ユーモラスさと優雅さの相俟った不思議な曲ですが、その辺の面白さの表現は秀逸。存在感のある音色と、落ち着き払った演奏が曲の面白さをクッキリと浮かび上がらせます。最後は鼠が走り回るようなプレストを挟んで、再び荘重なアダージョになります。

名も無き四重奏団と呼ばれるシネ・ノミネ四重奏団によるハイドンの弦楽四重奏曲集。ハイドンの四重奏曲を録音する時に最初に選ぶ曲ではない、珍しい3曲を選んで録音しているところからも、このクァルテットのユニークさが伝わります。燻したような独特の音色と、時には伸びがある演奏、時にはユーモア溢れる演奏と、多様な側面を聴かせてくれる、何か気になる可能性を感じさせてくれるクァルテットです。このアルバムでは最後のOp.54のNo.2が聴き所でしょう。この曲が[+++++]、他2曲は[++++]とします。

今週は月曜から急遽福岡日帰り出張。火曜以降も仕事が忙しく3日がかりでようやく記事を1本書きあげました。なかなか思うように運びませんね。

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tag : 弦楽四重奏曲Op.17 弦楽四重奏曲Op.20 弦楽四重奏曲Op.54

プロフィール

Daisy


Author:Daisy

なぜかハイドン(Franz Joseph Haydn)が特に気に入り膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。東京在住のごく普通のサラリーマンです。

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ハイドン所有盤リスト
Joseph Haydn Discography at H. R. A.
所有盤をジャンル別にリスト化しています。基本的に録音年順とし、録音年不明のものは末尾に記載。演奏者名はジャケットなどの表記に合わせています。

2017年7月のデータ(2017年7月31日)
登録曲数:1,361曲 登録演奏数:10,291
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