【新着】キアロスクーロ四重奏団のOp.20(ハイドン)

珍しく新着アルバムが続きます。巷で話題のようなので、興味津々で入手!

ChiaroscuroQ.jpg
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キアロスクーロ四重奏団(Chiaroscuro Quartet)の演奏で、ハイドンの弦楽四重奏曲Op.20のNo.1、No.2、No.3の3曲を収めたSACD。収録は2015年2月、ドイツはブレーメンの放送ホールでのセッション録音。レーベルはBIS。

不思議な名前のクァルテットですが、キアロスクーロとは絵画における明暗法のことで、光の効果やコントラストで明暗の対比をつけ立体的に描くルネサンス以来の技法のこと。クァルテットにこの名前を冠する時点で並々ならぬ表現意欲を感じます。設立は2005年、今では人気のロシア人ヴァイオリニストのアリーナ・イブラギモヴァらによって設立されました。メンバーは下記のとおり。

第1ヴァイオリン:アリーナ・イブラギモヴァ(Alina Ibragimova)
第2ヴァイオリン:パブロ・エルナン・ベネディ(Pablo Hernán Benedí)
ヴィオラ:エミリー・ヘルンルンド(Emilie Hörnlund)
チェロ:クレア・ティリオン(Claire Thirion)

ヴァイオリンのベネディはスペイン人、ヴィオラのヘルンルンドはスウェーデン人、チェロのティリオンはフランス人と国際色豊か。ジャケットに写るメンバーはモデル集団のようでもあり、一見くつろいでいるように見えながら、視線には自信が漲っているよう。久しぶりに妖気の漂うジャケットです。レパートリーはモーツァルト、ベートーヴェンなど古典期が中心で、現代楽器にガット弦を張り、コンサートではチェロ以外は立って演奏するとのこと。わたしはこのディスクではじめて聴きますが、ヨーロッパでは非常に評価が高く、各地の音楽祭などに多数出演しています。イブラギモヴァは度々来日しているようですし、キアロスクーロ四重奏団も今年来日しているようですので、生でお聴きになった方もいらっしゃるのではないかと思います。ウェブサイトはこちら。

Chiaroscuro quartet

この切れ味鋭そうな新進気鋭のクァルテットが名盤ひしめくハイドンの名曲をどう料理するのか、聴く方もちょっと身を乗り出して聴きます!

Hob.III:31 String Quartet Op.20 No.1 [E flat] (1772)
予想に反して、非常に柔らかかつ、しなやかな演奏。ガット弦だからか、アルカイックな響き。もう少し鋭角的な演奏を想像したのですが、暗闇からふわっとしなやかに浮かび上がるダ・ヴィンチのデッサンのようなアーティスティックさがあります。それぞれ個性的なメンバー構成のように見受けましたが、音色、ボウイングともに非常によく揃っていて、アンサンブルは見事。音量を抑え気味にしながら静謐に曲を描いていくスタイル。ハイドンを聴いているというよりパレストリーナでも聴いている気分になります。ハイドンの時代よりも100年くらい前の響きを想像させるような超個性的な解釈です。これまでのハイドンの演奏の伝統とはまったく傾向が異なり、ハイドンの音楽の構造を隠蔽してメロディーの流れだけを抽出したよう。
つづくメヌエットも演奏スタイルは変わらず、そして1楽章との対比などつける必要はないとの思い切りすら感じる一貫したテイスト。そうした中からハイドンのメロディーの展開の面白さだけが浮かび上がって聴こえてくるのが不思議なところ。リズムのキレで聴かせる演奏が多い中、音量を抑えていく方向のデリカシーが際立ちます。
キアロスクーロのスタイルがもっともマッチしたのがつづく3楽章。中世の音楽かペルトでも聴いているよう。ハイドンの楽譜からこの響きをよく想像したものだと、彼らの想像力に驚きます。ハイドンはこの楽章に中世へのオマージュを込めたのでしょうか? この楽章の新たな魅力にスポットライトがあたります。聴いているうちに音楽が大きくうねり、しなやかなクライマックスの面白さに打たれます。
フィナーレは羽毛のような非常に軽いタッチでサクサクと進めていきます。ハイドンの描いたメロディーの絡み合いを極度に音量を落として精緻に描き、交錯の面白さを凝縮していきます。最初は楽章ごとのスタイルの対比を抑えているように聴こえましたが、非常にデリケートな部分では実に豊かな対比がなされていることに気づいた次第。曲も暗闇に消えるようにさらりと終わります。ガット弦の音色とか時代考証という次元ではなく、演奏のコンセプトと音色、スタイルが非常に高いレベルで融合していることに改めて驚きます。こりゃすごい!

Hob.III:32 String Quartet Op.20 No.2 [C] (1772)
朗らかな曲想の曲。前曲同様の音色とスタイルで始まったように聴こえたのですが、微妙にこの曲の朗らかな明るさにあわせて伸びやかなボウイングに変えてきています。曲から得るインスピレーションに敏感に反応しているよう。前曲でも気になっていたんですが特にイブラギモヴァのヴァイオリンの早いパッセージのキレかたが尋常ではありません。曲が進むとイブラギモヴァのヴァイオリンのメロディーがさらに一段とくっきり浮かび上がり、この曲のもつ伸びやかさに徐々に触発されていくよう。前曲の暗闇のなかでのわずかな光でのコントラストから、この曲ではくっきりとした明るい光の中でのコントラストを描いていきます。さすがにキアロスクーロと名乗るだけあって、コントラストの描きかたも多様です。
つづく2楽章は、ガット弦によるちょっとざらっとしたハーモニーの魅力を生かした入り。1曲目に比べると普通の演奏ですが、よく聴くとフレーズのひとつひとつごとのフレージングにくっきりとメリハリをつけ、丁寧に描いて、4本の楽器のハーモニーの美しさを聴かせるところと、単独のメロディーのコントラストが実に巧みで、聴き応えがあります。特に抑えた部分は鋭い音色によるきりりと引き締まった響き、ハーモニーは柔らかくしなやかな響きと、ここでも多様なコントラストは健在。
メヌエットではガラスのような硬質な音色で繊細な透明さを際立たせてきました。こうした音色のコントロールはイブラギモヴァのヴァイオリンが引っ張りますが、表現は全員統一されていて見事な効果。
そしてフィナーレはその響きの余韻を受け継ぎながらフーガに突入。耳が音色に集中しているなか変奏が折り重なる面白さとそれぞれの表現、音色が絡まっていく推移に関心が移ります。くっきりしたフレーズばかりではなく、抑えも効いて、キアロスクーロらしい多彩な音色とキリリと引き締まった響きでフーガを締めくくります。

Hob.III:33 String Quartet Op.20 No.3 [g] (1772)
曲ごとに演奏コンセプトをしっかりと作ってくることがわかりましたので、どんな3曲目も入りが楽しみ。予想通り、予想を上回る表現で入ってきます。ハイドンの書いたメロディーにインスピレーションを得ながらサクサクと速めのテンポで刻んできたと思いきや、大胆なためやテンポの変化をつけて、この曲の面白さをアーティスティックにデフォルメしてくる見事な展開。あまりの面白さに仰け反ります。アイデア満載の演奏にこちらの聴覚中枢が冴え渡り、おまけにフレーズごとの激しい音量変化に聴神経も感度最高。激しい音量変化も全く力みはなく、完全にコントロールされたもの。この曲がこれほどまでにスリリングだと気付かされました。ハイドンという素材をキアロスクーロ流に完全に再構成する見事な演奏。1楽章の時点で完全にノックアウト。ハイドンは過度な表現を加えると逆効果なことも多いのですが、この演奏にそうしたやりすぎ感は全く感じません。
メヌエットは後ろ髪引かれるような独特の郷愁を感じる音楽ですが、キアロスクーロの手にかかって純音楽的な洗練の極みに至り、実に美しい音楽になります。ハイドンが曲に込めた情感が昇華してエッセンスがまったく別の音楽に変移したよう。特に中間部の透明感が印象的。
さらに見事なのがつづくアダージョ。またしてもペルトのような静謐な響きの連続に完全にキアロスクーロペース。途中イブラギモヴァの透き通るようなヴァイオリンの音色の魅力を散りばめ、断片的にハイドンの美しいメロディーのコラージュが配された現代絵画を見るような趣。絶品です。
フィナーレも有り余る創造力で料理され、複雑なメロディーの交錯を絶妙な軽さにで包んで、聴き手の想像を超えた味付けでまとめた一品。いやいや見事の一言です。

キアロスクーロ四重奏団によるハイドンの太陽四重奏曲の前半3曲をまとめたアルバムでしたが、絶品の演奏。これまでのハイドン演奏の伝統とは全く異なるアプローチでハイドンの名曲を超個性的な表現でまとめた、創造力と刺激に満ちた素晴らしい演奏。これはハイドンが聴いたらさぞかし驚くでしょうが、自身の作品が死後200年以上も経て、アーティスティックに再構成されることをきっと喜んだに違いありません。ハイドンのクァルテットを愛する全ての人が聴くべきアルバムでしょう。もちろん評価は全曲[+++++]とします。

キアロスクーロ四重奏団のこのアルバム、レーベルと選曲を手がかりに想像すると、ハイドンの弦楽四重奏曲全集に発展するような気がしてなりません。レーベルはBIS。ハイドンではKochレーベルで途中まで進んでいたマンフレート・フスによるディヴェルティメントなどを引き継いで全集化したり、ブラウティハムによるピアノソナタ全集など、ハイドンには格別な執着心をもつレーベルですし、奏者のキアロスクーロもモーツァルトの弦楽四重奏の全曲演奏チクルスを進めていてるなど、全曲演奏にこだわりをもっているよう。そしてこのアルバムが彼らにとってBISからリリースされる初めてのアルバムで、しかも選曲はよくある有名曲セットではなく、Op.20の前半3曲というもの。どう考えても後半3曲や、そのほかの曲がつづくイメージがあります。いや、この1枚目の出来の素晴らしさを考えると、全集に発展すべきです。キアロスクーロによるハイドンの弦楽四重奏曲全集となれば、新時代のスタンダートとなることは想像に難くありません。1ハイドンファンとして是非BISには頑張ってほしいものです。

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tag : 弦楽四重奏曲Op.20 SACD

フーゴ・ヴォルフ四重奏団によるOp.33、Op.20ライヴ(ハイドン)

コンサートや旅行の記事が続いたので、レビューから少しご無沙汰しておりました。そうこうしているうちにいつも当方の所有盤リストにないアルバムを貸していただく湖国JHさんから、新たに何枚かのアルバムが届きました。そのうちの1枚。

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フーゴ・ヴォルフ四重奏団(Hugo Wolf Quartett)の演奏による、ハイドンのロシア四重奏曲Op.33のNo.5、太陽四重奏曲Op.20のNo.3、No.4の3曲を収めたアルバム。収録は2009年7月13日、18日、オーストリアのアイゼンシュタットの少し南にあるロッケンハウス(Lockenhaus)の聖ニコライ教会でのライヴ。レーベルはVMS Music Tresure。

このアルバム、実は私も海外に注文を入れていて、それが届く前にこちらが先に届いたので早速レビューです。

アルバムタイトルは”Live in Lockenhaus”というもの。なぜかカナで打つと私のMacは六軒ハウスと妙にリアルな変換(笑)。このライヴはギドン・クレーメルが1981年に創設したロッケンハウス室内楽音楽祭の2009年のライヴということで、この年に没後200年を迎えたハイドンの曲が演奏されたということでしょう。

奏者のフーゴ・ヴォルフ四重奏団は1993年にウィーン音楽大学で設立されたクァルテット。アルバン・ベルク、スメタナ、アマデウス、ラサールらクァルテットの大御所に師事(なんと豪華な!)し、すぐにウィーンフィル特別賞、室内楽ヨーロッパ賞などに輝きました。その後は国際的に演奏活動を繰り広げ、日本のサントリーホールでもコンサートを開いたとのこと。レパートリーは古典から現代音楽まで幅広く、彼らに献呈された現代曲もいろいろあるようです。ウェブサイトがありましたので、リンクしておきましょう。

Welcome | Hugo Wolf Quartet

このアルバムに参加している奏者は次のとおり。

第1ヴァイオリン:セバスチャン・ギュルトラー(Sebastian Gürtler)
第2ヴァイオリン:レジ・ブリンゴルフ(Régis Bringolf)
ヴィオラ:ゲルトルート・ヴァインマイスター(Gertrud Weinmeister)
チェロ:フローリアン・ベルナー(Florian Berner)

Hob.III:41 String Quartet Op.33 No.5 [G] (1781)
教会でのライヴらしい、豊かな残響に包まれた一体感ある音響。ただ鮮明さもほどほどあり、コンサートを楽しんでいるのに近い録音。ライヴですが会場ノイズはほとんと聞こえず、ライヴとしては理想的な録音です。フーゴ・ヴォルフ四重奏団の演奏は鮮度抜群、推進力抜群、4人のまとまりもかなりのレベルということで、冒頭から最上のライヴを客席で楽しむような素晴らしいもの。まるで生きた魚が跳ねるようなバネの強い躍動感と緊張感。ロッケンハウスということでクレーメルの眼鏡にかなう出演者が選ばれているのでしょうか。クレーメルの殺気のようなもととは少し異なりますが、キレ味の鋭さはかなりもの。この音楽祭のレベルの高さが伺えるというものです。1楽章は手に汗握る展開。ハイドンなのにメチャメチャスリリング。音量を上げて聴くとまさにコンサート会場にいるようなリアリティ。
このクァルテットの凄さはつづくラルゴで確信しました。この切々たる音楽の彫りの深い描き方。アーティスティックさを保ちながら、グイグイ迫る迫力、ちょっと遅れて入るチェロのセンスの良さ、抑えた部分の精妙なバランス、どれもこれ以上の演奏はあり得ないほどに完成度が高い。超低音の会場ノイズが入り、ライヴだと気付かされます。
メヌエットは緩急自在。4人の息がピタリと合って見事なテンポのコントロール。クァルテットの表現力の幅の広さを思い知らされます。次々と繰り出されるメロディーの面白さに釘付け。
そしてフィナーレは実に落ち着いた入り。楽譜を読みきっている自信がみなぎる落ち着き。変奏ごとに絶妙な表現のコントロールが加わり、進むごとに至福度が徐々にアップしていく快感。徐々にメロディーが変化する意味がよくわかります。最後はメロディーがカオスのようにからまり終了。1曲目から度肝を抜く素晴らしさ。

Hob.III:33 String Quartet Op.20 No.3 [g] (1772)
太陽四重奏曲の中でも地味な曲を選んできました、なぜこの曲を選んだか演奏を聴くと理由がわかるような気がします。この曲のメロディーに潜むものをすべてが彼らの音楽で置き換えられていると言っていいほどの説得力に冒頭から打たれっぱなし。これほどの確信をもって演奏されたこの曲の演奏を知りません。教会堂に響き渡るハイドンの機知。すべての音符が書かれた理由を知り尽くしているがごとき踏み込み。これ以上つっこむとくどくなるという寸前。というかくどさという印象は一切感じませんがものすごい踏み込みに圧倒される感じ。演奏している教会堂ごとフーゴ・ヴォルフ四重奏団に完全に支配されているよう。
2楽章はメヌエット。この曲自体の演奏の神が乗り移ったかのような推進力はこの楽章でも変わらず。数あるクァルテットのなかでもこの集中は稀に見るほどの見事さ。短調から長調へのさりげない変化も流石。
つづく3楽章のポコ・アダージョは今度は精妙なアンサンブルの魅力を遺憾なく発揮。弱音のバランスもさることながら、ここにきてチェロの雄弁な演奏が光ります。ライヴでの究極の洗練が聴かれます。しなやかにうねる曲想。天上に抜けるような上昇感と静寂に吸い込まれる響き。フィナーレは疾走する感じを実に上手くまとめ、アンサンブルの一体感を見せつけて終了。

Hob.III:34 String Quartet Op.20 No.4 [D] (1772)
このクァルテットの素晴しさを十分に理解しての最後の1曲は、もはや圧倒的と言っていい出来。冒頭のざわめきのような響きからメロディーが浮かび上がり、何度か楔が打たれながら音楽が形作られていく様子はまさにそこで熱い鉄が打たれているようなリアリティ。すべての音符が有機的に絡み、このクァルテットにより再構成されて、イキイキとした音楽として迫ってきます。けっして不自然にはならず、音楽の赴くままを演奏しているように聴こえるのが流石なところ。
1楽章もさることながら、長い2楽章の構成感も見事。音楽が変奏ごとにしっとりと表情を変えながら進み、徐々に装飾を加え、ハイドンの音楽本来の表情が浮かび上がってきます。ここでもチェロが音楽の表情を豊かにしていきます。変奏ごとの音楽の描き分けの見事さはこのクァルテットのすぐれた特徴の一つでしょう。そして短いメヌエットを経てフィナーレへ。フィナーレは鮮明なアンサンブルと推進力のショーケースのような楽章。ただテクニックを誇示する演奏とは異なり、フレーズごとに実にしっかりとした表情がつき、この速い楽章が実にくっきりと表情が浮かび上がるのが流石。最後の曲には湧き上がるような会場のからの拍手が降り注ぐ様子が録られてています。

いやいや、このフーゴ・ヴォルフ四重奏団によるハイドン、超名演です。2日のコンサートの記録を合わせたアルバムですが、真っ赤に燃えたぎる火の玉のようにエネルギッシュな演奏にも拘わらす、ハイドンの曲を演奏するののに不釣り合いなところがある印象はありません。このライヴに立ち会った人はものすごいネネルギーを得て帰ったことでしょう。流石にロッケンハウスのプログラムに組み入れられるだけのことはありますね。このアルバムの演奏、全曲『+++++]としたいと思います。

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tag : 弦楽四重奏曲Op.20 弦楽四重奏曲Op.33

ダイダロス四重奏団の太陽四重奏曲集(ハイドン)

予告通りクァルテットを。最近入手したアルバム。ハイドンのクァルテットの素朴な魅力を実にうまく表現しています。

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ダイダロス四重奏団(Daedalus Quartet)の演奏による、ハイドンの弦楽四重奏曲Op.20「太陽四重奏曲集」の6曲を収めた2枚組みのアルバム。収録は2009年1月6日から8日、2月3日から5日、ニューヨークの芸術文学アカデミーでのセッション録音。レーベルはニューヨークのBRIDGE RECORDS。

ダイダロス四重奏団は全くはじめて聴くクァルテット。結成は2000年と比較的最近結成された団体で、アメリカ、カナダを中心に活動しているよう。第1ヴァイオリンを固定せず、2人で曲ごとに交代して担当するシステムをとっているようです。メンバーは下記の通りです。

ヴァイオリン:キム・ミンヨン(Min-Young Kim)
ヴァイオリン:キム・ギョヨン(Kyu-Young Kim)
ヴィオラ:ジェシカ・トンプソン(Jessica Thompson)
チェロ:ラマン・ラマクリシュナン(Raman Ramakrishnan)

このアルバムをリリースしているBRIDGE RECORDSから、2006年にラヴェル、シベリウス、ストラヴィンスキーの作品を収めたアルバムをリリースしており、それがデビュー盤。その後都合6枚のアルバムをリリースしているということで、それなりに実力のある団体です。現代音楽も得意としているようで最近リリースされている三作は現代アメリカの作曲家、エリオット・カーター、ローレンス・ディロン、ジョージ・パールの作品。若手ながら、ハイドン、それも太陽四重奏曲集をリリースしてくる志の高さは買わなくてはなりませんね。

冒頭に触れた通り、演奏はハイドンの弦楽四重奏曲の素朴な魅力を感じさせるもの。現代音楽が得意ということで、演奏テクニックはかなりのものですが、テクニックを超えたところにある素朴な音楽の魅力を踏まえたもの。ハイドンを前にすると純粋になってしまうのでしょうか。今日は2枚組のアルバムから2枚目のNo.4とNo.5の2曲を取り上げましょう。No.4がキム・ギョヨン、No.5がキム・ミンヨンが第1ヴァイオリンと務めています。

Hob.III:34 String Quartet Op.20 No.4 [D] (1772)
いきなりザラっとした弦楽器の感触が心地よいですね。流石に現代音楽を得意としているだけにアンサンブルの精度は高いですが、音をかっちり出そうという感じはせず、虚心坦懐にハイドンを楽しもうという姿勢を感じます。よく聴くと音は鋭いのですが、余計なことをしていないので純度が高く、どちらかというと禁欲的に響きます。ハイドンの曲の魅力を十分に知っているからこその、この質実剛健な表現なのでしょう。1楽章は引き締まった表情に凛ととした美しさが宿ります。
つづく2楽章でもこのスタイルは変わらず、緊張感が持続します。聴き進めるとヴァイオリンではなくヴィオラやチェロの担当するメロディーを強調して、ハイドンの書いた楽譜の影の部分にもスポットライトを当てて、クァルテットの魅力はヴァイオリンばかりではないとでも言いたげなバランスが印象的。キリッとした喉越しの辛口の酒のごとき風味。響きは辛口ですが、音楽には素朴な暖かさを感じさせるのが流石。
メヌエットがここまでの曲の流れからすると意外に弾みます。そしてフィナーレでは響きの鮮度が上がり、アンサンブルのキレの良さをさりげなく聴かせます。それでも皆八分くらいの力での演奏ゆえ、音楽が軽やか。ハイドンがハイドンたることをよく踏まえたコントロール。間をしっかりとって、自在なアクセルワーク。この余裕たっぷりのスタンスが心地よいですね。

Hob.III:35 String Quartet Op.20 No.5 [f] (1772)
第1ヴァイオリンが女性に変わります。こころなしかしなやかな弓裁き。もちろん前曲同様全体に辛口なテイストであることに変わりありません。鮮明な録音も手伝って4人の織りなすハーモニーの美しさはなかなかのもの。短調の名曲ですが、この曲でも凛とした美しさを感じさせます。現代音楽の冷徹な印象ではなく、現代から古典をとらえた明確な視点の存在を感じる演奏といったらいいでしょうか。曲に対して入り込まず、かといって冷静すぎず、適度な距離感がダイダロスの特徴なのでしょう。
つづくメヌエットは前曲ほどは弾まず、適切な腰の重さで入ります。逆にすこし練るようなところもあり、曲に潜む気配のようなものに応じて表現を変えてきています。
秀逸なのがつづくアダージョ。朗らかで素朴な曲の面白さを味わえとばかりに、非常に直裁な表現。ササッと弾いているようですが、そこから味わい深い響きが滲みでて、まさに至福の瞬間。このさりげない音楽こそハイドンの音楽の真髄でしょう。音量を抑えたところの実に奥ゆかしいこと。
終楽章のフーガは、音楽の神様に祈るような敬虔さが宿りますが、表現が控えめなのがかえって音楽の純度を高めています。訥々と弾き進めていくうちにフーガの高みにさりげなく昇りつめ、おだやかさを保ったまま終わります。

音楽を演奏するということは、どこかにこだわりがあるもので、それが力強さだったり、鮮烈さだったり、静謐さだったりと、音の表情にでやすい特色なことが多いものですが、このダイダロス四重奏団のこだわりは、音楽に対する適度な距離感を保つことではないかと思った次第。実にさりげなく、没入することなく、かといって客観的すぎず、現代の視点から古典の名曲をさりげなく演奏し、そこからジワリと滲み出る魅力こそハイドンの真髄との確信があるのでしょう。実に深い演奏です。似たタイプがあまりない演奏。私は気に入りました。レビューしていない4曲も同様、なかなか考えさせる演奏でした。評価は[+++++]をつけます。ハイドンの室内楽を聴き込んだ方にこそ聴いていただきたいアルバムです。かめばかむほど味の出る演奏とはこのことです。

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tag : 弦楽四重奏曲Op.20

ドーリック弦楽四重奏団の太陽四重奏曲集(ハイドン)

仕事バタバタで、なかなか音楽を聴く隙がありません(苦笑)。それでもなんとかレビューをしなくてはとの想いでCDプレイヤーにアルバムをセットして聴いています。

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ドーリック弦楽四重奏団(Doric String Quartet)の演奏によるハイドンの弦楽四重奏曲Op.20「太陽四重奏曲集」から、No.1からNo.6の6曲を収めた2枚組のアルバム。収録は2013年10月7日から9日、12月2日から4日、イングランドのロンドン北西の海沿いの街、サフォークのポットン・ホール(Potton Hall)でのセッション録音。レーベルは英CHANDOS。

このアルバム、比較的最近リリースされたものながら当方の手元になかったものですが、それを見抜いた湖国JHさんが一連のアルバムとともに送り込んでこられたもの。ただし、当方もほぼ同時に注文を入れてあり、なぜかほぼ同じ時期に手元に着き、現状2組のアルバムが手元にあるという状態です。まあ、レビューに取り上げるべしとの啓示があったと理解して、取り上げる次第(笑)

ちなみにドーリック弦楽四重奏団のハイドンは別のライヴ盤を一度取り上げています。

2013/06/20 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : ドーリック弦楽四重奏団のウィグモアホールライヴ

ウィグモアホールでのライヴは2009年の収録に対して、今日取り上げるアルバムは2013年と4年後の録音。その間、ヴィオラが女性に変わっています。

第1ヴァイオリン:アレックス・レディントン(Alex Redington)
第2ヴァイオリン:ジョナサン・ストーン(Jonathan Stone)
ヴィオラ:エレヌ・クレモン(Hélène Clément)
チェロ:ジョン・マイヤースコウ(John Myerscough)

ウィグモアホールのライヴの記事を読んでいただければわかるとおり、このクァルテット、かなりの実力の持ち主との印象ですが、こんどはセッション録音ということで、また違った側面が見えるでしょうか。

Hob.III:31 / String Quartet Op.20 No.1 [E flat] (1772)
ウィグモアホールのライヴが、ライヴらしい緊張感と素晴らしい覇気に溢れた演奏だったのに対し、こちらはセッション録音らしい落ち着いた演奏。もちろん同じクァルテットなので、演奏のスタンスは共通したものがありますが、ウィグモアホールライヴの張り詰めた緊張感があまりに素晴らしかったので、その分、特別感は下がって聴こえます。Op.20のNo.1は曲の流れの良さを軸にした演奏が多い中、この演奏は響きの変化と即興性に焦点を当てたようなアプローチ。全員の創意をそれぞれ感じながら、意欲的に曲をデフォルメさせていきます。迫力というより創意で攻めてますね。十分に意欲的なんですが、この曲の良さを素直に表現した演奏以上に説得力があるかと言われれば、これ以上の演奏もいろいろあるという感じです。
メヌエットはキレ重視。弓使いが軽く、リズムの面白さを際立たせます。そして3楽章は現代音楽のような精妙な響きをベースにハイドンの美しいメロディーが織り交ぜられたもの。意外とこのあたりから引き込まれてきます。そしてフィナーレも入りは軽いタッチのボウイングが特徴。途中からギアチェンジして迫力に転化。途中特徴的なデフォルメで個性を主張。なかなか斬新なアプローチの演奏でした。

Hob.III:32 / String Quartet Op.20 No.2 [C] (1772)
続くNo.2も同様のスタンスながら、No.1より明らかに楽器が良く鳴ってます。よりライヴに近い臨場感のある演奏。演奏時のノリの良さも重要ということでしょう。各奏者が折り重なるようにせめぎ合いながらメロディーをつないでいく部分のクッキリとしてキレの良さがこのクァルッテットの面白さを代表するようです。4本の楽器の音色はそれぞれ異なるのですが、演奏スタイルは一貫していて、音楽の造りは緊密。1楽章の最後の弱音の表現も秀逸。臨場感もあり、現代性もある新時代のハイドンという印象。続く2楽章の楔を打ち込むような入りからの展開は曲の起伏を浮かび上がらせるこのクァルテットならでは冴えた現代性を感じさせます。自在にテンポを動かしタイトに攻め込みます。音程がずれそうなほどの強音で圧倒。そして静寂。ハイドンから夕陽に映える山脈のような深い陰影を浮かび上がらせます。メヌエットも同様、キリリと引き締まったヴァイオリンの高音に隈取られたアンサンブルの面白さが際立ちます。さっと立ち上がり、さっと引く呼吸の妙。そしてフィナーレは軽妙洒脱なボウイングに脱帽。

Hob.III:33 / String Quartet Op.20 No.3 [g] (1772)
CD1の最後はNo.3。こちらも楽器が良く鳴って、演奏のなめらかさもかなりのもの。CDに収められた順に収録したかはわかりませんが、No.1から進むにつれてリラックスしてきているように感じます。間の取り方も余裕が加わり、音楽が落ち着いてきて、ドーリック四重奏団の創意あふれる演奏と自然さのバランスが一番良くなってきています。録音も響きが一番柔らかい印象です。演奏の特徴はNo.2同様。この曲でも洗練された現代風のハイドンの面白さを存分に聴かせます。

ドーリック弦楽四重奏団のハイドンの太陽四重奏曲集、前半の3曲を取り上げました。No.1のノリが少々弱いことから最初は少し違和感を感じましたが、聴き進むうちに演奏も落ち着き、このクァルテットの創意溢れる演奏の魅力に徐々に引き込まれていきました。Op.20には名演奏が多いですが、このクァルテットのアプローチはオーソドックスではなく、かなりデフォルメを織り交ぜ、表現者の面目躍如。クレーメルのような切れ味がありますが、音楽が冷徹なわけではなく、楽天的なところもあることがハイドンとの相性を良くしているようです。評価はNo.1は[++++]、他2曲は[+++++]とします。

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tag : 弦楽四重奏曲Op.20

カルドゥッチ四重奏団の弦楽四重奏曲集(ハイドン)

10月最初のアルバムはこちら。

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カルドゥッチ四重奏団(Carducci Quartet)の演奏で、ハイドンの弦楽四重奏曲Op.50のNo.6「蛙」、Op.20のNo.4、Op.76のNo.2「五度」の3曲を収めたアルバム。収録は2006年、ロンドンの南、レオナルド・スタンレーの聖スウィザン教会(St. Swithun's Church)でのセッション録音。レーベルはクァルテットの自主制作だと思われるCarducci Classics。

演奏者もレーベルもはじめて聴くもの。よほど詳しい方しか聴いたことがないのではということで、お察しのとおり、湖国JHさんから貸していただいているもの。ジャケット写真を見ると、若手の美男美女の組み合わせのクァルテットです。調べてみると彼らのウェブサイトがありました。

Carducci String Quartet

かなりアーティスティックなつくりで、コンテンツも充実しています。

メンバーはもともとイギリスとアイルランドの音楽学校の卒業生で、卒業後、アマデウス、チンギリアン、タカーチ四重奏団などのメンバーのもとで学び、近年では7つ以上の著名な国際コンクールに入賞するなど、ヨーロッパの若手のクァルテットでは知られた存在とのこと。コンサートツアーは、フランス、ドイツ、ギリシャ、アイルランド、ベルギー、スコットランド、ハンガリー、イタリアなどヨーロッパはもちろん、日本にも来ているようです。もともとイタリアのトスカーナ州の地中海岸に近いカスタニェート・カルドゥッチ(Castagneto Carducci)で開催されているカスタニェート・カルドゥッチ音楽祭で度々演奏しており、その街の名から市長の祝福を得てクァルテットの名前をとったということです。メンバーは下記のとおり。

第1ヴァイオリン:マシュー・デントン(Matthew Denton)
第2ヴァイオリン:ミカエレ・フレミング(Michelle Fleming)
ヴィオラ:エオイン・シュミット=マーティン(Eoin Schmidt-Martin)
チェロ:エマ・デントン(Emma Denton)

日本では今ひとつ知られた存在では無いと思いますが、実力はすばらしいものがあります。このアルバム、CDプレイヤーにかけたとたん、豊かな音楽が部屋に溢れ出してきました。弦楽四重奏としては理想的な響き。生の弦楽器が響きの良いホールので演奏しているような素晴しい響きを堪能できるアルバムです。流石に湖国JHさん、送り込んでくる玉が違います(笑)

Hob.III:49 / String Quartet Op.50 No.6 "Frosch" 「蛙」 [D] (1787)
一音目からなんと豊穣な響きでしょう。教会らしい豊かな残響をともなっていますが、鮮明さは保った理想的な録音。流石このクァルテットのためのレーベルといっていいでしょう。4人の息がピタリと合って、音色もボウイングもピシッと合った完璧なハーモニー。流麗さと適度な躍動感に音楽自体が活き活きと踊ります。1楽章から身をの出して聴き入る素晴しいアンサンブル。光のあたっている部分とその影の濃淡まで豊かな階調で描いていき、グラデーションの豊かなモノクロームの写真のような芸術性を感じます。
つづくボコ・アダージョは陰りの音楽。抑えた表情の中にも1楽章同様豊かな濃淡があり、静けさを基調としながらも、揺れ動く表情の面白さをじっくり堪能できます。そして光がさっと射して明るさを取り戻すメヌエット。軽妙なタッチを楽しむかのように弾みます。
フィナーレは蛙の鳴き声を思わせるバリオラージュ奏法による不思議な響きがユニークな曲。軽いタッチは続き、コミカルな表情をじつにうまく表現して、この曲の面白さを浮かび上がらせます。曲の構造をしっかり踏まえて演奏を巧みにコントロールする音楽性をもちあわせていますね。

Hob.III:34 / String Quartet Op.20 No.4 [D] (1772)
続いて、すこし遡って太陽四重奏曲からNo.4。冒頭の響きが蛙のフィナーレの韻を踏むような和音に感じるのは私だけでしょうか。この曲でもアンサンブルは見事。エッジが立った精緻さというよりはハーモニーが深く共鳴している感じ。このアンサンブルのしなやかさがこのクァルテットの特徴でしょう。4人の音楽が深いレベルで響きあっているのが良くわかります。奏者の呼吸が音楽の起伏をつくり、息づかいのしなやかさが音楽を流麗にしています。2曲目にして、このクァルテットの音楽にすっかり魅了されました。
2楽章では切々たる表情をつくりながらも自然さを残し、それぞれの奏者が代わる代わる音楽を引き継ぎ、糸を紡ぐようにメロディーを重ねていきます。とりわけチェロの存在感が印象的。さっぱりとしながらも楽器をよく鳴らして孤高の表情を焼き付けます。この曲の白眉のような素晴しい演奏。クッキリとしたメヌエットを経て、フィナーレはヴァイオリンの音階の軽快感、自在なテンポの変化をコミカルに聴かせ、最後まで軽さを失わない秀演でした。

Hob.III:76 / String Quartet Op.76 No.2 "Quintenquartetett" 「五度」 [d] (1797)
最後はこれも名曲「五度」。予想通り適度にしなやかな入り。鋼のような響きを聴かせる演奏もありますが、しっとりとハーモニーを聴かせていく玄人好みの演奏。一貫して自然さを失わず、落ち着いて音楽の起伏を表現していくあたりは実に見事。この曲をこれだけしなやかに聴かせる演奏はあまり覚えがありません。音楽の安定感はチェロのリズムの刻みの自然な正確さにあるような気がします。若手にもかかわらずこの音楽の豊かな安定感は流石。万全のハイドン。
アンダンテはピチカートの伴奏が入りますが、不思議と余韻の長いピチカートがゆったり感を醸し出します。ヴァイオリンは低音から高音まで行き来しながらメロディーラインを浮かび上がらせます。この曲で最も特徴的なメヌエットはほどほどの切れ込みかたでザクザクとメロディーを刻み、あくまでも自然に楽章間を移っていきます。フィナーレも力が入りすぎることなく、適度な力感で攻め込み、バランスの良い盛り上がりを聴かせます。この全体の流れを見越しての冷静な視点の存在がこのクァルテットの一番の美点でしょう。最後はハイドンらしく、余裕を残しながら、コミカルな変化を楽しむように終わります。

いやいや、このアルバム、気に入りました。若手らしからぬ成熟した音楽が流れます。しかも強音やキレで聴かせるのではなく、自然な佇まいやフレージングで聴かせるなど、かなり音楽性に自信がないとできないスタイルでの演奏です。録音も良く弦楽四重奏の楽しみが詰まったアルバム。評価はもちろん全曲[+++++]をつけます。選曲も良く、多くの人に聴いていただきたい名盤です。手に入るうちにどうぞ!

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tag : 弦楽四重奏曲Op.50 弦楽四重奏曲Op.20 弦楽四重奏曲Op.76 五度

プラハ・ヴラフ四重奏団の弦楽四重奏曲集(ハイドン)

今日は弦楽四重奏曲。

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プラハ・ヴラフ四重奏団(Blach Quartet Prague)の演奏で、ハイドンの弦楽四重奏曲Op.20のNo.4、Op.33の3「鳥」、Op,77のNo.1の3曲を収めたアルバム。収録は2000年4月10日から12日、17日、チェコのプラハにあるスタジオ・アルコ・ディーヴァ(studio ARCO DIVA)でのセッション録音。レーベルはチェコ、プラハのWALDMANNというところ。

このアルバム、例によって湖国JHさんから送り込まれた3月の課題曲。いつも当方の所有盤にない名盤をさりげなく送り込まれますので、油断なりません(笑)。このアルバムも調べてみると、簡単には手に入りそうもないレアもの。いままでいろいろなアルバムを貸して頂いていますが、どれも流石ハイドンに詳しいだけあると唸るばかりの名盤揃い。今回もアルバムをプレイヤーにかける前には、佐々木小次郎を前にした宮本武蔵のような張りつめた空気が漂います。いや、もしかしたら、宮本武蔵を前にした佐々木小次郎の心境かもしれません(笑)

プラハ・ヴラフ四重奏団は、1982年、第1ヴァイオリンのヤナ・ヴラコーヴァが設立した四重奏団。

第1ヴァイオリン:ヤナ・ヴラコーヴァ(Jana Vlachová)
第2ヴァイオリン:カレル・スタッドゼール(Karel Stadtherr)
ヴィオラ:ペトル・ヴァマー(Petr Verner)
チェロ:ミカエル・エリクソン(Mikael Ericsson)

このクァルテットの前身は、ヤナ・ヴラコーヴァの父、ヨゼフ・ヴラフが第1ヴァイオリンを務めたチェコでは有名なヴラフ四重奏団。時代が変わって、メンバーも変わったため、クァルテット名に新たにプラハをつけて新設されたということでしょう。設立の翌年1983年にはチェコの国際弦楽四重奏コンクールで、チェコ現代音楽演奏賞に輝き、1985年には英ポーツマスで開催された国際弦楽四重奏コンクールで欧州1位となるなどの受賞歴があります。その後スイスでメロス四重奏団のマスターコースに参加しています。ヨーロッパ、アメリカ、日本などでもコンサートを開き、1997年には岐阜のサラマンカホールのレジデンス四重奏団となっているとのこと。日本にもゆかりがあるのですね。また、録音はNAXOSからドヴォルザークの弦楽四重奏曲全集15枚がリリースされているなど、なかなかの実力派でもあります。

Hob.III:34 / String Quartet Op.20 No.4 [D] (1772)
ざわめきのようなそわそわした感じの入り。録音のせいか少し饐えたような音色の印象がありますが、すぐに第1ヴァイオリンのヴラコーヴァのキレのよいボウイングに耳を奪われます。テンポは中庸ですが、フレーズの息が短く、テンポ感の良い演奏。きっちり音色を合わせていく演奏ではなく、適度に粗さを持ちながら、アンサンブルが凝縮していく感じ。一人一人のボウイングのキレの良さが時折重なり、時折離れていくような自在さがあります。音量を上げていくと実演の印象と重なってきて、スピーカーの前に4人が並んで弾いているようなリアリティ。
2楽章に入ると、絞り出すように情感を感じさせる演奏。もうすこし伸びやかな演奏で情感を滲ませていく方が好みではありますが、この独特の絞り出すような感じがこのクァルテットの特徴でもあります。半ばよりプレゼンスが上がるミカエル・エリクソンのチェロのフレージングがおおらか。線がほそいのですが、鋭さをもったヴァイオリンとチェロの対比が緊張感をもたらします。
メヌエットでもチェロの素朴なフレージングとヴァイオリンが拮抗。そしてフィナーレはヴァイオリンのキレで一気に聴かせます。音階のキレをことさらクッキリ描いていくことで、曲がカッチリと明解になります。テンポは少し足速で前のめりな印象。もしかしたら、もう少し落ち着きと柔らかさがあった方が曲の深みが出るかもしれませんね。

Hob.III:39 / String Quartet Op.33 No.3 "Vogelquartett" 「鳥」 [C] (1781)
ご存知有名曲の「鳥」。少し短めの呼吸はこれまでのまま。すこしごつい感じがしますが、この曲では気にならず、もともとのテンポ良く進める感じが曲にはあってます。インテンポで畳み掛けながら曲を進めますが、やはり第1ヴァイオリンのヴラコーヴァのはち切れんばかりのボウイングがかなりのインパクト。ハイテンションとはこのことでしょう。穏やかな表情と軽さを表現する演奏が多いロシア四重奏曲の演奏のなかにあっては、ハードな部類に入るでしょうか。素晴しい凝縮感ではありますが、曲の位置づけからするとちょっと力みを感じなくもありません。
続くスケルツォはなでるようなじっくりした演奏を両端に置き、中間部は軽さを聴かせる曲ではありますが、サクサク感が聴き所。
そしてアダージョ。アダージョまでテンポとテンションを落としきっていない印象もあります。フレーズ毎にメリハリをつけているようですが、やはり第1ヴァイオリンのコントロールで聴かせきってしまう勢いがあります。
そしてフィナーレではヴラコーヴァのヴァイオリンがエッジが立ったようにキリリとフレーズを奏でていきます。一貫してハイテンションで終えます。まさに鳥のさえずりのよう。

Hob.III:81 / String Quartet Op.77 No.1 [G] (1799)
これまでのテンションとはちょっと異なり、ゆったりとしたリズムで入るので、ちょっと安心できます。表現がテンションのみではなく、曲が成熟した分、音楽の流れの良さにも廻って、音楽に少し余裕ができてきます。徐々に力感を増しながら1楽章のクライマックスへ。代わる代わる登場する楽器がプレゼンス良くメロディーを受け継ぎ、一つの音楽にまとめあげていきます。
アダージョは音楽の流れのしなやかさを保ちながら、ヴァイオリンの高音部が今まで一番力の抜けた演奏を披露。相変わらずチェロは生真面目に伴奏に徹する姿勢。やはり力が抜けているのが音楽にはプラスでしょう。弦楽器の音の重なる部分にアンサンブルの面白さが宿ります。
そして、これまでのメヌエットでは最も力の乗ったメヌエット。奏者のエネルギーが集中します。最後の力を振り絞っているのか、中間部でも弦が峙つ感じが素晴しい効果を挙げています。
フィナーレは予想通りヴラコーヴァの鮮やかなキレのよい弓さばきが聴き所。他の3人も髪を振り乱して追随しているよう。アルバムのフィナーレに相応しい盛り上がり。ハイドン最晩年の作品のテンションを浮き彫りにした形。武闘派の演奏でしょう。

プラハ・ヴラフ四重奏団によるハイドンの弦楽四重奏曲集。各時代の名曲から3曲選んでアルバムにしたというところでしょう。基本的に攻めのハイドン。カミソリのようなキレ味で第1ヴァイオリンのヴラコーヴァがメロディーを描き、3人がそれをサポートするという構図。録音のせいか、鋭利な音色が耳に刺さるような鮮明さで迫ってきます。時代をまたいだ3曲ながら演奏の姿勢は一貫していて、あえて言えば最後のOp.77の前半はすこしゆったりしてテンションを緩めますが、聴いているうちに攻めの姿勢に戻ります。これはこれで非常に刺激的なハイドンです。評価は一般のハイドンファンへのオススメ度合いを勘案して、3曲とも[++++]とします。これはハイドンマニアの方向けの、知的刺激に満ちた演奏です。ハイドンの弦楽四重奏曲の魅力をこれから知ろうという人にとっては刺激過多です(笑)

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tag : 弦楽四重奏曲Op.20 弦楽四重奏曲Op.33 弦楽四重奏曲Op.77

ウィーンコンツェルトハウス四重奏団のOp.20-5聴き比べ(ハイドン)

ご存知のようにウィーン・コンツェルトハウス四重奏団には、WestminsterとPREISER RECORDSからかなりの数のハイドンの弦楽四重奏曲の録音がリリースされています。PREISER RECORDSからリリースされたアルバムにつけられた解説にはWestminsterの他にVanguardやDeutsche Grammophone、そしてコロムビアにも録音がある旨記されていて気になっていたもの。

こちらが先日ディスクユニオンで手に入れたアルバム。

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ウィーン・コンツェルトハウス四重奏団(Wiener Konzerthaus Quartett)の演奏による伝ハイドンのセレナード、ハイドンの弦楽四重奏曲Op.20のNo.5、モーツァルトの弦楽四重奏曲KV.458「狩」の3曲を収めたアルバム。収録は1960年11月、東京とだけ記されていますが、セッション録音のようです。レーベルはDENON。

このアルバムに収録された当時のメンバーは下記のとおり。

第1ヴァイオリン:アントン・カンパー(Anton Kamper)
第2ヴァイオリン:ヴァルター・ヴェラー(Walter Weller)
ヴィオラ:エーリッヒ・ヴァイス(Erich Weiss)
チェロ:ルートヴィヒ・バインル(Ludwig Beinl)

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こちらはご存知PREISER RECORDSの全3巻のハイドンの弦楽四重奏曲集の第2巻。この2枚目に上のDENONのアルバムに収められているOp.20のNo.5が収録されています。収録年、収録場所などは記載されていませんが、解説などから1956年以前の収録でしょう。

PREISER RECORDSの解説によれば、WestminsterとPREISER RECORDSの録音はすべて1956年以前のもので、メンバーも1934年創設当時のメンバーとのこと。

第1ヴァイオリン:アントン・カンパー(Anton Kamper)
第2ヴァイオリン:カール・マリア・ティッツェ(Karl Maria Titze)
ヴィオラ:エーリッヒ・ヴァイス(Erich Weiss)
チェロ:フランツ・クワルダ(Franz Kwarda)

比較的近い間にいろいろなレーベルに録音しているウィーン・コンツェルトハウス四重奏団ですが、その違いはどのようなものか、興味は尽きません。当ブログでは過去2回レビューで取りあげていますが、何れもWestminster盤。

2013/08/23 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : ウィーン・コンツェルトハウス四重奏団のOp.64のNo.6
2011/10/08 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : ウィーン・コンツェルトハウス四重奏団のOp.64のNo.2

Westminster盤は鮮明ながら耳に刺さるような鋭い響きが特徴で、このクァルテット独特の味わい深い響きを楽しむのには向かないのが正直なところ。今回手に入れたDENON盤は日本での録音のため、また違った響きが聴かれそうですね。

Hob.III:35 / String Quartet Op.20 No.5 [f] (1772)
シュトルム・ウント・ドラング期の頂点である1772年に作曲された短調の傑作。最初は、聴き慣れたPREISER RECORDS盤からいきましょう。

ウィーン・コンツェルトハウス四重奏団の一番の特徴である、アントン・カンパーのゆったりと、まったりとしながらもところどころで伸び伸びとした美しい響きを聴かせるヴァイオリンの音色が心地良い演奏。全体にゆったりとした間が支配し、この曲がはらむ緊張感のようなものは前に出てこず、逆に優雅なえも言われぬ雰囲気に包まれる演奏。録音はもちろんモノラルで、Westminster盤のような尖ったところはなく、実にマイルド。時代なりですが、非常に聴きやすいもの。ヴァイオリンも鮮明さよりも中音の響きの厚さが良く出て、良い味わいが感じられます。ウィーン・コンツェルトハウス四重奏団の演奏スタイルにぴったり。
2楽章のメヌエットはアダージョのような風情。ポルタメントを効かせるほどではありませんが、演奏は古き良き時代を感じさせるもの。アンサンブルは良くそろっているのですが、エッジが立っていないので、リズムではなく響きを乗せているようなアンサンブル。これはこれで他のパートの響きをよく聴いての演奏でしょう。じっくりと燻らしたように音楽が進みます。燻製が出来上がるのを煙を見ながら待つような心境。
3楽章のアダージョはウィーン・コンツェルトハウス四重奏団のゆったりとした音楽が最もマッチした楽章。この曲のこの時代を代表する演奏でしょう。優雅に響く弦楽器の響きにとろけそう。これぞ古き良きウィーンの香り。ハイドン弦楽四重奏のヒストリカルな演奏に我々が期待する美しさすべて詰まっています。技術を超えた音楽がここにあります。
終楽章はフーガの旋律を実に堂々と奏でて、メロディーが象徴的にそびえ立つように感じる入り。演奏が進むにつれて味わい深いアンサンブルの魅力に包まれますが、メロディーラインの複雑に絡み合うようすをわかりやすく整理して聴かせてくれているようで、主旋律がクッキリ、堂々と描かれることで音楽の印象も現代の印象とはだいぶ異なって聴こえます。

久しぶりにPREISER RECORDSの美音を堪能。つづいて今回手に入れた日本での録音。

比較すると録音は鮮明さが上がって、ステレオ空間に各楽器がクッキリ定位するもの。ライナーノーツにはマスターテープの保存状態が悪く、このCDはLPから起こしたものと記載されています。スクラッチノイズなどは皆無で品質は悪くありません。響きはデッドで、スタジオでの録音でしょうか。PREISER RECORDSのえも言われぬ味わい深い音色とはことなり、音が少し痩せて、線が細い感じ。特にヴァイオリンなどの高音の線が細い感じ。演奏の基調はゆったりとヴァイオリンをならしていくアントン・カンパーが握り、演奏自体の方向性は変わらないものの、録音によって音楽の印象は大きく異なります。鮮明な分、音程の粗がちょっと目立ったり、乾いた感じの弦の音色がが雰囲気を冷静にさせていますが、逆に鮮明な分、各パートがクリアに浮かびあがってボウイングが手に取るようにわかります。録音の違いを脳内で補正すると演奏はほぼ同じ方向性。録音による古き良き時代のウィーンの印象ではなく、演奏自体からにじみ出るエッセンスがウィーン風であったことっがわかり、日本での録音ということで、その貴重さもつたわって来ます。
2楽章のメヌエットはPREISER RECORDS盤よりもテンションが高く、タイトさが緊張感ををはらみます。アンサンブルも今度はエッジがクッキリとして、ざらついた各弦楽器の浸透力のある響きが呼応。チェロの弓さばきも鮮明に録られ、非常に鮮明に各楽器が響きます。
聴き所のアダージョは、前盤が録音の雰囲気の影響が色濃く出た、味わいの深さだったのに対し、このアルバムでは録音のベールをはがし、演奏自体のもつ響きの強さに裏付けられた味わいが聴こえてきます。かなり鮮明に録られていますが、味わいの深さはもしかたら前盤以上。音量を上げて聴くと心に刺さるよう。奏者の息づかいが聴こえてくるような鮮明さ。
フィナーレのフーガのメロディーの象徴的な扱いは前盤同様。まるでバッバを聴いているような厳粛な気持ちになります。ゆったり刻むテンポで逆に迫力を増し、かなり克明なメリハリがついたフィナーレ。冬の陽で立体感が際立つ山容を見るよう。

ウィーン・コンツェルトハウス四重奏団の時期を違えた2種の録音。PREISER RECORDSのアルバムはまろやかな録音と相俟って、このクァルテットに我々がイメージする古き良きハイドンの弦楽四重奏曲の理想的な響きが聴かれます。久しぶりに聴き直してみると、この演奏の貴重さをあらためて感じた次第。とくにアダージョ楽章のえも言われぬ陶酔感は貴重ですね。一方、1960年の来日時に録音されたであろうDENON盤は、響きが鮮明なぶん、このクァルテットの演奏自体の貴重なスタイルを解き明かしているよう。各奏者の音色やボウイングまで鮮明に録られており、PREISER RECORDS盤と同様の味わいの秘密に近づいた気にさせるもの。人によってはこちらの鮮明な響きを好まれる方も少なくないのではないかと想像しています。評価は両盤[++++]とします。古き良きウィーン情緒を感じたいのなら、間違いなくPREISER RECORDSをお薦めします。

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tag : 弦楽四重奏曲Op.20 ヒストリカル 偽作 ハイドンのセレナード

ロータス・カルテットの五度、Op.20のNo.4(ハイドン)

今日は日本のクァルテッットによる弦楽四重奏曲。

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ロータス・カルテット(Lotus String Quartet, Stuttgart)の演奏による、ハイドンの弦楽四重奏曲Op.76のNo.2「五度」、ベートーヴェンの弦楽四重奏曲Hess34(ピアノソナタ9番の編曲)、ハイドンの弦楽四重奏曲Op.20のNo.4の3曲を収めたアルバム。収録はOp.20が2012年11月28日、その他が12月5日、東京の品川区立五反田文化センターの音楽ホールでのセッション録音。レーベルは日本のLIVE NOTES。

ロータス・カルテット(本来シュツットガルト・ロータス弦楽四重奏団と訳すのでしょうが、下に掲載した音楽事務所の記載にあわせています)は1992年に結成されたクァルテット。翌93年に大阪国際室内楽コンクールで3位入賞しました。95年にドイツに渡り、シュツットガルト音楽大学に入学し、メロス四重奏団に師事。その後、97年にロンドン国際弦楽四重奏コンクールでメニューイン特別賞、パオロ・ボルチアーニ国際弦楽四重奏コンクールで3位になる等の実績を残しています。現在1人だけ外人の男性がメンバーとなっていますが、彼は2005年にシュツットガルト弦楽四重奏団の第1ヴァイオリンだったマティアス・ノインドルフ。活動の舞台はヨーロッパらしく、2006年の来日が久々の来日。2008、2012年と来日しているようですが、2012年は結成20周年ツアーということでNHKのテレビでも放送されたと言う事です。

コジマ・コンサートマネジメント:ロータス・カルテット

ということで、ご存知の方はご存知なんでしょうが、私はまったくはじめて聴くクァルテット。ハイドンが2曲も入ったアルバムを出されては、放っておく訳には参りません。メンバーは次の通り。

第1ヴァイオリン:小林 幸子(Sachiko Kobayashi)
第2ヴァイオリン:マティアス・ノインドルフ(Mathias Neundorf)
ヴィオラ:山崎 智子(Tomoko Yamasaki)
チェロ:齋藤 千尋(Chihiro Saito)

Hob.III:76 / String Quartet Op.76 No.2 "Quintenquartetett" 「五度」 [d] (1797)
冒頭からかなりタイトでハイテンションな響き。オンマイクで鮮明に録られた直接音重視の録音。間近で4人が弾いているような近接定位。1楽章は速めのテンポでグイグイ畳み掛けるような演奏。まさに大上段に構えた正攻法の演奏。第1ヴァイオリンの小林幸子さんのキレのよい弓さばきが印象的。
つづくアンダンテに入ると、リラックスした雰囲気に変わりますが、音楽が濃くなるわけではなく、なんとなく淡々とした演奏。もう少し沈むといいなと思いつつ聴き進むうちに第1ヴァイオリンの奏でる音楽に突然光がさすような輝き。徐々にヴァイオリンのプレゼンスが上がってきます。
メヌエットは日本人らしい、カッチリとした線が通った演奏。若干几帳面すぎるような印象も感じさせますが、ダイナミックさよりはクリアに響かせることを意図しているよう。綺麗に鉋のかかった垂木の連続する様を見るような細やかな肌合いの規則正しさを感じさせます。
そしてフィナーレに入ってもこの透明感を感じさせる印象は一貫しています。表現は一歩踏み込んできますが、クッキリした和風の良さを感じさせる響きは変わらず。良く聴くと録音のバランスの問題か、チェロの音量がかなり控えめ。これがガラス細工のようなカッチリとした響きの印象に大きな影響があるのでしょう。ヴァイオリンの高音主体のクッキリとした響きが耳に残ります。

Hob.III:34 / String Quartet Op.20 No.4 [D] (1772)
録音日は異なりますが、響きの質は変わりません。前曲よりも25年も前の作曲になりますが、曲のスタンスは落ち着きはらって、構成感でも負けていません。曲の構成をより深く表現しているようで、沈む所は沈み、輝くところは輝く、なかなかメリハリの効いた演奏。生々しい弦楽器の音色の迫力が良く伝わる録音。
アダージョに入ると、前曲で比較的淡々としていたのと異なり表現が深くなります。そしてしばらくすると、今まで大人しかったチェロが雄弁に語りはじめ、渋い美音を轟かせるように。ひとつひとつの楽器の存在がクッキリと浮かび上がりながら、アンサンブルのラインもきちんとそろって、なかなかの精度。一人一人のメリハリがきっちりついているからこその存在感でしょう。このアルバムの聴き所。
短い弾むメヌエットを挟んで、フィナーレはハイドンのフィナーレの面白さの詰まった缶詰のような曲。疾風のような速度で、様々な機知が詰め込まれた曲を、ロータス・カルテットはまさに畳み掛けるのを楽しむような展開。テクニックは十分で、変化に富んだ曲の、一つ一つのフレーズを変化させながらグイグイ進めていきます。良い意味で粗さも感じさせて、最後は上手くまとめて終わります。

はじめて聴く、ロータス・カルテットのハイドンは、超hi-fi録音による、極めてリアルな弦楽四重奏の響きに撃たれるようなハイドン。もう少しゆったりとメロディーを楽しみ、曲をどう弾くかを余裕あるスタンスで楽しみたいという気にもさせるような、ストイックな印象も感じました。これは鮮明な録音のせいでもあり、また、このロータス・カルテットの個性でもあるのでしょう。人によって評価が割れるアルバムかもしれません。タイトに攻めるハイドンが好きな方にはなかなかの演奏。逆にハイドンの曲の美しいメロディと構成を楽しみたい方にとっては、ちょっとテンションが高すぎるかもしれません。私の評価は両曲とも[++++]としておきます。この演奏の素晴らしさを認めた上で、もう一段の余裕があればと思います。

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tag : 弦楽四重奏曲Op.76 五度 弦楽四重奏曲Op.20

エルメス四重奏団のOp.20のNo.5

ちょっと番外記事が続きましたので、正常化。レビュー対象盤はいろいろたまっているのですが、今日は1曲もののアルバムに行かざるを得ません。遅く帰ったのであまり時間がないんですね、スミマセン。

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エルメス四重奏団(Quatuor Hermès)の演奏でハイドンの弦楽四重奏曲Op.20のNo.5、ベートーヴェンの弦楽四重奏曲12番の2曲を収めたアルバム。収録は2012年6月3日から8日にかけて、響きの良いホールとして知られるスイス、ラ・ショー=ド=フォンの音楽ホールでのセッション録音。レーベルはharmonia mundi傘下のnascor。

エルメス四重奏団は初めて聴くクァルテット。2008年、リヨン国立高等音楽・舞踊学校のゾルタン・トートと北浜玲子(ラヴェル弦楽四重奏団)のクラスの4人の生徒が結成したクァルテット。結成以来積極的コンサート活動を行っていますが、中でもギドン・クレーメルが主催するオーストリアのロッケンハウス音楽祭に招かれ、キム・カシュカシアンや、クレメラータ・バルティカのメンバーと共演しているとの事。様々な賞を受賞している実力派のようですが、代表的なところでは、2011年のジュネーヴ国際音楽コンクールで優勝、クー・ド・クール・ブレゲ賞を受賞しています。最近ではアルテミス四重奏団、イザイ四重奏団などとともに学んでいるとの事。メンバーは下記のとおりです。

第1ヴァイオリン:オメール・ブシェーズ(Omer Bouchez)
第2ヴァイオリン:エリーゼ・リュウ(Élise Liu)
ヴィオラ:ユン=シン・チャン(Yung-Hsin Chang)
チェロ:アンソニー・コンドウ(Anthony Kondo)

Hob.III:35 / String Quartet Op.20 No.5 [f] (1772)
流石に美しく鮮明な響き。静寂の中にクァルテットが浮かびますが、実体感と迫力はほどほど。演奏はすこし様子を探るような引いたような姿勢の入り。第1ヴァイオリンのブシェーズの演奏は、アンサンブルの精度を狙ったというよりも一人楽器を良く鳴らそうというような演奏で、共演しているクレーメルの演奏スタイルに近いものがありますが、あの殺気に満ちた緊張感はなく、影響を受けながらも器が違うと言うのが正直なところ。曲が進むにつれて少しリラックスしてきているのか、音楽がしなやかになってきます。第1ヴァイオリンと他の3人の表情の濃さに明らかに差があり、多少単調な印象を与えてしまうのが惜しい所。迫力と言う面でももう一歩踏み込みが欲しいところです。
メヌエットに入っても演奏スタイルは変わらず、力を抜いて穏やかに音楽を鳴らしていくような演奏。もう少し遊び心を感じさせたりできると、彼らのスタイルが活きるでしょうか。
少し印象が変わったのがこのアダージョから。音楽がしっとりと溶け合い、4人の呼吸が今までよりも合ってきて、音楽が活き活きとし始めます。軽いタッチの美しさが印象に残るようになり、響きの美しさも磨かれてきました。この繊細なタッチの美しさはなかなかのもの。
フィナーレのフーガはなぜかミニマルミュージック風、抽象的な響きに聴こえます。意図して狙ったのでしょうか。ハイドンの生きた時代背景や演奏スタイルとは視点が違う演奏ということでしょう。演奏によっては畳み掛ける迫真の響きが聴ける楽章ですが、アプローチが異なると、印象もがらっと変わるものだと再認識。

この演奏、何度か聴いているうちになじんでくるのが不思議なところ。エルメス四重奏団は髪を振り乱してダイナミックに演奏する場面はなく、落ち着いてしっとりと音楽を聴かせるスタイル。そして精妙というよりは素朴な演奏を得意としているようです。若手としては珍しい演奏スタイルでしょう。ハイドンについては、多くの先人の演奏と比べて、彼らのスタイルに新鮮さがあるかと言えば、多少はあるというところでしょうが、ハイドンの演奏としての面白さといった点からは一石を投じることにはならなかったと思います。評価は[+++]としたいと思います。

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tag : 弦楽四重奏曲Op.20

【新着】シュパンツィヒ四重奏団の弦楽四重奏曲集

今日は新着盤。

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シュパンツィヒ四重奏団(Schuppanzigh-Quartett)の演奏によるハイドンの弦楽四重奏曲3曲(Op.54のNo.1、Op.20のNo.2、Op.74のNo.3「騎士」)を収めたアルバム。収録は2011年12月8日から11日にかけて、ベルリンの南西、ポツダムに近いヴァン湖のほとりにあるアンドレアス教会でのセッション録音。レーベルはベルギーの名門ACCENT。

このアルバム、調べてみるとシュパンツィヒ四重奏団のハイドンの弦楽四重奏団の3枚目にリリースされたアルバムとのことですが、先にリリースされたアルバムも手元になく、このアルバムを聴いてあわてて発注した次第ですが、在庫状況がいまいちで、なかなか入荷しません。先にリリースされたアルバムを聴いてからレビューしようと、まさに棚に上げていたんですが、しびれを切らしてレビューです(笑)

シュパンツィヒ四重奏団は1996に設立されたピリオド楽器による四重奏団。もともとハイドンが生きていた頃とも重なる時代に活躍していたオーストリアの名ヴァイオリニスト、イグナツ・シュパンツィヒが1796年に設立した四重奏団ですが、それから200年を記念して1996年に新生シュパンツィヒ四重奏団が設立されたとのこと。メンバーは下記の通り。

第1ヴァイオリン:アントン・シュテック(Anton Steck)
第2ヴァイオリン:フランク・ポールマン(Franc Polman)
ヴィオラ:クリスティアン・グーセンズ(Chiritian Goosses)
チェロ:ウェルナー・マツケ(Werner Matzke)

アントン・シュテックとクリスティアン・グーセンズは以前に同じACCENTからリリースされているハイドンのヴァイオリンとヴィオラのためのソナタ集の記事で略歴を紹介しています。

2012/08/12 : ハイドン–室内楽曲 : アントン・シュテック/クリスティアン・グーセズによるヴァイオリンとヴィオラのためのソナタ集

ヴァイオリンのフランク・ポールマンはムジカ・アンティカ・ケルンやレ・ ミュジシャン・デュ・ルーヴルのメンバー、そしてチェリストのウェルナー・マツケはコンチェルト・ケルンやアムステルダム・バロック・オーケストラのメンバーと4人とも古楽器界で広く活躍している人ということです。

Hob.III:58 / String Quartet Op.54 No.1 [G] (1788)
いきなりエネルギッシュな古楽器の張りのある響き。教会らしい残響がほんのり乗りますが、オンマイクでしっかり捕らえられた4人の響きは鮮明。アントン・シュテックのヴァイオリンはなかなかのキレ。キリッとアクセントをつけてクッキリとメロディーを描いていきます。このアルバム、基本的に古楽器を良く響かせて、虚飾もハッタリもなく、自然体の一貫した演奏スタイルで、演奏を楽しんでいるよう。4人の演奏スタイルがピシッと合った演奏。カミソリのようなキレ味ではなく、意外と素朴な印象もあり、逆に好ましく感じられます。中期のこの曲では、曲の明るさを踏まえてよく弾む演奏でした。基本的に楽天的な演奏ですが、ハイドンの音楽の本質と重なるということで、説得力もあります。フィナーレの終盤の響きやテンポの変化、間を使った遊びなど、実に演出上手。スカッと楽しめる演奏です。

Hob.III:32 / String Quartet Op.20 No.2 [C] (1772)
一転アルカイックな響きの魅力が溢れるこの曲。クッキリメリハリが効いた演奏に違いはありませんが、ほんのりと漂うシュトルム・ウント・ドラング期の濃厚な空気。演奏者として一定の視点から曲を解釈しているのですが、微妙に曲のもつ雰囲気を描き分けているのが素晴しいところ。滲みでる情感。やはりこの曲は名曲なんでしょう。音楽が淀むことはなく、次々とハイドンの書いたメロディーが繰り出され、めくるめくように響いてきます。チェロの実に晴朗なフレーズに心が洗われるよう。アダージョではシュテックのすこしテンションを下げつつ、孤高の表情を見せ始めます。良く聴くと演奏の精度が抜群に高い訳ではなく、適度に粗さもあるのですが、それがまた良い味わいにつながっています。長調に転調する場面は何度聴いてもいいもの。パッと一筋の光明が射すよう。メヌエットでは鳥のさえずるような軽さと和音の精妙な重なりの美しさを引き出し、フィナーレではさらりとした感触のフーガのデリケートなタッチの魅力を存分に表現。曲によって聴かせどころを微妙に合わせる手腕は見事です。

Hob.III:74 / String Quartet Op.74 No.3 "Reiterquartetett" 「騎士」 [g] (1793)
妙に心に刺さる入り。響きの強さではなく、じっくり構えたフレージングが刺さります。やはり湧き出るように音楽が進むのがこのクァルテットの良いところ。キツい陰影ではなく、デリケートにトーンが変化する大判フィルムで撮影したモノクロームの写真のよう。どの音域もデリケートなトーンが良く出ていて、実にニュアンスが豊か。力で攻めてくるクァルテットも多い曲ですが、逆に力は抜き気味で曲のメロディーラインの髄を捉えようとしているよう。この引いたアプローチ、良いですね。優雅な部分の余裕が際立ち、結果的に険しい部分の彫り込みも浮かび上がります。
精妙、クッキリくると思ったラルゴですが、意外とサバサバとした自然なアプローチでした。所々に盛り上げどころを配置していますが、自然な語り口から迸る情感は説得力があり、曲自体の美しさが際立つという寸法。このへんの演出の上手さはシュパンツィヒならではでしょう。メヌエットも力を抜き気味でラフな表情をみせつつ自然な進行。フィナーレはタッチの軽さと良く弾むフレーズで、再びクッキリしたキレの良い演奏が戻ってきました。やはり楽器を良く鳴らしながら、8分の力で軽々と弾き進めていきます。この楽天的な推進力はこのクァルテットの特徴でしょう。フレーズごとの変化も巧みにつけて、名曲のフィナーレに相応しい幅の広い表現を聴かせます。クライマックスの表現は流石聴かせ上手。

古楽器の名手ぞろいのシュパンツィヒ四重奏団の弦楽四重奏曲集。作品ごとにまとめてリリースするのではなく、1曲1曲を組み合わせてアルバムを構成するあたり、ハイドンの弦楽四重奏曲に対する確かな選曲眼があるのだとでもいいたそうなアルバム構成でした。演奏はやはりハイドンを演奏し慣れていることとうかがわせる円熟したアプローチ。クッキリと曲を弾き進めることが基本にありながらも、所々で踏み込んだ解釈を織り交ぜ、聴くものを飽きさせません。このアルバム、ハイドンの弦楽四重奏をいろいろ聴き込んだ方にこそわかる、確かな違いがありますね。評価は全曲[+++++]としたいと思います。

発注中の2枚のこれに先立つアルバムの到着が楽しみですね。

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ジャンル : 音楽

tag : 弦楽四重奏曲Op.54 弦楽四重奏曲Op.20 弦楽四重奏曲Op.74 騎士 古楽器

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なぜかハイドン(Franz Joseph Haydn)が特に気に入り膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。東京在住のごく普通のサラリーマンです。

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