パルカニ四重奏団のOp.54(ハイドン)

最近手に入れたアルバム。少し前に素晴らしい演奏を取り上げたオルランド四重奏団が名前を変えて活動していました!

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TOWER RECORDS / amazon / ローチケHMVicon

パルカニ四重奏団(Párkányi Quartet)による、ハイドンの弦楽四重奏曲Op.54のNo.1、No.2、No.3の3曲を収めたSACD。収録は2010年5月17日から19日にかけて、プラハのドモヴィアスタジオ(Domovia Studio)でのセッション録音。レーベルはPRAgA Digitals。

オルランド四重奏団の記事はひと月前に取り上げたばかりです。

2017/08/27 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : オルランド四重奏団のOp.54(ハイドン)

しかも収録曲は今日取り上げるアルバムと同じOp.54からNo.1とNo.2です。オルランド四重奏団の収録が1981年(Pマーク)、今日取り上げるアルバムはその約30年後の録音ということになります。メンバーはチェロを除く3人がオルランドから変わらず。

第1ヴァイオリン:イシュトヴァン・パルカニー(István Párkányi)
第2ヴァイオリン:ハインツ・オーベルドルファー(Heinz Oberdorfer)
ヴィオラ:フェルディナント・エルブリヒ(Ferdinand Erblich)
チェロ:ミヒャエル・ミュラー(Michael Müller)

オルランド四重奏団は1997年に一旦解散したとのことですが、その後、1998年には新たなチェロ奏者ミヒャエル・ミュラーを迎えて現在のパルカニ四重奏団を結成しています。パルカニ四重奏団となった後には、メンバーのお国ものであるバルトークや、ラヴェル、ドビュッシー、ベートーヴェン、シューベルト、チャイコフスキーなどの録音も残しており、ハイドンについてはこのアルバムの他にOp.33とOp.42の録音を残しています。2007年から2009年にかけてOp.33とOp.42を録音しており、その後に別の曲を取り上げることもできたにもかかわらず、オルランド時代に録音したOp.54を再び取り上げたということは、この曲が彼らにとって特別な存在なのかもしれませんね。あの、オルランドの素晴らしい演奏から約30年を経た演奏はどうでしょうか?

Hob.III:58 String Quartet Op.54 No.1 [G] (1788)
ちょっと予想に反して非常にフレッシュかつ若々しい演奏に驚きます。残響は比較的多めですが、流石にSACDだけあって録音は非常に鮮明。響きの良いホールの最前列でクァルテットの音を浴びるような快感。冒頭から素晴らしい推進力と精緻なデュナーミクのコントロールでキレキレ。特に音の出端のエッジが剃刀のように鋭利なので非常にシャープに感じますが、そのあとの持続音の音量を実に巧みにコントロールしていくので冷たい感じはせず、巧みなコントロールの魅力が圧倒的な印象を残します。最初の曲の1楽章がアルバムの印象を大きく左右しますが、あまりに見事な入りに仰け反ります。続くアレグレットは実に豊かな表情をつけてデリケートなニュアンスを完璧に表現。弱音のさざめきに美しいメロディーがくっきり浮かび上がり、陰と陽の交錯の妙を味わえます。そしてメヌエットはしっかりとリズムをためて舞曲のリズムの面白さを強調し、チェロが踏み込んだ表現で存在感を発揮します。楽章間の対比をかなり鮮明につけて、ハイドンの曲の構成美を浮かび上がらせるのが彼らのスタイルとみました。そしてフィナーレは速いテンポで全員が妙技を披露しますが、表情が巧みにコントロールされ、フレーズごとにかなり表情を変化させてきます。ハイドンの仕込んだアイデアに隈取りをつけて強調するような踏み込んだ表現。1曲目からその表現意欲に圧倒されます。

Hob.III:57 String Quartet Op.54 No.2 [C] (1788)
ハイドンの創意が爆発するお目当てのNo.2。シャープな印象は前曲同様。冒頭から水も漏らさぬ集中力で4人の緊密なアンサンブルが進みます。力の入れどころ、抜きどころをわきまえているので力んだ感じは残さず、メリハリの効いた演奏になります。特にすっと力を抜いてハーモにを楽しむ余裕があるので音楽の流れが良い印象を残します。ゆったりとハーモニーが膨らんだかと思うとキリリと引き締めてきて、1楽章はまさに自在な表現。
2楽章はハイドンの時代の音楽とは思えない踏み込んだ音楽が流れます。特に前楽章ではあれほどくっきりシャープだったヴァイオリンがフラフラとさまようような表情を見せるあたりは、いつ聴いてもしびれます。そしてそこから救い出してくれるように優しく響くメヌエット。適度にコミカルな表情が安堵感を与えます。そして珍しいアダージョから入るフィナーレは予想通りしっかりと沈み込んでじっくりとした入り。深い淵をしっかりと覗いたからこそ続くプレストが華やかに映ります。

Hob.III:59 String Quartet Op.54 No.3 [E] (1788)
最後の曲。前2曲よりも落ち着いた曲想ゆえか、演奏の方もゆったりした感じ。曲に応じて変幻自在に演奏スタイルを変えてきます。表現のメリハリも前2曲よりも落ち着いて、逆に淡々と進めていきます。このあたりの表現はまさに円熟のなせる技。クリアばかりではない弦楽四重奏の魅力をたっぷりと伝えます。4本の楽器が響きあうハーモニーの美しさこそがこの曲のポイントとでも言いたげな演奏。そのまま続くラルゴ・カンタービレに入ると響きの深さがどんどん深くなり、パルカニのヴァイオリンは枯淡の響きを聴かせます。メリハリではなく音色の深さとバランスを巧みに組み合わせて長い楽章にしなやかな変化をもたらします。続くこの曲のメヌエットも非常にユニークなもの。ここでアンサンブルはクッキリとした響きを取り戻し、このユニークなメロディーを精緻に描き出します。そしてフィナーレはハイドンにしてはアクロバティックな音楽。各楽器の音域いっぱいを使って小気味好いメロディーを重ねながら次々と展開していく快感。最後は余裕たっぷりにこの技巧的な曲を軽々とこなして、キリリとまとめて終わります。

先にも書きましたが、彼らが若かりし頃、オルランド四重奏団として演奏した録音よりも、約30年の時を経て円熟を重ねた今回のアルバムの演奏の方が枯れているのではとの想像は見事に打ち砕かれ、もちろん円熟味も加わってはいるものの、逆に若々しくシャープな演奏にまとめてきました。もちろん、メンバーが1人入れ替わったことで、彼らの音楽の方向性が変化したのかもしれませんが、この鮮明かつ表現意欲に溢れた演奏は、このクァルテットが目指す音楽を研ぎ澄ましながら長い時間をかけて純度を上げてきた成果であろうと思います。飛ぶ鳥を落とす勢いを感じさせるオルランド、そして円熟を重ねながら純度を上げ、鮮明な音楽にまとめたパルカニといったところでしょう。私はどちらも甲乙つけがたい魅力を持っていると思います。ということで評価は全曲[+++++]といたします。未聴のOp.33とOp.42も間も無く入手できる見込みですので、こちらも楽しみです。

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tag : 弦楽四重奏曲Op.54 SACD

オルランド四重奏団のOp.54(ハイドン)

通常のレビューに戻ります。

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オルランド四重奏団(Orlando Quartet)の演奏で、ハイドンの弦楽四重奏曲Op.54のNo.1とNo.2の2曲を収めたLP。収録情報には触れられていませんが、レーベル面にはPマークが1981年と印刷されています。レーベルは今は亡き名門蘭PHILIPS。

オルランド四重奏団は1976年にアムステルダムで設立されたクァルテットで、1997年まで活動していました。この演奏当時のメンバーは下記の通り。

第1ヴァイオリン:イシュトヴァン・パルカニー(István Párkányi)
第2ヴァイオリン:ハインツ・オーベルドルファー(Heinz Oberdorfer)
ヴィオラ:フェルディナント・エルブリヒ(Ferdinand Erblich)
チェロ:シュテファン・メッツ(Stefan Metz)

幸松肇さんの「世界の弦楽四重奏団とそのレコード第5巻英加北欧諸国編」を紐解くと、活動当初、1978年10月ヘルシンキで開催されたヨーロッパ放送連合の国際コンクールで優勝し、その特典で与えられたムジークフェラインザールでのコンサートがヨーロッパ各国で放送され、以来ヨーロッパで活躍することになったとのこと。手元にはこのLPの他、Op.76のNo.4「日の出」、No.6の2曲を収めたCDもありますが、そちらの録音表記はPマークが1982年。ということで今日取り上げるLPの方が録音が古いことになります。幸松さんの本にはこのLPが彼らの最初の録音であるように書かれているので、これがデビュー盤ということでしょう。

手に入れたLPはミントコンディション。針を落とすとPHILIPSらしい透明感溢れるクァルテットの響きに釘付けになります。

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Hob.III:58 String Quartet Op.54 No.1 [G] (1788)
これぞハイドンのクァルテットの理想的な響き。軽快なテンポで瑞々しく伸びやかな響きが広がります。メロディー上のアクセントが4人ともピタリと揃う快感。鮮烈さも力強さもあり、1楽章からオルランドの覇気に呑まれます。
続くアレグレットでは第1ヴァイオリンのパルカニーのみならず4人それぞれがかなりの表現意欲を見せ、緩徐楽章にもかかわらず素晴らしい充実感。パルカニーのヴァイオリンはすぅっと伸びる自然な高音の美しさが魅力でしょう。燦々と輝く陽の光を浴びて陰影もくっきりとつく素晴らしい立体感。
メヌエットは晴朗な響きに満ちながらもフレーズごとに推進力をはっきりと変えて音楽の表情をクッキリと浮かび上がらせます。このメヌエットの表情の描きわけの面白さこそオルランドの真骨頂かもしれません。そしてフィナーレは一段テンポを上げて曲の締めにふさわしい充実感を残します。もちろん集結に至るまでのコミカルな展開の描きわけも見事。ハイドンが仕込んだウィットに鮮やかに反応します。極めて正当的な充実したアンサンブル。弦楽四重奏の魅力をストレートに表現した名演奏。

Hob.III:57 String Quartet Op.54 No.2 [C] (1788)
この曲独特の鮮烈な入りも、このクァルテットのキレの良い響きでいきなりあっと言わせます。あまりに見事な入りに言葉が出ません。たかが4本の楽器ですが、素晴らしい迫力に圧倒されます。ハイドンが織り込んだメロディーの美しさを最上の形で響きに変換していきます。曲が進むにつれて、少しずつメロディーを崩しながらこちらの予測を超える表情をつけていきます。時折音量を極端に落とす場面を設けてこの曲に仕込まれたハイドンの仕掛けを次々と掘り起こしていきます。1楽章から圧倒的なパフォーマンス。
2楽章はすすり泣くような実にユニークな短調のアダージョですが、ヴァイオリンの自在なボウイングに対し、伴奏の音量のコントロールが実に緻密でここでも曲に仕込まれた音楽をしっかりと汲みとります。そこからメヌエットへの入りの絶妙な間。次に流れる音楽の気配が無音の中に響くよう。恐ろしい集中力。そしてメヌエットも漆黒の夜に気配を頼りに歩くような見事な進め方。
そして、非常に珍しいアダージョからは始まるフィナーレ。彼らがなぜこの2曲をデビュー盤に選んだかわかりました。ハイドンのクァルテットの中でもことさら表現力が試される構成の曲ゆえ、このオルランド四重奏団のもっとも得意なところが活かせる曲ということでしょう。4人の創意が見事に統一されて、このユニークな終楽章の最上の姿が浮かび上がります。最後のプレストは爆速! そして最後は静寂の中に消え入るように終わります。

いやいや、見事の一言。特にNo.2の方は超絶的名演と言っていいでしょう。全盛期のオランダPHILIPSの名録音によって、全盛期のオルランド四重奏団の演奏が記録された名盤。LPの方はオークションなどでもまだまだ見かけますので、好きな方は是非入手してみてください。

(参考)Op.76のCD
OrlandoQ_Op76.jpg
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tag : 弦楽四重奏曲Op.54 LP

フランチスカス四重奏団の弦楽四重奏曲集(ハイドン)

私ごとで恐縮ですが、金曜日は朝からちょっと体調が優れず、会社に行ってみたものの、どうもだるい。朝から打ち合わせ続きでだんだん調子が悪くなり、しまいには体が火照ってきたので仕方なく夕方早退。家に帰って熱を測ってみると39度近く。そりゃだるいわけです。というわけで、金曜日は大学の先輩との実に久しぶりの飲み会が入っていたのですが、残念ながらキャンセル。もちろん家に帰っても音楽を聴くという体調ではなく食事をとってすぐに休みました。ちょっと思い当たる節もあり翌朝病院に行くと、やはり予想通り。4月に足の甲に怪我をした際の傷口からまたバイキンが入ったことが原因。もちろん傷は治っているのですが、時折痒くて掻いてしまうとかさぶたができるんですね。4月も草むしりの後でしたが、今回も先週末に草むしりで泥だらけになったのがいけなかったのでしょうか。幸い、熱も下がって、今日は父の月命日ちょっと遅れの墓参りなどに出かけましたが、まだちょっとだるさが残っております。まあ、前回同様抗生物質を飲めば快方に向かうでしょうとのことで一安心です。

ここは一発、いい音楽を聴いて元気を取り戻さねばと思っていますが、不思議とこういう時に試練が訪れるものです。

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フランチスカス四重奏団(Franciscus Quartet)によるハイドンの弦楽四重奏曲Op.54のNo.2、Op.77のNo.1、Op.103の3曲を収めたアルバム。収録は1998年7月2日から4日にかけて、オランダ、フェルメールの絵で有名なデルフトの復古カトリック教会(Oud Katholieke Kerk)でのセッション録音。

実はこのアルバム、いつも含蓄に富みまくったコメントをいただくSkunjpさんから送り込まれたもの。世評が高いとされるこのアルバムの真価は如何にとの何やら果し状めいた一文と共に送られて参りました。何となく道場破り、はたまた何でも鑑定団的雰囲気もなくはない中、いつも的確なコメントをいただき、当ブログの奥行きを深めていただいているSkunjpさんからの刺客に向き合わざるをえません。まずは奏者の情報をさらっておきます。

フランチスカス四重奏団は1993年にオランダで設立されたクァルテット。メンバーはオランダのオーケストラで働いていたつながりで集まったようです。デビューと同時に評判をとり、1997年にはコンセルトヘボウにデビューしたとのこと。その後バイエルン放送からの招聘でミュンヘンで演奏したり、1996年オランダのヒルヴェルスムで行われた音楽祭でオランダの放送局からハイドン、モーツァルト、ベートーヴェン、シューベルトなどのCDをリリースしたそうですが、現在市場に出回っているのはChallange Classicsからリリースされているアルバム1枚のみ。今日取り上げるアルバムも入手はなかなか難しいでしょう。

アルバムにメンバーの表記はありませんが、録音年代とネットの情報を見ると下記のメンバーでしょう。

第1ヴァイオリン:ダイアナ・モリス(Diana Morris)
第2ヴァイオリン:レイチェル・イッサーリス(Rachel Isserlis)
ヴィオラ:ギレス・フランシス(Giles Francis)
チェロ:セバスチャン・ファン・エック(Sebastiaan van Eck)

さあ、ここは襟をだだし、シャワーを浴びて身を清め、抗生物質を飲み体調を整え(笑)、いざレビューです。

Hob.III:57 String Quartet Op.54 No.2 [C] (1788)
冒頭から多目の残響と適度な距離感に心地よく響くクァルテットの響き。このアルバムのデジタルマスタリングの担当がヴァイオリンのダイアナ・モリスとチェロのセバスチャン・ファン・エックの名がクレジットされているので、メンバー自体がアルバムの録音にも深く関与しているようですね。この心地よさがハイドンのこの曲の楽天的な雰囲気にピタリときます。演奏は楽天的な雰囲気の中、のびのびとして、屈託のないもの。
この曲は2楽章のアダージョが聴きどころです。最近ではジュリアードの引き締まった演奏にリンゼイの素晴らしい覇気に満ちた演奏に触れたばかり。フランチスカスの演奏はまるでペルトの曲のような暗澹たる持続音に艶やかなヴァイオリンによるメロディーを絡ませたもの。あえてリズムと起伏を抑えて現代的な雰囲気を作っているのでしょうか。この曲のグイとえぐるような踏み込みを期待して聴くと肩透かしを食います。
続くメヌエットの軽やかな入りは見事。相変わらず響きの艶やかさに耳を奪われます。美しい響きと軽やかなリズムでさらりと聴かせるメヌエット。
何度聴いても驚きに満ちたこの曲のフィナーレ。フランチスカスの演奏はじっくりとメロディーをかみしめるように入ります。呼吸の深いメロディーの表現の美しさはかなりのもの。今まで、ちょっとが多目の残響がちょっと楽天的な雰囲気を残して、緊迫度が逆に下がって聴こえていましたが、ここにきてじっくりとしたアプローチに音楽に深みが出てきました。やはりこの終楽章の演奏に焦点を合わせて、あえてそれまでの楽章が泡沫のように響くことを狙っているような気もします。深く心をえぐるハイドンではなく、心地よく美しく響くハイドンのクァルテットといったところでしょうか。

Hob.III:81 String Quartet Op.77 No.1 [G] (1799)
この曲でも非常に美しい響きが印象的な入り。冒頭に刻まれるリズムは意外にしっかりと刻んで、しっかりとした足取り。ヴァイオリンのダイアナ・モリスのボウイングはちょっとクラシックの奏者とは異なり、ムード音楽のように音の中央部のたっぷりと膨らませて弾くのが特徴。それがちょっと楽天的な響きの印象に大きく影響しているよう。それに合わせるように他のパートも、パートの独立性よりも全体のハーモニーを重視して、弦楽四重奏と言うよりオーケストラぽい弾き方に聴こえます。なんとなくこのクァルテットの特徴が分かってきました。その結果、やはり非常に磨かれて美しい、輝くような1楽章になっています。
続く短調のアダージョでは輝かしさとの対比か、このクァルテットにしてはツヤを抑えてじっくりとメロディーを描いていきます。ここではヴィオラもチェロもよく楽器を鳴らしてパート間の緊張感を感じさせるクァルテットらしいところも見せます。
メヌエットはハイドンが晩年にたどり着いた澄み切った心境を感じさせる、屈託のない艶やかさが心地よいですね。このクァルテットの長所が活きた楽章。中間部はデュナーミクの幅が広くグッと踏み込んだ演奏。
そしてフィナーレの晴れやかなメロディーの輝かしさは予想どおり。ヴァイオリンの鮮やかなボウイングに他のパートも刺激されて鮮やかなメロディーが続きます。美音の饗宴。

Hob.III:83 String Quartet Op.103 [d] (before 1803)
ハイドンの作曲人生の最後に書いた曲。淡々とした入りから穏やかな演奏が続きいい具合に枯れた感じが滲みでてきます。これまでの美音尽くしてき表情から一変して、曲の描かれた背景を踏まえた演奏に変わります。特にすっとテンポを落とした以降はさらに枯れた表現が際立ちます。長い休符も印象的。我々がこの曲に抱くイメージの理想の姿のような演奏。ここではヴァイオリンは要所以外は輝きを抑えて、曲の緊張感を保ちます。
そして終楽章になってしまったメヌエットもグイとえぐるような入りからテンションを保ちながら影の部分の深い闇をきちんと描いてきます。音楽に漂う不安な印象と決意のようなものが浮かび上がる迫力の演奏。中間部の張り詰めた感じも悪くありません。そして本当に最後になってしまう冒頭のメロディーに戻るときの無心の鋭さがかえって心に響きます。このメロディーを書いて筆を置いたときのハイドンの心境を表しているような険しさ。これは名演ですね。

私自身はその存在は知っていたものの、Skunjpさんから送られてきて、はじめて聴いたアルバム。確かに磨き抜かれた美しい響きがこのアルバムの魅力であり、このフランチスカス四重奏団の魅力でもあります。おそらくこの響きの美しさと表情の豊かさの魅力が支持される理由かと思いますが、ハイドンのクァルテットにはさらなる深みもあります。途中に書いたように、特に前2曲については、若干響きの美しさに集中しすぎて、少々外面的な演奏に聴こえなくもありません。ハイドンの弦楽四重奏曲を美しくまとめ上げたという点では素晴らしい演奏ですが、聴き方によってはそこがちょっと気になるという人もいるかもしれませんね。最後のOp.103については、曲の真髄を突く名演奏と言っていいでしょう。評価はOp.103が[+++++]、前2曲が[++++]とします。

フランチスカス四重奏団の現役番にはハイドンの弦楽四重奏曲Op.2のNo.3などが含まれているようなので、こちらも手に入れて聴いてみなくてはなりませんね。

Skunjpさん、こんなところでお許しください!

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tag : 弦楽四重奏曲Op.54 弦楽四重奏曲Op.77 弦楽四重奏曲Op.103

リンゼイ四重奏団のOp.54(ハイドン)

前記事で取り上げたジュリアード四重奏団の記事に小鳥遊さんからいただいたコメントが気になり聴き返したアルバム。アルバム全編に漲る気迫に圧倒される演奏です。

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リンゼイ弦楽四重奏団(Lindsay String Quartet)による、ハイドンの弦楽四重奏曲Op.54のNo.1からNo.3の3曲。収録は1987年1月、イギリス中部のリーズ近郊のカークレス・ホール(Kirkless Hall)という石造の居館でのセッション録音。レーベルは英ASV。

リンゼイ四重奏団のアルバムは過去に2度ほど取り上げています。

2013/07/26 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : リンゼイ四重奏団のOp.77、Op.103
2010/12/20 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : 【年末企画】リンゼイ四重奏団の弦楽四重奏曲Op.20「太陽四重奏曲」

奏者の情報は太陽四重奏曲の記事を御覧ください。今回手元にあるリンゼイ四重奏団の演奏をいろいろ調べてみたんですが、このアルバムの収録年は、リンゼイ四重奏団のハイドンの録音のなかでも最も古いものということがわかりました。演奏にみなぎる力感はこのクァルテットがハイドンを取り上げ始めたころの息吹ということなのでしょう。すでに2005年に解散してしまっていますが、今からほぼ30年前の演奏の覇気が時空を超えて迫ってきているということでしょう。

Hob.III:58 String Quartet Op.54 No.1 [G] (1788)
冒頭からはち切れんばかりのエネルギーに満ちた演奏。まるでライヴを聴いているよう。録音は鮮明ながら、石造の居館での録音らしく、硬い残響が多目で人によってはきつい響きに感じるかもしれませんが、かえってライヴらしい感じで私は問題ありません。冒頭から第1ヴァイオリンのピーター・クロッパーの引き締まった音色が鋼の鞭を打つような迫力で迫ってきます。ジュリアードの演奏は同じ引き締まった音色でも張り詰めた印象だったのに対し、こちらはダイナミックに弾み、すぐにフルスロットルの恍惚たる領域に入ってしまいます。いやいや素晴らしい緊張感。
つづくアレグレットはゆったりとした演奏ですがリンゼイ独特のフレーズの膨らませ方で叙情的な雰囲気が強くなります。特にクロッパーのヴァイオリンは泣きが入るような切ない音色でくっきりとメリハリをつけます。ハイドンの古典的な曲調の中で、音楽をじっくりと膨らまして大きな起伏を作っていきます。この緩徐楽章がジュリアードとの決定的な違いを印象付けます。
メヌエットも音の鳴らし始めと鳴らし終わりは柔らかく、ジュリアードのようにエッジをキリリと立てるのとは反対に一音一音の膨らみの重なり合いで音楽を創っていきます。冷徹な秩序に対し、人間的な温かみをベースに創意を凝らしている感じ。音程が時折甘いことがありますが、それもさして違和感はなく、ライヴ的面白さで聴けてしまいます。
全員が拍子を合わせながら快速テンポに合わせてやりとりしているところがよく分かる演奏。ライヴ的感興の高まりが繰り返されクライマックスへ。最後は緩急を絶妙にコントロールして見事な終結を演出します。

Hob.III:57 String Quartet Op.54 No.2 [C] (1788)
ちょっと不揃いなところもありますが、冒頭から緊張感漲る演奏。全員が最高の状態で迎える入り。音からエネルギーが溢れだしてきそう。恐ろしいまでの集中力で演奏にみなぎる力感は弦楽四重奏曲離れしています。ジュリアードとは異なる神々しさ。全員が最高のコンディションで臨んだセッション。恐ろしいまでの集中力がこちらにも伝わってきます。
素晴らしいのが続くアダージョ。全体の秩序に合わせて各パートが弾いているのではなく、息の合ったメンバーが思い思いに演奏する音が結果的に一つの音楽を創っていっている感じ。自在さが際立つ曲だけに、演奏もまさに自在。
すっとメヌエットに入るセンスも流石。途中いくつかの強奏の山を超えていきますが、それぞれの響きの充実度が別格。楽器の音量の範囲を使い切っている感じ。魂の叫びのような強音から一転、ふっと力を抜いたフレーズでクールダウン。
そしてこの曲の頂点たるフィナーレ。最初のアダージョの深い慟哭はまさにリンゼイの面目躍如。そして三途の川の向こう側のような平安なメロディーに移ります。この部分の濃厚な演出はまさにリンゼイならでは。見事。

Hob.III:59 String Quartet Op.54 No.3 [E] (1788)
最後の曲もリンゼイの自在な音楽が弾みます。ジュリアードでは各パートがクッキリと浮かび上がっていましたが、リンゼイでは各パートが溶け合い、第1ヴァイオリンのピーター・クロッパーだけが時折浮かび上がる感じ。これまでの2曲が個性的な構成だったのに対し、この曲ではハイドンらしい落ち着いた筆致による構成に戻ります。力の抜けたところの演奏にもしなやかなメリハリが加わりながらテンションが保たれます。そしてメヌエットも穏やかさを保ち、フィナーレでも八分の力で終えます。もはや余裕たっぷりの演奏。

このアルバムの演奏、リンゼイのハイドンの原点たる演奏なのでしょう。後年の演奏はもっと落ち着いてしまいますが、このころのリンゼイは勢いがありましたね。小鳥遊さんの「トストは、やっぱりリンゼイでしょう」との言葉どおりでした。リンゼイのハイドンはまだ数枚未入手盤があります。こうした演奏を聴いてしまうと、俄然、未入手盤を手に入れたくなってしまいますね。もちろんこのアルバムは全曲[+++++]と付け直します。クァルテット好きな方は手にはいるうちにどうぞ!

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tag : 弦楽四重奏曲Op.54

ジュリアード弦楽四重奏団のOp.54(ハイドン)

7月最初のアルバムは弦楽四重奏曲を取り上げます。

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ジュリアード弦楽四重奏団(Julliard String Quartet)の演奏で、ハイドンの弦楽四重奏曲Op.54のNo.1、No.2、No.3の3曲を収めたLP。収録は1966年4月。レーベルは米CBS。

このアルバム、最近オークションで仕入れたもの。LPの未入手盤をこつこつ集めているところで出会ったアルバムです。ジュリアード弦楽四重奏団の演奏は以前一度レビューに取り上げています。

2011/10/14 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : ジュリアード弦楽四重奏団のOp.74のNo.1、Op.77のNo.1

以前取り上げたのが1957年に録音されたアルバム。今日取り上げるのはその9年後、1966年の録音ということになります。メンバーは第2ヴァイオリン以外は1957年の録音と変わっていません。

第1ヴァイオリン:ロバート・マン(Robert Mann)
第2ヴァイオリン:アール・カーリス(Earl Carlyss)
ヴィオラ:ラファエル・ヒリヤー(Raphael Hillyer)
チェロ:クラウス・アダム(Claus Adam)

Wikipediaなどによると第2ヴァイオリンは、前回取り上げた録音の直後、1958年にイシドア・コーエン(Isidore Cohen)に替わり、今回の録音の直前、1966年にアール・カーリスに替わったということで、アール・カーリスのデビュー直後の録音ということになります。

前回取り上げたアルバム同様、このアルバム、くっきりシャープで無駄のない引き締まった演奏が冴えわたります。ハイドンの弦楽四重奏も演奏によって様々な表情を見せますが、この演奏は鍛え上げられたアメリカの弦楽四重奏の一時代を象徴する見事なもの。アルバムに針を落とすと、いきなり張り詰めた緊張感が味わえる名盤といっていいでしょう。

Hob.III:58 String Quartet Op.54 No.1 [G] (1788)
快速テンポでの入り。完璧に揃ったアンサンブル。少々デッドな録音によってアンサンブルのキレ味がさらに強調されている感じ。そしてLPならではのダイレクトな響き。冒頭から圧倒的なハイテンション。優雅なハイドンをものともせず、タイトなアンサンブルでグイグイト攻め込んできます。
先鋭的な1楽章につづいて2楽章のアレグレットは張り詰めた各パートが艶っぽく美しいメロディーを重ねていきます。精度の高い緻密な表現が極まり、エロティックささえ感じさせるような充実した楽章。彫りの深い音楽が心に響きます。
メヌエットは期待どおりのキレ味。各音の鳴り終わりにもキリリとエッジをつけているのが際立ったキレの良さを感じさせるのでしょう。中間部のチェロの音階の軽やかさも出色。4人とも完璧にそろったボウイングで見事なアンサンブルを聴かせます。
フィナーレの速いパッセージはあまりの正確なボウイングにさらりとさざめくような気配まで醸し出します。変奏が徐々に発展していく変化の面白さが際立ちます。最後の力がすっと抜ける終わり方にハイドンらしいウィットを感じさせてなかなかです。

Hob.III:57 String Quartet Op.54 No.2 [C] (1788)
込み入ったメロディーが一つの主題に収斂する面白さを、解剖図のように克明に描いてはじまります。この曲の特定のメロディーにフォーカスを合わせたり、ぼかしたりというアイデアの秀逸な構造がジュリアードの演奏で際立ちます。響きの音離れの良さを印象付ける1楽章の最後の一音。
その最後の響きから、つづく短調のアダージョへの切り替えの鮮やかさ。キレ味鋭いジュリアードでもしっとりとした響きを作れるのだと言いたげ。もちろんただしっとりとしているだけでなく、音楽としてアーティスティックな気配を纏い、ただしっとりとした演奏ではないことがわかります。
ちょっと鳥肌がたったのが次のメヌエットの入り。グールドの演奏に時折あらわれる冴え渡った感覚と同じような恍惚とさえ感じる瞬間です。音数は少ないのに、空間を完全に支配しているような感覚。ハイドンはこうした気配までイメージして曲を書いていたのでしょうか。
珍しくアダージョから入るフィナーレですが、その入りのテンポを思い切り落として音楽が深く沈みます。曲ごとの切り替えの鮮やかさが際立ちます。演奏は4人の息がピタリと合って完璧、というか神がかっています。

Hob.III:59 String Quartet Op.54 No.3 [E] (1788)
見事な演奏がつづき、すっかりジュリアードペースにはまってます。この曲も旋律の面白さ、各パートの織りなす綾の面白さ、そしてジュリアードの名演奏により、各パートのくっきりとして変化にも富んだ音色に釘付けです。ロバート・マンのヴァイオリンも低音から高音まで微妙に音色の変化があり、意外と軽やかな高音の響きと、厚みを感じる低音部の対比が音楽の表情に複雑なニュアンスを加えています。クァルテットとしての表現の完成度が高いというのはこういうことなのでしょう。
つづくラルゴ・カンタービレ。クラウス・アダムの燻らしたようなチェロの深い音色が印象的。そしてくっきりとしたメロディーが絡み合いながら、大きな波に乗っているようにうねりって音楽を作っていきます。メロディーラインに耳が行きますが、ふと気づくと大きな起伏のゆったりとした流れの中にいることに気づきます。
そしてこの曲のメヌエットでは諧謔的な面白さにスポットライトを当てます。作曲時期が交響曲88番などと同時期であり、なんとなくこのアイデアは頷けるところ。
最後のフィナーレは、典型的なハイドンのフィナーレ。メロディーが巧みに変化して離合集散しながらクライマックスに至る起伏を経て、最後にキリリと締まります。一糸乱れぬアンサンブルにジュリアードの面目躍如。素晴らしい演奏でした。

このアルバム、ジュリアード弦楽四重奏団の冴え渡るタイトなボウイングが楽しめる名盤ですが、ちょっと調べてもCD化されたような形跡はありません。ハイドンの弦楽四重奏を張り詰めた緊張感満点で聴かせる精緻なテクニックは流石、ジュリアードというところでしょう。録音もこうした演奏に華を添える精緻なもので、クァルテット好きの方には宝物のようなアルバムだと言っていいでしょう。評価はもちろん全曲[+++++]としますが、とりわけNo.2が深く印象に残りました。

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tag : 弦楽四重奏曲Op.54 ヒストリカル LP

アマティ四重奏団のOp.54のNo.1(ハイドン)

以前取りあげた演奏が素晴しかったアマティ四重奏団の未聴のアルバムが手に入りました。

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アマティ四重奏団(Amati Quartett)の演奏による、モーツァルトの弦楽四重奏曲No.10(KV.170)、ハイドンの弦楽四重奏曲Op.54のNo.1、モーツァルトの弦楽四重奏曲No.19「不協和音」(KV.465)の3曲を収めたアルバム。ハイドンの収録は2001年10月14日、フランクフルト放送の放送ホールでのセッション録音。レーベルはスイスDIVOX。

先に触れたとおり、アマティ四重奏団のアルバムは以前に2度ほど取りあげています。

2012/03/31 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : アマティ四重奏団のOp.50
2012/03/09 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : アマティ四重奏団のOp.77

上の記事を参照いただければわかるとおり、アマティ四重奏団の演奏は、ハイドンの弦楽四重奏曲の演奏としては理想的なもの。手元にあるのはレビューした1988年録音のOp.77と1995年録音のOp.50の後半3曲の2つのアルバムですが、今日取り上げる演奏はそれより新しい2001年の録音。ハイドンの録音は他に未入手のOp.50の前半3曲のみですが、この録音ペースをみればわかるとおり、録音もかなり間をおいてじっくりアプローチしているよう。その演奏の出来を聴くと、録音には周到な準備をしてのことと想像できます。このアルバム演奏当時のメンバーは下記のとおり。1995年のOp.50の録音の時と同じメンバーです。

第1ヴァイオリン:ウィリィ・ツィマーマン(Willi Zimmermann)
第2ヴァイオリン:カタルツィナ・ナヴロテク(Ktarzyna Nawrotek)
ヴィオラ:ニコラス・コルティ(Nicholas Corti)
チェロ:クラウディウス・ヘルマン(Claudius Herrmann)

このアルバムでも以前の録音と同様、ハイドンのクァルテットの輝き、キレ、美しいメロディーを理想的にまとめたような高みに至っています。ハイドンのクァルテットの素晴しさを余すところ無く伝える名演奏と言っていいでしょう。

Hob.III:58 / String Quartet Op.54 No.1 [G] (1788)
なんという輝き。弦楽四重奏の最上の響き。速めのテンポできらめくようにハイドンのメロディーを演奏していきます。これより美しい響きを作る事は難しいのではと思わせる完璧なアンサンブル。録音も弦楽器の美しい響きと胴鳴りを鮮明にとらえた素晴しいもの。高音の美しいのは言うまでもありませんが、ヴィオラとチェロの存在感もかなりのもの。音量を上げて聴くと、眼前にクァルテットが等身大で出現。息をもつかせぬ緊密なアンサンブルに圧倒されます。1楽章から見事な演奏に引き込まれます。
アレグレットは第1ヴァイオリンのツィマーマンの美音と他の3人の伴奏が明確に対比され、メロディーラインがクッキリと浮かび上がります。アンサンブルはキレキレ。4人の息がピタリと合って、ボウイングにも寸分のずれもありません。超高精度ながら、精度に感心があるのではなく、音楽が実に自然に流れます。アルバンベルクの演奏がメロディーをかっちりと合わせることに集中している一方、こちらは精度はそれ以上ながら、合わせているのは音楽の呼吸。より深いレベルでの音楽を造っているように聴こえます。
メヌエットに入ると、冒頭から程よい軽さを帯びて音楽が活き活きと弾みます。まさに絶妙な音楽。この呼吸の見事さは尋常ではありません。まさにフレージングが神がかっています。奇跡の精度。
フィナーレは足早なのに音楽はじっくりと地に足がついて次々とメロディーを受け渡していきます。そして弦楽器4本という構成でのダイナミクスの限りを尽くした起伏。曲のクライマックスに相応しい盛り上がりを聴かせますが、合間に力を抜くところのセンスが良いので強音が引き立ちます。最後は絶妙な力の抜きを聴かせて終わります。ブラヴォー!

いやいや、前2枚のアルバムも素晴しかったのですが、このアルバムの演奏もキレてました。前後に置かれたモーツァルトもハイドン同様、素晴しい演奏。古典期の弦楽四重奏の魅力が詰まった見事な出来にうっとり。このアルバムほど弦楽四重奏曲の魅力をわかりやすくつたえるものは無いでしょう。すべての人に聴いていただきたい超名盤です。評価はもちろん[+++++]以外をつける余地はありません。幸いまだ入手可能なようなので、興味のある方は今のうちに!

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tag : 弦楽四重奏曲Op.54

【新着】シュパンツィヒ四重奏団の弦楽四重奏曲集(ハイドン)

今日は新着盤。

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シュパンツィヒ四重奏団(Schuppanzigh-Quartett)の演奏によるハイドンの弦楽四重奏曲3曲(Op.54のNo.1、Op.20のNo.2、Op.74のNo.3「騎士」)を収めたアルバム。収録は2011年12月8日から11日にかけて、ベルリンの南西、ポツダムに近いヴァン湖のほとりにあるアンドレアス教会でのセッション録音。レーベルはベルギーの名門ACCENT。

このアルバム、調べてみるとシュパンツィヒ四重奏団のハイドンの弦楽四重奏団の3枚目にリリースされたアルバムとのことですが、先にリリースされたアルバムも手元になく、このアルバムを聴いてあわてて発注した次第ですが、在庫状況がいまいちで、なかなか入荷しません。先にリリースされたアルバムを聴いてからレビューしようと、まさに棚に上げていたんですが、しびれを切らしてレビューです(笑)

シュパンツィヒ四重奏団は1996に設立されたピリオド楽器による四重奏団。もともとハイドンが生きていた頃とも重なる時代に活躍していたオーストリアの名ヴァイオリニスト、イグナツ・シュパンツィヒが1796年に設立した四重奏団ですが、それから200年を記念して1996年に新生シュパンツィヒ四重奏団が設立されたとのこと。メンバーは下記の通り。

第1ヴァイオリン:アントン・シュテック(Anton Steck)
第2ヴァイオリン:フランク・ポールマン(Franc Polman)
ヴィオラ:クリスティアン・グーセンズ(Chiritian Goosses)
チェロ:ウェルナー・マツケ(Werner Matzke)

アントン・シュテックとクリスティアン・グーセンズは以前に同じACCENTからリリースされているハイドンのヴァイオリンとヴィオラのためのソナタ集の記事で略歴を紹介しています。

2012/08/12 : ハイドン–室内楽曲 : アントン・シュテック/クリスティアン・グーセズによるヴァイオリンとヴィオラのためのソナタ集

ヴァイオリンのフランク・ポールマンはムジカ・アンティカ・ケルンやレ・ ミュジシャン・デュ・ルーヴルのメンバー、そしてチェリストのウェルナー・マツケはコンチェルト・ケルンやアムステルダム・バロック・オーケストラのメンバーと4人とも古楽器界で広く活躍している人ということです。

Hob.III:58 / String Quartet Op.54 No.1 [G] (1788)
いきなりエネルギッシュな古楽器の張りのある響き。教会らしい残響がほんのり乗りますが、オンマイクでしっかり捕らえられた4人の響きは鮮明。アントン・シュテックのヴァイオリンはなかなかのキレ。キリッとアクセントをつけてクッキリとメロディーを描いていきます。このアルバム、基本的に古楽器を良く響かせて、虚飾もハッタリもなく、自然体の一貫した演奏スタイルで、演奏を楽しんでいるよう。4人の演奏スタイルがピシッと合った演奏。カミソリのようなキレ味ではなく、意外と素朴な印象もあり、逆に好ましく感じられます。中期のこの曲では、曲の明るさを踏まえてよく弾む演奏でした。基本的に楽天的な演奏ですが、ハイドンの音楽の本質と重なるということで、説得力もあります。フィナーレの終盤の響きやテンポの変化、間を使った遊びなど、実に演出上手。スカッと楽しめる演奏です。

Hob.III:32 / String Quartet Op.20 No.2 [C] (1772)
一転アルカイックな響きの魅力が溢れるこの曲。クッキリメリハリが効いた演奏に違いはありませんが、ほんのりと漂うシュトルム・ウント・ドラング期の濃厚な空気。演奏者として一定の視点から曲を解釈しているのですが、微妙に曲のもつ雰囲気を描き分けているのが素晴しいところ。滲みでる情感。やはりこの曲は名曲なんでしょう。音楽が淀むことはなく、次々とハイドンの書いたメロディーが繰り出され、めくるめくように響いてきます。チェロの実に晴朗なフレーズに心が洗われるよう。アダージョではシュテックのすこしテンションを下げつつ、孤高の表情を見せ始めます。良く聴くと演奏の精度が抜群に高い訳ではなく、適度に粗さもあるのですが、それがまた良い味わいにつながっています。長調に転調する場面は何度聴いてもいいもの。パッと一筋の光明が射すよう。メヌエットでは鳥のさえずるような軽さと和音の精妙な重なりの美しさを引き出し、フィナーレではさらりとした感触のフーガのデリケートなタッチの魅力を存分に表現。曲によって聴かせどころを微妙に合わせる手腕は見事です。

Hob.III:74 / String Quartet Op.74 No.3 "Reiterquartetett" 「騎士」 [g] (1793)
妙に心に刺さる入り。響きの強さではなく、じっくり構えたフレージングが刺さります。やはり湧き出るように音楽が進むのがこのクァルテットの良いところ。キツい陰影ではなく、デリケートにトーンが変化する大判フィルムで撮影したモノクロームの写真のよう。どの音域もデリケートなトーンが良く出ていて、実にニュアンスが豊か。力で攻めてくるクァルテットも多い曲ですが、逆に力は抜き気味で曲のメロディーラインの髄を捉えようとしているよう。この引いたアプローチ、良いですね。優雅な部分の余裕が際立ち、結果的に険しい部分の彫り込みも浮かび上がります。
精妙、クッキリくると思ったラルゴですが、意外とサバサバとした自然なアプローチでした。所々に盛り上げどころを配置していますが、自然な語り口から迸る情感は説得力があり、曲自体の美しさが際立つという寸法。このへんの演出の上手さはシュパンツィヒならではでしょう。メヌエットも力を抜き気味でラフな表情をみせつつ自然な進行。フィナーレはタッチの軽さと良く弾むフレーズで、再びクッキリしたキレの良い演奏が戻ってきました。やはり楽器を良く鳴らしながら、8分の力で軽々と弾き進めていきます。この楽天的な推進力はこのクァルテットの特徴でしょう。フレーズごとの変化も巧みにつけて、名曲のフィナーレに相応しい幅の広い表現を聴かせます。クライマックスの表現は流石聴かせ上手。

古楽器の名手ぞろいのシュパンツィヒ四重奏団の弦楽四重奏曲集。作品ごとにまとめてリリースするのではなく、1曲1曲を組み合わせてアルバムを構成するあたり、ハイドンの弦楽四重奏曲に対する確かな選曲眼があるのだとでもいいたそうなアルバム構成でした。演奏はやはりハイドンを演奏し慣れていることとうかがわせる円熟したアプローチ。クッキリと曲を弾き進めることが基本にありながらも、所々で踏み込んだ解釈を織り交ぜ、聴くものを飽きさせません。このアルバム、ハイドンの弦楽四重奏をいろいろ聴き込んだ方にこそわかる、確かな違いがありますね。評価は全曲[+++++]としたいと思います。

発注中の2枚のこれに先立つアルバムの到着が楽しみですね。

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tag : 弦楽四重奏曲Op.54 弦楽四重奏曲Op.20 弦楽四重奏曲Op.74 騎士 古楽器

サッコーニ四重奏団のOp.54

アーティスティックなジャケットが印象的なアルバム。

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サッコーニ四重奏団(Sacconi Quartet)の演奏による、ハイドンの弦楽四重奏曲Op.54のNo.1、No.2、No.3の3曲を収めたアルバム。収録は2008年7月21日、22日、8月4日にかけて、イングランド南東部サセックスのペットワース近郊のチャンプス・ヒル(champs Hill)のミージック・ルームという室内楽用の160席のホールでのセッション録音。レーベルはこのクァルテット自体のレーベルと思われるsacconi recordsというところ。

このアルバム、湖国JHさんからお借りしたもの。あまり見た事のないレーベルですが、上に紹介したとおり、HMV ONLINE、amazon、TOWER RECORDS、iTunesまですべて流通していますので、手に入れるのは容易でしょう。印象的なジャケットから湖国JHさんがジャケット買いしたという曰く付きのアルバム。ライナーノーツの記載によると、ネイル・カンニング(Neil Canning)という画家がサッコーニ四重奏団の演奏に触発されて描いた絵とのこと。普段音を言葉で説明する事に苦労している立場ですが、音を絵にするとこうなるのかと、妙に納得してみたりしています(笑)

演奏者のサッコーニ四重奏団は2001年、王立音楽大学ので結成されたクァルテット。サッコーニという名称は、イタリアの著名なヴァイオリン製作者・修復家のシモーネ・サッコーニ(Simone Sacconi)氏に由来するとのこと。サッコーニ氏の著作「ストラディヴァリウスの秘密」はヴァイオリン製作者必携の教本とのこと。弦楽器の響きに格別のこだわりがあるということでしょうか。2006年にロンドン国際弦楽四重奏コンクールで2位になったほか多くのコンクールで入賞しているそうです。最初にコンサートに出演したのが2008年ということなので、このハイドンのアルバムはコンサートデビューの頃の録音ということになります。メンバーは下記のとおり。

第1ヴァイオリン:ベン・ハンコックス(Ben Hancox)
第2ヴァイオリン:ハンナ・ドーソン(Hannah Dawson)
ヴィオラ:ロビン・アシュウェル(Robin Ashwell)
チェロ:カーラ・ベリッヂ(Cara Berridge)

写真を見ると若手美男美女のクァルテットのようです。クァルテットのサイトも紹介しておきましょう。

Sacconi Quartet » Home

さて、肝心の演奏はジャケットの絵のような躍動感と色彩感、前衛性がにじみ出るものでしょうか。若手クァルテットがハイドンに挑むのを聴くのは非常に興味をそそります。

Hob.III:58 / String Quartet Op.54 No.1 [G] (1788)
なんと、予想通り艶やかで色彩感溢れる演奏。若手らしい溌剌としたエネルギーに溢れた演奏。フレーズのつなぎ目がちょっとギクシャクした印象のところがあるところも含めて、新鮮な演奏。ストイックという感じはなく、基本的にノリのいい演奏。スタイリッシュと言う言葉が相応しいでしょうか。メロディーが絡み合うところのカオスの様な雰囲気はまさにジャケットの絵を彷彿とさせる瞬間があります。
つづくアンダンテは楽天的な面と、現代音楽風のキレの良さが相俟って独特の軽さが魅力。心情を濃く表現するのとは対極にある、センスの良い響きの面白さで聴かせます。彼らが響きの美しいOp.54をなぜ選んだのかがわかるような気がします。
メヌエットも同様。録音上のバランスはチェロが少し弱めなのが、いい具合に軽さの表現につながっているのかもしれません。録音は十分鮮明。160人収容という小ホールに適度に響く残響もいい感じ。弦楽四重奏の演奏、録音にはベストなホールと聴きました。
フィナーレは独特の躍動感がユニーク。踏み込みがもう一歩欲しいという印象もあるんですが、この軽さも捨て難いもの。ハイドンの弦楽四重奏曲の捉え方の問題だと思いますが、大上段に構えてストイックな演奏よりも、この遊び心を感じる適度な軽さもまた、本質を捕らえたものに違いありません。実に楽しそうに演奏しているのがわかる好演です。

Hob.III:57 / String Quartet Op.54 No.2 [C] (1788)
演奏は安定しており、曲ごとのムラも少ないので、あとの2曲はカンタンに触れるのみにしておきましょう。やはり、リズムと起伏、メロディーの間の面白さに主眼をおいた、爽やかな演奏。音楽が重くなる瞬間はなく、軽々と弓を運んでいるよう。短調のアダージョもメランコリックな表情で重くならずにこなし、メヌエットにつなぎます。しっかりと拍子を刻んでいるんですが、爽やかさを失わないところが流石。幽玄な終楽章もクァルテットの各楽器がデリケートに重なり合っていく響きの面白さに置き換えてアーティスティックに聴かせます。この曲、先日とりあげたガブリエリ弦楽四重奏団の燻し銀の演奏も良かったんですが、この新鮮な響きも良いですね。

Hob.III:59 / String Quartet Op.54 No.3 [E] (1788)
ちょっと地味な曲ですが、サッコーニ四重奏団の手にかかると、地味ながら淡い色彩感をつけて華やかな印象もついてしまうのが不思議なところ。響きの新鮮さとは裏腹に、これまでの音楽を聴くと、達観したかのように一貫してハイドンの曲の面白さのみにスポットライトを当てる視点が存在し、そういう意味では老成した音楽でもあります。若手らしい感情移入はなく、逆に感情は冷静にコントロールされ、響きのキレや音の重なりの面白さに集中しているようです。深い音楽ですね。長いラルゴも訥々と聴かせ、メヌエットは軽さを聴けと言われているよう。フィナーレはこのアルバムの最後に相応しい振り返るような表情が秀逸。軽さとデュナーミクの変化、リズムの面白さとこのクァルテットの特徴がすべて出た面白いもの。

ジャケットの絵からのインスピレーション、もとい、このクァルテットの演奏からインスピレーションを得て書いたジャケットの絵は、まさにこの演奏の特徴を捕らえたものだと言う事がわかりました。今時珍しい、表現は踏み込まない演奏ながら、音楽は豊かで、しかもハイドンのクァルテットの面白さを十分に表現したもの。これは気に入りました。疲れて帰った日に、このアルバムを聴きながらのんびり過ごすなんて言う聴き方にも好適なものでしょう。評価は全曲[+++++]とします。

このアルバム、最近のアルバムにはめずらしく、トラック毎のタイミング表示がありません。時間等気にせず聴けというメッセージでしょうか。リストマニアとしてはタイミングがわからないアルバムは困るんです(笑)

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tag : 弦楽四重奏曲Op.54

ガブリエリ弦楽四重奏団のひばり他

今日は弦楽四重奏曲。燻し銀の一枚。

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ガブリエリ弦楽四重奏団(Gabrieli String Quartet)の演奏で、ハイドンの弦楽四重奏曲Op.64のNo.5「ひばり」、Op.54のNo.2の2曲の演奏を収めたアルバム。収録は1986年2月13日から15日にかけて、イギリス、ロンドンの北東にあるスネイプという街のモルティングというコンサートホール。オールドバラ音楽祭のメイン会場として知られたホールとのこと。レーベルは英CHANDOS。

ガブリエリ弦楽四重奏団は1966年に創設された弦楽四重奏団。特にイギリスでは良く知られた存在のようです。オールドバラ音楽祭、チェルトナム音楽祭、シティ・オブ・ロンドン音楽祭などの常連であり、またバービカン・センターで行われるモストリー・モーツァルト音楽祭にも毎年出演しているそう。ラジオやテレビにも頻繁に出演しています。1971年以降イングランド南東部のコルチェスターにあるエセックス大学に所属するクァルテットとなっています。録音も多く、このアルバムが録音された1986年以降CHANDOSと契約し、ブラームス、エルガー、ウォルトンなどの曲を録音したそうです。

このアルバムの演奏当時のメンバーは次のとおり。

第1ヴァイオリン:ケネス・シリトー(Kenneth Silito)
第2ヴァイオリン:ブレンダン・オライリー(Brendan O'Reilly)
ヴィオラ:イアン・ジュェル(Ian Jewel)
チェロ:キース・ハーヴェイ(Keith Harbey)

このあと、ヴァイオリンの2人は他の人に替わっています。

Hob.III:63 / String Quartet Op.64 No.5 "Lerchenquartetett" 「ひばり」 [D] (1790)
実に間の上手くとれた入り。この曲独特の雰囲気を良くつかんで、軽々とした、しかも趣き深いリズム。いきなりぐっと心をつかまれたよう。ヴァイオリンの伸びやかさは流石名門。チェロの存在感も素晴しく、ハイドンの曲の面白さがクッキリ浮かび上がります。録音はCHANDOSだけに手慣れたもの。少し古びた印象がなくはありませんが、弦楽器独特のテンションの高さを上手く録っていて、かなり迫力ある音。オンマイク気味ながら弦の響きは失われていません。おそらく何度も演奏している名曲でしょう、聴かせどころは完全に掌握して、余裕たっぷりの演奏。
つづくアダージョ・カンタービレは、クァルテットらしい弦楽器同士の精妙な音の重なりを通して陰のある表情をじつに上手く表現していきます。手慣れているとはいっても、聴かせどころをきちんと落としてくるあたりは流石。ふっと明るさが射すところの絶妙な変化、ちょっとした間の効果的な配置、ふと力を抜くところなど、クァルテットを聴く悦びに溢れる楽章。
楽章間の変化も見事。メヌエットは刺さるようにクッキリと入り、前楽章の余韻を断ち切るよう。噛み締めるようにじっくりと溜めたリズムによって曲の構造を透視するよう。
フィナーレはあえて、ゆっくりと。速いパッセージをスローモーションで見せるような面白い効果。フレーズを次々と受け渡していく面白さがよくわかります。いやいや見事な演奏。

Hob.III:57 / String Quartet Op.54 No.2 [C] (1788)
つづいて第一トスト四重奏曲集から。エステルハージ侯爵家の楽団にいたヨハン・トストというヴァイオリン奏者が、侯爵家を去ってパリに行くにあたり、楽長のハイドンにパリで演奏する弦楽四重奏曲と交響曲の作曲を依頼し、作曲された曲。弦楽四重奏曲はOp.54と55の6曲。ちなみに交響曲は88番、89番の2曲。
パリで演奏するこためかどうか、曲想もすこし変わっていて、アダージョのメランコリックな旋律が印象的な曲。前曲の老練なテクニックと安定した演奏を聴いているので、安心して身を任せることができます。1楽章はこちらも曲のツボを押さえて、弦楽四重奏曲の演奏の伝統の重さを感じさせるもの。クッキリとした表情で、次々とハイドンの旋律を描いていきながら、アンサンブルの精妙さを印象づける見事なもの。4人の音楽の方向性が完全に一致していて揺るぎない安定感。プロの技を見せつけます。
アダージョは霞のなかの景色を見るようなぼんやりとした表情が独特。ガブリエリ弦楽四重奏団は曲にあわせて、霞のような音楽をつくっていきます。この辺の表現の幅の広さはは伊達ではありません。意外と演奏が難しい楽章なんではないでしょうか。
霞が晴れて、緑がクッキリ浮かび上がってくるところを描いたようなメヌエットの入り。いつもながらハイドンの創意に感服ですが、それを非常にうまく音楽にするガブリエリも流石。軽さの表現が秀逸。盤石の解釈。
アダージョから入る珍しいフィナーレ。ゆったりした演奏ですが、耳を澄ますと各楽器の非常にデリケートなボウイングによるメロディーの交換が素晴しい音楽をつくっていきます。静かなクライマックス。大海原を波に揺られて進むような実に豊かな音楽。終盤のプレストはカッチリ決めて、再びアダージョに戻り、静かに曲を閉じます。

最初は手堅い演奏かと思いきや、聴き進めるにつれて音楽の豊かさとプロの技の素晴しさが印象的な演奏だとわかりました。ハイドンの弦楽四重奏曲のツボを押さえて、実に趣き深い演奏。説得力のある解釈に感服しました。イギリスの実力派クァルテットの底力を見た気がします。評価は両曲とも[+++++]とします。

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tag : 弦楽四重奏曲Op.64 ひばり 弦楽四重奏曲Op.54

シネ・ノミネ四重奏団の弦楽四重奏曲集

先日、ディスクユニオンで発見したアルバム。マイナー盤がつづきます。

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シネ・ノミネ四重奏団(Quatuor Sine Nomine)の演奏によるハイドンの弦楽四重奏曲Op.17のNo.4、Op.20のNo.4、Op.54のNo.2の3曲を収めたアルバム。収録は1992年5月、スイス、ローザンヌのギィ・ファロ・スタジオでのセッション録音。レーベルはスイスのCASCAVELLE。

まったく未知の四重奏団。調べてみるとシューベルトやブラームスの録音がある他、ハイドンもこの他に「十字架上のキリストの最後の七つの言葉」があるようです。

シネ・ノミネとはラテン語で「名前のない」という意とのこと。ということで、「名も無き四重奏団」といったところでしょうか。彼らのウェブサイトがありましたので、紹介しておきましょう。

Quatuor Sine Nomine

本拠地はローザンヌのようで、ライナーノーツに記載されたこの演奏当時のメンバーは下記のとおり。

第1ヴァイオリン:パトリック・ジュネ(Patrick Genet)
第2ヴァイオリン:フランソワ・ゴトロー(François Gottraux)
ヴィオラ:ニコラシュ・バシュ(Nicholas Pache)
チェロ:マルク・ジェルマン(Marc Jaermann)

ウェブサイトに記載されたメンバーはヴィオラが変わっていますが、3人はそのままです。ウェブサイトなどの情報によれば、設立は1982年で、間もなく1985年のエヴィアン国際コンクールと、1987年イタリアのレッジョ・エミリアのパオロ・ボルチャーニ国際コンクールでの優勝によって、国際的に知られるようになり、ロンドンのウィグモア・ホール、アムステルダムコンセルトヘボウ、ニューヨークのカーネギーホールなどでコンサートを開く一流アーティストの仲間入りを果たしました。その後、メロス四重奏団への師事やアンリ・ディティユーの作品のレコーディングの経験が彼らの演奏に大きな影響を与えたとの事です。レパートリーはハイドンから現代音楽までと幅広く、現代の作曲家の作品の初演も多く手がけています。
 
Hob.III:28 / String Quartet Op.17 No.4 [c] (1771)
独特の燻したような木質系の弦の音色がユニーク。ヴァイオリンは伸び伸びとした演奏で、ハイドンの初期の弦楽四重奏曲を溌剌とした音楽に仕立て上げています。若さ溢れるのびのびとしたハイドン。延ばす音の張りのあるフレージングとリズムの鮮度が良いので、素朴な造りの曲と演奏スタイルがマッチして、これはこれで完成度の高さを感じます。録音は奥行き感が少し浅めで、狭い部屋での録音のように聴こえます。鮮明さは十分。
2楽章がメヌエットになりますが、後年の迫力はまだ感じられず、曲調はシンプル。それだけに鮮度のよい表現が功を奏して、楽しい曲調が素直に表せています。つづくアダージョ・カンタービレではくだけた表現が加わり、表現の幅が広がります。それぞれのパートの演奏を奏者自身が楽しんでいる笑顔が見えてくるような演奏。初期の弦楽四重奏曲の特徴であるじわりとくる朗らかさが上手く表現できています。各パートが本当に良く歌っています。ここに来て表現に深みが加わり、シネ・ノミネ四重奏団の音楽が少し見えてきました。
フィナーレは畳み掛けるようなアンサンブルの面白さがよくわかる演奏。各パートのフレージングが手に取るように独立してわかる演奏ゆえ、音の重なりの面白さはかなりのもの。1曲目からいいところを狙ってます。

Hob.III:34 / String Quartet Op.20 No.4 [D] (1772)
おなじみ太陽四重奏曲集から。独特の燻したような音色が、前曲よりもさらに曲想に合って実にいい雰囲気。聴き進むと前曲では素朴さが曲調に合っていましたが、曲の構えが大きくなると、表現の幅がもう少し大きければと感じるようになります。音色も演奏もかなりいい線言っているのですが、もう一段の構えの大きさや個性が欲しくなってしまうところ。おそらく独特の音色の響きや、フレーズ単位の磨き上げに感心が集中しているからでしょう。
2楽章も同様ですが、短調による寂しげなメロディーが繰り返すところの切々とした感じは逆に上手く表現できています。途中からのチェロがメロディーを担当する部分では、意外に雄弁なチェロのボウイングがかなりのインパクト。ちょっと彼らの表現のツボがわかってきました。音数が少ないフレーズでもしっかりとメロディーラインを紡いでいくところが上手いですね。
3楽章のメヌエットを聴き進むと、すこしリズムの重さを感じるようになり、それが少々単調さをはらむようになります。
フィナーレは第1、第2ヴァイオリンのキレの良い掛け合いが見事な演奏。全体にいい演奏だと思いますが、独特の音色と少々空間の狭さを感じる録音で、すこしスケール感がスポイルされている印象があります。

Hob.III:57 / String Quartet Op.54 No.2 [C] (1788)
前2曲に比べて音楽の表現の多彩さが印象に残ります。ハイドンの音楽の進化を感じます。音楽の構成の面白さが大きく進歩します。この曲はこのアルバムでも聴き所でしょう。シネ・ノミネ四重奏団の表現スタイルと曲が一番マッチした演奏に聴こえます。続く2楽章は非常に変わった曲。引きずるようなヴァイオリンのメロディーラインが古典派の枠を超えていくよう。そして鮮やかなスタイルチェンジで、3楽章の軽妙なメヌエットへ入ります。ハイドンの実験心を覗き見るような微笑ましい曲。こういった素朴な表現は独特の音色もあって、なかなか効果的です。そしてフィナーレは荘重なアダージョから入る、かなり変則的なもの。ユーモラスさと優雅さの相俟った不思議な曲ですが、その辺の面白さの表現は秀逸。存在感のある音色と、落ち着き払った演奏が曲の面白さをクッキリと浮かび上がらせます。最後は鼠が走り回るようなプレストを挟んで、再び荘重なアダージョになります。

名も無き四重奏団と呼ばれるシネ・ノミネ四重奏団によるハイドンの弦楽四重奏曲集。ハイドンの四重奏曲を録音する時に最初に選ぶ曲ではない、珍しい3曲を選んで録音しているところからも、このクァルテットのユニークさが伝わります。燻したような独特の音色と、時には伸びがある演奏、時にはユーモア溢れる演奏と、多様な側面を聴かせてくれる、何か気になる可能性を感じさせてくれるクァルテットです。このアルバムでは最後のOp.54のNo.2が聴き所でしょう。この曲が[+++++]、他2曲は[++++]とします。

今週は月曜から急遽福岡日帰り出張。火曜以降も仕事が忙しく3日がかりでようやく記事を1本書きあげました。なかなか思うように運びませんね。

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tag : 弦楽四重奏曲Op.17 弦楽四重奏曲Op.20 弦楽四重奏曲Op.54

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なぜかハイドン(Franz Joseph Haydn)が特に気に入り膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。東京在住のごく普通のサラリーマンです。

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Joseph Haydn Discography at H. R. A.
所有盤をジャンル別にリスト化しています。基本的に録音年順とし、録音年不明のものは末尾に記載。演奏者名はジャケットなどの表記に合わせています。

2017年7月のデータ(2017年7月31日)
登録曲数:1,361曲 登録演奏数:10,291
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