【新着】ドーリック四重奏団のOp.64(ハイドン)

久々の新着アルバムです。

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ドーリック弦楽四重奏団(Doric String Quartet)によるハイドンの弦楽四重奏曲Op.64のNo.1からNo.6までの6曲を収めたアルバム。収録はNo.3、4、5が2017年5月5日から7日、その他の曲が同10月23日から25日、イングランド東部の北海沿岸で、オールドバラ音楽祭で知られるオールドバラの北方10kmにあるダンウィッチ(Dunwich)のポットンホールでのセッション録音。レーベルは英CHANDOS。

ドーリック弦楽四重奏団の演奏はこれまでに2度取り上げています。

2015/04/16 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : ドーリック弦楽四重奏団の太陽四重奏曲集(ハイドン)
2013/06/20 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : ドーリック弦楽四重奏団のウィグモアホールライヴ

今日取り上げるアルバムはCHANDOSレーベルからリリースされているハイドンの弦楽四重奏曲集の第3巻。2009年のウィグモアホールでの素晴らしいライブの後、第1巻のop.20が2013年の収録、第2巻のOp.76が2015年の収録、今回リリースされた第3巻のOp.64が2017年の収録ということで、非常に計画的にリリースを重ねてきている状況。第1巻はまだちょっと固さが残っているようで、ウィグモアホールの熱気あるライヴとはちょっと差があったというのが正直なところ。そして第2巻はわずかに表現意欲が過ぎてハイドンの流れの良さを活かしきれない感じもしたので取り上げませんでしたが、今度の第3巻はどのような仕上がりか気になり取り上げた次第。1巻以降はメンバーに変動はありません。

第1ヴァイオリン:アレックス・レディントン(Alex Redington)
第2ヴァイオリン:ジョナサン・ストーン(Jonathan Stone)
ヴィオラ:エレヌ・クレモン(Hélène Clément)
チェロ:ジョン・マイヤースコウ(John Myerscough)

ただし、ライナーノーツを見てみると、新たに全員の弓がルイス・エミリオ・ロドリゲス・キャリントン(Luis Emilio Rodriguez Carrington)作のバロックボウを使っていると書かれています。第1巻、第2巻ともその表記はなく、また録音会場は3巻共通ということで、この巻から弦の音色の違いにも関心が集まります。

ということで、第2巻のOp.76をちょっと聴いてから第3巻を聴き始めると、確かに弦の音色のニュアンスが変わりました。第2巻までは現代楽器の音色ですが、第3巻では透明感よりは色彩感が感じられる柔らかな音に変化。特に低音部の芯がしっかりした印象に。これが音楽の作りにも影響するんですね。

Hob.III:65 String Quartet Op.64 No.1 [C] (1790)
ちょっと古楽器に近いニュアンスを帯びることで、このクァルテットのメリハリの効いた表現がかえって自然な印象に聴こえてくるから不思議ですね。特にチェロのフレーズがくっきりと浮かび上がって聴こえます。基本的にはかなり表現意欲が先走って大げさに聴こえる演奏なんですが、それがキアロスクーロのような洗練の極致を感じさせるかというと、そこまでではなく、もう少し抑えた方がハイドンの曲の面白さが映えるという感じ。ただしそれが古楽器風の響きによって、美化されるというニュアンスでしょうか。楽章が進むうちに、この表現の起伏の大きさが曲自体の持つドラマティックな印象をしっかりと描いているように思えてきます。柔らかくデフォルメされていくうちにその魅力がわかってきた感じです。その意を強くしたのが3楽章。フィナーレはちょっとパート間のメロディーの受け渡しと音色がバラつき、ハイドンのコミカルな音楽を持て余す感じ。パート間の音楽の揃いがピタリと来ないのがこのクァルテットのちょっともの足りないところ。

Hob.III:68 String Quartet Op.64 No.2 [b] (1790)
短調の入り。1曲目と同じ録音期日ゆえ音色にさしたる変化はありません。1楽章途中のピチカートをかなり目立つように強調。相変わらず若干大げさな表現が印象的。ハイドンの曲の面白さよりも、このクァルテットの踏み込んだ表現がちょっと気になり音楽に没入できません。初めてファイの交響曲の演奏を聴いた時の違和感に似た感触を感じます。続く2楽章ではくっきりとした起伏も徐々に表現に滑らかさと一体感が加わることでまとまりも良くなってきます。チェロの雄弁なボウイングからヴィオラとヴァイオリンにフレーズをつないでいきながら静かに楽章を終えます。メヌエットに入るとさらにしなやかさが加わり、特にトリオ部分のヴァイオリンの高音の艶やかさはなかなかもの。そしてフィナーレはくどい表現は少し後退して流すように展開して終わります。

Hob.III:67 String Quartet Op.64 No.3 [B flat] (1790)
この曲は前2曲とは収録日が異なるためか、響きもちょっと異なり、演奏も冒頭から伸びやかさが目立って、パート間のバランスもだいぶ整って聴こえます。ほんのわずかな違いなんですが、音楽の印象がガラリと変わります。表現の濃さはあまり変わらないのですが、響きの統一感がそう聴こえさせるのでしょう。1楽章の踏み込みに対して、続くアダージョでゆったりと受けますが、このリラックス感の深さも表現の本質的な幅の大きさを感じさせる見事なもの。ここにきてようやくこのクァルテットの良さをしっかりと印象付けます。特に弱音部の美しさは惚れ惚れとするほど。奏者間のバランスも非常に良く、メヌエットに入るとさらにキレ良く響きます。トリオ部分のユーモラスなボウイングも効果的。全てがいい方向に作用してこれがこのクァルテットの本領を感じさせる出来。ハイドンのクァルテットにしては大規模なフィナーレも力みなくバランスも良い期待通りの素晴らしさ。いやいや、これは納得の出来でしょう。

レビューはここまでにしておきます。CD2の3曲も収録時期がNo.3と同じNo.4とNo.5のひばりはいい出来でした。先にレビューした第1巻の時もそうでしたが、曲によってばらつきがかなりあるというのが正直なところ。この第3巻でもNo.3の演奏を聴くと素晴らしい才能の持ち主であることは明白。ただしNo.1、No.2の演奏を聴くと表現意欲が少し空回りして聴こえるの正直なところ。これがセッション録音であることを考慮すると、これは奏者のみならず、プロデューサーの耳の問題もあるのかもしれないとの想像が働きます。というのもこのシリーズのプロダクションの仕上がりもジャケット写真やデザインを見る限り今ひとつ垢抜けない感じを残してしまっている感じ。同じく新進気鋭のキアロスクーロ四重奏団の太陽四重奏曲集は演奏、プロダクション共に素晴らしいレベルでリリースしてきています。こうなると、このドーリック四重奏団のライヴを聴いてみたくなるところですね。評価はNo.3、No.4、No5が[+++++]、その他が[++++]とします。

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tag : 弦楽四重奏曲Op.64 ひばり

絶品! バルトーク四重奏団のひばり、皇帝、日の出(ハイドン)

今日は弦楽四重奏曲のアルバムですが、少々古めのもの。先日ディスクユニオンで入手しました。

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バルトーク四重奏団(The Bartók Quartet)によるハイドンの弦楽四重奏曲Op.64のNo.5「ひばり」、Op.76のNo.3「皇帝」、Op.78のNo.4「日の出」の3曲を収めたアルバム。収録は1993年5月12日から15日にかけて、富山湾の東端にある富山県下新川郡入善町の入善コスモホールでのセッション録音。レーベルはCANYON Classics。

バルトーク四重奏団は1957年にブダペストのフランツ・リスト音楽院の卒業生によって設立されたクァルテット。設立当初は第1ヴァイオリンのペータル・コムロシュの名前をとってコムロシュ四重奏団と名乗っていましたが、1962年にバルトークの未亡人の同意を得てバルトーク四重奏団と改名しました。1963年にブダペストで開催されたワイナー室内楽国際コンクールで優勝、翌1964年にはベルギーのリエージュ国際弦楽四重奏コンクールでも第1位、さらに1963年までに数多くの国際コンクールに優勝し、世界的に注目されるようになりました。レパートリーはバルトークはもちろん現代ハンガリーの作曲家の作品から、ハイドン、モーツァルト、ベートーヴェン、ブラームス、メンデルスゾーン、ラヴェル、ドビュッシー、シェーンベルクなどと幅広く、膨大な録音が残されているとのこと。日本には1971年の初来日以来、度々来日していたとのことで、実演に接した方もいるかもしれませんね。2006年のバルトークの弦楽四重奏曲全曲演奏会を最後に解散しています。メンバーは下記の通り。

第1ヴァイオリン:ペータル・コムロシュ(Péter Komlós)
第2ヴァイオリン:ゲーザ・ヘルギタイ(Geza Hargitai)
ヴィオラ:ゲーザ・ネーメト(Géza Németh)
チェロ:ラースロー・メズー(László Mezö)

膨大な録音を残し、日本との関わりも深いバルトーク四重奏団ですが、私はこのアルバムで初めて演奏を聴きます。なおヴィオラのゲーザ・ネーメトはHUNGAROTONからヴァイオリンとヴィオラのための二重奏曲のアルバムのヴィオラを弾いていて、以前に取り上げています。

2012/06/05 : ハイドン–室内楽曲 : デーネシュ・コヴァーチュ/ゲーザ・ネーメトによるヴァイオリンとヴィオラのためのソナタ集

このバルトークの名を冠したクァルテットによるハイドン、さぞかしキレ味鋭い演奏が聴かれるだろうと思って、聴きはじめたところ、さにあらず。いやいや実に趣深い燻し銀の演奏でした。

Hob.III:63 String Quartet Op.64 No.5 "Lerchenquartetett" 「ひばり」 [D] (1790)
広い空間に伸び伸びと響くクァルテットの音色。落ち着いたテンポでゆったりと音楽が流れます。非常にリラックスして演奏しているのがわかります。奏者が演奏を存分に楽しんでいる感じ。もちろん第1ヴァイオリンのコムロシュのボウイングは伸びやかで他のパートから首一つ抜け出してくっきりとメロディーを奏でていきます。まさに折り目正しい一級品の演奏。ひばりの1楽章がこれほど伸びやかかつキレのいい響きで始まろうとは思っていなかっただけに、驚きに近い衝撃がありました。まさに晴天の中、囀りながら空高く飛び回るひばりの気分。
続くアダージョ・カンタービレは歌う歌う。伸びやかさの限りを尽くした演奏に聴いているこちらまで伸びやかな気分になります。まるでバルトークと違って、技巧を凝らさなくていいことを余裕たっぷりに楽しんでいるような演奏。よくぞこれだけリラックスできるものかと唸ります。
メヌエットでも楽器が思い切りよく鳴り響き、晴朗かつ屈託のない響きにハイドンの曲の本質が宿ります。これぞメヌエットという鮮明な響き。中間部で一旦トーンをすっと落として翳りを見せたかと思うと、再び陽光の下に輝かしい音楽が蘇ります。このテンションの変化が実に心地良い、見事なメヌエット。
さざなみのように峙つヴァイオリンの伴奏に乗ってメロディーが弾む最後のヴィヴァーチェ。適度な揺らぎの中メロディーが飛び回る感じがライヴ感に溢れた演奏。1曲目から驚きの名演奏でした。まるで古典をホームグラウンドとするような均整の取れた演奏。

Hob.III:77 String Quartet Op.76 No.3 "Kaiserquartetett" 「皇帝」 [C] (1797)
続く皇帝もリラックスした演奏は変わらず、揺るぎない安定感を伴い、またまた歌う歌う。音符がひとりでに遊びまわるような愉悦感。あまりの見事さに息を飲みます。4本の楽器が鬩ぎ合いながらも一体となって音楽を作っていく様子はスリリングながら、音楽は楽しげに弾んで行きます。圧倒的な音楽の完成度に唸り続けます。これほど見事な皇帝の1楽章は初めて。
有名なドイツ国歌の2楽章は、少しテンションを落として質実な響きを聴かせます。これは変奏に入ると少しづつ自在さを加えて展開していく面白さのためのわかり、設計の確かさにまたまたまた唸ります。変奏ごとに長く間を取り変化を深く印象付けます。ただでさえ美しいメロディが孤高の美しさを帯びて輝きます。一つのメロディに宿る美しさに様々な角度からスポットライトを当てて味わい尽くす見事な演出。最後は枯淡の境地へモーフィング。絶品。
美しさの限りを尽くした2楽章の余韻を慈しむかのように少し寂しげに響くメヌエット。この辺りの感情の変化はデリカシーに富んでいてまさにハイドンが楽譜に込めた魂を汲んでいるよう。途中からさっと霧が晴れ、陽の光が差し込むような変化も見事。メヌエットだけでも曲ごとの描き分けの巧みさにこのクァルテットの表現力を思い知らされます。
激しく鋭い終楽章も、余裕たっぷりに入ります。険しい音楽もあえて少し緩めに演奏することで、バランスを保ち、力が入り過ぎるのを抑えて終えます。

Hob.III:78 String Quartet Op.76 No.4 "Sonnenaufgang" 「日の出」 [B flat] (1797)
最後の日の出。すでにこのクァルテットの素晴らしさに酔っています。ゆったりと溜めを効かせてざっくりと刻む音楽が心地よい響きに感じられ、まるでライヴを聴いているような不思議な一体感に包まれます。これぞ弦楽四重奏の醍醐味。よく聴くとこの曲ではざっくりとした織目の感触の面白さがポイントと見えてきます。手編みのような味わい深いテクスチャーと織り出される模様のリズムが絶妙。この味わい深さはまさに燻し銀。
さらに圧巻なのは続くアダージョ。4本の楽器の織りなす綾のデリケートな変化が生み出す豊かな音楽。まさに至福のひととき。単なる音符にあらず、人の温もりを感じる生きた音楽が滔々と流れ、完全にバルトーク四重奏団の音楽になっています。天上の世界を垣間見たような感覚に襲われます。
そしてこの曲のメヌエットは入りから安らぎと幸福感に満ちたもの。どうしたらメヌエットからこのような感情を呼び起こせるのでしょうか。魔法をかけられたよう。ほんの少しのニュアンスの付け方で音楽がこれほどまでにいきいきとしてくる不思議さ。中間部のゆったりとした緊張感! 完全に彼らの音楽に仕上がっています。
そしてフィナーレは爽快に来る演奏が多い中、リズムの面白さを強調して、メリハリをつけてきました。ざっくりと始まったこの曲をリズミカルな終楽章で締めるなかなかの組み立て。最後はサラサラと流すサラサラ感をかなり強調した、これまた創意に溢れた演出。味わい深いばかりではなく、さらりと見せるアイデアのセンスの良さにも唸ります。

バルトーク四重奏団という名前から想像した演奏とはあまりに異なり、実に味わい深い演奏にノックアウト。このハイドンは現代音楽を得意とするクァルテットから想像される鋭角的な響きは皆無。むしろどのクァルテットの演奏よりもハイドンの真髄を射抜く絶妙な演奏と言っていいでしょう。選曲もハイドンの有名曲の組み合わせで入門盤としても最適なもの。もちろん評価は[+++++]を進呈いたします。ただし、現在入手しやすいとは言えない状況なのが残念なところ。これは是非再販してほしいですね。

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tag : ひばり 皇帝 日の出 弦楽四重奏曲Op.64 弦楽四重奏曲Op.76

ファイン・アーツ四重奏団のOp.64(ハイドン)

秋は室内楽。と言いながら交響曲のアルバムが続いていましたので、とびっきりのクァルテットを取り上げます。

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amazon(弦楽四重奏曲全集mp3)

ファイン・アーツ四重奏団(Fine Arts Quartet)による、ハイドンの弦楽四重奏曲Op.64のNo.1からNo.6、Op.2のNo.5、No.6、Op.1のNo.0の9曲を収めた3枚組のLP。収録情報は記載されていませんが、奏者のウェブサイトには1972年?との情報が記載されています。レーベルは米VOX。今日はこの中からOp.64を取り上げます。

このLPは先日オークションで手に入れたもの。ファイン・アーツ四重奏団の素晴らしさは、以前取り上げた記事で触れておりますので、是が非にでもということで落札したもの。

2013/10/05 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : ファイン・アーツ四重奏団のOp.74
2012/05/07 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : ファイン・アーツ四重奏団の「ひばり」
2011/01/04 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : ファイン・アーツ四重奏団のOp.77(ハイドン)

Fine Arts Quartet

ファイン・アーツ四重奏団はメンバーを変えながらも現在でも活動しており、彼らのウェブサイトのディスコグラフィーには過去の演奏の一覧が載っています。この演奏当時のメンバーは先に取り上げたOp.74と同じく下記の通り。

第1ヴァイオリン:レオナルド・ゾルキン(Leonard Sorkin)
第2ヴァイオリン:アブラム・ロフト(Abram Loft)
ヴィオラ:ベルナルド・ザスラフ(Bernard Zaslav)
チェロ:ジョージ・ソプキン(George Sopkin)

到着してみると、盤のコンディションは上々。このVOXのシリーズはちょっと前に取り上げたデカニー四重奏団のものも非常にいい音だったので不安はありませんでしがが、針を落としてみるとあまりの素晴らしい響きに鳥肌が立ちそうなほど。いきなり絶品の予感です。

Hob.III:65 String Quartet Op.64 No.1 [C] (1790)
非常に広い空間に4本の楽器が鮮明に定位し、木質系の美しい響きを聴かせる見事な録音。クァルテットの録音としては最上と言っていいでしょう。この雰囲気はCDでは味わえないんですね。Op.74の演奏に非常に近い演奏。ゆったりと音楽を慈しむように演奏していきます。適度な音程の揺れが味わい深さを感じさせます。朴訥ですらあるこの雰囲気の中にハイドンの音楽の魅力が詰まっています。精度抜群の演奏や火花散るような演奏とは全く異なる音楽の魅力。身近な人が演奏しているような温もりを感じます。1楽章から楽章間の対比はほとんどつけず、適度な躍動感を伴いながら淡々と進めます。ことさら素晴らしいのが3楽章。リズムが適度に弾みながら質実さを保った気高さがあります。フィナーレも力が抜けたいい演奏。

Hob.III:68 String Quartet Op.64 No.2 [b] (1790)
短調から入る独特の曲想をファイン・アーツ流にゆったりと奏でていきます。途中のピチカートの音がやけにリアルに響き、またユニークな展開部をさもユニークにトレースしていくところがハイドンを深く理解しているこのクァルテットならではの至芸。ヴァイオリンの味わい深いボウイングでメロディーラインがしなやかに響きわたります。2楽章では各パートの響きが独立していながらも溶け合う様子が見事。チェロが今まで以上にクッキリとした音色を聴かせます。決して精度が高い演奏ではないんですが、不思議に味わい深いアンサンブルで、不揃いなところがむしろ美点となっているのが不思議なところ。メヌエットでは中間部に伸び伸びとしたヴァイオリンによるメロディーを持ってきたのが新鮮。レオナルド・ゾルキンの美音が轟きます。そしてフィナーレはメロディーが奇想天外に展開する実に興味深い曲。高望みせず、味わい深さこそが聴かせどころとの確信に満ちた演奏でした。

Hob.III:67 String Quartet Op.64 No.3 [B flat] (1790)
行進曲風のリズミカルな入り。相変わらず録音は素晴らしく、眼前の空間にクァルテットがはっきりと定位します。弓が弦をこする振動が直接伝わって来るようなリアルさ。パート間のメロディーの受け渡しの面白さが際立つ曲。そしてこの曲の白眉は香り立つような芳しいメロディーのアダージョ。古典派の枠から一歩踏み出したかのようなロマンティックな音楽。ファイン・アーツの演奏で聴くとまるでセザンヌの静物画を見るように、音楽を大きな目で捉えて、太い筆でグイグイとヴォリューム感を出して描いていく感じ。この曲でもメヌエットはほのかに躍動するのみでも、味わい深さが滲み出てきます。1曲1曲の展開の面白さの縮図のようなフィナーレ。フィナーレになるとピシッとアンサンブルの精度が上がるのが音楽に応じて集中度を変えている証拠。なぜか引き込まれます。

Hob.III:66 String Quartet Op.64 No.4 [G] (1790)
非常に楽天的な曲想の曲。サクサク憂いなく弾き進めていくかと思いきや、さっと陰りを見せ、またまたサクサクと自在な演奏。表現意欲のレベルでそうした演奏をしているのではなく、まるで練習でもしているような屈託のなさを伴いながらの表現ということで、このあたりがこのクァルテットの特徴なのかもしれません。アルバム全編にそういった直裁な雰囲気が宿っています。この曲は2楽章がメヌエットで、メロディーと戯れるように自在にテンポを変えながらの舞曲。自在さは続くアダージョにも残り、他の曲よりも躍動感がアップします。フィナーレでも流れの良さが耳に残る鮮やかなアンサンブルを聴かせます。

Hob.III:63 String Quartet Op.64 No.5 "Lerchenquartetett" 「ひばり」 [D] (1790)
以前も取り上げたひばりですが、以前の演奏は1986年とかなり後の録音でメンバーも4人とも異なります。冒頭からレオナルド・ゾルキンのヴァイオリンの味わい深い響きがリードする聴き慣れた入りの展開。有名曲だけにいい演奏も多い曲ですが、このさりげなくも味わい深いファイン・アーツの演奏は、この曲の演奏として実に説得力のあるもの。磨き抜かれた秀演よりも、素朴な味わいを醸し出す方がこの曲にふさわしいと思わせてしまいます。自宅の庭にひばりがきた喜びを演奏しているような親近感。
2楽章のアダージョ・カンタービレではここまでで一番攻め込んだ演奏。曲が進むに連れて、これまでの素朴さを吹き払うように集中してタイトな展開となり、見違えるように引き締まったアンサンブルを聴かせます。
メヌエットもこれまでの曲と集中力が違い、これまた引き締まったアンサンブルとなります。そして早送りのようなフィナーレでも集中力は途切れず、このアルバム中最もタイトな演奏となります。

Hob.III:64 String Quartet Op.64 No.6 [E flat] (1790)
前曲の集中を癒すように穏やかな入りにホッと一息。テンションのコントールもなかなか巧みで、この曲では穏やかな音楽が流れます。微妙な調性の変化と暖かな響きのコントラストが曲に深みを与えます。虚心坦懐なファイン・アーツの演奏が映え、曲そのものの魅力が輝きます。アンダンテも同様、穏やかな表情に柔らかなコントラストが加わる絶妙の表情。メヌエットはハイドンらしいユーモアが詰まったもの。ヴァイオリンの高音の隈取りが爽やかさを加えます。さりげなくサクサク進める展開がこの楽章の面白さをきわだ立たせます。そしてフィナーレもハイドンらしいユーモラスなテーマが様々に展開、交錯する期待通りのもの。作為のないアンサンブルの面白さを存分に楽しませてもらいました。

タイミングよく手に入れたファイン・アーツ四重奏団のLP。この演奏よりも精度の高い演奏、緊張感溢れる演奏はあるんですが、この演奏よりもハイドンの音楽を味わい深く表現したアルバムはそうありません。アンサンブルもあえて粗めで、音程が揺らぐとこもありながら、これぞハイドンのクァルテットの演奏の流儀だとの揺るぎないスタイルを身につけた歴史あるクァルテットだけに、説得力は十分。クァルテットに何を求めるかは色々あるかと思いますが、私は非常に気に入りました。のんびりしたいときに旨い酒でも飲みながら、ゆったり楽しみたいアルバムという感じですね。LPは素晴らしい音を奏でてくれますが、もちろん入手は容易ではありません。幸いmp3で聴くことは可能ですので、興味のある方は聴いてみてください。評価は全曲[+++++]とします。

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tag : 弦楽四重奏曲Op.64 LP

ウィハン弦楽四重奏団の「ひばり」(ハイドン)

お宝盤発掘!

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ウィハン弦楽四重奏団(Wihan Streichquartett)による、ハイドンの弦楽四重奏曲Op.64のNo.5「ひばり」他、モーツァルト、ブリテン、ドヴォルザーク、ヤナーチェク、ラヴェルの弦楽四重奏曲を収めた2枚組のアルバム。 収録は1991年から94年にかけて、収録場所は記載されていません。レーベルは独CANTUS CLASSICS。

このアルバム、たまたまディスクユニオンの店頭で最近発見したもの。妙に凝ったタイポグラフィーでクァルテット名が書かれ、デザインもそれなりに凝ったジャケットを一目見て、「これ持ってない」とすぐにわかりましたので購入。帰って冒頭のひばりをちょっと聴いてみたところ、鳥肌が立つような恍惚とした入りに名演奏を確信。一気に聴いてしまいました。

ウィハン弦楽四重奏団は私ははじめて聴く団体です。チェコのクァルテットで2015年で設立30年を迎えるそうです。amazonを検索してみるとスメタナ、ドヴォルザーク、ヤナーチェクなどのお国ものの他、ベートーヴェンの弦楽四重奏曲全集、シューベルトなどのアルバムがリリースされており、またビートルズの曲を弦楽四重奏曲の編曲したようなポピュラーな選曲のアルバムもあり、活動はかなり幅広いようです。コンクールの受賞歴も数多く、その中には「大阪室内楽フェスタ」という記載もあることから日本でもご存知の方も多いかもしれませんね。

このアルバムの録音時のメンバーは下記のとり。

第1ヴァイオリン:レオシュ・チェピツキィー(Leoš Čeoický)
第2ヴァイオリン:ヤン・シュルマイスター(Jan Schulmeister)
ヴィオラ:イジィー・ジィックモンド(Jiří Žigmund)
チェロ:アレシュ・カスプジーク(Aleš Kaspřík)

Welcome to the official website of the Wihan Quartett

ウェブサイトを見てみると現在ヴィオラは別の奏者に変わっているようです。

Hob.III:63 String Quartet Op.64 No.5 "Lerchenquartetett" 「ひばり」 [D] (1790)
ひばりの有名な導入のフレーズが実に癒しに満ちて響きます。さらっと軽快なリズムで実にしなやかに音階を行き来します。冒頭の1フレーズから愉悦感に富んだ美しい音楽に吸い寄せられるよう。これまでここまで美しい導入があったでしょうか。すぐに適度にキリリとした磨き抜かれたレオシュ・チェピツキィーのヴァイオリンがクッキリとさえずります。完璧なバランスで響きあう4本の楽器。このアンサンブルの絶妙なセンスこそがこうしたメロディーの美しい曲に命を吹き込みます。曲が進むにつれて、アンサンブルに力が漲り、弦楽器の胴鳴りまで加わって素晴らしい迫力。印象的な長い休符をあしらい、中庸を保ちながらも詩情が香り立つような演奏。味わい深いオーソドックスさ。1楽章から絶品です。
続くアダージョもすっと自然に入ります。この絶妙な入りのセンスにぞくぞくします。各楽器がしっかりとフレーズを膨らませて弓の弾き始めから終わりまでの強弱の変化を巧みにコントロールしているので、メロディーの味わいの深さは格別。ヴィブラートのかけ方ひとつとっても実にセンスがいい。録音も聴きやすいもので、響きの良い木造教会で演奏しているような実にいい雰囲気。
メヌエットも入りの自然さから打たれます。この各楽章のすっとなじんで入るところはなかなか真似できるものではありませんね。テンポに変化をつけながらも、自然なフレージングを乱すことなく進み、中間部のちょっと変わった音階に変わるところでさっと気配を変えるところなども絶妙。フレーズごとにしっかりと表情をコントロールしきっています。
そしてテクニックの見せ所のフィナーレでは、別格の表現力。音階がキレがいいのはもちろん、そういう次元ではなく、早いパッセージでも音楽が踊り、しっかりコントロールされた味わい深い響きを造っています。最後はコミカルさも加えて、すっと力を抜く大人の技。やはりセンスの良さに脱帽。

このあとは、曲が変わりモーツァルトの「不協和音」が不気味に響きわたります。こちらもモーツアルトらしい天真爛漫さが絶品です。

ふと出会ったウィハン弦楽四重奏団の「ひばり」。冒頭の一音から最後の余韻が消えるまで含めて、絶妙なセンスでまとめられた名演奏。これまで多くの演奏を聴いてきましたが、この演奏の完成度というか、素朴な味わい深い良さは、ちょっと他の演奏とは差がつくのが正直なところ。レオシュ・チェピツキィーのヴァイオリンの伸びやかな音色も聴きどころなんですが、いい意味で目立ちすぎず、程よい美しさなのがとてもいいですね。このひばり、万人にオススメできる演奏といっていいでしょう。ひばりの美しいメロディーを最も洗練されたオーソドックスな演奏で楽しめるのはこのアルバムです。もちろん評価は[+++++]とします。

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tag : 弦楽四重奏曲Op.64 ひばり

巌本真理弦楽四重奏団のひばり(ハイドン)

今日はお宝盤。邂逅とはこのことでしょう。

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巌本真理弦楽四重奏団の演奏でハイドンの弦楽四重奏曲Op.64のNo.5「ひばり」、ドヴォルザークの弦楽四重奏曲Op.96「アメリカ」の2曲を収めたアルバム。収録は1974年6月6日、7日、Chiba Public Hallとありますが千葉市民会館もしくは千葉県文化会館のどちらかでの録音ということでしょうか。レーベルは日本のVictor。

巌本真理四重奏団のひばりは以前に取り上げていますが、そちらは録音年不詳。収録時間もレーベルも異なることから別の演奏だということで入手した次第。

2012/02/13 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : 巌本真理弦楽四重奏団のひばり

今日取り上げるアルバム自体は国内盤で日本語解説もついているのですが、巌本真理四重奏団についてとメンバーの略歴のみで、肝心のこの演奏の背景については触れられていません。奏者については前記事を参照願います。

レビューのためにCDプレイヤーにかけたとたん、素晴らしいヴァイオリンの響きに釘付けとなったのが正直な所。このアルバム、音楽の神様が降りてきています。

Hob.III:63 / String Quartet Op.64 No.5 "Lerchenquartetett" 「ひばり」 [D] (1790)
以前取り上げたアルバムも良かったんですが、こちらはさらに上を行きます。収録時間も全楽章が少し長めなことからわかるとおり、前盤よりもゆったりとした演奏。録音は残響が若干多く、鮮明さは前盤に軍配があがるものの、しっかりと実体感があり音楽としてはこちらの方が楽しめます。几帳面な感じの曲の入りも雰囲気満点。すぐにヴァイオリンの音色に釘付け。巌本真理のヴァイオリンの輝かしさは圧倒的。この曲の演奏見本と言ってもよいくらいオーソドックスですが、ヴァイオリンの磨き抜かれた音色の存在感は素晴らしいものがあります。日本人による弦楽四重奏曲の演奏の一つの頂点と言っていいでしょう。この曲のメロディーの素晴らしさを改めて堪能。1楽章から完全に引き込まれます。
つづくアダージョ・カンタービレでも巌本真理のヴァイオリンの浸透力に打ちのめされるような迫真の演奏。ハイドンの音楽に純真に従いながらもヴァイオリンを奏でる弓には確信に満ちた力が宿り、まったく迷いなく旋律を描いていきます。ゆったりとした気分ながらヴァイオリンの図太い音色にグイグイ攻め込まれます。
そしてメヌエットでもオーソドックスなテンポによる飾り気のない演奏ながら奏者の気迫に圧倒される感じは変わらず。ライヴを聴いているような緊張感に包まれます。中間部ですっと力を抜いてメリハリをつけますが、徐々に迫力とメロディーを取り戻します。
そしてフィナーレ。意外に遅めのテンポ出入りフーガのように展開しますが、各パートとも円熟の境地という感じでさらりとこなして行きます。副旋律の伴奏を際立たせながら、自然に終盤にたどり着きます。最後はピタリと息を合わせて終わります。

巌本真理弦楽四重奏団のハイドンが正直これほど素晴らしいものとは思っていませんでした。このアルバムで聴かれるひばりは他のどの奏者の演奏よりも確信に満ちた演奏であり、揺るぎない説得力をともなった演奏です。特にヴァイオリンの磨き抜かれた響きの気高さは他のものを寄せ付けない孤高の存在。この堂々とした音楽は、日本人の演奏という但し書きをなくしても一二を争うほどのものと言っていいでしょう。ネットを調べてもこのアルバムは容易に手に入りそうもありません。ディスクユニオンの新着アルバムの棚をたまには丹念に探してみて良かったと思える出会いでした。存命時にはその素晴らしさを知ることはありませんでしたが、巌本真理弦楽四重奏団の存在がいかに大きなものだったかを改めて知った次第。心に深く刻まれました。評価は[+++++]とします。

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tag : 弦楽四重奏曲Op.64 ひばり

ロザムンデ四重奏団の皇帝、ひばり、騎士(ハイドン)

このところ良くコメントをいただくSkunjpさんオススメのアルバム。当方のコレクションにありませんでしたので、早速注文して届いたもの。

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TOWER RECORDS / amazon(mp3) / HMV ONLINEicon

ミュンヘン・ロザムンデ四重奏団(Rosamunde Quartett München)の演奏による、ハイドンの弦楽四重奏曲からOp.76のNo.3「皇帝」、Op.64のNo.5「ひばり」、Op.74のNo.3「騎士」と有名曲ばかり3曲を収めたアルバム。収録は、ベルリンの南の街ランクヴィッツ(Lankwitz)にあるジーメンス・ヴィラ(Siemens-Villa)という古い教会のような建物でのセッション録音。レーベルはBerlin CLASSICS。

ロザムンデ四重奏団のアルバム手元にECMレーベルからリリースされている「十字架上のキリストの最後の七つの言葉」がありますが、堅実な演奏との認識で、これといって強く印象に残る感じはしませんでした。今日取り上げるアルバムは冒頭に触れたとおり、ハイドン愛好家のSkunjpさんのオススメのアルバム。もちろんそう言われて黙っているわけにもいかず、早速注文を入れてみた次第。実はこの演奏、当ブログへのコメントで教えていただいた直後に調べたところApple Musicにも登録されていて、通勤帰りにちょっと聞いてみたりしたのですが、正統派の折り目正しい演奏と聴きましたが今一つイメージがパッとしません。この手の演奏はアルバムでちゃんと聴くと印象も異なることがあるということでCDのほうも注文したという流れです。

ロザムンデ四重奏団は1992年に設立されたクァルテット。クアルテットのウェブサイトが見つかりましたが、2009年以降更新されておらず、もしかしたら現在は活動していないかもしれませんね。このアルバム収録当時のメンバーは下記のとおり。

第1ヴァイオリン:アンドリアス・ライナー(Andreas Reiner)
第2ヴァイオリン:ダイアン・パスカル(Diane Pascal)
ヴィオラ:ヘルムート・ニコライ(Helmut Nicolai)
チェロ:アンヤ・レチーナー(Anja Lechner)

ROSAMUNDE QUARTETT

クァルテットの行方はともかく、このアルバムの演奏を紐解いてみましょう。

Hob.III:77 String Quartet Op.76 No.3 "Kaiserquartetett" 「皇帝」 [C] (1797)
もちろんApple Musicと同じ演奏なんですが、音の広がりや定位感、実在感はCDのほうが上。実にオーソドックスな演奏ゆえ、Apple Musicではちょっと凡庸に聴こえなくもありませんでしたが、CDで聴くとしっかりとした芯のある音色と、堅実な弓裁きの魅力が伝わります。テンポはカッチリと決め、これ以上几帳面な演奏は難しいほどに規律正しい演奏。たしかに何もしていないんですが、何もせず、きっちり演奏することでハイドンの魅力が浮かび上がるという確信に満ちた演奏。音量を上げて聴くと素晴らしいリアリティーに打たれます。教科書的という言葉をアーティスティックにデフォルメしたような冴えわたる規律正しさ。この演奏に一旦ハマると他の演奏が軟派に聴こえるかもしれません。揺るぎないリズムの刻みに圧倒されます。表現の角度は異なりますが、この一貫性はクナのワーグナーのような雄大さを感じさせなくもありません。
ドイツ国家のメロディーとなった2楽章も言ってみれば何もしていませんが、キリリとした表情でクッキリと陰影をつけアダージョが冬の日差しに峻厳と輝くアルプス山脈のような迫力で迫ってきます。辛口というテイストの問題ではなく、まさにリアリズムの世界のよう。終盤ちょっとテンションを緩めた変奏部分が妙に沁みます。各パートとも磨き抜かれ、冷徹なまでに冴え渡ります。
もちろんメヌエットもキレキレ。青白い刀の刃の輝きのような冴えが全編に漂います。リアルなクァルテットの響きにゾクゾクします。
切れ込むような鋭い響きからはいるフィナーレ。あちこちに切れ込みながら音楽が進み、険しい表情を張り詰めた音色で描いていきます。力の入った演奏ですが、力任せすぎず、鋭利さとバランスを絶妙に保ちながらの演奏。このバランス感覚の存在こそたロザムンデ四重奏団の特徴でしょう。

Hob.III:63 String Quartet Op.64 No.5 "Lerchenquartetett" 「ひばり」 [D] (1790)
名曲3点セット的選曲です。つづくひばりは予想どおりバランスの良い几帳面なリズムから入ります。冒頭のキリッとしたリズムの刻みと、伸びやかなヴァイオリンはまさに想像したとおり。演奏スタイルは一貫しており前曲を聴いて頭に描いたイメージどおりです。録音がクリアなので、クァルテットの響きの冴えを十二分に味わうことができます。主題の繰り返し部分では表情を変えることがないのですが、逆に再び登場するメロディーがまったく同じように響く快感を味わえます。途中からチェロがクッキリと浮かびあがり、見事に解像するアンサンブルの快感も味わえます。終盤再び繰り返されるメロディーのキレのいいことと言ったらありません。
つづくアダージョもテンションはそのまま、ゆったりとしたメロディーながら響きはタイトなまま切れ込みます。一貫したスタイルが売りものですが、ここまで一貫しているとは。メヌエットもまったく揺るぎない展開。
そしてフィナーレでは若干柔らかめに入りますが、テンポの安定感は変わらず、徐々にテンションが上がり、タイトな音色の連続にトランス状態に入りそうな勢い(笑)。短いフィナーレの最後はグッと音量を上げてクライマックスに至ります。

Hob.III:74 String Quartet Op.74 No.3 "Reiterquartetett" 「騎士」 [g] (1793)
最後も名曲「騎士」。もはやこの一貫したスタイルの魅力に押され気味。カッチリとした表情、余人を寄せ付けない緊張感、手綱をすこしだけ緩めて起伏を表現するスタイル。いずれもロザムンデ四重奏団の突き抜けた個性です。このテンションの高さだけの連続だったら単調にも聴こえたでしょうが、そうは感じさせない表現のコントロールもあります。この曲に潜む陰りのようなものの表現は秀逸。冴え冴えとした表情だからこそ陰の部分の陰影が深い。
精妙なアンサンブルが聴きどころの2楽章。アルバン・ベルクではちょっと作った感じに聴こえたこの楽章が、自然さを保ちながらの精妙さに至り、活き活きとした表情に感じられます。よく聴くとボウイングに呼吸のような自然さが宿っており、ただタイトな響きではないことがわかります。このあたりがクァルテットの難しいところ。硬さを表すのに柔らかさが必要なんでしょう。この騎士では弱音と間の美しさも感じられます。
そしてメヌエットも前2曲よりも心なしかしなやか。リズムのキレはそのままにすこし力を抜いて粋なところを聴かせます。
最後のフィナーレは松ヤニが飛び散りそうなヴァイオリンの弓裁きを堪能できます。各パートそれぞれの音のエッジが立って際立つスリリングさ。この騎士だけがすこし力を抜いた面白さを加えてきました。

ロザムンデ四重奏団によるハイドンの名曲集。クッキリと浮かび上がる各パートの緊張感のあるやりとりとタイトな響きの魅力に溢れた演奏でした。Skunjpさんのコメントにある、「主旋律にからむ対位旋律、副旋律、伴奏型のすべてが雄弁で、4人が精密かつ有機的に共鳴し合う」という意味がよくわかりました。クァルテットの演奏は千差万別。ハイドンの名曲の様々な面に光を当て、現代にあってもその魅力を表現し尽くした感はありません。ハイドンの皇帝、ひばり、騎士のオーソドックスなスタイルの名演奏としてハイドン好きな皆さんにも一度聴いていただきたい演奏ですね。評価は3曲とも[+++++]とします。

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tag : 皇帝 ひばり 騎士 弦楽四重奏曲Op.76 弦楽四重奏曲Op.64 弦楽四重奏曲Op.74

珍盤 カスバル・ダ・サロ四重奏団のひばり、皇帝など(ハイドン)

ちょっと前にディスクユニオンで仕入れたアルバム。

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amazon(mp3)

カスバル・ダ・サロ四重奏団(Caspar Da Salo Quartet)の演奏による、ハイドンの弦楽四重奏曲Op.1のNo.1、Op.64のNo.5「ひばり」、Op.76のNo.3「皇帝」の3曲を収めたアルバム。収録年、収録場所の表記はなくPマークが1988年とだけ記載されています。レーベルはDigital Concerto。

このアルバム、音楽専門のレーベルではなく、量販店で売られるクラシックベスト的な感じの造りで、なんとなく怪しい雰囲気のもの。日本向けのものではなく解説は英語のみですが、ハイドンに関する短い解説と、このシリーズの有名作曲家による名曲を集めたシリーズの一覧カタログが載ったもの。ジャケットの下部には誇らしげに”60+ MINUTES”と書かれているあたりも思いっきり安っぽい感じです(笑)

店頭で見かけた時は、もちろん手に入れるのを躊躇しましたが、ハイドンのコレクションを充実させるという目的のみで入手。しばらく未聴盤ボックスに寝かしてありましたが、先日何気なしに聴いてみると、意外や意外、なかなかいい演奏なんです、これが!

あわててネットで奏者であるカスバル・ダ・サロ四重奏団について調べてみても情報はなし。メンバーもわかりません。英語のサイトをいくつかたどると、気になる書き込みがあり、このクァルテット名は恐らく仮名で、実際は別のクァルテットではないかとのこと。このアルバムこうした廉価盤として長らく流通しており、おそらく欧米では知られた存在なのでしょう。なんだかよくわかりませんが、実際の演奏は素直な名演奏ということで、取り上げることにしました。たまには珍盤も良いでしょう。

Hob.III:1 / String Quartet Op.1 No.1 [B flat] (c.1757-59?)
木質系の弦楽器の直裁な響きがダイレクトにつたわる素直な録音。やや速めのテンポでサクサクと進めていくことで非常に快活な印象。ハイドン最初の弦楽四重奏曲の面白さが実に素直に表現されています。先日聴いたペターセン四重奏団はアーティスティックなまでに昇華された見事な演奏でしたが、こちらはまさにオーソドックスな演奏。弦楽四重奏曲の見本のような端正さ。とても廉価盤レーベルの録音とは思えない、なかなかいい演奏です。奏者間のバランスと対比も見事。
この曲は5楽章構成のはずですが、このアルバムではなぜか4トラック。聴いてみると4楽章と5楽章が一緒になっているのはいいのですが、本来2楽章はメヌエットで、3楽章がアダージョであるところ、2楽章はアダージョで3楽章はメヌエットとの表記。この辺も廉価盤レーベルならではということでしょう。演奏がいいだけに惜しいところです。続くメヌエットでは一糸乱れぬアンサンブルの緻密さ、アダージョに入ると誰だかわからない第1ヴァイオリンの落ち着きながらもピンと張り詰めたヴァイオリンの美音にグッときます。しっとりと染み渡るような演奏。これはかなりの腕前です。4楽章のメヌエットは程よいメリハリ、そしてフィナーレでは自然な流れで壮麗な雰囲気をうまく描いていきます。なかなか聴き応えのある演奏でした。

Hob.III:63 / String Quartet Op.64 No.5 "Lerchenquartetett" 「ひばり」 [D] (1790)
前曲同様速めのテンポであっさりとしながらも勘所を抑えた入り。有名なこの曲も実に堅実な音楽に引き込まれます。演奏の安定感というか、スタンスの一貫性も流石なところ。ちょっとやそっとの腕前ではここまで安定した音楽を奏でることはできません。テンポのせいか、非常に見通しの良い音楽となっています。ハイドンの音楽は素直な演奏ほどその良さが生きるということでしょうが、聴き進むとフレーズごとの表情付けも見事で、この一貫性とそのなかでの音楽の造りかたのバランスは絶妙。前曲以上に演奏の上手さに驚きます。
続くアダージョ・カンタービレは圧巻。一貫したスタイルはそのままに、大きく波打つ音楽を凛々しく表現。弦楽四重奏曲の真髄に迫る鬼気迫る音楽を奏でます。ここまでの演奏が聴けるとは思いませんでした。他の一流どころの演奏に引けをとるどころか、全く遜色ないもの。この楽章でこれほどの音楽を聴かせる演奏は滅多にありません。
すっかり奏者のペースにはまってしまっています。メヌエットも、各奏者が代わる代わるメロディーを引き継いでいくところのやりとりの見事さに耳を奪われます。そしてフィナーレに続きますが、ほどよいキレと少し溜めるような音階の表現が最後に個性を残すよう。いやいや見事なひばりでした。

Hob.III:77 / String Quartet Op.76 No.3 "Kaiserquartetett" 「皇帝」 [C] (1797)
最後は名曲皇帝。すでに耳は鋭敏になり、前のめりで聴きます。相変わらず速めのテンポでサクサク入ります。すぐにアンサンブルの面白さに引き込まれます。よく聴くと、速めのサクサク進める部分と、ゆったりとメロディーを奏でる部分の対比をうまく使いわけて音楽に活気を保っていることがわかります。それが実に自然に変化するので実に味わい深い音楽になって聴こえるということでしょう。
ドイツ国歌の2楽章は自然なしっとり感を残した柔らかな表情で淡々と耳に残るメロディーを奏でていきます。ゆったりと歌われるメロディー。チェロのちょっと燻らしたような音色が独特の味わいを加えています。この楽章の深みも見事なもの。これだけの深い淵を聴かせる演奏はそうはありません。絶品!
一転、軽いタッチの音楽に変わります。自ら奏でる音楽の範囲の中での安定した表情の変化。安心して音楽に没頭することができます。メヌエットでも描き方で音楽の印象が大きく変わりますが、この安定感は流石です。そしてフィナーレは前曲同様、華やかさだけを狙うのではなく、あえて少し重さもともなった落ち着いたもの。技巧重視でくるとグイグイ攻め立ててくるパターンもありますが、この落ち着いたフィナーレこそ、曲の流れを崩さないものと言いたげです。終盤すこし音程が落ち着かないところもありますが、よくまとまった演奏でした。

カスバル・ダ・サロ四重奏団によるハイドンの弦楽四重奏曲集。奏者の実態もわからず、廉価盤然とした造りにもかかわらず、演奏は一級品と言っていいでしょう。特に「ひばり」は見事の一言。オーソドックスな演奏ではかなりいい線いっています。このアルバム、他の有名なクァルテットの演奏のコピーである可能性も否定できませんが、手元のアルバムのタイミングを見ても近いものがなく、その線はなさそう。逆に腕利きの奏者たちが、なんらかの理由で名を明かさずに録音したものかもしれません。その辺は想像しているうちが楽しいわけであります。万一このアルバムの出自がわかる方がありましたら教えていただければと思います。さて、評価はひばりが[+++++]、残り2曲は[++++]とします。

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tag : 弦楽四重奏曲Op.1 弦楽四重奏曲Op.64 弦楽四重奏曲Op.76 ひばり 皇帝

シャルトル弦楽四重奏団のOp.64のNo.3、Op.42、Op.33のNo.5(ハイドン)

8月も終わりに。暑い暑い夏でした。でしたといってもまだ暑い日が続くかもしれませんね。8月は弦楽四重奏を集中的に取りあげましたが、最後に到着した1枚を取りあげます。私の所有盤リストにないアルバムをいつも貸していただく湖国JHさんから届いたアルバム。

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シャルトル弦楽四重奏団(Quatuor à Cordes de Chartres)の演奏による、ハイドンの弦楽四重奏曲Op.64のNo.3、Op.42、Op.33のNo.5の3曲を収めたアルバム。収録は1992年9月、パリの西方60kmほどの所にあるトロンブレ・ル・ヴィコントという街の聖マルタン教会でのセッション録音。レーベルは仏BNL PRODUCTIONS。

シャルトル弦楽四重奏団の演奏は手元に「十字架上のキリストの最後の七つの言葉」がありますが、調べてみると他にもう1枚、Op.20のNo.5、鳥、五度を収めたアルバムがあるようですね。

シャルトル四重奏団は1984年に結成されたクァルテットで、アマデウス四重奏団、ジュリアード、アルバン・ベルク、ファイン・アーツなど錚々たるクァルテットから指導を受けたそうです。情報が少ないためあまり細かい事はわかりませんが、簡単なウェブサイトがありましたので紹介しておきましょう。

Quatuor de Chartres : qatuor a cordes

この録音当時のメンバーは下記のとおり。

第1ヴァイオリン:パトリス・レグラン(Patrice Legrand)
第2ヴァイオリン:ロベール・アリボー(obert Aribaud)
ヴィオラ:ジル・デリエージュ(Gilles Deliège)
チェロ:フィリップ・ペナングー(Philippe Pennanguer)

Hob.III:67 / String Quartet Op.64 No.3 [B flat] (1790)
フランスのクァルテットらしく少し線の細さを感じさせながらもクッキリと軽いタッチが特徴の入り。適度に鮮烈
、大きなメリハリよりもフレーズ事にしなやかに表情をつけながら、流れの良さを意識した一貫した演奏。普通もうちょっと第1ヴァイオリンが目立つ所でしょうが、このクァルテットは4人対等、というより第1ヴァイオリンが控え目で、4人のアンサンブルの織りなすリズミカルな表情の方に狙いがあるよう。奏者ごとの掛け合いの面白さが聴き所。1楽章は軽めの入り。
続くアダージョは彼らの特徴がぐっと引き立ちます。4人がしっかり深いフレージングで絡まって、深い音楽に入ります。クッキリと透明感ある音色による深い音楽なので、爽やかさも保って程よいバランス。重さはなく、音楽にも澱みがありません。癖がないのに深さを感じるなかなかの演奏。チェロが時折ぐっと踏み込んできて、音楽にメリハリをつけていきます。
メヌエットも力みなく穏やかなもの。構えのない,穏やかな心境を映しているような実に晴れ晴れとした音楽。ただただ音楽の演奏を楽しんでいるよう。不思議と凡庸さは感じず、朗らかさが印象に残ります。
前楽章のニュアンスを保ちながらフィナーレに入ります。フィナーレも全く構えなし。力感は異なりますが、先日聴いたスメタナ四重奏団と似た音楽を感じます。一人一人の奏者が折り重なるようにしてしなやかな音楽を織り上げていくよう。スメタナより若い分、フレッシュさと透明感が漂って、モダンな印象もあります。なかなか玄人好みの演奏。不思議と豊かな気持ちになる演奏。悪くありません。

Hob.III:43 / String Quartet Op.42 [d] (1785)
短調の緊密な音楽。曲にのめり込む事なく予想通り淡々とした入り。すこし粗さがあるのが良い意味で表情を豊かにしています。淡々と音楽をこなしていくので、曲に込められた創意を聴き取ることに集中できます。音楽の流れの中に適度なメリハリ、適度な鮮烈さがあるので淡々としながらも単調にはなりません。
メヌエットは短い楽章。しなやかさを保ちながらほどほどのキレ。非常に落ち着いた演奏。音楽の起伏の変化を穏やかな心情で楽しむよう。
やはりこのクァルテットの持ち味はアダージョの透明感を保った深い音楽です。前曲と同様、クリアなのに実に深い音楽が流れ出してきます。とくにヴァイオリンの高音分のキリリとしたクリアな音色がそう感じさせるのでしょう。そして良く聴くと抑えた部分のコントロールが実に緻密である事に気づきます。
フィナーレも安心して聴けます。この曲も素晴しい出来。

Hob.III:41 / String Quartet Op.33 No.5 [G] (1781)
最後は明るい曲。速めのテンポでこの曲のリズミカルな面白さを強調するよう。4人の線は適度に荒れて緊密な一体感をもつような演奏ではありませんが、音楽が粗い感じはしません。不思議とライヴ感があり、生演奏を眼前で聴いているような印象。このアルバムでは一番フレッシュな演奏。勢いで一気に聴かせてしまいます。曲ごとにスタンスをきちんと変えてきています。
得意の緩徐楽章。自然なのに深いニュアンスがきっちり表現できるあたり、テクニックとは異なる次元の音楽性をもっているようですね。
スケルツォは珍しく溜めが目立ちます。この曲では前2曲とは異なり楽章感の対比を結構鮮明に弾きわけています。フィナーレはアルバムの終結にふさわしい穏やかさ。このクァルテットの得意な表情を存分に感じさせ、ハイドンの楽譜どおり、自然に虚心坦懐に音にしていきます。この終楽章の自然さはこのアルバム一番の聴き所。何でもない演奏にも聴こえますが、その中から実に深い音楽が聴こえてきます。音楽がすすむにつれて穏やかに盛り上がる感興。静かな音楽から豊か感情が沸き立つよう。体が音楽にあわせて自然に動きます。最後はびしっと決めて終わります。

聴き始めは自然なソノリティが印象的な演奏だと感じましたが、聴き進めるにつれて、このクァルテットの術中にはまったよう。決して派手な演奏でも。劇的な演奏でもありませんが、タイプの違う3曲を並べて、このクァルテット流に穏やかに料理する腕前をみてくれと言わんばかりの演奏。それぞれ家庭料理をプロが料理したように、見た目は普通でも、口に含んだとたんにプロの仕業とわかる深い味わいが広がる感じと言えばいいでしょうか。私は非常に気に入りました。弦楽四重奏曲をいろいろ聴き込んだ玄人の人に是非聴いていただきたい味わい深い演奏です。評価は3曲とも[+++++]とします。

湖国JHさん、いつも素晴しいアルバムありがとうございます!

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tag : 弦楽四重奏曲Op.64 弦楽四重奏曲Op.42 弦楽四重奏曲Op.33

ヘンシェル四重奏団のひばり、鳥、騎士(ハイドン)

最近、弦楽四重奏曲の演奏について、haydn totalの演奏の登録を機に、クァルテット名だけでなく各奏者の名前も記載する事にして、少しづつ登録済みのアルバムも追記しています。その整理の途上、ふと思って聴き直した所、なかなか素晴しい演奏だと再認識したアルバム。

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ヘンシェル四重奏団(Henschel Quartett)の演奏によるハイドンの弦楽四重奏曲Op.64のNo.5「ひばり」、Op.33のNo.3「鳥」、Op.74のNo.3「騎士」の3曲を収めたアルバム。収録はPマークが1995年、収録場所はスイスのチューリッヒの西にあるゼオン(Seon)という街でのセッション録音。レーベルは独MEDIAPHON。

ヘンシェル四重奏団は1988年に設立したクァルテット。国際的に活躍するようになったのは1993年、この演奏時のメンバーとなってからとのこと。来年それから20周年になります。メンバーの名前をみると3人がヘンシェル姓ということで、この3人は兄弟と思われます。

第1ヴァイオリン:クリストフ・ヘンシェル(Christoph Henschel)
第2ヴァイオリン:マルクス・ヘンシェル(Markus Henschel)
ヴィオラ:モニカ・ヘンシェル(Monika Henschel)
チェロ:マティアス・D・ベイヤー(Mathias D. Beyer)

HENSCHEL QUARTETT

この演奏が録音された1995年には、フランスのエヴィアン、カナダ、アルバータ州のバンフ、ザルツブルクで開催された国際コンクールで次々と優勝して有名になりました。師事したのはアマデウス四重奏団、メロス四重奏団、アルバンベルク四重奏団など一流どころ。何と2012年には来日して、サントリーホールでベートーヴェンの弦楽四重奏曲全曲を演奏したとのことで、実演に接した方もいらっしゃるかもしれませんね。

今日取り上げるアルバムは、国際的に活躍し始めた頃のもの。いろいろ調べましたが現在は中古以外では流通していない模様です。

アルバムを見て気になるのは左下に”20bit PROCESSING”と誇らしげにロゴが表示されている事。最新の録音ではありませんが、音質にこだわったプロダクションであることがわかります。また、使用している楽器はヴァイオリンがストラディヴァリウス、ヴィオラはグァルネリ、チェロはグランチーノと、これまた誇らしげに記載されております。聴いてみると、これらの記載に負けない美音が炸裂するんですね。

Hob.III:63 / String Quartet Op.64 No.5 "Lerchenquartetett" 「ひばり」 [D] (1790)
広々とした空間に艶やか、芳醇な弦楽器の音色が浮かび上がります。まさに魚沼産コシヒカリのようなモチモチ感(笑) 非常に伸びやかな演奏。最上の楽器を実に上手く鳴らしきっています。ハイドンの晴朗さを存分に表現し、陰りとか燻し銀と言うような雰囲気はなし。このひばりという曲の抜けるような魅力の真髄をとらえた演奏と言っていいでしょう。
アダージョに入ると,伸びやかさに加えて彫りの深さが加わります。第1ヴァイオリンだけでなく、他の楽器の鳴りも負けず劣らず素晴しい陰影。それぞれの楽器の音の存在感が際立ちます。まさに美音の響宴。
メヌエットは一転して少し流すように力を抜いて、楽器を自在に鳴らします。この緻密さと粗さのコントロールが実に見事。メヌエットは通例迫力で聴かせる演奏が多い中、このように逆に粗さを活かすとは、かなりの確信犯でしょう。
フィナーレも入りから聴かせます。ゆったり入りそうな一音目から急加速してサラサラと音楽が溢れ出してきます。精緻な演奏ではないんですが、力が抜けて音楽が勝手に湧き出てくるような活き活きとした演奏。この曲の面白さを踏まえて、全員が踊っているような躍動感。これは見事です。

Hob.III:39 / String Quartet Op.33 No.3 "Vogelquartett" 「鳥」 [C] (1781)
続いて鳥。自分たちの音楽の魅力をよくわかっているのでしょう。ハイドンの弦楽四重奏曲の中でも伸びやかな曲想の曲をそろえてきています。演奏は前曲同様、美音を活かした自在な演奏。速めのテンポで素晴しい勢いの演奏。唸るような弦楽器の美音に打たれまくりです。
この曲ではスケルツォの抑えた表現が秀逸。良く鳴る楽器を押さえ込んでさかさかと抑えたボウイングで入ります。中間のヴァイオリンはわざとつっかえるような遊びの表情、そして再び抑えた表現。曲の面白さを知り尽くした円熟の表現。当時は若手だったはずですが、じつに味わい深い表現に驚きます。
アダージョはクッキリしながらも表現をおさえてオーソドックスにもってきました。この楽章事の弾き分けも実に良く考えられて、ハイドンが曲に仕込んだ機知をクッキリと浮かび上がらせるよう。
フィナーレはさざめくようなデリケートな音楽から入り、徐々に曲の面白さがにじみ出てくるよう。細かい音階が抑えながらも素晴しいキレ味で迫ってきて、力感はほどほどなのに表現の鋭さで攻めて来るよう。見事。

Hob.III:74 / String Quartet Op.74 No.3 "Reiterquartetett" 「騎士」 [g] (1793)
名曲騎士。前2曲と比べると険しい表情の多い曲。曲と演奏のマッチングは前2曲の方がいいですね。このクァルテットの豊穣な音色の特徴が、1楽章では少しスポイルされている印象ですが、静謐な曲想が魅力の2楽章に入ると、これまでとは違ったじっくりと染み込むような魅力をもっていることがわかります。この曲を最後に持ってきた意味が何となくつかめました。鳴りの良さばかりが我々の音楽ではないよとでも言いたそう。
この曲のメヌエットはがらっと変わって、精緻な演奏。曲ごとのアプローチの違いも実に面白い。繰りかえし軽く楔を打つような表現が畳み掛けてきます。良く聴くとソフレーズ毎の音色のコントロールも緻密。
そして独特の表情をもつフィナーレは硬軟織り交ぜて、軽さをあらわす部分のキレとクッキリしたメロディーの見事な対比で聴かせます。

ヘンシェル四重奏団の演奏によるハイドンの弦楽四重奏曲、まさに美音を駆使した彫りの深い名演。特に印象的なのは抑えた音階のキレの良さと、強奏の見事な存在感の響きの対比でしょう。特に前2曲がいいと思いますが、何回か聴き直すと、騎士も実に深い演奏。これは名盤でしょう。評価は3曲とも[+++++]とします。

ちなみにヘンシェル四重奏団のハイドンの演奏には十字架上のキリストの最後の七つの言葉があり、こちらも未入手でしたので早速注文を入れてみました。

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tag : 弦楽四重奏曲Op.64 ひばり 弦楽四重奏曲Op.33 弦楽四重奏曲Op.74 騎士

ウィーン・コンツェルトハウス四重奏団のOp.64のNo.6(ハイドン)

夏休みにかまけてて、しばらくレビューから遠ざかっていましたので、すこし音楽に飢えてきました。今日はちょっと古めの演奏。かなり久しぶりに取り出してみたアルバム。

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ウィーン・コンツェルトハウス四重奏団(Vienna Konzerthaus Quartet)の演奏による、ハイドンの弦楽四重奏曲Op.64のNo.6、No.1、No.3を収めたアルバム。今日はその中からOp.64のNo.6を取りあげます。収録は1950年、ウィーンのコンツェルトハウスのモーツァルトザールでのセッション録音。レーベルはWestminster(日本のMCAビクター盤)。

ウィーン・コンツェルトハウス四重奏団の演奏は、同じくMCAビクター盤の演奏を一度取りあげています。

2011/10/08 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : ウィーン・コンツェルトハウス四重奏団のOp.64のNo.2

以前に聴いたアルバムはかなり金属的なキツい音の録音だったのですが、久しぶりにこちらのアルバムを取り出して聴いてみるとと、音色は似ているものの幾分マイルド。弦楽四重奏曲を聴くのにはちょうどいい感じ。録音の是非についてはそれほどシビアではありませんが、こうした復刻ものでは演奏の印象を大きく左右する場合もあります。明らかに前に取りあげたアルバムより聴きやすく、音楽も豊かに聴こえます。前のアルバムのOp.64のNo.2が1954年5月の録音だったのに対し、今日取り上げる演奏は1950年と4年ほど遡った録音と、古さが幸いしたのでしょうか。

クァルテットの紹介やメンバーについては前記事をご覧ください。

Hob.III:64 / String Quartet Op.64 No.6 [E flat] (1790)
冒頭から味わい深いくすんだような音色の弦楽器が絶妙のアンサンブルで入ります。録音のバランスはフラットで、前記事のアルバムに聴かれた金属っぽい印象はありません。モノラルながら彫りの深い表情の鮮明な録音です。実にゆったりとリラックスした演奏。そのなかでもアントン・カンパーの濡れたような表情のヴァイオリンの美しさが際立ちます。展開部の各パートが鬩ぎ合うところでも、落ち着き払ってアンサンブルの美しさを保ちます。我々がウィーン・コンツェルトハウス四重奏団に期待するウィーン風の味わい深い響きが、まさに目の前で紡ぎ出されていくよう。このリラックス度合いと音楽の豊かさは彼らの演奏でも最上のものでしょう。
2楽章のアンダンテに入ると、アンサンブルの精度はそのままに各パートが歌う歌う。全員の音楽のフォーカスがピタリと一致して、実にゆったりとした音楽を奏でて行きます。途中からカンパーのヴァイオリンが一歩踏み込んで素晴らしい、伸び伸びとした美音を聴かせるようになります。再びアンサンブル全員の腕が等しく問われる場面に戻りますが、前パートが糸を引くような美しいメロディーを重ねて、この美しいアンダンテを宝石のように磨きこんでいきます。
メヌエットはことさらリズムやテンポの揺れを目立たせる事なく、最近の演奏とくらべると表情は押さえ気味。楽章間つながりの一貫性を活かす解釈でしょう。途中からテープの伸びか音程がすこし変わる部分があります。
フィナーレはもちろんテンポを上げますが、つねに抑制が利いて、荒れた部分は皆無。完全にコントロールされれた精度の高い演奏。メンバーのテクニックは確かなもの。音色を自在に変化させて、曲のメリハリをクッキリつけていきます。最後にテンポを一瞬落とす部分のユーモラスな演出も決まって、完璧な演奏。

ウィーン・コンツェルトハウス四重奏団のハイドンのOp.64のNo.6、このシリーズの演奏のなかでもピカイチの出来の演奏と言っていいでしょう。このアルバムに収められた残りの2曲も良い演奏ですが、このNo.6ほどキレていません。このNo.6については、演奏も録音も理想的。そしてハイドンの書いたOp.64のNo.6という、穏やかで機知がちりばめられた曲をじっくりとえも言われぬ味わい深い響きによって描ききった名演奏と言っていいでしょう。ウィーン・コンツェルトハウス四重奏団の演奏になんとなくピンと来ない方はこの曲を聴いてみる事をお薦めします。評価は[+++++]とします。

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テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽

tag : 弦楽四重奏曲Op.64 ヒストリカル

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Daisy


Author:Daisy

なぜかハイドン(Franz Joseph Haydn)が特に気に入り膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。東京在住のごく普通のサラリーマンです。

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