シュトラウス四重奏団の騎士、皇帝(ハイドン)

新着アルバムが2枚続きましたので、最近聴いてよかったLPを取り上げます。先日オークションで手に入れたもの。

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シュトラウス四重奏団(Strauss Quartett)の演奏で、ハイドンの弦楽四重奏曲Op.74のNo.3「騎士」、Op.76のNo.3「皇帝」、伝ハイドンによるセレナード(Op.3のNo.5)の3曲を収めたLP。収録年も場所も記載がありませんが、いろいろ調べて見ると1960年代の録音との情報が出てきました。レーベルは独TELEFUNKEN。

シュトラウス四重奏団ははじめて聴くクァルテット。メンバーは下記のとおり。

第1ヴァイオリン:ウルリッヒ・シュトラウス(Ulrich Strauss)
第2ヴァイオリン:ヘルムート・ホーヴァー(Helmut Hoever)
ヴィオラ:コンラート・グラーエ(Konrad Grahe)
チェロ:エルンスト・シュトラウス(Ernest Strauss)

クァルテットの名前は第1ヴァイオリンとチェロのシュトラウス兄弟からとったもの。1957年から80年代まで、主にドイツ西部のエッセンにあるフォルクヴァンク美術館をで活動していたとのこと。録音は今日取り上げるLP以外にはハイドンの「日の出」と「ラルゴ」があるくらいのようで、知る人ぞ知る存在という感じでしょうか。

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このアルバム、TELEFUNKENの黒地に金文字の厳かなデザインがなかなかいいですね。いつものように、VPIのクリーナーでクリーニングして針を落とすと、スクラッチノイズもほぼ消え、ちょっと古風ながらドイツ風の質実剛健な弦の響きがスピーカーから流れ出してきました。

Hob.III:74 String Quartet Op.74 No.3 "Reiterquartetett" 「騎士」 [g] (1793)
聴き慣れた騎士の入りのフレーズ。速めのテンポでサクサクと入りますがフレーズごとにテンポと表情をくっきりと変えてくるので、実にニュアンス豊かな演奏に聴こえます。険しい響きの中から明るいメロディーがすっと浮かび上がる面白さ。一人一人のボウイングが適度に揺れているので、かっちりとしたハーモニーを作るのではなく、旋律のざっくりとしたリズミカルな綾の味わい深かさが聴きどころの演奏。
騎士の白眉であるラルゴは前楽章以上に味わい深いハーモニーを堪能できます。力が抜け、ゆったりとリラックスできる演奏。LPならではのダイレクトな響きの美しさに溢れています。途中からテンポをもう一段落としてぐっと描写が丁寧になったり、アドリブ風に飛び回るようなヴァイオリンの音階を挟んだり、軽妙洒脱なところも聴かせるなかなかの表現力。
続くメヌエットはこのクァルテットの味わい深くもさりげなくさらさらとした特徴が一番活きた楽章。この表現、この味わい深さに至るには精緻な演奏よりも何倍も難しいような気がします。
その味わい深さを保ったままフィナーレに突入。サクサクさらさらと楽しげに演奏していきます。どこにも力みなく、どこにも淀みなく流れていく音楽が絶妙な心地良さ。それでいてフレーズ毎に豊かな表情と起伏が感じられる見事な演奏。騎士のフィナーレは力む演奏が多い中では、この軽やかさは貴重。まるでそよ風のように音楽が吹き抜けていきます。

Hob.III:77 String Quartet Op.76 No.3 "Kaiserquartetett" 「皇帝」 [C] (1797)
名曲皇帝も前曲同様、比較的速めのテンポでさらりとした入り。音楽をどう表現しようかというコンセプトを考える前に、体に染みついているハイドンのメロディーが自然に音楽になって流れ出している感じ。この自然体の演奏スタイルなのに、音楽に躍動感と気品のようなものがしっかりと感じられるのが素晴らしいところ。よく聴くとアンサンブルもまったく乱れるところはなく、音楽の推進力に完全に身を任せているよう。
レコードをひっくり返してドイツ国歌の2楽章。媚びないさっぱりと演奏から滲み出る情感に咽びます。この悟りきったような自然さがこのクァルテットの真髄でしょう。よく聴くとヴァイオリンのみならず、ヴィオラ、チェロもかなりのしなやかさ。全員のボウイングのテイストがしっかり統一されていて、それぞれが伸びやかに演奏することから生まれる絶妙なハーモニー。第1ヴァイオリンのウルリッヒ・シュトラウスは1929年生まれなので録音当時は30代ですが、その年代とは思えない達観した演奏。
メヌエットも前曲同様屈託のないもの。そしてさっとフィナーレに入り、劇的なフィナーレをさらりとまとめてくるのも同様。この曲のクライマックスは2楽章であったとでも言いたげに、さらりとやっつけます。

String Quartet Op.3 No.5 "Serenadequartett" [F] (Doubtful 疑作 Composed by Roman Hoffstetter)
ご存知セレナーデ。速めなテンポは同様。味わい深さもさらりとした展開も同様。ただそれだけならばそれほど聴き応えのある演奏にはならないのですが、音色の美しさとフレーズ一つ一つがイキイキとしているので不思議と引き込まれるのも同様。特に2楽章のピチカートの響きの美しさはかなりのもの。こちらも素晴らしい演奏でした。

実にさりげない演奏なんですが、実に味わい深く、LPであることも手伝って美しい響きに包まれたハイドンの名曲をさらりと楽しめる、通向けの演奏。ハイドンのクァルテットをいろいろ聴いてきた人にはこの味わい深さはわかっていただけるでしょう。入手はなかなか容易ではないでしょうが、中古やオークションでは見かける盤ですので、みかけた方は是非この至福の自然体を味わっていただきたいと思います。評価は全曲[+++++]とします。

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tag : 騎士 皇帝 ハイドンのセレナード 弦楽四重奏曲Op.74 弦楽四重奏曲Op.76 ヒストリカル LP

古典四重奏団のOp.74(新所沢 松明堂音楽ホール)

今日は当ブログにコメントをいただく、だまてらさんからの誘いでコンサートに行ってまいりました。西武新宿線新所沢駅近くにある松明堂音楽ホールという100人くらい収容できる小さなホールの主催するコンサート。

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松明堂音楽ホール

プログラム及び奏者は下記のとおり。

ハイドン
弦楽四重奏曲Op.74 No.1
弦楽四重奏曲Op.74 No.2
弦楽四重奏曲Op.74 No.3 「騎士」

古典四重奏団(Quartetto Classico)
第1ヴァイオリン:川原 千真(Chima Kawahara)
第2ヴァイオリン:花崎 淳生(Atumi Hanazaki)
ヴィオラ:三輪 真樹(Maki Miwa)
チェロ:田崎 瑞博(Mizuhiro Tasaki)

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このコンサートは松明堂音楽ホールが主催する「ハイドンの部屋」という、ハイドンの弦楽四重奏曲を全20回で全曲演奏するシリーズの第16回にあたるもの。年2回の開催ということで、足掛け10年におよぶ息の長いプロジェクト。このコンサートの存在は以前よりだまてらさんに教えてもらって知ってはいたのですが、今回はだまてらさんの同行者が急遽参加できないこととなり、お声がかかって、ようやく実際に聴くことができるに至ったという次第。

古典四重奏団は東京芸大及び同大学院の1986年卒業生によるクァルテットとのこと。現在この「ハイドンの部屋」以外にもショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲全曲を演奏するシリーズやレクチャー付きのコンサートシリーズなど、単発ではなく長期間継続するシリーズものを中心に活動しているようです。私はもちろんはじめて聴くクァルテット。大学を1986年に卒業ということは私とまったく同じ世代ということで、妙に親近感も湧きます(笑)

古典四重奏団



だまてらさんとは開演前に新所沢駅の改札で待ち合わせ。駅のすぐ近くのホールについてみると、すでに並んでいるひとの列がホールの外までつながってました。座席が指定ではないため、皆さん早めに来ているということでしょう。

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開演30分前くらいに会場となり、ホールに入ります。このコンサートは1000円ということで、大変リーズナブル。もうすこし払ってもいいんですが、、、(笑)

会場内は撮影禁止ということで、様子は上のホールのウェブサイトをご覧ください。曲面を描くざらついた壁に彫刻などがセンスよくあしらわれた綺麗な内装。クァルテットに丁度いいステージと平土間に長椅子をおいた客席ですが、この日はキツキツに座って100名くらいの収容人員。

ほどなく満員となり、客席の照明がすっと落ちて古典四重奏団のメンバーがステージに登場。皆さん割とポーカーフェイス(笑)。入念に調弦して、まずはOp.74のNo.1から。ライヴの常で、最初は音程が若干ふらつきますが、折り目正しいかっちりとした演奏。ホールの壁がコンクリートなのでちょっと響きが硬い印象ですが、目の前すぐのところで弾かれるクァルテットは迫力十分。すぐに第1ヴァイオリンの川原さんの輝かしい浸透力のある音色が音楽を支配します。フレージングや音階に荒さはあるものの、やはりそこは生だけに、迫力で聴かせてしまいます。No.1は丁寧に繰り返しを全部実行してガッチリとした構成感を強調。4楽章の終盤の迫力が素晴らしい演奏でした。
No.2は弾むような軽やかな曲想の1楽章から入りますが、古典四重奏団の演奏はリズムが若干固め。テンポが若干遅めなせいか、あるいは第1ヴァイオリンのボウイングが直裁なせいでしょうか。逆にスタティックな面白さを感じさせ、荒削りな曲の起伏が浮かび上がります。第2ヴァイオリンとヴィオラは比較的しなやかで、チェロは表現の幅広い感じ。第1ヴァイオリンの存在感で聴かせるという意味ではアウリン四重奏団に近い感じ。アンサンブル全体でゆったり感としなやかさが増すと表現の幅が広がると思います。終楽章のコミカルなメロディはキレよくまとめます。

休憩を挟んで、お目あての騎士。やはり耳に馴染んだ演奏より若干テンポが遅めで、起伏をかなりカッチリと描いていきます。この辺は日本的な感性なのかもしれませんね。曲が進むにつれて演奏に力がこもり、迫力で聴かせます。
そして、精妙な曲想の2楽章のラルゴは、あえて流麗さを狙わず、淡々とした描き方。3楽章のメヌエットは節のしっかりとした演奏。クライマックスのフィナーレはやはりキレよくまとめてきます。No.1できっちり繰り返しを実行したのが強く印象に残っているからか、この騎士では最後があっさりというかスマートに終わった印象でした。

小さなホールながら満員のお客さんから拍手が降り注ぎ、ポーカーフェイス気味のメンバーもにっこり拍手に応えていました。最後にチェロの田崎さんから、ハイドンのシリーズに比べてお客さんの入りが悪いショスタコーヴィチのシリーズもよろしくとのアナウンスが入ってお客さんもどっと和んでいました。

このコンサート、演奏も生のクァルテットをしっかり楽しめる素晴らしいものですが、素晴らしいのがパンフレット。簡易印刷の簡単なものですが、このコンサートに訪れた人に、ハイドンのOp.74が書かれた前後の時代背景や、簡単な曲目解説、そして奏者の説明が簡潔に記され、読み応え十分。大きなホールでおこなうコンサートのパンフレットよりよほど気が利いてます。文は河村泰子さんという方が書いています。そして、コンサートの企画運営も素晴らしいものがありますね。リーズナブルな値段で、これだけ骨のある企画を長年続けているあたり、こちらも大手よりもよほどしっかりとした企画力があると思います。手の届くところでこうした音楽の楽しみをきちんと提供し続けている姿勢は素晴らしいものがあり、もちろん演奏もふくめて大満足のコンサートでした。音楽を楽しんでもらおうという志に打たれましたね。



ホールから外に出ると、うっすらと暗くなりかけていました。帰りにだまてらさんと新宿で反省会。もちろん、ハイドン、音楽、オーディオなど、一般の方の理解の外の激ニッチな話題で盛り上がり、楽しいひと時でした。だまてらさん、ありがとうございました!

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tag : 弦楽四重奏曲Op.74 騎士

ロザムンデ四重奏団の皇帝、ひばり、騎士(ハイドン)

このところ良くコメントをいただくSkunjpさんオススメのアルバム。当方のコレクションにありませんでしたので、早速注文して届いたもの。

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TOWER RECORDS / amazon(mp3) / HMV ONLINEicon

ミュンヘン・ロザムンデ四重奏団(Rosamunde Quartett München)の演奏による、ハイドンの弦楽四重奏曲からOp.76のNo.3「皇帝」、Op.64のNo.5「ひばり」、Op.74のNo.3「騎士」と有名曲ばかり3曲を収めたアルバム。収録は、ベルリンの南の街ランクヴィッツ(Lankwitz)にあるジーメンス・ヴィラ(Siemens-Villa)という古い教会のような建物でのセッション録音。レーベルはBerlin CLASSICS。

ロザムンデ四重奏団のアルバム手元にECMレーベルからリリースされている「十字架上のキリストの最後の七つの言葉」がありますが、堅実な演奏との認識で、これといって強く印象に残る感じはしませんでした。今日取り上げるアルバムは冒頭に触れたとおり、ハイドン愛好家のSkunjpさんのオススメのアルバム。もちろんそう言われて黙っているわけにもいかず、早速注文を入れてみた次第。実はこの演奏、当ブログへのコメントで教えていただいた直後に調べたところApple Musicにも登録されていて、通勤帰りにちょっと聞いてみたりしたのですが、正統派の折り目正しい演奏と聴きましたが今一つイメージがパッとしません。この手の演奏はアルバムでちゃんと聴くと印象も異なることがあるということでCDのほうも注文したという流れです。

ロザムンデ四重奏団は1992年に設立されたクァルテット。クアルテットのウェブサイトが見つかりましたが、2009年以降更新されておらず、もしかしたら現在は活動していないかもしれませんね。このアルバム収録当時のメンバーは下記のとおり。

第1ヴァイオリン:アンドリアス・ライナー(Andreas Reiner)
第2ヴァイオリン:ダイアン・パスカル(Diane Pascal)
ヴィオラ:ヘルムート・ニコライ(Helmut Nicolai)
チェロ:アンヤ・レチーナー(Anja Lechner)

ROSAMUNDE QUARTETT

クァルテットの行方はともかく、このアルバムの演奏を紐解いてみましょう。

Hob.III:77 String Quartet Op.76 No.3 "Kaiserquartetett" 「皇帝」 [C] (1797)
もちろんApple Musicと同じ演奏なんですが、音の広がりや定位感、実在感はCDのほうが上。実にオーソドックスな演奏ゆえ、Apple Musicではちょっと凡庸に聴こえなくもありませんでしたが、CDで聴くとしっかりとした芯のある音色と、堅実な弓裁きの魅力が伝わります。テンポはカッチリと決め、これ以上几帳面な演奏は難しいほどに規律正しい演奏。たしかに何もしていないんですが、何もせず、きっちり演奏することでハイドンの魅力が浮かび上がるという確信に満ちた演奏。音量を上げて聴くと素晴らしいリアリティーに打たれます。教科書的という言葉をアーティスティックにデフォルメしたような冴えわたる規律正しさ。この演奏に一旦ハマると他の演奏が軟派に聴こえるかもしれません。揺るぎないリズムの刻みに圧倒されます。表現の角度は異なりますが、この一貫性はクナのワーグナーのような雄大さを感じさせなくもありません。
ドイツ国家のメロディーとなった2楽章も言ってみれば何もしていませんが、キリリとした表情でクッキリと陰影をつけアダージョが冬の日差しに峻厳と輝くアルプス山脈のような迫力で迫ってきます。辛口というテイストの問題ではなく、まさにリアリズムの世界のよう。終盤ちょっとテンションを緩めた変奏部分が妙に沁みます。各パートとも磨き抜かれ、冷徹なまでに冴え渡ります。
もちろんメヌエットもキレキレ。青白い刀の刃の輝きのような冴えが全編に漂います。リアルなクァルテットの響きにゾクゾクします。
切れ込むような鋭い響きからはいるフィナーレ。あちこちに切れ込みながら音楽が進み、険しい表情を張り詰めた音色で描いていきます。力の入った演奏ですが、力任せすぎず、鋭利さとバランスを絶妙に保ちながらの演奏。このバランス感覚の存在こそたロザムンデ四重奏団の特徴でしょう。

Hob.III:63 String Quartet Op.64 No.5 "Lerchenquartetett" 「ひばり」 [D] (1790)
名曲3点セット的選曲です。つづくひばりは予想どおりバランスの良い几帳面なリズムから入ります。冒頭のキリッとしたリズムの刻みと、伸びやかなヴァイオリンはまさに想像したとおり。演奏スタイルは一貫しており前曲を聴いて頭に描いたイメージどおりです。録音がクリアなので、クァルテットの響きの冴えを十二分に味わうことができます。主題の繰り返し部分では表情を変えることがないのですが、逆に再び登場するメロディーがまったく同じように響く快感を味わえます。途中からチェロがクッキリと浮かびあがり、見事に解像するアンサンブルの快感も味わえます。終盤再び繰り返されるメロディーのキレのいいことと言ったらありません。
つづくアダージョもテンションはそのまま、ゆったりとしたメロディーながら響きはタイトなまま切れ込みます。一貫したスタイルが売りものですが、ここまで一貫しているとは。メヌエットもまったく揺るぎない展開。
そしてフィナーレでは若干柔らかめに入りますが、テンポの安定感は変わらず、徐々にテンションが上がり、タイトな音色の連続にトランス状態に入りそうな勢い(笑)。短いフィナーレの最後はグッと音量を上げてクライマックスに至ります。

Hob.III:74 String Quartet Op.74 No.3 "Reiterquartetett" 「騎士」 [g] (1793)
最後も名曲「騎士」。もはやこの一貫したスタイルの魅力に押され気味。カッチリとした表情、余人を寄せ付けない緊張感、手綱をすこしだけ緩めて起伏を表現するスタイル。いずれもロザムンデ四重奏団の突き抜けた個性です。このテンションの高さだけの連続だったら単調にも聴こえたでしょうが、そうは感じさせない表現のコントロールもあります。この曲に潜む陰りのようなものの表現は秀逸。冴え冴えとした表情だからこそ陰の部分の陰影が深い。
精妙なアンサンブルが聴きどころの2楽章。アルバン・ベルクではちょっと作った感じに聴こえたこの楽章が、自然さを保ちながらの精妙さに至り、活き活きとした表情に感じられます。よく聴くとボウイングに呼吸のような自然さが宿っており、ただタイトな響きではないことがわかります。このあたりがクァルテットの難しいところ。硬さを表すのに柔らかさが必要なんでしょう。この騎士では弱音と間の美しさも感じられます。
そしてメヌエットも前2曲よりも心なしかしなやか。リズムのキレはそのままにすこし力を抜いて粋なところを聴かせます。
最後のフィナーレは松ヤニが飛び散りそうなヴァイオリンの弓裁きを堪能できます。各パートそれぞれの音のエッジが立って際立つスリリングさ。この騎士だけがすこし力を抜いた面白さを加えてきました。

ロザムンデ四重奏団によるハイドンの名曲集。クッキリと浮かび上がる各パートの緊張感のあるやりとりとタイトな響きの魅力に溢れた演奏でした。Skunjpさんのコメントにある、「主旋律にからむ対位旋律、副旋律、伴奏型のすべてが雄弁で、4人が精密かつ有機的に共鳴し合う」という意味がよくわかりました。クァルテットの演奏は千差万別。ハイドンの名曲の様々な面に光を当て、現代にあってもその魅力を表現し尽くした感はありません。ハイドンの皇帝、ひばり、騎士のオーソドックスなスタイルの名演奏としてハイドン好きな皆さんにも一度聴いていただきたい演奏ですね。評価は3曲とも[+++++]とします。

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tag : 皇帝 ひばり 騎士 弦楽四重奏曲Op.76 弦楽四重奏曲Op.64 弦楽四重奏曲Op.74

シュパンツィヒ四重奏団の弦楽四重奏曲集Vol.1(ハイドン)

先日取りあげたシュパンツィヒ四重奏団の最新盤が良かったので、未入手の2枚を注文していて入荷したもの。

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HMV ONLINEicon / amazon / TOWER RECORDS

シュパンツィヒ四重奏団(Schuppanzigh Quartet)の演奏による、ハイドンの弦楽四重奏曲Op.9のNo.6、Op.74のNo.1、Op.50のNo.6「蛙」の3曲を収めたアルバム。収録は2007年12月5日から8日にかけて、ベルリンのポツダムに近いヴァン湖のほとりにあるアンドレアス教会でのセッション録音。レーベルはベルギーの名門ACCENT。

以前取りあげた記事はこちら。

2013/10/21 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : 【新着】シュパンツィヒ四重奏団の弦楽四重奏曲集

以前取りあげたアルバムは2011年の録音ですが、この間、チェロの奏者が変わっています。このアルバム録音時のメンバーは下記の通り。

第1ヴァイオリン:アントン・シュテック(Anton Steck)
第2ヴァイオリン:フランク・ポールマン(Franc Polman)
ヴィオラ:クリスティアン・グーセンズ(Chiritian Goosses)
チェロ:アンティエ・ゴイセン(Antje Geusen)

クァルテットの情報は前記事をご覧ください。この頃のチェロ奏者は女性のアンティエ・ゴイセン。両演奏の間の違いは、このクァルテット最初のハイドンのアルバムということで4年の月日の経過と、チェロ奏者の違いとなります。以前のアルバムのクッキリとメロディーラインが浮かび上がる素晴しい演奏が聴かれるでしょうか。

Hob.III:24 / String Quartet Op.9 No.6 [A] (c.1769-70)
シュトルム・ウント・ドラング期の作品。Op.9はこれまであまり取りあげてきませんでしたので、ちょうどいいでしょう。後年の成熟した筆致の曲とは異なり、ディヴェルティメントと呼ばれていた頃のもの。広い教会堂の残響が適度に乗った美しい響き。前アルバムと同様、伸び伸びとした古楽器が、クッキリと楽天的でさえあるようにフレーズを重ねて行く演奏。1楽章の小気味好い闊達な響きと、2楽章のメヌエットの陰りのある陰影。アダージョではアントン・シュテックのヴァイオリンの美しい伸び伸びとした高音の音色がたまりません。静謐感がある引き締まった響き。抑えた表情も素晴しいですね。フィナーレはアントン・シュテックが軽々と駆け上がるような音階をこなし、小気味好いことこの上なし。素晴しいキレで曲を結びます。シュパンツィヒ四重奏団、ハイドンの1枚目からキレてました。

Hob.III:72 / String Quartet Op.74 No.1 [C] (1793)
だいぶ時代が下って聴き慣れた名曲。変に凝ったところなく、美しい響きで曲を流麗に描いて行きます。もちろんシュテックのヴァイオリンの音色は相変わらず磨き抜かれて最高。他の3人も見事に追随して、アンサンブルの精度も悪くありません。やはり抑えた部分とクッキリ描く部分の対比が良いので、非常に立体感を感じる演奏。ただ、ちょっと楽天的に過ぎて、この曲の深みのようなものが欠けているという気がしなくもありません。
2楽章のアンダンティーノに入っても流麗さは変わらず、軽いタッチで淡い音楽を描いていきます。そして、メヌエットも同様。響きの美しさとアンサンブルの精妙さは保っているものの、楽章の対比がもう少し欲しいと思うのは私だけでしょうか。フィナーレまで一貫して一気に持って行く感じ。最後の盛り上げ方は流石。

Hob.III:49 / String Quartet Op.50 No.6 "Frosch" 「蛙」 [D] (1787)
フィナーレのバリオラージュ奏法による不思議な響きによって「蛙」と名前がついた曲。この曲でも冒頭から楽天的な雰囲気を感じさせながら、速いテンポで曲の織りなす綾を表現していきます。軽々と速いパセージをこなしていくところのテクニックは流石なところです。疾風のような勢いで1楽章をこなします。
2楽章のポコ・アダージョに入ると、テンポをようやく落とし、しっとりとした表情の演奏に戻ります。少し曲の構造を感じさせるメリハリがついて、曲の陰影もはっきりしてきます。フレーズごとに微妙に明るさと陰りをコントロールして深みを表現していきます。
2楽章がちょっと沈んだので、メヌエットは軽いものの引き立ちます。そして印象的な響きのフィナーレは、シュパンツィヒの響きの良さが曲想に合っています。伸び伸びと美しいヴァイオリンの響きと、コミカルなメロディーの語り口の上手さが相俟って、なかなかの味わい。アントン・シュテックの妙技が光ります。

シュパンツィヒ四重奏団のハイドンの弦楽四重奏曲集のVol.1。古楽器の腕利き奏者ぞろいのクァルテットによって、ハイドンの弦楽四重奏曲の軽妙洒脱な面白さをうまく表現した演奏といって良いでしょう。先日レビューした最新盤と演奏スタイルは大きく変わらないものの、こちらの方が、軽さと勢いがある代わりに、クッキリとした精妙さと陰影は最新盤に分があるといったところでしょう。古楽器によるハイドンの弦楽四重奏曲の演奏としては万人にお薦めできる内容です。評価はOp.74のNo.1のみ[++++]、他2曲は[+++++]とします。

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tag : 弦楽四重奏曲Op.9 弦楽四重奏曲Op.50 弦楽四重奏曲Op.74 古楽器

【新着】シュパンツィヒ四重奏団の弦楽四重奏曲集

今日は新着盤。

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HMV ONLINEicon / amazon / TOWER RECORDS

シュパンツィヒ四重奏団(Schuppanzigh-Quartett)の演奏によるハイドンの弦楽四重奏曲3曲(Op.54のNo.1、Op.20のNo.2、Op.74のNo.3「騎士」)を収めたアルバム。収録は2011年12月8日から11日にかけて、ベルリンの南西、ポツダムに近いヴァン湖のほとりにあるアンドレアス教会でのセッション録音。レーベルはベルギーの名門ACCENT。

このアルバム、調べてみるとシュパンツィヒ四重奏団のハイドンの弦楽四重奏団の3枚目にリリースされたアルバムとのことですが、先にリリースされたアルバムも手元になく、このアルバムを聴いてあわてて発注した次第ですが、在庫状況がいまいちで、なかなか入荷しません。先にリリースされたアルバムを聴いてからレビューしようと、まさに棚に上げていたんですが、しびれを切らしてレビューです(笑)

シュパンツィヒ四重奏団は1996に設立されたピリオド楽器による四重奏団。もともとハイドンが生きていた頃とも重なる時代に活躍していたオーストリアの名ヴァイオリニスト、イグナツ・シュパンツィヒが1796年に設立した四重奏団ですが、それから200年を記念して1996年に新生シュパンツィヒ四重奏団が設立されたとのこと。メンバーは下記の通り。

第1ヴァイオリン:アントン・シュテック(Anton Steck)
第2ヴァイオリン:フランク・ポールマン(Franc Polman)
ヴィオラ:クリスティアン・グーセンズ(Chiritian Goosses)
チェロ:ウェルナー・マツケ(Werner Matzke)

アントン・シュテックとクリスティアン・グーセンズは以前に同じACCENTからリリースされているハイドンのヴァイオリンとヴィオラのためのソナタ集の記事で略歴を紹介しています。

2012/08/12 : ハイドン–室内楽曲 : アントン・シュテック/クリスティアン・グーセズによるヴァイオリンとヴィオラのためのソナタ集

ヴァイオリンのフランク・ポールマンはムジカ・アンティカ・ケルンやレ・ ミュジシャン・デュ・ルーヴルのメンバー、そしてチェリストのウェルナー・マツケはコンチェルト・ケルンやアムステルダム・バロック・オーケストラのメンバーと4人とも古楽器界で広く活躍している人ということです。

Hob.III:58 / String Quartet Op.54 No.1 [G] (1788)
いきなりエネルギッシュな古楽器の張りのある響き。教会らしい残響がほんのり乗りますが、オンマイクでしっかり捕らえられた4人の響きは鮮明。アントン・シュテックのヴァイオリンはなかなかのキレ。キリッとアクセントをつけてクッキリとメロディーを描いていきます。このアルバム、基本的に古楽器を良く響かせて、虚飾もハッタリもなく、自然体の一貫した演奏スタイルで、演奏を楽しんでいるよう。4人の演奏スタイルがピシッと合った演奏。カミソリのようなキレ味ではなく、意外と素朴な印象もあり、逆に好ましく感じられます。中期のこの曲では、曲の明るさを踏まえてよく弾む演奏でした。基本的に楽天的な演奏ですが、ハイドンの音楽の本質と重なるということで、説得力もあります。フィナーレの終盤の響きやテンポの変化、間を使った遊びなど、実に演出上手。スカッと楽しめる演奏です。

Hob.III:32 / String Quartet Op.20 No.2 [C] (1772)
一転アルカイックな響きの魅力が溢れるこの曲。クッキリメリハリが効いた演奏に違いはありませんが、ほんのりと漂うシュトルム・ウント・ドラング期の濃厚な空気。演奏者として一定の視点から曲を解釈しているのですが、微妙に曲のもつ雰囲気を描き分けているのが素晴しいところ。滲みでる情感。やはりこの曲は名曲なんでしょう。音楽が淀むことはなく、次々とハイドンの書いたメロディーが繰り出され、めくるめくように響いてきます。チェロの実に晴朗なフレーズに心が洗われるよう。アダージョではシュテックのすこしテンションを下げつつ、孤高の表情を見せ始めます。良く聴くと演奏の精度が抜群に高い訳ではなく、適度に粗さもあるのですが、それがまた良い味わいにつながっています。長調に転調する場面は何度聴いてもいいもの。パッと一筋の光明が射すよう。メヌエットでは鳥のさえずるような軽さと和音の精妙な重なりの美しさを引き出し、フィナーレではさらりとした感触のフーガのデリケートなタッチの魅力を存分に表現。曲によって聴かせどころを微妙に合わせる手腕は見事です。

Hob.III:74 / String Quartet Op.74 No.3 "Reiterquartetett" 「騎士」 [g] (1793)
妙に心に刺さる入り。響きの強さではなく、じっくり構えたフレージングが刺さります。やはり湧き出るように音楽が進むのがこのクァルテットの良いところ。キツい陰影ではなく、デリケートにトーンが変化する大判フィルムで撮影したモノクロームの写真のよう。どの音域もデリケートなトーンが良く出ていて、実にニュアンスが豊か。力で攻めてくるクァルテットも多い曲ですが、逆に力は抜き気味で曲のメロディーラインの髄を捉えようとしているよう。この引いたアプローチ、良いですね。優雅な部分の余裕が際立ち、結果的に険しい部分の彫り込みも浮かび上がります。
精妙、クッキリくると思ったラルゴですが、意外とサバサバとした自然なアプローチでした。所々に盛り上げどころを配置していますが、自然な語り口から迸る情感は説得力があり、曲自体の美しさが際立つという寸法。このへんの演出の上手さはシュパンツィヒならではでしょう。メヌエットも力を抜き気味でラフな表情をみせつつ自然な進行。フィナーレはタッチの軽さと良く弾むフレーズで、再びクッキリしたキレの良い演奏が戻ってきました。やはり楽器を良く鳴らしながら、8分の力で軽々と弾き進めていきます。この楽天的な推進力はこのクァルテットの特徴でしょう。フレーズごとの変化も巧みにつけて、名曲のフィナーレに相応しい幅の広い表現を聴かせます。クライマックスの表現は流石聴かせ上手。

古楽器の名手ぞろいのシュパンツィヒ四重奏団の弦楽四重奏曲集。作品ごとにまとめてリリースするのではなく、1曲1曲を組み合わせてアルバムを構成するあたり、ハイドンの弦楽四重奏曲に対する確かな選曲眼があるのだとでもいいたそうなアルバム構成でした。演奏はやはりハイドンを演奏し慣れていることとうかがわせる円熟したアプローチ。クッキリと曲を弾き進めることが基本にありながらも、所々で踏み込んだ解釈を織り交ぜ、聴くものを飽きさせません。このアルバム、ハイドンの弦楽四重奏をいろいろ聴き込んだ方にこそわかる、確かな違いがありますね。評価は全曲[+++++]としたいと思います。

発注中の2枚のこれに先立つアルバムの到着が楽しみですね。

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ヘンシェル四重奏団のひばり、鳥、騎士

最近、弦楽四重奏曲の演奏について、haydn totalの演奏の登録を機に、クァルテット名だけでなく各奏者の名前も記載する事にして、少しづつ登録済みのアルバムも追記しています。その整理の途上、ふと思って聴き直した所、なかなか素晴しい演奏だと再認識したアルバム。

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ヘンシェル四重奏団(Henschel Quartett)の演奏によるハイドンの弦楽四重奏曲Op.64のNo.5「ひばり」、Op.33のNo.3「鳥」、Op.74のNo.3「騎士」の3曲を収めたアルバム。収録はPマークが1995年、収録場所はスイスのチューリッヒの西にあるゼオン(Seon)という街でのセッション録音。レーベルは独MEDIAPHON。

ヘンシェル四重奏団は1988年に設立したクァルテット。国際的に活躍するようになったのは1993年、この演奏時のメンバーとなってからとのこと。来年それから20周年になります。メンバーの名前をみると3人がヘンシェル姓ということで、この3人は兄弟と思われます。

第1ヴァイオリン:クリストフ・ヘンシェル(Christoph Henschel)
第2ヴァイオリン:マルクス・ヘンシェル(Markus Henschel)
ヴィオラ:モニカ・ヘンシェル(Monika Henschel)
チェロ:マティアス・D・ベイヤー(Mathias D. Beyer)

HENSCHEL QUARTETT

この演奏が録音された1995年には、フランスのエヴィアン、カナダ、アルバータ州のバンフ、ザルツブルクで開催された国際コンクールで次々と優勝して有名になりました。師事したのはアマデウス四重奏団、メロス四重奏団、アルバンベルク四重奏団など一流どころ。何と2012年には来日して、サントリーホールでベートーヴェンの弦楽四重奏曲全曲を演奏したとのことで、実演に接した方もいらっしゃるかもしれませんね。

今日取り上げるアルバムは、国際的に活躍し始めた頃のもの。いろいろ調べましたが現在は中古以外では流通していない模様です。

アルバムを見て気になるのは左下に”20bit PROCESSING”と誇らしげにロゴが表示されている事。最新の録音ではありませんが、音質にこだわったプロダクションであることがわかります。また、使用している楽器はヴァイオリンがストラディヴァリウス、ヴィオラはグァルネリ、チェロはグランチーノと、これまた誇らしげに記載されております。聴いてみると、これらの記載に負けない美音が炸裂するんですね。

Hob.III:63 / String Quartet Op.64 No.5 "Lerchenquartetett" 「ひばり」 [D] (1790)
広々とした空間に艶やか、芳醇な弦楽器の音色が浮かび上がります。まさに魚沼産コシヒカリのようなモチモチ感(笑) 非常に伸びやかな演奏。最上の楽器を実に上手く鳴らしきっています。ハイドンの晴朗さを存分に表現し、陰りとか燻し銀と言うような雰囲気はなし。このひばりという曲の抜けるような魅力の真髄をとらえた演奏と言っていいでしょう。
アダージョに入ると,伸びやかさに加えて彫りの深さが加わります。第1ヴァイオリンだけでなく、他の楽器の鳴りも負けず劣らず素晴しい陰影。それぞれの楽器の音の存在感が際立ちます。まさに美音の響宴。
メヌエットは一転して少し流すように力を抜いて、楽器を自在に鳴らします。この緻密さと粗さのコントロールが実に見事。メヌエットは通例迫力で聴かせる演奏が多い中、このように逆に粗さを活かすとは、かなりの確信犯でしょう。
フィナーレも入りから聴かせます。ゆったり入りそうな一音目から急加速してサラサラと音楽が溢れ出してきます。精緻な演奏ではないんですが、力が抜けて音楽が勝手に湧き出てくるような活き活きとした演奏。この曲の面白さを踏まえて、全員が踊っているような躍動感。これは見事です。

Hob.III:39 / String Quartet Op.33 No.3 "Vogelquartett" 「鳥」 [C] (1781)
続いて鳥。自分たちの音楽の魅力をよくわかっているのでしょう。ハイドンの弦楽四重奏曲の中でも伸びやかな曲想の曲をそろえてきています。演奏は前曲同様、美音を活かした自在な演奏。速めのテンポで素晴しい勢いの演奏。唸るような弦楽器の美音に打たれまくりです。
この曲ではスケルツォの抑えた表現が秀逸。良く鳴る楽器を押さえ込んでさかさかと抑えたボウイングで入ります。中間のヴァイオリンはわざとつっかえるような遊びの表情、そして再び抑えた表現。曲の面白さを知り尽くした円熟の表現。当時は若手だったはずですが、じつに味わい深い表現に驚きます。
アダージョはクッキリしながらも表現をおさえてオーソドックスにもってきました。この楽章事の弾き分けも実に良く考えられて、ハイドンが曲に仕込んだ機知をクッキリと浮かび上がらせるよう。
フィナーレはさざめくようなデリケートな音楽から入り、徐々に曲の面白さがにじみ出てくるよう。細かい音階が抑えながらも素晴しいキレ味で迫ってきて、力感はほどほどなのに表現の鋭さで攻めて来るよう。見事。

Hob.III:74 / String Quartet Op.74 No.3 "Reiterquartetett" 「騎士」 [g] (1793)
名曲騎士。前2曲と比べると険しい表情の多い曲。曲と演奏のマッチングは前2曲の方がいいですね。このクァルテットの豊穣な音色の特徴が、1楽章では少しスポイルされている印象ですが、静謐な曲想が魅力の2楽章に入ると、これまでとは違ったじっくりと染み込むような魅力をもっていることがわかります。この曲を最後に持ってきた意味が何となくつかめました。鳴りの良さばかりが我々の音楽ではないよとでも言いたそう。
この曲のメヌエットはがらっと変わって、精緻な演奏。曲ごとのアプローチの違いも実に面白い。繰りかえし軽く楔を打つような表現が畳み掛けてきます。良く聴くとソフレーズ毎の音色のコントロールも緻密。
そして独特の表情をもつフィナーレは硬軟織り交ぜて、軽さをあらわす部分のキレとクッキリしたメロディーの見事な対比で聴かせます。

ヘンシェル四重奏団の演奏によるハイドンの弦楽四重奏曲、まさに美音を駆使した彫りの深い名演。特に印象的なのは抑えた音階のキレの良さと、強奏の見事な存在感の響きの対比でしょう。特に前2曲がいいと思いますが、何回か聴き直すと、騎士も実に深い演奏。これは名盤でしょう。評価は3曲とも[+++++]とします。

ちなみにヘンシェル四重奏団のハイドンの演奏には十字架上のキリストの最後の七つの言葉があり、こちらも未入手でしたので早速注文を入れてみました。

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tag : 弦楽四重奏曲Op.64 ひばり 弦楽四重奏曲Op.33 弦楽四重奏曲Op.74 騎士

エオリアン弦楽四重奏団のOp.74のNo.1

前記事のタートライ四重奏団の記事を読んで、次はこれが来るだろうと予想できた方、事情通です(笑)
やはり古くから親しまれているハイドンの弦楽四重奏曲ですが、いまだ取りあげていないクァルテットです。長らくリリースされ続けているものには、それなりの良さがあるんです。

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HMV ONLINEicon(別装丁盤)/ amazon

エオリアン弦楽四重奏団(The Aeolian String Quartet)によるハイドンの弦楽四重奏曲全集。今日はその中からOp.74のNo.1を取りあげます。収録は1972年12月から1973年5月にかけて、ロンドンのサウスバンクにあるセント・ジョージ教会でのセッション録音。レーベルはLONDON。

エオリアン弦楽四重奏団は1927年に創設された、非常に歴史の古いクァルテット。当初はストラットン四重奏団(Stratton Quartet)という名前でしたが1940年代終わりにエオリアン弦楽四重奏団と名前を変え、1981年に解散しています。この演奏当時のメンバーは下記の通り。

第1ヴァイオリン:エマニュエル・ハーウィッツ(Emanuel Hurwitz)
第2ヴァイオリン:レイモンド・キーンリーサイド(Raymond Keenlyside)
ヴィオラ:マーガレット・メイジャー(Margaret Major)
チェロ:デレク・シンプソン(Derek Simpson)

第1ヴァイオリンのエマニュエル・ハーウィッツは1919年生まれのイギリスのヴァイオリニスト。ロンドンの王立音楽アカデミーでブロニスラフ・フーバーマンに認められ、奨学生となっていました。1937年にジョージ・セル率いるスコットランド国立管弦楽団、翌年にはトーマス・ビーチャム率いるロンドンフィルのメンバーとなり腕を磨きました。その後自身でクァルテットを設立して活動する傍ら、様々なオケで活動し、なかでもジュリーニ、クレンペラーが率いたニュー・フィルハーモニア管弦楽団のゲスト・リーダーとして2シーズンに渡って活動したことがその後の彼の音楽に影響しているとのこと。そして1970年にエオリアン弦楽四重奏団に招かれ、第1ヴァイオリンとして活躍しました。エオリアン弦楽四重奏団は1981年に解散し、ハーウィッツは2006年に亡くなっています。

エオリアン弦楽四重奏団のハイドンの弦楽四重奏曲全集も古くから聴かれているアルバムですが、鋼のような硬質な音色の硬派な演奏というイメージです。今回調べてみるとOp.2、Op.71、Op.74のみが1972年12月から1973年5月の録音で、他の曲は1973年8月から1976年12月の録音。録音会場も異なります。ということで、エオリアン弦楽四重奏団のハイドンの録音では初期の録音にあたるOp.74を選んだ次第です。

一聴して教会での録音らしく、残響が豊かで、音場も立体感があり、他の録音の激オンマイクの鋼のような響きとは異なります。

Hob.III:72 / String Quartet Op.74 No.1 [C] (1793)
他の曲とは異なり、瑞々しい入り。極めてクリアながら、響きの要所が集中している感じ。ヴァイオリンパートのクッキリした表情が印象的なのは言うまでもありませんが、アンサンブル全体が引き締まって素晴しい一体感。響きに余裕があるんですが、締まるところは締まってびしっとタイト。1楽章はかなりの彫り込み。
2楽章のアンダンティーノ・グラツィオーソはリズムをかなり抑えて、メロディーを浮かび上がらせます。リズムパートをクッキリと演出する演奏も多いなか、この演出は貴重。リズムを抑える事で浮かび上がるセンチメンタルな感情。この辺のバランスのコントロールは聴かせどころをどこに置くかでかなりの裁量がありますね。
メヌエットは響きはクリアながら、音楽的インパクトは抑え気味で、クッキリした表情がクリアに響きますが、間つなぎといった感じ。力を抜いて音楽が軽やかに進行します。ハイドンのメヌエットは曲のなかでの位置づけの工夫のしどころですが、この演奏ではかなり手慣れた扱い。このさっぱりとした表現も悪くありません。
そしてフィナーレも演奏し慣れた手堅いもの。ヴァイオリンがくっきりとフレーズを刻みますが、気負った部分はなく、手慣れたなかでの適度なメリハリ。適度な盛り上がりと適度な緊張感。ハイドンのクァルテットに必要なものはすべてそろって、しなやかにまとまります。安心して聴ける演奏です。

ハイドンの弦楽四重奏曲全集をいち早く完成させたエオリアン四重奏団の演奏ですが、演奏のタイトさはイメージ通りながら、録音は全体のなかでは早い時期のもので、慣れ親しんだダイレクトな響きとは異なり、少し余裕のあるもの。演奏の方もそれを踏まえて少し余裕が増しています。引き締まった表情は安心して聴けるものでした。評価は[++++]とします。

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tag : 弦楽四重奏曲Op.74

ケッケルト四重奏団のOp.74のNo.1

弦楽四重奏のレビューに戻ります。以前TOWER RECORDSからDGのアルバムが復刻された際にとりあげたケッケルト四重奏団の別のアルバムが手に入りました。

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ケッケルト四重奏団(Koeckert Quartett)の演奏による、ハイドンの弦楽四重奏曲Op.74のNo.1、シューベルトの弦楽四重奏曲第12番,マックス・レーガーの弦楽四重奏曲第5番を収めたアルバム。収録はハイドンが1972年11月14日、バイエルン放送のスタジオ1でのセッション録音。レーベルはORFEO。

以前取りあげた記事はこちら。

2011/12/10 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : 【新着】ケッケルト四重奏団の太陽四重奏曲復刻盤

以前の記事の方は1965年から65年にかけての録音でしたが、それより古い録音だろうと思って手に入れたところ、録音年はなんと1972年と、こちらの方が新しいものでビックリ。バイエルン放送響のメンバーを主体としたメンバー構成は変わっていません。太陽四重奏曲集の録音の直前に第二ヴァイオリンのヴィリー・ビュヒナーが亡くなったため、第1ヴァイオリンのルドルフ・ケッケルトの息子が第2ヴァイオリンに就任したということです。その息子も1970年に父と同様バイエルン放送響のコンサートマスターに就任したとこと。ということで、メンバーは腕利き揃いということがわかります。以前の記事と同じですが、メンバーを紹介しておきましょう。

第1ヴァイオリン:ルドルフ・ケッケルト(Rudolf Koeckert)
第2ヴァイオリン:ルドルフ・ケッケルト・ジュニア(Rudolf Koeckert Junior)
ヴィオラ:オスカー・リードル(Oscar Riedl)
チェロ:ヨーゼフ・メルツ(Josef Merz)

Hob.III:72 / String Quartet Op.74 No.1 [C] (1793)
少しハイ落ちでくすんだ音色の録音。鮮明さはそこそこあり、ノイズもないため、慣れると聴きにくい録音ではありません。録音で少し古びた印象がありますが、脳内で原音に変換しながら聴くとドイツのクァルテットらしい、メロディーの隈取りをはっきりと聴かせる鮮明な演奏。第1ヴァイオリンのルドルフ・ケッケルトの演奏はキレ味抜群。リズムもシャープ、アンサンブルも精緻、4人の息がピタリと合った素晴しい緊張感の演奏。そうしたスリリングな魅力もあるのに、演奏の安定度は抜群なもの。こともなげにカッチリクッキリと演奏しており、いかにもハイドンを得意としているような、手慣れた感じが漂います。特に素晴しいのが触ると手を切りそうなほどの鋭利さを誇るシャープなリズム。ここまでキレよく弾かれると有無をもいわせぬ迫力が漂います。
つづくアンダンティーノ・グラツィオーソは伴奏の第二ヴァイオリンの刻むリズムが非常に印象的。えらく存在感があります。完全に曲の印象を支配するほどの印象的なリズム。ちょっとしたキレの違いですが、ここまで曲の印象を左右するリズムは初めて。アンサンブルの精緻さはここでも素晴しく、大きな音量の変化の波がピタリと息を合わせて通り過ぎます。素晴しい立体感と詩情。ここにきて、くすんだ音色がかえって燻し銀とも思える印象を残して、演奏に箔をつけています。この2楽章の大きなうねりを万全に表現した神々しいまでの素晴しい演奏。
メヌエットは予想通り、ミケランジェロによる違和感を感じる寸前までデフォルメされた彫像のような、圧倒的な立体感。くびれるところは恐ろしいまでにくびれ、筋肉の盛り上がりの涼感に圧倒されるよう。それでいて全体のプロポーションは均整がといれています。
エネルギーを保ったままフィナーレに入り、ルドルフ・ケッケルトのヴァイオリンはさらにキレ味を増し、音楽の推進力と鋭利さはこれでもかと迫ってきます。これだけの表現なのにバランス感覚を保って、これがハイドンの曲であることが至極当然のような落ち着きもあります。最後に各奏者が畳み掛けるように鬩ぎ合う場面はまさに精緻なアンサンブルに鳥肌がたつよう。これを名演といわずにどういいましょう。まさに圧倒的な演奏。

やや録音の印象で損しているとはいえ、この演奏は奇跡的な完成度です。まさに疾風のような演奏。ハイドンの弦楽四重奏曲の素晴らしさをすべて含んでいるような演奏。ドイツではベルリンフィルに次ぐとされるバイエルン放送響のメンバーで構成されたクァルテットだけあって、テクニックは申し分なし。そして、カミソリのようなキレ味と古典の均衡、アンサンブルの面白さと、本当にハイドンの弦楽四重奏曲の魅力がビシッと詰まった名演です。評価はもちろん[+++++]とします。クァルテットものが好きな方、必聴です。

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tag : 弦楽四重奏曲Op.74 ヒストリカル

アムステルダム弦楽四重奏団の弦楽四重奏曲集

今日は古楽器の燻したような音色による弦楽四重奏曲集。

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アムステルダム弦楽四重奏団(The Amsterdam String Quartet)の演奏によるハイドンの弦楽四重奏曲Op.20のNo.3、Op.74のNo.1、Op.76のNo.1の3曲を収めたアルバム。収録は2006年8月25日から27日、オランダのアムステルダム東方約80kmの街ディーフェンターのバプテスト教会でのセッション録音。レーベルはCHANNEL CLASSICS。

アムステルダム弦楽四重奏団は、おそらく最近結成された古楽器によるクァルテット。このアルバムがデビュー盤のようです。レパートリーはハイドンからメンデルスゾーンと弦楽四重奏曲の黄金期にあたる1762年から1847年までの時代のもの。その時代のあまり知られていない希少な作品なども含むようです。アムステルダム・コンセルトヘボウでのシリーズ物のコンサートを開き、ロナウド・ブラウティハムやメルヴィン・タンらと共演しています。

このアルバムを録音したときのメンバーは下記のとおり。

第1ヴァイオリン:アリダ・シャット(Alida Schat)
第2ヴァイオリン:ジョン・ウィルソン・マイヤー(John Wilson Mayer)
ヴィオラ:ジェーン・ロジャース(Jane Rogers)
チェロ:トーマス・ピット(Thomas Pitt)

アリダ・シャットは2003年から2006年までトン・コープマン率いるアムステルダム・バロック・ソロイスツのコンサート・ミストレスを務めた人。他も古楽界の第一線で活躍する実力者のようです。オフィシャルウェブサイトを見ると現在、第1ヴァイオリンとヴィオラのメンバーは違う人に変わっていますね。

Hob.III:33 / String Quartet Op.20 No.3 [g] (1772)
SACDらしく空気感を感じる録音ですがどちかというとデッドな録音。古楽器独特のちょっと燻したような刺激的な音が空間に良く響き渡る感じが鮮明に録られています。チェロがかなり膨らみ気味で豊かな音像。冒頭はヴァイオリンがリードするのではなく、4人が均等にテンションを保つような演奏。それぞれエッジをキリッと立てるのではなく、なるべく滑らかにメロディーを弾いていこうとする感じ。テンポは速めで古楽器の燻した音色の響き合う感じを出そうとしているようです。豊かな音楽を目指そうとしているようですが、意外とあっさりとした肌合いの音楽になり、シュトルム・ウント・ドラング期のこの曲の魅力に迫りきれていないところもあります。
2楽章はゆったりと楽器を鳴らして、ちょっと現代音楽のような響きも感じる精妙さ。ノンヴィブラートらしい響きの面白さもあります。アンサンブルは良くそろっていて精度は十分。ヴァイオリンの繊細な音色が際立つ部分もあり、古楽器の実力者によるレベルの高いアンサンブルを楽しめます。
3楽章のアダージョはメロディーラインがつぎつぎと変化していく面白さはなかなか。精妙な古楽器の音色で弾かれるメロディーの変化が聴き所。
フィナーレは流すような弾き方で、かなり速めのテンポをとり、諧謔性を表しているよう。途中リズムの取り方に変化を付けて曲の面白さを表現。古楽器独特の胴鳴りを伴う響きの魅力を中心に響きの変化も巧み。この楽章に来て狙いが腑に落ちた感じ。デュナーミクの変化も十分でなかなか聴き応えのある演奏でした。

Hob.III:72 / String Quartet Op.74 No.1 [C] (1793)
聴き慣れた、Op.74 No.1の入りですが、前曲から想像される演奏とはかなり異なり、威風堂々とした入りでビックリ。前曲が響きの変化を意図して表現しようとして、すこし表現意図過多な印象を受けたのに対し、この曲では楽天的ですらある、ゆったりとした響きを自然に表現。それが音楽の器を大きくしている感じ。そうではあっても古楽器の響きの精妙さは十分で聴き応えがあります。テンポも比較的遅めで落ち着いたもの。
2楽章は逆に比較的速めなテンポ設定で、サクサクいきます。落とした音量で奏でられるトレモロに対しヴァイオリンのメロディーが自在にフレーズを奏で、蝶がゆらめきながら花を渡り歩くような音楽。
3楽章のメヌエットは柔らかさを意図的に出そうとしているような入り。落ち着きながら音色のコントロールに気を配り、大きな起伏を表現しているよう。
この曲のフィナーレに至り、このクァルテットの演奏が手に汗握るようなスリリングな展開になります。あまり間をはっきり取らず、ここでもサクサクいきます。楽器間のフレーズの受け渡しの面白さもそこそこあってなかなか充実した演奏。

Hob.III:75 / String Quartet Op.76 No.1 [G] (1797)
前曲同様、ほどほどに楽天的な感じもある入り。1曲目から徐々に作為が薄くなり、それがかえって演奏の自然さを増す事につながっています。2楽章のアダージョも同様ですが、3楽章のメヌエットでは古楽器の強音の迫力を上手く表現してテクニシャンぶりを見せつけます。フィナーレはふたたび自然さを取り戻して終了。

アムステルダム弦楽四重奏団の演奏は、古楽器の音色の変化をベースとした創意を感じさせる演奏ですが、音色に神経が集中し、肝心の音楽の流れについては説得力のある個性的な一本通ったものが欲しいと感じさせる余地があります。テクニックは各人かなりのものながら、クァルテットとしての音楽的成熟は今後を待たなければならないでしょう。優等生的というより、音楽的個性についてもう一歩練りが必要だと感じさせる印象がが残る感じです。評価は1曲目が[+++]、それ以外が[++++]としたいと思います。

このクァルテット、もう1枚、この後にハイドンのアルバムを出していますので、こちらもそのうち手に入れる必要がありますね。今日取りあげたこのデビュー盤から成熟がみられるか、ちょっと聴いてみたい気がします。

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tag : 弦楽四重奏曲Op.20 弦楽四重奏曲Op.74 弦楽四重奏曲Op.76 古楽器 SACD

【新着】アマリリス四重奏団の「夢」「騎士」

今日は若手クァルテットのアルバム。

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HMV ONLINEicon / amazon / TOWER RECORDS

アマリリス四重奏団(Amaryllis Quartett)の演奏でハイドンの弦楽四重奏曲Op.50のNo.5「夢」、Op.74のNo.3「騎士」、その2曲の間にヴェーベルンの弦楽四重奏のための5つの楽章Op.5の3曲を収めたアルバム。収録は2010年10月23日、2011年4月27日から29日、ドイツ、ハンブルクのアルベルト・シュバイツァー体育館の講堂でのセッション録音。

HMV ONLINEの紹介記事によると、このアルバムはこのクァルテットのデビュー盤のようですね。デビュー盤にハイドン2曲と間にヴェーベルンをもってくるあたり、ただならぬ気迫を感じます。

アマリリス四重奏団はバーゼルでヴァルター・レヴィン、ケルンでアルバン・ベルク四重奏団などに師事し、2011年イタリアのレッジョ・エミリアで行われたパオロ・ボルチアー二・コンクールで1等なしの2等になり、またその直後に第6回メルボルン国際室内楽コンクールで優勝し国際的に注目されるようになったクァルテット。このアルバムはそれらの表彰の直前に録音されたデビュー盤ということで、このクァルテットの今後を占うアルバムと言えるでしょう。

メンバーは下記のとおり。

第1ヴァイオリン:グスタフ・フリーリングハウス(Gustav Frielinghaus)
第2ヴァイオリン:レナ・ヴィルト(Lena Wirth)
ヴィオラ:レナ・エッケルス(Lena Eckels)
チェロ:イヴ・サンド(Yves Sandoz)

このクァルテットのウェブサイトがありましたので紹介しておきます。

Amaryllis Quartett(独文・英文)

Hob.III:48 / String Quartet Op.50 No.5 (II:"Der Traum" 「夢」) [F] (1787)
語りかけるようなこの曲の曲調を踏まえた、とぎれとぎれな感じを残しつつ、現代的なシャープさとダイナミックレンジの大きな演奏。鋼のような強い響きをもちながら、それをたまにしか見せず、不気味な迫力をも感じさせる演奏。テクニックは素晴らしいものがあります。ハイドンの弦楽四重奏曲としては異例のダイナミックさ。ポイントは強音ではなく、強弱の対比と溜め。
2楽章はヴェーベルンばりの現代風にシャープに切れ込んで来るのかと思いきや、意外と普通の演奏。筆の動き自体の意外性が特徴の書のような自在なフレージング。やはりアプローチは斬新ではありますが、この曲の2楽章の真髄をついているかと言うと、少し若さが出ているかもしれません。
3楽章にきて、このクァルテットの狙いが見えたような気がします。1楽章同様フレーズごとの表情と音量の対比、自在なフレージングとハイドンの曲を解体して再構成するような意欲的な表現。クレーメルのようなアプローチですが、クレーメルほどの冷徹さとカミソリのような切れ味ではなく、程良い楽天性があり、それがハイドンをデビュー盤に選んだ所以なのかも知れません。
フィナーレは、鋭さと鮮烈さを強烈に印象づける演奏。録音のせいか、ヴァイオリンが鋭さを帯びた鋭角的な音で、逆にチェロ、ヴィオラは音量を抑え気味のバランス。最後はきっちりしめて終了。

間にはさまったヴェーベルンで脳を初期化。ヴェーベルンはこのクァルテット特徴である鋭さがかなり目立つ演奏。かなり迫力を感じる演奏ですが逆に抑えたほうが前衛性が良く出るのではと感じました。ヴェーベルンは好きな作曲家ですが、いろいろな演奏を聴き込んでいる訳ではないので、ご参考まで。

Hob.III:74 / String Quartet Op.74 No.3 "Reiterquartetett" 「騎士」 [g] (1793)

聴き慣れた騎士の導入部のメロディー。オンマイクでかなり近くに定位するダイレクトな音像。やはりフレーズごとのメリハリをかなり効かせての演奏。特にヴァイオリンパートの切れ味はなかなかのもの。フレーズごとにテンポや間の対比を凝らして変化をつけます。聴き慣れた騎士のメロディーが新鮮に響きます。
2楽章は流麗緻密な演奏が定番ですので、このクァルテットがどう来るか興味津々。独特のメロディー自体を聴かせるというアプローチはとらず、曲の合間に抑えた弓の表現の練習のような風情。この辺の曲に対する独特の視点の存在がこのクァルテットの真骨頂でしょう。最後の抑えた表現も秀逸。
3楽章のアレグレットはこのアルバムのなかでは比較的オーソドックスな方。それでもかなりの起伏とフレーズ感の対比。普通だともうすこし流麗な方向かリズミカルな方向に振れるのでしょうが、そのどちらでもなく現代音楽風の緊張感に包まれた演奏。
フィナーレも自在なフレージングが健在。速い音階の部分はキリッとエッジを立ててクッキリと旋律を表現していきます。軽い弓さばきでスピーディに騎士のフィナーレをどんどん進めていく感じです。このフィナーレは4人のテクニックが遺憾なく発揮されています。

新進気鋭のアマリリス四重奏団のデビューアルバムは、これまでのハイドン演奏史に一石を投じようとした渾身の演奏。鋭い音色とコンセプチュアルなアプローチ、そしてハイドンにヴェーベルンを挟むと言うプログラミングと個性的なプロダクションとなりました。演奏はレビューに記載したとおり現代感覚溢れるものでしたが、逆にこれまで幾多のクァルテットが表現したハイドンの素朴な良さ、音楽の豊かさというものの良さを引き立ててしまったかもしれません。プロダクションとしての創意、企画は買いですが、演奏には、今後の音楽的成熟の余地があるということで、ハイドンの両曲は[++++]とします。今後のアルバムが楽しみなクァルテットでもありますね。

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tag : 弦楽四重奏曲Op.50 弦楽四重奏曲Op.74 騎士

プロフィール

Daisy


Author:Daisy

なぜかハイドン(Franz Joseph Haydn)が特に気に入り膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。東京在住のごく普通のサラリーマンです。

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2016年9月のデータ(2016年9月30日)
登録曲数:1,361曲(前月比+3曲) 登録演奏数:9,608(前月比+87演奏)
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