プラハ四重奏団の「皇帝」、「セレナード」(ハイドン)

まだまだ真価を知らなかった演奏はいろいろあるものですね。今日は弦楽四重奏の名演奏を。

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プラハ四重奏団(Prager Quartett)の演奏で、ハイドンの弦楽四重奏曲Op.76のNo.3「皇帝」、伝ハイドン作の「セレナード」の2曲を収めたLP。収録は1972年5月、プラハでとのみ記載されています。レーベルは日本のキングレコードによるeurodiscの国内盤。

プラハ四重奏団は1956年、プラハ交響楽団の首席奏者であったブレティスラフ・ノヴォトニーを中心に結成されたクァルテット。結成当初はプラハシティ四重奏団と呼ばれており、プラハ四重奏団と名乗るようになったのは1965年からとのこと。結成直後の1958年にはベルギーのリエージュで開催された国際コンクールで優勝し、国際的に注目されるようになり、活躍の場は世界に広がりました。メンバーは、結成後1957年、1968年にノヴォトニー以外のメンバーが入れ替わって、このアルバム演奏時の下記のメンバーとなりました。

第1ヴァイオリン:ブレティスラフ・ノヴォトニー(Bretislav Novotny)
第2ヴァイオリン:カレル・ブジビル(Karel Pribyl)
ヴィオラ:リュボミール・マリー(Lubomir Mary)
チェロ:ヤン・シルツ(Jan Sirc)

日本にも1965年をはじめに度々来日しており、日本で録音したアルバムも多数リリースされているということで、年配の方にはおなじみのクァルテットかもしれませんね。レパートリーはモーツァルト、ハイドン、ベートーヴェンなどの古典から現代ものまで幅広く、ハイドンについてはこのアルバムの他にもOp.20のNo.5、Op.54のNo.2があるそうです。

ちなみにこのアルバムは最近オークションで手に入れたもの。eurodiscの国内盤ですが、ミントコンディションの盤面に針を落とすと、いきなり鮮烈、華やかな演奏に引き込まれました!

Hob.III:77 String Quartet Op.76 No.3 "Kaiserquartetett" 「皇帝」 [C] (1797)
鮮烈に響く4本の弦楽器。緊密かつ華やかにリズムを刻み、音楽がイキイキと弾みます。演奏によってここまで躍動するのかと関心しきり。そして交錯するメロディーの美しさが浮かび上がります。緊密なハイドンも鋭いハイドンもいいものですが、やはり明るく華やかに弾むハイドンの楽しさに勝るものはないとの確信に満ちた演奏。陽光のもとに輝く骨格が圧倒的な美しさで迫ります。1楽章は別格の出来。
そして有名な2楽章はヴィブラートがしっかりかかった弦のハーモニーがしっとりと沁みる演奏。訥々と変奏を重ねて行く毎に枯淡の境地に至り、色数をだんだん減らし淡色の景色に変わります。最後はモノクロームの透徹した美しさに。よく見るとモノクロなのに色が見えるような豊かさも感じさせるアーティスティックな世界。絶品。
メヌエットでは、躍動感はそこそこながらしなやかに流れるメロディーを丁寧になぞりながら曲そのものの美しさをしっかりと印象付け、フィナーレでは精緻すぎることなく手作り感を程よく残しての迫力でまとめます。適度な音程のふらつきも手作り感に繋がっているんですね。クァルテットの勘所を押さえた実に見事な演奏でした。

String Quartet Op.3 No.5 "Serenadequartett" [F] (Doubtful 疑作 Composed by Roman Hoffstetter)
1楽章の弾むような華やかさは皇帝と同じですが、こちらの方は曲の作りも手伝って、より気楽さを感じさせる演奏。演奏する方も楽しんで演奏しており、奏者もリラックスしているように聴こえます。ハイドンの作ではないことがわかっていますが、長年ハイドンの曲として演奏されてきた伝統もあり、実にこなれた演奏。この力の抜け具合がこのクァルテットの実力を物語っています。
ピチカートに乗ったセレナードも同様、リラックスして実に楽しげ。このさりげない美しさこそハイドンの本質でもあります。簡単そうに見えて、この境地に至るには並みの力では及びません。やはりこの曲は名曲ですね。
メヌエットも見事に力が抜けて軽やか。そして終楽章のスケルツァンドも同様。曲自体に込められたウィットを見抜いて全編を貫く軽やかさで包んできました。この辺りも手慣れた感じながら、曲の本質を突く見事なアプローチです。

プラハ四重奏団による皇帝とセレナード。名演奏揃いのこの曲の中でも指折りの名演奏と言っていいでしょう。やはりハイドンの演奏にはこの明るさ、軽やかさが似合います。鬼気迫る精緻なハイドンもいいものですが、このような演奏を聴くと、ハイドンはこう演奏するのが粋なのだとでも言いたげな余裕を感じます。おそらくCD化はされていないものと思いますので、このLPが彼らのハイドンの貴重な証ということでしょう。評価はもちろん両曲とも[+++++]とします。



最近手元には幸松肇さんの「世界の弦楽四重奏団とそのレコード」というシリーズものの書籍があり、それを参照するとクァルテットの情報はかなりわかりますので調べるのに苦労することは少なくなりました。こちらは第3巻の東欧諸国編です。



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tag : 皇帝 ハイドンのセレナード 弦楽四重奏曲Op.76 LP

モードゥス四重奏団の五度、皇帝、ラルゴ(ハイドン)

今日は変わり種です。

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モードゥス四重奏団(Quartetto Modus)によるハイドンの弦楽四重奏曲Op.76のNo.2「五度」、No.3「皇帝」、No.5「ラルゴ」の3曲を収めたアルバム。ただし通常の編成ではなく、第1ヴァイオリンをフルートに変えたもの。収録はイタリア、トスカーナ州のピサ近郊にある温泉街のサン・ジュリアーノ・テルメ(San Giuliano Terme)にあるヴィラ・ディ・コルリアーノ(Villa di Corliano)でのセッション録音。レーベルは伊stradivalius。

ハイドンが弦楽四重奏曲の父と呼ばれ、存命中にヨーロッパで絶大な人気を博していたのは皆さんご存知の通り。そしてハイドンの時代、アマチュア音楽家にとって最も人気のある楽器はフルートであったことから、ハイドンの最も有名な弦楽四重奏曲をフルート四重奏曲に編曲するニーズがあったものと思われます。この辺りの経緯は以前取り上げた別のフルート四重奏曲のアルバムの記事に詳しく記載しておりますので、ご参照ください。

2011/04/09 : ハイドン–室内楽曲 : フルート四重奏による太陽四重奏曲

今日取り上げるフルート四重奏曲への編曲は、こうした世相を踏まえて弦楽四重奏曲からフルートと弦楽のための四重奏に編曲されたものと思われ、ハイドン自身によるものかはわかりませんが1800年頃にドイツのジムロック社から出版されたものとのこと。ハイドンの弦楽四重奏曲の頂点たるこれらの曲の、当時人気の編成への編曲版の楽譜が出版されるのは時代の流れでしょう。ただし、ハイドンの楽曲は楽器の音色を踏まえて書かれており、楽器が変わると表情もかなり異なります。果たして第1ヴァイオリンをフルートに持ち替えたことが吉と出ますでしょうか。

モードゥス四重奏団についてはライナー・ノーツなどにも何も記述がなく、また、Webを探してもこれといった情報が出てきません。この録音のために結成されたクァルテットということでしょうか。メンバーは2枚とも共通で下記の通り。

フルート:ロベルト・パッパレッテーレ(Roberto Pappalettere)
第2ヴァイオリン:クラウディオ・マッフェイ(Claudio Maffei)
ヴィオラ:ファブリツィオ・メルリーニ(Fabrizio Merlini)
チェロ:カルロ・ベンヴェヌーティ(Carlo Benvenuti)

このアルバムの他に、同じ奏者による2015年録音のOp.76の残り3曲を収めたアルバムもリリースされていますが、聴き比べてみると今日取り上げるアルバムの方が演奏の流れが自然なため、こちらを取り上げた次第。

Hob.III:76 String Quartet Op.76 No.2 "Quintenquartetett" 「五度」 [d] (1797)
聴き慣れた五度のメロディー。フルートの響きによってメロディーが華やかに浮かび上がります。パッパレッテーレのフルートはタンギングのキレ味良く、メロディーが爽やかに響きます。弦楽四重奏では鬼気迫るような1楽章も、メロディーがフルートに変わっただけで印象がガラリと変わります。音楽自体も少し軽く響くように感じます。また弦楽四重奏ではパート間の緊密な連携に耳が向きますが、フルートではメロディーが頭一つ抜き出ているので、メロディー自体の印象が非常に強くなります。アマチュア演奏家にとっては、有名なハイドンのメロディーでアンサンブルを楽しめるということで、これはこれでアリでしょう。現代におけるカラオケのような楽しみ方ができるような気がします。そうした気楽さで聴くとなかなか面白いものです。演奏も変にアーティスティックなところはなく、純粋に演奏を楽しむよう。また録音もフルートが心地よく聴こえるよう残響が多めで、音量もフルートが一番目立ち、弦は逆に残響の所為で穏やかに響きます。これはこの曲の位置づけを良く考えての録音なんでしょう。
2楽章は屈託無く明るいメロディーがフルートによって響きわたり、爽やかそのもの。テンポもほぼ揺らさず淡々と演奏して行きますが、それがなんとも心地良い。普通は曲に挑むところですが、そういった邪心は皆無。メヌエットでもハイドンのメロディーを楽しむようなサラサラストレートな演奏。
気楽に聴いてきたんですが、フィナーレに入ると速めのテンポでグイグイくるではありませんか。曲自体も緊密な構成ゆえのこととは思いますが、やはりここは聴きどころとばかりにアンサンブルが引き締まります。ハイドンのフィナーレはやはり聴き応え十分。

Hob.III:77 String Quartet Op.76 No.3 "Kaiserquartetett" 「皇帝」 [C] (1797)
続いて皇帝。前曲よりフルートに対して弦の音量がわずかに増したような気がします。バランスはこちらの方がいいですね。やはり響きはかなり華やかになりますが、、、五度では原曲のメロディーを楽しむ程度に聴こえていたものが、この皇帝では弦とのバランスが取れたことで、なんとなくより本格的なアンサンブルの面白さも感じられるようになってきました。1楽章は五度のフィナーレ同様緊密さで聴かせる見事な演奏。そして皇帝讃歌のメロディーの変奏となる2楽章は、通常は定位で聴き分けるしかない第1ヴァイオリンと第2ヴァイオリンがはっきりと聴き分けられ、ハイドンがこの曲に仕込んだ変奏の面白さが際立ちます。これは非常に面白い。続くメヌエットもメリハリがキリリとついて奏者も楽しそう。特にフルートのタンギングの鋭さが増して、実にリズムのキレが良い。弦楽器の擦るという行為で表現できる鋭さとは異なりますね。またフルートの響もぐっと深くなり音色の魅力も増してきました。そしてフィナーレの緊密なアンサンブルは期待通り。ここでもフルートのヴァイオリンの掛け合いの面白さが際立ちます。

Hob.III:79 String Quartet Op.76 No.5 [D] (1797)
最後はラルゴ。一貫して華やかさ、爽やかさを保っていますが、ここにきてふくよかさも加わります。皇帝同様アンサンブルもバランス良く、ここまでくると元の弦楽四重奏曲のイメージが邪魔せず、純粋にフルート四重奏の響きを楽しめるように耳も慣れてきました。これまで触れてこなかった、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロのバランスですが、前曲までは掛け合いを目立たせることなく、フルートとの対比の面白さを際立たせるために過度な表現を抑えているように聴こえましたが、このラルゴに入ると、それぞれ燻し銀ともいうべき味わいの深さを感じさせるようになります。
ラルゴの聴きどころである2楽章は、ぐっとテンポを落としてこれまでで一番抑揚をつけてしっとりと描きます。徐々に響きが深く沈みフルートの低音とヴィオラやチェロの響きが重なってえも言われぬ雰囲気に。そこにふっと高音のヴァイオリンが入るところは、これまでと異なる対比が顔を出し、ハッとさせられます。そしてメヌエットの大胆な音形、中間部ではチェロが初めて踏み込んだボウイングを聴かせるなど徐々に各奏者もちらりと腕を見せます。最後のフィナーレは弦楽器以上の爽快感を伴いながらの疾走。あえてフルート四重奏曲として演奏しているだけに、最後はフルートの音階の鮮やかさを印象づけて終わります。

モードゥス四重奏団のフルート四重奏による五度、皇帝、ラルゴのハイドン名曲3点セット。最初に聴いた時には弦楽四重奏との音色の違いの印象が強く、フルートの華やかな響きによってちょっと深みに欠けるという印象が強かったんですが、五度ではその華やかな気楽さこそがこうした編曲ものの演奏にはふさわしいと思うようになり、聴き進めていくと、だんだんこの編成の面白さと深みを感じられるようにこちらの耳も変化してきました。この面白さは弦楽四重奏を聴き込んだベテランの方にはわかっていただけるでしょう。評価は五度[++++]、皇帝とラルゴは[+++++]とします。

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tag : 弦楽四重奏曲Op.76 五度 皇帝 ラルゴ

ベレヌス四重奏団の「五度」(ハイドン)

本日は美女揃いのクァルテット。

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ベレヌス四重奏団(Belenus Quartett)の演奏による、ハイドンの弦楽四重奏曲Op.76のNo.2「五度」、バルトークの弦楽四重奏曲4番の2曲を収めたアルバム。収録は2012年7月10日から12日にかけて、スイスのチューリッヒ芸術大学室内楽ホール(Kammermusiksaal der Zürcher Hochschule der Künste)でのセッション録音。レーベルは独ACOUSENCE CLASSICS。

いきなり目を引く4人の女性奏者。皆楽器を手に持ち、暗闇を背景にこちらを凝視する「目力」を感じるジャケット。久々に妖気が漂うジャケットです。そう、かつてこのブログで多くの読者の心を奪った、ヴィヴェンテ三重奏団のアルバムに出会った時と同様の気配を感じます。そしてレーベルのACOUSENCE CLASSICSもはじめて手に入れるレーベルということで、ジャケットをパラパラとめくって見ると中には表紙とは異なり、リラックスして微笑む4人の写真が2枚掲載されており、多少安心させます(笑)。また、ライナーノーツの末尾には、今回の録音にあたってのマイクセッティング図と使用したマイク、マイクアンプ、コンバーター、調整卓がリストアップされ、音質にこだわったアルバムであることがわかります。ACOUSENCEというレーベル名もそれらしいもの。

ベレヌス四重奏団は2004年、スイスのバーゼルで設立され、2010年にチューリッヒ芸術大学の学生により新たな体制になったもの。モザイク四重奏団やアマティ四重奏団について学び、その後カルミナ四重奏団のステファン・ゲルナー、アルバン・ベルク四重奏団のイザベル・カリシウス、ラサール四重奏団のヴァルター・レヴィン、クス四重奏団のオリヴァー・ヴィレら豪華な講師陣に師事しているとのこと。2011年にはスイス・オルフェウス室内楽コンクールで優勝、その後も様々なコンクールに入賞しており、それらの実績によりこのアルバムがデビュー盤として録音されたものと思われます。メンバーは下記の通り。

第1ヴァイオリン:セライナ・プフェニンガー(Seraina Pfenninger)
第2ヴァイオリン:アンネ・バテガイ(Anne Battegay)
ヴィオラ:エスター・フリッチェ(Esther Fritzche)
チェロ:ゼラフィナ・ルーファー(Seraphina Rufer)

Belenus Quartett

なお、彼らのサイトを見て見ると、現在はチェロが男性に代わっているようですね。

さて、この妖気漂うアルバム、演奏は如何に。

Hob.III:76 String Quartet Op.76 No.2 "Quintenquartetett" 「五度」 [d] (1797)
流石に録音にこだわっているレーベルだけに、いきなりクァルテットの気迫みなぎる響きに圧倒されます。残響は比較的多めで木質系の小ホールで聴いているようなプレゼンス。肝心の演奏は推進力もあり、ダイナミックさとしなやかさを併せ持つナカナカのもの。一音一音のデュナーミクをかなりつけて五度の名旋律が驚くほど豊かに響きます。言われなければ女性だけのクァルテットとはわかりませんが、これが女性ならではのデリカシーかもしれません。第1ヴァイオリンのセライナ・プフェニンガーは少し細身ながらかなり流麗な弓さばきでメロディーをしなやかに歌い上げます。アンサンブルは精緻というよりはいい意味で勢いがあり音楽がよく弾みます。よく聴くとチェロの迫力はかなりのもの。これがこのクァルテットの響きの特徴になっているようですね。1楽章から覇気あふれる演奏に引き込まれます。
2楽章はピチカートの伴奏にヴァイオリンのメロディーでの入りで、静寂の中に弦楽器の音色が響きわたる入り。録音の良さが一層引き立ちます。セライナ・プフェニンガーのボウイングも自在さを増して、ハイドンの名旋律をリラックスしながら楽しげに演奏していきます。デビュー盤とは思えない成熟した音楽に唸ります。
続くメヌエットはこの曲を引き締める鋭いアクセント。それを踏まえて、しなやかにたたみかけ、弦楽器による迫力と響きの美しさの絶妙なバランスを保った演奏。強音の迫力とさざめくような弱音のコントラストも絶品。そして迫力だけでなくどこかに華やかさを感じさせるのが流石なところ。
そしてさらりとフィナーレに入りますが、キレ味の良さを随所に感じさせながら、ハイドンの複雑に絡み合う音楽を織り上げていきます。力みはなく、風通しの良さを保ちながらの演奏。やはり録音が弦楽器の響きの良さを引き立て、聴きごたえ十分。最後はたたみかけるようにエネルギーを集中させて終わります。

いやいや素晴らしい演奏ということでまとめに入ろうとしたところ、続くバルトークの4番の鋭利な響きに、ハイドンを聴き終えた幸福感が木っ端微塵に打ち砕かれます(笑) 聞き手にも極度の緊張を求めるアーティスティックな曲の開始に背筋ピーン(笑) 私が語れる立場ではありませんが、このバルトークも並の演奏ではありません。赤熱した鋼のごときエネルギーの塊のような音楽。このバルトークを聴いた上で、このアルバムのジャケット写真を見返してみると、「女だと思ってなめてかかるんじゃないわよ」とでもいいたげに見えます。やはりジャケットから感じた妖気は本物でした!

さて、女性4人によるベレヌス四重奏団の「五度」ですが、これはかなりのレベルの名演奏とみなして良いでしょう。クァルテットとしての完成度も素晴らしいものがあり、これがデビュー盤という気負いは全くなく、すでに円熟の境地に到達しています。選曲、演奏、録音、ジャケットを含めたプロダクションとも非常に高いレベルで言うことありません。評価は文句なしに[+++++]を進呈いたします。手に入るうちにどうぞ!

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tag : 五度 弦楽四重奏曲Op.76

絶品! バルトーク四重奏団のひばり、皇帝、日の出(ハイドン)

今日は弦楽四重奏曲のアルバムですが、少々古めのもの。先日ディスクユニオンで入手しました。

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バルトーク四重奏団(The Bartók Quartet)によるハイドンの弦楽四重奏曲Op.64のNo.5「ひばり」、Op.76のNo.3「皇帝」、Op.78のNo.4「日の出」の3曲を収めたアルバム。収録は1993年5月12日から15日にかけて、富山湾の東端にある富山県下新川郡入善町の入善コスモホールでのセッション録音。レーベルはCANYON Classics。

バルトーク四重奏団は1957年にブダペストのフランツ・リスト音楽院の卒業生によって設立されたクァルテット。設立当初は第1ヴァイオリンのペータル・コムロシュの名前をとってコムロシュ四重奏団と名乗っていましたが、1962年にバルトークの未亡人の同意を得てバルトーク四重奏団と改名しました。1963年にブダペストで開催されたワイナー室内楽国際コンクールで優勝、翌1964年にはベルギーのリエージュ国際弦楽四重奏コンクールでも第1位、さらに1963年までに数多くの国際コンクールに優勝し、世界的に注目されるようになりました。レパートリーはバルトークはもちろん現代ハンガリーの作曲家の作品から、ハイドン、モーツァルト、ベートーヴェン、ブラームス、メンデルスゾーン、ラヴェル、ドビュッシー、シェーンベルクなどと幅広く、膨大な録音が残されているとのこと。日本には1971年の初来日以来、度々来日していたとのことで、実演に接した方もいるかもしれませんね。2006年のバルトークの弦楽四重奏曲全曲演奏会を最後に解散しています。メンバーは下記の通り。

第1ヴァイオリン:ペータル・コムロシュ(Péter Komlós)
第2ヴァイオリン:ゲーザ・ヘルギタイ(Geza Hargitai)
ヴィオラ:ゲーザ・ネーメト(Géza Németh)
チェロ:ラースロー・メズー(László Mezö)

膨大な録音を残し、日本との関わりも深いバルトーク四重奏団ですが、私はこのアルバムで初めて演奏を聴きます。なおヴィオラのゲーザ・ネーメトはHUNGAROTONからヴァイオリンとヴィオラのための二重奏曲のアルバムのヴィオラを弾いていて、以前に取り上げています。

2012/06/05 : ハイドン–室内楽曲 : デーネシュ・コヴァーチュ/ゲーザ・ネーメトによるヴァイオリンとヴィオラのためのソナタ集

このバルトークの名を冠したクァルテットによるハイドン、さぞかしキレ味鋭い演奏が聴かれるだろうと思って、聴きはじめたところ、さにあらず。いやいや実に趣深い燻し銀の演奏でした。

Hob.III:63 String Quartet Op.64 No.5 "Lerchenquartetett" 「ひばり」 [D] (1790)
広い空間に伸び伸びと響くクァルテットの音色。落ち着いたテンポでゆったりと音楽が流れます。非常にリラックスして演奏しているのがわかります。奏者が演奏を存分に楽しんでいる感じ。もちろん第1ヴァイオリンのコムロシュのボウイングは伸びやかで他のパートから首一つ抜け出してくっきりとメロディーを奏でていきます。まさに折り目正しい一級品の演奏。ひばりの1楽章がこれほど伸びやかかつキレのいい響きで始まろうとは思っていなかっただけに、驚きに近い衝撃がありました。まさに晴天の中、囀りながら空高く飛び回るひばりの気分。
続くアダージョ・カンタービレは歌う歌う。伸びやかさの限りを尽くした演奏に聴いているこちらまで伸びやかな気分になります。まるでバルトークと違って、技巧を凝らさなくていいことを余裕たっぷりに楽しんでいるような演奏。よくぞこれだけリラックスできるものかと唸ります。
メヌエットでも楽器が思い切りよく鳴り響き、晴朗かつ屈託のない響きにハイドンの曲の本質が宿ります。これぞメヌエットという鮮明な響き。中間部で一旦トーンをすっと落として翳りを見せたかと思うと、再び陽光の下に輝かしい音楽が蘇ります。このテンションの変化が実に心地良い、見事なメヌエット。
さざなみのように峙つヴァイオリンの伴奏に乗ってメロディーが弾む最後のヴィヴァーチェ。適度な揺らぎの中メロディーが飛び回る感じがライヴ感に溢れた演奏。1曲目から驚きの名演奏でした。まるで古典をホームグラウンドとするような均整の取れた演奏。

Hob.III:77 String Quartet Op.76 No.3 "Kaiserquartetett" 「皇帝」 [C] (1797)
続く皇帝もリラックスした演奏は変わらず、揺るぎない安定感を伴い、またまた歌う歌う。音符がひとりでに遊びまわるような愉悦感。あまりの見事さに息を飲みます。4本の楽器が鬩ぎ合いながらも一体となって音楽を作っていく様子はスリリングながら、音楽は楽しげに弾んで行きます。圧倒的な音楽の完成度に唸り続けます。これほど見事な皇帝の1楽章は初めて。
有名なドイツ国歌の2楽章は、少しテンションを落として質実な響きを聴かせます。これは変奏に入ると少しづつ自在さを加えて展開していく面白さのためのわかり、設計の確かさにまたまたまた唸ります。変奏ごとに長く間を取り変化を深く印象付けます。ただでさえ美しいメロディが孤高の美しさを帯びて輝きます。一つのメロディに宿る美しさに様々な角度からスポットライトを当てて味わい尽くす見事な演出。最後は枯淡の境地へモーフィング。絶品。
美しさの限りを尽くした2楽章の余韻を慈しむかのように少し寂しげに響くメヌエット。この辺りの感情の変化はデリカシーに富んでいてまさにハイドンが楽譜に込めた魂を汲んでいるよう。途中からさっと霧が晴れ、陽の光が差し込むような変化も見事。メヌエットだけでも曲ごとの描き分けの巧みさにこのクァルテットの表現力を思い知らされます。
激しく鋭い終楽章も、余裕たっぷりに入ります。険しい音楽もあえて少し緩めに演奏することで、バランスを保ち、力が入り過ぎるのを抑えて終えます。

Hob.III:78 String Quartet Op.76 No.4 "Sonnenaufgang" 「日の出」 [B flat] (1797)
最後の日の出。すでにこのクァルテットの素晴らしさに酔っています。ゆったりと溜めを効かせてざっくりと刻む音楽が心地よい響きに感じられ、まるでライヴを聴いているような不思議な一体感に包まれます。これぞ弦楽四重奏の醍醐味。よく聴くとこの曲ではざっくりとした織目の感触の面白さがポイントと見えてきます。手編みのような味わい深いテクスチャーと織り出される模様のリズムが絶妙。この味わい深さはまさに燻し銀。
さらに圧巻なのは続くアダージョ。4本の楽器の織りなす綾のデリケートな変化が生み出す豊かな音楽。まさに至福のひととき。単なる音符にあらず、人の温もりを感じる生きた音楽が滔々と流れ、完全にバルトーク四重奏団の音楽になっています。天上の世界を垣間見たような感覚に襲われます。
そしてこの曲のメヌエットは入りから安らぎと幸福感に満ちたもの。どうしたらメヌエットからこのような感情を呼び起こせるのでしょうか。魔法をかけられたよう。ほんの少しのニュアンスの付け方で音楽がこれほどまでにいきいきとしてくる不思議さ。中間部のゆったりとした緊張感! 完全に彼らの音楽に仕上がっています。
そしてフィナーレは爽快に来る演奏が多い中、リズムの面白さを強調して、メリハリをつけてきました。ざっくりと始まったこの曲をリズミカルな終楽章で締めるなかなかの組み立て。最後はサラサラと流すサラサラ感をかなり強調した、これまた創意に溢れた演出。味わい深いばかりではなく、さらりと見せるアイデアのセンスの良さにも唸ります。

バルトーク四重奏団という名前から想像した演奏とはあまりに異なり、実に味わい深い演奏にノックアウト。このハイドンは現代音楽を得意とするクァルテットから想像される鋭角的な響きは皆無。むしろどのクァルテットの演奏よりもハイドンの真髄を射抜く絶妙な演奏と言っていいでしょう。選曲もハイドンの有名曲の組み合わせで入門盤としても最適なもの。もちろん評価は[+++++]を進呈いたします。ただし、現在入手しやすいとは言えない状況なのが残念なところ。これは是非再販してほしいですね。

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tag : ひばり 皇帝 日の出 弦楽四重奏曲Op.64 弦楽四重奏曲Op.76

シュトラウス四重奏団の騎士、皇帝(ハイドン)

新着アルバムが2枚続きましたので、最近聴いてよかったLPを取り上げます。先日オークションで手に入れたもの。

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シュトラウス四重奏団(Strauss Quartett)の演奏で、ハイドンの弦楽四重奏曲Op.74のNo.3「騎士」、Op.76のNo.3「皇帝」、伝ハイドンによるセレナード(Op.3のNo.5)の3曲を収めたLP。収録年も場所も記載がありませんが、いろいろ調べて見ると1960年代の録音との情報が出てきました。レーベルは独TELEFUNKEN。

シュトラウス四重奏団ははじめて聴くクァルテット。メンバーは下記のとおり。

第1ヴァイオリン:ウルリッヒ・シュトラウス(Ulrich Strauss)
第2ヴァイオリン:ヘルムート・ホーヴァー(Helmut Hoever)
ヴィオラ:コンラート・グラーエ(Konrad Grahe)
チェロ:エルンスト・シュトラウス(Ernest Strauss)

クァルテットの名前は第1ヴァイオリンとチェロのシュトラウス兄弟からとったもの。1957年から80年代まで、主にドイツ西部のエッセンにあるフォルクヴァンク美術館をで活動していたとのこと。録音は今日取り上げるLP以外にはハイドンの「日の出」と「ラルゴ」があるくらいのようで、知る人ぞ知る存在という感じでしょうか。

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このアルバム、TELEFUNKENの黒地に金文字の厳かなデザインがなかなかいいですね。いつものように、VPIのクリーナーでクリーニングして針を落とすと、スクラッチノイズもほぼ消え、ちょっと古風ながらドイツ風の質実剛健な弦の響きがスピーカーから流れ出してきました。

Hob.III:74 String Quartet Op.74 No.3 "Reiterquartetett" 「騎士」 [g] (1793)
聴き慣れた騎士の入りのフレーズ。速めのテンポでサクサクと入りますがフレーズごとにテンポと表情をくっきりと変えてくるので、実にニュアンス豊かな演奏に聴こえます。険しい響きの中から明るいメロディーがすっと浮かび上がる面白さ。一人一人のボウイングが適度に揺れているので、かっちりとしたハーモニーを作るのではなく、旋律のざっくりとしたリズミカルな綾の味わい深かさが聴きどころの演奏。
騎士の白眉であるラルゴは前楽章以上に味わい深いハーモニーを堪能できます。力が抜け、ゆったりとリラックスできる演奏。LPならではのダイレクトな響きの美しさに溢れています。途中からテンポをもう一段落としてぐっと描写が丁寧になったり、アドリブ風に飛び回るようなヴァイオリンの音階を挟んだり、軽妙洒脱なところも聴かせるなかなかの表現力。
続くメヌエットはこのクァルテットの味わい深くもさりげなくさらさらとした特徴が一番活きた楽章。この表現、この味わい深さに至るには精緻な演奏よりも何倍も難しいような気がします。
その味わい深さを保ったままフィナーレに突入。サクサクさらさらと楽しげに演奏していきます。どこにも力みなく、どこにも淀みなく流れていく音楽が絶妙な心地良さ。それでいてフレーズ毎に豊かな表情と起伏が感じられる見事な演奏。騎士のフィナーレは力む演奏が多い中では、この軽やかさは貴重。まるでそよ風のように音楽が吹き抜けていきます。

Hob.III:77 String Quartet Op.76 No.3 "Kaiserquartetett" 「皇帝」 [C] (1797)
名曲皇帝も前曲同様、比較的速めのテンポでさらりとした入り。音楽をどう表現しようかというコンセプトを考える前に、体に染みついているハイドンのメロディーが自然に音楽になって流れ出している感じ。この自然体の演奏スタイルなのに、音楽に躍動感と気品のようなものがしっかりと感じられるのが素晴らしいところ。よく聴くとアンサンブルもまったく乱れるところはなく、音楽の推進力に完全に身を任せているよう。
レコードをひっくり返してドイツ国歌の2楽章。媚びないさっぱりと演奏から滲み出る情感に咽びます。この悟りきったような自然さがこのクァルテットの真髄でしょう。よく聴くとヴァイオリンのみならず、ヴィオラ、チェロもかなりのしなやかさ。全員のボウイングのテイストがしっかり統一されていて、それぞれが伸びやかに演奏することから生まれる絶妙なハーモニー。第1ヴァイオリンのウルリッヒ・シュトラウスは1929年生まれなので録音当時は30代ですが、その年代とは思えない達観した演奏。
メヌエットも前曲同様屈託のないもの。そしてさっとフィナーレに入り、劇的なフィナーレをさらりとまとめてくるのも同様。この曲のクライマックスは2楽章であったとでも言いたげに、さらりとやっつけます。

String Quartet Op.3 No.5 "Serenadequartett" [F] (Doubtful 疑作 Composed by Roman Hoffstetter)
ご存知セレナーデ。速めなテンポは同様。味わい深さもさらりとした展開も同様。ただそれだけならばそれほど聴き応えのある演奏にはならないのですが、音色の美しさとフレーズ一つ一つがイキイキとしているので不思議と引き込まれるのも同様。特に2楽章のピチカートの響きの美しさはかなりのもの。こちらも素晴らしい演奏でした。

実にさりげない演奏なんですが、実に味わい深く、LPであることも手伝って美しい響きに包まれたハイドンの名曲をさらりと楽しめる、通向けの演奏。ハイドンのクァルテットをいろいろ聴いてきた人にはこの味わい深さはわかっていただけるでしょう。入手はなかなか容易ではないでしょうが、中古やオークションでは見かける盤ですので、みかけた方は是非この至福の自然体を味わっていただきたいと思います。評価は全曲[+++++]とします。

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tag : 騎士 皇帝 ハイドンのセレナード 弦楽四重奏曲Op.74 弦楽四重奏曲Op.76 ヒストリカル LP

アルベルニ四重奏団のOp.76(ハイドン)

またまた湖国JHさんから送り込まれたアルバムです。

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アルベルニ四重奏団(The Alberni Quartet)による、ハイドンの弦楽四重奏曲 Op.76の6曲を収めた2枚組のアルバム。収録は1990年1月、ロンドンの名録音会場、ヘンリー・ウッド・ホールでのセッション録音。レーベルはCollins Classics。

このアルバムが湖国JHさんから送られてきた時、てっきり同じくCollinsからリリースされているロバート・ハイドン・クラークの交響曲集かと思ってよく見たところ、そっくりの体裁の全く異なるアルバムだと気付いた次第。ロバート・ハイドン・クラークの交響曲集はお気に入りのアルバムなので、それと同じ体裁のシリーズということで、リリース元のCollinsの総力を結集したアルバムに違いないとの気配を感じて聴き始めたところ、まさにその通り。これがなかなか素晴らしいアルバムなんですね。

奏者のアルベルニ四重奏団はもちろんはじめて聴く団体。ライナーノーツには奏者の情報がないためネットで調べてみると、拠点をロンドン北部のニュータウン、エセックス州ハーロウ(Harlow)に置くクァルテットとのこと。設立は意外に古く、1960年代とのことで、メンバーを変えながら現在も活動を続けています。この録音当時のメンバーは下記の通り。

第1ヴァイオリン:ハワード・デイヴィス(Howard Davis)
第2ヴァイオリン:ピーター・ポップル(Peter Pople)
ヴィオラ:ロジャー・ベスト(Roger Best)
チェロ:デヴィッド・スミス(David Smith)

第1ヴァイオリンのハワード・ディヴィスは35年間にわたりこのクァルテットの第1ヴァイオリンを務めた人でイギリスでは有名な人のようです、2008年に亡くなっているとのことです。ハワード・デイヴィスの楽器は1695年製のストラディヴァリウス"The Maurin"ということで、美音を轟かせるのでしょうか。

今日は前半の3曲を取り上げます。

Hob.III:75 String Quartet Op.76 No.1 [G] (1797)
速めのテンポによる鮮烈な入り。やはりハワード・デイヴィスの艶やかなヴァイオリンの音色が格別な輝きを放ってます。あえて休符を短めにとることで見通しの良い音楽になり、グイグイ進みます。4本の楽器の目の詰んだ織り目の綾の美しさで聴かせるような演奏。音量を上げて聴くと巷で話題のグリラー四重奏団のようなざっくりと織り上げる魅力のようなものを放っています。冒頭から素晴らしい迫力に圧倒されます。
つづくアダージョは手堅いチェロに伸びやかなヴァイオリンの好対照。やはりヴァイオリンの美しい響きが別格の美しさ。特に高音部は倍音が良く乗って素晴らしい艶やかさ。フレージングは柔らかく、呼吸も深いゆったりとした音楽が流れます。残響の美しさは流石にヘンリー・ウッド・ホール。
メヌエットは迫力重視で若干音程がふらつくところもありますが、4人の息はピタリと合ってます。相変わらずハワード・デイヴィスのヴァイオリンの美音炸裂。別格の存在感ですね。他の奏者が道を譲って、デイヴィスの独壇場。
そしてフィナーレはキレの良さが加わり、落ち着いた中にも弓に力が入り、徐々に緊張感が高まっていきます。全奏者が踏み込んで少々前のめりで攻めてきます。1曲目から流石なところを見せつけます。

Hob.III:76 String Quartet Op.76 No.2 "Quintenquartetett" 「五度」 [d] (1797)
続いて五度。速めのテンポが実に心地よい入り。きっちりとした構成の1楽章をミクロコスモスのようなコンパクトでタイトな魅力で聴かせます。速めが急いた感じは与えず、曲の魅力をくっきりと表現しているのは流石なところ。逆に弓裁きの鮮やかさを印象付けます。ダイナミックさも十分、曲の魅力を描ききった感を与えます。
つづくアンダンテは、もちろんテンポは落とすのですが、一貫性を保ち、音楽の自然な流れの良さを保ちながら落ち着いてメロディーを置いていきます。アンサンブルの一体感も微塵も崩さず、4人が一体となって音楽を奏でます。途中のヴァイオリンソロのさりげない美しさがこのアルバムの演奏の質の高さを物語るよう。
独特の濃い音楽が特徴のメヌエットですが、緊密なアンサンブルで爽快感が漂うほどのあっさりとした表情でさらりとこなします。演奏によってはくどいほどのメリハリをつけてくるのとは好対照。
そして予想どおり爽快なフィナーレ。あえてサラリとした感触を残そうとしている節があり、特にフレーズの切れ目をサラリと引き上げるところが特徴。最後は素晴らしい迫力を伴い、くっきりとした表情のまま力みなぎるフィニッシュ。

Hob.III:77 String Quartet Op.76 No.3 "Kaiserquartetett" 「皇帝」 [C] (1797)
前曲同様、速めなテンポでタイトな魅力を放ちます。目の荒さも同様、ざっくりとした表情も変わらず、素晴らしい推進力での入り。速さに負けないしっかりとしたボウイングでくっきりとした表情が引き立ちます。特に第1ヴァイオリンの高音の伸びやかさが印象的。
有名な2楽章も比較的速め。淡々と運ぶ音楽の美しさで聴かせる演奏。変奏を重ねていくあたりからはテンポも上がり、緊張感も上がります。ここでも休符をあえて短めにすることで音楽の見通しが良くなり、タイトな表情の魅力で聴かせます。音楽の立体感が一層際立ち最後は透き通った凛とした美しさに至ります。悪くありません。
変わらず速めのメヌエットをはさんで、鮮烈なフィナーレに至ります。あらん限りの力で楽器を鳴らしきりながらも、繊細さを失わない進行は流石なところ。一貫して見通しの良さを失わず、コンパクトに起承転結を表現します。
後半3曲も演奏のスタンスとレベルは変わらず、コンパクトながらきりりと引き締まったハイドンのクァルテットの魅力を十分に表現しきった名演奏。

アルベルニ四重奏団によるOp.76の6曲を収めたアルバムですが、Collins CLASSICSの威信をかけたプロダクツにふさわしい素晴らしい出来でした。やはり第1ヴァイオリンのハワード・デイヴィスの輝かしい音色をベースにしながらも、速めのテンポでグイグイと攻めながらタイトにまとめるという、これまでの名演とはちょっとタイプの異なる演奏でした。ゆったりと沈む演奏もいいものですが、アルベルニ四重奏団の演奏のこの見通しのよい演奏も捨て難いもの。6曲とも高いレベルで揃えてくるあたりもこのクァルテットの実力の高さを物語るものでしょう。もちろん全曲[+++++]とします。

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tag : 皇帝 弦楽四重奏曲Op.76 五度

マタンギ四重奏団の日の出、蛙、鳥(ハイドン)

今日も湖国JHさんから送り込まれたアルバム。いやいや、いい演奏はまだまだあるものです。

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TOWER RECORDS / amazon / HMV ONLINEicon

マタンギ四重奏団(Matangi Quartet)の演奏による、ハイドンの弦楽四重奏曲Op.76のNo.4「日の出」、Op.50のNo.6「蛙」、Op.33のNo.3「鳥」の3曲を収めたアルバム。収録は2012年8月26日から28日にかけて、ライプツィヒのすぐ南のマルククレーベルク(Markkleeberg)のリンデン・ザールでのセッション録音。レーベルはオランダのCHALLENGE CLASSICS。

朧月夜のような中、うっすらと輝く光の方を向いたクァルテットのメンバーの写真をあしらった意味ありげなジャケット。なんとなくこのアルバムにかける気合のようなものが漲っています。ライナーノーツの冒頭にはスヴィーテン男爵によるハイドンの四季の春のテキストが引用されています。

All is alive,all is expectant, all neture bestirs! itself!
すべてのものが息づき、すべてものが身を動かし、すべてものが活動している(大宮真琴訳)


また、それに続いて「憂鬱な日はハイドンを弾くと、手から温もりを感じる、、、」で始まる、2011年にノーベル文学賞に輝いたスウェーデンの詩人、トーマス・トランストロンメルによる詩が合わせて掲載されています。このアルバムが伝えようとしているハイドンのイメージを言葉にしています。

奏者のマタンギ四重奏団はオランダのクァルテット。マタンギとはヒンズー教の女神で、語り、音楽、書の神様とのこと。言葉に対する格別のこだわりはクァルテット名にも現れているようですね。

設立は1999年、王立ハーグ音楽院とロッテルダム音楽院で学んでいた若い音楽家がメンバー。2002年から2003年までの2年間、オランダ室内楽アカデミーでオルランド四重奏団のチェリスト、ステファン・メッツに師事、以後はオランダを中心に欧米で演奏活動を行っています。このクァルテット、ジャズのアルバムもリリースするなど、普通のクァルテットとは一味違う側面ももっています。

メンバーは次のとおり。いつものようにクァルテットのウェブサイトへのリンクもつけておきましょう。

第1ヴァイオリン:マリア=パウラ・マヨール(Maria-Paula Majoor)
第2ヴァイオリン:ダニエル・トリコ・メナチョ(Daniel Torrico Menacho)
ヴィオラ:カルステン・クレイエル(Karsten Kleijer)
チェロ:アルノ・ファン・デル・ヴルスト(Arno van der Vuurst)

Matangi - Home

Hob.III:78 String Quartet Op.76 No.4 "Sonnenaufgang" 「日の出」 [B flat] (1797)
比較的近い位置にクッキリリアルに定位するクァルテット。折り目正しい正統派の演奏。心なしか速めのテンポでタイトに引き締まった表情で音楽を創っていきます。特徴は長音での4人のアンサンブルの精妙な響き。かなりしっかりとコントラストをつけての演奏ながら、力を抜くところでしっかり抜いているのでくどくはありません。むしろ推進力とところどころにつくアクセントが効いて、かなりメリハリのしっかりした溌剌とした演奏に聴こえます。録音も4人のバランスが良く、中音域の木質系の力強い響きがうまく録られています。
アンサンブルは2楽章のアダージョに入ると一層精妙になり美しさが際立ちます。和音だけきくと現代音楽のような峻厳な印象もありますが、ジャズを得意としているように、メロディーを描くセンスがいいので硬くはなりません。しっかりと沈み込んでメリハリをつけます。
メヌエットは適度な弾力があり、表情の変化の幅も十分。音楽として一貫していながら楽章間の表情の描き分けがしっかりしていて聴き応え十分。
ちょっと意外だったのがフィナーレ。流麗に来ると思いきや、訥々と語るような入り。勢いに乗った演奏ではなく、徐々に彫りが深くなっていく様子を聴かせようということのようですね。こちらの先入観に振られましたが、よく聴くと実によく考えられた構成。これはこれで完成度の高い演奏と納得する演奏。音楽をまとめる力はかなりのもの。

Hob.III:49 String Quartet Op.50 No.6 "Frosch" 「蛙」 [D] (1787)
好きな蛙(笑)。4人の対等なメロディーの渡し合いの実に愉快な展開。よく聴くとメロディーには相当表情をつけて、イキイキと描いています。ハイドンの音楽の楽しさをよく踏まえた演奏。基本的に楽天的な雰囲気が支配しますが、適度なデフォルメがアーティスティックさも保ち、絶妙のバランス。曲に仕込まれた響きの変化をよく拾って変化に富んだ演奏。1楽章は絶品。
短調に変わる2楽章のポコ・アダージョ。しっかりと翳りを表し、そして長調に転調する場面の変化のセンスの良さ。もちろん演奏のテクニックはそれなりですが、音楽にテクニックを誇示するような印象はまったくなく、ひたすらメロディーをニュアンス豊かに鳴らそうという謙虚な姿勢が感じられます。途中の弱音が非常に効果的。
メヌエットのさりげない雄弁さは前曲同様。そして蛙の鳴き声に似ているいうことで有名な終楽章はこのクァルテットの表現力がよくわかる痛快な演奏。バリオラージュ奏法によるユニークなメロディーがイキイキと踊り、曲の構成もしっかりと描く名演。力の抜けた表現の多彩さに打たれます。

Hob.III:39 String Quartet Op.33 No.3 "Vogelquartett" 「鳥」 [C] (1781)
最後は名曲鳥。この曲は速めの入り。シュトルム・ウント・ドラング期の仄暗いイメージから脱却して、明るく変化に富んだ曲調のロシア四重奏曲の代表曲であることを強調するようなキビキビとした展開。歌う部分ではテンポを落としてゆったりと歌い、キビキビとした部分ではキレ味鋭いボウイングを聴かせる、まさに緩急自在の演奏。時折持続音を長く保って精妙な響きのスパイスを加えるなど細工も十分。ハイドンの機知の真髄を踏まえての演奏という説得力もあります。このさりげない表現力、マタンギ四重奏団の真骨頂でしょう。
続くスケルツォも速足での入り。筆の勢いが感じられる草書のようなしなやかさ。中間部は墨をしっかり含んだ筆による楷書のようにクッキリとした表情、そして再び草書に戻ります。
3楽章は明るい曲奏のアダージョですが、マ・ノン・トロッポとあるように、遅すぎないように、沈まないアダージョの表現とはこういうことかと納得するようなテンポ設定。表情の変化も抑え気味にすることで、メロディー自体の面白さに集中できます。
日の出とは異なり終楽章は快速、クッキリ、キレ味抜群で期待通り。響きを揃えるのではなく純粋に演奏のキレを楽しむような遊び心が感じられる演奏が好印象。実に躍動感があり、音楽が弾みます。鳥も名演でした。

名前もジャケットもアルバムの作りもレパートリーも個性的なマタンギ四重奏団のハイドン名曲集。選曲も皇帝やひばりなどを並べるのではなく、日の出に蛙、鳥というなんとなくこだわりを感じる選曲。演奏も彼らの表現の幅の多彩さ、音楽としてまとめる力を遺憾なく発揮したもの。これは聴きごたえあります。このアルバムの前にOp.20のNo.4を収めたアルバムがあるようですので、これも聴いてみなくてはなりませんね。評価は全曲[+++++]とします。ロシア四重奏曲の残りの曲の録音も期待したいところですが、そういった構成での録音はしないでしょうねぇ(笑)

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tag : 弦楽四重奏曲Op.76 日の出 弦楽四重奏曲Op.50 弦楽四重奏曲Op.33

ロザムンデ四重奏団の皇帝、ひばり、騎士(ハイドン)

このところ良くコメントをいただくSkunjpさんオススメのアルバム。当方のコレクションにありませんでしたので、早速注文して届いたもの。

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TOWER RECORDS / amazon(mp3) / HMV ONLINEicon

ミュンヘン・ロザムンデ四重奏団(Rosamunde Quartett München)の演奏による、ハイドンの弦楽四重奏曲からOp.76のNo.3「皇帝」、Op.64のNo.5「ひばり」、Op.74のNo.3「騎士」と有名曲ばかり3曲を収めたアルバム。収録は、ベルリンの南の街ランクヴィッツ(Lankwitz)にあるジーメンス・ヴィラ(Siemens-Villa)という古い教会のような建物でのセッション録音。レーベルはBerlin CLASSICS。

ロザムンデ四重奏団のアルバム手元にECMレーベルからリリースされている「十字架上のキリストの最後の七つの言葉」がありますが、堅実な演奏との認識で、これといって強く印象に残る感じはしませんでした。今日取り上げるアルバムは冒頭に触れたとおり、ハイドン愛好家のSkunjpさんのオススメのアルバム。もちろんそう言われて黙っているわけにもいかず、早速注文を入れてみた次第。実はこの演奏、当ブログへのコメントで教えていただいた直後に調べたところApple Musicにも登録されていて、通勤帰りにちょっと聞いてみたりしたのですが、正統派の折り目正しい演奏と聴きましたが今一つイメージがパッとしません。この手の演奏はアルバムでちゃんと聴くと印象も異なることがあるということでCDのほうも注文したという流れです。

ロザムンデ四重奏団は1992年に設立されたクァルテット。クアルテットのウェブサイトが見つかりましたが、2009年以降更新されておらず、もしかしたら現在は活動していないかもしれませんね。このアルバム収録当時のメンバーは下記のとおり。

第1ヴァイオリン:アンドリアス・ライナー(Andreas Reiner)
第2ヴァイオリン:ダイアン・パスカル(Diane Pascal)
ヴィオラ:ヘルムート・ニコライ(Helmut Nicolai)
チェロ:アンヤ・レチーナー(Anja Lechner)

ROSAMUNDE QUARTETT

クァルテットの行方はともかく、このアルバムの演奏を紐解いてみましょう。

Hob.III:77 String Quartet Op.76 No.3 "Kaiserquartetett" 「皇帝」 [C] (1797)
もちろんApple Musicと同じ演奏なんですが、音の広がりや定位感、実在感はCDのほうが上。実にオーソドックスな演奏ゆえ、Apple Musicではちょっと凡庸に聴こえなくもありませんでしたが、CDで聴くとしっかりとした芯のある音色と、堅実な弓裁きの魅力が伝わります。テンポはカッチリと決め、これ以上几帳面な演奏は難しいほどに規律正しい演奏。たしかに何もしていないんですが、何もせず、きっちり演奏することでハイドンの魅力が浮かび上がるという確信に満ちた演奏。音量を上げて聴くと素晴らしいリアリティーに打たれます。教科書的という言葉をアーティスティックにデフォルメしたような冴えわたる規律正しさ。この演奏に一旦ハマると他の演奏が軟派に聴こえるかもしれません。揺るぎないリズムの刻みに圧倒されます。表現の角度は異なりますが、この一貫性はクナのワーグナーのような雄大さを感じさせなくもありません。
ドイツ国家のメロディーとなった2楽章も言ってみれば何もしていませんが、キリリとした表情でクッキリと陰影をつけアダージョが冬の日差しに峻厳と輝くアルプス山脈のような迫力で迫ってきます。辛口というテイストの問題ではなく、まさにリアリズムの世界のよう。終盤ちょっとテンションを緩めた変奏部分が妙に沁みます。各パートとも磨き抜かれ、冷徹なまでに冴え渡ります。
もちろんメヌエットもキレキレ。青白い刀の刃の輝きのような冴えが全編に漂います。リアルなクァルテットの響きにゾクゾクします。
切れ込むような鋭い響きからはいるフィナーレ。あちこちに切れ込みながら音楽が進み、険しい表情を張り詰めた音色で描いていきます。力の入った演奏ですが、力任せすぎず、鋭利さとバランスを絶妙に保ちながらの演奏。このバランス感覚の存在こそたロザムンデ四重奏団の特徴でしょう。

Hob.III:63 String Quartet Op.64 No.5 "Lerchenquartetett" 「ひばり」 [D] (1790)
名曲3点セット的選曲です。つづくひばりは予想どおりバランスの良い几帳面なリズムから入ります。冒頭のキリッとしたリズムの刻みと、伸びやかなヴァイオリンはまさに想像したとおり。演奏スタイルは一貫しており前曲を聴いて頭に描いたイメージどおりです。録音がクリアなので、クァルテットの響きの冴えを十二分に味わうことができます。主題の繰り返し部分では表情を変えることがないのですが、逆に再び登場するメロディーがまったく同じように響く快感を味わえます。途中からチェロがクッキリと浮かびあがり、見事に解像するアンサンブルの快感も味わえます。終盤再び繰り返されるメロディーのキレのいいことと言ったらありません。
つづくアダージョもテンションはそのまま、ゆったりとしたメロディーながら響きはタイトなまま切れ込みます。一貫したスタイルが売りものですが、ここまで一貫しているとは。メヌエットもまったく揺るぎない展開。
そしてフィナーレでは若干柔らかめに入りますが、テンポの安定感は変わらず、徐々にテンションが上がり、タイトな音色の連続にトランス状態に入りそうな勢い(笑)。短いフィナーレの最後はグッと音量を上げてクライマックスに至ります。

Hob.III:74 String Quartet Op.74 No.3 "Reiterquartetett" 「騎士」 [g] (1793)
最後も名曲「騎士」。もはやこの一貫したスタイルの魅力に押され気味。カッチリとした表情、余人を寄せ付けない緊張感、手綱をすこしだけ緩めて起伏を表現するスタイル。いずれもロザムンデ四重奏団の突き抜けた個性です。このテンションの高さだけの連続だったら単調にも聴こえたでしょうが、そうは感じさせない表現のコントロールもあります。この曲に潜む陰りのようなものの表現は秀逸。冴え冴えとした表情だからこそ陰の部分の陰影が深い。
精妙なアンサンブルが聴きどころの2楽章。アルバン・ベルクではちょっと作った感じに聴こえたこの楽章が、自然さを保ちながらの精妙さに至り、活き活きとした表情に感じられます。よく聴くとボウイングに呼吸のような自然さが宿っており、ただタイトな響きではないことがわかります。このあたりがクァルテットの難しいところ。硬さを表すのに柔らかさが必要なんでしょう。この騎士では弱音と間の美しさも感じられます。
そしてメヌエットも前2曲よりも心なしかしなやか。リズムのキレはそのままにすこし力を抜いて粋なところを聴かせます。
最後のフィナーレは松ヤニが飛び散りそうなヴァイオリンの弓裁きを堪能できます。各パートそれぞれの音のエッジが立って際立つスリリングさ。この騎士だけがすこし力を抜いた面白さを加えてきました。

ロザムンデ四重奏団によるハイドンの名曲集。クッキリと浮かび上がる各パートの緊張感のあるやりとりとタイトな響きの魅力に溢れた演奏でした。Skunjpさんのコメントにある、「主旋律にからむ対位旋律、副旋律、伴奏型のすべてが雄弁で、4人が精密かつ有機的に共鳴し合う」という意味がよくわかりました。クァルテットの演奏は千差万別。ハイドンの名曲の様々な面に光を当て、現代にあってもその魅力を表現し尽くした感はありません。ハイドンの皇帝、ひばり、騎士のオーソドックスなスタイルの名演奏としてハイドン好きな皆さんにも一度聴いていただきたい演奏ですね。評価は3曲とも[+++++]とします。

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tag : 皇帝 ひばり 騎士 弦楽四重奏曲Op.76 弦楽四重奏曲Op.64 弦楽四重奏曲Op.74

エルデーディ弦楽四重奏団のOp.76(ハイドン)

最近、意図して取り上げている日本人奏者のアルバム。

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エルデーディ弦楽四重奏団(Erdödy String Quartet)によるハイドンの弦楽四重奏曲Op.76のNo.4「日の出」、No.5「ラルゴ」、No.6の3曲を収めたアルバム。収録は2004年2月25日から27日にかけて、山梨県牧丘町文化ホールでのセッション録音。レーベルはこのクァルテットの自主制作。

このアルバムは先日新宿のdisc unionで見かけて手に入れたもの。さりげないアルバムの造りから日本人奏者のものとは気づかずに手に入れましたが、帰って開封してはじめてそれと気づいたもの。ブログを書くために調べたところ、amazonなどネットショップには流れていないもののようです。クァルテットのウェブサイトを紹介しておきましょう。

エルデーディ弦楽四重奏団

エルデーディとはハイドンファンの方なら先刻ご承知のとおり、ハイドンに弦楽四重奏曲Op.76の作曲を依頼したエルデーディ伯爵のこと。このアルバム、エルデーディ伯爵の注文で作曲した曲を、エルデーディ弦楽四重奏団が演奏したという、クァルテットのオリジンのようなアルバムということです。このアルバムにはエルデーディ四重奏曲の後半3曲が収められていますが、もう1枚、前半3曲を収めたアルバムがあり、そちらも今回入手済みです。

エルデーディ弦楽四重奏団は1989年、藝大出身者によって結成されたクァルテット。メンバーを見ると、奇遇にも先日浜松市楽器博物館のリリースするアルバムでヴァイオリンを弾いていた桐山建志さんがヴィオラを弾いています。

第1ヴァイオリン:蒲生克郷(Katsusato Gamo)
第2ヴァイオリン:花崎淳生(Atsumi Hanazaki)
ヴィオラ:桐山建志(Takeshi Kiriyama)
チェロ:花崎薫(Kaoru Hnazaki)

設立後すぐの1990年から1992年、ロンドンでアマデウス弦楽四重奏団のメンバーによるサマーコースに参加しているとのこと。以後、国内を中心に活躍しています。弦楽四重奏好きな方ならご存知かもしれませんね。

このアルバムを取り上げたのは、もちろん演奏が素晴らしいということからですが、もう一つ奇遇が重なっています。このアルバムの録音会場となっている山梨県牧丘町の牧丘町文化ホールは、武田信玄の墓所がある恵林寺のすぐそば。実はこの春以降このあたりの恵林寺、放光寺、はやぶさ温泉、道の駅牧丘、近くのワイナリーなどには3度ほど訪れており、このアルバムの録音会場がすぐそばにあったことを知り、ちょっとびっくりした次第。なんとなく偶然にもご縁があったということでしょう。

アルバムをCDプレイヤーにかけた瞬間、瑞々しい響きが溢れてくる一聴して素晴らしい演奏。いやいや、これは名演ですよ。

Hob.III:78 String Quartet Op.76 No.4 "Sonnenaufgang" 「日の出」 [B flat] (1797)
日の出のゆったりとした柔らかい導入部。最初の研ぎ澄まされた一音にこのクァルテットのセンスが現れているよう。録音は実に自然で、鋭すぎず、弦楽器の実体感と自然な響きがうまく録られています。眼前でクァルテットが演奏しているような名録音。演奏も自然体でオーソドックスなものですが、落ち着いているのにスリリングで、各楽器の音色が微妙に異なるのがかえって心地よい印象を与えます。各パートが実にしなやかに歌い、アンサンブルの精度もなかなかのもの。ハイドンの音楽を自然体であらわした清々しい演奏。4人の音楽の重なりがいぶし銀のような味わい深さを醸し出します。1楽章から、ぐっと引き込まれます。
続くアダージョは素朴な響きの魅力で聴かせます。自然な呼吸が聞き手とシンクロ。まさに癒しの音楽。作為なく純粋に音楽を奏でているだけで、ハイドンの音楽の魅力が溢れ出してきます。素朴な表情と枯れた心境が交錯する魅力。無欲の音楽。絶品です。
メヌエットもそよ風のように入ります。この絶妙な入りのセンス、これまた絶品。音楽とはテクニックばかりではなく、こうした冴えた感覚が重要ですね。一貫して自然さを失わないこの感覚。音楽はしなやかに流れ続け、曲が進みます。さらりとレガートをかけ、さらりとリズムを取り戻す微妙な変化の連続に聞き手の感覚が研ぎ澄まされます。
フィナーレはしなやかで時に重厚。精度が高いというわけではないのですが響きは複雑で深く、音楽は実に豊か。最後は軽やかさも垣間見せて終了。見事。

Hob.III:79 String Quartet Op.76 No.5 [D] (1797)
1曲目から引き込まれっぱなしですが、続くこの曲でも緊張感とスタイルは保たれ、実に複雑な響きが繰り出されていきます。よく聴くとチェロの安定感がこのクァルテットの魅力の一つとなっているよう。パートごとに音色が微妙に異なるものの、音楽は一貫しているので、この複雑な響きを織り成していることがわかります。研ぎ澄まされた精度の高い演奏もいいものですが、このエルデーディ弦楽四重奏団のざっくりとした響きもいいものです。ハイドンの弦楽四重奏曲の素朴な魅力を表現し尽くしているよう。リズムに推進力があり、それが音楽をイキイキとさせています。
題名楽章のラルゴは、曲の美しさを知り尽くしたもののみが取りうるアプローチ。さらりとしながらも適度にしなやか。そして自然な呼吸によって浮かびあがる感興。静けさすら感じる終盤。これまた絶品。
そしてこの曲でもこれ以上しなやかには入れないほどのメヌエットの入り。このあたりの感覚の冴えは驚くほど。その後の自然な音楽の流れも素晴らしいのですが、曲の入りにハッとさせられるのもいいですね。あまりの自然さに驚きを覚えるとはこのことでしょう。
演奏によってはエキセントリックにも聴こえるフィナーレですが、もちろん非常にまとまりのよい入り。適度に躍動するリズムの心地よさが聴きどころでしょう。この曲でも音楽の深さを思い知らされます。

Hob.III:80 String Quartet Op.76 No.6 [E flat] (1797)
最後の曲も出だしの分厚いアンサンブルから惹きつけられます。音色に関する冴えた感覚はここでも健在。すぐにヴァイオリンの自在な掛け合いにハッとさせられます。円熟の極致のような技が次々と繰り出され、ハイドン晩年の機知の連続に酔いしれます。曲の魅力を知り尽くしているからこそできる表現と納得させられます。抑えた表情にも音楽の神様が宿っているよう。自在な表現はこのアルバムの総決算にふさわしい完成度。終盤のフーガのような深遠な音楽はハイドンの創意を踏まえて遊びまわるような自在さに至ります。
2楽章は1楽章で昇りつめたかと思った表現にさらに磨きがかかり、孤高の領域。神々しいまでの気高さ。この曲の到達した高みは、登ってみなければわからないほど。山頂で澄み切った黒にちかい紺色の天空を眺めるよう。凄みすら感じるそぎ落とされた音楽。絶句。
いつも不思議に感じるこの曲のメヌエット。昇りつめた向こう側は、極度にあっさりとした世界。それを知ってか演奏も純粋無垢な汚れのない屈託のないもの。超えるものを超えてしまった心境なんでしょうか。そしてフィナーレも同様。無邪気に遊びまわるような表情の連続。曲に仕込まれた気配までさらけ出してしまう凄い解釈と言わざるを得ません。参りました。

エルデーディ弦楽四重奏団によるエルデーディ四重奏曲集の後半3曲。ここまで素晴らしい演奏とは想像できませんでした。精緻な演奏ではありませんが、表現は他のどの演奏よりも本質を突く名演奏。まるで自宅が名ホールになってしまったような実体感溢れる録音によって、ハイドンの円熟の筆致による弦楽四重奏曲を堪能できる名盤です。自主制作盤のようなので大手には流通しておりませんが、上のウェブサイトで購入できるようですので、入手は難しくないでしょう。これはハイドンの弦楽四重奏好きな方は必聴のアルバムです。エルデーディ四重奏曲の真髄に触れられます。評価はもちろん全曲[+++++]です。

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tag : 弦楽四重奏曲Op.76 日の出 ラルゴ

ヴァンブラ弦楽四重奏団のラルゴ(ハイドン)

旅日記にかまけておりましたゆえ、正常化しませんと、、、(笑)

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ヴァンブラ弦楽四重奏団(Vanbrugh String Quartet)の演奏によるシューベルトの弦楽四重奏曲D804、ハイドンの弦楽四重奏曲Op.76のNo.5の2曲を収めたアルバム。収録はPマークが1986年、ロンドンの聖バルナバ教会でのセッション録音。レーベルは英Collins CLASSICS。

このアルバムも超マイナー盤。お察しの通り湖国JHさんから借りているもの。Collins CLASSICSにはロバート・ハイドン・クラークによる交響曲集という自然な演奏が素晴らしいアルバムがありました。

2010/07/19 : ハイドン–交響曲 : ロバート・ハイドン・クラークの交響曲集

そのCollins CLASSICSの弦楽四重奏曲ということで、かなりの事前期待。まずは聴いてみると、期待通りの素晴らしく自然なメロディーが流れてくるではありませんか。これはやはりレーベルのプロデューサーに一貫した視点があってのことだと思います。

演奏者のヴァンブラ弦楽四重奏団は1985年の設立。設立後1年後にはアイルランド国営放送のRTÉのレジデント・クァルテットになります。アイルランド南部の街コーク(Cork)を拠点に活動し、1988年にはユーディ・メニューインによるロンドン国際弦楽四重奏コンクールで1等となり、1996年にはベートーヴェンの弦楽四重奏曲全集を録音し、高く評価されたとのこと。設立時および録音時のメンバーは下記の通りですが、96年に第2ヴァイオリンが変わっています。

第1ヴァイオリン:グレゴリー・エリス(Gregory Ellis)
第2ヴァイオリン:エリザベス・チャールソン(Elizabeth Charleson)
ヴィオラ:サイモン・アスペル(Simon Aspell)
チェロ:クリストファー・マーウッド(Christopher Marwood)

もちろん私は初めて聴くクァルテット。

Hob.III:79 / String Quartet Op.76 No.5 [D] (1797)
しなやかな入り。ゆったりとしながらもざわめきが感じられる演奏。ちょっと遠くに定位するクァルテット。鮮明というよりはゆったりと響きわたります。メロディーの流れはよどみなく、聴き進むうちにせめぎ合うように代わる代わる攻め込まれます。しなやかな演奏から徐々に畳み掛けるような攻めに転じる変化は見事。
2楽章のラルゴは各パートの演奏の雄弁さに耳を奪われているうちに大波に襲われてしまいます。寄せては返す波に揺れて音楽が沁みていきます。くっきりと変化をつける演奏ではなく、しなやかに流れる流麗な演奏。各パートの音色もよく揃って、緊密なアンサンブルから繰り出される感興。終盤ヴァイオリンの突き抜けるようなボウイングが耳に残ります。
メヌエットでもしなやかに流れるメロディーの面白さを浮かび上がらせる演奏。よどみない流れの良さが印象に残りつつ聞きなれたメロディーラインを聴きすすめます。
そしてフィナーレは鮮烈。これまでも踏み込んでいた各パートのボウイングが一層力を込めて、メロディーラインを押し出します。終盤に向けた集中力も見事。すでに踏み込んでいる各パートにさらに力が入り、素晴らしい鬩ぎ合い。耳をつんざくように楽器を鳴らしてメリハリを強調。最後はキレ良くというより、これよりキレることはなさそうなほどの踏み込みを聴かせて終わります。

なんとなく廉価版然とし佇まいのジャケットの印象とは異なり、かなり本格的な演奏。流石Collins CLASSICSというべき演奏でした。ハイドンの晩年の緻密な構成を流麗に表現した見事なアンサンブルで、一体感も見事。アンサンブルの精度だけでなく音楽の流れの良さで聴かせる素晴らしい演奏でした。評価は[+++++]を進呈します。

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テーマ : クラシック
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tag : 弦楽四重奏曲Op.76 ラルゴ

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なぜかハイドン(Franz Joseph Haydn)が特に気に入り膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。東京在住のごく普通のサラリーマンです。

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