スミソン弦楽四重奏団のOp.77/103(ハイドン)

先日取り上げたコダーイ四重奏団のOp.9の記事にSkunJPさんからコメントをいただき、スミソン弦楽四重奏団のOp.9の入ったアルバムを発注したのですが、そのアルバムはまだ到着せず、同時に注文したこちらが先に着いたので、こちらを取り上げます。もちろん、演奏が素晴らしいからに他なりません。

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スミソン弦楽四重奏団(Smithson String Quartet)の演奏による、ハイドンの弦楽四重奏曲Op.77のNo.1、No.2、Op.103の3曲を収めたアルバム。収録は1988年11月17日から20日にかけて、スイスのベルン州にあるブルーメンシュタインのプロテスタント教会(Evangelischen kirche Blumenstein)でのセッション録音。レーベルはdeutsche harmonia mundi。

スミソン弦楽四重奏団のアルバムは以前、1度取り上げています。

2011/06/10 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : スミソン弦楽四重奏団のOp.54

古楽器のヴァイオリニストのヤープ・シュレーダー率いる古楽器によるクァルテット。略歴は以前の記事を参照いただきたいのですが、前記事と録音年も近いことから、メンバーは同一です。

第1ヴァイオリン:ヤープ・シュレーダー(Jaap Schröder)
第2ヴァイオリン:マリリン・マクドナルド(Marilyn McDnald)
ヴィオラ:ジャドソン・グリッフィン(Judson Griffin)
チェロ:ケネス・スロウィック(Kenneth Slowik)

Hob.III:81 String Quartet Op.77 No.1 [G] (1799)
教会での録音らしく残響は少々多めですが、木質系のしなやかな響きなのでむしろ心地良い感じ。冒頭からテンポよく勢いのある演奏。古楽器の音色の美しさはなかなかのもので、響きの魅力にまず惹きつけられます。リズムに生気が宿り、実にイキイキとした演奏。晩年のハイドンの澄み切った心境を映すような演奏という感じ。ほぼ30年前の演奏ながら、録音も演奏も全く古さを感じさせない、素晴らしい充実度。
続くアダージョでは響きの美しさを存分に聴かせます。ヤープ・シュレーダーのヴァイオリンは自然体のボウイングの美しさと、この曲が本来もつ枯れた雰囲気をも感じさせる円熟の演奏。ハーモニーは透明感高く、ソロ部分では孤高の心境が宿るよう。
落ち着いた演奏を断ち切るようにメヌエットに移ります。鋭いボウイングによってハイドンの書いた音楽のキレが強調されます。ちょっと驚くのが中間部をどっしりとまとめてきたところ。色々な演奏を聴いていますが、なかなかのアイデアですね。これによって両端のメヌエットの鮮やかさが一層引き立ちます。
そしてフィナーレは軽やかに入ったと思っていたところ、リズムを変えて次々に襲いくるメロディーの特に低音のアクセントを強調したり、複雑に絡み合うメロディーのエッジが綺麗に立って音楽の綾を実に魅力的に仕上げてきます。目眩く変化する音楽の面白さに釘付けになります。これは見事。なんと鮮やかなフィナーレでしょう!

Hob.III:82 String Quartet Op.77 No.2 [F] (1799)
前曲の鮮やかさを受け継ぐような壮麗な入り。ヤープ・シュレーダーのヴァイオリンは絶好調。鮮度高く、滑らかさと勢いのバランスも絶品。耳を澄ますとクッキリとしたメロディーと流すような音階との対比をかなり鮮明につけています。ヤープ・シュレーダーの自在なボウイングにうっとりしっぱなし。秀逸なのが、展開部の途中でかなり音量を落として沈み込むところのセンス。ゾクゾクさせるようなスリリングさ。この曲でこんな印象を持ったのは初めてのこと。シュレーダー以外のメンバーも見事な音楽性でシュレーダーの冴え冴えとした演奏を支えます。見事。
続くメヌエットでも美しいヴァイオリンの音色とキレは健在。生気漲るとはこのことでしょう。その勢いと見事な対比を見せて沈む中間部が実に印象的。音量のみならず表情の対比がこれほど決まる演奏はそうはありません。
そしてこの曲の白眉の枯れたアンダンテ。この曲に込められた寂しさを帯びた明るさがしっかりと描かれます。音楽が展開するごとに深みが増していく喜び。この曲を書いたハイドンの心情をトレースしていくような演奏に心打たれます。これは絶品、世の中にこれほどシンプルに豊かな心情を表す音楽があるでしょうか。
素晴らしい音楽の締めくくりにふさわしいフィナーレ。天真爛漫に歌う小鳥のようなメロディーを3本の楽器が支えます。フレーズの受け渡しの面白さと、ユニークなメロディに低音の意外にメリハリのついた演奏と最後まで気を抜けません。ヴァイオリンのさえずりを聞かせて、最後はしっかりと展開した音楽をまとめて終わります。この曲も最高。

Hob.III:83 String Quartet Op.103 [d] (before 1803)
ハイドン絶筆の曲。流石に力が抜けてきますが、音楽の豊かさは変わらす。ハイドン最後の音楽を微笑みながら演奏している姿が目に浮かびます。構成感をしっかりと印象づけながらも、落ち着いてゆったりと音楽を紡いでいく姿勢に打たれます。たっぷりと墨を含んだ太い筆でゆったりと筆を運ぶように音楽を作っていきます。
そして、最後のメヌエットは残った力を振り絞るような渾身の音楽。ここにきてチェロの力強さにハッとさせられます。妙に染みる中間部を挟んで、切々としたメヌエットに戻り、残った音符の数を惜しむように曲を結びます。最後の厳しい和音を書き、ハイドンが筆を置いた心境がオーバーラップします。

ふと手に入れたこのアルバムですが、このロプコヴィッツ四重奏曲3曲のベスト盤と言っていいでしょう。演奏によってはハイドン最後の音楽という深みを感じられないものもありますが、この演奏は別格の深さを持っています。古楽器での演奏ながらヤープ・シュレーダーの自在なボウイングから繰り出される音楽の表情は非常に多彩。そしてアンサンブル全体に生気が漲った超がつく名演です。このアルバムを聴いてようやくこの曲の真髄に触れた気になりました。評価はもちろん全曲[+++++]とします。弦楽四重奏曲好きな皆さん、手に入るうちにどうぞ!

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tag : 弦楽四重奏曲Op.77 弦楽四重奏曲Op.103 古楽器

【新着】ゴルトムント四重奏団の弦楽四重奏曲集(ハイドン)

弦楽四重奏曲の新譜です。当ブログにいつも含蓄のあるコメントをいただくSkunjpさんから「レビューせよ」とのお告げをいただいていたもの(笑)

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TOWER RECORDS / amazon / ローチケHMVicon

ゴルトムント四重奏団による、ハイドンの弦楽四重奏曲Op.1のNo.1、Op.33のNo.5、Op.77のNo.1の3曲を収めたアルバム。収録は2016年4月18日から21日にかけて、ミュンヘンの北の街、イスマニンング(Ismaning)のガブリエル教会(Gabrielkirche)でのセッション録音。レーベルは、な、なんとNAXOS。

なんと、NAXOSと言ったのは、もちろん廉価盤の雄であり、作曲家の作品のフルレコーディングに執念を燃やし、しかもハイドンの弦楽四重奏曲についてはすでにコダーイ四重奏団との素晴らしい全集を完成させたあのNAXOSが、新たな奏者との録音を始めたとの驚きを隠せないからに他なりません。コダーイ四重奏団との全集がリリースされ始めたのはかなり前になりますが、リリース当初は廉価盤ゆえ一流の演奏とは差があるだろうとたかをくくっていましたが、リリースされるたびにその円熟の演奏の素晴らしさが判明し、現在選択できる弦楽四重奏曲全集でも、1、2を争う素晴らしいものであるのは皆さんご存知の通り。そのNAXOSが新たに世に問う弦楽四重奏曲の新譜ということで、ちょっと普通のアルバムとは見方が違ってしまうのは無理からぬことでしょう。

しかも、選曲は、作品ごとではなく、Op.1、Op.33、Op.77と初期、中期、晩年の作品からセレクトしたもの。さらに、ジャケットに写る姿がまた意味ありげです。まるでコダーイ四重奏団の偉業である弦楽四重奏曲全集をアルプスの山に象徴させ、それを遠景に自信ありげに崖に立ちすくむ4人組。まるでコダーイを過去のものにしてしまうことを暗喩するようなジャケット写真にこのクァルテットに寄せられる期待の大きさと、NAXOSというレーベルの尽きない野心を感じてしまうのは私だけでしょうか。

ゴルトムント四重奏団は、ミュンヘンで学んでいた学生たちによって2009年に設立されたドイツのクァルテット。マドリードの室内楽国際研究所でアルバン・ベルク四重奏団のゲルハル卜・シュルツとギュンター・ピヒラーに師事。デビューはミュンヘンのプリンツレゲンテン劇場(Prinzregententheater)で、以来国際的な音楽祭などに出演を重ねて腕を磨いてきたとのこと。メンバーは下記の通り。

第1ヴァイオリン:フローリアン・シェッツ(Florian Schötz)
第2ヴァイオリン:ピンカス・アド(Pinchas Adt)
ヴィオラ:クリストフ・ヴァンドリー(Christoph Vandory)
チェロ:ラファエル・パラ卜ーレ(Raphael Paratore)

Goldmund Quartet

彼らのウェブサイトを見ると、これまでにリリースされたアルバムは今日取り上げるハイドンだけしか掲載されていませんので、もしかしたらこれがデビュー盤かもしれませんね。

いずれにせよ楽しみなアルバムに他なりませんね。

Hob.III:1 String Quartet Op.1 No.1 [B flat] (c.1757-59?)
音に芯を感じる現代楽器による堅実な響き。ハイドンらしいリズムの軽さもあり、正攻法の演奏です。何気に精度も高く、規律もあっていきなりハイドンらしい朗らかな良さがじわじわと伝わってきます。これは名演の予感。
初期のクァルテットは5楽章構成で2楽章、4楽章にメヌエットが挟まりますが、このメヌエットが実に心地よい演奏。短い楽章の中に流麗さ、規律、機知、ハーモニーの全てが感じられる実に深い演奏。ここでもハイドンらしい明るくユーモアのある規律が支配しています。
アダージョに入るとそれに精妙さが加わり、深い陰影の美しさが際立ちます。ヴァイオリンのフローリアン・シェッツの弱音から伸びやかに響きわたるメロディーの美しさはかなりのもの。アンサンブルも音色がそろって緊張感を保ちます。
後半のメヌエットもよく聴くと非常にニュアンス豊か。シンプルなメロディから非常に多彩な音楽を繰り出してきます。このメヌエットからこのクァルテットの力量がよくわかります。
フィナーレに入って、ヴァイオリンが牙をむいてきました。ただ軽やかにまとめてくるかと思いきや、ヴァイオリンが意外性のある踏み込みをみせて、只者ではないとさりげなく主張しているよう。最後にチラッと牙を剥くあたりのセンスも秀逸です。ハイドンの最初の弦楽四重奏曲を1曲目に持ってきながら、この曲でこれだけの表現を仕込んでくるあたり、大物ですね。非常に完成度の高い演奏です。

Hob.III:41 String Quartet Op.33 No.5 [G] (1781)
冒頭からハイドンの筆致の変化に驚きます。前曲に比べると驚くほど豊かな響き。この曲の配置は秀逸。この曲でも速めのテンポにってリズミカルかつ規律ある演奏。アクセントのつけ方もフレージングもわずかに個性的な変化をつけて新鮮さを感じさせます。曲の起伏を急な音量変化で印象付けながら、流麗さは保っているので流れの自然さと、ユニークさを両立させています。この表現力、創造力によって聴き慣れたこの曲が実にスリリングに響きます。
2楽章のラルゴ・カンタービレはヴァイオリンのくっきりと浮かび上がるメロディーを強調、冴え冴えとしたこの曲の魅力が際立ちます。あえてヴァイオリンだけにスポットライトを当てた割り切りが見事。
前曲でもメヌエットが絶品でしたが、この曲でも素晴らしい躍動感が味わえます。ハイドンのメヌエットの理想形。要所での崩しと、流れの維持のコントラストも見事。創意が冴えまくってます。
フィナーレは変奏。リズムと戯れるのが楽しくてしょうがないような演奏。天真爛漫とはこのことでしょう。ハイドンがこの曲に込めたニュアンスを見事に掘り起こして、我々に最上の形でとどけてくれたような演奏。絶品です。

Hob.III:81 String Quartet Op.77 No.1 [G] (1799)
最後は最晩年の曲。やはり速めの快活な入り。最初の数フレーズを聴いただけで、巧みなアクセントと豊かなデュナーミクに惹きつけられます。冴え渡るアイデア。聴き慣れた曲の垢がすっかり落ちてメロディーが実に新鮮に響き渡ります。ボウイングのキレが良いというのではなく、パート間のやりとりのスリリングさが尋常ではないレベルで火花が散っています。それでいて古典の規律は守っているところが素晴らしいところ。
アダージョもやはり精妙な入りですが、太めのチェロの音色がぐっと迫りながら波を作ってき、それに各パートが合わせていく感じ。途中すっと音量を落として静けさを感じさせるところの演出も巧み。音の硬軟を鮮やかに切り替えながら音楽を作っていきます。ふと気づくと、深い音楽の淵をのぞいているような気分にさせられます。ハイドンの晩年の心境を鮮やかに再現。
そしてゴルトムント得意のメヌエットはここでも神々しいほどの切れ味でリズミカルなメヌエットから、ただリズミカルなだけでなく古典期のハイドンが到達した極北の表現の深さを描き切ります。このメヌエットは絶品。千変万化、快刀乱麻、風味絶佳!
フィナーレはこのアルバムの終結にふさわしいキレと風格と規律が高次にバランスしたもの。曲が進むに連れて軽やかな音楽の深みにはまっていきます。最後はキレよく多彩な響きの織りなすクライマックスに至り、すっと終わります。いやいや見事。

NAXOSレーベルが放つ、新たなハイドンの弦楽四重奏曲の第一矢は、このレーベルがこれまで築きあげてきた、大手レーベルの存在を脅かすような品質、ブランドの底力を示す、素晴らしいプロダクションです。新たなシリーズに発展するかどうかの情報はありませんが、これは新たな金字塔になる予感も感じさせます。ゴルトムント四重奏団、素晴らしい才能の持ち主と見抜きました。ハイドンの演奏にこれほどふさわしいクァルテットをよくぞ掘り起こしたというのが正直な感想。これは是非シリーズ化してほしい。いや、シリーズ化しないと人類の損失です。もちろん、評価は全曲[+++++]とします。

少し前に記事にしたキアロスクーロ四重奏団といい、このゴルトムント四重奏団といい、新たな才能を感じさせる若手クァルテットが次々とハイドンに挑み、しかも素晴らしい演奏を聴かせてくれるということで、ハイドンの弦楽四重奏曲の演奏も新時代に突入したという印象を強くしました。このアルバムも是非、聴いてみてください。

Skunjpさん、こんなところで如何でしょうか!

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tag : 弦楽四重奏曲Op.1 弦楽四重奏曲Op.33 弦楽四重奏曲Op.77

コチアン四重奏団のOp.77、Op.103(ハイドン)

しばらくコンサートレポートにかまけており、レビューは久しぶりです。室内楽の秋ということで、これまで取り上げてこなかった奏者の演奏を選びました。

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コチアン四重奏団(Kocian Quartet)による、ハイドンの弦楽四重奏曲Op.77のNo.1、No.2、Op.103の3曲を収めたアルバム。収録は2000年6月21日から23日にかけてプラハの福音派教会(The Evangelic Church)でのセッション録音。レーベルはPRAgA Digitals。

コチアン四重奏団はチェコのクァルテット。1972年に設立され、1975年から名ヴァイオリニストのヤロスラフ・コチアンの名を冠してコチアン四重奏団と名乗っています。チェコの先達、スメタナ四重奏団のチェリスト、アントニン・コホウトに師事し、今やチェコを代表するクァルテットです。レパートリーはモーツァルト、ハイドン、ベートーヴェン、ブラームスなどの他、スメタナ、ドヴォルザーク、ヤナーチェク、マルティヌーなどのチェコの音楽も得意としており、またヒンデミットの弦楽四重奏曲全集の世界初録音などで知られているとのこと。このアルバム録音時のメンバーは下記の通り。

第1ヴァイオリン:パヴェル・ヒューラ(Pavel Hůla)
第2ヴァイオリン:ヤン・オトストルチル(Jan Odstrčil)
ヴィオラ:ズビニェク・パドーレク(Zbyněk Paďourek)
チェロ:ヴァーツラフ・ベルナシェク(Václav Bernášek)

チェコは弦楽器の名奏者の宝庫。ついこの間もパノハ四重奏団やの名演奏に触れたばかりです。コチアン四重奏団の演奏はこれまで手元になかったんですが、amazonを検索中に見かけて気になって手に入れたもの。このアルバムの他に、Op.74やOp.20のアルバムもリリースされているようで、気になる存在です。

Hob.III:81 String Quartet Op.77 No.1 [G] (1799)
いきなり鮮度の高いリズミカルなアンサンブルが展開します。教会の録音としては残響は少なめでいい雰囲気の中ダイレクトにクァルテットが定位する理想的なもの。演奏は響きを揃えるという拘りに囚われず、一人一人の音楽が揃いながらも自発性が感じられる実に玄人好みの演奏。第1ヴァイオリンのパヴェル・ヒューラの存在感もありながら一人一人の演奏の味わい深さが感じられて悪くありません。一貫してリズミカルでハイドンの書いた曲をキリリと引き締めながらさりげなくクァルテットの醍醐味を感じられる素晴らしい1楽章です。
続くアダージョは沈むのではなく晴朗かつ張りのある響きにハッとさせられます。響きは鮮明なのに燻し銀の味わいに満ちた響きはクァルテットの年輪を感じさせます。曲が進むにつれて徐々に弦の響きが柔らかく変化し、微妙に表情をコントロールしていることがわかります。知らぬ間にアダージョの深い呼吸の安らぎの音楽に引き込まれていました。
ハイドン晩年の澄み切った心境を表すような吹っ切れたメヌエット。この演奏で聴くとくっきりとしたメロディーに、ほのかに味わいのようなものが感じられる絶妙なバランス。これは若手には真似のできない至芸と言っていいでしょう。演奏そのものに年輪を感じさせる素晴らしいひととき。
フィナーレは予想に反してそっと入ってきました。各パートの音程が少し揺らぐ感じも味わいの範囲。それぞれのパートが音楽の勢いに乗りながらアンサンブルをまとめていきます。まさに円熟の境地のようなフィナーレ。曲の最後にたどり着いたクライマックスで牙を剥くような演奏もありますが、テクニックの誇示ではなく、逆に絡み合う音符の糸を少し荒くざっくりと編んでいくような温もりのある演奏。もう少しキレがあってもいいように感じる瞬間もありますが、逆にフィナーレの頂きの高さを感じさせる演奏でもあります。

Hob.III:82 String Quartet Op.77 No.2 [F] (1799)
この曲でも鮮明かつ推進力に溢れた入り。前曲同様、この晩年の曲の澄み切った心境を鮮明に映した演奏。あまりに鮮明な風情が心地よいほど。主題が展開し始めると活力溢れる各パートのせめぎ合いのごとき様相。微妙に音色が重なり渋めなのにうっすらと色彩が乗って明るさを保ちます。チェロの意外に図太い音色が印象的。それでも一貫した推進力に支えられてテンポよく進むのが心地よいですね。
2楽章のメヌエットも推進力抜群。ハイドンの演奏を楽しんでいるのでしょう、リズムは弾み、ボウイングは冴え、音楽が転がります。中間部でふと息を抜いて興奮を冷まし、再びリズムが弾むのを楽しみます。
ハイドンの最晩年の境地を表すようなアンダンテ。さっぱりとした演奏から情感が滲み出す素晴らしい楽章。コチアンの演奏はその理想的な表現と言っていいでしょう。どの演奏で聴いてもぐっとくるこの楽章、ことさら媚びずに淡々と演奏するほどに枯れた心情が滲む見事なものです。これまでの人生を振り返りながら、秋空の下を晴れやかな気持ちで散歩するような音楽。良い思い出を回想しながら景色や花に目をやり、遊ぶ子供の声の喧騒を楽しみ、空に目をやる、そんな気分にさせられます。冴え渡った演奏ではなく手作りの音楽のように演奏するコチアンのセンス。この絶妙なセンスこそがこのアルバムの聴きどころでしょう。幸せな音楽に感極まります。
そしてなんと見事なフィナーレの入り。人生の総決算に用意された舞台の幕が上がるようなフォーマルな雰囲気。そして、音楽は様々に展開して遊びまわります。前曲のフィナーレが少し安定感に欠けるような雰囲気があったのとは異なり、こちらは見事な完成度。というか完璧でしょう。艶やかかつ伸びやかなヴァイオリンの魅力と燻し銀のアンサンブル。素晴らしい演奏にノックアウト。

Hob.III:83 String Quartet Op.103 [d] (before 1803)
ご存知ハイドン絶筆の作品。これまでの演奏同様、さりげなさの中に味わいが満ちた演奏。パヴェル・ヒューラの媚びないヴァイオリンの魅力がこの曲でも深みをもたらしています。耳を澄ますと、これまでの曲以上にデュナーミクの変化の幅を大きくとって、音楽の自然な起伏を強調してきます。あっと言う間に2楽章となり、適度に劇的な音楽をさりげなくこなしていきます。過去の心の振れを回想しながらも、今だに揺れ動く心情を表すような、劇性と冷静さを行き来するような音楽がコチアンの演奏でぐさっと刺さりました。

チェコを代表するコチアン四重奏団によるハイドンの晩年のクァルテット集。知と情のバランスがとれ、テクニックを誇示することなく、オーソドックスながら実に味わい深い演奏でした。胸のすくような精緻な演奏もある中、純粋に演奏から音楽の面白さが滲みてくる玄人好みの演奏です。聴く人によっては最初の曲の4楽章のちょっと不安定な印象があるところを欠点とみなす方もあるかもしれませんが、色々クァルテットを聴いてきた私の耳には味わいというか、逆にハイドンの書いた音楽のすごさを感じさせるポイントとも取れるところ。私はこの演奏、気に入りました。評価は全曲[+++++]とします。

こりゃ、コチアンの未入手のアルバム、集めねばなりませんね!

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tag : 弦楽四重奏曲Op.77 弦楽四重奏曲Op.103

フランチスカス四重奏団の弦楽四重奏曲集(ハイドン)

私ごとで恐縮ですが、金曜日は朝からちょっと体調が優れず、会社に行ってみたものの、どうもだるい。朝から打ち合わせ続きでだんだん調子が悪くなり、しまいには体が火照ってきたので仕方なく夕方早退。家に帰って熱を測ってみると39度近く。そりゃだるいわけです。というわけで、金曜日は大学の先輩との実に久しぶりの飲み会が入っていたのですが、残念ながらキャンセル。もちろん家に帰っても音楽を聴くという体調ではなく食事をとってすぐに休みました。ちょっと思い当たる節もあり翌朝病院に行くと、やはり予想通り。4月に足の甲に怪我をした際の傷口からまたバイキンが入ったことが原因。もちろん傷は治っているのですが、時折痒くて掻いてしまうとかさぶたができるんですね。4月も草むしりの後でしたが、今回も先週末に草むしりで泥だらけになったのがいけなかったのでしょうか。幸い、熱も下がって、今日は父の月命日ちょっと遅れの墓参りなどに出かけましたが、まだちょっとだるさが残っております。まあ、前回同様抗生物質を飲めば快方に向かうでしょうとのことで一安心です。

ここは一発、いい音楽を聴いて元気を取り戻さねばと思っていますが、不思議とこういう時に試練が訪れるものです。

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フランチスカス四重奏団(Franciscus Quartet)によるハイドンの弦楽四重奏曲Op.54のNo.2、Op.77のNo.1、Op.103の3曲を収めたアルバム。収録は1998年7月2日から4日にかけて、オランダ、フェルメールの絵で有名なデルフトの復古カトリック教会(Oud Katholieke Kerk)でのセッション録音。

実はこのアルバム、いつも含蓄に富みまくったコメントをいただくSkunjpさんから送り込まれたもの。世評が高いとされるこのアルバムの真価は如何にとの何やら果し状めいた一文と共に送られて参りました。何となく道場破り、はたまた何でも鑑定団的雰囲気もなくはない中、いつも的確なコメントをいただき、当ブログの奥行きを深めていただいているSkunjpさんからの刺客に向き合わざるをえません。まずは奏者の情報をさらっておきます。

フランチスカス四重奏団は1993年にオランダで設立されたクァルテット。メンバーはオランダのオーケストラで働いていたつながりで集まったようです。デビューと同時に評判をとり、1997年にはコンセルトヘボウにデビューしたとのこと。その後バイエルン放送からの招聘でミュンヘンで演奏したり、1996年オランダのヒルヴェルスムで行われた音楽祭でオランダの放送局からハイドン、モーツァルト、ベートーヴェン、シューベルトなどのCDをリリースしたそうですが、現在市場に出回っているのはChallange Classicsからリリースされているアルバム1枚のみ。今日取り上げるアルバムも入手はなかなか難しいでしょう。

アルバムにメンバーの表記はありませんが、録音年代とネットの情報を見ると下記のメンバーでしょう。

第1ヴァイオリン:ダイアナ・モリス(Diana Morris)
第2ヴァイオリン:レイチェル・イッサーリス(Rachel Isserlis)
ヴィオラ:ギレス・フランシス(Giles Francis)
チェロ:セバスチャン・ファン・エック(Sebastiaan van Eck)

さあ、ここは襟をだだし、シャワーを浴びて身を清め、抗生物質を飲み体調を整え(笑)、いざレビューです。

Hob.III:57 String Quartet Op.54 No.2 [C] (1788)
冒頭から多目の残響と適度な距離感に心地よく響くクァルテットの響き。このアルバムのデジタルマスタリングの担当がヴァイオリンのダイアナ・モリスとチェロのセバスチャン・ファン・エックの名がクレジットされているので、メンバー自体がアルバムの録音にも深く関与しているようですね。この心地よさがハイドンのこの曲の楽天的な雰囲気にピタリときます。演奏は楽天的な雰囲気の中、のびのびとして、屈託のないもの。
この曲は2楽章のアダージョが聴きどころです。最近ではジュリアードの引き締まった演奏にリンゼイの素晴らしい覇気に満ちた演奏に触れたばかり。フランチスカスの演奏はまるでペルトの曲のような暗澹たる持続音に艶やかなヴァイオリンによるメロディーを絡ませたもの。あえてリズムと起伏を抑えて現代的な雰囲気を作っているのでしょうか。この曲のグイとえぐるような踏み込みを期待して聴くと肩透かしを食います。
続くメヌエットの軽やかな入りは見事。相変わらず響きの艶やかさに耳を奪われます。美しい響きと軽やかなリズムでさらりと聴かせるメヌエット。
何度聴いても驚きに満ちたこの曲のフィナーレ。フランチスカスの演奏はじっくりとメロディーをかみしめるように入ります。呼吸の深いメロディーの表現の美しさはかなりのもの。今まで、ちょっとが多目の残響がちょっと楽天的な雰囲気を残して、緊迫度が逆に下がって聴こえていましたが、ここにきてじっくりとしたアプローチに音楽に深みが出てきました。やはりこの終楽章の演奏に焦点を合わせて、あえてそれまでの楽章が泡沫のように響くことを狙っているような気もします。深く心をえぐるハイドンではなく、心地よく美しく響くハイドンのクァルテットといったところでしょうか。

Hob.III:81 String Quartet Op.77 No.1 [G] (1799)
この曲でも非常に美しい響きが印象的な入り。冒頭に刻まれるリズムは意外にしっかりと刻んで、しっかりとした足取り。ヴァイオリンのダイアナ・モリスのボウイングはちょっとクラシックの奏者とは異なり、ムード音楽のように音の中央部のたっぷりと膨らませて弾くのが特徴。それがちょっと楽天的な響きの印象に大きく影響しているよう。それに合わせるように他のパートも、パートの独立性よりも全体のハーモニーを重視して、弦楽四重奏と言うよりオーケストラぽい弾き方に聴こえます。なんとなくこのクァルテットの特徴が分かってきました。その結果、やはり非常に磨かれて美しい、輝くような1楽章になっています。
続く短調のアダージョでは輝かしさとの対比か、このクァルテットにしてはツヤを抑えてじっくりとメロディーを描いていきます。ここではヴィオラもチェロもよく楽器を鳴らしてパート間の緊張感を感じさせるクァルテットらしいところも見せます。
メヌエットはハイドンが晩年にたどり着いた澄み切った心境を感じさせる、屈託のない艶やかさが心地よいですね。このクァルテットの長所が活きた楽章。中間部はデュナーミクの幅が広くグッと踏み込んだ演奏。
そしてフィナーレの晴れやかなメロディーの輝かしさは予想どおり。ヴァイオリンの鮮やかなボウイングに他のパートも刺激されて鮮やかなメロディーが続きます。美音の饗宴。

Hob.III:83 String Quartet Op.103 [d] (before 1803)
ハイドンの作曲人生の最後に書いた曲。淡々とした入りから穏やかな演奏が続きいい具合に枯れた感じが滲みでてきます。これまでの美音尽くしてき表情から一変して、曲の描かれた背景を踏まえた演奏に変わります。特にすっとテンポを落とした以降はさらに枯れた表現が際立ちます。長い休符も印象的。我々がこの曲に抱くイメージの理想の姿のような演奏。ここではヴァイオリンは要所以外は輝きを抑えて、曲の緊張感を保ちます。
そして終楽章になってしまったメヌエットもグイとえぐるような入りからテンションを保ちながら影の部分の深い闇をきちんと描いてきます。音楽に漂う不安な印象と決意のようなものが浮かび上がる迫力の演奏。中間部の張り詰めた感じも悪くありません。そして本当に最後になってしまう冒頭のメロディーに戻るときの無心の鋭さがかえって心に響きます。このメロディーを書いて筆を置いたときのハイドンの心境を表しているような険しさ。これは名演ですね。

私自身はその存在は知っていたものの、Skunjpさんから送られてきて、はじめて聴いたアルバム。確かに磨き抜かれた美しい響きがこのアルバムの魅力であり、このフランチスカス四重奏団の魅力でもあります。おそらくこの響きの美しさと表情の豊かさの魅力が支持される理由かと思いますが、ハイドンのクァルテットにはさらなる深みもあります。途中に書いたように、特に前2曲については、若干響きの美しさに集中しすぎて、少々外面的な演奏に聴こえなくもありません。ハイドンの弦楽四重奏曲を美しくまとめ上げたという点では素晴らしい演奏ですが、聴き方によってはそこがちょっと気になるという人もいるかもしれませんね。最後のOp.103については、曲の真髄を突く名演奏と言っていいでしょう。評価はOp.103が[+++++]、前2曲が[++++]とします。

フランチスカス四重奏団の現役番にはハイドンの弦楽四重奏曲Op.2のNo.3などが含まれているようなので、こちらも手に入れて聴いてみなくてはなりませんね。

Skunjpさん、こんなところでお許しください!

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tag : 弦楽四重奏曲Op.54 弦楽四重奏曲Op.77 弦楽四重奏曲Op.103

タカーチ四重奏団のOp.77、Op.103(ハイドン)

今日はちょっと古めのアルバム。

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タカーチ四重奏団(Takács Quartet)の演奏による、ハイドンの弦楽四重奏曲Op.77のNo.1、No.2およびOp.103の3曲を収めたアルバム。収録は1989年6月、ロンドン近郊のクラウチ・エンド(Clouch End)にあるThe Church Studioという教会をスタジオに改装したところでのセッション録音。レーベルは往時のDECCA。

このアルバムは最近手にいれたもの。タカーチ四重奏団は近年hyperionに移籍してOp.71、Op.74などのアルバムをリリースしており、当ブログでも1度取り上げています。

2012/01/18 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : タカーチ四重奏団のOp.71(ハイドン)

移籍前ははDECCAの看板四重奏団という立場にあり、バルトークやベートーヴェンや弦楽四重奏曲が有名であり、ハイドンでもOp.76のアルバムをリリースしており、流麗快活な素晴らしい演奏でした。ただし今日取り上げるアルバムの存在は最近まで気づいていませんでした。

タカーチ四重奏団は、上の記事の略歴に記したように近年はメンバーが入れ替わって現在も活動していますが、今日取り上げるアルバムはOp.76同様、1975年の創設以来、栄華を誇ったDECCA時代の創設メンバーによるもの。

第1ヴァイオリン:ガボール・タカーチ=ナジ(Gábor Takács-Nagy)
第2ヴァイオリン:カーロイ・シュランツ(Károy Schranz)
ヴィオラ:ガボール・オーマイ(Gábor Ormai)
チェロ:アンドラーシュ・フェエール(András Fejér)

第2ヴァイオリンとチェロは創設以来現在も現役メンバーです。ヴィオラのガボール・オーマイは1995年に亡くなっています。第1ヴァイオリンのガボール・タカーチ=ナジは、1956年生まれのハンガリーのヴァイオリン奏者、指揮者。フランツ・リスト・アカデミーで学び、イェネー・フバイ賞に輝いています。1975年にタカーチ四重奏団を結成し、HungarotonやDECCAに多くの録音を残すことになりますが、1992年、腕の病気によりタカーチ四重奏団を離れざるをえなくなります。その後音楽療法などにより演奏に復帰し、タカーチ・ピアノ・トリオを結成したり、ブダペスト祝祭管弦楽団のコンサートマスターに就任。2005年以降は指揮者としても活躍しています。

ということで、全盛期の流麗な響きが聴かれるでしょうか。

Hob.III:81 String Quartet Op.77 No.1 [G] (1799)
比較的残響の多い録音ですが、鮮明さもあり、聴きやすい録音です。冒頭からテンポよく非常に流麗な演奏。4人とも絶妙な弓裁きで活き活きと音楽を運びます。流麗さに加えて躍動感に満ち、各パートがダイナミックに音量を変え、それでいてしっかりと一体感を感じさせる演奏。豪華絢爛流麗華麗な演奏と言えばいいでしょうか。ハイドンのイメージはもう少し素朴なものかもしれませんが、不思議と違和感はありません。
そのままの印象だったら少々表面的に感じたかもしれませんが、アダージョに入ると、ぐっとテンポを落として、深みを感じさせます。フェエールのチェロが実に深い音色ではっとさせられます。4本の楽器が織りなすしっとりと深い陰影が実に美しい。アンサンブルはすでに神々しいオーラを帯びていて、弦楽四重奏という構成でここまでの精緻さがだせるものと驚くような精度で曲を進めていきます。あまりの美しさに恍惚となります。
そしてメヌエットで勢いを取り戻しますが、活き活きとしたアンサンブルにさらに磨きがかかり、メロディーが踊るよう。これほど躍動感を感じさせるメヌエットは聴いたことがありません。中間部での磨き抜かれた厳しい表現も秀逸。ガボール・タカーチ=ナジの張り詰めた美音が耳に残ります。
そしてフィナーレは完璧なアンサンブルでまったく破綻せず畳み掛ける迫力が素晴らしいですね。速いパッセージのキレは痛快そのもの。テクニックを意識させないほど完成度が高く、ただただ唸るのみ。ガボール・タカーチ=ナジばかりでなく全員の弓裁きがキレまくってます。ハイドン最晩年の名曲の完璧な演奏! 1曲目から恐ろしいほどの完成度に圧倒されっぱなしです。

Hob.III:82 String Quartet Op.77 No.2 [F] (1799)
演奏の躍動感と精度は全く変わらず、この曲のリズムの面白さの表現に冒頭から引き込まれます。アクセントのつけ方が絶妙で、普段聴いている他の演奏で慣れた耳に新鮮な刺激が走ります。なんという面白さ。キリリと引き締め、すっと力を抜くかと思うと、ぐうっと力を入れるなど自由自在。緩急のコントロールの面白さも加わって、実に豊かな音楽となります。もちろん全員キレキレですが、聴かせどころはキレではなく音楽の表情のめくるめく多彩さ。それに各楽器の音色の違いが加わり、驚くほど刺激に満ちた演奏。前曲以上の完成度に完全に圧倒されます。
続くメヌエットはさらに面白い。ハイドンが書いた楽譜に、作曲者が思いつかなかった色彩を加えて、音楽の色彩の豊かさをさらに豊かなものにしています。リズムのキレとしっとりとした癒しの対比も見事。そしてさっと表情を変える切り替えの妙。
そしてハイドン最晩年の枯淡の境地がにじみ出るアンダンテ。それを踏まえて表情の変化を抑えて淡々と演奏しますが、徐々に豊かな表現力が顔をのぞかせ、なんとも言えない味わい深い音楽に変化していきます。チェロの渋い音色に寄り添うようにヴァイオリンが蝶のように飛び回ります。まさにハイドン最晩年の澄み切った心境を表すような純粋無垢な音楽。弦楽四重奏というジャンルを作ったハイドンが最後に到達した澄み切った世界。あまりに美しいチェロの音色にとろけそうです。最後にぐっと高まり、再び平安な音楽にもどるところの音楽を書いたハイドンの心境はどのようなものだったか、遠い昔に思いを馳せます。
郷愁を断ち切るようなグランドフィナーレ。完成した最後の弦楽四重奏曲の終楽章は、過去へのこだわりも何もない純粋に弦楽四重奏の充実した響きを聴かせる楽章。心なしか力を抜いてゆったりと演奏することで、明るいアンサンブルに寂しさのような影がほんのりと帯びています。翳りのある快活さと言えばいいでしょうか。最後も豊かな響きの中にどこか優しさのあるハーモニーで終わります。

Hob.III:83 String Quartet Op.103 [d] (before 1803)
そしてハイドン絶筆の作品。アンダンテは前曲の終楽章同様、意外にさっぱりとした表情のなかにほのかな詩情が漂います。テンポは速めですが、行書の筆使いのようにしなやかな音楽が流れます。最後になっても途切れぬ創意を感じさせる展開。はっとするような変化に、すっと静寂を聴かせたり、聴き手の予想を超える音楽が流れます。
そして最後のメヌエットも弦楽器4本が響きあってつくられる音楽としては実に意欲的な展開を聴かせます。タカーチ四重奏団はハイドンの創意に敬意を払うかのように、これまで多彩な響きを聴かせてきたのとは対照的に力の抜けた演奏で応じます。演奏者の心境もハイドン自身に近づいていこうとしているようです。これが絶筆とは思えないほどの筆致。この曲のつづきはハイドンの頭のなかにだけ響いていたのでしょうが、それを楽譜に記す力残っていなかったのでしょうね。

タカーチ四重奏団全盛期の演奏でハイドンの最後の3つのクァルテット。演奏の是非ということすら忘れさせる素晴らしいものでした。全曲とも豊かな音楽が流れ、奏者が魂て弾いているような素晴らしい演奏です。ハイドンの弦楽四重奏曲の演奏の頂点と言ってもいい素晴らしさ。特にこの最晩年の作品の澄み切った心情を実によく表していると思います。時代とともに演奏スタイルも変わっていきますが、この豊かさを超えるのは難しいでしょうね。心を揺さぶる1枚でした。評価は[+++++]とします。未聴の方は手に入るうちにどうぞ。

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tag : 弦楽四重奏曲Op.77 弦楽四重奏曲Op.103

アルカン四重奏団のOp.77、Op.103(ハイドン)

室内楽のアルバムが続きますね。

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アルカン四重奏団(Quatuor Alcan)の演奏で、ハイドンの弦楽四重奏曲Op.77のNo.1、No.2、Op.103の3曲を収めたアルバム。収録は1995年7月、カナダのケベック州ミラベル(Mirabel)にあるサン=トーギュスタン教会(Église Saint-Augustin)でのセッション録音。レーベルはカナダ、モントリオールののANALEKTA fleurs de lys。

このアルバム、ちょっと手に入りにくいものですが、例によっていつも素晴らしいアルバムを貸していただく湖国JHさんから送り込まれたもの。いろいろ集めているつもりですが、全く未知のアルバムはまだまだあるものですね。ということで、いつものように未知のアルバムを聴くときのワクワク感を抱きながらいろいろ調べます。

アルカン四重奏団は1989年に設立されたカナダのクァルテット。カナダではオーフォード四重奏団以来の世界に通用するクァルテットとして知られ、本拠地はケベック州のケベックシティーの北方の街シクティーミー(Chicoutimi)。アルミ製造で知られる同名のアルカン社からの助成金を得て活動しているとのこと。最近ではベートーヴェンの弦楽四重奏曲全集を録音しており、カナダでは有名な存在ということでしょう。このアルバムの録音当時のメンバーは下記の通り。

第1ヴァイオリン:ブレット・モルツァン(Brett Molzan)
第2ヴァイオリン:ナタリー・カミュ(Nathalie Camus)
ヴィオラ:リュク・ベアシュマン(Luc Beauchemin)
チェロ:デイヴィッド・エリス(David Ellis)

第1ヴァイオリンが現在とは異なりますね。

このアルバムの演奏、ちょっと線が細いのですが、ヴァイオリンの美しい音色を聴いているうちに、昔、オーディオショップで羨望の眼差しで聴いたSpendorの銘スピーカーBC-IIが奏でる弦楽四重奏の高貴で繊細な高音の響きを思い出してちょっと感慨深くなったので取り上げた次第。精緻の限りを尽くした演奏もいいですし、まったりと味わい深い演奏もしかり、そしてこのアルバムのように独特の美しさをにじませる演奏もいいものです。ハイドンの最晩年のクァルテットが実に趣深く響きました。

Hob.III:81 String Quartet Op.77 No.1 [G] (1799)
冒頭からしなやかな第1ヴァイオリンの音色にうっとり。強さは感じないんですが、弦を伸びやかに鳴らす弓裁きが独特の美しさを醸し出しています。教会での録音らしく残響の脚が長い。アンサンブルは厚みよりもしなやかな旋律の表現重視で、なかなかの味わい。終始第1ヴァイオリンがクッキリとした表情をリードして、他のパートはそれを補う役に徹する感じ。気負いも力みもなく、淡々と曲を進めるのは私好み。1楽章は緊張感の適度な感じが心地よい余韻を残します。
つづくアダージョではヴァイオリンの美しさに磨きがかかって、淡々としながらも張り詰めた音色の魅力を等身大に表現。このちょうどいい感じがこのクァルテットの真骨頂でしょうか。必要十分な踏み込みが、ハイドンにちょうどいい感じと言ったらいいでしょうか。徐々に表現の起伏が大きくなってきても安心して聞いていられる安定感と美しいガラス細工のような透明感を保っています。これは録音のバランスがヴァイオリンが一番鮮明で全体に若干高域寄りなこともあってのことでしょう。
ここまで楽章間のバランスも非常によく、テンポ設定も非常に自然。意外にこのあたりはクァルテットの実力が垣間見えるところでもあり、ハイドンの演奏としては隙のないところ。メロディーの描きかたも堂に入ってます。
そしてフィナーレも手堅くまとめてきます。非常にオーソドックスな演奏ながら、上手いなと思わせる瞬間が多々あります。この安定感は見事。一貫した演奏スタイルが堅固に守られています。ハイドンの弦楽四重奏曲の演奏としてはかっちり完璧。箱庭的な美しさもあり、古典期の弦楽四重奏曲の演奏見本のようですね。気に入りました。

Hob.III:82 String Quartet Op.77 No.2 [F] (1799)
晩年の作品だという印象を感じさせず、前曲同様カッチリとしたアンサンブルから入ります。逆にハツラツとした印象を感じなくもありません。安定したテンポ感にクッキリとした表情、そしてバランスの良いアンサンブルが非常に心地よいですね。線は細いものの各パート間のメロディーの受け渡しも鮮やか。アンサンブルの音楽の一貫性に唸ります。
続くリズミカルなメヌエットはこのクァルテットの魅力が最もよく分かる楽章。コミカルな表現とメロディーの切り替え、間の取り方、クッキリとした抑揚によって、曲が小気味好く進みます。中間部の穏やかなメロディーへの変化もさらりとこなし、再びリズミカルな音楽に戻りますが、こうした変化をさらりとこなすあたりに円熟を感じます。
そして、枯れた世界に一転するアンダンテ。このクァルテットにとってハイドンは基本なのでしょう、どの楽章でも抜群の説得力。解釈を変更する必要は微塵もなく、聴き進むうちにこの演奏の説得力の大きさに気づいてきました。じわりとにじみ出る味わい。そして決して情に流されない展開。展開するうちにチェロの音色の美しさにもぐっときます。最後の静けさにもはっとします。
最後のヴィヴァーチェは鮮やかさを取り戻し、音楽がクルクルまわるような面白さを印象づけます。円熟の筆致。適度にキレているのに味わい深い演奏。これまた隙のない演奏に唸ります。

Hob.III:83 String Quartet Op.103 [d] (before 1803)
ハイドン最後のクァルテット。あえて速めのテンポによるさらりとした入りがなんとなく感慨深い印象を残します。この曲のツボをおさえて淡々と進め、最晩年のハイドンの澄み切った心境を表すがごとき達観の演奏。聴き進めるうちにこの演奏の魅力に引き込まれます。もうひとつ楽章を書いたところで作曲の筆を置く心境となったことが信じられないほどに充実した音楽が響きます。ハイドンの心境が乗り移ったかのように演奏に集中力が増します。
絶筆の2楽章にはこのアルバムでもっとも力が入った演奏。ここにクライマックスをもってきていましたか。奏者の気高い心意気がつたわってくるような、バランスを崩さない緊張感。テンポもアンサンブルのバランスもボウイングも適度な範囲を保ちながら、ひしひしとつたわる気合ののようなもの。限られた演奏者にしか到達できない音楽の高みに昇りつめたような気配が漂います。最後のフレーズは作曲家人生の終わりなのに実にさりげなく、楽章の終わりも感じさせないもの。深いですね。

最初に聞いた時には特段踏み込んだ個性を感じるほどの演奏ではありませんでしたが、何度か間をおいてアルバムに耳を通すうちにこのアルバムの演奏の深さにようやく気付いた次第。弦楽器のアンサンブルの音色の多様さ、たった4本の楽器の奏でる音楽の多様さにいつもながら驚きます。そしてハイドンが到達した音楽の高み。特殊な高みではなくわれわれの身近なところにある、手が届きそうな高みなんですが、聴いていくうちに、常人にはつくりえないその高みに畏敬の念を禁じえないものとわかります。アルカン四重奏団の演奏はオーソドックスなアプローチながらそうしたハイドンの高みを実にうまく表現していると思います。室内楽好きな人にはこの良さが沁みるはずですね。評価は[+++++]とします。

湖国JHさん、そろそろ次の指令をお願いします!

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tag : 弦楽四重奏曲Op.77 弦楽四重奏曲Op.103

トーケ・ルン・クリスチャンセンのフルート三重奏曲(ハイドン)

連日仕事が遅く、ちょっと間が空いてしまいました。週末になってようやくゆっくり音楽を聴くことができるようになりました。最近入手したものから、のんびり室内楽を楽しみたいということでセレクトしたアルバム。

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トーケ・ルン・クリスチャンセン(Toke Lund Christiansen)のフルート、エリザベト・ウェステンホルツ(Elisabeth Westenholz)のピアノ、アスガー・ルン・クリスチャンセン(Toke Lund Christiansen)のチェロによる、ハイドンのフルート三重奏曲3曲(Hob.XV:15、XV:16、XV:17)と弦楽四重奏曲Op.77のNo.1をフルート三重奏曲に編曲したものの合わせて4曲を収めたアルバム。収録は1991年1月、録音場所は記載されていません。レーベルはデンマークのKontra Punkt。

フルートによるピアノ三重奏曲の演奏を収めたアルバム。ハイドンの緊密な構成を楽しめるピアノ三重奏曲のメロディーを美しい音色のフルートで楽しもうということでしょう。ハイドンのフルート三重奏曲はもともとピアノ三重奏曲として作曲されたものを、当時フルートの演奏が貴族の間で流行ったことからフルート三重奏曲に編曲されたもの。これらの曲のフルート三重奏による演奏は、これまで2度取り上げています。

2012/05/27 : ハイドン–室内楽曲 : ディター・フルーリーによるフルート三重奏曲
2011/06/18 : ハイドン–室内楽曲 : 絶品、ラフラム、シェーンヴィーゼ=グシュルバウアー、フラーのピアノ三重奏曲

この3曲はヴァイオリンの演奏よりもフルートでの演奏の方が多いくらいですので、フルートによる演奏はかなり一般的なんでしょう。そもそも1790年ロンドンのブラントから作品59として出版される際、ヴァイオリンのかわりにフルートが指定されていたことからも、フルートでの演奏は作曲当時から行われていたものと思われます。

また、最後に置かれた弦楽四重奏曲の編曲もこれまでに2度取り上げています。

2014/09/15 : ハイドン–室内楽曲 : ジュリエット・ユレル/エレーヌ・クヴェールによるフルートソナタ集(ハイドン)
2011/04/20 : ハイドン–室内楽曲 : 佐藤和美とバティックのフルートソナタ

この曲は今日取り上げるアルバムには記載がありませんが、おそらく佐藤和美盤同様、弦楽四重奏曲Op.77のNo.1をA. メラーという人がメヌエットを省いて編曲したものと思われます。

さて、演奏者のトーケ・ルン・クリスチャンセンは1947年生まれのデンマークのフルート奏者。デンマーク放送交響のフルート奏者とのこと。チェロのアスガー・ルン・クリスチャンセンはトーケの父。ピアノのエリザベト・ウェステンホルツはデンマークのピアニストで、デンマークで学んだのちアルフレート・ブレンデルに師事した人。BISからベートーヴェンのピアノ協奏曲全集をリリースしているということでもそれなりの人であろうと想像されます。

このアルバムをCDプレイヤーにかけると、少し遠目に適度な残響をともない3人の奏者の響きが広がるなかなかいい録音。音量を上げると、鮮明度はほどほどですが室内楽を楽しむツボを心得た録音。演奏も派手さはないのですが、キリリと引き締まったテンポ感の良いもの。なぜかトラックが楽章毎に切られず、曲ごとになっていますので、楽章を繰り返し聴けません。こうゆうアルバムでは珍しい仕様ですね。

Hob.XV:15 / Piano Trio (Nr.29/op.59-2) [G] (before 1790)
キビキビとしたピアノにテンポの良いフルートが乗り、チェロはすこし抑え気味なバランス。特にピアノの切れ味がよく演奏自体にかなりの活気があります。演奏自体はオーソッドックスなものですが、鮮度が良いので実にイキイキとしています。私の好きなタイプの演奏。特に個性的なアプローチではないのですが、凡庸な印象がないのは3人の演奏が冴えているから。弦楽器だけの演奏ではこれだけの快活さは得られませんので、まさにピアノが加わった効果が大きいでしょう。ピアノのキラめく感じとフルートの華やかさが見事に活かされています。
素晴らしいのは2楽章のアンダンテ。抑えた表現からにじみ出る美しさ。ウェステンホルツのピアノのさりげない表現がたまりません。トーケのフルートは爽やかな音色が特徴でしょうか。高音のさらりとした感触と控えめなヴィブラートがアンサンブルに合ってます。アスガーのチェロは柔らかく包み込むような音色。3人ともリズム感が非常に良いのでアンサンブルがキレているわけです。
フィナーレに入っても演奏スタイルは一貫していて、楽章間のコントラストよりも一貫性を重んじているよう。肩の力が抜けているので、安心して音楽に身をまかせることができます。1曲目から素晴らしい演奏にうっとり。

Hob.XV:16 / Piano Trio (Nr.28/op.59-1) [D] (before 1790)
キビキビとした演奏スタイルは変わらず、ピアノのキラメキとフルートの華やかさも十分。演奏の安定感は素晴らしいものがあります。強奏部分の力感に対して、テンポと音量を落とすところをしっかり落とすので曲の立体感が際立ちます。この曲の華やかさをうまく捉えた演奏。
短調に変わる2楽章も、あえて淡々と刻み、媚びない演奏姿勢からにじみ出る深みを堪能できます。微妙に表情が変化していくところのデリケートさは素晴らしいものがあります。このあたりの表情付けのコントロールは巧み。淡々とした演奏の中にも非常にデリケートな変化があり、それが音楽を豊かにしています。
フィナーレはウェステンホルツの右手の音階がキレてます。トーケのフルートもそれに劣らずキレよくメロディーを乗せていきます。よく聴くとアスガーのチェロも実にテンポがよく、最後になかなかの存在感を感じさせます。やはりアンサンブルは3人のテクニックに裏付けられていることがわかります。痛快なフィナーレ。

Hob.XV:17 / Piano Trio (Nr.30/op.59-3) [F] (before 1790)
このアルバム、曲ごとの演奏のムラは皆無。3曲目も完璧な入り。聴いているうちに音楽の面白さに飲み込まれてレビューするのを忘れてしまいそう。もはやただただ3人の素晴らしい演奏に打たれるように聴き入ります。この曲に仕組まれたピアノの創意も見事にウェステンホルツが応えます。一貫したテクニックで、一貫した演奏。そして時折り見せる変化。こうした流れの面白さこそハイドンの真髄だと訴えているよう。ウェステンホルツ、かなりのキレものですね。
この曲は2楽章構成。楽章毎に変化するハイドンの素晴らしい創意に釘付け。フルートとピアノ、チェロによる楽興に酔います。

Hob.III:81 / String Quartet Op.77 No.1 [G] (1799)
この曲はもちろん、弦楽四重奏曲の響きが頭に残っているので、フルートとピアノの加わった響きに最初はすこし違和感があります。同じメロディーをヴァイオリンではなくフルートで演奏されると、やはり華やかさと弦とは違う響きに包まれる感じが独特。しばらく聴くうちに慣れてきますが、やはりハイドンの曲はオリジナルな編成で弾いてこそという感も残りますね。奏者の頭にもその印象が残っているのか、前3曲に比べると切れ味が劣り、むしろ弦楽器での演奏のようにゆったりとした感じに演奏しているように聴こえます。演奏自体の精度が落ちたわけではありませんので、これは編曲の出来、もしくは表現する側の腑に落ち度合いのような気がします。

デンマークの腕利き奏者3人によるハイドンのフルート三重奏曲と弦楽四重奏曲のフルート三重奏への編曲を収めたこのアルバム、演奏は素晴らしいものでした。有名どころではありませんが、このようなアルバムを聴かされてしまうと、ヨーロッパの演奏家の層の厚さを痛感させられますね。ここで聴かれるフルートもピアノもチェロも、そして3人のアンサンブルも第1級のもの。演奏者の控えめながら、透徹した表現を通してハイドンの音楽の素晴しさを感じられる名演奏と言っていいでしょう。評価はフルート三重奏曲3曲は[+++++]、最後の1曲は[++++]とします。最後の曲はこのアルバムの中ではオマケといっていいでしょうから、このアルバムの価値を下げるものではありません。ハイドンの室内楽好きな方、必聴です。

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tag : フルート三重奏曲 弦楽四重奏曲Op.77

マッジーニ四重奏団のOp.77、Op.103(ハイドン)

マイナー盤を巡る旅は続きます。こちらも湖国JHさんから送り込まれたアルバム。

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マッジーニ四重奏団(The Maggini Quartet)の演奏で、ハイドンの弦楽四重奏曲Op.77のNo.1、No.2、Op.103の3曲を収めたアルバム。収録はPマークが1996年とだけ記載されています。レーベルははじめて見る英CLAUDIO RECORDS。

なにやら妖気漂うジャケットが気になります。ライナーノーツによれば、これはロンドンのテイト・ギャラリー蔵のサー・ジョシュア・レイノルズの1787年作の天使の頭部という絵とのこと。

マッジーニ四重奏団は、1988年に結成されたイギリスのクァルテット。クァルテットの名前は16世紀のイタリアのヴァイオリン製作者、ジョヴァンニ・パオロ・マッジーニに由来するそうです。イギリス音楽を得意としているようで、NAXOSからかなりの枚数のアルバムがリリースされています。ハイドンのアルバムは1996年の録音ということで、比較的早い時期の録音ということになります。調べてみると、このアルバムの他にハイドンのOP.33から3曲を録音しているようで、そのアルバムが彼らのディスコグラフィで一番古い録音のようです。これらのハイドンのアルバムの収録後、イギリス音楽の録音を重ねたという流れのようで、このアルバムの演奏は彼らの原点たる演奏といってもいいかもしれません。

このアルバム演奏当時のメンバーは下記のとおり。

第1ヴァイオリン:ローレンス・ジャクソン(Laurence Jackson)
第2ヴァイオリン:デイヴィッド・エンジェル(David Angel)
ヴィオラ:マーティン・ウートラム(Martin Outram)
チェロ:ミハウ・カズノフスキ(Michal Kaznowski)

ウェブサイトがみつかりましたので紹介しておきましょう。第1ヴァイオリンはすでに変わっていますね。

Maggini Quartet

さて、ちょっと不思議なジャケットが気になるマッジーニ四重奏団のハイドンの弦楽四重奏曲集。しかも最晩年に作曲された3曲ということで、出来はいかなるものでしょうか。

Hob.III:81 / String Quartet Op.77 No.1 [G] (1799)
快活な出だし。アンサンブルは適度に粗いものの音楽に一体感があり、悪くありません。録音はヴァイオリンの響きをうまく捉えて、多少デッド気味ながら木質系の弦の音色が美しいもの。ローレンス・ジャクソンのヴァイオリンはちょっと震えるような音色で、流麗とはいきませんが、不思議と印象に残る味のあるヴァイオリン。4人が対等に鬩ぎ合うアンサンブル。4人ともキレがいいので、アンサンブルは非常に緊密。音色の上ではチェロもかなりいい味出してます。味のある音色の演奏ですが、聴き所はタイトに攻め込むところ。まさに手に汗握るもの。意外にダイナミックレンジの広い演奏。
アダージョでは4人の呼吸をピタリと合わせながら、かなりメリハリをつけます。深淵とか、枯淡という言葉は似合わず、斧で手荒く彫り込んだ木彫のような風情。険しいわけでもなく、木肌のぬくもりも感じられる独特の表情。独特ながら音楽は確信に満ちて淀みなく、潔く流れていきます。クァルテットの演奏スタイルが鮮明なのは流石なところ。
メヌエットはキリリと鋭くグイグイ力強い音楽がが心地よい演奏。フレーズ毎のコントラストもかなり鮮明。演奏によってはくどく感じるリスクもありますが、潔さが勝っていい感じ。フィナーレも同様、タイトに攻め込みつづけてハイドンのフィナーレの複雑に絡み合うメロディーを解剖図を見るようなクッキリさで描いていきます。時折音程がふらつくところもありますが、それもいい意味で臨場感として聴かせてしまいます。1曲目から踏み込んだテンションの高い演奏。

Hob.III:82 / String Quartet Op.77 No.2 [F] (1799)
録音セッションが違うのか、音色に若干燻らしたような風味が加わります。すこし中域の柔らか味が加わり自然な響きになります。前曲のクッキリ明快な演奏スタイルに近いのですが、すこし余裕を感じるのが不思議なところ。やはり4人のアンサンブルはピタリと息が合って、音色に粗さはあるものの精度は見事です。聴き進めると前曲以上に曲の構成感にこだわり、テンポの変化とコントラストをはっきりとつけてきます。1楽章の最後はかなりテンポを落としてメリハリをつけます。
つづくメヌエットではチェロの素朴な音色がいい効果をあげています。鋭いヴァイオリンに対してチェロが柔らかくサポートしてタイトになりすぎないようにしています。
アンダンテに入ると雰囲気をガラリと変え、木質系の弦楽器の素朴な音色を楽しめと言っているような朴訥な演奏。変奏が加わり響きにタイトさが垣間見えるようになる部分もありますが、基本的にチェロの柔らかな音色に支配された幸せな音楽が流れ、ようやく終盤にクッキリとした響きが帰ってきます。
フィナーレはさざめくような気配をうまく表現しながら、クッキリとメロディーラインを描き、晴れ晴れとした表情が心地よい音楽をつくっていきます。ヴァイオリンはこの曲で一番の流麗さ。もともとテンションの高い表現でしたが、堂々とした風格が加わり曲が締まります。音色や演奏スタイルの変化を楽しめる玄人好みの演奏といっていいでしょう。

Hob.III:83 / String Quartet Op.103 [d] (before 1803)
ハイドン最後のクァルテットは気負いなくさらりサラサラした入り。リズムも練ることはなく、あっさりとした表情。必然的に4人の織りなす響きの綾に耳が集中します。適度に粗い音色がアンサンブルの面白さを際立たせているよう。中盤から持ち味であるクリアなテンションで音楽を膨らませてゆき、欲はないのに振幅の大きい音楽を作っていきます。適度に悟ったような晩年のハイドンの心境を感じさせながらも、音量を極端に抑えたところをもうけてクッキリコントラストをつけて曲の深みを表現しています。
最後のメヌエットは絶筆の楽章ですが、ハイドンに残された創意のエネルギーが消えゆくような絶妙な心情を感じさせる演奏。覇気に満ちた響きと、回想するような過去への憧憬、そして印象的な間をちりばめます。オルガンを思わせる重厚な響き、クリアなヴァイオリンの響き、絶妙なスロットルコントロールなどを織り交ぜ、複雑ながら深く心に残る音楽に仕立ててきました。表現意欲の塊のような演奏ですが、不思議にくどくなく、素直に聴くことができました。

イギリスの作曲家の演奏では知られたクァルテットだと想像されますが、ハイドンの弦楽四重奏曲の演奏は知る人ぞ知る、つまり知らない人は知らない存在であるマッジーニ四重奏団の奏でるハイドンの最後の3つのクァルテット。聴き込んでみると、実に深い音楽が流れます。洗練された演奏でも、流麗でも、精緻でもありませんが、かっちりと存在感のある響きを基調とした、表現意欲に富んだ演奏でした。これはいろいろな演奏を聴きこんだ、クァルテット好きの玄人向けの演奏でしょう。私は非常に気に入りました。彼らの音楽に対する真剣な姿勢が心を打つ演奏です。評価はやはり[+++++]を進呈すべきでしょう。

手元にないOp.33のアルバム、発注しました。到着が楽しみです。

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tag : 弦楽四重奏曲Op.77 弦楽四重奏曲Op.103

プラハ・ヴラフ四重奏団の弦楽四重奏曲集(ハイドン)

今日は弦楽四重奏曲。

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プラハ・ヴラフ四重奏団(Blach Quartet Prague)の演奏で、ハイドンの弦楽四重奏曲Op.20のNo.4、Op.33の3「鳥」、Op,77のNo.1の3曲を収めたアルバム。収録は2000年4月10日から12日、17日、チェコのプラハにあるスタジオ・アルコ・ディーヴァ(studio ARCO DIVA)でのセッション録音。レーベルはチェコ、プラハのWALDMANNというところ。

このアルバム、例によって湖国JHさんから送り込まれた3月の課題曲。いつも当方の所有盤にない名盤をさりげなく送り込まれますので、油断なりません(笑)。このアルバムも調べてみると、簡単には手に入りそうもないレアもの。いままでいろいろなアルバムを貸して頂いていますが、どれも流石ハイドンに詳しいだけあると唸るばかりの名盤揃い。今回もアルバムをプレイヤーにかける前には、佐々木小次郎を前にした宮本武蔵のような張りつめた空気が漂います。いや、もしかしたら、宮本武蔵を前にした佐々木小次郎の心境かもしれません(笑)

プラハ・ヴラフ四重奏団は、1982年、第1ヴァイオリンのヤナ・ヴラコーヴァが設立した四重奏団。

第1ヴァイオリン:ヤナ・ヴラコーヴァ(Jana Vlachová)
第2ヴァイオリン:カレル・スタッドゼール(Karel Stadtherr)
ヴィオラ:ペトル・ヴァマー(Petr Verner)
チェロ:ミカエル・エリクソン(Mikael Ericsson)

このクァルテットの前身は、ヤナ・ヴラコーヴァの父、ヨゼフ・ヴラフが第1ヴァイオリンを務めたチェコでは有名なヴラフ四重奏団。時代が変わって、メンバーも変わったため、クァルテット名に新たにプラハをつけて新設されたということでしょう。設立の翌年1983年にはチェコの国際弦楽四重奏コンクールで、チェコ現代音楽演奏賞に輝き、1985年には英ポーツマスで開催された国際弦楽四重奏コンクールで欧州1位となるなどの受賞歴があります。その後スイスでメロス四重奏団のマスターコースに参加しています。ヨーロッパ、アメリカ、日本などでもコンサートを開き、1997年には岐阜のサラマンカホールのレジデンス四重奏団となっているとのこと。日本にもゆかりがあるのですね。また、録音はNAXOSからドヴォルザークの弦楽四重奏曲全集15枚がリリースされているなど、なかなかの実力派でもあります。

Hob.III:34 / String Quartet Op.20 No.4 [D] (1772)
ざわめきのようなそわそわした感じの入り。録音のせいか少し饐えたような音色の印象がありますが、すぐに第1ヴァイオリンのヴラコーヴァのキレのよいボウイングに耳を奪われます。テンポは中庸ですが、フレーズの息が短く、テンポ感の良い演奏。きっちり音色を合わせていく演奏ではなく、適度に粗さを持ちながら、アンサンブルが凝縮していく感じ。一人一人のボウイングのキレの良さが時折重なり、時折離れていくような自在さがあります。音量を上げていくと実演の印象と重なってきて、スピーカーの前に4人が並んで弾いているようなリアリティ。
2楽章に入ると、絞り出すように情感を感じさせる演奏。もうすこし伸びやかな演奏で情感を滲ませていく方が好みではありますが、この独特の絞り出すような感じがこのクァルテットの特徴でもあります。半ばよりプレゼンスが上がるミカエル・エリクソンのチェロのフレージングがおおらか。線がほそいのですが、鋭さをもったヴァイオリンとチェロの対比が緊張感をもたらします。
メヌエットでもチェロの素朴なフレージングとヴァイオリンが拮抗。そしてフィナーレはヴァイオリンのキレで一気に聴かせます。音階のキレをことさらクッキリ描いていくことで、曲がカッチリと明解になります。テンポは少し足速で前のめりな印象。もしかしたら、もう少し落ち着きと柔らかさがあった方が曲の深みが出るかもしれませんね。

Hob.III:39 / String Quartet Op.33 No.3 "Vogelquartett" 「鳥」 [C] (1781)
ご存知有名曲の「鳥」。少し短めの呼吸はこれまでのまま。すこしごつい感じがしますが、この曲では気にならず、もともとのテンポ良く進める感じが曲にはあってます。インテンポで畳み掛けながら曲を進めますが、やはり第1ヴァイオリンのヴラコーヴァのはち切れんばかりのボウイングがかなりのインパクト。ハイテンションとはこのことでしょう。穏やかな表情と軽さを表現する演奏が多いロシア四重奏曲の演奏のなかにあっては、ハードな部類に入るでしょうか。素晴しい凝縮感ではありますが、曲の位置づけからするとちょっと力みを感じなくもありません。
続くスケルツォはなでるようなじっくりした演奏を両端に置き、中間部は軽さを聴かせる曲ではありますが、サクサク感が聴き所。
そしてアダージョ。アダージョまでテンポとテンションを落としきっていない印象もあります。フレーズ毎にメリハリをつけているようですが、やはり第1ヴァイオリンのコントロールで聴かせきってしまう勢いがあります。
そしてフィナーレではヴラコーヴァのヴァイオリンがエッジが立ったようにキリリとフレーズを奏でていきます。一貫してハイテンションで終えます。まさに鳥のさえずりのよう。

Hob.III:81 / String Quartet Op.77 No.1 [G] (1799)
これまでのテンションとはちょっと異なり、ゆったりとしたリズムで入るので、ちょっと安心できます。表現がテンションのみではなく、曲が成熟した分、音楽の流れの良さにも廻って、音楽に少し余裕ができてきます。徐々に力感を増しながら1楽章のクライマックスへ。代わる代わる登場する楽器がプレゼンス良くメロディーを受け継ぎ、一つの音楽にまとめあげていきます。
アダージョは音楽の流れのしなやかさを保ちながら、ヴァイオリンの高音部が今まで一番力の抜けた演奏を披露。相変わらずチェロは生真面目に伴奏に徹する姿勢。やはり力が抜けているのが音楽にはプラスでしょう。弦楽器の音の重なる部分にアンサンブルの面白さが宿ります。
そして、これまでのメヌエットでは最も力の乗ったメヌエット。奏者のエネルギーが集中します。最後の力を振り絞っているのか、中間部でも弦が峙つ感じが素晴しい効果を挙げています。
フィナーレは予想通りヴラコーヴァの鮮やかなキレのよい弓さばきが聴き所。他の3人も髪を振り乱して追随しているよう。アルバムのフィナーレに相応しい盛り上がり。ハイドン最晩年の作品のテンションを浮き彫りにした形。武闘派の演奏でしょう。

プラハ・ヴラフ四重奏団によるハイドンの弦楽四重奏曲集。各時代の名曲から3曲選んでアルバムにしたというところでしょう。基本的に攻めのハイドン。カミソリのようなキレ味で第1ヴァイオリンのヴラコーヴァがメロディーを描き、3人がそれをサポートするという構図。録音のせいか、鋭利な音色が耳に刺さるような鮮明さで迫ってきます。時代をまたいだ3曲ながら演奏の姿勢は一貫していて、あえて言えば最後のOp.77の前半はすこしゆったりしてテンションを緩めますが、聴いているうちに攻めの姿勢に戻ります。これはこれで非常に刺激的なハイドンです。評価は一般のハイドンファンへのオススメ度合いを勘案して、3曲とも[++++]とします。これはハイドンマニアの方向けの、知的刺激に満ちた演奏です。ハイドンの弦楽四重奏曲の魅力をこれから知ろうという人にとっては刺激過多です(笑)

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tag : 弦楽四重奏曲Op.20 弦楽四重奏曲Op.33 弦楽四重奏曲Op.77

アレア・アンサンブルの弦楽四重奏曲Op.77、42

今日は古楽器による弦楽四重奏。またまた湖国JHさんにお借りしているアルバムです。

AleaEnsemble.jpg
HMV ONLINEicon / amazon / TOWER RECORDS

アレア・アンサンブル(Alea Ensemble)の演奏による、ハイドンの弦楽四重奏曲Op.77のNo.1、No.2、Op.42の3曲を収めたアルバム。収録はハイドンのアニヴァーサリーイヤーである2009年5月26日から28日にかけて、イタリアミラノの東にあるクレマ(Crema)という街のピエトロ・パスクイーニ・スタジオでのセッション録音。レーベルは懐かしい伊stradivarius。

stradivariusは昔クララ・ハスキルのライヴをいろいろ買い集めました。ライヴ中心のレーベルで今はもうないのかと思っていたら、どっこい生き残ってました。あんまり懐かしくてハスキルのモーツァルトのアルバムを取り出して聴いてみたところ、夢見るような素晴しさ。こちらは別の機会に取りあげることにして、本題に戻りましょう。

アレア・アンサンブルは2002年に結成された弦楽四重奏団。古典派、ロマン派の室内楽曲を古楽器で演奏すること、同時期のあまり知られていない曲を再発見することをなどを趣旨としているよう。メンバーはイタリアで有名な古楽器オケである、エウロパ・ガランテ、アカデミア・ビザンチナのメンバーということです。

AleaEnsemble

第1ヴァイオリン:フィオレンツァ・デ・ドナティス(Fiorenza de Donatis)
第2ヴァイオリン:アンドレア・ロニョーニ(Andrea Rognoni)
ヴィオラ:ステファノ・マルコッキ(Stefano Marcocchi)
チェロ:マルコ・フレッツァート(Marco Frezzato)

イタリアの古楽器奏者によるハイドン、それも晩年の傑作の仕上がりは如何なものでしょう。

Hob.III:81 / String Quartet Op.77 No.1 [G] (1799)
適度に鮮烈、適度に弾み、適度にオーソドックスな入り。イタリアのクァルテットということでもう少し癖があるかと思っていましたが、ほんのりと明るさの乗ったオーソドックスな古楽器の演奏。デュナーミクの変化もきっちりつけて、かなり正統派の演奏。録音は適度な残響をともなうかなり鮮明なもの。演奏と録音から感じる印象はアウリン四重奏団に近いものがありますが、アウリンが精妙な響きの精度を聴かせどころとしているのに対し、こちらのアレア・アンサンブルはイタリアのクァルテットらしいほのかな明るさと、しなやかさがポイントのよう。アンサンブルの精度は高く、技術的なレベルは非常に高いものをもっているようです。
アダージョではその精度の高さが素晴しい高みに達しています。録音のせいかチェロの存在感が際立ちます。ヴァイオリンは音量はさほどではありませんが、クッキリと鮮明にメロディーを刻み、隈取りをクッキリとつけていきます。良く聴くと大きな流れのなかの起伏をしっかりつけていくので、大河のような大きな流れがうまく表現できていますね。
かなり正統派の演奏だとわかり、メヌエットも一貫して純度の高い表現が心地よいですね。演奏の安定感も抜群。テンポもじっくりとメリハリをつけているので、音楽的な深みも十分感じさせます。ここまで来て、もう少し踏み込みが欲しいとおもった中間部で、ぐっとテンポを落として、一段ダイナミックにギアチェンジ。こちらの期待を見抜いているような変化。
フィナーレは、力を抜いて軽く流すような演奏。各奏者のキレの良い音階が交互に現れますが、十分リラックスしているので、音楽がサラサラと流れて、非常に軽快な印象。精度の高い正統派のアンサンブルで、曲の構造も踏まえたこなれた演奏。最後はかなり踏み込んだ表現も加えてフィニッシュ。若手ではありますが、演奏には円熟味も加わって、1曲目から素晴しい完成度です。

Hob.III:82 / String Quartet Op.77 No.2 [F] (1799)
前曲と第1ヴァイオリンと第2ヴァイオリンが交代しています。演奏の安定感はかなりもの故、次のNo.2も実に落ち着いた、精度の高い演奏。古楽器の研ぎすまされた響きのなかに、適度なダイナミクスと表情の美しさが込められた名演奏。細部の精度がきっちりしているのに、音楽の大きな流れもしっかりと骨格を感じさせるのは素晴しいですね。非常に良く練られた演奏。
続くメヌエットもキレの良い音楽が続きます。曲の流れがしっかりつかまれていて、構成感がしっかりしていることについては、一貫して素晴しいところ。
この曲の白眉、アダージョは淡々と演奏することで孤高の高みに達しています。ヴァイオリンのロニョーニも音量は控えめながら実に表情豊か。自然な歌心が演奏から溢れ出てきます。弱音のコントロールも秀逸でこのアダージョは絶品ですね。
フィナーレも実にしなやか。前曲の演奏よりも流麗さでは上回っているよう。第1ヴァイオリンの交代の影響でしょうか。ドナティスがクッキリとした印象だったのに対し、こちらのロニョーニの演奏は柔らかく柔軟な印象。どちらも腕利きのヴァイオリニストのようですが、まとまりはロニョーニの方に軍配が上がりますでしょうか。

Hob.III:43 / String Quartet Op.42 [d] (1785)
最後はめずらしいOp.42。短調の名曲です。第1ヴァイオリンは1曲目と同様、ドナティスに戻ります。ふたたびクッキリとした張りを感じるフレージング。凛とした険しさを上手く表現して、緊張感のある演奏です。確かにこの曲ではドナティスの方が合っていると思わせるものがあります。
続くアダージョとメヌエットも大きな曲の起伏をしっかりつけていきますので聴き応え十分。最後のフィナーレはでは期待通りきっちりテンポを上げ、各楽器がこのアルバム一のキレを聴かせます。古楽器の枠を超える実にしっかりとした構成感。灰汁の強さを全く感じさせずにこれだけのキレ味を感じさせるのは流石です。

今までまったく存在を知らなかったアレア・アンサンブル。古楽器によるハイドンの弦楽四重奏曲の演奏としてはかなりイケてます。とくに構成感の表現が秀逸。古楽器の精妙な音色で、陰影をしっかりつけた素晴しい立体感を感じさせる演奏。今日取りあげたアルバムは3曲とも抜群の出来です。評価は全曲[+++++]とします。ハイドンのさらなるアルバムのリリースに期待したいですね。

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tag : 弦楽四重奏曲Op.77 弦楽四重奏曲Op.42 古楽器

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なぜかハイドン(Franz Joseph Haydn)が特に気に入り膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。東京在住のごく普通のサラリーマンです。

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