スミソン弦楽四重奏団のOp.9、Op.17(ハイドン)

1501記事目は先日コダーイ四重奏団のOp.9を激賞した記事を書いた際に、いつも含蓄に富みまくったコメントをいただくSkunJPさんからその存在を教えていただき入手したアルバム。ようやく手に入りました!

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スミソン弦楽四重奏団(Smithson String Quartet)の演奏による、ハイドンの弦楽四重奏曲Op.9のNo.4、Op.17のNo.3とNo.5の3曲を収めたアルバム。収録は1986年10月23日から25日にかけて、米国ワシントンD.C.のスミソニアン美術館レンリック・ギャラリー(Renwick Gallery of the Smithsonian American Art Museum)のグランド・サロンでのセッション録音。レーベルは優秀録音の多いDORIAN。

このアルバム、冒頭に書いたようにSkunJPさんから教えていただいたもの。このアルバムと同時に頼んで先についたOp.77とOp.103があまりに見事な出来だったので、そちらを先に記事にしてしまったもの。それも合わせて、このアルバムが3枚目のレビューとなります。

2017/06/13 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : スミソン弦楽四重奏団のOp.77/103(ハイドン)
2011/06/10 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : スミソン弦楽四重奏団のOp.54

スミソン弦楽四重奏団については、リンク先をご覧ください。録音年代はOp.54が1985年、Op.77が1988年、今日取り上げるアルバムが1986年ということで、集中した時期に録音されていることがわかります。したがって、このアルバムも前出2盤と同じメンバーでの録音ということになります。

第1ヴァイオリン:ヤープ・シュレーダー(Jaap Schröder)
第2ヴァイオリン:マリリン・マクドナルド(Marilyn McDnald)
ヴィオラ:ジャドソン・グリッフィン(Judson Griffin)
チェロ:ケネス・スロウィック(Kenneth Slowik)

まだ、Op.77とOp.103の名演の余韻が耳に残る中、早速聴きはじめます。

Hob.III:22 String Quartet Op.9 No.4 [d] (c.1769-70)
Op.20の前の目立たない存在の曲ですが、作曲年代は名作が並ぶシュトルム・ウント・ドラング期。しかも短調のグッと沈む曲想が見事な曲。前盤同様古楽器の木質系の響きの美しさは見事なもの。前盤がヴァイオリンのヤープ・シュレーダーがとりわけ目立っていたのに対し、この演奏では4人のバランスの良いアンサンブルで聴かせる演奏。しかもその一体感は絶妙なるレベルでこの曲の魅力をゆったりと描いていきます。たっぷりを墨を含んだ鮮やかな筆の運びでメロディーが活き活きと躍動するところは流石スミソンと唸ります。この時期はこのクァルテットにとっても絶頂期だったのでしょう。神がかったような妙技に冒頭から惹きつけられます。
続くメヌエットもしなやかなアンサンブルが仄暗い舞曲の魅力を存分に炙り出していきます。徐々にヤープ・シュレーダーの美音の存在感が増してきて、演奏の隈取りがキリリと明らかになってきます。素晴らしいのが中間部の音色を少しざらつかせた表現。艶やかな音色との対比で音楽の深みを増しています。このあたりの音楽の造りは絶妙。
そしてラルゴに入ると晴れやかな音楽の魅力が全開。糸を引くようにシュレーダーのヴァイオリンのメロディーが伸び伸びと躍動します。そしてすっと翳ったかと思うと、再び伸びやかに展開する妙技の連続。この曲の面白さを再認識させられます。他のパートもも音量を絶妙にコントロールしてヴァイオリンパートを引き立てます。終盤カデンツァのようなヴァイオリンのソロが印象的。
フィナーレはフーガのような展開からハイドンならではの複雑に絡み合う音楽。全パートのボウイングが冴えまくってここぞクライマックスという緊張感に包まれます。これほど緊密なこの曲のフィナーレは聴いたことがありません。予想通りとはいえ見事すぎる演奏にいきなりノックアウト。

Hob.III:27 String Quartet Op.17 No.3 [E flat] (1771)
いつもながらハイドンのアイデアというかメロディーの展開の見事さに驚きます。冒頭からメロディーラインの面白さに釘付け。特にクァルテットというジャンルはメロディーと各パートの絡み合う展開の面白さを純粋に味わえるため、この曲でも冒頭から全神経が曲の展開の面白さに集中します。もちろんスミソンの演奏は絶妙を通り越して神々しささえ漂うレベルなのは前曲同様。Op.17ももちろんシュトルム・ウント・ドラング期の作品。こうして聴くとOp.20と比較しても決して劣らない素晴らしい作品であることがわかります。この曲ではメンバーも演奏を存分に楽しんでいる様子が伝わります。それこそが音楽。溢れんばかりの楽しさに包まれます。
驚くのがメヌエットのメロディーの奇抜さ。奏者もハイドンのアイデアの冴えの素晴らしさを解して、微笑みながら演奏しているよう。創意に満ち溢れる音楽。これぞハイドンの音楽の真髄でしょう。
そしてアダージョのなんたる癒し。大海原にプカプカと浮かびなながらのんびりとする心境になったかと思うと切々と切り込んでくるヴァイオリンの美しいメロディーにうっとり。しかも間近で聴くライヴのような素晴らしい録音によってグイグイとこちらの心に浸透してきます。ヴァイオリン以外のパートも素晴らしい演奏で迫ってきます。絶品。
深い感動の淵から涼風に目覚めさせられたようなフィナーレの入り。軽やかな各パートのさえずりからはじまり、音色とダイナミクスがめくるめくように変化していく快感に浸れます。

Hob.III:29 String Quartet Op.17 No.5 [G] (1771)
Op.17の最後の曲。もうすぐそこに太陽四重奏曲があります。このアルバムに収められた3曲がどうして選ばれたかはわかりませんが、この3曲にはハイドンの音楽のエッセンスが全て含まれているような気がします。有名曲ではありませんが、ハイドンのアイデアと創意の豊富さと音楽の展開の独創性の面で突き抜けた魅力をもつ3曲のように感じます。ひばりや皇帝も素晴らしいですが、こうした曲にこそハイドンの音楽の真髄が詰まっていますね。この曲でもハイドンの斬新さに驚かせられ続けます。なんたるアイデア。なんたる展開。なんたる構成力。もう全てがキレキレ。そしてスミソンもキレキレ。ハイドンの時代の人々が聴いたら前衛音楽と聴こえたかもしれません。
この曲でも2楽章がメヌエット。ハイドンのアイデアの暴走は止まりません(笑) ユニークなメロディーを展開しながら曲としてまとめていく手腕の鮮やかさ。これぞ創意とハイドンがほくそ笑む姿が目に浮かびます。
そしてアダージョではグッと沈み、闇の深い黒色のグラデーョンの魅力で聴かせる音楽のような入り。そしてさっと光が射し、ゆったりとした音楽のほのかな輝きが、入りの闇の深さによって浮かび上がります。こうした表情の変化の面白さはスミソンの素晴らしい演奏だからこそ楽しめるもの。並みの演奏ではハイドンの音楽の真髄にはたどり着けません。
フィナーレはリズミカルな入りから意外にオーソドックスな展開に逆に驚きます。ここまでの3楽章のユニークさからするとちょっと意外でしたが、ハイドンの意図が聴くものを驚かせるような創意にあるとすれば、ユニークな曲の連続をオーソドックスなフィナーレで締めることこそハイドンの意図だったのかもしれません。最後はなんとフェードアウト! あまりに見事な展開にやられた感満点(笑) 曲の真髄に迫る素晴らしい演奏ゆえ、演奏ではなく曲自体を楽しめたということでしょう。

SkunJPさんに教えていただいたアルバムですが、やはりただのアルバムではありませんでした。このアルバムの中にハイドンの弦楽四重奏曲の真髄が全て詰まっています。Op.77とOp.103の方も曲の本質を突く素晴らしい演奏でしたが、こちらはさらに一歩、ハイドンの創意の源に迫る迫真の演奏。選曲、演奏、録音とも絶品。全ての人に聴いていただくべき名盤と断じます。もちろん評価は[+++++]といたします。

前記事でブログ開設1500記事となりましたが、実はこのアルバムのレビューとしてまとめる予定でした。ただ、聴き進むうちに、単独の記事としてまとめるべきアルバムだと思い別記事にした次第。その痕跡を前記事の写真に残したところ、すかさずSkunJPさんに気づかれてしまいました(笑) いやいや素晴らしいアルバムの情報をありがとうございました!

(追伸)
月末企画は次の記事です! 遅れてスミマセン!

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tag : 弦楽四重奏曲Op.9 弦楽四重奏曲Op.17 古楽器

コダーイ四重奏団のOp.9(ハイドン)

久々に弦楽四重奏曲を聴きたくなり、CDラックから取り出したアルバム。

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amazon / ローチケHMV

コダーイ四重奏団(Kodály Quartet)による、ハイドンの弦楽四重奏曲Op.9のNo.4、No.1、No.3の3曲を収めたアルバム。収録は1992年12月8日から10日にかけて、ブダペストのユニテリアン派教会でのセッション録音。レーベルはご存知NAXOS。

手元にあるのは上の1枚ものですが、お持ちでなければ今は全集の方が手に入れやすいですね。もちろん私は全集がリリースされる前に1枚もので全巻揃えています。1枚ものの方はシンプルなデザインながら巻ごとにハイドンと同時代の関連する人物の肖像画が配されて、これもコレクション欲を満たすもの。この巻はオーストリア皇帝フランツ1世の妹であるマリーア・クレメンティーナ・ダウストリア(Maria Clementina d'Austria)の肖像。マリーア・クレメンティーナは1777年の生まれで、シチリア王フランチェスコ1世に嫁ぎましたが、フランチェスコ1世が即位する前の1801年に24歳の若さで亡くなってしまったため、王妃とはなりませんでした。

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コダーイ四重奏団の弦楽四重奏曲は好きな演奏ですが、今日はとりわけ好きなOp.9のNo.3が聴きたくてこのアルバムを久々に取り出しました。このアルバム、手に入れたのはリリース直後だと思いますので、かれこれ20年以上前になるわけで、聴いたのもそのくらい前が最後だったかもしれません。ちょっとタイムマシン的興味も出てきています。

手に入れり聴いたりしたのがかなり昔だっただけに、記憶も朧げです。コダーイ四重奏団のアルバムは過去に2度ほど取り上げていますがそれからも少し時間が経ってしまっていますね。

2013/02/23 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : コダーイ四重奏団のOp.20のNo.4からNo.6
2011/10/23 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : コダーイ四重奏団のOp.74

コダーイといえばNAXOSの看板アーティストですのでご存知の方も多いでしょうし、このハイドンの弦楽四重奏曲のシリーズは味わい深い名演奏としておすすめできるものです。演奏者の情報は上のOp.74の記事をご参照ください。

Hob.III:22 String Quartet Op.9 No.4 [d] (c.1769-70)
いきなり雫が滴るような味わい深い素晴らしい響きに包まれます。4人の奏者がそれぞれ自在に演奏しているのにアンサンブルがピタリとあってしなやか。しかも全員のボウイングが実に自然でいきなり至高の境地に至ります。1楽章から脱帽の演奏です。作曲されたのはシュトルム・ウント・ドラング期。有名な太陽四重奏曲のわずか2〜3年前ということで、この時期特有の憂いに満ちた素晴らしい音楽が聴かれます。続くメヌエットでは憂いがさっぱりと浄化されるような清らかな響きが印象的。ヴァイオリンのアッティラ・ファルヴェイのしなやかさと艶やかさを合わせもつ響きと、淡々と進むアンサンブルの織りなす美しい綾。自然な描写による風景の美しさが際立ちます。そして3楽章のアダージョになると、さらに透明感が高まります。アッティラ・ファルヴェイの奏でる磨き抜かれた響きの美しさに打ちのめされます。なんという伸びやかさ。まだ初期の曲なのにこの突き抜け方、尋常ではありません。終盤、響きが研ぎ澄まされ天上に吸い込まれるよう。そしてフィナーレは落ち着き払ったアンサンブルの規律で締めくくります。コダーイの演奏、ここまで素晴らしかったかと驚いた次第。

Hob.III:19 String Quartet Op.9 No.1 [C] (c.1769-70)
続く曲も伸びやかなヴァイオリンの音色にのっけから惹きつけられます。ヴァイオリンの音色も深みのある実にいい響き。さぞかしいい楽器を使っているのでしょう。録音も適度な実在感と残響があるバランスの良いもので弦楽四重奏としては理想的。作為が先行するような印象は皆無で、自然なアンサンブルの中から音楽が懇々と湧き出てきます。やはりアッティラ・ファルヴェイの見事なボウイングが大きな魅力でしょう。1楽章の後半、メロディーが多彩に展開して、最後にシンプルな響きに戻るところなど、ハイドンの見事な展開を最高の演奏で堪能できます。続くメヌエットは盤石の安定感、中間部の表情の変化鮮やかさを聴かせたかと思うと、今度は変化を感じさせずにさっと戻るところのさり気なさなど、鳥肌が立つような緊張感。そして、またしても伸びやかなアダージョの美しい響きに身を任せる至福を味わいます。ところどころに仕掛けられた美しい転調の瞬間。詩情が立ち上ります。最後はコミカルなメロディーと戯れるような微笑ましさを感じさせるフィナーレ。完璧に自然なアンサンブルによって音楽は楽しむものだというハイドンのメッセージが鮮明に浮かび上がります。

Hob.III:21 String Quartet Op.9 No.3 [G] (c.1769-70)
不思議にウキウキとさせられる導入が印象的な曲。先日auditeからリリースされたアマデウス四重奏団の放送録音集の冒頭に置かれた曲でもありますが、アマデウスが無骨さを感じさせるような構成感を強調した演奏だったのと好対照の流麗な躍動感が印象的な演奏。前2曲とは全く異なる語法で書かれ、展開する音楽。ハイドンのアイデアの豊富さを思い知らされます。なぜかこの1楽章は記憶に鮮明に残るメロディーですね。そしてメヌエットもこれまでの曲とは全く異なる印象。メロディーの面白さを知り尽くした自在なアクセントがこの曲の魅力を倍増させます。この自然さはクァルテットの音楽性高さの裏付けがあってのものでしょう。そして3楽章のラルゴは緊張感が張り詰めた部分とスッと力が抜ける部分の対比が見事。やはり最後は天上に至る透明感に包まれます。そしてフィナーレはパート間の軽妙な会話が次々に展開していくハイドンならではの機知に富んだもの。ヴァイオリンばかり触れてきましたが、この楽章などヴァイオリン以外のパートのキレの良い演奏があっての面白さ。特にチェロの軽やかさが印象に残りました。

このアルバムは所有盤リストを作り始めた頃に登録したもので、当初の評価は[+++]となっていました。その頃は聴き手である私の器がこのアルバムの素晴らしさを聴き分けるに至っていなかったというのが正直なところ。次々とリリースされるこのシリーズを手に入れる度に登録していましたが、ちょっと作業化していましたね。今回改めて聴き直してみて、この演奏の真価に触れたという気になりました。特にこの3曲は絶品の出来。全集として手に入れた方も今一度この3曲を聴きなおしてみてください。きっと宝物に出会ったような驚きを感じられるものと思います。ということで評価は[+++++]に付け直しました。

このシリーズ、聴き直してみなければなりませんね。

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tag : 弦楽四重奏曲Op.9

デカニー四重奏団のOp.9(ハイドン)

今日は古いLPです。ちょっと前にオークションで手に入れていたものですが、前記事で触れた昇圧トランスを導入したのに合わせて取り出して聴いてみた次第。

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デカニー四重奏団(Dekany Quartet)によるハイドンの弦楽四重奏曲Op.9のNo.1からNo.6までの6曲と弦楽四重奏版「十字架上のキリストの最後の七つの言葉」を収めた3枚組のLP。デカニー四重奏団によるハイドンの弦楽四重奏曲集の第6巻。収録年の記載はありませんが、他の巻の録音年代などから推測するに、おそらく1970年代のものかと思います。レーベルは米VOX。今日はOp.9を取り上げます。

デカニー四重奏団の演奏は以前に一度取り上げています。前回は珍しくOp.1を取り上げたのですが、これがとても素晴らしかったので、他の曲の録音も狙っていて、先日ようやくLPを手に入れたもの。演奏者の情報などは下の記事を御覧ください。

2013/11/22 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : デカニー弦楽四重奏団のOp.1(ハイドン)

以前取り上げたのはCDだったんですが、ネットを調べてみると、収録された曲はLPでは第1巻にあたるもの。今日とりあげるアルバムは先に触れたとおり第6巻。ということで、メンバーを確認してみると第2ヴァイオリンが先のアルバムとは変わっていました。

第1ヴァイオリン:ベラ・デカニー(Belá Dekany)
第2ヴァイオリン:ペーター・アシュレイ(Peter Aslay)
ヴィオラ:アーウィン・シファー(Erwin Schiffer)
チェロ:ゲオルク・シファー(George Schiffer)

Hob.III:19 String Quartet Op.9 No.1 [C] (c.1769-70)
ヴァイオリンの印象的なメロディーから始まるこの曲。LPから立ち上る味わい深い響き。冒頭からピンと張り詰めた緊張感に包まれます。第1ヴァイオリンのベラ・デカニーの存在感が別格。LP自体は古いものゆえコンディションはベストとはいかないものの、弦楽器のダイレクトな響きの魅力はLPならでは。響きもいいのですが、凛としたテンポ設定、かっちりとした構成も文句のつけようのない、隙のない演奏。これぞハイドンという完成度の高さをいきなり見せつけます。
OP.9以前の曲集に収められた曲は5楽章構成で、この曲集から4楽章構成となり、2楽章はメヌエット、3楽章がアダージョとなります。すでにハイドンらしい優雅さを感じさせるメヌエットは中間部のをしっかり沈み込ませて対比をつけているところが流石。そしてアダージョは完璧な美しさ。このデカニーの演奏はアダージョの美しさ、険しさ、深さを全て表す名演奏と言っていいでしょう。鳥肌が立つような素晴らしい演奏に酔いしれます。
フィナーレは疾風のような勢いで軽々と弾き進めていきます。弦楽四重奏の中間2楽章は後年のアダージョ、メヌエットの順になる形が完成形と刷り込まれていますが、このメヌエット、アダージョの順のこの曲を聴くと、これはこれで素晴らしい完成度に聴こえます。1曲目からあまりの素晴らしさに圧倒されます。

Hob.III:20 String Quartet Op.9 No.2 [E flat] (c.1769-70)
ハイドンの弦楽四重奏曲は6曲セットが定番ですが、それぞれの曲のアイデアと創意に耳を向けると、いつもながら素晴らしい想像力に驚きます。2曲目のこの曲でも入りのメロディーから想像力に満ち溢れており、脳内にアドレナリンが充満。ここでもデカニーの、これぞハイドンという引き締まった演奏で安心して曲に浸ることができます。録音のせいか前曲よりもキレは劣る感じがしなくもないですが、ハイドンの書いたしなやかな曲に合わせた演奏なのかもしれません。しなやか、流麗、おおらかな演奏。
この曲もメヌエット、アダージョの順。1楽章を受けてか、メヌエットもよりしなやかな曲想でデカニーもそれを知ってか力が抜けて楽器を軽く鳴らしながらの演奏。そしてアダージョは短調の切々たる音楽。なんというヴァイオリンの美しい響き。クァルテットの美しさの全てが含まれる音楽です。これまでちょっと大人し目だったチェロが実に雄弁になり、アンサンブルの厚みが増します。
フィナーレはNo.1よりもさらに筆が込んで素晴らしい充実度。Op.9とはこれほど充実した曲だったかと改めて驚きます。

Hob.III:21 String Quartet Op.9 No.3 [G] (c.1769-70)
好きなNo.3。1楽章の独特の推進力に溢れたメロディーはハイドンのさりげないセンスのよさを感じる曲。曲を聴き進むにつれて、やはり展開のアイデアに唸るばかり。ちょっと音量を落としたつなぎのような部分は鋭敏なセンスにゾクゾクします。
この曲は2楽章と3楽章はメヌエット、ラルゴという構成。これまでの優美なメヌエットに代わって険しいメヌエットで新境地を切り開いているのでしょう。そう聴くと実に新鮮な音楽に感じます。6曲のクァルテットが小宇宙のように感じられ、それぞれ創意を凝らしながらも決して似ていない構成の曲を配置する面白さが浮かび上がります。そしてこの曲の緩徐楽章も美しさは並ではありません。弦楽器の響きの美しさを知り尽くしたハイドンによる音楽は全く飽きさせることなく、次々と新鮮なメロディーを放ってきます。この曲では呼吸の深さが印象的。
そしてフィナーレはコミカルな表情を織り込みながらも、曲を締めるかっちりした構成を感じさせるもの。各パートの鮮やかな弓裁きを聴かせて、最後はふっと力を抜いて終わる、冗談の先駆けのような終わりかた。いやいや見事と言うほかありません。

Hob.III:22 String Quartet Op.9 No.4 [d] (c.1769-70)
独特の短調の入りは、録音のせいか響きが柔らかく表情も穏やかに感じます。これまでもそうでしたが、ベラ・デカニーの演奏は早いパッセージの鮮やかな弓裁きが華やかな印象を強くしています。グッと溜めるボウイングと鮮やかに駆け上る音階の対比が表現の幅を増しているんですね。相変わらず見事なアンサンブル。ヴァイオリンがキリリと引き締まった隈取りをつけているからこそのアンサンブルの精度。
1楽章からの続きのようなメヌエットは、あえて平板に弾いているように聴こえなくもありませんが、メロディーの大きな展開に興味が行っているからこその表情。続いて3楽章はアダージョ・カンタービレ。やはり緩徐楽章はデカニーの美点が十分に発揮された演奏。伸びやかなヴァイオリンのメロディーとそれを支える他のパートの見事なコントラスト。
そして、フィナーレは意表を突くもの。これまでの流れに対してこのフィナーレはどうやっても思いつきません。もちろんハイドン流のアイデアに満ちていると同時に緊密な構成感も感じさせます。

Hob.III:23 String Quartet Op.9 No.5 [B flat] (c.1769-70)
前曲からLPの2枚目に移ってますが、2枚目の方が響きが柔らかく聴こえます。一通り主題の提示が終わって変奏にはいるところの絶妙なセンス。音楽の展開の面白さを知り尽くしているからこそ、この穏やかな部分で聴きどころを作れるのでしょう。変奏が進むにつれてその喜びは深さを増し、味わい深い音楽に包まれます。あまりに素晴らしい展開に聞き惚れ、こんな素晴らしい曲の聞き覚えがないと調べてみると、この曲は今までレビューに取り上げたことがなかったんですね。レビューしていればなんとなく展開に覚えがありますが、ただ聴いているのとレビューではこちらの力の入り方が違います。
メヌエットは非常に短いものの、大胆さの中にほのかな優美さが感じられるもの。メヌエットも曲ごとに進化しています。そして3楽章は長いラルゴ・カンタービレ。後半3曲の中の聴きどころ。ベラ・デカニーの伸びやかなヴァイオリンがLP独特の、そして昇圧トランスによって味わい深さが増した響きで際立ちます。ただ響きが美しいだけではなく、陰影の濃い音楽が織りなす深い情感。気づいてみるとNo.3の1楽章の印象深いメロディーの余韻のようなものが漂い、ワーグナーのライトモティーフを先取りしているような先進性をも感じます。
そしてフィナーレも進化。曲をまとめると言う気配とは異なり、無限に展開していくような印象を与えながらも、最後はしっかりと曲を締めくくる見事な展開。ハイドンが自ら確立した弦楽四重奏曲という形式の発展途上の試行錯誤をトレースしているような創造性あふれる展開。手に汗握ります。

Hob.III:24 String Quartet Op.9 No.6 [A] (c.1769-70)
最後の曲は出だしから驚きっぱなし。あっというような斬新なアイデアの連続に圧倒されます。一体どのようにしたらこれほど豊かなメロディーが湧き出てくるのでしょう。デカニーの味わい深くも折り目正しく精緻な演奏で再現されるハイドンの創造性。常人に思い浮かぶ展開の域をはるかに超えてくるハイドンの創意に常人の脳は混乱気味。
そうかと思うとメヌエットは舞曲らしいオーソドックスな展開。音楽を楽しむ聴衆との高度な駆け引きを事も無げにコントロールするハイドンの得意顔が浮かんでくるようです。このメロディーが頭に浮かんで楽譜に落とす瞬間に脳内を駆け巡る興奮が想像できます。続いてこの曲集の終わりを惜しむような静かなアダージョ。どこまでも透明に駆け上るヴァイオリンのメロディーにこの時代の郷愁を感じるのは私だけでしょうか。これは名曲ですね。絶品。
最後のフィナーレはあっけらかんと明るい曲。ドン・ジョバンニの終曲の大団円を彷彿とさせる諧謔性すら感じる明るさで曲集を締めました。

いやいや、このデカニーのOp.9は名盤です。小鳥遊さんや湖国JHさんがデカニーを推していたのも頷けるところ。Op.9という初期の作品がこれほどまでに輝き、これほどまでに深い音楽だと、このデカニー盤で教えられました。手元のLPは表面に擦り傷がチラホラと見えるあまり良いコンディションのものではありませんが、いつものようにVPIのクリーナーと必殺極細毛電動洗顔ブラシできれいにクリーニングしたところ、ノイズはほぼなくなり、彫りの深い見事な響きを聴かせてくれました。LPというメディアの素晴らしさを体感した次第。先日導入した昇圧トランスを通して聴くと古いアルバムの味わいの深さが倍増。これからのLP探しが一層楽しみになりました。もちろん評価は全曲[+++++]とします。LPとして入手しやすいわけではありませんが、Apple Musicに登録されていますので、音源としては入手は容易かと思います。読者諸兄の論評もお待ちしております!

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tag : 弦楽四重奏曲Op.9 ヒストリカル

シュパンツィヒ四重奏団の弦楽四重奏曲集Vol.1(ハイドン)

先日取りあげたシュパンツィヒ四重奏団の最新盤が良かったので、未入手の2枚を注文していて入荷したもの。

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シュパンツィヒ四重奏団(Schuppanzigh Quartet)の演奏による、ハイドンの弦楽四重奏曲Op.9のNo.6、Op.74のNo.1、Op.50のNo.6「蛙」の3曲を収めたアルバム。収録は2007年12月5日から8日にかけて、ベルリンのポツダムに近いヴァン湖のほとりにあるアンドレアス教会でのセッション録音。レーベルはベルギーの名門ACCENT。

以前取りあげた記事はこちら。

2013/10/21 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : 【新着】シュパンツィヒ四重奏団の弦楽四重奏曲集

以前取りあげたアルバムは2011年の録音ですが、この間、チェロの奏者が変わっています。このアルバム録音時のメンバーは下記の通り。

第1ヴァイオリン:アントン・シュテック(Anton Steck)
第2ヴァイオリン:フランク・ポールマン(Franc Polman)
ヴィオラ:クリスティアン・グーセンズ(Chiritian Goosses)
チェロ:アンティエ・ゴイセン(Antje Geusen)

クァルテットの情報は前記事をご覧ください。この頃のチェロ奏者は女性のアンティエ・ゴイセン。両演奏の間の違いは、このクァルテット最初のハイドンのアルバムということで4年の月日の経過と、チェロ奏者の違いとなります。以前のアルバムのクッキリとメロディーラインが浮かび上がる素晴しい演奏が聴かれるでしょうか。

Hob.III:24 / String Quartet Op.9 No.6 [A] (c.1769-70)
シュトルム・ウント・ドラング期の作品。Op.9はこれまであまり取りあげてきませんでしたので、ちょうどいいでしょう。後年の成熟した筆致の曲とは異なり、ディヴェルティメントと呼ばれていた頃のもの。広い教会堂の残響が適度に乗った美しい響き。前アルバムと同様、伸び伸びとした古楽器が、クッキリと楽天的でさえあるようにフレーズを重ねて行く演奏。1楽章の小気味好い闊達な響きと、2楽章のメヌエットの陰りのある陰影。アダージョではアントン・シュテックのヴァイオリンの美しい伸び伸びとした高音の音色がたまりません。静謐感がある引き締まった響き。抑えた表情も素晴しいですね。フィナーレはアントン・シュテックが軽々と駆け上がるような音階をこなし、小気味好いことこの上なし。素晴しいキレで曲を結びます。シュパンツィヒ四重奏団、ハイドンの1枚目からキレてました。

Hob.III:72 / String Quartet Op.74 No.1 [C] (1793)
だいぶ時代が下って聴き慣れた名曲。変に凝ったところなく、美しい響きで曲を流麗に描いて行きます。もちろんシュテックのヴァイオリンの音色は相変わらず磨き抜かれて最高。他の3人も見事に追随して、アンサンブルの精度も悪くありません。やはり抑えた部分とクッキリ描く部分の対比が良いので、非常に立体感を感じる演奏。ただ、ちょっと楽天的に過ぎて、この曲の深みのようなものが欠けているという気がしなくもありません。
2楽章のアンダンティーノに入っても流麗さは変わらず、軽いタッチで淡い音楽を描いていきます。そして、メヌエットも同様。響きの美しさとアンサンブルの精妙さは保っているものの、楽章の対比がもう少し欲しいと思うのは私だけでしょうか。フィナーレまで一貫して一気に持って行く感じ。最後の盛り上げ方は流石。

Hob.III:49 / String Quartet Op.50 No.6 "Frosch" 「蛙」 [D] (1787)
フィナーレのバリオラージュ奏法による不思議な響きによって「蛙」と名前がついた曲。この曲でも冒頭から楽天的な雰囲気を感じさせながら、速いテンポで曲の織りなす綾を表現していきます。軽々と速いパセージをこなしていくところのテクニックは流石なところです。疾風のような勢いで1楽章をこなします。
2楽章のポコ・アダージョに入ると、テンポをようやく落とし、しっとりとした表情の演奏に戻ります。少し曲の構造を感じさせるメリハリがついて、曲の陰影もはっきりしてきます。フレーズごとに微妙に明るさと陰りをコントロールして深みを表現していきます。
2楽章がちょっと沈んだので、メヌエットは軽いものの引き立ちます。そして印象的な響きのフィナーレは、シュパンツィヒの響きの良さが曲想に合っています。伸び伸びと美しいヴァイオリンの響きと、コミカルなメロディーの語り口の上手さが相俟って、なかなかの味わい。アントン・シュテックの妙技が光ります。

シュパンツィヒ四重奏団のハイドンの弦楽四重奏曲集のVol.1。古楽器の腕利き奏者ぞろいのクァルテットによって、ハイドンの弦楽四重奏曲の軽妙洒脱な面白さをうまく表現した演奏といって良いでしょう。先日レビューした最新盤と演奏スタイルは大きく変わらないものの、こちらの方が、軽さと勢いがある代わりに、クッキリとした精妙さと陰影は最新盤に分があるといったところでしょう。古楽器によるハイドンの弦楽四重奏曲の演奏としては万人にお薦めできる内容です。評価はOp.74のNo.1のみ[++++]、他2曲は[+++++]とします。

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tag : 弦楽四重奏曲Op.9 弦楽四重奏曲Op.50 弦楽四重奏曲Op.74 古楽器

ドーリック弦楽四重奏団のウィグモアホールライヴ

実に久しぶりの弦楽四重奏曲。未聴盤ボックスからようやく脱出です。

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ドーリック弦楽四重奏団(Doric String Quartet)の演奏による、ハイドンの弦楽四重奏曲 Op.9のNo.4、Op.50のNo.2、Op.76のNo.1の3曲を収めたアルバム。収録は2009年1月15日、ロンドンのウィグモアホールにおけるライヴ。レーベルはWIGMORE HALL LIVE。

ドーリック弦楽四重奏団は1998年、イギリス、サフォークで開催されていた「若い音楽家のための夏期ミュージック・スクールの室内楽コース」をきっかけとして結成されました。2002年からパリでアルバン・ベルク四重奏団、アルテミス四重奏団、ハーゲン四重奏団、ラサール四重奏団のメンバー等によるプロ演奏家のためのトレーニングコースに参加して腕を磨きました。その後もハーゲン四重奏団のライナー・シュミットについてバーゼル音楽アカデミーで学びました。2000年に開催された、ブリストル・ミレニアム弦楽四重奏コンクールで第1位、2007年に開催されたメルボルン国際室内楽コンクール弦楽四重奏部門で入賞、2008年に大阪国際室内楽コンクールで1位、イタリアのパオロ・ボルチアーニ国際弦楽四重奏コンクールで2位となるなど、現在のヨーロッパにおける実力派若手クァルテットのといったところでしょうか。現在のメンバーは次のとおり。

第1ヴァイオリン:アレックス・レディントン(Alex Redington)
第2ヴァイオリン:ジョナサン・ストーン(Jonathan Stone)
ヴィオラ:サイモン・タンドリー(Simon Tandree)
チェロ:ジョン・マイヤースコウ(John Myerscough)

このアルバム、ハイドンの弦楽四重奏曲の3曲を収めていますが、組み合わせはかなり珍しいもの。最初にOp.9からくるあたり、ちょっとこだわりを感じます。

Hob.III:22 / String Quartet Op.9 No.4 [d] (c.1769-70)
奏者の息づかいが鮮明に録られた雰囲気のあるライヴ。厳かにはじまり、丁寧すぎるくらいデュナーミクを積極的にコントロールして、フレーズごとに濃い表情をつけていきます。楽天的な印象はなく、かなりストイックな姿勢。第1ヴァイオリンは軽めの音色で、非常に軽やかに音階を刻んでいきます。重厚な伴奏に軽やかなヴァイオリンという構図。曲自体を研究し尽くしたような演奏。やはりコンサートの開始はこの曲でなくてはならないのでしょう。シュトルム・ウント・ドラング期のハイドンの特有のほの暗さをもった曲ですが、かなり磨き混んで深い陰影をつけていきます。
基本的にネクラな印象の演奏ですが、メヌエットは彫りがすこし浅くなり、明るい光がさっと刺したような輝きがあります。表情のちょっとした変化に敏感にさせられる演奏。やはり弱音部を丁寧に引き込んでいきます。
3楽章がアダージョ・カンタービレ。全奏者の演奏スタイルが良くそろっており、前楽章までの特徴を全員が共有しています。ヴィオラやチェロもヴァイオリンに負けず表情が豊かなので、アダージョは聴き応えがあります。クッキリと言う表現はちょっと違い、メロディーをじっくり料理していく感じです。この楽章の終盤の孤高の感じ、このクァルテットの音楽のポイントでしょう。
フィナーレは緩急の変化を変化をかなり鮮明につけた個性的な解釈。ここまで踏み込んだ表現は最近では珍しいですね。会場からは割れるような拍手で迎えられます。

Hob.III:45 / String Quartet Op.50 No.2 [C] (1787)
続いて、だいぶ時代が下って、Op.50プロシア四重奏曲集からNo.2。やはりじっくり丁寧なアプローチ。この曲もだいぶ研究した上での演奏に聴こえます。ひとつひとつのメロディーをどのように演奏するかじっくり考えて、ユーモラスな曲を丁寧に描いていきます。ひとりひとりのデュナーミクの起伏が大きいのですが、良く歌うというより、他の奏者の音をよく聴いて、音を上手く重ねながら演奏している感じ。ヴァイオリンのみ鋭い音色を聴かせるのが特徴なんでしょう。
アダージョは細めのヴァイオリンの張りつめた凛とした美しさが印象的。ハイドンの美しい曲の儚さが強調されて、ガラス細工のような繊細な輝きをもった演奏。かなり自在なボウイングでじっくりと美しい旋律を描いていきます。
メヌエットは実にユニークな曲調。このクァルテットの選ぶ曲に共通する曲調がわかってきました。HMV ONLINEの解説を見ると、この曲をかなり得意としているよう。間を活かしたユーモラスさが彼らの演奏で強調され、ハイドンのアイデアが実によく引き立ちます。
フィナーレも同様、ハイドンの創意に満ちた曲の面白さが強調されます。絡み合う音階の綾と美しいメロディーの交錯。実に軽いタッチで千変万化する曲想をこなしていきます。最後はしっかり盛り上がりますが、すっと消え入るようなフィニッシュも見事。この曲の本質的な面白さをこの演奏に教えられました。

Hob.III:75 / String Quartet Op.76 No.1 [G] (1797)
最後は晩年の名曲。この夜の演奏会はハイドンの弦楽四重奏曲の成熟の歴史を体験するような流れ。前曲までの演奏からもう少し線が細い演奏を想像していましたが、かなりしっかりとした厚みのあるアンサンブル。演奏が進み温まったのか、曲事のアプローチの違いかは判然としませんが、アンサンブルの緊密度が高まったのは確か。聴き慣れたメロディーがいつもより陰影が濃くついて聴こえます。迫力や推進力で聴かせる演奏ではありませんが、ライヴらしい変化に富んだアンサンブルの面白さを聴く演奏でしょう。なぜか引き込まれる実に玄人好みの演奏。1楽章はぐっと集中度の高い演奏。
つづくアダージョ・ソステヌートはボウイングにかなり明解に隈取りをつけて、クッキリとメロディーラインを強調します。聴き慣れたメロディーですが、表情は驚くほど豊か。不思議とくどさはなく、芸術性の高さが印象に残ります。音や響きを合わせるのではなく、音楽が合っている感じ。実に複雑なアンサンブル。間と静寂も効果的。明らかに集中力が上がってきて、ビリビリきます。この緊張感、聴いていただきたいですね。
メヌエットに入ると、鬼気迫る迫力。俊敏さとエネルギーの噴出が素晴しい。それだけでなくリズムの跳躍、響き渡るピチカート、変化するテンポ。ホール内がドーリック弦楽四重奏団の演奏の迫力にのまれています。
フィナーレもエネルギーに満ちた演奏なんですが、逆に前楽章の緊張を鎮めるように流す感じもあります。起伏を前楽章より抑え気味にしているところはいいセンス。後半に入ると、やはりギアチェンジして、徐々にクライマックスに向けて力が漲ってきます。途中に水を打ったような静けさを挟むあたりも流石、ドーリック弦楽四重奏団の名演奏に会場は釘付け。これは事件のようなライヴです。ホールは拍手とブラヴォーと驚きのようなどよめきに包まれます。

Hob.III:44 / String Quartet Op.50 No.1 [B flat] (1787)
アンコールにOp.50のNo.1のフィナーレ。アンコールにいつも弾いているのでしょうか、安心して聴けるハイドンの機知に溢れた曲。ドーリック弦楽四重奏団の魅力が詰まった演奏。普通に終わったかのような大拍手を一旦受けますが、実は終わっていないというパフォーマンス付き。観客もドーリックに見事にやられ、会場からは笑いも溢れます。いやいや、実に素晴しいコンサートでした。

最初のOp.9を聴いたときには、ちょっと表情の濃い演奏をする人たちだとの印象でしたが、聴き進むうちに、ドーリック弦楽四重奏団のスゴさがわかってきました。ぐんぐん調子が上がり、ホールの観客を釘付けにする素晴しい緊張感。弦楽四重奏のコンサートでこれだけの極度の緊張感に溢れた演奏は聴いた事がありません。この日の聴衆は事件に出会ったような衝撃を受けたことでしょう。ハイドンの弦楽四重奏曲の真髄の髄をつく素晴しい演奏。弦楽四重奏好きの方、必聴です。評価は1曲目のOp.9は[++++]、残りはもちろんすべて[+++++]とします。

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tag : 弦楽四重奏曲Op.9 弦楽四重奏曲Op.50 弦楽四重奏曲Op.76 ライヴ録音 ハイドン入門者向け

フェステティチ四重奏団のOp.9のNo.4新旧比較

今日は初期の弦楽四重奏曲。

FesteticsOp9.jpg
HMV ONLINEicon / amazon (何れも別装丁盤)

フェステティチ四重奏団(Quatuor Festetics)の演奏でハイドンの弦楽四重奏曲Op.9の6曲を収めたアルバム。このアルバムはARCANAのものではなく、HUNGAROTONのもの。収録年代は記載がありませんがPマークは1989年。ARCANA盤が1998年4月の録音ですのでおそらく10年くらい前の録音と言うことになります。

フェステティチ四重奏団の弦楽四重奏曲は以前もARCANA盤ではなくharmonia mudiのOp.33を取りあげています。

2011/05/01 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : フェステティチ四重奏団のOp.33(旧録音)

以前聴いたOp.33はARCANA盤は手元になかったため聴き比べ出来ませんでしたが、今回は両方とも手元にありますので、聴き比べができますね。

FesteticsOp9ARCANA.jpg
HMV ONLINEicon / amazon

フェステティチ四重奏団はハンガリーのブダペストに本拠を置く古楽器によるクァルテット。メンバーはこのHUNGAROTON盤もARCANA盤も変わっていません。

第1ヴァイオリン:イシュトヴァン・ケルテス(István Kertész)
第2ヴァイオリン:エリカ・ペテーフィ(Erika Petőfi)
ヴィオラ:ペーター・リゲティ(Péter Ligeti)
チェロ:レジェ・ペルトレーニ(Rezső Pertorini)

第1ヴァイオリンのイシュトヴァン・ケルテスはウィーン・アカデミー合奏団の元コンサートマスターということで古楽器の名手とされる人のようです。

まずはHUNGAROTON盤から聴いてみましょう。

Hob.III:22 / String Quartet Op.9 No.4 [d] (c.1769-70)
太陽四重奏曲でシュトルム・ウント・ドラング期の頂点を迎えるハイドンですが、Op.9はその数年前の作品。それまで5楽章が多かった弦楽四重奏曲が4楽章形式となった作品。音楽的にも後年の作品と比べてまだまだシンプルな構成ながらこの時期特有のうら悲しいメロディーを含む佳作。そのOp.9の1曲目におかれたNo.4。フェステティチ四重奏団の演奏は、このクァルテット独特のざらついた木質系の古楽器の特徴的な音色にいきなり耳を奪われます。暗く濁った響きからはじまるこの曲。すぐにヴァイオリンの張りのある音色が曲を支配して、独特の音色は他のクァルテットとは一線を画す魅力を持っています。テンポを揺らしながら、じっくり曲を描いていくような演奏。しかも9分の力で余裕を残しながら、巧みに曲想をコントロール。起伏も非常に大きく踏み込んだ表現がありますが、力は入りすぎないのが流石。徐々に徐々に表情を濃くしていき情念に近い曲の真髄を表現する名演奏。
2楽章はメヌエット。軽々としたタッチで自然なフレージング。軽く踊るための舞曲というような位置づけでしょう。必要十分な演出。ちょっとした休符にも意味ありげに表情をつけていくので単調さとは無縁。力が抜けていますがリズムのキレは冴えてます。
3楽章のアダージョ・カンタービレはやはりゆったりと、噛み締めるようにフレーズを刻んでいきます。ヴァイオリンのケルテシュは美音の限りを尽くした輝かしい音色。ヴィブラートをほとんどかけない伸びのある音色がぐっと響き渡ります。
フィナーレはフーガのようなメロディの繰り返しをタイトに表現。一音一音の音色の変化を巧みにつけながら速いパッセージをテンポ良く弾き抜いていきます。良く聴くと本当に一音一音よく表情がついていて、メロディに生気を与えている事がわかります。この音色の変化は秀逸。素晴らしい表現力。この曲の真髄に迫る名演奏です。

つづいてARCANA盤。HUNGAROTON盤よりも明らかにオンマイクの収録。残響は非常に少なく、弦楽器の音色がスピーカーから直接鳴り響く感じ。ダイレクト感はあるものの音場感がスポイルされ、若干不自然な感じ。フェステチィチ四重奏団の独特の音色は変わる事はありませんが、聴き比べると明らかに表現の幅、起伏が大きくなり、明らかに力感が増している感じ。ただし良い事ばかりではなく、HUNGAROTON盤で感じられた余裕が消えて、力みを感じるのも正直なところ。例えにならないかもしれませんが50年代のダンディズムを感じさせたカラヤンの演奏と、70年以降の音響を極めようと余裕のなくなった演奏の違いの様な感じ。私はやはりHUNGAROTON盤に分ありと思ってしまいます。この超デッドな録音は演奏する人にはディティールが良くわかっていいのかもしれませんが、音楽を楽しもうとするにはちょっとマイナスかもしれません。
2楽章以降も演奏のスタイルはほぼ同様、やはりARCANA盤はちょっと力んで聴こえるため、フェステティチ四重奏団のいいところがちょっと欠けてしまったように聴こえるのが惜しいところです。

ということで、フェステティチ四重奏団によるハイドンの弦楽四重奏曲Op.9の最初に置かれたNo.4の新旧聴きくらべはやはり旧盤に軍配があがりました。評価はHUNGAROTON盤が[+++++]、ARCANA盤は[+++]とします。意外と差がついてしまったように聴こえます。音楽とはわずかの違いが非常に印象を変えてしまうものということでしょう。HUNGAROTON盤は絶対のおすすめ盤です。

ARCANA盤もまだ全部手に入れておりませんので、出会ったらまた聴いてみたいと思います。

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tag : 弦楽四重奏曲Op.9 古楽器

弦楽四重奏曲の誕生

8時をまわって今日はテレビは選挙特番一色。
情勢もなんとなく見えてきたので、チャンネルをまわしていると、教育テレビでN響アワー。武満徹の特集でした。特にデュトワの指揮の「系図-若い人たちのための音楽詩」がすばらしかった。手元にある小澤征爾盤よりもキレがいい感じでしたね。小澤盤と同じ遠野なぎこ(小澤盤は遠野凪子との表記)の語りと御喜美江のアコーディオン。
やはり武満はいいですね。日本人の心に刺さります。

小澤盤を紹介しておきましょう。

TakemitsuOzawa.jpg

さて、世界の人の心に刺さるハイドンのアルバムですが、今日は先日twitterで教えてもらったアルバムがHMV ONLINEで到着。

CasalQuartett.jpg
http://www.hmv.co.jp/product/detail.asp?sku=3739979

このアルバムのタイトルがまたイケてます。Birth of the String Quartet、すなわち弦楽四重奏の誕生というタイトル。
弾いているのはカザル四重奏団という若手の団体。

カザル四重奏団のウェブサイト

収録曲目は次の通り。すべて弦楽四重奏曲。
スカルラッティニ短調(1715年)、サンマルティーニト長調(1740年頃)、モーツァルトKv80ト長調(1770年)、ボッケリーニOp.2/1ハ短調(1761年)、そしてハイドンはOp.9のNo.4ニ短調(1769年)

聴きすすんでいくにつれて、弦楽四重奏曲の構成が緊密に。ハイドンの天才が弦楽四重奏の歴史のパースペクティブ上に浮き上がってくるという好企画。すばらしい企画意図です。
企画もの好きの私のコレクション欲を満たす逸品。

ハイドンの演奏は古楽器によるもので、若さが前面に出た溌剌とした演奏。ハイドンの初期の短調の曲特有のほの暗い陰のあるメロディーをうまく表現できていると思います。張りつめた弦の響きが心地よく、各楽器の織りなすメロディーの対話が緻密です。

このアルバムのもうひとつの魅力はジャケットの丁寧なつくり。いつものB級デザイン乗りではなく、きちんとデザインされたプロダクツとして、よく出来ています。楽器の写真をあしらった垢抜けたデザインで、このアルバムの好企画を支えています。

さてさて、今晩はワールドカップの決勝戦。起きて観るまで元気はありませんが、タコのパウル君の予想通り、スペインに軍配があがりますかどうか。個人的にはオランダ応援です。つまりパウル君の予想ははずれるとの大胆な読み。

はたしてどうなりますやら。(笑)

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tag : 弦楽四重奏曲Op.9 現代音楽 武満徹 古楽器

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Author:Daisy

なぜかハイドン(Franz Joseph Haydn)が特に気に入り膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。東京在住のごく普通のサラリーマンです。

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所有盤をジャンル別にリスト化しています。基本的に録音年順とし、録音年不明のものは末尾に記載。演奏者名はジャケットなどの表記に合わせています。

2017年7月のデータ(2017年7月31日)
登録曲数:1,361曲 登録演奏数:10,291
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