【新着】オラ・ルードナー/ロイトリンゲン・ヴュルテンベルク・フィルの悲しみ(ハイドン)

しばらく間を空けてしまいましたが、新着アルバムが続きます。

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オラ・ルードナー(Ola Rudner)指揮のロイトリンゲン・ヴュルテンベルク・フィルハーモニー管弦楽団(Württembergishe Philharmonie Reutlingen)の演奏で、モーツァルトの協奏交響曲KV.297b、ハイドンの交響曲44番「悲しみ」、ベートーヴェンの交響曲8番の3曲を収めたSACD。収録は2014年4月22日から25日、10月27日から28日、収録場所は記載されておりません。レーベルは独Ars Production。

このアルバムは最近リリースされたばかりのもの。指揮者もオケも馴染みがなく、聴く前からちょっと期待が高まります。

オラ・ルードナーはスウェーデン生まれの指揮者。ヴァイオリニストとしてジェノヴァで開催されたパガニーニ国際ヴァイオリン・コンクールで入賞したのをはじめに、シャーンドル・ヴェーグのアシスタントとなり、カメラータ・ザルツブルク、ウィーン・フォルクスオーパー、ウィーン交響楽団のコンサートマスターとして活躍しました。1995年にはフィルハーモニア・ウィーンを創設、2001年から2003年までタスマニア交響楽団、2003年から2007年までイタリア北部のボルツァーノのハイドン管弦楽団の首席指揮者務め、その後ハイドン管弦楽団の終身客演指揮者となっています。このアルバムのオケであるロイトリンゲン・ヴュルテンベルク・フィルには2008年から首席指揮者を務めているとのこと。日本ではあまり知られた人ではありませんが、地元スカンジナビア、オーストラリアなどでは広く知られた人のようですね。オペラも得意としているようで、フォルクスオーパーの常連のようです。

Ola Rudner

Hob.I:44 Symphony No.44 "Trauer" 「悲しみ」 [e] (before 1772)
SACDらしく広い空間にオケが響くようすがよくわかる録音。演奏は新たなリリースとしては珍しくオーソドックスで、手堅さが光るもの。オケは適度に粗さもあって、それが迫力につながっています。太い筆で勢いにのって書かれた書のよう。金管木管は抑え気味で弦楽器重視の端正なバランスの響き。1楽章は教科書的正統派の演奏。もう一歩の踏み込みがほしいいという余韻を残します。
つづくメヌエットも端正なテイストは変わらず、淡々と演奏を続けますが、短調の仄暗いメロディーから自然に立ち上る情感が滲みでてきてこうしたスタイルも悪くないとの印象。楽章ごとの対比ではなく滔々と流れる音楽の一貫性を重視しているようです。作為のない表現を通してハイドンの音楽の魅力が浮かび上がってきました。ルードナーはオケをきっちりコントロールしながら、自身の作為を極限までなくそうとしているような指揮ぶり。この名曲の魅力を実に自然に感じさせます。
つづくアダージョも同様。ここに至って、ルードナーのオーソドックスなコントロールも悪くないと思い始めます。前のメヌエット同様、ハイドンの美しいメロディーがしっとりと心に沁みてきます。元ヴァイオリン奏者らしく弦楽器のフレージングは実に丁寧で自然。この楽章の美しいメロディーが生成りの布のような優しい感触で包まれます。
フィナーレに入るとオケはギアチェンジしてかなりの迫力。特に分厚く響く弦楽器の迫力はかなりのもの。鮮明な録音により自然な厚みのある響きが心地よく伝わります。よく聴くと各パートともに実によく揃っています。鍛え上げられた弦楽器陣の響きが魅力のオケであることがわかります。明らかにフィナーレの力強さを意識した演奏でした。

つづくベートーヴェンの8番もハイドンの終楽章の力感を引き継いで、素晴らしい迫力の入り。こちらも端正さを基調にした好演。

オラ・ルードナーというスウェーデンの指揮者によるハイドンの名曲「悲しみ」。近年では珍しい実にオーソドックスな演奏。優秀な弦楽器陣の繰り出す分厚い響きを基調にした端正なハイドンです。録音も優秀なので、この交響曲の魅力をベーシックに伝えるいい演奏だと言っていいでしょう。古楽器や古楽器風の斬新な演奏も魅力的ですが、こうした地に足のついたアプローチの魅力も捨て難いですね。人によってはこうした演奏の方がハイドンの魅力が伝わるという意味で高評価となるかもしれませんが、私の評価は[++++]としておきます。

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tag : 悲しみ SACD

ジョン・ラボック/セント・ジョーンズ・スミス・スクエア管の悲しみ、受難(ハイドン)

あまり知られていない超名演奏、見つけました。

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ジョン・ラボック(John Lubbock)指揮のセント・ジョーンズ・スミス・スクエア管弦楽団(The Orchestra of St. John's Smith Square, London)の演奏による、ハイドンの交響曲44番「悲しみ」、49番「受難」の2曲を収めたアルバム。収録年に関する表記はなくPマークが1986年とだけあります。レーベルは名録音の多いMCA CLASSICS。

ちょっと廉価盤然としたジャケットに「悲しみ」と「受難」というハイドンのシュトルム・ウント・ドラング期の短調の傑作交響曲2曲を組み合わせたアルバム。さして期待せずCDプレイヤーにかけてみると、実にしなやかかつ緻密な音楽が流れてきてびっくり。何気なく聴きはじめましたが、あまりの充実度に集中。これは衝撃的に素晴らしい演奏です。

ということでまったく未知だった奏者の情報を調べます。

指揮者のジョン・ラボックは検索するといろいろなアルバムをリリースしているようですが、あまり情報がありません。指揮者であり歌手であるようで、1967年にこのアルバムの演奏を担当するセント・ジョーンズ・スミス・スクエア管弦楽団を設立。Promsには1976年から2006年の間に6度出演しており、現代作曲家の作品の初演などを担当しているとのこと。1999年にはロンドンの王立音楽院の名誉フェローに選ばれています。

ということで今ひとつよくわかりませんが、このハイドンの稀有な名演をレビューすることにいたしましょう。

Hob.I:44 / Symphony No.44 "Trauer" 「悲しみ」 [e] (before 1772)
極めてオーソドックスな入り。程よい躍動感を伴ってよくコントロールされたオケがほの暗い悲しみのメロディーを奏でていきます。ただし、ただオーソドックスな演奏なだけではなく、くっきりとしたバランスの良い陰影がついて、ほのかにアーティスティック。適度に写実的な風景画を見るようですが、色のバランスや構図の設定がよく、まるでフェルメールが書いたような穏やかな個性があります。このコントロールは相当の技術的裏付けと音楽性が必要。演奏のタイプはニコラス・ウォードやロバート・ハイドン・クラークのような方向性。この曲の1楽章に潜む劇性をしなやかに描ききります。こうした円熟の技によるオーソドックスな演奏こそ、ハイドンの名曲を引き立てます。1楽章から身を乗り出して音楽に入りこみます。
続く2楽章に入っても演奏スタイルは変わらず、滔々と音楽が流れます。一貫して堅固な構成。全ての音に必然性があり、実にしなやかな音楽。素晴らしい完成度。弦によるメロディーをうっすらと隈取る木管やホルン。各奏者はハーモニーを乱すことなくそっと音を乗せていき、まるで一人の奏者による演奏の重ね録りのような一体感。
絶品なのが続く3楽章のアダージョ。テンポをかなり落としてビロードのような肌触りの極上の癒しに満ちた音楽が流れます。この楽章をここまで磨き込んだ演奏を知りません。音楽がとろけて心に染み込んできます。バーンスタインのような脂っこさはなく、清々しい練りによって、ハイドンらしさを保っています。絶品。悲しみが昇華されて天に昇っていくよう。
フィナーレは、節度を取り戻すようにオーソドックスな演奏に戻ります。深く燻らしたような陰影を伴いながらもオケの表現は穏やかに踏み込んで、躍動感もかなりのもの。気づいてみれば色彩感豊かなバランスの良い演奏できりりと締まって終わります。

Hob.I:49 / Symphony No.49 "La passione" 「受難」 [f] (before 1768)
入りはアダージョ。前曲の3楽章の素晴らしいアダージョの再来のような、いきなりぐっと沈み込む情感が伝わります。この遅いテンポの描き方の深さは相当なもの。冒頭から惹きつけられます。ヴァイオリンの高音部を強調してメロディーをくっきり浮かび上がらせるなど、演出上手なところも垣間見せます。迫真のアダージョ。
大波が寄せては返すような大きな流れを彷彿とさせる2楽章。前楽章の暗く沈む情感から激しく展開して各パートもかなり踏み込んだ表現に変わりますが、相変わらずオケの一体感は素晴らしく、すばてのパートが完璧にコントロールされています。ジョン・ラボックはよほどの完璧主義者だと想像。
メヌエットは穏やかな劇性を感じるこの曲一番の聴きどころ。この穏やかさを保ちながら音楽の起伏を表現するあたり、やはり只者ではありません。あえて淡々と刻む伴奏に対し、非常に深い音色のヴァイオリンの奏でるメロディーが孤高の表情。
フィナーレは疾走するオケの魅力で一気に聴かせます。かなりのテンポにもかかわらず各パートのつながりの良さが印象的。要所できりりと引き締まりながらも疾走を続け、最後はきっちり終えます。

いやいや、このアルバムの演奏、この2曲のなかでも指折りの名演と断じます。悲しみ、受難といえば名演盤が多い名曲ですが、その中にあっても燦然と輝く価値があるといっていいでしょう。特にアダージョ楽章の濃密な情感と癒し音楽、全体のバランスを崩さないコントロール、そして何より素晴らしいのがオケの一体感。これが今では無名に近い演奏者の演奏というのが驚きです。有名どころの演奏よりよほどハイドンの真髄に迫っていると言っていいでしょう。この2曲はハイドンの交響曲でも名曲であり、その名曲の代表的な名演として永く聴き続けられるべき価値のあるアルバムです。評価はもちろん[+++++]。手に入るうちにどうぞ!

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tag : 悲しみ 受難

ダニエル・バレンボイム/ECOの悲しみ、告別、マリア・テレジア

前記事でとりあげたバレンボイムのLPが良かったので、すかさずamazonにバレンボイムの現役盤CDを注文。

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HMV ONLINEicon / amazon / TOWER RECORDS

ダニエル・バレンボイム(Daniel Barenboim)指揮のイギリス室内管弦楽団(English Chamber Orchestra)の演奏で、ハイドンの交響曲44番「悲しみ」、45番「告別」、46番「マリア・テレジア」の3曲を収めたアルバム。収録は「悲しみ」が1975年9月エジンバラ、その他の2曲が1978年3月、ロンドンのヘンリー・ウッド・ホールでの世ション録音です。

このアルバム、国内盤でユニバーサルから"The Best 1200"というシリーズでリリースされたもの。この手の国内盤はほとんど買ったことがありませんでしたが、バレンボイムのハイドンの初期交響曲で現在入手しやすいのはこれしかないため、躊躇せず注文したものです。

国内盤はジャケットのセンスも今一。仕事は丁寧ですが、所有欲をかき立てるかというとそうではなく、どうしても輸入盤の方にいってしまうのが正直なところです。このアルバムもジャケットもせっかくのDG風のものに茶色の縁取りとThe Best 1200というセンスの悪いロゴが入って、今ひとつどころか、美的感覚が疑われるところ。ただし内容は悪くありませんでした。

上記のHMV ONLINEのリンクをご覧戴くとわかるとおり、「高精度ルビジウム・クロック・カッティング」が売り物で、帯にも「ルビジウム・クロック・カッティングによるハイ・クォリティ・サウンド」とのコピーが踊ります。LPで聴かれた繊細かつデリケートなコントロールが最新のリマスターでどのように蘇ったのか、興味は尽きません。

バレンボイムの情報は前記事を参照いただくとして、早速レビューに入りましょう。

Hob.I:44 / Symphony No.44 "Trauer" 「悲しみ」 [e] (before 1772)
前記事で取りあげたLPの演奏の穏やかな感覚とは異なり、流石に名曲「悲しみ」は冒頭から力感に満ちた入り。テンポも速めでバレンボイムがかなり煽っているのがわかります。いい意味で期待したよりも覇気に溢れた演奏。バレンボイムらしく音量を落とした部分の丁寧な演出は健在です。オケのイギリス室内管は名手ぞろいで、くすんだイギリスの空のような深みのある音色が魅力。弦パートのキレの良さは他のアルバムでも聴き所なほどイギリス室内管の特徴的なもの。ハイドンの名曲の実に味わい深い演奏です。肝心の音質は、もちろん音にこだわったCDですので安定しています。ただし、LPほどの繊細な解像感はないものの、ダイナミックレンジと迫力は最新のリマスターらしくなかなかのものです。
2楽章のメヌエットはほの暗く、サラッとオーソドックスな演奏。良く聴くと表情の変化があって聴き応えはありますが、バレンボイムらしく実に地味な展開。
秀逸なのは3楽章のアダージョ。やはり前記事のLPから期待した、非常にデリケートな弱音部のコントロールが絶妙。抑えているのに非常に表情豊かな演奏。ハイドンの緩徐楽章のツボをおさえた演奏ですね。古き良きハイドンの魅力を存分に味わえます。
そしてフィナーレに入ると図太い低音弦の象徴的なメロディーが巨大構造物のごとき存在感で非常に印象的。楽章の変わり目の呼吸というか演出が非常に上手いですね。フィナーレは弦の分厚い響きによるザクザクとした演奏が大迫力。オケ全体から立ちのぼる気迫とエネルギーが伝わります。まさに力感の塊のような演奏。

Hob.I:45 / Symphony No.45 "Farewell" 「告別」 [f sharp] (1772)
演奏場所が変わってヘンリー・ウッド・ホールでの録音。どちらかというと、前曲のエジンバラでの録音の方がキレがあるように聴こえます。基本的には聴きやすい録音ですが、響きが前曲と比べると固まって、余韻の漂う感じが薄れ、多少デッドな印象です。この録音の印象が演奏の印象にも影響して、やはり第一印象はオーソドックスで地味目なもの。ただし良く聴くとイギリス室内管の魅力ある演奏でもあり、バレンボイムらしいオーソドックスながら豊かな表情も聴き取れます。
続くアダージョも同様、前曲で聴かれた繊細なコントロールほどの緻密さは感じず、実にオーソドックス。これはLPで聴くともうすこし表情がくっきり浮かんでくるような気がします。ただ、曲が進むにつれて抑えた部分の表情は豊かになってくるところはバレンボイムの意図通りなのでしょうか。
そしてメヌエットは吹っ切れたような自然なソノリティが魅力。前楽章のデリケートなコントロールのあとに、ある意味淡々としたメヌエットを重ね、楽章ごとの変化を印象づけます。
そして聴き所のフィナーレ。前半は予想通りクッキリした表情で淡々といきます。後半も予想通りあっさり淡々とした入り。徐々に楽器が減るところでも一貫した表情で特に目立った演出は加えません。徐々に寂しさが浮かび上がってきて,ふと我に返るような演奏ですね。

Hob.I:48 / Symphony No.48 "Maria Theresia" 「マリア・テレジア」 [C] (before 1769?)
最後はマリア・テレジア。録音会場は前曲同様ヘンリー・ウッド・ホールですが、響きの力感と鮮明さはむしろ1曲目の悲しみに近い印象。このアルバムで一番クッキリハッキリした録音に聴こえます。クッキリしすぎてちょっと整理し過ぎな印象もある感じです。祝祭感あふれるこの曲らしく、力感とエネルギー感を感じさせるコントロールですが、逆にデリケートさは交代して、若干の単調さをはらんでしまっています。
2楽章に入るとデリケートなニュアンスが戻ってきました。陰りのあるイギリス室内管のしっとりとした響きとバレンボイムのあっさりとしたコントロールが実にいい感じ。木管楽器の美しい音色と弱音器付きの弦楽器群の織りなすハーモニーが美しく溶け合います。
メヌエットは祝祭感満点。クッキリ明るい部分は若干古風な印象もありますが、すぐに展開して、陰りが強くなり陽と陰のコントラストを見せます。そしてフィナーレもクッキリした明解な響きが基調となり、バレンボイムもクライマックスに向けてテンポを上げて煽ります。フィナーレは快速テンポで一気に聴かせてしまいます。

バレンボイムの指揮するイギリス室内管の演奏によるハイドンのシュトルム・ウント・ドラング期の傑作交響曲集。前記事のLPが一貫してゆったりかつ抑えた部分の表情の美しさで聴かせたのに比べると、こちらはテンションの高い力感を重視した演奏に聴こえますが、曲によっては、力感重視のところは単調な印象もはらみますね。CDとしてのリマスタリングは手間をかけているように聴こえ、音質もなかなかのものですが、やはりLPによる繊細な響きの魅力は捨て難く、比べるとLPに軍配が上がりますでしょうか。評価は「悲しみ」が[+++++]、告別が[++++]、マリア・テレジアは[+++]とします。

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tag : 悲しみ 告別 マリア・テレジア

ネヴィル・マリナー/アカデミー室内管の「悲しみ」

今日はマリナーの交響曲集から。

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サー・ネヴィル・マリナー(Sir Neville Marriner)指揮のアカデミー室内管(Academy of St Martin in the Fields)によるハイドンの名前つき交響曲集。今日はその中からマリナーの名演が聴けるCD3の「悲しみ」を取りあげます。収録は1975年10月で収録場所は明記されていません。レーベルはもちろんPHILIPSです。

ネヴィル・マリナーのハイドンはいろいろ取りあげていますが、交響曲はまだ多くありません。

2011/08/21 : ハイドン–交響曲 : マリナー/アカデミー室内管の86番
2011/08/10 : ハイドン–声楽曲 : 【お盆特番1】マリナー/ドレスデン・シュターツカペレのネルソンミサ
2011/04/24 : ハイドン–協奏曲 : バリー・タックウェル/マリナーのホルン協奏曲
2011/03/03 : ハイドン–協奏曲 : ハーデンベルガー、マリナー/ASMFのトランペット協奏曲
2011/02/27 : ハイドン–オラトリオ : フィッシャー=ディースカウフル登場、マリナー/ASMFの天地創造-2
2011/02/27 : ハイドン–オラトリオ : フィッシャー=ディースカウフル登場、マリナー/ASMFの天地創造
2010/12/06 : ハイドン–声楽曲 : マリナー/ドレスデン・シュターツカペレの戦時のミサ
2010/10/14 : ハイドン以外のレビュー : ホリガーのモーツァルトのオーボエ協奏曲
2010/10/03 : ハイドン–協奏曲 : リン・ハレルのチェロ協奏曲集

マリナーの交響曲はこの8月にパリ・セットを収めた2枚組から86番を取りあげたのみ。86番は速めのテンポによるタイトな名演でした。今日取り上げる名前つき交響曲集の中で、26番ラメンタチオーネと47番の2曲だけがマリナーの演奏ではなくレイモン・レッパード(Laymond Leppard)指揮のイギリス室内管弦楽団(English Chamber Orchestra)の演奏で、この穴埋め的存在のレイモン・レッパードの演奏は以前にレビューしています。この交響曲集から1曲選べと言えば、やはり「悲しみ」でしょう。

Hob.I:44 / Symphony No.44 "Trauer" 「悲しみ」 [e] (before 1772)
冒頭から素晴らしい覇気が伝わります。劇的なまでの立体感とエネルギーに満ちた推進力。1楽章のヴァイオリンによる音階はキレキレ。素晴らしいテンション。そしてこれぞPHILIPSという実体感、定位感がキリッと決まりながらも美しい残響にうっとり。PHILIPS録音の頂点といってもいい素晴らしい響き。そこここに次のフレーズへの橋渡しとなるアクセントが効果的に置かれ、力感、立体感は驚くほど。マリナーの悲しみ、これほど素晴らしいものとは思いませんでした。まさに手に汗握る圧倒的な迫力。1楽章から腰がくだけそう。
2楽章のメヌエットはまさにシュトルム・ウント・ドラング期特有の憂いをたたえた曲。そそり立つような素晴らしい立体感。彫り込みも深く劇的でもありますが、古典の均衡は保っているところがマリナーならではのバランスでしょう。
そして弱音器つきのヴァイオリンによって奏でられるアダージョも表情の豊かさが印象的。弱音器つきとは思えない分厚い響き。糸を引くようにメロディーを描いてきます。波の高さも十分で素晴らしい迫力。何と美しい音楽でしょう。
フィナーレはオケの各パートのせめぎ合いのような掛け合いが見事。特に弦楽器が拍子をかなり速めに打って畳み掛けるように掛け合うようすは見事の一言。

ネヴィル・マリナーの名前つき交響曲集から1曲選んだ「悲しみ」は予想を遥かに上回る素晴らしい演奏でした。マリナーのハイドンはドレスデン・シュターツカペレとのミサ曲など素晴らしい演奏も多いんですが、この『悲しみ」は交響曲の中ででもマリナーのハイドンの交響曲を代表する名演奏と言っていいでしょう。演奏、録音、企画と3拍子そろった素晴らしいもの。オススメです。評価はもちろん[+++++]とします。

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tag : 悲しみ

ハルトムート・ヘンヒェン/C.P.E.バッハ室内管のラメンタチオーネ、受難、悲しみ

今日はお気に入りのハルトムート・ヘンヒェンの名前つき交響曲集から。

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ハルトムート・ヘンヒェン(Hartmut Haenchen)指揮のカール・フィリップ・エマヌエル・バッハ室内管弦楽団の演奏によるハイドンの名前つき交響曲集。全6枚に交響曲18曲、序曲1曲を収めたアルバム。今日はその中からCD1の交響曲26番「ラメンタチオーネ」、49番「受難」、44番「悲しみ」、歌劇「無人島」序曲(Hob.Ia:13)の4曲を取りあげます。収録は1987年11月と手元の記録にはありますが、ライナーノーツには記載されていません。レーベルはedel CLASSICS。

このアルバムからは以前「哲学者」を取りあげていますが、すばらしい演奏でした。演奏者などの情報はこちらの記事をご参照ください。

2011/01/26 : ハイドン–交響曲 : ハルトムート・ヘンヒェンの哲学者

なんとなく交響曲のいい演奏が聴きたくなり取り出したアルバム。今日はシュトルム・ウント・ドラング期の傑作交響曲を選びました。

Hob.I:26 / Symphony No.26 "Lamentatione" 「ラメンタチオーネ」 [d] (before 1770)
柔らかい音色のオーケストラが繊細なハープシコードの響きを伴って、この曲独特のほの暗い旋律を生気溢れる演奏で描いていきます。ヴァイオリンの軽さと低音弦の迫力、リズムのキレの良さが抜群。小編成オケでしょうが響きのまとまりは非常に良く、まさにこの曲独特の雰囲気を万全に表していきます。活き活きとしたメロディ、哀愁に満ちた響き、小気味好いキレ。必要十分というか完璧です。
2楽章のアダージョは爽快さを感じさせるほどの速めのテンポ。メロディーラインの描き方が上手く、速いながらも情感は十分。こなれた音響によるすばらしい感興。録音は鮮明さは最新のものに劣るものの鑑賞には十分。繊細なハープシコードの響きが雅さを加えています。オケは奏者全員が高い音楽性を身につけているよう。
フィナーレはこれ以上ないほどの生気が漲る演奏。インテンポで入るアタックのキレが素晴らしく、肩に力が入っていないのに踊り出すような音楽。中世のバシリカの窓から差し込む光が、重厚な石積みの立体感を活き活きと浮き彫りにしているよう。ラメンタチオーネにはニコラス・ウォードの中庸の美学を極めた名演盤がありますが、このヘンヒェンの演奏も速めのテンポによる、爽快なのに実に味わい深い名演と言えるでしょう。

Hob.I:49 / Symphony No.49 "La passione" 「受難」 [f] (before 1768)
深く沈み込むオーケストラの音色。大きく表情を浮き彫りにする素晴らしいフレージング。彫りの深い演奏はまるで部屋にパルテノン神殿が出現したよう。絶妙の呼吸とデュナーミク。暗黒の淵を覗くような深い情感。名演の予感です。冒頭から素晴らしい響き。ハープシコードもじつに効果的。1楽章は圧巻の出来です。ヘンヒェンのコントロールは情感と立体感をバランス良く表現。くどさもわざとらしさも感じさせず、見事という他ありません。
2楽章に入り速度はあまり上げませんが、やはりエネルギーが満ちてきます。高低に変化する旋律の対比がすばらしいですね。音階が音の連なりの糸を引くようなところがなく非常にキレのいいのが特徴。音色も柔らかくするところとカッチリするところメリハリが見事。なにより音楽が活き活きとしていて、ハイドンの見事な音楽がまさに生きているような進行。
メヌエットも安心して聴いていられる安定感。弦楽器に宿るうら悲しいエネルギーが顔を出すたびに、この曲がシュトルム・ウント・ドラング期の作品であることを思い起こさせます。
フィナーレは、予想していたのとは少し異なり、流すような流麗なもの。最後にこの力の抜き具合は見事です。1楽章の圧倒的な存在感がこの演奏のポイント。

Hob.I:44 / Symphony No.44 "Trauer" 「悲しみ」 [e] (before 1772)
名曲「悲しみ」。穏やかに入りますが、最初のテーマの速い音階にちょっと癖のある表情で変化をつけます。前2曲にくらべて、力が抜けた演奏と言えるでしょう。1楽章の聴き所であるヴァイオリンの音階はことさらキレを強調する事なく、音楽全体の流れを重視するようですが、音楽がすすむにつれて徐々にエネルギーが満ちていき、最後にクライマックスを持っていくあたりが流石。
メヌエットはハイドンのこの時期の交響曲のなかでも素晴らしい出来のもの。メヌエットなのに情感が溢れ出す素晴らしいもの。ヘンヒェンはこのメヌエットの魅力を余裕たっぷりに表情をつけ、じっくりと描いていきます。やはりフレージングの上手さが際立ち、さりげないのに表現の彫りの深さは素晴らしいですね。
アダージョも絶品。立ちのぼるシュトルム・ウント・ドラング期の香り。ハイドンの時代にタイムスリップしたよう。
フィナーレは弦楽器のキレが最高潮に。弦楽器のキレがメロディーを見事に浮き上がらせ、ザクザクとメロディーを刻んでいきます。最後に迫力を見せつけて終了です。

Hob.XXVIII:9 / "L'isola disabitata" 「無人島」 (1779) 序曲
最後はオペラの序曲。シュトルム・ウント・ドラング期のちょっと後の作曲。序奏から独特の劇性があり、じっくりと畳み掛ける主題、ほのかな明るさを感じさせる中間部と、なかなか聴き応えのある曲。ここでもヘンヒェンはじっくりとオペラの幕が上がる前のざわめき感を上手く聴かせて、このアルバムの素晴らしい演奏を締めくくります。

ハルトムート・ヘンヒェンとカール・フィリップ・エマヌエル・バッハ室内管弦楽団の演奏によるハイドンのシュトルム・ウント・ドラング期の傑作交響曲3曲の演奏。昔から好きなアルバムでしたが、あらためて取り出して聴くと、その素晴らしさはやはり図抜けています。やはり説得力がちがうというか、ハイドンの時代にタイムスリップしたような素晴らしい響きを聴かせてくれます。評価は序曲を含めて4曲全曲[+++++]です。

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tag : ラメンタチオーネ 受難 悲しみ オペラ序曲 ハイドン入門者向け

イェジー・マクシミウク/ポーランド室内管の「悲しみ」、46番

今日もラックの中からふと取り出した1枚。ラックの肥になってました(笑)

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イェジー・マクシミウク(Jerzy Maksymiuk)指揮のポーランド室内管弦楽団(Polish Chamber Orchestra)の演奏で、ハイドンの交響曲44番「悲しみ」、45番「告別」、46番、47番、48番「マリア・テレジア」、49番「受難」の6曲を収めたアルバム。収録は、「悲しみ」と「告別」が1979年9月、「受難」が1977年3月、その他が1978年7月、何れもロンドンのアビー・ロード・スタジオのスタジオ1でのセッション録音。レーベルはEMI CLASSICS。

このアルバム、ハイドンの名演が多いポーランドものということで取りあげました。ポーランドの悲しみと言えば、知る人ぞ知るこれです。

2011/01/16 : ハイドン–交響曲 : シュミット=ゲルテンバッハ/ワルシャワ・シンフォニアの悲しみ

読んでいただければわかるとおり、衝撃の1枚でした。特にヴァイオリンの凄まじいキレ具合は麻薬的なもの。たまに取り出しては聴いていますが、この「悲しみ」は素晴らしいものでした。以来、ポーランドものは気になる存在となりました。

このアルバム自体は結構前に手にいれていましたが、あまり積極的に評価できる印象はありませんでした。今日、久しぶりに取り出して1曲目の「悲しみ」をかけたところ、来てます。ゲルテンバッハばりのヴァイオリンのキレです。1楽章で早くも素晴らしい陶酔感。これはちゃんとレビューしなくては。

イェジー・マクシミウクは1936年、ポーランドの東端から少し入ったベラルーシのフロドナ生まれ。ポーランドのワルシャワ音楽院でヴァイオリンとピアノ・指揮・作曲を学び、1964年にパデレフスキ・ピアノコンクールで優勝しました。その後指揮活動が中心となって、ワルシャワ大劇場で指揮者として働くようになりました。自身で創設したこのアルバムのオケであるポーランド室内管弦楽団とともに1977年イギリスでデビューし、その後世界的に活動するようになりました。1975年から77年まではポーランド国立放送交響楽団の首席指揮者、1993年からはポーランド南部の街、クラクフのクラクフ・フィルハーモニーの首席指揮者として活躍しています。1983年以降はイギリスでBBCスコティッシュ交響楽団をはじめとして数多くのオケと共演、ヨーロッパの主要オケや日本、アメリカのオケとも仕事をするという国際的な活躍をしている人です。ベラルーシ生まれとはいえ活動のオリジンはポーランドにあるようですね。

Hob.I:44 / Symphony No.44 "Trauer" 「悲しみ」 [e] (before 1772)
来ました。冒頭のタイトな小編成オケの響きに続いてヴァイオリンの素晴らしいキレ具合の音階。ゲルテンバッハばりの素晴らしい音階。悲しみの1楽章の聴き所といえば、この素晴らしい音階です。恍惚感すら感じるキレ具合。時折レガートを効かせて変化をつけます。どことなくストイックな雰囲気が集中力を高めます。これは確信犯的アプローチですね。ポーランドのオケの伝統でしょうか。速いパッセージを素晴らしい弓さばきで松ヤニをまき散らしながら演奏。アクロバチックな印象すら与える弦楽器のキレ。
2楽章は音を切り気味にした特徴的な演奏。じっくりとリズムを刻みながら叙情に傾かないコントロール。若干デッド気味の録音がかえって響きの純度を高めて、音楽の浸透力を増しているようです。素朴さが際立ちます。
3楽章のアダージョは弱音器つきのヴァイオリンの聴き慣れたメロディ。デュナーミクのコントロールは緻密というより素っ気なさも感じる直截なもの。溢れる情感が沸き上がる演奏というよりは素朴な肌合いと素直さが心情というような演奏。これもハイドンの魅力でしょう。ここまで聴き進んでマクシミウクの狙いがようやく見えてきました。ちょっと無骨さをも感じる荒っぽさで、仕上げを気にするというより骨格の表現にすぐれた木炭デッサンのような音楽。それでも沸き上がるシュトルム・ウント・ドラング期のほの暗い情感。
フィナーレは再びヴァイオリンのキレた音階が蘇ります。ヴァイオリンセクションは速くてキレのいいメロディを弾く事に絶対の自信をもっているよう。このキレは只者ではありません。非常に鮮明な主張をもった音楽。両端楽章のキレとエネルギー感は素晴らしいものがあります。

もう1曲行きます。

Hob.I:46 / Symphony No.46 [B] (1772)
CD1枚めの3曲目に置かれた交響曲46番。この前の45番「告別」なかなかまとまった演奏ですが、46番の方にマクシミウクの特徴が出ていると思い取りあげました。冒頭からヴァイオリンをキレをどこで表現しようか迷いがあるのか、ちょっとつんのめった腰高な演奏。弦楽器のキレは相変わらずいいのですが、曲が落ち着かず、速弾きのような慌てた感じ。これがこの曲のコミカルな側面を表していて意外と面白い表情。
2楽章のポコ・アダージョはじわりと沁みる演奏を期待してしまいますが、この楽章も箱庭的なコミカルさが基調にある演奏。ハイドンの交響曲に潜むユーモラスなところを見事に表していると取る事もできますね。かなりユニークな演奏ですが、指揮者の視点が明確にわかるという点ではなかなか含蓄ある演奏と言えるかもしれません。
メヌエットもざっくりして、溜めなく気負いなく、すすっと入り、すすっと進めます。意外と表情の変化やアクセントを付けて楽しませてくれます。この気負いのない音楽こそハイドンの本質を表しているかもしれませんね。
フィナーレはまた来ました! リズムの鮮度と曲の面白さを手作りの音楽で楽しませてくれます。ヴァイオリンのメロディのキレはやはり流石。短調への転調と表情の変化、盛り上がる感興。迸る機知。ヴァイオリン奏者が自慢げに髪を振り乱してメロディーをザクザク刻む姿が目に浮かびます。純粋無垢の子供のような心で解釈して演奏したらこうなるだろうというような演奏。なかなか面白いです。

イェジー・マクシミウク指揮のポーランド室内管弦楽団の演奏でハイドンのシュトルム・ウント・ドラング期の交響曲集。出だしの「悲しみ」のヴァイオリンのキレは素晴らしいもの。ただし、テクニックを誇る演奏ではなく、音楽を演奏する楽しみに溢れた、素朴で、純粋無垢な心を感じる演奏。並みいる名演盤と並べると、表情の豊かさ、深さ、完成度ではかなり差がつくのも正直なところですが、この演奏には音楽を演奏する素朴な楽しみのエッセンスがあるような気がします。指揮者もオケも純粋にハイドンの交響曲の演奏を楽しんでいるよう。これもハイドンの真髄に迫った演奏と言えるかもしれません。評価は「悲しみ」が[++++]、46番は[+++]とします。このアルバム、ハイドンの交響曲をいろいろ聴きこんだ耳の肥えた方にお薦めしたいですね。これもいいアルバムです。

追伸)
有田さん、拍手コメントありがとうございます! 返信ができないのでこちらで失礼。心に触れるレビューを目指して精進します。とても大切なお仕事につかれていることを知り応援したい気持ちになりました。今後ともよろしくお願い致します。

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tag : 悲しみ 交響曲46番

アントニオ・ヤニグロ/ラジオ・ザグレブ交響楽団の「悲しみ」

今日は定番のアルバム。ずいぶん久しぶりに取り出しました。

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アントニオ・ヤニグロ(Antonio Janigro)指揮のラジオ・ザグレブ交響楽団(Symphony Orchestra of Radio Zagreb)の演奏で、ハイドンの交響曲44番「悲しみ」、45番「告別」、46番、47番、48番「マリア・テレジア」、49番「受難」の6曲を収めたアルバム。収録は1963年8月19日、20日、当時はユーゴスラビア、現在はクロアチアのザグレブ(録音場所は不明)でのセッション録音。レーベルはVANGUARD CLASSICS。

ラックからしばらく聴いていないアルバムを偶然取り出したもの。おそらく手に入れたのは15年以上前の事だと思いますが、10年以上取り出していませんでした。出だしの悲しみをちょっとかけてみたところ、遥か昔の記憶とは異なり、非常に鮮明かつ情感的な音響でビックリするほど素晴らしい演奏。いまさらビックリしても遅いのですが、、、(苦笑)

今日は6曲のなかから時間の関係で「悲しみ」1曲を取りあげます。

Wikipediaの情報によれば、アントニオ・ヤニグロは1918年、イタリア、ミラノの生まれのチェリストで指揮者。1989年に亡くなっています。幼少の頃からチェロを学び、母の努力で11歳でパブロ・カザルスのレッスンを受けたのをきっかけにして、パリのエコール・ノルマルでカザルスの教えを受けることになりました。パリではポール・デュカス、ストラヴィンスキー、コルトー、ティボーなどの一流の演奏家と親交をもつように。ディヌ・リパッティとは親友であり、1937年のエコール・ノルマル卒業後リパッティやパウル・バドゥラ=スコダらとともにソロ活動を始め、演奏家として有名になったようです。第二次世界大戦中は当時ユーゴスラヴィアのザグレブ音楽アカデミーのチェロと室内楽の教授としてザグレブで活動。ヤニグロはユーゴスラヴィアのチェロ界の近代化につとめるとともに、ザグレブ放送交響楽団を指揮、また1953年にザグレブ室内合奏団(I Solisti di Zagreb)を設立し、自ら指揮者となりました。ザグレブ室内合奏団は世界的な室内合奏団としての地位を確立して、数々の演奏会と録音を残しています。ヤニグロは晩年を思い出の地ザグレブで過ごしました。ヤニグロの没後、その功績を讃えて「アントニオ・ヤニグロ・国際チェロコンクール」が開催されています。

Hob.I:44 / Symphony No.44 "Trauer" 「悲しみ」 [e] (before 1772)
1963年の録音としては十分に鮮明な響き。残響も多めで柔らかい木質系の響きにもかかわらず鮮明な、見事な録音。20bit DIGITAL ULTRA ANALOGのレッテルは伊達ではありません。シュトルム・ウント・ドラング期独特の濃い情感が溢れんばかり。オケもハーモニーがピタリと決まる腕利き揃いに聴こえます。生気もダイナミクスも十分。最新のデジタル録音よりも音楽が伝わってきます。1楽章の終わりにテンポを極端に落とすところが時代を感じます。
2楽章のメヌエットは濃い陰影がついたまさにシュトルム・ウント・ドラングを感じさせる表現。何という完成度。心を絞るような陰影。少ない音符から描き出される濃い情感。ホルンや木管も完璧なバランス。指揮者の指示に完全に一体化したオーケストラ。淡々と曲を進めているのに深まる一方の情感。この楽章は絶品ですね。
そして、奏者の全神経が集中したアダージョ。弱音器付きの弦楽器が奏でる訥々としたメロディー。じわりと盛り上がる感興。単純な旋律なのにこの深みはなんでしょう。演奏によっては平板にも聴こえますが、この演奏では淡々と進めることで深みを見せる至芸。ヤニグロの確信犯的コントロール。弦楽器のアンサンブルの精度は素晴らしいものがあります。
フィナーレはゴリッとした低音弦群のアンサンブルが絶妙。節度あるエネルギー感。前楽章との対比は鮮明につけて規則的なリズムの上での推進力の表現。くすんだ音色のオーケストラから発散される濃い音楽。この楽章も最後はテンポを極端に落として終わります。

古い演奏ですが、録音は素晴らしく、そしてヤニグロのコントロールするくすんだ音色のラジオ・ザグレブ交響楽団は素晴らしい精度の演奏。まさにシュトルム・ウント・ドラング期のハイドンの交響曲の理想的な演奏といえるでしょう。悲しみは名曲ゆえ素晴らしい演奏は多いですが、この完成度はこれ以上の演奏を必要としないほどの説得力を感じさせます。不思議に典雅なジャケットもなかなかオツ。評価は[+++++]に変更です。

このあとに続く告別の1楽章も素晴らしいエネルギー感。残りの曲も時間が取れる時に紹介する必要がありそうですね。

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tag : 悲しみ ヒストリカル ハイドン入門者向け

ディルク・フェルミューレン/シンフォニアの悲しみ、告別

パーヴォ・ベルグルンドの演奏を聴いて、もう少しシンプルな交響曲の良さを聴きたくなって選んだアルバム。

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ディルク・フェルミューレン(Dirk Fermeulen)指揮のシンフォニア(Sinfonia)の演奏で、ハイドンの交響曲44番「悲しみ」、45番「告別」、歌劇「アチデとガラテア」序曲の3曲を収めたアルバム。収録はベルギー、ブリュッセルのSteurbautスタジオでのセッション録音。レーベルはKOCH DISCOVER INTERNATIONAL。

アルバムの風情はさも廉価盤然としたものなので、もしかしたら「あたり」の可能性もあると思い手に入れたアルバム。選曲は名曲ぞろいで悪くありません。

指揮者のフェルミューレンについて調べると、オフィシャルサイトがありました。

Dirk Fermeulen(英文など)

サイトの情報によると、フェルミューレンはベルギーの指揮者。古典派、初期ロマン派の曲を得意とする事で知られていますが、バロックから現代音楽の新作を演奏するまでと広いレパートリーをもつとのこと。当初はソロヴァイオリニストとしてヨーロッパ中で有名指揮者と演奏し、フランダース・ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団のコンサートマスターを数年にわたり務めました。1985年に指揮者に転向することを決断し、ウィーンで指揮を学び、1991年に自らプリマ・ラ・ムジカ室内管弦楽団を設立し、間もなくベルギーでも指折りのオーケストラとみなされるようになりました。このオケとは2回アイゼンシュタットの国際ハイドン・ターゲに招待されています。フェルミューレンはモーツァルトのオペラを数多く振っており、得意としているようですね。現在はブリュッセル王立音楽院の教職にあります。

手元にアルバムはありませんが、このアルバムの他にもハイドンの交響曲のアルバムが何枚かリリースされていますので、ハイドンも得意としているのでしょう。ちょっと期待が高まります。

Hob.I:44 / Symphony No.44 "Trauer" 「悲しみ」 [e] (before 1772)
冒頭はいい響き。小規模オケのタイトな響き。弦楽器の音色はもうちょっと潤いが欲しい気もしますが、テンポや推進力は水準以上。普通にいい演奏なんですが、前記事でレビューしたベルグルンドなどの演奏との違いはわずかなものの、個性が弱いと感じてしまいます。ほんの紙一重なんですが、普通の演奏に聴こえてしまうのも正直なところ。
2楽章のメヌエットも破綻なく、穏やかないい演奏。一貫性がありながら目先のクイックさもあり、フレージングにも工夫が見られます。
この曲で一番良かったのがつづく3楽章のアダージョ。表現が柔らかくなり、すこし踏み込んだ解釈を聴かせます。音を切り気味に訥々と進めているのが効果的なんでしょうね。つくづくいい曲だと思いますね。木管楽器の美しい音色が沁みてきます。
フィナーレは個々の楽器の存在感がきちんとあぶりだされていますが、やはりすこし潤いに欠け、またちょっと粗さも見えてしまいます。録音はオンマイクで残響は少なめなのも影響しているかもしれませんね。テンポと推進力は一貫性があり悪くありません。

Hob.I:45 / Symphony No.45 "Farewell" 「告別」 [f sharp] (1772)
前曲同様小編成オケの特徴が良く出た演奏。演奏の特徴も前曲とよく似ていますが、良く聴くと、すこしリズムに重さがあり、それが全体の印象のキレに影響している事がわかります。オケのメンバーのテクニックに起因するものでしょうか。全般に律儀で真面目な演奏と言う範疇です。曲の骨格設計は悪くありません。
アダージョは前曲同様、浸透力があります。ただ、ここに来て気づいたのは楽章間の対比が弱く、それがちょっと一本調子な印象を残しているのも事実。あとは間の取り方も同様、もう少しメリハリをつけることで、フレーズ間の対比をもう少しクッキリさせることができると思います。
メヌエットに入ると曲自体のもつ鮮烈な印象がうまく出せて調子が上がってきているようです。オケのキレも徐々にアップしてきました。今まであまり意識してきませんでしたが、ホルンがなかなかいい音。
有名なフィナーレの前半はメヌエットの延長で、勢いを感じさせますが、やはり少々単調さをはらんでいるのが正直なところ。そして、奏者が一人づつ立ち去る有名な部分は学芸会での演奏のように、一人一人の奏者が律儀な演奏で、普通だったら詩情漂う演奏のところ、逆に純粋にメロディーを弾く奏者の数が減る事自体を楽しめと言われているような演奏。不思議な感覚の演奏です。

Hob.XXVIII:1 / "Acide e Galatea" 「アチデとガラテア」 (1762)

序曲(Ia:5)のみですが、教科書的な律儀さの支配する演奏。演奏によってはかなりの勢いを感じさせるのでしょうが、おそらくこれがフェルミューレンのスタイルなのでしょう。ちょっと教条的というか家父長的と言うか、古風とも言い切れないのですが、ちょっと古いスタイルという気がします。

当たり狙いで聴き始め、出だしが良さそうな事から、あまり聴き進まないうちにレビュー候補としてしまったこのアルバム。フェルミューレンの律儀な人柄が表現されたのでしょうが、名盤ひしめく悲しみや告別のアルバムとしてはインパクト不足なのは正直なところ。原因の一つはオケにあるような気がします。ジャケットのオケの表記はシンフォニアとしか記載されていないので、寄せ集めのオケでしょうか。探してみましたがあまり情報もありません。評価は3曲とも[+++]とします。

このアルバム、心に残る演奏とそうでない演奏の違いをよくわからせてくれたような気もします。やはり選び抜いたアルバムをレビューした方が筆も進みますね。

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tag : 悲しみ 告別 オペラ

エイドリアン・シェファード/カンティレーナの悲しみ、受難、マーキュリー

昨日ディスクユニオンで掘り出したアルバム。

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エイドリアン・シェファード(Adrian Shepherd)指揮のカンティレーナ(Cantilena)の演奏によるハイドンのシュトルム・ウント・ドラング期の交響曲集。収録順に交響曲44番「悲しみ」、49番「受難」、43番「マーキュリー」の3曲とこの時期の名曲ばかりを集めた交響曲集。収録は1986年5月11日、12日、グラスゴーのSNOセンターでのセッション録音。Chandosレーベルのアルバムです。

このアルバムと同じ組み合わせの哲学者などを収めたアルバムが非常に良かったので、しばらく探していたアルバム。店頭で見つけた時にはちょっと嬉しかったですね。以前取りあげたアルバムのレビューへのリンクを張っておきましょう。

2011/01/15 : ハイドン-交響曲 : シェファード/カンティレーナの交響曲24番、哲学者、アレルヤ

前記事をあらためて確認すると、収録日が同一ですね。ということは同じ時期に録られ、別のアルバムとしてパッケージされた演奏ということになります。前のアルバムが良かっただけに期待が持てます。演奏者の情報などは前記事をご参照ください。

Hob.I:44 / Symphony No.44 "Trauer" 「悲しみ」 [e] (before 1772)
まずは悲しみ。小編成の現代楽器オケによる軽快なテンポの入り。残響が多めの録音ゆえゆったり感も十分。前回取りあげたアルバムでも感じましたが、非常にオーソドックスながら強弱のコントロール、特に弱音のコントロールが非常に巧みで、ハイドンの名旋律が活き活きと響き渡ります。オケの演奏の精度が抜群というほどではないんですが、音楽性は十分。この時期の交響曲の演奏としてこれ以上望むものは何もないという完成度。シェファードがチェロ奏者出身と言うこともあって弦楽器のコントロールが巧みなんでしょうか。ハイドンの素晴らしいメロディーをかっちりと描ききります。
2楽章のメヌエットも小細工なくこの曲に仕込まれた起伏を、作為から解き放たれたような自然さ溢れる演奏で表現。テンポも自然。この曲の素晴らしさを伝えるにはこの自然体のアプローチがもっともしっくり来ます。弦楽器、木管、金管それぞれの楽器の響きの美しさを純粋に楽しめる演奏。
絶品はつづくアダージョ。情感のこもった素晴らしい演奏。ちょっと控えめなフレージングからにじみ出るハイドンの名旋律。純粋にハイドンらしいと言えばいいでしょうか。指揮も奏者も素晴らしい音楽性です。
そして鬼気迫るフィナーレ。場面転換の鮮明さも見事。曲のクライマックスとしての盛り上がりの演出も見事。欲を言えば低音弦群の迫力が今少しあればという気がしないでもありませんが、録音によるところかもしれません。いやいや素晴らしい悲しみにノックアウト。

Hob.I:49 / Symphony No.49 "La passione" 「受難」 [f] (before 1768)
続く受難の1楽章はアダージョ。じっくりした遅めのテンポでの入り。予想よりかなり遅く、冒頭のうら悲しくしかも美しく磨かれたメローディを弾いて行きます。暗さからほのかな光がゆっくり差し込む情景を描いた絶品の序奏。美しさの限りを極めた演奏。楽譜を研究し尽くしてとったテンポでしょうか、非常に効果的なテンポ設定。小編成オケから生み出される音楽が、感情の大波をゆったりと起こして行く様を見るよう。完璧な演奏。
2楽章はアレグロ・ディ・モルトですが、ギアチェンジしてくると思いきや、なんと遅めで入ります。この曲のメロディーの美しさに焦点を合わせたということでしょう。遅めのテンポながら、徐々に熱気を帯びて、迫力をましてくるのがわかります。いずれにせよ音楽的な緊張感は途切れず、深い情感をたたえた演奏。指揮者とオケの類いまれな一体感が続きます。
続くメヌエットはこの時期のハイドンのうら悲しい憂いをよく表現した、こちらも素晴らしい演奏。この楽章は多少遅めながら比較的標準に近いテンポ設定です。もうただ演奏するだけでハイドンのシュトルム・ウント・ドラング期の魅力あるメロディーに打たれます。これだけシンプルな曲からこれだけ深い情感を醸し出す、天才だけになせる技でしょう。途中からの木管とホルンによる掛け合いも幸福感に満ちたもの。楽器の音色とその音色が感情に訴えかけてくるものをよく使い分けて曲を書いていると感心しきり。再び弦主体のフレーズにもどりこの時代の空気をつたえます。この楽章も見事の一言。絶品です。
フィナーレはプレスト。もはや音楽のもつ推進力が自律的に音楽を奏でているよう。素晴らしいエネルギー感と音楽性。力んでいる様子は皆無で音楽に求められる範囲での見事な起伏。角が立つようなところはまったくなく自然な演奏の魅力は変わらず。この曲も素晴らしい演奏。脱帽です。

Hob.I:43 / Symphony No.43 "Merkur" 「マーキュリー」 [E flat] (before 1772)
一転長調の明るい曲調。演奏の基調はかわらず、自然にじっくりとメロディーを奏でて、ハイドンの曲の面白さを曲自体に表現させるような素直な解釈。シェファードとカンティレーナのすばらしい音楽性を素直に楽しめる演奏。これまであまり注目してきませんでしたがこのアルバム、ハイドンのこの時期の交響曲の魅力が一杯に詰まった素晴らしい演奏。2楽章のアダージョも静謐な悦びにあふれた演奏。3楽章のメヌエット、フィナーレとも中庸なテンポと素晴らしい音楽性を楽しめます。

しばらく探した甲斐のある素晴らしい出来。エイドリアン・シェファードと手兵カンティレーナのハイドンのシュトルム・ウント・ドラング期の交響曲集はすべての人にお薦めすべき素晴らしい演奏でした。評価はもちろん全曲[+++++]とします。いやいやこれだけ素晴らしい演奏で聴くハイドンの交響曲は、あらためて名曲だと感心しきり。いいアルバムに出会ったものです。

今日はこれから近所に歌舞伎を見に行ってきます。

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tag : 悲しみ 受難 マーキュリー ハイドン入門者向け

ガリー・クーパー/アリオン・バロック管の41番、受難、悲しみ

今日は昨日銀座山野楽器で手にいれたアルバムからの1枚。歌曲をいろいろ手に入れたんですが、今日は交響曲から。

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ガリー・クーパー(Gary Cooper)のチェンバロと指揮、アリオン・バロック管弦楽団(Arion Orchestre Baroque)の演奏するハイドンの交響曲41番、49番「受難」、44番「悲しみ」の3曲を収めたアルバム。収録は2008年11月24日~26日までカナダのケベック州の街ケベックのサントーギュスタン・ド・ミラベル教会でのセッション録音。レーベルは私の好きなマーキュリーが輸入するearly-music.comというカナダのレーベル。レーベルのウェブサイトがありますので、紹介しておきましょう。

early-music.com

このアルバムは、普段あまり見かけなかったので、その存在を知りませんでした。手に入れたのはいつも丁寧な解説や帯がついているマーキュリーから出ているアルバムということと、その帯に「スリリングに、鮮やかにーラテンの情感を能勢、端正に織り上げられるアンサンブル。作曲者の想い通りの編成で興趣のつきないかくれ傑作3編をたっぷりと!」と書かれたキャッチに乗って。マーキュリーの帯は信用しています。

ガリー・クーパーはChannel Classicsからフォルテピアノを弾いたハイドンの後期ソナタ集やレイチェル・ポッジャーと組んだモーツァルトのヴァイオリンソナタ集8巻がリリースされているのでご存知の方も多いでしょう。私は指揮者として活動しているのは知りませんでした。

オケのアリオン・バロック管弦楽団はモントリオールを本拠地とする古楽器オケ。1981年の設立。小編成での演奏にこだわっているようで、このアルバムの演奏も全部で17名での演奏。early-music.comレーベルには何枚かのアルバムの録音がありますが、マイナーな存在でしょう。日本ではほとんど知られていないオケですね。

最初にアルバムをCDプレイヤーにかけた瞬間、小編成のオケの鮮明な音色が鮮烈に飛び出してくるリアリティ抜群の音響。刺さるくらいに鮮明な演奏という印象を持ちました。

交響曲41番ハ長調(Hob.I:41)1770年以前作曲
ハ長調の晴朗な導入部から始まる曲。小編成の古楽器オケゆえ鮮明な響き。ただし録音が最近のものにしてはちょっと混濁感と歪みっぽさを感じる録音。残響はそこそこあるんですがもう少し自然な感じがするといいでしょう。刺激的な音響でメリハリもかなりしっかり着いて、ことさらアクセントを強めにつける演奏。トーマス・ファイのような前衛を感じさせるものではなく、強い表現意欲が迸っているよう。まさにマーキュリーの帯通り、「スリリングに、鮮やかに」というイメージぴったりの演奏。
2楽章はウン・ポーコ・アンダンテ。表現を極端に抑えるのではなく前楽章の鮮烈なメリハリの余韻を感じさせながら、静かに歩む楽章を表現。
3楽章のメヌエットはレガートを多用したキレより流麗さに重点をおいたようなコントロール。
そして終楽章は速いテンポに乗って素晴らしいキレと推進力。メリハリと流麗さの同居した演奏。このようなことを帯では「ラテンの情感」と表したのでしょう。たしかにドイツ圏の演奏とは基本的にトーンが異なり、楽天的な明るさが根底にあるようですね。これはフランス語圏、しかもヨーロッパからはなれたカナダのオケということが影響しているかもしれませんね。

交響曲49番「受難」へ短調(Hob.I:49)1768年以前作曲
つづいて名曲受難。特徴的な1楽章のアダージョ。クッキリした旋律で描くハイドン入魂のシュトルム・ウント・ドラング期の傑作交響曲。たしかにドイツ的と言うよりラテン的なほのかな明るさが漂うのが不思議なところ。前曲よりフレーズがシンプルゆえ演奏もくっきり。静寂感をうまく表現していて前曲よりも一段上の出来と感じられます。
2楽章はアレグロ・ディ・モルト。快速、軽快な入り。リズムをクッキリ浮かび上がらせながら入れ替わり立ち替わり楽器が登場してメロディーを奏でます。インテンポでしっかりデュナーミクの幅をとった生気漲る演奏。この楽章は素晴らしい緊張感。
3楽章のメヌエットは前曲同様流麗さが特徴。基本的に音楽が澱みなく滑らかに流れ、メヌエットの既成概念とは明らかに異なる趣を醸し出しています。
そして、この曲の最大の聴き所は畳み掛けるように幾重の波が襲うような終楽章。こうゆう動的な楽章を活き活きと演奏することににかけてはこのオケはすばらしい音響で応えます。これはライヴで聴いたら素晴らしいでしょう。

交響曲44番「悲しみ」ホ短調(Hob.I:44)1772年以前作曲
前2曲より明らかに残響の多い録音。このアルバムでもっとも力の入った演奏。冒頭から凄いエネルギー。これが17人のオケとは信じられない迫力。このところ悲しみの名演奏を聴く機会が多いんですが、この演奏もまた違った意味で名演奏。演奏の精度は明らかに落ちますが、不揃いの迫力というか、細かいところを気にしないというか荒削りな魅力があって悪くありません。ヴァイオリンも精度というかリズムの線が粗く、そこを聴くとそれほどでもないんですが、全体から迸るエネルギーは素晴らしいものがあります。古楽器で迫力といえばブリュッヘンと18世紀オーケストラですが、ブリュッヘンの演奏はやはりヨーロッパの伝統に根付いたもの。こちらはそこの箍がハマっていない分ラテン風でもありアメリカ風(カナダですが、、、)でもある演奏。すばらしい迫力の演奏ですがこの辺のテイストがこのアルバムの評価を左右しそうですね。
この曲は2楽章がメヌエット。この曲が一番普通のメヌエットっぽい演奏。それでも情感が強く歌が濃い感じ。
3楽章のアダージョ。ハイドンが自身の葬儀の際に演奏してほしいと語り、実際1809年の追悼行事の際に演奏され、「悲しみ」というニックネームがついたとされます。この演奏は徐々に明るい色彩感を感じさせる陽性の演奏。あとひと踏み込み影があってもいいのかもしれません。
そして、激情的なフィナーレ。すべての奏者が強弱をフルにつけて演奏しているような手に汗握るフィナーレ。低音弦楽器の素晴らしいエネルギー。この曲は多くの演奏のように陰影の美しさではなくダイナミックさで聴かせる演奏。1楽章と終楽章のエネルギー感が一番の聴き所でしょう。

ガリー・クーパーのハイドンの交響曲集。ライヴで聴いたら、あるいはライヴ盤だったとしたら素晴らしいエネルギー感に打たれる演奏でしょう。ただ、ハイドンの演奏ばかりを専門にレビューする当ブログの評価としては、それぞれ[++++]というところでしょう。演奏の生気は素晴らしいものの、ちょっとハイドンの曲の表現としてはやり過ぎというか、ハイドンのこの時期の交響曲の憂いに満ちた影の部分の深みを表現しきれていないという面もあります。音楽とは複雑なものですね。

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tag : 交響曲41番 受難 悲しみ 古楽器

プロフィール

Daisy


Author:Daisy

なぜかハイドン(Franz Joseph Haydn)が特に気に入り膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。東京在住のごく普通のサラリーマンです。

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所有盤をジャンル別にリスト化しています。基本的に録音年順とし、録音年不明のものは末尾に記載。演奏者名はジャケットなどの表記に合わせています。

2016年9月のデータ(2016年9月30日)
登録曲数:1,361曲(前月比+3曲) 登録演奏数:9,608(前月比+87演奏)
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