クーベリック/バイエルン放送響の「戦時のミサ」

今日は前記事で取りあげた2枚組のアルバムの2枚目に収められた曲。

JochumCaecilia.jpg
HMV ONLINEicon / amazon / TOWER RECORDS

ラファエル・クーベリック(Rafael Kubelik)指揮のバイエルン放送交響楽団、バイエルン放送合唱団の演奏で、ハイドンの「戦時のミサ」(Hob.XXII:9)。収録は1963年7月、昨日取りあげたヨッフムのチェチーリア・ミサと同様、ミュンヘンのヘラクレス・ザールでのセッション録音。歌手は下記のとおり。

ソプラノ:エルジー・モリソン(Elisie Morison)
コントラルト:マージョリー・トーマス(Marjorie Thomas)
テノール:ペーター・ウィッシュ(Peter Witsch)
バス:カール・クリスチャン・コーン(Karl Chritian Kohn)

ラファエル・クーベリックは1914年チェコのプラハの東約50キロの小さな街ビーホリー (Býchory) に生まれた指揮者、作曲家。スメタナやドヴォルザークなどお国ものの演奏で有名ですが、個人的には9つのオケを振り分けたベートーヴェンの交響曲全集、モーツァルトの交響曲集、マーラーの交響曲全集、auditeから出ているマーラーの交響曲などが印象に残っています。中庸を旨とする落ち着いたバランスのよい指揮振りが魅力の指揮者ですね。クーベリックは意外に相性の良さそうなハイドンの録音がそれほど多くなく、天地創造、四季とチェチーリア・ミサなどの宗教曲と交響曲は時計と99番のライヴがあるくらいでしょうか。当ブログで取りあげた演奏は下記の2種のみ。

2010/10/11 : ハイドン–協奏曲 : フルニエ/クーベリックのチェロ協奏曲2番
2010/05/24 : ハイドン–オラトリオ : クーベリックの天地創造

昨日取りあげたヨッフムのチェチーリア・ミサに今日取り上げる戦時のミサがカップリングされていたんですが、これがヨッフムとともになかなかいい演奏だったので取りあげた次第。このアルバムはバイエルン放送交響楽団とバイエルン放送合唱団によるハイドンのミサ曲の1960年前後の演奏が3曲収められているということです。残りの1曲はテオバルト・シュレムス指揮の小オルガンミサです。

戦時のミサはこれまで2度取りあげています。曲の解説は下記のマリナー盤をご覧ください。

2011/05/11 : ハイドン–声楽曲 : ヨゼフ・メスナー/モーツァルテウム、ヴンダーリヒの戦時のミサ
2010/12/06 : ハイドン–声楽曲 : マリナー/ドレスデン・シュターツカペレの戦時のミサ

Hob.XXII:9 / Missa in Tempore Belli "Paukenmesse" 「戦時のミサ(太鼓ミサ)」 [C] (1796)
キリエ
前記事のヨッフムのチェチーリア・ミサよりも5年新しい録音だけに、録音は厚みがともない、冒頭から素晴らしい迫力。クーベリックらしい穏当な表現ながら、一音一音に漲るエネルギーは素晴らしく、ヴァイオリンのボウイングもキレてます。非常に正統的な演奏。ヨッフムの演奏がコーラスに力点が置かれていたのに対し、クーベリックのこの演奏はオケとコーラスのバランスのいい音量感。フレーズの表現の彫り込みはそれホで深くはありませんが、音響としてのヴァイオリンなどの立体感はなかなかのもので、ヴィヴィッドな演奏。テンポは一貫して安定したもの。

グローリア
小細工なしにぐいぐい推進していくグローリア。オケとコーラスはバランスの良い響き。ここでもオーソドックスなクーベリックの表現はセンスがいい感じ。中間部はチェロの伴奏に乗ったコーンのバスのソロと絶妙の美しさの女声コーラスが交互にメロディーを奏でます。コーンのバスは良い意味できりりとした軽さが感じられ、音階が鮮明に聴こえる声。ここでは主役はコーラスかもしれません。バイエルン放送合唱団の分厚い響きは健在。後半に入ると拍子を早めに打ち鮮明なオケが主役に。かなり意図的にテンポを上げて曲に明確な変化を与えます。

クレド
前曲の後半から明確に強調されるリズムが基調になります。覇気にあふれた大音響。中間部は峻厳な悲しみを表すように大きくフレーズをコントロールして、美しいメロディーラインを描いていきます。クーベリックがコントロールすると闇を表すというよりは、健康さを保った暗さのよう。朗らかさも感じさせるのが不思議なところ。後半は弾むメロディーをうまく表現して、リズムに乗ったオーケストラの魅力を存分に聴かせます。不思議とかなり奥から響いてくる低音、不思議な定位感の録音。

サンクトゥス
後光がさしてくるような輝きに満ちた楽章。短いながらもマージョリー・トーマスの特徴のある響きを伴ったコントラルトとペーター・ウィッシュの若々しい張りのあるテノールが楽しめます。

ベネディクトゥス
ヴァイオリンが描く悲しい旋律から入ります。エルジー・モリソンの豊かなヴィブラートをともなったソプラノを中心としたソロの響宴。淡々とした伴奏にくっきりと浮かび上がるソロが描くメロディーが印象的。

アニュス・デイ
終曲。太鼓ミサの別名のもとになった楽章。ティンパニと金管、コーラスによる大河のような曲。ティンパニのソロにファンファーレと印象的な曲。終曲にこのような仕掛けをもってくる創意に脱帽です。

ラファエル・クーベリックの指揮するバイエルン放送交響楽団と合唱団による戦時のミサ。クーベリックの誠実なところがうまく表された名演奏だと思います。同じアルバムで前に置かれたヨッフムのチェチーリア・ミサはハイドンのミサ曲の光と影を見事に表した名演奏。こちらは図太さと朗らかさ、少し新しい録音で最初はぐっと来たものの、ヨッフムが描く深い情感に比べると、表現の深さという点ではちょっと差を付けられている印象も残ります。ヨッフムの演奏が超がつく名演だったことを考えると、やむを得ないところでしょう。評価は[++++]としておきます。

テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽

tag : 戦時のミサ

ヨゼフ・メスナー/モーツァルテウム、ヴンダーリヒの戦時のミサ

今日はヒストリカルなアルバム。

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HMV ONLINEicon

ヨゼフ・メスナー(Joseph Messner)指揮のザルツブルク・モーツァルテウム管弦楽団の演奏でモーツァルトのアンティフォナ「レジナ・チェリ」とハイドンの戦時のミサ(Hob.XXII:9)の2曲を収めたアルバム。収録は1959年8月16日、ザルツブルク音楽祭でのライヴ収録。ソロ陣はソプラノがローレンス・デュトワ、アルトがゲルトルーデ・ピツィンガー。そしてこのアルバムの目玉、テノールがフリッツ・ヴンダーリヒ、バスはフランツ・パッハーの4名、合唱はザルツブルク教会合唱団。

このアルバムを選んだのは単純に最近手に入れたということもありますが、前記事で取りあげたボルトンの演奏がとても良かったので、ザルツブルク・モーツァルテウム管の昔の演奏を聴いてみたくなったから。

指揮者のヨゼフ・メスナーは1893年生まれのオーストリアの作曲家・オルガニスト。幼いときから歌・ヴァイオリン・ピアノ・オルガンのレッスンを受け、後にミュンヘンで作曲とオルガンを学んだとのこと。1920年代にはドイツで作曲家・オルガニストとして成功を収め、1924年にはデュイスブルクで「ヨーゼフ・メセナーの日」が開かれて自作のシンフォニエッタが初演されたとのこと。1969年に亡くなられてますので、もうずいぶん前のことになります。

このアルバムの目玉はジャケットを見てわかる通りヴンダーリヒにほかなりません。ヴンダーリヒは1930年の生まれなので、この演奏時は29歳ということになります。

戦時のミサ(Hob.XXII:9)1794年作曲
ちょっと古めの録音ゆえ、音もそれなりに歴史を感じさせる録音です。微風のような独特の入りの部分、オケゆったりとローテンションな入り。むしろオケよりも合唱の厚みと迫力を聴くべきアルバムかも知れません。全体にテンポは遅めで、変化もほどほどな展開。コーラスが入るとコーラスにひっぱられ俄然テンションが高まります。HMV ONLINEの情報によれば合唱のスペシャリストのようですので、この展開は合点が行きますね。
1曲目のキリエはソプラノのデュトワの柔らかく美しい声が印象的。朗々とした歌唱。
2曲目はすこし痩せた音を通して当時の響きを想像で補いながら聴く感じ。もう少し迫力がつたわると印象も変わるかもしれません。
3曲目は逆に古い録音の向こうにパッハーの図太いバスとコーラスの存在感が際立ちます。
4曲目は混濁感がちょっと残念ですが曲が進むと突然の凄いギアチェンジでスピードが上がりビックリ。メスナーがこうゆうことをするキャラクターとは思いませんでした。
5曲目はクレド。前曲のトリッキーなギアチェンジが幻だったかのようなオーソドックスな演奏で逆にまたビックリ。
6曲目は休符を長くとった深い呼吸が印象的な楽章。そろそろエンジンがかかってきたでしょうか。メロディーの背景に潜む闇のようなものまで描いているような演奏。
7曲目は一転勢いを感じさせる速めのテンポと途中から現れる上昇音階の無限の上昇感のようなものが湧き出る快活な演奏。
8曲目はソロの掛け合いのメロディーラインの絡み合いが聴き所。この楽章もエネルギー感の表現が見事。
9曲目はサンクトゥス。この曲の途中になってはじめてヴンダーリヒの美声がクッキリ現れます。
10曲目はベネディクトス。短調の美しい旋律をソプラノを皮切りに歌い継いでいく構成。このアルバム一番の聴き所でしょう。後半に入りメスナーはテンポの変化をつける部分が増え、表現の幅も広がっています。
11曲目はアニュス・デイ。背景からしのびよる太鼓の音が不気味な迫力。
12曲が終曲。大団円的展開。拍手はなし。

ヴンダーリヒの写真をあしらったジャケットからはヴンダーリヒの美声を堪能できるディスクであると期待されたんですが、テノールのソロで聴かせる部分が少なく、いささかジャケットは誇大広告的(笑)なものに見えてきました。メスナーも昔の職人風で割と自在な音楽を聴かせますが、コントロールが粗く、ライヴとしてもちょっと物足りないところ。前記事でとりあげた最近のモーツァルテウム管とくらべると、その質の違いは明らか。ちょっと期待先行な感じでした。評価は[++]としたいと思います。Orfeoレーベルということで期待したんですが、、、

テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽

tag : 戦時のミサ ヒストリカル ライヴ録音 ザルツブルク音楽祭

マリナー/ドレスデン・シュターツカペレの戦時のミサ

今日は久々のミサ曲。お気に入りの「戦時のミサ」のマリナー盤です。

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手元のアルバムはこちら。1枚ものとして昔リリースされていたもの。

Marriner9.jpg
HMV ONLINEicon

こちらはミサ曲をまとめた2枚組の現行盤。

ネヴィル・マリナー(Sir Neville Marriner)指揮のドレスデン・シュターツカペレ、ライプツィヒ放送合唱団の演奏で、ハイドンのミサ曲「戦時のミサ」(Hob.XXII:9)。ソロはソプラノがマーガレット・マーシャル、アルトがキャロリン・ワトキンソン、テノールがキース・ルイス、バスがロバート・ホルと言うメンバー。録音年の表記はありませんが(P)マークが1986年ということで初出は1986年の演奏。

「戦時のミサ」はハイドンのミサ曲の最後の6曲のミサの最初を飾る大作。ハイドンがイギリス旅行を終えた1796年の作曲。マリア・ヘルメネギルト・エステルハージ公爵夫人の命名祝日にアイゼンシュタットのベルク教会で初演されたもの。とここまでは、いつもの大宮真琴さんの「新版ハイドン」に掲載された曲の項目の紹介なんですが、同書の伝記の部分を読むとハイドンのこの曲以降のミサ曲と天地創造、四季に至る作品の作曲の背景がよくわかります。

1794年にアントン・エステルハージ侯が亡くなり、後を継いだニコラウスII世侯は、ハイドンに副楽長の職と作曲の機会を与え芸術を愛したニコラウスI世とは異なり、音楽の趣味がかなり偏っており、宗教音楽、とくに古びた様式の曲を好んだとのことで、当時器楽の分野では第一人者とみなされていたハイドンの曲よりも、弟のミヒャエル・ハイドンの教会音楽への偏愛を隠さなかったと記されています。
ハイドンはそれでもエステルハージ家へのこれまでの恩義に応え、若いニコラウスII世侯の好みに応えようということで、この曲以降の一連のミサとオラトリオが作曲されたとのこと。イギリスで大きな評判を呼び、経済的にも充実していたハイドンですが、若い頃から世話になっているエステルハージ家への忠誠心は涙ぐましいものがあります。

古いスタイルの教会音楽と言うジャンルですが、ハイドンが作曲したのはそのジャンルの当時の最高峰の音楽であることは、以降の歴史が証明しているでしょう。天地創造などに至っては、当時のという但し書きすら不要なのは周知のとおりですね。

さて、この演奏ですが、まずはドレスデン・シュターツカペレの燻し銀の分厚い音色と、先入観では室内オケを得意としているイメージが強いマリナーの意外な(といっては失礼ですが、、、)迫力あるオーケストラコントロールが聴き所。

冒頭のキリエ、原始の雲のような混沌とした序奏から、分厚いオケと合唱の響きが突き抜けます。マリナーのコントロールはフレーズをわかりやすく整理して旋律をクッキリ浮かび上がらせるところ。これがドレスデン・シュターツカペレの薫製のような響きと相俟って素晴しい響きを生み出しています。ソプラノのマーシャルは素晴らしい美声。クーベリックの天地創造を紹介した記事でも取り上げましたので、そちらもご参照ください。

ハイドン音盤倉庫:クーベリックの天地創造

トラック3のグローリアでは、ロバート・ホルの素晴しいバスと何重にも重なり合うコーラスの美しさが際立ちます。このアルバムのコーラスを担当するライプツィヒ放送合唱団のハーモニーは絶品。ロバート・ホルはアーノンクールの天地創造旧盤でも聴いています。

トラック5からのクレド、リズミカルに弾むオケの中でもヴァイオリンのクッキリとしたリズムの刻みはマリナー好みの演奏なんでしょう。この曲全体にヴァイオリンの刻む美しい速いパッセージの音階は、分厚いオケの立体感をクッキリさせるのに非常に効果的です。この音響がこのアルバム、というかマリナーとドレスデン・シュターツカペレとのミサ曲の聴き所です。

トラック9のサンクトゥスの静かに始まる美しい旋律、絶品ですね。そしてベネディクトゥスを経て、「太鼓ミサ」の別名のもととなった最後のアニュス・デイのティンパニのソロも決まって、最後は荘重な響きからトランペットが活躍する明るい曲調になり、曲を閉じます。

評価は[+++++]のままです。わたしのハイドンのミサ曲の刷り込みはほぼマリナー故、脳内に音響が焼き付いてしまっています。一般の人のイメージするマリナーとはだいぶ異なるイメージのマリナーの演奏かもしれませんが、これはこれで素晴しい演奏であることに変わりありません。

テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽

tag : 戦時のミサ おすすめ盤

プロフィール

Daisy


Author:Daisy

なぜかハイドン(Franz Joseph Haydn)が特に気に入り膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。東京在住のごく普通のサラリーマンです。

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2017年7月のデータ(2017年7月31日)
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