【ハイドン音盤倉庫特選】ザロモンセットの名演奏(後編)

前記事で突然始めた新企画。一部では「俗な企画」と核心をついた突っ込みをいただきましたが(笑)、乗りかかった船ということでとりあえず継続します。

2017/08/17 : Best Choice of Works : 【ハイドン音盤倉庫特選】ザロモンセットの名演奏(前編)

前記事を書くために色々なアルバムを掘り起こして短期間に聴き比べてみると、それはそれで意外な発見があるもの。ただし、どうしても比較して聴くようになってしまうため、聴き方が浅くなるような気がしなくもありません。普段のレビューではそのアルバムの背景を色々調べて奏者の気持ちになって聴いていますので演奏に深く触れているような気持ちになるんですね。ということで普段のレビューを続けながら、たまにこうした記事を書くのが良かろうということにしました。勢いに乗って、間をおかずハイドンの交響曲の最高峰であるザロモンセットの後編に突入です!



Hob.I:99 Symphony No.99 [E flat] (1793)

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2012/02/14 : ハイドン–交響曲 : 【追悼】パーヴォ・ベルグルンドのオックスフォード、99番

ハイドンが1791年から92年にかけて訪れたロンドンの旅行が大成功に終わり、再び2回目のロンドン旅行に出かける際、ロンドンでの演奏のためにウィーンで作曲した曲。ザロモンセットの中でも一際優美な曲として知られています。手元の56種の演奏から私が選んだのは、パーヴォ・ベルグルンド指揮のフィンランド室内管の1992年の演奏。ベルグルンドといえばシベリウスなんでしょうが、おそらく唯一だと思われるこのハイドンの録音は純粋無垢な透明感に満たされた素晴らしい演奏。99番の優美な演奏といえばモーゲンス・ヴェルディケ/ウィーン国立歌劇場管の燻し銀の演奏が最有力候補なんですが、このベルグルンド盤は純粋さを極めた透明感というか、凛とした美しさに包まれた隠れた名演奏。他にコリン・デイヴィスのコンセルトヘボウとロンドン響の新旧両盤、ハイティンクの振るコンセルトヘボウのLP、そして意外にファイのハイデルベルク交響楽団との演奏も素晴らしいんですが、ベルグルンドの演奏がそれらよりも心に響きました。


Hob.I:100 Symphony No.100 "Military" 「軍隊」 [G] (1793/4)

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2012/04/28 : ハイドン–交響曲 : モーゲンス・ヴェルディケ/ウィーン国立歌劇場管弦楽団の99番、「軍隊」

ハイドンの交響曲の中でも一際派手な演出を伴う曲。軍隊というニックネームは初演前からつけらていたようで、ロンドンでの初演を予告する新聞にも掲載されていたそう。手元には92種もの演奏があり、その中でもこの軍隊交響曲の迫力を最も理想的に表現した演奏は、モーゲンス・ヴェルディケがウィーン国立歌劇場管弦楽団を1956年に振った演奏。このアルバムに収められたザロモンセットの後半6曲はどれも素晴らしい演奏なんですが、中でもこの軍隊は見事。1楽章の序奏から力感に満ち、しかも1956年とは信じられない鮮明かつ優秀な録音により素晴らしい響きが味わえます。2楽章で打ち鳴らされるグランカッサの重低音がズドンと決まりながら音楽は流麗に流れ、力任せに過ぎない品位を保ちます。ジャケットに写る眼光鋭いヴェルディケのコントロールが行き渡って素晴らしい音楽に仕上がっています。オケも流石に絶妙な巧さ!


Hob.I:101 Symphony No.101 "Clock" 「時計」 [D] (1793/4)

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2013/01/07 : ハイドン–交響曲 : カール・リステンパルトの驚愕、軍隊、時計

ご存知チクタクでで有名な2楽章が広く知られた曲ですが、驚愕同様、2楽章のみならず全4楽章素晴らしい曲。特に1楽章の迫力に満ちた緊密な構成と美しい目眩くようなメロディーはハイドンの交響曲の白眉と言っていいもの。この迫力と美しさをバランスよく兼ね備えることが時計の演奏のポイントでしょう。手元には98種の録音がありヒストリカルな演奏から古楽器による演奏まで名盤目白押しですが、私が選んだのは知る人ぞ知る、カール・リステンパルトがザール室内管弦楽団を振った1966年の録音。見事に溶け合うオーケストラの響きでこの時計の1楽章をまるで夢の国のような美しい演奏に仕上げていきます。肝心の時計のアンダンテのリズムの軽やかさも最高。時計とはこう演奏するものだとの確信に満ちた王道をゆく演奏。そして覇気に満ちながらも味わい深いメヌエットに淀みないフィナーレとこの曲の理想的な演奏。古い演奏ですが録音も絶妙で少しも古さを感じさせません。時計の普遍的名演と言っていいでしょう。


Hob.I:102 Symphony No.102 [B flat] (1794)

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2010/04/04 : ハイドン–交響曲 : ブリュッヘンのザロモンセット

ザロモンセットも終盤。第2回ロンドン旅行の2年目である1795年のコンサートのために前年に書いた曲。ニックネームがついていないことから地味な存在ではあるが、曲の構成は円熟を極め、ハイドンの交響曲の最高傑作の一つ。特に2楽章のアダージョのメロディーの温かみのある美しさは素晴らしいもの。手元にある63種の演奏から私が選んだのはフランス・ブリュッヘンの振る18世紀オーケストラによる1991年のライヴ。ブリュッヘンのザロモンセットは古楽器オケらしからぬど迫力のライヴ中心で構成され、中でもこの102番は全編にみなぎる力感とブリュッヘンにしては流れの良さも併せ持つ秀演。メヌエットにブリュッヘンらしいゴリッとした響きでアクセントをつけてきますが、終楽章はしなやかにオケを響かせて響きのコントラストつけ、最後は湧き上がるように盛り上がる見事な演奏。古楽器でのハイドンの演奏の新境地を聴かせたブリュッヘンの面目躍如な演奏です。この曲にはギュンター・ヘルビッヒの振るドレスデンフィルの流れの美しさを極めた演奏もあり、そちらもこの曲の全く別の姿を印象的に描いています。


Hob.I:103 Symphony No.103 "Mit dem Paukenwirbel" 「太鼓連打」 [E flat] (1795)

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2012/04/04 : ハイドン–交響曲 : ロヴロ・フォン・マタチッチ/ザグレブ・フィルの「太鼓連打」

冒頭のティンパニの独奏から太鼓連打の愛称で知られる曲。ハイドンの第2回のロンドン旅行の最後の年である1795年に作曲された曲。冒頭の太鼓も昔は遠雷のようにドロドロと鳴らすのが常でしたが最近はティンパニのカデンツァのごとき外連味たっぷりの演奏もあり、多彩です。手元の74種の演奏から私が最も好きな演奏は、日本でもお馴染み、ロヴロ・フォン・マタチッチの振るザグレブ・フィルの1979年10月29日のクロアチアの首都ザグレブでのライヴ。冒頭の太鼓のせいかこの曲には畳み掛けるような迫力ある演奏が目白押し。シャーンドル・ヴェーグがカメラータ・アカデミカ伴ってブダペストで行った1995年の感動的なライヴなど素晴らしい演奏がありますが、中でも一番のお気に入りがマタチッチ。全編にみなぎる力感とものすごい推進力。ハイドンのこの曲に込められたエネルギーを最も上手く引き出した演奏。どうもこの曲に込められたエネルギーを十分に発揮するには独墺系以外の指揮者の野性味が必要な気がします。


Hob.I:104 Symphony No.104 "London" 「ロンドン」 [D] (1795)

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2011/02/10 : ハイドン–交響曲 : カラヤン/ベルリンフィルのロンドン旧録

ハイドン最後の交響曲。ハイドンが2回目のロンドン旅行で行われた一連のコンサートのために最後に書いた総決算たる曲で、言うまでもなくハイドンの交響曲の最高傑作です。最後の作にふさわしく冒頭から壮大な曲想が続き堂々として覇気にあふれ、ハイドンの作曲技法の粋を尽くした見事な構成の曲。このハイドンの最高傑作の演奏には古典の曲としての壮大さの表現がポイントになります。手元の122種の演奏から今回色々聴き直して選んだのが、カラヤンの振るベルリンフィルとの1975年の今はなきEMIの録音。従来私はカラヤンでは1959年のウィーンフィルとのDECCA盤を推していたんですが、今回改めて聴き直すと、全盛期のベルリンフィルの特に弦楽陣の怒涛の迫力の素晴らしさに圧倒されました。カラヤンも大局的な視点でオケをコントロール。特にクライマックスの迫力はさすがにベルリンフィル。ベルリンのフィルハーモニーに響き渡る大音響と全盛期の帝王カラヤンの覇気は、最近の機知に富んだ古楽器の演奏や並み居る名指揮者の名演奏に勝りました。



突然始めた新企画ですが、これまで聴いたザロモンセットの名演奏を取っ替え引っ替え聴き直し、久しぶりに聴いた演奏も多く色々な発見もありました。自分でも意外でしたが、全12曲中古い演奏をかなり多く選んだことになりますね。選んだ演奏は、ハイドンの曲に込められた音楽をしっかりと汲み取った演奏で、やはり歴史の波を経て揉まれて来ただけに、それぞれ説得力のある演奏です。近年話題のファイもミンコフスキも結局選びませんでしたが、しっかり聴きなおした上での選択です。古楽器ではクイケンとブリュッヘンを選びましたが、どちらもハイドンの演奏に一石を投じたものだけに、それ以前の多くの名演奏を上回る説得力を持ったと言うことですね。前記事の冒頭に触れた通り、全ての盤が入手しやすいわけではありませんが、中古やオークションを探せば入手できないわけではありませんので、興味のある盤がある方はぜひ手に入れて楽しんでください。

夏休みの宿題的に時間をかけて記事を書きましたが、普段はこれほど時間をかけられませんので、しばらく通常のレビューに戻ることにいたします。

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tag : 交響曲99番 軍隊 時計 交響曲102番 太鼓連打 ロンドン

ドラティ/ロンドン響の軍隊、時計(ハイドン)

こちらも最近オークションで手に入れたLP。

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アンタル・ドラティ(Antal Doráti)指揮のロンドン交響楽団(London Symphony Orchestra)の演奏で、ハイドンの交響曲100番「軍隊」と101番「時計」の2曲を収めたLP。収録情報は記載されていませんが、ネットを調べると1960年にリリースされたとの情報があります。レーベルはMerkury RECORDSのフランス盤。

ドラティといえばハイドンの交響曲全集を最初に録音した人として、当ブログの読者の方なら知らぬ人はいない存在。ただその演奏はフィルハーモニア・フンガリカとの録音ですが、これはロンドン交響楽団との演奏。調べてみると、全集の録音は1969年から72年にかけてで、こちらは1960年以前の録音と全集の10年前の録音。しかもドラティが覇気あふれる50代の演奏。略歴を確認してみると1937年に渡米した以降、ミネアポリス交響楽団などアメリカの主要オケの音楽監督を務め、このアルバムが録音されたしばらく後の1963年にBBC響の首席指揮者としてヨーロッパの楽壇に復帰します。アメリカで名声を得てヨーロッパで活躍する足がかりとなったものでしょう。レーベルもDECCAではなくMercuryということで、もしかしたらこのアルバムがDECCAに全集録音を決意させたアルバムかもしれませんね。

ドラティのハイドンはもちろん何度か取り上げています。

2014/04/06 : ハイドン–交響曲 : アンタル・ドラティ/フィルハーモニア・フンガリカの84番(ハイドン)
2013/07/02 : ハイドン–交響曲 : アンタル・ドラティの交響曲全集英LONDONのLP入手!
2011/03/09 : ハイドン–交響曲 : アンタル・ドラティの受難
2011/01/24 : ハイドン–交響曲 : アンタル・ドラティのマリア・テレジア
2010/12/31 : ハイドン–オラトリオ : アンタル・ドラティ/ロイヤル・フィルの「トビアの帰還」2
2010/12/30 : ハイドン–オラトリオ : アンタル・ドラティ/ロイヤル・フィルの「トビアの帰還」
2010/01/24 : ハイドンねた : 私はなぜハイドンにはまったのか?-3

ドラティの略歴などについては84番の記事をご覧ください。

ハイドンの交響曲全集は今でこそアダム・フィッシャー、デニス・ラッセル・デイヴィス、NAXOSの複数の指揮者に夜全集、ユニバーサルのホグウッドらによる古楽器混成全集など選択肢も増えてきましたが、私のオススメはドラティです。以前の記事にも書きましたが、図太い筆で勢いよく書いた古老の楷書の書を見るような、なんとも身が引き締まる演奏であり、ドラティを聴かずにハイドンを語るなかれというほどの名盤です。

そのドラティの交響曲全集のオリジンたる演奏であり、嫌が応にも期待が高まります。

Hob.I:100 Symphony No.100 "Military" 「軍隊」 [G] (1793/4)
この演奏を聴くためにフィルハーモニア・フンガリカの全集の演奏も聴いてみましたが、全集の方は良くいうと非常にまとまりの良い演奏。ドラティの険しさも感じられますが、全集としての完成度の高さを感じさせる演奏。対してこちらは、特にヴァイオリンのキレの良いボウイングと畳み掛ける迫力で上回る感じ。若干荒削りな印象もなくはありませんが、演奏の面白さはこちらがうわまります。特にLP
ならではのダイレクト感のある音質もいい感じです。ドラティもグイグイと攻めてきます。1楽章の終盤への盛り上げ方はど迫力でキレキレ。
2楽章の軍隊の行進は一定のテンポでサクサクと進めながら一音一音の引き締まった響きがどんどん迫力を帯びていき、パーカッションが乱舞。ドラティらしい禁欲的に引き締まりまくった演奏。高音域のタイトな響きはLPならでは。流れではなくダイレクトに音を響かせて音楽を作っていきます。
流石なのがメヌエット。ドラティらしい彫刻的に引き締まった響きの魅力に溢れた演奏。筋骨隆々。ザクザクと彫りの深い演奏によってメヌエットのメロディーの面白さが際立ちます。
メヌエットのエネルギーを引き継ぎ、フィナーレは速めのテンポで冒頭から畳み掛ける気満点。ハイドンの展開の妙を感じさせながらもクライマックスまっしぐらに駆け込みます。最後はドラティもオケを煽ってさらにテンポを上げて素晴らしい高揚感。予想通り壮年期のドラティの気迫みなぎる熱演です。

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Hob.I:101 Symphony No.101 "Clock" 「時計」 [D] (1793/4)
LPをひっくり返して時計。序奏はゆったりとした入りで厳かな雰囲気が漂います。主題に入るといきなりギアチェンジして快速テンポに変わります。フィルハーモニア・フンガリカとの演奏では印象は似ているもののテンポの変化はここまで急ではなく、1楽章の緊密な構成感を表現することに重点が置かれているような気がします。こちらはやはり迫力と陶酔感重視。軍隊の方はLPの迫力に軍配が上がったのですが、時計の方は全集の方もいいですね。主題以降快速テンポでグイグイ飛ばします。徐々にヴァイオリンが赤熱してきて未曾有のキレ味で畳み掛けてきます。やはりドラティ、煽りまくってきました。1楽章なのにものすごいエネルギーで締めます。
1楽章のほとぼりを冷ますように時計のリズムのアンダンテはリラックスしてゆったりと入ります。おそらく中間部に爆発するだろうと期待して耳をそばだてながらリズムを楽しみます。するとゆったりしながらもざっくりとした迫力で中間部に入ります。ドラティ、こちらの期待をはぐらかすように落ち着いたコントロールでやり過ごします(笑) ドラティはあくまでもきっかりリズムを刻んできました。
そして軍隊でも素晴らしかったメヌエットはやはりオケの引き締まった響きの魅力に溢れた秀演です。ヴァイオリンパートの覇気がすごい。メヌエットの王道を行くような堂々とした迫力が魅力の演奏。
フィナーレは別の日に収録されたのか、音程が若干低いように感じます。序奏は非常に落ち着いた入りで、徐々に力感がみなぎってきますが、これまでの演奏に比べてやや鈍重。これは迫力を表すべくのことでしょう。最後は裕大なフィニッシュで曲を閉じます。

ハイドンの交響曲といえばドラティ。そのドラティが交響曲全集を録音する10年前にリリースされた軍隊と時計。予想通り覇気に溢れた演奏でした。後年の全集は非常に完成度の高い演奏として知られますが、この演奏にはドラティのハイドンの交響曲に対するスタンスがより明確に現れていると言えるでしょう。軍隊は迫力で押し通す素晴らしい演奏。そして時計はそれよりもバランスを少し意識した演奏ということで、ドラティのアプローチにも若さが感じられます。時計の後半が若干難ありということで、軍隊は[+++++]、時計は[++++]といたします。

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tag : 軍隊 時計 LP

ヨーゼフ・カイルベルト/バンベルク響の時計、王妃(ハイドン)

たまには交響曲を。

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ヨーゼフ・カイルベルト(Joseph Keilberth)指揮のバンベルク交響楽団(Bamberger Symphoniker)の演奏で、ハイドンの交響曲101番「時計」、85番「王妃」の2曲を収めたLP。収録はPマークが1958年との表記のみ。レーベルはTELDEC。

こちらも最近オークションで仕入れたミントコンディションのLP。カイルベルトはそれほどなじみのある指揮者ではありませんでしたが、以前取り上げたN響のライブ盤の力演が印象に残っています。

2011/05/30 : ハイドン–交響曲 : ヨーゼフ・カイルベルト/N響の「驚愕」ライヴ

奏者の情報は上記記事をご参照ください。前掲のアルバムより約10年前の録音ということで、よりフレッシュな響きが聴かれるでしょうか?

Hob.I:101 Symphony No.101 "Clock" 「時計」 [D] (1793/4)
冒頭はちょっとテープの問題か音が微妙に揺らぎ気味ですが、すぐに力強く鮮明な響きに包まれます。特に響きの余韻の自然な美しさは年代を全く感じさせません。1楽章の主題に入るとキレよくグイグイドライブしていきます。この恍惚たるドライブ感は波のものではありません。TELDECの誇るDMMによるプレスだけに1958年制作とは思えない鮮明な録音に驚きます。オケは絶妙に上手く、カイルベルトの棒にピタリと寄り添い、メロディーの表情、呼吸とも完璧に揃っています。曲が進むにつれてオケがタイトに引き締まってきて、時計の白眉である1楽章の見事な構成感が構築されます。録音のバランスか低音が少し薄めですが、迫力は十分。後年のN響のライヴのようなドイツ風の堅固さではなく、スタイリッシュな迫力の表現。
時計のアンダンテは中庸なテンポで落ち着いた入り。オーソドックスなタイプの癒しすら感じるリラックスした表現。弦楽器と木管の響きの美しさが優雅な気分を盛り上げます。展開部からの盛り上がりも、やおらじっくりと盛り上げていこうという変化の面白さを感じさせるもの。一転して静かな部分では、ここでも精緻な録音によって、広い空間にオーケストラの余韻が響きわたるようすが手に取るようにわかり、聴きごたえ十分。LPの表現力に驚きます。
メヌエットも予想どおり、オーソドックスに来ます。安心して身を任せられる演奏。オケの精度は変わらず素晴らしく充実した響きで応じます。つづくフィナーレも落ち着きはらった入りから、徐々にスロットルを開けてオケに力感が満ちてくる快感をあじわえます。特にヴァイオリンパートのキレのいいボウイングが鮮やか。見事に曲をまとめました。カイルベルトのハイドンがこれほどの完成度であるとは知りませんでした。

Hob.I:85 Symphony No.85 "La Reine" 「王妃」 [B flat] (1785?)
こちらはテープは正常。冒頭からピラミッドバランスのオーケストラが姿を現します。前曲よりもくっきりとメロディーが浮かび上がるのはフレーズにキリッとエッジをつけているからでしょう。オケも前曲の落ち着いた体制から少し前のめりで畳み掛けてくるので、冒頭からスリリングな印象。特にヴァイオリンパートは赤熱した鋼のようなホットな鋭さ。明らかに前曲とは演奏スタンスが異なります。
つづいて熱を冷ますように始まるアレグレット。ただそれは最初だけで、徐々にオケに力がみなぎってきます。この巧みなスロットルコントロールがこの演奏の肝でしょうか。ゆったりとした部分がゆったりとしているからこそ、力が入るところが引き立つわけです。メエヌエットも一貫して落ち着いた気配のなか、ヴァイオリンがここぞばかりにキレます。フィナーレはリズミカルな入りからフレーズが徐々に絡まってメロディーが力強く育っていきます。美しいホルンの響きが加わりクライマックスへ。構成は小さいものの、4楽章のまとまりはハイドンらしくきっちりした曲ですので、カイルベルトの演奏によって小気味よくまとまりました。

ヨーゼフ・カイルベルト指揮のバンベルク響によるハイドンの交響曲2曲。録音年代から、もう少し時代がかった演奏を予想したんですが、さにあらず。鮮明な録音によって、よく引き締まった素晴らしいハイドンの交響曲が浮かびあがりました。時計はオーソドックスな範疇の演奏でしたが王妃の方は逆に冴え冴えとするほど力の入った演奏で、曲に潜むエネルギーを見事に描ききった演奏と言っていいでしょう。両曲とも今の時代にあってもその素晴らしさにケチがつくものではありません。両曲とも[+++++]とします。

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tag : 時計 王妃 ヒストリカル LP

スイトナーの「軍隊」/クライネルトの「時計」(ハイドン)

素晴らしいLPを発掘しました!

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オトマール・スイトナー(Otmar Suitner)指揮のライツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団(Gewandhausorchester, Leipzig)の演奏によるハイドンの交響曲100番「軍隊」、ロルフ・クライネルト(Rolf Kleinert)指揮のベルリン放送交響楽団(Berliner Rundfunk-Sinfonie-Orchester)の演奏による、ハイドンの交響曲101番「時計」の2曲を収めたLP。収録年の記載はありませんが、ネットで情報を探すと、両者とも1964年の録音のようです。レーベルは天下のイエローレーベルDeutsche Grammophone。

このアルバム、最近オークションで手に入れたもの。もちろん、狙いはスイトナーの軍隊。オトマール・スイトナーはN響の名誉指揮者だったことから日本でも人気があった人。私もスイトナーの振ったモーツァルトの交響曲集は愛聴盤にしていて、好きな指揮者です。スイトナーの振るハイドンの録音は少なく、手元にはLPが1枚あるのみで、今年の初めに記事にしております。

2016/01/11 : ハイドン–協奏曲 : カール・ズスケ/スイトナー/ベルリン国立歌劇場管のヴァイオリン協奏曲(ハイドン)

今日取り上げるアルバムはスイトナーの振る軍隊と、ロルフ・クライネルトの振る時計を組み合わせたもので、もともとはETERNAのプロダクションですが、東西の壁があった時代のもの故、西側にはDGが流通させていたものということでしょう。オリジナルのETERNA盤を探せばいいのでしょうが、状態の良いDG盤も捨て難いということで落札したものです。

手元に到着してまずはA面のスイトナーの演奏から聴きましたが、予想どおりの堅実、流麗な演奏。念のためB面のクライネルトの演奏を聴いてビックリ! 気力充実の素晴らしい演奏なんですね。スイトナーの演奏だけだったら記事にしていたかどうかわかりません。そう、このアルバムのメインはクライネルトの時計なんです。

ということでクライネルトの略歴をさらっておきましょう。ロルフ・クライネルトは1911年、ドレスデン生まれの指揮者。1931年から1933年までザクセン国立歌劇場附属のオーケストラ学校で指揮、ピアノ、ヴァイオリン、オーボエやトランペットなどを学びました。卒業後はフライブルクの歌劇場、ブランデンブルク市立劇場などで指揮をすることになり、終戦後の1947年からライプツィヒ放送管弦楽団を振り、1949年から1952年までゲルリッツ歌劇場の音楽監督などを歴任します。1952年からこのアルバムで演奏を担当するベルリン放送交響楽団を振るようになり、当時首席指揮者だったヘルマン・アーベントロートが亡くなった後、1959年から首席指揮者となりますが、1975年に任期中に急逝したとのこと。旧東独圏だったからか、日本ではあまり知られた人ではありませんが、この録音を聴く限り、素晴らしい演奏を引き出す人との認識です。

まずはスイトナーから。

Hob.I:100 Symphony No.100 "Military" 「軍隊」 [G] (1793/4)
LPのコンディションは悪くありませんが、音にシャープさが足りません。おそらくETERNAの原盤はもう少しフレッシュな響きが聴かれるのではないでしょうか。それでも分厚い響きはよく再現されていて、スイトナーらしい流れの良い音楽がすぐに迫力を帯びて響き渡ります。比較的速めのテンポで淀みなく盛り上がっていきます。スイスイ進みながらおおらかに盛り上がる、流石スイトナーという指揮。このしなやかな流れこそスイトナーの魅力と言っていいでしょう。1楽章の素晴らしい構築感が燦然と輝きます。
続く軍隊の行進の2楽章も入りは激しなやか。リズムを強調するのは終盤の盛り上がりに備えた一部分だけ。しかもその盛り上がりも正統派で媚びないもの。スタイリッシュとまではいかないものの、軍隊のトルコ風のメロディーをここまでしなやかな印象に包んでくるのは流石なところ。
メヌエットでもおおらかな自然な起伏のなかにしなやかな力感を込められたもの。この自然さに勝る説得力はありません。耳を澄ますと自然に聴こえるフレーズの一つ一つの終わりにすっと力を抜くところがあり、それがただの自然さとは段違いの豊かな表情をつくっていることがわかります。
フィナーレではようやく、ぐっと踏み込みオケの底力を感じさせますが、アンサンブルは一糸乱れぬリズムで盤石の安定感。そしてここでもフレーズごとに力の入れ具合を巧みにコントロールして、まるで柔らかな階調のモノクローム写真のように陰影の微妙な違いの美しさと、落ち着いたコントラストのリズムを際立たせます。特にフィナーレのデリケートなコントロールは秀逸。隅々までスイトナーの美学が行き渡った完ぺきなコントロール。トルコ風の打楽器陣もことさら目立たせることなく調和のとれた音量でまとめます。み、み、見事!

この演奏の素晴らしさに酔って、つづいて盤を裏返してクライネルトの時計を聴くと、さらにその上をいく演奏ではありませんか!

Hob.I:101 Symphony No.101 "Clock" 「時計」 [D] (1793/4)
スイトナーにしつけられたライプツィヒ・ゲヴァントハウス管とは異なり、少々の荒さをともなうベルリン放送響。穏やかな序奏を終え主題に入ったところでオケにみなぎる異常なエネルギーに驚きます。時計はもともと1楽章の構築美が聴きどころですが、この演奏はあまりに見事にその構築感とみなぎる力感を惜しげもなく表現しています。ぐっと身を乗り出しクライネルトの棒を想像しながら音楽に身を任せます。スイトナーの洗練された美しさもいいですが、このクライネルトの燃えたぎるような盛り上がりには圧倒されます。まさに理想的な時計の1楽章。迫力を帯びた弦楽器の深い響きも素晴らしい!
続く時計のアンダンテも理想的な古典の均衡を保ったもの。一貫した少し速めのリズムに乗って次々とメロディーの変奏が重なり、音楽が進むにつれて成熟し、徐々に力が漲り盛り上がっていく様子は手に汗握る迫力。リズムが終始一貫して保たれながら表情が次々と変化するところはかなりのコントロール力を要するところでしょう。終盤静かに転調するところは鳥肌がたつような見事なセンスでまとめます。
そしてメヌエットもスイトナーのしなやかさとは異なり、力感で聴かせるタイプ。オケが豪快に鳴り響く快感に素直に酔いしれます。ハイドンのメヌエットの魅力をレコードの表と裏で双方素晴らしい異なる解釈で楽しめるとは贅沢極まりないもの。中間部のフルートによる軽やかなメロディーと重量級のオケの掛け合いの見事なセンス。ただ力強いのではなく、ドーリア式神殿のデリケートなプロポーションによる優美さを兼ね備えた力感のような洗練された力強さ。
フィナーレの入りはもちろん軽さを印象付けてから、スロットルをぐっと全開にしていく面白さを味あわせてくれます。ところどころに印象的なアクセントをつけ、またスロットルを巧みにコントロールして、まさに自在にオケを操り、クライマックスを何段階にも繰り返しながら最後はフーガのような郷愁を感じさせ、フィニッシュ!

いやいや、クライネルトの時計、あまりの素晴らしさに絶句です。ハイドンが2度のロンドン旅行を経て到達した交響曲というジャンルの頂点といえるこの曲の理想の演奏と言っていいでしょう。もちろんスイトナーの軍隊も絶品ですが、軍隊をスタイリッシュに聴かせるというのは変化球の範疇。クライネルトの時計はまさにど真ん中の豪速球ストレート。この時計の素晴らしさは深く心に刻まれました。そもそもこのアルバム、西側のDGが東側のETERNAの名演奏を2つまとめた企画ですが、当時の東側の音楽の質の高さをものがたる貴重なプロダクションでしょう。オークションや中古ではまだまだ見かける盤故、ご興味のある方は是非聴いてみられることをお勧めします。評価はもちろん[+++++]を進呈です。

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tag : 軍隊 時計 ヒストリカル LP

アルコ・バレーノによる室内楽版「時計」、99番、「ロンドン」(ハイドン)

またしても湖国JHさんから送り込まれた渋めのアルバムにハマりました。好みが枯れてきています(笑) 

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TOWER RECORDS / amazon / ローチケHMV
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アルコ・バレーノ(Arco Baleno)による、ペーター・ザロモン(Peter Salomon)編曲の室内楽版の交響曲101番「時計」、99番、104番「ロンドン」の3曲を収めたアルバム。収録は2003年8月11日、12日、15日、ベルギーのブリュージュにある聖ジャイルズ教会(Sint-Gilliskerk)でのライヴ。レーベルは蘭ET'CETERA。

ペーター・ザロモンといえば、ハイドンをロンドンに招き、一連のザロモンコンサートを開催した興行主。ハイドンはこのコンサートのために交響曲93番から104番までの12曲の交響曲を作曲し、ロンドンで演奏したことはハイドン愛好家の皆さんならご存知のことと思います。もちろんこの12曲の交響曲がザロモン・セットと呼ばれるのもそのため。そのザロモンはハイドンと1795年、96年に6曲づつの契約を交わし、自分のコンサートで自由に演奏できる権利の他、編曲できる権利なども手に入れ、ロンドンでのハイドンの絶大な人気にあやかって、先の12曲の交響曲をフルート、フォルテピアノ、弦楽四重奏という構成の室内楽に編曲したものを出版し、一般の音楽愛好家に広く演奏されるようになったとのこと。

手元にはこのザロモン版の交響曲の録音が何種かありますが、いずれも元の雄大な交響曲のイメージの縮小版的演奏で、いまひとつ室内楽で演奏する魅力が伝わりきらないきらいがありましたが、このアルコ・バレーノの演奏は、編成が縮小されたことで音楽の純度が濃くなり、各フレーズ、メロディーがイキイキとして、これぞ室内楽の喜びといえるレベルまで研ぎ澄まされています。しかも耳が鋭敏になっている分、室内楽の範囲でのダイナミクスをフルに使ってフル編成のオケとは全く異なるスケール感を得ています。

奏者のアルコ・バレーノは1993年、フランドル地方の音楽大学出身者で結成された室内楽団。アルコ・バレーノとはイタリア語で虹の意。なぜかアルバムにもサイトにもメンバーの個人名は記されていません。個人ではなくアンサンブルとしての団結を大事にしているのでしょうか。

Arco Baleno

ライナーノーツに掲載された写真と、ウェブサイトに写っているメンバーは同じですが、その中のチェロのStefaan Craeynestが2014年9月に亡くなっているようです。

Hob.I:101 Symphony No.101 "Clock" 「時計」 [D] (1793/4)
聴き慣れた時計の序奏のメロディーですが、フルートと弦楽四重奏の純度の高い響きで、まるでオーケストラの音の型紙をとったように響きます。フォルテピアノが雅な響きを加えてオーケストラとは異なる彩。そして主題が始まった途端、様相が一変。オーケストラを上回る鮮やかな推進力で音楽が弾む弾む。この多彩な表情がアルコ・バレーノの演奏の魅力でしょう。室内楽版の編成の小ささを逆に生かして、室内楽的機敏なアンサンブルの魅力全開。1楽章の終盤に至る盛り上がりも音量ではなくアンサンブルの緊張感で表現する素晴らしいもの。一気に演奏に引き込まれます。
さらに素晴らしかったのが、続くアンダンテ。ヴァイオリンが奏でる時計のメロディーの実に艶やかなこと。弦楽器のピチカートが刻むリズムに乗って伸び伸びとヴァイオリンが歌います。途中から加わるフルートのキレの良いタンギングも最高。多彩な音色の変化にアクセントもキリリと効いて原曲以上の面白さ。演奏によってこれほどこの室内楽版が面白く響くとは。このアンダンテは絶品です。
ちょっとスケール感に欠ける印象を持つと思ったメヌエットも逆にキレの良さと鮮度の高い響きでまったくそんな印象を感じさせません。ハイドンが書いたもともとのメロディーの面白さがオーケストラよりもうまく表現できていて、こちらの方がいいくらい。もちろんアンサンブルのそれぞれのパートの息がピタリとあって音楽に統一感があります。指揮者のいないアンサンブルにありがちな平板さは微塵もなく、まるで一人がコントロールしているような音楽の完成度。
耳が慣れたのか、フィナーレは大迫力に聴こえます。畳み掛けるアンサンブル。そして終盤に向けて素晴らしいエネルギーの充実。あまりの素晴らしさに圧倒されます。迫力とは音量ではないと思い知ります。1楽章と終楽章の見事な構成感、アンダンテの楽興、メヌエットのエネルギーが完璧に表現されています。時計という曲の真髄を突く驚きの名演。

Hob.I:99 Symphony No.99 [E flat] (1793)
好きな99番。冒頭の柔らかいハーモニーから完璧に響きます。すでにアルコ・バレーノの音楽に完全にハマっていますので、冒頭からこの99番の室内楽なのにゆったりとした流れにどっぷりつかります。フルートとフォルテピアノが実にいい響きを加えます。脳内ではオーケストラ版の雄大な序奏のイメージがチラつかなくもありませんが、研ぎ澄まされた響きにすぐに慣れます。そして主題以降は実に快活。この切り替えの鮮やかさも聴きどころ。各パートが鮮明に聴こえる分、音楽の面白さも倍増。1楽章のクライマックスに向けての盛り上がりもスリリングで、緩急による実にしっかりとした構成感の演出も出色。
美しいメロディーの宝庫のアダージョは、まさに至福の時間。オーケストラではないのに悠然とした大河の流れのようなうねりが感じられるのが素晴らしいところ。この室内楽版を演奏しながら、交響曲の素晴らしいメロディーを想像していた当時の音楽愛好家の気持ちが味わえます。
そして前曲同様小気味よくキレるメヌエットを経て、ハイドンの交響曲の最も特徴的なフィナーレの緊密な高揚感を実に巧みに演出していきます。交響曲の縮小版と感じさせないくっきりとした表情の魅力を保ち、グイグイ攻め込んで盛り上げていくあたりは流石。この99番も見事でした。

Hob.I:104 Symphony No.104 "London" 「ロンドン」 [D] (1795)
そして、もともと雄大な曲想のロンドンですが、本当に耳が慣れてきたのか、この曲でも小編成なのに音楽にはスケール感が宿り、大迫力に聴こえます。オーケストラ版でも妙に力の入った演奏では逆に力みが耳につくように、スケール感、雄大さというものが力任せでは表現できないということの証のような演奏。室内楽版とはいえ耳に聴こえるダイナミックレンジはかなりのもの。抑えた表現の巧みさが迫力のポイントですね。
続くアンダンテは、前2曲の美しさの限りを尽くした楽章とは少し構成が異なり、1楽章の興奮の箸休め的な印象をうまく表現して、ある意味淡々とした音楽にしています。中間部の盛り上がりで聴かせたあとは、再び淡々とした音楽に戻ります。
そしてメヌエットはこの曲独特の陶酔感のようなものを聴きどころに置いてきました。
最後の雄大なフィナーレは、速めのテンポでクライマックスに至る過程をくっきりと描きながら、あらん限りの緩急、ダイナミクスを駆使して盛り上げます。最後の陶酔の限りを尽くした曲想の盛り上がりは不思議とオーケストラよりもキレの良さを感じさせるほど。最後に万雷の拍手に迎えられて、ライヴ収録であったことを思い出したほど。素晴らしい演奏でした。

今まで室内楽版のザロモンセットというと、ちょっと際物扱いしていたのが正直なところですが、このアルコ・バレーノ盤を聴いて、これは室内楽愛好家には宝物のようなものであるとようやくわかりました。小さな編成でもこれだけの迫力、音楽の魅力が表現でき、大編成のオーケストラにも勝るとも劣らない魅力をもつことができるということを再認識いたしました。まるで、クラヴィコードの魅力を知った時のような衝撃を受けた次第。もちろん全曲[+++++]とします。

アルコ・バレーノの交響曲の演奏にはもう一枚のアルバムがあり、こちらも早速注文を入れました。毎度湖国JHさんの送り込まれるアルバムには脱帽です。

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tag : 時計 ロンドン 交響曲99番

ホーレンシュタイン/ウィーン・プロ・ムジカ交響楽団の時計(ハイドン)

久々にヒストリカルもの。未聴のCDとLPがほぼ同時に手に入りました。

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ヤッシャ・ホーレンシュタイン(Jascha Horenstein)指揮のウィーン・プロ・ムジカ交響楽団(Pro Musica Symphony, Vienna)の演奏で、ハイドンの交響曲101番などを収めたCD。収録は1957年とだけ記載されています。レーベルはVOX LEGENDS。他に南西ドイツ放送交響楽団とのベートーヴェンの「英雄」も収められています。

LPの方はこちら。

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CDと同じ演奏である「時計」と、同じくウィーン・プロ・ムジカ交響楽団による「ロンドン」を収めたLPです。ちょっとここで気づいたのが、ホーレンシュタインの「天地創造」のCDにウィーン交響楽団との「ロンドン」が収められていますが、そちらも同時期の演奏でかつレーベルもVOXということで、いろいろネットを検索してみたところ、ウィーン・プロ・ムジカ交響楽団とはウィーン交響楽団の別称ということがわかりました。ということで「ロンドン」もCD、LPともに揃ったことになります。

ホーレンシュタインの演奏は過去にライヴを取り上げています。略歴などの情報はそちらをご覧ください。

2013/01/28 : ハイドン–交響曲 : ホーレンシュタイン/フランス国立管弦楽団の軍隊ライヴ

もともと私はホーレンシュタインやシェルヘンなど、コンセプチュアルな演奏をする指揮者は好きな方です。特にホーレンシュタインの構えの大きな音楽はなかなか真似の出来るものではありません。上の軍隊のライヴも絶品でした。そして唯一未入手だった時計がCDとLPで手に入ったということで、これを取り上げない訳にはまいりませんね。

Hob.I:101 Symphony No.101 "Clock" 「時計」 [D] (1793/4)
この演奏、CDはゆったりと落ち着いた柔らかな音色。そしてLPはあまりコンディションの良いものではありませんでしたが、それでも切れ込むような鋭利な響きと立体感は感じられるもの。入手のしやすさを考慮して、以下はCDを中心にレビュー。落ち着き払ってゆったりとした序奏。このゆったりとした中に構築感を感じさせるところがホーレンシュタインの凄み。主題に入るとメロディが滑らかに、適度な力感を持って流麗に響きます。ピニンファリーナのデザインした車の曲線のような完璧な調和。CDではオケがかなり遠方に定位しながらも、徐々に迫力を帯びて盛り上がっていきますが、力感と流麗さのバランスが見事で聞き応え十分。成熟期のハイドンの素晴らしい筆致が実に鮮やかに浮かび上がります。アポロン的に完璧に響きが調和します。完璧なプロポーション。幾分古い録音から浮かび上がる白亜の神殿のような圧倒的な姿。
そして2楽章のチクタクアンダンテ。ゆったりと優雅典雅流麗に時が流れます。演奏スタイルとしては古いものですが、この時計の癒しに満ちたメロディーに古さは感じられません。完璧にリラックスした音楽が流れます。中盤からの盛り上がりも余裕たっぷりにおおらかなもの。何回かの転調で変奏を重ねるごとに音楽が燻され、味わい深くなっていきます。時代を超えた素晴らしい説得力。ホーレンシュタインは楽譜の余白から音楽の構造を精緻に読み取り、音にしていく類い稀な感覚の持ち主なんですね。
メヌエットは穏やかさをたもちながら、ちょっと荒れたよう表情を感じさせる絶妙な演出。メロディーが実にいきいきと踊り、リズムもこれしかないというハマり方。中間部のフルートのなんとデリケートなこと。ここまで優雅に歌うメヌエットはなかなかありません。見事。
そして時計の総決算のフィナーレ。すべてのメロディーをしっとりと響かせながら、徐々にスロットルを開いていき、落ち着きを保ちながらクライマックスにひたひたと近づいていきます。オケの厚みを増しながらスロットル全開! この余裕に満ちたクライマックスへもってくるコントロール力は素晴らしいものがあります。最後は再び白亜の神殿を思わせる完璧なプロポーションを印象付けます。

LPの方はオケのリアリティがあり、スクラッチノイズは少々多めなものの、タイトな響きの魅力も味わえます。

今から50年以上前に録音されたホーレンシュタインの時計。時計という曲にハイドンが仕込んだ優雅な気配を汲み取り、素晴らしい演奏でまとめられました。時代は流れ、演奏スタイルも楽器も変わりましたが、このホーレンシュタインの時計は、そうした時の流れを超えて、この曲の一つの理想的な演奏として変わらぬ価値を保ち続けるでしょう。時計の名演奏として多くの人に聴いていただくべき価値があると思います。CDはまだまだ手に入りますので、未聴の方は是非。評価はもちろん[+++++]とします。

さて、手元には湖国JHさんから色々アルバムが届いております。またまた隠れた名盤を紹介できますね。お楽しみに!

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tag : 時計 LP

【新着】ロビン・ティチアーティ/スコットランド室内管のホルン信号、70番、時計(ハイドン)

今日は最近リリースされたばかりのアルバム。

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TOWER RECORDS / amazon / HMV ONLINEicon

ロビン・ティチアーティ(Robin Ticciati)指揮のスコットランド室内管弦楽団(Scottish Chamber Orchestra)の演奏で、ハイドンの交響曲31番「ホルン信号」、70番、101番「時計」の3曲を収めたアルバム。収録は2015年1月31日、2月1日~2日、7日~8日、エジンバラのアッシャーホールでのセッション録音。レーベルはオーディオメーカーでもあるLINN。

スコットランド室内管といえば、チャールズ・マッケラスとのモーツァルトの交響曲全集で聴かれる、クッキリと筋の通った透明感あふれる響きが印象に残っています。このオケの現在の首席指揮者がロビン・ティチアーティ。2009年からこの地位にあります。いつものようにティチアーティについてちょっと調べてみます。

ロビン・ティチアーティは1983年ロンドン生まれ。名前からわかる通りイタリア系です。子供の時からヴァイオリン、ピアノ、パーカッションを学び、英国ナショナル・ユース・オーケストラのメンバーとなります。15歳でセント・ポールズ・スクールに通いながら指揮をはじめ、ケンブリッジ大学クレア・カレッジで音楽を専攻することになりますが、正式な指揮教育は受けていないとのこと。その後サイモン・ラトル、コリン・デイヴィスに師事して指揮の腕を磨き、2005年、オーロラ室内管弦楽団を創設し、最初のコンサートを開きます。同年ムーティの招きでミラノ・スカラ座に最年少でデビュー。2008年にスコットランド室内管をはじめて振りますが、翌年には首席指揮者となり現在に至り、またグラインドボーン音楽祭の音楽監督、バンベルク響の首席客演指揮者も務めるなど近年は飛ぶ鳥を落とす勢い。私もはじめて聴く人ですが、すでにLINNからはスコットランド室内管とのアルバムが何枚からリリースされているほか、オペラの映像、バンベルク響を振ったアルバムなどいろいろリリースされており今後が楽しみな人です。ムーティが見初めたということで、なんとなく音楽に独特の輝きをもった人という印象です。

オペラを得意とするティチアーティが切れ味鋭いスコットランド室内管と録音したハイドンということで、ハイドンの交響曲演奏史に一石を投ずることになるのでしょうか。

Hob.I:31 Symphony No.31 "Hornsignal" 「ホルン信号」 [D] (1765)
このアルバム、一聴して録音がいい。流石にLINNというところ。空間にオケがきっちり定位して響きも精緻。SACDマルチチャネルにも対応しているので環境がある方には録音面でも魅力のあるものでしょう。冒頭からテンポよく爽快な入り。オケがイキイキとして音楽が弾みます。フルートに印象的にレガートを効かせたりして遊び心もありそう。オケが実に楽しそうに演奏しており、オーケストラコントロールの腕は確かですね。1楽章から見事な演奏に惹きつけられます。
ホルン信号の目立ちはしませんが聴きどころのアダージョ。じんわりと心に響く音楽。ティチアーテはここでちょっと牙を剥いてきました。引き締まった表情でゆったりと音楽を進めますが、途中で入るアクセントが鋭い。途中ソロ楽器に修飾音をつけて遊び心を忘れないあたりは前楽章そのままですが、オケの切れ味をチラ見せすることで、ゆったりした部分を際だたせようということでしょう。そのゆったりした部分は弱音のデリケートなコントロールが効果的でホルンも上手い。
そして鮮やかさが際立つのがメヌエット。明るく屈託のない響きが実に爽やか。ヴィブラートを抑えた透明感が素晴らしい。
フィナーレの前半はソロ楽器の織りなす音の綾を楽しむよう表情の変化を抑えて、純粋に音符に音楽を語らせるようですが、変奏最後のコントラバスがちょっと自己主張(笑) 最後のプレストでオケが吹き上がり終了。1曲目からティチアーティの鮮やかな手腕が印象的。

Hob.I:70 Symphony No.70 [D] (before 1779)
珍しい曲を選んできました。リズムの面白さが際立つ曲。ハイドンの音楽に潜む諧謔性が炸裂。畳み掛けるようなクレッシェンド。ティチアーティはときおりレガートを織り交ぜリズムの切れ味を強調。特にティンパニが鮮やか。オケが軽々と吹き上がる快感。
アンダンテでは仄暗い旋律を穏やかに刻んで、またも音符自体に音楽を語らせるように表現を抑え気味に進めます。そしてメヌエットの自然で鮮やかなところは変わらず。メヌエットの終盤にじわじわとオケに力が漲ってくるようになりますが、このやりすぎないのにオケの鮮やかさが際立つというところがティチアーティの優れたところでしょう。
フィナーレはフーガ。ハイドンなのにバッハを思わせる緻密な展開と感じさせるのはティチアーティがきりりと表情をオケを引き締めているからに他なりません。緻密にコントロールされたオケからは神々しいオーラが発せられています。

Hob.I:101 Symphony No.101 "Clock" 「時計」 [D] (1793/4)
締めは時計。2楽章ばかりが有名ですが、時計も驚愕も緊密な1楽章が聴きどころ。タイトでクリア、引き締まった序奏から、落ついて主題に入ります。流れよりもゴツゴツしたリズムの面白さを強調して進みますが、それがだんだん流麗さを帯びてくる展開。この1楽章の古典的な演奏の高揚感をあえて避けるように、冷静さを保ちながらオケのスロットルをコントロール。やはりオケの俊敏さ、切れ味の良さが持ち味。1楽章の終結部の力の漲りようにはビックリ。
2楽章のアンダンテは予想どおり速めの展開。カチカチ刻む秒針に合わせて音楽も軽やか。なぜかオーボエの響きが実に美しい。展開部に入っての盛り上がりもキレキレ。ティンパニの鋭いバチさばきにうっとり。テーマ音楽としてのわかりやすさではなく、交響曲としてのアーティスティックな魅力をきちんと伝えるという姿勢が素晴らしいですね。
ティチアーティのメヌエットは俊敏なオケが鮮やかに響き、実に爽快。これが3楽章に挟まって交響曲の展開を多彩にしているという意味がよくわかります。クリアな録音で際立つ響きの鮮やかさ。全奏でも各パートの音色が鮮明にわかります。
そしてフィナーレは俊敏なオケの機能美のショーケースのような風情。全編にオケの力が漲り、展開部のフーガはあえて音量をかなり落として繊細さを印象付け、最後は室内オケとは思えないほどの力感を表してフィニッシュ。

新進気鋭のロビン・ティチアーティ率いるスコットランド室内管によるハイドンの交響曲集。若手の指揮者がハイドンを取り上げると有り余る創意を出しすぎて、くどくなったり強引さが目立ったりするのですが、ティチアーティはその辺がわかっているのか、実に落ち着いて、必要十分な創意で十分な効果を挙げています。室内管弦楽団の透明感あふれる響きを武器に、俊敏なところ、力漲るところを見せつつも遊び心も忘れず、ハイドンとはこうして演奏するものと言わんばかりのスマートさ。このセンスこそムーティの目に止まったところではないかと想像しています。選曲のセンスもよく、今後のハイドンの録音が期待されるところ。今回の3曲、すべて[+++++]とします。

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tag : ホルン信号 交響曲70番 時計 SACD

クーベリック/ケルン放送響の時計、102番(ハイドン)

東京は先週末に一気に染井吉野が開花しました。天気にも恵まれたので昼休みには多くの人が近くの公園などで暖かな陽射しのもと桜の花を見上げて楽しんでいました。夜の花見のためにブルーシートを敷いて新入社員が場所取りをしながらノートパソコンで仕事をしているのが微笑ましいですね。これから桜吹雪を楽しむと、程なく木々が芽吹き、一気に新緑の季節になります。街路樹の欅など、何も葉のない枝からあっという間に新緑の葉が吹き出してくるのは毎年ながら自然の力を感じます。

桜は楽しんでいるのですが、新年度に入って仕事もバタバタしており、なかなか音楽をゆっくり楽しめません(涙)。ということでちょっと間が空いてのレビューです。今日は新着アルバム。

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TOWWER RECORDS / HMV ONLINE
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ラファエル・クーベリック(Rafael Kibelík)指揮のケルン放送交響楽団(Kölner Rundfunk-Sinfonie-Orchester 現WDR Sinfonieorchester Köln)の演奏で、ハイドンの交響曲101番「時計」、102番などを収めた3枚組のアルバム。ハイドンの収録は時計が1963年5月31日、102番が1961年4月10日のライヴで、ケルン放送センターの第1ホールでのライヴ。咳払いなどが入っていないので放送用の収録ということでしょうか。レーベルはORFEO D'OR。

クーベリックのハイドンは気になる存在ゆえ、わりと取り上げています。これまでのレビューは下記のとおり。

2013/12/27 : ハイドン–交響曲 : クーベリック/バイエルン放送響の時計1970年10月ライヴ(ハイドン)
2012/07/24 : ハイドン–交響曲 : クーベリック/バイエルン放送響の99番1982年9月7日ライヴ
2012/01/27 : ハイドン–声楽曲 : クーベリック/バイエルン放送響の「戦時のミサ」
2010/10/11 : ハイドン–協奏曲 : フルニエ/クーベリックのチェロ協奏曲2番
2010/05/24 : ハイドン–オラトリオ : クーベリックの天地創造

今日取り上げるアルバムは最近リリースされたもので、ハイドンの曲が入っているのに最近気づいて慌てて注文したものです。クーベリックのハイドンの交響曲の録音はライヴを中心に99番、時計、102番が残されており、この3曲がお気に入りだったものと推察されます。その録音のなかでも最初期の録音です。

アルバム自体は1960年から63年にかけてケルン放送交響楽団との録音を集めたもので、残念ながら録音はすべてモノラルですが、ジャケットの写真のとおり、晩年の温厚な姿とは異なる、ギラつく視線とアーティスティックな雰囲気がにじみ出る若きクーベリックの覇気あふれる時代の録音です。上のバイエルン放送響との99番の記事に記したとおり、クーベリックは1961年からバイエルン放送響の首席指揮者に就任しており、まさに脂の乗りきった時代。晩年は中庸の美学で聴かせたクーベリックの覇気が聴かれるのでしょうか。

Hob.I:101 / Symphony No.101 "Clock" 「時計」 [D] (1793/4)
緊張感を帯びた入り。テンポはゆったりながら、ビンと張り詰めた序奏。録音はモノラルでわずかながら金属っぽい響きを感じますが鮮明さもほどほどあり悪くありません。低音がちょっとボンつき気味でピークが抑えられていますが、音量を上げていくとかなりのリアリティ。後年のクーベリックが聴かせる絶妙のバランス感覚はすでに健在。ザクザクと音楽を刻みますが、迫力だけではなく折り目正しさもあり、ハイドンが仕組んだ1楽章の構成感を見事に描いていきます。
見事なのは2楽章。時計のリズムを正確に刻みながら、イキイキとメロディーが浮かび上がり、各パートが代わる代わるヴァイオリンの奏でるメロディーにからみ、聴き進むうちに至福の心境に。中盤の盛り上がりも実に心地よい吹き上がり。オケの精度も高く、キリリと引き締まった表情で音楽が流れます。終盤は枯淡の境地。静寂の中にリズムが打たれ、彫りの深い表情で凛と迫ります。時計の2楽章でこれほど迫ってくるとは。
メヌエットはまさにクーベリックの美点が活きる楽章。バランスを保ちながらも、ザクザクと迫ってくる音塊。LPのモノラル盤の迫力のような引き締まった響きに鳥肌が立ちそう。中間部のフルートソロが実に心に沁みます。
そしてフィナーレ。落ち着いた入りから徐々にスロットルが開き、オケが分厚く鳴り響きます。最後にゆったりとした印象を残しながらのスロットルコントロール。徐々にクライマックスに昇りつめていきますが、音量を落とす部分は騒めくような気配を残して対比をつけます。最後は落ち着いてフィニッシュ。これはこれまでのクーベリックのベストのハイドンかもしれません。

Hob.I:102 / Symphony No.102 [B flat] (1794)
続く102番。先ほどよりも録音は2年ほど古いですが、コンディションはこちらの方が上で、鮮明度は上がります。低音のボンつきはおさまり、金属っぽい残響もなくなります。モノラルながらタイトないい録音。102番独特の穏やかなメロディーですが、前曲同様ザクザクと切り込み、迫力は十分。一貫してタイトな表情。オケは前曲よりもすこし荒く、力感重視な演奏。前曲での演奏がスロットルコントロールの面白さで聴かせたのに対し、この曲1楽章では力で押す感じでしょうか。
好きな2楽章ですが、この曲独特の穏やかな起伏を柔らかく描くのではなく、タイトに描いていきます。やはりこの時代の空気なのでしょうか、ザクザクとしたオケの表情が時折顔を覗かせます。
その表情はつづくメヌエットへの伏線だったのでしょう、メヌエットはキレのいいオケが楔を打ち込むように実に気持ち良く鳴ります。ゆったりとアダージョを聴かせるところではなく、ザクザクと鳴りまくるメヌエットに焦点をあてた設計。そのキレと迫力が効いているので中間部の木管陣によるメロディーが実に柔らかく響きます。
フィナーレはクーベリックの真骨頂、バランスと迫力が拮抗した素晴らしい演奏。オケのキレも最高潮。冴え冴えとしたヴァイオリンに分厚く迫る低音弦。そして特に音量をすっと下げるスロットルワークの巧みさが神々しいほど。最後はオケが研ぎ澄まされたように純度が上がり、フィニッシュ。出だしの1楽章が若干力み気味な印象を残したものの、聴き進むうちにオケが覚醒、最後は冴えまくって終わりました。

ラファエル・クーベリック指揮のケルン放送響による1960年代初頭のハイドンの名曲2曲の演奏。やはりクーベリックが飛ぶ鳥を落とす勢いで名声を得ていったころの覇気があふれる素晴らしい演奏でした。録音はモノラルですが、かえってモノラルならではの迫力が楽しめるという見方もできるでしょう。時計は緩急自在の演奏、102番は冴えまくるオケに圧倒される演奏でした。これまで聴いたクーベリックのハイドンでは両曲ともベストでしょう。評価は両曲とも[+++++]とします。

山梨では桃の花が盛りとの情報! 明日は山梨に桃の花を愛でにいってみましょうか、、、

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tag : 時計 交響曲102番 ライヴ録音 ヒストリカル

ショルティ/ロンドンフィルの「奇跡」、「時計」(ハイドン)

年度はじめに相応しく、メジャーアーティスト、メジャーレーベルのメジャーな曲。私個人の嗜好のままレビュー盤を選んでいくと、どんどんマイナーなアルバムになってしまいますので、意図してメジャーなアルバムをセレクトします。

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amazon / amazon(ザロモンセット)/TOWER RECORDS(ザロモンセット)

サー・ゲオルク・ショルティ(Sir Georg Solti)指揮のロンドン・フィルハーモニー管弦楽団(London Philharmonic Orchestra)の演奏で、ハイドンの交響曲96番「奇跡」、101番「時計」の2曲を収めたアルバム。収録は1981年3月、ロンドンのキングスウェイホールでのセッション録音です。レーベルは英DECCA。

ショルティはマーラー等派手なオーケストレイションの曲を得意としていたからか、はたまたかなり強引な指揮姿からか、豪腕なイメージが強い人ですが、このロンドンフィルとのハイドンを聴くとさにあらず。オケを思い切り煽って鳴らしまくるのですが意外とダイナミクスを強調した演奏ではなく、アクセントはあまり強調せず流れの良い大きな起伏で聴かせる演奏なんですね。これまで当ブログでもいろいろ演奏をとりあげています。

2012/02/25 : ハイドン–オラトリオ : ショルティ晩年の天地創造ライヴDVD
2012/01/02 : ハイドン–オラトリオ : ショルティ/シカゴ響による天地創造旧盤
2011/06/27 : ハイドン–交響曲 : ショルティ/ウィーンフィルの「ロンドン」1996年ライヴ!
2011/03/27 : ハイドン–交響曲 : 爆演、ショルティの指揮者デビュー録音、ロンドンフィルとの太鼓連打他
2010/12/03 : ハイドン–交響曲 : ショルティ/ロンドンフィルによる102番、103番「太鼓連打」2
2010/12/02 : ハイドン–交響曲 : ショルティ/ロンドンフィルによる102番、103番「太鼓連打」

ただし、最も録音年代の古いロンドンフィルとの太鼓連打の指揮者デビュー録音でははち切れんばかりの覇気に満ちた爆演。この演奏が最もショルティらしい演奏と言っていいでしょう。デビュー当時のショルティの気合いの入りかたは尋常ではありませんでしたが、今日取り上げる1980年前後のザロモンセットでは、いい具合に力が抜け、ハイドンとはしゃにむに振るのではないとの悟りを得たのか、適度に力がぬけたショルティの余裕が感じられる演奏だと言うところでしょう。

Hob.I:96 / Symphony No.96 "The Miracle" 「奇跡」 [D] (1791)
響きの良い録音会場として多くの名録音を生んだ今は亡きキングスウェイホールの豊かな響きにつつまれた奇跡の序奏。ショルティらしい精緻なゆったり感。主題に入るとテンポを一気に上げ、いきなり素晴しい躍動感。インテンポで畳み掛け、この曲独特のコミカルなメロディーを素晴しいキレの弦楽器群が描いて行きます。意外と低音弦は抑え気味で主に高音弦の迫力で聴かせ、この推進力とハンガリーの伝統と思わせるヴァイオリンのキレは見事。オケはいい意味で適度な粗さもあり、それが迫力にもつながっています。ショルティがオケを煽っているのがよくわかります。
つづくアンダンテも基本的に落ち着いた表現ながらインテンポの余韻がのこってヴァイオリンパートの流麗さで聴かせる演奏。弦楽器の雄弁さと、奏者全員がショルティの煽りにしっかりとついて行っているのが流石。木管、金管もすこし控えめであくまで弦楽器主体なところにこのしなやかな表情が生まれるのでしょう。
メヌエットは流石に迫力に振ってきますが、それでも力ませではなく、あくまで音楽が一貫して流れ、特に弦楽器の雄弁さに裏付けられた一貫性があります。徐々に迫力を増し、オケが怒濤の迫力を帯びてきます。木管のソロは落ち着きはらって美しいメロディーラインをこともなげに吹いてきます。テンポは乱れず、音楽が滔々と流れて行きます。
アバド盤で鮮烈なキレが印象的だったフィナーレ。ショルティのコントロールはミクロ的なキレではなく大局的な見地でのキレがあります。最初は抑えて入りますが、徐々にマグマにエネルギーが満ち、オケの底力が発揮されます。それでも高音弦中心のスタイリッシュなイメージを保ちます。非常に高揚感を感じながらもオケの力が抜けた名演奏。

Hob.I:101 / Symphony No.101 "Clock" 「時計」 [D] (1793/4)
続いてこちらも名曲「時計」です。ことさら1楽章の緊密な構成感が聴き所ゆえ、このアルバムのショルティの録音の出来が素直に刺さります。またまた緊張感を帯びたゆったりさで入ります。序奏の規模が奇跡よりも大きいので、しなやかにオーケストラが響くのをゆっくり楽しめます。そしておもむろにギアチェンジして怒濤のインテンポ。特に低音弦を抑えながらのこの高揚感。あえて旋律の美しさに目を向けさせようと言うのでしょうか。高音弦だけでもこれだけ迫力を出せることを誇示したいのでしょうか。真意はわかりませんが、いずれにせよ素晴しい高揚感。時計の1楽章の理想的な演奏でしょう。
有名な時計のリズムを刻むアンダンテは、予想通り速めのテンポでいきます。おそらく途中からのうねりも速めに畳み掛けてくるのでしょう。速めののテンポと軽々としたリズムからハイドンの諧謔的なメロディーの面白さが滲み出てきます。このあたりはショルティの面目躍如。時計の面白さを良く踏まえた演奏。中盤からの盛り上がりもテンポを落とさずしっかりと隈取りを重ねて素晴しい迫力。再び枯れてもテンポは落とさず、オケは規律を失いません。最後まで弦楽器のボウイングに力が漲り、エネルギーはおとろえません。
メヌエットは前曲と異なり、かなりアトラクティヴ。クッキリと旋律を描き、色彩感も抜群。陽光に映える白亜の神殿のような圧倒的存在感。丁寧にフレーズを重ね、徐々にクライマックスに近づいていきます。間奏のフルートが妙に上手くて気になります。冴え冴えとした動と静の対比が見事。
最後のフィナーレに集中。入りはオーソドックスですが、おそらくトランス状態のような陶酔がまっているでしょう。やはり低音弦を抑えてメロディー主体の盛り上がり。これがショルティのハイドンのスタイルでしょうか。不思議に落ち着いてもいながら響きは陶酔まっしぐら。明らかにこの楽章に焦点を合わせてきています。最後はやはりショルティ、オケを鳴らしきって終わります。

サー・ゲオルク・ショルティ指揮のロンドンフィルによるザロモンセットのアルバムから「奇跡」と「時計」というハイドンの交響曲でも指折りの名曲。やはり一流どころのハイドンたる雄弁な演奏だと再認識。ショルティの古典派が良いというイメージを持たない方も多いかもしれませんが、これは名演です。私はカラヤン/ベルリンフィルのザロモンせっとよりもショルティの方を推します。この2曲の評価は[+++++]ですね。未聴の方は是非聴いてみてください。

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クーベリック/バイエルン放送響の時計1970年10月ライヴ(ハイドン)

久々のライヴもの。

Kubelik101.jpg

ラファエル・クーベリック(Raphael Kubelik)指揮のバイエルン放送交響楽団(Bavarian Radio Symphony Orchestra)の演奏で、ハイドンの交響曲101番「時計」、バルトークの管弦楽のための協奏曲の2曲を収めたアルバム。このアルバムに演奏年の表記はありませんが、クーベリックのディスコグラフィのサイトによると収録は1970年10月1日、2日のライヴとのこと。レーベルは米FIRST CLASSICS。

Rafael Kubelík - Discographie - Discography

クーベリックのハイドンはこれまでにも4度取りあげています。

2012/07/24 : ハイドン–交響曲 : クーベリック/バイエルン放送響の99番1982年9月7日ライヴ
2012/01/27 : ハイドン–声楽曲 : クーベリック/バイエルン放送響の「戦時のミサ」
2010/10/11 : ハイドン–協奏曲 : フルニエ/クーベリックのチェロ協奏曲2番
2010/05/24 : ハイドン–オラトリオ : クーベリックの天地創造

クーベリックの紹介は99番の記事をご覧ください。

クーベリックは、多くの録音を残す事になったバイエルン放送響の首席指揮者として、1961年から79年までその任にありましたので、今日取り上げる1970年の頃は、まさにオケを完全に掌握していた頃でしょう。以前取りあげた、同じ組み合わせの後年の99番のライブが素晴しかっただけに、ちょっと期待が高まります。クーベリックの穏やかながらバランスのよいコントロールで聴く時計は、どうでしょうか。

Hob.I:101 / Symphony No.101 "Clock" 「時計」 [D] (1793/4)
年代なりの粗さはあるものの、比較的鮮明な録音。音の実体感、骨格がしっかり出ているので聴きやすい録音です。予想通り、クーベリックらしいオーソドックスな序奏。穏やかな表情ながらじわじわと盛り上がっていきます。まさに王道を行くような安定感。中盤からの畳み掛けるような曲想のところでも、まったく慌てず、徐々に徐々に手綱を締めて、じわりと盛り上がります。アポロン的均衡が見事に保たれた、均整のとれた1楽章。
時計のリズムを刻むアンダンテは、まさにゆったりと時を刻むオーソドックスな時計。最近の演奏の多くがかなり速いテンポでキレよく進めると比べると時代を感じますが、このオーソドックスさを好む人も多いでしょう。やはりクライマックスに向け、じわりと盛り上げて行くクーベリックの穏やかな手腕が聴き所でしょう。
楽章の変わり目のテンポは超自然。最近の奇を衒った演奏を聴いているからこそ、この自然さが貴重です。メヌエットはわずかにレガートを効かせ、実に安定した演奏。教科書通りの誠実さ。まさに時計と言う曲の堅実さの真髄をつくような演奏。途中のフルートのソロの部分はフルートが浮かび上がるような不思議な浮遊感をうまく表現しています。ハイドンが書いたメロディーのオリジナルなイメージはこうだったのではないかとも思わせる説得力。
フィナーレに入っても気負う事なく、実に自然な演奏。手綱を強く引く事はなく、かわらず穏やか。迫力で聴かせると言う演奏ではなく、典雅な進行の面白さを聴けと言われているよう。確かにハイドンの書いた曲の艶やかな魅力がこの曲にはあり、明確にそこに表現のポイントを置いているよう。もちろんクライマックスでかなりの盛り上がりは聴かせますが、まったく破綻する事はなく、優雅な余韻を残します。ライヴとのことですが、拍手はカットされているようですね。

このあとのバルトークは上記のディスコグラフィが掲載されたサイトによると1968年頃のライヴのようですが、バルトークとなるとクーベリックもかなり力が入り、オケも髪を振り乱したようなかなりの迫力。前曲のバランスのとれたハイドンは、やはりハイドンに対するクーベリックの穏やかなイメージが解釈の根底にあるのでしょうね。

以前取りあげた後年の99番の覇気にくらべると、やはり穏やかさが目立ち、もう一超え踏み込んでほしいとも思わせる演奏でしたが、これはこれで名演だと思います。こうしたハイドンを振るひとはもうあまりいなくなっていますね。ハイドンの時計と言う曲の原風景のようなクーベリックのコントロールでした。評価は[++++]としておきましょう。

気づいてみれば、もうすぐ来年。今年もバタバタしているうちに暮れていきますね。

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Daisy


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なぜかハイドン(Franz Joseph Haydn)が特に気に入り膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。東京在住のごく普通のサラリーマンです。

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