ジョナサン・ノット/東響の86番、チェロ協奏曲1番(東京オペラシティ)

10月15日日曜は以前からチケットを取ってあったコンサートに出かけました。

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東京交響楽団:東京オペラシティシリーズ 第100回

最近、ちょっとお気に入りのジョナサン・ノット。昨年末に聴いた演奏会形式の「コジ・ファン・トゥッテ」があまりに素晴らしかったので、その後も何回かコンサートに通っています。

2017/07/23 : コンサートレポート : ジョナサン・ノット/東響の「浄められた夜」、「春の祭典」(ミューザ川崎)
2017/07/17 : コンサートレポート : ジョナサン・ノット/東響のマーラー「復活」(ミューザ川崎)
2016/12/12 : コンサートレポート : ジョナサン・ノット/東響の「コジ・ファン・トゥッテ」(東京芸術劇場)

コジ・ファン・トゥッテはキビキビとした進行に実に多彩な表情をつけて長いオペラを一気に聴かせる素晴らしい演奏でしたし、復活はオケを鳴らしきるど迫力の演奏。そして「浄められた夜」の精緻な透明感と曲ごとに多彩な表情を見せる人。そのノットがハイドンを振る、それも好きな86番にチェロ協奏曲ということでチケットを取ったもの。プログラムは下記の通り。

ハイドン:交響曲第86番 ニ長調 Hob.I:86
ハイドン:チェロ協奏曲 第1番 ハ長調 Hob.VIIb:1 チェロ独奏:イェンス=ペーター・マインツ(Jens Peter Maintz)
モーツァルト:交響曲 第39番 変ホ長調 K.543

ハイドンを振るのにいきなり玄人好みの86番を取り上げるあたりが流石のプログラミングセンス。ハイドンとモーツァルトという2人の作曲家の代表曲の影の傑作交響曲を並べるという趣向でしょう。そして協奏曲にはチェロ協奏曲1番ということで完璧に私好みのプログラムなんですね。



さて、日曜のコンサートということで、少し早めにオペラシティについて、こちらもお気に入りのお店で腹ごしらえ。

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食べログ:HUB 東京オペラシティ店

東京オペラシティの地下1階にある英国風パブチェーンのHUB。コンサート前の腹ごしらえはここです。

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ギネスにレッドアイを頼んで、まずは喉を潤します。

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そして、なぜかいつも頼むザ・フィッシュ&チップス。ビールのつまみになります。のんびりとビールを楽しんでいるうちに開場時刻となり、ホールに向かいます。

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この日の席は2階席のステージ右の一番奥の方。オケを上から眺める席です。しかも指揮者の指示が非常によく見える席。ステージ上は小規模オケということで余白たっぷり。ステージの真ん中だけ使うくらいで、マーラーやブルックナーの時のステージいっぱいに席が並ぶのとは異なりスッキリした感じ。客席の入りは5〜6割とあまりぱっとしません。やはりこのプログラムではお客さんが入らないのでしょうか。

定刻になりオケが入場し、ジョナサン・ノットもいつものようにステージに勢いよく駆け出てきて、注目の86番。ノットがタクトを下ろすと聴き慣れた序奏のメロディーが響きますが、最初はオケがまだ硬い感じなのに加えて、オケの直上の直接音主体の響きも手伝って、奏者の微妙な入りのタイミングの差が少々気になります。ノットのコントロールはフレーズごとにかなり表情をはっきりつけながらも、古楽器風の清透な響きを意識したもの。主題に入って86番独特の規則的なリズムを刻んでいく部分もちょっとリズムを重くしたり、軽くしたりと念入りな表情づけ。ノットの指揮も特に強音部ではかなり細かくタクトを振り回すので忙しい印象を与えます。なんとなくリズミカルなこの曲の魅力が、演出過剰でゴテゴテした印象もついてしまった感じ。ただし聴き進むうちにオケも徐々にこなれて、音楽の流れも良くなっていきます。1楽章も終盤になるとノットの激しい煽りでライブらしい高揚感に包まれます。
続く2楽章のカプリッチョは、古楽器風に少し速めのテンポで、この楽章もノット風のテンポを微妙に細かく変えながらの演奏。アクセントをかなり明確につけるので、メリハリは十分。そしてメヌエットは覇気十分で活気ある舞曲。今少し優雅さがあればとも思いますが、このゴツゴツとした感触を感じるデフォルメがノットの特徴でしょう。そして終楽章は渾身の力演。これは生ならではの盛り上がりを感じさせます。最後はノットの煽りで小規模なオケといってもホールに轟く大音響で終わり、盛大な拍手に迎えられました。

ステージ上にチェリストが乗る台が運ばれ、一部の奏者が入れ替わって、次のチェロ協奏曲。チェロのイェンス=ペーター・マインツとノットが登壇。マインツは長身ですね。チェロ協奏曲の伴奏は86番同様、ノット風に小刻みな表情づけが行われますが、協奏曲ゆえ基本的に流れの良い演奏なので、86番ほどノットの表情づけが気になることはありません。チェロのマインツは非常にキレの良いボウイングでいきなり観客の耳を釘付けにします。特に早いパッセージの鮮やかさは目もくらむほど。テンポよくキレの良いチェロでハ長調のこの曲の明るい推進力あるメロディーを先導します。1楽章のカデンツァはマインツの美音とボウイングの鮮やかさを印象付けるもの。オケも86番よりも流れが良くなり、マインツのキレの良さがノットの鮮やかな面を引き出し、掛け合いの面白さも活きる演奏でした。
続く2楽章のアダージョはマインツの美音の鮮やかさが際立ちました。大柄なマインツが弾くとチェロが小さく見えるほどで、楽器をコントロールし尽くしている感じ。2楽章のカデンツァは現代音楽風の不協和音をも織り交ぜ静寂を印象付ける踏み込んだもの。マインツが完全に観客をのんでいました。フィナーレはチェロの超絶テクニックの聴かせどころ。特に速いパッセージのボウイングの鮮やかさは素晴らしいものがありました。あまりの鮮やかさに聴衆からは嵐のような拍手が降り注ぎました。やはりソロがキレると協奏曲はいいですね。何度かのカーテンコールで、マインツが平台からノットを指揮台に乗せる場面があり、指揮台に乗ったノットがようやくマインツに背が届くとわかって会場は笑いに包まれました。アンコールはバッハの無伴奏チェロ組曲3番からサラバンド。チェロの豊かな低音の唸りを祈りに昇華させるようなアーティスティックな演奏に聴き惚れました。

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休憩を挟んで後半はモーツァルトの39番。オケの編成はほぼ変わらず、コントラバスが2本から3本に増えたくらい。このモーツァルトはハイドンとはまたスタイルを大きく変えてきました。ほぼ古楽器の演奏と思わせるようなリズムの早打ちに、ほぼノンヴィブラートで澄み切った音色を強調するヴァイオリン、そして細かい表情づけは少し後退して優雅さを感じさせるような大らかさも持ち合わせた演奏。1楽章の美しいメロディーの繰り返しにうっとり。ハイドンではあれだけ緻密に表情づけをしていたのに対し、モーツァルトの天真爛漫なメロディーに触発されたのか、流れの良さはだいぶ上がってきています。演奏のテイストは一貫して、2楽章、3楽章、フィナーレと安心して身を任せられる演奏でした。もちろん観客は大満足の演奏だったようで、最後も盛大な拍手に包まれました。



これで4回目のジョナサン・ノットのコンサート。今回は私好みのハイドンの曲中心のプログラムでしたが、このハイドンが演奏の難しさを感じさせるものでもありました。期待の86番はノットのせわしない指揮が曲のシンプルな魅力を表現しきれていない印象も残してしまいました。チェロ協奏曲はソロも含めてなかなかいい演奏、そして後半のモーツァルトは期待以上の素晴らしさでした。86番については好意的に聴いた人も多かったかと思いますが、日頃ハイドンばかり聴いている私ゆえの辛口コメントということでお許しください。

さて、次のノットはドン・ジョバンニです。昨年のコジ・ファン・トゥッテは名歌手トーマス・アレンの魅力もあり素晴らしい舞台でしたが、ドン・ジョバンニは如何に仕上がってくるでしょうか。今から楽しみです。

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高関健/東京シティフィルの天地創造(東京オペラシティ)

昨夜は気になっていたコンサートに出かけました。

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東京シティフィルハーモニック管弦楽団:第309回定期演奏会

コンサートに行くたびにチラシで次のコンサートを物色するのですが、なんと今週来週、東京で天地創造が2回も取り上げられます。一つがこちらの高関健の振る東京シティフィル、もう一つが大野和士の振る都響。東京がアイゼンシュタットになったような祝祭感! 両方とも聴きたかったのですが、いろいろな都合もあり、なんとなく聴いたことのなかった東京シティフィルの方のチケットを取った次第。

指揮・チェンバロ:高関 健(Ken Takaseki)
ソプラノ:安井 陽子(Yoko Yasui)
テノール:中嶋 克彦(Katsuhiko Nakashima)
バス:妻屋 秀和(Hidekazu Tsumaya)
合唱:東京シティ・フィル・コーア(TCPO Chor)
合唱指揮:藤丸 崇浩(Takahiro Fujimaru)

高関健も東京シティフィルも名前はもちろん知っているものの録音も含めて聴くのはまったくはじめて。
高関健は群馬交響楽団のイメージがありますが、国内の主要オケの音楽監督を歴任し、今は東京シティフィルの常任指揮者と京都市交響楽団の首席客演指揮者で芸大指揮科の教授を務める人。1955年生まれで桐朋学園在学中にカラヤン指揮者コンクールジャパンで優勝し、ベルリンでカラヤンのアシスタントを務めていたそう。その後、バーンスタイン、小澤征爾に師事するなど、桐朋、カラヤン、バーンスタインという流れは小澤征爾と同じなんですね。
東京シティフィルは東京に数多存在するオーケストラのうちの一つで、なんとなくN響、読響などとはランクがちょっと違う感じですが、最近の在京オーケストラの水準は以前とは比べものにならないほど上がっていますので、お手並み拝見といったところ。

天地創造のアルバムのレビューは数えてみたら51種も書いていましたが、コンサートはこれまで2度のみです。

2017/06/04 : コンサートレポート : 鈴木秀美/新日本フィルの天地創造(すみだトリフォニーホール)
2010/10/31 : コンサートレポート : アーノンクールの天地創造(サントリーホール10/30)

ハイドンの作品の中でも最高傑作であり、天地創造というコーラスを伴う大規模なオラトリオは録音よりも生で聴きたいものですね。この日のコンサートはお手並み拝見といった気持ちでチケットを取ったわけですが、結果からいうと実に素晴らしいコンサートで、天地創造という名曲を存分に楽しめる超名演でした。



この日の会場は東京オペラシティ。いつも通り西新宿の職場から歩いてオペラシティに参上。先に待っていた嫁さんと合流して、いつも通りサンドウィッチとワインで腹ごしらえ。

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ワインはいつものものではなく、東京オペラシティ開館20周年記念で勝沼の鳥居平今村の甲州とブラッククイーンが供されており、それを注文。お腹も満ちたところで、いざ、天地創造です。

この日の席は1階前方中央と日頃めったに取らないS席。6列目でしたがステージが拡大されていたので、実質4列目。普段は上から俯瞰できる2階席右側を取るのですが、そちらが空いていなかったので、珍しくS席とした次第。オケの至近距離で響きもダイレクトですが、前方の奏者以外の奏者の様子がよく見えないので、眺めは今ひとつです。

ほどなくコーラスのメンバーが登場。ステージ後方にかなりの人数が並びます。そしてオケも天地創造としては大編成でしょう。オペラシティーのステージが狭く感じるほど。定刻になり歌手と高関健が登場。高関健さんはなんとなく近所のおじさんがタキシードを着てステージに上がったような気さくな感じ(笑) このところファビオ・ルイージ、ジョナサン・ノット、エリアフ・インバル、エサ=ペッカ・サロネンとスタイリッシュな指揮者のコンサートが続いていましたので、隣の嫁さんも指揮者というのはスタイリッシュなものだと思い込んでいたとのこと。高関健はチェンバロも兼ねているので、指揮台はなくステージにたち、チェンバロを20センチくらいの台に乗せ、立ってチェンバロと指揮をこなすスタイル。オケの東京シティフィルも、普通のオケにはいるギラついたオーラを発するような奏者は見当たらず、なんとなくアマチュアオーケストラ風な佇まい。

高関健が拍手に応えて実に気さくに微笑み観客に向かって挨拶を終え、奏者の方に向き直って両手を振り下ろすと、第一部冒頭の混沌の描写が始まります。響きはゆったりとしたもので最初はかなり遅めのテンポでじっくりと描いていきます。ヴァイオリンも丁寧すぎるくらい表情をつけたボウイングで、これより遅いと音楽が停滞しかねないくらい。コンサートの冒頭ゆえかオケもまだ少し硬い感じがありますが、奏者の数が多いので迫力はかなりのもの。そして注目のラファエルの第一声。ラファエルとアダムはバスの妻屋秀和。この日の妻屋さん、実に素晴らしかった。大柄な体に似つかわしくキリリとひきしまったバスがホールに轟きます。ラファエルこそ天地創造の要が持論ですが、アーノンクールの来日公演でのフローリアン・ベッシュの度肝を抜くような声量には及ばずとも、存在感と伸びやかさは十分。そこからのオケが徐々にオケが目覚めて湧き上がるように盛り上がります。ウリエルの中嶋克彦は非常に柔らかで透明感のある声。こちらも声量はほどほどながらしなやかな歌唱が絶品。そしてガブリエルとエヴァの安井陽子は明るく非常に伸びやかな高音の美しい声でチャーミング。第一部の聴きどこのガブリエルのアリアは名盤の名歌手の歌唱にも迫る素晴らしいものでした。この日の歌手陣は3人とも素晴らしい歌唱でした。高関健のコントロールは精緻な演奏ではありませんが、自然な呼吸とアゴーギクはハイドンの音楽の素朴な良さを引き立てます。第一部では前半に硬さが見られたものの、これはコンサートの常。大編成オケの迫力を活かしてゆったりと盛り上げ、要所で各楽器の音色を際立たせるアクセントを設けるなど流石に芸大指揮科の教授。曲全体の流れを一貫して保ちながら場面ごとの情景描写に変化をつける円熟の技。第一部終盤の盛り上がりは素晴らしいものがありました。

この日は第一部終了後に休憩が入り、休憩中にチェンバロを入念に調律し直していました。第一部の演奏は素晴らしかったんですが、お手並み拝見の想定内。ところが、休憩後の第二部以降はそれを超える想定外の素晴らしさ。天地創造の第二部はご存知の通り、素晴らしいアリアの宝庫。休憩でリラックスできたのか、オケも歌手もすっかり落ち着き払って、演奏の方は所謂ゾーンに入って、もはやハイドンの音楽と一体化したような素晴らしさ。淀みない音楽の流れに乗って、歌手が代わる代わるアリアを披露。剛腕指揮者の強烈なドライブとは正反対の自然な音楽。ハイドンの名演奏の多くはこうした素朴な中から心弾むような音楽が溢れ出してくる演奏。まさにこの日の第二部はそのゾーンに入っていました。次々と流れる絶品のメロディー。歌っていない歌手も他の歌手やコーラス、オケの演奏に聴き惚れながら次の出番を待つ至福の時間。ホール全体が演奏に集中する素晴らしい演奏でした。そしてクライマックスでは大波のように押し寄せるコーラスとオケが渾然一体になった怒涛の迫力。

そして、それまでステージに向かってラファエルが指揮者の左、ガブリエル、ウリエルが指揮者の右に配置されていたのが、ラファエルとウリエルが入れ替わって、第三部でのアダムとエヴァのデュエットに備えた配置に変わり、終曲で4重唱に参加するアルトの背戸裕子がステージに上がります。圧巻の第二部に続いて第三部でもゾーンは続いていました。入りのレチタティーヴォに続いて聴きどころのアダムとエヴァのデュエットは絶品。表情一つ変えずに朗々と歌う引き締まったアダムの声に表情豊かに可憐に歌うエヴァが寄り添い、2人の息もピッタリ。まさに至福のデュエット。安井さんのソプラノはまるで全盛期のルチア・ポップのような可憐さ。2つ目のデュエットはまさに夢見心地。そしてさらに素晴らしかったのが終曲。あえて軽めに終わる演奏もある中、堅固な大理石の神殿のような威容が姿を現し、これまでの演奏の総まとめ的クライマックスに突入。指揮者の影に控えていたアルトが前に立ち最後の四重唱。最後のアーメンの響きがホールに吸い込まれる前に拍手が降り注ぎました。

お手並み拝見とは失礼な前振りでしたが、この日の天地創造は素晴らしかった。もちろん生演奏の迫力があってのことですが、これまで聴いた数多の天地創造の中でも、心に残る演奏の一つとなりました。演奏の精度やオケの力量がこの演奏を上回るものは山ほどありますが、天地創造というハイドンが書いた曲の美しさ、素晴らしさを素朴に表現し、曲の本質に迫る演奏という意味では名だたる名演と肩を並べる素晴らしさでしょう。特に歌手3人は絶品。客席から降り注ぐ拍手とブラヴォーにステージ上で歌手もオケもコーラスも満足そうに笑顔で応えていたところみると、満足ゆく出来だったことでしょう。

終演後は、一部の奏者がロビーで観客に挨拶したり、プログラムも丁寧な作りで非常に好感の持てるコンサートでした。東京シティフィル、実に侮れない存在でした。今度はこの名演のコンビで、マイナーながら天地創造と同様美しいアリアの宝庫であるハイドンの「四季」か「トビアの帰還」を是非取り上げていただきたいですね。当ブログの総力を結集して集客に協力させていただきます!(大した集客力はありませんが、、、(笑))

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タリス・スコラーズ 2017年日本公演(東京オペラシティ)

このところ、コンサートにはよく出かけています。昨日6月5日(月)は、雷を伴う集中豪雨の中、東京オペラシティに行ってきました。

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アレグロミュージック タリス・スコラーズ 2017年 東京公演

ピーター・フィリップス(Peter Philips)指揮のタリス・スコラーズ(The Tallis Scholars)の2017年の日本公演。プログラムは下記の通り。

トマス・タリス:ミサ曲「おさな子われらに生まれ」(Missa Pour natus est nobis)
ウィリアム・バード:めでたし、真実なる御体(Ave verum corpus)
ウィリアム・バード:義人らの魂は(Justorum animae)
ウィリアム・バード:聖所にて至高なる主を賛美もて祝え(Laudibus in sanctis)
(休憩)
グレゴリオ・アレグリ:ミゼレーレ(Miserere)
クラウディオ・モンテヴェルディ:無伴奏による4声のミサ曲(Messa a quattro voci da capella)
ジョヴァンニ・ピエルルイジ・ダ・パレストリーナ:しもべらよ、主をたたえよ(Laudate Pueri)

タリス・スコラーズは古楽ファンならばご存知のことでしょう。ルネサンスの曲を中心に英Gimellレーベルから多くのアルバムがリリースされています。普段ハイドンばかり聴いている私も、タリス・スコラーズのアルバムは7枚ほど手元にあり、昔はよく聴いていました。そもそもの出会いは1988年のレコードアカデミー賞に、タリス・スコラーズのジョスカン・デ・プレのミサ曲集が選ばれたのきっかけに、そのアルバムを手に入れたこと。その澄み切ったコーラスのハーモニーの美しさに惹きつけられ、その後、パレストリーナやタリス、ヴィクトリアなど何枚かのアルバムを手に入れました。その中にアレグリのミゼレーレのアルバムがあり、これもリリース当時非常に話題になりました。そして、そのミゼレーレが再録音されたとの情報をききつけその再録音盤も手に入れました。そうこうしていた時に来日コンサートの情報が目に止まり、一度コンサートにも行っています。調べてみると、ブログを書き始める前の2007年の6月、当時の自宅の近くのパルテノン多摩でのコンサートでした。録音で聴いていた天にも昇るような透明なハーモニーがまさに目の前で歌われる感動に包まれたものでした。あれからもう10年もたったんですね。

今回は最近出かけたコンサートでもらったチラシにタリス・スコラーズのもの見つけ、迷いなくチケットを取った次第。またあの至福の時間を過ごせると思うとチケットを取らざるを得ません。しかもホールは東京オペラシティということで、さらに美しい響きが味わえるに違いありません。

今年一番楽しみにしていたコンサート故、いつも以上に仕事をそそくさと片付け、遅れてはならぬと余裕を持って会社を出ようとすると、外は雷が鳴り、バケツをひっくり返したような豪雨。もちろん、豪雨などにこの楽しみを奪われてはならぬと飛び出し、決死の形相でタクシーを捕まえ、歩けば職場から15分ほどのところにある東京オペラシティへ向かいます。タクシーに乗るまでと、降りてからホールに入るまでの短時間でスーツのズボンの裾はビッショリ(笑) ですが、そんなことより遅れずに到着した喜びが上回ったのは言うまでもありません。いつものように先にホールについていた嫁さんと合流して、ワインとサンドウィッチで体調を整え、演奏を待ちます。

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この日の席は2階席の右側1列目、ステージより少し客席側に入ったところ。先日このホールの3階席で聴いたサロネン/フィルハーモニア管があまり良い音響でなかったので、響きの良い2階を取った次第。ステージを至近距離で見下ろす良い席でした。

定刻前になってもいつものような鐘は鳴らず、自然にお客さんが座るのをゆっくり待ちます。ホール内が落ち着いたところでゆっくりと客席の照明が落ちてきて、衣装を黒で統一したメンバー10人とピーター・フィリップスがステージに登壇。日本の観客の暖かい拍手を楽しむように笑顔で登場。ソプラノが音叉で音程を確認すると、1曲目のタリスのミサ曲が始まります。

もう最初から絶妙なハーモニーにいきなり釘付け。10年前のコンサートの感動が蘇ります。単に精度の高いコーラスというのではなく、10人の声が織りなす純度の高い和音の絶妙なる響きに互いに共鳴するような圧倒的な透明感。声の出し方、響かせ方、音量のコントロールがおそらく相当精緻にコントロールされているのでしょうが、精緻すぎて超自然な領域にまで達している感じ。しかも以前聴いたパルテノン多摩とは異なり、教会堂に近いような木質系の柔らかい残響に包まれ、理想的な響きを作っています。ピーター・フィリップスは前回同様、最小限の小さなアクションでコーラスに指示を与えますが、オーケストラとは異なり、各パートは完全に指揮者からの指示が身についているようで、指示でコントロールされているという感じではなく、自然に指示とシンクロしている感じ。繰り出される目眩くようなポリフォニーに身を委ね、極上の響きに酔いしれます。最初の曲で早くも昇天しそうになります。グロリアに続き、サンクトゥス、ベネディクトゥス、アニュス・デイと続いて、最後のコーラスの余韻が静寂の中に消え、ピーター・フィリップスの手が降ろされると、ゆったりとした暖かい拍手に包まれます。この日のお客さんはこの響きを待っていたのでしょう。

2曲目からはウィリアム・バードの曲が3曲続きます。タリスの重厚なハーモニーから一転、静謐なメロディーを軸にしながらしなやかに展開するバードの恍惚とした音楽にかわります。やはりハーモニーの美しさにとろけっぱなしの至福のひとときでした。いくら録音のいいGimellのアルバムでも、実演のこの美しい響きは再現出来ません。前半の演奏時間は正味40分ぐらいだったでしょうか、それでも純度の高いコーラスの響きに癒され、この日のお客さんは皆笑顔で休憩時間を過ごされていました。

休憩の終わりにも何の合図もなく、お客さんが席に収まったところを見計らって照明がゆっくりと落ち、後半が始まります。我々は以前のコンサートで体験済みだったので、ステージ上に歌手が5人しかいない訳を知っていました。視線を客席の後ろの方に向けると2階席の左後ろ隅に4人、そして私たちの席からは死角でしたが、おそらく1階席の右側のどこかに1人歌手が立ち、後半の最初のアレグリのミゼレーレが始まります。この曲はバチカンのミケランジェロのフレスコ画で有名なシスティーナ礼拝堂でのみ演奏が許された曲とのこと。5声の第一合唱と4声の第二合唱が交互に歌いあい、間にテノールの語りが入るためホールの前と後ろと天から降り注ぐようなテノールによる立体的な響きに初めて聴く観客の方は驚くばかり。聴き進むうちにまるでシスティーナ礼拝堂にいるような錯覚に襲われます。この曲も新旧2枚のアルバムで聴くのとはレベルの異なるリアリティ。休憩前とはまた異なる響きのヴァリエーションに観客もうっとりするばかり。もちろん最後は後方の歌手にも惜しみない拍手が降り注ぎ、ホール全体が素晴らしい音楽に包まれる悦びを共有しました。

歌手がステージに戻ると、続いて今年生誕450年のアニヴァーサリーであるモンテヴェルディのミサ曲にパレストリーナの曲と続きます。あんまり馴染みのある曲ではないのですが、モンテヴェルディの陰りとパレストリーナの多彩な表情の違いを堪能し、まだまだ美しいポリフォニーに包まれていたいと思っているところで、プログラムは終了。暖かい拍手に2度目にステージに呼び戻されてたところでピーター・フィリップスが今年はモンテヴェルディの生誕450年に当たるのでと前置きしてアンコールの曲が始まりました。ほど拍手で

(アンコール)
モンテヴェルディ:主にむかいて新しき歌をうたえ(Cantate Domino)
トレンテス:今こそ主よ、僕を去らさせたまわん(Nunc Domittis)

結局2曲分、幸せな時間が過ごせてこの日のコンサートが幕切れに。いやいや素晴らしい一夜でした。一夜のコンサートがこれほどまでに人を癒すとは。やはり人の声というのはどんな楽器よりも心に響くものなのだと再認識した次第。ちょっと残念だったのはお客さんの入りは5割ほどでしょうか。この日の素晴らしいコンサートを堪能した身からすれば、これはもったいない。札幌でのコンサートを挟んでプログラムを変えて7日水曜にもオペラシティでの公演があります。スケジュールが調整できる方は、是非聴かれることをお勧めします!

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エサ=ペッカ・サロネン/フィルハーモニア管のマーラー「悲劇的」(東京オペラシティ)

5月18日(木)は、以前からチケットを取ってあったコンサートに行ってきました。

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東京オペラシティコンサートホール エサ=ペッカ・サロネン指揮 フィルハーモニア管弦楽団

エサ=ペッカ・サロネン(Esa-Pekka Salonen)指揮のフィルハーモニア管弦楽団の演奏で、プログラムはストラヴィンスキーの「葬送の歌」とマーラーの交響曲6番「悲劇的」の2曲。

1曲目のストラヴィンスキーの「葬送の歌」とは聞き覚えのない曲でしたが、それもそのはず。解説によれば、長らく紛失とされていた曲で、2015年にサンクトペテルスブルク音楽院の図書館で発見されたばかりのものとのこと。もともとストラヴィンスキーの師であった、リムスキー・コルサコフが1908年に亡くなった際に書かれた曲とのことで、ストラヴィンスキー26歳の頃の作品。

もちろん、この日のお目当は2曲目のマーラー。サロネンはあまり馴染みがなかったので一度聴いてみようと思っていたところしかも難曲のマーラー6番。日頃はハイドンばかり聴いていますが、ご存知のとおり、コンサートではマーラーやブルックナーは結構聴いています。逆に家でマーラーを1曲聴き通す忍耐力もあまりなくなってきていますので、コンサート以外ではなかなか聴くことができません。もちろん、大編成オケの迫力は実演に限りますね。

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この日は仕事を早々に切り上げ、勤務先からも近い東京オペラシティに向かいます。いつものように嫁さんが先に着いていて、サンドウィッチとワインを買って待っていたので、軽く腹ごしらえをして準備万端。

この日の席は、海外オケでチケットも高いので、ちょっと節約して3階席。ステージの右側で、指揮者とオケを真上から見下ろす感じの席でした。ステージ右側の低音弦やトロンボーンやチューバなどは見えませんが、指揮者の表情やアクションがよく見えて視覚的にはなかなかいい席でした。

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ステージ上は、1曲目のストラヴィンスキーもかなりの大編成の曲ということで、タケミツメモリアルホールのステージいっぱいにオケの席が配置され、かなりの数の団員が音出しをしています。定刻になりオケのメンバーが登壇しますが、日本のオケと異なり、演奏しないスタッフ(マネジメント?)の人もステージ上でメンバーと何やら談笑していて、緊張感のレベルが違うのが微笑ましいところ。

客席のライトが暗くなって、チューニングが始まり、程なくサロネン登場。1曲目のストラヴィンスキーが始まります。葬送の曲だけにゆったりとした曲調で暗澹、雄大な響きの曲。リズムが爆発することもないですが、調性には緊張感が伴います。解説にはストラヴィンスキー自身の言葉が引用されていました。

「巨匠の墓の周りを、オーケストラのソロ楽器の奏者たちが、皆で列をなして、進んでゆく。低い声で歌われる合唱の震え声を模倣するかのようにざわめくトレモロ。その深遠なる後景とともに、花輪を捧げるかのごとく旋律がかけめぐる。」

サロネンはかなり丁寧に奏者に指示を出しながらオケを緻密にコントロール。静かな葬儀の様子を描くような指揮ぶり。オケも緻密さを保って15分くらいの曲をまとめました。もちろん聴きなれぬ曲なのでサロネン自身の音楽がどのようなものかを感じ取るほどには至りませんが、響きの中には日本人同様の透明感が漂い、フレーズの一つ一つを練るようなヨーロッパの伝統とは別のものを感じました。フィンランド出身ということもそんなイメージにつながっているのかもしれませんね。日本初演との触れ込みも手伝って、観客も温かい拍手でサロネンを称えます。そしてサロネンは指揮台の楽譜を高く持ち上げ作曲者を称えました。

この曲の初演はついこの間の2016年12月にゲルギエフ指揮のマリインスキー歌劇場管弦楽団によるもので、一部が下記のリンク先で見られます。
Grammphone Live Streaming

一旦サロネンが袖に下がり、団員が一部入れ替わった後、休憩なしでマーラーに入ります。

サロネンは拍手が鳴り止まぬうちに、タクトを振り上げ演奏を始めます。1楽章のチェロとコントラバスによるリズムが始まりますが、速い。しかもその後のオケの入りのタイミングが乱れて聴こえます。これは後でわかったんですが席の問題でしょう。オケ直上の3階席で、ご存知のようにこのタケミツメモリアルホールは天井が非常に高い。そしてオケの真上には大きな反射板。直接音と反射板による間接音、そしてホールの残響が音域によって異なったタイミングで到着することに原因がありそうです。これが2階席だったら明らかに直接音がメインとなるでしょうが、3階席ということで直接音と間接音の差が少なくなります。金管の音も派手に滲んだ響きに聴こえるので嫁さんはずいぶん迫力があったとの感想。このホールの3階席ははじめてでしたが注意が必要ですね。
演奏に戻ると、サロネンは最初から超ハイテンションでオケを煽ります。一貫して早めのテンポを保ち、しかも所々でテンポをさらに上げたり独特のコントロール。先日聴いたカンブルランの巨人では強奏以外の部分を非常に丁寧に描いてしっとりとした旋律の美しさでハッとさせられましたが、そう言った意図は皆無。むしろ細かい点に気をとられることなくグイグイオケを煽ってマーラーのこの曲に仕込まれた分裂症的連鎖爆発をあぶり出すかのようにエネルギッシュな指揮。フレージングもあっさりというより淡白に近い割り切り方で逆に畳み掛けるようなエネルギーで聴かせます。オケはサロネンの煽りに懸命に合わせている感じ。精度は最近の日本のオケの方が上かもしれませんが、逆にこの割り切り方は日本のオケにはない響きかもしれません。日本のオケだともう少し行儀よくなってしまいそうですね。長い1楽章でサロネンの意図がハッキリと伝わりました。1楽章の指揮だけでボクシングの試合12ラウンド分のカロリーを消費した感じ。聴く方にもそのエネルギーが伝わります。
続くスケルツォは弦のキレとリズムのキレが印象的。相変わらずサロネンはテンポを速める煽りを随所に挟んで曲を引き締めます。特徴的なサロネンの解釈の中でも最もオーソドックスだったでしょうか。直裁なサロネンのコントロールが最もマッチしたというところでしょう。
そして天上の音楽のような3楽章はタクトを置いての指揮。やはりすっきりとした速めのテンポで見通しの良さが信条のような演奏。この曲の刷り込みは1979年の来日公演の予習用に買ったカラヤン/ベルリンフィルのLP。磨き抜かれたベルリンフィルの弦楽セクションの響きにうっとりとしたものです。サロネンはこれまでの楽章とは変わってフレージングは丁寧にこなしフィルハーモニア管の弦の美しさを印象に残します。ただチェレスタやハープはキリリとしたリズムを保つことでサロネンらしい引き締まった音楽が展開します。
そしてこの日の演奏を決定的に印象付けた終楽章。1楽章の演奏から予想はしていましたが、その予想を上回るエネルギー。もうハチャメチャに煽る。もちろん秩序が乱れることはありませんが高速道路フルスロットルでぶっ飛ばすような激演。やはり背景にはマーラーの分裂症的連鎖爆発があるのでしょう。サロネンも超ハイテンションで終楽章を通します。感動的だったのは最後の一撃がホールに消え入り、静寂をサロネンがゆったりと顔を上げるまで続いたこと。もちろんブラヴォーが降り注ぎ、最近聴いたコンサートの中では一番の嵐のような拍手に包まれました。

やはり録音で聴くのとはレベルの違うエネルギーに圧倒されたというのが正直なところでしょう。おそらく録音でこの演奏を聴いてもその凄さは伝わらないかもしれませんね。ホールにいた人だけが味わえるたぐいまれな完全燃焼の瞬間。拍手はオケが退場しても続きサロネンはスタンディングオベイションを続ける観客に深々とこうべを垂れ、拍手に応えていました。

細かいことにこだわらず、この曲の表現を一点絞ったサロネンの戦略が功を奏したということでしょう。

ホールを去る観客の興奮気味の笑顔が印象に残った一夜でした。

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アンドラーシュ・シフ ピアノリサイタル(東京オペラシティ)

3月21日月曜は、コンサートに出かけてきました。

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ハイドンファンにはおなじみのアンドラーシュ・シフ(András Schiff)による「ザ・ラスト・ソナタ」と銘打たれた2017年のコンサート。このコンサートに注目したのは、もちろんハイドンのソナタが演奏されるからに他なりません。

当初は3月25日土曜の彩の国さいたま芸術劇場のチケットを取っていたんですが、なんとドンピシャの日に仕事が入ってしまい、やむなくそのチケットを友人に譲り、ネットを駆使して(笑)あらためて東京オペラシティのチケットを取った次第。普段だったら、譲ってあきらめるだけで終わるんですが、なんとなくこういうコンサートは機会を逃すと再びチャンスがこないような気がしたので、私にしては珍しく深追いしたもの。

そういえば、以前もスクロヴァチェフスキと読響のブルックナーの7番も仕事で聴き逃しましたが、あとから考えるとあれを聴いておきたかったという思うばかり。

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この日の公式のプログラムは下記のとおり。

モーツァルト:ピアノ・ソナタ第17番 変ロ長調 K.570
ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第31番 変イ長調 op.110
ハイドン:ピアノ・ソナタ ニ長調 Hob. XVI:51
シューベルト:ピアノ・ソナタ第20番 イ長調 D959

「ザ・ラスト・ソナタ」と名を冠するのにふさわしく、モーツァルトもベートーヴェンもシューベルトも最晩年のソナタを並べていますし、ハイドンもロンドンで作曲された最後の3つのソナタの一つであるXVI:51が選ばれるなど、コンサートの企画としては一本筋の通ったもの。円熟の境地にあるシフの演奏とあって期待が高まりますね。

シフのハイドンのソナタ自体はDENONから1枚、TELDECから2枚組がリリースされていますが、DENON盤が1978年、TELDEC盤が1997年の録音と結構古いもの。フレージングはシフ独特の個性的なもので、多彩なタッチの変化とダイナミクスを強調した演奏が印象に残っています。また奥さんの塩川悠子とボリス・ベルガメンシコフと組んだピアノトリオのアルバムは昨年レビューに取り上げました。

2016/03/15 : ハイドン–室内楽曲 : アンドラーシュ・シフ/塩川 悠子/ボリス・ベルガメンシコフのピアノ三重奏曲(ハイドン)

ピアノソナタ集の方は、ハイドンの曲の良さをもう少し素直に出してもいいのではないかとも思われるもので、今回の実演でそのあたりのシフの個性がどう響くのかを確かめたかった次第。



さて、この日は年度末でバタバタのなか、仕事をやっつけて会場の東京オペラシティには開演の15分前に駆け込み到着。外はあいにくの雨でしたが、ホワイエにはすでに多くの人が駆けつけ、かなりの熱気でした。

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昼飯も抜きで仕事を片付けてきたのでお腹エコペコ。いつものようにサンドウィッチと赤ワインを5分で平らげ、プログラムを買って3分前に着席。この日の席は1階正面8列目とピアノを聴くにはベストポジション。会場はもちろん満員。

定刻の19:00を過ぎると会場の照明が少し落ちて、下手からシフが登場。

すぐにモーツァルトが始まります。コンサートの1曲目ということで、若干硬さも感じられるなか、シフらしく緩急とメリハリをしっかりつけながらフレーズごとの巧みな描き分けが徐々にくっきりと焦点が合ってきて、音楽が淀みなく流れるようになります。ピアノは最近のシフの定番ベーゼンドルファー。厚みというか独特の重みをもった低音に、すこしこもり気味に聴こえる石のような響きの高音が特徴ですが、モーツァルトの曲にはスタインウェイのようなクリアな響きの方が合うような気がしながら聴き進めます。そのうちに左手の表情の豊かさがこの演奏のポイントだという気にさせられ、シフがキレより迫力の表現が引き立つベーゼンドルファーを好む理由がわかったような気がしました。アレグロの起伏の陰影の深さに対し、アダージョの響きの柔らかさの対比は見事。タッチの多様さ表現の変化は流石なところ。そしてアレグレットではタッチの鮮やかさ、躍動感で圧倒されました。弾き進むうちに場内もシフに魔法をかけられたように集中度が上がります。もちろん盛大な拍手が降り注ぎますが、袖に下がることなくすぐに続くベートーヴェンに入ります。

ベートーヴェンは最初の入りは柔らかなハーモニーと力強いアクセントが豊かな情感のなかに交錯するような音楽でした。普段あまり聴かないせいか新鮮に聴こえます。暖かな音色と楔を打つような鋭い音にフレーズごとに巧みに変化する曲想がシフの魔法のようなタッチから紡ぎ出される感じ。ベーゼンドルファーだけに高音の輝きではなく、中低音の輝きが優先するような分厚い響きがベートーヴェンの力感を表すよう。2楽章は分厚い音色に襲われる感じ。タッチの軽さをかなり綿密に制御して、重厚さと軽やかさの対比のレンジが広大。そして3楽章の荘厳な印象も楽章間のコントラストの演出が完璧に決まります。モーツァルトでも豊穣だった響きがさらに豊穣さを増して、観客は皆前のめりでシフのタッチに集中します。またまた拍手が降り注ぎますが、シフはステージを囲う四方の観客に丁寧にお辞儀をしてすぐにピアノに向かいます。

もちろん私の興味はハイドンですが、このコンサートにおけるハイドンの役割はシフの表現力のうち軽やかな機知に満ちた表現に対する適性を垣間見せるという構図のよう。晩年のソナタでも珍しい2楽章構成の曲。最初からタッチのキレの良さが際立ちます。音が跳ね回るように見事な展開。ハイドンのソナタの演奏としては味付けは濃い目ですが、中音部で奏でられるメロディーの面白さはベーゼンドルファーならでは。そしてハイドンだからこそフレーズごとのタッチの変化の面白さが聴きどころ。やはり圧倒的な表現力はシフならではのもの。ハンガリー生まれのDNAに由来するのでしょうか。続く2楽章でもタッチの軽やかが際立ちます。うっとりとしながら人一倍聞き耳を立てて聴き入りますが、短い曲ゆえ、あっと言う間に終わってしまいます。私は2楽章構成と知って聴きますが、他の人は3楽章の始まりを期待しているような終わり方なので、拍手が湧き上がる間も無くすぐに続くシューベルトに入ってしまいます。

この日はやはりシューベルトがメインプログラムでした。普段ほとんどシューベルトは聴きません。その私が聴いてもこれは素晴らしい演奏でした。長大なソナタですが、シフがその魂を抜き取りピアノで再構成したような劇的かつ壮大な音楽。ちょっとくどい感じさえする低音の慟哭がシフの手にかかるとキレよく図太い低音の魅力に昇華され、時折聞かせる長い間が時空の幽玄さすら感じさせます。シューベルトが終わると、まさに嵐のような拍手が降り注ぎ、まさに観客の心をシフが鷲掴みにしてしまったがごとき状況。何度かのカーテンコールにつづいて、アンコールの演奏にシフがピアノの前に座り、演奏を始めました。

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最初はシューベルトの3つの小品から。アンコールとは思えない本格的な構成の曲に再び場内が静まり返ります。コンサートのプログラムも全て暗譜。そしてアンコールに入ってもさらりと演奏をはじめ、はじまると実に豊かな音楽が流れます。すべての曲を完全に自分のものにしきっているところに一流どころのプライドを感じます。シューベルトが終わったところで席を立つ人もいましたが、アンコールは1曲ではありませんでした。プログラム最後のシューベルトの演奏に酔いしれた観客に、さらにシューベルトがだめ押しで加わったかと思うと次はバッハのイタリア協奏曲の1楽章。バッハのアルバムをいろいろリリースしているだけあってシフのバッハを待っていた人も多かったのでしょう。アンコールに寄せられた拍手はどよめきにも近いものに変わります。これで終わりかと思っていると、シフはまたまたピアノに向かい、なんとイタリア協奏曲の2楽章、3楽章を演奏。すでに観客はクラクラ(笑)。完全にシフに魂もってかれてます。もちろん盛大な拍手に迎えられ、シフも引き下がれず、今度はゴリっとした感触が印象的なベートーヴェンの6つのバガテルから。ここまでくると、休憩なしで張り詰めっぱなしの観客とシフの根比べ(笑)。盛大な拍手にアンコールで応えるシフも引き下がらず、その後モーツァルトに最後はシューベルトの楽興の時を披露。聴き慣れた曲が異次元の跳躍感に包まれる至福のひととき。そして盛大な拍手が鳴り止まず、シフが再びピアノの前に座ると、そっと鍵盤の蓋を笑顔で下ろし、長い長いアンコールの終わりを告げ、観客も満足感に包まれました。

プログラムの演奏だけで90分ほど。そしてアンコールを入れると2時間半弱。休憩まったくなしで完璧な演奏を続けたシフ。私はプログラム最後のシューベルトの余韻に浸っていたかった気もしましたが、最後まで聴いてみると、シフの観客をもてなそうとする気持ちもわかり、これがシフの流儀だと妙に納得した次第。ピアノという楽器の表現力の偉大さをまざまざと見せつけられたコンサートでした。

先に紹介したようにシフのハイドンの録音は古いものばかり。この円熟の境地で再びハイドンのソナタに挑んでほしいと思うのは私ばかりではないはず。こころに響くいいコンサートでした。

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tag : 東京オペラシティ モーツァルト ベートーヴェン シューベルト

バッハ・コレギウム・ジャパンのロ短調ミサ(東京オペラシティ)

11月11日金曜は仕事帰りにコンサートへ。

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Bach Collegium Japan:J. S. バッハ:ミサ曲 ロ短調

この日のプログラムはバッハのロ短調ミサ。バッハはこのところクイケンのマタイやブランデンブルク協奏曲などを聴きに行ってます。ロ短調ミサは2009年にラ・フォル・ジュルネ音楽祭でミシェル・コルボとローザンヌ声楽・器楽アンサンブルの演奏を聴いていいます。クイケンの淡々と精緻な演奏や、コルボの自然でのびのびとした演奏も素晴らしいのですが、世界が注目するバッハ・コレギウム・ジャパンでロ短調ミサが聴けると知りチケットをとった次第。バッハ・コレギウム・ジャパンは今年調布で行われた調布音楽祭でヘンデルの水上の音楽を聴いていますが、古いホールのせいかなんとなくもうひとつな感じがしたので、あらためて響きのよい東京オペラシティのタケミツメモリアルホールでのコンサートということで、BISのアルバムでの素晴らしい響きが聴かれるか期待のコンサートです。

歌手陣は下記のとおり。

ソプラノ:朴 瑛実、ジョアン・ラン
アルト:ダミアン・ギヨン
テノール:櫻田 亮
バス:ドミニク・ヴェルナー

このところ嫁さんからうつった喉風邪で喉がガラガラ。医者でもらった薬を飲んで咳は引くんですが、ちょっと薬でぼ〜っとしながら、コンサート会場である東京オペラシティに向かいます。

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仕事でバタついていたので、ついたのは開演10分前とギリギリ。嫁さんが赤ワインとサンドウィッチを買ってホワイエで待っていてくれたので、着くなりサンドウィッチをワインでかき込んで席に着きます。席はお気に入りの2階右ステージのちょっと手前の席です。



流石にバッハ・コレギウム・ジャパンの東京定期公演ということで、ホールはほぼ満員。定刻になり、メンバーが入場してきますが、オケの配置は指揮者の正面にフラウト・トラヴェルソ2人が座わり、その奥にオルガンとチェンバロが配置されるという変わった配置。左端にはナチュラル・トランペットが3人、右端にはオーボエ3人が並び、後ろにコーラスが1列に並びます。オルガンのキーで丹念にチューニングを終えたあと、指揮者の鈴木雅明さんが手を振り上げると、キリエの鮮明な響きがホールに轟きます。いきなり素晴らしいのがコーラスの透明感。普通のコーラスの混濁感が全くなく、絶妙なハーモニーに圧倒されます。オケも冒頭からじっくりと落ち着いた演奏で指揮に合わせていきます。冒頭のキリエはコーラスの素晴らしさに打たれました。ソロがいないと思いきや、全員コーラスを兼ねて、ソロの部分になると前にそろりと出てきます。ソロは皆素晴らしい歌唱なんですが、特に素晴らしかったのがアルトを担当するカウンターテナーのダミアン・ギヨン(Damian Guillon)とテノールの櫻田亮。ダミアン・ギヨンの声は男性とは思えない美しさ。そして櫻田亮は日本人離れした透き通るようなクリアな声。オケの方は、2曲目以降落ち着いたテンポを保ちながら、要所でグッともりあがっていくコントロールはアルバムで聴くよりも指揮姿と合わせてみることで迫力が違います。オケではティンパニのリズムが冴えまくっていて要所の盛り上がりをキレで支えています。そして左端のトランペットは3人とも片手で高らかにナチュラルトランペットを掲げ、祝祭的な音色でバッハらしい音色を加えていきます。キーのないトランペット故、演奏は難しいのでしょうが、アルバムで聴かれるほどの安定感には至っていません。6曲目のヴァイオリンソロはコンサートマスターの若松夏美で、キレが良いのに妙にしっとりとした見事な弓さばき。そして11曲目にようやく登場する、ホルン(コルノ・ダ・カッチャ)オリヴィエ・ピコンは立ち上がってアクロバティックなメロディーを事も無げにこなしていきます。そして、第一部のクライマックスの12曲は、素晴らしい上昇感。タケミツメモリアルホールに古楽器オケの響きが満ちていきます。

休憩を挟んで、後半もコーラス、ソロ、オケの素晴らしさは変わらず。特にコーラスの弱音部の透明感溢れるコントロールは秀逸。オケの響きの余韻とコーラスの余韻がえもいわれぬハーモニーをつくり、観客もそのハーモニーに心地よく酔っていました。コルノ・ダ・カッチャのオリヴィエ・ピコンは前半のみの登場にもかかわらず、後半もステージに上がって譜面を追っています。その辺のことがパンフレットのインタビュー記事に触れられており、1箇所の登場にもかかわらず集中力を保つコツと後半ステージになぜ上がっているのかが触れられていました。なんでも世界有数のバッハをステージ上で聴ける貴重な時間ということで、ずうっと譜面を追いながら集中していました。長大な第2部のクレド、第3部のサンクトゥスを経て、あっという間に第4部へ。フラウト・トラヴェルソとテノールのソロや、カウンターテナーのソロを挟んで、終曲のコーラスへ至ります。終曲は厳かな威厳に満ちたゆったりとしたコーラスの魅力に溢れた演奏で締めくくります。もちろん素晴らしい演奏に場内からは拍手が降り注ぎます。鈴木雅明さんも会心の演奏だったのか満面の笑みで奏者を次々と称えます。

調布音楽祭の演奏では、いまひとつオケのハーモニーの美しさがが感じられなかったのですが、この日の演奏はバッハ・コレギウム・ジャパンの素晴らしさがしっかりとつたわりました。バッハの演奏の頂点の一つであると納得の演奏。やはりコンサートではホールも重要ですし、その響きが奏者の集中を促す働きもあるような気がしますね。心に残るコンサートでした。



コンサート後は小田急線の参宮橋まで歩いて、先日よって美味しかったお店で反省会。

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風邪気味ではあってもワインは欠かせません(笑)。スパークリングに白で乾杯。

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コンサート後でラストオーダー間近なので、最初に一気に注文。前菜盛り合わせ2人前。

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そしてピッツァはシラスとドライトマト。シラスは生シラスをたっぷり乗せて焼いてあり、シラスの旨味が素晴らしい。記事は厚めのナポリ風。

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パスタはマッシュルームをペースト状にしてスパゲティに絡めたもの。これもマッシュルームの穏やかな風味が感じられていい味でした。

ワインに美味しい料理で風邪も流して、ほろ酔い加減で帰途につきました。

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没後20年武満徹オーケストラコンサート(東京オペラシティ)

先週木曜の10月13日は以前からチケットを取ってあったコンサートに行って来ました。

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東京オペラシティ:没後20年武満 徹 オーケストラ・コンサート

日頃ハイドンばかり聴いていますが、武満徹も好きで、手元には30枚くら武満のアルバムがあります。一般的には武満などの現代音楽を好む人は少ないのでしょうが、夢千代日記の音楽などで武満の音楽の魅力は日本では割と知られているのではないでしょうか。その武満が亡くなったのが1996年2月ということで、今年は武満の没後20年に当たる年。そのアニヴァーサリーに、武満の名を冠した東京オペラシティのタケミツメモリアルホールで行われるということで、このコンサートの存在を知った4月にチケットを取ってあったもの。奏者も武満にゆかりのある人が揃い、指揮はイギリスの現代作曲家で武満の音楽に心酔し、武満のアルバムも多く残しているオリヴァー・ナッセン、ピアノには当初タッシなどで武満の音楽を好んで演奏していたピーター・ゼルキンが参加する予定だったものの、体調不良とのことで、こちらも縁のある高橋悠治が代役に入りました。オケは日本フィル。

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いつものように仕事を早めに終えて、初台の東京オペラシティに向かいます。いつものように嫁さんが先に待っていてくれるはずでしたが、この日は嫁さんが出がけにばたついて珍しく財布とチケットを忘れたというメールが途中で入ります。これが歌舞伎でしたら入り口で告げるだけでちゃんと松竹の方で調べて何事もなく入れてくれるんですが、会場に向かう電車の中からメールでやり取りして、私の方のチケットに書かれているオペラシティのチケットセンターに嫁さんから電話を入れても、相手にしてくれないとのこと。仕方なくそのまま会場に向かうように告げ、会場で落ち合い、入り口の偉そうな方に相談すると、予約一覧をチェックの上、確認を取ってくれて事無きを得ました。この辺の対応は松竹とは大違い。歌舞伎のお客さんは高齢者が多いのでしょうから、チケット忘れなど日常茶飯事なのでしょうね。やはり民間の方がサービスが進んでいます。

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会場に無事入れて嫁さんも一安心。いつものようにワインとサンドウィッチで軽く腹ごしらえ。今日はチケット忘れ騒動でばたついていたので、ワインが沁みます(笑)

この日のプログラムは下記の通り。

地平線のドーリア(The Dorian Horizon for 17 strings)  
環礁 - ソプラノとオーケストラのための(Coral Island for soprano and orchestra)
(休憩)
テクスチュアズ - ピアノとオーケストラのための(Textures for piano and orchestra)
グリーン(Green for orchestra)
夢の引用 - Say sea, take me! - 2台ピアノとオーケストラのための(Quotation of Dream - Say sea, take me! - for two pianos and orchestra)

もちろんオール武満プログラムで、この手のコンサートはお客さんの入りが良くないこともありますが、この日はほぼ満員。芸術文化振興基金助成事業ということでチケットが安かったのもあるでしょう。私に取っては好きな武満の特に1960年代の若い頃の挑戦的な作品が多い絶好のプログラム。

席について配られたプログラム冊子を読んでいると、この冊子が実によくできています。武満徹の研究者である小野光子さんによる作品解説が読み応えがあって素晴らしいもの。この解説一つでこの日の体験の深さが変わるだけの価値があります。

聴き慣れたこのホールの鐘の合図で開演時間となったことを知らせます。ステージ上には大オーケストラ用の楽器が配置される中、打楽器やピアノが脇に避けられ、中央に小編成のオケ用の椅子だけが並びます。

地平線のドーリア(1966)
最初は弦楽器だけの「地平線のドーリア」。オリヴァー・ナッセンの武満はDGからロンドン・シンフォニエッタのアルバムが何枚かリリースされているため、外人らしからぬ日本的に精緻なコントロールの行き渡った演奏をする人だとは知っていましたが、実演は初めて。超巨漢で脚が悪いのでしょう、杖をつきながらゆっくりと指揮台に登壇する姿は、想像とは結構違っていてビックリ。弦楽器は前後2群に別れて配置されます。ナッセンが体の大きさに比して非常に小さな指揮者用の椅子に腰掛け、タクトをすっと下ろすと、静寂の中から不協和音がさざめくように鳴り始めます。奏者が互いの響きを確かめながら進むように、それぞれが微妙なタイミングで音を響かせます。解説によると、音が方々から発せられ立体的に聴こえるように意図された、ドビュッシーの手法に影響されたものとのこと。絶妙な緊張感が漂いながら、弦楽器が弦楽器らしからぬ響きで空間を切り裂いていくように音楽が進みます。武満の響きに対する鋭敏な感覚が冴え渡る音楽。ヴァイオリンの高音は笙のように澄み渡り、コントラバスはザラついたただならぬ気配を発します。10分少しの曲ですが、いきなりホールが武満の音楽で包まれます。家に帰って若杉弘と読響による初演時の演奏を聴き直してみた所、若杉の演奏にはより日本的な、鉋をかけたてのヒノキの柱のような凛とした風情が感じられました。ナッセンの演奏はウェーベルンの延長のような、よりインターナショナルな響きを感じた次第。世界から見た武満のより普遍性を感じる演奏との印象を深くしました。

続いて今度は大オーケストラ用の曲に変わるため、舞台の座席を作り変えます。

環礁 - ソプラノとオーケストラのための(1962)
今度はソプラノやピアノ、打楽器群も加わります。ソプラノはイギリスのクレア・ブース(Claire Booth)で、今回が初来日とのこと。解説によると、武満が1961年に京都の苔寺(西芳寺)を訪ね、その回遊式庭園に啓示を受け1962年に作曲した曲とのこと。歌詞は詩人の大岡信に依頼した日本語のシュールレアリスティックなもの。5部構成で15分ほどの曲。
弦のさざめきから入るところは変わりませんが、すぐにピアノとパーカッションが加わり、武満らしいモノクロームなのに色彩感を感じるような独特の精妙かつ豊かな響きに包まれます。ウェーベルンの引用のように感じる部分と、武満独特の弦の深い響きの交錯。弱音の連続で緊張感が高まったところにピアノ、フルート、シロフォンやマリンバなどの響きでパッと色彩が加えられる独特の響き。第2部と第4部にソプラノが加わります。クレア・ブースはかなりの声量。日本語の歌詞は解説を見なければちょっと聞き取れませんが、音程の安定感、声の艶はなかなかで、適切な配役でしょう。実際の歌詞もメロディーも実にシュールレアリスティック。

前半は曲自体は正味25分程度ですが、曲感のオーケストラの席の配置替えにも随分時間がかかるため、特段短いと感じることはありません。むしろその間に解説などに目を通す余裕があって悪くありません。

休憩を挟んで後半に入ります。

テクスチュアズ - ピアノとオーケストラのための(1964)
ステージ中央にピアノが置かれます。ピアノは高橋悠治。解説によると36人づつ2群に分けられたオーケストラとピアノのための作品で、奏者が一人一人個として織物を織るようにテクスチャーを構成することを求めたもの。この曲は1965年に国際現代作曲家会議で最優秀賞に輝き、武満が欧米で本格的に認められるきっかけとなった曲とのこと。ちょっとリゲティ風の宇宙空間の描写のように無限を感じさせる場面がある一方、個と群を意識させ、喧騒と静寂を行き来、高橋悠治のピアノの強打音が散りばめられ、弦も管も入り乱れて混沌とした音の塊が飛び交うような強靭な音楽。終盤の澄んだ弦の響きがすっと消え入り終了。8分くらいの小曲ですが、武満らしい透明な響きの魅力を存分に味わえる曲でした。ナッセンは相変わらず、精緻ながら非常にしなやかな音楽を繰り出します。

グリーン(1967)
この曲は有名なノヴェンバー・ステップスの続編として、作曲時は「ノヴェンバー・ステップス第2番」と題されていたが、その後「グリーン」へと改題されたとのこと。また、指揮者のナッセンが1960年代に武満の音楽を知り、中でもこの「グリーン」に惹きつけられ、その後武満と親交を結ぶまでになったきっかけとなった曲とのこと。手元にはロンドン・シンフォニエッタの自主制作盤で武満の曲を集めたアルバムがありますが、そこにも最初にこのグリーンが収録されており、ナッセンのお気に入りだということがわかります。50年代から60年代初頭までの前衛的な作風から、少し叙情的なメロディーが含まれるように変化してきました。ナッセンの演奏もニュートラルなオーケストラの響きの魅力に溢れたもの。帰ってから先のアルバムを聴いてみた所、まさにコンサートの演奏と非常に近い柔らかな響きに包まれた素晴らしい演奏。過度に日本を意識することなく響きの純度を高めて行った先にある究極のニュートラルさにたどり着いたような素晴らしい録音に、コンサートの情景が重なりました。

後半に入っても曲ごとにステージ上の座席配置を大きく変更することは変わりませんが、最後の曲はピアノが2台となり、2台目のピアノをステージ脇から中央に配置します。2台のピアノと大オーケストラの配置は壮観。ピアノは高橋悠治と台湾出身のジュリア・スー(Julia Hsu)。

夢の引用 - Say sea, take me! - 2台ピアノとオーケストラのための(1991)
このコンサート最後の曲。この曲のみ1990年代の曲。バービカンセンターとロンドン交響楽団の委嘱により作曲された曲。初演はマイケル・ティルソン・トーマス指揮のロンドン交響楽団の演奏で、ピアノを今回来日するはずだった、ピーター・ゼルキンとポール・クロスリーが担当していました。この曲の世界初録音はナッセンとロンドン・シンフォニエッタで、同じくピーター・ゼルキンとポール・クロスリーでDGからリリースされており、手元にもあります。
ピアノの印象的な響きから始まる曲。途中、夢千代日記の音楽の一部やドビュッシーの「海」やの一部がコラージュのように散りばめられたり、解説によると武満自身の作品からの引用もされているとのこと。60年代の緊張感溢れる音楽からは大きく変化し、ゆったりとした色彩感に溢れた見事なオーケストレイションが聴きどころの曲。千変万化する魅力的な響き、そしてドビュッシーの断片が泡沫のように浮遊する心地よい音楽。ナッセンは適度にオケを引き締めながらも、独特のニュートラルな響きで武満の作品をさらに魅力的に響かせていました。ピアノの高橋悠治もジュリア・スーも録音よりもオケに埋もれがちでしたがきらめくようなピアノの美音を置いていき、まるで響きに宝石をちりばめていくよう。まさに「夢の引用」とのタイトルにぴったりな演奏でした。

もちろん、素晴らしい演奏に会場からは万雷の拍手が降り注ぎ、ナッセンは脚が悪いのに何度もステージに引き戻されていました。オケの東京フィルも素晴らしい集中力。数カ所ホルンの音がひっくり返ったところがあったくらいで、あとは完璧。特にコンサートマスターを中心に弦楽セクションの表現力は見事でした。ナッセンもオケの好演に満足気な表情を浮かべていました。現在武満を演奏する理想的なメンバーによる素晴らしいコンサートでした。普段もちろん武満など聴かない嫁さんも満足げ。チケット騒動のことも忘れてコンサート後の余韻を楽しみました。

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(参考アルバム)
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帰りは、近くの参宮橋駅まで10分ほど歩いて、以前から気になっていた駅前のお店で反省会を兼ねた夕食をとりました。

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以前テレビで取り上げていたのを見て、気になっていたお店。オーナーが好きなことをやり続けるために、営業時間や競合などにこだわらず一本筋の通った運営を続けるお店。イタリアン風ですが、メニューも個性的でなかなかいいですね。

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グラスワインはフレンチ中心。オーガニックのすっきりしたところを揃えていて、セレクトも悪くありません。

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コンサート後ということで入ったのは9時半すぎ。10時ラストオーダーということで、頼んだのはサラダとパスタ2皿。パスタは手打ちパスタが名物ということで見本を前に丁寧に説明してくれました。

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こちらは山のサラダ。こちらも名物とのこと。

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こちらはうさぎ肉のラグー。麺はタリアテッレをセレクト。

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こちらは鴨とごぼうの赤ワイン煮込みに赤い手打ちパスタを合わせました。どちらも手打ち麺の適度なもちもち感と優しい味付けですっきり系のワインと相性ピタリ。コンサート後の反省会にぴったりということで、今後も寄らせてもらいそうです。

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tag : 東京オペラシティ 武満徹

スクロヴァチェフスキ/読響のブルックナー8番(東京オペラシティ)

今日は東京オペラシティのコンサートに行ってきました。待ちに待ったコンサート。

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読売日本交響楽団:スクロヴァチェフスキ指揮 特別演奏会 《究極のブルックナー》 2日目

スクロヴァチェフスキはなんと92歳。高齢ゆえ、前回2014年10月のコンサートを聴きに行った時も、これで聴き納めかもと思っていましたが、またまた来日して、しかも曲目はブルックナーの8番ということで、このコンサートが発表された時からチケットをとってあったもの。これまでスクロヴァチェフスキのコンサートは定期公演に組み込まれていましたが、今回は「特別演奏会」という企画。もしかしたら、本当にこれで聴き納めかもしれないとの想いもよぎります。

普段はハイドンばかり聴いていますが、ブルックナーも嫌いではありません。ただ、自宅のオーディオセットで長大なブルックナーの曲を通しで聴ける忍耐力もなく、ブルックナーは最近は専らコンサートで楽しんでいます。ふとしたことから2010年に読響のスクロヴァチェフスキの8番のコンサートに行き、あまりの熱演に腰を抜かして、以来スクロヴァチェフスキのブルックナーはほとんど聴いています。一度東京芸術劇場での7番を、チケットはとってあったのに仕事で行けなかったのが痛恨事でした。コンサートレポートも随分書いています。

2014/10/10 : コンサートレポート : スクロヴァチェフスキ/読響のブルックナー&ベートーヴェン!(サントリーホール)
2013/10/13 : コンサートレポート : 90歳のスクロヴァチェフスキ/読響/サントリーホール
2012/09/30 : コンサートレポート : 東京オペラシティでスクロヴァチェフスキ/読響の英雄に打たれる
2011/12/27 : コンサートレポート : スクロヴァチェフスキ/N響の第九(サントリーホール)
2011/10/19 : コンサートレポート : スクロヴァチェフスキ、オペラシティでのブルックナー爆演
2010/03/25 : コンサートレポート : 読響最後のスクロヴァチェフスキ

今日の東京は夜は雪の予報。この重要なコンサートに万が一にも遅れてはならぬということで、いつもよりも余裕をもって出かけ、東京オペラシティには開場の30分前には到着。

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周りをうろついているうちに開場時刻となり、ホールに戻ってみると、すでにごった返していました。

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ベストコンディションにコンサートに臨むため、赤ワインにエスプレッソを煽り、脳の神経が最も冴え渡るよう体調をコントロール(笑)

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久々のオペラシティですが、1階の平土間席はあまり好きでないため、サントリーホールの定番席同様、2階席の右側、指揮者とオケを右から見下ろす席をとりました。(写真は2階席正面奥からのもの)

流石にスクロヴァチェフスキのコンサートということで、客席は満席。開演時刻をすこし過ぎたところで場内の照明が落ち、オケのメンバーとこの日のコンサートマスターの長原さんが登壇してチューニング。この開演前のそわそわした雰囲気はいいものですね。そしてスクロヴァチェフスキがステージに姿を見せたとたん割れんばかりの拍手が降り注ぎます。以前から登壇の時は足が悪そうで引きずっていましたが、今回は右足が曲がらないのか、かなり引きずるようす。それでもゆっくりゆっくり自分で歩いて指揮台に登り、いつものように気さくな笑顔で拍手に応えます。実際に姿をみてようやく安心。

そして独特の短い指揮棒を振り下ろすや否や、脚の悪さなど微塵も感じさせない矍鑠とした指揮姿を見せ、オケから荘重な響きを引き出します。今日の演奏、スクロヴァチェフスキも読響も神がったような素晴らしい集中力。指揮台には譜面台と楽譜が置かれていましたが、一度も開くことなく、すべて暗譜で指揮

1楽章からオケは乱れることなくスクロヴァチェフスキの指示に完璧に応え、表現は精緻さを優先させ、スクロヴァチェフスキとしてはやや抑え気味。読響は特にヴァイオリンをはじめとした弦楽器陣のビロードのように揃ったトレモロの演奏が秀逸、金管陣もほとんど乱れることなくバリバリと号砲で迫力を加えます。ティンパニは溜めの効いたバチさばきの岡田さんではなく武藤さんという人で、シャープなリズムでさらりとこなします。メロディーを歌わせるところの朗々とした表情と、全奏部の圧倒的な力感、そして時折すっと静寂に沈むところを自在にコントロールしていくのはスクロヴァチェフスキならでは。2楽章まではセッション録音の演奏のように完璧な演奏でしたが、様相が一変したのが3楽章のアダージョから。それまでも素晴らしい演奏だったんですが、アダージョはスクロヴァチェフスキの面目躍如。表現の幅が一段と大きくなり、ホール内もスクロヴァチェフスキの棒に完全にのまれます。深々と鳴動するフレーズ。ホールに響き渡る轟音。そして完全にそろった3台のハープから流れる美しいメロディー。爆音の後、静寂に吸い込まれていく余韻。長大な3楽章を何度も峠を越えながら終盤のクライマックスに向けて盛り上げていく手腕は見事。しかもずっと立ちっぱなしでの指揮にもかかわらず、まったく疲れを感じさせない矍鑠としたスクロヴァチェフスキ。オケに緻密に指示を出しながらものすごいダイナミックレンジを制御します。このアダージョの神々しさは今まで聴いたことのない高みに達していました。
フィナーレの冒頭の喧騒は、テンポを上げて火の玉のようなオケのパワーで圧倒。アダージョとの対比からか、全般に速めに曲をすすめますが、終盤に至り、天上から光が差すように荘厳な雰囲気を作り、最後の号砲を轟かせて終わります。

静寂を突き破るようにフラインブブラボーと拍手が降り注ぎますが、スクロヴァチェフスキは微動だにせず無視。それを見てお客さんが静寂にもどってようやくタクトを置くと、ホールをつんざくような拍手とブラヴォーが降り注ぎ、ようやくスクロヴァチェフスキが拍手に応えます。タクトを置くのを我慢できない一部のお客さんのイマイチなマナーを、さらりと制するスクロヴァチェフスキの粋なさばきに皆笑顔に戻りました。もちろん客席は総立ちで92歳の老指揮者の渾身の名演を讃えます。袖に下がるときはもちろん脚をひきずりながらゆっくり歩いてですが、この名演に拍手がやむはずもなく、オケのメンバーを讃え、お客さんの拍手に応えて何度もステージ上に呼び戻されていました。最後はオケのメンバーが下がったあとも2度ほどステージに昇り、胸に手を当てて深々と笑顔で挨拶する姿が感動的でした。

この奇跡のような素晴らしい時間。指揮棒ひとつで全ての観客の心を奪う大伽藍のような音楽を繰り出ますが、どこにも媚びたところもなく、純粋無垢な音楽が次から次へお湧き出てくるような素晴らしい説得力。再度来日する機会があるのでしょうか。92歳という年齢からすると可能性は低くなってくるかもしれませんが、できればもう1度、奇跡の時間を味わいたいものです。

2日前の東京芸術劇場でのコンサートにはNHKの収録が入ったとのことですので、放送があるかもしれませんね。生とは迫力がちがいますが、スクロヴァチェフスキという人の真価を知るにはいいものだとおもいますので、コンサートを聴かれていない方は放送にご期待ください。

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tag : 東京オペラシティ ブルックナー

ユベール・スダーン/東京交響楽団のオール・ハイドン・プログラム(東京オペラシティ)

先日ブログのコメントでSOSさんから情報をいただたハイドンのコンサート、行ってきました!

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コンサート情報 | 東京交響楽団 TOKYO SYMPHONY ORCHESTRA

3月22日(土)東京オペラシティで行われた東京交響楽団による「東京オペラシティシリーズ 第78回」。指揮は東京交響楽団の音楽監督ユベール・スダーン(Hubert Soudant)、フォルテピアノがピート・クイケン(Piet Kuijken)、コンサートマスターはグレブ・ニキティン(Greb Nikitin)。プログラムは下記のとおり。

ハイドン:交響曲 第1番 ニ長調 Hob.I:1
ハイドン:ピアノ協奏曲 ハ長調 Hob.XVIII:5
ハイドン:ピアノ協奏曲 ニ長調 Hob.XVIII:11 op.21
ハイドン:交響曲 第104番 ニ長調 Hob.I:104 「ロンドン」

ということで、日本では非常に珍しいオール・ハイドン・プログラム。プログラム構成も企画意図を感じさせる、交響曲の父と呼ばれるハイドンの交響曲1番ではじまり、最後はハイドン最後の交響曲104番で終わるというもの。間にクラヴィーアのための協奏曲2曲を挟んだという、まさにハイドンファン向けのプログラム。

普段はあまり熱心にコンサート情報をチェックしていないため、コンサートに出かけるときも、行き当たりばったりですが、ブログに寄せられた情報を見て、これは行かねばならないコンサートであるとピンときたもの。というのも、東京交響楽団ははじめて聴くオケ(当初東京都交響楽団と勘違いしていました)、そして指揮者のユベール・スダーンもはじめて聴く人ながら、このハイドン愛に満ちたプログラムを組むとあっては、ハイドンマニアを自負する私が聴きにいかないわけにはいきません。加えて、東京交響楽団の音楽監督を2004年から続けてきたユベール・スダーンは今月でその座を降り、後任のジョナサン・ノットに譲るとのこと。自身の10年のキャリアを終える時期にオール・ハイドン・プログラムを組むと言う事はよほどのこと。ユベール・スダーンと言う人がハイドンをどう振るのか興味は尽きません。

ユベール・スダーンは1946年、オランダの南端、マーストリヒト生まれの指揮者。当初ホルンを学びホルン奏者として活躍していましたが指揮者に転向。ブサンソン国際指揮者コンクールで優勝、カラヤン国際指揮者コンクール2位、グイド・カンテルリ国際コンクール優勝などの受賞歴があります。1994年から2004年まで、フランス国立ペイ・ドゥ・ラ・ロワール管弦楽団の音楽監督、同じく1994年から2004年まで、ザルツブルク・モーツァルテウム管弦楽団の音楽監督などをつとめ、2004年から東京交響楽団の音楽監督に就任しています。2004年7月にはザルツブルク市名誉市民となり、またオーストリア・ザルツブルク州ゴールデン勲章を授与されているそうです。ハイドンやモーツァルトなど古典を得意とするのはザルツブルクでの経験があってのことと想像されます。まさに本場もののハイドンを知る人ということでしょう。

まさに、今日のハイドンは古典の矜持を守るハイドンという趣でした。



今日はもともと歌舞伎に行く予定だったため、急遽歌舞伎のチケットを嫁さんの友人に譲り、私のみこのコンサートへ。ということで、通い慣れた東京オペラシティに向かいます。開演は14:00。幸い天気も良く、不幸にして花粉飛びまくりのなか、小田急線の参宮橋駅から歩いてオペラシティに向かいます。

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参宮橋駅から10分くらいなので開場時刻ちょうどのタイミングでオペラシティのタケミツメモリアルホールに到着します。

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一人だったのと、車ではないので、安心してワインを楽しめます(笑)

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今日の入りは9割強。私ははじめてですが、東京交響楽団も常連さんが多いようで、ここ10年親しんだユベール・スダーンの最後とあって、お客さんも名残り惜しそう。

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今日の席は2回席右奥。そう、サントリーホールでお気に入りの位置ですが、先日デニス・ラッセル・デイヴィス/読響の第九に母親連れで来た時にはじめてこのホールの2階の席をとり、こちらも1階席よりも見やすく、音もダイレクトに響くということで、狙っていた席です。ご覧のようにステージを直下に見下ろすなかなかいい眺めの席。



さて、定刻の14:00となり、奏者が入場してきます。こちらもはじめて聴く指揮者とオケへの期待で、ちょっといい緊張感。グラス一杯のワインで、聴覚も鋭敏になっています。スダーン入場で、開場からは割れんばかりの拍手が降り注ぎます。

Hob.I:1 / Symphony No.1 [D] (before 1759)
コンサートでは滅多に演奏されないであろう、交響曲1番。頭のなかではやはりドラティの快活な演奏が刷り込まれています。指揮棒をもたずにスダーンがさっと手をあげると、オケから、ドラティ以上の快活さでリズミカルな1楽章が流れ出します。クッキリとリズムの線を明確した折り目正しい演奏。流石モーツァルテウムで鍛えられた人の音楽と腑に落ちます。オーソドックスな演奏ながら、そこここにアクセントをつけて、スタティックな躍動感と言えばいいのでしょうか、カッチリしながらも推進力をもったバランスの良い演奏でした。特にヴァイオリンパートはコンサートマスターのニキティンがリードしてクッキリとしたアクセントを効かせます。つづくピアノ協奏曲でソロを務めるピート・クイケンが通奏低音を担当し、要所で装飾をかなり施し、華を添えますが、若干リズムが重くオケの快活さとすこし方向が違う感じを残します。管楽器陣はホルンが少し音をはずしたのと、オーボエが少し固い他、安定していい演奏。1番は流石の出来で、ハイドンらしい快活さとバランスの良さが印象的な演奏でした。

Hob.XVIII:5 / Concerto per il clavicembalo(l'fortepiano) [C] (before 1763)
つづく協奏曲は、ステージ上から奏者が何人か下がり、ぐっと小編成となります。この曲はオルガンソロで演奏されることが多い曲ですが、どれも快活な印象でした。スダーンはテンポをかなり落とし、また表情をかなり磨いて、快活さよりもあえてしっとりとした表情を出そうとしているようでした。ソロのピート・クイケンはヴィオラ・ダ・ガンバ奏者のヴィーラント・クイケンの次男とのこと。クイケン兄弟といえば竹を割ったような直裁なリズム感と淡々と語るなかから滲み出る音楽が特徴ですが、息子世代のピート・クイケンの音楽はかなり異なり、即興的にばらつくタッチと重めのリズムで、じっくりと音楽を奏でるもの。交響曲1番での快活さを考えると、スダーンはこの曲ではピート・クイケンに合わせてしっとりしたコントロールに振ったのかもしれません。クイケンはこうした音楽性からか、オケとすこし合わずに指がまわっていないように聴こえる部分もあるなど、本調子でなかったかもしれません。

Hob.XVIII:11 / Concerto per il clavicembalo(l'fortepiano) [D] (1784)
ステージ上に先程下がったオケの団員が戻り、編成が少し大きくなります。ハイドンのピアノ協奏曲と言えばこの曲。冒頭のオケは一転して鮮烈かつリズミカルな入り。やはりスダーンのコントロールは芯がしっかりとした快活な部分の華やかさに特徴があります。オケがしっかりとリズムを刻むなか、ピート・クイケンが独特のタッチでしっとりとソロを刻みますが、オケがつくった推進力に乗り切れていない印象を残してしまう部分もあり、この辺は個性のぶつかり合いといえるほどの存在感をクイケンが残せていない印象でした。ただ、会場からあ割れんばかりの拍手が降り注ぎ、フォルテピアノソロのアンコールが演奏されました。アンコールは私の好きなアダージョ(XVIII:9)。こちらは独特の即興的なタッチで静かに弾き散らかすような演奏。演奏によっては香り立つような詩情を発する曲ですが、訥々とした別の魅力が浮かび上がったのも事実。こちらは悪くありませんでした。




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休憩を挟んで、最後はハイドン最後の交響曲。

Hob.I:104 / Symphony No.104 "London" 「ロンドン」 [D] (1795)

ステージ上からフォルテピアノが搬出され、オケの人数がぐっと増えます。またティンパニはバロックティンパニ。ロンドンはオーソドックスながら、やはりユベール・スダーンの折り目正しさとオーケストラコントロールの素晴らしさが良く出た秀演でした。オケの規模が大きくなって、ティンパニなどが加わったせいか、冒頭から大迫力の序奏。バランス良くクッキリとメロディーを描いていくスダーンの特徴が良く出た演奏。オケの集中力に会場も固唾をのむように聴き入っているのがわかります。1楽章の終盤の怒濤の盛り上がりもバランスを崩すことなく古典の均衡を保ったもので、構築感を上手く表現していました。
素晴らしかったの続くアンダンテ。規律をたもちながらじわりじわりと盛り上がってくる曲ですが、途中から躍動する部分でのオケの音を重ねて行く部分の立体感は鳥肌がたつほど。ロンドンはどうしても1楽章と終楽章に耳がいきますが、このスダーンのアンダンテのコントロールは見事。今日一番の聴き所でした。
そしてメヌエットとフィナーレは期待通りの盛り上がり。冒頭に聴いた1番から35年以上あと、2度目のロンドン旅行の際に書かれたハイドンの交響曲の総決算たる曲ですが、構成、スケール感、メロディーラインの複雑なからまりなど、第1番交響曲とは次元の異なる仕上がり。一日のコンサートの中でハイドンの交響曲創作の歴史の始点と終点の双方を並べるあたり、ユベール・スダーンの企画意図がしっかりつたわりました。この曲ではティンパニが活躍しますが、バロックティンパニの直裁な響きが鋭い迫力につながっていました。最後はスダーンに嵐のような拍手が降り注ぎました。このオケを10年間振ってきたスダーンに対する観客の暖かい拍手が印象に残りました。

普段N響や読響はたびたび聴きに行っているのですが、はじめて聴く東京交響楽団の響きは新鮮でした。安定感のある折り目正しい弦楽器、管楽器群も総じて優秀ですが、読響などに比べると、すこし潤いに欠けるところもありました。やはりスダーンによるこの10年の取り組みの成果でしょうか、クッキリとした表情は流石に上手く、古典的な曲ではその部分はかなりのレベルにあると思います。

今日は聞き慣れたホールで、聴き慣れたハイドンの曲を、はじめての指揮者とオケで聴くと言う得難い経験でした。やはり生で聴く音楽には録音されたものとは異なる力があります。自身の最後の一連のコンサートにオール・ハイドン・プログラムをもってきたユベール・スダーンと言う人。やはりハイドンの素晴しい音楽の価値を知る人でした。ホールに鳴り響くロンドンの終楽章がもつ力、会場内の多くの人の心に、スダーンと言う人の記憶とともに残りましたね。いいコンサートでした。

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デニス・ラッセル・デイヴィス/読響の第九(東京オペラシティ)

なんだかここ数年は、日本でのトレンドに乗って年末は第九を聴きに行くのが習わしとなっております。昨夜は初台の東京オペラシティに母親、嫁さんと3人で出かけました。

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ここ数年、第九はカンブルラン/読響、ホグウッド/N響、スクロヴァチェフスキ/N響となかなか聴き応えのあるコンサートに出かけています。今年読響の第九の指揮は、なんと、デニス・ラッセル・デイヴィス! 突然彗星のごとくハイドンの交響曲全集をリリースしたので、ハイドンマニアの方は一目置く指揮者かもしれません。ただし、わたしはこの全集はあまりお薦めしていないことからもわかるとおり、今ひとつ没入できない指揮者という印象でした。食わず嫌いは良くないということと、母親を連れて行くのにちょうど良い席が空いていたということで、急遽聴きに行くことにしました。

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第4回東京オペラシティ・プレミアムシリーズ - 読売日本交響楽団

オペラシティはクリスマスのイルミネーションで華やか。なんとなく世の中クリスマス気分ということで、開場前からいい気分。18:00の開場と同時にホワイエに入り、まずは腹ごしらえ。東京オペラシティのサンドウィッチは美味しいので、赤ワインとともに楽しみます。この開演前のちょっとざわついた雰囲気もコンサートの楽しみの一つ。

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母上君も赤ワインをいただきご機嫌です(笑)
→ 母親の友人諸氏の皆様 うちの母も元気です!

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今日は東京オペラシティではじめて2階席です。右側ステージ横でステージが俯瞰できるなかなか良い席。2階席は2列しかないので見通しも十分です。東京オペラシティは1階平土間の勾配が緩いので、なかなかステージが見えませんが、サントリーホール同様、2階席からは逆に見晴らしも良く、なかなか良い席であるのがわかりました。何よりいいのが2階にもビュッフェがあり、こちらのほうがゆっくりできること。これは今回新発見。

プログラムは上のリンク先を参照いただきたいのですが、第九の前に読響メンバーによる室内楽が演奏されました。ヴィオラ四重奏とチェロ四重奏。とくにヴィオラ四重奏は普段脇役のヴィオラの趣深い音色が味わえる素晴しい演奏でした。これはなかなか良い試みですね。

短い休憩を挟んで第九に入ります。

東京オペラシティは普段良く行くサントリーホールよりも体積がだいぶ小さいのでオケが良く響き渡り、迫力もアップ。

デニス・ラッセル・デイヴィスはジャケット写真などの印象では、強面ですが、意外に背が低く、動きもかなり細かいためなんとなく想像したのと異なる印象でした。

1楽章はちょっと力が入り過ぎて、かなり表情が固い印象。リズムをクッキリ描いて行くスタイルはハイドンの交響曲の録音からも想像できましたが、リズムやメロディーを受け継ぐ部分のつながりがぎこちない感じ。ちょっと単調なところがあり、かなり力で押し通すような1楽章。ただしティンパニや低音弦をかなり鳴らして迫力は尋常ではありません。ちょっとこの先どうなるのだろうと不安な印象もありました。
印象が一変したのがつづくスケルツォ。いままでのぎこちなさがウソのように、スケルツォはタイトに引き締まりまくった素晴しい演奏。デイヴィスの力の入ったコントロールがこんどは良い方向に作用して、未曾有の迫力。楽章間でこれほど印象の変わる第九ははじめてです。
アダージョは速めにくるだろうと想像していましたが、これまた予想とかなり異なり、歌う歌う。現代風のタイトなアダージョではなく、美しいメロディーを弦楽器が雄弁に表現。ここにきてデイヴィスの指揮もかなり柔らかくなり、各パートに的確に指示を出しながら音楽を紡いでゆきます。
圧巻は終楽章。これはかなり確信犯的演出です。入りは速目でタイトながら、歓喜の歌のフレーズがはじまった途端、白亜の大神殿が出現するように象徴的に巨大な構造物を表現するようにがっちりと構造を描いて行きます。この終楽章の象徴的にデフォルメした構造の表現こそ、現代音楽まで得意とするデイヴィスの描く第九の真髄だったと気づきます。今日のソロはオール日本人キャストでしたが、とくにバリトンの与那城敬さんは素晴しい声量で、ソロの入りの一瞬でホールの観客を釘付けにする素晴しく朗々とした歌唱でした。そしてコーラスは新国立劇場合唱団。ホールが狭いせいか、コーラスは怒濤の迫力。声が一つにそろって素晴しい精度。母親も仕切りにコーラスをほめていました。デイヴィスの指揮は終楽章に入ると自在さを増し、基本的に速めのテンポながら、時折現代音楽のような峻厳さを感じさせるほどテンポを落とす場面もあり、聴衆を引き込んでいきます。最後は爆風のような迫力でオケが爆発。開場もまさに割れんばかりの拍手で熱演に応えていました。今日もティンパニの岡田さんは見事。母親も「太鼓ぴったりだった」感心しきり。生のオーケストラの大迫力にはじめてふれて、痺れていました。

私もデイヴィスをちょっと見直しました。聴衆の鳴り止まない拍手に深く深く礼をする誠実な姿が印象的でした。第九の演奏としてはかなりユニークなものでしょうが、デイヴィスの狙いは良くわかりました。やはり現代音楽を理解する視点からみたベートーヴェンのあり方をよく考えての設計でしょう。なかなか楽しめました。なにより母親がいたく感激していたのが嬉しかったですね。

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ゆったりとコンサートを楽しんで、お客さんが引けたホワイエのクリスマスツリーをパチリ。良いコンサートでした。

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tag : 東京オペラシティ ベートーヴェン 第九 読売日響

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Daisy


Author:Daisy

なぜかハイドン(Franz Joseph Haydn)が特に気に入り膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。東京在住のごく普通のサラリーマンです。

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2017年7月のデータ(2017年7月31日)
登録曲数:1,361曲 登録演奏数:10,291
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