インバル/都響のマーラー「大地の歌」(東京芸術劇場)

前日のジョナサン・ノットの「復活」に続き連日のマーラー! 別にハイドンに愛想を尽かした訳ではありません(笑)

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東京都交響楽団:都響スペシャル

プログラムはエリアフ・インバル(Eliahu Inbal)指揮の東京都交響楽団の演奏で、マーラーの交響詩「葬礼」と「大地の歌」の2曲。コントラルトにアンナ・ラーション(Anna Larsson)、テノールにダニエル・キルヒ(Daniel Kirch)。

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こちらも最近行ったコンサートでチラシを見てチケットを取りました。インバルのマーラーはDENONのワンポイント録音の4番、5番あたりが話題になった時に5番のアルバムを手に入れ、その後かなり後に8番千人を手に入れたくらいで、その後はほとんど聴いていません。手元の5番のアルバムがリリースされたのが1986年ということで、かれこれ30年以上前のことになりますね。この頃のインバルのマーラーは非常に見通しの良い透明感に溢れた演奏。世の中ではバーンスタインの濃厚なマーラーが話題をさらっていました。私はこの頃までに、実演では小澤/新日本フィルの8番、カラヤン/ベルリンフィルの6番、アバド/ロンドン響の5番などを聴いていましたが、インバルのマーラーはちょっとアクがなさすぎて録音という面以外ではあんまり印象に残っていなかったのが正直なところ。ところが最近リリースされているアルバムやコンサートはなかなかいい評判ではありませんか。ということで、最近の充実ぶりを聴いてみようということでチケットを取った次第。都響はつい前週にミンコフスキのハイドンとブルックナーを聴いていますので2週連続ですね。

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最近東京は猛暑続き。ということで、池袋の東京芸術劇場に着くと、すでに汗だく。1階エスカレーターの裏にあるカフェでビールを煽って、クールダウンしながら開場時刻を待ちます。

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この日のコンサートは発売開始後しばらくしてから取ったものなので、あまりいい席は取れませんでした。2階席のいつもの右側ですが、3階席が庇のように張り出た下ということで、オケへの視線は確保できるものの、ちょっと圧迫感のある席。

1曲目は前日にジョナサン・ノットと東響の素晴らしい演奏の興奮さめやらん、マーラーの「復活」の1楽章の原曲。細かい部分はともかく、ほぼ「復活」の1楽章そのままの曲ということで、前日の演奏との嫌が応にも比較してしまいます。

ジョナサン・ノットのオケの配置は左右に第一、第二ヴァイオリンが別れコントラバスが第一ヴァイオリンのすぐ横にくる編成なのに対し、この日のインバルはオーソドックスに右にチェロ、その後ろにコントラバスというもの。席がオケから遠いのでその違いを視覚的に感じるのが精一杯でしたが、ノットがコントラバスを重要視していたのに対し、インバルはバランスを重視していたよう。

1曲目は、ジョナサン・ノットが新鮮なフレージングで常に緊張感を保っていたのに対し、インバルは流石に王道を行く安定感とバランスの良さ。オケの風圧は座席の影響を受けますが、1楽章中程の爆発は流石に大迫力。昔ほど透明感重視ではなく、オケをよく鳴らし、迫力も流石と思わせる演奏。私の印象ではこの曲では前日のノットの新鮮な解釈に分がありました。もちろん観客は拍手喝采でインバルを讃えます。この時点で私のインバルの演奏への印象は昔の演奏からは大分深みを感じられるようになったというもの。

ところが、休憩後の「大地の歌」を聴いてその印象も吹き飛びました。この大地の歌には心底驚きました。まさに奇跡の名演と言っていいでしょう。ワルターやクレンペラーの録音はそれこそ擦り切れるほど聴きましたが、今日のインバルの演奏はそれをはるかに超えるこの曲の凄みと深みの淵を見せてくれる圧倒的なものでした。大地の歌の特徴的な響きの中にも艶やかで流麗な響きをうまく救いあげて、晩年のカラヤンを上回る耽美的な美しさ、ジュリーニやアバドらのイタリアの指揮者の伸びやかさを、節度あるコントロールでまとめ上げ、響きの一つ一つを非常にデリケートに扱いながら、この曲に潜む厭世観を見事に表現仕切っていました。

オケは上手いというレベルではなく、インバルの流麗な棒に乗って妖艶な響きを聴かせ、ソロや静けさには凄みを感じさせるほど。何と言ってもホルンやトロンボーンのブワッっと響く大地の歌特有の響きの迫力も素晴らしいものがありました。これが日本のオケとはとても思えない素晴らしい響き。私は生で大地の歌を聴くのはこれがはじめてですが、これほどの演奏に出会うとは思ってもみませんでした。庇の下の席は横にお客さんがいないことを見計らって、休憩後はちょっと横にスライドしたせいか、響きも良く聴こえるようになったのも良かったですね。

コントラルトのアンナ・ラーションはまさに絶唱。アバドとルツェルン祝祭管と2番と3番のブルーレイに登場していますのでマーラーは得意としているのでしょうが、膨よかで艶やかな声は絶品。特に最後の告別はキャスリーン・フェリアの絶唱を過去のものとする現代の深みを感じさせました。テノールのダニエル・キルヒもアンナ・ラーションとは格が違うものの見事な歌唱でこなしていましたね。

告別の最後の一音が消え、インバルがタクトを下ろすと、ジワリと盛り上がる拍手。この大地の歌も都響の演奏史上に残る演奏として語り継がれる価値のある演奏でしょう。インバルという指揮者、今回の演奏会でその素晴らしさがしっかりと刷り込まれました。最近の評判が良いのが良くわかりました。

前日のジョナサン・ノットといい、この日のインバルといい、現在の日本のオケの素晴らしさは一昔前とは隔世の感がありますね。ここまでの演奏を聞ければ、高いチケットを買ってウィーンフィルやベルリンフィルの演奏を聴く価値も揺らごうというもの。インバルのコンサートは要注目ですね。

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tag : マーラー 東京芸術劇場

カンブルラン/読響:太鼓連打、巨人(東京芸術劇場)

4月8日土曜は以前からチケットを取ってあったコンサートに出かけました。

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読売日本交響楽団:第196回土曜マチネーシリーズ

現在読響の常任指揮者として活躍しているシルヴァン・カンブルランが、ハイドンの太鼓連打を取り上げるということでチケットを取ったもの。組み合わされる曲はマーラーの巨人。上のチラシのデザインを見ても明らかなとおり、メインディッシュはマーラーですが、もちろん私の興味は太鼓連打。

カンブルランが特別に好きなわけではありませんが、これまで随分コンサートに行っています。

2017/02/01 : コンサートレポート : カンブルラン/読響:メシアン「彼方の閃光」(サントリーホール)
2015/04/11 : コンサートレポート : カンブルラン/読響のリーム、ブルックナー(サントリーホール)
2014/04/18 : コンサートレポート : カンブルラン/読響のマーラー4番(サントリーホール)
2012/12/21 : コンサートレポート : カンブルラン/読響の第九(サントリーホール)
2012/04/16 : コンサートレポート : カンブルラン/読響の牧神の午後、ペトルーシュカ
2010/11/22 : コンサートレポート : カンブルラン/読売日響の朝、昼、晩
2010/07/14 : コンサートレポート : カンブルランのデュティユー
2010/05/02 : ハイドン–交響曲 : カンブルランのハイドン
2010/05/01 : コンサートレポート : カンブルランのハルサイ爆演

これまで読響のコンサートにはいろいろなプログラムが取り上げられましたが、私の聴いたなかでよかったのはやはり現代音楽。先日聴いたメシアンも素晴らしかったし、デュティユー、リームも絶品。最初にカンブルランを聴いたのが春の祭典でしたが、そのあと火の鳥もペトルーシュカも聴いて、こうしたプログラムでのカンブルランの色彩感豊かなコントロールが現代曲に華やかさを加え、フランス人らしいキレを感じさせているんですね。

逆にあまり良くなかったのはブルックナー。読響でブルックナーといえばスクロヴァチェフスキですが、カンブルランの演奏はフレーズがせかせかして明らかにブルックナーには合わない感じがしました。

やはりカンブルランは現代音楽で、独墺系の音楽に合わないのかといえば、さにあらず。2010年にはハイドンの朝、昼、晩を聴いていますが、これがなかなか良かったんですね。その記憶があって、今回は太鼓連打目的でチケットを取ったわけです。



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会場は池袋の東京芸術劇場。前日に母親が骨折の治療のため入院したのでバタバタしていましたが、前日中に手続きまで含めて終わりましたので、コンサートに行ける余裕ができました。

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マチネーということで開演は14時。いつもどおり少し早めについて、バーラウンジでワインを飲みながら腹ごしらえです。

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席は2階のステージ右脇。サントリーホールならRAあたりです。15分前くらいに席についてもらったチラシなど眺めながら開演時刻を待ちます。ステージ上は1曲目のハイドンに合わせて小編成のオーケストラ用の配置、、ですが、ハイドンの演奏に使うティンパニの後ろにはさらにティンパニが2台用意されており、後半のマーラー用のパーカッション群もちらほら見えます。

程なく開演時刻になり、オケのメンバーが登壇。コンサートマスターは荻原尚子さん。4月1日付でコンサートマスターに就任とのことで、このコンサートがデビューのようです。チューニングが終わり、カンブルランが登場。最初の入りはタクトで指示せず、ティンパニに任せます。遠雷のように入るものの最近の流行りか、途中から乱打に。1楽章は非常にシャープな演奏。ノンヴィブラート気味な弦の透明な響きをベースに、テンポよく各パートがクッキリ鮮明にメロディーを重ねます。カンブルランが首席指揮者になってからかなり演奏を重ねているので、各楽器もカンブルランの指示どおりに鮮やかな演奏。木管のニュアンスの豊かさに、金管群も非常に緻密な演奏で応えます。1楽章の構成感の見事さは惚れ惚れするほど。一部トランペットが音を外したところがある他は完璧な演奏でした。
素晴らしかったのが2楽章。一定のテンポでサクサク進めますが、音楽自体は非常に豊か。特に新コンサートマスターの荻原尚子さんのソロヴァイオリンのゆったりとした美音は別格。いい人をコンサートマスターに迎えましたね。
そしてメヌエットも見通しの良い展開。音量をスッと落としたり、気持ちよく吹き上がったりとスロットルコントロールの面白さが存分に活かされた演奏。
フィナーレは、この曲の総決算とばかり、古典の枠の中で自在に吹き上がるオケの小気味好いキレ味と、実にニュアンス豊かに鳴り響くメロディーの交錯に、最後は分厚く響き渡るオケの迫力を存分に聴かせて終了。やはりカンブルランの抑制を効かせながらも巧みにオケをコントロールするハイドンは素晴らしいですね。充実した演奏に会場からも万雷の拍手が降り注ぎます。

休憩中にステージ上は大オーケストラ用の配置に様変わり。休憩後もコンサートマスターは萩原さん。マーラーも実演では色々聴いていますが、1番「巨人」は初めて。カンブルランが登壇し、最初のフラジオレットの弱音が鳴り出し、遅めのテンポで入ります。カンブルランは弱音部を実にニュアンス豊かに丁寧に描いていくので、録音ではなかなかニュアンスが伝わりにくいところがしっかりと描かれていきます。1楽章ではステージ下手の扉を開け舞台裏からファンファーレが鳴り響く箇所が何箇所かありますが、扉の開き具合を微妙に変えて音量をコントロールしているのが印象的でした。太鼓連打同様、木管楽器の柔らかな響きと、金管陣の安定感は素晴らしいものがありました。流石にハイドンとは規模が異なる大オーケストラゆえ迫力はかなりのもの。静寂からオケの爆発に至るコントロールも見事に決まり1楽章を終えます。
2楽章はヴィオラやヴァイオリン、チェロ、コントラバスなどの弦楽器が大活躍。特にヴィオラの力感漲るボウイングは見事。オケを俯瞰できる席だったので、メロディーをパートごとに受け継いでいくやり取りの面白さが視覚的に入って来ます。タイトに引き締まったオケの響きがグイグイ迫ってくる快感。暗澹たる3楽章も実に丁寧なコントロールで聴きごたえ十分。3楽章までは冷静さも緊張感も保ち続けて見事な展開でした。
そしてフィナーレはオケの爆発に始まり、何度かの爆発を経て壮麗な最後に至りますが、このフィナーレの最後が少し力みが見られてちょっとくどい感じを残してしまいました。ここがマーラーの難しいところでしょう。4楽章の中盤までは理性的にコントロールが行き渡っていましたが、最後はゴリ押しした感じで惜しかったですね。もちろん会場のお客さんからはブラヴォーの嵐。ほおがびりつくほどの迫力でのフィナーレは素晴らしい迫力でした。読響も素晴らしい精度でカンブルランの指示に応じていましたので、カンブルランも満足そうに奏者を讃えていました。

おなじみのカンブルランの振ったハイドンの太鼓連打とマーラーの巨人。大迫力の巨人を楽しんだ人も多かったと思いますが、私はカンブルランの太鼓連打が深く印象に残りました。交響曲の父が書いた古典の完成形としての交響曲の秩序と機知と美しいメロディーが溶け合った曲に対し、その100年近く後に交響曲がたどり着いた、世紀末の成熟と退廃。演奏の方も。古典の名曲を現代音楽の奇才がきっちり料理しきった演奏と、マーラーという作曲家の作品を丹念に描きつつも、その演奏の難しさも感じさせたコンサートでした。

この秋、カンブルランはメシアンの歌劇「アッシジの聖フランチェスコ」を取り上げるとのこと。まずは手元のメシアン全集のケント・ナガノの演奏でも聴いて、どうするか決めようと思います。CD4枚分は長いですからね〜(笑)

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ジョナサン・ノット/東響の「コジ・ファン・トゥッテ」(東京芸術劇場)

12月11日、日曜は以前からチケットを取って合ったコンサートに。

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東京芸術劇場:コンサートオペラvol.4 モーツァルト/歌劇「コジ・ファン・トゥッテ」

このところ気になるコンサートには出かけるようにしているのですが、オペラは滅多に食指が動きません。ところがこのジョナサン・ノットの振る東京交響楽団のコジ・ファン・トゥッテは、なぜか気になりチケットを取った次第。

モーツァルトはブログの初期にも書いた通り、1991年のアニヴァーサリーまでは随分アルバムを集めていました。オペラの中ではコジ・ファン・トゥッテはドン・ジョヴァンニと並んで好きなオペラのの一つ。もちろん刷り込み盤は1962年録音のベーム/フィルハーモニア管の名盤。エリザベート・シュワルツコップ、クリスタ・ルートヴィッヒ、アルフレート・クラウス、ジュゼッペ・タディなど目も眩むような名歌手揃いのアルバム。筋はたわいもない色恋沙汰の喜劇を、禁欲的に彫りの深い指揮を旨とするベームが振っているのに実に深い音楽となっているのは皆さまご存知の通り。怖い顔のベームが繰り出す魔法のような音楽と、名歌手たちの素晴らしい歌唱に痺れたものでした。

その、コジ・ファン・トゥッテを最近評判の良いジョナサン・ノットと東京交響楽団、そして豪華な歌手陣で聴け、しかもコンサート形式ということもあってオペラにしてはチケット代も破格の安さとあって、チケットを取った次第。ジョナサン・ノットも今回初めて聴きます。

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この日のキャストは次の通り。

指揮、ハンマーフリューゲル:ジョナサン・ノット(Jonathan Knot)
舞台監修、ドン・アルフォンソ:サー・トーマス・アレン(Sir Thomas Allen)
フィオルディリージ:ヴィクトリヤ・カミンスカイテ(Viktorija Kaminskaité)
グリエルモ:マルクス・ウェルバ(Markus Werba)
フェルランド:アレック・シュレイダー(Alek Shrader)
ドラベッラ:マイテ・ボーモン(Maite Beaumont)
デスピーナ:ヴァレンティナ・ファルカス(Valentina Farcas)
管弦楽:東京交響楽団
合唱:新国立劇場合唱団

フィオルディリージは当初、ミア・パーションが予定されていましたが急病のため代役でリトアニア出身のヴィクトリヤ・カミンスカイデとなった次第。ミア・パーションといえば、アイヴァー・ボルトン盤、ポール・マクリーシュ盤の天地創造でガブリエル/エヴァを歌っているほか、ルツェルン音楽祭でアバトのマーラーにも登場している名ソプラノということで期待していたのですが、これは残念でした。

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この日の東京は快晴。日曜日なので、ウィークデーのコンサートの時のように開演時間ギリギリに駆けつけるという苦労もありません。会場となる池袋の東京芸術劇場に早めについて、いつものようにワインを煽って、長いオペラの舞台に備えます。

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この日の席は2階席のほぼ正面ということで、舞台を俯瞰するなかなかいい席。ステージ上には中央にジョナサン・ノットが弾くハンマーフリューゲルが置かれ、その周りに2管編成の小規模なオケ用の座席がステージ中央に固められています。オケの後ろにはコーラス用の段、そして、オケの前にコンサート形式でのオペラ上演用に椅子4つと中央に小さなテーブルとシンプルな舞台。

定刻となり、東京交響楽団のメンバーがステージに上がりチューニングを終えると、ジョナサン・ノットがすぐに登場。ハンマーフリューゲルの横に立ち、指揮棒なしでさっと手を振り上げると、有名な序曲が流れ出します。ヴィブラートを抑えた弦楽器を中心に実にしなやかな響きがホールに満ちます。これから始まるドラマを暗示させるような不思議な旋律の繰り返し。モーツァルトならではのめくるめくような音楽がノットのコントロールで色彩感豊かに鳴り響いていきます。また寄せては返す波のように盛り上がる序曲を聴いただけでもこの日の演奏の素晴らしさを直感。テンポは速めで来るかと思っていたところ、落ち着いた進行。序曲が終わると、上手からグリエルモとフェルランド、老哲学者ドン・アルフォンソがスーツ姿で登場。舞台正面の椅子を使って、劇が始まります。

あらすじは、当ブログの読者の方なら大方ご存知でしょう。グリエルモとフェルランドがそれぞれの恋人が自分たちを裏切るようなことはないと信じているところにドン・アルフォンソは女性にも出来心はあると説き、どちらの言い分が正しいかを確かめるために賭けることになります。ドン・アルフォンソが仕掛けた、偽の出兵騒ぎによって恋人を失ったフィオルディリージとドラベッラ姉妹が、新たな恋人の恋心に翻弄される顛末の一部始終のドタバタ劇が展開するもの。聴きどころはフィオルディリージとドラベッラの美しいアンサンブル、ドン・アルフォンソと女中のデスピーナの悪役ぶり、そしてモーツァルトが恋心の変化を克明に描いたとめどなく湧き出るような美しい音楽でしょう。

素晴らしかったのは、まずはジョナサン・ノットが繰り出す音楽。ベームの名盤も素晴らしかったんですが、この日のオケは絶品。長いオペラなのに、ほぼノーミスで最初から最後までいきいきとした音楽が溢れ出て来るよう。ノットのコントロールが完全に行き渡っており、オケも見事に応じていました。東京交響楽団、見直しました。ジョナサン・ノットはハンマーフリューゲルを弾きながらの指揮でしたが、このハンマーフリューゲルにレチタティーヴォの場面転換が見事。要所でかなりテンポを落として場面転換を鮮明に印象付け、オケが加わった時の推進力が際立つ効果が実によくわかりました。
それから、ドン・アルフォンソのサー・トーマス・アレンの老練な演技と歌唱。老哲学者をまさに地で行く切れ味。やはりこうゆう役がキレてないとドラマの面白みが活きませんね。トーマス・アレンは舞台演出も担当していましたので、この日の劇のスリリングな展開はトーマス・アレンの功績でしょう。
そして女中デスピーナ役のヴァリンティナ・ファルカスの小悪魔的演技も絶妙でした。ミア・パーションの代役、ヴィクトリヤ・カミンスカイテは見事に代役をこなし、この日の聴衆の拍手を一番受ける好演。フィオルディリージの難度の高いアリアを溢れんばかりの声量と輝かしい高音で見事にこなし、圧倒的な存在感。他のキャストも歌手は粒ぞろいで、皆欠点らしいところ感じさせない素晴らしい仕上がりでした。
加えて、字幕の翻訳が巧妙で実に面白かった。ダ・ポンテが書いた台本の素晴らしさを実感できました。歌舞伎で言えば河竹黙阿弥の七五調に近い、言葉の綾の面白さを存分に味わえました。この日の舞台の裏方の隅々まで質の高いサービスが提供されていたのが印象的でしたね。

3時に始まり、途中幕間に25分の休憩を挟んで、終わったのが7時近く。長いオペラですが、劇の展開に惹きつけられっぱなしであっという間のひと時。もちろん最後のクライマックスのオケの熱演に会場からは万雷の拍手が降り注ぎ、ジョナサン・ノットも満足げに歌手と奏者を讃えていました。

コンサート形式のオペラを実演で観るのは初めてでしたが、かえって歌と音楽に集中できる分、悪くないですね。この日のコンサートは日本でのオペラの演奏のレベルの高さを実感できました。だいぶ前の海外旅行時にウィーンやケルン、フランクフルトなどで何度かオペラを見ていますが、これほどの集中力で全編をこなしてはいませんでした。このコンビでの次の出し物も是非聴いて見たくなりましたね。

オペラの分野では、ハイドンはモーツァルトには敵わなかったんだなぁと実感したコンサートでした。

(参考アルバム)
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TOWER RECORDS / amazon /


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プロフィール

Daisy


Author:Daisy

なぜかハイドン(Franz Joseph Haydn)が特に気に入り膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。東京在住のごく普通のサラリーマンです。

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