ジョーン・サザーランドとデニス・ブレインの共演

旅日記にかまけてレビューをお休みしておりました。しばらくレビューから遠ざかっていたので、リハビリを兼ねて、短い曲を取りあげましょう。

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ジョーン・サザーランド(Joan Sutherland)、エイプリル・カンテロ(April Cantelo)のソプラノ、レイモンド・ニルソン(Raymond Nilsson)のテノール、サー・チャールズ・マッケラス(Sir Charles Mackerras)指揮のゴールズブロウ管弦楽団(現イギリス室内管弦楽団)の演奏による、ハイドンの2人のソプラノとテノールのための三重唱"Pieto di me, Benigni Dei"などを収めたアルバム。ホルンの独奏にはなんと、デニス・ブレイン(Denis Brain)が登場。この曲の収録は1956年12月17日、BBCとだけ書かれているのでBBCのスタジオででしょうか、拍手などはありませんが、解説によるとライヴのようです。

久しぶりの歌曲のアルバム。しかもハイドンを歌うというイメージがあまりなかったジョーン・サザーランドの歌。もちろん、サザーランドとハイドンという組み合わせの珍しさから手に入れた次第。

ジョーン・サザーランドは1926年、オーストラリアのシドニー生まれのソプラノ歌手。両親はスコットランド出身とのこと。ソプラノ歌手だった母の影響でソプラノを学び始め、事務職につく傍らシドニー音楽院でドラマティックソプラノの才能を見いだされます。1947年に歌手デビュー、1952年にはロイヤル・オペラ・ハウスで「魔笛」の第一の侍女役でデビューしました。その後リチャード・ボニングにベル・カント・ソプラノの能力を見いだされ、ベル・カントの道を歩み始めました。1952年にリチャード・ボニングと結婚。その後「ランメルモールのルチア」、「夢遊病の女」、「清教徒」、「セラミラーデ」などをレパートリーとしていったそう。イタリアではラ・ステュペンダ(La Stupenda「とてつもない声を持つ女」)と賞賛される存在になりました。1970年代以降は声が衰え始め、1992年にオペラから引退、亡くなったのは2010年と最近のことです。

調べたところ、サザーランドはボニングの指揮でハイドンの「哲学者の魂、オルフェオとエウリディーチェ」のエウリディーチェを歌ったアルバムがあり、手元にもありました。ハイドンとは縁遠いイメージだったのは単なる私の先入観でした。

もう一人のソプラノ、エイプリル・カンテロは1928年生まれとサザーランドと同世代のソプラノ。コリン・ディヴィスの最初の奥さんだったとのこと。

Hob.XXVb:5 / Trio "Pieto di me, Benigni Dei" [Es] (????)
13分ほどのハイドンの晴朗な曲調が特徴の管弦楽伴奏付きの三重唱曲。手元の大宮真琴さんの「新版ハイドン」の曲目リストに曲は載っているものの、作曲年代の表記はありません。マッケラスの振るオケは、精度は粗いものの、オペラのような高揚感があるリズミカルないい伴奏。音程はちょっとふらつき気味ですが、存在感のあるホルンの演奏はデニス・ブレイン。音はモノラルで時代なりのものですが、なぜか雰囲気のあるいい演奏。序奏でのホルンと木管の掛け合いだけでもなかなかの風情。歌はサザーランドのソプラノから入りますが、いきなり艶があり、良く転がる素晴しいソプラノで抜群の存在感。特に高音の声量と伸びは流石です。不思議と歌に余裕があり、華麗な余韻が残ります。この曲では歌手以上にホルンが大活躍。テノールのレイモンド・ニルソンが続きます。サザーランドと似て、転がるようすが滑らかで、若々しい透明感のある美しい声を響かせます。またホルンをはさみ、今度はエイプリル・カンテロのソプラノ。サーザーランドよりも少し陰のある声質。転がるような曲調は一貫していますが、滑らかさはサザーランドに敵いません。後半は3人が絡み合いながら展開していきますが、祝祭感溢れる曲調の部分と、少し陰がさす部分の表現の変化の綾を楽しみます。終盤の3人のアンサンブルは聴き応えがあります。良く聴くと見事な構成感を感じる名曲ですね。最後はテープの伸びか音程がちょっと下がってしまいますが、この演奏の面白さを損なうものではありません。やはりサザーランドの存在感は見事。デニス・ブレインも張り合います。

Hob.XXVIII:13 / "L'anima del filosofo, ossia Orfeo ed Euridice" 「哲学者の魂、またはオルフェオとエウリディーチェ」 (1791)
つづいて、解説によれば歌劇「哲学者の魂、またはオルフェオとエウリディーチェ」からの一節"Se ti perdo"。こちらはサザーランドとオーケストラによる演奏。前曲のテンポのよい感じから一転、まさにオペラの一場面。マッケラスの棒はなかなか劇的。サザーランドのソプラノが時に鋼のような強さで刺さります。流石に名ソプラノと言われただけの人。強さ、しなやかさ、輝きとどれをとっても圧倒的。オペラ好きの人が唸るわけがわかります。ただただサザーランドの美声に打たれます。

ハイドンの曲を集中して聴いていましたが、このアルバムには他にモーツァルトの「エクスラーテ・ユビラーテ」、「後宮からの逃走」からの一節、ベルリーニの「ノルマ」からの一節、ヘンデルの「アルチーナ」からの一節、ドニゼッティの「ランモルメールのルチア」からの一節などが収められており、念のため他の曲を聴き始めてあまりのソプラノの輝きに腰を抜かしました。「ノルマ」や「アルチーナ」、「ルチア」はサザーランドのソプラノのパワーが炸裂。ソプラノとはこれほどの輝きのあるものなのかと衝撃を受けるような圧倒的な歌唱。むせ返るような香しさ。花の香りにに包まれるような幸せな時間。人の声の美しさの極限を聴いたような気分にさせられます。オペラ好きな人をノックアウトする破壊力。「アルチーナ」、「ルチア」の最後には熱狂しすぎて半狂乱となった観客の嵐のような拍手とブラヴォーが収められています。まさに事件のようならライヴ。

ハイドンの曲も素晴しいのですが、やはり20世紀最高のソプラノと言われただけあって、このアルバムに収められた曲はどれも素晴しいものです。ハイドンやモーツァルトは他の曲を聴いてから聴くと、牙を剥かない、古典の秩序を守った貞操あるサザーランドの姿だったことがわかります。これはこれで素晴しいものです。ハイドンの2曲の評価は[+++++]をつけます。また一枚家宝となるアルバムに出会えました。

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tag : 歌曲 オペラ ヒストリカル

【新着】クリスチャン・ゲルハーヘルの歌曲集

今日は久々の歌曲のアルバム。

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クリスティアン・ゲルハーヘル(Christian Gerhaher)のバリトン、ゲロルト・フーバー(Gerold Huber)のピアノによるベートーヴェン、シェーンベルク、ハイドン、ベルクなどの歌曲を集めたアルバム。収録は2012年1月21日から24日、26日、ミュンヘンのバイエルン放送第2スタジオでのセッション録音。レーベルはSONY CLASSICAL。ハイドン以外の収録曲目はHMV ONLINEのリンクをご覧ください。

クリスティアン・ゲルハーヘルは1969年、ドイツミュンヘン北東のシュトラウビング生まれのバリトン。ミュンヘン国立音楽大学のオペラ科出身で、ディートリッヒ・フィッシャー=ディースカウ、エリザベート・シュヴァルツコプフのマスタークラスで学んだ人。このアルバムで共演しているピアノのゲロルト・フーバーとは同年生まれで同窓。フーバーは現在はゲルハーヘルの専属ピアニストとのこと。

ゲルハーヘルはこれまでハイドンではアーノンクールのアルバムに多く登場しており天地創造のラファエル/アダム、四季のシモン、そして「騎士オルランド」のロドモンテ役などの録音がありますが、ハイドンの歌曲の録音はおそらくはじめて。HMV ONLINEを検索してみると49枚ものアルバムがリリースされており、バッハからマーラー、現代音楽まで幅広いレパートリーを誇ります。現代の名バリトンの一人ということでしょう。

このアルバムに収められているのは、ハイドンが49歳、1781年に書いたドイツ語による12曲の歌曲と52歳、1784年にその第2集として書いた12曲の歌曲の中からの3曲。いつも紐解く中野博詞さんの「ハイドン復活」によれば、この歌曲集は発表当時には大変な人気を博したとこのとでヨーロッパでは25社もの出版社から出版されたそうです。レビューは「ハイドン復活」による曲の解説もつけて記載しましょう。

Hob.XXVIa:9 / 12 Lieder No.9 "Trost unglücklicher Liebe" 「不幸な愛の慰め」 [f] (1781)
愛する女性をあきらめなければならない苦しみを神への祈りで癒そうとする男性の心境が描かれた曲。短調のピアノの伴奏にのって、ゲルハーヘルの透き通るようなバリトンが切々と歌います。声質はフィッシャー=ディースカウとちょっと似ていて、フィッシャー=ディースカウ独特のキリッとした部分が滑らかに磨かれてたような歌い方。録音は最新のものだけあって鮮明かつ非常に自然なもの。もうすこし奥行き感があるとさらにいいでしょう。リズム感も抑揚も適切で感情表現は抑え気味で淡々としたところが、かえって情感を増しているよう。私の好みからいうと好きなタイプの演奏です。ピアノのゲロルト・フーバーも適度な抑揚で歌を支えています。静かに心にしみる演奏。

Hob.XXVIa:17 / 12 Lieder No.5 "Geistliches Lied" 「宗教歌」 [g] (1784)
神に感謝の祈りを捧げる者の揺るぎない信仰が歌われた曲。意外と激しい曲調。録音的にはバリトンとピアノが重なって聴こえるところにちょっと違和感があります。ワンポイント的な録音ではこうは聴こえないでしょう。曲調の割にゲルハーヘルは抑えた歌唱でしょう。

Hob.XXVIa:21 / 12 Lieder No.9 "Das Leben ist ein Traum" 「人生は夢だ」 [E flat] (1784)
人生の儚さが描かれた曲。このピアノの伴奏のメロディーは何度聴いてもぐっと来ますね。名曲です。ハイドンならではな明るさとのうら悲しさが混じり合ったはかない美しさ。ゲロルト・フーバーはちょっと音を切り気味にして、情緒的になるのを抑えているよう。雄弁という感じではなく、抑制の美学。フーバーのピアノに乗ってゲルハーヘルは持ち前の美しい声で滑らかに歌い上げます。ピアノに主役を譲っているようなすこし抑え気味の歌唱。じつにしっとりした歌の余韻が残ります。

このアルバムのメインはもちろんシェーンベルクやベルクというウィーン学派の歌曲。ゲルハーヘルの歌も底に力点がおかれているのは明らか。それらの作品を挟むようにベートーヴェンとハイドンというウィーンで活躍した古典派の作品がおかれ、ウィーンという都市の歴史のパースペクティブの中で音楽を聴かせようという企画意図でしょう。シェーンベルクとベルクの作品に挟まれたハイドンの美しい歌曲3曲は、古典の古典らしさ、音楽の原点、歌曲の原点たる美しさ,儚さを象徴するようにおかれ、まさにウィーンのオリジンたる扱い。ゲルハーヘルは、ハイドンの作品をあえて抑揚をおさえて、歴史の証人のような端正さで扱っているように聴こえました。歌曲としてどう聴かせるかというよりも、ハイドンを座標の基点に据えようということでしょう。そういった意味でこの演奏は端正かつ、表現を抑えた魅力がにじみ出るいい歌唱です。評価は「宗教歌」が[++++]、その他が[+++++]としました。

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tag : 歌曲

ハイドンとアビンドン卿

前記事でアップしたクイケン・アンサンブルのロンドン・トリオがあまりに良かったので、ロンドン・トリオがらみの未聴のアルバムを取りあげます。

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デレク・マカロック(Derek McCulloch)カフェ・モーツァルト(Cafe Mozart)の演奏による、ハイドンとハイドンの友人でもあったのアビンドン卿の室内楽や歌曲まとめた企画もの。収録は2007年5月31日と6月1日、ロンドンの北約50キロのヒッチン(Hitchin)近郊の街プレストン(Preston)にあるテンプル・ディンスレー(Temple Dinsley)でのセッション録音。ご覧のとおりレーベルはNAXOS。

アルバムタイトルは「ハイドンのアビンドン卿」。アビンドン卿とは、第4代アビンドン伯爵、ウィロービー・バーティという人で1740年生まれのイギリスの貴族。イギリス中部のマンチェスター東方のゲインズバラ(Gainsborough)生まれで、政治記者をしていた上、音楽家にとってのパトロンであった他、自身も作曲をしていた人。義理の父の縁でクリスチャン・バッハなどと親交があった他、ハイドンの友人でもあったようで、作曲はハイドンがすすめたとされています。

このアルバムには30曲が収められていますが、約半数がアビンドン卿が作曲したもの。もちろんハイドンと比べると作品の質に差のあるのは当然のことながら、こうして200年以上経過してから録音されアルバムになるとはアビンドン卿自身も想像だにしなかった事でしょう。

今日はそのなかから、もちろんハイドンの曲を選んでレビューしましょう。

Hob.XXVIa:31 / 6 Original Canzonettas 2 No.1 "Sailor's Song" 「船乗りの歌」 [A] (1795)
テノールはロジャーズ・カーヴィー=クランプ(Rogers Cobey-Crump)、伴奏はスクエア・ピアノでキャサリン・メイ(Katharine May)。イギリスっぽい発音の艶のあるテノールによる聴き慣れた曲。スクエア・ピアノの音はチェンバロっぽい音ですが、チェンバロとも少し違い箱っぽい音に感じます。朗々とした声の魅力で聴かせる歌ですが、スクエア・ピアノのリズムがちょっと重いのが惜しいところ。録音は鮮明で比較的オンマイクの音。前後に置かれたアビンドン卿の曲のリコーダーの音色が実に手作り感ある音楽だけに、この曲が逆に引き立つ感じなのが微笑ましいところ。

Hob.IV:9 / Op.38-4 Trio für Violine (oder Flöte), Violine und Violincello Nr.4 [G] (1784)
バリトン・トリオの曲に由来するフルート三重奏曲。ロンドン・トリオ同様1794年に書かれた曲。演奏はフルートはエドウィナ・スミス(Edwina Smith)、ヴァイオリンがオリヴァー・センディグ(Oliver Sändig)、バス・ヴィオールがイアン・ガミー(Ian Gammie)の3人。バリトンの精妙な音色のイメージが濃い曲ですが、フルートの清涼な音色に変わり、曲のイメージも変わってきます。アンサンブルの精度はそれほど悪くありませんが、やはりリズムの重さが少々気になるところ。知り合いの演奏会のようなカジュアルな感じに聴こえます。ハイドンの演奏当時はみんなで演奏をこのように楽しんだのだと言われているような演奏。

Hob.XXVIa:39 / "Trachten will ich nicht auf Erden" 「この世で何も得ようとは思わない」 [E] (1790)
1曲目と同様テノールのカーヴィー=クランプとスクエア・ピアノのキャサリン・メイの組み合わせの歌曲。カーヴィー=クランプの声はハイドンの歌曲にぴったりの声。朗々としかし叙情的なニュアンスも感じさせるデリケートな歌唱。ここではスクエア・ピアノの箱庭的な音色も雅な感じがしてなかなか盛り上げます。訥々とつぶやくようなスクエア・ピアノがようやく本領発揮。

Hob.XXVIa:34 / 6 Original Canzonettas 2 No.4 "She never told her love" 「彼女は決して愛を語らなかった」 [A sharp] (1795)
歌手がソプラノのレイチェル・エリオット(Rachel Elliott)に替わります。非常に透明感のある伸びの良い声。ハイドンの歌曲のイメージにドンピシャで絶妙の美しさ。短い曲ながらこのアルバムの聴き所でもあります。

Hob.IV:2 / Trio für 2 Floten (oder Flöte, Violine) und Violincello "London Trio" Nr.2 「ロンドン・トリオ」; [G] (1794)
ロンドン・トリオの2番の「貴婦人の姿見」のメロディーをフルート三重奏曲にしたものですが、ここでは最初のフレーズをテノールのカーヴィー=クランプ、指揮のデレク・マカロック、ヴァイオリンのミカエル・サンダーソンの3人が歌った導入という凝った演出。その後はフルートはジェニー・トーマス(Jenny Thomas)、エドウィン・スミス(Edwin Smith)とバス・ヴィオールがイアン・ガミーの3人の演奏。もちろん前記事のクイケン・アンサンブルの演奏の完成度には及びませんがなぜか手作り感のある演奏がとても印象に残ります。技術的な完成度だけが音楽を印象づけるものではないことを示してるような演奏。ハイドンの美しいメロディーを一生懸命演奏している汗を感じるような演奏。チェロではなくバス・ヴィオールの音色が変化を加えていますね。

Hob.XXVIa:16 / 12 Lieder No.4 "Gegenliebe" 「かなえられた恋」 [G] (1781)
先程美声に酔ったレイチェル・エリオットのソプラノに今度はイアン・ガミーのギターが伴奏を担当。やはり美しい声にうっとり。気に入りました。

Hob.IV:1 / Trio für 2 Floten (oder Flöte, Violine) und Violincello "London Trio" Nr.1「ロンドン・トリオ」 [C] (1794)
こちらは声の入らないフルート三重奏曲。2番のメンバーと同じメンバー。この演奏を聴くと逆にクイケン・アンサンブルの超自然的演奏の素晴らしさが際立ちます。もちろんこちらの演奏が悪い訳ではく、先程来の手作り感を感じるなかなかの演奏。

Hob.XXVIa:41 / "The Spirit's Song" 「精霊の歌」 [f] (c.1795)
名曲「精霊の歌」をレイチェル・エリオットの透明な声とスクエア・ピアノの組み合わせで。表現の幅はそこそこながら、透明感溢れる声の美しさは絶品。特に高音域の自然な響きと伸びは素晴らしいもの。

Hob.XXXIa:180 - JHW XXXII/3 No.173 / "Tak your auld cloak about ye"
この曲は作品番号ではこれなんですが、アルバムの曲には"When icicles hang on the wall"とあり、スコットランド歌曲集には同名の作品が見当たりません。カーヴィー=クランプのテノールにヴァイオリン、スクエア・ピアノ、バス・ヴィオールの組み合わせ。1分少々の小品。不思議と叙情的な語るような歌。アルバムの最後に置かれた曲。

カフェ・モーツァルトという団体の「ハイドンとアビンドン卿」という企画もの。アビンドン卿の曲にはちゃんと触れませんでしたが、ハイドンの時代に同時代で聴いているようなくつろいだ雰囲気が味わえる好企画と言ってよいでしょう。どの曲も技術的にはまだまだ上があるような演奏ですが、不思議に懐かしい感じと技術の欠点が粗と映らないない素朴な音楽の楽しみを感じるアルバム。ハイドンが好きな方には一度聴かれる事をお薦めします。評価は全曲[++++]とします。

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tag : スコットランド歌曲 ロンドン・トリオ 英語カンツォネッタ集 歌曲

ミクローシュ・サボー/ジュール女声合唱団の世俗カノン集

今日は室内楽の中休み。超マイナー盤です。

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ミクローシュ・サボー(Miklós Szabó)指揮のジュール女声合唱団(Gyór Girls' Choir)の演奏でハイドンの世俗カノン集。収録年や会場の表記はありませんが、Pマークは1987年となっています。レーベルはハンガリーのHUNGAROTON。

このアルバムは先日ディスクユニオンの店頭で見かけた未知のアルバム。もちろん即ゲットです。

まずこのアルバムに収められたカノンですが、作曲年代は1795年から99年と第2回のロンドン旅行から戻り、交響曲ではロンドンやオラトリオでは天地創造、弦楽四重奏曲の最後の作品などを作曲していたハイドン創作の頂点に当たる時期。全47曲が収められており、歌詞はドイツ語の詩や韻文が中心で10曲が英語、1曲がラテン語。1803年ゴンベールから一部の曲が出版され、1810年にはゴンベールから出版されたものも含めて42曲がブライトコップから出版されていたもの。どうしてこのカノンが作曲されたかの経緯は手元の資料やネットの情報でもわかりません。

演奏者のミクローシュ・サボーとジュール女声合唱団についてはネットにもあまり情報がありません。アルバムのライナーノーツにも演奏者のことは細かく書いてありません。

Hob.XXVIIb:1 / Canon "Hilar an Narziss"「ヒラーからナルシスへ」(1795-99)
このアルバムにはHob.XXVIIb:1から46までの46曲とHob.XXVIIb:23の2つのヴァージョンのあわせて47曲が収められており、基本的には長くても4分少し、短いものは30秒以内の無伴奏の2声から8声までの女声によるカノン。曲順はサボーが実際にコンサートで取りあげた経験をものに構成したもので、全曲を一気に聴き通しても飽きる事がないような配列になっているとのこと。

HUNGAROTONレーベルにしては透明感ある自然ないい録音。聴き始めると無伴奏の女声合唱のカノン特有の澄み切った響きに打たれます。もちろん無伴奏の女声合唱のみという構成のため、音自体は平板な印象もあるんですが、シンプルなメロディーの繰り返しは晩年のハイドンがたどり着いた純粋無垢な心境を表しているのでしょうか。現代音楽のような静謐さも感じられるような響きです。

最初はシンプルな曲の組み合わせだと高を括って聴いていましたが聴き進めると解説のとおり大曲を聴いているような気になってきます。まるでゴールドベルク変奏曲を聴いているよう。聴いているうちに天にも昇るような不思議な浮揚感に襲われます。

ハイドンの曲の中では間違いなく最もマイナーな領域の曲ですが、こうやってアルバムとなり、またアルバムをリリースすることとなるまでにコンサートで取り上げ演奏していたわけです。ハイドンの音楽の裾野の広さをあらためて知ったような気がします。女声コーラスの美しい響きを楽しむためにはとてもいいアルバムです。評価は全曲[++++]としておきます。

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レナータ・スコットの「ナクソスのアリアンナ」

今日は、昨日の続きでゆっくりヨッフムの天地創造の続きをゆっくり聴こうと思っていたんですが、台風15号の影響で首都圏の交通は大混乱。早く帰るどころか動き出した電車は大混雑で全自動洗濯機で脱水されたようにもみくちゃ。結局帰宅したのはかなり遅くなり、時間もないことからら、急遽短い曲を挟みます! すみません。

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レナータ・スコット(Renata Scotto)のソプラノ、エデルミロ・アルナルテス(Edelmiro Arnaltes)のピアノによるハイドン、ドニゼッティ、フォーレ、プッチーニの歌曲集。ハイドンは最も有名な歌曲である「ナクソスのアリアンナ」です。収録は1991年9月19日~22日、おそらくrtveというスペインの放送局のスタジオでのセッション録音。レーベルはrtve Músicaというはじめて手に入れるレーベル。

レナータ・スコットは言わずと知れたイタリアのソプラノ歌手。といっても私自身は名前は良く知っているもののあまりなじみのある歌手ではありません。1932年イタリア北東部のサヴォーナ生まれということで、今年77歳ということになります。2002年には舞台から引退して、今はオペラ学校で教鞭をとっているとのこと。このアルバムの収録時は59歳ということになります。アルバムの声を聴いてからこの声が60歳近い人の声とは信じられないエネルギーと張り、伸び。鍛えぬかれた人だけがもつ素晴らしい声であることがわかります。

ピアノのエデルミロ・アルナルテスは全く知らない人。ちょっと聴くと非常に変わったビアノ伴奏です。

このアルバムも「ナクソスのアリアンナ」以外はロマン派以降の作品。なぜこのアルバムにハイドンが含まれているのかはわかりませんが、得意としていたのかもしれません。

Hob.XXVIb:2 / Cantata "Arianna a Naxos" 「ナクソスのアリアンナ」[E flat] (c.1789)
「ナクソスのアリアンナ」はこのブログではもう何回も取りあげています。過去の記事はPC版のブログの左のユーザータグ上で「ナクソスのアリアンナ」をクリックしていただくと、過去に取りあげたレビューが表示されますので、ご覧になってください。これまでのレビューで曲の解説などにも触れています。

入りはアルナルテスのとぼとぼと途切れるようなピアノ伴奏が非常に印象的。曲本来のもつ劇的な感じをあまり予感させず、ちょっとたどたどしさを感じさせるような伴奏。スコットの入りは落ち着き払ったコントロールですが、ちょっと音が強くなった部分にさえ牙が見えるよう。鋼のような良く通る声の片鱗が見え隠れします。もちろん若々しい弾む感じはもはやないものの、声の質と伸びは素晴らしいですね。流石名ソプラノでならしただけのことはあります。これはスコットの熟練の技を聴くべき演奏ですね。テンポは非常にゆったり。録音はスタジオ収録らしくかなりデッド。特にピアノの響きがちょっと貧弱。響きのよいホールでの収録だったらよりスコットの声を楽しめたかもしれません。この演奏の欠点ははっきり言うとピアノでしょうか。詩的な感じはするものの、やはりちょっと平板さが気になってしまいます。ピアノによってはもう少し豊かな音楽になったことと思います。劇的な展開ではなく、叙情詩を静かに詠むような展開と言えばいいでしょうか。
後半に入ると、伴奏のノリに関係なくスコットのすばらし盛り上がり。良く知った曲だけに曲の展開が遅めのテンポでじっくりすすむのは気になりませんが、スコットの素晴らしい張りのある声とある意味ちょっと引いたピアノの演奏のギャップが最後まで気になってしまいました。

名ソプラノ、レナータ・スコットの晩年の録音によるハイドンの名曲「ナクソスのアリアンナ」はスコットの年輪と円熟、気迫を感じると同時に、ちょっと伴奏とのギャップ(主に伴奏の問題)とデッドな録音が気になるアルバムでした。評価は[+++]とします。

明日は、ヨッフムの1951年の天地創造ライヴの第二部、第三部を取りあげる予定です。

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ジャンル : 音楽

tag : ナクソスのアリアンナ 歌曲

キャサリーン・ボット/メルヴィン・タンの歌曲集

今日は最近手に入れた歌曲のアルバム。

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キャサリーン・ボット(Catherine Bott)のソプラノによるハイドンの歌曲をまとめたアルバム。伴奏はメルヴィン・タン(Melvyn Tan)のフォルテピアノ、ヴァイオリンがアリソン・バリー(Alison Bury)、チェロがアンソニー・プリース(Anthony Pleeth)、フルートがリザ・ベズノシウク(Lisa Beznosiuk)、ハープがフランシス・ケリー(Frances Kelly)。収録曲目はスコットランド歌曲集から7曲、英語によるカンツォネッタ集から3曲、天地創造の第一部のガブリエルのレチタティーヴォとアリア、そしてナクソスのアリアンナと名曲ぞろい。収録年、場所の記載がないのですが、Pマークは1985年なのでその前の録音でしょう。レーベルは先日フー・ツォンの素晴らしいピアノソナタの録音で存在感を示した英Meridian。

このアルバムは最近手に入れたものでが、気になったのは上のジャケット写真の右上の25という数字。よく見るとMeridianレーベルの25周年を記念して再発されたうちの何枚かの1枚。レーベルのアニヴァーサリーを記念して再発されるということは、マイナーで廃盤となりながらも再発、しかも記念碑的な価値を持つ演奏であるとの読み。

実は手に入れてちょい聴きしたときにはあまり印象に残らなかったんですが、この週末に所有盤リストに登録すべくライナーノーツなどを眺めながら聴き直してみたところ、これが素晴らしい演奏でした。やはりきちんとした演奏には音楽に向き合って真剣に聴かなくてはなりませんね。ご存知のようにこのブログを書き始めてから歌曲の魅力にハマり、ハイドンの歌曲は結構集めてます。人の声の魅力の素晴らしさを再認識。

このアルバムは今まで聴いてきた歌曲の聴き方に対する認識を改めさせるような演奏でした。詳しくは各曲のレビューで。

キャサリーン・ボットは1952年イギリス生まれの古楽と現代音楽もこなすソプラノ歌手。古楽のレコーディングも多くイギリスでは有名な人のよう。BBCのラジオ3でEarly Music Showという番組を持っているようですね。聴くとキリッと良く通るイギリスらしい美しい声。彼女自身のサイトへのリンクを張っておきましょう。超シンプルなサイト。

Catherine Bott(英文)

メルヴィン・タンは先日アンネ・ゾフィー・フォン・オッターの歌曲の伴奏者としてレビューで紹介したばかり。シンガポール生まれのフォルテピアノ奏者です。彼のサイトも張っておきましょう。

Melvyn Tan - 2011(英文)



さて、肝心の演奏。

最初の7曲はスコットランド歌曲集から。全曲歌かと思いきや、歌なしの曲もあり、意外と歌のない曲も素晴らしい演奏なんですね。

Hob.XXXIa:10 - JHW XXXII/1 No.10 / "The ploughman" (Robert Burns)
最初はタンのフォルテピアノとガット弦のヴァイオリンの伴奏に乗ったボットの歌。録音の良さを売りにしているMeridianレーベルらしく鮮明な録音。近くに鮮明に定位するソプラノとヴァイオリン。比較的デッドな音場なのでゆったり感があんまり感じられないんですが、ヴォリュームを上げて聴くと素晴らしい迫力。ボットの歌はイギリスならではの発声で歌曲の上手い歌い方というより、まさに民謡のような素朴なもの。高音の伸びと芯のある美声が特徴。

Hob.XXXIa:59 - JHW XXXII/1 No.59 / "The bonny brucket lassie" 「すてきな彼女、とてもやさしく」 (James Tytler)
2曲目を聴いてビックリ。歌はなくフルートとハープによる絶妙に美しい曲。地元の人がイギリスというかスコットランドへの郷愁を感じるのかはわかりませんが、我々日本人にはスコットランドへの憧れを感じる素晴らしいメロディー。2分少しの間に心はスコットランドにトリップ。何という素朴な美しさ。

Hob.XXXIa:73 - JHW XXXII/1 No.73 / "Logie of Buchan"
前曲で郷愁スイッチがオン。続く曲はヴァイオリン、チェロ、フルート、ハープば伴奏に加わり、ボットの良く通る声で歌われる素朴なスコットランド民謡。Meridianがこのアルバムを創立25周年に再発した理由が何となくわかりました。イギリス人はこれを聴いてどう思うのか聞いてみたいですね。

Hob.XXXIa:77 - JHW XXXII/1 No.77 / "My heart's in the Highlands" (Robert Burns)
再び器楽のみ。ヴァイオリンとチェロとタンのフォルテピアノによるスコットランド民謡の素朴なメロディー。2曲目と同様その素朴な美しさに心を奪われます。技術をベースとした音楽だけではない音楽の素晴らしさ。

Hob.XXXIa:44 - JHW XXXII/1 No.44 / "Sleepy bodie"
普通の編成にもどり、ヴァイオリン、チェロ、フォルテピアノの伴奏による歌曲。ボットの歌は先日聴いたアンネ・ゾフィー・フォン・オッターの素晴らしい歌唱も良かったんですが、ボットの歌唱こそスコットランド民謡の本流のように感じるようになってきました。なんでしょうか、この素晴らしい説得力。スコットランドの魂が曲になったようです。

Hob.XXXIa:48 - JHW XXXII/1 No.48 / "O can you sew cushions" 「クッションを作れるか」
冒頭のフルートの音色から痺れます。ハープが加わり彩りが増し、ボットと弦楽陣も加わって聞き覚えのある曲を、語るように歌い上げていきます。冒頭のスコットランド歌曲集から深い深いじわりと心に響く感動。

Hob.XXXIa:22 - JHW XXXII/1 No.22 / "The white cockade" (Robert Burns)
スコットランド歌曲集からの最後はヴァイオリンとチェロによってバグパイプの音色を模したような不思議な曲。まさに本場の響きでしょう。この曲がオーストリアの片田舎から来たハイドンの編曲によるものというだけで驚き。素晴らしい7曲でした。

つづいては英語によるカンツォネッタ集から3曲。

Hob.XXVIa:25 / 6 Original Canzonettas 1 No.1 "The Mermaid's Song" 「人魚の歌」 [C] (1794)
聴き慣れた人魚の歌。既に耳はボットの素朴な歌とメルヴィン・タンのグランドマナーとは対極にある古めの音色のフォルテピアノによる軽い響きに十分に慣れています。歌の技術、録音、フォルテピアノの音色への視点がインターナショナルなものではなく、イギリスの民謡であることを今更ながらに思い知る演奏。素晴らしい素朴さ。

Hob.XXVIa:27 / 6 Original Canzonettas 1 No.3 "A Pastoral Song" 「牧歌」 [A] (1794)
前曲同様、スコットランド民謡とは異なり、少々フォーマルな歌曲ではありますが、にじみ出る郷愁。タンの伴奏は変化の幅はそこそこながら自在にテンポを動かして、非常にパーソナルな雰囲気で伴奏に徹します。曲の最後の装飾音はボットが遊びを効かせて。

Hob.XXVIa:31 / 6 Original Canzonettas 2 No.1 "Sailor's Song" 「船乗りの歌」 [A] (1795)
テンポの速い曲。ボットもタンも表現の幅が極まってます。迫真のライヴを聴くような素晴らしい盛り上がり。歌曲の真髄にせまるような迫力。このアルバムの聴かせどころでもあります。

Hob.XXI:2 / "Die Schöpfung" 「天地創造」 (1796-1798)
天地創造の第一部のハイライト。ガブリエルのアリアとその前のレチタティーヴォの1フレーズ。こちらは原曲の壮大な構造の中で癒しを感じられる曲ゆえ、オペラティックな歌唱が刷り込まれているので、聴き始めは違和感を感じましたが、このアルバムの中で聴くと不思議と、違う座標のなかに浮かび上がるこの曲の魅力が見えてくるような気がします。ボットの透き通るようなヴィブラートのほとんどかからない声を堪能。フォルテピアノ伴奏で自宅でガブリエルのアリアを楽しめる感じ。

Hob.XXVIb:2 / Cantata "Arianna a Naxos" 「ナクソスのアリアンナ」[E flat] (c.1789)
最後は歌曲の大曲、ナクソスのアリアンナ。メルヴィン・タンの伴奏は最高。歌は先日のオッターとは全く異なる歌唱ながら、こちらも素晴らしい歌唱。歌手としての格はまったくちがいますが、例えて言うと「木綿のハンカチーフ」は太田裕美でなくちゃというくらいの説得力。美空ひばりが歌うと流石に絶品の上手さというのがオッターでしょう。なんだかめちゃくちゃな例えになっちゃいました。実はあんまりいいアルバムなので、先程からシングルモルトを少々。今日は先日ハイボール用に買ったスペイサイドのThe Glenlivet 12年。ちょっと効いてきましたね(笑)



ふとしたきっかけで手に入れたこのアルバム。素晴らしい出来です。歌曲が好きな人には絶対のおすすめ盤。ただし上に書いたように一聴するとさっぱりしたさりげない演奏に聞こえるかもしれません。歌曲をいろいろ聴いた違いのわかる方にすすめたいですね。評価は全曲[+++++]としました。この評価は視点がスコットランド民謡としてという明確な視点からのもの。演奏の質、歌の技術などの点からはまた異なる評価があるとは思いますが、心に響くという点では最近聴いたなかでもピカイチです。いいアルバムと出会いました。

テーマ : クラシック
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アンネ・ゾフィー・フォン・オッターの歌曲集

昨日までお盆特番としてミサ曲をとりあげて来ましたが、今日は涼しげな歌曲集。

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アンネ・ゾフィー・フォン・オッター(Anne Sofie von Otter)のメゾソプラノとメルヴィン・タン(Melvyn Tan)のフォルテピアノで、モーツァルトの歌曲9曲とハイドンの歌曲、カンツォネッタ8曲を収めたアルバム。収録は1994年4月、ストックホルムのMusikaliskaでのセッション録音。収録曲は下記のレビューをご覧ください。レーベルは名門ARCHIV。

いつものようにWikipediaなどから略歴を紹介しておきましょう。アンネ・ゾフィー・フォン・オッターは1955年、ストックホルム生まれのスウェーデン人のメゾソプラノ歌手。非常に多くのアルバムで歌っているので知らない方はいないのではないかと思います。ロンドンのギルドホール音楽演劇学校で学び、その後ロンドンでジェフリー・パーソンズ、ウィーンでエリック・ウェルバに師事。1982年にバーゼル歌劇場と契約、1983年にハイドンの歌劇「オルランド・パラディーノ」のアルチーナ役でオペラデビュー。1985年にコヴェント・ガーデン王立歌劇場、1988年にメトロポリタン歌劇場にケルビーノ役としてデビュー。1987年にはスカラ座にも出演。オペラや宗教曲ではモンテヴェルディ、ヘンデル、モーツァルト、リヒャルト・シュトラウスのなどがレパートリー、リサイタルではブラームス、グリーグ、ヴォルフ、マーラーのリートなどを良く取りあげているようです。

フォルテピアノのメルヴィン・タンはシンガポール生まれのピアニスト。フォルテピアノもモダンピアノも弾くようです。良く来日しているようですのでご存知の方も多いでしょう。

この二人の組み合わせによるハイドンの歌曲集。このアルバムはその存在を知らず、偶然ディスクユニオン店頭で出会ったもの。フォン・オッターといえばカルロス・クライバーの「薔薇の騎士」のDVDのオクタヴィアンが有名ですね。芯の強い歌声、凛々しい風貌が魅力の人。

Hob.XXVIb:2 / Cantata "Arianna a Naxos" [E flat] (c.1789)
名曲「ナクソスのアリアンナ」。歌曲は好きなので今までもいろいろな人のこの曲を取りあげていますが、過去取りあげたこの曲の中で最も好きな演奏かもしれません。今までの演奏はPC用のレイアウトの左ペインのユーザータグで「ナクソスのアリアンナ」をクリックすると以前のこの曲を取りあげたレビューがすべてご覧いただけます。曲の紹介も以前の記事をご参照ください。落ち着き払ったタンのフォルテピアノの伴奏に乗って、凛々しオッターのメゾソプラノが静かにメロディーを描いていきます。オペラティックというよりはリートの延長のような歌。

Hob.XXVIa:25 / 6 Original Canzonettas 1 No.1 "The Mermaid's Song" 「人魚の歌」 [C] (1794)
ハ長調の晴朗な伴奏に乗って芯のあるオッターの美しい声で歌われる短い歌。言葉を噛み砕きながら巧みに変化をつけた歌唱。非常に起伏に富んだ歌で、小品でも素晴らしい聴き応え。

Hob.XXVIa:27 / 6 Original Canzonettas 1 No.3 "A Pastoral Song" 「牧歌」 [A] (1794)
ハイドンの歌曲の真髄。非常に美しいメロディー。古典の均衡。やはりオッターの声は素晴らしい浸透力。波の歌手とは違いますね。カッチリとした表現、高音の伸び、ことばの積み重ねによる歌曲を極めた歌。

Hob.XXVIa:30 / 6 Original Canzonettas 1 No.6 "Fidelity" 「誠実」 [f] (1794)
嵐の訪れのような激しい曲調。速めのテンポによって荒々しさが強調されます。程よい起伏のなかで激しい表現を尽くします。終盤の速い音階と静寂の繰り返しは見事。

Hob.XXVIa:34 / 6 Original Canzonettas 2 No.4 "She never told her love" 「彼女は決して愛を語らなかった」 [A sharp] (1795)
一転してしっとりとした曲。知的な女性がふと見せる心情の吐露のような曲。そっと語りかけるような歌に酔いしれます。このアルバムの聴き所。

Hob.XXVIa:31 / 6 Original Canzonettas 2 No.1 "Sailor's Song" 「船乗りの歌」 [A] (1795)
メルヴィン・タンのリズミカルな伴奏から曲にエネルギーが満ちます。オッターの歌は素晴らしい声量。タンもオッターもあらん限りの力感で見事な掛け合い。突風が吹き抜けるような勢い。

Hob.XXVIa:36bis / "Der verdienstvolle Sylvius" 「?」 [ ] (1795)
最後の前の曲はまたしっとりとした曲。この曲は演奏が少なく他には手元にシュライアー/デムス盤しかありません。短い曲。

Hob.XXVIa:41 / "The Spirit's Song" 「精霊の歌」 [f] (c.1795)
最後は名曲「精霊の歌」。歌に魂が宿っているような渾身の歌唱。音量のコントロールやフレージングと言うレベルを越えた、歌曲の真髄にせまる表現。きらきら輝く水晶のようなきらめきもあり、深く沈む情感も宿る素晴らしい表現。圧倒的な出来。流石オッターというところでしょう。

やはり並の歌手とは異なるレベルの歌唱。オッターの歌曲は異次元の出来でした。手に入れるまでその存在すら知らなかったアルバムでしたが、素晴らしい内容に満足です。もちろん評価は全曲[+++++]、ハイドンの歌曲のアルバムとしてもすべての人にお勧めできる素晴らしいアルバムです。「ハイドン入門者向け」タグもつけます。

今月はいいアルバム目白押しですね。

テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽

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【新着】アンヌ・カンビエの歌曲集

先日銀座山野楽器で手に入れた歌曲のアルバム。

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アンヌ・カンビエ(Anne Cambier)のソプラノ、ヤン・フェルミューレン(Jan Vermeulen)のフォルテピアノによるハイドンの歌曲16曲とフォルテピアノのための変奏曲(Hob.XVII:5)、アダージョ(Hob.XVII:9)を収めたアルバム。収録は2009年5月17日~20日、ベルギーのブリュッセル東方の街、シント・トルイデンのアカデミーホールでのセッション録音。レーベルはベルギーのACCENT。最新のリリースです。

ソプラノのアンヌ・カンビエはベルギーのソプラノ歌手。ライナーノーツによれば、ベルギーとロンドンで学び、おもに古楽器オケとの共演が多いようです。AAMやラ・プティット・バンドなどに加え、今年は以前取りあげたギィ・ヴァン・ワース/レザグレマンとのツアーが予定されてるようです。以前は小沢征爾の指揮でヤナーチェクのイヌフェーエワでカロルカを歌うなどオペラでも活躍していた人。

Anne Cambier(英文)

フォルテピアノのフェルミューレンもベルギーの人。レパートリーはオールラウンドのようですが、古典派、ロマン派の作品をフォルテピアノで弾く活動をするなど、フォルテピアノにこだわりがあるようですね。室内楽アンサンブルにも数多く参加し、現在はベルギーのリューベンでピアノとフォルテピアノの教鞭をとっているとのこと。カンビエとはよくコンビを組んでいるようです。

今日はお休みなので、じっくり取りあげましょう。最初はドイツ語の歌曲が7曲続きます。

Hob.XXVIa:3 / 12 Lieder No.3 "Der erste Kuß" 「はじめての接吻」 [E flat] (1781)
歌曲のアルバムを最初に聴くときは、歌手の声に全神経が集中します。カンビエは中域のふくらみのある響きと高音への抜けが美しい声。艶っぽい声というよりは生成りの美しさのような自然さが持ち味。穏やかなメロディーと高音の美しい声を披露するアルバムの出だしにふさわしい曲。フォルテピアノは間をしっかりとったこちらも自然な演奏。2人ともハイドンの歌曲をじっくり自然に演奏することに集中しているようで、好きなタイプの演奏。流石ACCCENTの新譜、音楽が溢れてきます。

Hob.XXVIa:8 / 12 Lieder No.8 "An Thyrsis" 「テュルジスに」 [D] (1781)
一転してテンポの速い曲。なんでもない普通の演奏なんですが自然な佇まいがとてもよい演奏。テンポ感が良いのが自然さにつながっています。

Hob.XXVIa:45 / "Un tetto umil" 「掘立小屋」 ("Ein kleines Haus") [E] (1800)
ハイドン独特のほの暗い憂いを少しはらむシンプルな曲調の歌。この曲の聴き所は最後のカンビエの素晴らしい高音の伸びやかな歌。声量も素晴らしいので存在感十分。

Hob.XXVIa:11 / 12 Lieder No.11 "Liebeslied" 「恋の歌」 [D] (1781)
前半の聴かせどころ。この曲もシンプルな曲想、ちょっと憂いのあるメロディーとハイドンの歌曲の典型的なつくりですが、その曲ををたっぷり間をとってじっくり語りかけるように歌うことで、なんでもなにのにもの凄くしっとりした音楽になってます。

Hob.XXVIa:21 / 12 Lieder No.9 "Das Leben ist ein Traum" 「人生は夢だ」 [E flat] (1781)
優しい歌声により激しい感情の噴出。声の張りが強い訳ではないんですが、メリハリは十分に感じさせ、しかも破綻するようようなところはなく、自然な声を生かした表現の中で十分な感情の表現ですね。

Hob.XXVIa:39 / "Trachten will ich nicht auf Erden" 「この世で何も得ようとは思わない」 [E] (1790)
前前曲と同様落ち着いた曲調。コンサートのプログラムのように良く考えられた曲順。次から次へと曲が変化し、歌曲の楽しみを十分堪能できます。録音には触れませんでしがが、残響の多めの館の部屋で録られたような音響。音像は近くも遠くもなく、中央に自然に定位。フォルテピアノの木質系の雅な音色の美しさが際立つ自然な音響。癖のないいい録音です。流石ACCENTといったころでしょう。

Hob.XXVIa:17 / 12 Lieder No.5 "Geistliches Lied" 「宗教歌」 [g] (1781)
前半の最後の曲は短調。ここまでで最も歌に力が漲ります。カンビエの中域の美しい声の響きがとても印象的な歌いぶり。

Hob.XVII:5 / Tema con 6 variazioni "Faciles et agreables" 「やさしく快適」 [C] (1790)
歌曲の間におかれた変奏曲。有名なHob.XVII:6の一つ前の変奏曲。伴奏のフェルミューレンが腕前を披露といったところでしょう。作曲年代にしてはシンプルな構成で、Hob.XVII:6ほどの感情の噴出はなく、約1分の変奏が6つ集まった曲。第5変奏で弱音器をつけたような音色に変える部分、どのようにするのかは解りませんが、なかなか面白い展開。演奏の腕は確かですがフォルテピアノ曲として演奏者の個性を表現するような場ではないので、あえてさっぱりと弾いているように感じます。

つづいて中盤の5曲。1794年から95年にかけて作曲された英語によるカンツォネッタ集から。前半の曲よりも表現の幅が明らかに広がった曲調。

Hob.XXVIa:30 / 6 Original Canzonettas 1 No.6 "Fidelity" 「誠実」 [f] (1794)
最初は短調の曲。前の曲より時代が下ったせいで伴奏の表現もぐっと充実。カンビエの歌は速いパッセージでも安定感があり、しっとりした感じを保って味わい深い歌唱。

Hob.XXVIa:33 / 6 Original Canzonettas 2 No.3 "Sympathy" 「共感」 [E] (1795)
徐々に美しいメロディーの曲が増えて、テンションが上がってきます。美しいメロディーと沈み込む情感、転調の妙、フェルミューレンのフォルテピアノも徐々に表現に力が入ってくるのがわかります。

Hob.XXVIa:25 / 6 Original Canzonettas 1 No.1 "The Mermaid's Song" 「人魚の歌」 [C] (1794)
聴き慣れたメロディーに。冒頭からハイドンの健康的な名旋律の美しさが際立ちます。カンビエの自然な歌唱が曲調にあって、さりげなく深い歌。

Hob.XXVIa:26 / 6 Original Canzonettas 1 No.2 "Recollection" 「回想」 [F] (1794)
好きな曲。伴奏から完璧なリラックス。人の声で歌われる旋律の美しさの極致のような美しいメロディー。うっとりしてとろけそう。歌曲を聴く悦びに溢れた名曲ですね。

Hob.XXVIa:29 / 6 Original Canzonettas 1 No.5 "Pleasing Pain" 「愛の苦しみ」 [G] (1794)
中盤最後の曲。速いテンポ、激しい曲調の曲をカンビエの自然な声で少し和らげて歌います。

Hob.XVII:9 / Adagio [F] (before 1792)
ほぼ同時代に作曲された、フォルテピアノのためのアダージョ。私はブレンデルの輝くような音色と、深い情感の演奏を好んでいますが、フェルミューレンのフォルテピアノによるあっさりした演奏も悪くありません。夕暮れの陽の最後の輝きのような美しさとちょっと悲しい余韻持った曲。

最後は英語によるカンツォネッタ集から4曲。まるでリサイタルを聴いているような気持ちになる、よく考えられた選曲と曲順。歌手が一曲だで下がって休んで、また出てきたような印象。ライヴアルバムで全く同じ選曲でも成り立ちますね。

Hob.XXVIa:35 / 6 Original Canzonettas 2 No.5 "Piercing eyes" 「見抜く目」 [G] (1795)
短い曲。最後の一連の曲の最初の声ならしのよう。

Hob.XXVIa:27 / 6 Original Canzonettas 1 No.3 "A Pastoral Song" 「牧歌」 [A] (1794)
好きな曲。ハイドンの歌曲の傑作のひとつ。ハイドンらしい素朴で美しいメロディーの宝庫。

Hob.XXVIa:34 / 6 Original Canzonettas 2 No.4 "She never told her love" 「彼女は決して愛を語らなかった」 [A sharp] (1795)
この曲も好きな曲。ぐっと来る曲調。フォルテピアノの伴奏も曲の深い影をよく表現。語りかけるようなカンビエの歌ですが、この曲は非常に深い情感を表現。絶品です。

Hob.XXVIa:31 / 6 Original Canzonettas 2 No.1 "Sailor's Song" 「船乗りの歌」 [A] (1795)
まるでオペラの大団円のように最後に明るい曲をもってきます。カンビエの豊かな声量が部屋に響き渡ります。最後は珍しく音を上げた装飾音を加えて盛り上げます。最上のリサイタルを聴き終わったような充実感に包まれますね。

カンビエは自然な声が魅力。艶はほどほどながら、自然に喋るような歌い方がハイドンの歌曲にぴったり。超絶技巧も、華々しい声色でもないんですが、素朴な声と確実な技術が素晴らしい歌手。気に入りました。フェルミューレンのフォルテピアノは曲の表情をやわらかく適度なめりはりをつけて弾く、こちらも自然さが印象に残る演奏。歌曲の伴奏としてはベストに近いもの。このアルバム、ハイドンの歌曲の等身大の演奏として、味わい深い名演。曲順もプロダクトとしての完成度も素晴らしいアルバムでした。評価は歌曲は[+++++]、フォルテピアノのための曲は[++++]としました。歌曲のアルバムのファーストチョイスとしてもおすすめですので「ハイドン入門者向け」タグも進呈です。ACCENTの素晴らしいプロデュース。絶品です。

テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽

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ベルナルダ・フィンクの「ナクソスのアリアンナ」など

先週末、銀座山野楽器で見つけたアルバム。

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ソプラノがリサ・ミルン(Lisa Milne)、メゾソプラノがベルナルダ・フィンク(Bernarda FInk)、テノールがジョン・マーク・エインズリー(John Mark Ainsley)、ピアノ伴奏がロジャー・ヴィニョールズ(Roger Vignoles)によるハイドンの歌曲を集めたアルバム。録音は1999年11月2日、2001年5月7日の2回にわたるもの。ライヴではありません。レーベルはHyperionの廉価盤シリーズhelios。

収録されているのは「ナクソスのアリアンナ」とドイツ語歌曲2曲、英語の歌曲14曲。3人が交互に歌ってます。

ナクソスのアリアンナをはじめとして、最も美しい歌唱を聴かせるのがメゾソプラノのベルナルダ・フィンク。スロヴェニア人の夫婦の子としてアルゼンチンのブエノス・アイレスに生まれた人。地元のコンクールで優勝したのちヨーロッパに移り、各地のオケや歌劇場で活躍している人。
伴奏で見事なピアノを聴かせているロジャー・ヴィニョールズはイギリスのピアニスト。フィッシャー・ディースカウの伴奏で知られるジェラルド・ムーアに触発されて、大学を辞め、伴奏者の道に入った人。

収録曲の詳細はレビューとともに。

Hob.XXVIb:2 / Cantata "Arianna a Naxos" 「ナクソスのアリアンナ」 [E flat] (c.1789)(メゾソプラノ)
ゾクゾクするような間を生かしたピアノの伴奏。流石に伴奏を志した人。伴奏だけで昇天しそうな素晴らしい入り。メゾソプラノのフィンクは伸びのある美しい声。ピアノの美しい伴奏に乗って伸び伸びと歌います。歌だけみると美しい声ながら、この大曲の劇性を十分に表現するには、すこし几帳面な印象はありますが、ピアノの伴奏のの立体感に助けられて、構えの大きな曲を絶唱。この曲は本当にピアノが巧い。伴奏によって曲の真髄が詳らかにされた感じ。もちろんフィンクの歌も悪くありませんが、歌曲の伴奏一筋の人の生き様を聴くよう。こんな感じを抱いたのはイタリア人のブルーノ・カニーノ以来。

Hob.XXVIa:21 / 12 Lieder No.9 "Das Leben ist ein Traum" 「人生は夢だ」 [E flat] (1781)(メゾソプラノ)
Hob.XXVIa:18 / 12 Lieder No.6 "Auch die Sprödeste der Schönen" 「どんな取り澄ました美人でも」 [F] (1781)(メゾソプラノ)
2曲フィンクのメゾが続きます。ハイドン独特の晴朗な曲調の歌曲を落ち着き払ったヴィニョールズのピアノに乗って、フィンクが絶唱。

Hob.XXVIa:31 / 6 Original Canzonettas 2 No.1 "Sailor's Song" 「船乗りの歌」 [A] (1795)(テノール)
この曲以降、テノールとソプラノが交互に担当。録音の残響が豊かに変化。特にピアノの中音の残響が非常に豊かに変わります。テノールの録音のみ他の録音とは異なる響きですので、この録音だけが上記のどちらかの日に収録されたのだと想像してます。ジョン・マーク・エインズリーはキリッとしたキレのいい声。テンポよく、良く通る声でハイドンのメロディーをクッキリ浮かび上がらせます。

Hob.XXVIa:26 / 6 Original Canzonettas 1 No.2 "Recollection" 「回想」 [F] (1794)(ソプラノ)
ソプラノのリサ・ミルンは若干硬質感のある、こちらもキリッとした声が美しいソプラノ。コケティッシュな感じもあり、聴き映えのする声ですね。ここでもピアノのヴィニョールズの名伴奏が聴き所。十分にリラックスした曲調が素晴らしい感興を呼び寄せます。

Hob.XXVIa:32 / 6 Original Canzonettas 2 No.2 "The Wanderer" 「さすらい人」 [g] (1795)(テノール)
Hob.XXVIa:27 / 6 Original Canzonettas 1 No.3 "A Pastoral Song" 「牧歌」 [A] (1794)(ソプラノ)
Hob.XXVIa:35 / 6 Original Canzonettas 2 No.5 "Piercing eyes" 「見抜く目」 [G] (1795) (テノール)
Hob.XXVIa:28 / 6 Original Canzonettas 1 No.4 "Despair" 「絶望」 [E] (1794)(ソプラノ)
Hob.XXVIa:33 / 6 Original Canzonettas 2 No.3 "Sympathy" 「共感」 [E] (1795)(テノール)
Hob.XXVIa:29 / 6 Original Canzonettas 1 No.5 "Pleasing Pain" 「愛の苦しみ」 [G] (1794)(ソプラノ)
Hob.XXVIa:34 / 6 Original Canzonettas 2 No.4 "She never told her love" 「彼女は決して愛を語らなかった」 [A sharp] (1795)(テノール)
Hob.XXVIa:25 / 6 Original Canzonettas 1 No.1 "The Mermaid's Song" 「人魚の歌」 [C] (1794)(ソプラノ)
Hob.XXVIa:36 / 6 Original Canzonettas 2 No.6 "Content"(Transport of Pleasure) 「満ち足りた心」 [A] (1795)(テノール)
Hob.XXVIa:30 / 6 Original Canzonettas 1 No.6 "Fidelity" 「誠実」 [f] (1794)(ソプラノ)
ここまでの曲はテノールとソプラノが交互に熱唱。特に印象に残ったのはソプラノの「牧歌」、テノールの「彼女は消して愛を語らなかった」の2曲。いつもながら素晴らしい曲調。ハイドンの歌曲の代表作でしょう。

Hob.XXVIa:41 / "The Spirit's Song" 「精霊の歌」 [f] (c.1795) (メゾソプラノ)
再び、ベルナルタ・フィンクのメゾに戻ります。この曲は絶唱が多い名曲。いろいろな演奏を聴くたびにこの曲のもつ魂にふれるような曲想に打ちのめされます。ハイドン作曲当時の時代から魂がワープしてきそうなリアリティ。沈み込むピアノの伴奏と歌。ピークのコントロールは流石です。フィンクの絶唱が深く心に残ります。

Hob.XXVIa:42 / "O tuneful Voice" 「おお美しい声よ」 [E flat] (c.1795)(ソプラノ)
最後はソプラノの名曲。ピアノ入りだけで昇天寸前。冷静に歩みを進めます。伴奏の間に誘われてソプラノのリサ・ミルンがやはり絶唱。ピアノの高音の特徴的な和音がキーとなって曲調を印象づけます。歌曲を聴く悦びに満ちあふれた曲といっていいでしょう。

はっきり言って、このアルバムの聴き所はヴィニョールズのしっとりしたピアノ。歌も十分巧いんですが、歌だけだと最高評価とはできません。評価は思い切って全曲[+++++]としました。歌曲のよいアルバムということ以上にヴィニョールズの至芸を聴くべきアルバム。

このアルバムは私が立ち寄るタワーやHMVで見たことがありませんでしたが、本当は音楽を愛好するすべての人に聞いていただきたいアルバムです。歌曲の入門盤としてもおすすめな一枚ですので、皆さん、是非聞いてみてください。

テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽

tag : 歌曲 おすすめ盤 ナクソスのアリアンナ 英語カンツォネッタ集

ジェーン・エドワーズの歌曲集

今日は激マイナー盤。

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ジェーン・エドワーズ(Jane Edwards)のソプラノ、ジェフリー・ランカスター(Geoffrey Lancaster)のフォルテピアノによるハイドンの歌曲集。ドイツ語による12曲の歌曲集第1集、第2集とカンタータ「ナクソスのアリアンナ」の25曲を収めたアルバム。収録は1997年10月20日、21日、24日、25日、オーストラリアのシドニー、オーストラリア放送ウルティモ・センター、ユージン・ゴッセン・ホールでのセッション録音。レーベルはオーストラリア放送のDISCOVERYというレーベル。

ハイドンの歌曲集をオーストラリアの奏者で収録したアルバムというだけでも珍しいもの。しかもフォルテピアノの伴奏と言う本格派。

ジェーン・エドワーズはオーストラリアのソプラノ歌手。現在はシドニー音楽院の教職にあるそう。エドワーズを紹介したオーストラリアのピアノメーカーのサイトがありますの紹介しておきましょう。

Jane Edwards Bio' - Overs Pianos(英文)

久しぶりの歌曲のアルバム故、収録順ではなく目玉の「ナクソスのアリアンナ」から取りあげましょう。曲の解説は以前の記事で取りあげましたのでそちらをご参照ください。

2010/08/08 : ハイドン–声楽曲 : アンナ・ボニタティバスのオペラアリア集(つづき)

カンタータ「ナクソスのアリアンナ」(Hob.XXVIb:2)1789年頃作曲
非常にゆったりと抑えながらもドラマティックに始まるランカスターのフォルテピアノ。中域重視の柔らかな音色のフォルテピアノによるなかなかの語り口。エドワーズの声はわかわかしく張りのあるソプラノ。透明感もあり声質はいいですね。ヴォリュームを大きくするとなかなかの迫力。ランカスターのフォルテピアノの落ち着き払った語り口が演奏のペースを支配していますね。この曲は構えが大きくていい演奏。4曲構成のこの曲。3曲目に感情が爆発する場面の吹っ切れ具合もなかなかのもの。エドワーズも髪を振り乱さんばかりの熱演。ランカスターのフォルテピアノも迫力のサポート。終曲はほのかな光がさすような回想的な明るさからはじまり、徐々に力感を増し最後は本当にぶっちぎるように振り切れて終了。声の美しさを最初は感じたんですが最後は力んでしまったような力の入り方。ライヴであればなかなかの迫力ですが、アルバムとして聴くともうすこし歌曲の美しさを感じさせてもいいのではと思う余地がありました。歌も伴奏も非常にデリケートなニュアンスが求められますね。

ドイツ語による12曲の歌曲集第1集、第2集(Hob.XXVIa:1~24)1781年作曲
先に聴いたナクソスのアリアンナと同様のトーンで進めます。こちらの曲集とナクソスのアリアンナではフォルテピアノが別物のような演奏。前曲ではとぼとぼと語りかけるような演奏でしたが、こちらでは割と几帳面に変化の幅も小さくなった、ある意味ごく普通の演奏。伴奏が主導権をとるようなそぶりは見せません。1曲1曲語りかけるような歌を楽しめますが、逆にナクソスのアリアンナよりも平凡な印象もあります。歌の表情の豊かさ、フォルテピアノとの相性などにおいて、ちょっと全曲と差がある印象をもっています。ここでは1曲づつ取り上げないことといたします。

評価は「ナクソスのアリアンナ」が[++++]、その他の曲は[+++]としました。オーストラリアの歌手によるハイドンの歌曲集という珍しさに背中を押されて手に入れたアルバムですが、そういう意味ではよく録れているアルバムと言うことができるでしょう。

なかなか狙っても素晴らしい盤にたどり着かないものですね。明日は新橋演舞場に歌舞伎見物です。

テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽

tag : 歌曲 古楽器 ナクソスのアリアンナ

プロフィール

Daisy


Author:Daisy

なぜかハイドン(Franz Joseph Haydn)が特に気に入り膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。東京在住のごく普通のサラリーマンです。

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2017年7月のデータ(2017年7月31日)
登録曲数:1,361曲 登録演奏数:10,291
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