ウィリアム・バーガーのオペラアリア集(ハイドン)

声ものが続きます。オペラの賑わいと楽しさが詰まったナイス・プロダクション!

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ウィリアム・バーガー(William Berger)のバリトン、ニコラス・マギーガン(Nicholas McGegan)指揮スコットランド室内管弦楽団(Scottish Chamber Orchestra)の演奏で、ハイドン、モーツァルト、チマローザのオペラから抜き出したアリアなど16曲を収めたSACD。収録は2012年7月23日から27日にかけて、エジンバラのアッシャーホール(Usher Hall)でのセッション録音。レーベルはLINN。

アルバムタイトルは"HOMMAGE À TROIS"。英語にすると”Tribute to three”。アルバムの内容を踏まえると「3人の偉大な作曲家への賛辞」とでも訳すのでしょうか。そう思ってライナーノーツの英文解説をパラパラと眺めてみると、「ハイドンへの賛辞」、「モーツァルトへの賛辞」、「チマローザへの賛辞」という記述があり、まさにタイトル通りであり、収められている曲もこの古典期の偉大な3人の作曲家による素晴らしいオペラのアリアばかりです。

このアルバムのメインのアーティストはバリトンのウィリアム・バーガー。わたしは初めて聴く人です。南アフリカ生まれで、ロンドンの王立音楽アカデミーで学び、多くのコンクールで表彰されて頭角を表し、現在は世界のオペラハウスで活躍している人。録音の方はヘンデル、モンテヴェルディなどの古楽が多いようです。

指揮のニコラス・マギーガンはハイドン好きな方にはおなじみでしょう。指揮ばかりではなく、フォルテピアノやフラウトトラヴェルソまで嗜む多芸な人。

2016/01/26 : ハイドン–室内楽曲 : ガメリート・コンソートのピアノ三重奏曲など(ハイドン)
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マギーガンの交響曲集の第1弾の2008年録音のロンドンなどのアルバムはちょっと硬さがありましたが、2014年録音の第2弾は自在さの際立つ素晴らしい出来。そもそも1982年録音のマギーガンがメンバーであったガメリート・コンソートでの演奏も自在さが印象的な録音でした。

そして、今日取り上げるアルバムは、マギーガンの自在なフレージングオペラの一場面がイキイキと描かれる見事な演奏が詰まった素晴らしいアルバムです。いつものようにハイドンの曲のみ取り上げますが、モーツァルトはフィガロの結婚、ドン・ジョヴァンニ、コジ・ファン・トゥッテ、魔笛からのバリトンの傑作アリアが目白押しです。

ハイドンのオペラは歌詞の日本語対訳が手元にない曲も多いですが、ライナーノーツの英語訳の歌詞を見ながら想像力を駆使してアリアを味わいます(笑) アリアのタイトルもGoogle翻訳などを駆使して訳してみましたが、正しいかどうかはわかりませんことご容赦を(笑)

Hob.XXVIII:9 "L'isola disabitata" 「無人島」 (1779)
第1幕、エンリコ(Enrico)のアリア"Chi nel cammin d'onore"「名誉を得ようとする者」
アルバム冒頭に置かれたハイドンの作品。LINNレーベルのSACDということでオーディオ的に録音も秀逸ですが、曲調を考えるともう少し残響を取り込んでオペラハウスでのライヴのような雰囲気が感じられるとさらによかったかもしれません。ハイドンらしいイキイキとした晴朗な伴奏が痛快。オケの豊かな表情は流石マギーガン。ウィリアム・バーガーのバリトンはかなり高い音域まで伸び伸びとして、コミカルな表情もうまくこなしてます。明るい曲調からの転調の場面の面白さを含む挨拶がわりの1曲。

続いてフィガロの結婚から第3幕アルマヴィーヴァ伯爵とスザンナのデュエット「ひどいやつだ」、その続きのアルマヴィーヴァ伯爵のレチタティーヴヴォ「もうお前の勝ちだと言ったな」の2曲を挟んで、再びハイドン。

Hob.XXVIII:13 "L'anima del filosofo, ossia Orfeo ed Euridice" 「哲学者の魂、またはオルフェオとエウリディーチェ」 (1791)
第1幕、クレオンテ(Creonte)のアリア"Il pensier sta negli oggetti"「我々の考えは我々の愛情の対象に関するもの」
今度はゆったりとした癒しに満ちた序奏に乗って優しげなバリトンによる癒しに満ちた歌唱。モーツァルトほどのメロディーのわかりやすさはないものの、実に慈しみ深い雰囲気に包まれるハイドンの熟達の技。場面の雰囲気を描く描写力の素晴らしさ。バリトンのしっとりとした歌を際立たせる控えめなオーケストレーションが素晴らしいですね。マギーガンもそれを察してゆったりとした場面に徹する見事なコントロール。

Hob.XXVIII:12 "Armida" 「アルミーダ」 (1783)
第2幕、イドレーノ(Idreno)のアリア"Teco lo guida al campo"「彼を陣営に連れて行くがいい」
まさに戦いに連れ出されんばかり人を勇気付ける音楽。ここでも転調をうまく使って心理描写をしているよう。高らかに響き渡る柔らかなバリトンが印象的。行進曲風の触りの部分が戦場を想起させ、すぐに心細さを交錯させ、最後は勇敢さを表すような堂々としたバリトンの歌唱で終わる、またまた見事な構成。いつもながら構成の面白さはハイドンならでは。通好みのポイントです。

Hob.XXVIII:11 "Orlando Paladino" 「騎士オルランド」 (before1782)
第2幕、エウリッラ(Eurilla)とパスクァーレ(Paswuale)のデュエット"Quel tuo visetto amabile"「あなたの愛らしい表情」
このアルバムに何曲か仕込まれたソプラノとのデュエット。ソプラノはキャロリン・サンプソン(Carolyn Sampson)。今度は可憐な曲。天地創造のアダムとエヴァのデュエットを想起させるソプラノとのデュエット。これまでの曲はどの曲もアリアの途中で転調を実に巧みに使って心理描写を行なっていますが、この曲でもバッチリ決まります。途中のコミカルな掛け合いはモーツァルトばり。実に楽しいデュエット。

そのあと聴き慣れたモーツァルトの「ドン・ジョヴァンニ」から第1幕レポレッロのアリア「みんなで楽しくお酒を飲んで」、第2幕ドン・ジョヴァンニのカンツォネッタ「おいで窓辺に可愛い娘」と続きます。情景描写の鮮明度は流石モーツァルトですが、メロディー任せのモーツァルトに、音楽の構成をフルに利用するハイドンと音楽の作りの違いを浮かび上がらせます。

Hob.XXVIII:8 "La vera costanza" 「変わらぬまこと」 (before 1779)
第2幕、ヴィロット(Villotto)のアリア"Gia la morte in mante nero"「黒いマントを纏って息絶えて」
またまた癒しに満ちた音楽に包まれます。柔らかなオーケストラの響きに漂うように優しさに満ちたバリトンが重なります。メロディーの美しさとオーケストレイションの巧みさに圧倒されるアリア。マギーガンの自在なフレージングで変化に満ちた曲の面白さが際立ちます。

第1幕、ヴィロット(Villotto)のアリア"Non sparate... mi disdico..."「撃たないで、、、諦めるから」
タイトルからいだくイメージとはちょっと異なる明るい曲。おそらくコミカルさをベースにした場面なんでしょう。千変万化する伴奏の面白さに釘付けです。リズムの変化と表情の変化の巧みさが際立ちます。ハイドンの曲はここまで。

この後コジ・ファン・トゥッテから「彼の苦しみを見て下さい」、魔笛から「恋を知るほどの殿方には」と「パパゲーノ」の2曲が続きますが、特に「パッ、パッ、パッ」から始まるパパゲーノのアリアは名曲ですね。昔よく聴いたショルティ盤のヘルマン・プライを思いだします。だんだん楽しさが増してきました!

そして最後に置かれたのはチマローザの「宮廷楽士長」という登場人物が宮廷楽士長1人の短いオペラから、シンフォニア、"Se mi danno il permesso"「もし、あなたが許してくれたら」 、”Ci sposeremo fra suoni e canti”「私たちは音と歌にかこまれて結婚します」。これが実にコミカルで面白い音楽。ちょっと調べたところ下記のサイトに解説がありました。

高砲おやじの気ままなブログ:チマローザ 「宮廷楽士長」

ハイドンは1890年代にエステルハーザでチマローザのオペラを13曲演奏した記録があるそうで、チマローザの音楽がハイドンの作曲にも影響を与えたものと思います。この砕けた音楽の面白さをマギーガンとバーガーが見事に表現。この曲をアルバムの終わりに持ってきた意図も伝わりました。

ウィリアム・バーガーとニコラス・マギーガンによるハイドン、モーツァルト、チマローザの3人の作曲家の作品を集めたアルバムでしたが、この楽しさは聴いていただかないと伝わらないでしょう。音楽の楽しさが詰まった好企画です。オペラが好きな人は必聴のアルバムでしょう。ハイドンのアリアは全曲[+++++]とします。



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アントニオ・ヤニグロ/ウィーン祝祭管の哲学者、ラメンタチオーネ(ハイドン)

ちょっと間が空いてしまいました。最近手に入れたLP。

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アントニオ・ヤニグロ(Antonio Janigro)指揮のウィーン祝祭管弦楽団(Orchestra of the Vienna Festival)の演奏で、ハイドンの交響曲22番「哲学者」、歌劇「騎士オルランド」序曲、交響曲26番「ラメンタチオーネ」、歌劇「無人島」序曲の4曲を収めたLP。収録に関する情報はレーベル面にヨーロッパで1965年に録音されたとだけ記載されています。レーベルはVANGUARD。

アントニオ・ヤニグロのアルバムは何度か取り上げています。

2013/07/18 : ハイドン–協奏曲 : ヘルムート・ウォビッシュ/アントニオ・ヤニグロのトランペット協奏曲
2012/04/26 : ハイドン–交響曲 : アントニオ・ヤニグロ/ラジオ・ザグレブ交響楽団の「受難」
2012/04/24 : ハイドン–交響曲 : アントニオ・ヤニグロ/ラジオ・ザグレブ交響楽団の「悲しみ」

ラジオ・ザグレブ交響楽団との2枚組のCDが有名で、交響曲の録音はそのアルバムに含まれる6曲のみかと思っておりましたが、さにあらず。好きな「哲学者」と「ラメンタチオーネ」が含まれるこのLPを見つけた時はちょっと過呼吸になりました(笑)。このLP、モノラル盤ですが、ステレオ盤もあるということで、そちらも見かけたらゲット予定です。

ヤニグロについては「悲しみ」の記事をご覧ください。

入手したLPはジャケットも盤面も見事なコンディション。いつものようにVPIのクリーナーと必殺美顔ブラシで綺麗にクリーニングして針を落とします。

Hob.I:22 Symphony No.22 "Philosopher" 「哲学者」 [E flat] (1764)
1楽章のアダージョは独特のリズムが整然と刻まれながら入ります。多少古びた響きの印象はありますが、淡々としながら実に彫りの深い見事な演奏にのっけからぐっときます。特に単調なリズムに乗って奏でられるヴァイオリンの透明感溢れる美しい響きやホルンの柔らかな響きが印象的。聴いているうちにこの曲の不思議な雰囲気にのまれます。
続く2楽章がアレグロで、ギアを2段上げて、颯爽とした演奏に切り替わります。1楽章で響きの美しさを聴かせたヴァイオリンが、今度は松脂が飛び散らんばかりのボウイングできりりと引き締まって音階を刻みます。素晴らしい推進力に圧倒されます。メヌエットも覇気溢れる堂々としたもの。弦楽器の見事に揃ったボウイングで分厚い響きが素晴らしい迫力を感じさせます。そしてフィナーレでもその弦の迫力が聴きどころ。ホルンや木管も見事に揃って素晴らしい一体感。湧き上がるような見事なクライマックスで締めます。

Hob.XXVIII:11 "Orlando Paladino" 「騎士オルランド」 (before1782)
3分少々の短い序曲。短い曲にも関わらずオペラの幕が開ける前のざわめきを伝えるハイドンの見事な構成に唸ります。前曲同様ウィーン祝祭管の弦楽陣の優秀さを感じさせる精緻なアンサンブル。

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LPをひっくり返してB面です。

Hob.I:26 Symphony No.26 "Lamentatione" 「ラメンタチオーネ」 [d] (before 1770)
シュトルム・ウント・ドラング期独特の仄暗い1楽章の入り。彫り深くタイトな響きは哲学者同様。メロディーラインが明確な曲なんですが、ヤニグロのコントロールで聴くと内声部が豊かに響きます。速めのテンポで颯爽とした展開。
聴きどころの2楽章のアダージョは幽玄さを感じさせるような味わい深いもの。淡々としながらも実に丁寧にメロディーを紡いでいき、古風な雰囲気と陰りのある音色が絶妙な響きを作り、心を震えさせます。これは見事。ハイドンがこの曲を書いた時代にタイムスリップします。時折り印象的なアクセントを打ち込みます。
フィナーレまでオケの燻んだ音色の魅力は続きます。ただ古風な演奏というのではなく、ヤニグロが絶妙な味わい深さを加えています。これまた見事に曲を閉めました。

Hob.XXVIII:9 "L'isola disabitata" 「無人島」 (1779)
最後の曲。こちらは7分少々の曲でオルランド序曲よりも展開の面白さが味わえます。序奏に続いて湧き上がるような主題に入り、続いて物語りの展開を暗示させる典雅な音楽。そして再びタイトな主題で締める完璧な構成。ヤニグロ流の彫りが深く起承転結が明快なコントロールでこの緊密な序曲をキリリと仕上げました。

イタリアの名匠アントニオ・ヤニグロによる、あまり知られていなかった「哲学者」、「ラメンタチオーネ」他序曲2曲を収めたLPでしたが、有名なラジオ・ザグレブ交響楽団との交響曲集に劣らず素晴らしいものでした。自身がチェリストであるためか、弦楽器の扱いが秀逸で、響きを巧みにコントロールして分厚さとキレを両立させた見事な響きを作り上げていました。少々古風な印象もありますが、この哲学者とラメンタチオーネという曲にはそれが味わい深さとして見事にマッチしています。評価は全曲[+++++]とします。

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tag : 哲学者 ラメンタチオーネ 騎士オルランド 無人島

【新着】イル・ジャルディーノ・アルモニコの交響曲全集第3巻(ハイドン)

いよいよ第3巻まで来ました。

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ジョヴァンニ・アントニーニ(Giovanni Antonini)指揮のイル・ジャルディーノ・アルモニコの演奏で、ハイドンの交響曲42番、「無人島」序曲、交響曲64番「時の移ろい」、コンサートアリア「ひとり物思いに沈み」(Hob.XXIVb:20)、交響曲4番の5曲を収めたアルバム。収録は2015年11月18日から22日にかけて、ベルリンのテルデックス・スタジオでのセッション録音。レーベルはouthere MUSICグループのALPHA-CLASSICS。

このアルバムはご存知の通り、ジョヴァンニ・アントニーニ率いるイル・ジャルディーノ・アルモニコによるハイドン交響曲全集の第3弾。このシリーズについては、膨大なハイドンの交響曲全集への挑戦ということで前2作もレビューに取り上げています。

2015/06/08 : ハイドン–交響曲 : 【新着】イル・ジャルディーノ・アルモニコの交響曲全集第2巻(ハイドン)
2014/11/08 : ハイドン–交響曲 : 【新着】イル・ジャルディーノ・アルモニコの交響曲全集第1巻(ハイドン)

シリーズの企画についてや、演奏者については第1巻の記事をご参照ください。このシリーズ、いつも丁寧な日本語解説をつけて販売しているマーキュリーから国内盤がリリースされていて、いつもはそちらを手に入れるのですが、今回のアルバムはamazonで見かけてポチった際、あまり考えずに注文したため、輸入盤の方を入手してしまいました。

このシリーズ、ジャケットやアルバムの造りは非常に手が込んでいて、レーベルのこのシリーズにかける意欲が伝わって来ます。膨大なハイドンの交響曲全曲をハイドンの生誕300年のアニヴァーサリーイヤーである2032年までかけてリリースするという壮大な計画ゆえ、商業的に成り立つには演奏の出来が非常に重要です。レビューに書いた通り、第1巻はアントニーニの躍動感と全集を見据えた冷静さのバランスのとれた名演奏でしたが、第2巻はちょっと力みが感じられ、今後に不安を残しました。そしてこの第3巻ということで、今後を占う重要なリリースとなるわけです。

ということで期待の第3巻を聴いてみましょう。

Hob.I:42 Symphony No.42 [D] (1771)
シュトルム・ウント・ドラング期の交響曲。冒頭から俊敏な古楽器オケが躍動しますが、力む感じはなく、オケが一番キレた音を聴かせる範囲での演奏。やはり全集を見据えての落ち着きのようなものが感じられます。もちろんアントニーニらしいうねるような躍動感は健在ですので、いいバランス。古楽器らしいタイトな響きと凝縮したエネルギーを保った良い演奏。全集としては理想的な演奏に聴こえます。
1楽章のエネルギーを癒すように、極めて自然な2楽章の入り。このあたりの絶妙なセンスは流石です。聴きなれた2楽章のメロディーがすっと耳に入って来ます。作為を避けた虚心坦懐な演奏。仄暗いこの時期のハイドンの音楽の魅力が滲み出します。静寂に吸い込まれるような弱音のコントロールが見事。
メヌエットは鮮やかな弦楽器のキレが聴きどころ。ここでも弱音をしっかり抑えることで音楽にくっきりと陰影がつきます。アントニーニのコントロールが行き渡った素晴らしい精度。
間をおかずフィナーレに入りますが、このあたりの曲間のセンスは前記通り素晴らしいものがあります。ざわめくような絶妙の感覚。聴く方も聴覚を研ぎ澄ませて構えます。いつもながらフィナーレに仕込んだハイドンのアイデアのキレの良さを確認しながら聴きます。ブレーズごとに千変万化する音楽をアントニーニが完璧に汲み取り、アイデアのおもちゃ箱のように仕上げて来ます。第3巻の最初の曲はこれまで最高の出来と言っていいでしょう。

Hob.XXVIII:9 "L'isola disabitata" 「無人島」 (1779)
オペラの序曲を挟んで来ました。シュトルム・ウント・ドラング期の少し後の曲。序奏はぐっとテンポを落として深く沈みますが、主題に入るとエネルギー爆発。ここでも力みはなく、吹っ切れた開放感に満ちた演奏。ほんのわずかの違いですがこれが大きいんですね。この曲はアントニーニのいいところが非常によく出ています。次々に襲い来る打撃を見事にオケをコントロールしてエネルギーの波としてこなします。やはり抑えた部分をしっかりコントロール出来ているからこそのこの躍動感でしょう。見事。

Hob.I:64 Symphony No.64 "Tempora mutantur" 「時の移ろい」 [A] (before 1778)
この曲は告別同様シュトルム・ウント・ドラング期最盛期の作曲と分類されています。アントニーニはこの巻では非常に落ち着いていて、クライマックス以外の部分ではかなり冷静に音楽を制御しています。この曲の1楽章でも、時折キレの良いアクセントでアントニーニらしさを主張しますが、使いどころが適切なのでゴリ押し感は皆無。第3巻になってハイドンの音楽の真髄に近づいたのでしょう。さりげない部分の表現も非常に上手く、これまでの古楽器の演奏ではもっとも自然な表情豊かさを感じます。古楽器による演奏での決定盤を感じさせるオーラに包まれています。
42番同様、静寂からすっと入る絶妙な2楽章の入り。この楽章はアントニーニの抑えた表現が冴え渡って素晴らしい展開。静寂の中にそっと流れる厳かな音楽。そしてこの曲がこれほどまでに聴きごたえがあったのかと再認識。
メヌエットは鮮やかなキレの良さで聴かせるのは変わらず。しかも軽さを伴った見事なキレ。古楽器ならでは妙技と唸ります。
そしてフィナーレも穏やかな表情から湧き上がるエネルギーのスロットルコントロールが見事。途中からスイッチが入り、アントニーニ特有の炸裂感を楽しみます。ハイドンの交響曲の面白さが詰まった名演奏と言っていいでしょう。ここまでべた褒めですが、いいものはいいんですね。

Hob.XXIVb:20 Aria da "Il canzoniere" di Francesco Petrarca "Solo e Pensoso" 「ひとり物思いに沈み」 [E flat] (1798)
1798年と少し年代が降ったコンサート用アリアを挟んで来ました。ソプラノはフランチェスカ・アスプロモンテ(Francesca Aspromonte)という人。1991年生まれの若手。ザルツブルクのモーツァルテウム、ローマのセチェチーリア国立アカデミーのレナータ・スコットオペラスタジオなどで学んだ人。非常に透明感のある軽やかな歌声が素晴らしい人ですね。
しっとりとしながらも劇的な伴奏に乗って、透き通るような美声が轟きます。以前聴いた中ではヌリア・リアルに似た声質ですね。古楽器に合う声でしょう。アントニーニはこのアリアでも抑制が効いたコントロールでオケを制御。途中からオケにぐっと力が漲り、アントニーニの面目躍如。アスプロモンテも難しい高音の聴かせどころを難なくこなして実力のほどを見せつけます。交響曲の合間に歌曲が置かれるのも粋な選曲。

Hob.I:4 Symphony No.4 [D] (before 1762)
最後は初期の交響曲。冒頭からはち切れんばかりのエネルギー。この曲をアルバムの最後に持って来た理由がわかります。初期の小交響曲ですが、迫力満点。そしてアントニーニの振るこのオケのテンションの高さがもっともよく伝わる演奏。アクセントとメロディーの流れのバランスが良く、力みは感じません。ファイの演奏も似たキレキレの演奏ながら、ファイがフレーズ毎に創意を凝らして、即興的面白さを聴かせるの似たしアントニーニは周到に演奏プランを練ったキレという感じ。キレそのものを聴かせるアーノンクールとも異なる音楽的完成度を感じます。この1楽章はキレまくってますね。
極度に音量を落としたアンダンテが1楽章の鮮やかさを引き立てます。日向から暗い室内に入り、暗闇の中の微妙な濃淡に目が慣れて来てうっすらとフォルムを見通せた時のよう。ハイドンは創作の初期からこれほどの深い音楽を書いていたことに改めて驚きます。そして、この絶妙のコントラストでハイドンの意図を見抜いたアントニーニの才能にも驚きます。
この曲は3楽章構成で終楽章がメヌエット。曲は比較的シンプルなんですが、アントニーニの棒によって鮮烈なメヌエットが流れ、シンプルな曲のシンプルさに深い陰影がついて見事なフォルムに仕上がりました。最後は各パートのアクセントがせめぎあう饗宴のごとき音楽が痛快。最後の1フレーズの厳しいアクセントがアントニーニらしい余韻を残します。

ジョヴァンニ・アントニーニ率いるイル・ジャルディーノ・アルモニコによるハイドンの交響曲全集の第3巻はこれまでで一番キレた素晴らしい演奏でした。アントニーニも第2巻で聴かれたちょっと空回りするような力みから抜け出し、抑えた部分をしっかり抑えて各曲にくっきりとコントラストをつけて来ました。ホグウッドに欠けていたエネルギーがあり、ピノックよりもクッキリとアクセントをつけ、ブリュッヘンよりもムラがなく、クイケンよりも踏み込んだ、古楽器による決定盤を予感させる素晴らしい出来でした。これは続くリリースが楽しみです。評価は全曲[+++++]とします。

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プロフィール

Daisy


Author:Daisy

なぜかハイドン(Franz Joseph Haydn)が特に気に入り膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。東京在住のごく普通のサラリーマンです。

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ハイドン所有盤リスト
Joseph Haydn Discography at H. R. A.
所有盤をジャンル別にリスト化しています。基本的に録音年順とし、録音年不明のものは末尾に記載。演奏者名はジャケットなどの表記に合わせています。

2017年7月のデータ(2017年7月31日)
登録曲数:1,361曲 登録演奏数:10,291
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