ハイドンの時代の響き パウル・バドゥラ=スコダのフォルテピアノ作品集

今日は今まで取りあげていなかった著名演奏家のアルバム。

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パウル・バドゥラ=スコダ(Paul Badura-Skoda)のフォルテピアノによる、ハイドンのピアノソナタ(Hob.XVI:46)、アンダンテと変奏曲(XVII:6)、ピアノソナタ(XVI:20)、「神よ皇帝フランツを護りたまえ」変奏曲(III:77)、アダージョ(XVII:9)の5曲を収めたアルバム。収録は2008年10月18日から19日、オーストリアのリンツの南にある街クレムスミュンスター(Kremsmünster)のクレマグ城楽器博物館でのセッション録音。レーベルは仏ARCANA。

楽器博物館での録音というのもこのアルバムに使われている楽器自体がポイントになります。ライナーノーツを開くとハイドン自身の言葉が紹介されています。

「シャンツこそ最も優れたフォルテピアノ工房である」

ここに書かれたシャンツとはこの録音に使われているウィーンのヨハン・シャンツ(Johann Schantz)のことで、録音にはシャンツの1790年頃製作のオリジナル楽器が使われているとのことです。

ハイドンのピアノソナタの演奏にはクラヴィコードやスクエアピアノ、ハープシコード、フォルテピアノなど様々な古楽器による演奏があり、楽器の音色によって醸し出される表情は大きく変わります。はたしてハイドンの好んだ響きが浮かび上がるのでしょうか。

演奏者のパウル・バドゥラ=スコダは1927年ウィーンに生まれたピアニスト、音楽学者。彼とイェルク・デームス、フリードリヒ・グルダの3人を称して「ウィーン三羽烏」と呼ぶそう。ウィーン音楽院で学び、1947年にオーストリア音楽コンクールに優勝して頭角を現しました。それをきっかけにエトヴィン・フィッシャーに師事することととなります。その後、1949年にフルトヴェングラー、カラヤンなど当時の一線級のの指揮者と共演を重ね、国際的な活躍をするようになり、1950年代には来日もしているとのこと。レパートリーはもちろんウィーン古典派が中心となりますが、とりわけモーツァルト、ベートーヴェン、シューベルトを得意としているようですね。1976年にはオーストリア政府よりオーストリア科学芸術功労賞を授与されています。

これまでもバドゥラ=スコダのハイドンは何枚か持っていて聴いてはいるのですが、わかりやすいキャラクターというものが感じられず、実に堅実かつ地味に弾く人との認識です。フォルテピアノは奏者によっても響きが千変万化し、シュタイアーの自在さ、ブラウティハムのダイナミックさ、ピノックの緊張感ある規律など人それぞれ。バドゥラ=スコダの音楽の根底にあるのは、時代への誠実さでしょうか。

Hob.XVI:46 / Piano Sonata No.31 [A flat] (1767/70)
比較的近めに定位するフォルテピアノ。残響はどちらかというと少なめで、狭い部屋で間近で聴いているようなリアルな音像。楽器のせいか演奏のせいか、低音は あまり鳴らずに中高音の鮮明な響きが印象的なものです。リズミカルに躍動するメロディーが特徴のこの曲の入りですが、バドゥラ=スコダは虚心坦懐な表現。淡々と楽譜をこなしさらさらと弾いていく感じ。アクセントをつけようとかフレーズを上手く聴かせよう等ということは一切考えずに、ただただ、淡々と弾いて いく感じ。速い音階もちょっとごつごつとして引っかかりもあります。曲のデュナーミクの波も意図してコントロールする感じではなく、自然に任せるようで す。まるでハイドンが練習でもしているようです。そう、演奏家の演奏というよりは作曲家が音符を確かめているような演奏。聴いているうちに自然な佇まいに慣れていきます。
アダージョも変わらず淡々としていますが、曲想がマッチして枯淡の境地。途中楽器の音色を何度か変えて表現の幅を広げますが、基本的に淡々と弾いているので、解脱した人の演奏のよう。独特の味わいがありますが、聴いている人に合わせた表現ではなく、自らが慈しむために弾いているよ う。聴いているうちに、バドゥラ=スコダの意図がなんとなくわかってきました。
フィナーレも同様。ピアノでは素晴らしい聴き映えのする曲ですが、フォルテピアノの限られたダイナミクスのなかでの表現で、しかもさらさらと弾流すような独特の演奏で、この曲の違った一面を感じるよう。

Hob.XVII:6 / Andante con Variazioni op.83 [f] (1793)
次は大曲XVII:6。名曲ゆえ録音も多く、ハイドンの時代からベートーヴェンへの橋渡しのような位置づけの曲。冒頭の短調の入りから、前曲よりかなり繊細なタッチで音色をコントロールしていきます。フレージングの根底には前曲同様さらりとしたものがありますが、明らかに表現が丁寧になります。ダイナミクス の変化はあまりつけずに淡々と行きますが、音色の変化でかなりはっきりとしたメリハリがついて、なかなか聴き応えがあります。この楽器、高域の音がツィンバロンのような音色で、高域の音階がクッキリと浮かび上がります。最後は抑えた部分と楽器の音色の変化を織り交ぜて大曲のスケール感をしっかりつけに行 き、ダイナミックさも聴かせてから、さっと汐が引くように終わります。

Hob.XVI:20 / Piano Sonata No.33 [c] (1771)
名曲つづきでXVI:20。ピアノで聴き慣れた曲ですのでちょっとフォルテピアノの演奏は不利でしょうか。ちょっとテンポが重い部分が引っかかりますが、この曲独特のきらめくようなメロディーラインはうまく表現されています。この曲は年老いたハイドンが昔を慈しみながら自ら弾いているような風情。指がまわっていない感もちょっとありますが、音楽的にはなんとなく味わい深い方向に作用していて、それほど悪くありません。時折バドゥラ=スコダの息づかいやうなり声のようなものがうっすら聴こえます。
2楽章のアンダンテは意外となめらかなタッチでフォルテピアノならではの美しさを表現。速めのテンポでさらさらいくところはバドゥラ=スコダならでは。ちょっとハイドン時代にトリップした気分にさせられます。メロディが最高域を奏でる部分では楽器の限界も聴かせますが、それもハイドンの時代の楽器ならではのことでしょう。
フィナーレはザラザラと弾き進めていくいつものバドゥラ=スコダスタイル。この拘りなく音符をどんどん弾いていくスタイルが定番ですね。最後の一音もさっと響きを止めてしまうあたりが面白いです。

Hob.III:77 / String Quartet Op.76 No.3 "Kaiserquartett" 「皇帝」 [C] (1797)
このアルバム、選曲は本当に名曲揃い。現ドイツ国歌として有名なメロディーによる変奏曲。演奏を聴けというより、曲自体を聴けといっているよう。あまりに拘りなくサクサクとすすめていくがかえって新鮮です。意外にこの曲、バドゥラ=スコダの演奏スタイルに合ってます。

Hob.XVII:9 / Adagio [F] (before 1792)
最後も好きな曲。ブレンデルの演奏を愛聴してますが、ブレンデルの透徹したピアノが静寂のなかに消えていくような絶妙の演奏に対して、バドゥラ=スコダは一貫して淡々としたもの。ある意味予想どおりの演奏です。美しい曲の儚さを、儚い美しさではなく、時の儚さ、表現の儚さと一歩踏み込んでいるよう。

なんとなくとらえどころのない演奏をする人との印象があったバドゥラ=スコダですが、このアルバムを聴いて、ちょっと演奏スタイルが見えたような気がします。古楽器の演奏ではブラウティハムなど、楽器の響きをどうやって美しく聴かせようかということに集中しているのに対し、バドゥラ=スコダはその対極のスタンスでしょう。視点は演奏家ではなく作曲者の視点のよう。ハイドン自身になりきって、曲の構造や着想、メロディーをまるで作曲者自身がさらって演奏しているような演奏です。響きへのこだわりではなく、頭の中で鳴っている音楽を、ひとつひとつ確認していくようです。このアルバム、選曲はまさに名曲揃いで初心者向けですが、演奏は玄人向けです。ハイドンのピアノソナタをいろいろな演奏で聴き込んだ、違いのわかる人にこそ聴いてほしい、このさりげなさ。私は、聴いているうちにちょっと気に入りました。磨き抜かれた演奏もいいですが、たまにはこういった演奏もいいものです。評価は全曲[++++]としました。

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【新着】トム・ベギンのハイドン鍵盤独奏曲全集

久々の大物です。先週HMV ONLINEで届きましたが、全容を把握するのに苦労しました。

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トム・ベギン(Tom Beghin)がハープシコード、クラヴィコード、スクエアピアノ、フォルテピアノ、ピアノ(現代のピアノではなく19世紀のイギリスのピアノ)などを弾き分け、ハイドンのピアノソナタと変奏曲など演奏したアルバム。CD12枚組とメイキング映像などを収めたDVD1枚をあわせた13枚組。収録は2007年4月から10月と2008年の6月、カナダのモントリオールのマッギル大学「音楽メディアと技術に関する学際研究センター(CIRMMT)」でのセッション録音。レーベルは廉価盤勃興の祖NAXOSです。

月並みな紹介から入りましたがこのアルバムは凄いものです。ハイドンの鍵盤独奏曲全集を今、世に問うというだけでも労作なのですが、このアルバムの企画は壮大です。

まずは楽器ですが、奏者であるトム・ベギンがハイドンの時代と曲想から7つの楽器を選んで録音しています。DVDのメイキング映像で詳しく触れられているのですが、時代考証をもとにした演奏当時の楽器を選定いるのみならず、曲のイメージにあわせて楽器が選ばれています。古くはハープシコード、クラヴィコードから、スクエアピアノ、フォルテピアノ、ピアノに至るまで、今回の録音のために周到な準備の上に楽器を選定している事がわかります。各楽器は楽器修復家を呼び寄せて録音のために調整させたり、あらたに造ったりしている事がわかります。クラヴィコードなどの雅な響きはこれまで様々なアルバムで音としては聴いていますが、今回のメイキング映像を通して、映像として理解できるのは貴重な事ですね。

そしてこのアルバムの真髄は録音。上記のとおり演奏はモントリオールで収録されているのですが、そのコンセプトにビックリです。アルバムタイトルはジャケット写真を見ていただいてもわかるとおり「ザ・ヴァーチャル・ハイドン」。モントリオールでの演奏録音は、ハイドンにゆかりのあるアイゼンシュタットなどの9カ所を選んで、その場所での残響をデジタルデータで記録し、モントリオールのスタジオで、その場所の残響を再現しながら収録すると言うもの。デジタル時代ならではのまさにヴァーチャルな響きですね。

アルバム全体は10のプログラムに分けられており、7つの楽器と9の会場からテーマに応じて、主に作曲年代順にソナタと変奏曲が並べられています。それぞれの演奏は思い切りのよい奏法、テンポ、音色の変化を交えた演奏で、時代考証を主眼としたものではなく、現代の視点で時代も一要素として再構築されたもの。トム・ベギンの多彩な視点と創意が感じられて非常に興味深い演奏。まだ何枚かつまみ聴きしたのみですが、古楽器によるハイドンのソナタ全集としては一番のおすすめ盤となるでしょう。

録音は響きは素晴らしいもののオーディオ的な耳で聞くと2チャンネル録音としての定位感までは再現できていないようです。最新録音らしく響きの鮮度は高く非常に聴きやすい録音。楽器の音が比較的オンマイクで捉えられ、それぞれの会場の残響が付与されたもの。スピーカーの間に楽器が定位するという感じよりは、スピーカーの間に巨大な楽器が曖昧なまま浮かび上がるような特殊な定位感。これは致し方ないでしょう。

秀逸なのはDVD。ちゃんとした日本語字幕がついているので情報も十分です。この映像だけでもこのアルバムを手に入れる価値は十分です。トム・ベギンをはじめとするスタッフが今回のプロダクションにかける情熱がつたわってくる素晴らしいもの。メイキング映像の最後はハイドンが亡くなる直前に弾いたとされる現ドイツ国歌の「神よ、皇帝フランツを守り給え」をハイドンゆかりの部屋で弾くシーンは何とも感動的なもの。映像のプロダクションもきちんとしており、決してオマケと言うようなものではありません。もともとがブルーレイの映像とブルーレイオーディオのマルチチャンネル音声のアルバムとしてリリースされていたようですので、もしかしたらマルチチャネル音声のほうが聴き応えがあるかもしれませんね。

まだ、つまみ聴きの段階なので評価はしていませんが、所有盤リストへの登録はこの週末に全曲終わりましたので、徐々に評価をつけていきたいと思います。

NAXOSはすでにヤンドーでピアノの演奏によるハイドンのソナタ全集を完成させているのに、今回のこの全集をリリースするとは驚きです。最近バリトントリオやスコットランド歌曲集の全集でハイドンファンの心を鷲掴みにしたBrilliant Classicsに一矢報いた格好になりましたね。これだけ素晴らしいボックスセットが、5000円もせずに手に入るのですから、ほんとに良い時代になったものです。しばらくはこのアルバムの演奏を楽しみたいと思います。

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枯淡、デートレフ・クラウスのピアノソナタ集

今日は巨匠のピアノソナタ集。

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デートレフ・クラウス(Detlef Kraus)の弾くハイドンのピアノソナタ集。収録曲目は、皇帝讃歌(Hob.III:77)、ピアノソナタ(XVI:44)、ピアノソナタ(XVI:21)、アダージョ(XVII:9)、ピアノソナタ(XVI:29)、ピアノソナタ(XVI:28)の6曲。収録は1994年4月、ドイツハノーバー近郊の街ヴェーデマルク(Wedemark)のヴェーデマルクスタジオでのセッション録音。レーベルはTHOROFONというレーベル。

グレー地の背景からクラウスの顔が浮かび上がるなんともアーティスティックなジャケット。もちろんジャケット買いですが、収録曲目もドイツ国歌「皇帝讃歌」にアダージョXVII:9、ソナタのXVI:29と好きな曲が多く含まれているのもあり、店頭で即ゲットです。

ピアニストのデートレフ・クラウスは1919年ハンブルク生まれのドイツのピアニスト。16歳でバッハの平均律クラヴィーア曲集をコンサートで弾いてデビューとのこと。後年はブラームスに傾倒。1982年からはフランクフルトブラームス協会の会長を務め、ブラームスについての著作も多いとのこと。晩年は教育にも力を注ぎ、2008年1月7日に88歳で亡くなったとのこと。このアルバムの演奏時は74歳。

クラウスについて私は知らずにいましたが、ピアニストの皆さんの中では知られた存在の方のようですね。このアルバムを聴くと、74歳とは思えないしっかりとした指使いで描くハイドンのソナタの響きエッセンス。フレージングとか音色とかデュナーミクなどといった表現上のことを超えて、ただただ音符を音にしていくという枯淡の境地。これまでいろいろなピアニストでハイドンのソナタを聴いてきましたが、デートレフ・クラウスの演奏はそれらの演奏を超える素晴らしい本質的な説得力をもっていました。

1曲目は皇帝讃歌。たどたどしくもありますが、なぜか揺るぎなさをも併せ持つ演奏。ピアノの響き自体は透明感溢れるもの。老年の奏者らしく力感のある演奏ではないんですが、ピアノ音楽を知り尽くした奏者のさりげなく、しかし深い情感をたたえた演奏。ドイツ国歌のメロディーがこれほどまでに心に純音楽的に響くのははじめてのこと。冒頭から素晴らしいピアノに打たれます。

2曲目はXVI:44ト短調。この曲は1771年の作曲ゆえ時期的にはシュトルム・ウント・ドラング期の作。右手のクリアな音を中心に宝石のようなメロディーラインを弾いていきます。途中止まりそうになるように訥々とメロディーを奏で、短調による峻厳な音響空間を最小限の音符で満たしていきます。途中音調が明るく変化する部分の一瞬現れる幸福感とまた険しい響きにもどる揺れの表現が熟練者ならではの円熟の境地。2楽章のアダージョも右手のキラメキによる短調の響きの美しさが絶品。この楽章も陰と陽に振れる曲調の変化の表現が秀逸。

3曲目はXVI:21で1773年作曲。前曲とは一転晴朗なハ長調。晴朗な曲調なのに枯淡。右手が音符と戯れるような音楽。左手はそっと音符を添えるような弾き方。ハイドンの音符から音楽の随だけ取り出したような音楽ですね。2楽章のアダージョは途中リズムに変化をつけたりする部分もありながら、基本的にテンポはゆったりめで淡々と進めます。フィナーレはざらっと弾き散らかしたようなくだけた表現。曲調の本質を捉えた素晴らしい解釈ですね。

4曲目は小品のアダージョXVII:9。これまでブレンデル盤の澄み切った響きの演奏が一押しだったんですが、デートレフ・クラウスの枯淡の演奏も悪くありません。テンポもメリハリもほとんどつけず、かといって単調にもならない素晴らしい音楽性。

5曲目はリヒテルの素晴らしい力感の演奏に親しんでいるXVI:29。1774年の作曲。なぜか前曲のアダージョから間を置かず、すぐに始まります。録音なのにコンサートでの演奏のような曲のつなぎ。リヒテル曲の構造を見事に再現したのとは逆に、音符のなかに潜むメロディーを淡々と弾いていく演奏。力感は形跡もありません。同じ曲とは思えない表現の違い。相変わらず右手の宝石のようなキラメキ感は健在。アダージョは一転して豊かな表情が印象的。この曲の美しさの頂点がまるでアダージョにあるかのような弾きっぷり。フィナーレは再び弾き散らかすようなくだけた表現でまとめます。

最後はXVI:28。1776年の作曲。ソナタは年代を少しずつ下るような選曲だったわけですね。1楽章はこのアルバムの中では変化に富んだ演奏の方。冒頭からリズムの変化に合わせてテンポもわりと揺らして弾いています。2楽章はメヌエットですが、やはりデートレフ・クラウス得意の楽章なんでしょう、自在な表現で曲の神髄をえぐる表現で聴かせきってしまいます。フィナレーは途中で出てくる不思議な音階をモチーフにした楽章。軽々とさりげなく弾いてこなしますが、後半速いパッセージでちょっと指がもつれそうになるところもあります。

アルバムを通して聴こえてくるのは、ハイドンの音楽の神髄をとらえた表現。さりげない演奏でもあるんですが、そのさりげなさもハイドンの大きな魅力と言わんばかりの説得力に満ちたもの。無駄な力を入れず、右手の美しい旋律とハイドン独特の機知を含んだ変化に富んだメロディーの表現も秀逸。何れにせよ、ハイドンの音楽の神髄をとらえた見事な解釈だと思います。評価はもちろん全曲[+++++]としたいと思います。特に皇帝讃歌とアダージョの美しさは素晴らしいもの。また一枚素晴らしいアルバムと巡り会うことができました。

月曜は年度末までの未消化の休暇があるのでお休みの予定故、今日は遅くに更新です。明日も何枚か取り上げたいと思います。

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フィンクとツェビンガーの歌曲とソナタ

今日はマイナー盤を。

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ORF Shop - Haydns Klaviere

ORF(オーストリア放送協会)からリリースされているハイドンの歌曲とフォルテピアノ用の曲を集めたもの。手に入れたのはディスクユニオンなんですが、オーストリア放送協会のショップでも販売しているようです。上記のリンクはORFショップのもの。

奏者はフォルテピアノがフランツ・ツェビンガー(Franz Zebinger)、ソプラノがバーバラ・フィンク(Barbara Fink)。フィンクは手持ちのアルバムでもいろいろ歌ってます。先日取り上げたコルボのチェチーリアミサなどもいい歌唱でした。ソプラノと言うことなんですが、メゾやアルト役もこなす声域の広さ。一方フォルテピアノのツェビンガーは1946年生まれのフォルテピアノ奏者というより作曲家としての方が知られているんでしょうか。

このアルバムの聴き所は、アイゼンシュタットのハイドン博物館の保存されたフォルテピアノとローラウのハイドンの生家に保存されたフォルテピアノの響きの違いを楽しめることと、フィンクの透明感溢れるソプラノでしょうか。

ローラウのハイドンの生家のフォルテピアノは調律が420Hz、音程が澄んでいて構造フレームがしっかりしているようなしっかりした音。高音の透明感も良く、響きの余韻も美しいですね。録音を聴く限り素晴しい状態と想像できます。一方アイゼンシュタットのハイドン博物館のフォルテピアノは調律が416Hzと少々低め。ローラウの楽器と比べると高音がほんの少しつまり気味なのと余韻の響きにちょっと濁りがある感じですね。構造的にもフレームが少々柔らかいように聴こえます。慣れてしまうといい音に聴こえるんですが、両者を聴き比べるとローラウの方に軍配が上がりますでしょうか。もしかしたら弾いている場所の響きの違いの影響かもしれませんので、あくまでも録音を通した印象と言うことでご理解いただければと思います。

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ライナーノーツの裏面の写真。フィンク(左上)とツェビンガー(右下)にアイゼンシュタットのフォルテピアノ(右上)とローラウのもの(左下)。さきほどスポーツクラブで泳いできたのでハイボールを飲みながら記事を書いてます。今日はバルヴィニー10年で。

収録曲目は、歌曲とフォルテピアノの曲をランダムにちりばめたもの。曲名の後ろにどちらのフォルテピアノを弾いたものか付記しておきます。

(歌曲)皇帝賛歌 XXVIa:43「神よ、皇帝フランツを守りたまえ」(ローラウ)
弦楽四重奏曲 III:77-2楽章(ローラウ)
ピアノソナタ XVI:2-1楽章(ローラウ)
(歌曲)「だれでもが思う自分が選んだ人とは」XXVIa:13(ローラウ)
ピアノソナタ XVI:13-2楽章(アイゼンシュタット)
(歌曲)「キューピッド」XXVIa:2(アイゼンシュタット)
ピアノソナタ XVI:2-2楽章(ローラウ)
(歌曲)「見捨てられた女」XXVIa:5(ローラウ)
(歌曲)「田舎の楽しみ」XXVIa:10(アイゼンシュタット)
アダージョ XVII:9(アイゼンシュタット)
(歌曲)「掘立小屋」XXVIa:45(アイゼンシュタット)
ピアノトリオ XV:22-2楽章(ローラウ)
主題と6つの変奏 XVII:5(ローラウ)
「十字架上のキリストの最後の七つの言葉」第2ソナタ(ローラウ)
(歌曲) 「宗教歌」XXVIa:17(ローラウ)
「十字架上のキリストの最後の七つの言葉」第6ソナタ(ローラウ)
(歌曲)「かつて女性の美しさと」XXVIa:44(アイゼンシュタット)
ピアノソナタ XVI:13-1楽章(アイゼンシュタット)
(歌曲)「この世で何も得ようとは思わない」XXVI:19(アイゼンシュタット)

歌曲は、フィンクのヴィブラートをほとんどかけない清澄でかつ、実体感溢れる歌が楽しめます。1曲目のドイツ国歌の原曲はアメリングとは異なり、古楽器と愛称のいいストレートな歌い方。良く通る美しい声ですね。つづくフォルテピアノによる「皇帝」の2楽章は、適度にテンポを揺らして、詩的な表現。ローラウの生家で録ったのでしょうか、よく響く部屋で演奏したような、少し遠目に定位するフォルテピアノながら、鮮明な録音で、ハイドンが生きていた頃に想いを馳せながら聴きます。

続く曲それぞれの曲も基本的に同様の一貫したスタイル。

評価はアダージョXVII:9をのぞき[++++]、XVII:9は、ちょっとそそくさとした印象が曲調に合わず[+++]としました。おそらくあまり流通していない珍しいアルバムなんでしょうが、演奏はいい演奏ですので、大手のCDショップなどでも是非扱ってほしいものですね。

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tag : 歌曲 ピアノソナタXVI:2 ピアノソナタXVI:13 皇帝讃歌 古楽器 おすすめ盤

先生と生徒

ショルンスハイムのハイドンのピアノソナタ全集。

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ハイドンのピアノソナタを時代に応じてクラヴィコード、ハープシコード、フォルテピアノなどを弾き分けて録音したもの。2003~2004年の録音。
初期のもはハープシコードやクラヴィコードで淡々と弾いていき、後期のものはフォルテピアノに。時代とともに響きが変わり、響きと強弱が豊かになっていきます。楽器の変遷を追って多彩な響きが楽しめます。
この全集の聞き所は、2曲はいっている連弾用ソナタで、特にXVIIa:1「先生と生徒」が秀逸。連弾はおそらくショルンスハイムより格上だと思いますがシュタイアーが担当。本来なら、シュタイアーの全集の連弾にショルンスハイムが登場するところでしょう。不思議な企画です。(シュタイアーは別に選集がDeutsche Harmonia Mundiからでています)
おそらくシュタイアーがリードしているんでしょう、他の曲の録音とは次元の違う自由闊達な演奏で、なぜか携帯電話の着信音や声の効果音が入るサービス満点な演出。
このアルバム自体が先生と生徒の合作のような趣です(笑)

あと、意外と良かったのが、皇帝の2楽章の変奏曲。フォルテピアノの弦のびり付きまでリアルにとらえた録音と叙情的な表現が決まってます。

前半のクラヴィコード、ハープシコードでの演奏はハイドンの曲の楽しさを表現しきれていないもどかしさがつきまとうものの、後期のソナタでは明らかに奏法を変え、表現の幅が広がっています。

全集としては作りもしっかり、ライナーノーツも緻密なつくりですが、様々な全集がでている中、ファーストチョイスにはおすすめしにくいです。ピアノソナタを聞き込んだベテラン向けのセットという位置づけでしょう。

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tag : ピアノソナタ全集 古楽器 クラヴィコード 皇帝讃歌

プロフィール

Daisy


Author:Daisy

なぜかハイドン(Franz Joseph Haydn)が特に気に入り膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。東京在住のごく普通のサラリーマンです。

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2017年7月のデータ(2017年7月31日)
登録曲数:1,361曲 登録演奏数:10,291
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