【新着】カロリーネ・フィッシャーのピアノソナタXVI:39(ハイドン)

色々発注したついでに買ったアルバムです。

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カロリーネ・フィッシャー(Caroline Fischer)のピアノによるハイドンのピアノソナタ(Hob.XVI:39)の他、ベートーヴェン、ウェーバー、ショパン、リスト、サン=サーンス、モシュコフスキ、リャプノフのピアノ小品を集めたアルバム。収録は2016年5月5日、6日、9日、ライプツィヒ・ゲヴァントハウスのメンデルスゾーンホールでのセッション録音。レーベルはライプツィヒのGENUIN。

奏者のカロリーネ・フィッシャーは1982年にベルリンで生まれたピアニスト。ドイツと韓国のハーフのようで、アジア系の美形ピアニストですね。ベルリンのハンス・アイスラー音楽アカデミー、マンハイム、ジュネーブ、オスロ、ハンブルクで学び、その後多くのコンクールに入賞して頭角を現しました。これまで欧米やアジアの主要なホールで演奏しているとのこと。ネットを検索してみると2012年に東京のドイツ文化センターでコンサートを行ったようですね。

このアルバム、もちろんハイドンのソナタが含まれていることから入手したものですが、ちょっとアイドル系のアルバムの造りゆえ、さして期待せずに注文しました。アルバムタイトルは" Pearls of Classical Music"とあり「クラシック音楽の宝物」とでも訳すのでしょう。ハイドンから近代までの作曲家の小品を集めた構成。気になるのはアルバムにメルセデス=ベンツのロゴが記されており、メルセデスがサポートしているのでしょう。やはりそれなりの才能がなければサポートすることはないでしょうから、ちょっと期待が上がって、聴き始めました。

Hob.XVI:39 Piano Sonata No.52 [G] (1780)
非常にクリアで爽やかなピアノの響き。特段個性的な演奏ではありませんが非常に上質感を感じる演奏。なんとなくメルセデスがサポートする理由がわかります。キラキラと輝くように音階が輝き、小気味好いタッチのキレも感じさせます。これがハイドンのソナタに実によくマッチしていて、アーティスティックというよりは洗練されたハイドンのソナタに聴こえます。小綺麗と片付ける演奏ではなく、非常にバランス感覚に優れた見事な演奏です。このような爽やかさを感じるのは珍しいこと。
聴きどころの短調のアダージョですが、輝きに満ちた陰りを帯びて非常に美しい入り。この美しさはなかなかのもの。そして途中で、ふっと暖かさが差し込む絶妙の瞬間があるのですが、ここの演出もさりげなくて素晴らしい。ハイドンのハーモニーのコントールの見事さをさりげなくちらつかせる見事な表現。表現を抑えながら美しい瞬間を保ち続ける演奏に身を乗り出します。
そしてフィナーレは軽さとさりげなさが高度に融合したサラサラ感。これは女性奏者ならではの表現でしょう。美音を撒き散らすようなきらめき感が秀逸。短いソナタなのに、そして表現を凝った訳ではないのにこれだけの聴きごたえある演奏をするとは。素晴らしいバランス感覚の持ち主ですね。

この後の曲も、ハイドン同様の表現力で聴かせます。

カロリーネ・フィッシャー、日本ではあまり知られていない人でしょうが、このハイドンは素晴らしいですね。ハイドンのソナタは力任せでも個性的過ぎてもうまく響きませんが、こうして一音一音のタッチを研ぎ澄ましたさりげない演奏をされると輝きます。冒頭に置かれたハイドンの演奏でこの人の音楽感が見えてくるようでした。流石メルセデスの広報、目が肥えてます。アルバムにはハイドンは1曲のみですが、この1曲のためにこのアルバムを入手する価値はあります。評価は[+++++]とします。

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ベリーナ・コスタディノヴァによるピアノソナタXVI:24(ハイドン)

今日は久々に癒し系、美貌のピアニストの演奏です。

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ベリーナ・コスタディノヴァ(Belina Kostadinova)のピアノによる、ハイドンのピアノソナタ(Hob.XVI:24)、ショパンの4つの練習曲(Op.10)、
リストの「葬送」、バルトークのブルガリアのリズムによる6つの舞曲(ミクロコスモス第6集より)の4曲を納めたアルバム。収録は2007年7月13日から14日にかけて、スイスのチューリッヒの放送スタジオでのセッション録音。レーベルはgega new。

このアルバム、最近オークションで手にいれたもの。ハイドンのピアノソナタが含まれているアルバムということで入手しましたが、気になるのはジャケットの写真。ベリーナ・コスタディノワというピアニストは未知の人ですが、ぐっと惹きつけられる美貌の持ち主。ということで、オークションの一覧でこの写真と「目が合った」という感じで出会いました。

BELINA

ベリーナ・コスタディノヴァはブルガリアのピアニスト。5歳のときに叔父と母の弾くピアノを聴いてピアノを志すようになり、ブルガリアの黒海沿岸の街ブルガス(Bourgas)の音楽高校、そして首都ソフィアのソフィア音楽アカデミーで専門的教育を受けました。アカデミーではレフ・オボーリン(Lev Oborin)門下生で、ロシアピアニズムの継承者と見做されていたマーシャ・クラステワ(Mascha Krasteva)とともに学び、古典派からロマン派にかけての音楽にとロシア音楽もレパートリーに加えるよう取り組み、また、祖国ブルガリアの音楽にも取り組みました。1989年にルドルフ・ブッフビンダーと出会い、スイスのバーゼル音楽院で彼に師事し、以後アレクシス・ワイゼンベルクやパウル・バドゥラ=スコダらのマスタークラスに参加し、ヨーロッパ各国で活躍しているとのこと。

このアルバムはコスタディノヴァのデビューアルバムで、彼女にとっては、デビューまでの間に思い入れのある曲を集めた特別な選曲のアルバムということです。ハイドンとリストの曲は若い頃から好んで演奏し、特にハイドンはハイドンの大家とされたブッフビンダーの前で最初に弾いた曲。そしてブルガリア人としてバルトークのブルガリアのリズムによる6つの舞曲も研究しつくしてきた曲。ショパンは、ゲサ・アンダの録音が決定的な影響をもたらした曲とのことです。

Hob.XVI:24 Piano Sonata No.39 [D] (1773)
粒立ちの良いピアノの響きでテンポよく入りますが、経歴からの想像力が働いたのか、ロシアのピアニスト特有のグイグイと引っ張っていく勢いも感じられます。女性ならではのタッチのしなやかさもあるんですが、それを上回る流れの良さと色彩感がポイント。音がコロコロと弾んでゆく心地よさに耳を奪われます。フレーズ毎にあえて印象的な間というか、リズムの分断を設けるのが個性的。1楽章はオーソドックスなようでよく聴くと個性的な仕上がり。
アダージョはしっとりではなく訥々とした表情が印象的。冒頭のきらめくような緊張感から暖かい風に包まれるような展開が一般的な入りなんですが、その瞬間に緩まず、緊張感を保ち、寂しさを突き詰めていくようなストイックさがあります。やはりロシア的な感性がそうさせるのでしょうね。
フィナーレはサクサクと入り、あえてサラサラとした感触を保ち、よく聴くと激しく展開する曲をサラリとこなしていきます。最後はリズムとフレーズを誇張してキリリと引き締めて終わります。

つづくショパン、リスト、バルトークもコスタディノヴァがそれぞれ得意としていた曲というのがよくわかります。ハイドン同様、楽譜に込められた情感に至るまで弾きこなしており、思い入れを感じる演奏でした。特にバルトークのキレ味鮮やかながら、しっとりとした演奏は流石と思わせるものでした。

美貌のピアニスト、ベリーナ・コスタディノヴァのハイドンのソナタですが、ジャケットの造りから想像されるアイドル系の演奏とは異なり、なんとなく奏者の芸術的表現の吐露と思わせる息吹を感じる本格的なものでした。タッチが冴え渡る演奏は他にもいろいろあり、そういう視点での優れた演奏というより、ブルガリア出身の彼女がピアノで世界に羽ばたいたバックボーンとうか、苦労の積み重ねが詰まった音楽と聴こえました。選曲と解説によって奏者の息吹が浮かび上がる好企画ですね。ハイドンのソナタは[+++++]とします。

美貌の奏者のアルバムに癒しを感じるおじさん層のために、このアルバムを含めて「美人奏者」というタグをつけました。意外とマーケットでは重要な要素ですネ(笑)

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テレーズ・デュソーのピアノソナタ集(ハイドン)

なんだかピアノの響きにはLPが合うようで、ピアノソナタの名録音がつづきます。

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テレーズ・デュソー(Thérèse Dussaut)のピアノによる、ハイドンのピアノソナタ2曲(Hob.XVI:49、XVI:52)とファンタジア(Hob.XVII:4)の3曲を収めたLP。収録についてはネットで色々調べるとおそらく1972年にリリースされたもののよう。レーベルはARION。

こちらも先日ディスクユニオン新宿店で仕入れたもの。LP売り場は適度に分類されているんですが、交響曲や弦楽四重奏曲はハイドンのコーナーがあるもののピアノ曲はH前後のいろいろな作曲家のアルバムが混ざっており、LP時代には現在もCD化されていない未知のピアニストのアルバムがまだまだあるようで、売り場構成と相まって宝探し的楽しみがあります。このアルバムもそうして発見した一枚。

ジャケットをよく見ると古いスケッチですが、明らかにハイドンのような顔をした男がフォルテピアノの横に座り、鍵盤の前には貴婦人が立っているスケッチ。調べてみるとフランスの画家、ドミニク・アングルの1806年の習作「森の家族」とのこと。アングルは1780年、南仏のモントーバン(Montauban)生まれで、トゥールーズ、パリで学んだのち、当時の若手の登竜門だったローマ賞を受賞し、政府給費留学生として1806年にローマに渡ります。この絵がパリトローマのどちらで書かれたのかはわかりませんが、ハイドンはパリにもローマにも行っていませんので、実際の場面ではなく、当時ヨーロッパ中で知られていたハイドンから音楽を学んでいる姿を想像してスケッチしたものでしょうね。当時のハイドンの人気を物語るものでしょう。LPの魅力はこうしたジャケットにもあるわけで、たかが印刷ですが、なんとなくいい雰囲気が漂うわけです。

さて、本題に戻って、奏者のテレーズ・デュソーについて調べてみます。

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テレーズ・デュソーは1939年、ヴェルサイユ生まれのピアニスト。父は作曲家のロベール・デュソー(Robert Dussaut)、母も作曲家のエレーヌ・コルヴァティ(Hélène Corvatti)。フランスでマルグリット・ロンとピエール・サンカンにピアノを学び、ドイツではロシアのピアニスト、ウラディミール・ホルボフスキに師事しました。1957年には国際ARDコンクールで優勝し、以後はコンサートピアニストとして活躍、現代音楽にも積極的に取り組んできたそうです。近年は教育者として活躍しているとのこと。

Hob.XVI:49 Piano Sonata No.59 [E flat] (1789/90)
しっとりとしたタッチから流れ出る音楽。女性奏者らしいタッチの柔らかさが印象的。サラサラと流れながらも要所でのアクセントはくっきりとつけていきます。まさに気品に溢れた演奏。LPだからか研ぎ澄まされたピアノの音色の美しさが際立ちます。ハイドンの曲のメロディーの美しさも展開の面白さもアイデアの豊富さもすべて折り込んでさらりと美しくまとめいる感じ。ジャケットのスケッチが、女性ピアニストが演奏を終え、ハイドンが満足げに微笑んでいる姿にも見えてきました(笑) 実に品のいい演奏。
アダージョに入ると、実際の音量以上に静けさを感じさせます。楽章がかわって、気配も変わった感じ。聴き手を包み込むようなオーラが発散しています。心に沁み渡るような浸透力。仄暗い部屋の真ん中でスポットライトを浴びながら静かにピアノの響きと向き合うッデュソーの心境がつたわるようです。後半の左手のアクセントの連続は澄み渡るような美しさ。実際の力感ではなく、力感を表現するのは音の対比のみでできるのだとでも言いたげなほど、力が抜けているのに音楽の起伏は険しく感じられる演奏。美しすぎるアダージョ。
3楽章はメヌエット。ことさら演奏スタイルを変えることなくさらりと入り、淡々と進めていきます。キラメキを増す右手にと、絶えず静けさを保ち続ける冷静さのバランスが絶妙。

Hob.XVII:4 Fantasia (Capriccio) op.58 [C] (1789)
こだまのようにメロディーが響き合う小曲。テンポよくすすむ曲想にあわせてタッチのキレも一段と鮮やかになりますが、なにより素晴らしいのが可憐な雰囲気に満ちていること。やはりデュソーの演奏の特徴はこの気品にあります。時折前曲のソナタの演奏では見せなかった激しいアクセントが姿を現してちょっとびっくりしますが、この小曲でのメリハリをきっちりつけようということでしょう。最後の終わり方もちょっと驚く間をとって遊び心をみせます。最後まで透徹したタッチとしなやかさが感じられる名演奏です。

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Hob.XVI:52 Piano Sonata No.62 [E flat] (1794)
曲の構えが大きい分、ぐっと迫力を増した入り。最初の曲ではしなやかさが印象的だったんですが、この曲では力感は十分。素晴らしい迫力に圧倒されます。もちろん繊細な響きの魅力は保っていますので気品に満ちた迫力です。この曲ではやはり力感の表現がポイントとみたのでしょう、1楽章はしなやかな中にも迫力が満ち溢れ、力で押していくようなところもある演奏。
そしてアダージョも打鍵の余韻を実に品良く響かせます。余韻の隅々までしっかりコントロールされた演奏。ところどころでかなり力を抜いた音階をちりばめたり、アクセント、特に左手のメロディーをデフォルメしたりすることで、この優雅な曲にくっきりとした表情の変化をつけていき、音楽の彫りを深くしていきます。
終楽章のプレストへの入りが実に印象的。連続音から始まるこの曲の表情を見事に演じます。タタタタと続く音を実に表情豊かにしあげてきます。このセンスこそデュソーの演奏の真骨頂。全編に気品が満ちているのは音の響きに関する鋭敏な感覚があってのことでしょう。この曲でも一つとして同じ音をならさぬようタッチは非常にデリケート。速い音階の滑らかさとアクセントの対比も見事。突然テンポを落としたりとハイドンのしかけた機知にも呼応します。曲の読みが深いですね。この曲も見事の一言。

ディスクユニオンの売り場から掘り起こしたアルバムですが、これは宝物レベルの名盤でした。まったくしらなかったテレーズ・デュソーというピアニストによるハイドンでしたが、ジャケットに移る美麗な姿そのままの気品に溢れた名演奏でした。音に対する鋭敏なセンスを持ち合わせ、ハイドンのソナタから実に深い音楽を引き出す腕前の持ち主。1曲目のXVI:49ではそのセンスの良さで聴かせ、ファンタジアではタッチのキレのよさ、そして最後のXVI:52では迫力と彫りの深さで圧倒されました。LPのコンディションも悪くなく、美しいピアノの響きを堪能できました。評価は全曲[+++++]とします。

このところの陽気でだんだん目の周りが痒くなってきました。魔のシーズン突入ですね(笑) めげずに頑張ります!

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エイナフ・ヤルデンのピアノソナタ集(ハイドン)

今日も湖国JHさんから送り込まれたアルバムです。最新盤で手に入れようと思っていましたが、まだ未入手だったアルバム。最近中古LPの方に関心が移っている隙を突かれた感じです(笑)

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エイナフ・ヤルデン(Einav Yarden)のピアノによる、ハイドンのピアノソナタ6曲(Hob.XVI:29、XVI:24、XVI:25、XVI:26、XVI:31、XVI:32)を収めたSACD。収録は2015年12月3日から5日、オランダのロッテルダムの隣町、スキーダム(Schiedam)のウエストフェスト教会でのセッション録音。レーベルは優秀録音の多いCHALLENGE CLASSICS。

ジャケットを見ての通りの美しい容姿のピアニスト。名前からどこの国の人かわかりませんでしたが、調べて見るとイスラエル。1978年にテル・アヴィヴに生まれ、イスラエル音楽院、テル・アヴィヴのルービン音楽アカデミー、アメリカボルチモアのジョン・ホプキンス大学などで学び、2006年ミネソタ国際ピアノ-e-コンクールで優勝、2009年ベートーヴェン国際コンクール第3位入賞と頭角を現しました。今日取り上げるアルバムが彼女の2枚めのアルバムで、デビュー盤は同じくCHALLENGE CLASSICSからリリースされたベートーヴェンとストラヴィンスキーのアルバムです。ジャケット同様、美しくデザインされた彼女のサイトがありますのでリンクしておきましょう。

Einav Yarden

若手のピアニストが、ピアニストの表現力を丸裸にしてしまう難しさを持ったシュトルム・ウント・ドラング期直後のハイドンの中期のソナタに挑むということで、興味津々。

Hob.XVI:29 Piano Sonata No.44 [F] (1774)
流石にSACD、広い空間の少し先にピアノがふっと浮かび上がる見事な録音。超低音の暗騒音が奏者の動きの気配まで伝えます。演奏は非常にバランスの良いもの。ハイドンのソナタのツボはきちんと押さえて、八分の力でタッチの軽さとリズムのキレの良さをベースにさらさらと弾きこなしていきます。この曲はどうしても巨人リヒテルの素晴らしい力感のこもった演奏と比べて聴いてしまうのですが、ヤルデンは逆にそうした力感のトラウマを全く感じさせず、サラサラと曲をこなしていくので、逆にハイドンの書いた音楽をゆったりとトレースしながら聴くことに集中できます。
続く流麗なアダージョもさっぱりとこなしていきます。1曲1フレーズの表現を極めるのではなく、このアルバムに収められた曲集を、遠くからながめて、山脈の絵を描くように、大きな視点で捉えた演奏。先日取り上げ激賞したデニス・コジュヒンの演奏とも共通するところですが、この冷静なのに深みをもたらす姿勢、若手ピアニストとはいえ、かなりの音楽性の持ち主と見ました。
終楽章のメヌエットも見事なもの。鏡のように澄み切った心境から生まれる落ち着いた演奏の中からハイドンの機知がにじみ出てきます。短調の仄暗さにも輝きがあり、華のある演奏です。タッチは鮮やかでかなりの腕前ですが、テクニックを誇示するようなところはなく自然な表現。1曲めから来てます!

Hob.XVI:24 Piano Sonata No.39 [D] (1773)
美しい入りのメロディーが印象的な曲。そのメロディーの輝き絶妙にスポットライトを当て、曲の美しさが惚れ惚れするように表現されます。テンポは少し速めな印象ですが、ところどころですっと落とすので音楽に動きが生じて活き活きとした印象。早いパッセージのタッチの鮮やかは変わらず。
途中の転調の絶妙な瞬間が聴きどころの曲ですが、ヤルデンはそこに焦点を当てるのではなく、曲全体の流れの中にハイドンの見事な創意を自然に浮かび上がらせるという、これまた見事な表現。一音一音が宝石のように輝きながら空間に置かれていきます。美しすぎる見事な演奏。
フィナーレは癒しに満ちた静けさを断ち切るように鮮やかなタッチでまとめます。

Hob.XVI:25 Piano Sonata No.40 [E flat] (1773)
一転して低音によるリズムの面白さで曲が変わったことを印象付けます。一峰一峰の容姿の違いを克明に描きますが、それが山脈の変化に富んだ姿であるように、不思議とまとまりを感じる演奏。ヤルデンの恐ろしいばかりの表現力。ここまで来て、ヤルデン、ハイドンのソナタの真髄に迫っていると確信します。途中高音に一音のみアクセントつけたり、ほんのわずかにスパイスを効かせます。このソナタの肝が推進力であると思い起こさせる見事な表現。
この曲は2楽章構成。気まぐれなハイドンの筆の面白さをちゃんと拾って、さりげない変化のさりげない面白さをしっかりと味あわせてくれます。一音一音を追いかけながら音楽の展開に引き込まれます。

Hob.XVI:26 Piano Sonata No.41 [A] (1773)
この時期のソナタの展開の面白さに耳が行っているところに、それを知って弾いてくるようなヤルデンの演奏。ハイドンの音楽の面白さを本質的に理解しているのがよくわかります。単にわたしの聴き方との相性なのかもしれませんが、これだけすっと入ってくる演奏はなかなかありません。音楽の流れと音楽に宿る創意を汲み取る力は素晴らしいものがあります。時折響きを強調するところのセンスの良さも出色。それらが一貫してさりげない雰囲気でまとめられているのがハイドンにふさわしいですね。
続くメヌエットは曲の面白さを読みきり、あえて少しコミカルにまとめます。そして流れるように自在にテンポを動かすフィナーレ。ここに来て表現の幅を広げてきました。

Hob.XVI:31 Piano Sonata No.46 [E] (1776 or before)
この6曲を一連の物語りと捉えて、一節一節、展開にふさわしい語り口で語られるので、どんどん物語りに引き込まれていきます。美女の素晴らしい表現力の語りにうっとりといったところ。演奏が型にはまった感じは皆無。音符に仕込まれた創意を素直にどんどん音楽に変換していくの楽しんでいるよう。この曲でも1楽章のリズムの面白さ、2楽章の沈み方をあえて浅めに捉えて流れの良さにスポットライトを当てるところ、終楽章のタッチのキレの良さと、それぞれの楽章の本質を捉えてまとめます。

Hob.XVI:32 Piano Sonata No.47 [b] (1776 or before)
最後に有名曲を持ってきました。名演ひしめく名曲です。堂々とした入りから、ところどころにヤルデンらしい爽やかなアクセントで華やかさを演出します。力で押す演奏が多い中、クリアな響きを保ちながら、フレーズ毎の変化と創意の面白さをバランスよく組み込みますが、この曲ではオーソドックスな演奏の範囲にとどめているのは見識でしょう。皆の頭に焼くつくこれまでの素晴らしい演奏に敬意を払っているよう。これまでの曲で自身のハイドンをじっくり聴かせているので、最後はアルバムを引き締めるようなフォーマルさを感じさせます。
メヌエットはさらりと曲の面白さを感じさせるヤルデンならではの演奏。そしてフィナーレではこのアルバム一番のキラメキ。右手の輝かしいアクセントが印象的です。最後はタイトに引き締まったピアノを聴かせて終わります。

イスラエルの若手美人ピアニスト、エイナフ・ヤルデンの弾くハイドン中期のピアノソナタ集。これは名盤です。ハイドンのピアノソナタの面白さを十分に引き出しながらも、一貫した冷静さを保ち、そしてそこここに美しい響きを散りばめるという理想的な演奏。録音も鮮明で言うことありません。先日取り上げたデニス・コジュヒン同様、素晴らしい才能の持ち主です。ぜひハイドンのピアノソナタの全曲録音に挑んで欲しい、これからが楽しみなピアニストです。評価は全曲[+++++]とします。

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トリオ・ヴィエナルテのピアノ三重奏曲集(ハイドン)

久々に湖国JHさんからアルバムの束が届きました。今日はその中からの一枚。

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トリオ・ヴィエナルテ(Trio Viennarte)の演奏による、ハイドンのピアノ三重奏曲3曲(Hob.XV:27、XV:28、XV:29)を収めたアルバム。収録は2000年4月、旧自由ベルリン放送(現ベルリン=ブランデンブルク放送)第3ホールでのセッション録音。レーベルは独CAMPANELLA Musica。

このアルバム、ジャケットを見ると、手元にあると思って所有盤リストを見てみてもありません。ただし、このジャケットは確かに見覚えがあると思ってCDラックを探してみると、ありました! 実は同じレーベルの別のアルバム。同じような雰囲気のレイアウトでハイドンのモノクロの肖像画をあしらったジャケットゆえ既視感満点。ということで、これまでもいろいろなところで見かけても、手元にあると勘違いして注文もしてこなかったということです。こういうこともありますね。

さて、奏者のトリオ・ヴィエナルテは美人女性3人によるトリオ。いつもながら、それをアイドル路線でアルバムにしてくるのではなく、しっかりとしたプロダクツに仕立ててくるところにレーベルの見識を感じます。ジャケットの扉を開けるとこの写真が。

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この写真はアルバムの内側なので、このアルバムをもし店頭で見かけたとしても見られません。こちらを表にした方が売り上げに貢献したかもしれませんね(笑) メンバーは下記の通り。

ヴァイオリン:ヴェロニカ・シュルツ(Veronika Schulz)
チェロ:ジュリア・シュライフォーゲル(Julia Schreyvogel)
ピアノ:マリア・ロム(Maria Rom)

トリオ・ヴィエナルテは1996年に設立されたトリオ。メンバーは1970年から74年にウィーン生まれで、ウィーンで音楽を学んだ人。ウィーンのコンツェルトハウスで開催された青少年音楽コンクールでのデビューコンサートは非常に高く評価され、その後「若者の表彰台(Podium of Youth)」と題された一連のコンサートはヨーロッパ各国や南アフリカで開催されました。またシャーンドル・ヴェーグ・アカデミーではメナム・プレスラーやアルバン・ベルク四重奏団のメンバーに師事していました。なお、ヴァイオリンのヴェロニカ・シュルツは、ウィーンフィルの首席フルート奏者を長く勤めたウォルフガング・シュルツの娘とのこと。今回調べてみると、ウォルフガング・シュルツは2013年に亡くなっていたんですね。録音はこのアルバムの他にcamerataレーベルにブラームスのピアノトリオがあるくらいで、トリオのウェブサイトも見当たらないことから、現在は活動していないかもしれませんね。

さて、名盤ひしめくピアノトリオであり、しかもハイドン絶頂期の名曲3曲ということで。聴く方もちょっと前のめり気味(笑)

Hob.XV:27 Piano Trio (Nr.43/op.75-1) [C] (1796)
録音は残響が多めですが鮮明。鋭利な刃物で音楽を切り取っているような鮮度抜群な演奏。各パートが火花を散らしながらしのぎを削る感じがまさにライヴのよう。これは好みのタイプです! 各パートの精度はほどほどなんですが、勢いというかエネルギーはものすごいことになっています。マグマが噴出するような熱いエネルギーがほとばしります。この3曲セットの冒頭を飾るアレグロから見事の一言。
続くアンダンテでこのトリオの表現の幅を確認しようとする意図で聴きますが、意外にさりげないさっぱりとしたタッチできます。そうこうするうちにやはりライヴ的な盛り上がりに包まれます。やはりこのトリオ、ライヴ感が信条のようです。極上のライヴを楽しんでいるような至福の境地。
フィナーレも一貫した演奏。特にピアノのマリア・ロムの鮮やかなタッチが印象的。ヴァイオリンのヴェロニカ・シュルツも鮮やかなボウイングでキレの良さを見せつけ、チェロのジュリア・シュライフォーゲルも深みよりキレのタイプ。終盤の盛り上がりの集中度合いも見事なもの。1曲目からノックアウトです。

Hob.XV:28 Piano Trio (Nr.44/op.75-2) [E] (1796)
1曲目とまったく同じくライヴ感満点の演奏。音楽が活き活きと弾みダイナミックに展開します。どこかのパートが目立つということではなくアンサンブルとしてバランスが良く、ハイドンのピアノトリオの理想的な演奏。これは外連味なくキレのいいピアノの功績でしょうか。室内楽としての演奏の完成度が非常に高いということでしょう。耳を澄ますとピアノは早いパッセージをクリアにではなく流れるようなタッチで滑らかに弾いてきますが、それが過度に目立たぬことに貢献しているよう。覇気に満ちたピアノもいいものですが、こうして音楽の骨格を支えるピアノこそバランスの良い演奏の基本ですね。
続くアレグレットは前曲同様さっぱりとした表情で入りますが、その中から慈しみ深さが滲み出てくるような演奏です。ここではピアノの自然ながら彫りが深い美しいタッチが圧倒的な存在感。ヴァイオリンとチェロも寄り添いながら終盤にグッと力が入ります。
前楽章のエネルギーをさらりと受けて再びさっぱりとした入り。落ち着いた演奏からハイドンの終楽章のアイデアに満ちた構成の面白さが浮かび上がります。前曲同様非常に完成度の高いアンサンブル。

Hob.XV:29 Piano Trio (Nr.45/op.75-3) [E flat] (1796)
演奏が安定しているので、曲を存分に楽しむことができます。大波の合間に時計を刻むような瞬間が挟まれる独特の曲想の面白さが浮かび上がります。3人とも各パートの演奏はかなりダイナミックで、それが響きあうように重なり、3人の演奏なのに室内楽を超えるようなダイナミックさに聴こえます。この3曲の中でも格別構成感を感じさせる1楽章が見事に引き締まります。
すっと力を抜いた2楽章の入り。落ち着いた響きがこれまでのエネルギーを覚まし、ハイドンが書いた曲想の展開の面白さを鮮やかに印象付けます。曲の流れを踏まえていい具合に力が抜け続けているのがポイントでしょう。そしてそのまま終楽章に入ります。この3曲の結びのように華麗なメロディーが明るく鳴り響き、それにヴァイオリンとチェロがいい具合に寄り添います。展開部でアーティスティックに振りますが、最後はリラックスして爽やかに終えます。

トリオ・ヴィエナルテによるハイドンの傑作ピアノトリオ集、ライヴ感あふれる見事な演奏でした。際立つのはアンサンブルとしてのまとまりの良さ。全員が腕利き揃いなのに加え、室内楽としての呼吸がピタリと合って絶妙の演奏。セッション録音ながらライヴ収録と言われてもわからないくらいの活き活きとした表情が魅力の演奏です。これはウィーンを同郷とする同世代の女性のトリオだからでしょうか。残念なのはこのアルバムともう一枚のブラームス以外にアルバムがリリースされていないこと。これだけの才能を持つトリオゆえ、ぜひハイドンの録音ももう少し期待したいところです。評価は3曲とも[+++++]と致します。

湖国JHさん、今回もいきなりいいアルバム、ありがとうございます!

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tag : ピアノ三重奏曲 美人奏者

【新着】タマール・ベラヤのピアノソナタXVI:37(ハイドン)

今日は久々の女流ピアニストのアルバム。

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タマール・ベラヤ(Tamar Beraia)のピアノによる、ハイドンのピアノソナタ(Hob.XVI:37)、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ第10番(Op.14-2)、シューマンの謝肉祭(Op.9)、リストのメフィストワルツ第1番、バッハ(ブゾーニ)のシャコンヌ(BWV.1004)の5曲を収めたアルバム。収録は2013年11月15日から17日にかけて、ミュンヘンのバイエルン放送第1スタジオでのセッション録音。レーベルはバイエルン放送のBR KLASSIK。

モノクロームのアーティスティックなジャケットが印象的なアルバム。もちろんハイドンのソナタが含まれている若手ピアニストのアルバムということで注文したものですが、調べてみるとこのアルバム、このピアニストのデビューアルバムのようです。

タマール・ベラヤは1987年、黒海の東、トルコの北隣のジョージア(グルジア)の首都トビリシ生まれのピアニスト。録音当時26歳ということで、ピチピチの若手ピアニストということになります。ジャケットの写真はあえてアイドル路線とはしていませんが、彼女のサイトを見ると、かなりの美貌の持ち主。日本だったら完全にアイドル系で売り出すところでしょうが、そこは成熟市場のヨーロッパだけあって、実に堅実なプロダクションに仕上がっています。オフィシャルサイトにはこのジャケット写真とは雰囲気を異にする、これまたアーティスティックなベラヤの写真が多数掲載されています。

Tamar Beraia Offical Website

略歴にも触れておきましょう。音楽一家に生まれ、5歳から母にピアノの教えを受け、1997年に早くも10歳でリトアニアで開催されたバリス・ドヴァリオナス(Balys Dvarionas)国際ピアノコンクールで1位、2000年にはロシアで開催されたハインリッヒ・ノイハウス(Heinrich Neuhaus)国際ピアノコンクールで1位となり才能が開花します。その後パリアシュビティ(Z. Paliaschwili)音楽学校、トビリシ国立音楽院と長らくジョージア国内で教育を受けてきて、最後はルツェルン音楽アカデミーでイヴァーン・クラーンスキーに師事。現在はスイスに活動拠点を置いています。

タマール・ベラヤのハイドン、ジャケットのアーティスティックなイメージそのままの演奏でした。

Hob.XVI:37 Piano Sonata No.50 [D] (c.1780)
少し遠めにかっちり硬質なピアノがくっきり定位します。現代音楽にも通じるようなシャープなタッチですが、テンポを揺らしながら曲が進むとハイドンらしい諧謔性と機知を感じさせるようになります。さりげない表情のなかからほのぼのとした雰囲気をうっすらと感じさせる、なかなか高度な芸術表現。音階がだんだん複雑に絡み合うようになると、タッチのキレで徐々に鮮やかなテクニックの持ち主とわかってきます。硬質なピアノの音色が表情を引き締めます。
ぐっときたのがつづく2楽章。テンポをかなり落として、冒頭から深い音楽に引き入れられます。1楽章のシャープな表情から一転して深淵な表情に。ゆったりとしながらもどこか冷徹さもあり、現代音楽風の緊張感も漂います。
その淵に光が射すように明るい表情のフィナーレに入ります。この楽章間の鮮やかな変化のセンスは鳥肌もの。シンプルなメロディーによる明朗な音楽ですが、淵からの変化であるところにハイドンの音楽の素晴らしさがあることを知りぬいたような演奏。アムランのハイドンに宿る鋭敏な感覚とは少し異なりますが、若いタマール・ベラヤのデビュー盤にも同種の閃きを感じます。

このアルバムのプログラム構成はデビュー盤としてはかなり意欲的なもの。実は演奏の難しいハイドンから入り、ベートーヴェン、シューマン、そしてリストを挟んでバッハのシャコンヌと、センスも抜群。どの曲もハイドン同様、奏者の立ち位置が明確な演奏で、それぞれの作曲家の真髄にさらりと触れる演奏。この人、大物かもしれませんね。鮮鋭度は差がありますが、音楽の造りはクレーメルを想起させるものがあります。これからが楽しみなピアニストですね。ハイドンの評価は[+++++]とします。

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イルムガルト・ゼーフリートのカンツォネッタなど(ハイドン)

ゼーフリートの追っかけ的記事をもう一本。

SeefriedOrfeo.jpg
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イルムガルト・ゼーフリート(Irmgard Seefried)のアリアや歌曲の1944年から1967年までの録音を集めた4枚組のアルバム。この中にハイドンのアリア「情け深い人は」Hob.XXIVb-13(F.ビアンキの「インドのアレクサンドロス大王」への挿入曲、英語によるカンツォネッタ集から3曲が収められています。アリアはレオポルド・ルートヴィヒ(Leopold Ludwig)指揮のウィーン交響楽団の演奏で1944年10月、ウィーンのムジークフェライン・ザールでの録音。カンツォネッタ3曲はエリック・ウェルバ(Erik Welba)のピアノ伴奏で、1956年1月、ザルツブルクのモーツァルテウムでのオーストリア放送の録音。レーベルはORFEO D'OR。

このアルバムは、先日取り上げたゼーフリートの歌う天地創造のアルバムの記事を書いている時にゼーフリートのディスコグラフィを調べていて発見したもの。もちもとヨーゼフ・クリップスつながりでゼーフリートにつながり、そしてこのアルバムにつながったという流れです。天地創造のアルバムも発見と同時に注文。そしてこのアルバムも同じく発見と同時に注文ということで、短期間に未聴のハイドンの名演奏が3組つながった次第。いやいや世の中便利になりました。このへんのつながりについては前記事を御覧ください。

2015/10/31 : ハイドン–オラトリオ : ゼーフリート/クリップス/ウィーンフィルの天地創造から(ハイドン)

さて、このORFEOのゼーフリートの録音集ですが、ハイドンばかりでなくモーツァルト、ベートーヴェンからプッチーニ、ワーグナー、リヒャルト・シュトラウス、ムソルグスキーなどの曲が含まれています。特にモーツァルトのアリアは、カラヤン、フルトヴェングラー、ワルター、ベーム、ライトナー、アンセルメなどの名指揮者の振るウィーンフィルなどの有名オケの伴奏と超豪華な布陣。CD2の冒頭に置かれた1947年録音のカラヤン/ウィーンフィルとの「フィガロの結婚」のケルビーノのアリアはこれまでこのアリアでも最も芳しい歌唱でノックアウト! 憧れのゼーフリートの絶頂期の素晴らしい歌声にとろけそうです。1952年のフェルディナント・ライトナーとの「羊飼いの王様」のアリアはライトナーの沁みる伴奏にゼーフリート絶唱! そして1953年のワルター/ニューヨークフィルとの「エクスラーテ・ユビラーテ」など、ハイドンのレビューの前にメルトダウン。いやいやこのアルバム、ゼーフリートファンには宝物のようなアルバムです。ちなみにハイドンのうちカンツォネッタ3曲はこのアルバムが初出とのこと。

Hob.XXIVb:13 Aria di Errisena "Chi vive amante" for Bianchi's "Alessandro nell'lndie", Act 1 Scene 5 「情け深い人は」ビアンキの歌劇「インドのアレクサンドロス大王」への挿入曲 [B] (1787)
4枚組のCD1の冒頭に置かれた曲。どこかで聴いた曲だと思ったら、ヌリア・リアル盤、ベルガンサ盤に収録されていて、どちらもレビューしてました。この曲はハイドンの書いたアリアの中でも指折りの美しいメロディーの曲。冒頭から癒しが満ち溢れます。

2010/11/06 : ハイドン–オペラ : ヌリア・リアルのオペラ挿入アリア集
2010/11/03 : ハイドン–オペラ : ベルガンサのオペラアリア集

レオポルド・ルートヴィヒの振るウィーン響が実にしなやかな伴奏。ゆったりとした序奏に乗ってゼーフリートもゆったりと入ります。もちろんモノラルながら1944年とは思えないしっかりとした響き。ノイズも気になりません。流石ORFEOの技。神々しくもある非常に美しいメロディーをゼーフリートの芳しいソプラノが朗々と歌い上げていきます。ゼーフリート31歳の声の輝きが眩しいですね。至福の時間。5分くらいのこの短い曲1曲でもこのアルバムを手にいれる価値があります。オケも実に慈しみ深い響きで名サポート。アルバムの冒頭でいきなり昇天。

Hob.XXVIa:34 6 Original Canzonettas 2 No.4 "She never told her love" 「彼女は決して愛を語らなかった」 [A sharp] (1795)
カンツォネッタから有名な曲。カンツォネッタ3曲はCD3の冒頭に置かれています。非常に美しいメロディーの曲。ゼーフリートはハイドンの歌曲のなかでもメロディーの美しい曲を厳選して録音していることになります。ピアノのエリック・ウェルバは1913年生まれのドイツのピアニスト。ゼーフリートをはじめとしてペーター・シュライアーやニコライ・ゲッタの伴奏を長らく務めた人。流石に伴奏のプロ、ゆったりと濃密な音楽で、歌手が歌いやすいように気配を整えます。序奏からゆったりとドラマティック。すでに序奏で詩情がにじみ出てきます。ゼーフリートの歌は残念ながら他の録音ほど輝きを感じず、ゆったりと朗々とした歌唱ながらも、もう一歩の起伏が欲しいところ。

Hob.XXVIa:35 6 Original Canzonettas 2 No.5 "Piercing eyes" 「見抜く目」 [G] (1795)
2分弱の短い曲。ウェルバのしっとりとしたピアノは変わらず、ゼーフリートは高音を転がしながらこの曲を歌うことを楽しむよう。

Hob.XXVIa:41 "The Spirit's Song" 「精霊の歌」 [f] (c.1795)
ハイドンの歌曲の中ではもっとも暗澹とした曲。やはりゼーフリートの選曲眼の鋭さを感じます。この曲でもウェルバの饒舌なピアノが心に刺さります。ゼーフリートは安心してゆったりとピアノに乗って歌います。ゼーフリートの美声は楽しめるものの、歌自体に潜む魂のようなものにあと一歩届いていないかもしれません。この3曲でゼーフリートの声が少々平板に聴こえてしまうのはもしかしたら歌曲にしては少々デッドな録音のせいかもしれません。

ゼーフリートのハイドンの録音を探して辿り着いたこのアルバム。アルバムの冒頭に置かれたビアンキのオペラへの挿入曲はゼーフリートの素晴らしさを存分に味わえる録音。そして歌曲の方はこれまでリリースされていなかった理由があるような気がします。綺羅星のように輝くゼーフリートのアリアの数々を知る人にとって、ちょっと化粧乗りの悪いゼーフリートは見たくないかもしれません。もちろん歌唱は素晴らしいものなのですが、ゼーフリートの絶頂期の、あの芳しく可憐で胸躍るアリアの魅力からはちょっと差がついているということです。いずれにせよ、ハイドン以外も含めてゼーフリートファンの方は絶対手にいれるべき素晴らしい価値のあるアルバムと言っていいでしょう。ハイドンの評価はアリアは[+++++]、歌曲3曲は[++++]としておきます。

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ゼーフリート/クリップス/ウィーンフィルの天地創造から(ハイドン)

月末ですが、もう一つ小物をとりあげます。先日取り上げたヨーゼフ・クリップスとウィーンフィルの交響曲を取り上げた際に、ネットのディスコグラフィを調べていて発見したアルバム。

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新星堂とEMIによる”栄光のウィーンフィルハーモニー管弦楽団II~その指揮者とソリストたち~”というシリーズの第24集の「ウィーン国立歌劇場の名歌手たち」というアルバム。この中に「天地創造」からガブリエルのアリアを2曲が入っています。ガブリエルはイルムガルト・ゼーフリート(Irmgard Seefried)、ヨーゼフ・クリップス指揮のウィーンフィルの演奏。このアリアの演奏は1946年11月3日、4日です。

先日クリップスの振るウィーンフィルの素晴らしいハイドンに酔いしれましたが、冒頭に書いたとおり、他に録音がないかと調べていたところ、驚くべき録音が存在することがわかりました。ハイドンはハイドンでも天地創造であり、しかもガブリエルが好きなイルムガルト・ゼーフリート! アリアの抜粋とはいえ録音は1946年と戦後間もなく。録音が古いのが嬉しいのではなく、ゼーフリートのハイドンの中では一番若い時の録音ということで、ネットで発見して、マイクロセカンド単位の早業でamazonに注文を入れました。到着がこれほど待ち遠しいアルバムはありませんでした。

これまでゼーフリートの歌うハイドンは2度ほどレビューしていますが何れも天地創造。

2011/09/22 : ハイドン–オラトリオ : オイゲン・ヨッフム/バイエルン放送交響楽団の天地創造ライヴ-2
2011/09/20 : ハイドン–オラトリオ : オイゲン・ヨッフム/バイエルン放送交響楽団の天地創造ライヴ
2011/02/20 : ハイドン–オラトリオ : マルケヴィチ/ベルリンフィルの天地創造、ゼーフリート絶唱

マルケヴィチのアルバムでのゼーフリートのガブリエルのアリアを聴いたときの衝撃は忘れられません。アリアの音程がゆっくりと上がるのに合わせてこちらも昇天。この世のものとは思えない美しさに完全にノックアウトされました。この録音が1957年ということでゼーフリートは44歳、そして次に手にいれたヨッフムのアルバム1951年録音、ゼーフリート38歳。若干古目の録音からも可憐で艶やかなソプラノに痺れたものです。そして今回のアルバムは1946年録音ということでゼーフリート33歳。ちょっと平常心を失い気味です(笑)

このアルバムに収録されているのは第1部のガブリエルの第7曲のレチタティーヴォと第8曲のアリア、そして第2部冒頭の第14曲のレチタテイーヴォと第15曲のアリアです。

Hob.XXI:2 "Die Schöpfung" 「天地創造」 (1796-1798)
(Recitativo: Und Gott sprach, Aria: Num beut die Flur)
LPから起こしたものでしょうか、わずかながらスクラッチノイズが聞こえますが、音の鮮度は悪くありません。レチタティーヴォから憧れのゼーフリートの若々しい声にうっとり。かえってノイズがノスタルジックな雰囲気を盛り上げます。ガブリエルのアリアに入ると序奏からクリップスはかなりゆっくり目のテンポでウィーンフィルからゆったりとした響きを引き出しています。それに合わせてゼーフリートも朗々とアリアを歌います。ゆったりとした静けさの支配するアリア。マルヴィッチとの歌唱は成熟した魅力に溢れていましたが、こちらは若々しく可憐な印象。声の伸びはマルケヴィチ盤ですが、この清純な感じもいいですね。最後にすっと突き抜ける高音の魅力を聴かせます。

(Aria: Auf starkem Fittige)
第二部の冒頭の序奏から入ります。クリップスは相変わらず落ち着いてウィーンフィルを捌きます。しっとりとした響きが古きよきウィーンフィルの良さ。ゼーフリートは声量を抑えて可憐に入ります。歌のテクニックは後年のものには敵いませんが、持って生まれた声の美しさで聴かせるもの。憧れのゼーフリートですが、アリアの聴かせどころの演出などは、まだまだ工夫の余地があり、やはりマルケヴィチ盤の素晴らしい完成度、ヨッフム盤の声の輝きとは一段差がありました。

若かりしゼーフリートの美声を味わえる貴重なアルバム。よくぞこのアルバムを企画してくれました。このアルバム自体は1998年のもので、リリースから17年も経ってしまったことになります。戦後のウィーンの時代の空気を味わったような暖かい心になるアルバムでした。ちなみに他にもエーリッヒ・クンツのレポレッロ、シュワルツコップのトゥーランドットなど1940年代後半の華やかなウィーン国立歌劇場のアリアを楽しめる好企画です。ハイドンのアリアは[++++]としておきましょう。

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ジュリエット・ユレル/エレーヌ・クヴェールによるフルートソナタ集(ハイドン)

涼しくなってきたので、室内楽をのんびり楽しみます。

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ジュリエット・ユレル(Juliette Hurel)のフルート、エレーヌ・クヴェール(Hélène Coubert)のピアノによる、ハイドンのフルートソナタ3曲を収めたアルバム。フルートソナタはそれぞれ弦楽四重奏曲Op.76のNo.6、Op.77のNo.1、Op.74のNo.1を編曲したもの。収録は2005年2月7日から11日、パリ11区のボン・セクール教会でのセッション録音。レーベルはHarmonia Mundi系列のZIGZAG。

このアルバムも湖国JHさんから貸していただいているもの。ハイドンのフルートソナタということで、ハイドン好きな方でも、ピンと来る人はなかなかいないでしょう。原曲は上で触れたとおり弦楽四重奏曲ですが、ハイドンの生きていた時代、フルートはアマチュア音楽家に絶大な人気のある楽器であり、そうしたフルート人気にあやかり有名曲をフルートで演奏するための編曲は相次いでいたとのことで、今日取り上げるフルートソナタもその流れで編曲出版されたものと推察されます。当ブログでもこれまでフルートソナタの演奏は一度取りあげています。フルートの流行に関する記述もありますので関連する記事も取り上げておきましょう。

2011/04/20 : ハイドン–室内楽曲 : 佐藤和美とバティックのフルートソナタ
2011/04/09 : ハイドン–室内楽曲 : 2011/04/09 : ハイドン–室内楽曲 : フルート四重奏による太陽四重奏曲

このアルバム、ジャケットからわかりませんが、奏者は美人ぞろい。敢えてアイドル系の造りにしないところにレーベルの見識を感じます(笑)

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写真左のフルートのジュリエット・ユレルははじめて聴く人。パリ国立高等音楽院でフルートと室内楽で1等を受賞した他、ダルムシュタット、神戸、ブカレスト、ジャン=ピエール・ランパルコンクールなどの国際コンクールで優勝しているそう。主にヨーロッパと日本で活動しているということで、東京都交響楽団などとも共演しているようですね。
写真右のピアノのエレーヌ・クヴェールは以前、同じZIGZAGレーベルからリリースされているピアノソナタの演奏を取りあげています。

2010/08/24 : ハイドン–ピアノソナタ : エレーヌ・クヴェールのピアノソナタ

クヴェールの情報は上の記事をご参照ください。

Hob.III:80 / String Quartet Op.76 No.6 [E flat] (1797)
落ち着き払った自然な入り。もともとの弦楽四重奏は4楽章ですが、メヌエットを省いて3楽章としています。この辺はピアノトリオが3楽章構成だったということに由来するのでしょうか。ただ弦楽四重奏のタイトな魅力はフルートとピアノという楽器に置き換わることで、華やかな響きになります。フルートもピアノも実に自然な響き。HMV ONLINEの情報によれば、楽器はフルートがベーム式木製フルート、ピアノは1903年製エラール・ピアノということで、現代楽器よりは少々素朴な響きに聴こえます。女性奏者らしい自然な鮮度の高さを感じさせる演奏。特にクヴェールのピアノの弱音部の美しい響きはぐっと来ます。現代楽器とフォルテピアノいいところを合わせたようなデリケートな響き。無理に楽器を鳴らさず、控え目に響かせることで、心地よい響きが生まれます。残響を多めに録った録音も響きの良さを引き立てています。クァルテットのように音楽に正対して聴くというより、のんびりと楽しむように促されます。
2楽章に入ると穏やかな響きと余韻が一層しなやかになり、原曲とは異なる魅力を発散します。今度はユレルのフルートが艶やかに歌います。ユレルも弱音のコントロールが実に繊細。ゆったりと流れる音楽に引き込まれ、我を忘れるよう。
フィナーレでは2人のアンサンブルの正確さにあらためて気づかされます。セッション録音とはいえ、このリズムの刻みの見事さは流石。特にユレルのフルートの音階のキレの良さはトランス状態になりそうなほど。2人とも腕利きぞろいであることがわかります。軽さとキレはハイドンのフィナーレのポイントです。1曲目から脱帽です。

Hob.III:81 / String Quartet Op.77 No.1 [G] (1799)
聴き慣れたメロディーがフルートピアノにによって新鮮に響きます。弦楽器のストイックな印象とは異なり、フルートピアノの転がるように艶やかな響きがこの曲にはより合う感じ。音量を上げて聴くと、広い空間で2人がのびのびと演奏しているようすが手に取るように伝わります。すっと抑える部分が実に効果的。非常に緻密なデュナーミクのコントロール。ユレルはクヴェールのピアノ伴奏に安心して乗っているようで、2人の息の合った演奏は実に魅力的。ハイドンの創意の真髄に近づくというよりはハイドンの美しいメロディーを存分に楽しんでいるよう。これも音楽、これも再現といっていいでしょう。
アダージョは前曲同様、音楽が美しい響きに溶け込み、幸せに包まれるよう。ユレルの緊張感は途切れず、キレ味鋭いまま。ゆったりとした音楽ですが起伏は大きく迫力もかなりのもの。ここから生まれる音楽の価値を知れと言われているよう。
フィナーレはまさに転がるように進む音楽。

Hob.III:72 / String Quartet Op.74 No.1 [C] (1793)
最後の曲はこの2人の演奏に馴れた耳で聴きます。曲ごとのアプローチの差はなく、どの曲もじっくり噛み砕いて取りあげますので、聴く方も安心して身を任せることができます。フルートもピアノもキレ味は変わらず、どんな曲がこようとも揺るぎない姿勢で望もうとの気合いを感じます。まるでこれが原曲であるが如き説得力があります。2楽章は曲想がソロの部分が多い分、孤高の表情も聴かれこのアルバムの白眉といった印象。それぞれの楽器のソロのような完成度。フィナーレに入ってハッとしますが、まさに自分の部屋に2人奏者が来て演奏しているようなリアリティ。この臨場感はリアルな録音によって感じられるもの。研ぎすまされた奏者の息吹を至近距離で浴びるような素晴しい録音です。

3曲とも素晴しい安定感で、ムラは皆無。この緊張感の持続は素晴しいものがあります。自宅が響きの良いホールになったような錯覚さえ感じさせる素晴しいリアリティ。ジュリエット・ユレルとエレーヌ・クヴェールという美人デュオが聴かせるハイドンの名旋律。アイドル系の演奏というには完成度高過ぎで、やはり本格的な室内楽のアルバムと言っていいでしょう。ハイドンのオリジナルであるかどうかといったことは全く気にせず、音楽の面白さを純粋に楽しめる名盤といって良いでしょう。評価は全曲[+++++]と致します。

湖国JHさんも美人デュオの演奏ににんまりしていた事でしょう(笑)。室内楽好きな皆さん、オススメです。

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絶品 ラグナ・シルマーのピアノソナタ集(ハイドン)

すでにドイツは優勝してしまいましたが、ドイツ国歌がらみでもう一枚。

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ラグナ・シルマー(Ragna Schirmer)のピアノによるハイドンのピアノソナタなど9曲を収めた2枚組のアルバム。曲目は各曲のレビューをご覧下さい。収録は2007年8月1日から9日にかけて、ドイツのライプツィヒ近郊のハレ(ザーレ)のフランケ財団スタジオでのセッション録音。レーベルは独BERLIN Classics。

ラグナ・シルマーのハイドンはこれが2セット目で、最近ようやく手に入れたもの。手元には同じくBERLIN Classicsによる1995年録音の2枚組のアルバムがあり、それがなかなか良かったので探していたもの。

ラグナ・シルマーは1972年、ドイツのハノーファーの南にあるヒルデスハイム(Hildesheim)生まれのピアニスト。容姿端麗、人気ピアニストのようでBERLIN Classicsからは10枚以上のアルバムがリリースされています。幼少のころから才能が開花し、すでに9歳でピアノコンクールに優勝したそう。また、ライプツィヒで開催されている国際ヨハン・セバスチャン・バッハ・コンクールに1992年と1998年の2度優勝しているという経歴の持ち主。おそらくデビュー盤はバッハのゴールドベルク変奏曲で、このアルバムが話題となって広く知られるようになったということです。

最近印象にのこった女性ピアニストのハイドンといえば、ダリア・グロウホヴァのショパンのように詩的なハイドン。ラグナ・シルマーのハイドンはかなり正統的なもの。清透な清水の流れのような透明感溢れる響きが特徴。タッチのキレも良く、ハイドンのソナタをフレッシュに再生して弾いているような演奏。甘いマスクに華麗な経歴の持ち主のラグナ・シルマーのハイドンのソナタ集の第2弾、曲ごとにかいつまんでレビューしておきましょう。

Hob.XVI:37 / Piano Sonata No.50 [D] (c.1780)
挨拶代わりといった配置でしょう。1楽章の演奏はアルゲリッチの鬼気迫るようなキレではなく才女のキレのような印象。快活なリズムを刻んで行きます。ドラマティックな2楽章のラルゴも、ぐっと音楽は沈み込みますが、さらりとした爽やかな余韻の残るもの。そしてフィナーレもヴォルビックの口当たりのようななんともいえない透明感をはらみます。ハイドンのソナタの面白さを爽やかにまとめた演奏。

Hob.IX:11 / 12 Menuets arranged for clavier "Katharienentänze" "Redout Menuetti" (1792)
次の曲は12のメヌエットですが、4曲づつに3分割されて、ソナタの間に配置するという珍しい構成。全曲で透明感を基調とした響きで魅せたシルマーですが、このメヌエット集では、ゆったりと語るように曲を置いていきます。くだけたタッチで曲のメリハリを描くだけでなくどこか儚い色気が滲むあたりが流石です。

Hob.III:77 / String Quartet Op.76 No.3 "Kaiserquartetett" 「皇帝」 [C] (1797)
もちろん、2楽章の「神よ、皇帝フランツを守り給え」の変奏曲。意外に訥々と入ります。磨かれた表現というよりむしろ枯れた表現と言っていいでしょう。枯れた印象のなか右手の音階のきらめきの美しさをさりげなく感じさせます。変奏を聴き進むうちにシルマーの自然体のアプローチに引き込まれます。ピアノの美しい響きで純粋に聴かせる音楽。ドイツ国歌のメロディーが次々に変化を遂げ、音楽の芯がしっかりと響きながら力がすっと抜けて行くあたり、素晴しいコントロール。

つづいて先の12のメヌエットの中間の4曲を挟みます。

Hob.XVI:49 / Piano Sonata No.59 [E flat] (1789/90)
1楽章のリズムと展開の面白さが印象的な曲。タッチの上品なキレはやはりシルマーの特徴でしょう。この曲には名演盤が多いですが、シルマーの演奏は、バランスよく曲をまとめながら、タッチ、リズム、アクセントに微妙にアイデアがあり、しかも音楽が自然にながれるというところ。かなり玄人好みの演奏です。決して凡庸な演奏ではありません。2楽章のアダージョ・カンタービレでは、右手の美しいタッチをさりげなく際立たせながら、音楽は深く沈んでいくというなかなかの表現。そしてフィナーレでは軽やかなリズムの跳躍から少しづつ重みを増して行くあたりの微妙な変化が味わえます。

CD2に移ります。

Hob.XVI:47bis / Piano Sonata No.19 [e] (c.1765)
シュトルム・ウント・ドラング期まで遡る曲。冒頭のアダージョはぐっと沈み込むメロディーライン。その反動のように堂々としたアンダンテ。この対比を自然な流れを保ちながら表現。これは上手い。リズミカルなアンダンテになぜかほんのりと陰りがあり、音楽が深い。そして、実に自然なフィナーレへの展開。なにも迷いのない純粋な心境で弾いているのでしょう。さりげない演奏なのにゾクッとします。

Hob.XVII:5 / Tema con 6 variazioni "Faciles et agreables" 「やさしく快適」 [C] (1790)
有名なアンダンテと変奏曲(Hob.XVII:6)の一つ前の番号の演奏曲。落ち着いた主題が提示されたあと、そのテーマの6つの変奏が続きます。メロディーの変化だけではなく、タッチをかなり明確に変えて奏でられます。最初の変奏ではメロディーが複雑になり、次の変奏でテンポを上げ、さらに次の変奏で左手のタッチが冴え、こんどはゆったりとテーマを噛み締めるような変奏、そしてさらに沈み込み、最後は華麗、壮麗な変奏で結びます。この変奏ごとのタッチの変化が鮮明で聴き応え十分。基本的なテクニックの高さを見せつけます。

このあと12のメヌエットの最後の4曲が続きます。

Hob.XVI:11 / Piano Sonata No.5 [G] (1750's)
2楽章のアンダンテのみの演奏。ここだけ取り出して弾くと、まるでバッハのようなアンダンテ。短い曲ですが、神々しささえ感じる演奏。

Hob.XVII:10 / Allegretto [G]
音楽時計の曲から編曲された小曲。途中から時計のリズムのような不思議な伴奏が独特の雰囲気を醸し出します。こうしたさりげない小曲を、さりげなく深い印象を残すあたり、やはり流石な手腕です。

Hob.XVI:48 / Piano Sonata No.58 [C] (1787/9)
最後は有名曲。音の間に詩情が宿る、シルマーの美点が良く出た演奏。クッキリとメロディーの芯をきらめくような音で描き、また、ピアノの響きが消え入る瞬間の美しさでも聴かせるなど、かなりコントラストをハッキリつけた演奏が秀逸。このスリムなのに陰影の深い美しさはなかなか出せるものではありません。ピアノ音の厚さは男声ピアニストには敵いませんが、逆に凛としたメロディーの粒立ちとデリカシーは女性ピアニストならでは。2楽章のロンドもスリムな音色で実にクッキリと音楽を聴かせ、終盤左手のアタックでは、ピアノを鳴らしきる迫力も垣間見せます。聴けば聴くほど味わい深い演奏ですね。

ラグナ・シルマーによるハイドンのピアノソナタなど9曲を収めた2枚組のアルバム。最初はかいつまんで数曲取りあげて終わろうかと思っていましたが、聴き進むうちにシルマーの魅力に引き込まれ、全曲じっくり聴く事になりました。一聴すると小綺麗な演奏という印象でしたが、良く聴くと実に深い演奏。さっぱりとした雰囲気ながらクッキリと彫り込まれたメロディーに、ピアノの美しい余韻を織り交ぜ、しかもかなり表情をつけながらくどくならないセンスも持ち合わせています。洗練されたハイドンのソナタです。これは聴き応え十分。ハイドンのピアノソナタをじっくり味わうに足る素晴しいアルバムです。評価は全曲[+++++]としました。

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プロフィール

Daisy


Author:Daisy

なぜかハイドン(Franz Joseph Haydn)が特に気に入り膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。東京在住のごく普通のサラリーマンです。

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2017年7月のデータ(2017年7月31日)
登録曲数:1,361曲 登録演奏数:10,291
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