【新着】ダリア・グロウホヴァのハイドンのピアノソナタ集第3巻(ハイドン)

ショパンのようにハイドンを弾く人、ダリア・グロウホヴァのソナタ集の3枚目がリリースされました。

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ダリア・グロウホヴァ(Daria Gloukhova)のピアノによる、ハイドンのピアノソナタ5曲(Hob.XVI:6、XVI:34、XVI:14、XVI:40、XVI:37)を収めたアルバム。このアルバムのタイトルは「ハイドンのお気に入りのソナタ」。収録は2012年11月、これまでの2枚と同じ、モスクワ議会議事堂のラジオ放送収録第1スタジオでのセッション録音。レーベルは米CENTAUR。

短期間に3枚リリースされ、今回のアルバムも有名曲を集めたものではないことことを考えると、もしかして全集を企てているのでしょうか。

2013/12/30 : ハイドン–ピアノソナタ : 【新着】ダリア・グロウホヴァのハイドンのピアノソナタ集新盤(ハイドン)
2013/12/02 : ハイドン–ピアノソナタ : 【新着】ダリア・グロウホヴァのピアノソナタ集(ハイドン)

いずれにせよ、ハイドンのピアノソナタに新風を吹き込むグロウホヴァの新盤は気になるものということで、迷わずゲットし、迷わずレビューと言う流れです。

Hob.XVI:6 / Piano Sonata No.13 [G] (before 1760)
ごく初期のソナタ。4楽章構成。いつものように軽やかな入り。テンポを自在に動かし、サラサラとメロディーを置いていきます。いつものようにまさにショパンを弾くような詩情が溢れます。ハイドンの古典的な美しいメロディーと簡潔な構成の曲に花の香りをまぶしたような華やかさ。きらめくような高音の音階、疾走するような鮮やかなパッセージとふと力を抜いた間のコントラストが絶妙ですね。リズムを強調せず流すように弾いていくことでメロディーの美しさと構成の面白さをさらりと表現しています。
すっとメヌエットに入り、しっとりと落ちついた景色が広がります。中間部は敢えてすこし刺激を残すようなアクセントを織り交ぜ、ふたたび癒されるようにしっとりとした音楽に戻ります。さりげない変化が音楽を豊かにしています。
お気に入りのソナタというタイトルに偽りなし。このアダージョのデリカシーに富んだタッチは曲の魂に近づいたような渾身の演奏。なんと澄みきった音楽。なんとデリケートなタッチ。この初期のソナタの楽譜からこれほどの香しい音楽が流れ出そうとは。
フィナーレは広がった癒しを片付けるようにさらりと表情を変え、聴くものの脳に創意というものを教えるような機転。軽やかに進むメロディーの純粋に音楽的な響きに安堵。

Hob.XVI:34 / Piano Sonata No.53 [e] (c.1782)
一転してだいぶ後の時代の有名なソナタ。この曲はブレンデルのアルバムの冒頭に置かれていたので、ブレンデルの演奏で刷り込まれたもの。やはりブレンデルの骨太な楽興とはことなり、速めのテンポで力感ではなく流れの良さで聴かせる。ブレンデルがそば粉の噛見応えで聴かせるのに対し、グロウホヴァはそうめんの喉越しで聴かせているよう(笑) このソナタに込められたしなやかな流れの部分にスポットライトを当てて、これまでのこのソナタのイメージとは違った余韻を残します。
アダージョは流れの良さを出そうとしているのか、かなり速めのテンポで入りますが、この速めのテンポでメロディーの一音一音が天の川のきらめきのようなきめ細かな音のシャワーのようになって降り注ぎます。満天の星空を眺めるような澄みきった心境になります。終盤の起伏も迫力ではなくドラマティックに間をとります。
フィナーレはやはりきらめくようなメロディーの美しさが際立ちます。美しいタッチから生まれる控えめな推進力と響きのデリケートな変化。この繊細なニュアンスのコントロールこそグロウホヴァの真骨頂でしょう。この曲をリズムと力感で聴かせる演奏が多かったのでグロウホヴァのさらりとした演奏になじめないかと思いきや、聴いてみると、すっと心に染み込みました。

Hob.XVI:14 / Piano Sonata No.16 [D] (early 1760)
再びごく初期のソナタ。最初の1音の醸し出す癒しにいきなりノックアウト。この音色の感覚、冴え渡っています。千変万化する響きの魅力にやられっぱなし。指一本一本のタッチのコントロールの繊細さに驚きます。この記事を書きながらジャケット写真に目をやると、こちらの心に灯をともすようなグロウホヴァの視線にぐらっときます(笑) なんでしょう、この豊かな音楽。ハイドンのソナタのハイドン自身が書いた音楽に魔法をかけ、妖艶な魅力を与えてしまったよう。フォルテピアノの時代に書かれた音楽が、現代の艶やかなピアノの音色で、艶かしく、そして突き抜けるように清透な響きを帯びて流れていきます。繰り返し奏でられるメロディーが麻薬のように脳の癒し中枢を麻痺させていきます。
続くメヌエットは足早に。流れる音階の快感。そして時折きらめき、時折慌てながら、ハイドンのメヌエットのメロディーと構成の面白さを早送りで見せるような機転。この辺の演出の上手さも唸らされるところです。
フィナーレはメヌエットの流れを受け、早送りのイメージを引き継ぎます。やはり曲を完全に読みこなしてこそのアプローチでしょう。

Hob.XVI:40 / Piano Sonata No.54 [G] (c.1783)
初期のソナタと後年のソナタを交互に配置しているのですね。1783年頃作曲された2楽章構成のソナタ。長調のソナタなんですがすぐに短調に変わる光と影をあらわすような曲調。今までの曲のなかでは一番あっさりとした入り。初期のソナタに素晴しく豊かなニュアンスを与えたのに対し、このソナタでは少し枯れたような表情を垣間見せます。右手と左手のメロディーをすこしずらして聴かせるなど、はっとさせられる部分もあり、この曲ではすこしアプローチがこれまでと変わったようです。豊かなニュアンスを耳が期待しますが、逆に高音の透明感と良く響くピアノの響きの複雑さが聴こえてきます。
プレストに入ると鮮やかなタッチで活き活きとした音階を奏で、特に右手のキレの良い隈取りが音楽に輝きを与えます。2楽章構成のこの曲想に合わせて、響きのデリケートさよりも透明感のある軽やかなキレを聴かせたかったようです。

Hob.XVI:37 / Piano Sonata No.50 [D] (c.1780)
最後の曲は前曲よりも3年ほど遡った1780年頃の曲。アルバムの最後を飾るのに相応しい、色彩感と力感。グロウホヴァ独特の豊かなニュアンスが戻ってきました。速いパッセージなのにタッチのデリケートさと豊かな色彩感が出色。音楽に宿る気配から表情を引き出す鋭い感覚があるのでしょう。一気に弾き進める演奏も多い中、このような速いパッセージでも素晴しく豊かな表情が際立ちます。
つづくラルゴは好きな曲。ゆったりと沈み込む情感が特徴の曲ですが、グロウホヴァは沈み込まず、メロディの美しさを聴かせようとしているのか、フレーズのつなぎ目に間をおかずさらさらと流れる音楽に仕立て上げます。間をおかず軽やかなフィナーレに入りますが、こんどは途中で絶妙にリズムに重さををまぶし、一筋縄ではいかないというところを聴かせます。これも機知。ハイドンが仕込んだのとは異なる機知を織り込んできます。おそらくハイドンが聴いたら、この新しい才能を見抜き、自らの曲に新たな息吹を吹き込むこの奏者を気に入る事でしょう。

ダリア・グロウホヴァのハイドンのソナタ集の3枚目ですが、詩情溢れるグロウホヴァの魅力炸裂の素晴しい出来でした。とりわけ最初の3曲はタッチの繊細さが素晴しい超名演です。アルバムタイトルの「ハイドンのお気に入りのソナタ」に偽りなし。グロウホヴァ自身がソナタの中でもお気に入りの曲を選んで演奏しただけのことはあります。最近の若手ピアニストのなかでもハイドンの演奏にかけては右に出る人がいないほどでしょう。この美貌とこの演奏、ブレイクしそうですね。評価はもちろん全曲[+++++]とします。

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【新着】ダリア・グロウホヴァのハイドンのピアノソナタ集新盤(ハイドン)

先日取りあげたアルバムがとても良かったダリア・グロウホヴァですが、ハイドンのソナタ集の2枚目が届きましたので早速レビュー。

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ダリア・グロウホヴァ(Daria Gloukhova)のピアノによるハイドンのピアノソナタ4曲(Hob.XVI:44、XVI:47、XVI:20、XVI:23)を収めたアルバム。収録は2012年7月、1枚目と同じモスクワ議会議事堂のラジオ放送収録第1スタジオでのセッション録音。レーベルは米CENTAUR。

2013/12/02 : ハイドン–ピアノソナタ : 【新着】ダリア・グロウホヴァのピアノソナタ集

前に取りあげたアルバムもなんだかインパクトのあるジャケットでしたが、こちらも負けず劣らず。前のアルバムが中途半端にツッパっていたのが、今度はだいぶアーティスティックになってきました。グロウホヴァの情報は前記事の方をご覧ください。

グロウホヴァのピアノは、ハイドンなのにまるでショパンを弾くような詩的なもの。さらりと弾き流すようなスタイルから詩情が溢れる演奏。前アルバムが2011年12月の録音だったので、1年経たずに次のアルバムを録音したことになります。

ジャケットには"ESSENTIAL HAYDN"と何やら気になるタイトルがつけられています。「ハイドンの真髄」とでも訳せばいいのでしょうか。ライナーノーツに書かれたグロウホヴァの解説によれば、このアルバムでは第1集とは全く異なるハイドンの世界を描くことを意図しており、短調で書かれたメロディーこそがハイドンの真髄であるというようなことが書かれています。このアルバムには2曲の短調作品の他、へ長調の2曲も中間楽章に印象的な短調の曲が置かれていて、その表現の深さがポイントのようです。若い奏者ながらこうしたアルバムのコンセプトはよく考えられていますね。

果たして、意図通り短調のソナタの深遠な世界が描かれるでしょうか。

Hob.XVI:44 / Piano Sonata No.32 [g] (c.1771)
シュトルム・ウント・ドラング期に作曲された2楽章とも短調の曲。この時期のハイドン独特の憂いに満ちた曲想の名曲。グロウホヴァのしなやかなタッチが活きる曲でしょう。冒頭から力をぬいた独特の柔らかいタッチで、テンポ大胆に揺らしながらいきなり濃い詩情を聴かせます。所々でクッキリしたアクセントを効かせながらも基本的にしっとりと濡れたような表情で音楽を創っていきます。
続く2楽章も切々とメランコリックなメロディーを刻んでいきます。あえて曲想の変わる部分の区切りをぼやかし、曲の構造ではなく、しなやかな変化を聴かせるあたりがグロウホヴァ流。ほのかに明るさを感じさせる部分へのじわりとした変化が深いですね。

Hob.XVI:47 / Piano Sonata No.57 [F] (c.1765)
こちらはシュトルム・ウント・ドラング期直前の作。この曲にはホ短調版(XVI:47bis)もあり、最近の研究ではホ短調版がオリジナルとされているようです。1楽章は非常に穏やかに音階が繰り返されながら曲が進みます。
やはりこの曲は2楽章の短調の美しいフレーズが聴き所と、そう言われてきくと、まさにその通り。シュトルム・ウント・ドラング期の深い深い世界を予感させる、素朴ながら陰りのあるフレーズが重なり、えも言われぬ詩情が浮かび上がります。表現の幅を広げるべく、左手のタッチがめずらしく強靭に変化しますが、すぐに鎮まり興奮の余韻を楽しみます。
フィナーレは対比を鮮明につけるように明るく快活。グロウホヴァも弾むのを楽しむように無邪気に鍵盤上を跳ねているよう。2楽章のきらめくような美しさを引き立てる素晴しい構成が鮮明に描かれました。

Hob.XVI:20 / Piano Sonata No.33 [c] (1771)
ふたたびシュトルム・ウント・ドラング期の、ご存知名曲。私が偏愛する曲であります。この曲はもともと2楽章が聴き所なんですが、言われてみれば1楽章は短調の入りでした。この曲はグロウホヴァの特徴が良く出て、かなりテンポを動かして、自在な演奏。テンポを急に上げたり、下げたりしながら曲の面白さを引き出そうという意図でしょう。淡々と描く名演奏に慣れているからか、最初は違和感を感じましたが、聴き進むうちにグロウホヴァの意図がなじんで、これも悪くないという印象になりました。
続く2楽章は1楽章、穏やかな心境でテンポを揺らしながら、美しいフレーズを奏でていきます。グロウホヴァの手にかかるとフレーズが生き物のように感じられ、しなやかに踊ります。ほどほどの力で音符に潜む曲想を浮かび上がらせながら、独特の詩情を残していきます。
フィナーレは短調から入ります。短調の曲の2楽章にほんのり明るさを感じさせる曲を挟んでいるわけですね。かなり速めのテンポをとりますが、程よくテンポを落とす場面を挟んで、構成感をキチンと保っているのは流石。最後は静かに沈みます。

Hob.XVI:23 / Piano Sonata No.38 [F] (1773)
シュトルム・ウント・ドラング期直後の明解な構成が特徴の曲。1楽章はカッチリ明解な曲調に変わり、暗い時代から時代が変わったような新鮮さを感じさせます。グロウホヴァはここでも緩急自在のスタンスで、曲を自分のペースにしっかり据えます。
短調のアダージョは、これまでの陰りは消え、華やかさを感じさせる短調に変わります。一音一音が磨かれ、まさに宝石のよう。グロウホヴァ流にテンポが変化し、可憐とも言えるような表情が色濃くなってきます。かなりの流麗な展開に、これまで聴いた他の演奏を聴くと、固く聴こえそう。ここでも表情の微妙な変化の移り変わりのきめ細かい綾の美しさが冴え渡ります。明るく明解な1楽章の入りから一転、美しさを極めたアダージョが曲を引き締めます。
この曲でもフィナーレは速めで、千変万化するタッチとテンポの複雑な変化を楽しめと言っているよう。力感のコントロールが秀逸で、特に力を抜く表現がアーティスティックなところ。

ダリア・グロウホヴァのハイドンのソナタ集の2枚目は、短調の美しい曲を集めて、まさにグロウホヴァのしなやかに変化するタッチの面白さと、詩情の濃さを見せつけられた感じ。アルバムの企画意図も冴え、演奏もこれまでのハイドンのソナタの演奏とはひと味違うもの。この若さでこの音楽性は流石です。円熟すればハスキルのような神がかった存在になるかもしれませんね。聴き始めは違和感もちょっとありましたが、聴き進むうちに、グロウホヴァのしなやかなハイドンも気に入りました。評価は全曲[+++++]とします。

ピアノソナタ好きな皆さん、一聴あれ。

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【新着】ダリア・グロウホヴァのピアノソナタ集(ハイドン)

新着アルバムが続きます。リリースされたのは少し前でしたが、HMV ONLINEから最近届きました。

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ダリア・グロウホヴァ(Daria Gloukhova)のピアノによるハイドンのピアノソナタ4曲(Hob.XVI:39、XVI:32、XVI:31、XVI:12)と、ピアノ協奏曲(XVIII:11)のあわせて5曲を収めたアルバム。協奏曲の伴奏はパヴェル・ゲルシュタイン(Pavel Gerstein)指揮の管弦楽団との表記。録音用の臨時編成のオケでしょうか。収録は2011年12月、モスクワ議会議事堂のラジオ放送収録第1スタジオでのセッション録音。レーベルは米ルイジアナ州バトン・ルージュのCENTAUR。

このアルバム、久々にジャケットから怪しい妖気が立ちのぼっております(笑)。アイドル系というには少々個性的なグロウホヴァがほくそ笑む、なかなかインパクトのあるジャケット。

ライナーノーツによると、グロウホヴァは1986年,モスクワ生まれのピアニスト。まだ27歳と言う若さ。ゴルバチョフがソ連共産党書記長に就任したのが1985年、そしてベルリンの壁崩壊が1989年ですので、まさにモスクワは激動のさなかにあった時代に生まれた人。モスクワのチャイコフスキー音楽院で学び、20歳になる2006年からプロの演奏家として活躍しているそうです。ネットを探すと、彼女のサイトがありました。

Russian Pinanist Daria Gloukhova

アルバムは、今日取り上げるアルバムと同じCENTAURから他に2枚リリースされていますが、モーツァルト、フンメル、メンデルスゾーン、グリーグなど、比較的軽めのものが多いようで、このハイドンのアルバムが3枚目。amazonをみると、4枚目もリリースされ、これもハイドンのようです。

アメリカのデキシーランドジャズの聖地、ニューオーリンズに近い街にあるレーベルが、ロシア人の若手ピアニストを起用して、古典の本流ハイドンの曲のレコーディングをモスクワで行うという平和な時代のアルバム。果たしてどのような音楽が流れてくるのか、興味津々です。

Hob.XVI:39 / Piano Sonata No.52 [G] (1780)
最新の録音のものだけにピアノの艶やかな音色が鮮明に収められています。女性らしい軽やかさ、流れるようなタッチでハイドンの曲を自然な響きで紡いで行きます。曲の構造を意識させる事なく、詩的に柔らかな表情を表現することを狙っているよう。最近聴いたワリド・アクルやギャリック・オールソンとは全く異なるアプローチ。女性ならではの繊細かつ自然なソノリティーがなかなかいいですね。なんとなくショパンをイメージさせる演奏です。
アダージョに入ると、音階を崩しながら本当にショパンの曲を聴いているような気にさせる、くだけた表現。ちょっとロシア人ピアニストというイメージではなくフランスの人のような印象。独特のセンスを持ち合わせているようですね。じつに優雅で華麗な時間。
フィナーレは、高音の透明感溢れる響きの美しさにため息が出ます。独墺系のピアニストとはまったく異なるアプローチ。転がるような高音の魅力はこの人の持ち味でしょう。キレを聴かせるためではなく、情感濃く音楽を奏でるためのキレは持ち合わせているよう。なかなかいいかもしれません。

Hob.XVI:32 / Piano Sonata No.47 [b] (1776 or before)
聴き慣れた曲ですが、これまで聴いたどの演奏とも異なる詩的な入り。と思ったところで、突然強烈なギアチェンジで爆速に。再び詩的な音楽に戻るなど、こちらの脳髄直撃の変化球を投げてきます。ハイドンの楽譜の奥に潜む、ハイドン自身も考えつかなかった音楽を掘り出そうとしているようなアプローチ。これだけテンポの変化の激しいこの曲ははじめて聴きます。
つづくメヌエットではハイドンの曲が持つ美しさを踏まえて、再び詩情溢れる演奏。高音の美しいメロディーを訥々と奏でていくのを得意としているようですね。強奏の部分の盛り上げる演出も非常に巧み。前振りないアタックは一切なく、しなやかさを保ちながらの駆け引きが続きます。
フィナーレは個性的。転がるように滑らかな右手音階と、くっきりとしたアクセントの織りなす音楽の豊かさ。他の誰の演奏とも似ていない個性は流石なところ。キレよくさっぱりした印象もありながら、これだけの個性的な余韻をのこすあたり、かなりのキレ者であることは間違いありません。

Hob.XVI:31 / Piano Sonata No.46 [E] (1776 or before)
すっかりグロウホヴァの魅力にハマったようです。これだけ個性的な演奏ながら、ハイドンの曲の演奏として、表現の範囲を逸脱しているという印象はありません。力感と機知のバランスも良く、この人が今後成熟していくことで、この表現がどこまで深まるか楽しみな存在です。曲が進むにつれて、めくるめく音楽にどっぷり浸ります。この曲でも、意外にダイナミックな表現を見せたり、かと思うとフィナーレではコミカルなリズムの面白さを際立たせたりと音楽を造っていくのが上手い所を印象づけます。

Hob.XVI:12 / Piano Sonata No.12 [A] (before 1765)
ぐっと時代を遡った初期の軽い曲。ころがるような高音の美しい響きから紡ぎ出される素朴なメロディーに聴き入ります。まるで水仙の群落の甘い香りに包まれているような気分にさせられる華麗な音楽。続くメヌエットは前半でタッチのキレのよさを印象づけ、中盤でしっとりと濡れたようなデリケートなタッチに変化。なかなか表現の幅が広く、この小曲を飽きさせません。フィナーレも手堅くまとめて聴かせ上手ぶりが際立つ演奏でした。

協奏曲も続けたいのですが、今日はここらで時間切れ。またの機会に取りあげることにいたしましょう。

ダリア・グロウホヴァのピアノ、最近聴いたハイドンのピアノソナタの中では、詩情の濃さでは一番でしょう。独特の雰囲気のあるピアノは、男性ピアニストとは明らかに異なる、女性ならではのほんのりと色香の漂うピアノでした。まだ若いのにこの香しさはなんでしょう。このまま円熟を重ねるとハスキル並みの個性的なピアニストになりそうな予感がします。今日聴いたソナタはどれも個性的な演奏で、その音楽性も確かなものでした。評価はXVI:32のみ[++++]、他の3曲は[+++++]とします。XVI:32はかなり踏み込んだ表現ですが、ギアチェンジが激しすぎのように感じる人も少なくないでしょう。何れにしても、この先が楽しみなピアニストです。

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エリナ・ヴァハラ/ヴィルトゥオージ・ディ・クフモのヴァイオリン協奏曲集(ハイドン)

たまにはアイドル路線のアルバムも取りあげましょう(笑)

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エリナ・ヴァハラ(Elina Vähälä)のヴァイオリン、ヴィルトゥオージ・ディ・クフモ(Virtuosi di Kuhmo)の演奏でハイドンのヴァイオリン協奏曲3曲(Hob.VIIa:4、VIIa:3、VIIa:1)を収めたSACD。収録は2008年7月7日から9日にかけて、フィンランドのヘルシンキの北方約100kmにあるハメーンリンナ(Hämeenlinna)の郊外にあるハトゥッラ教会でのセッション録音。レーベルはフィンランドのALBA。

先日TOWER RECORDS新宿店に立ち寄ったときに、未入手のアルバムとして発見したもの。若く美麗なヴァイオリニストがフィンランドの氷の色のような薄いブルーの空間に凛とたたずむジャケットをみて、迷いなく購入。よく見るとSACDマルチチャネルと表記があるため、録音にはこだわったものでしょう。生憎うちにはステレオ環境しかありませんので、マルチチャネル録音の評価は出来ません。

Elina Vähälä

彼女のオフィシャルサイトはなかなかセンスのいい造り。

エリナ・ヴァハラはもちろんはじめて聴く人。1975年、アメリカのアイオワ州アイオワシティー生まれのフィンランド人ヴァイオリニスト。ということで現在38歳になり、ジャケットの印象よりもベテランでした。オーケストラとの共演はなんど12歳の時、オスモ・ヴァンスカ率いるラハティ・交響楽団ということで、後にヴァンスカからはその年の若手音楽家賞に選ばれています。その後フィンランドの主要なオケとの共演を重ねました。1999年にはヘルシンキのシベリウスアカデミーを卒業し、同年、ニューヨークで行われた若手音楽家国際オーディションで優勝し、北米、南米でも演奏活動を行っています。イギリス室内管とはパートナー関係にあったそう。楽器はフィンランド文化省から貸与されているストラディヴァリウスとのことです。アルバムは探した限り、このアルバムと最近リリースされたジョン・ココリアーノのヴァイオリン協奏曲などを収めたアルバムのみ。オフィシャルサイトのレコーディング情報にもそれ以外のアルバムが触れられていないので、おそらくこのハイドンのヴァイオリン協奏曲集がデビュー盤ということだと思います。ハイドンのヴァイオリン協奏曲をデビュー盤に選ぶということで、当ブログでも軽く扱うことはできません。冒頭のアイドル路線発言は訂正です(笑)

Hob.VIIa:4 / Violin Concerto [G] (c.1765/70)
SACD層の2チャンネルで聴きます。録音は鮮明。残響はあるのですのが、かなり直接音重視の録音。オケは少人数でしょう、かなりタイトな響き。キビキビとしたオケに乗って、まずはテンポ良く鋭敏なヴァイオリンの入り。ヴァイオリンは高音の伸びというか張りつめたテンションが凛々しい感じ。ヴァイオリンもオケもテクニックはかなりのもので、鮮烈かつキリリと引き締まった演奏。フィンランドの澄んだ空気のような空気感を感じる印象。カデンツァも爽やかさと鋭利なキレ味が同居したなかなかのもの。これはかなりの実力でしょう。
アダージョ楽章では表現力が問われますが、ヴィルトゥオージ・ディ・クフモは程よいテンションを保ちながら、リラックスした入り。驚くのがヴァハラのヴァイオリンの高音の美しさ。流石ストラディヴァリウス。特に最高音域の素晴しい浸透力はゾクッとするほど。女流らしく可憐さもありますが、この突き抜けるような輝きは流石です。ゆったりとしたフレーズのなかにきらめきがちりばめられてクリスタル細工のような輝き。
フィナーレもオケとヴァイオリンの掛け合いの面白さをうまく表現しています。ヴァイオリンもオケもキリリと引き締まって、そこここにつけられたアクセントも効果的。これはレベル高いですね。

Hob.VIIa:3 / Violin Concerto "Merker Konzert" 「メルク協奏曲」 [A] (c.1765/70)
1曲目よりわずかに残響が多くなっています。序奏のオケのキレは前曲以上。序奏から身を乗り出して素晴しい響きに引き込まれます。ソロもオケ1曲目より力が抜けて、演奏に余裕がでてきます。落ち着き払った演奏からえも言われぬ爽やかな響きが生み出されます。ピンと張りつめた高音の魅力は相変わらず。フレーズひとつひとつをしっかりと描き分けながら、自身のヴァイオリンの音色の魅力で暈取って行くところは相当の腕前でしょう。オケも小編成にしては厚み、特に低音弦の迫力が見事。12分と長い1楽章も一気に聴かせきってしまいます。
聴き進むうちにオケの伴奏がかなり踏み込んだ演奏であることに気づきます。アダージョでもぐっと踏み込んだアクセントでソロをもり立てるあたり、指揮者は置かれていないので、ヴァハラの指示なのでしょうか、実に活き活きとした表情にハッとさせられます。ハープシコードによって響きに絶妙な繊細感が加わります。ヴァハラはオケに乗って自在に弓を操ります。テクニックもさることながら、音楽に爽やかな色気のようなものが乗って癒されます。
フィナーレは入る前の静寂と、一瞬の気配にゾクッとさせられます。絶妙な間の閃き。そのあとは音楽がしなやかに流れていきます。一貫して力がいい具合に抜けて、音楽が弾みます。1曲目とは演奏のスタイルが変わっていますね。

Hob.VIIa:1 / Violin Concerto [C] (c.1765)
ハイドンのヴァイオリン協奏曲集では通例1曲目に置かれてる事が多いんですが、このアルバムでは最後に置かれています。3曲の中では最も伸びやかな1楽章。ヴァハラの美しいヴァイオリンの音色がマッチしてえも言われぬ華やかさ。ヴァイオリンの音階が昇るたびに刺さるような高音の魅力に打たれます。これほど美しいヴァイオリンの音色で演奏されたハイドンのコンチェルトは他に知りません。圧倒的な高音の魅力。あまりにも艶やかな高音に痺れます。
この曲のアダージョはピチカートの伴奏による夢のような美しさで知られていますが、ヴァハラのただでさえ美しいヴァイオリンが、気配を殺すように抑えたピチカートに乗って輝きまくる奇跡的な時間。昇天。ハイドンの書いた音楽の結晶のようなこの曲の最も美しい演奏と言っても過言ではありません。再び昇天。あまりの美しさに絶句。
フィナーレはこのアルバムの総決算。オケも前楽章のヴァハラのヴァイオリンで痺れたでしょうが、活力を取り戻し、分厚い響きで渾身のサポート。短いフィナーレながらオケも聴かせどころで意外なほどの踏み込み。ヴァハラもそれに応えて輝きで応酬。恐ろしいほどの掛け合いながら音楽は完全に一体化して見事な調和。協奏曲を聴く楽しみを存分に味あわせててもらえます。

1曲目を聴き始めた時には美人ヴァイオリニストによるキレの良い演奏程度の印象でしたが、聴き進むうちに印象一変。これは素晴しいアルバムです。エリナ・ヴァハラというフィンランド人ヴァイオリニスト、ジャケットの美貌もさることながら、フィンランドのどこまでも突き抜ける青空のような透明感と張りつめたテンションのヴァイオリンの美音は圧倒的な魅力を放ってます。美しすぎるヴァイオリンによる、ハイドンのヴァイオリン協奏曲集。これほどの演奏とは予想だにしませんでした。オケのサポートも絶品。評価はもちろん全曲[+++++]とします。このアルバム、ハイドン好きの方、必聴です。

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アンナ・プロハスカの歌曲集(ハイドン)

たまたま見たNHKのBSプレミアムの9月23日0:00からの番組2本。一つはデュトワ指揮のN響の今年のザルツブルク音楽祭に参加した際のライヴ。もう一つは続けて放送された同じく今年のザルツブルク音楽祭のクスターボ・ドゥダメル指揮のベネズエラ・シモン・ボリバル交響楽団のマーラーの「千人の交響曲」。どちらにも出演していて、突き抜けた高音の魅力を振りまいていたのがアンナ・プロハスカ。今日はそのプロハスカのハイドン。

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アンナ・プロハスカ(Anna Prohaska)のソプラノ、エリック・シュナイダー(Eric Schneider)のピアノ、シモン・マーティン=エリス(Simon Martyn-Ellis)のリュートで、バロックから現代曲まで幅広い範囲の歌曲26曲を収めたアルバム。ハイドンは1曲、英語によるカンツォネッタ集からピアノの伴奏で「人魚の歌」。最新のアルバムではありますが収録の情報はなくPマークが2010年とあるだけ。レーベルはご覧のとおりDeutsche Grammophon。

このアルバム、最近リリースされたハイドンのアルバムのうち、在庫のあるものをHMV ONLINEで注文する際、欲しいアルバムと合わせてマルチバイにすべく埋め草として注文したもの。この手のアイドル路線のアルバムはあまり好きなものではありませんが、ついて聴いてみると、実に良い声。そして昨夜のコンサートでもかなり印象に残り、取りあげる事にした次第。

いつものようにプロハスカについて少し調べてみましょう。1983年、ドイツのバイエルン州、ノイ=ウルム(Neu-Ulm)生まれの歌手。曽祖父はオーストリアの作曲家、指揮者のカール・プロハスカ、祖父は指揮者のフェリックス・プロハスカ、父はオペラのディレクターとのことで名門音楽一家の出身。ウィーン、ベルリンで音楽を学び、2002年にベルリン・コーミッシェ・オーパーのブリテンの「ネジの回転」でデビュー。この公演が評価されオペラ界で活躍するようになります。2006年から2007年にかけてベルリン国立歌劇場の専属歌手となり、多数のオペラに出演。そしてコンサートではアバド、バレンボイム、ブーレーズ、アーノンクール、ヤンソンス、ラトルなど大物指揮者と共演、そして2011年からDeutsche Grammophonと独占録音契約を結んでいるとのこと。Wikipediaにはヘビメタ好きとも書かれており、なかなかユニークな人のようですね。

冒頭に触れた番組では、ザルツブルク音楽祭に初出演するデュトワ指揮のN響で細川俊夫の新作「ソプラノとオーケストラのための『嘆き』」を語りから絶唱。すっきりとしながらも鋭く力強い声で圧倒的な表現力を見せつけていました。アルバムの造りを見る限り、アイドル路線。ブログ初期に取りあげたイギリスの女流トランぺッター、アリソン・バルサムのアルバムに近いノリを感じますが、テレビで見る限り、ちょっとアイドル路線とは異なり、かなりの実力派と映りました。

今日取り上げるアルバムは歌曲集。ハイドンもすばらしいのですが、ハイドン以外の曲も素晴しいですね。ずっとブログのサイドバーに貼っているヌリア・リアル以来のお気に入りになりそうです。いつもは丁寧なHMV ONLINEの解説が割愛されているので、DGのサイトへのリンクを紹介しておきましょう。収録曲目などはこちらをご覧ください。

Deutsche Grammophon : Anna Prohaska – Sirène

Hob.XXVIa:25 / 6 Original Canzonettas 1 No.1 "The Mermaid's Song" 「人魚の歌」 [C] (1794)
超鮮明な録音によってクッキリと定位するちょっと固めの表情のエリック・シュナイダーのピアノ伴奏に乗って、プロハスカの独特の爽やかな歌声が転がるように入ります。録音はスタジオのようで、残響はかなり少なめ。そのかわりソプラノとピアノがあたかもそこで演奏しているようなリアリティ。圧倒的な声量でアクセントをつけながら聴き慣れたハイドンの晴朗な曲をさっぱりと歌っていきますが、高音の美しく磨かれた響きは素晴しい存在感と浸透力。繰り返し以降はかなり自在に装飾音を加えて、素朴な曲を歌うのを楽しむような歌唱。聴き慣れた素朴な歌が立派な歌曲として響き渡ります。

アンナ・プロハスカの歌曲集。やはり素晴しい実力の持ち主とハッキリわかる圧倒的な歌唱でした。このアルバムではハイドンの他、ダウランドや最後のグレゴリオ聖歌なども良かったんですが、ビックリしたのがシマノフスキの3曲。ピアノの幽玄な響きとプロハスカの空間を切り裂くような鋭い歌唱が見事。歌曲好きな方にはオススメのアルバムです。ハイドンの評価は[+++++]としておきましょう。

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オーフラ・ハノーイのチェロ協奏曲集

今日は色物(笑)

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オーフラ・ハノーイ(Ofra Harnoy)のチェロ、ポール・ロビンソン(Paul Robinson)指揮のトロント室内管弦楽団(Toronto Chamber Orchestra)の演奏でハイドンのチェロ協奏曲1番と2番を収めたアルバム。収録は1983年、カナダ、トロントのマッセイ・ホールでのセッション録音。レーベルはRCA GOLD SEAL。
※収録年が当初1993年と誤った表記となっておりました。

オーフラ・ハノーイは一時美人チェリストとして人気のあった人。日本でもおなじみの人は多いかもしれませんが、私は実ははじめて聴く人。いつものように略歴を紹介しておきましょう。

1965年、イスラエルのハデラ(Hadera)生まれのチェリスト。1971年家族とともにイスラエルからカナダ、トロントに移住。父親からチェロを習うようになり、ピエール・フルニエ、ジャクリーヌ・デュ・プレ、ムスティスラフ・ロストロポーヴィチなど錚々たるチェリストに師事した。オーケストラとの共演したデビューは早くも10歳のときで、1982年にはニューヨークのカーネギーホールでリサイタルを開く等、若くして才能が開花しました。
一方、1983年にはオッフェンバックのチェロ協奏曲の初演および初録音、翌1984年にはイギリスの作曲家アーサー・ブリスのチェロ協奏曲を北米初演、そしてヴィヴァルディのいくつかのチェロ協奏曲の世界初演を果たす等アカデミックな側面も持っています。1987年以降RCA Victorの看板チェリストとして多くの有名曲の録音を残しました。日本でもずいぶん露出されていたように記憶しています。
またクラシック以外のジャンルにも積極的に取り組み、スティングやカナダのケルティック・ハープ奏者、ロリーナ・マッケニット(Loreena McKennitt)などとも共演しているそうです。

本人のサイトがありましたので、紹介しておきましょう。

OfraHarnoy.com

HMV ONLINEなどをみると現役盤もあまりないことから、最近活動しているのかどうかわかりません。ハノーイのハイドンはどのような音楽を聴かせてくれるでしょうか?

Hob.VIIb:1 / Cello Concerto No.1 [C] (1765-7)
オケは堅実、ゆったり気味のテンポですが、エッジはキリッと立てて、マナーのいい伴奏。ハノーイのチェロもクッキリとエッジがたったものですが、女性奏者らしく高音の鳴きが印象的。聴き進めていくと、フレージングは耽美的ですらあるように変化していきます。オケもそれに合わせて流麗に変化。要所のアクセントによってメリハリも保ちながら、チェロ本来の高音の美しさをうまく表現した演奏。カデンツァはかなり力の入った意欲的なもの。。オケの落ち着いたサポートにのってオーフラ・ハノーイのチェロが心地よく演奏している感じ。
アダージョは一気にロマンティックに変化。さらにゆったりとしたテンポで、ハイドンの美しい旋律を入念に練り上げていきます。ハノーイのチェロはヴィブラートをたっぷりかけて、流麗至極。くどくなるかと思いきや、それほどでもなく、ハノーイ節をたっぷりと楽しむ事ができます。デュプレのような渾身の演奏というより、どこか落ち着いた流麗さという面もあって、朝焼けを眺めるような爽やかさも感じます。
フィナーレはオケの上手さが際立ちます。非常によく訓練され、リズムとテンポのキレがよく、絢爛豪華な感じがよく出ています。ハノーイのチェロも歯切れのよい伴奏に乗って、チェロも立体的に浮かび上がるような鮮烈な演奏。1番の朗らかさを上手く表現した演奏です。

Hob.VIIb:2 / Cello Concerto No.2 [D] (1783)
2番の入りはこの曲の円熟を示すように、非常に味わい深い伴奏から。指揮のポール・ロビンソン、かなりの腕前とみました。ハノーイのチェロも老成を感じるような落ち着き。大きな構えでテンポが落ち着いているので、演奏がしっかりと地に足をつけている感じに聴こえるのがいい印象につながっています。良く鳴く演奏ですが情緒に流されている感は微塵もなく、しっかりとした骨格設計があるように聴こえます。耽美的なのに落ち着いて聴けるなかなかの演奏ですね。2番のカデンツァは女性らしいタッチの軽さで深い淵を覗き込むような表現の陰影をつけていく秀逸なもの。表現を凝らしているのに不自然さが皆無なところはやはり才能だと言えるでしょう。長大な2番の1楽章をきっちりまとめあげます。
2楽章のアダージョはまさにそよ風のような演奏。美しい高音、完璧なオケとの掛け合い、そして以外にデュナーミクの幅も大きいハノーイのチェロ。音の軽さがいい方向に働いて華麗さにつながっています。
そして回想シーンのようなフィナーレも基本的に冷静さを保ちながらの耽美的な演奏。オケとの一体感も抜群で不揃いなところは皆無。非常にまとまりの良い演奏でした。

美人チェリスト、オーフラ・ハノーイによるハイドンのチェロ協奏曲集。ハノーイ28歳頃の録音で、もうすこし若々しい演奏を想像していましたが、むしろ老成した耽美的な演奏。女性らしい演奏ではありますが、音色の軽さから来る爽やかさと確かな技術に裏付けられた安定感が相俟ったチェロ。当時の人気に恥じない演奏ということが出来るでしょう。このアルバムではポール・ロビンソンの指揮によるトロント室内管弦楽団がキリッと引き締まった伴奏で好サポート。オケの響きの良さも聴き所です。評価は両曲とも[++++]とします。

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ターニャ・テツラフのチェロ協奏曲集

今日は久しぶりのチェロ協奏曲。

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ターニャ・テツラフ(Tanja Tetzlaff)のチェロ、ボリス・ペレナード(Boris Perrenoud)指揮のウィーン室内管弦楽団の演奏によるハイドンのチェロ協奏曲1番、2番、ドメニコ・ガブリエリのリチェルカーレ5曲を収めたアルバム。ハイドンのチェロ協奏曲の収録は1994年2月4日から7日、ウィーンのスタジオ・バウムガルテンでのセッション録音。レーベルは日本のカメラータ。

ターニャ・テツラフは1973年ハンブルク生まれのドイツのチェリスト。ハンブルク音楽造形芸術大学、ザルツブルク・モーツァルテウム音楽院などで学び、ヨーロッパ各地のコンクールで優勝するなどしたとのこと。ジャケットに写る姿は若々しいですが、録音時は21歳ということで、ライナーノーツを見るとこれがデビュー盤のようです。いわゆるアイドル系というよりは純粋に新人発掘系の企画。ライナーノーツに書かれたプロデューサーの言葉からは、チェリストのアルバムはセールス的には非常に厳しいとの下り書かれていますが、ピアノなどと比べて奏者の人口もかなり限られることもあり、チェリストのアルバムはファン層が限られるんでしょうね。

実はこのアルバム、ディスクユニオンの中古盤のコーナーに同じアルバムが大量にあったもの。中古盤が大量に出回るということであまりいい予感がしなかったため長らく見過ごしてきました。ただ、本当は聴いてみなければわからないわけで、隠れた名盤との予感もしたため思い直して先日ようやく手に入れたもの。

ちょっと聴いてみたところ予感的中。かなりいい演奏です。当ブログでは純粋に演奏の質、アルバムの出来のいいものを堀り起こし皆さんに紹介するのを趣旨としていますので、セールスや人気などは無関係に淡々と紹介していきます。

Hob.VIIb:1 / Cello Concerto No.1 [C] (1765-7)
まずビックリするのがオーケストラの素晴らしく豊かな響き。ハイドンのハ長調コンチェルトの晴朗なメロディーの魅力が溢れます。指揮のペレナードとウィーン室内管弦楽団はかなりの腕前と見ました。録音も適度な残響と適度な解像感で万全。テツラフのチェロはまずは音色の美しさ。意外とさっぱりしたフレージングですがアクセントのキレと迫力はなかなか。女流のチェリストといえばデュ・プレですが、デュ・プレの流麗極まるチェロとは異なり端正さを感じるチェロ。オケの豊かさに比べるともう少し鳴いてもいいのではと思えますが、聴き進むうちにテツラフの端正な演奏の魅力に引き込まれていきます。弾き方としては古楽器に合うかもしれないようなテンポ感の心地よい弾き方。カデンツァも楽器を鳴らしきるというのではなく、しっかりコントロールして音色の変化を楽しむような演奏。1楽章はデビュー盤と思えない冷静さと余裕を感じる演奏。
2楽章はやはりオーケストラの響きの美しさが際立ちます。相変わらずチェロは没入しすぎるようなことはなく、あくまで冷静に、静かに歩みを進める感じ。ただ、静かな歩みの中に非常に豊かな詩情を秘めていて、フレーズの美しさはなかなかのもの。チェロの高音の鳴きの美しさも少しずつ顔を出し始めます。抑制された美しさから徐々にチェロの音色の魅力が増してきます。
3楽章、オケの伴奏は完璧です。美しい。端正ながら少しずつ芳香を放ち始めたテツラフのチェロの可憐な音色によるハイドンの終楽章は快感を感じるような素晴らしい推進力。爽やかな美しさ。感情移入の激しいチェロもいいんですが、テツラフのチェロは、冷静ながら美しいフレーズをそっと奏でていくようでバランスが良く、音楽的にも非常にこなれたもの。この終楽章も爽快な印象が非常に心地よい演奏でした。

Hob.VIIb:2 / Cello Concerto No.2 [D] (1783)
前曲より成熟を深めたハイドンのもう一つのチェロ協奏曲。テツラフの出来はどうでしょうか。
期待通り冒頭から豊かなオーケストラの響きと音楽。コンチェルトの伴奏としては完璧なオケのサポート。テツラフの表現も一歩踏み出した感じで、表現の幅が広がってきているように聴こえます。第2番特有のおだやかでしなやかなメロディーに乗ってテツラフは音色の変化、デュナーミクの変化を冷静にコントロールして演奏を楽しんでいるよう。チェロもオーケストラも極上の響きで曲の美しい表情を表現。ハイドンの美しいメロディーラインを堪能できます。郷愁や憂いをふくんだ晴朗な美しさ。純粋に音楽を聴く悦び。録音の向こうから聴こえる奏者の息づかい。いやいや素晴らしい音楽ですね。ここに至ってチェロのフレージングが徐々にすこしリズムからはずれるような表現が見られますが、人が弾いていると感じさせるぬくもりがあります。まるでライヴを聴いているような手に汗握るオケとチェロの掛け合い。緊迫のセッションだったでしょう。1番のときの落ちついたセッションとはかなり異なる緊張感ですね。カデンツァはチェロの孤高の叫びのような素晴らしいエネルギー。最後はオーケストラの暖かい響きに迎えられて1楽章を終えます。
第2番の2楽章は1楽章の緊張を癒すような、力の抜けたチェロの魅力が炸裂。チェロという楽器の美しい音色に宿る魂を味わうような素晴らしい演奏。名チェリストの個性的な演奏というのではなく、純粋に音楽として手の届く最上の美しさ。テツラフの純粋な音楽性が光ります。
フィナーレはこのアルバムの総決算のような美しさ。相変わらずオーケストラは安定して美しい響き。媚びないチェロの美しさが際立ちますね。最後はオケの素晴らしい響きの力感に圧倒されるように終了。

いやいや、素晴らしい演奏でした。やはり聴いてみなければわかりません。決して派手な演奏ではありませんが、特に2番の演奏はライヴのような手に汗握る緊張感が素晴らしい演奏。1番もハイドンのチェロ協奏曲の美しさを十分表現できています。作曲年代を意識した演奏の変化と読むと合点が行きます。両曲とも[+++++]とします。良いアルバムです。

ターニャ・テツラフはアルバムは少ないものの、ソロや室内楽のアルバムが何枚かあるようですので、機会があったら手に入れてみたいと思います。

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パトリシア・プティボンのアリア集

今日は久々のオペラアリア集です。

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パトリシア・プティボン(Patricia Petibon)の歌う、モーツァルト、ハイドン、グルックのオペラアリア集。指揮はダニエル・ハーディング(Daniel Harding)、オケは古楽器でコンチェルト・ケルンという組み合わせ。HMV ONLINEの情報によれば収録は2008年1月、ベルリンのEmil Berliner Studioで。

このアルバムはプティボンのDeutsche Grammophoneへのデビュー盤とのこと。パトリシア・プティボンは1970年、パリの南の街モルタンジの生まれのソプラノ歌手。パリ国立高等音楽・舞踊学校を95年に首席で卒業。その後クリスティ、ガーディナー、ミンコフスキなど古楽器のオケ、指揮者などと共演してきたとのこと。40近くなってDeutsche Grammophoneへデビューということで歌手としては遅咲きなのかもしれませんが、アルバムの力の入りようは流石一流レーベル。伴奏にハーディングをつけ、プティボンのアーティスティックな写真を多くあしらったセンスのよいプロダクツとして仕上がっています。

アルバムタイトルは”Amoureuses”(恋人たち)とのことで、恋の歌を(どうして私の「ことえり」は最初「鯉の歌」と変換するのでしょう!)集めたアルバム。

こうくると思い起こすのが、以前取り上げたヌリア・リアルのアリア集。素晴らしい企画力とヌリア・リアルの美しい声に圧倒されたアリア集でしたが、録音は同じく2008年。ハイドン没後200年を狙って録音されたものでしょうが、今日取り上げるプティボンはハイドンのみならずモーツァルトやグルックのアリアもまとめたものですのでハイドンのアニヴァーサリーという訳ではないでしょう。同じような企画が独墺系の大規模レーベルからリリースされているのは興味深いこと。あちらはクラシックのリリースが多いでしょうから沢山リリースされているアルアルバムのたまたま2枚かもしれませんが、ここは強引に関連ありとの前提で話をまとめたいと思います(笑) ノックアウトされた、ヌリア・リアルの記事もリンクを張っておきましょう。

2010/11/06 : ハイドン–オペラ : ヌリア・リアルのオペラ挿入アリア集

さてさて、名門Deutsche Grammophone期待の歌手、パトリシア・プティボンのアリア集はヌリア・リアルのアルバムを超えられるでしょうか?

このアルバムの収録曲目はHMV ONLINEのリンクをご覧ください。HMVのハイドン曲情報はちょっと間違ってます。トラック番号と曲名は次のとおり。曲ごとにレビューを書いておきます。

01 - 歌劇「月の世界」 Hob. XXVIII:7 - "Ragion nell'alma siede"(Flaminia)
アルバムの冒頭におかれた「月の世界」からのアリア。プティボンのソプラノは線は細いものの、コケティッシュな魅力もあり古楽器オケに合った声。ハーディングの伴奏は古楽器の爽やかなキレを感じさせるものですが、古楽器系の指揮者のリズム感とはちがい普段は現代オケを振っているハーディングならではの閃きを感じる伴奏。オケだけでも十分聴き応えのある演奏。途中のアクセントをかなり大胆につけるあたりは古楽器系の指揮者ではあまりやらないこと。

このあと、モーツァルトのコンサートアリア、魔笛から夜の女王のアリア、フィガロの結婚からのアリア、ルーチョ・シッラからのアリアがはさまり、ふたたびハイドンへ。夜の女王のアリアを聴くと素晴らしいテクニックと高音の伸びの持ち主であることがわかります。ハーディングも快心の伴奏。最高域はかなり線が細いですが音程の正確さは素晴らしいものがあります。流石DG、いい人に目を付けますね。

08 - 歌劇「薬剤師」 Hob.XX?:3 - "Salamelica, Semeprugna cara"(Volpino)
ビックリする曲調。トルコ趣味の曲。別の意味でハイドンの天才を感じる曲。2分弱の小曲。

10 - 歌劇「アルミーダ」 Hob.XX?:12 - "Odio, furor, dispetto"(Armida)
激しい曲調の絶叫系のアリア。テンポよく複雑な歌詞と音符を見事にコントロール。

11 - 歌劇「オルフェオとエウリディーチェ,または哲学者の魂」Hob.XXVIII:13 "Del mio core il voto estremo"(Euridice)
一転してゆったりした艶やかなアリア。弱音のコントロールと間の表現が秀逸で3分少しの曲から深い情感が伝わる名唱です。ハーディングも非常にデリケートにコントロールしたオケで支えます。

12 - 歌劇「無人島」 Hob.XX?:9 - "Fra un dolce deliro"(Silvia)
ハイドン最後の曲は、ふたたび晴朗、素朴なハイドン特有の超絶的に美しい曲調。冒頭の曲とともにハイドンならではの心温まる歌が沁みます。

プティボンの歌は心に響く何かをもった素晴らしい歌。テクニックも十分、声の張り、艶も素晴らしく、容姿も端麗ときていますので、人気が出るのもわかります。ハイドン、モーツァルト、グルックの曲を集めたアリア集ということで、聴き進むとわかりますがやはりハイドンの晴朗な曲調とアリアの美しさは、モールァルトの閃きに満ちたメロディーと比較しても十分に美しく、人の声の魅力を伝えるという意味では素晴らしいもの。このアルバムのハイドンのアリアの評価は全曲[+++++]とします。

DGのプロデューサーに届くかどうかわかりませんが、プティボンのソプラノと古楽器系のオケで「アプラウス」とか「トビアの帰還」なんかが次の企画に良いと思うんですが、、、指揮は今回のハーディングとか、レーベルは違いますがルネ・ヤーコプスやクリスティなんかが合うと思います。戯言はこの辺で。

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ヌリア・リアルのオペラ挿入アリア集

今日は珍しいハイドンが他の作曲家のオペラのために書いたアリア集。

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先日手に入れてレビューしたテレサ・ベルガンサのアリア集を所有盤リストに登録したのを機に、手持ちのアルバムで未登録のものを登録しようと聴き直したもの。

ソプラノはヌリア・リアル(Nuria Rial)、メゾ・ソプラノの曲はマルゴ・オイツィンガー(Margot Oitzinger)が歌ってます。伴奏はミッヒ・ガイック(Michi Gaigg)指揮のオルフェオ・バロック管弦楽団の演奏。収録は2008年9月9日~11日、オーストリア南部グラーツの東にあるブルゲンランドのリストセンターコンサートホールでのセッション録音。

演奏を記録するために、ジャケットやらライナーノーツやらをしげしげと眺めていると、アルバムの裏面に英語で気になるコメントが! 訳すと「このレコーディングはハイドンが密かに恋慕っていたイタリア人のソプラノ歌手ルイジア・ポルッツェリのために作曲した美しいアリアの数々を収録」とあります。今一度アルバムのジャケットを見ると、”Arie per un'amante”と書いてありますが、これをMacの翻訳ウィジェットに入れると、まさに「恋人のためのアリア」ではありませんか。あわてていつもの大宮真琴さんの「新版ハイドン」を紐解いてみると、この辺りのことが詳細に記されていました。要約すると次のようになります。

エステルハーザの楽長となったハイドンにとって、妻アンナ・アロイジアとの家庭生活は無味乾燥であった。ところが、1779年にイタリア人のヴァイオリニストのアントニオ・ポルツェリとメゾソプラノ歌手のルイジア・ポルツェリの夫婦がエステルハーザにやってきた。ルイジアは典型的なイタリアのブルネットで優美な容姿だったとのこと。この時ハイドン47歳で、ルイジアは28歳下とのことなので19歳! 夫のアントニオは老年で体が弱く、ルイジアにとっても不幸な結婚。ハイドンがこのルイジアに熱心に歌唱指導したため、夫は2年で契約が終了したが、ルイジアはその後約12年間ルイジアはエステルハーザの歌手として雇われつづけたとのこと。ルイジアには2名の息子があったが2人目のアントンは1783年にエステルハーザで生まれ、ハイドンの子であるとの噂があった。ハイドンはルイジアの息子を非常にかわいがり、後年に至るまで送金したり面倒を見たとのこと。

また、ハイドンの伝記を書いたガイリンガーの記述を先の著書から引用しておきましょう。

「ハイドンが深く愛していた時期にあっては、ルイジアは彼の必要としていたものを与え、また彼の感情生活を覚醒させることによって、その発展に重要な部分を演じたのであった。もしこのイタリア女性に対する情熱が、彼の人生に新しい展望を開いたのでなかったとしたならば、壮麗さに彩られた1780年代の作品の芸術的成熟が果たして成し遂げられたかどうかは疑問である。」

まさに、ハイドンの数多くの名曲が作曲された頃、ハイドンの創造の源泉となっていたということでしょうか。

さてさて、このような背景を知って、あらためてこのアルバムのジャケットを眺めると、ヌリア・リアルの姿がルイジアと重なって見えるのは私だけでしょうか。ブルネットの髪をもつ、若くて美しい容姿。ハイドンがルイジアを迎えた年齢に私も近いせいか、ちょっぴりハイドンの気持ちがわかるような気がします。このアルバムの企画意図がようやく見えてきましたね。ついでにヌリア・リアルのウェブサイトへのリンクも張っておきましょう。

Nuria Rial - Soprano(英文)

収録曲は1曲をのぞいてすべて1779年から1792年の間に作曲されたもの。歌はソプラノとメゾソプラノ用のものがありますが、おそらくルイジアが歌うために作曲されたんでしょうね。収録曲目については上にリンクを張ったHMV ONLINEをご参照ください。

収録曲目は、まずこのアルバムの序曲という位置づけか、交響曲81番の1楽章が最初に置かれています。この次の82番以降のいわゆるパリ・セットと呼ばれる交響曲は、外国からの依頼にもとづいて作曲されたもの。ルイジアがエステルハーザにいた頃に、依頼でなく最後に作曲した曲ということでしょうか。演奏は人数の少ない古楽器オケの俊敏さがよく出た快活なもの。音が耳に刺さるような生き生きとした響きが特徴です。録音は多少デッドな印象もあるものの鮮明に各楽器をとらえた最新の録音らしい素晴しいキレ、というか、キレまくってます! 指揮者のミッヒ・ガイックも女性ですね。オケのオルフェオ・バロック管弦楽団も巧いですね。エッジをかなり明確に立てた鋭い表現が痛快です。

ヌリア・リアルの歌声は、清透そのもの。歌い方も古楽にあわせたヴィブラートをほとんどかけないもの。一流のオペラ歌手の堂々とした歌唱とは全く違う印象。年齢や声質は異なりますが、エマ・カークビーの歌い方に近いと言えば伝わりますでしょうか。先日このアルバムにもふくまれるいくつかの曲をベルガンサの名唱で聴いたばかりですが、同じ曲とは思えないほど印象が変わります。

収録曲はハイドンが他の作曲家のオペラの挿入アリアとして書いたもの。というより、ルイジアのために当時演奏されていた様々なオペラの演奏時にルイジアに歌わせようと書き加えたものなんじゃないかと思います。

前置きがだいぶ長くなっちゃいましたので、気に入った曲をいくつか上げておきましょう。
基本的に全曲オペラのアリアとして素晴しいものばかり。トラック3の「薔薇に刺がなくなったら」は2分弱の短い曲で、曲調もシンプルですが、愛しい人が歌ったらぐっとくるような美しいメロディー。続くトラック4の「あなたはご存知で」は、ハイドン特有の心温まる序奏で始まる曲。トラック10の「私は運命に見放された不幸な女」は、不思議と明るくちょっとコミカルなフレーズがぐっときます。そしてトラック12の「情け深い人は」、何度聴いても素晴しいメロディ。

評価は、歌、オケ、指揮ともに素晴しい出来で、もちろん全曲[+++++]としました。ルイジアを愛しむハイドンの気持ちがよくわかります。私も当時のハイドンに近い年齢ゆえ、個人的な感情移入もあります。ヌリア・リアルにノックアウトされたと言えば、おわかりでしょうか(笑)

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新倉瞳さん他のピアノ・トリオ

今日は帰宅が10時過ぎ。やはり仕事が忙しいです(涙) 忙しくてもレビューはしなければなりません。

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人気ブロガーとしても有名な新倉瞳さん他のメンバーによるハイドンのピアノ・トリオ39番(Hob.XV:25)とメンデルスゾーンのピアノ・トリオ1番の2曲を集めたアルバム。
ヴァイオリンが凬谷直人、チェロが新倉瞳、ピアノが沼沢淑音の3人のトリオ。皆さん1985年から87年までの生まれなので20代と若い組み合わせ。

新倉瞳さんのブログのリンクを張っておきましょう。

新倉瞳オフィシャルブログ「瞳の小部屋」

録音は2010年(今年!)2月20日、21日、東京エレクトロン韮崎文化ホールでのセッション録音。レーベルはFlorestanというプロダクションも兼ねているような事務所でしょう。

曲目はハイドンとメンデルスゾーンのピアノ・トリオですが、当ブログで取り上げるのは当然ハイドンの方のみ。
この曲は作曲が1795年頃ということで、ハイドン63歳、交響曲でいえば102番から104番ロンドンまでを作曲していた時期。2年後には天地創造の作曲に着手するというハイドン円熟の時期の作品。この曲の3楽章は通称「ジプシー・ロンド」と呼ばれ、ジプシー風のメロディーで知られる曲。

演奏は全体に日本人ならではの繊細かつ透明感あふれた佳演。
1楽章は思ったより遅めのテンポではじまり、ヴァイオリンとピアノの一体感あるデュオにチェロが合わせている感じ。ヴァイオリンもチェロも灰汁の強いところは一切見せず、ある意味淡々と進めていきます。最新の録音だけあって音の実体感と響きの美しさが際立ついい録音。生で聴いたら室内楽の悦びを感じられそうですが、録音ということになると、もう一つ踏み込みがあってもいいかもしれません。アンサンブルの精度はきっちりしており、悪くありません。ヴァイオリンは非常に几帳面な感じですが、もう少し色っぽさがあったら華がでてよかったんでしょう。

2楽章はピアノの堂々としたメロディーが基調となり、ヴァイオリンとチェロがそのまわりを駆け巡るような曲調。2楽章の方が作為がなくても聴けてしまう自然な曲調。徐々に調子が上がり、メロディーに張りと厚みが漲ってきます。その勢いを保ったまま3楽章、「ジプシー・ロンド」へ。

3楽章はリズムが弾み、ピアノのダイナミックレンジも広がってきます。相変わらずテンポは大きく変化させませんがジプシー風のメロディーの部分はあえて小節を利かせて重めな展開。最後まで繊細感、透明感あふれる基本的なアンサンブルの精度のいい演奏でした。

視点を変えると、ちょっと個性が弱いといった面もあるかと思いますが、ハイドンのピアノ・トリオの重要曲を最新の良い録音でとらえた演奏を選ぼうとすると、いい演奏として選択肢に上がる演奏かもしれません。

評価は[++++]としました。ただし、このアルバム、曲名の作品番号がHob.25と誤った番号だったり、最後の英語表記のホール名の綴りが間違っていたり、ちょっと造りが粗いのが残念なところ。せっかくのいい演奏なので、この辺はレーベルがもう少し気をつけた方がいいと思います。

ピアノ・トリオはまだ当ブログで取り上げていませんので、今月は何組か取り上げようと思っています。

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プロフィール

Daisy


Author:Daisy

なぜかハイドン(Franz Joseph Haydn)が特に気に入り膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。東京在住のごく普通のサラリーマンです。

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ハイドン所有盤リスト
Joseph Haydn Discography at H. R. A.
所有盤をジャンル別にリスト化しています。基本的に録音年順とし、録音年不明のものは末尾に記載。演奏者名はジャケットなどの表記に合わせています。

2017年7月のデータ(2017年7月31日)
登録曲数:1,361曲 登録演奏数:10,291
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