【ハイドン音盤倉庫特選】ザロモンセットの名演奏(後編)

前記事で突然始めた新企画。一部では「俗な企画」と核心をついた突っ込みをいただきましたが(笑)、乗りかかった船ということでとりあえず継続します。

2017/08/17 : Best Choice of Works : 【ハイドン音盤倉庫特選】ザロモンセットの名演奏(前編)

前記事を書くために色々なアルバムを掘り起こして短期間に聴き比べてみると、それはそれで意外な発見があるもの。ただし、どうしても比較して聴くようになってしまうため、聴き方が浅くなるような気がしなくもありません。普段のレビューではそのアルバムの背景を色々調べて奏者の気持ちになって聴いていますので演奏に深く触れているような気持ちになるんですね。ということで普段のレビューを続けながら、たまにこうした記事を書くのが良かろうということにしました。勢いに乗って、間をおかずハイドンの交響曲の最高峰であるザロモンセットの後編に突入です!



Hob.I:99 Symphony No.99 [E flat] (1793)

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2012/02/14 : ハイドン–交響曲 : 【追悼】パーヴォ・ベルグルンドのオックスフォード、99番

ハイドンが1791年から92年にかけて訪れたロンドンの旅行が大成功に終わり、再び2回目のロンドン旅行に出かける際、ロンドンでの演奏のためにウィーンで作曲した曲。ザロモンセットの中でも一際優美な曲として知られています。手元の56種の演奏から私が選んだのは、パーヴォ・ベルグルンド指揮のフィンランド室内管の1992年の演奏。ベルグルンドといえばシベリウスなんでしょうが、おそらく唯一だと思われるこのハイドンの録音は純粋無垢な透明感に満たされた素晴らしい演奏。99番の優美な演奏といえばモーゲンス・ヴェルディケ/ウィーン国立歌劇場管の燻し銀の演奏が最有力候補なんですが、このベルグルンド盤は純粋さを極めた透明感というか、凛とした美しさに包まれた隠れた名演奏。他にコリン・デイヴィスのコンセルトヘボウとロンドン響の新旧両盤、ハイティンクの振るコンセルトヘボウのLP、そして意外にファイのハイデルベルク交響楽団との演奏も素晴らしいんですが、ベルグルンドの演奏がそれらよりも心に響きました。


Hob.I:100 Symphony No.100 "Military" 「軍隊」 [G] (1793/4)

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2012/04/28 : ハイドン–交響曲 : モーゲンス・ヴェルディケ/ウィーン国立歌劇場管弦楽団の99番、「軍隊」

ハイドンの交響曲の中でも一際派手な演出を伴う曲。軍隊というニックネームは初演前からつけらていたようで、ロンドンでの初演を予告する新聞にも掲載されていたそう。手元には92種もの演奏があり、その中でもこの軍隊交響曲の迫力を最も理想的に表現した演奏は、モーゲンス・ヴェルディケがウィーン国立歌劇場管弦楽団を1956年に振った演奏。このアルバムに収められたザロモンセットの後半6曲はどれも素晴らしい演奏なんですが、中でもこの軍隊は見事。1楽章の序奏から力感に満ち、しかも1956年とは信じられない鮮明かつ優秀な録音により素晴らしい響きが味わえます。2楽章で打ち鳴らされるグランカッサの重低音がズドンと決まりながら音楽は流麗に流れ、力任せに過ぎない品位を保ちます。ジャケットに写る眼光鋭いヴェルディケのコントロールが行き渡って素晴らしい音楽に仕上がっています。オケも流石に絶妙な巧さ!


Hob.I:101 Symphony No.101 "Clock" 「時計」 [D] (1793/4)

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2013/01/07 : ハイドン–交響曲 : カール・リステンパルトの驚愕、軍隊、時計

ご存知チクタクでで有名な2楽章が広く知られた曲ですが、驚愕同様、2楽章のみならず全4楽章素晴らしい曲。特に1楽章の迫力に満ちた緊密な構成と美しい目眩くようなメロディーはハイドンの交響曲の白眉と言っていいもの。この迫力と美しさをバランスよく兼ね備えることが時計の演奏のポイントでしょう。手元には98種の録音がありヒストリカルな演奏から古楽器による演奏まで名盤目白押しですが、私が選んだのは知る人ぞ知る、カール・リステンパルトがザール室内管弦楽団を振った1966年の録音。見事に溶け合うオーケストラの響きでこの時計の1楽章をまるで夢の国のような美しい演奏に仕上げていきます。肝心の時計のアンダンテのリズムの軽やかさも最高。時計とはこう演奏するものだとの確信に満ちた王道をゆく演奏。そして覇気に満ちながらも味わい深いメヌエットに淀みないフィナーレとこの曲の理想的な演奏。古い演奏ですが録音も絶妙で少しも古さを感じさせません。時計の普遍的名演と言っていいでしょう。


Hob.I:102 Symphony No.102 [B flat] (1794)

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2010/04/04 : ハイドン–交響曲 : ブリュッヘンのザロモンセット

ザロモンセットも終盤。第2回ロンドン旅行の2年目である1795年のコンサートのために前年に書いた曲。ニックネームがついていないことから地味な存在ではあるが、曲の構成は円熟を極め、ハイドンの交響曲の最高傑作の一つ。特に2楽章のアダージョのメロディーの温かみのある美しさは素晴らしいもの。手元にある63種の演奏から私が選んだのはフランス・ブリュッヘンの振る18世紀オーケストラによる1991年のライヴ。ブリュッヘンのザロモンセットは古楽器オケらしからぬど迫力のライヴ中心で構成され、中でもこの102番は全編にみなぎる力感とブリュッヘンにしては流れの良さも併せ持つ秀演。メヌエットにブリュッヘンらしいゴリッとした響きでアクセントをつけてきますが、終楽章はしなやかにオケを響かせて響きのコントラストつけ、最後は湧き上がるように盛り上がる見事な演奏。古楽器でのハイドンの演奏の新境地を聴かせたブリュッヘンの面目躍如な演奏です。この曲にはギュンター・ヘルビッヒの振るドレスデンフィルの流れの美しさを極めた演奏もあり、そちらもこの曲の全く別の姿を印象的に描いています。


Hob.I:103 Symphony No.103 "Mit dem Paukenwirbel" 「太鼓連打」 [E flat] (1795)

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2012/04/04 : ハイドン–交響曲 : ロヴロ・フォン・マタチッチ/ザグレブ・フィルの「太鼓連打」

冒頭のティンパニの独奏から太鼓連打の愛称で知られる曲。ハイドンの第2回のロンドン旅行の最後の年である1795年に作曲された曲。冒頭の太鼓も昔は遠雷のようにドロドロと鳴らすのが常でしたが最近はティンパニのカデンツァのごとき外連味たっぷりの演奏もあり、多彩です。手元の74種の演奏から私が最も好きな演奏は、日本でもお馴染み、ロヴロ・フォン・マタチッチの振るザグレブ・フィルの1979年10月29日のクロアチアの首都ザグレブでのライヴ。冒頭の太鼓のせいかこの曲には畳み掛けるような迫力ある演奏が目白押し。シャーンドル・ヴェーグがカメラータ・アカデミカ伴ってブダペストで行った1995年の感動的なライヴなど素晴らしい演奏がありますが、中でも一番のお気に入りがマタチッチ。全編にみなぎる力感とものすごい推進力。ハイドンのこの曲に込められたエネルギーを最も上手く引き出した演奏。どうもこの曲に込められたエネルギーを十分に発揮するには独墺系以外の指揮者の野性味が必要な気がします。


Hob.I:104 Symphony No.104 "London" 「ロンドン」 [D] (1795)

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2011/02/10 : ハイドン–交響曲 : カラヤン/ベルリンフィルのロンドン旧録

ハイドン最後の交響曲。ハイドンが2回目のロンドン旅行で行われた一連のコンサートのために最後に書いた総決算たる曲で、言うまでもなくハイドンの交響曲の最高傑作です。最後の作にふさわしく冒頭から壮大な曲想が続き堂々として覇気にあふれ、ハイドンの作曲技法の粋を尽くした見事な構成の曲。このハイドンの最高傑作の演奏には古典の曲としての壮大さの表現がポイントになります。手元の122種の演奏から今回色々聴き直して選んだのが、カラヤンの振るベルリンフィルとの1975年の今はなきEMIの録音。従来私はカラヤンでは1959年のウィーンフィルとのDECCA盤を推していたんですが、今回改めて聴き直すと、全盛期のベルリンフィルの特に弦楽陣の怒涛の迫力の素晴らしさに圧倒されました。カラヤンも大局的な視点でオケをコントロール。特にクライマックスの迫力はさすがにベルリンフィル。ベルリンのフィルハーモニーに響き渡る大音響と全盛期の帝王カラヤンの覇気は、最近の機知に富んだ古楽器の演奏や並み居る名指揮者の名演奏に勝りました。



突然始めた新企画ですが、これまで聴いたザロモンセットの名演奏を取っ替え引っ替え聴き直し、久しぶりに聴いた演奏も多く色々な発見もありました。自分でも意外でしたが、全12曲中古い演奏をかなり多く選んだことになりますね。選んだ演奏は、ハイドンの曲に込められた音楽をしっかりと汲み取った演奏で、やはり歴史の波を経て揉まれて来ただけに、それぞれ説得力のある演奏です。近年話題のファイもミンコフスキも結局選びませんでしたが、しっかり聴きなおした上での選択です。古楽器ではクイケンとブリュッヘンを選びましたが、どちらもハイドンの演奏に一石を投じたものだけに、それ以前の多くの名演奏を上回る説得力を持ったと言うことですね。前記事の冒頭に触れた通り、全ての盤が入手しやすいわけではありませんが、中古やオークションを探せば入手できないわけではありませんので、興味のある盤がある方はぜひ手に入れて楽しんでください。

夏休みの宿題的に時間をかけて記事を書きましたが、普段はこれほど時間をかけられませんので、しばらく通常のレビューに戻ることにいたします。

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tag : 交響曲99番 軍隊 時計 交響曲102番 太鼓連打 ロンドン

ザロモン弦楽四重奏団らの室内楽版ロンドン、軍隊(ハイドン)

先日素晴らしい演奏を取り上げたザロモン弦楽四重奏団ですが、偶然ディスクユニオン店頭でこのアルバムを見つけてゲットしました。

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TOWER RECORDS(この演奏が含まれる全集CD) / amazon(CD) / ローチケHMVicon(この演奏が含まれる全集CD)

ザロモン弦楽四重奏団(The Salomon String Quartet)、リサ・ベズノシウク(Lisa Beznosiuk)のフルート、クリストファー・ホグウッド(Christpher Hogwood)のフォルテピアノによる、ハイドンの交響曲104番「ロンドン」、100番「軍隊」のザロモンによる室内楽への編曲版の演奏を収めたLP。収録は1982年11月、ロンドン北東部のウッドフォード教区教会(Woodford Parish Church)でのセッション録音。レーベルは英EDITION DE L'OISEAU-LYRE。

L'OISEAU-LYREのLPは裏面の文字のタイポグラフィーも含めて装丁が美しいのでコレクション意欲を満たしますね。私がL'OISEAU-LYREのLPを初めて手に入れたのは予備校生時代にかつて代々木にあったジュピターレコードでのこと。店頭のレコードラックを物色しているとL'OISEAU-LYREとかベルギーのACCENTのアルバムは特別なオーラを放っていました。あれからかれこれ35年くらい経ちます。このLPも偶然出会ったものですが、状態の良いジャケットからはかつて感じたオーラが出ていました。

ザロモン弦楽四重奏団の演奏は取り上げたばかりですね。

2017/06/26 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : ザロモン弦楽四重奏団の剃刀、ひばり(ハイドン)
2011/10/29 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : ザロモン四重奏団のOp.74のNo.2、騎士

前記事にも書きましたが、hyperionからリリースされているシリーズよりも、その前に録音されたL'OISEAU-LYREの演奏の方がいい演奏です。剃刀、ひばりを収めたLPの収録は、今日取り上げるLPと同じ1982年11月で、録音会場も同じ。ということでほぼ同時期の収録ゆえその演奏にも期待できますね。

収録曲目であるペーター・ザロモン(Peter Salomon)編曲の室内楽版交響曲については、以前取り上げたアルバムの記事をご参照ください。

2016/01/31 : ハイドン–交響曲 : アルコ・バレーノによる室内楽版「時計」、99番、「ロンドン」(ハイドン)

このアルコ・バレーノの演奏も素晴らしかったのですが、名手ヤープ・シュレーダー率いるザロモン弦楽四重奏団にホグウッドまで加わったメンバーによる演奏が悪かろうわけもありませんね。このLP、コンディションも最高。針を落とすと予想通り鮮烈な響きが広がりました。

Hob.I:104 Symphony No.104 "London" 「ロンドン」 [D] (1795)
有名なロンドンの序奏ですが、もちろん室内楽版ゆえ重厚な響きとはいきません。LPは万全なコンディションなのでノイズは皆無。LPに刻まれたクリアな響きによって丁寧に描かれるメロディーの面白さ際立ちます。主題に入ると推進力が漲り、グイグイと引っ張っていきます。脳内では大オーケストラのこの曲の響きを想像しながらの鑑賞でしたが、徐々にこの室内楽版の面白さに気づき、スケール感よりもメロディーの起伏とパート間のメロディーのつなぎに耳が集中してきます。演奏は変わらすグイグイと進みもう大オーケストラの演奏以上に迫力を感じさせます。極上のアンサンブルによりまさにロンドンの大オーケストラの響きが脳内に浮かび上がります。迫力は音量にあらず。室内楽版とはいえ素晴らしい盛り上がりに圧倒されます。
続くアンダンテは室内楽版らしくメロディーラインがクッキリと浮かび上がり、本来のオーケストラ版よりも楽しめる感じ。これもヤープ・シュレーダーのヴァイオリンとホグウッドのフォルテピアノ、そしてリサ・ベズノシウクのフルートの冴えによるもの。特にフルートが加わることでオーケストラの音色を想像しやすくなっていますね。
メヌエットは迫力ではオケ版にはかないませんが、絶妙なテンポ感とリズムのキレで十分聴かせます。アンダンテ同様、各パートの絡みはオケ版よりもはっきり認識できるので、音楽の面白さはこちらに軍配が上がります。
フィナーレも絶妙な入り。耳が慣れてきたせいか、迫力も十分なものに聴こえてきました。速めのテンポで鮮やかにまとめ、聞き進むうちに大迫力に聞こえてきました。それだけ演奏に生気が宿っています。最後は大いに盛り上がって終了。

Hob.I:100 Symphony No.100 "Military" 「軍隊」 [G] (1793/4)
もちろん、軍隊の方も悪かろうはずもなく、針を落とすとロンドン同様、緻密で丁寧な序奏に惹きつけられます。主題に入ると実に鮮烈な響きが繰り出され、快速テンポでグイグイ進みます。異様にキレの良いリズムが推進力の源になり、独特な構成の1楽章をまとめていきます。ロンドン以上にキレの良い演奏で、この曲の陶酔感までを表現しきります。
軍隊の行進のアンダンテはもちろん打楽器なしですが、脳内で打楽器群が盛大に鳴っているように聴こえるのが不思議なところ。演奏の方も雄大さを表すようにあえてゆったり進んでいるのがそう感じさせるのでしょう。最後のクライマックスもトランペットも打楽器もないのに素晴らしい迫力を感じさせるのが見事。神業ですね。これはすごい。
メヌエットはその迫力の余韻をさらりと消し去るように軽快そのもの。楽章ごとの演奏スタイルもよく考えられて、楽章間の変化をしっかりつけてきます。
そして聴きどころのフィナーレはキリリとメリハリを効かせてフレーズごとに表情をしっかりつけ、推進力も十分。ハイドンの見事なフィナーレの構成をオケ版以上にクッキリと描ききり、迫力も十分。そして最後の頂点は打楽器もないのにスリリングにパンチアウト! 見事としか言いようがありません。

この演奏を聴いて、ようやくザロモン版のこの編曲の真価がわかりました。当時ロンドンではハイドンは熱狂的に迎えられたと聞きます。そのハイドンの音楽を室内楽で演奏して楽しむというニーズはよくわかります。そしてこの演奏を聴くと、あたかもハイドンの交響曲が演奏されているような錯覚に陥るほどの素晴らしい演奏。室内楽版の交響曲の演奏はこれまでに数種のアルバムがリリースされていますが、この演奏は室内楽版の交響曲のベストと言っていいでしょう。今まで聴いていなかったのはたまたまですが、ようやくこの素晴らしさがわかりました。LPのみならず、CD化もされており、直近ではホグウッド、ブリュッヘン、ダントーネらによる古楽器の交響曲全集にも含まれていることから入手も難しくありません。ハイドンファンなら一度は聴いておくべき名盤だと思います。もちろん評価は両曲とも[+++++]といたします。

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tag : ロンドン 軍隊 古楽器

ドラティ/ロンドン響の軍隊、時計(ハイドン)

こちらも最近オークションで手に入れたLP。

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アンタル・ドラティ(Antal Doráti)指揮のロンドン交響楽団(London Symphony Orchestra)の演奏で、ハイドンの交響曲100番「軍隊」と101番「時計」の2曲を収めたLP。収録情報は記載されていませんが、ネットを調べると1960年にリリースされたとの情報があります。レーベルはMerkury RECORDSのフランス盤。

ドラティといえばハイドンの交響曲全集を最初に録音した人として、当ブログの読者の方なら知らぬ人はいない存在。ただその演奏はフィルハーモニア・フンガリカとの録音ですが、これはロンドン交響楽団との演奏。調べてみると、全集の録音は1969年から72年にかけてで、こちらは1960年以前の録音と全集の10年前の録音。しかもドラティが覇気あふれる50代の演奏。略歴を確認してみると1937年に渡米した以降、ミネアポリス交響楽団などアメリカの主要オケの音楽監督を務め、このアルバムが録音されたしばらく後の1963年にBBC響の首席指揮者としてヨーロッパの楽壇に復帰します。アメリカで名声を得てヨーロッパで活躍する足がかりとなったものでしょう。レーベルもDECCAではなくMercuryということで、もしかしたらこのアルバムがDECCAに全集録音を決意させたアルバムかもしれませんね。

ドラティのハイドンはもちろん何度か取り上げています。

2014/04/06 : ハイドン–交響曲 : アンタル・ドラティ/フィルハーモニア・フンガリカの84番(ハイドン)
2013/07/02 : ハイドン–交響曲 : アンタル・ドラティの交響曲全集英LONDONのLP入手!
2011/03/09 : ハイドン–交響曲 : アンタル・ドラティの受難
2011/01/24 : ハイドン–交響曲 : アンタル・ドラティのマリア・テレジア
2010/12/31 : ハイドン–オラトリオ : アンタル・ドラティ/ロイヤル・フィルの「トビアの帰還」2
2010/12/30 : ハイドン–オラトリオ : アンタル・ドラティ/ロイヤル・フィルの「トビアの帰還」
2010/01/24 : ハイドンねた : 私はなぜハイドンにはまったのか?-3

ドラティの略歴などについては84番の記事をご覧ください。

ハイドンの交響曲全集は今でこそアダム・フィッシャー、デニス・ラッセル・デイヴィス、NAXOSの複数の指揮者に夜全集、ユニバーサルのホグウッドらによる古楽器混成全集など選択肢も増えてきましたが、私のオススメはドラティです。以前の記事にも書きましたが、図太い筆で勢いよく書いた古老の楷書の書を見るような、なんとも身が引き締まる演奏であり、ドラティを聴かずにハイドンを語るなかれというほどの名盤です。

そのドラティの交響曲全集のオリジンたる演奏であり、嫌が応にも期待が高まります。

Hob.I:100 Symphony No.100 "Military" 「軍隊」 [G] (1793/4)
この演奏を聴くためにフィルハーモニア・フンガリカの全集の演奏も聴いてみましたが、全集の方は良くいうと非常にまとまりの良い演奏。ドラティの険しさも感じられますが、全集としての完成度の高さを感じさせる演奏。対してこちらは、特にヴァイオリンのキレの良いボウイングと畳み掛ける迫力で上回る感じ。若干荒削りな印象もなくはありませんが、演奏の面白さはこちらがうわまります。特にLP
ならではのダイレクト感のある音質もいい感じです。ドラティもグイグイと攻めてきます。1楽章の終盤への盛り上げ方はど迫力でキレキレ。
2楽章の軍隊の行進は一定のテンポでサクサクと進めながら一音一音の引き締まった響きがどんどん迫力を帯びていき、パーカッションが乱舞。ドラティらしい禁欲的に引き締まりまくった演奏。高音域のタイトな響きはLPならでは。流れではなくダイレクトに音を響かせて音楽を作っていきます。
流石なのがメヌエット。ドラティらしい彫刻的に引き締まった響きの魅力に溢れた演奏。筋骨隆々。ザクザクと彫りの深い演奏によってメヌエットのメロディーの面白さが際立ちます。
メヌエットのエネルギーを引き継ぎ、フィナーレは速めのテンポで冒頭から畳み掛ける気満点。ハイドンの展開の妙を感じさせながらもクライマックスまっしぐらに駆け込みます。最後はドラティもオケを煽ってさらにテンポを上げて素晴らしい高揚感。予想通り壮年期のドラティの気迫みなぎる熱演です。

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Hob.I:101 Symphony No.101 "Clock" 「時計」 [D] (1793/4)
LPをひっくり返して時計。序奏はゆったりとした入りで厳かな雰囲気が漂います。主題に入るといきなりギアチェンジして快速テンポに変わります。フィルハーモニア・フンガリカとの演奏では印象は似ているもののテンポの変化はここまで急ではなく、1楽章の緊密な構成感を表現することに重点が置かれているような気がします。こちらはやはり迫力と陶酔感重視。軍隊の方はLPの迫力に軍配が上がったのですが、時計の方は全集の方もいいですね。主題以降快速テンポでグイグイ飛ばします。徐々にヴァイオリンが赤熱してきて未曾有のキレ味で畳み掛けてきます。やはりドラティ、煽りまくってきました。1楽章なのにものすごいエネルギーで締めます。
1楽章のほとぼりを冷ますように時計のリズムのアンダンテはリラックスしてゆったりと入ります。おそらく中間部に爆発するだろうと期待して耳をそばだてながらリズムを楽しみます。するとゆったりしながらもざっくりとした迫力で中間部に入ります。ドラティ、こちらの期待をはぐらかすように落ち着いたコントロールでやり過ごします(笑) ドラティはあくまでもきっかりリズムを刻んできました。
そして軍隊でも素晴らしかったメヌエットはやはりオケの引き締まった響きの魅力に溢れた秀演です。ヴァイオリンパートの覇気がすごい。メヌエットの王道を行くような堂々とした迫力が魅力の演奏。
フィナーレは別の日に収録されたのか、音程が若干低いように感じます。序奏は非常に落ち着いた入りで、徐々に力感がみなぎってきますが、これまでの演奏に比べてやや鈍重。これは迫力を表すべくのことでしょう。最後は裕大なフィニッシュで曲を閉じます。

ハイドンの交響曲といえばドラティ。そのドラティが交響曲全集を録音する10年前にリリースされた軍隊と時計。予想通り覇気に溢れた演奏でした。後年の全集は非常に完成度の高い演奏として知られますが、この演奏にはドラティのハイドンの交響曲に対するスタンスがより明確に現れていると言えるでしょう。軍隊は迫力で押し通す素晴らしい演奏。そして時計はそれよりもバランスを少し意識した演奏ということで、ドラティのアプローチにも若さが感じられます。時計の後半が若干難ありということで、軍隊は[+++++]、時計は[++++]といたします。

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tag : 軍隊 時計 LP

マリス・ヤンソンス/バイエルン放送響の「軍隊」(ミューザ川崎)

11月26日土曜は、午前中は歯医者さんの定期健診、午後はチケットをとってあったコンサートに出かけました。

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ミューザ川崎シンフォニーホール:マリス・ヤンソンス指揮バイエルン放送交響楽団

マリス・ヤンソンス(Mariss Jansons)指揮のバイエルン放送交響楽団の来日公演で、プログラムはハイドンの交響曲100番「軍隊」とリヒャルト・シュトラウスの「アルプス交響曲」の2曲。メインディッシュはアルプス交響曲ですが、私のお目当てはもちろん軍隊です(笑)。

マリス・ヤンソンスはウィーンフィルのニューイヤーコンサートを3度も振っている人ですので当ブログの読者の皆さまはよくご存知でしょう。ヤンソンスはこれまでにもコンサートでもハイドンを取り上げていて、ハイドンのアルバムも2枚ほどリリースされていますので、得意としているのでしょう。2枚とも当ブログでもレビューしています。

2013/05/11 : ハイドン–交響曲 : マリス・ヤンソンス/バイエルン放送響のロンドン、軍隊
2011/08/11 : ハイドン–声楽曲 : 【お盆特番2】マリス・ヤンソンス/バイエルン放送交響楽団のハルモニーミサライヴ

レビューを読んでいただければわかるとおり、軍隊は素晴らしい演奏だったわけですが、それゆえ今回の来日時に軍隊を振ると知り、ウィーンフィルもベルリンフィルも来日するなか、あえてこのコンサートのチケットをとったわけです。そもそもウィーンフィルはウィーンで聴いてますし、ベルリンフィルもはるか昔ですが、カラヤン時代の来日公演を聴いていますが、バイエルン放送響は一度も生できいたことがないということもこのコンサートのチケットをとった理由の一つ。そして、響きのいいミューザ川崎が会場だったのもありますね。

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ということで期待のコンサート。この日は土曜ゆえ、開演時間に駆けつけるという必要もなく、ゆったり出かけて、開演の1時間前にはホールに到着。

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都心の平日のコンサートは開演30分前に開場が定番ですが、1時間前に開場ということで、ホールに入ってのんびりすることにしました。

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土曜日ということで皆さん早めに到着しているようで、すでにホワイエではコーヒーやビールなどを楽しんで談笑している方多数。こちらはいつものように、ワインとサンドウィッチなどで軽く腹ごしらえ。

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この日の席は指揮者の正面、パイプオルガンの真下の席。オケに近い割には安い席です。日本のオケとはチケット代が違いますので座席も重要です(笑)。 ミューザ川崎はステージのまわりを客席が取り囲むヴィンヤード型ですが、音響効果を狙ってか、左右非対称に渦巻きのように客席が取り囲む構造。ステージ正面の席は席数が少なく、ステージがほぼホールの中央にある感じがよくわかります。これがこのホールの響きが良いことのに繋がっているのでしょう。ステージ上には後半のアルプス交響曲用の大編成のオーケストラ用の打楽器やオルガンなどがところ狭しと並べられていますが、前半のハイドン用に多くがステージ脇に寄せられているのが微笑ましいところ。ホールの入りは9割くらいでしょうか。チケット代が高いせいか1階席の空きが目立ちました。

やがて定刻になり、オケのメンバーが登場。照明がゆっくり落ちて、ヤンソンスが登壇すると期待の大きさからか、盛大な拍手が降り注ぎます。

予想通り、軍隊の序奏はヤンソンスらしくビロードのような響き。フレーズが丁寧に面取りされて実に柔らかに響きます。主題に入るとギアチェンジして抜群の推進力。流石なのは木管陣。フルート、オーボエ、クラリネット、ファゴットそれぞれ実にイキイキとした演奏。フレーズの躍動感が違います。皆大きくを体を揺らしながらイキイキとメロディーを奏でていきます。ヤンソンスの指揮はハイドンを得意としているらしく、フレーズごとに巧みに変化をつけ、特にアゴーギグの変化をかなり大きくとりながらもしっとりと音楽が流れるロマンティックなコントロール。しかも、力まず、全体の流れも見通しよく、気品を保っているので古典派のハイドンの演奏としても何ら違和感はありません。1楽章はハイドンの構成感の緊密さと、次々と繰り出される響きの多彩さがバランス良くまとまって流石のまとまり。
続く2楽章のアンダンテは、周到に磨かれた入り。美しいメロディーが一通り奏でられたあと、中盤から、ティパニ、トライアングル、シンバル、グランカッサが加わりますが、グランカッサはただ叩くだけではなく、中華鍋を洗うササラのようなもので、太鼓の胴をパシパシ叩いてリズムをとるんですね。コンサートで軍隊を聴くのは初めてのことなので、このあたりは視覚情報が重要です。クライマックスではやおら打楽器陣が炸裂するかと思いきや、意外に節度ある範囲での演奏。やはりここでもヤンソンス流の上品さが漂います。メヌエットに入る前にグランカッサなどを担当していた打楽器陣が上手のドアから撤収してしまいます。確か終楽章にも登場するはずだったのですが、、、
メヌエットはヤンソンスの緻密なコントロールの真骨頂。柔らかなのに起伏に富んだ表情で軽快に進みます。時折りレガートでアクセントをつけたり、ハイドンが書いたメロディーに仕込まれた機知に鋭敏に反応したコントロールで聴かせます。中間部の木管の色彩感豊かな演奏も絶品。ヤンソンスの棒に機敏に反応するオケの吹き上がりが見事。
そして、このクライマックスのフィナーレではオケの吹き上がりがさらに鮮やかになり、ヤンソンスの細かい指示にしたがってオケが俊敏に反応します。ティンパニのリズムがもう少しキレていればと思わせなくはありませんでしたが、オケのパート間をリレーしながら流れるメロディーの視覚的な面白さはアルバムではわからないもの。びっくりしたのはフィナーレの終盤、先ほど袖に下がってしまった打楽器陣が上手の客席のドアから行進してきて入場。ステージ前の客席最前列を行進しながらグランカッサとトライアングルなどを熱演するという粋な演出。この演出、ヤンソンス独自のものかハイドンの時代からのものかわかりませんが、打楽器陣の活躍に終演後場内は拍手喝采。なんとなくロンドンで初演された時も、ハイドンの粋な音楽に聴衆が沸き返ったとの情景が想像されるようでした。音楽とは楽しむものというハイドンの音楽の真髄を踏まえた見事な演出でした。

オケは精度で言えば日本のオケよりも劣るように感じるところもなくはありませんが、ハーモニーに宿るしなやかさや歌う表現力がやはり違いました。嫁さんも日本のオケの直裁な印象とは全く違うと感じ入っていました。おそらくそれもこれもヤンソンスの棒が豊かな音楽を引き出していたからに他なりません。

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休憩を挟んで後半は、アルプス交響曲。休憩中に先ほどまで脇にあった椅子や打楽器などを並べ直して、ステージが大オーケストラ用に生まれ変わります。開演前は気づかなかったのですが、ほとんどの椅子が、スタッキング用の椅子を2脚重ねていたこと。日本の椅子のシートハイは43〜44cm。海外のものは45〜46cm。おそらく体格の大きなオケの団員は椅子を重ねることでシートハイを上げていたのでしょう。

もちろん、アルプス交響曲は圧巻でした。前半のハイドンが古典の均整の範囲でのダイナミクスを聴かせたのとはことなり、今度は大規模オケがフルスロットルで炸裂します。この曲はベームの手綱を引き締めまくった辛口の演奏が刷り込み。他にもケンぺ、カラヤン、マゼールなどいろいろ聴いていますが、ヤンソンスの演奏は、色彩感豊かでダイナミックなもので、前半のアルプスの威容をスペクタクルに描くところの輝かしさは、ドイツ風の演奏とは異なり、純粋にダイナミック。ハイドンの音楽とは次元の異なる複雑なオーケストレイションを見事にコントロールしていましたし、中盤のメロディーが朗々と歌うところの圧倒的に流麗な感じもヤンソンスならでは。純ドイツ風の演奏ではなく、やはりヤンソンス流のしなやかさに包まれた演奏でした。

今回の席は指揮者の指示がよくわかるところで、またオケを上から俯瞰できたので、登山の場面での舞台裏のホルンの効果、カウベルやウィンドマシーン、サンダーマシーン、パイプオルガン、チェレスタなどの効果が手に取るようにわかりました。雷雨と嵐の場面でのウィンドマシーンはかなりの重労働。かなりの時間自転車のペダルのようなマシンの取手を変化をつけながら回しつづけなくてはなりません。

全22場面も終盤に至ると徐々に喧騒から耽美的な美しい描写に移り、オケが音量を落としながら静寂に吸い込まれるように終わります。ヤンソンスがタクトを下ろす前に拍手がフライングで、静寂が途切れてしまいますが、拍手は一旦途絶えて、ヤンソンスがタクトを下ろすと一斉にブラヴォー。やはり大オーケストラの迫力は生ならでは。そして響きのよいこのホールならではの素晴らしい響きを堪能できました。ヤンソンスも満足そうで、オケの奏者を代わる代わる讃え、何度も拍手に呼び戻されていました。

バイエルン放送響の来日公演で、どちらも独墺物の前半ハイドン、後半リヒャルト・シュトラウス。前半できりりとしたところを聴かせ、後半ではオケをフルに鳴らしきって実力を見せつけるなどなかなかよく考えられたプログラム。印象に残ったのはやはりヤンソンスのしなやかなコントロール力とそこから引き出されたオケの豊かな響き。日本のオケからここまで豊かなハーモニーが聴かれるかといえば、ことハイドンやリヒャルト・シュトラウスについて言えば、まだ少し差があるというのが正直なところでしょう。嫁さんも「やっぱり本場物は違うわね〜と関心しきりでした。



ミューザ川崎でのコンサート後の定番は、ホールの1階の牛タンやさん。

食べログ:杉作

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幸いすぐに入れて、まずはビール(笑) アルプス交響曲でアルプス登山を体験したような気分なので、ビールが沁みます。

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注文した牛タン定食はあっという間に出てきて、非常に回転がいいですね。仙台在住時には喜助の牛タンをよく食べたので、たまに牛タン定食が恋しくなります。このお店もテールスープに漬物、麦飯と本格仙台風で懐かしい味でした。オススメです!

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tag : 軍隊 リヒャルト・シュトラウス

オットー・クレンペラーの定番「軍隊」(ハイドン)

たまにはメジャーなアルバムを取り上げないと読者の裾野が広がりませんね。

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オットー・クレンペラー(Otto Klemperer)指揮のニュー・フィルハーモニア管弦楽団の演奏で、ハイドンの交響曲100番「軍隊」、104番「ロンドン」の2曲を収めたLP。収録は軍隊が1965年10月20日から25日、ロンドンが1964年10月14日から16日、いずれもロンドンのアビーロードスタジオでのセッション録音。レーベルは独EMI Electrola。

この演奏ですが、手元にはCDもあり、ロンドンの方はCDでレビューしています。

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amazon

手元にあるこのCDはすでに現役盤ではありません。

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amazon

こちらがハイドンの交響曲集ですが、こちらも現役盤ではなく、、、

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TOWER RECORDS / amazon / ローチケHMVicon

現在はバッハやヘンデルの曲も含めて8枚組としてパッケージされたこちらが現役盤です。

さて、今日わざわざこれまでリリースされたアルバムを並べたのは、古くから定評あるクレンペラーの軍隊が、ずっと聴いて来てきた手元にあるCDでは、もう一つ吹っ切れない印象を持っていたのが、最近手に入れたLPを聴いて、ようやく吹っ切れたということが言いたかったからです。つまり手元の古いCDのマスタリングが今ひとつだったではないかとの確信に至ったからです。

実は同じような体験を、カルロス・クライバーの振る椿姫でも感じたことがあります。最初に手に入れたのはCDでしたが、安定感はあるものの曇ったようなぼやけた響きからは、さしたる感動はつたわらなかったものの、偶然手に入れたLPを聴いてびっくり。クライバー特有の地の底から天上に湧き上がるような、あのエクスタシーが弾け散るではありませんか! 

2013/04/05 : オーディオ : LPを聴く楽しみ

今回のクレンペラーの軍隊も、LPを手に入れて初めてこの演奏の真価に触れた気がします。ついでながらこれまでにレビューしたクレンペラーの演奏もさらっておきましょう。

2014/04/10 : ハイドン–交響曲 : オットー・クレンペラー/ニュー・フィルハーモニア管の「オックスフォード」、「ロンドン」(ハイドン)
2010/12/28 : ハイドン–交響曲 : オットー・クレンペラー/ニュー・フィルハーモニア管弦楽団の88番
2010/10/29 : ハイドン–交響曲 : オットー・クレンペラーのトリノの時計
2010/10/26 : ハイドン–交響曲 : オットー・クレンペラーの時計

Hob.I:100 Symphony No.100 "Military" 「軍隊」 [G] (1793/4)
CDで聴くとゆったりとした低音をベースに程よい解像度でオケがゆったりと響きます。クレンペラーらしく一貫したテンポでゆったり大股で風を切って歩くような入りです。LPでは響きの立体感がさらに上がり、クッキリとした表情となにより空気感のようなものが違い、曲が進むにつれ、強音の吹き上がりにゾクゾクします。特にヴァイオリンのボウイングのキレが印象的。CDで感じた雄大な印象よりも精緻さが勝り、カッチリクッキリとした一貫した表情の方の印象が勝ります。1楽章はもはや精緻な迫力による怒涛の演奏。
軍隊の聴きどころの2楽章のアンダンテ。実にオーソドックスな演奏であり、耳を澄ますと演奏に少々ばらつきはありますが、なにか巨大な意思の存在を思わせる一貫性によって不気味な迫力を帯びてきます。小細工なしにグイグイと迫力が増していきます。トライアングルでしょうか、金属の鳴り物が恐ろしくリアルに響くのもLPならでは。アビーロードスタジオに満ちる響き。殺気すら感じるアタックの連続に痺れます。雄大なクレンペラーの魔術が効いてきました。
さらに素晴らしいのが続くメヌエット。LPという媒体の無限の表現力に圧倒されます。非常に状態の良いLPだったのでキレ味も最高。聴き慣れたメロディーが実に新鮮に響きます。50年以上前の録音なのに朝採れ野菜のような水々しさ!ヴァイオリンと木管楽器の響きの美しさに聴き惚れます。
そして曲を結ぶフィナーレ。LPの内周にもかかわらずクォリティは悪くありません。弦楽器が高いテンションで揺るぎ無くたたみかけてくる迫力は別格。流石に定評ある演奏と納得です。鮮明な響きに打たれ続ける快感に酔いしれます。生演奏の迫力とは異なるのですが、これがレコードを聴く楽しみというもの。最後のパーカッション総出演のクライマックスは険しい表情のクレンペラーの真骨頂。クライバーの恍惚とした爆発とは全く異なるものの、睨みを利かせたクレンペラーのオーラが針をつたわってスピーカーから噴出。絶品です。

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クレンペラーの軍隊の素晴らしさをリアルタイムに味わった方はもちろんLPを通してのことでしょう。年齢的には私より上の世代の方々はフルトヴェングラー、ワルター、クレンペラー全盛期にLPで音楽に親しんだ世代。今回このLPを聴いて、あらためて時代の空気に触れたような気になりました。LPもCDももちろんソースとなる録音は同一ながら、マスターテープの状態やマスタリング、媒体のコンディションなどさまさまなものの影響を受けて最終的に我々の耳に届きます。そこで残ったもののバランスが音楽の聴かせどころに大きな影響があるような気がします。LPで聴くクレンペラーの軍隊には、CDで聴くものからは感じられなかった時代の空気やクレンペラーのオーラが詰まっていました。

Hob.I:104 Symphony No.104 "London" 「ロンドン」 [D] (1795)
裏面のロンドンも同様。ミントコンディションのLPの素晴らしい響きに聴き惚れました。

昨今のLP復興はこうした体験をした多くの方の喜びに支えられているのでしょう。評価は両曲とも[+++++]です。

※現役盤の8枚組のCD、その前の3枚組のCDは手元になく聴いていません。私の手元のCDとは音質が異なる可能性があることをお含みおきください。

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tag : ロンドン 軍隊 ヒストリカル LP

スイトナーの「軍隊」/クライネルトの「時計」(ハイドン)

素晴らしいLPを発掘しました!

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オトマール・スイトナー(Otmar Suitner)指揮のライツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団(Gewandhausorchester, Leipzig)の演奏によるハイドンの交響曲100番「軍隊」、ロルフ・クライネルト(Rolf Kleinert)指揮のベルリン放送交響楽団(Berliner Rundfunk-Sinfonie-Orchester)の演奏による、ハイドンの交響曲101番「時計」の2曲を収めたLP。収録年の記載はありませんが、ネットで情報を探すと、両者とも1964年の録音のようです。レーベルは天下のイエローレーベルDeutsche Grammophone。

このアルバム、最近オークションで手に入れたもの。もちろん、狙いはスイトナーの軍隊。オトマール・スイトナーはN響の名誉指揮者だったことから日本でも人気があった人。私もスイトナーの振ったモーツァルトの交響曲集は愛聴盤にしていて、好きな指揮者です。スイトナーの振るハイドンの録音は少なく、手元にはLPが1枚あるのみで、今年の初めに記事にしております。

2016/01/11 : ハイドン–協奏曲 : カール・ズスケ/スイトナー/ベルリン国立歌劇場管のヴァイオリン協奏曲(ハイドン)

今日取り上げるアルバムはスイトナーの振る軍隊と、ロルフ・クライネルトの振る時計を組み合わせたもので、もともとはETERNAのプロダクションですが、東西の壁があった時代のもの故、西側にはDGが流通させていたものということでしょう。オリジナルのETERNA盤を探せばいいのでしょうが、状態の良いDG盤も捨て難いということで落札したものです。

手元に到着してまずはA面のスイトナーの演奏から聴きましたが、予想どおりの堅実、流麗な演奏。念のためB面のクライネルトの演奏を聴いてビックリ! 気力充実の素晴らしい演奏なんですね。スイトナーの演奏だけだったら記事にしていたかどうかわかりません。そう、このアルバムのメインはクライネルトの時計なんです。

ということでクライネルトの略歴をさらっておきましょう。ロルフ・クライネルトは1911年、ドレスデン生まれの指揮者。1931年から1933年までザクセン国立歌劇場附属のオーケストラ学校で指揮、ピアノ、ヴァイオリン、オーボエやトランペットなどを学びました。卒業後はフライブルクの歌劇場、ブランデンブルク市立劇場などで指揮をすることになり、終戦後の1947年からライプツィヒ放送管弦楽団を振り、1949年から1952年までゲルリッツ歌劇場の音楽監督などを歴任します。1952年からこのアルバムで演奏を担当するベルリン放送交響楽団を振るようになり、当時首席指揮者だったヘルマン・アーベントロートが亡くなった後、1959年から首席指揮者となりますが、1975年に任期中に急逝したとのこと。旧東独圏だったからか、日本ではあまり知られた人ではありませんが、この録音を聴く限り、素晴らしい演奏を引き出す人との認識です。

まずはスイトナーから。

Hob.I:100 Symphony No.100 "Military" 「軍隊」 [G] (1793/4)
LPのコンディションは悪くありませんが、音にシャープさが足りません。おそらくETERNAの原盤はもう少しフレッシュな響きが聴かれるのではないでしょうか。それでも分厚い響きはよく再現されていて、スイトナーらしい流れの良い音楽がすぐに迫力を帯びて響き渡ります。比較的速めのテンポで淀みなく盛り上がっていきます。スイスイ進みながらおおらかに盛り上がる、流石スイトナーという指揮。このしなやかな流れこそスイトナーの魅力と言っていいでしょう。1楽章の素晴らしい構築感が燦然と輝きます。
続く軍隊の行進の2楽章も入りは激しなやか。リズムを強調するのは終盤の盛り上がりに備えた一部分だけ。しかもその盛り上がりも正統派で媚びないもの。スタイリッシュとまではいかないものの、軍隊のトルコ風のメロディーをここまでしなやかな印象に包んでくるのは流石なところ。
メヌエットでもおおらかな自然な起伏のなかにしなやかな力感を込められたもの。この自然さに勝る説得力はありません。耳を澄ますと自然に聴こえるフレーズの一つ一つの終わりにすっと力を抜くところがあり、それがただの自然さとは段違いの豊かな表情をつくっていることがわかります。
フィナーレではようやく、ぐっと踏み込みオケの底力を感じさせますが、アンサンブルは一糸乱れぬリズムで盤石の安定感。そしてここでもフレーズごとに力の入れ具合を巧みにコントロールして、まるで柔らかな階調のモノクローム写真のように陰影の微妙な違いの美しさと、落ち着いたコントラストのリズムを際立たせます。特にフィナーレのデリケートなコントロールは秀逸。隅々までスイトナーの美学が行き渡った完ぺきなコントロール。トルコ風の打楽器陣もことさら目立たせることなく調和のとれた音量でまとめます。み、み、見事!

この演奏の素晴らしさに酔って、つづいて盤を裏返してクライネルトの時計を聴くと、さらにその上をいく演奏ではありませんか!

Hob.I:101 Symphony No.101 "Clock" 「時計」 [D] (1793/4)
スイトナーにしつけられたライプツィヒ・ゲヴァントハウス管とは異なり、少々の荒さをともなうベルリン放送響。穏やかな序奏を終え主題に入ったところでオケにみなぎる異常なエネルギーに驚きます。時計はもともと1楽章の構築美が聴きどころですが、この演奏はあまりに見事にその構築感とみなぎる力感を惜しげもなく表現しています。ぐっと身を乗り出しクライネルトの棒を想像しながら音楽に身を任せます。スイトナーの洗練された美しさもいいですが、このクライネルトの燃えたぎるような盛り上がりには圧倒されます。まさに理想的な時計の1楽章。迫力を帯びた弦楽器の深い響きも素晴らしい!
続く時計のアンダンテも理想的な古典の均衡を保ったもの。一貫した少し速めのリズムに乗って次々とメロディーの変奏が重なり、音楽が進むにつれて成熟し、徐々に力が漲り盛り上がっていく様子は手に汗握る迫力。リズムが終始一貫して保たれながら表情が次々と変化するところはかなりのコントロール力を要するところでしょう。終盤静かに転調するところは鳥肌がたつような見事なセンスでまとめます。
そしてメヌエットもスイトナーのしなやかさとは異なり、力感で聴かせるタイプ。オケが豪快に鳴り響く快感に素直に酔いしれます。ハイドンのメヌエットの魅力をレコードの表と裏で双方素晴らしい異なる解釈で楽しめるとは贅沢極まりないもの。中間部のフルートによる軽やかなメロディーと重量級のオケの掛け合いの見事なセンス。ただ力強いのではなく、ドーリア式神殿のデリケートなプロポーションによる優美さを兼ね備えた力感のような洗練された力強さ。
フィナーレの入りはもちろん軽さを印象付けてから、スロットルをぐっと全開にしていく面白さを味あわせてくれます。ところどころに印象的なアクセントをつけ、またスロットルを巧みにコントロールして、まさに自在にオケを操り、クライマックスを何段階にも繰り返しながら最後はフーガのような郷愁を感じさせ、フィニッシュ!

いやいや、クライネルトの時計、あまりの素晴らしさに絶句です。ハイドンが2度のロンドン旅行を経て到達した交響曲というジャンルの頂点といえるこの曲の理想の演奏と言っていいでしょう。もちろんスイトナーの軍隊も絶品ですが、軍隊をスタイリッシュに聴かせるというのは変化球の範疇。クライネルトの時計はまさにど真ん中の豪速球ストレート。この時計の素晴らしさは深く心に刻まれました。そもそもこのアルバム、西側のDGが東側のETERNAの名演奏を2つまとめた企画ですが、当時の東側の音楽の質の高さをものがたる貴重なプロダクションでしょう。オークションや中古ではまだまだ見かける盤故、ご興味のある方は是非聴いてみられることをお勧めします。評価はもちろん[+++++]を進呈です。

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tag : 軍隊 時計 ヒストリカル LP

【追悼】ホグウッド/AAMのロンドン、軍隊(ハイドン)

遅ればせながら追悼記事を。

去る9月24日、古楽器演奏を切り開いてきたクリストファー・ホグウッドが亡くなりました。今年に入って、アバド、マゼールなど名だたる指揮者が亡くなっていますが、ブリュッヘンの後を追うようにホグウッドまで亡くなるとは。ハイドンの演奏にも偉大な足跡を残してきた人だけに、その死が惜しまれます。

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HMV ONLINEicon(交響曲選集) / amazon(別装丁盤) / amazon(交響曲選集) / TOWER RECORDS(交響曲選集)

クリストファー・ホグウッド(Christopher Hogwood)指揮のエンシェント室内管弦楽団(The Academy of Ancient Music)の演奏でハイドンの交響曲104番「ロンドン」、100番「軍隊」の2曲を収めたアルバム。収録は1983年9月、11月、ロンドンのキングスウェイホールでのセッション録音。レーベルはもちろんL'OISEAU-LYRE。

当ブログの読者の方ならご存知のとおり、ホグウッドのハイドンの交響曲集は全集を目指した丁寧な作りで続々とリリースされながらも、8合目あたりまで差し掛かった第10巻をリリースしたところでプロジェクトが中止になってしまいました。今日取り上げるアルバムは全集としてリリースされ始める前に、ザロモンセットの有名曲を2枚リリースしたうちの1枚。ホグウッドのハイドンとしては最初期の1983年の録音です。このロンドンと軍隊の他に驚愕と奇跡の録音があります。

このアルバムはジャケットもLP時代のL'OISEAU-LYREのイメージをそのままCDにした古いタイプのものですが、今見ると妙に雅な印象で懐かしい感じですね。私がこのアルバムを手に入れたのはかなり前で、おそらく1992年くらいだと記憶しています。当時確か第4巻から続々とリリースされはじめた交響曲全集の輸入盤をリリースされる度に手に入れ、舐めるように聴き入ったものですが、何巻か手に入れたあとにこのアルバムを入手。当時は初期の交響曲の面白さに開眼したばかりだったので、全集の方は興味深く聴いたものの、こちらのアルバムの方は当時は古楽器登場前のドラティやカラヤン/ウィーンフィルなどの古典的な演奏のイメージが強く、ホグウッドの繰り出すあまりにすっきりとした響きへの違和感が強くあまり楽しめなかった記憶があります。まだまだ耳が若かったわけです(笑)

今はオフィシャルにリリースされた75番までと、このロンドン、軍隊と驚愕、奇跡を合わせたものが交響曲選集として手に入るようになっているようですが、やはりリリースされた頃の古い体裁のアルバムの方に愛着があります。なんとなく時代の空気も一緒に詰まっているような気がして手放せません。

ホグウッドのハイドンでは私は協奏曲の伴奏を高く評価しており、交響曲については、ちょっと控えめな姿勢です(笑) これまでに取り上げた記事の一覧を貼っておきましょう。

2012/09/09 : ハイドン–交響曲 : ホグウッド/AAMのアレルヤ、ホルン信号
2011/11/03 : コンサートレポート : 【サントリーホール25周年記念】ホグウッド/N響の第九
2011/06/08 : ハイドン–交響曲 : ホグウッド/AAMの校長先生
2011/04/02 : ハイドン–声楽曲 : 【新着】ホグウッドの伴奏による歌曲集、室内楽
2010/12/23 : ハイドン–声楽曲 : 【年末企画】サイモン・プレストンの大オルガンミサ
2010/12/23 : ハイドン–声楽曲 : 【年末企画】サイモン・プレストンのチェチーリアミサ
2010/09/21 : ハイドン–協奏曲 : ホグウッドのトランペット協奏曲
2010/09/15 : ハイドン–協奏曲 : コワン/ホグウッドのチェロ協奏曲
2010/05/30 : ハイドン–交響曲 : 散歩の収穫、ホグウッド未発売盤

古くは同じL'OISEAU-LYREのプレストンのミサ曲のアルバムでオルガンを弾いているものもあり、それもなかなかいいのですが、私のお気に入りはトランペット協奏曲、オルガン協奏曲、ホルン協奏曲を収めたもの。とりわけオルガン協奏曲がスバラシイ! どの交響曲の演奏よりもオケに勢いというか生気があり、ホグウッド自身が弾くオルガンもキレてます。たまに取り出しては至福の陶酔感を味わっています。

そしてホグウッドは実演も2度聴いています。いずれもN響に客演した時で、最初は2009年9月にはにハイドンの「ロンドン」をメインとしたプログラム、そして上の記事にも書いた2011年11月のサントリーホール25周年の第九。ホグウッドがハイドンの交響曲を録音していた1980年代、90年代からずいぶんたって実演を聴き、交響曲演奏のころも萌芽があった新古典主義的諧謔性が音楽に活気を与えていたのが印象的でした。小刻みに体を縦に揺らしてオケを煽っていくホグウッドの姿が今も記憶に残っています。

ブリュッヘンやピノックらとともに古楽器演奏の潮流をつくり、ハイドンの演奏史にも偉大な足跡を残したホグウッドの、ハイドンの交響曲の演奏の原点たるこのアルバム、今聴き直すとどう感じるのでしょうか。

Hob.I:104 / Symphony No.104 "London" 「ロンドン」 [D] (1795)
このアルバムを聴いた時の驚きが蘇ります。古楽器独特のキリリとした響きによる序奏が轟きます。現代楽器の響きに慣れた耳に衝撃的に響くオーセンティックな音の塊。今は古楽器演奏は珍しくはありませんので、ホグウッドの溜めのない直裁なフレージングに違和感はありませんが、当時はモーツァルトの交響曲とともにホグウッドの演奏で古楽器の時代のはじまる息吹を浴びたのを懐かしく思い出します。速めのテンポでグイグイではなくサラサラと流れていく音楽。迫力よりも繊細な響きの変化を聴けと言われているような流れの良さ。独特の弦、木管、そして硬質なティンパニの響き。どれもが新鮮でした。聴きなれたロンドンが垢をを落とされ、修復工事を終え製作当時の鮮やかな色彩を取り戻したシスティーナ礼拝堂のミケランジェロのフレスコ画に接するような新鮮なものに映りました。
アンダンテも速めにサラサラと流れ、これまでのゆったりとした感興ではなく、清流のようなしなやかな音楽として響きます。途中にホグウッドのものか唸るような声が入りますが、当時は気づいていませんでした。メヌエットは透明でキレの良いヴァイオリンの切れ込むような音色が印象的。一貫して速めのテンポが当時は非常に新鮮でした。フィナーレも弦の切れ味とオケの吹き上がりの痛快さを楽しむような演奏。今聴くと迫力もそれなりにあって、ロンドンの演奏としては非常にまとまりのよいもの。時代を切り開いてきた息吹が存分に味わえる演奏です。

Hob.I:100 / Symphony No.100 "Military" 「軍隊」 [G] (1793/4)
軍隊の方も速めのテンポで流れの良い演奏なんですが、意外に迫力があります。他の演奏との対比からあまり迫力がある演奏との記憶はありませんでしたが、今聴くと、記憶の印象のせいかスバラシイ迫力の方に驚きます。響きの美しいキングスウェイホールに古楽器の響きとその余韻が広がる快感。ここにも後年芽をふくホグウッドの新古典主義的なリズム感がほんのりと感じられます。オケが次々と吹き上がる陶酔感。迫力のみならずキリリと引き締まった速めのテンポで統率され、高雅な魅力に満ちています。
聴きどころの2楽章は意外にオーソドックス。こちらの耳が古楽器に慣れたのでしょう。最近では迫力重視の灰汁の強い演奏が増えたため、逆にオーソドックスに聴こえるということですね。それでも木管をはじめとした古楽器の音色の美しさを存分に聞かせながら、サラリと爆発するところの手腕は見事と言うほかありません。淀みなく音楽が流れますが、そこここにさりげないアクセントがあり、穏やかな刺激が脳に届きます。
メヌエットも同様、これほどの完成度だったかと認識を新たにします。演奏によっては平板な印象もあることがあるホグウッドの演奏ですが、実に表情豊か。そしてフィナーレもオケが気持ち良く鳴り響きます。タクトを振る快感を疑似体験するような素晴らしいオケの吹き上がり。この曲ではオケの俊敏な切れ味を堪能できます。ホグウッドの素晴らしいオーケストラコントロールを再認識させる名演でした。

このアルバムをちゃんと聴き直したのはもしかしたら20年ぶりくらいかもしれません。記憶に残る演奏は当時の驚きの分、新鮮さと直裁な印象が勝っていましたが、今聴きなおすと、意外にオーソドックスでかつ、その完成度も素晴らしいものがありました。ロンドンの新鮮な響きもいいのですが、何より軍隊のバランスの良い迫力は秀逸。今聴いても古さを感じるどころか、逆に名演ひしめく古楽器の演奏のなかでも指折りのものと再認識しました。ホグウッドのハイドンの交響曲の原点の録音たるこのアルバム、あらためて聴きなおし、心に焼き付けなおしました。やはり古楽器演奏の時代を切り開いたというのにふさわしい偉大な存在でした。評価はロンドンは[++++]のまま、軍隊は[+++++]にアップです。

生きていれば未完のハイドンの交響曲全集を完成させるという偉業に挑むこともできたでしょうが、亡くなってしまい、それも叶わぬこととなりました。また一人時代をつくった偉大な個性が失われました。こころよりご冥福をお祈りいたします。

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キリル・コンドラシン/北ドイツ放送響の「軍隊」ライヴ(ハイドン)

しばらく仕事が忙しく更新が滞っておりました。今日はCD-R。

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キリル・コンドラシン(Kyrill Kondrashin)指揮の北ドイツ放送交響楽団(North German Radio Symphony Orchestra)の演奏で、ハイドンの交響曲100番「軍隊」、ヒンデミットの「気高い幻想」組曲、マーラーの交響曲1番「巨人」の3曲を収めた2枚組のCD-R。ハイドンの収録は1981年1月26日のライヴ。収録会場の表記はありません。レーベルはCD-Rでは良く取りあげるEn Larmes。

コンドラシンがハイドンを振っているとは知りませんでした。コンドラシンといえばロシア音楽を得意としており、聴いたことがあるのはシェエラザードくらい。ハイドンはともかく、モーツァルトやベートーヴェンまでふくめて、独墺系の音楽を振るイメージがありませんでしたので、このCD-Rをディスクユニオン店頭で発見したときには意外なという印象と、それでもコンドラシンの軍隊ならば、キリリと引き締まったタイトな響きが聴かれるだろうという期待もありました。

キリル・コンドラシンは1914年にロシアのモスクワ生まれの指揮者。家族はオーケストラの団員一家で、モスクワ音楽院で学び、1931年にはモスクワの青年劇場にて指揮をはじめ、1938年から42年までレニングラード歌劇場で研鑽を積み、1943年から56年までボリショイ劇場の常任指揮者として活躍しました。1958年に開催された第1回チャイコフスキーコンクールにて1等を獲ったヴァン・クライバーンの伴奏を担当し、コンクール後クライバーンとともにアメリカを演奏旅行し、冷戦後はじめてアメリカを訪問した指揮者となったそう。コンクールで演奏したラフマニノフの3番とチャイコフスキーのコンチェルトを演奏、録音。ミリオンセラーとなり世界的に知られるようになりました。1960年からはモスクワ・フィルの音楽監督となり、1975年まで務める間にショスタコーヴィチの交響曲4番、13番を初演しました。1978年にアムステルダムコンセルトヘボウに客演中、オランダに亡命し、コンセルトヘボウの常任客演指揮者に就任したそう。今日取り上げる演奏はまさに、その直後の1981年の録音です。ちなみにコンドラシンが亡くなったのはこの演奏の2ヶ月後の1981年3月、おそらくこのアルバムに収録されているマーラーの交響曲1番の演奏後、ホテルに戻ったあと心臓発作にて亡くなっています。ということで、このアルバムはコンドラシンの最晩年の貴重な録音ということになります。ハイドンも気になりますが、最後の録音たるマーラーも気になりますね。

Hob.I:100 / Symphony No.100 "Military" 「軍隊」 [G] (1793/4)
録音は悪くありません。81年相応といったところでしょうか。鮮明さはほどほどですが、低音から沸き上がる迫力はかなりのもの。オケが鳴り響く余韻も悪くありません。冒頭から落ち着いた表情ながら適度に粗さをともなったダイナミックかつ推進力ある演奏に引き込まれます。図太い響きを惜しげもなく披露。アクセルを吹かすと心地よくエンジンが吹き上がる様子が快感。さざ波のような軍隊独特のヴァイオリンパートのワクワク感が絶妙。表現巧者ぶりが伝わります。意外に表情に細かい変化をつけて実に豊かな音楽を造っていきます。想像したほどロシアっぽくない巧みな演奏。
続く2楽章アレグレットは、1楽章の勢いを保ったまま、すんなり入ります。予想通りアクセルに応じたオケの爆発が心地よく、淡々と爆発していきます。テンポが一貫しているので、ダイナミクスの変化に意識が集中します。気づいてみるとなかなかよく考えたアプローチ。この楽章では爆発は適度におさめて、コントロールの巧みさを保っています。
メヌエットに入ると、明るさと優雅さを感じさせながらも力感はかなりのもので、フィナーレに意識が向くように促しているよう。徐々にインテンポで斬り込むようになり、テンションも上がってきます。筋肉が温まって、黒光りしてきているよう。
フィナーレは居合いのような間とキレが交錯。すべてがコンドラシンのイメージ通りに進んでいるように、完璧にコントロールされています。オケのキレは最高。沸き上がるティンパニ、キレまくるヴァイオリン、地響きのようなグランカッサ。最後は怒濤の迫力で終わります。ライヴですが楽章間の雑音や拍手はカットされています。

非常にタイトな魅力に溢れた軍隊でした。コンドラシンはオケをギリギリと引き締め、引き締まった響きをつくる才能に溢れた人である事がいまさらながらわかりました。肝心のCDの2枚目に収められた巨人も素晴しい演奏。私は巨人もアバドのカミソリのようなキレ味が味わえるシカゴ響とのLPが刷り込み盤ですが、このコンドラシンの演奏は亡くなる日の演奏とは思えない瑞々しくフレッシュな感覚が支配した演奏。響きが立っているというか、緊張感が張りつめていると言うか、まったく緩むところがない素晴しい演奏。鮮度の高い響きにたいする天性の感覚をもっていたのでしょう。もしかしたらアバド盤より良いかもしれません。コンドラシンという人の音楽の真髄に触れた気がします。軍隊の評価は、やはり[+++++]をつけない訳にはいかないでしょう。

さて、今日は月末、、、

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tag : 軍隊 ライヴ録音

【新着】ブルーノ・ヴァイル/カペラ・コロニエンシスの交響曲99番、時計、軍隊(ハイドン)

知らぬ間に第3弾がリリースされていたようです。このシリーズ、なかなか粋なジャケットデザインです。

Weil99_100_101.jpg
amazon / TOWER RECORDS

ブルーノ・ヴァイル(Bruno Weil)指揮のカペラ・コロニエンシス(Cappella Coloniensis)の演奏で、ハイドンの交響曲99番、101番「時計」、100番「軍隊」の3曲を収めたSACD。収録は2012年9月29日、2013年2月16日の両日、ドイツ、エッセンにあるエッセン・フィルハーモニーのアルフレッド・クルップホールでのライヴ。レーベルは独Ars Production。

ヴァイルのハイドンはトーマス・ファイなどと同様、かなりの回数取りあげています。

2013/05/09 : ハイドン–交響曲 : ブルーノ・ヴァイル/ターフェルムジークの86番
2012/08/11 : ハイドン–管弦楽曲 : ブルーノ・ヴァイル/カペラ・コロニエンシスの「十字架上のキリストの最後の七つの言葉」
2012/01/24 : ハイドン–オラトリオ : ブルーノ・ヴァイル/カペラ・コロニエンシスの四季
2011/08/14 : ハイドン–声楽曲 : 【お盆特番4】ブルーノ・ヴァイルのテレジアミサ、ネルソンミサ
2011/01/10 : ハイドン–オラトリオ : ブルーノ・ヴァイルの天地創造
2010/12/25 : ハイドン–交響曲 : 【年末企画】ブルーノ・ヴァイルの交響曲50番、64番、65番
2010/03/08 : ハイドン–交響曲 : ブルーノ・ヴァイル、ザロモンセットへ

いろいろ書いているとおり、最近のカペラ・コロニエンシスとの演奏は、昔の溌剌としたヴァイルの良さから、かなり落ち着いてきていますので、好みも別れる所でしょう。このアルバム、久しぶりのヴァイルの新譜と言う事で何となく気になっていました。

Hob.I:99 / Symphony No.99 [E flat] (1793)
予想通り、さっぱりと速めのテンポで入ります。先日ファイの新譜を聴いたばかりですが、ヴァイルも新参者ファイに負けてはおれぬとの気合いの入った演奏。ファイよりも変化は少なめですが、キビキビとしたオケの魅力はターフェル・ムジークとの時代を彷彿とさせるもの。一時落ち着いてしまったと思ったんですが、ヴァイルのキビキビとタイトな演奏の魅力は健在でした。中盤以降は素晴しい推進力で畳み掛ける迫力に溢れたもの。ライヴですが会場ノイズは皆無で音響処理をしているのでしょう。
アダージョはゆったりと盛り上がる魅力に溢れた曲ですが、ヴァイルのアプローチは古楽器的な音色を活かしたさっぱりとした感興で聴かせるもの。途中さらりとフルートの音色の透明感が際立つ部分が印象的。ジャケット写真を見ると管楽器は古楽器ですね。メヌエットはキビキビとしたオーケストラコントロールで聴かせます。
期待のフィナーレはファイが千変万化する表情の変化で聴かせたものを、ヴァイルはオーソドックスながら、各楽器の面白い響きを重ねて油彩で色を置いていくような練りをを感じるもの。途中テンポを落としたところのカジュアルな表現など、ハイドンの面白さを知り尽くした人ならではの工夫があります。分厚いオケに奏者の息づかいを感じるような各楽器の面白い響き。なかなかいい99番です。拍手はカットされています。

Hob.I:101 / Symphony No.101 "Clock" 「時計」 [D] (1793/4)
時計も序奏は速目でさっぱりとしたもの。やはり主題に入るとがっちりとしたオケによる推進力溢れる演奏。オケは適度に粗いのですが、それが良い方向に働いてます。時計の良さは1楽章にあると確信している私にとって、このヴァイルの畳み掛けるように推進していく演奏は理想的。モダン、スタイリッシュでかつオーセンティックなところをおさえたバランスの良い演奏と言っていいでしょう。
有名な時計のアンダンテは速い速い。予想はしてましたが、まるでおとぎの国の時計のような微笑ましさ。中盤以降の激しいフレーズに入っても快速テンポは変わらず、グイグイいきます。落ち着かないぐらい速い。
その勢いを受けて、メヌエットも比較的速いテンポで楽天的に入ります。音楽に勢いがあるせいか、アクセントもきっちり効いてメリハリも十分。
そして最後のフィナーレは、なぜかほっとするような落ち着きを帯びています。もちろんクッキリとして推進力もほどほどあるのですが、全体に音楽がなじんで、ゆったりと流れる印象があります。カペラ・コロニエンシスの低音弦の迫力はなかなか見事。クライマックスはオケが振り切れんばかりに鳴って終了。

Hob.I:100 / Symphony No.100 "Military" 「軍隊」 [G] (1793/4)
そして、期待の軍隊。この曲も最近ファイの名演に接しています。ヴァイルの演奏はオーソドッックスなものですが、前曲からの流れの影響か、落ち着きが感じられます。やはり、じっくりと歌う部分の存在が曲を落ち着かせます。堂々として、風格があり、穏やかでもある演奏と良いでしょう。風格の1楽章。
そして軍隊の行進を描いたアレグレットは普通にはじまりますが、ここぞの爆発が凄い。普通の演奏とは異次元のアクセント。床を踏み鳴らすような音まで聴こえて、ハイドンの機知に応えているよう。なかなかユニーク。打楽器陣大活躍。流石SACDだけあって鮮明に響きます。
メヌエットは響きの余韻を楽しむよう。十分ダイナミックなんですが、前楽章が異次元のダイナミックさだったので、流麗、穏やかな演奏に聴こえるのが不思議なところです。
フィナーレも同様、最初は大人しく、テンポもすこし穏やか目に聴こえますが、徐々に盛り上がり、特に固い音のティンパニが加わると響きが引き締まり、最後は爆発します。やはり軍隊はこうこなくては。

久々にブルーノ・ヴァイルらしいハイドンを聴くことができました。硬質な響きと鋭いアクセントが決まったときのキレは流石というところ。ただし、ターフェル・ムジークとの初期交響曲、パリセットの飛ぶ鳥を落とす勢いの演奏とくらべると、やはり落ち着いていて、あと一歩の踏み込みを求めたくなってしまうのも正直なところ。迫力のコントロールは見事ですが、逆に曲としての音楽的なまとまりについては、これ以上の演奏も増えてきているというのが正直なところでしょう。私の評価は3曲とも[++++]とします。

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【追悼】ジャン=フランソワ・パイヤール/イギリス室内管の驚愕、軍隊

メジャーな演奏者によるハイドンの交響曲の録音を取りあげている5月ですが、今日は先月亡くなったパイヤールのアルバムを取りあげます。

Paillard94.jpg
amazon

ジャン=フランソワ・パイヤール(Jean-François Paillard)指揮のイギリス室内管弦楽団の演奏で、ハイドンの交響曲94番「驚愕」と100番「軍隊」、そしてウィーン弦楽四重奏団の演奏による弦楽四重奏曲Op.76のNo.3「皇帝」の3曲を収めたアルバム。今日は交響曲の方を取りあげますが、収録は1980年とだけ記載されています。レーベルはRCA。

ハイドンの演奏でパイヤールといえば、モーリス・アンドレとのトランペット協奏曲の演奏がありますが、その他はあまり印象がありませんでした。このアルバムかなり前から手元にあったのですが、他のアルバムにまぎれて行方不明になっていたのがようやく見つかりました。先月パイヤールの訃報に接した時に取りあげようとしたのですが、アルバムが見つからす見送っていたものです。

2012/02/28 : ハイドン–協奏曲 : 【追悼】モーリス・アンドレ/パイヤールのトランペット協奏曲

モーリス・アンドレが亡くなったのが2012年の2月。そしてパイヤールも先月、4月15日に亡くなっています。昔親しんだ演奏家が次々と亡くなっていくのは、仕方のない事とはいえ、ちょっと寂しいものがありますね。パイヤールといえば何といってもモーツァルトのフルートとハープのための協奏曲でしょう。我々の世代にとっては定番のアルバムですね。モーツァルトの協奏曲では最も華麗な曲想のこの曲を、リリー・ラスキーヌの上品なハープと、ランパルの豊穣なフルート、そしてパイヤールのキリッと上品にエッジを立てた華麗なオーケストラコントロールで描いた名演奏。このあと数多くリリースされる古楽器による素晴しい演奏と聴き比べても、パイヤール盤の華麗な演奏は耳に焼き付いています。やはりフランスらしい華麗なオーケストラコントロールの印象が強い人です。

そのパイヤールが、イギリス室内管を振ったハイドンの交響曲。このアルバムの他にも時計、ロンドンの録音があるようなので、手に入れなければなりませんね。

Hob.I:94 / Symphony No.94 "Mit dem Paukenschlag" 「驚愕」 [G] (1791)
小規模オケ、しかも現代楽器のオケらしい、クッキリとした響きの序奏から入ります。主題に入るとヴァイオリンによる高音の隈取りがクッキリついて華麗な響き。テンポはオーソドックスなものですが、キビキビした足取りで推進力は十分。安心して身を任せられる演奏です。演奏によってはインテンポで畳み掛ける迫力を味わえる1楽章ですが、パイヤールのコントロールは華麗な響きでハイドンの曲のメロディーラインと構成の美しさを表現する事に主眼を置いたもの。ここぞという踏み込みはないものの、この規律こそハイドンの本質と言わんばかりに、演奏をすすめていきます。旋律をこれだけクッキリと歌わせながら、類いまれな安定感。こうゆう演奏ももはや貴重なものですね。演奏スタイルは異なるものの、同じフランスのリステンパルトの演奏にも漂う安定感。
2楽章のアンダンテはまさに完璧な古典的演奏。音楽の授業で聴いたのはパイヤール盤だったのでしょうか。この曲のオーソドックスな演奏の見本のような響き。意外に彫りが深く、表情も立体的で迫力も十分。これだけ完成度が高い演奏だったとは。
メヌエットに入っても、完璧なプロポーションと流れの良さは健在。ウィーンらしいというより、やはりフランス風の軽やかさがあり、メヌエットはまさに舞曲らしくメロディーが弾むよう。ここまで活き活きとしたメヌエットはそうありません。
この曲の聴き所でもあるフィナーレ。入りから非常に表情豊か。音量ではなくフレージングでこの曲のフィナーレ独特の沸き上がる感じを上手く表現しています。音量でも迫力でもなく、磨き抜かれたオーケストラコントロールでこの曲の素晴しい盛り上がりを表現。見事。これほどの演奏だったとは。

Hob.I:100 / Symphony No.100 "Military" 「軍隊」 [G] (1793/4)
入りから癒しエネルギーが満ちてます。これから展開する曲の面白さを予感させる、豊かな表情の序奏。現代の演奏が忘れてしまった、メロディーの華麗な展開と素朴な美しさに満ちあふれています。とりわけクッキリしたヴァイオリンと色彩感たっぷりの木管楽器の織りなす表情の美しさは素晴しいもの。実に美しい軍隊。これだけ華麗な軍隊の1楽章は聴いた事がありません。曲がすすむにつれて沸き上がる素晴しい興奮。音楽が生き物のように躍動しています。
軍隊の聴き所の2楽章。もちろん迫力もあるのですが、パイヤールのコントロールは一貫してメロディーの豊かな表現にあります。打楽器が炸裂するところもそこそこいいのですが、全体を見据えて盛り上げていくまでのコントロールと、抑えた部分の美しいメロディーは只者ではありません。そして全般に力みがまったくなく、純粋に演奏を楽しんでいるようなリラックスした雰囲気が素晴しいですね。
そしてこの曲でもメヌエットは弾みまくり。メヌエットとはこう演奏するものだと教わっているような気分。音符がすべて意味があり、リズムの刻みも完全にパイヤールのリズムになっています。オケ全員にパイヤールの音楽が浸透しているのですね。
期待のフィナーレ。少し抑え気味に入りますが、パイヤール流の流麗、華麗なフレージングは健在で、曲が進むにつれてだんだん表情が豊かになってきました。ただ弱音は意識的かなり落として、またテンポもすこし抑え気味。終結部にクライマックスをもってくる演奏も多いなか、パイヤールはフィナーレは実に慎み深く、抑え気味ですすめ、打楽器もそこそこの音量。もちろんクライマックスには違いありませんが、メロディーと曲の美しさこそこのフィナーレの聴き所とばかりに、バランスを重視した演奏でした。パイヤールの意図がぴしゃりと決まって、高貴華麗な軍隊となりました。

もちろん何度か聴いた事のある演奏でしたが、パイヤールのハイドンの交響曲がここまで素晴しいのかと再認識した次第。私たちがハイドンの交響曲、とくに晩年のザロモンセットの演奏の理想的な姿として想像していた通りの演奏がここにありました。非常に慎み深く、音楽は非常に豊かで、まさにハイドンとはこう演奏すべしとの啓示のような演奏です。ヴァイオリンをはじめとした弦楽器のコントロールも秀逸。録音も解像度は最新盤とは差がつきますが、十分聴きやすいものです。以前つけていた評価をあらため、両曲とも[+++++]とします。心を洗われるようなハイドンです。現役盤ではないようですが、amazonなどでまだ手に入りそうですね。

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Author:Daisy

なぜかハイドン(Franz Joseph Haydn)が特に気に入り膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。東京在住のごく普通のサラリーマンです。

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2017年7月のデータ(2017年7月31日)
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