シュトラウス四重奏団の騎士、皇帝(ハイドン)

新着アルバムが2枚続きましたので、最近聴いてよかったLPを取り上げます。先日オークションで手に入れたもの。

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シュトラウス四重奏団(Strauss Quartett)の演奏で、ハイドンの弦楽四重奏曲Op.74のNo.3「騎士」、Op.76のNo.3「皇帝」、伝ハイドンによるセレナード(Op.3のNo.5)の3曲を収めたLP。収録年も場所も記載がありませんが、いろいろ調べて見ると1960年代の録音との情報が出てきました。レーベルは独TELEFUNKEN。

シュトラウス四重奏団ははじめて聴くクァルテット。メンバーは下記のとおり。

第1ヴァイオリン:ウルリッヒ・シュトラウス(Ulrich Strauss)
第2ヴァイオリン:ヘルムート・ホーヴァー(Helmut Hoever)
ヴィオラ:コンラート・グラーエ(Konrad Grahe)
チェロ:エルンスト・シュトラウス(Ernest Strauss)

クァルテットの名前は第1ヴァイオリンとチェロのシュトラウス兄弟からとったもの。1957年から80年代まで、主にドイツ西部のエッセンにあるフォルクヴァンク美術館をで活動していたとのこと。録音は今日取り上げるLP以外にはハイドンの「日の出」と「ラルゴ」があるくらいのようで、知る人ぞ知る存在という感じでしょうか。

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このアルバム、TELEFUNKENの黒地に金文字の厳かなデザインがなかなかいいですね。いつものように、VPIのクリーナーでクリーニングして針を落とすと、スクラッチノイズもほぼ消え、ちょっと古風ながらドイツ風の質実剛健な弦の響きがスピーカーから流れ出してきました。

Hob.III:74 String Quartet Op.74 No.3 "Reiterquartetett" 「騎士」 [g] (1793)
聴き慣れた騎士の入りのフレーズ。速めのテンポでサクサクと入りますがフレーズごとにテンポと表情をくっきりと変えてくるので、実にニュアンス豊かな演奏に聴こえます。険しい響きの中から明るいメロディーがすっと浮かび上がる面白さ。一人一人のボウイングが適度に揺れているので、かっちりとしたハーモニーを作るのではなく、旋律のざっくりとしたリズミカルな綾の味わい深かさが聴きどころの演奏。
騎士の白眉であるラルゴは前楽章以上に味わい深いハーモニーを堪能できます。力が抜け、ゆったりとリラックスできる演奏。LPならではのダイレクトな響きの美しさに溢れています。途中からテンポをもう一段落としてぐっと描写が丁寧になったり、アドリブ風に飛び回るようなヴァイオリンの音階を挟んだり、軽妙洒脱なところも聴かせるなかなかの表現力。
続くメヌエットはこのクァルテットの味わい深くもさりげなくさらさらとした特徴が一番活きた楽章。この表現、この味わい深さに至るには精緻な演奏よりも何倍も難しいような気がします。
その味わい深さを保ったままフィナーレに突入。サクサクさらさらと楽しげに演奏していきます。どこにも力みなく、どこにも淀みなく流れていく音楽が絶妙な心地良さ。それでいてフレーズ毎に豊かな表情と起伏が感じられる見事な演奏。騎士のフィナーレは力む演奏が多い中では、この軽やかさは貴重。まるでそよ風のように音楽が吹き抜けていきます。

Hob.III:77 String Quartet Op.76 No.3 "Kaiserquartetett" 「皇帝」 [C] (1797)
名曲皇帝も前曲同様、比較的速めのテンポでさらりとした入り。音楽をどう表現しようかというコンセプトを考える前に、体に染みついているハイドンのメロディーが自然に音楽になって流れ出している感じ。この自然体の演奏スタイルなのに、音楽に躍動感と気品のようなものがしっかりと感じられるのが素晴らしいところ。よく聴くとアンサンブルもまったく乱れるところはなく、音楽の推進力に完全に身を任せているよう。
レコードをひっくり返してドイツ国歌の2楽章。媚びないさっぱりと演奏から滲み出る情感に咽びます。この悟りきったような自然さがこのクァルテットの真髄でしょう。よく聴くとヴァイオリンのみならず、ヴィオラ、チェロもかなりのしなやかさ。全員のボウイングのテイストがしっかり統一されていて、それぞれが伸びやかに演奏することから生まれる絶妙なハーモニー。第1ヴァイオリンのウルリッヒ・シュトラウスは1929年生まれなので録音当時は30代ですが、その年代とは思えない達観した演奏。
メヌエットも前曲同様屈託のないもの。そしてさっとフィナーレに入り、劇的なフィナーレをさらりとまとめてくるのも同様。この曲のクライマックスは2楽章であったとでも言いたげに、さらりとやっつけます。

String Quartet Op.3 No.5 "Serenadequartett" [F] (Doubtful 疑作 Composed by Roman Hoffstetter)
ご存知セレナーデ。速めなテンポは同様。味わい深さもさらりとした展開も同様。ただそれだけならばそれほど聴き応えのある演奏にはならないのですが、音色の美しさとフレーズ一つ一つがイキイキとしているので不思議と引き込まれるのも同様。特に2楽章のピチカートの響きの美しさはかなりのもの。こちらも素晴らしい演奏でした。

実にさりげない演奏なんですが、実に味わい深く、LPであることも手伝って美しい響きに包まれたハイドンの名曲をさらりと楽しめる、通向けの演奏。ハイドンのクァルテットをいろいろ聴いてきた人にはこの味わい深さはわかっていただけるでしょう。入手はなかなか容易ではないでしょうが、中古やオークションでは見かける盤ですので、みかけた方は是非この至福の自然体を味わっていただきたいと思います。評価は全曲[+++++]とします。

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tag : 騎士 皇帝 ハイドンのセレナード 弦楽四重奏曲Op.74 弦楽四重奏曲Op.76 ヒストリカル LP

古典四重奏団のOp.74(新所沢 松明堂音楽ホール)

今日は当ブログにコメントをいただく、だまてらさんからの誘いでコンサートに行ってまいりました。西武新宿線新所沢駅近くにある松明堂音楽ホールという100人くらい収容できる小さなホールの主催するコンサート。

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松明堂音楽ホール

プログラム及び奏者は下記のとおり。

ハイドン
弦楽四重奏曲Op.74 No.1
弦楽四重奏曲Op.74 No.2
弦楽四重奏曲Op.74 No.3 「騎士」

古典四重奏団(Quartetto Classico)
第1ヴァイオリン:川原 千真(Chima Kawahara)
第2ヴァイオリン:花崎 淳生(Atumi Hanazaki)
ヴィオラ:三輪 真樹(Maki Miwa)
チェロ:田崎 瑞博(Mizuhiro Tasaki)

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このコンサートは松明堂音楽ホールが主催する「ハイドンの部屋」という、ハイドンの弦楽四重奏曲を全20回で全曲演奏するシリーズの第16回にあたるもの。年2回の開催ということで、足掛け10年におよぶ息の長いプロジェクト。このコンサートの存在は以前よりだまてらさんに教えてもらって知ってはいたのですが、今回はだまてらさんの同行者が急遽参加できないこととなり、お声がかかって、ようやく実際に聴くことができるに至ったという次第。

古典四重奏団は東京芸大及び同大学院の1986年卒業生によるクァルテットとのこと。現在この「ハイドンの部屋」以外にもショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲全曲を演奏するシリーズやレクチャー付きのコンサートシリーズなど、単発ではなく長期間継続するシリーズものを中心に活動しているようです。私はもちろんはじめて聴くクァルテット。大学を1986年に卒業ということは私とまったく同じ世代ということで、妙に親近感も湧きます(笑)

古典四重奏団



だまてらさんとは開演前に新所沢駅の改札で待ち合わせ。駅のすぐ近くのホールについてみると、すでに並んでいるひとの列がホールの外までつながってました。座席が指定ではないため、皆さん早めに来ているということでしょう。

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開演30分前くらいに会場となり、ホールに入ります。このコンサートは1000円ということで、大変リーズナブル。もうすこし払ってもいいんですが、、、(笑)

会場内は撮影禁止ということで、様子は上のホールのウェブサイトをご覧ください。曲面を描くざらついた壁に彫刻などがセンスよくあしらわれた綺麗な内装。クァルテットに丁度いいステージと平土間に長椅子をおいた客席ですが、この日はキツキツに座って100名くらいの収容人員。

ほどなく満員となり、客席の照明がすっと落ちて古典四重奏団のメンバーがステージに登場。皆さん割とポーカーフェイス(笑)。入念に調弦して、まずはOp.74のNo.1から。ライヴの常で、最初は音程が若干ふらつきますが、折り目正しいかっちりとした演奏。ホールの壁がコンクリートなのでちょっと響きが硬い印象ですが、目の前すぐのところで弾かれるクァルテットは迫力十分。すぐに第1ヴァイオリンの川原さんの輝かしい浸透力のある音色が音楽を支配します。フレージングや音階に荒さはあるものの、やはりそこは生だけに、迫力で聴かせてしまいます。No.1は丁寧に繰り返しを全部実行してガッチリとした構成感を強調。4楽章の終盤の迫力が素晴らしい演奏でした。
No.2は弾むような軽やかな曲想の1楽章から入りますが、古典四重奏団の演奏はリズムが若干固め。テンポが若干遅めなせいか、あるいは第1ヴァイオリンのボウイングが直裁なせいでしょうか。逆にスタティックな面白さを感じさせ、荒削りな曲の起伏が浮かび上がります。第2ヴァイオリンとヴィオラは比較的しなやかで、チェロは表現の幅広い感じ。第1ヴァイオリンの存在感で聴かせるという意味ではアウリン四重奏団に近い感じ。アンサンブル全体でゆったり感としなやかさが増すと表現の幅が広がると思います。終楽章のコミカルなメロディはキレよくまとめます。

休憩を挟んで、お目あての騎士。やはり耳に馴染んだ演奏より若干テンポが遅めで、起伏をかなりカッチリと描いていきます。この辺は日本的な感性なのかもしれませんね。曲が進むにつれて演奏に力がこもり、迫力で聴かせます。
そして、精妙な曲想の2楽章のラルゴは、あえて流麗さを狙わず、淡々とした描き方。3楽章のメヌエットは節のしっかりとした演奏。クライマックスのフィナーレはやはりキレよくまとめてきます。No.1できっちり繰り返しを実行したのが強く印象に残っているからか、この騎士では最後があっさりというかスマートに終わった印象でした。

小さなホールながら満員のお客さんから拍手が降り注ぎ、ポーカーフェイス気味のメンバーもにっこり拍手に応えていました。最後にチェロの田崎さんから、ハイドンのシリーズに比べてお客さんの入りが悪いショスタコーヴィチのシリーズもよろしくとのアナウンスが入ってお客さんもどっと和んでいました。

このコンサート、演奏も生のクァルテットをしっかり楽しめる素晴らしいものですが、素晴らしいのがパンフレット。簡易印刷の簡単なものですが、このコンサートに訪れた人に、ハイドンのOp.74が書かれた前後の時代背景や、簡単な曲目解説、そして奏者の説明が簡潔に記され、読み応え十分。大きなホールでおこなうコンサートのパンフレットよりよほど気が利いてます。文は河村泰子さんという方が書いています。そして、コンサートの企画運営も素晴らしいものがありますね。リーズナブルな値段で、これだけ骨のある企画を長年続けているあたり、こちらも大手よりもよほどしっかりとした企画力があると思います。手の届くところでこうした音楽の楽しみをきちんと提供し続けている姿勢は素晴らしいものがあり、もちろん演奏もふくめて大満足のコンサートでした。音楽を楽しんでもらおうという志に打たれましたね。



ホールから外に出ると、うっすらと暗くなりかけていました。帰りにだまてらさんと新宿で反省会。もちろん、ハイドン、音楽、オーディオなど、一般の方の理解の外の激ニッチな話題で盛り上がり、楽しいひと時でした。だまてらさん、ありがとうございました!

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tag : 弦楽四重奏曲Op.74 騎士

ロザムンデ四重奏団の皇帝、ひばり、騎士(ハイドン)

このところ良くコメントをいただくSkunjpさんオススメのアルバム。当方のコレクションにありませんでしたので、早速注文して届いたもの。

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TOWER RECORDS / amazon(mp3) / HMV ONLINEicon

ミュンヘン・ロザムンデ四重奏団(Rosamunde Quartett München)の演奏による、ハイドンの弦楽四重奏曲からOp.76のNo.3「皇帝」、Op.64のNo.5「ひばり」、Op.74のNo.3「騎士」と有名曲ばかり3曲を収めたアルバム。収録は、ベルリンの南の街ランクヴィッツ(Lankwitz)にあるジーメンス・ヴィラ(Siemens-Villa)という古い教会のような建物でのセッション録音。レーベルはBerlin CLASSICS。

ロザムンデ四重奏団のアルバム手元にECMレーベルからリリースされている「十字架上のキリストの最後の七つの言葉」がありますが、堅実な演奏との認識で、これといって強く印象に残る感じはしませんでした。今日取り上げるアルバムは冒頭に触れたとおり、ハイドン愛好家のSkunjpさんのオススメのアルバム。もちろんそう言われて黙っているわけにもいかず、早速注文を入れてみた次第。実はこの演奏、当ブログへのコメントで教えていただいた直後に調べたところApple Musicにも登録されていて、通勤帰りにちょっと聞いてみたりしたのですが、正統派の折り目正しい演奏と聴きましたが今一つイメージがパッとしません。この手の演奏はアルバムでちゃんと聴くと印象も異なることがあるということでCDのほうも注文したという流れです。

ロザムンデ四重奏団は1992年に設立されたクァルテット。クアルテットのウェブサイトが見つかりましたが、2009年以降更新されておらず、もしかしたら現在は活動していないかもしれませんね。このアルバム収録当時のメンバーは下記のとおり。

第1ヴァイオリン:アンドリアス・ライナー(Andreas Reiner)
第2ヴァイオリン:ダイアン・パスカル(Diane Pascal)
ヴィオラ:ヘルムート・ニコライ(Helmut Nicolai)
チェロ:アンヤ・レチーナー(Anja Lechner)

ROSAMUNDE QUARTETT

クァルテットの行方はともかく、このアルバムの演奏を紐解いてみましょう。

Hob.III:77 String Quartet Op.76 No.3 "Kaiserquartetett" 「皇帝」 [C] (1797)
もちろんApple Musicと同じ演奏なんですが、音の広がりや定位感、実在感はCDのほうが上。実にオーソドックスな演奏ゆえ、Apple Musicではちょっと凡庸に聴こえなくもありませんでしたが、CDで聴くとしっかりとした芯のある音色と、堅実な弓裁きの魅力が伝わります。テンポはカッチリと決め、これ以上几帳面な演奏は難しいほどに規律正しい演奏。たしかに何もしていないんですが、何もせず、きっちり演奏することでハイドンの魅力が浮かび上がるという確信に満ちた演奏。音量を上げて聴くと素晴らしいリアリティーに打たれます。教科書的という言葉をアーティスティックにデフォルメしたような冴えわたる規律正しさ。この演奏に一旦ハマると他の演奏が軟派に聴こえるかもしれません。揺るぎないリズムの刻みに圧倒されます。表現の角度は異なりますが、この一貫性はクナのワーグナーのような雄大さを感じさせなくもありません。
ドイツ国家のメロディーとなった2楽章も言ってみれば何もしていませんが、キリリとした表情でクッキリと陰影をつけアダージョが冬の日差しに峻厳と輝くアルプス山脈のような迫力で迫ってきます。辛口というテイストの問題ではなく、まさにリアリズムの世界のよう。終盤ちょっとテンションを緩めた変奏部分が妙に沁みます。各パートとも磨き抜かれ、冷徹なまでに冴え渡ります。
もちろんメヌエットもキレキレ。青白い刀の刃の輝きのような冴えが全編に漂います。リアルなクァルテットの響きにゾクゾクします。
切れ込むような鋭い響きからはいるフィナーレ。あちこちに切れ込みながら音楽が進み、険しい表情を張り詰めた音色で描いていきます。力の入った演奏ですが、力任せすぎず、鋭利さとバランスを絶妙に保ちながらの演奏。このバランス感覚の存在こそたロザムンデ四重奏団の特徴でしょう。

Hob.III:63 String Quartet Op.64 No.5 "Lerchenquartetett" 「ひばり」 [D] (1790)
名曲3点セット的選曲です。つづくひばりは予想どおりバランスの良い几帳面なリズムから入ります。冒頭のキリッとしたリズムの刻みと、伸びやかなヴァイオリンはまさに想像したとおり。演奏スタイルは一貫しており前曲を聴いて頭に描いたイメージどおりです。録音がクリアなので、クァルテットの響きの冴えを十二分に味わうことができます。主題の繰り返し部分では表情を変えることがないのですが、逆に再び登場するメロディーがまったく同じように響く快感を味わえます。途中からチェロがクッキリと浮かびあがり、見事に解像するアンサンブルの快感も味わえます。終盤再び繰り返されるメロディーのキレのいいことと言ったらありません。
つづくアダージョもテンションはそのまま、ゆったりとしたメロディーながら響きはタイトなまま切れ込みます。一貫したスタイルが売りものですが、ここまで一貫しているとは。メヌエットもまったく揺るぎない展開。
そしてフィナーレでは若干柔らかめに入りますが、テンポの安定感は変わらず、徐々にテンションが上がり、タイトな音色の連続にトランス状態に入りそうな勢い(笑)。短いフィナーレの最後はグッと音量を上げてクライマックスに至ります。

Hob.III:74 String Quartet Op.74 No.3 "Reiterquartetett" 「騎士」 [g] (1793)
最後も名曲「騎士」。もはやこの一貫したスタイルの魅力に押され気味。カッチリとした表情、余人を寄せ付けない緊張感、手綱をすこしだけ緩めて起伏を表現するスタイル。いずれもロザムンデ四重奏団の突き抜けた個性です。このテンションの高さだけの連続だったら単調にも聴こえたでしょうが、そうは感じさせない表現のコントロールもあります。この曲に潜む陰りのようなものの表現は秀逸。冴え冴えとした表情だからこそ陰の部分の陰影が深い。
精妙なアンサンブルが聴きどころの2楽章。アルバン・ベルクではちょっと作った感じに聴こえたこの楽章が、自然さを保ちながらの精妙さに至り、活き活きとした表情に感じられます。よく聴くとボウイングに呼吸のような自然さが宿っており、ただタイトな響きではないことがわかります。このあたりがクァルテットの難しいところ。硬さを表すのに柔らかさが必要なんでしょう。この騎士では弱音と間の美しさも感じられます。
そしてメヌエットも前2曲よりも心なしかしなやか。リズムのキレはそのままにすこし力を抜いて粋なところを聴かせます。
最後のフィナーレは松ヤニが飛び散りそうなヴァイオリンの弓裁きを堪能できます。各パートそれぞれの音のエッジが立って際立つスリリングさ。この騎士だけがすこし力を抜いた面白さを加えてきました。

ロザムンデ四重奏団によるハイドンの名曲集。クッキリと浮かび上がる各パートの緊張感のあるやりとりとタイトな響きの魅力に溢れた演奏でした。Skunjpさんのコメントにある、「主旋律にからむ対位旋律、副旋律、伴奏型のすべてが雄弁で、4人が精密かつ有機的に共鳴し合う」という意味がよくわかりました。クァルテットの演奏は千差万別。ハイドンの名曲の様々な面に光を当て、現代にあってもその魅力を表現し尽くした感はありません。ハイドンの皇帝、ひばり、騎士のオーソドックスなスタイルの名演奏としてハイドン好きな皆さんにも一度聴いていただきたい演奏ですね。評価は3曲とも[+++++]とします。

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tag : 皇帝 ひばり 騎士 弦楽四重奏曲Op.76 弦楽四重奏曲Op.64 弦楽四重奏曲Op.74

【ドイツ決勝進出記念】アルバン・ベルク四重奏団の「皇帝」「騎士」(ハイドン)

ブラジルワールドカップも大詰め。開催国ブラジルを奈落の底に突き落とし、決勝まで勝ち残ったドイツですが、やはり試合前のハイドン作曲の国歌のメロディーには聴きいってしまいます。そこで今日はドイツ国歌のもとになった「皇帝」を取りあげましょう。

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HMV ONLINEicon(別装丁盤) / amazon(別装丁盤) / TOWER RECORDS(別装丁盤)

アルバン・ベルク四重奏団(Alban Berg Quartett)の演奏によるハイドンの弦楽四重奏曲Op.76のNo.3「皇帝」、Op.74のNo.3「騎士」の2曲を収めたアルバム。収録は1973年から74年にかけて、ウィーンのバイエリッシャー・ホーフでのセッション録音。レーベルはTELDEC。

アルバン・ベルク四重奏団は、日本では最も有名なクァルテットでしょう。ハイドンもベートーヴェンもブラームスもラヴェルも雑誌などでは皆推薦盤となっており、精緻、精妙な演奏は弦楽四重奏曲のスタンダードとして広く親しまれています。また、ずいぶん来日していたようで、生で聴かれた方も多いかもしれません。私も一度ミューザ川崎でのコンサートでハイドンを聴いています。アルバン・ベルク四重奏団の情報も含めて、その辺はEMIでのレコーディングを取りあげた記事に記しています。

2011/11/17 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : アルバン・ベルク四重奏団のOp.76のNo.1

そのアルバン・ベルク四重奏団も2008年7月に解散してから、すでに6年が経ちます。アルバンベルク四重奏団のハイドンの弦楽四重奏曲はEMIの録音がスタンダードとされているようですが、私は今ひとつ、クッキリと精緻に演奏するスタイリッシュなアルバン・ベルク四重奏団の演奏が、ハイドンの弦楽四重奏曲の多様な魅力を伝えきっているかといわれると、そうでもないとの印象をもっており、世評ほど高く推してはいません。

また、今日とりあげるTELDECの旧録音の方は、実は手元になく、先日ディスクユニオンでようやく手に入れた次第。この旧盤の出来も気になっていたため、ワールドカップのドイツの活躍をきっかけとして、今更のレビューとなったわけです。このアルバムの演奏時のメンバーは下記の通り。

第1ヴァイオリン:ギュンター・ピヒラー(Günter Pichler)
第2ヴァイオリン:ゲルハルト・シュルツ(Gerhard Schulz)
ヴィオラ:ハット・バイエルレ(Hatto Beyerle)
チェロ:ヴァレンティン・エルベン(Valentin Erben)

新盤はヴィオラがトーマス・カクシュカ(Thomas Kakuska)に変わっていますので、その違いも興味深いところです。

Hob.III:77 / String Quartet Op.76 No.3 "Kaiserquartetett" 「皇帝」 [C] (1797)
このアルバムを聴くのにEMIの新録音の方の皇帝も聴いたのですが、新録音の方が響きの多いホールで遠くに定位する録音、TELDECの旧録音の方はそれに比べるとオンマイク気味でオーソドックスな録音という感じという違いがあります。旧録音は演奏もオーソドックスに聴こえます。1楽章はハイドンの書いた楽譜のエッジをキリリとシャープに聴かせて、音の重なりとメロディーの変化を克明に響かせる感じ。このシャープに聴かせるというところにこだわっているのがアルバン・ベルクの特徴でしょう。
2楽章のポコ・アダージョ・カンタービレがドイツ国歌のメロディー。Wikipediaによれば、この曲はハイドンが1797年に神聖ローマ皇帝フランツ2世に捧げた「神よ、皇帝フランツを守り給え」(後に弦楽四重奏曲「皇帝」第2楽章の主題に用いられる)のメロディーに、1841年にアウグスト・ハインリヒ・ホフマン・フォン・ファラースレーベン(August Heinrich Hoffmann von Fallersleben)がヘルゴラント島で詠んだ詩を付けたものとのこと。歌詞は同じくWikipediaによれば下記のとおり。

ドイツよ、ドイツよ、すべてのものの上にあれ
この世のすべてのものの上にあれ
護るにあたりて
兄弟のような団結があるならば
マース川からメーメル川まで
エチュ川からベルト海峡まで
ドイツよ、ドイツよ、すべてのものの上にあれ
この世のすべてのものの上にあれ

まさにワールドカップの決勝戦の前に歌われるのにふさわしいもの。私には歌詞ではなく、ハイドンの書いた神々しいメロディーだけが響きますが、、、

(追記)
だまてらさんのコメントにあるように上に引用した歌詞は1番で現在は3番の歌詞が歌われているそう。よく考えれば1番の歌詞は今は歌えませんね。Wikipediaにも明記されてました。だまてらさん、ご指摘ありがとうございます。3番の歌詞も載せておきましょう。

統一と正義と自由を
父なる祖国ドイツの為に
その為に我らは挙げて兄弟の如く
心と手を携えて努力しようではないか
統一と正義と自由は
幸福の証である
その幸福の光の中で栄えよ
父なる祖国ドイツ

演奏にもどると、流石にアルバン・ベルク、2楽章のメロディーをくっきり描いて行く手腕は見事。まさに精緻そのものという感じ。変奏ごとの表情をクッキリと描き分け、パートごとにアクセントをつけて、特にヴィオラ、チェロの表情の多彩さが素晴しいですね。この2楽章はスタイリッシュすぎず、じっくり、しっとりとしていて悪くありません。新盤よりも音楽が深い感じ。
続くメヌエットは意外に変化をあまり付けず、一様なリズムで淡々と進めます。メヌエットの演出はクァルテットによってかなり異なりますので、ハイドンの弦楽四重奏曲の聴き所の一つ。中間部は表現を抑えて穏やかに進み、再び適度に活き活きとしたメロディー。やはりヴィオラ、チェロの響きが心地よいですね。
フィナーレはもうすこし激しく来るかと思いきや、踏み外しません。きっちりと枠にはまって、設計どおりの演奏を意図しているよう。やはりカッチリとしたメリハリが印象的。これをドイツ的というのでしょうか。あえて言えば模範的な演奏というべきでしょう。

Hob.III:74 / String Quartet Op.74 No.3 "Reiterquartetett" 「騎士」 [g] (1793)
騎士の方にもすこしふれておきましょう。適度にカッチリした演奏というスタイルは変わりませんが、騎士の方が曲に虚心坦懐に向き合っているように聴こえます。八分の力の範囲で冷静にコントロールしている感じがやはりアルバン・ベルクらしいところ。ほの暗い表情を織り交ぜながら、かなり多彩な展開。ピヒラーのヴァイオリンは他の3人のアンサンブルの調和を乱さず、うすく縁取りを目立たせるような絶妙なもの。
つづく2楽章は先にふれたミューザ川崎のコンサートのアンコールで取りあげられ、4人の呼吸とボウイングが完全に一体化した、実に精妙な音楽の流れに打たれましたが、このアルバムの演奏では、そこまでの突き抜けた表現ではなく、まだ自然さの残る演奏。
メヌエットも前曲同様、安定したリズムに乗って、特段の踏み込みは見せません。そしてそのまま終楽章に入り、安定した弓さばきで、タイトに引き締まった音楽を聴かせます。

1970年代のアルバン・ベルク四重奏団による皇帝と騎士というハイドンの弦楽四重奏曲の名曲2曲を収めたアルバム。やはりアルバン・ベルク四重奏団の演奏は盤石の安定感で、クッキリとしたメロディーを、踏み込みすぎずに奏でて行くスタイル。この演奏を好む方も多いと思いますが、これまで様々な弦楽四重奏曲の名演を聴いている立場からすると、彼らのイメージするかっちりとしたハイドンという枠にはまっている演奏と聴こえます。アルバン・ベルクのハイドンはこのクッキリとした響きを造る事にこだわっている感じがして、ハイドンの音楽に潜む人間的なウイットとかユーモアの表現がもうすこしあればいいのにとの余韻を残してしまいます。逆に響きの完成度は高く、そこを評価する人には好まれる演奏だと思います。評価は両曲とも[++++]としておきましょう。

アルバン・ベルクのカッチリとしたハイドン、今回のワールドカップの冷静沈着なパスまわしを特徴とするドイツのサッカーのスタイルと共通点が無くもありませんね。さてドイツ。天才メッシを擁するアルゼンチンの止める事ができるのでしょうか。決勝戦のドイツ国歌を楽しみながら、試合を見たいと思います。決勝は特にどちらを応援しているわけではありません。今回私はチリに入れこんでおりました。

アルゼンチンが勝ったら。ピアソラでも取りあげましょう(笑)

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tag : 皇帝 騎士

【新着】シュパンツィヒ四重奏団の弦楽四重奏曲集(ハイドン)

今日は新着盤。

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HMV ONLINEicon / amazon / TOWER RECORDS

シュパンツィヒ四重奏団(Schuppanzigh-Quartett)の演奏によるハイドンの弦楽四重奏曲3曲(Op.54のNo.1、Op.20のNo.2、Op.74のNo.3「騎士」)を収めたアルバム。収録は2011年12月8日から11日にかけて、ベルリンの南西、ポツダムに近いヴァン湖のほとりにあるアンドレアス教会でのセッション録音。レーベルはベルギーの名門ACCENT。

このアルバム、調べてみるとシュパンツィヒ四重奏団のハイドンの弦楽四重奏団の3枚目にリリースされたアルバムとのことですが、先にリリースされたアルバムも手元になく、このアルバムを聴いてあわてて発注した次第ですが、在庫状況がいまいちで、なかなか入荷しません。先にリリースされたアルバムを聴いてからレビューしようと、まさに棚に上げていたんですが、しびれを切らしてレビューです(笑)

シュパンツィヒ四重奏団は1996に設立されたピリオド楽器による四重奏団。もともとハイドンが生きていた頃とも重なる時代に活躍していたオーストリアの名ヴァイオリニスト、イグナツ・シュパンツィヒが1796年に設立した四重奏団ですが、それから200年を記念して1996年に新生シュパンツィヒ四重奏団が設立されたとのこと。メンバーは下記の通り。

第1ヴァイオリン:アントン・シュテック(Anton Steck)
第2ヴァイオリン:フランク・ポールマン(Franc Polman)
ヴィオラ:クリスティアン・グーセンズ(Chiritian Goosses)
チェロ:ウェルナー・マツケ(Werner Matzke)

アントン・シュテックとクリスティアン・グーセンズは以前に同じACCENTからリリースされているハイドンのヴァイオリンとヴィオラのためのソナタ集の記事で略歴を紹介しています。

2012/08/12 : ハイドン–室内楽曲 : アントン・シュテック/クリスティアン・グーセズによるヴァイオリンとヴィオラのためのソナタ集

ヴァイオリンのフランク・ポールマンはムジカ・アンティカ・ケルンやレ・ ミュジシャン・デュ・ルーヴルのメンバー、そしてチェリストのウェルナー・マツケはコンチェルト・ケルンやアムステルダム・バロック・オーケストラのメンバーと4人とも古楽器界で広く活躍している人ということです。

Hob.III:58 / String Quartet Op.54 No.1 [G] (1788)
いきなりエネルギッシュな古楽器の張りのある響き。教会らしい残響がほんのり乗りますが、オンマイクでしっかり捕らえられた4人の響きは鮮明。アントン・シュテックのヴァイオリンはなかなかのキレ。キリッとアクセントをつけてクッキリとメロディーを描いていきます。このアルバム、基本的に古楽器を良く響かせて、虚飾もハッタリもなく、自然体の一貫した演奏スタイルで、演奏を楽しんでいるよう。4人の演奏スタイルがピシッと合った演奏。カミソリのようなキレ味ではなく、意外と素朴な印象もあり、逆に好ましく感じられます。中期のこの曲では、曲の明るさを踏まえてよく弾む演奏でした。基本的に楽天的な演奏ですが、ハイドンの音楽の本質と重なるということで、説得力もあります。フィナーレの終盤の響きやテンポの変化、間を使った遊びなど、実に演出上手。スカッと楽しめる演奏です。

Hob.III:32 / String Quartet Op.20 No.2 [C] (1772)
一転アルカイックな響きの魅力が溢れるこの曲。クッキリメリハリが効いた演奏に違いはありませんが、ほんのりと漂うシュトルム・ウント・ドラング期の濃厚な空気。演奏者として一定の視点から曲を解釈しているのですが、微妙に曲のもつ雰囲気を描き分けているのが素晴しいところ。滲みでる情感。やはりこの曲は名曲なんでしょう。音楽が淀むことはなく、次々とハイドンの書いたメロディーが繰り出され、めくるめくように響いてきます。チェロの実に晴朗なフレーズに心が洗われるよう。アダージョではシュテックのすこしテンションを下げつつ、孤高の表情を見せ始めます。良く聴くと演奏の精度が抜群に高い訳ではなく、適度に粗さもあるのですが、それがまた良い味わいにつながっています。長調に転調する場面は何度聴いてもいいもの。パッと一筋の光明が射すよう。メヌエットでは鳥のさえずるような軽さと和音の精妙な重なりの美しさを引き出し、フィナーレではさらりとした感触のフーガのデリケートなタッチの魅力を存分に表現。曲によって聴かせどころを微妙に合わせる手腕は見事です。

Hob.III:74 / String Quartet Op.74 No.3 "Reiterquartetett" 「騎士」 [g] (1793)
妙に心に刺さる入り。響きの強さではなく、じっくり構えたフレージングが刺さります。やはり湧き出るように音楽が進むのがこのクァルテットの良いところ。キツい陰影ではなく、デリケートにトーンが変化する大判フィルムで撮影したモノクロームの写真のよう。どの音域もデリケートなトーンが良く出ていて、実にニュアンスが豊か。力で攻めてくるクァルテットも多い曲ですが、逆に力は抜き気味で曲のメロディーラインの髄を捉えようとしているよう。この引いたアプローチ、良いですね。優雅な部分の余裕が際立ち、結果的に険しい部分の彫り込みも浮かび上がります。
精妙、クッキリくると思ったラルゴですが、意外とサバサバとした自然なアプローチでした。所々に盛り上げどころを配置していますが、自然な語り口から迸る情感は説得力があり、曲自体の美しさが際立つという寸法。このへんの演出の上手さはシュパンツィヒならではでしょう。メヌエットも力を抜き気味でラフな表情をみせつつ自然な進行。フィナーレはタッチの軽さと良く弾むフレーズで、再びクッキリしたキレの良い演奏が戻ってきました。やはり楽器を良く鳴らしながら、8分の力で軽々と弾き進めていきます。この楽天的な推進力はこのクァルテットの特徴でしょう。フレーズごとの変化も巧みにつけて、名曲のフィナーレに相応しい幅の広い表現を聴かせます。クライマックスの表現は流石聴かせ上手。

古楽器の名手ぞろいのシュパンツィヒ四重奏団の弦楽四重奏曲集。作品ごとにまとめてリリースするのではなく、1曲1曲を組み合わせてアルバムを構成するあたり、ハイドンの弦楽四重奏曲に対する確かな選曲眼があるのだとでもいいたそうなアルバム構成でした。演奏はやはりハイドンを演奏し慣れていることとうかがわせる円熟したアプローチ。クッキリと曲を弾き進めることが基本にありながらも、所々で踏み込んだ解釈を織り交ぜ、聴くものを飽きさせません。このアルバム、ハイドンの弦楽四重奏をいろいろ聴き込んだ方にこそわかる、確かな違いがありますね。評価は全曲[+++++]としたいと思います。

発注中の2枚のこれに先立つアルバムの到着が楽しみですね。

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tag : 弦楽四重奏曲Op.54 弦楽四重奏曲Op.20 弦楽四重奏曲Op.74 騎士 古楽器

ヘンシェル四重奏団のひばり、鳥、騎士(ハイドン)

最近、弦楽四重奏曲の演奏について、haydn totalの演奏の登録を機に、クァルテット名だけでなく各奏者の名前も記載する事にして、少しづつ登録済みのアルバムも追記しています。その整理の途上、ふと思って聴き直した所、なかなか素晴しい演奏だと再認識したアルバム。

HenschelQ64.jpg

ヘンシェル四重奏団(Henschel Quartett)の演奏によるハイドンの弦楽四重奏曲Op.64のNo.5「ひばり」、Op.33のNo.3「鳥」、Op.74のNo.3「騎士」の3曲を収めたアルバム。収録はPマークが1995年、収録場所はスイスのチューリッヒの西にあるゼオン(Seon)という街でのセッション録音。レーベルは独MEDIAPHON。

ヘンシェル四重奏団は1988年に設立したクァルテット。国際的に活躍するようになったのは1993年、この演奏時のメンバーとなってからとのこと。来年それから20周年になります。メンバーの名前をみると3人がヘンシェル姓ということで、この3人は兄弟と思われます。

第1ヴァイオリン:クリストフ・ヘンシェル(Christoph Henschel)
第2ヴァイオリン:マルクス・ヘンシェル(Markus Henschel)
ヴィオラ:モニカ・ヘンシェル(Monika Henschel)
チェロ:マティアス・D・ベイヤー(Mathias D. Beyer)

HENSCHEL QUARTETT

この演奏が録音された1995年には、フランスのエヴィアン、カナダ、アルバータ州のバンフ、ザルツブルクで開催された国際コンクールで次々と優勝して有名になりました。師事したのはアマデウス四重奏団、メロス四重奏団、アルバンベルク四重奏団など一流どころ。何と2012年には来日して、サントリーホールでベートーヴェンの弦楽四重奏曲全曲を演奏したとのことで、実演に接した方もいらっしゃるかもしれませんね。

今日取り上げるアルバムは、国際的に活躍し始めた頃のもの。いろいろ調べましたが現在は中古以外では流通していない模様です。

アルバムを見て気になるのは左下に”20bit PROCESSING”と誇らしげにロゴが表示されている事。最新の録音ではありませんが、音質にこだわったプロダクションであることがわかります。また、使用している楽器はヴァイオリンがストラディヴァリウス、ヴィオラはグァルネリ、チェロはグランチーノと、これまた誇らしげに記載されております。聴いてみると、これらの記載に負けない美音が炸裂するんですね。

Hob.III:63 / String Quartet Op.64 No.5 "Lerchenquartetett" 「ひばり」 [D] (1790)
広々とした空間に艶やか、芳醇な弦楽器の音色が浮かび上がります。まさに魚沼産コシヒカリのようなモチモチ感(笑) 非常に伸びやかな演奏。最上の楽器を実に上手く鳴らしきっています。ハイドンの晴朗さを存分に表現し、陰りとか燻し銀と言うような雰囲気はなし。このひばりという曲の抜けるような魅力の真髄をとらえた演奏と言っていいでしょう。
アダージョに入ると,伸びやかさに加えて彫りの深さが加わります。第1ヴァイオリンだけでなく、他の楽器の鳴りも負けず劣らず素晴しい陰影。それぞれの楽器の音の存在感が際立ちます。まさに美音の響宴。
メヌエットは一転して少し流すように力を抜いて、楽器を自在に鳴らします。この緻密さと粗さのコントロールが実に見事。メヌエットは通例迫力で聴かせる演奏が多い中、このように逆に粗さを活かすとは、かなりの確信犯でしょう。
フィナーレも入りから聴かせます。ゆったり入りそうな一音目から急加速してサラサラと音楽が溢れ出してきます。精緻な演奏ではないんですが、力が抜けて音楽が勝手に湧き出てくるような活き活きとした演奏。この曲の面白さを踏まえて、全員が踊っているような躍動感。これは見事です。

Hob.III:39 / String Quartet Op.33 No.3 "Vogelquartett" 「鳥」 [C] (1781)
続いて鳥。自分たちの音楽の魅力をよくわかっているのでしょう。ハイドンの弦楽四重奏曲の中でも伸びやかな曲想の曲をそろえてきています。演奏は前曲同様、美音を活かした自在な演奏。速めのテンポで素晴しい勢いの演奏。唸るような弦楽器の美音に打たれまくりです。
この曲ではスケルツォの抑えた表現が秀逸。良く鳴る楽器を押さえ込んでさかさかと抑えたボウイングで入ります。中間のヴァイオリンはわざとつっかえるような遊びの表情、そして再び抑えた表現。曲の面白さを知り尽くした円熟の表現。当時は若手だったはずですが、じつに味わい深い表現に驚きます。
アダージョはクッキリしながらも表現をおさえてオーソドックスにもってきました。この楽章事の弾き分けも実に良く考えられて、ハイドンが曲に仕込んだ機知をクッキリと浮かび上がらせるよう。
フィナーレはさざめくようなデリケートな音楽から入り、徐々に曲の面白さがにじみ出てくるよう。細かい音階が抑えながらも素晴しいキレ味で迫ってきて、力感はほどほどなのに表現の鋭さで攻めて来るよう。見事。

Hob.III:74 / String Quartet Op.74 No.3 "Reiterquartetett" 「騎士」 [g] (1793)
名曲騎士。前2曲と比べると険しい表情の多い曲。曲と演奏のマッチングは前2曲の方がいいですね。このクァルテットの豊穣な音色の特徴が、1楽章では少しスポイルされている印象ですが、静謐な曲想が魅力の2楽章に入ると、これまでとは違ったじっくりと染み込むような魅力をもっていることがわかります。この曲を最後に持ってきた意味が何となくつかめました。鳴りの良さばかりが我々の音楽ではないよとでも言いたそう。
この曲のメヌエットはがらっと変わって、精緻な演奏。曲ごとのアプローチの違いも実に面白い。繰りかえし軽く楔を打つような表現が畳み掛けてきます。良く聴くとソフレーズ毎の音色のコントロールも緻密。
そして独特の表情をもつフィナーレは硬軟織り交ぜて、軽さをあらわす部分のキレとクッキリしたメロディーの見事な対比で聴かせます。

ヘンシェル四重奏団の演奏によるハイドンの弦楽四重奏曲、まさに美音を駆使した彫りの深い名演。特に印象的なのは抑えた音階のキレの良さと、強奏の見事な存在感の響きの対比でしょう。特に前2曲がいいと思いますが、何回か聴き直すと、騎士も実に深い演奏。これは名盤でしょう。評価は3曲とも[+++++]とします。

ちなみにヘンシェル四重奏団のハイドンの演奏には十字架上のキリストの最後の七つの言葉があり、こちらも未入手でしたので早速注文を入れてみました。

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【新着】アマリリス四重奏団の「夢」「騎士」

今日は若手クァルテットのアルバム。

Amaryllis.jpg
HMV ONLINEicon / amazon / TOWER RECORDS

アマリリス四重奏団(Amaryllis Quartett)の演奏でハイドンの弦楽四重奏曲Op.50のNo.5「夢」、Op.74のNo.3「騎士」、その2曲の間にヴェーベルンの弦楽四重奏のための5つの楽章Op.5の3曲を収めたアルバム。収録は2010年10月23日、2011年4月27日から29日、ドイツ、ハンブルクのアルベルト・シュバイツァー体育館の講堂でのセッション録音。

HMV ONLINEの紹介記事によると、このアルバムはこのクァルテットのデビュー盤のようですね。デビュー盤にハイドン2曲と間にヴェーベルンをもってくるあたり、ただならぬ気迫を感じます。

アマリリス四重奏団はバーゼルでヴァルター・レヴィン、ケルンでアルバン・ベルク四重奏団などに師事し、2011年イタリアのレッジョ・エミリアで行われたパオロ・ボルチアー二・コンクールで1等なしの2等になり、またその直後に第6回メルボルン国際室内楽コンクールで優勝し国際的に注目されるようになったクァルテット。このアルバムはそれらの表彰の直前に録音されたデビュー盤ということで、このクァルテットの今後を占うアルバムと言えるでしょう。

メンバーは下記のとおり。

第1ヴァイオリン:グスタフ・フリーリングハウス(Gustav Frielinghaus)
第2ヴァイオリン:レナ・ヴィルト(Lena Wirth)
ヴィオラ:レナ・エッケルス(Lena Eckels)
チェロ:イヴ・サンド(Yves Sandoz)

このクァルテットのウェブサイトがありましたので紹介しておきます。

Amaryllis Quartett(独文・英文)

Hob.III:48 / String Quartet Op.50 No.5 (II:"Der Traum" 「夢」) [F] (1787)
語りかけるようなこの曲の曲調を踏まえた、とぎれとぎれな感じを残しつつ、現代的なシャープさとダイナミックレンジの大きな演奏。鋼のような強い響きをもちながら、それをたまにしか見せず、不気味な迫力をも感じさせる演奏。テクニックは素晴らしいものがあります。ハイドンの弦楽四重奏曲としては異例のダイナミックさ。ポイントは強音ではなく、強弱の対比と溜め。
2楽章はヴェーベルンばりの現代風にシャープに切れ込んで来るのかと思いきや、意外と普通の演奏。筆の動き自体の意外性が特徴の書のような自在なフレージング。やはりアプローチは斬新ではありますが、この曲の2楽章の真髄をついているかと言うと、少し若さが出ているかもしれません。
3楽章にきて、このクァルテットの狙いが見えたような気がします。1楽章同様フレーズごとの表情と音量の対比、自在なフレージングとハイドンの曲を解体して再構成するような意欲的な表現。クレーメルのようなアプローチですが、クレーメルほどの冷徹さとカミソリのような切れ味ではなく、程良い楽天性があり、それがハイドンをデビュー盤に選んだ所以なのかも知れません。
フィナーレは、鋭さと鮮烈さを強烈に印象づける演奏。録音のせいか、ヴァイオリンが鋭さを帯びた鋭角的な音で、逆にチェロ、ヴィオラは音量を抑え気味のバランス。最後はきっちりしめて終了。

間にはさまったヴェーベルンで脳を初期化。ヴェーベルンはこのクァルテット特徴である鋭さがかなり目立つ演奏。かなり迫力を感じる演奏ですが逆に抑えたほうが前衛性が良く出るのではと感じました。ヴェーベルンは好きな作曲家ですが、いろいろな演奏を聴き込んでいる訳ではないので、ご参考まで。

Hob.III:74 / String Quartet Op.74 No.3 "Reiterquartetett" 「騎士」 [g] (1793)

聴き慣れた騎士の導入部のメロディー。オンマイクでかなり近くに定位するダイレクトな音像。やはりフレーズごとのメリハリをかなり効かせての演奏。特にヴァイオリンパートの切れ味はなかなかのもの。フレーズごとにテンポや間の対比を凝らして変化をつけます。聴き慣れた騎士のメロディーが新鮮に響きます。
2楽章は流麗緻密な演奏が定番ですので、このクァルテットがどう来るか興味津々。独特のメロディー自体を聴かせるというアプローチはとらず、曲の合間に抑えた弓の表現の練習のような風情。この辺の曲に対する独特の視点の存在がこのクァルテットの真骨頂でしょう。最後の抑えた表現も秀逸。
3楽章のアレグレットはこのアルバムのなかでは比較的オーソドックスな方。それでもかなりの起伏とフレーズ感の対比。普通だともうすこし流麗な方向かリズミカルな方向に振れるのでしょうが、そのどちらでもなく現代音楽風の緊張感に包まれた演奏。
フィナーレも自在なフレージングが健在。速い音階の部分はキリッとエッジを立ててクッキリと旋律を表現していきます。軽い弓さばきでスピーディに騎士のフィナーレをどんどん進めていく感じです。このフィナーレは4人のテクニックが遺憾なく発揮されています。

新進気鋭のアマリリス四重奏団のデビューアルバムは、これまでのハイドン演奏史に一石を投じようとした渾身の演奏。鋭い音色とコンセプチュアルなアプローチ、そしてハイドンにヴェーベルンを挟むと言うプログラミングと個性的なプロダクションとなりました。演奏はレビューに記載したとおり現代感覚溢れるものでしたが、逆にこれまで幾多のクァルテットが表現したハイドンの素朴な良さ、音楽の豊かさというものの良さを引き立ててしまったかもしれません。プロダクションとしての創意、企画は買いですが、演奏には、今後の音楽的成熟の余地があるということで、ハイドンの両曲は[++++]とします。今後のアルバムが楽しみなクァルテットでもありますね。

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tag : 弦楽四重奏曲Op.50 弦楽四重奏曲Op.74 騎士

アウリン四重奏団のOp.74

今日はライムンドさんの記事を見て選んだ一枚。

Auryn74.jpg
HMV ONLINEicon / TOWER RECORDS

アウリン四重奏団(Auryn Quartet)の演奏によるハイドンの弦楽四重奏曲Op.74のNo.1、No.2、No.3の3曲を収めたアルバム。収録は2008年、ドイツ、ケルンの東20kmほどにある街ホンラートにあるホンラート教会でのセッション録音。レーベルはドイツのTACET。

アウリン四重奏団は1982年ケルンで結成されたクァルテットで、活動当初からメンバーは変わりなく30年目になるとのこと。当初はアマデウス四重奏団、グァルネリ四重奏団などに師事し、またヨーロッパ・ユース・オーケストラのメンバーとしてクラウディオ・アバドの指導を受け、音楽もその影響を受けているとの事。レパートリーは古典から現代音楽まで幅広いのですが、とりわけハイドンを重視しているようです。このアルバムのレーベルであるドイツのTACETレーベルにはハイドンの弦楽四重奏曲の全曲録音があり、その録音はハイドン没後200年である2009年に完了したとの事です。また2009年には各地でハイドンの弦楽四重奏曲の全曲演奏会を開くなど、ハイドンが活動のキーになってますね。メンバーは下記のとおり。

第1ヴァイオリン:マティアス・リンゲンフェルダー(Matthias Lingenfelder)
第2ヴァイオリン:イェンス・オッパーマン(Jens Oppermann)
ヴィオラ:ステュワート・イートン(Steuart Eaton)
チェロ:アンドレアス・アーント(Andreas Arndt)

いつものようにクァルテットのウェブサイトへのリンクを張っておきましょう。

Auryn Quartett - Streichquartett - string quartet(独文・英文など)

TACETのハイドンの弦楽四重奏曲のアルバムはあまりショップの売り場で見かけず、またなぜか全集がすべてバラ売りのレギュラープライスゆえこれまであんまり手を出して来ませんでしたが、先日HMV ONLINEでこのアルバムをようやく入手した次第。そのうちレビューしようとしていたところ、ライムンドさんのブログでアウリン四重奏団他によるシューベルトの弦楽五重奏曲が取りあげられているの見て、これはハイドンも取りあげなくてはと思った次第。ライムンドさんの記事はこちら。

今でもしぶとく聴いています:シューベルトの弦楽五重奏曲 Auryn Quartet 他

TACETレーベルは珍しいレーベル。せっかくですからレーベルのウェブサイトにもリンクを張っておきましょう。

TACET-Website(独文・英文・仏文)

当ブログでもTACETレーベルのアルバムを2度取りあげておりますが、何れも素晴らしい演奏でした。いい音楽を見極める目のありそうなレーベルです。

2011/10/17 : ハイドン–交響曲 : ライスキ/ポーランド室内管の王妃、雌鶏、狩
2011/06/03 : ハイドン–室内楽曲 : アベッグ・トリオのピアノ三重奏曲集

さて、ハイドンを得意としているアウリン四重奏団の演奏は如何なものでしょうか。

Hob.III:72 / String Quartet Op.74 No.1 [C] (1793)
つるつる滑る石鹸のように艶のある流麗なヴァイオリンが印象的な導入部。最新の録音らしくクッキリと各楽器が浮かびあがる鮮明な録音。アンサンブルも良くそろっていますが、やはり第1ヴァイオリンの流麗さが印象的。テンポは安定感があるように聴こえますが良く聴くと結構自在に動かしています。第1ヴァイオリンはかなりインテンポで攻めて、速いパッセージではあえてテンポを上げて爽快感を出しています。強弱のコントラストもクッキリつけているで聴き応えがありますが、くどさはなく自然さを保ちながら個性をうまく表現しています。ハイドンを演奏する悦びが感じられる演奏。
2楽章のアンダンティーノは鋭さを残しながらも落ち着いた曲調に合わせた演奏。なんとなく現代音楽もレパートリーとしているから表現できる鋭い静寂感のように感じます。第1ヴァイオリン以外の楽器は少しざらついた音色なので対比が面白い効果。クッキリとメロディーを描く演奏ながら総じて自然体な印象。曲が進むにつれて深い静寂の表現が秀逸に。
メヌエットはクッキリ感はかわらないものの、作為のない自然さがじわりとつたわります。ただただ音楽を奏でる感じ。
フィナーレは見事。絢爛豪華な音響。このクァルテットのクッキリとした音響の特色を最大限に生かして、各楽器が素晴らしい精度のアンサンブルを構成し、終楽章特有のスリリングな展開。ダイナミックレンジも大きく取って強奏とその余韻の消え入る静寂、そして作為なく楽譜通りにクッキリと音楽を描いていきます。なんとなく誰かの音楽に似ていると、、、そう、アバドの振る音楽に似ています。このクァルテットがアバドの影響を受けているということに合点がいきました。

Hob.III:73 /String Quartet Op.74 No.2 [F] (1793)
コミカルなメロディが印象的な第2番。クッキリとしたフレージングが鮮烈な印象をもたらし、模範的な名演に聴こえます。アンサンブル、音色ともに前曲よりさらにいい感じになってます。こうゆうメロディラインの綺麗な曲をこれだけクッキリ弾くと弦楽四重奏曲の素晴らしさが際立ちます。素晴らしい音楽。
2楽章は軽くあっさりとした入り。曲調をよく把握した演奏といえるでしょう。途中からのヴァイオリンの抑えたメロディが絶妙の美しさ。
メヌエットもちょっと抑え気味なところが絶妙。8分の力で音楽を的確にコントロールしているよう。軽妙な感じが良く表現できています。
フィナーレも非常に緻密にコントロールされています。コントロールされた鮮烈さという印象。前曲とは明らかに聴かせどころを変えています。

Hob.III:74 / String Quartet Op.74 No.3 "Reiterquartetett" 「騎士」 [g] (1793)
最後は名曲「騎士」。この曲は出だしから絶妙なデュナーミクのコントロールが素晴らしい精度。まさにアバドの薫陶を受けているということがよくわかります。ことさら第1ヴァイオリンが浮かび上がった印象はなく、全員が対等にせめぎあっている印象。No.1の鮮烈さとNo.2の抑制を併せ持ったような非常に完成度の高い演奏。短調のほの暗さも陰影のくっきりしたモノクロームの写真のようなデリケートさで表現できています。
絶品なのが2楽章のラルゴ・アッサイ。この曲はアルバン・ベルク四重奏団のコンサートのアンコールの超精妙なアンサンブルが記憶に残っていますが、それとは異なり精妙ながらメロディーがきっちり浮かび上がり起伏も立体感もある演奏。凛とした美しさが印象的なもの。中間部はテンポは落とし気味で静寂感を生かしながら練って歌う感じで変化をつけます。強奏部分は自在な表現でインパクトがあります。
メヌエットは前2曲が比較的自然だったのに比べると、踏み込んだ表現。フレーズごとに表情を丁寧につけて鮮烈な感じも流麗な感じもする演奏。前楽章の穏やかな入りと、自在な後半の表現を踏まえて、あえて表情をつけにいったものでしょう。
フィナーレはやはり名曲。ハイドンの弦楽四重奏曲の中でも印象に残るメロディをやはりクッキリと、ここにきて力感も加えて表現していきます。鮮烈さと軽妙さ、そして重厚さも表現する巧みな演奏。間も効果的にとってこのアルバムの総決算となる素晴らしい演奏。最後に軽さをさらりとみせて終わります。騎士も素晴らしい演奏でした。

いままで入手していなかった事を悔やむ名演奏。流石にハイドンを得意としているだけあって、クッキリとした線を生かした演奏ながら、各曲の本質を良く見抜いた演奏。曲ごとに演奏のコンセプトが明確にあり、それが実にハマっています。評価はもちろん全曲[+++++]としました。

アウリン弦楽四重奏団のハイドン、収集に入ります(笑)。何しろまだ1枚しか手元にありませんので。

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tag : 弦楽四重奏曲Op.74 騎士

モジリアニ四重奏団の日の出、騎士

今日は最近の録音の弦楽四重奏曲。

ModiglianiSQ76.jpg
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モジリアニ四重奏団(Quatuor Modigliani)の演奏によるハイドンの弦楽四重奏曲Op.76のNo.4「日の出」、Op.74のNo.3「騎士」、Op.54のNo.1の3曲を収めたアルバム。収録は2008年1月フランス中部リモージュ近郊のヴィルファヴァールのヴィルファヴァールファームでのセッション録音。レーベルはフランスのMIRARE。この収録場所はMIRAREレーベルが常用しているようですね。

La Ferme de Villefavard en Limousin(仏文・英文)

モジリアニ四重奏団は2003年に結成されたフランスのクァルテット。ジャケットを見る限りフランス人のイケメン4人組と言った感じ。2006年ニューヨークで開催された若手コンサートアーティストコンクールで優勝。その他数々の賞を受賞しています。デビュー盤は2006年メンデルスゾーンとシューマンのクァルテットを収めたアルバム。まだアルバムは数枚しかリリースされていません。メンバーは下記のとおり。

第1ヴァイオリン:フィリップ・ベルナール(Philippe Bernhard)
第2ヴァイオリン:ロイック・リオ(Loïc Rio)
ヴィオラ:ローラン・マルフェング(Laurent Margaing)
チェロ:フランソワ・キエフェル(François Kieffer)

若手のクァルテットを聴くのは楽しみですね。ハイドンの弦楽四重奏の歴史に風穴を開けるチャンスを与えられている訳ですから。今日はこのアルバムから日の出と騎士の2曲を取りあげます。

Hob.III:78 / String Quartet Op.76 No.4 "Sonnenaufgang" 「日の出」 [B flat] (1797)
冒頭から木質系の柔らかな響きが心地よい録音。最新の録音だけあって自然さはピカイチ。自己主張の強い演奏ではなくキビキビとした自然な演奏。前記事で取りあげたウルブリヒ四重奏団が音色に対する鋭敏な感覚をもった演奏であったのに対し、モジリアニ四重奏団はむしろ素朴さを誇るような朴訥な音色。1楽章はすこし溜めがリズム感を悪くするような印象のある部分もありますが、リズムを変化させてまずまず無難に切り抜けます。眼前で実際に演奏しているようなリアリティを楽しむべき演奏でしょうか。
つづくアダージョに入り各楽器の恍惚感を交互に聴くような風情。ゆったりと、溜めを伴った各楽器のフレージングが独特の孤高な感じを醸し出しています。
メヌエットはオーソドックスにすすみますが中間部はフレーズに独自性を表そうとして少し変化を見せます。技術はなかなか上手いですが、音楽に一貫性がほしいところ。
フィナーレは冒頭からかなりの変化を見せます。ハイドンの楽譜に仕組まれた音楽を体現するというよりは、奏者の創意でのアドリブのような位置づけです。最後はきっちり盛り上げて締めます。リアルな音響のいい録音ですが、音楽性についてはもう一歩統一感が欲しいところ。

Hob.III:74 / String Quartet Op.74 No.3 "Reiterquartetett" 「騎士」 [g] (1793)
騎士の方は明るめの音色で冒頭の聴き慣れたメロディーをキビキビすすめて行きます。前曲よりもリズムの重さを感じさせない無難な入り。作為を抑えた分曲の良さを素直に楽しめる演奏。
この曲の聴き所は2楽章のラルゴ・アッサイ。1楽章よりもはっきりと力感と表現のメリハリを強めてじっくりと曲想を浮かび上がらせます。じっくりと描くフレーズに爆発するような強奏が素晴らしいコントラスト。前曲よりも明らかにキレが良くなり奏者も音楽にのっているよう。
メヌエットも前曲より覇気があっていい感じ。4人の息はピタリと合っているんですが、それぞれが朴訥な演奏なので、キレたメヌエットというより素朴なメヌエットになっているよう。
フィナーレは見事な一体感。リズムのキレ、速いパッセージのテクニックも万全。弾むように一気に弾き進めて、ハイドンの痛快なフィナーレを見事に表現しています。最後の抑えた部分と強奏部分の対比は素晴らしい効果。前曲より総じていい仕上がり。

フランスの若手クァルテットによるハイドンの傑作弦楽四重奏曲のアルバム。歴史に風穴をあけることはできなかったものの、最新の録音による自然な弦楽器の響きと、若手の創意を感じる事ができるアルバムでした。評価は日の出が[+++]、騎士が[++++]としました。

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tag : 弦楽四重奏曲Op.76 弦楽四重奏曲Op.74 日の出 騎士

ザロモン四重奏団のOp.74のNo.2、騎士

今日は古楽器の弦楽四重奏。

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ザロモン四重奏団(The Salomon String Quartet、のちにThe Salomon Quartet)の演奏でハイドンの弦楽四重奏曲Op.74のNo.2とNo.3「騎士」の2曲を収めたアルバム。 収録は1983年11月18日~19日、どこで収録されたかは記されていません。レーベルはロンドンのhyperion。

ザロモン四重奏団のアルバムは何枚かもっているのですが、このアルバムは手元にありませんでした。最近ディスクユニオンで見かけて手に入れたもの。今月は弦楽四重奏曲を集中的に取りあげてはいますが、古楽器のアルバムを取りあげていなかったので、ちょうど良いとばかりに今日はこのアルバムを取りあげました。

ザロモン四重奏団は1982年に設立されたクァルテット。なんでも、英国で最初の古楽器によるクァルテットだそうです。このアルバムの録音は1983年なので設立間もない録音。クァルテットにとってハイドンは最初に挑むべき作曲家でしょう。メンバーは下記のとおり。

第1ヴァイオリン:サイモン・スタンデイジ(Simon Standgage)
第2ヴァイオリン:ミカエラ・コンベルティ(Micaela Comberti)
ヴィオラ:トレヴァー・ジョーンズ(Trevor Jones)
チェロ:ジェニファー・ウォード・クラーク(Jennifer Ward Clarke)

サイモン・スタンデイジは古楽器のヴァイオリニストとしては有名な人なのでご存知の方も多いでしょう。1941年生まれのイギリスのヴァイオリニストで1972年にデビュー後、トレヴァー・ピノックのイングリッシュ・コンソートの創設メンバーとなり、その後このザロモン四重奏団を創設、以後ホグウッドのエンシェント管弦楽団(The Academy of Ancient Music)、リチャード・ヒッコクスとともにコレギウム・ムジクム90を創設、最近ではマンフレート・フスのハイドン・シンフォニエッタ・ウィーンとも共演するなど、古楽器オケの隆盛を支えてきた人ですね。私はホグウッドとのモーツァルトのヴァイオリン協奏曲全集の凛とした古楽器らしいヴァイオリンの音色が印象に残っています。

そのスタンデイジが第1ヴァイオリンを務めるザロモン四重奏団のハイドンのクァルテットはやはり古楽器の凛とした緊張感が支配する音楽です。

Hob.III:73 /String Quartet Op.74 No.2 [F] (1793)
冒頭から古楽器特有の鋭い音のヴァイオリンを中心としたアンサンブル。弦楽器の胴鳴りよりも弦の鋭い響きを中心とした響き。録音は直接音を中心としたダイレクト感溢れる音で残響は少なめ。スピーカーの前にクァルテットが並ぶようなリアリティの高いもの。この曲のユニークメロディーをコミカルに描くのではなく、速めのテンポとザクザク刻むような迫力ある演奏。同じ曲でも演奏によって見せる表情がだいぶ変わります。チェロも胴鳴りより輪郭がクッキリとした響き。途中から休符を印象的に長くとり、予想以上の踏み込んだ表現を聴かせます。
2楽章のアンダンテ・グラツィオーソは一転して穏やかな表情。古楽器の音色の雅な側面にスポットライトが当たります。素朴なメロディを訥々と奏でていくことで孤高の境地を表現。
メヌエットも抑え気味。骨格よりもメロディーラインの美しさを重視したメヌエット。歌うメヌエットという感じ。
フィナーレはこの前コダーイ四重奏団のこの曲を取りあげた際にネコが鼠を追いかけているような曲と例えたんですが、ザロモン四重奏団の演奏ではもう少しフォーマルな印象。コミカルなメロディに変わりないんですが、そのメロディを素晴らしいテクニックで自在に変化させ、抜群の起伏と表現の限りを尽くした素晴らしい演出。最後のクライマックスの盛り上がりは素晴らしいですね。クァルテットにも関わらず突き抜けた迫力。

Hob.III:74 / String Quartet Op.74 No.3 "Reiterquartetett" 「騎士」 [g] (1793)
いきなり大迫力のタイトな響き。古楽器であることを忘れてさせるような広大なダイナミックレンジ。抑えた部分と強奏部分の対比が痛快。フレーズごとに丁寧に表情をつけて曲の骨格をきっちり描いて行きます。切り込む部分と流れるような部分を絶妙に組み合わせて抜群の立体感を表現。音響は前曲同様非常にリアリティのある録音なので、曲のみりょくがカッチリと浮かび上がります。成熟したハイドンの筆致が見事に表現されています。今更ながらザロモン四重奏団の迫力に圧倒される楽章。
2楽章のラルゴ・アッサイはゆったりとしたメロディーをピタリと息のあったアンサンブルがじっくり描いて行きます。すべてのメンバーのボウイングも呼吸もデュナーミクもすべてそろった完璧な演奏。遅めのメロディを丹念に起伏をつけて弾いているので、息を合わせるのはかなりの練習が必要なことと想像できます。この楽章も神憑ったような完璧なアンサンブル。
前曲同様、構成感よりも流麗さを意識したメヌエット。この曲では1楽章、2楽章の緊張をほぐすようなさりげなく素朴な演奏。ほどほどの立体感と緊張感。
フィナーレも軽めに入りますが、一音一音の伸びが素晴らしいので聴き応え十分。抑えながら楔のように入る強音のキレを際立たせます。有り余るテクニックと音楽性でハイドンの名曲を自在に料理した名演奏と言えるでしょう。

久しぶりに聴いたザロモン四重奏団のOp.74。やはりスタンデイジの絶妙なヴァイオリンがポイントでしょうか。評価は両曲とも[+++++]とします。以前に聴いた印象よりだいぶ鮮烈なものでした。これは意図してザロモン四重奏団のハイドンの演奏をコンプリートしなくてはなりませんね。未入手盤をメモして捕獲候補リストに入れましょう。

テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽

tag : 弦楽四重奏曲Op.74 騎士 ハイドン入門者向け 古楽器

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Daisy


Author:Daisy

なぜかハイドン(Franz Joseph Haydn)が特に気に入り膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。東京在住のごく普通のサラリーマンです。

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