ジュリーニ/フィルハーモニア管1956年の「驚愕」(ハイドン)

最近オークションで手に入れたLPです。

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カルロ・マリア・ジュリーニ(Carlo Maria Giulini)指揮のフィルハーモニア管弦楽団(Philharmonia Orchestra)の演奏で、ハイドンの交響曲94番「驚愕」をおさめたLP。LP自体に収録年の表記はありませんが、ジュリーニのディスコグラフィーをネットで調べてみると、この録音は1956年10月4日、5日にされた模様。レーベルはEMIですが、日本のコーキ出版というところがリリースした"Library of Immortal Classics" というシリーズの第5巻。ジュリーニの驚愕はB面で、A面はメニューヒンの振るバース音楽祭室内管弦楽団の演奏による「告別」です。

ジュリーニの振るハイドンは今まで3度ほど取り上げています。

2014/04/13 : ハイドン–協奏曲 : シュタルケル/ジュリーニ/フィルハーモニア管のチェロ協奏曲2番(ハイドン)
2011/07/22 : ハイドン–交響曲 : 【新着】ジュリーニ/ベルリンフィルの驚愕ライヴ
2010/09/20 : ハイドン–交響曲 : ジュリーニの驚愕

最初に取り上げた驚愕の記事からリンクしているディスコグラフィーによると、ジュリーニのハイドンの録音はこの94番「驚愕」に集中しており、他には99番、104番「ロンドン」、シュタルケルとのチェロ協奏曲が1種づつあるのみ。「驚愕」はこれまで取り上げている76年のベルリンフィル、79年のバイエルン放送響の他にボストン響が2種あるようです。ボストン響との演奏は1962年と69年のもので、入手は難しいかもしれませんね。

よく見ると今日取り上げるアルバムはジュリーニのすべてのハイドンの録音の中で最も古い1956年のもの。ジュリーニは1914年生まれということで、このアルバムが録音された頃は40歳を超えたところ。調べてみるとローマRAI交響楽団、ミラノRAI交響楽団の首席指揮者を経て、1953年にミラノ・スカラ座の音楽監督に就任するも1956年には辞任してしまいます。こうした激動の年の録音ということでも貴重なもの。有名なフィルハーモニア管とのフィガロの録音が1959年ですので、それよりも前の録音。そして、後年、極端にスローテンポになっていったジュリーニの原点たる若い頃の録音という点でも興味津々というところでしょう。

比較のために76年のベルリンフィル盤をまずは聴いてから、フィルハーモニア盤に針を落とします。

Hob.I:94 Symphony No.94 "Mit dem Paukenschlag" 「驚愕」 [G] (1791)
序奏の入りはそれほど変わらない印象でしたが、主題に入ってからのテンポが全く違い、このフィルハーモニア管盤はオーソドックスにタイトにインテンポで攻め込む驚愕の1楽章を捉えたもの。20年後のベルリンフィル盤は後年のジュリーニの特徴がよく出ていて、もはや攻め込むというよりは優雅で華麗に輝く響きをバランスよく聴かせようというもの。ダイナミックさよりも美しい旋律の表現に関心が集中している模様。テンポも遅いというか流麗。こうして比較すると、20年の歳月がジュリーニの音楽をどう変えたか非常に興味深いですね。フィルハーモニア盤に戻ると、後年の流麗なジュリーニの響きの芽生えのような瞬間がありながらも、速めのテンポでグイグイオケを引っ張っていくのが新鮮。響きのバランス感覚というか決して濁った音は出さないようにしているところは流石ジュリーニというところ。実は驚愕で最も聴きごたえのある1楽章の面白さが十全に表現され、引き込まれます。
続くびっくりのアンダンテも、遅くもなく速くもないテンポで入りますが、びっくりの一音だけ響きを長くとってハッとさせられます。これはジュリーニらしいアイデア。実はここも聴きどころの中盤以降の展開部でもジュリーニ流のほのかに流麗さを感じさせる見事なオーケストラコントロール。オーソドックスなのに品格を感じさせるジュリーニ・マジック!
そのジュリーニ・マジックの素晴らしさが最も活きているのが続くメヌエット。なぜだかわかりませんが、音楽に品格が漂い、しなやかな躍動感に包まれます。フレーズの一つ一つのつながりが滑らかで、よく磨かれているからでしょうか。音楽に包まれながら大きな波に揺られているような安堵感。
そしてフィナーレに入ると躍動感が上がり、弦楽器のボウイングのキレがさらに冴えてきます。オケは軽やかに吹き上がり、響きも鮮やか。そして後年のジュリーニは見られないダイナミックな煽りを受けてクライマックスに至ります。なんと見事なフィナーレでしょう。

カルロ・マリア・ジュリーニもカルロス・クライバーも偏愛した「驚愕」。クライバーの炎の塊のように燃え上がる「驚愕」とは異なり、若きジュリーニによる力感と流麗さのバランスのとれた名演。後年いささかスタティックな方に偏って行ってしまったジュリーニの原点たる活き活きとしたエネルギーが感じられる演奏でした。私はジュリーニの「驚愕」ではこの演奏を取りますが、入手しやすいものではないため、コレクターズアイテムというところでしょう。もちろん評価は[+++++]とします。

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tag : 驚愕 ヒストリカル LP

ヨーゼフ・クリップス/ウィーンフィルの驚愕、99番(ハイドン)

温故知新。

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ヨーゼフ・クリップス(Josef Krips)指揮のウィーンフィルの演奏で、ハイドンの交響曲94番「驚愕」、交響曲99番、ロンドン交響楽団の演奏で交響曲92番「オックスフォード」、104番「ロンドン」などを収めたアルバム。今日はこの中からウィーンフィルとの驚愕と99番を取り上げます。この2曲の収録は1957年9月、ウィーンのソフィエン・ザールでのセッション録音。レーベルは豪DECCAのELOQUENCE。

実はこのアルバム、ごく最近手に入れたもの。巷では有名なアルバムのようですが、手元にないと気づいていなかったもの。アルバム自体には他にロンドン交響楽団とのオックスフォード、ロンドンも収録されていますが、録音が荒く聴き劣りするため、ウィーンフィルとの2曲のみ取り上げる次第です。

ヨーゼフ・クリップスは知らない人はいないでしょう。1904年ウィーンに生まれたオーストリアの指揮者。Wikipediaなどによれば、フェリックス・ワインガルトナーの助手、合唱指揮者として、ウィーン・フォルクスオーパーで働くようになります。その後ドルトムント市立劇場、カールスルーエ歌劇場などを経て、1933年、ウィーン国立歌劇場の常任指揮者に就任し、1938年のドイツによるオーストリア併合によりオーストリアを去ることになりますが、戦後は再びウィーンでDECCAに数々の名録音を残しました。1950年から1954年、ロンドン交響楽団の首席指揮者を務め、その後渡米しバッファロー・フィルハーモニー管弦楽団、サンフランシスコ交響楽団の音楽監督を務めます。1963年にコヴェント・ガーデン王立歌劇場、1966年にメトロポリタン歌劇場にそれぞれデビュー。1968年初来日。1970年、ベルリン・ドイツ・オペラの指揮者に就任、同年から1973年までの間ウィーン交響楽団の首席指揮者を務めるなど華々しいキャリアを歩みます。1974年、スイスのジュネーブで亡くなっています。

手元にあるクリップスのアルバムはハイドンではロイヤルフィルとのロンドンが2種、今日取り上げるウィーンフィルとの驚愕も廉価盤が手元にあります。他にはコンセルトヘボウとのモーツァルトの交響曲21番から41番のボックスと、お菓子の缶のような造りのロンドン交響楽団とのベートーヴェンの交響曲全集。何も引き締まった彫刻的な演奏が印象的でした。これらの演奏を思い出しながらハイドンの交響曲を聴きますが、いやいや、これは素晴らしい!

Hob.I:94 Symphony No.94 "Mit dem Paukenschlag" 「驚愕」 [G] (1791)
若干古さを感じさせるものの、響きは全盛期のウィーンフィルの魅力満点。彫りの深い弦楽器の響き。分厚い低音弦。速めのテンポでグイグイ攻めてきます。DECCAらしい実体感ある録音。驚愕の1楽章が筋骨隆々に引き締まって素晴らしい緊張感。メガネのおじさんの棒から魔法のように繰り出される素晴らしい音楽。これぞ正統派のハイドンです。完璧なプロポーションの古流の生花を見るよう。
2楽章のビックリもこけ脅しなしの純音楽的に緊密な構成。リズムとダイナミクスの饗宴。そしてどことなくウィーンの香りが漂う高雅な演奏。変奏が進むにつれてタイトに引き締まったオーケストラの魅力が炸裂。金管、木管陣は意外にあっさりしていますが、弦楽器の分厚い響きが逆に際立って、これも見識と納得。演歌を持ち歌の本人が歌った時だけに感じるハマり感と同様、このハイドン、クリップスの振るウィーンフィルがオリジナルと思わせるなみなみならぬ説得力があります。
メヌエットも同様。なんでしょう、この有無をも言わせぬ完璧な演奏は。曲があるべき響きに完全にハマってます。自然なのに深い。深いのに自然。音楽にまったく古さを感じません。
フィナーレはことさらキレを強調せず、リズムをしっかり刻んでバランスの良い感興。ハイドンが古典派の作曲家であることを誰よりも理解するウィーンフィルならではの、あえて八分の力でのフィナーレというところでしょう。あまりに見事な演奏にしばしうっとり。

Hob.I:99 Symphony No.99 [E flat] (1793)
驚いたのははじめて聴くこちらの99番。いやいやこれほど彫りの深い演奏とは思いませんでした。おおらかな曲調のこの曲が、彫刻的におおらか! 前曲と同じ時期の録音ですが、こちらのほうが一歩踏み込んでます。ウィーンフィル特有の深い響きの色は変わらず、バランスの良さも前曲同様ですが、陰影のグラデーションのやわらかながらクッキリとしたコントラストが見事。速めのテンポでの見通しの良さもあり、99番の魅力があらためてよくわかります。やさしくコミカルな曲調の本質を捉えた名演奏でしょう。
美しいメロディーの宝庫の2楽章。木管楽器の独特の鄙びたような音色がいい雰囲気。弦楽器の繰り出す幾重もの大波にゆられる快感。時折ホールに響き渡るチェロのメロディーはウィーンフィルならでは。これはオリジナルのLPで聴いてみたいですね。
雰囲気をさっと変えるようなメヌエット。あえて軽く、さらりとこなします。そしてフィナーレは驚愕の1楽章同様、引き締まったオーケストラの魅力を再び見せつけます。迫力もそこそこありますが、センスで聴かせる大人の技。それでも徐々にクライマックスにもっていく推移の巧さはかなりのもの。終盤に力を緩めるところも実に見事。これぞウィーンフィルのハイドンという見本のような見事なコントロールでした。

ヨーゼフ・クリップスの振るウィーンフィルによる驚愕と99番。今更ながら、あまりに見事な演奏に打たれました。ウィーンフィルによるハイドンの録音は実は多くなく、有名どころではカラヤンによる、ロンドンと太鼓連打などがありますが、クリップスによるこの録音は最もウィーンフィルらしい、古き良き時代を感じる演奏と言えるでしょう。ただし、意外にも古い感じはせず、この演奏が普遍的な魅力をもっていることがわかります。録音もDECCAらしい重厚なもの。古楽器の演奏や新たな解釈による演奏も手にはいる今においても、魅力を失わない素晴らしいアルバムですね。評価はもちろん2曲とも[+++++]とします。

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tag : 驚愕 交響曲99番 ヒストリカル

エドゥアルド・ファン・ベイヌム/RCOの驚愕、奇跡、97番(ハイドン)

今日はヒストリカル。

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エドゥアルド・ファン・ベイヌム(Eduard van Beinum)指揮のアムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団(Royal Concertgebouw Orchestra)の演奏で、ハイドンの交響曲94番「驚愕」、96番「奇跡」、97番、ブルックナーの交響曲7番の4曲を収めた2枚組のアルバム。ハイドンの収録は驚愕が1951年9月、奇跡が1952年12月、97番が1953年5月、いずれもアムステルダム・コンセルトヘボウの大ホールでのセッション録音。原盤はDECCAですが、手元のアルバムはRETROSPECTIVEレーベルのもの。最近DECCAからもハイドンのみの1枚がリリースされています。また、この3曲に関してはDECCAのLPから起こしたと思われるHaydn Houseのアルバムも手元にあります。

実は最近DUTTONの1947年録音の奇跡を手に入れ、そちらのレビューをしようとして比較のためにこのアルバムを聴いてみると、双方それぞれ良さがあるのですが、一般の人にオススメするにはこちらのアルバムの方が好ましいということで、急遽レビュー盤を変更した次第。奇跡に限って言えば1947年の方は小気味よくスタイリッシュな演奏なのにくらべ、こちらはくっきりとして迫力もある演奏という違いがあります。

そもそもエドゥアルド・ファン・ベイヌムにはハイドンの交響曲は他に軍隊の録音があり、ザロモンセットから4曲を録音しており、ハイドンの交響曲をレパートリーとしていた節はありますが、これまで一度も取り上げておらず、私自身ベイヌムの他の演奏にも親しんでいなかったので、どのような音楽を作る人か、いちどちゃんと聴いてみたいと思っていた人でした。

一応Wikipediaなどを参考に略歴などに触れておきましょう。

エドゥアルド・ファン・ベイヌムは1941年、オランダ東部のアルンヘム生まれの指揮者。16歳で地元アルンヘム管弦楽団にヴァイオリニストとして入団、翌年アムステルダム音楽院に入り、ピアノ、ヴィオラ、作曲を学びました。1920年にピアニストとしてデビューしますが、アマチュアオーケストラや合唱の指揮を始め、指揮者に転向することになります。1927年に指揮者としてデビュー、オランダのハールレム交響楽団の音楽監督となり、1929年アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団への客演が成功裏に終わり、1931年にピエール・モントゥーの推薦、メンゲルベルクの招きで同楽団の次席指揮者となったのち、1938年から首席指揮者になりました。1945年、メンゲルベルクがナチスへの協力で追放されると、コンセルトヘボウの音楽監督兼終身指揮者に就任します。1949年にはロンドン・フィルハーモニーの首席指揮者に就任、そして1956年からはロサンジェルス・フィルの終身指揮者に就任します。晩年は病気がちだったとのことで1959年4月、アムステルダムでのリハーサル中に心臓発作で倒れ、57歳で亡くなりました。

アムステルダム・コンセルトヘボウ管はオランダ人の音楽監督を置くということで、ベイヌムの後任は若いベルナルド・ハイティンクが務めることになりますが、あまりの若さにオイゲン・ヨッフムが補佐として常任指揮者として1964年まで加わりました。

ベイヌムはメンゲルベルクのロマン的音楽づくりに対して客観的な解釈でコンセルトヘボウに新風を吹き込んだとされています。今聴くベイヌムのハイドンはその指摘どおり、かっちりとした迫力に満ち、しかも流れの良さも併せ持つなかなか見事なものです。

Hob.I:94 / Symphony No.94 "Mit dem Paukenschlag" 「驚愕」 [G] (1791)
1950年代の録音としてはかなり鮮明。いくぶん速めのテンポで健全なインテンポによるキリリと引き締まった音楽を創っていきます。ベイヌムの演奏スタイルはハイドンの音楽に実によくマッチしたもの。弛緩ない引き締まった表情で、ハイドンの音楽が凛々しく響き渡ります。驚愕の1楽章は構成感の緻密さが聴きどころですが、ベイヌムの手にかかると立体感あふれる彫像のような見事なフォルムを見せます。
2楽章のビックリもタイトに引き締まって、こけおどし的側面は皆無。ハイドンの音楽の気高さを強調するように、引き締まった音楽のままグイグイ攻めていき、ゆったりとした表情は見せません。オケの響きも各楽器の響きのバランスがよく、音楽の一体感も見事。
メヌエットもタイト。楽章間の対比やテンポの変化は逆に最小限。まさに一貫してタイトな音楽。休符も短めで音楽の流れの良さを強調しているよう。よく聴くとそれでも抑えるべきところで音量を絞り、単調になるのを避けています。
フィナーレはこれまでの一貫したスタイルの総決算。適度な前のめり感を保ちながらグイグイきます。オケの響きは引き締まりまくり、後年の響きの豊かなコンセルトヘボウと同じオケとは思えない禁欲的な響きで圧倒します。

Hob.I:96 / Symphony No.96 "The Miracle" 「奇跡」 [D] (1791)
続いて奇跡。驚愕の一貫してタイトな表情にくらべ、少し余裕が増して落ち着きを保っているように聴こえます。演奏の基調は前曲と同じものを感じますが、曲に仕込まれたウィットを活かしてコミカルさを感じさせる余裕があります。速いパッセージのヴァイオリンの流麗なところは流石コンセルトヘボウ、録音の違いか柔らかな印象も加わり、引き締まりながらも表情豊かなかなかいい演奏。
つづくアンダンテは前曲と異なり、普通にゆったりとした表情の演奏。中間部の攻め込みにベイヌムらしいタイトな印象を垣間見せますが、すぐにゆったりとした表情に戻ります。
メヌエットも余裕がある一般的演奏。驚愕の攻め込むスタイルがベイヌム風だとすれば、こちらは普通の演奏ですが、ハイドンの曲としては、このほんのりとタイトでバランスの良い演奏の方が曲の良さが引き立ちます。
フィナーレもタイトさを感じさせるバランスの良い演奏。この曲の面白さを象徴する楽章ですが、楽譜に仕組まれたウィットに反応してオケも自在に攻めてきます。バランスの良い秀演でした。

Hob.I:97 / Symphony No.97 [C] (1792)
最後の97番は簡単に。一番最近の録音ながら、音はちょっとこもり気味。演奏は奇跡と同様余裕をもったバランスの良い演奏。聴くと確かに新古典主義的な端正なフォルムを感じさせます。1950年代には垢抜けた演奏として受け取られたということは想像できます。この97番も奇跡もちょっと聴くとオーソドックスな、どちらかというと個性的な演奏とは言い難い演奏ですが、適度にタイトな表情の魅力と、演奏からにじみ出る味わい、ハイドンの曲の面白さを素直に表した良さがあり、これはこれで完成度の高いなかなかいい演奏です。

エドゥアルド・ファン・ベイヌムと手兵アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団によるハイドンのザロモンセットからの3曲、ベイヌムとはどうゆう音楽を奏でる人だったのかを知ることができる興味深い演奏でした。驚愕の攻め込む姿勢は非常に挑戦的ですが、ちょっと平板さもはらんでいました。逆に落ち着いて音楽をとらえた奇跡と97番は突き抜けた個性を感じさせる演奏ではありませんが、ハイドンの交響曲の演奏としては理想的な高次のバランスを保った名演とみなすことができるでしょう。こうした評価は人によってはまったく逆転することもあるでしょうが、私はバランスの良い演奏の方を採りたいと思います。というわけで評価は驚愕が[++++]、残り2曲が[+++++]とします。

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tag : 驚愕 奇跡 交響曲97番 ヒストリカル

【追悼】ロリン・マゼール/ベルリン放送響の「驚愕」1975年ライヴ(ハイドン)

7月13日、ロリン・マゼールが84歳で亡くなりました。肺炎による合併症とのこと。ウィーンフィルのニューイヤーコンサートをずいぶん振ったので日本でもおなじみの指揮者でしょう。

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ロリン・マゼール(Lorin Maazel)指揮のベルリン放送交響楽団の演奏で、ベートーヴェンのピアノ協奏曲3番(独奏:ヴィルヘルム・ケンプ)、ハイドンの交響曲94番「驚愕」の2曲を収めたアルバム。ハイドンの収録は1975年6月8日、ベルリンの放送ホール1でのライヴ。レーベルは貴重なライヴを次々とリリースする独audite。

マゼールのハイドンの録音は多くはありませんが、それでもいろいろ探して過去に2度ほど取りあげています。リンク先を読んでいただければわかるとおり、私はマゼールは嫌いではありません。

2013/04/11 : ハイドン–交響曲 : ロリン・マゼール/ベルリン放送響のオックスフォード、太鼓連打
2011/07/12 : ハイドン–交響曲 : ロリン・マゼール/ウィーンフィルの85年オックスフォードライヴ

マゼールで皆さんおなじみなのはやはりウィーンフィルのニューイヤーコンサート。調べてみると、弾き振りのヴィリー・ボスコフスキーの後を受けて1980年から7年連続で指揮をとり、その後1994年、96年、99年、2005年と振り、都合11回も指揮台に登っています。ボスコフスキーの25回、クレメンス・クラウスの12回について3番目に多い回数です。ボスコフスキーの後を継いで指揮をとった1980年のコンサートでは、優雅なボスコフスキーとは対照的にムジークフェラインを吹き飛ばさんばかりの大迫力の演奏に賛否両論だったのが懐かしいところ。もちろんオケのすべてのパートに指示を出すような精密機械のような指揮ぶりも圧巻。マゼールの音楽は音だけ聴くとフレーズの造りが微視的で大きな流れが弱いところがありますが、ディティールの緻密さと時折聴かせるグロテスクなまでの誇張によって、怖いもの見たさのような感覚で聴いてしまう面白さがありました。やはりマゼールは映像でその指揮姿を見ながら聴くのが一番特徴がわかる気がします。クライバーの魂を揺さぶるような指揮ぶりともちがって、鋭い眼光とタクトの先ですべての奏者を監視しながら恐ろしく精密に指示を出す姿は才気爆発。指揮者の指示を聴くような気になります。何れにしても、巨匠と呼ばれる世代の最後の世代の人でしょう。マゼールより高齢で活躍しているのは、もはやスクロヴァチェフスキくらいでしょうか。

今日取り上げるアルバムはフェレンツ・フリッチャイの後任として1964年から首席指揮者の地位にあったベルリン放送交響楽団とのコンサートのライヴですが、マゼールもこのライヴと同じ1975年にその地位を離れ、しばらく後の1982年にリッカルド・シャイーが首席指揮者に着きました。すなわちベルリン放送交響楽団との10年以上にわたる関係の総決算のような時期の演奏ということになります。若き日のマゼールの才気が迸るでしょうか。

Hob.I:94 / Symphony No.94 "Mit dem Paukenschlag" 「驚愕」 [G] (1791)
録音は年代なりで、すこし痩せ気味ですが、十分鮮明です。1楽章は速めのテンポでグイグイ攻める感じ。アクセントがきっちりついてリズムを強調するあたりがマゼールならでは。首をふりながら指揮するすがた想像できるよう。オケもきっちり指揮についてキリリと引き締まった表情をつくっていきます。終盤になるに従ってオケの振幅も大きくなり、スピーディながらリズムに溜めをつくって表現を大きくしていきます。このへんの設計の確かさは流石なところ。一貫したスピードの中、表現の振幅を巧みに変えて音楽の抑揚をうまく造っていきます。1楽章は流石の出来。
意表をつかれるのが続くアンダンテ。テンポが速い。ビックリの部分も驚かそうなどというそぶりはまったくなく、単なる強弱記号をこなしていくだけのようなあっさりした表現。このアンダンテも緊密な音楽の構成を速いテンポで浮かび上がらせようと言う事でしょう。一貫してタイト。終盤の展開部も速めのテンポでグイグイあおり、ダイナミック。ところどころで金管にアクセントをつけて変化を加えます。
予想通りメヌエットも速い。ハイドンの音楽からスタイリッシュなダイナミックさが浮かび上がってきます。ここにきて節回しがマゼールっぽくなってきました。指揮棒をクルクルまわしてオケに指示を出しているのでしょう。
一貫して速めのテンポで来たので、フィナーレは突っ走ってほしいものです。まずは期待どおりの速めの入りですが、まだオケは抑え気味。徐々にスロットルを開いて行く快感。マゼール流のちょっとくどい感じもしかねないアクセントがかえって痛快。爆発を期待します。なんだか不思議な高揚感。最後は期待通りのクライマックス。やはり盛り上げ方は流石です。知的な印象も残し、ハイドンのやり方によってはちょっと温くもなってしまう交響曲をキリリと引き締めたタイトな曲に仕上げてきました。
最後は拍手に包まれます。

ロリン・マゼールが手兵ベルリン放送交響楽団を振ったコンサートのライヴ。若き日のマゼールの才気が味わえるなかなかいい演奏でした。マゼールのハイドンに対するスタンスは純音楽的にタイトに仕上げる素材としての古典期の曲というところでしょう。標題性には一切媚びる事無く、ハイドンの書いたメロディーとオーケストレイションをキリリと引き締めて聴かせる手腕は流石です。音楽を自在に操る類いまれな能力が迸っていました。このハイドン、マゼールらしさが出た秀演でしょう。評価は[+++++]に格上げです。

マゼールは演奏によっては独特の灰汁の強さがあり、好き嫌いが別れる指揮者だったと思いますが、この独特の演奏に惹き付けられた人も多いのではないかと思います。マゼールのハイドンの録音はほとんどないと思いますが、この不思議なタクトでもう少しハイドンを聴いてみたかったですね。また一人、偉大な個性が消えていきました。ご冥福をお祈りします。

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tag : 驚愕 ライヴ録音

ヒクメット・シムセク/ハンガリー国立管の驚愕、ロンドン(ハイドン)

いつも通り、マイナー盤。不思議な組み合わせの演奏です。

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ヒクメット・シムセク(Hikmet Şimşek)指揮のハンガリー国立管弦楽団(Hungarian State Orchestra)の演奏で、ハイドンの交響曲94番「驚愕」、交響曲104番「ロンドン」の2曲を収めたアルバム。収録情報は記載されておらず、Pマークが1990年。レーベルはハンガリーのHUNGAROTON。

こちらも最近ディスクユニオン店頭で発掘したもの。最近はディスクユニオンの交響曲の棚は見ても未知の盤の発掘につながることがあまりないため、滅多に寄りません。先日神保町のディスクユニオンに実に久しぶりに寄ったところ、神保町の棚はジャンル別・作曲家別ではなく、作曲家別・ジャンル別に並んでいるため、久々に交響曲の棚を見る事になり、このアルバムを発見した次第。まだまだ未聴盤がありますね。

指揮者のヒクメット・シムセクはトルコの東端、イラクにも近いスィイルト(Siirt)県のペルヴァリ(Pervari)生まれの指揮者。生まれるとすぐにアンカラの南のコンヤ(Konya)に移り、1936年、コンヤの兵学校に入ります。アンカラに移り、軍隊の教育を受け続けましたが、1946年、卒業を待たずに、突然アンカラ音楽院に移り音楽の道に転身、1953年にアンカラ音楽院を卒業しました。卒業後アンカラ音楽院で教える事となり、1959年以降は、トルコ大統領府交響楽団の副指揮者となります。シムセクはトルコで日曜に放送されるトルコ放送のクラシック番組に出演していた事から、トルコで最も知られた指揮者と言う存在だったようです。演奏の前には曲の解説等も織り交ぜ、日本で言えば山本直純さんのような存在といったところでしょうか。また、トルコ放送の外国語放送でトルコの作曲家を国外に紹介するなどの功績が認められ、1981年、トルコ政府よりState Artist(文化勲章のようなものでしょうか)を授与されました。また1980年代にはトルコの作曲家による音楽のシリーズものをリリースしています。調べてみると、まさにトルコ音楽界を代表する人のようですね。ライナーノーツによるとヨーロッパや、アメリカ、日本なども含む地域で国際的に活躍したそうです。2001年、アンカラの陸軍病院にて脳腫瘍で亡くなったとのことです。

このアルバム、トルコのシムセクが、ハンガリーを訪れ、ハンガリーのレーベルに、ハンガリーの地元の作曲家であるハイドンの交響曲、それも最も有名な「驚愕」と「ロンドン」を収録したということで、それだけでも「驚愕」の存在!

よほど素晴しい演奏をして、HUNGAROTONのプロデューサーを唸らせたことと想像されますが、アルバムを聴いてみると、その想像もあながち見当違いとも言い切れません。冒頭から分厚い響きのオケが素晴しい覇気の演奏。グイグイ来ます!

Hob.I:94 / Symphony No.94 "Mit dem Paukenschlag" 「驚愕」 [G] (1791)
厳かな序奏から緊張感が伝わります。主題に入ると分厚い響きのオケに力が漲り、素晴しい覇気。オーソドックスな演奏なんですが、力感の素晴らしさはこの曲に期待される理想の響きといっていいでしょう。トルコと聞くと派手な鳴りものを想像しますが、それとは正反対。ぐっと沈み込む重心の低い迫力の響き。派手さはありませんが、その代わりに内なる赤熱するマグマのようなエネルギーを感じる演奏。独墺系のオケよりよほど正統な響きです。音量を上げて聴くとまさに響きの良いコンサートホールで聴く実物大のオケのよう。録音も自然な定位感と素晴しい力感をうまく録っています。HUNGAROTONとしてはかなりいい録音でしょう。1楽章は力感に圧倒されます。
ビックリの2楽章はアンダンテらしい、少し速めの足取りで、例のところはビックリさせるよりは雄大に響かせるような演出。聴衆はビックリしないのを踏まえた演出のよう(笑) 以降はしなやかにオケをコントロールして、やはり図太い響きを織り交ぜながら、誠実かつ豪快に曲を進めます。オケの低音セクションの安定感は素晴しいものがあります。
メヌエットは分厚いオーケストラを軽々と響かせ、まさに踊り出さんばかりにオケが弾みます。曲の真髄に迫っているからこその自然な音楽の流れ。単調さは微塵もなく、オケの反応から指揮者の指示を想像しながら音楽を楽しみます。実に伸びやかな音楽。これがハイドンが意図したメヌエットでしょう。
フィナーレもまるでハイドン自身の指揮のように、曲が本来そうあるべき姿のように軽々とした入り。オケは緩急織り交ぜ、非常にリラックスして要所でガッチリと響きの印象を残し、また、つなぐ部分では軽やかに弾み、まさしくハイドンの音楽はかくあるべしとの確信に満ちた演奏。良く聴くとティンパニが実にいいタイミングで響きを引き締めているのも安定感に寄与しているようですね。1曲目から、期待を大きく上回る素晴しい演奏に驚きます。

Hob.I:104 / Symphony No.104 "London" 「ロンドン」 [D] (1795)
驚愕の調子でこのロンドンを演奏すれば、名盤というか、決定盤間違いなしの素晴らしさでしょう。力感も陰りも憂いもある素晴しい序奏。響きも深く、慈愛に満ちた神々しさ。あまりの素晴しさに感情の高ぶりを抑えられません。ハイドンの最後の交響曲の輝きに満ちたメロディーが分厚い響きで鳴り渡り、まさに古典と言う時代の頂点に相応しい演奏。表現が大げさすぎず端正な印象さえあるのが美点でしょう。カラヤン/ウィーンフィルの名演奏を彷彿とさせ、響きはそれよりスケール感を感じるもの。シムセクのコントロールは力感がありながら響きに優しさもあるのが特徴。ロンドンも万全の入り。
ロンドンのアンダンテは、今度は少し遅め。しかも暮れる前の夕日のような静かな情緒に満ちた音楽。間をたっぷりと取りながら音量を落としてじっくり音楽を奏でていきます。木管群の美しい響きと、それをきっかけに唸るようなオケの波が押し寄せます。長大なアンダンテをニュアンス豊かに進め、そこここで情感が迸ります。このアルバム一番の聴き所。
メヌエットも前曲の踊るようなメヌエットとはスタンスが異なり、ぐぐっと攻め込むメヌエット。ハイドンを得意としていたのかはわかりませんが、この楽章毎にアプローチをデリケートに変えてくるシムセクのコントロールはハイドンに対する深い理解を感じさせます。
フィナーレはようやくオーソドックスなアプローチ。キレよく盛り上がり、徐々に恍惚とするほどのクライマックスに至ります。ここに来て虚心坦懐にハイドンの書いた複雑に絡み合う楽譜をクッキリと描いていきます。分厚い響きのオケがタクトに俊敏に反応して鮮やかに吹き上がる様子は、まさにロンドンのフィナーレのクライマックスに相応しいもの。最後は素晴しい盛り上がりで曲を終えます。

いままであまり聴いた事のないトルコの指揮者のハイドン。マイナーな演奏どころか、独墺系のどの演奏よりもハイドンの本質に近い、雄大なスケールながら端正さ、響きの深さ、優しさに溢れた演奏。これほどまでに素晴しいとは思っていませんでした。ネットを検索したところ、amazonでも中古は欠品中。これほど素晴しい演奏が現役盤ではないことは、大きな損失です。この演奏、多くの人に聴いていただきたい名演と断じます。もちろん両曲とも[+++++]とします。
タワーレコードの中の人、日本とトルコの更なる友好のために、是非このアルバムを日本で復刻すべきです。声が届かないかしら(笑) 意外といい企画だと思うんですが、、、

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tag : 驚愕 ロンドン

クルト・ザンデルリンクの「驚愕」ライヴ2種

たまには聴き比べを。

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HMV ONLINEicon / TOWER RECORDS

(1)クルト・ザンデルリンク(Kurt Sanderling)指揮のウィーン交響楽団(Wiener Symphoniker)の演奏で、ハイドンの交響曲94番「驚愕」、ブラームスの交響曲3番の2曲を収めたアルバム。ハイドンの収録は1998年12月17日、ウィーンのコンツェルトハウスの大ホールでのライヴ。ザンデルリンクのライヴをいろいろリリースしているレーベルはWEITBLICK。

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(2)クルト・ザンデルリンク(Kurt Sanderling)指揮のスイス・ロマンド管弦楽団(Suisse Romande Orchestra)の演奏でハイドンの交響曲94番「驚愕」、オケを変えてラヴェルの左手のためのピアノ協奏曲、リヒャルト・シュトラウスの「ドン・ファン」の3曲を収めたCD-R。ハイドンの収録は2000年11月8日で、収録場所は記載されていませんが、スイス・ロマンドの本拠地、ジュネーヴのヴィクトリア・ホールでしょうか。レーベルはCD-Rで良く見かけるEn Larmes。

クルト・ザンデルリンクはハイドンを得意としており、私も好きな演奏が多い指揮者です。これまでいろいろ取りあげてきました。

2013/02/16 : ハイドン–交響曲 : ザンデルリンク/読響の「熊」1990年サントリーホールライヴ
2012/11/13 : ハイドン–交響曲 : クルト・ザンデルリンク/ベルリン交響楽団の王妃、86番
2012/06/30 : ハイドン–交響曲 : 【新着】ザンデルリンク/スウェーデン放送交響楽団の39番ライヴ
2010/11/04 : ハイドン–交響曲 : クルト・ザンデルリンク/ベルリン・フィルの熊ライヴ
2010/06/18 : ハイドン–交響曲 : クルト・ザンデルリンクの86番

これまでの記事を読んでいただければわかるとおり、ザンデルリンクのハイドンは生気と感興、推進力が高次にバランスした演奏。まさにハイドンの美学をそのまま音楽に仕立ててきます。私もザンデルリンクのハイドンは好きなタイプの演奏故、過去取りあげたものは何れも高評価をつけています。そのクルト・ザンデルリンクでまだ取りあげていないこれらのアルバムを聴き比べながら取りあげようと言うのが今日の意図です。

ちなみにザンデルリンクの略歴などは、上の39番の記事をご覧ください。

Hob.I:94 / Symphony No.94 "Mit dem Paukenschlag" 「驚愕」 [G] (1791)
まずは、ウィーン響との(1)から。
流石にウィーン響、柔らかい音色ながらしっかりと芯があり、ザンデルリンクの折り目のすっと通ったコントロールの魅力が伝わります。オーソドックスなのにアトラクティヴ。推進力があるのに落ち着きはらった指揮。そしてテンポは一貫して中庸を保ち、曲自体からハイドンの良さを再認識させるような自然なアプローチ。まさに王道を行く演奏。響きに身を任せて驚愕の変化に富んだ1楽章を楽しみます。ライヴですがまるでセッション録音のような安定感。
つづくびっくりの2楽章は、こうすれば子供騙しではなく純音楽的な洗練を感じさせられるようになるという見本のような折り目正しい演奏。あっさりとした表情からにじみ出る爽やかな情感。華美にもならず、テクニックの誇示にもならない誠実さ。素直なアプローチから純音楽的な面白さを存分に感じさせます。ハイドンの聴かせどころのツボを完全に押さえています。後半の展開部のダンディズム溢れるタイトな表情。
メヌエットはザンデルリンクの真骨頂。作為なく自然に音楽が流れますが、フレーズ事に微妙に間を変化させながら音楽の構造が浮かび上がるよう、くっきり描いていきます。音量の変化ではなく表情で音楽を浮かび上がらせる至芸。まさに燻し銀。
そしてフィナーレは、落ち着いたコントロールながら、この曲のクライマックスにふさわしい推進力が漲り、徐々に頂点に近づいていきます。リズムの芯がぶれずに、オケの各楽器がせめぎ合い、最後はフォーカスがピタリと合って頂点へ。この素晴しい盛り上がりはなんでしょうか。会場からも暖かい拍手降り注ぎます。

つづいて(2)。(1)から約2年後のコンサートということで、演奏の基本的なスタイルは変わりません。オケの音色の柔らかさや、まとまり、折り目正しさは(1)のウィーン響に歩がありますが、逆にライヴらしい独特の空気感や良い意味での荒々しさはこちらの方が上。録音はやはり(1)に歩があります。いつ爆発するかわからないような緊張感があり、これはこれでなかなか楽しめます。オケのキレはわずかに劣りますが、不思議と大きな流れの迫力はこちらにあります。
以後、フィナーレまで同じ傾向がつづき、(1)と相似形の演奏。流石にオケが変わってもコントロールが行き届き、ザンデルリンクならではの驚愕になっています。こちらの方が拍手は盛大で拍手に関してはこちらが一段リアルでした(笑)

クルト・ザンデルリンクの指揮するウィーン興、スイスロマンド管での「驚愕」のライブ2種。最も印象に残るのは、やはりザンデルリンクのコントロールのでしょうか。どちらの演奏もコントロールが行き届き、ザンデルリンクならではの響きになっています。どちらの演奏も燻し銀の名演。よりライヴらしい演奏を好む方はスイスロマンドのものを好む方もいるでしょう。一般的にはウィーン響とのWEITBRICK盤をオススメとしておきましょう。「驚愕」の折り目正しいバランスの良い演奏として、多くの人に聴いていただきたい名演だと思います。評価はウィーン響盤が[+++++]、スイスロマンド管盤が[++++]といたします。

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tag : 驚愕 ライヴ録音 聴き比べ

【追悼】ジャン=フランソワ・パイヤール/イギリス室内管の驚愕、軍隊

メジャーな演奏者によるハイドンの交響曲の録音を取りあげている5月ですが、今日は先月亡くなったパイヤールのアルバムを取りあげます。

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ジャン=フランソワ・パイヤール(Jean-François Paillard)指揮のイギリス室内管弦楽団の演奏で、ハイドンの交響曲94番「驚愕」と100番「軍隊」、そしてウィーン弦楽四重奏団の演奏による弦楽四重奏曲Op.76のNo.3「皇帝」の3曲を収めたアルバム。今日は交響曲の方を取りあげますが、収録は1980年とだけ記載されています。レーベルはRCA。

ハイドンの演奏でパイヤールといえば、モーリス・アンドレとのトランペット協奏曲の演奏がありますが、その他はあまり印象がありませんでした。このアルバムかなり前から手元にあったのですが、他のアルバムにまぎれて行方不明になっていたのがようやく見つかりました。先月パイヤールの訃報に接した時に取りあげようとしたのですが、アルバムが見つからす見送っていたものです。

2012/02/28 : ハイドン–協奏曲 : 【追悼】モーリス・アンドレ/パイヤールのトランペット協奏曲

モーリス・アンドレが亡くなったのが2012年の2月。そしてパイヤールも先月、4月15日に亡くなっています。昔親しんだ演奏家が次々と亡くなっていくのは、仕方のない事とはいえ、ちょっと寂しいものがありますね。パイヤールといえば何といってもモーツァルトのフルートとハープのための協奏曲でしょう。我々の世代にとっては定番のアルバムですね。モーツァルトの協奏曲では最も華麗な曲想のこの曲を、リリー・ラスキーヌの上品なハープと、ランパルの豊穣なフルート、そしてパイヤールのキリッと上品にエッジを立てた華麗なオーケストラコントロールで描いた名演奏。このあと数多くリリースされる古楽器による素晴しい演奏と聴き比べても、パイヤール盤の華麗な演奏は耳に焼き付いています。やはりフランスらしい華麗なオーケストラコントロールの印象が強い人です。

そのパイヤールが、イギリス室内管を振ったハイドンの交響曲。このアルバムの他にも時計、ロンドンの録音があるようなので、手に入れなければなりませんね。

Hob.I:94 / Symphony No.94 "Mit dem Paukenschlag" 「驚愕」 [G] (1791)
小規模オケ、しかも現代楽器のオケらしい、クッキリとした響きの序奏から入ります。主題に入るとヴァイオリンによる高音の隈取りがクッキリついて華麗な響き。テンポはオーソドックスなものですが、キビキビした足取りで推進力は十分。安心して身を任せられる演奏です。演奏によってはインテンポで畳み掛ける迫力を味わえる1楽章ですが、パイヤールのコントロールは華麗な響きでハイドンの曲のメロディーラインと構成の美しさを表現する事に主眼を置いたもの。ここぞという踏み込みはないものの、この規律こそハイドンの本質と言わんばかりに、演奏をすすめていきます。旋律をこれだけクッキリと歌わせながら、類いまれな安定感。こうゆう演奏ももはや貴重なものですね。演奏スタイルは異なるものの、同じフランスのリステンパルトの演奏にも漂う安定感。
2楽章のアンダンテはまさに完璧な古典的演奏。音楽の授業で聴いたのはパイヤール盤だったのでしょうか。この曲のオーソドックスな演奏の見本のような響き。意外に彫りが深く、表情も立体的で迫力も十分。これだけ完成度が高い演奏だったとは。
メヌエットに入っても、完璧なプロポーションと流れの良さは健在。ウィーンらしいというより、やはりフランス風の軽やかさがあり、メヌエットはまさに舞曲らしくメロディーが弾むよう。ここまで活き活きとしたメヌエットはそうありません。
この曲の聴き所でもあるフィナーレ。入りから非常に表情豊か。音量ではなくフレージングでこの曲のフィナーレ独特の沸き上がる感じを上手く表現しています。音量でも迫力でもなく、磨き抜かれたオーケストラコントロールでこの曲の素晴しい盛り上がりを表現。見事。これほどの演奏だったとは。

Hob.I:100 / Symphony No.100 "Military" 「軍隊」 [G] (1793/4)
入りから癒しエネルギーが満ちてます。これから展開する曲の面白さを予感させる、豊かな表情の序奏。現代の演奏が忘れてしまった、メロディーの華麗な展開と素朴な美しさに満ちあふれています。とりわけクッキリしたヴァイオリンと色彩感たっぷりの木管楽器の織りなす表情の美しさは素晴しいもの。実に美しい軍隊。これだけ華麗な軍隊の1楽章は聴いた事がありません。曲がすすむにつれて沸き上がる素晴しい興奮。音楽が生き物のように躍動しています。
軍隊の聴き所の2楽章。もちろん迫力もあるのですが、パイヤールのコントロールは一貫してメロディーの豊かな表現にあります。打楽器が炸裂するところもそこそこいいのですが、全体を見据えて盛り上げていくまでのコントロールと、抑えた部分の美しいメロディーは只者ではありません。そして全般に力みがまったくなく、純粋に演奏を楽しんでいるようなリラックスした雰囲気が素晴しいですね。
そしてこの曲でもメヌエットは弾みまくり。メヌエットとはこう演奏するものだと教わっているような気分。音符がすべて意味があり、リズムの刻みも完全にパイヤールのリズムになっています。オケ全員にパイヤールの音楽が浸透しているのですね。
期待のフィナーレ。少し抑え気味に入りますが、パイヤール流の流麗、華麗なフレージングは健在で、曲が進むにつれてだんだん表情が豊かになってきました。ただ弱音は意識的かなり落として、またテンポもすこし抑え気味。終結部にクライマックスをもってくる演奏も多いなか、パイヤールはフィナーレは実に慎み深く、抑え気味ですすめ、打楽器もそこそこの音量。もちろんクライマックスには違いありませんが、メロディーと曲の美しさこそこのフィナーレの聴き所とばかりに、バランスを重視した演奏でした。パイヤールの意図がぴしゃりと決まって、高貴華麗な軍隊となりました。

もちろん何度か聴いた事のある演奏でしたが、パイヤールのハイドンの交響曲がここまで素晴しいのかと再認識した次第。私たちがハイドンの交響曲、とくに晩年のザロモンセットの演奏の理想的な姿として想像していた通りの演奏がここにありました。非常に慎み深く、音楽は非常に豊かで、まさにハイドンとはこう演奏すべしとの啓示のような演奏です。ヴァイオリンをはじめとした弦楽器のコントロールも秀逸。録音も解像度は最新盤とは差がつきますが、十分聴きやすいものです。以前つけていた評価をあらため、両曲とも[+++++]とします。心を洗われるようなハイドンです。現役盤ではないようですが、amazonなどでまだ手に入りそうですね。

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tag : 驚愕 軍隊

アンドレ・プレヴィン/ピッツバーグ響の驚愕、ロンドン

今日もLPです。そう、4月の特集とはLPを聴くということにしました。

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アンドレ・プレヴィン(André Previn)指揮のピッツバーグ交響楽団(Pittsburgh Symphony Orchestra)の演奏で、ハイドンの交響曲94番「驚愕」、104番「ロンドン」の2曲を収めたLP。収録はPマークが1979年とだけ記されています。レーベルは英EMI。

アンドレ・プレヴィンは最近N響に登場するようになってから、日本でも知名度が上がってきた人でしょう。ハイドンではウィーンフィルと何曲か交響曲をPHILIPSに録音していて、日本ではTOWER RECORDSが独自に復刻してリリースしたのは記憶に新しいところ。プレヴィンのハイドンは過去2回取りあげています。

2010/12/09 : ハイドン–交響曲 : アンドレ・プレヴィン/ロンドン交響楽団の87番ライヴ
2010/07/05 : ハイドン–交響曲 : プレヴィン/ウィーンフィルのオックスフォード

Wikipediaによると、アンドレ・プレヴィンは、1929年ベルリンのユダヤ系ロシア人の音楽家の家庭に生まれた人。ナチス政権を逃れるため、フランスに渡って教育を受けた後、1938年家族とともにアメリカに渡り、1943年には合衆国市民権をとったそうです。指揮はピエール・モントゥーに師事して学び、その後1967年からヒューストン交響楽団の音楽監督、ロンドン交響楽団(1968年〜1979年音楽監督、1992年〜桂冠指揮者)、このアルバムのオケであるピッツバーグ交響楽団(1976年〜1984年)、ロサンジェルス・フィルハーモニック(1985年〜1989年)、ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団(1985年〜1987年音楽監督、1987年〜1992年首席指揮者)、オスロ・フィルハーモニー管弦楽団(2002年〜2006年)などで音楽監督、首席指揮者などのポストを歴任しました。まさに世界中の有名オケの音楽監督を務めた事になります。そして、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団との関係も深く、また2009年9月より3年間の予定で、NHK交響楽団の首席客演指揮者に就任しています。また、ジャズピアニストとしても有名なことは以前の記事でも触れました。

そのプレヴィンのピッツバーグ響の音楽監督時代のLPが今日取り上げるLPです。おそらくCD化はされていないだろうと踏んでLPを手に入れたんですが、今回調べたところ、奇跡を含めた3曲を収めたCDも出回っていたようですね。上のamazonのリンクをご覧下さい。

Hob.I:94 / Symphony No.94 "Mit dem Paukenschlag" 「驚愕」 [G] (1791)
序奏は艶やかな音色のオーケストラから始まりますが、厳かというよりは旋律をクッキリ浮かび上がらせるようにフレージング重視の演奏。序奏の主題の対比をあまりつけずにリズムを刻むうちに主題に入る感じで、音楽自体はひじょうにわかりやすい演奏。一貫したリズムの刻みを核に音楽が展開する感じ。もうすこし流麗でもいいように感じるほど、拍子を強調して徐々にたたみかけるようなちょっと固い演奏。プレヴィンのコントロールとしてはちょっと意外でした。驚愕の1楽章としては、かなり筋骨隆々でカッチリした演奏。
2楽章のビックリに入るとプレヴィンらしく箱庭的面白さを出そうとしているような、一貫したリズムのなかでのビックリ。小気味好い感じがする一方、スケール感はすこし抑えています。迫力方向ではなくメロディーの面白さを際立たせる狙いでしょう。これが本来のプレヴィン流の面白さでしょう。
つづくメヌエットもその延長。流れの良い音楽がだんだん心地よくなってきました。そしてフィナーレに非常につながりよく入ります。沸き上がる力感をコンパクトに表現したプレヴィンならではの粋な構成。終盤は力が抜けて滑らかになり、フィナーレのクライマックスの盛り上がりも見事。なんとなく1楽章の杓子定規さが気になる演奏でした。

Hob.I:104 / Symphony No.104 "London" 「ロンドン」 [D] (1795)
ロンドンの方は、ぐっとテンポを落とし、雄大さを感じさせる入り。前曲とは少しアプローチが異なります。音も少し遠めにオケが定位する感じで、ホール全体を鳴らすような録音。主題に入るともちろんテンポを上げますが、それでも少し遅目でしょうか。プレヴィンは実にオーソドックスなコントロール。ハイドン最後の交響曲を程よいキレと厚みのあるオケの響きでまとめますが、推進力がほどほどあって、実にまとまりの良い演奏。LPのダイレクトな響きもあって迫力も十分。終盤の突き抜けるような盛り上がりの表現も見事です。
つづくアンダンテではフレーズが展開するごとに、じつに上手く音楽をまとめていくプレヴィンならではのわかりやすい音楽が流れます。このプレヴィンのスタイルがハイドンの緩徐楽章を実に面白く聴かせます。音楽をトイカメラで撮ったような楽しさがありますね。迫力やキレ一辺倒ではなく、微笑ましいメロディーをコンパクトに描いていく力量は流石というところ。
メヌエットはかなり力を入れた演奏も多い中、プレヴィンはザクザクとした弦の力強さを聴き所におきながらも、途中のユーモラスな部分の演出にもかなり力を入れ、やはりまとまりのいい演出。
そしてロンドンのきどころのフィナーレ。改まって姿勢を正すようなキリッとした入りから、象徴的なメロディーがフーガとして押し寄せ、徐々に響きの塊に育っていきます。最後はやはり力が漲り、迫力が徐々に増していきますが、いったん抑えて仕切り直し、再びドライブをかけていき、終結部へ。それぞれパートが拮抗するようにせめぎ合い、最後は豪快なフィニッシュで終わります。

後年の交響曲録音は相手がウィーンフィルだけにより磨かれた演奏でしたが、プレヴィン40歳前のピッツバーグ響との演奏は、やはり若さが感じられる演奏でした。それでもプレヴィンらしい、フレージンングの面白さを浮き彫りにする手腕は見事です。惜しいのは驚愕の1楽章がかなり独特で、ちょっと力が入りすぎている感じがすること。2楽章以降の流れはいいので、アルバムの録音という緊張感からでしょうか。逆にロンドンのほうは力が抜けてプレヴィンの演出上手なところが上手く出たいい演奏だと思います。ということで評価は驚愕が[+++]、ロンドンは[++++]とします。

このところLPを良く聴いているのですが、ここ数日ターンテーブルの回転のたびに少し機械的なノイズが聴こえるようになり、気になっていました。今日ターンテーブルをはずして見てみると、ターンテーブルにかかっていたベルトがだいぶのびて滑っていたことが原因とわかりました。幸い交換用のベルトが手元にあったので変えてみてびっくり、長さが5センチ以上長くなっていたんですね。やはりベルトドライブのベルトは消耗品ということですね。

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tag : 驚愕 ロンドン LP オーディオ

【追悼】ヴォルフガング・サヴァリッシュ ウィーン響との「驚愕」「軍隊」「時計」

ヴォルフガング・サヴァリッシュが亡くなりました。報道などによれば去る2月22日、ドイツの自宅にて亡くなったとのこと。89歳でした。今日は追悼の意味をこめて、サヴァリッシュのハイドンの交響曲のアルバムを取りあげましょう。

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ヴォルフガング・サヴァリッシュ(Wolfgang Sawallisch)指揮のウィーン交響楽団の演奏で、ハイドンの交響曲94番「驚愕」、100番「軍隊」、101番「時計」の名曲3曲を収めたアルバム。収録はPマークが1961/63年としか記載されていないので詳細はわかりませんが、直前のセッション録音であろうと想像されます。今は亡きPHILIPSの"KLASSIK FÜR MILLIONEN"と題された廉価盤シリーズの1枚。

サヴァリッシュはN響の桂冠名誉指揮者であり、40年近くにわたってN響と共演してきたため、日本でもおなじみの存在です。実演に接した人も少なくないのではないでしょうか。得意としていたのはリヒャルト・シュトラウスをはじめとしたドイツもの。デュトワがN響を振るまではN響も重厚なドイツものの演奏を得意としていたのはサヴァリッシュの影響でしょう。私は残念ながらテレビではいろいろ見たものの、実演に接する機会はありませんでした。前にも触れましたが、サヴァリッシュの振った録音の中でも印象深かったのがOrfeoからリリースされたバイエルン州立管弦楽団とのブルックナーの交響曲。手元に1番、5番、6番、9番のアルバムがありますが、中でも6番の深い森の奥からの響きのような音色の良さと、あっさり気味と感じる寸前の速いテンポで一気に聴かせる独特の演奏が特に印象に残っています。

ハイドンでは天地創造と四季の録音がありますが、何れも以前に取りあげています。

2010/11/15 : ハイドン–オラトリオ : サヴァリッシュ、N響の天地創造ライヴ
2010/06/10 : ハイドン–オラトリオ : 重厚、サヴァリッシュの四季

残された録音数を見る限り、サヴァリッシュはハイドンを得意としていた訳ではなさそうですが、1991年のN響との天地創造ライヴも、1994年のバイエルン放送交響楽団との四季ライヴも高評価でした。

以前の記事でもサヴァリッシュのことを詳しく取りあげていませんので、この機会に調べておきましょう。

Wikipediaなどの情報によれば、ヴォルフガング・サヴァリッシュは1923年ドイツ、バイエルン州ミュンヘンに生まれた指揮者、ピアニスト。幼少期からピアノ、音楽理論、作曲を相次いで学び、指揮は現代音楽の指揮で名高いハンス・ロスバウトに師事。戦後は1947年にアウクスブルク市立歌劇場でフンパーディンク作曲のオペラ「ヘンゼルとグレーテル」を振ってデビューし、この時の指揮が高く評価され、同劇場の第一指揮者に抜擢されました。ピアニストとしては、主にリートの伴奏者として活動。その後、1953年にアーヘン、1958年にヴィースバーデン、1960年にケルンのそれぞれの市立歌劇場の音楽総監督に就任し、オペラ指揮者としての腕を磨きました。また33歳の若さでバイロイト音楽祭初出演を果し、当時の最年少記録となりました。(1960年にロリン・マゼールが30歳で初出演し、現在はこれが最年少記録)。歌劇場での活躍の一方で、オーケストラの音楽監督でも活躍し、ウィーン交響楽団、ハンブルク・フィルハーモニー管弦楽団、スイス・ロマンド管弦楽団の首席指揮者を歴任。1967年からN響の名誉指揮者(1994年からは桂冠名誉指揮者)、1971年からはバイエルン国立歌劇場の音楽監督(1982年から1992年は音楽総監督)に就任。バイエルンのポストを退任後、リッカルド・ムーティの後任としてフィラデルフィア管弦楽団の音楽監督に就任しました。その後は特定のポストには就かず、2006年3月以降は心臓病の悪化を理由にスケジュール入れず事実上引退となっていたとのことです。

その指揮姿からか冷静沈着な人との印象でしたが、あらためてサヴァリッシュのハイドンの交響曲を聴き直すと、ウィットに富んだハイドンの交響曲の魅力が十分に反映された名演でした。記憶の中の印象とはかなり異なり、ハイドンが微笑む姿が目に浮かぶような演奏。実に味わい深い演奏でした。

Hob.I:94 / Symphony No.94 "Mit dem Paukenschlag" 「驚愕」 [G] (1791)
少し古めな音色ながら、今は亡きPHILIPSレーベルの特徴である空気感を感じる録音。速めのテンポでドイツ的重厚さとスタイリッシュさの同居した爽やかな演奏。オケの表情はサヴァリッシュならではの、流れのいい磨き込まれたもの。リズムは強調せず、旋律がかなりの速いテンポで流麗に流れ、燻したような独特の輝きももつ演奏。ハイドンの書いた曲の面白さを余すところなく伝える躍動感溢れる演奏。ウィーン交響楽団らしい色っぽい音色も相俟って、非常に充実した1楽章です。
ビックリのアンダンテは、やはり速めのテンポで、さりげなくドンドン進みます。全体の規律重視でビックリするようなアクセントはなく、実に味わい深い演奏。この楽章もさりげなく奥深い演奏と言っていいでしょう。地味な印象もありますが、良く耳を傾けると、表情の豊かさに気づかされます。
つづくメヌエットも一貫して速いテンポですが、筆の勢いと墨の濃淡がはっきりした行書のように、どんどんテンポを刻んで活きます。フィナーレは速めのテンポが活きて素晴らしい高揚感。ウィーン交響楽団もサヴァリッシュのコントロールに余裕をもってついていく様子が聴き取れます。何気ない演奏なんですが、ハイドンの曲らしい、ウィットと軽さの表現が秀逸。この4楽章が一番の聴き所です。

Hob.I:100 / Symphony No.100 "Military" 「軍隊」 [G] (1793/4)
続いて軍隊。サヴァリッシュのコントロールは前曲でほぼつかんでいますが、より演出効果が活きる軍隊になると、すこし表現が大きくなり、流麗なオケに一段とエネルギーが宿っていくのがわかります。鮮明さはほどほどながら柔らかく響き合うオケに力が入っていきます。メロディーラインが浮き上がり、ハイドンのウィットが非常にわかりやすく響きます。テンポを溜めないので非常に流麗。サヴァリッシュの軍隊がこれほど良かったという記憶はなく、意外な発見という印象。1楽章は怒濤の迫力で終わります。
軍隊の行進の場面の2楽章。流れよく1楽章から入り、ここでも速めのテンポながら大波、小波の襲ってくる展開がさっぱりしたリズムに乗ってやってきます。このさらりとしながらも彫りの深い、図太い響きを聴かせるのはサヴァリッシュならではでしょう。ブルックナーのアルバム同様、実に味わい深い音楽。
サヴァリッシュの意図に見事に打たれて、メヌエットもじわりと重なるドイツ的な音の塊がテンポ良く流れてくる音楽に圧倒されます。フィナーレは実に軽やかなメロディーから入りますが、派手な鳴りものは控えめにしてティンパニが主体に活躍、響きの骨格はドイツ的重厚さにあるんですが、軽やかなメロディーラインに乗っているせいかやはりスタイリッシュな印象が加わり、軍隊のクライマックスも非常にまとまりの良いもの。オケのバランスが崩れないのが流石なところ。

Hob.I:101 / Symphony No.101 "Clock" 「時計」 [D] (1793/4)
時計も期待できそうですね。1楽章の充実した構成がサヴァリッシュの棒で見事な立体感を構築しそう。ゆったりした序奏が終わると予想通り、速めのテンポで流麗かつ覇気溢れる演奏。頂点を目指した素晴らしい盛り上がり。まさに時計の1楽章の理想的な演奏。有無をも言わせぬ怒濤の推進力。サヴァリッシュがこれほど踏み込んだ演奏をするとは思いませんでした。一気呵成に音楽が吹き抜けます。
時計のアンダンテはまさに、ウィットに富んだ楽しげな演奏。1楽章の嵐のような盛り上がりから、この典雅なメロディーへの転換は見事。予想通り中間部の盛り上がりでは、じわりとエネルギーが増し、後半は大胆なリズムの刻みに変化。
時計のメヌエットはこのアルバムで一番構えた表現。鉈を振るうようにザクザクとした表現。これまでの曲のどこか流麗な印象は影を潜め、ズバズバ踏み込んできます。
フィナーレはサヴァリッシュらしい流麗さが戻ってきました。全2曲が楽章間の対比よりは一貫性で聴かせたのに対し、時計では、おそらく2楽章の面白さを際立たせるために楽章間に明確な表情をつけたものと思われます。ここまでくるとサヴァリッシュの燻したようなドイツ的なオケの音色を流麗にインテンポでグイグイ引っ張っていく演奏はハイドンの曲の面白さを際立たせ、非常に効果的であるものと納得します。最後は実に味わい深い盛り上がりを聴かせて終了。

N響での長年に渡る活躍、そしてテレビでの露出の多さを合わせると日本のクラシック音楽界の発展に多大な貢献をされたヴォルフガング・サヴァリッシュ。これまで、あまりちゃんと聴いていなかったのか、亡くなられてはじめてきちんと聴いた唯一の交響曲集は、他の指揮者とは明確に異なる、とても微笑ましく、それでいてドイツ的な響きの魅力と、速めのテンポで曲の構造を見通し良くすすめながら、ここぞと言う時の推進力と素晴らしい盛り上がりを聴かせる素晴らしいものでした。正直、ここまでいい演奏だとはこれまで気づいていませんでした。残されたアルバムは、さも廉価盤然としたものですが、演奏は一級品。サヴァリッシュの音楽が心に刺さりました。評価はつけ直して全曲[+++++]としました。

ご冥福をお祈りいたします。

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tag : 驚愕 軍隊 時計

カルロス・クライバー/ケルン放送交響楽団の驚愕1972年ライヴ!

久々に手に取ったクライバーのアルバム。たまには燃え上がるようなハイドンを。

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カルロス・クライバー(Carlos Kleiber)指揮のケルン放送交響楽団(Cologne Radio Symphony Orchestra)の演奏で、ハイドンの交響曲94番「驚愕」とベートーヴェンの交響曲7番を収めたアルバム。収録はこのアルバムには記載がありませんが、ネット上のディスコグラフィーを参照すると1972年5月27日、ケルンの放送センターでのライヴ収録。レーベルはFIRST CLASSICS。

カルロス・クライバーの振ったハイドンの交響曲の録音は、この驚愕のみで、今日取り上げる1972年のケルン放送交響楽団とのライヴ、1982年のウィーンフィルとのライヴ、そして1983年のバイエルン州立管弦楽団のライヴの3種の録音が残されています。ウィーンフィルとのライヴはブログの初期に取りあげています。

2010/04/23 : ハイドン–交響曲 : 音魂、クライバーの驚愕

3種ともいろいろなレーベルからリリースされており、手元に3種ともありますが、1984年のバイエルン州立管弦楽団のライヴは録音のコンディションが今ひとつなため、クライバーの驚愕というと、今日のアルバムか、ウィーンフィル盤ということになりますでしょうか。

クライバーはご存知のとおり、極端にレパートリーが狭く、気に入った曲というか、自身が完全に掌握した曲しか振らない人ですが、振る曲は余人を寄せ付けない完成度で圧倒的な演奏を聴かせます。ベートーヴェンやオペラでの火の玉のように燃え上がる高揚感、モーツァルトやハイドンで聴かせる気品すら感じる彫刻的な音楽はクライバーならではのものであり、また華麗な指揮姿も人を惹き付けて止まないものがあります。かくゆう私もクライバーのアルバムやDVDはいろいろ持っていて、たまに一杯飲みながら楽しんでいます。

特に興味深いのは「こうもり」序曲と「魔弾の射手」序曲のリハーサルをおさめたDVDと、「薔薇の騎士」の旧盤のDVD。クライバーのタクトがオケを自在に操る様子があまりにも見事。「薔薇の騎士」はクライバーがピットに入り拍手が鳴り止むのもまたずに序曲を振りはじめ、一瞬にして場内を陶酔の渦に巻き込む様子は何度見ても圧巻です。

そのクライバーが唯一振ったハイドンの驚愕。いたずら心を忘れなかったクライバーが描いたハイドンは、まさに筋肉質のダイナミックなハイドンですが、異次元の気品を色濃く感じさせ、そしてどこか微笑みをともなうような優しさもある演奏です。ウィーンフィルとの演奏が拍手からはじまり、コンサート会場の熱気がつたわる録音だったのに対して、こちらはおそらく放送用の録音であるため、クライバーの驚愕では最も古い録音であるにも関わらず、録音は最も聴きやすいものです。

Hob.I:94 / Symphony No.94 "Mit dem Paukenschlag" 「驚愕」 [G] (1791)
序奏の一音からなんと官能的な響き。クライバーならではの色っぽい筋肉質の演奏。最初からクライバーが完全にオケを掌握して、流れるようなのに起伏がしっかりというかしっとりとついた序奏。いきなりゾクゾクするような緊張感。さっと主題に入るとテンポをすっと上げてオケに力が漲ります。ヴァイオリンにレガートをかけてまさに音楽が流れだしてくるような演奏。要所でアクセントをつけながらも、音楽の流れのスムーズさは驚くほど。驚愕の1楽章の構成の魅力を余すところなくつたえます。流麗さ、ダイナミックさ、音楽が沸き上がるような感興、どれをとってもクライバーにしかできない芸当。弦楽器の奏でるメロディーはビロードのようなきめ細かさ。独特のゴリッとした音塊も感じさせます。
ビックリのアンダンテは、ビックリのポイントまでの比較的速めのテンポと、上品な表情付けに聴き惚れるほど。もちろんビックリの迫力はクライバーの一振りで腹にくる迫力。それ以降の変奏は、いろいろなところにスポットライトを移しながら、ハイドンが書き込めた機知の解説のようにわかりやすく次々と聴かせていきます。フレーズごとの変化を非常にクッキリと描いていきますが、一貫して流麗な音楽。オケも非常に上手く、クライバーの指示に従って見事な演奏。特に木管楽器の美しい響きが華を添えています。終盤に入ると優美さと迫力が相俟って素晴らしい音楽に。
もっとも期待するメヌエット。クライバーのめくるめくリズムの変化でこの曲の真髄にせまります。良く聴くとメロディーの一音一音のアクセントをかなりくっきりと変化させているのがわかります。音楽が生き物のように躍動していくのが鮮明に聴き取れます。メヌエットとはこのように演奏するものでしょう。ヴァイオリンのキレを鮮明にするところ、低音弦が唸るところ、リズムを溜めるところ、すべてクライバーの指揮棒の先端が紡ぎ出しているのでしょう。
そして、フィナーレ。まだエンジン全開ではないのに手に汗握るのは、クライバー効果でしょうか。もちろん、すぐにフルスロットルに。目が回るようなテンポに変わり、沸き上がるエネルギー、オケはフル回転でクライバーの恐ろしいまでの煽りに応えます。クライバーが腕をグルグルまわす姿が想像できます。最後は期待通り恐ろしいまでの興奮、陶酔、爆発。ハイドンの書いた楽譜からここまでの音楽を引き出すとは。単なるオーケストラの爆発ではなく、爆風にうたれ髪の毛が逆立つ観客の姿が想像されるような素晴らしいフィニッシュです。この日の観客はこの奇跡のような演奏に卒倒した事でしょう。

カルロス・クライバーの1972年のケルンでの驚愕のライブ。何度聴いてもこの演奏は衝撃的といえるすばらしさ。音楽がもつ力に陶酔します。これはハイドン演奏史に残るべき記念碑的な演奏でしょう。録音のコンディションも悪くなく、響きの豊かなホールに響き渡るオーケストラの爆発が見事に録られています。ハイドンの素晴らしい演奏の数々のなかでも、この演奏はやはり別格。まさに血湧き肉踊る演奏とはこの演奏のことでしょう。評価はもちろん[+++++]です。

久々に聴いたクライバーのハイドン。録音を通してさえも脳内にアドレナリン噴出です。はぁ。

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テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽

tag : 驚愕 ライヴ録音

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Author:Daisy

なぜかハイドン(Franz Joseph Haydn)が特に気に入り膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。東京在住のごく普通のサラリーマンです。

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