マタンギ四重奏団の日の出、蛙、鳥(ハイドン)

今日も湖国JHさんから送り込まれたアルバム。いやいや、いい演奏はまだまだあるものです。

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マタンギ四重奏団(Matangi Quartet)の演奏による、ハイドンの弦楽四重奏曲Op.76のNo.4「日の出」、Op.50のNo.6「蛙」、Op.33のNo.3「鳥」の3曲を収めたアルバム。収録は2012年8月26日から28日にかけて、ライプツィヒのすぐ南のマルククレーベルク(Markkleeberg)のリンデン・ザールでのセッション録音。レーベルはオランダのCHALLENGE CLASSICS。

朧月夜のような中、うっすらと輝く光の方を向いたクァルテットのメンバーの写真をあしらった意味ありげなジャケット。なんとなくこのアルバムにかける気合のようなものが漲っています。ライナーノーツの冒頭にはスヴィーテン男爵によるハイドンの四季の春のテキストが引用されています。

All is alive,all is expectant, all neture bestirs! itself!
すべてのものが息づき、すべてものが身を動かし、すべてものが活動している(大宮真琴訳)


また、それに続いて「憂鬱な日はハイドンを弾くと、手から温もりを感じる、、、」で始まる、2011年にノーベル文学賞に輝いたスウェーデンの詩人、トーマス・トランストロンメルによる詩が合わせて掲載されています。このアルバムが伝えようとしているハイドンのイメージを言葉にしています。

奏者のマタンギ四重奏団はオランダのクァルテット。マタンギとはヒンズー教の女神で、語り、音楽、書の神様とのこと。言葉に対する格別のこだわりはクァルテット名にも現れているようですね。

設立は1999年、王立ハーグ音楽院とロッテルダム音楽院で学んでいた若い音楽家がメンバー。2002年から2003年までの2年間、オランダ室内楽アカデミーでオルランド四重奏団のチェリスト、ステファン・メッツに師事、以後はオランダを中心に欧米で演奏活動を行っています。このクァルテット、ジャズのアルバムもリリースするなど、普通のクァルテットとは一味違う側面ももっています。

メンバーは次のとおり。いつものようにクァルテットのウェブサイトへのリンクもつけておきましょう。

第1ヴァイオリン:マリア=パウラ・マヨール(Maria-Paula Majoor)
第2ヴァイオリン:ダニエル・トリコ・メナチョ(Daniel Torrico Menacho)
ヴィオラ:カルステン・クレイエル(Karsten Kleijer)
チェロ:アルノ・ファン・デル・ヴルスト(Arno van der Vuurst)

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Hob.III:78 String Quartet Op.76 No.4 "Sonnenaufgang" 「日の出」 [B flat] (1797)
比較的近い位置にクッキリリアルに定位するクァルテット。折り目正しい正統派の演奏。心なしか速めのテンポでタイトに引き締まった表情で音楽を創っていきます。特徴は長音での4人のアンサンブルの精妙な響き。かなりしっかりとコントラストをつけての演奏ながら、力を抜くところでしっかり抜いているのでくどくはありません。むしろ推進力とところどころにつくアクセントが効いて、かなりメリハリのしっかりした溌剌とした演奏に聴こえます。録音も4人のバランスが良く、中音域の木質系の力強い響きがうまく録られています。
アンサンブルは2楽章のアダージョに入ると一層精妙になり美しさが際立ちます。和音だけきくと現代音楽のような峻厳な印象もありますが、ジャズを得意としているように、メロディーを描くセンスがいいので硬くはなりません。しっかりと沈み込んでメリハリをつけます。
メヌエットは適度な弾力があり、表情の変化の幅も十分。音楽として一貫していながら楽章間の表情の描き分けがしっかりしていて聴き応え十分。
ちょっと意外だったのがフィナーレ。流麗に来ると思いきや、訥々と語るような入り。勢いに乗った演奏ではなく、徐々に彫りが深くなっていく様子を聴かせようということのようですね。こちらの先入観に振られましたが、よく聴くと実によく考えられた構成。これはこれで完成度の高い演奏と納得する演奏。音楽をまとめる力はかなりのもの。

Hob.III:49 String Quartet Op.50 No.6 "Frosch" 「蛙」 [D] (1787)
好きな蛙(笑)。4人の対等なメロディーの渡し合いの実に愉快な展開。よく聴くとメロディーには相当表情をつけて、イキイキと描いています。ハイドンの音楽の楽しさをよく踏まえた演奏。基本的に楽天的な雰囲気が支配しますが、適度なデフォルメがアーティスティックさも保ち、絶妙のバランス。曲に仕込まれた響きの変化をよく拾って変化に富んだ演奏。1楽章は絶品。
短調に変わる2楽章のポコ・アダージョ。しっかりと翳りを表し、そして長調に転調する場面の変化のセンスの良さ。もちろん演奏のテクニックはそれなりですが、音楽にテクニックを誇示するような印象はまったくなく、ひたすらメロディーをニュアンス豊かに鳴らそうという謙虚な姿勢が感じられます。途中の弱音が非常に効果的。
メヌエットのさりげない雄弁さは前曲同様。そして蛙の鳴き声に似ているいうことで有名な終楽章はこのクァルテットの表現力がよくわかる痛快な演奏。バリオラージュ奏法によるユニークなメロディーがイキイキと踊り、曲の構成もしっかりと描く名演。力の抜けた表現の多彩さに打たれます。

Hob.III:39 String Quartet Op.33 No.3 "Vogelquartett" 「鳥」 [C] (1781)
最後は名曲鳥。この曲は速めの入り。シュトルム・ウント・ドラング期の仄暗いイメージから脱却して、明るく変化に富んだ曲調のロシア四重奏曲の代表曲であることを強調するようなキビキビとした展開。歌う部分ではテンポを落としてゆったりと歌い、キビキビとした部分ではキレ味鋭いボウイングを聴かせる、まさに緩急自在の演奏。時折持続音を長く保って精妙な響きのスパイスを加えるなど細工も十分。ハイドンの機知の真髄を踏まえての演奏という説得力もあります。このさりげない表現力、マタンギ四重奏団の真骨頂でしょう。
続くスケルツォも速足での入り。筆の勢いが感じられる草書のようなしなやかさ。中間部は墨をしっかり含んだ筆による楷書のようにクッキリとした表情、そして再び草書に戻ります。
3楽章は明るい曲奏のアダージョですが、マ・ノン・トロッポとあるように、遅すぎないように、沈まないアダージョの表現とはこういうことかと納得するようなテンポ設定。表情の変化も抑え気味にすることで、メロディー自体の面白さに集中できます。
日の出とは異なり終楽章は快速、クッキリ、キレ味抜群で期待通り。響きを揃えるのではなく純粋に演奏のキレを楽しむような遊び心が感じられる演奏が好印象。実に躍動感があり、音楽が弾みます。鳥も名演でした。

名前もジャケットもアルバムの作りもレパートリーも個性的なマタンギ四重奏団のハイドン名曲集。選曲も皇帝やひばりなどを並べるのではなく、日の出に蛙、鳥というなんとなくこだわりを感じる選曲。演奏も彼らの表現の幅の多彩さ、音楽としてまとめる力を遺憾なく発揮したもの。これは聴きごたえあります。このアルバムの前にOp.20のNo.4を収めたアルバムがあるようですので、これも聴いてみなくてはなりませんね。評価は全曲[+++++]とします。ロシア四重奏曲の残りの曲の録音も期待したいところですが、そういった構成での録音はしないでしょうねぇ(笑)

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tag : 弦楽四重奏曲Op.76 日の出 弦楽四重奏曲Op.50 弦楽四重奏曲Op.33

プラハ・ヴラフ四重奏団の弦楽四重奏曲集(ハイドン)

今日は弦楽四重奏曲。

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プラハ・ヴラフ四重奏団(Blach Quartet Prague)の演奏で、ハイドンの弦楽四重奏曲Op.20のNo.4、Op.33の3「鳥」、Op,77のNo.1の3曲を収めたアルバム。収録は2000年4月10日から12日、17日、チェコのプラハにあるスタジオ・アルコ・ディーヴァ(studio ARCO DIVA)でのセッション録音。レーベルはチェコ、プラハのWALDMANNというところ。

このアルバム、例によって湖国JHさんから送り込まれた3月の課題曲。いつも当方の所有盤にない名盤をさりげなく送り込まれますので、油断なりません(笑)。このアルバムも調べてみると、簡単には手に入りそうもないレアもの。いままでいろいろなアルバムを貸して頂いていますが、どれも流石ハイドンに詳しいだけあると唸るばかりの名盤揃い。今回もアルバムをプレイヤーにかける前には、佐々木小次郎を前にした宮本武蔵のような張りつめた空気が漂います。いや、もしかしたら、宮本武蔵を前にした佐々木小次郎の心境かもしれません(笑)

プラハ・ヴラフ四重奏団は、1982年、第1ヴァイオリンのヤナ・ヴラコーヴァが設立した四重奏団。

第1ヴァイオリン:ヤナ・ヴラコーヴァ(Jana Vlachová)
第2ヴァイオリン:カレル・スタッドゼール(Karel Stadtherr)
ヴィオラ:ペトル・ヴァマー(Petr Verner)
チェロ:ミカエル・エリクソン(Mikael Ericsson)

このクァルテットの前身は、ヤナ・ヴラコーヴァの父、ヨゼフ・ヴラフが第1ヴァイオリンを務めたチェコでは有名なヴラフ四重奏団。時代が変わって、メンバーも変わったため、クァルテット名に新たにプラハをつけて新設されたということでしょう。設立の翌年1983年にはチェコの国際弦楽四重奏コンクールで、チェコ現代音楽演奏賞に輝き、1985年には英ポーツマスで開催された国際弦楽四重奏コンクールで欧州1位となるなどの受賞歴があります。その後スイスでメロス四重奏団のマスターコースに参加しています。ヨーロッパ、アメリカ、日本などでもコンサートを開き、1997年には岐阜のサラマンカホールのレジデンス四重奏団となっているとのこと。日本にもゆかりがあるのですね。また、録音はNAXOSからドヴォルザークの弦楽四重奏曲全集15枚がリリースされているなど、なかなかの実力派でもあります。

Hob.III:34 / String Quartet Op.20 No.4 [D] (1772)
ざわめきのようなそわそわした感じの入り。録音のせいか少し饐えたような音色の印象がありますが、すぐに第1ヴァイオリンのヴラコーヴァのキレのよいボウイングに耳を奪われます。テンポは中庸ですが、フレーズの息が短く、テンポ感の良い演奏。きっちり音色を合わせていく演奏ではなく、適度に粗さを持ちながら、アンサンブルが凝縮していく感じ。一人一人のボウイングのキレの良さが時折重なり、時折離れていくような自在さがあります。音量を上げていくと実演の印象と重なってきて、スピーカーの前に4人が並んで弾いているようなリアリティ。
2楽章に入ると、絞り出すように情感を感じさせる演奏。もうすこし伸びやかな演奏で情感を滲ませていく方が好みではありますが、この独特の絞り出すような感じがこのクァルテットの特徴でもあります。半ばよりプレゼンスが上がるミカエル・エリクソンのチェロのフレージングがおおらか。線がほそいのですが、鋭さをもったヴァイオリンとチェロの対比が緊張感をもたらします。
メヌエットでもチェロの素朴なフレージングとヴァイオリンが拮抗。そしてフィナーレはヴァイオリンのキレで一気に聴かせます。音階のキレをことさらクッキリ描いていくことで、曲がカッチリと明解になります。テンポは少し足速で前のめりな印象。もしかしたら、もう少し落ち着きと柔らかさがあった方が曲の深みが出るかもしれませんね。

Hob.III:39 / String Quartet Op.33 No.3 "Vogelquartett" 「鳥」 [C] (1781)
ご存知有名曲の「鳥」。少し短めの呼吸はこれまでのまま。すこしごつい感じがしますが、この曲では気にならず、もともとのテンポ良く進める感じが曲にはあってます。インテンポで畳み掛けながら曲を進めますが、やはり第1ヴァイオリンのヴラコーヴァのはち切れんばかりのボウイングがかなりのインパクト。ハイテンションとはこのことでしょう。穏やかな表情と軽さを表現する演奏が多いロシア四重奏曲の演奏のなかにあっては、ハードな部類に入るでしょうか。素晴しい凝縮感ではありますが、曲の位置づけからするとちょっと力みを感じなくもありません。
続くスケルツォはなでるようなじっくりした演奏を両端に置き、中間部は軽さを聴かせる曲ではありますが、サクサク感が聴き所。
そしてアダージョ。アダージョまでテンポとテンションを落としきっていない印象もあります。フレーズ毎にメリハリをつけているようですが、やはり第1ヴァイオリンのコントロールで聴かせきってしまう勢いがあります。
そしてフィナーレではヴラコーヴァのヴァイオリンがエッジが立ったようにキリリとフレーズを奏でていきます。一貫してハイテンションで終えます。まさに鳥のさえずりのよう。

Hob.III:81 / String Quartet Op.77 No.1 [G] (1799)
これまでのテンションとはちょっと異なり、ゆったりとしたリズムで入るので、ちょっと安心できます。表現がテンションのみではなく、曲が成熟した分、音楽の流れの良さにも廻って、音楽に少し余裕ができてきます。徐々に力感を増しながら1楽章のクライマックスへ。代わる代わる登場する楽器がプレゼンス良くメロディーを受け継ぎ、一つの音楽にまとめあげていきます。
アダージョは音楽の流れのしなやかさを保ちながら、ヴァイオリンの高音部が今まで一番力の抜けた演奏を披露。相変わらずチェロは生真面目に伴奏に徹する姿勢。やはり力が抜けているのが音楽にはプラスでしょう。弦楽器の音の重なる部分にアンサンブルの面白さが宿ります。
そして、これまでのメヌエットでは最も力の乗ったメヌエット。奏者のエネルギーが集中します。最後の力を振り絞っているのか、中間部でも弦が峙つ感じが素晴しい効果を挙げています。
フィナーレは予想通りヴラコーヴァの鮮やかなキレのよい弓さばきが聴き所。他の3人も髪を振り乱して追随しているよう。アルバムのフィナーレに相応しい盛り上がり。ハイドン最晩年の作品のテンションを浮き彫りにした形。武闘派の演奏でしょう。

プラハ・ヴラフ四重奏団によるハイドンの弦楽四重奏曲集。各時代の名曲から3曲選んでアルバムにしたというところでしょう。基本的に攻めのハイドン。カミソリのようなキレ味で第1ヴァイオリンのヴラコーヴァがメロディーを描き、3人がそれをサポートするという構図。録音のせいか、鋭利な音色が耳に刺さるような鮮明さで迫ってきます。時代をまたいだ3曲ながら演奏の姿勢は一貫していて、あえて言えば最後のOp.77の前半はすこしゆったりしてテンションを緩めますが、聴いているうちに攻めの姿勢に戻ります。これはこれで非常に刺激的なハイドンです。評価は一般のハイドンファンへのオススメ度合いを勘案して、3曲とも[++++]とします。これはハイドンマニアの方向けの、知的刺激に満ちた演奏です。ハイドンの弦楽四重奏曲の魅力をこれから知ろうという人にとっては刺激過多です(笑)

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tag : 弦楽四重奏曲Op.20 弦楽四重奏曲Op.33 弦楽四重奏曲Op.77

【新着】ライプツィヒ弦楽四重奏団のOp.33(ハイドン)

今日は新着アルバムから。

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ライプツィヒ弦楽四重奏団(Leipziger Streichquartett)の演奏による、ハイドンの弦楽四重奏曲Op.33のNo.3「鳥」、No.1、No.5の3曲を収めたアルバム。収録は2013年2月20日から21日にかけて、ドイツ北部ハノーファーの南西約50kmのところにあるマリエンミュンスター(Marienmünster)修道院のコンサートホールでのセッション録音。レーベルはドイツのmDG GOLD。

このアルバムはmDGによるライプツィヒ弦楽四重奏団のハイドンの弦楽四重奏曲集の第6巻として、つい最近リリースされたものですが、私としたことが第1巻から5巻までについても手元になく、はじめて手に入れたもの。今回第6巻のリリースにあわせて何枚か同時に注文したところです。6巻もリリースされているのに素通りしてきたのは特に理由があるわけでもなく、単なる巡り合わせが悪かったから。良く使うHMV ONLINEでは最近在庫がないもの入荷タイミングがバラバラなのでまとめ買い時に選びにくかったというところです。

ということでライプツィヒ弦楽四重奏団のハイドンははじめて聴く事になります。現在6巻までリリースされているということで、これは全集を目指しているのでしょうか。だとすると、これはマークしない訳にはまいりませんね。

ライプツィヒ弦楽四重奏団は1988年に設立されたクァルテット。名前から想像されるとおり、メンバーは元ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団の首席奏者などからなっています。

第1ヴァイオリン:シュテファン・アルツベルガー(Stefan Arzberger)
第2ヴァイオリン:ティルマン・ビュニング(Tilman Büning)
ヴィオラ:イーヴォ・バウアー(Ivo Bauer)
チェロ:マティアス・モースドルフ(Matthias Moosdorf)

2008年に第1ヴァイオリンが現在のシュテファン・アルツベルガー(ライプツィヒ出身でライプツィヒ・ゲヴァントハウス管のアシスタント第1コンサートマスター)に変わっています。HMV ONLINEをみてみると、ハイドンの他、ベートーヴェン、モーツァルト、ブラームス、メンデルスゾーン、シェーンベルク、シューベルトなど独墺系の主要な作曲家の弦楽四重奏曲をmDGレーベルからかなりの数リリースしており、かなりの実力派とみなされる存在のようです。

楽器は現代楽器のようですが、弓はハイドンの時代に制作されたもののレプリカを使用しているとのことで、ハイドンに対するアプローチもよく考えているようです。

Hob.III:39 / String Quartet Op.33 No.3 "Vogelquartett" 「鳥」 [C] (1781)
弓のせいかどうかわかりませんが、非常に柔らかく染み入るような音色。楽器をゆったりと穏やかに鳴らして、ハイテンションとは逆。ローテンションと言うのでしょうか、非常に落ち着いた入り。各楽器ともかなり綿密にデュナーミクをコントロールしてしっとりと音楽を奏でていくので、こちらが耳を峙てて音楽を聴きにいく感じ。明るい晴朗な曲調のロシア四重奏曲ですが、春の薄曇りの音楽に変わっています。
ライプツィヒ弦楽四重奏団のこのスタンスは一貫していて、2楽章のスケルツォでは前半後半の低音弦によるメロディーをじっくり奏でる部分のしなやかさはなかなかなもの。いつもは音量を上げて聴きたくなるのですが、この演奏は音量を落として、しっとりと楽しみたくなります。
つづくアダージョも同様、意外とあっさりしていますが、フレーズの奥に広がる静寂感のようなものの存在を意識しながら聴きます。実に慈しみ深い音楽。弦楽器の木質系の響きが心地よいですね。
フィナーレは流石に素晴しい弓さばき。それでも力みはまったくなく、軽々とフレーズを刻んでいくので、ようやく明るさが見えてきます。アンサンブルは良い意味ですこし暴れがあり、それが豊かな響きの印象につながっています。いやいやこれは大人向けのじつに趣き深い演奏。

Hob.III:37 / String Quartet Op.33 No.1 [b] (1781)
ロシア四重奏曲唯一の短調から入る曲。前曲の印象はそのまま、非常に落ち着いた音楽。正確無比なアンサンブルではなく、適度にばらついた演奏が、じつに味わい深い印象につながっています。4人がそれぞれ意を凝らして響き合っているのがよくわかります。この響きがライプツィヒ・ゲヴァントハウスの伝統でしょうか。そういわれるとなんとなくそう思えて来ます。録音はアンサンブルがスピーカーの奥に定位する程よい距離感があり、残響成分が程よくのって聴きやすいもの。
この曲も2楽章がスケルツォ。なんとなく楽章間の対比はあまり意識せず、淡々と楽譜をこなしていく感じ。クアルテットの演奏というより、オケの弦楽パートの演奏のような姿勢なのでしょうか。そう思いはじめると、まさにオケの弦楽パートを淡々と弾いているようにも聴こえてきます。そのスタンスがじつにおだやかな音楽につながっているのでしょう。
アンダンテも同様。クァルテットとして踏み込んでくるという感じはせず、淡々と穏やかな音楽が流れます。これはこれで実に良い味わい。このへんをどう聴くかでこのクァルテットの演奏に対する評価が変わってくるポイントかもしれません。しなやかさを極めたアンダンテ。
そしてフィナーレは迫真の曲調を楽しんでいるような余裕たっぷりの演奏。やはり弓さばきは見事で軽さも十分。演奏によってはかなりタイトに攻め込むところですが、速いパッセージの練習をこなすがごとき余裕があります。感情移入しすぎず、曲を楽しんで演奏しているようなスタンスは変わらずです。

Hob.III:41 / String Quartet Op.33 No.5 [G] (1781)
このアルバム最後の曲。演奏の特徴は前2曲とかわりませんが、この曲は比較的速めのテンポ設定で流麗な印象が前2曲より強くなっています。テンポが変わると音楽の印象もだいぶ変わりますね。弾き急ぐような管もありますが、それが草書の魅力のようなものを感じさせるのも正直なところ。曲調の変化する部分もさらりとかわすあたりのセンスも見事。草書を書き慣れている人の筆さばきに感心しきり。
この曲では2楽章がラルゴ。構えず自然に切々とした短調のメロディーを重ねていきます。力が抜けているのはこのアルバムの演奏の特徴ですが、最後のこの曲ではかなり自在に、本能の趣くままに演奏しているような自在さがあります。続くスケルツォも同様。かなり自在な演奏なのに各奏者の呼吸がピタリと合っているところは流石です。
フィナーレは逆に、襟を正すかのようにキリリと締めてきました。この辺の呼吸も見事と言う他ありません。

ライプツィヒ弦楽四重奏団のハイドンの弦楽四重奏曲集の第6巻。もうすこし硬派の演奏だと想像していましたが、これは腕利きの奏者が構えずしなやかに音楽の演奏を楽しんでいるところを録ったようなアルバムでした。ロシア四重奏曲という曲調を考えるともう少し明るく張りのある演奏を狙うべきとの声も出そうですが、これはこれで燻し銀の演奏と看做す事もできます。クッキリタイトな演奏とはまったく逆に、自然なアンサンブルで音楽を紡いでいく演奏。なんとなくこのクァルテットのやりたいことが飲み込めた気になりました。この演奏、いろいろクァルテットを楽しんでいる上級者向けの演奏でしょう。この楽しみはこれでいいものです。私の評価は3曲とも[++++]としておきます。突き抜けた個性がある訳でも、驚愕のアンサンブルなわけでもありませんが、じっくり楽しむ価値のある演奏ということです。

このクァルテットの他のアルバムもじっくり聴かねばなりませんね。

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tag : 弦楽四重奏曲Op.33

イタリア四重奏団の鳥(ハイドン)

先日久しぶりに手に入れたケンペのTESTAMENTの新譜を片付けながら、TESTAMENTのアルバムを何枚か取り出して確認していたところ、久しぶりに聴きたくなったのがこれ。

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イタリア四重奏団(The Quartetto Italiano)の演奏で、ハイドンの弦楽四重奏曲Op.33のNo.3「鳥」、モーツァルトの弦楽四重奏曲17番K.458「狩」、K.156、シューベルトの弦楽四重奏曲D.32の4曲を収めたアルバム。ハイドンの収録は1956年、ミラノにてとしか記載されていません。レーベルは英TESTAMENT。

イタリア四重奏団のハイドンは以前一度だけ取りあげたことがあります。言わずと知れた名クァルテット。奏者の情報は前記事をご覧ください。

2011/03/17 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : イタリア四重奏団の「皇帝」、Op.33 No.2

前記事の演奏は1965年のもの。今回の演奏はその9年前の演奏ということになります。メンバーは変わっていません。

第1ヴァイオリン:パオロ・ボルチャーニ(Paolo Borciani)
第2ヴァイオリン:エリサ・ペグレッフィ(Elisa Pegreffi)
ヴィオラ:ピエロ・ファルッリ(Piero Farulli)
チェロ:ランコ・ロッシ(Franco Rossi)

TESTAMENTのアルバムは、ジャケットから良い音楽が流れ出してきそうな良い写真が使われていて、なんとなく好きなアルバムが多いですね。このアルバムも、このアルバムからしか聴けない音楽が流れてきます。

Hob.III:39 / String Quartet Op.33 No.3 "Vogelquartett" 「鳥」 [C] (1781)
このアルバムの曲はモーツァルトのK.156以外はモノラル。出だしのハイドンは直接音重視のかなりオンマイクのきりりと引き締まった鋭い響き。音の鮮明さは以前取りあげたアルバムよりこちらの方が上かもしれません。Op.33はハイドンの弦楽四重奏曲の中でも明るい曲想のものですが、このタイトな響きによって禁欲的ですらある印象も垣間見せます。バオロ・ボルチャーニのヴァイオリンはちょっとグリュミオーを思わせる張りのある美音。基本的にイタリア風ののびのびとした明るい音色を感じさせるクァルテットという理解でしたが、この演奏はかなり求心的な響きを聴かせます。
2楽章はスケルツァンド。弓のテンションを自在にコントロールして、この楽章の不思議な気配を感じさせる入りをつくっていきます。この辺は独特の味わい深さ。鳥のさえずりのようなヴァイオリンの掛け合いはさっぱりと媚びない表情。ふたたび不思議なフレーズですが、この雰囲気はなかなか。
そして、この曲の聴き所のアダージョ。演奏は粗い感じはありますが、骨格がきっちりしているので、音楽が揺るぎない説得力を持っています。ゆったりと進む音楽、味わい深いアンサンブルに引き込まれます。各パートとも自信に溢れた演奏。まわりからとやかく言う余地なし。終盤にかけての盛り上げ方も絶品。この楽章は独立した曲のような孤高の表現に打たれます。
フィナーレはテープの問題なのか、音程が上がりきらないところがあります。キレはそこそこありますが、ダイナミックレンジは時代なり。現代の録音で聴いたらさぞかし素晴しい迫力だろうと想像してしまいます。アンサンブルの精度は一貫して悪くありません。各奏者の弓さばきも軽々としてキレも十分。この時代の空気をつたえるような、生きな演奏でした。

久しぶりに聴いたイタリア四重奏団の演奏。録音は鮮明さはそこそこありますので聴きにくくはありませんが、もう少し迫力がつたわったらと思ってしまいます。演奏自体はイタリア四重奏団らしい、伸びやかさ、タイトさ、アーティスティックさがあるもので、ヒストリカルな演奏を好む方には評価されるものでしょう。私の評価はちょっと迷いました。アダージョの素晴しさと終楽章の音程の不安定な部分をどうとるかで割れると思いますが、私は[++++]をつけました。手元にイタリア四重奏団のハイドンはもう3組ありますので、またの機会にいろいろ聴いてみたいと思います。

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tag : 弦楽四重奏曲op.33 ヒストリカル

スメタナ四重奏団の鳥

なんだか、夏休み気分もだんだん薄れて、仕事も忙しくなってきました(涙) もうすこし頻繁に記事を書きたいのですが、滞りがちとなっております。今日も弦楽四重奏曲のアルバム整理で聴き直したアルバムから。

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amazon(aura盤)

スメタナ四重奏団(Smetana Quartet)の演奏によるハイドンの弦楽四重奏曲Op.33のNo.3「鳥」、シューベルトの弦楽四重奏曲D.87、D810の3曲を収めたアルバム。ハイドンの収録は1982年3月15日、スイスのルガーノにあるスイスイタリア語放送のオーディトリウムでのライヴ。レーベルは伊ERMITAGE。

スメタナ四重奏団のハイドンの弦楽四重奏曲の録音はあまり多くありません。ブログをはじめた頃にラストコンサートをもようを収めたアルバムを取りあげています。

2010/06/16 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : スメタナ四重奏団ラストコンサート

徐々に力がおとろえ始めたクァルテットが引退する時にハイドンの最後の弦楽四重奏曲を演奏した感動のコンサートです。

スメタナ四重奏団は日本でも良く知られた存在でしょう。1943年にチェコのプラハ音楽院で室内楽を学んだ4人によって設立されたクァルテットで、当初はプラハ音楽院弦楽四重奏団と名乗っていたそう。1945年にスメタナ四重奏団に改称し、デビューしたそうです。このころのメンバーには指揮者として名をなしたヴァーツラフ・ノイマンがいました。1956年以降のメンバーは下記のとおり。

第1ヴァイオリン:イルジー・ノヴァーク(Jiří Novák)
第2ヴァイオリン:リュボミール・コステツキー(Lubomír Kostecký)
ヴィオラ:ミラン・シュカンバ(Milan Škampa)
チェロ:アントニーン・コホウト(Antonín Kohout)

主なレパートリーは、スメタナ、ドヴォルジャーク、ヤナーチェクなどのお国もの。前記事でとりあげたとおり、1989年に解散しています。

Hob.III:39 / String Quartet Op.33 No.3 "Vogelquartett" 「鳥」 [C] (1781)
引退コンサートの7年前の演奏。最初のさざめくような入りがちょっとズレているように聴こえますが、意図してそうしているよう。スメタナ四重奏団らしく、かなりくずした草書体のような演奏。全員がピタリと合わせて弾くという感じはまったくなく、一人一人の音楽が微妙に折り重なるようにしながら、ざっくりと音楽を織り上げていくよう。良く聴くと各奏者の音楽はかなりしなやかで、水が流れるような清透さと、円熟の境地をきわめた老練な印象もあります。前記事で聴いたヘンシェル四重奏団の張りのある彫りの深い鳥とは正反対の音楽。
スケルツォに入るとかなり足早にさかさかと進めます。本当に書の達人が目の前で鮮やかに草書の筆を走らせているのを眺めているよう。中間部の鳥のさえずりのような部分も非常にしなやか。ヘンシェル四重奏団が曲の構造を明確に表したのに対しスメタナは一貫して柔らかな筆遣いの妙で聴かせています。
アダージョに入ってもしなやかな筆の流れは途切れません。楷書のハイドンと草書のハイドン。どちらも捨て難い魅力をもっています。ディティールにはほとんどこだわらず、音楽の流れに身を任せてのどかに演奏することに徹しています。後半に入ると知らぬ間に筆に力が漲り、そして消え入るように終わるドラマチックなところも聴かせます。
意外と言っては失礼ですが、フィナーレのキレはそこそこあります。テクニシャンの迫真の掛け合いというよりは、老練なのにここぞという時には力が漲ります。線がぴしっとそろわないのですが音楽のフォーカスはピタリと合って、不思議と聴き応えがある演奏でした。最後は拍手が録音されています。

スメタナ四重奏団の晩年の老練な魅力を伝える貴重なライヴ録音。録音はそこそこ鮮明で悪くありません。このアルバム、弦楽四重奏の表現の幅の広さを再認識させるような演奏です。どこにこだわって音楽を創っていくかということを考えると非常に興味深い演奏です。泰然とした自然体の音楽。細かい事はまったくこだわらないものですが、音楽を聞くと、曲の流れは非常によく考えられたもの。ハイドンの弦楽四重奏曲に全く違う方向からスポットライトがあたりました。評価は[++++]とします。

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tag : 弦楽四重奏曲Op.33 ライヴ録音

ヘンシェル四重奏団のひばり、鳥、騎士

最近、弦楽四重奏曲の演奏について、haydn totalの演奏の登録を機に、クァルテット名だけでなく各奏者の名前も記載する事にして、少しづつ登録済みのアルバムも追記しています。その整理の途上、ふと思って聴き直した所、なかなか素晴しい演奏だと再認識したアルバム。

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ヘンシェル四重奏団(Henschel Quartett)の演奏によるハイドンの弦楽四重奏曲Op.64のNo.5「ひばり」、Op.33のNo.3「鳥」、Op.74のNo.3「騎士」の3曲を収めたアルバム。収録はPマークが1995年、収録場所はスイスのチューリッヒの西にあるゼオン(Seon)という街でのセッション録音。レーベルは独MEDIAPHON。

ヘンシェル四重奏団は1988年に設立したクァルテット。国際的に活躍するようになったのは1993年、この演奏時のメンバーとなってからとのこと。来年それから20周年になります。メンバーの名前をみると3人がヘンシェル姓ということで、この3人は兄弟と思われます。

第1ヴァイオリン:クリストフ・ヘンシェル(Christoph Henschel)
第2ヴァイオリン:マルクス・ヘンシェル(Markus Henschel)
ヴィオラ:モニカ・ヘンシェル(Monika Henschel)
チェロ:マティアス・D・ベイヤー(Mathias D. Beyer)

HENSCHEL QUARTETT

この演奏が録音された1995年には、フランスのエヴィアン、カナダ、アルバータ州のバンフ、ザルツブルクで開催された国際コンクールで次々と優勝して有名になりました。師事したのはアマデウス四重奏団、メロス四重奏団、アルバンベルク四重奏団など一流どころ。何と2012年には来日して、サントリーホールでベートーヴェンの弦楽四重奏曲全曲を演奏したとのことで、実演に接した方もいらっしゃるかもしれませんね。

今日取り上げるアルバムは、国際的に活躍し始めた頃のもの。いろいろ調べましたが現在は中古以外では流通していない模様です。

アルバムを見て気になるのは左下に”20bit PROCESSING”と誇らしげにロゴが表示されている事。最新の録音ではありませんが、音質にこだわったプロダクションであることがわかります。また、使用している楽器はヴァイオリンがストラディヴァリウス、ヴィオラはグァルネリ、チェロはグランチーノと、これまた誇らしげに記載されております。聴いてみると、これらの記載に負けない美音が炸裂するんですね。

Hob.III:63 / String Quartet Op.64 No.5 "Lerchenquartetett" 「ひばり」 [D] (1790)
広々とした空間に艶やか、芳醇な弦楽器の音色が浮かび上がります。まさに魚沼産コシヒカリのようなモチモチ感(笑) 非常に伸びやかな演奏。最上の楽器を実に上手く鳴らしきっています。ハイドンの晴朗さを存分に表現し、陰りとか燻し銀と言うような雰囲気はなし。このひばりという曲の抜けるような魅力の真髄をとらえた演奏と言っていいでしょう。
アダージョに入ると,伸びやかさに加えて彫りの深さが加わります。第1ヴァイオリンだけでなく、他の楽器の鳴りも負けず劣らず素晴しい陰影。それぞれの楽器の音の存在感が際立ちます。まさに美音の響宴。
メヌエットは一転して少し流すように力を抜いて、楽器を自在に鳴らします。この緻密さと粗さのコントロールが実に見事。メヌエットは通例迫力で聴かせる演奏が多い中、このように逆に粗さを活かすとは、かなりの確信犯でしょう。
フィナーレも入りから聴かせます。ゆったり入りそうな一音目から急加速してサラサラと音楽が溢れ出してきます。精緻な演奏ではないんですが、力が抜けて音楽が勝手に湧き出てくるような活き活きとした演奏。この曲の面白さを踏まえて、全員が踊っているような躍動感。これは見事です。

Hob.III:39 / String Quartet Op.33 No.3 "Vogelquartett" 「鳥」 [C] (1781)
続いて鳥。自分たちの音楽の魅力をよくわかっているのでしょう。ハイドンの弦楽四重奏曲の中でも伸びやかな曲想の曲をそろえてきています。演奏は前曲同様、美音を活かした自在な演奏。速めのテンポで素晴しい勢いの演奏。唸るような弦楽器の美音に打たれまくりです。
この曲ではスケルツォの抑えた表現が秀逸。良く鳴る楽器を押さえ込んでさかさかと抑えたボウイングで入ります。中間のヴァイオリンはわざとつっかえるような遊びの表情、そして再び抑えた表現。曲の面白さを知り尽くした円熟の表現。当時は若手だったはずですが、じつに味わい深い表現に驚きます。
アダージョはクッキリしながらも表現をおさえてオーソドックスにもってきました。この楽章事の弾き分けも実に良く考えられて、ハイドンが曲に仕込んだ機知をクッキリと浮かび上がらせるよう。
フィナーレはさざめくようなデリケートな音楽から入り、徐々に曲の面白さがにじみ出てくるよう。細かい音階が抑えながらも素晴しいキレ味で迫ってきて、力感はほどほどなのに表現の鋭さで攻めて来るよう。見事。

Hob.III:74 / String Quartet Op.74 No.3 "Reiterquartetett" 「騎士」 [g] (1793)
名曲騎士。前2曲と比べると険しい表情の多い曲。曲と演奏のマッチングは前2曲の方がいいですね。このクァルテットの豊穣な音色の特徴が、1楽章では少しスポイルされている印象ですが、静謐な曲想が魅力の2楽章に入ると、これまでとは違ったじっくりと染み込むような魅力をもっていることがわかります。この曲を最後に持ってきた意味が何となくつかめました。鳴りの良さばかりが我々の音楽ではないよとでも言いたそう。
この曲のメヌエットはがらっと変わって、精緻な演奏。曲ごとのアプローチの違いも実に面白い。繰りかえし軽く楔を打つような表現が畳み掛けてきます。良く聴くとソフレーズ毎の音色のコントロールも緻密。
そして独特の表情をもつフィナーレは硬軟織り交ぜて、軽さをあらわす部分のキレとクッキリしたメロディーの見事な対比で聴かせます。

ヘンシェル四重奏団の演奏によるハイドンの弦楽四重奏曲、まさに美音を駆使した彫りの深い名演。特に印象的なのは抑えた音階のキレの良さと、強奏の見事な存在感の響きの対比でしょう。特に前2曲がいいと思いますが、何回か聴き直すと、騎士も実に深い演奏。これは名盤でしょう。評価は3曲とも[+++++]とします。

ちなみにヘンシェル四重奏団のハイドンの演奏には十字架上のキリストの最後の七つの言葉があり、こちらも未入手でしたので早速注文を入れてみました。

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tag : 弦楽四重奏曲Op.64 ひばり 弦楽四重奏曲Op.33 弦楽四重奏曲Op.74 騎士

【新着】エルサレム四重奏団のOp.20のNo.5、鳥、Op.76のNo.5

昨年のH. R. A. Awardの室内楽部門に輝いたエルサレム四重奏団のもう一枚のアルバムがHMV ONLINEから先日到着。当ブログを読んでこのアルバムを注文した方も絶賛するアルバム。maro_chroniconさん、湖国JHさんに遅れを取ってしまいましたが、当ブログも追いつきます(笑)

JerusalemQ20_5.jpg
HMV ONLINEicon / amazon / TOWER RECORDS

エルサレム四重奏団(Jerusalem Quartet)の演奏によるハイドンの弦楽四重奏曲Op.20のNo.5、Op.33のNo.3「鳥」、Op.76のNo.5の3曲を収めたアルバム。2008年9月、ベルリンのテルデックススタジオ(Teldex Studio)でのセッション録音。レーベルはharmonia mundi。

2012/11/26 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : エルサレム四重奏団の「ひばり」、「五度」

エルサレム四重奏団については前の記事をご参照ください。わたしも前の記事のアルバムに出会ってその素晴らしさを知った口。最近聴いたハイドンの弦楽四重奏曲の中では抜きん出て素晴らしい演奏だといえるでしょう。前のアルバムが2003年の録音なのに対し、このアルバムは2008年と、ちょうど5年後の録音。以前はレギュラー盤としてリリースされていたようですが、harmonia mundiの常套策で、ちょっと値段を落としたシリーズとしてこの12月に再発売されたもの。ということで、当ブログで取りあげるアルバムとしては珍しく入手しやすいもの。

若手メンバーによる演奏ですが、素晴らしい前アルバムに対し、5年間でどれほどの成熟がみられたのかが、聴きどころでしょう。前振りは短めにして、早速レビューに入りましょう。

Hob.III:35 / String Quartet Op.20 No.5 [f] (1772)
Op.20のなかでも短調ではじまる独特の入りですがかなり軽目の入りから一気に盛り上がって、短調なのに色彩感豊かで流麗な入り。表情は穏やかでも音楽が溌剌とはずむのがわかります。5年の経過は余裕となって洗われています。キレのいいリズムと色彩感豊かな弦の響きは前アルバムそのままですが、演奏に一層の落ち着きが聴かれます。前アルバムできかれた緊張感はすこし薄れ、円熟味を増したというところ。
2楽章のメヌエットからフレージングのメリハリがはっきりとしてきて、第1ヴァイオリンのアレクサンダー・パヴロフスキーの絶妙な弓さばきによる美音が切々と語るようになります。やはり秀逸な弱音域のコントロール。
つづくアダージョに入ると各パートの自在さが際立つようになり、アンサンブルの面白さが一段上がります。ここにきて前アルバムの緊張感がつたわるように。温まって調子が上がってきましたでしょうか。非常にリラックスして互いの音をよく聴いた絶妙なアンサンブル。こちらもぐっと身を乗り出して聴き始めます。
フィナーレはフーガ。各楽器の良く響く美しい音色の織りなす綾の美しさとハイドンの書いた変奏の巧みさに耳を奪われます。クァルテットの表現のダイナミックレンジもぐっと上がり、楽器間の迫力あるせめぎ合いの面白さが際立ちます。1曲目だけに徐々に本領発揮といったところでしょう。

Hob.III:39 / String Quartet Op.33 No.3 "Vogelquartett" 「鳥」 [C] (1781)
Op.33らしい明るくクッキリとした旋律を鮮やかな弓さばきで軽々と奏でていきます。ヴァイオリンをはじめとする各楽器の非常に丁寧なデュナーミクのコントロールは流石。エルサレム四重奏団のキャラクターと曲が見事に一致。軽やかで鮮やか、そしてクッキリとしたメロディー。突き抜けるようなヴァイオリンの高音の美しさ。やはり4人の音楽性がピタリと一致して、一体となった素晴らしい音楽が流れます。このセンスというか音楽性がエルサレム四重奏団の凄いところでしょう。音が消え入るところのそろい方は鳥肌が立つような瞬間。
2楽章に入っても緊張感はそのまま。弱音の絶妙なコントロールによる入りから、鳥のさえずりのようなヴァイオリンの素晴らしいメロディを経て、再び絶妙な弱音。
3楽章は流麗なアダージョ。4人それぞれが美しいメロディー弾きながら、その重なりが醸し出す面白さもつたわる絶品の楽章。つづくフィナーレ速いパッセージのキレ具合が尋常じゃありません。それでいて音楽がしっかりながれていて、決してテクニックの誇示に聴こえないところが流石。軽々とこなす余裕が素晴らしい。

Hob.III:79 / String Quartet Op.76 No.5 [D] (1797)
ハイドンの音楽の円熟を感じる素晴らしい入りからの展開。先の鳥も良かったんですが、このOp.76は神憑った演奏。キレのいいエルサレム四重奏団の各楽器が鳴りまくりながら、この曲の精妙な音楽を活き活きと描いていきます。1楽章は息をつく間もないほどの緊張感。
と思ったら2楽章のラルゴはさらに凄い演奏。弦楽四重奏の演奏でこれほどの深みを表現できるとは。チェロも素晴らしい安定感。フレーズのコントロールは流麗かつダイナミックかつ清浄。ハイドンの音楽がこれほどの高みに至っていたということををこの演奏によって気づかされたというほどの凄さ。スクロヴァチェフスキのブルックナーの荘厳なアダージョと深さでは負けていないほどのもの。圧倒的。
堂々と自在なメヌエットを経て、クライマックスのフィナーレ。鳥のフィナーレ同様、速いパッセージの鮮やかのキレをちりばめながらメロディーをやり取りして音楽を織っていきます。ヴァイオリンの高音のキレは絶品。超鮮明な録音も手伝って、ハイドンの機知の宝庫のフィナーレを畳み掛けるように奏でていきます。最後は余韻をたのしむようにちょっとリズムを練って終わります。

期待して手に入れたアルバムですが、期待以上の出来です。2曲目の鳥と3曲目のOp.76のNo.5が素晴らしいのですが、特に3曲目は圧倒的な素晴らしさ。エルサレム四重奏団、凄すぎます。たった4本の楽器の奏でる音楽ですが、その豊かさ、深さ、そして楽しさはハイドンの音楽の真髄をつくもの。この演奏はハイドンにも聴かせて上げたかったですね。ハイドンの生きていた時代にこれほどの洗練された演奏はなし得なかったでしょうから。1曲目も悪くはありませんが、特に前半はアルバムの前座なのでしょうね。それも許せてしまう後半2曲の圧倒的な出来です。評価は1曲目が[++++]、他はもちろん[+++++]です。ハイドンの弦楽四重奏曲のすばらしさを伝える真の名盤です。皆様手に入れましょう。

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tag : 弦楽四重奏曲Op.20 弦楽四重奏曲op.33 弦楽四重奏曲Op.76 ハイドン入門者向け

グリラー四重奏団の鳥(Op.33 No.3)

今日2組目のレビューは久々のクァルテットもの。

GrillerQuartet.jpg
HMV ONLINEicon / amazon / TOWER RECORDS

このアルバムは最近Yahooオークションで手に入れたもの。廃盤ものかと思いきや調べたところ現役盤でした。

グリラー四重奏団によるハイドンとモーツァルトの弦楽四重奏曲集。収録曲目は録音は収録順にモーツァルトの弦楽四重奏曲14番(K.387)、ハイドンの弦楽四重奏曲Op.33 No.3「鳥」、モーツァルトの弦楽四重奏曲15番(K.421)の3曲。ハイドンの録音は1946年12月12日。その他の録音も1946年から47年にかけて。

ハイドンがこの「鳥」を含むロシア四重奏曲を完成させたのが1781年。ハイドンに大きな影響を受けたモーツァルトがこのアルバムに含まれる2曲を含む、いわゆるハイドン・セットを作曲したのが1783年から84年頃。この辺りの経緯は下記に詳しいのでご参照ください。

Wikipedia:ハイドン・セット

モーツァルトはハイドン・セットをハイドンに献呈し、ウィーンの自宅に招いて聴かせているんですね。お互いにその真の才能を知る者同志の友情を物語るエピソードですね。

グリラー四重奏団は1931年から1963年頃まで活動していたイギリスの弦楽四重奏団。メンバーはヴァイオリンがシドネイ・グリラー(Sidney Griller)、ジャック・オブライエン(Jack O'brien)、ヴィオラがフィリップ・バートン(Philip Burton)、チェロがコリン・ハンプトン(Colin Hampton)の4名。

レーベルは古い録音を高音質で復刻することで知られるDUTTON。ジャケットのDUTTONのロゴが誇らしげですし、ジャケットもコレクション欲をかき立てるもの。同じシリーズで「十字架上のキリストの最後の七語」もあり、こちらは既に所有していました。

演奏はまず1946年という戦後直後という録音年代が信じられないほど鮮明かつ厚みもあるいい音に驚かされます。1楽章は冒頭から非常に緊密な構成感を感じさせる演奏。印象的なのは第1ヴァイオリンの鮮明な縁取りと、チェロが強めのメリハリで積極的にリードしているように聴こえること。
2楽章のスケルツォは、チェロがかなり速めのテンポで入り、腰高なまま前半部をささっとこなします。途中からヴァイオリン同士の印象的な掛け合いをクッキリ浮かび上がらせ、再度チェロがささっとこなし、あっという間に終了。
3楽章のアダージョはじっくりと味わい深い展開。古雅な音色もあって弦楽四重奏曲の醍醐味を感じるすばらしいフレーズ。この曲の白眉。ゆったりと音楽が流れる至高の瞬間ですね。
フィナーレは快速に入り、ヴァイオリンの隈取りが見事でハイドン特有のフィナーレの複雑に入り組む旋律の面白さをクリアに表現。フレーズのひとつひとつが速めのテンポにもかかわらず鮮明に描かれて曲の魅力を十全に伝えています。

前後におかれたモーツァルトの弦楽四重奏曲はハイドンセットの1番と2番。こちらの演奏も見事。並べて同じ演奏者の演奏を聴くと、モーツァルトの曲の方が香りがあるというか色彩感があるように聴こえますね。逆にハイドンの曲は緊密な構成感と階調豊かなモノクロームのオリジナルプリントのような凛々しい印象がありますね。モーツァルトがハイドンに捧げた曲に挟まれたハイドンの四重奏曲もいいものですね。好企画というべきでしょう。

評価はもちろん[+++++]。秋の夜長に絶好の一枚ですね。

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tag : 弦楽四重奏曲Op.33 ヒストリカル おすすめ盤

プロフィール

Daisy


Author:Daisy

なぜかハイドン(Franz Joseph Haydn)が特に気に入り膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。東京在住のごく普通のサラリーマンです。

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所有盤をジャンル別にリスト化しています。基本的に録音年順とし、録音年不明のものは末尾に記載。演奏者名はジャケットなどの表記に合わせています。

2017年7月のデータ(2017年7月31日)
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