絶品! グラーフ/スタルク/デーラーによるフルート三重奏曲集(ハイドン)

今日は室内楽のLP。宝物がまた1枚増えました。

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ペーター=ルーカス・グラーフ(Peter-Lukas Graf)のフルート、クロード・スタルク(Claude Starck)のチェロ、ヨルグ・エヴァルト・デーラー(Jörg Ewald Dähler)のフォルテピアノで、ハイドンのフルート三重奏曲3曲(Hob.XV:16、XV:17、XV:15)を収めたLP。収録に関する情報は記載されていませんが、隣接するレコード番号のLPが1984年リリースとありますので、LPの状態も勘案して1980年代中盤の録音と想像しています。レーベルはclaves。

ハイドンのフルート三重奏曲はピアノトリオのヴァイオリンパートをフルートの華やかな音色で置き換えたもので、この曲の出版当時からフルート版の楽譜も出版されていたとのことでフルートでの演奏も多くなっているとのこと。これまでもかなりのアルバムを取り上げています。

2016/08/26 : ハイドン–室内楽曲 : ムジカ・ドメスティカのフルート三重奏曲集(ハイドン)
2016/06/21 : ハイドン–室内楽曲 : ラ・ガイア・シエンツァによるフルート三重奏曲と室内楽版「驚愕」(ハイドン)
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2012/05/27 : ハイドン–室内楽曲 : ディター・フルーリーによるフルート三重奏曲

この録音が1980年代中頃の録音だとすれば、手元のアルバムでは古楽器による最も古い録音ということになります。

奏者のペーター=ルーカス・グラーフは有名なフルート奏者ゆえご存知の方も多いでしょう。1929年チューリッヒ生まれ。チェロのクロード・スタルクは1928年ストラスブール生まれ。フォルテピアノのヨルグ・エヴァルト・デーラーは1933年ベルン生まれと、録音当時50代の名奏者揃い。

Hob.XV:16 Piano Trio (Nr.28/op.59-1) [D] (before 1790)
LPのコンディションは最高。針を落とすと鮮明な響きが飛び出してきます。フォルテピアノのデーラーが刻む速めの一定したリズムに乗ってフルートのグラーフがきりりと引き締まったメロディーを重ねていきます。古楽器によるオーソドックスと思いきや、実に豊かなニュアンスを帯びた演奏にすぐに引き込まれます。フルートのリズムが冴えまくって超鮮明に曲を描いていきます。
続く2楽章は絶品。静寂にとぼとぼと刻まれるフォルテピアノのリズムに乗って幽玄なフルートの音色が響き渡ります。フォルテピアノの左手の刻むリズムと、右手の奏でるメロディーも絶美。デーラーも只者ではありませんね。チェロも含めてリズム感が良いので音楽が淀みなく流れます。
そのよさが活きるのが終楽章。くっきりとメロディーが浮かび上がり、ハイドン独特の絡み合うメロディーの面白さが際立ちます。思った以上にフォルテピアノが雄弁なのが効いています。

Hob.XV:17 Piano Trio (Nr.30/op.59-3) [F] (before 1790)
一転して軽やかなタッチのフォルテピアノの入り。リズムよりも流れの良さを感じさせます。相変わらずグラーフのフルートの音色は深みのある美しいもの。曲に合わせてか、両者ともリラックスした入り。中盤から印象的な慟哭が続きますが音色の硬軟を織り交ぜながら進みます。この曲ではタッチの変化を聴かせどころに持ってきました。

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ここでLPをひっくり返して2楽章へ。宝石のような響きの流れに身をまかせる快感に浸ります。一貫したリズムの流れの瞬間瞬間の情感のデリケートな変化が繰り返されるうちに至福の境地へ。最後は静寂に吸い込まれて終わります。

Hob.XV:15 Piano Trio (Nr.29/op.59-2) [G] (before 1790)
再び鮮明なリズムに乗った快活なメロディーへ。この曲の明るさと翳りが繰り返される美しさは筆舌に尽くしがたいもの。それをグラーフの見事なフルートとデーラーの表情豊かなフォルテピアノで鮮やかに演奏され、曲の美しさが完璧に表現されます。何気にチェロのスタルクもキレ味鋭く、2人に負けていません。世の中にこれほど美しい曲があるのでしょうか。そしてあまりに見事な演奏に言葉を失うほど。この曲の真髄に迫ります。
1楽章のあまりの完成度にのけぞっていたところに癒しに満ちたフォルテピアノの音色が沁み入ります。グラーフのフルートは素晴らしい音量と伸びやかさで孤高の境地。広い空間に響き渡るフルートの響き。これほど美しいフルートの音色は初めてです。
終楽章は前2楽章の素晴らしさの余韻の中、メロディーの戯れを楽しむような演奏。この軽さというか自在さはこれまでの妙技の数々をこなしてきたからこその境地でしょう。

絶品です! これまで取り上げてきたフルート三重奏曲はいずれも素晴らしい演奏でしたが、このアルバムはそれを超えるもの。この曲集の決定盤としていいでしょう。グラーフのフルートがこれほど素晴らしいものだと改めて認識しました。そしてデーラーのフォルテピアノも絶品。また曲の並びも作曲順ではXV:16、15、17ですが、このアルバムでは16、17、15の順で収録されており、LPのカッティングの都合で2楽章の17を真ん中に置いたものとは思いますが、そのおかげでXV:15の見事な演奏が最後に配置され、アルバムの完成度を上げる結果につながっています。特にこのXV:15の素晴らしさは心に刻まれました。評価はもちろん全曲[+++++]といたします。

世の中はお盆で帰省ラッシュですが、このお休みはのんびり過ごそうと思います。

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tag : フルート三重奏曲 LP 古楽器

ハインツ・ホリガーのオーボエ協奏曲(伝ハイドン)

暑いので、気楽に聴ける曲です。

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ハインツ・ホリガー(Heinz Holliger)のオーボエ、デヴィッド・ジンマン(David Zinman)指揮のアムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団(Concertgebouw-Orchester, Amsterdam)の演奏で、以前はハイドンの作とされたオーボエ協奏曲(Hob.VIIg:C1)、ロッシーニのオーボエと小オーケストラのための変奏曲、アントン・ライヒャのコール・アングレと管弦楽のための情景、ドニゼッティのコール・アングレ協奏曲の4曲を収めたLP。収録に関する情報は記されていませんが、レーベル面にはPマークが1979年と印刷されています。レーベルはもちろんPHILIPS。

ハイドンのオーボエ協奏曲はハイドン自身が書いたものではないというのはご承知の通りですが、意外にいい曲なのでそれがわかった上でも録音は結構な数がリリースされています。当ブログでもこれまでに3件レビューしています。

2015/04/28 : ハイドン–協奏曲 : 【新着】フランソワ・ルルーのリラ協奏曲、オーボエ協奏曲(ハイドン)
2015/03/23 : ハイドン–協奏曲 : パウルス・ファン・デア・メルヴェ/ヴァントのオーボエ協奏曲(伝ハイドン)
2015/03/22 : ハイドン–協奏曲 : エルネスト・ロンボーのオーボエ協奏曲(伝ハイドン)

オーボエ協奏曲についてはロンボーの記事をご覧ください。ちなみに取り上げた3枚のアルバムはいずれも名演奏。特にオーケストラパートの充実した演奏が印象に残るものでした。

そして、オーボエといえばもちろんハインツ・ホリガー、本命登場です。このアルバムを手に入れたのは昨年でしたが、それまでホリガーにこの曲の録音があることを知りませんでした。しかも、ジンマン指揮のコンセルトヘボウ管による全盛期の蘭PHILIPSの録音ということで言うことありません。ホリガーはモーツァルトのオーボエ協奏曲に素晴らしい演奏を残しています。これはかつての愛聴盤です。

2010/10/14 : ハイドン以外のレビュー : ホリガーのモーツァルトのオーボエ協奏曲

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Concerto per il oboe [C] (Hob.VIIg.C1)
スカッとホールに広がるオーケストラの響き。PHILIPSによるコンセルトヘボウの見事な響きにいきなりうっとり。LPのコンディションも最高で実体感溢れる響きに酔いしれます。さすがにデヴィッド・ジンマンが振るだけあってオーケストラのコントロールは精緻。ホリガーのソロはあの細めながら伸びやかな音色が期待通り。独特のアーティキュレーションによってホリガーの演奏だとすぐにわかります。モーツァルトの演奏でもそうでしたが、この天真爛漫な伸びやかさはホリガーならでは。ソロの伸びやかさに触発されてかどうかわかりませんが、オケの方も超高鮮度の演奏で応えます。スピーカーの周りがコンセルトヘボウになったような見事な録音に思わずヴォリュームを上げて美音を浴びる快感に身をゆだねます。実に克明なオケの演奏に対してオーボエのソロが可憐に飛び回り、天真爛漫な境地に至ります。音色が変化するわけではないのに実に多彩な表情の変化をを見せます。1楽章のカデンツァはホリガーのしなやかな音階が極限まで透明に昇華する見事なもの。1楽章からノックアウト気味です。
続くアンダンテは、ちょっとハイドンによるメロディーとは異なる趣を帯びているように感じますが、メロディーの美しさはモーツァルト的な洗練も感じる名曲。ハイドンだったらもっと多様な展開を絡ませてくるような気がします。ただモーツァルトで孤高の境地を聴かせたホリガーの手にかかると、この曲の美しさを見事に洗練の極致まで持っていきます。ここでもジンマンはホリガーの自在な表現にしっかりと寄り添って、テンポも呼吸も見事に合わせてきます。
フィナーレの入りも絶妙な軽さ。この入りしかないという見事なもの。そしてオケの反応の鮮やかさは神がかったもの。ホリガーは遊びまわるようにテンポを動かし、そして完全に透明な響きに吸い込まれて行くようにメロディーを伸びやかに描き続け、オケとの対話を楽しむよう。最後はオケがキリリと引き締めて終了。

ロッシーニの曲はオペラの1場面のような曲。ロッシーニ独特の明るいメロディーと翳りの交錯が見事に描かれた曲。ホリガーの妙技とオケの反応の鮮やかさがハイドンの曲以上に活きてきます。ライヒャの曲ははじめて聴きますがなかなか味わいのある美しいメロディーが聴きごたえ充分。オーボエよりも渋い音色のコール・アングレもホリガー流に見事に操ります。そしてドニゼッティの曲もオペラの一場面のようなドラマティックなもの。ホリガーのコール・アングレがちょうど歌手のアリアのような存在。もちろん歌手の表現をもうわまわらんとするホリガーの表現力が聴きどころ。B面の3曲は気軽に楽しめるくつろいだ曲ばかりでした。

このアルバム、流石ハインツ・ホリガーという演奏。やはり他の奏者とははっきりと異なるホリガーならではのオーボエの演奏を聴かせます。軽やかさと伸びやかさの表現は他の奏者とは一線を画するところ。そしてデヴィッド・ジンマンの振るアムステルダムコンセルトヘボウ管の伴奏も完璧。何より全盛期のPHILIPSの空気感溢れる素晴らしい録音がこの演奏に華を添えます。ハイドンの評価はもちろん[+++++]とします。

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tag : オーボエ協奏曲 ロッシーニ ライヒャ ドニぜッティ LP

ジャン=クロード・ぺヌティエのピアノソナタ集旧録音(ハイドン)

またまたお宝盤発掘! どうしてもLPにいってしまいます。

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ジャン=クロード・ぺヌティエ(Jean-Claude Pennetier)のピアノによるハイドンのピアノソナタ3曲(Hob.XVI:34、XVI:48、XVI:49)を収めたLP。収録は1984年10月、南仏マルセイユの北にあるソーヴァン城(Château de Sauvan)でのセッション録音。レーベルはharmonia mundi FRANCE。

ぺヌティエのハイドンのソナタの録音は以前に取り上げていますし、ラ・フォル・ジュルネで実演も聴いています。

2015/05/04 : コンサートレポート : ジャン=クロード・ペヌティエの「十字架上のキリストの最後の七つの言葉」(ラ・フォル・ジュルネ)
2010/11/24 : ハイドン–ピアノソナタ : ジャン=クロード・ペヌティエのピアノソナタ集

以前取り上げたピアノソナタ集のCDは曲はXVI:50、51、52などで、録音は1999年から2000年にかけて。今日取り上げるアルバムの録音はその約15年前の1984年の録音で、曲はXVI:34、48、49とCDとは重なっておらず、ハイドンのピアノソナタの晩年の名曲を網羅する形になっています。CDというメディアが世の中に出回ったのが1982年ということでこのLPはその直後の録音ということになります。ネットで調べてみた限りではこの録音がCD化された形跡もなく、知る人ぞ知る存在でしょう。

針を落としてみると、驚くほど瑞々しい響き。ジャケットにはピアノはベーゼンドルファーを使っていると書かれています。気になってCDの方をチェックしてみるとこちらはスタインウェイ。CDも非常に響きに美しい録音でしたが、このLPにはベーゼンドルファーの豊穣な響きが最上の形で記録されています。

Hob.XVI:34 Piano Sonata No.53 [e] (c.1782)
少し遠くに残響を伴って定位するピアノ。LPのコンディションは最高で響きの美しさが際立ちます。ぺヌティエの強力な左手のアクセントがメリハリをつけながらの流麗なタッチ。後年の悟ったような表情は見せず、曲の淀みない流れの美しさに焦点を当てた演奏。1楽章はあっという間に流れていきます。1楽章の演奏から想像できましたが、続くアダージョは自然なデュナーミクの美しさが極まる絶美の演奏。ぺヌティエの自在なタッチの魅力にとろけそう。そしてフィナーレも自然な表情の美しさを保ったまま、流れるようなタッチでどこにもストレスを感じさせない演奏。ピアノの純粋無垢な響きの美しさが楽しめます。時折り響きをざらりと分解するような表現でハッとさせるのも効果満点。最後にクライマックスを持ってくるあたりのマナーもオーソドックスでいいですね。

Hob.XVI:48 Piano Sonata No.58 [C] (1787/9)
続くソナタも響きの美しさと流れの良さは変わらず。しかも一音一音の表情が実に豊かで、ハイドンのピアノソナタのオーソドックスな演奏の最上の姿と言っていいでしょう。特に低音の余裕のある図太い響きの魅力はLPならでは。ちょっと強面のぺヌティエのぶっとい指からこれほどの詩情が立ち上るとは。タッチに余裕があるからこそコントロールできる柔らかさということでしょう。まさに夢見心地で響きに酔います。ゆったりとした雰囲気をさらりとかわすかのようにそよ風のような優しさて、驚くほど流麗なタッチで2楽章に入ります。テンポはかなり速めにもかかわらず、まるで魔法のように鮮やかなタッチで弾き進めます。若きぺヌティエの驚くべきテクニック。タッチの冴えをここぞとばかりに聴かせますが、驚くほど自然に響くところに凄みを感じさせます。これは凄い!

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Hob.XVI:49 Piano Sonata No.59 [E flat] (1789/90)
LPをひっくり返して最後のソナタ。片面に1曲ゆったりとカッティングされているため響きにも余裕があります。この曲はリズムとメロディーの面白さを融合したハイドンの見事な筆致を楽しめる曲。ぺヌティエの自然なタッチは変わらず、左手の図太いアクセントと流麗な右手のパッセージが乱舞する絶妙な演奏。スタインウェイよりも内声部が豊かに響くように感じるためか、非常に豊穣に響きわたります。フレーズ毎の表情ではなく流れるように表情を変えていくことでメロディーの自然なつながりの面白さが浮かび上がります。2楽章は前2曲同様自然な詩情の美しさが沁みます。もう少し表情が濃いとロマン派の曲のように聴こえてしまう寸前のバランス感覚。大きな波のようにうねる曲想をしっかりと捉えてゆったりと盛り上げます。宝石のように磨き抜かれた響きに三度うっとり。この曲はフィナーレがメヌエット。最後まで落ち着き払ったぺヌティエの見事なコントロールで、ハイドンの機知に溢れたソナタを一貫してロマンティックな姿に仕立て上げてきました。この曲も最後の一音を轟かせて終了。

ジャン=クロード・ぺヌティエの1984年に録音されたハイドンのピアノソナタ集。ベーゼンドルファーの豊かな響きを活かした秀逸な録音によって若きぺヌティエがハイドンを流麗にまとめた演奏。後年の録音では枯れたところも聴かせましたが、このころのぺヌティエの演奏はタッチの鮮やかさも、バランスよくまとめる力も後年よりも上と聴きました。この3曲は絶品の出来と言っていいでしょう。評価はもちろん3曲とも[+++++]とします。LPの再生環境がある方、見かけたら即ゲットをオススメします!

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tag : ピアノソナタXVI:34 ピアノソナタXVI:48 ピアノソナタXVI:49 LP

マルシュナー=コッホ四重奏団のひばり、皇帝(ハイドン)

またまたLPです。こちらも最近オークションで手に入れたもの。

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マルシュナー=コッホ四重奏団(Marschner-Koch Quartett)の演奏による、ハイドンの弦楽四重奏曲Op.64のNo.5「ひばり」、Op.76のNo.3「皇帝」の2曲を収めたLP。収録年の記載はありませんが、ステレオであることやレコード番号から1960年代後半のリリースでしょう。レーベルは独フライブルクのCHRISTOPHORUS。

このクァルテット、ジャケットには下記の4名の奏者の名があるだけで、クァルテットの名前は記されていませんでした。

第1ヴァイオリン:ウォルフガング・マルシュナー(Wolfgang Marschner)
第2ヴァイオリン:ウルリッヒ・ゲーリング(Ulrich Grehling)
ヴィオラ:ウルリッヒ・コッホ(Ulrich Koch)
チェロ:アティス・タイヒマニス(Atis Teichmanis)

色々調べたところ、手元にあった幸松肇さんの「世界の弦楽四重奏団とそのレコード」のドイツ・オーストリア編に「マルシュナー=コッホ四重奏団として掲載されていて、ようやく情報が掴めたもの。LPの裏面にもドイツ語でクァルテットの説明はあるのですが、スイスイ読めるわけではありませんので日本語の情報があるのは助かります。

幸松さんの本によれば、このクァルテットは1960年代後半、フライブルク音楽大学で教鞭ととっていた上記メンバー4人によって設立されたもの。
ウォルフガング・マルシュナーは1926年ドレスデン生まれ。ハノーファー国立歌劇場やケルン放送交響楽団のコンサートマスターとして活躍し、1963年からフライブルク音楽大学の教職にありました。
第二ヴァイオリンのウルリッヒ・ゲーリングは1917年生まれで1942年から1947年までベルリンフィルのコンサートマスターを務めた人。1946年以降はフライブルク音楽大学で教職についています。
ヴィオラのウルリッヒ・コッホは1921年ブラウンシュヴァイク生まれでブラウンシュヴァイク国立劇場管弦楽団コンサートマスターを経て南西ドイツ放送交響楽団の首席ヴィオラ奏者として活躍、フライブルク音楽大学では弦楽器長を務めた人。
そして、チェロのアティス・タイヒマニスはネットで調べてもなかなか情報がありませんでしたが、1907年ラトヴィアのリパエーヤという町の生まれで1955年にフライブルク音楽大学で夏季セミナーを受けたということがわかりました。

クァルテットに名前がないことと、これ以外に録音も見当たらないことから、この録音を行なった時期だけしか活動していなかったのかもしれませんね。

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LPに針を落とすと、非常に伸びやかなクァルテットの響きがザクザク迫ってきます。というのもカートリッジを最近手に入れたSHUREのV-15 TypeIIIに変えたばかりで、これまでのDL-103Rをフェーズメーションのトランス経由で聴いていた厚みと安定感重視の組み合わせとの差がそういう印象を強調しているかもしれませんね。もともとアームが軽針圧向けのものなのでこちらの方があるべき組み合わせなんでしょう。オリジナル針のコンディションも良いのでしばらくこの環境で聴いてみようと思います。

Hob.III:63 String Quartet Op.64 No.5 "Lerchenquartetett" 「ひばり」 [D] (1790)
1960年代の録音であるというのが信じられないほど鮮明な響きに驚きます。そしてスピーカーの周りに広がる音場も広大でびっくり。レオポルド・マルシュナーのヴァイオリンの伸びやかさはかなりのもの。楽器が非常によく響いてヴァイオリンの胴鳴りの迫力が感じられるほど。アンサンブルも実に見事。ひばりの入りはオーソドックスなテンポながら響き渡る伸びやかさで圧倒される感じ。ひばりのさえずりもこれほどの美しさで響くとさらに印象深く聴こえます。
続くアダージョに入ると、マルシュナーのヴァイオリンは美しさの限りを尽くすように鳴り響きます。そしてそれに呼応するように各パートもよく鳴る鳴る。往時のベルリンフィルの弦楽セクションの怒涛の響きを思い起こさせます。よく響くホールでの録音でしょうが、ダイレクト感もかなりあり、冒頭に書いたように超鮮明な録音。手元のCDやSACDでもこれほどキレのある録音はありません。
メヌエットもこれが王道というような演奏。小細工なしにグイグイ来ます。全員がベストコンディションでそれをベストなロケーションで録音し、この当時のベストな録音で残したもの。千載一遇の演奏を収めた録音といっても過言ではないでしょう。
フィナーレも楽器が鳴りすぎて抑えが効かないというか、抑える必要もないので、ハイドンの書いた音楽をベストなアンサンブルで演奏するとこうなる的完璧な演奏。あまりに圧倒的なパフォーマンスにノックアウトです。

Hob.III:77 String Quartet Op.76 No.3 "Kaiserquartetett" 「皇帝」 [C] (1797)
皇帝も同様、冒頭からアンサンブルが響きまくって素晴らしい響きに包まれます。4人がそれぞれ畳み掛けるようにインテンポで演奏しながらアンサンブルの線がぴしっとそろって響く快感。しかも全員楽器が鳴りまくってるのは前曲同様。曲毎の演奏スタイルの変化は感じず、それよりも普遍的な表現を目指しているよう。あまりの説得力に圧倒されるというのが正直なところです。

偶然見かけて手に入れたアルバムでしたが、あまりに見事な演奏と時代の空気までも閉じ込めたような見事な録音に脱帽です。フライブルク音楽大学の教職にあったとはいえ、この完璧なアンサンブルはこれまでのどの録音よりも見事なもの。しかも弦楽器がこれほどまでによく響いた演奏も稀なものでしょう。ハイドンの有名弦楽四重奏曲2曲の決定盤としても良いでしょう。私は非常に気に入りました。ということで評価は両曲とも[+++++]といたします。

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tag : ひばり 皇帝 LP

ローズ・マリー・ツァルトナーのピアノ協奏曲、ピアノソナタ(ハイドン)

またまた未知の奏者の演奏です。

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ローズ・マリー・ツァルトナー(Rose Marie Zartner)のピアノ、ウォルフガング・ホフマン(Wolfgang Hofmann)指揮のニュルンベルグ交響楽団(Die Nürnberger Symphoniker)の演奏で、ハイドンのピアノ協奏曲(Hob.XVIII:3)、ピアノソナタ(XVI:20)の2曲を収めたLP。収録の情報は記載されていませんが、ネットを色々調べて見るとリリースは1970年と記載されたサイトを発見しました。レーベルはcolosseum。

このアルバムも最近オークションで手にいれたアルバムです。なんとなくいい雰囲気のジャケットにピンときた次第。

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ピアニストのローズ・マリー・ツァルトナーについては、ジャケット裏面に若き姿の写真があるだけで、ネットにも情報が見つかりません。アルバムについてもこのアルバムを含めて数枚確認できるのみ。ということでこのアルバムがリリースされたであろう1970年代の短期間のみ活動していた人との想像が働きます。
指揮者のウォルフガング・ホフマンは1922年ドイツのカールスルーエ生まれのヴァイオリン奏者、作曲家、指揮者で、若い頃からアーベントロートのもと、ライプツィヒ・ゲヴァントハウスのヴァイオリン奏者として活躍。大戦中は音楽活動を休止したものの1959年から指揮者として活躍し、プファルツ室内管(Kurpfälzischen Kammerorchester)の音楽監督を1987年まで続けたとのこと。また1963年からはカール・リスタンパルトが亡くなった後を受けてザールランド放送室内管(Kammerorchester des Saarländischen Rundfunk)を振るようになり、しばしばテレビに登場したとのこと。晩年はフリーランスの作曲家として活躍し、亡くなったのは2003年でした。

この日本ではほとんど知られていないピアニストと指揮者によるハイドンのピアノ協奏曲、これが実に味わい深い演奏なんです。

Hob.XVIII:3 Concerto per il clavicembalo(l'organo) [F] (1765)
見事に図太い音色のオケの序奏がテンポよく鳴り響きます。奥でホルンが響く奥行きを感じる非常にいい録音。これぞLPの真骨頂。ローズ・マリー・ツァルトナーのピアノはよく磨かれた音色を響かせますが、決して焦らず、オケを鎮めるように落ち着いてゆったりと音を置いていく感じ。ソロがオケを引っ張るようにグイグイ来るのが普通なんでしょうが、ツァルトナーは落ち着き払って典雅な雰囲気を率先して保つ感じ。テクニックの冴えとも解釈のキレとも無縁の落ちいた音楽。ピアノの響きの美しさを優しく表現することに集中しているよう。この曲でこれほどのピアノの穏やかな輝きを聴くのははじめてのこと。火花散らすだけが協奏曲の演奏ではないと諭されているよう。カデンツァでは少しテンポを上げ、指の動きの鮮やかさを聴かせますが、それも非常に落ち着いた演奏で、この典雅さを保ったもの。
続くアダージョはまさに至福の境地。ゆったりとしたオケの伴奏に乗ってツァルトナーのピアノが光り輝きます。ゆっくりと噛みしめるようなツァルトナーのタッチの美しさを存分に味わいます。指揮のホフマンはツァルトナーの引き立て役に徹するようにオケの柔らかな響きを引き出します。ツァルトナーはテンポを変えずに表情が千変万化する魔法のタッチで曲の美しさを浮かび上がらせます。あまりに見事な演奏に息を呑みます。
フィナーレも実にリラックスした演奏。1楽章とは異なりリズムで先導するツァルトナーのタッチの軽やかさ! ちゃんと楽章ごとに聴かせどころを用意していました。これぞハイドンという展開の妙をさらりと聴かせる妙技。最後までピアノの最も美しい響きを保つ見識が素晴らしいですね。フレーズの一つ一つまで磨き抜かれ、オケとの呼吸も絶妙。あまりに華麗な演奏にノックアウトです。

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Hob.XVI:20 Piano Sonata No.33 [c] (1771)
裏面は好きなソナタ。録音の状態は変わらず絶品。美しいピアノの響きが存分に楽しめる録音。リラックスしたツァルトナーの繰り出す音の流れに身を任せます。協奏曲同様、落ち着いたタッチからえも言われぬ芳香が立ちのぼります。起伏をあえて抑えながらサラサラと引き進めるスタイル。微妙なタッチの変化から生まれるフレーズのデリケートな表情の変化に耳を奪われます。この曲に潜む詩情を抑制された美しさに昇華。
好きな2楽章は響きを研ぎ澄ますのではなく、淡々と音を置いてく感じが新鮮。高音ではなく中音域をしっかりと響かせて確かな足取りで曲が進みます。今までのこの曲のイメージとは異なる面にスポットライトを当て、じっくりと曲の良さを描いていくことで、意外に骨太なこの曲の魅力を知った次第。情感を抑えた何か禁欲的な香りがする美しさにうっとり。
目を覚まされるようにくっきりとした3楽章の出だし。かっちりとしたタッチの中にも仄かに雰囲気を感じさせるツァルトナーの演奏。ツァルトナーとしては険しい演奏なのでしょうが、麗人の真剣な視線にも色気を感じるように、ハイドンの締まったフィナーレながら雰囲気のある演奏。1曲のみをゆったりとカッティングしたLPゆえ実にいい響きで演奏を楽しめました。

全く未知のピアニスト、ローズ・マリー・ツァルトナーによる協奏曲とソナタのアルバム。ピアノに詳しい方ならご存知なのかもしれませんが、これだけの演奏する人が今は全く知られていないのが不思議なくらい。特に協奏曲の演奏は絶品と言っていいでしょう。LPのコンディションも良く、素晴らしい演奏を楽しむことができました。また一枚、宝物が増えましたね。評価はもちろん両曲とも[+++++]といたします。

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tag : ピアノ協奏曲XVIII:3 ピアノソナタXVI:20 LP

アレクサンドル・スロボジャニクのXVI:48(ハイドン)

またしてもLPです。

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アレクサンドル・スロボジャニク(Alexander Slobodyanik)のピアノによる、ハイドンのピアノソナタ(Hob.XVI:48)、ショパンのマズルカから4曲(No.19、20、21、42)、プロコフィエフのピアノソナタNo.6(Op.82)の6曲を収めたLP。残念ながら録音年に関する記載はなく、またネットを調べても判明しませんでした。LPの状態などから1970年代の録音かなと想像しています。レーベルは露Мелодия(Melodiya) 。

こちらは最近オークションで手に入れたもの。見たことも聞いたこともない奏者のアルバムを手に入れるのは実にスリリングで楽しいものですね。このアルバムの奏者のアレクサンドル・スロボジャニクもそうした奏者で、これまで全く知らなかった人。Wikipediaなどによれば、1941年、現ウクライナ、旧ソ連のキエフ生まれのピアニスト。アルバムの解説では1942年生まれとありますが、どちらが正しいかはちょっとわかりません。7歳でウクライナの西端、ポーランド国境近くにあるリヴィウ(Lvov)にあるリヴィウ音楽院でピアノを学び、その後モスクワ音楽学校でリヒテルの師でもあるゲンリフ・ネイガウスに学び、またモスクワ音楽院でヴェラ・ゴルノスタエヴァに師事しました。1966年に開催されたチャイコフスキー国際コンクールのピアノ部門で4位に入るなどして国際的に名が知られるようになり、以来50年にわたってピアニストとして活躍したそう。1968年にアメリカにデビューツアーを行い、カーネギーホルでのコンサートが評判となり、米ソの文化交流が途絶える1979年までアメリカ、カナダツアーを繰り返していました。9年間のブランクの後、1988年のアメリカツアーはシカゴ・トリビューン紙から「勝利の帰還」と称賛されました。以後欧米の主要なオケとの共演するなど国際的に活躍し、亡くなったのは2008年とのこと。欧米での活躍に比べ日本での知名度は今ひとつだったのでしょう。

このスロボジャニクの弾くハイドン、これがなかなか凄みを感じさせる演奏なんですね。

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Hob.XVI:48 Piano Sonata No.58 [C] (1787/9)
適度に残響が含まれる澄んだピアノの響きの美しさが感じられる録音。冒頭からデリケートなタッチで豊かな詩情を醸し出す演奏。それでいて徐々に直裁なタッチも垣間見せ、霊気を帯びたような独特の雰囲気にただならぬ迫力を感じます。スロボジャニクの特徴はこの雰囲気のある直裁なタッチでしょう。1楽章はしなやかな静寂感と強奏部分の力強さとを織り交ぜ聴かせたりと表現の幅の大きさを印象付けます。この曲は2楽章構成。続くプレストへの入りは微風のような爽やかさを感じさせる絶妙なもの。軽やかなタッチでコミカルなメロディーを刻み徐々に強音を織り交ぜていくタッチの鮮やかさは流石なところ。短い楽章ですが聴きごたえ十分。この小曲でも冷静に起伏をつけながらこれだけの表現の変化を聴かせる手腕は見事でした。

続くショパンのマズルカはちょっと録音の印象が変わってハイドンの方が鮮度が高く音がいいですね。スロボジャニクの演奏はハイドンと同様の傾向を感じますが、ショパンとしてはかなり辛口の演奏でしょう。そして裏面のプロコフィエフも録音はショパンと同様。スロボジャニクの冴え冴えとしたタッチの魅力と迫力にはこの曲が一番合うでしょう。音が飛び散るようなプロコフィエフ独特の雰囲気を見事に表現しています。このアルバムの聴きどころはハイドンと並んでこのプロコフィエフでしょうね。

このハイドンの演奏で思い起こしたのは若い頃のグールドのキレ。もちろんグールドの強烈な個性とは比べられませんが、変幻自在のタッチのコントロールとその鮮やか、そして主情を排した冷徹な雰囲気はグールドに近い凄みを感じます。また硬めのピアノの音色もそう思わせるのでしょうね。現在入手できる音源は少ないものの、この見事な演奏から往時の凄みは感じることができました。ハイドンの評価は[+++++]といたします。

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tag : ピアノソナタXVI:48 LP

ダヴィド・ゲリンガス/北ドイツ放送響のチェロ協奏曲2番(ハイドン)

お宝アルバム、見つけました! ディスクユニオンの店頭で見かけたとき、もちろん過呼吸気味(笑)

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ダヴィド・ゲリンガス(David Geringas)のチェロ、ヴォルデマール・ネルソン(Woldemar Nelsson)指揮の北ドイツ放送交響楽団(Das Sinfonieorchester des Norddeutschen Rundfunks)の演奏で、ハイドンのチェロ協奏曲2番、プロコフィエフのチェロ協奏曲Op.132の2曲を収めたLP。収録は1979年7月、ハンブルクにてとだけ記されています。レーベルはeurodisk。

ダヴィド・ゲリンガスといえばチェロの名手。特にハイドンの演奏はどれも素晴らしいもので、当ブログでも色々取り上げています。

2014/07/05 : ハイドン–協奏曲 : ダヴィド・ゲリンガス/チューリンゲン・ヴァイマル室内管のチェロ協奏曲2番(ハイドン)
2014/03/23 : ハイドン–室内楽曲 : ダヴィド・ゲリンガス/エミール・クラインのバリトン二重奏曲集(ハイドン)
2013/11/14 : ハイドン–室内楽曲 : ゲリンガス・バリトン・トリオのバリトン三重奏曲集(ハイドン)
2013/09/14 : ハイドン–協奏曲 : ダヴィド・ゲリンガス/チェコフィルのチェロ協奏曲集

今日取り上げるチェロ協奏曲の2番については、レビューに取り上げた2002年録音のチューリンゲン・ヴァイマル室内管との演奏、1993年録音のチェコフィルとの演奏の2種よりさらに古く1979年の録音。ゲリンガスは1946年生まれということで、33歳という年齢での録音となります。ジャケットに写るゲリンガスの姿も若い! これまでも色々な奏者の演奏を色々聴いてきましたが、後年有名になった奏者の若い頃の録音はおしなべて覇気に溢れた素晴らしい演奏であることが多いですので、今回入手したアルバムも期待すること大であります。

ゲリンガスの略歴についてはチェコフィルとの協奏曲の記事をご参照ください。

指揮者のヴォルデマール・ネルソンははじめて聴く人。1946年、ウクライナやベラルーシ国境に近いロシアのクリンツィ(Klinzy)生まれの指揮者で、1976年に西ドイツに亡命し、以後国際的に活躍した人とのこと。ロシア時代はヴァイオリニストとして中央ロシアのノヴォシビルスク交響楽団で活躍し、その後指揮を学んで、コンドラシンに見出されてモスクワフィルのアシスタント指揮者となり、オイストラフ、ロストロポーヴィチ、クレーメルなどの奏者と共演したり、ペルトやシュニトケと親交を持ったそう。亡命後はこのアルバムのオケである北ドイツ放送響とツアーを行い、西ドイツに定住。それまでオペラを振った経験がないにもかかわらずバイロイトに招かれローエングリンやさまよえるオランダ人を振ったそう。またカラヤンの招きでザルツブルク音楽祭に参加し、ペンデレツキのオペラを初演するなど、日本ではあまり知られていないもののなかなかの経歴の持ち主ですね。亡くなったのは2006年とのことです。

Hob.VIIb:2 Cello Concerto No.2 [D] (1783)
LPのコンディションは最高。柔らかなオケの序奏が心地よく響きます。律儀でオーソドックスなオケの入り。ゲリンガスのチェロはいきなりむせび泣くように入ります。健康的に響くオケに対しちょっと影のある音色で深みを感じさせます。徐々にオケの各パートもゲリンガスの音色に寄り添うようになっていくのが面白いところ。徐々にゲリンガスは深みのある響きを繰り出し、非凡なところを感じさせ始め、特に高音域の独特の輝きが眩しくなってきます。オケの方も純度の高い音色でゲリンガスのソロに呼応。オケは迫力よりは純度というか透明感で聴かせる感じ。これがヴォルデマール・ネルソンのセンスでしょう。中盤からはゲリンガスの美音とのびのびとしたボウイングに釘付け。この若さですでに至芸と言っていいでしょう。常に冷静に室内楽のように精妙にサポートするオケも非常にいい感じ。聴き進むうちにハイドンのめくるめくような名旋律の美しさにのまれるよう。1楽章のカデンツァはゲリンガスの自作。ここにきてゲリンガスの表現意欲が炸裂。糸を引くように美音を重ねて孤高の演奏が続きます。力まずまるで老成した奏者のような自在なボウイングの魅力を聴かせます。なんでしょう、この気高さは。
アダージョは、もはや燻し銀の響きと言っていいでしょう。1楽章では律儀に振っていたネルソンもここではゆったりと深い音楽を創り、ゲリンガスの音楽にスタイルを合わせてきます。ゲリンガスもネルソンも枯淡の境地。この楽章のカデンツァ、深い。オケの響きが消えた後の静寂にゲリンガスのチェロの響きだけが静かに置かれる名演奏。心が鎮まる音楽です。
そしてフィナーレでもオケはしなやかなまま。ゲリンガスのボウイングは力が抜けて魂そのものの音楽のように昇華されていきます。途中からオケが襟を正すように響きがフレッシュになって響きを引き締めることで曲が締まります。最後のカデンツァは音量を落として神がかったような透明感。ゾクゾクします。最後もオケがキリリと締まって曲を終えます。

いやいや絶品。ゲリンガスのこの曲の演奏の中で最もゲリンガスの個性が良く出た演奏と言っていいでしょう。サポートするヴォルデマール・ネルソン指揮の北ドイツ放送響も実に味わい深い演奏で華を添えます。今一度ジャケットに写るゲリンガスの表情を眺めると、ほのかに微笑むような優しい表情でこちらを見つめていますが、その表情にこの演奏の味わい深い響きがオーバーラップして見えるのは私だけでしょうか。若きゲリンガスが世に問うた素晴らしい演奏と言っていいでしょう。これは宝物になりそうです。もちろん評価は[+++++]とします。

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tag : チェロ協奏曲 LP

ドラティ/ロンドン響の軍隊、時計(ハイドン)

こちらも最近オークションで手に入れたLP。

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アンタル・ドラティ(Antal Doráti)指揮のロンドン交響楽団(London Symphony Orchestra)の演奏で、ハイドンの交響曲100番「軍隊」と101番「時計」の2曲を収めたLP。収録情報は記載されていませんが、ネットを調べると1960年にリリースされたとの情報があります。レーベルはMerkury RECORDSのフランス盤。

ドラティといえばハイドンの交響曲全集を最初に録音した人として、当ブログの読者の方なら知らぬ人はいない存在。ただその演奏はフィルハーモニア・フンガリカとの録音ですが、これはロンドン交響楽団との演奏。調べてみると、全集の録音は1969年から72年にかけてで、こちらは1960年以前の録音と全集の10年前の録音。しかもドラティが覇気あふれる50代の演奏。略歴を確認してみると1937年に渡米した以降、ミネアポリス交響楽団などアメリカの主要オケの音楽監督を務め、このアルバムが録音されたしばらく後の1963年にBBC響の首席指揮者としてヨーロッパの楽壇に復帰します。アメリカで名声を得てヨーロッパで活躍する足がかりとなったものでしょう。レーベルもDECCAではなくMercuryということで、もしかしたらこのアルバムがDECCAに全集録音を決意させたアルバムかもしれませんね。

ドラティのハイドンはもちろん何度か取り上げています。

2014/04/06 : ハイドン–交響曲 : アンタル・ドラティ/フィルハーモニア・フンガリカの84番(ハイドン)
2013/07/02 : ハイドン–交響曲 : アンタル・ドラティの交響曲全集英LONDONのLP入手!
2011/03/09 : ハイドン–交響曲 : アンタル・ドラティの受難
2011/01/24 : ハイドン–交響曲 : アンタル・ドラティのマリア・テレジア
2010/12/31 : ハイドン–オラトリオ : アンタル・ドラティ/ロイヤル・フィルの「トビアの帰還」2
2010/12/30 : ハイドン–オラトリオ : アンタル・ドラティ/ロイヤル・フィルの「トビアの帰還」
2010/01/24 : ハイドンねた : 私はなぜハイドンにはまったのか?-3

ドラティの略歴などについては84番の記事をご覧ください。

ハイドンの交響曲全集は今でこそアダム・フィッシャー、デニス・ラッセル・デイヴィス、NAXOSの複数の指揮者に夜全集、ユニバーサルのホグウッドらによる古楽器混成全集など選択肢も増えてきましたが、私のオススメはドラティです。以前の記事にも書きましたが、図太い筆で勢いよく書いた古老の楷書の書を見るような、なんとも身が引き締まる演奏であり、ドラティを聴かずにハイドンを語るなかれというほどの名盤です。

そのドラティの交響曲全集のオリジンたる演奏であり、嫌が応にも期待が高まります。

Hob.I:100 Symphony No.100 "Military" 「軍隊」 [G] (1793/4)
この演奏を聴くためにフィルハーモニア・フンガリカの全集の演奏も聴いてみましたが、全集の方は良くいうと非常にまとまりの良い演奏。ドラティの険しさも感じられますが、全集としての完成度の高さを感じさせる演奏。対してこちらは、特にヴァイオリンのキレの良いボウイングと畳み掛ける迫力で上回る感じ。若干荒削りな印象もなくはありませんが、演奏の面白さはこちらがうわまります。特にLP
ならではのダイレクト感のある音質もいい感じです。ドラティもグイグイと攻めてきます。1楽章の終盤への盛り上げ方はど迫力でキレキレ。
2楽章の軍隊の行進は一定のテンポでサクサクと進めながら一音一音の引き締まった響きがどんどん迫力を帯びていき、パーカッションが乱舞。ドラティらしい禁欲的に引き締まりまくった演奏。高音域のタイトな響きはLPならでは。流れではなくダイレクトに音を響かせて音楽を作っていきます。
流石なのがメヌエット。ドラティらしい彫刻的に引き締まった響きの魅力に溢れた演奏。筋骨隆々。ザクザクと彫りの深い演奏によってメヌエットのメロディーの面白さが際立ちます。
メヌエットのエネルギーを引き継ぎ、フィナーレは速めのテンポで冒頭から畳み掛ける気満点。ハイドンの展開の妙を感じさせながらもクライマックスまっしぐらに駆け込みます。最後はドラティもオケを煽ってさらにテンポを上げて素晴らしい高揚感。予想通り壮年期のドラティの気迫みなぎる熱演です。

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Hob.I:101 Symphony No.101 "Clock" 「時計」 [D] (1793/4)
LPをひっくり返して時計。序奏はゆったりとした入りで厳かな雰囲気が漂います。主題に入るといきなりギアチェンジして快速テンポに変わります。フィルハーモニア・フンガリカとの演奏では印象は似ているもののテンポの変化はここまで急ではなく、1楽章の緊密な構成感を表現することに重点が置かれているような気がします。こちらはやはり迫力と陶酔感重視。軍隊の方はLPの迫力に軍配が上がったのですが、時計の方は全集の方もいいですね。主題以降快速テンポでグイグイ飛ばします。徐々にヴァイオリンが赤熱してきて未曾有のキレ味で畳み掛けてきます。やはりドラティ、煽りまくってきました。1楽章なのにものすごいエネルギーで締めます。
1楽章のほとぼりを冷ますように時計のリズムのアンダンテはリラックスしてゆったりと入ります。おそらく中間部に爆発するだろうと期待して耳をそばだてながらリズムを楽しみます。するとゆったりしながらもざっくりとした迫力で中間部に入ります。ドラティ、こちらの期待をはぐらかすように落ち着いたコントロールでやり過ごします(笑) ドラティはあくまでもきっかりリズムを刻んできました。
そして軍隊でも素晴らしかったメヌエットはやはりオケの引き締まった響きの魅力に溢れた秀演です。ヴァイオリンパートの覇気がすごい。メヌエットの王道を行くような堂々とした迫力が魅力の演奏。
フィナーレは別の日に収録されたのか、音程が若干低いように感じます。序奏は非常に落ち着いた入りで、徐々に力感がみなぎってきますが、これまでの演奏に比べてやや鈍重。これは迫力を表すべくのことでしょう。最後は裕大なフィニッシュで曲を閉じます。

ハイドンの交響曲といえばドラティ。そのドラティが交響曲全集を録音する10年前にリリースされた軍隊と時計。予想通り覇気に溢れた演奏でした。後年の全集は非常に完成度の高い演奏として知られますが、この演奏にはドラティのハイドンの交響曲に対するスタンスがより明確に現れていると言えるでしょう。軍隊は迫力で押し通す素晴らしい演奏。そして時計はそれよりもバランスを少し意識した演奏ということで、ドラティのアプローチにも若さが感じられます。時計の後半が若干難ありということで、軍隊は[+++++]、時計は[++++]といたします。

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tag : 軍隊 時計 LP

エーリッヒ・ペンツェル/コレギウム・アウレウムのホルン協奏曲(ハイドン)

久々の協奏曲のアルバム。最近オークションで手に入れたもの。

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エーリッヒ・ペンツェル(Erich Penzel)のホルン、コレギウム・アウレウム(Collegium Aureum)の演奏で、ハイドンのホルン協奏曲(Hob.VIId:3)と、以前はハイドンの作と見做されていた時期もあった、レオポルド・ホフマンのフルート協奏曲の2曲を収めたLP。収録はPマークが1966年との記載。シュツットガルト近郊にあるキルヒハイム(Kirchheim)にあるキルヒハイム城でのセッション録音。レーベルはdeutsche harmonia mundi。

エーリッヒ・ペンツェルは1930年、ライプツィヒに生まれたホルン奏者。ウィルヘルム・クリューガー(Wilhelm Krüger)とアルビン・フレーゼ(Albin Frehse)にホルンを師事し、1949年から1961年まで地元ゲヴァントハウス管のソロホルン奏者、1961年から1972年までケルンの西ドイツ放送交響楽団のホルン奏者を務めた人。また、バイロイト祝祭管のメンバーでもありました。教職ではデルモルト音楽院、ケルン音楽大学、マーストリヒト音楽大学などの教授を歴任し、多くのホルン奏者を育てました。

手元にペンツェルがホルンを吹くアルバムは数枚ありますが、いずれもハイドンの真作ではない曲の演奏。当ブログでも一度、2つのホルンのための協奏曲の演奏を取り上げています。

2011/10/05 : ハイドン–交響曲 : ヘルムート・ミュラー=ブリュール/ケルン室内管弦楽団の交響曲72番等

ということで、ようやく手に入れたハイドンのホルン協奏曲の演奏。名演奏の多い曲ですが、この演奏も負けず劣らず素晴らしいものでした。

Hob.VIId:3 Concerto per il corno [D] (1762)
絶妙のコンディションのLPから湧き出るしなやかなオケの響き。極めてキレの良いリズムで軽快な序奏が転がるように響き渡ります。ペンツェルのホルンはびっくりするほど柔らかく深い音色。オケのリズムのキレに劣らず素晴らしいリズム感で朗々とホルンを吹いていきます。音階の安定感、ハイドン特有の低音の響きの安定感も万全。コレギウム・アウレウムの素晴らしい伴奏に乗って、軽々とホルンを鳴らしていきます。ペンツェルの素晴らしいテクニックに惚れ惚れ。1楽章のカデンツァは音程のジャンプを多用したシンプルなものですが、微塵の揺らぎもない完璧な演奏で締めくくります。
聴きどころのアダージョは、ここでも伴奏のコレギウム・アウレウムのしっとりと濡れているような柔らかなオーケストラの響きだけで昇天しそう。そこにペンツェルの柔らかなホルンが加わってこの世のものとは思えない幸福感に包まれます。そして音程が下がっていくところのホルンの響きは実に自然。これほど美しいホルンの音色は聴いたことがないほど。極上のオケと極上のホルンの織りなす素晴らしい響きに酔いしれます。ハイドンの書いた美しいメロディーが染み渡ります。2楽章のカデンツァもテクニックではなく、美しい響きを楽しませるシンプルなもの。
予想通り落ち着いたフィナーレ。噛みしめるようにじっくりとしたリズムで入るオケに、ここでもペンツェルはさらりと軽やかにホルンの響きを乗せていきます。聴き進むうちにオケが音階をデフォルメする聴きどころを設けてハッとさせられます。実に自然な戯れにほくそ笑みます。最後のカデンツァは乱高下する音階を通してホルンの響きの魅力をじっくりと表現。いやいや素晴らしい演奏にノックアウトです。

ホルン奏者に詳しい訳ではありませんが、エーリッヒ・ペンツェルという人の印象はこのアルバムでしっかりと刻み込まれました。ホルンという楽器は演奏が難しいのはご存知の通りですが、このアルバムでのペンツェルの演奏は神々しささえ感じるほど見事なもの。テクニックは素晴らしいのでしょうが、アクロバティックな印象は皆無で、実に自然で美しい音色を自在に繰り出してきます。ジャケット裏面にはペンツェルがホルンを吹いている写真が掲載されていますが、優に60cmはありそうな円に巻かれたナチュラルホルンを吹く姿。このアルバムの演奏がこのナチュラルホルンだったとしたら超絶的なテクニックなのでしょう。

ふと出会ったアルバムでしたが、またまた宝物を見つけたレベルの名演でした。評価はもちろん[+++++]とします。

B面のハンス=マルティン・リンデのソロによるフルート協奏曲も演奏は絶品です。

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tag : ホルン協奏曲 フルート協奏曲 古楽器 LP

ザロモン弦楽四重奏団の剃刀、ひばり(ハイドン)

旅行記にかまけておりましたが、仕入れは継続しております! 今日は最近オークションで見かけて手に入れたもの。

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ザロモン弦楽四重奏団(The Salomon String Quartet)によるハイドンの弦楽四重奏曲Op.55のNo.2、Op.64のNo.5「ひばり」の2曲を収めたLP。収録は1982年11月、ロンドン北東部のウッドフォード教区教会(Woodford Parish Church)でのセッション録音。レーベルは英EDITION DE L'OISEAU-LYRE。

ザロモン弦楽四重奏団はhyperionレーベルに1980年代から90年代にかけて弦楽四重奏をかなりの枚数録音しています。このアルバムに収録されている2曲もhyperionレーベルに録音があるのですが、これはL'OISEAU-LYREレーベルに残されたものでhyperionとは違う音源の録音です。曲は異なりますが、hyperionの録音は以前に一度取り上げています。

2011/10/29 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : ザロモン四重奏団のOp.74のNo.2、騎士

手元にhyperionレーベルのシリーズの録音は揃っているのですが、録音年代をチェックすると、一番録音が早いのが1982年の7月で、以降1995年までの間に録音されています。最初の録音のOp.71のNo.1とNo.2は、今日取り上げるLPよりも前の録音になります。この2曲もそれぞれセットとして94年と95年に再録音されています。全くの想像ですが1982年の録音当時、L'OISEAU-LYREとhyperionのそれぞれに録音したものの、セットとして体系的に録音を企画したhyperionの方に録音を継続し、L'OISEAU-LYREとの録音はスポット的に終わってしまったということなのかもしれません。L'OISEAU-LYREからはこのアルバムの他、ホグウッドと組んだザロモン版の室内楽による軍隊とロンドンの2曲のLPがリリースされているのみです。

メンバーはhyperionレーベルの録音と変わりなく、下記の通り。

第1ヴァイオリン:サイモン・スタンデイジ(Simon Standgage)
第2ヴァイオリン:ミカエラ・コンベルティ(Micaela Comberti)
ヴィオラ:トレヴァー・ジョーンズ(Trevor Jones)
チェロ:ジェニファー・ウォード・クラーク(Jennifer Ward Clarke)

ただし、同じ曲で聴き比べると、演奏はこのL'OISEAU-LYRE盤に軍配が上がります。というかこのL'OISEAU-LYRE盤の演奏は絶品なんですね。

Hob.III:61 String Quartet Op.55 No.2 "Lasiermesserquartetett" 「剃刀」 [f] (1788)
hyperionのCDの演奏も悪い演奏ではないんですが、極上のコンディションのL'OISEAU-LYRE盤の磨き抜かれた響きは比べると演奏のしなやかさが数段上。このほんの少しの違いが音楽の深みに大きく影響します。94年録音のhyperion盤が若干平板さを感じさせるのに対し、L'OISEAU-LYRE盤に針を落とすと、瑞々しさに溢れたデリケートな響きに包まれます。音楽の表情の深さと古楽器クァルテットの音色の豊かさに惹きつけられます。演奏に余裕があり、ゆったりとした1楽章の入りの美しさを完璧に表現します。そしてフレーズごとの息の長い音楽の展開が見事。LPながら録音はDIGITAL。L'OISEAU-LYREの見事な録音が演奏に華を添えます。このレベルの録音はうちのオーディオ環境ではLPでしか聞くことができないレベルです。あまりに素晴らしい演奏と録音に1楽章ですでにノックアウト。
切々とした短調の入りから転調して次々と表情を変える2楽章。サイモン・スタンデイジの自然で伸びやかなヴァイオリンがここでも余裕たっぷりな音楽を作っていきます。アンサンブルは神々しいばかりの精度で、未曾有の一体感。ハイドンならではのユニークな曲をあまりに見事に仕上げて、演奏によってはちょっとギクシャクする曲の真価を問います。注意深く聴くと実によくできた曲だと唸ります。
メヌエットは前楽章を受けてか、リズミカルな舞曲ではなく、ここでも技巧を凝らしたメロディーで聴く人を驚かせようという感じ。
フィナーレはハイドンならではのコミカルなメロディーの魅力に溢れた曲。そのコミカルさを軽さとキレ味でさらりと聴かせるセンスの良さも絶品です。

Hob.III:63 String Quartet Op.64 No.5 "Lerchenquartetett" 「ひばり」 [D] (1790)
鳥肌が立つような美しい入り。誰でも知っている冒頭のリズムが非常に滑らかに刻まれ、そしてひばりのさえずりのようなヴァイオリンが伸びやかに歌います。なんと言う美しい響き。冒頭から絶品です。アンサンブルは完璧に揃い、響きは超高鮮度。ボウイングの弓の滑りがしなやかさの限りを尽くします。これほど美しいひばりを聴くのは初めて。そして展開部も迫真の迫力。あまりに素晴らしい1楽章に仰け反ります。
そして緊張感を保ちながらの美しいアダージョ。ここでもサイモン・スタンデイジの伸びやかなヴァイオリンの魅力が圧倒的な存在感で迫ります。途中陰りを感じさせるところの枯れ方が、再び明るさを取り戻す時の対比に効いてきます。伴奏にまわるヴィオラやチェロも表現力豊かにサポート。
静かに閉じた前楽章から活気を取り戻すように踊るメヌエットに入ります。前曲とは全く異なるアプローチがビシッと決まります。やはりメヌエットの王道は躍動感ですね。
そして軽快なフィナーレ。入りからキレよく飛ばし、フーガのような展開部でも軽快さを保ち続ける見事な技。ここでもハイドンならではのユーモラスな展開を意図をしっかり汲んだ素晴らしい演奏で締めます。

いやいや、これは絶品。旅行記の前にレビューしたスミソン四重奏団のヤープ・シュレーダーといい、このアルバムのサイモン・スタンデイジといい、古楽器草創期の名ヴァイオリニストにが参加した演奏の素晴らしさを再認識した次第。古楽器でのクァルテットの演奏は増え続ける一方ですが、これらの草創期の演奏を超える演奏が増えたかと言うと、そうとも言えないのではないかと言うのが正直なところ。新進気鋭の団体の斬新な演奏もなくはありませんが、これらの演奏を超える魅力があるかと言えば、微妙なところかもしれませんね。剃刀もひばりも絶品のおすすめ盤です。評価は両曲とも[+++++]とします。

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プロフィール

Daisy


Author:Daisy

なぜかハイドン(Franz Joseph Haydn)が特に気に入り膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。東京在住のごく普通のサラリーマンです。

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2017年7月のデータ(2017年7月31日)
登録曲数:1,361曲 登録演奏数:10,291
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