ハンス・スワロフスキーの交響曲集(ハイドン)

4月のベスト盤を選んだと思っていたら世の中はすっかりゴールデンウィークです。こちらは例年通り渋滞を避けて歌舞伎見物をしたり、地元の温泉に行ったりと、近場でのんびり楽しんでおります。今日は最近手に入れたヒストリカルなアルバムです。

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ハンス・スワロフスキー(Hans Swarowsky)指揮のウィーン国立歌劇場管弦楽団(Vienna State Opera Orchestra)の演奏で、ハイドンの交響曲97番、ウィーン交響楽団(Wiener Symphoniker)の演奏で交響曲1番、45番「告別」の3曲を収めたアルバム。収録は97番が1953年、他2曲が1951年のセッション録音。録音場所の記載はありません。レーベルはSPURAPHON原盤の日本コロムビア。

スワロフスキーの録音は何点かあったと思って、所有盤リストを検索してみると、1点もヒットしません。おかしいなと思って確認すると、当アルバムのスワロフスキーの綴りが間違っていました。ジャケットには堂々と”SWAROWSKI”と記載されていますが、正しくは”SWAROWSKY”。そう末尾が違います。他のアルバムやネットでは全て”SWAROWSKY”ですので、このアルバムが間違いですね。ちなみにガラスによる宝飾品のスワロフスキーは”SWAROVSKI”。オーストリアのチロル地方の創業で、こちらは末尾は”I”ですが、途中の”W”が”V”となります。ということで正しい綴りで検索し直すと、ウィーン国立歌劇場管弦楽団との「軍隊」、「太鼓連打」、アルフレート・ホラーのソロによるトランペット協奏曲、そして同じくウィーン国立歌劇場管弦楽団を振った「哲学者の魂、またはオルフェオとエウリディーチェ」全曲などのアルバムがあり、軍隊、太鼓連打のアルバムは過去に取り上げています。スワロフスキーの略歴などは下記の記事をご参照ください。

2012/02/21 : ハイドン–交響曲 : ハンス・スワロフスキー/ウィーン国立歌劇場管弦楽団の軍隊、太鼓連打(ハイドン)

リンク先の記事にも書いたように、スワロフスキーは指揮法の「名教師」としても名高い人で、ウィーン国立音楽大学指揮科の教授として活躍し、門下にクラウディオ・アバド、マリス・ヤンソンス、ズービン・メータ、アダム・フィッシャー、イヴァン・フィッシャー、ヘスス・ロペス=コボス、ブルーノ・ヴァイルなど錚々たる指揮者を育てました。また、ウィーン国立歌劇場管弦楽団との演奏自体も、現在聴いてもそのコントロールの素晴らしさを堪能できるものです。

そのスワロフスキーのハイドンの未入手の録音と知ってオークションで手に入れたもの。日本コロムビアの「ハンス・スワロフスキーの芸術」というシリーズの第4巻になります。綴りの間違いはイマイチですが、良いシリーズをリリースしてくれたものです。このアルバム自体のリリースは1997年です。

Hob.I:97 Symphony No.97 [C] (1792)
1953年録音ということで、もちろんモノラル録音ですが、音質は充分みずみずしく聴きやすい録音。ゆったりした序奏の後、主題に入ると恐ろしいほどのキレ味で畳み掛けてきます。現代でもこれだけのキレを聴かせるコントロールは滅多にありません。インテンポで物凄い勢いで攻め込まれますが、ゆったりとした休符を挟むので力ませに聴こえない素晴らしいバランス感覚。と思いきや曲の変わり目は休符を半分にしたくらい被せてきます! オケはスワロフスキーに煽られて赤熱する鉄塊のようにヒートアップ。このど迫力、同じくど迫力の名盤、アンチェルの93番を上回るもの。音量を上げて聴くとトップギアのウィーン国立歌劇場管弦楽団の奏者の汗が飛び散ってきそうなほどの迫力。特に弦楽器のボウイングは驚愕の力感。
続く2楽章はリラックスした演奏で入ります。テンポは速めで見通しの良い演奏。典雅な演奏とはこのことでしょう。キリリと引き締まったリズムに乗って秩序正しい演奏。展開部に入ると、オケが牙を剥き始めます。それでも全体的に気品すら感じさせる落ち着いた構成を保って入るのが流石なところ。
メヌエットはちょっとテープのコンディションが悪く、冒頭から少々音程がふらつくところがあります。演奏は前楽章がリズムの軽さを感じさせていたのに対し、こちらは適度な重量感を加えて迫力を増します。音量の対比と表情の変化を一定のリズムにまとめる素晴らしいコントロール。
そして期待のフィナーレは冒頭から冴え渡るオケの音色に釘付け。徐々に赤熱してくるオケ。1楽章の未曾有のキレの再現に耳が集中しますが、今度はキレた流麗さで驚かせます。速めのテンポも手伝って爽快そのもの。オケは余裕たっぷりにキレまくります。ちょっと音が飽和するところもありますが、最後は期待通りオケがキリリと引き締めて終わります。いやいや見事。

Hob.I:1 Symphony No.1 [D] (before 1759)
オケがウィーン交響楽団に変わります。ハイドン最初の交響曲ですが、手元の所有盤リストでは、その1番でも最も録音年代が古いもの。97番の異常とも言える冴え方とは異なり、こちらは平常心(笑)での演奏。ハープシコードが入ります。ただこの曲でも迫力と流麗さは充分に感じられ、やはりバランスの良さを感じさせます。オケも流石にウィーン響ゆえ典雅な音色でスワロフスキーの指示に応えます。1楽章の覇気、2楽章のしっとりとした表情、3楽章のじっくりとした描写と文句なし。

Hob.I:45 Symphony No.45 "Abschied" 「告別」 [f sharp] (1772)
このアルバムのもう一つの聴きどころはこの告別でした。冒頭の97番の突き抜けたど迫力の演奏に対し、この告別は実に趣深い名演です。録音年代が信じられないほどニュートラルな演奏。オケの精度はウィーン国立歌劇場管弦楽団には及びませんが、情感の濃さはこちらが上。1楽章から旋律のしっとりとした美しさと見通しのよい構成感が両立する素晴らしい演奏。そして2楽章のアダージョに入ると情感はさらに色濃くなりメロディーの美しさに絶妙の翳りが加わり絵も言われぬ雰囲気に。そしてあえてさらりとしたメヌエットで気分転換。中間部の陰りが続く終楽章を暗示させるのが流石なところ。
聴きどころの終楽章。前半はインテンポで畳み掛けますが、響きに独特の味わいが乗って迫力ばかりではなく趣深い音楽になります。そして奏者が一人ずつ去っていく有名なアダージョはゆったり優雅な音楽なんですが、スワロフスキーのコントロールには物悲しさを助長するように木管楽器をくっきりと浮かび上がらせます。最初は柔らかく暖かい弦の音色に包まれながらも、楽器が減っていくごとに徐々に響きの純度が上がっていき、テンポも少しずつ遅くなっていきます。最後に残るヴァイオリンの音色の美しさが印象的。この曲の美しさを知り尽くした演奏と言っていいでしょう。

アバドやメータ、アダム・フィッシャーなど名指揮者を育てたハンス・スワロフスキーの振るハイドンの交響曲3曲を収めたアルバムでしたが、このアルバム、「ハンス・スワロフスキーの芸術」というアルバムタイトル通り、スワロフスキーという人の芸術を堪能できる素晴らしいアルバムでした。97番はこれまで聴いたどのアルバムよりも踏み込んだオーケストラコントロールで97番という曲に込められたエネルギーを爆発させたような素晴らしい演奏。ウィーン国立歌劇場管弦楽団がこれほどまでに赤熱した演奏は聴いたことがありません。一方ウィーン響を振った交響曲1番と告別は趣深い名演奏。どちらも古い録音ながら、聴き続けられるべき価値を持った素晴らしい演奏です。評価は全曲[+++++]とします。

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tag : 交響曲97番 交響曲1番 告別 ヒストリカル

【新着】イル・ジャルディーノ・アルモニコの交響曲全集第4巻(ハイドン)

待ってました!

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ジョヴァンニ・アントニーニ (Giovanni Antonini)指揮のイル・ジャルディーノ・アルモニコ(Il Giardiono Armonico)の演奏で、ハイドンの交響曲全集の第4巻としてリリースされたアルバム。ハイドンの交響曲60番「迂闊者」、70番、12番と、チマローザのカンタータ「宮廷楽長」の4曲が収められています。収録は2016年3月13日から17日にかけて、ベルリンのテルデクス・スタジオでのセッション録音。レーベルはouthereグループのALPHA-CLASSICS。

このアルバム、リリースされたのは先月ですが、注文するのが漏れており、先日はっと気づいて慌てて注文したもの。ハイドンの交響曲全集を目指したプロジェクトゆえ私も特に注視しているわけですね。もちろん、これまでリリースされた3巻は全て取り上げております。

2016/10/09 : ハイドン–交響曲 : 【新着】イル・ジャルディーノ・アルモニコの交響曲全集第3巻(ハイドン)
2015/06/08 : ハイドン–交響曲 : 【新着】イル・ジャルディーノ・アルモニコの交響曲全集第2巻(ハイドン)
2014/11/08 : ハイドン–交響曲 : 【新着】イル・ジャルディーノ・アルモニコの交響曲全集第1巻(ハイドン)

当ブログの読者の方ならこのシリーズの企画についてはご存知だと思いますが、ご存知ない方は第1巻の記事をご参照ください。このシリーズ、第2巻でちょっと力みが見られましたが、第3巻では見事にそれを修正してきて、非常にいい仕上がりを予感させます。果たしてこの巻は如何なものでしょう?

選曲はこれまでの3巻はシュトルム・ウント・ドラング期の曲を軸に構成されていましたが、この巻ではシュトルム・ウント・ドラング期以後の曲を軸においた構成となり、本格的に全集を企てないと録音しない曲に手を伸ばしてきました。そして、中でもリズムの面白さが際立つ曲を集めてきました。選曲に攻めの姿勢を感じるのは私だけでしょうか。

また、アルバムの造りはこれまで通り非常に手のかかった美しいもので、コレクション欲を満たすもの。1巻ずつレギュラープライスで集めるのは値が張りますが、リリースも長期間にわたるため、それほど負担感もありませんね。

Hob.I:60 Symphony No.60 "Il disrratto" 「迂闊者」 [C] (before 1774)
冒頭の力漲る響きがスカーッと響き渡り、この巻の出来も安心できそうです。もともと喜劇のための劇音楽として書かれた音楽を交響曲にまとめた曲。序奏が終わると喜劇のための音楽とは思えないほどの怒涛のキレ味鋭い響きが襲いかかってきます。まるで竜がのたうちまわるがごとき躍動感。ファイのように一音一音の変化で機知を聴かせるのではなくあくまでも正攻法でグイグイ攻めてくる快感。アクセントの鋭さと迫力はかなりのもの。1楽章は、もはや喜劇の域は完全に超え、神々しささえ感じるほど。
続く2楽章のアンダンテは快速かつ滑らかに行きます。6楽章構成のこの曲の展開上、速めのテンポによる見通しの良さを狙っているのでしょう。オケの各パートの反応の良さもあって多彩な響きを楽しめます。アクセントのキレ、クッキリとした構成感は流石なところ。
メヌエットも速めで通します。舞曲であることを忘れてしまいそうな迫力と展開の面白さ。中間部で漂う異国情緒で一息入れて、再び舞曲に戻ります。
通常はフィナーレとなりますが、フィナーレのような曲調なのに終わりません。嵐の到来を告げるような騒がしさと躍動感の入り混じった楽章。唸る低音弦にジプシー風の旋律が絡まりユニークにまとまっていきます。
この曲の聴かせどころであるアダージョからアレグロへ変化する5楽章。いつもながら入りのメロディーの黄昏た印象からファンファーレに入る予想外の展開に驚きます。ハイドンマジック。
そして本当の終楽章。冒頭ヴァイオリンが音程を外してあえて調弦する様子が盛り込まれていますが、これぞハイドンの遊び心でしょう。こけおどしの面白さ半分、真面目に追い込むのが半分といったところでしょう。

Hob.I:70 Symphony No.70 [D] (before 1779)
この曲もリズムの面白さが聞きどころ。冒頭からリズムの面白さで遊びまくるよう。一つのテーマで曲をまとめるハイドンのユーモアが元になっていますが、演奏の方は攻めの構成で、緊張感を持続します。もう少し遊び心があってもいい気がしなくもありませんが、オケを精緻にコントロールして大迫力で仕上げてきますので、聴き応え十分。
続くアンダンテは弱音器付きの弦楽器の緊密なアンサンブルが聴きどころ。メロディーを様々な楽器が受け継いで進めていく地味ながらなかなか深みのある演奏。
メヌエットはオケがスタジオ中に響き渡る快感に満ちた演奏。非常にしなやかな中間部がうまくエネルギーを中和して一旦落ち着きますが、再び響きのエネルギーが戻り、その対比の面白さを印象付けます。
フィナーレはフーガ風の展開で無限の広がりを感じさせる構成。ここでフーガを持ってくるところにハイドンの冴えたアイデアがあるわけです。メロディーのアイデアも展開もユニーク。

Hob.I:12 Symphony No.12 [E] (1763)
最後に初期の交響曲を持ってきました。素直に爽やかな響きに耳を奪われます。音色の多彩さ、リズムのキレの良さを併せ持つ正統派の古楽器の演奏と言っていいでしょう。欠点らいしいものを見つけるのが難しいバランスの良い演奏。そして迫力やエネルギーも申し分ありません。
短調のアダージョはしっかりと陰りを纏い、落ち着いてじっくりと進めます。この先に到達するシュトルム・ウント・ドラング期の仄暗い雰囲気を先取りするような曲。低音弦の分厚い響きが迫力十分。古楽器とはいえ迫力面で現代楽器に負けている感じはしません。
フィナーレは再び晴朗な空のような明るさを取り戻します。隙のない緊密な演奏が産む充実感。冒頭の主題が次々に展開する面白さ、徐々に迫力を帯びてくる構成の面白さを存分に味わえます。

このあとチマローザの祝祭的なカンタータが置かれています。初めて聴く曲です。悪く言えばどんちゃん騒ぎのような曲ですが、これがめくるめくように展開して意外に面白い。序曲にレチタティーヴォを挟んでバリトンによるアリア2曲が聴きどころ、と書きかけたら、実はアリアよりもレチタティーヴォの方が面白い。こればかりは聴いていただかなくてはわかりませんね。ハイドンの交響曲を聴き終えてちょっとくつろいで聴けるという構成を意図したものでしょう。アントニーニも思いっきりくつろいだコントロール。このノリがハイドンでも欲しいところです(笑)

ジョヴァンニ・アントニーニ率いるイル・ジャルディーノ・アルモニコによるハイドンの交響曲第4巻ですが、すでに安定期に入りましたでしょうか。古楽器にしては十分な力感を表現できるオケによるキレの良い演奏が揃っています。このアルバムの曲だともう少し遊びがあってもいい気もしますが、アントニーニの狙いはあくまで正攻法によるタイトな演奏ということでしょう。演奏のレベルは非常に高く、鮮度の高い録音も手伝って、ハイドンの交響曲全集の企画にふさわしい安定感もあります。これだけの演奏を揃えられたら、やはりリリースされるごとに揃えたくなってしますね。そういう意味で全集企画は成り立ちそうですね。評価は全曲[+++++]とします。

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tag : 迂闊者 交響曲70番 交響曲12番 古楽器

ニコラス・クレーマー/BBCフィルの哲学者、ラメンタチオーネなど(ハイドン)

今日はちょっと心ときめくマイナー盤。

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ニコラス・クレーマー(Nicholas Kraemer)指揮のBBCフィルハーモニック(BBC Philharmonic)の演奏で、ハイドンの交響曲22番「哲学者」、26番「ラメンタチオーネ」、67番、80番の4曲を収めたCD。収録は哲学者が2008年6月26日、ラメンタチオーネが2009年1月28日、残り2曲が2007年6月21日、マンチェスターの新放送室第7スタジオでのライヴ。2009年のBBC music誌(Vol.17 No.11)の付録CD。

BBC music誌の付録はこれまでにもホグウッドの未発表録音だった交響曲76番、77番や、ジャナンドレア・ノセダの太鼓連打など、珍しい録音を何枚か手に入れています。今日取り上げるアルバムも含めてこれらは全て中古での入手。このアルバムもディスクユニオンで入手しました。

ニコラス・クレーマーはあまり知らない人と思いきや、以前に一度演奏を取り上げていました。

2010/10/09 : ハイドン–声楽曲 : アンドレアス・シュペリングのカンタータ集

上の記事のアンドレアス・シュペリングの祝祭カンタータ集の最後に収められた交響曲12番がクレーマーの指揮でした。シュペリングの繰り出す華やかな響きに対して、ゆったり慈しみ深い演奏が印象に残っています。

Wikipediaなどによるとニコラス・クレーマーは1945年スコットランドのエジンバラ生まれの指揮者、ハープシコード奏者。最初はハープシコード奏者として主にオーケストラのコンティニュオを担当していましたが、徐々に指揮する機会に恵まれ、1970年代にはイギリス室内管などの弾き振りなどで活躍、レパートリーもバロックから現代音楽まで拡大しました。その後1986年から92年までアイルランド室内管弦楽団、1985年から93年までロンドン・バッハ管弦楽団の音楽監督を務め、現在はマンチェスター・カメラータとシカゴのミュージック・オブ・ザ・バロックの首席客演指揮者、スイスのヴィンタートゥール・ムジークコレギウム管弦楽団の永世客演指揮者となっています。ライナーノーツによると、このアルバムのオケであるBBCフィルハーモニックとは日常的に仕事をしているそうです。

このアルバムに収められた4曲の交響曲ですが、これがまた癒しに満ちた素晴らしい演奏でした。

Hob.I:22 Symphony No.22 "Philosopher" 「哲学者」 [E flat] (1764)
冒頭からゆったりとしたオーケストラの美しい響きに癒されます。規則的なテンポに乗って各楽器が独特のシンプルなメロディーを受け継いでいきますが、録音は非常に良く、オケのそれぞれの楽器が溶け合って極上のとろけるような響き。弦楽器のビロードのような柔らかさ、木管楽器の自然な表情、そしてホルンの膨らみある柔らかさと言うことなし。BBCフィル素晴らしいですね。いきなりこの曲の真髄を突く演奏に惹きつけられます。
つづくプレストは穏やかながら躍動感満点。オーソドックスな演奏なんですが、このしなやかに躍動するリズムと、実に丁寧に繰り出される旋律の美しいこと。メロディーよりも支える内声部のハーモニーの美しさを意識したのか、若干弱めのメロディーがいいセンス。
メヌエットも穏やかながら実にキレのいい表現。奏者が完全にクレーマーのリズムに乗って素晴らしい一体感。ただ演奏するだけでハイドンの名旋律の美しさにとろけます。そしてフィナーレも期待どおり。ホルンがここぞとばかりにキリリとエッジを効かせてアクセントを加えます。素晴らしい疾走感。オケの響きは相変わらず極上。速いパッセージも落ち着きはらってさらりとこなす余裕があります。これは素晴らしい名演奏。名演の多いこの曲のベストとしても良いでしょう。放送用の録音ということでしょうか、最後に拍手が入ります。

Hob.I:26 Symphony No.26 "Lamentatione" 「ラメンタチオーネ」 [d] (before 1770)
哲学者以上に好きな曲。仄暗い始まりはシュトルム・ウント・ドラング期のハイドン特有の気配を感じさせます。この曲はピノックのキビキビとした演奏や、ニコラス・ウォードの名演が印象に残っていますが、同じスコットランドのウォードの演奏と似たオーソドックスなスタイルながら、ニュアンスの豊かさと響きの美しさはウォードを凌ぐ超名演。この曲でも美しい響きとメロディーのしなやかな展開、さっと気配を変える機転とクレーマーの繰り出す音楽にノックアウト。これは素晴らしい。オケも素晴らしい安定感。ライヴのノイズも皆無なのにライヴらしい躍動感に溢れています。
聴きどころの2楽章は予想より少し速めのテンポでサラリと入ります。聴き進むうちにじわりとこの曲の美しさに呑まれていきます。1楽章の豊かな響きをサラリと流すような清涼感が心地よいですね。
フィナーレも素晴らしい充実度。微妙にテンポを動かして豊かな音楽に。いやいや参りました。

Hob.I:67 Symphony No.67 [F] (before 1779)
録音が少しクリア度を増した感じ。冒頭から素晴らしい迫力と躍動感に圧倒されます。オーソドックスな演奏なんですが、正攻法での充実した演奏に圧倒されます。時代は古楽器やノンヴィブラート流行りですが、こうした演奏を聴くと、小手先ではなく曲をしっかりふまえた演奏の素晴らしさこそが重要だと改めて思い知らされます。よく聴くと弱音部をしっかりと音量を落として、しっかりと彫りの深さを表現していることや、畳み掛けるような迫力と力を抜く部分の表現のコントラストを巧みにつけるなど、やることはしっかりやっています。
弱音器付きの弦の生み出すメロディーのユニークさが聴きどころの2楽章のアダージョ。うねる大波のような起伏と、木管の美しい響きを象徴的に配して、静けさのなかにアクセントを鏤める見事なコントロール。終盤のピチカートは聴こえる限界まで音量を落とす機転を利かせます。
堂々としたメヌエットにヴァイオリンのリリカルな演奏が印象的な中間部とこれも見事。大胆なコントラストをつけているのに落ち着ききった演奏。そしてフィナーレは素晴らしい覇気のオケの響きを楽しめます。前2曲よりも時代が下ったことでオーケストレイションも充実していることを踏まえての表現でしょう。この曲ではコントラストの鮮明さが印象的でした。この曲も見事。

Hob.I:80 Symphony No.80 [d] (before 1784)
最後の曲。さらに時代が下り、オケも迫力十分。クレーマーの丁寧なコントロールは変わらず、オケのとろけるような響きの良さと安定度も変わらず。この曲のみ低音弦の音量が他曲より抑えている感じ。
アダージョのしっとりと落ち着きながらのゆるやかに盛り上がる曲想の表現、メヌエッットの自然さを保ちながらのキビキビとしたリズムのキレ、フィナーレの掛け声の応報のようなコミカルな展開の汲み取り方など非常に鋭敏なセンスで演奏をまとめます。もちろんこちらも見事。

BBC music誌の付録としてリリースされたアルバムですが、これが類稀なる名演奏でした。指揮のニコラス・クレーマー、特に日本ではほとんど知られていないと思いますが、以前取り上げた交響曲12番とこのアルバムを聴くと、そのオーケストラコントロール力はかなりのもの。特にハイドンの交響曲のツボを押さえていますね。この優しい、しなやかな演奏を好む人は多いと思います。ニコラス・ウォードのハイドンを超える素晴らしい演奏です。ということで4曲とも評価は[+++++]とします。中古で見かけたら即ゲットをお勧めします。

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tag : 哲学者 ラメンタチオーネ 交響曲67番 交響曲80番 ライヴ録音

【新着】ハイデルベルク交響楽団の35番、46番、51番(ハイドン)

前記事で取り上げたトーマス・ファイとハイデルベルク交響楽団による交響曲全集の23巻ですが、今日はその続きでCD2を取り上げます。前記事はこちら。

2017/03/05 : ハイドン–交響曲 : 【新着】トーマス・ファイの交響曲全集第23巻(ハイドン)

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前記事の再掲になりますが、収録情報にも触れておきましょう。CD2はファイの名前はなく、ベンジャミン・シュピルナー(Benjamin Spillner)がコンサートマスターを務めるハイデルベルク交響楽団の演奏で、交響曲35番、46番、51番の3曲。収録は2016年6月、ハイデルベルクの西20kmくらいのところにあるバート・デュルクハイム(Bad Dürkheim)にあるナチュラルホルンアカデミーでのセッション録音。レーベルはhänssler CLASSIC。

CD1がファイの名前が冠されていただけに、素晴らしい演奏を期待してしまいましたが、ちょっと肩透かしのようになってしまいました。このCD2は、ファイの再起が難しいと判明した後、22巻まで到達した交響曲全集を、オケのみで完成させようと、ある意味開き直っての録音のように思われます。

Hob.I:35 Symphony No.35 [B flat] (1767)
冒頭から格別の覇気が宿っています。勢いだけはまるでファイが振っているように錯覚するほど。まさに開き直ったといわんばかりにオケも攻める攻める。この痛快さを待っていました。よく聴くとファイならもう少し意表をついてくると思わせなくはありませんが、CD1よりもずっとイキイキとした演奏に嬉しくなってしまいます。おそらくCD1がファイのコントロールを失った直後の演奏だったのに対し、こちらはファイの意思を受け継いで、ここまで到達した交響曲全集の完成を志すよう、あらためてファイならばどうしたかをオケ全員が考えて演奏しているようです。まるでファイの魂が乗り移ったようなオケの熱演。この鬼気迫るオケの熱演にちょっと込み上げてくるものを感じます。
驚いたのが2楽章のアンダンテ。まるでファイのようにさらりと来ました! これまでのファイの録音を聴いて研究しつくしたのでしょうか。このさりげなさこそファイの緩徐楽章。もちろん、ファイ自身が振っていたら、もっと閃いていたんでしょうが、CD1で感じたやるせなさとは別次元の仕上がり。
ファイの想像力を再現するのが最も難しいと思われるメヌエットは、若干物足りない印象もありますが、中間部をぐっと落とし込むことでなんとかレベルを保ちます。そしてフィナーレで再び痛快さを取り戻します。オケ全員が偉大な才能に追いつこうと決死の演奏で臨みます。オケの心意気が心を打ちます。

Hob.I:46 Symphony No.46 [B] (1772)
おそらく告別交響曲の後に書かれた曲。ここでもベンジャミン・シュピルナー率いるハイデルベルク交響楽団は、まるでファイが振っているがごとく振る舞い、起伏に富んだ1楽章聴き応え十分な彫りの深さと機知を織り交ぜていきます。これは素晴らしい。よく聴くとファイらしくもあり、ファイらしくなくもあり、ファイなきハイデルベルク響の新たな魅力といってもいいでしょう。指揮者の才能ではなくオケの意思でここまでの演奏に仕上げてくるあたり、気合十分と言っていいでしょう。
つづくポコ・アダージョに入ると表現の変化の幅も十分。ハイドンの音楽を完全に消化して自らの音楽として歌い、仄暗いシュトルム・ウント・ドラング期の静謐な気配まで表現しつくします。指揮者の個性に頼らぬ音楽に聴こえなくもありません。これは見事。
この曲のメヌエットは迷いが無くなり、音楽の説得力が上がります。完全にファイの演奏を真似から脱し、オケ自らの音楽になってきた感じ。フィナーレも絶品。

Hob.I:51 Symphony No.51 [B flat] (before 1774)
前曲同様、表現に迷いなく、素晴らしい演奏。この曲も絶品です。当ブログの読者の皆さんも是非この素晴らしい演奏を聴いていただきたいと思います。

前記事を書いた時に感じた、なんとなくやるせない気持ち、そして悲しい気持ち、そして改めてファイの才能の偉大さに気づいたという気持ち。記事にするかどうか、ちょっとためらい、そしてなんとなくそのまま記事にしてしまったわけですが、今日改めてCD2を聴いて、そうしたもやもやが吹っ切れました。このアルバムが2枚組としてリリースされた深い意味がようやくわかりました。ファイを失い、混乱した状態のCD1に対し、2年という時間をかけてそれを克服し、ファイの遺産に負けないレベルの演奏で残りの曲を演奏し、全集を完成させようとする力強いオケの意思を感じさせるCD2。それをあえてまとめてリリースすることがハイデルベルク交響楽団のやるべきことだと世に問うたのでしょう。私はファイなきハイデルベルク交響楽団の素晴らしい演奏に心から感動しました。評価は3曲とも[+++++]とします。

皆さん、このアルバムは買いです!

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tag : 交響曲35番 交響曲46番 交響曲51番

【新着】トーマス・ファイの交響曲全集第23巻(ハイドン)

前記事でファイのハイドンの最初の録音を取り上げアップした翌日に、偶然にも待っていた新譜がamazonから届きました。

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トーマス・ファイ(Thomas Fey)指揮のハイデルベルク交響楽団(Heidelberger Sinfoniker)の演奏で、ハイドンの交響曲6番「朝」、7番「昼」、8番「晩」の3曲に、ファイの名前はなく、ベンジャミン・シュピルナー(Benjamin Spillner)がコンサートマスターと記されハイデルベルク交響楽団の演奏による、交響曲35番、46番、51番の3曲、合わせて6曲を収めた2枚組のアルバム。収録はファイの3曲が2014年3月、他の3曲が2016年6月、どちらもハイデルベルクの西20kmくらいのところにあるバート・デュルクハイム(Bad Dürkheim)にあるナチュラルホルンアカデミーでのセッション録音。レーベルはもちろんhänssler CLASSIC。

このアルバムですが、CD1の3曲はファイの指揮とされる録音。ファイの交響曲集のこれまで最後にリリースされた22巻が2013年の9月から10月の録音。そしてこの23巻の収録が約半年後の2014年の3月とのことですが、22巻のリリースは2014年8月でしたので、このアルバムはそれから2年半も経ってからのリリースとなります。ファイが脳損傷になって再起が危ぶまれるという情報は出回ったのですが、いつ頃のことなのかなど詳しいことはわかりません。私の想像ですが、このアルバムがファイの指揮で編集まで済んでいた状態だったとしたらもう少し早くリリースされていたはずですので、編集段階か、あるいは録音の途中でアクシデントに襲われたのではないかと思います。とすると、このアルバム、前半のファイの指揮の曲の出来もそうした状況の手がかりとなります。

2017/03/03 : ハイドン–協奏曲 : ファイ/シュリアバッハ室内管のピアノ協奏曲集(ハイドン)

前記事のファイの原点たる1999年録音の協奏曲集が素晴らしいキレで度肝を抜く演奏だったのもあって、このアルバムにファイの最後の魂が乗っているかが非常に気になり聴き始めた次第。

Hob.I:6 Symphony No.6 "Le matin" 「朝」 [D] (1761?)
聴く耳を立てているせいか、厳かな始まりに聴こえます。演奏としては快活ないい演奏なんですが、ファイらしい個性というか突き抜けたところが影を潜め、普通に精緻ないい演奏。低音弦のキレ方などはファイの特徴を感じさせますが、ファイだったこちらの想像を超えるアイデアが次々とくりだされてくるはずとの先入観に対して、普通に精緻な今風の演奏。もしかしたら、この録音、最後までファイが振ったものではないのではないかとの想像がよぎります。こちらの期待を蹴散らす豪放さがないのでちょっと肩透かし。
つづくアダージョ楽章はファイならば表情を抑えて淡々とくるところですが、ほどほどに起伏もあり、こちらも普通にいい演奏。録音がいいので弦楽器の響きの美しさは惚れ惚れするほど。落ち着いたテンポによる丁寧な表現がかえってファイっぽくない感じを醸し出してしまいます。こちらも普通にいい演奏なんですが、ファイらしさがあまり感じられません。
メヌエットも実にゆったりとした表情で進みます。ファイだったらこうはしないと思います。導入も展開部も勢いで攻めてくるところはなく、落ち着いた判断で乗り切ります。
なんとなくここまで特段オケが一肌脱ぐ感じとなったことはなく、終楽章もそれぞれ役割を果たすべくオケの奏者がしっかりと実力を発揮して、演奏を律儀にまとめています。どうしたことでしょう。繰り返しに閃きが宿るわけでもなく、非常にオーソドックスな演奏が続きます。もちろんいい演奏なんですが、ちょっと肩透かしを食らった感じです。

Hob.I:7 Symphony No.7 "Le midi" 「昼」 [C] (1761?)
つづく昼ですが、朝よりもキレていてひと安心。曲想のせいか、展開の速さに合わせて生気が戻ります。朝では踏み込めなかったエネルギッシュな場面も多々あり、なかなかスリリングです。ただ、ファイ特有の多様な変化にまではいたっていません。
2楽章は交響曲には珍しいレチタティーヴォアダージョ。劇的な展開の面白さが聴きどころ。徐々に曲の面白さの真髄にせまりつつあります。次々と繰り出される変化球のようなメロディーの描き分けもなかなかのレベル。かなり踏み込んできていますが、ファイの突き抜けた想像力の域と同じようにはいかないようです。
メヌエットはかなりテンポを落として念入りな描写。念入りなところがちょっと一本調子な印象を残してしまいます。そしてフィナーレもちょっと重さを感じさせるもの。ファイのフィナーレでこのようなことはありません。

Hob.I:8 Symphony No.8 "Le soir" 「晩」 [G] (1761?)
CD1の最後の曲。ここまで一番生気を感じる楽章。勢いで曲をあおっていく迫力を感じます。この曲にはファイの存在が感じられなくもありません。2楽章のアンダンテでも楽器感のバランスやアクセントには閃きが感じられ、穏やかな音楽にもかかわらずキラリとひかるものがあります。音楽も今までで一番起伏に富んでいます。そして3楽章のメヌエットへの入りのセンスも悪くありません。コントラバスのユーモラスなメロディーもそれなりにこなし、演出も十分表現力豊か。ですが、ファイだったらさらに突き抜けた面白さを聴かせるだろうと想像してしまいます。フィナーレも雄弁。あのスリリングさ戻ってきました。

今日のレビューはここまでにしておきます。

ちょっと複雑な心境となってしまった、トーマス・ファイの交響曲の23巻。まったく私の勝手な想像ですが、なんとなくこのアルバムの朝、昼、晩の3曲の録音にあたり、晩はリハーサルまでこなしたところまでファイが関わり、その他の曲は関わってもごく浅いレベルまでだったような気がします。特に昼はまったくファイらしくない単調さや重さが見られ、朝も演奏自体は悪くないものの、これまでの多くの演奏からつたわるファイの個性が感じられません。リリースまで時間がかかったのもこの状態でのリリースについていろいろ考えるところがあったのかもしれませんね。ただ、このアルバムの演奏は、このアルバム自体の良し悪し以上に、この演奏から逆にファイのこれまでの非凡さが浮かび上がるという意味でもリリースした意味があると思います。やはりオーケストラで最も重要なのは指揮者だということがよくわかりますね。これまでファイの全集を応援してきた私としては、このあとリリースされるアルバムの状態如何にかかわらず、サポートしていきたいと思います。評価は晩が[++++]、朝と昼は[+++]とします。

ファイの名をはずしたCD2については次の記事で!

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レイモン・レッパード/イギリス室内管の哲学者、47番(ハイドン)

はい、LPです(笑)

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レイモン・レッパード(Laymond Leppard)指揮のイギリス室内管弦楽団(English Chamber Orchestra)の演奏で、ハイドンの交響曲39番、22番「哲学者」、47番の3曲を収めたLP。収録に関する情報は記載されていませんが、別途リリースされているCDに含まれている47番が1968年12月の録音ということで、おそらく3曲とも1968年ころの録音だと思われます。レーベルは蘭PHILIPS。

このLPは先日開催した第2回ハイドンオフの当日、開催前の時間にディスクユニオンで仕入れたもの。レイモン・レッパードは地味な指揮者ですが、以前取り上げた演奏はなかなか良く、好きな指揮者の一人。そのレッパードのLPを見かけ、収録曲を所有盤リストで調べてみると、39番と47番は手許にCDがあるものの、哲学者については未所有音源だとわかり、手に入れたもの。しかも未所有の曲は好きな「哲学者」で、LPもオランダプレスのPHILIPS盤ということで、手に入れないわけには参りませんね。

2014/11/11 : ハイドン–交響曲 : レッパード、マッケラスの交響曲77番、34番、18番(ハイドン)
2014/03/27 : ハイドン–交響曲 : レイモン・レッパード/イギリス室内管の交響曲39番(ハイドン)
2013/06/01 : ハイドン–協奏曲 : モーリス・ジャンドロンのチェロ協奏曲1番、2番
2012/08/27 : ハイドン–交響曲 : レイモン・レッパード/イギリス室内管のラメンタチオーネ
2011/02/20 : ハイドン–協奏曲 : アルテュール・グリュミオーのヴァイオリン協奏曲
2010/11/03 : ハイドン–オペラ : ベルガンサのオペラアリア集
2010/06/05 : ハイドン–交響曲 : レイモン・レッパードのハイドン

レッパードの略歴などについてはラメンタチオーネの記事をごらんください。今日はこのアルバムに含まれている3曲のうち、冒頭の39番は米Haydn HouseのCD-Rを取り上げており、その原盤がこのLPということで、哲学者と47番を取り上げましょう。39番もCD-RとこのLPの音質比較などをする余地があるのですが、もともとHaydn HouseのCD-Rは湖国JHさんからお借りしていたものということで、手元にないため、比較は断念です。

Hob.I:22 Symphony No.22 "Philosopher" 「哲学者」 [E flat] (1764)
どうもこの曲は好みのツボがあるようで、冒頭から朴訥な音楽が流れると一瞬にしてハイドンの世界に引き込まれます。規則的に刻まれるリズムに乗って木管楽器と弦楽器によって奏でられるメロディーの心地よいこと。LPもミントコンディションで言うことなし。音量を絶妙にコントロールしながらゆったりとした起伏が描かれ、いきなりの味わい深さ。特に音量をスッとおとしながら弱音器つきの弦楽器が奏でるやさしい旋律に癒されます。何もしていないのですが、曲の真髄をえぐる演奏にアドレナリン噴出。
2楽章のプレストは実に落ち着いた演奏。キビキビとしているのですが、盤石の安定感で、オケも軽々と楽しみながら演奏しているよう。1楽章のアダージョでグッと聴かせたあとの爽快なプレスト。まさに展開の妙が味わえます。3曲入りのLPの2曲目ということで、2楽章の終わりでLPをひっくり返さねばなりません。

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3楽章のメヌエットも実に堂に入ったもので、コミカルかつ美しいメロディーの連続にハイドンの交響曲の楽しさが炸裂。適度にキレ良く、適度に弾み、適度に落ち着いたまさに名演奏。この自然さは素晴らしい。
そしてフィナーレに入るとここぞとばかりにオケが踊りだします。弾む弾む。これは演奏していたら楽しいですね。よくぞこれだけ曲に素直に楽しんで演奏できるものです。よく聴くとアクセントに独特なところもなくはないのですが、決して自己主張するようなことはなく、最後まで曲に素直な演奏で楽しませてくれます。これぞハイドン!

Hob.I:47 Symphony No.47 [g] (1772)
つづいて47番。この曲はマリナーの名前付き交響曲集に含まれているのでこのLPではじめて聴くわけではありません。後記するようにこの曲にもニックネームがついているために、マリナーの選集を補完す役割を担わされたということでしょう。演奏のスタイルは哲学者と変わらないものの、曲想にあわせて、冒頭からキレよく入ります。哲学者でもそうでしたが、ホルンの音色が実に美しい。オケの音色に華やぎが加わります。曲が速い分、オケの精度は哲学者より少し荒い気がしなくもありませんが、そんなことが気になるような演奏でもなく、冒頭から曲に引き込まれっぱなし。リズムがイキイキと弾み、弦のボウイングも鮮やか。
2楽章は流石に「告別」と同時期のシュトルム・ウント・ドラング期の最盛期に書かれた曲だけあって、仄暗い陰りと深みに溢れた名曲。レッパードは相変わらず安定感抜群で、邪念なくハイドンの曲に込められたこの時代の空気を再現することに集中しているよう。変に感傷的になることもなく、味わい深くもありながら淡々と曲を進め、曲自体の魅力を聴かせる役に徹します。次々と展開するメロディーの面白さに耳が釘付け。さらさらと筆が運ばれるしなやかな筆致。
3楽章のメヌエットは途中から逆行するためこの曲にはパリンドロウム(回文)というニックネームがついています。短い曲ながらハイドンの遊び心が込められた名旋律。
そしてフィナーレは1楽章のキレ味と呼応するようにオケが鮮やかさを取り戻します。曲の規模に対してフィナーレの充実度が勝るように感じるほどフィナーレは展開していきます。レッパードもここにきて畳み掛けるように攻めて終わります。

レイモン・レッパードと手兵イギリス室内管によるハイドンの交響曲集ですが、レッパードの無欲のコントロールがハイドンの交響曲の魅力を上手く引き出している感じ。録音も流石はオランダプレスのPHILIPSだけあって、1960年代としては十分瑞々しく、曲を存分に楽しむことができます。ちなみに哲学者はやはり一歩味わい深さが違いますね。47番の方はそれに比べると少し劣る感じがします。ということで評価は哲学者を[+++++]、47番を[++++]といたしましょう。

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tag : 哲学者 交響曲47番 ヒストリカル LP

ダグラス・ボストック/ボヘミア室内管の帝国、ラ・ロクスラーヌ(ハイドン)

本日は最近手に入れて感心したアルバム。

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TOWER RECORDS / amazon / ローチケHMVicon

ダグラス・ボストック(Douglas Bostock)指揮のボヘミア室内フィル(Chamber Philharmonic of Bohemia)の演奏で、ハイドンの交響曲53番「帝国」、63番「ラ・ロクスラーヌ」の2曲を収めたアルバム。収録は1999年、チェコのブラハの東のパルドヴィツェ(Paldubice)でのセッション録音。レーベルはCLASSICO原盤で手元にあるのはScandinavian Classicsという廉価盤然としたもの。

このアルバム、ただハイドン中期の交響曲2曲を収めたというだけでなく、帝国の方は4種のフィナーレ、ラ・ロクスラーヌの方は2種のメヌエットとフィナーレの演奏が収められており、原盤の方には世界初録音との記載がされています。

そもそもこのアルバムを手に入れたのは、同じ演奏者による交響曲88番、89番などを収めたアルバムを最近入手して、なかなかの出来だったため。指揮者もオケも未知の奏者でしたが、交響曲の他に「アチデとガラテア」序曲、「薬剤師」序曲、「突然の出会い」序曲などが盛り込まれ、アルバムの造り自体にハイドンの曲へのこだわりが感じられ、また、演奏の方も正攻法にきっちりオケを鳴らし、見事な吹き上がりが聴かれました。これはいいということで、こちらのアルバムもすぐに取り寄せたもの。聴いてみると、今日取り上げるアルバムの方がさらにいいということで記事にすることにした次第です。

指揮者のダグラス・ボストックですが、1955年イングランド北西部のチェシャー州ノースウィック(Northwich)生まれの指揮者。シェフィールド大学を出て、ロンドンでサー・エイドリアン・ボールトに師事。1980年より南西ドイツ・フィルハーモニー管弦楽団の首席指揮者、1991年より1998年までカルロヴィ・ヴァリ交響楽団の音楽監督・首席指揮者、1992年にはチェコ室内フィルハーモニックの首席客演指揮者となり、1997年よりミュンヘン交響楽団の常任指揮者を務めました、彼のウェブサイトのディスコグラフィーを見ると、今日取り上げるアルバムのオケはチェコ室内フィルと表記されているので、現在はそう呼ばれているのでしょう。日本にもゆかりがあり、2000年東京佼成ウインドオーケストラの常任指揮者、2006年より2011年6月まで東京佼成ウインドオーケストラの首席客演指揮者を務めた他、2012年4月より東京藝術大学音楽学部招聘教授とのことです。

douglas-bostock

なんとなくハイドンに拘りがありそうな選曲のアルバムを2枚リリースしているボストックですが、ウェブサイトを見るとこれまでかなりの数のアルバムがリリースされており、しかもマイナー系の作曲家のアルバムが多く、ハイドンも普通は選ばない曲を持ってきており、なんだか拘りがありそうな人ですね。

ちなみに、帝国の4種のフィナーレについてと、ラ・ロクスラーヌの2種のメヌエットとフィナーレについては、よくコメントをいただくHaydn2009さんのウェブサイトに詳しい解説があるのでそちらをご覧ください。

ハイドン作品辞典:交響曲(4)
ハイドン作品辞典:交響曲(5)

このサイト、ハイドンの作品についての情報が網羅的に記されており、非常に役立ちます!

Hob.I:53 Symphony No.53 "L'Imperiale" 「帝国」 [D] (1778/9?)
実に気持ちよくオケが鳴り響きます。88番の方のアルバムは響きがちょっと痩せていたのですが、こちらは豊穣。正攻法でオケがくっきりとメロディーを奏でていきます。メロディーに対してアクセントをかなりしっかりとつけているんですが、適度な範囲を保っているのでくどい感じは皆無。これほど気持ちよく響くオケの録音は滅多にありません。ストレスなくキリリと吹き上がるアクセントの快感。管弦楽の真の魅力は実はこうしたところにあると気づかされるような演奏。抜群のリズム感で曲がクイクイ進み、絶えることなく響きのシャワーが心地よく降り注ぎます。曲に合わせてタクトを振りたくなりますね。響きの快感一本に焦点を絞ったボストックの見事な手腕。この時期のハイドンの曲の理想的な演奏でしょう。
アンダンテもハープシコードの繊細な響きを纏いながらリズミカルな演奏が続きます。純粋無垢な響き自体がいかに素晴らしいかを思い知らされます。ふとした転調の瞬間の美しさが際立ち、テンポの一貫性がかえって情感を煽ります。淡々とした曲のさりげない表情の美しさに昇天。こりゃ絶品です。
予想通り、メヌエットはボストックの良いところが一番活きるところ。メヌエットのリズムがこれだけ弾む演奏はそれほどありません。アンダンテではテンポを動かさず颯爽とした魅力で聴かせたんですが、メヌエットではフレーズごとにリズムを変え、曲想の面白さを強調します。なかなか見事なコントロール。
そして問題の4種のフィナーレですが、A、B、C、Dと順に収録されてます。AとBはハイドンの作とされており、Cはハイドンの作ではなく、Dは序曲の転用とのこと。Aが一番馴染むのはもちろん、Bは交響曲62番のフィナーレに転用されていますの聴き覚えがあります。Cは明らかにハイドンから格が落ちるので私でもハイドン作とは思えません。Dは序曲(Hob.Ia:4)の転用です。この4種の演奏とも、演奏はキレの良いものですが、とりわけAとBの充実度は素晴らしいものがあります。

Hob.I:63 Symphony No.63 "La Roxelane" 「ラ・ロクスラーヌ」 [C] (before 1781)
1楽章は歌劇「月の世界」の序曲の改作。ボストックのリズムのキレの良さは一貫していて、この曲でもオケの響きの快楽に包まれる見事な入り。この異次元のキレの良さこそがハイドンの曲が映えるポイントとの確信に満ちているよう。聴いているこちらが身を乗り出してかぶりつきで聴き入ります。
そして、この曲でも2楽章のアレグレットは一貫して速めのテンポで描いていきます。筆のタッチは一貫していながらパレットの色数が多いので実に繊細で深いニュアンスが伴います。この楽章は木管楽器が大活躍。リズムのキレは木管も同様、ボストックのコントロールが行き渡ってます。
そしてAパターンのメヌエットとフィナーレが続きますが、メヌエットの充実ぶりは前曲同様で、スカッと気持ちよくオケが反応します。この曲自体が色々な曲のつぎはぎで出来ているとのことで、ハイドン特有の緊密さは少し不足するものの、曲が展開するアイデアは相変わらず常人の想像を超えたレベルにあります。
Bパターンもメヌエットは見事。こうしてヴァージョンの違いに耳が行ってしまうのは、このアルバムの素晴らしい演奏を考えるとちょっと損かもしれませんね。ただ、マイナーなレパートリーに執着のあるボストックのことですから、本人的には必然性があったのでしょう。最後はちょっと色々聴き比べることに集中出来なくなり聴き終えましたが、演奏は前曲同様素晴らしいもの。できれば聴く時はヴァージョンを決めて他のヴァージョンをスキップした方が音楽に集中できるかもしれませんね。

ダグラス・ボストック指揮のボヘミア室内フィルの演奏によるハイドン中期の交響曲2曲を収めたアルバム。演奏は触れたとおり、オケの気持ち良い響きを存分に味わえる素晴らしいもの。おまけで両曲の異なるヴァージョンが収録されていますが、それに惑わされることなく、このキレの良い演奏を存分に楽しむべきアルバムですね。ハイドンの交響曲の中では地味な選曲ですが、その曲がこれだけ鮮やかに演奏されることで、真価を再認識できる素晴らしいアルバムです。評価は両曲とも[+++++]とします。

ボストックは2012年から藝大の先生ということで、生徒の方々もこれだけのハイドンを振る人との認識はないかもしれませんが、オケを鳴らすことにかけては才能溢れる人です。他の曲の録音も期待したいところですね。

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tag : 帝国 ラ・ロクスラーヌ

ヒュー・ウルフ/セント・ポール室内管の交響曲1番(ハイドン)

皆さま、明けましておめでとうございます。今年も激ニッチな当ブログをよろしくお願いいたします。

お正月最初のレビューはハイドンの交響曲1番のアルバム。最近手に入れたものですが、キレ味抜群の演奏でした。

HughWolff1.jpg
TOWER RECORDS / amazon1 / amazon2 / amazon3

ヒュー・ウルフ(Hugh Wolff)指揮のセント・ポール室内管弦楽団(The Saint Paul Chamber Orchestra)による、プロコフィエフの交響曲1番「古典」、ハイドンの交響曲1番、ビゼーの交響曲の3曲を収めたアルバム。収録は1992年9月、アメリカ、ミネソタ州のセント・ポールにあるオードウェイ劇場(現オードウェイ・パフォーミング・アーツ・センター)でのセッション録音。レーベルはTELDEC。

なにやらちょっとアーティスティックにハイドン、プロコフィエフ、ビゼーの肖像がコラージュされたジャケットのアルバム。アルバムのタイトルは「ビゼー、プロコフィエフ、ハイドン交響曲1番」というもの。古典期から近代までの3人の作曲家の「古典的な」最初の交響曲を並べた不思議な企画。

プロコフィエフの交響曲1番がハイドンの作品にインスピレーションを得たものであるのは有名なことであり、この2人を選んだ意図はなんとなくわかるのですが、これに、特に交響曲が有名ではないビゼーをもってきたところにこの企画の真意が今ひとつ分かり難いところ。想像するに、プロコフィエフの曲はもとより、ビゼーの交響曲もハイドン以来の交響曲の伝統的な4楽章構成ということで、時代を超えてハイドンが構築した交響曲という形式が受け継がれているということから選ばれているような気がします。ただしここで選ばれている肝心のハイドンの交響曲1番は3楽章構成ということでどうも座りが悪い。ということで、そうした点よりも、素直にタイトル通り「交響曲1番」という、それぞれの作曲家が「最初に」書いた交響曲の着想を比較するというのが狙いでしょうか。そうした点においても、交響曲というジャンルを確立したハイドンの曲の完成度、そしてハイドンの手法に着想を得たプロコフィエフそれぞれの完成度の高さに比べてビゼーの交響曲が一歩劣って見えてしまう感じ。個人的にはビゼーの代わりにメンデルスゾーンあたりを持ってきた方が並びが良かったように感じます。

選曲というか、アルバムの企画意図はさておき、このアルバムに興味を持ったのは演奏がヒュー・ウルフとセント・ポール室内管だったから。コアなハイドンファンならご存知の通り、この組み合わせでパリセットの交響曲6曲の録音が残されていますが、これがスタイリッシュで端正な演奏で実に素晴らしいもの。以前に代表して86番を取り上げています。

2011/12/19 : ハイドン–交響曲 : ヒュー・ウルフ/セント・ポール室内管の86番

今日取り上げるアルバムはこのパリセットのアルバムとほぼ同時期の録音ということで、出来が気になります。奏者の情報などは前記事をご参照ください。

ということで、CDをプレイヤーにかけてみると、1曲目のプロコフィエフがいきなりキレまくってます! この曲は手元にキタエンコ/ケルン・ギュルツェニヒ管盤、小澤/ベルリンフィル盤、ゲルギエフ/ウィーンフィルのDVDがありますが、テンポも一番速めで、何よりオケの鮮やかな反応が素晴らしい。新古典的な諧謔さよりも、プロコフィエフの書いた千変万化する響きを鮮烈に聴かせようということでしょう。これは見事。キタエンコ盤の馬力、小澤盤の諧謔性、ゲルギエフの統率されたエネルギーに対して、この鮮やかでスタイリッシュな演奏からプロコフィエフの前衛と古典の均衡が浮かび上がります。この鮮烈なプロコフィエフの演奏でこのコンビのキレの良さを再認識。

Hob.I:1 Symphony No.1 [D] (before 1759)
続いてハイドンの交響曲1番。痛快なほどの速めのテンポと、キレキレの鮮やかさは変わらず。このスピード、以前取り上げたファイの1番の異常なまでのハイスピードには劣りますが、それでもかなりもの。ハイドンの晴朗なメロディーがたたみかけるようにスピーディーに流れ、くっきりとしたコントラストと華やかな色彩感を帯び、しかも古典の均衡を守った名演奏。速めのテンポにホルンを始めとした管楽器もピタリとついてキレ味を保ちます。
続くアンダンテも実に爽やか。キビキビとした曲の運びが心地よいリズムを刻みます。小規模オケの俊敏な反応の良さが活きていますね。一貫してリズムのキレを保ちながら巧みに音量を変化させメリハリも充分。
フィナーレは再び小気味好いほどの切れ味が戻り、ハイドンの典型的なフィナーレの形式的な美しさを早くも感じさせます。鮮やかなオケの反応を存分に活かした素晴らしい演奏でした。

続くビゼーは、個人的にはほとんど馴染みのない曲。かなり昔にハイティンクの演奏を聴いた記憶があるくらい。オケの反応は相変わらず素晴らしいのですが、曲が今ひとつしっくり来ないため、なんとも評しがたいところ。ビゼーといえばカルメンですが、今回調べてみると、ビゼーの生前はカルメンも含めてあまり評価されていなかったとのこと。この曲もかなり実験的というか、カルメンで聴かれる美しいメロディーの萌芽も2楽章にわずかに感じられる程度で、ビゼー自身の試行錯誤が見えるような印象。その若書きをヒュー・ウルフが爽やかにまとめたというところでしょう。

このアルバムを最後まで聴いて、ようやくヒュー・ウルフの「鮮やか」、「爽やか」、「スタイリッシュ」と言いう特徴が、3人の作曲家の「若書き」というかフレッシュなアプローチを実に周到に考えてまとめているような気がしてきました。私自身はこういう意欲的な企画ものは嫌いではありません。単なる曲の演奏ではなく、作曲家や曲の組み合わせかから新たな視点が生まれ、その視点から俯瞰した景色の新鮮さが生まれるわけです。最初はなんとなく腑に落ちない企画でしたが、ようやくしっくりときました。肝心のハイドンの演奏は[+++++]とします。パリセット以上にヒュー・ウルフの演奏の面白さが感じられる秀演です。

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tag : 交響曲1番

アントニオ・デ・アルメイダ/ハイドン協会管による交響曲集(ハイドン)

12月最初のアルバムは交響曲。最近オークションで手に入れたもの。

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アントニオ・デ・アルメイダ(Antonio de Almeida)指揮のハイドン協会管弦楽団(The Haydn Foundation Orchestra)の演奏で、ハイドンの交響曲67番、69番「ラウドン将軍」の2曲を収めたLP。収録は解説によると1969年。レーベルは日本ビクター。

このアルバム、ご存知の方もいらっしゃるでしょうが、この他に3枚、合わせて4枚のシリーズ物。いずれもアルメイダ指揮のハイドン協会オーケストラによるもので、シリーズは下記の通り。

第1集 交響曲62番、66番
第2集 交響曲67番、69番「ラウドン将軍」(本盤)
第3集 交響曲70番、71番
第4集 交響曲74番、79番

今回、この4枚とも入手できたので、色々聴き比べてこのアルバムをレビューに選んだ次第。国内盤ゆえ日本語の解説が付いているのですが、ハイドンの著作で有名な大宮真琴さんによるもので、ロビンス・ランドンがハイドン協会などで主導した、1960年代から70年代当時のハイドンの交響曲の録音の経緯がよくわかります。まずは、1960年からマックス・ゴバーマンとウィーン国立歌劇場管弦楽団による全集が企画された件はゴバーマンのレビューで触れた通りですが、1962年のゴバーマンの急死で中断。続いて1967年から1968年にかけて、デニス・ヴォーンとナポリ管弦楽団によるパリセットなど82番から92番と協奏交響曲など12曲を録音。そしてロビンス・ランドンが1968年に完成したランドン版の交響曲全集をもとに、このアントニオ・デ・アルメイダとハイドン協会管弦楽団によって60番代から81番の17曲と93番から98番までの6曲が録音されたそう。国内盤でリリースされているのが上記の8曲のみということで、60番代から81番までにあと9曲の録音がある模様ですが、ネットを検索してもそれらしきアルバムは見当たりません。まあ、気長に探してみることにします。

指揮者のアントニオ・デ・アルメイダは1928年パリ近郊のヌイイ=シュル=セーヌ (Neuilly-sur-Seine)生まれの指揮者。父はポルトガル人、母はアメリカ人。10代でアルゼンチンに渡り、ヒナステラに音楽理論を学び、その後ボストンのMITで核化学を専攻するという変わった経歴の持ち主。ただし音楽への興味は尽きず学生オーケストラを組織し、ヒンデミット、クーセヴィツキー、セルなどの薫陶を受け、指揮活動を本格化。1949年にリスボンでポルトガル国立放送交響楽団を指揮してデビュー。同年からポルトガル北部のポルトのポルト交響楽団の首席指揮者に就任。1962年から1964年までシュトゥットガルト・フィルの首席指揮者、1965年から1966年までパリ・オペラ座の指揮者、1969年から1971年までヒューストン交響楽団の首席客演指揮者、1971年から1978年までニース・フィルハーモニー管弦楽団の音楽監督、1993年から1997年に亡くなるまで、モスクワ交響楽団の音楽監督を務めるなど各地のオケの首席指揮者を歴任しました。オッフェンバックの研究で知られる他、1968年からロビンス・ランドンと共にハイドン協会の音楽監督を務めたとのこと。

ということで、現在ではハイドンの交響曲といえばドラティ以後の録音が知られる存在ですが、マックス・ゴバーマン、デニス・ヴォーン、そしてこのアントニオ・デ・アルメイダがドラティ以前にロビンス・ランドンと共に果たした役割は非常に大きかったに違いありませんね。

このアルバム、針を下ろしてみると、なんとも素晴らしい響きが流れ出します。国内盤なので音質はさして期待していませんでしたが、部屋中に優美な響きが轟く素晴らしい録音です。

Hob.I:67 Symphony No.67 [F] (before 1779)
いきなり彫りの深い、LPならではの彫刻的なオケの響きに引き込まれます。この時期のハイドンの曲はメロディーの適度に晴朗な面白さと巧みな構成がバランスよくまとまったもの。それをわかりやすく表現するようにテンポはややゆっくり目ながら、テーマを適度な推進力で牽引していきます。オケも弦楽器を中心に潤いのある音色がピシッと揃ってなかなかのもの。特に弦楽器の深い響き、木管楽器の軽やかな響きはかなりのレベルです。
続くアダージョは弱音器付きのヴァイオリンによる甘美なメロディーが印象的な曲。曲が滔々と流れゆく感じがよく表現されていて、非常に自然な佇まい。時間がゆったりと流れていく感じが心地よい音楽。最後にコル・レーニョ奏法でコミカルな余韻を残します。
メヌエットは壮大な構えの音楽。非常に雄大な響きを聴かせたかと思うと、中間部のトリオは、ヴァイオリン2本のみの繊細な響きではっとさせられます。
そしてフィナーレは、予想とは異なるかなり遅めのテンポ。まさに壮大さが滲み出てくるよう。これぞオーソドックスなスタイルと言わんばかりの確信犯的アプローチでしょう。ちょっと歴史を感じてしまいますね。フィナーレにもゆったりとした中間部が挟まれ、今度は2本のヴァイオリンとチェロによる三重奏。これがしんみりと聴かせる聴かせる。一貫してゆったりとしたテンポなので徐々に音楽がとろけるように聞こえてきます。途中慟哭のような強奏が挟まり、まるでロマン派の音楽のような展開を経て、冒頭のメロディーを再現します。いつもながら、尽きないハイドンのアイデアに驚くばかり。なかなか壮大な名演です。

Hob.I:69 Symphony No.69 "Laudon" 「ラウドン将軍」 [C] (before 1779)
こちらもゆったりとしたテンポでの入りですが、オケには最初から力が漲り、一筆一筆しっかりとした筆致で筆を進めていきます。一音一音にエネルギーが満ちて、しかも確信に満ちた説得力というかオーラを感じる演奏。現代ではこのようなスタイルの演奏はもう聴かれてなくなってしまったのかもと、余計なことを考えてしまいます。若干古さを感じさせながらも、圧倒的な存在感が印象的な演奏です。
続く2楽章は、前曲同様、弱音器付きのヴァイオリンなどによるハイドンらしい音楽が展開します。仄暗い感じがよく出ていて、メロディーがその印象にからまり合いながらも、こちらの期待を上回る展開力を見せ、追いかけて聞くだけでも刺激的。
メヌエットの威風堂々とした様子も前曲同様。日頃メヌエットの演奏には厳しいのですが、このアントニオ・デ・アルメイダ盤の演奏はそうした聴き方を跳ね返すだけの伝統というか一貫して堅固なものがあるような気がします。
そして壮麗なフィナーレへ突入。遅めなテンポ設定なのも変わらず、適度にしなやかに流れながらも筋骨隆々とした力感にあふれた演奏は痛快そのもの。大宮真琴さんの曲目解説によれば、ランドンはハイドンのこのフィナーレを「想像力が貧困で霊感に欠如している」と評していますが、オーソドックスながら起伏に富んだアルメイダの棒によって均整のとれたハイドンらしい古典的な見事なフォルムに仕上がっています。これはこれで一本筋の通った演奏に違いありません。

アントニオ・デ・アルメイダがハイドン協会管を振って、当時ランドン版の楽譜が出版されたばかりのハイドンの60番から70番台の珍しかった曲を演奏した一連のアルバムの中の1枚。改めて所有盤リストをしげしげと眺めてみると、この60番台から70番台の曲は、ほとんどが1969年以降の録音であり、このアルメイダ盤が中でも一番古い録音であることが珍しくありません。こうした歴史の流れの中でこのアルバムを捉えると、演奏史的な視点での価値もあることがわかります。この直後に録音されたドラティの素晴らしい偉業もあり、アルメイダの演奏はドラティ以前の演奏スタイルを知るための貴重なものでしょう。私はこのおおらかながら険しさも感じさせるアルメイダのハイドンは気に入りました。ということで両曲とも[+++++]とします。

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tag : 交響曲67番 ラウドン将軍 LP

【新着】飯森範親/日本センチュリー交響楽団の交響曲集第1巻(ハイドン)

ちょっとご無沙汰しておりました。相変わらず仕事でバタバタとしているのですが、今日帰宅すると、ちょっと楽しみにしていたアルバムがamazonから届いていました。

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飯森範親指揮の日本センチュリー交響楽団の演奏で、ハイドンの交響曲6番「朝」、17番、35番の3曲を収めたSACD。収録は2015年6月5日、大阪のいずみほホールでのライヴ。レーベルは日本のEXTON。

このアルバム、大阪をホームグラウンドとする日本センチュリー交響楽団とその首席指揮者の飯森範親が8年をかけてハイドンの交響曲全集を演奏しようとする「ハイドンマラソン」という企画の第1回のコンサートの模様をライブ収録したもの。飯森範親のハイドンは少し前にNHKで放映されていて、ちらっと見て、かなり本格的なものとの印象を受けているので、この録音の出来は気になっていた次第です。

飯森範親さんは、録音もかなりリリースされているのでご存知の方も多いでしょう。いちおう略歴をさらっておきましょう。

1963年鎌倉に生まれ、桐朋学園指揮科で学び卒業後はドイツに留学、1985年民音コンクール2位、1987年ブサンソン指揮者コンクール2位などの経歴があります。1989年からバイエルン国立歌劇場でウォルフガング・サヴァリッシュについて修行、1994年から東京交響楽団専属指揮者、モスクワ放送交響楽団特別客演指揮者、1995年から広島交響楽団正指揮者などを務め、2007年から山形交響楽団音楽監督となっています。この間世界の有名オケに客演を重ね、このアルバムのオケである日本センチュリー交響楽団の首席指揮者には2014年に就任しています。日本でも実力者の一人と言っていいでしょう。

私自身は録音も生もあまりちゃんと聴いたことがない人ですが、手元のアルバムでは水野由紀がチェロを弾くチェロ協奏曲集の伴奏を日本センチュリー交響楽団を振って担当したアルバムがあることに気づきました。が、アイドルものということで、オケに注目して聴いていませんでした。

今一度、アルバムの帯をよく見てみると、「ハイドン;交響曲集Vol.1」との表記。コンサートの企画自体は交響曲全集の演奏ですが、録音自体が全集を目指すという志はない模様です。あれば「交響曲集」ではなく「交響曲全集」となるわけですので。これには少々がっかり。

これまでハイドンの交響曲全集に挑んだ指揮者はいたものの、完成に至ったのはアンタル・ドラティ、アダム・フィッシャー、デニス・ラッセル・デイヴィスの3名のみ。古くはマックス・ゴバーマン、クリストファー・ホグウッド、ロイ・グッドマン、トーマス・ファイなどが、かなりの数の録音を残したものの、完成を見ずに断念しています。もし全集の録音を志すとしたら、そこに日本人にである飯森範親が急遽加わる形になります。ヨーロッパではジョバンニ・アントニーニが主兵、イル・ジャルディーノ・アルモニコと2032年の完成を目指した全集が第3巻までリリースされている中、我が日本でもついにハイドンの交響曲全集が企画されるのかとの期待もありましたので。まあ、このアルバムの出来が今後の録音リリースの判断材料にもなろうということで、襟を正してアルバムをかけてみます。朝はつい最近、佐渡裕の振るウィーンのトーンキュンストラー管の超名演盤がリリースされたばかり。こちらとの比較も気になるところです。

Hob.I:6 Symphony No.6 "Le matin" 「朝」 [D] (1761?)
佐渡盤も素晴らしい録音でしたが、こちらもDSD録音のSACDということで、ホールの空気感たっぷりの素晴らしい録音。会場ノイズは皆無で音楽に集中することができます。冒頭から精緻な演奏。オケの響きはライヴとは思えない精度。朝靄がはれていくようなハイドンの音楽が立体的に響きます。演奏はオーソドックスですがオケもリズミカルに反応して、素晴らしい展開。弦の響きの潤いは一流オケとは少々差がつくところですが、素晴らしいホールの響きに支えられて悪くありません。若干ホルンが重いところもなくはありませんが、木管や弦を中心に全体にキレよく非常にクリアな演奏。
つづくアダージョはソロの腕の見せ所。ヴァイオリンはコンサートマスターの松浦奈々でしょうか、しっとりとした弓さばきで艶やかかつ味わい深いソロ。チェロも軽々とした弓さばきでさざめくような静けさにしなやかにメロディーを描いていきます。
メヌエットは柔らかくたっぷりと響く低音につつまれて、キレよりも穏やかさを感じさせる演奏。相変わらずオケの精度はすばらしくわずかな乱れもありません。中間部のファゴットのソロはぐっとテンポを落としてコントラバスがファゴットを表情豊かに引き立てます。中間部と両端のコントラストが十分について再びオケに勢いが戻ります。
フィナーレはソロを効果的に配しながらオケとの掛け合いが聴きどころの曲。ソロの精度は十分でオケとの呼吸もぴったり。ハイドンの描いた複雑にからみあう音楽の面白さがクッキリと見事に描かれています。1曲目からクリアで端正、精緻な演奏でした。

Hob.I:17 Symphony No.17 [F] (before 1766)
2曲目は推進力が魅力の曲。冒頭から楽天的なハイドンの音楽がリズミカルに進みます。注意して聴くとオケのパートがそれぞれカラフルな音色で代わる代わるメロディーを引き継いでいく様子が鮮明にわかり、実に面白い。上下に乱舞するメロディーの面白さ。時折挟まれる異なる響きのアイデアを存分に楽しめます。この曲ではホルンの重さも解消されました。
2楽章のアンダンテは程よいテンポと程よい抑揚で音楽が進みしっとりとした曲の魅力に集中できます。ここにきてヴァイオリンの音色も十分艶やかさを加えて、音楽も深みを帯びてきました。
フィナーレは堂々とした分厚い響きできかせるもの。特に低音弦の厚みが効いて迫力十分。この小交響曲の魅力を十分に活かした演奏でした。

Hob.I:35 Symphony No.35 [B flat] (1767)
すこし時代が下って、シュトルム・ウント・ドラング期の交響曲。この曲もオケの力感が素晴らしく、素晴らしい録音でオケが自宅にやってきたよう。演奏には力感が漲り、グイグイと攻めてきます。曲も全2曲よりも引き締まっていて、この時代のハイドンの充実した筆致が演奏の勢いに乗り移っています。テンポの変化こそ少ないものの、カラフルなオケの魅力は変わらず、力強いメロディーがほんのりと色づいて聴こえて響きを華やかにしています。
つづくアンダンテは1楽章のエネルギーを冷ますようにしっとりとした音楽。オケも緊張感が途切れず、充実した演奏。ゆったりとした流れの中で穏やかに変化を聴かせるコントロール。
メヌエットは迫力満点。まるで大オーケストラの演奏のように力が漲った演奏。中間部のソロで勢いを変化させるものの、両端部分は図太い響きの迫力で一貫して押してくるため、ちょっと一本調子な印象も感じなくはありません。
そしてフィナーレも正攻法の迫力で押してくる演奏。オケも見事に応えて、曲をまとめます。

飯森範親と日本センチュリー交響楽団のハイドンマラソンという交響曲全曲の演奏会の第1回のコンサートのもようを収めたライブ盤。事前の印象どおり、ライヴとは思えない精度の高い演奏で、ハイドンの交響曲の演奏としては素晴らしいものでした。演奏は日本人らしい正攻法で磨き上げた演奏でオケも精度の高い演奏で非常に高レベルな仕上がりです。若干気になるのは、演奏スタイルのせいか、録音のせいかは判然としないのですが、ハイドンの初期の交響曲の演奏としては、ちょっと力感重視に寄っているところ。特に35番の分厚いオケの響きは、まるでベートーヴェンの演奏のように聴こえるところもあります。ハイドンの初期の交響曲の面白さは次々と変化するアイデアにあふれた曲想の変化をどう表現するかにあります。どちらかというとこの演奏スタイルはハイドンであればザロモンセットなど後期のものに会うスタイルかもしれませんね。このアルバムに収められた3曲の中では真ん中の17番はこのコンビの一番いいところが出ていて深みを感じさせるいい演奏でした。ということで評価は17番が[+++++]、他2曲は[++++]としました。

このプロジェクト、オーケストラのウェブサイトをみると、コンサートの方はすで6回ほど行われていて、アルバムの方もリリースされていくものと思われます。続くリリースも期待して待ちたいと思います。

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テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽

tag : 交響曲17番 交響曲35番 ライヴ録音 SACD

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Author:Daisy

なぜかハイドン(Franz Joseph Haydn)が特に気に入り膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。東京在住のごく普通のサラリーマンです。

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