パトリック・ガロワ/シンフォニア・フィンランディアの初期交響曲集(ハイドン)

10月に入って珍しく交響曲のアルバムが続きました。ということで、勢いで交響曲を取り上げましょう。

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TOWER RECORDS / amazon

パトリック・ガロワ(Patrick Gallois)指揮のシンフォニア・フィンランディア(Sinfonia Finlandia)の演奏で、ハイドンの交響曲9番、10番、11番、12番の4曲を収めたCD。収録は2005年2月15日から18日にかけて、フィンランド中部の小さなまちスオラハティ(Suolahti)のコンサートホールでのセッション録音。レーベルはNAXOS。

先日レビューしたレストロ・アルモニコのLPを聴いて初期交響曲のアルバムを聴き直してみたくなりました。今更ながら手元の所有盤リストをチェックしてみると、まだレビューを一度もしていない曲があり、このアルバムも評価をつけていないことがわかりましたので、取り上げた次第。同じ奏者によるアルバムは以前に取り上げていて、なかなかいい演奏だったとわかっておりましたので、こちらもよかろうと踏んだという流れです。

2012/03/03 : ハイドン–交響曲 : パトリック・ガロワ/シンフォニア・フィンランディアの初期交響曲集

指揮者のパトリック・ガロワはフルーティストとしての方が有名でしょうか。奏者については前記事をご覧ください。オケは現在はユヴァスキュラシンフォニアという名称のようですね。

Jyväskylä Sinfonia

Hob.I:9 Symphony No.9 [C] (1762?)
なかなか響きの良いホール。前盤同様小編成でキレのいいオケの響きが心地よい録音。オーソドックスな現代楽器による録音ですが、リズムのキレがよく、アンサンブルの精度も非常に高いレベルの高い演奏。明確にアクセントをつけてリズムを強調することでハイドンの初期の交響曲の面白さがぐっと強まります。ハイドンの初期交響曲の理想的な演奏と言っていいでしょう。アンダンテは実に落ちついてゆったりとした音楽。素朴で暖かいメロディーの美しさが際立ちます。ハープシコードの音色が加わりなんとも言えない典雅な印象。このアンダンテの美しさを再認識。3楽章構成で終楽章はメヌエット。まさしくハイドンらしいメヌエットで締めくくります。このアルバム最後の楽章にふさわしい壮麗なフィナーレ。キレも推進力も響きの美しさも最高。まさに響きの坩堝と化し、見事なコントロールを見せつけて終わります。

Hob.I:10 Symphony No.10 [D] (before 1762)
入りから推進力に溢れた演奏。ところどころレガートで変化をつけながら初期の快活な交響曲の魅力を見事に表現していきます。パトリック・ガロワのコントロールは隙のないもの。リズムのキレと速めのテンポによるスタイリッシュな演奏。メロディーのアクセントのつけ方が巧みなので素晴らしい立体感と躍動感が生まれるんですね。1楽章は疾風のように過ぎ去ります。この曲も3楽章構成。続くアンダンテで穏やかに沈み込む情感を上手くすくい上げながら、美しい響きで包んできます。フィナーレも壮麗。ガロワは響きに関する鋭敏な感覚を持っていますね。これ以上は望めないほど美しくまとまったオケの響きに酔いしれさせられます。

Hob.I:11 Symphony No.11 [E flat] (before 1762)
これまで一度も取り上げていなかった曲。この曲は4楽章構成。入りのアダージョ・カンタービレからハイドンの類い稀な想像力に驚かされる曲。ゆったり流れる音楽に冒頭から身を任せたくなります。ガロワはその癒しのような音楽をじっくりと叙情的に描いていきます。古楽器の演奏ではこうはいかないでしょう。リラックスした分2楽章のアレグロのキレの良さが引き立ちます。快速テンポでの2楽章の入りのはまさに曲のコントラストをはっきりする上でポイントになるでしょう。テンポを上げてもオケの安定感は変わらず。オケは実力者揃いと見ました。メヌエットもしっとりとした魅力を放ち、どこか華やかさが残ります。聴きどころはフィナーレ。難しいリズムの変化の中各パートのせめぎあいの見事な展開。

Hob.I:12 Symphony No.12 [E] (1763)
1楽章は独特な節回しの曲ですが、その曲をさらにいじって、やや個性的な解釈を加えていきます。メロディーとリズムが面白いところをデフォルメする余裕が出てきました。基本的には爽快な現代楽器の演奏ですが、徐々に個性をどう出すかというテーマを持って演奏しているようです。続いて短調のアダージョに入りますが、見事な憂いと沈み込み。ただ沈み込むだけでなく音楽の呼吸が深く曲の真髄に迫ろうとする覇気を感じるレベル。この曲は3楽章構成。フィナーレはキレ、推進力、壮麗さとどれを取っても素晴らしいもの。このアルバムの最後を飾るにふさわしい出来でした。

パトリック・ガロアの振るシンフォニア・フィンランディアの初期交響曲集ですが、NAXOSのハイドンの交響曲全集の終盤を飾る素晴らしい演奏でした。ただ素晴らしいだけでなく、一流どころの演奏に劣るどころか収録曲のベスト盤としてもいいレベルに達しています。キレよくハイドンの初期交響曲をまとめる手腕は見事の一言。評価は全曲{+++++]とします。未聴の方は是非!

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tag : 交響曲9番 交響曲10番 交響曲11番 交響曲12番

シャルル・ミュンシュ/ボストン響の太鼓連打、ロンドン(ハイドン)

最近手に入れたヒストリカルなCD。最近CD化されたものです。

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TOWER RECORDS(Charles Munch - The Complete RCA Album Collection) / amazon

シャルル・ミュンシュ(Charles Munch)指揮のボストン交響楽団(Boston Symphony Orchestra)の演奏で、ハイドンの交響曲103番「太鼓連打」、104番「ロンドン」、ヘンデルの組曲「水上の音楽」ハーティ版の3曲を収めたアルバム。ハイドンの収録は太鼓連打が1950年12月26日、27日、ロンドンが1950年4月10日、11日、いずれもボストンのシンフォニーホールでの録音と記されています。レーベルはRCAですが日本盤で2016年の12月にシャルル・ミュンシュの芸術1000というシリーズでリリースされたもの。帯にはハイドンは「世界初CD化」「日本初発売」と記されています。

シャルル・ミュンシュと言えば幻想交響曲の鬼気迫る録音が印象に残っています。もちろんフランス物というイメージが強くハイドンを振るイメージはありませんね。ただし録音はいくつかあり、あの鬼気迫る棒でハイドンを料理したらどうなるだろうと言う興味からこれまでに3度ほどミュンシュのハイドンを取り上げています。

2011/05/19 : ハイドン–交響曲 : 【新着】シャルル・ミュンシュ/ボストン響の98番ライヴDVD
2011/02/19 : ハイドン–交響曲 : シャルル・ミュンシュの102番爆演
2010/03/07 : ハイドン–その他 : ANDaNTE:懐かしの名演奏集

ANDaNTEのアルバムに含まれるのは1938年パリ音楽院管弦楽団との協奏交響曲、102番は1956年のボストン響との演奏、そして98番は1960年のもの。ミュンシュは1891年生まれで、ボストン響の常任指揮者に就任したのが1949年ですので、今日取り上げる演奏は、ボストン響への就任直後でミュンシュが60歳になろうとする頃の演奏です。ちなみに名演の誉れ高いパリ管との幻想交響曲のEMIへの録音は1967年、同じくパリ管とのブラームスの1番は1968年の録音で、ミュンシュは1968年にパリ管とのアメリカツアー中に急逝したとのことです。

Hob.I:103 Symphony No.103 "Mit dem Paukenwirbel" 「太鼓連打」 [E flat] (1795)
1950年の録音ということでもちろんモノラルですが、録音はなかなか良く比較的シャープな響き。これはLPで聴いてみたくなります。入りの太鼓は遠雷タイプ。厳かな序奏が終わるとミュンシュらしいインテンポでキレの良い主題をザクザクと刻んでいきます。いきなり流石ミュンシュと思わせる迫力。ヴォリュームを上げて聴くと怒涛の迫力に圧倒されます。それでいて古典の枠から外れることなく、筋を通しているあたりが一流どころと唸らされます。そこここに鋭いアクセントが楔のように打たれ曲をタイトに引き締めます。1楽章を聴くだけで流石ミュンシュとわかる演奏。
続くアンダンテは表現を抑えて淡々とした入り。それでもメロディーにはほんのりと覇気が漲り、終盤にかけてのクライマックスでは弦が徐々に赤熱していくのがわかります。優雅にメヌエットをやり過ごして最後のフィナーレはミュンシュの面目躍如。速めのテンポでグイグイ来ました! 今度は本格的に赤熱。まさに痛快。オケもミュンシュの棒に完璧に反応して素晴らしいフィナーレ!

Hob.I:104 Symphony No.104 "London" 「ロンドン」 [D] (1795)
続いてロンドン。太鼓連打とは少し印象が異なり、荘厳な序奏のまま主題に入ってもテンポを上げません。この曲の雄大さをさらに強調するかのようにゆったりとした歩みのまま、表現がさらに壮大になっていきます。パワーが無限にあるような素晴らしい集中力。中盤以降に入るとギアを上げてさらにパワーアップ。またまた来ました、ミュンシュ豪快な煽りに乗って1楽章は未曾有の盛り上がり。
続くアンダンテは、テンポを落としたまま。おそらくこのロンドンというハイドン最後の交響曲のスケールの大きさを表現しようとしているのでしょう。フレーズの一つ一つを噛みしめるように丁寧に進みます。中間部はザクザクと鉈を振るうような大胆な演奏。メヌエットはこのアルバムの中ではテンポも表現も最もオーソドックスな演奏ですが、それでもミュンシュらしいキレを感じさせます。そしてフィナーレは再びインテンポでキレキレに畳み掛けながら突き抜けるようにクライマックスへ向かいます。やはりここぞのキレの鋭さはミュンシュならではですね。

やはりミュンシュのハイドンはキレていました。この演奏がこれまでCD化されて来なかったのは、RCAにはフリッツ・ライナーのハイドンの演奏があったからではないかと想像しています。同じく爆演系のライナーに対して、パリ管との録音ではEMIに行ってしまったミュンシュはRCAにとってはむしろ商売敵になってしまっていたのかもしれませんね。1950年の録音から66年後にCD化はされましたが、日本では初回限定生産で既に廃盤。RCAのミュンシュのコンプリートコレクションと言うボックスには収録されておりますので、ミュンシュファンの方はこちらを手に入れるべきかもしれませんね。この演奏、私は評価します。もちろん[+++++]です!

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tag : 太鼓連打 ロンドン ヒストリカル

デレク・ソロモンス/レストロ・アルモニコの交響曲集第1巻 その2(ハイドン)

珍しく深追い(笑)。前記事の演奏が実に面白かったので続きもレビューしてみたくなりました。

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デレク・ソロモンス(Derek Solomons)指揮のレストロ・アルモニコ(L'Estro Armonico)の演奏で、ハイドンの初期交響曲7曲(Hob.I:1、I:37、I:18、I:2、I:15、I:4、I:10)を収めたLP。題して「モルツィン時代の交響曲集第1巻」。収録は1980年8月19日から24日にかけて、ロンドン、ウッドサイドパークの聖バルナバ教会でのセッション録音。レーベルは英SAGA。

今日は前記事で取り上げた3曲以降の4曲目から7曲目までを取り上げます。前記事で聴いた中では1番がちょっと固かっただけで、その後の2曲は絶品でした。こうなると残りもしっかり聴かざるを得ません。

2017/10/03 : ハイドン–交響曲 : デレク・ソロモンス/レストロ・アルモニコの交響曲集第1巻(ハイドン)

奏者やアルバムについては前記事をご覧ください。

Hob.I:2 Symphony No.2 [C] (before 1764)
リズムの面白さは変わらず躍動感満点。丁寧に演奏していながらキリリとアクセントが効いて、古楽器の爽やかな音色でハイドンのユーモラスなメロディーの面白さが滲み出てきます。つづくアンダンテはさらりと流すような楽章ですがメロディーの重なりの奥に深い情感が宿る見事な展開。微妙な起伏をしっかりと描いていくことで得られる面白さ。フィナーレもフレーズをくっきりと描きまとめます。初期のハイドンの交響曲の面白さを実に自然に料理してワンプレートにバランスよく並べたような、普段から楽しめる、味わい深い音楽。

Hob.I:15 Symphony No.15 [D] (before 1764)
癒しに満ちたアダージョから入ります。ピチカートに乗って優雅なフレーズが漂います。ホルンのとろけるような響きが重なり、こちらもとろけそうになったところでプレストのキレのいいメロディーが癒しを断ち切ります。全てが必要十分。大げさなところはないのにキレ味は十分。再びアダージョにもどって1楽章を結びます。つづくメヌエットはもっともハイドンらしい楽章。ここでもゆったりとしながらも活き活きとしたオケの響きが素晴らしく、音楽が弾みます。そして3楽章のアンダンテの光と陰が交錯する透明感。フィナーレはコンパクトなキレの良さ。最後の一音のキレが耳に残ります。

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Hob.I:4 Symphony No.4 [D] (before 1762)
3枚組、6面中の5面目。前2曲のみが1面につめこまれていたのに対し、この曲を含む他の曲は1面1曲とゆったりカッティングされており、響きにも余裕が感じられます。リズムのキレは変わらず、軽やかさも十分で音楽がポンポン弾む快感を味わえます。続くアンダンテは弱音器付きのヴァイオリンによる実にユニークな美しいメロディーに驚きます。ソロモンスもこの翳りに満ちた美しい気配を見事に表現していきます。その静けさを断ち切る明るいメヌエットで曲を締めくくる見事な構成。1曲1曲の構成感をしっかり描いてきます。

Hob.I:10 Symphony No.10 [D] (before 1762)
このアルバム最後の曲。もう安心して身を任せていられます。必要十分な小気味好い展開の魅力にすっかりハマります。それもそのはず、メンバー表を見てみるとヴァイオリンにはモニカ・ハジェット、ロイ・グッドマン、チェロにはアンソニー・プリース、ホルンにはアンソニー・ハルステッドなど名手の名が並びます。印象的なのは2楽章のアンダンテの静けさに染み入るような演奏。古楽器の弦の透明感あふれる響きの美しさが際立ちます。フィナーレももちろん見事。言うことなし。

デレク・ソロモンスの振るレストロ・アルモニコによる交響曲集ですが、CBSからリリースされている3巻の印象が、ピノックやホグウッドなどを聴いた耳にはあまりぱっとした印象がなかったことからこれまであまり注目していませんでしたが、偶然手に入れた彼らの最初の交響曲集のLPを聴くと、流石に古楽器によるハイドンの交響曲の草分けたる見事な演奏であることがわかりました。名奏者集団による鮮やかな演奏であるばかりでなく、ハイドンの初期の交響曲の箱庭的な面白さをバランスよく表現した名演奏と言っていいでしょう。今回取り上げた4曲はいずれも[+++++]といたします。CBSの録音も今一度聞き直して見たくなりましたね。

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デレク・ソロモンス/レストロ・アルモニコの交響曲集第1巻(ハイドン)

最近手に入れたLP。

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デレク・ソロモンス(Derek Solomons)指揮のレストロ・アルモニコ(L'Estro Armonico)の演奏で、ハイドンの初期交響曲7曲(Hob.I:1、I:37、I:18、I:2、I:15、I:4、I:10)を収めたLP。題して「モルツィン時代の交響曲集第1巻」。収録は1980年8月19日から24日にかけて、ロンドン、ウッドサイドパークの聖バルナバ教会でのセッション録音。レーベルは英SAGA。

デレク・ソロモンスとレストロ・アルモニコによるハイドンの交響曲集はCBSから国内盤ではシュトルム・ウント・ドラング期の交響曲集が3巻リリースされていますが、この3巻については1981年から83年にかけての録音ということで、今日取り上げるLPはその直前に録音されたもの。レーベルはCBSではなくイギリスのSAGA Recordsというところです。手元にはこちらも最近手に入れたSAGAの「モルツィン時代の交響曲集第2巻」があり、同じく1980年の録音。この2巻の録音を聴いてCBSにレーベルを移して録音が継続されたという流れでしょう。

デレク・ソロモンスとレストロ・アルモニコの演奏は以前に一度CBSの録音から告別を取り上げています。

2012/09/10 : ハイドン–交響曲 : デレク・ソロモンス/レストロ・アルモニコの告別

CBSの録音の解説には世界初の古楽器によるハイドンの交響曲の体系的な録音であると触れられており、レーベルは異なりますがそのシリーズの中でも一番録音が古いのがこのLP。ちなみに当ブログの所有盤リストをざっと調べてみたところ、このLPより録音の古い古楽器の演奏は、ヘルムート・ミュラー=ブリュール指揮のカペラ・クレメンティナによる朝、昼、晩(1979年録音)とホグウッドとアカデミー室内管のメンバーによる室内楽版の驚愕(1978年録音)が見つかるくらいで、まさにソロモンスの録音が古楽器によるハイドンの交響曲の最初の体系的録音であるようです。これらにつづいてピノック、ホグウッド、クイケン、グッドマン、アーノンクールが次々と古楽器による交響曲録音に挑んでいったわけですね。そういった意味でまさに古楽器によるハイドンの交響曲の草分け的存在であるばかりでなく、このアルバムがその一番最初の録音にあたる、まさに記念碑的な録音なわけです。

ということで、今日はこの中からLPの1面目、2面目に収録された交響曲1番と37番を取り上げます。

Hob.I:1 Symphony No.1 [D] (before 1759)
律儀なリズムが刻まれる入り。これが時代の幕を開ける演奏だと思うと感慨一入。今聴くと特段個性的な演奏ではありませんが、古楽器独特の媚びないフレージングの爽やかさはこの時代には個性的に響いたのでしょう。特にキリッとしたアクセントが後年、ホグウッドらによって洗練されて、現代楽器の演奏とは異なるムーヴメントを生んでいくことになります。1楽章はあえて表現を突き詰めないことでなんとなく理性的に響きます。
つづくアンダンテこそ、古楽器のさらりとした演奏の良さがしみじみ感じられます。あえて大きな流れよりも、あっさりとした表情の中に音楽のエッセンスを込めて、時代を俯瞰するような冷静なアプローチが冴えます。曲が進むにつれて微妙な表情の変化の面白さも感じられるようになり、ちょっと硬さを感じた1楽章に対し、このアンダンテに入って音楽が活き活きとしてきました。
そしてフィナーレは落ち着いた入り。まくしたてるようなそぶりはまったく見せずにむしろじっくりとフレーズを噛みしめるような展開。現代楽器による切れ味鋭いタイトな演奏と完全に語法を変えたコントロール。派手な演奏ではありませんが、この演奏が古楽器によるハイドンの交響曲演奏の幕を開けたのは確かなこと。

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Hob.I:37 Symphony No.37 [C] (before 1758?)
LPをひっくり返して裏面に移ります。なんと、第1番とはうって変わって実に変化に飛んだリズムが躍動します。37番といっても作曲年代は1番とさして変わらぬごく初期の作品。ハイドンの筆致のあまりの進歩に驚きます。レストロ・アルモニコも千変万化する響きを駆使して、ハイドンの曲の面白さを描ききります。
続くメヌエットはレストロ・アルモニコの演奏のキレを飛び越えてハイドンのウィットに富んだメロディーの面白さに釘付け。それだけ演奏が曲の核心に迫っているということでしょう。3楽章は短調のアンダンテで、すでにシュトルム・ウント・ドラング期のほの暗い雰囲気を先取りするような翳りが顔を出します。次々にメロディーが変化していくのを追う快感。音数は少ないのに恐ろしく豊かな音楽が流れていきます。
そして4楽章のプレストも改めて聴くと驚くべき変化。当時のハイドンが実験精神に溢れていた証左のような展開。この曲では一貫してリズムが活き活きと弾み、オケの表現もキレています。

この2曲でレビューは終えようと思っていましたが、あまりに面白いのでもう1曲。3面目の18番です。

Hob.I:18 Symphony No.18 [G] (before 1766)
1番が少々硬かっただけで、この曲も実に楽しげな入り。アンダンテで刻まれるリズムに乗って音楽が流れ、徐々に躍動していきます。単純なリズムもこれだけ表情豊かだと聴きごたえ十分。ハイドンの初期の交響曲のツボを完全に掌握している感じ。1楽章全体が序奏のような感じ。そして躍動感あふれる2楽章に。必要十分なキレ味を見せながらハイドンの曲の面白さを存分に感じさせます。リズムもメロディーも展開もスリリング。エッジのキリリと効いた演奏で曲の面白さがさらに際立ちます。ホグウッドよりもキレていて、ピノックよりも躍動し、アーノンクールよりも粋。これは素晴らしい。3楽章は予想に反してかなり崩し気味なスタイル。踏み込んできました。明らかに曲に没入して表現の自在さのレベルが上がった感じ。中間部の不可思議な感じも最高。1曲1曲聴きどころをしっかり押さえてきます。いやいや素晴らしい!

全曲いきたいところですが、時間の都合もあり、今日はこの辺で。ハイドンの交響曲の古楽器による最初の体系的録音と言う位置付けになる、デレク・ソロモンス指揮のレストロ・アルモニコによるハイドンの交響曲集。1曲目こそちょっと硬さが見られましたが、徐々に演奏のキレが増し、まさに草分けの存在意義が確認できる素晴らしい演奏だったことがわかります。CBSの録音はどうもパッとしない印象を持っていましたが、その前に録音されたこのアルバムから素晴らしさは十分に伝わりました。評価は1番が[++++]、他2曲は[+++++]と致します。

このアルバム、見かけたらゲットですね!

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【新着】飯森範親/日本センチュリー響の交響曲集第2巻(ハイドン)

進行中の「ハイドンマラソン」プロジェクトの第2弾がリリースされました!

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TOWER RECORDS / amazon / ローチケHMVicon

飯森範親(Norichika Iimori)指揮の日本センチュリー交響楽団(Japan Cetury Symphony Orcestra)の演奏による、ハイドンの交響曲14番、77番、101番「時計」の3曲を収めたSACD。収録は2015年9月25日、大阪のいずみホールでのライヴ。レーベルは日本のEXTON。

このアルバム、冒頭に記したように大阪をホームグラウンドとする日本センチュリー交響楽団とその首席指揮者の飯森範親が8年をかけてハイドンの交響曲全集を演奏しようとする「ハイドンマラソン」という企画の第2回のコンサートの模様をライブ収録したもの。もちろん、第1巻のアルバムも取り上げています。

2016/11/19 : ハイドン–交響曲 : 【新着】飯森範親/日本センチュリー響の交響曲集第1巻(ハイドン)

この企画についてと、飯森範親の略歴などについては前記事をご参照ください。

第1巻がリリースされた時には、ハイドン・マラソンという交響曲全曲演奏会を集録したにもかかわらず、帯には「交響曲集Vol.1」というだけで、レーベルとしては全集という踏ん切りはついていないと理解していました。とりあえず1巻以降の数巻の売り上げが、今後継続して録音がリリースされるかの鍵を握ることになろうかと思います。ハイドン啓蒙を旨とする当ブログがそれを応援しないわけには参りませんので、しばらくはリリースされるアルバムをレビューして行こうかと思っております。演奏の内容については、第1巻の内容やNHKで放映された映像を見ても十分全集に耐えるものと思っていますが、心配なのはSACDフルプライスでの1巻ずつの進行。第1巻よりも第2巻が値上がりしているのも気にかかるところ。膨大なハイドンの交響曲の全集をフルプライスで揃えるのはなかなか大変だということを考えると、リリース展開がどこまで先を見ているのかが少々気がかりではありますね。

さて、肝心の演奏について触れることにいたしましょう。

Hob.I:14 Symphony No.14 [A] (before 1764)
冒頭からいきなり落ち着いた演奏なので、調べてみると実際のコンサートプログラムでは冒頭ではなく後半に演奏されていたことがわかりました。アレグロ・モルト、アンダンテ、メヌエット、フィナーレという構成。1楽章は第1巻でちょっと力みが感じられたのとは異なり、適度な緊張感はあるものの、非常にリラックスしての演奏。もう少し躍動感を強調してくると踏んでいましたが、これはこれでいい演奏でしょう。録音は第1巻同様、透明感のある日本的なHi-fi録音。ヴァイオリンパートはシルキーな音色できっちりとしたボウイング。ハイドンの初期の交響曲のフレッシュな感じも出ています。
良かったのがアンダンテの丁寧なフレージング。この素朴なメロディーを丁寧に描くことでハイドンの音楽の深みをしっかりと表現できています。淡々と描かれる音楽にこそ、音楽そのものの美しさが宿ります。
そしてメヌエットでは、テンポを上げ、音楽の起伏をクッキリと出し始め徐々に音楽が快活さを取り戻します。全てのパートの奏者のエンジンがかかった感じ。中間部ですっとリラックスし、再びメヌエットで華やかに。
フィナーレも適度に落ち着いた演奏なのが実にいい感じ。上下に展開する音階が舞う中しっかりとした足取りで冷静な曲の運びが印象的でした。

Hob.I:77 Symphony No.77 [B flat] (1782?)
実際のコンサートではこの曲が冒頭に演奏されていたようです。前曲同様落ち着いた演奏ですが、冒頭に置かれたぶん奏者も挨拶代わりということで、クッキリとしたメリハリをつけて、音楽も心なしか明るい方向にシフトしている感じ。明るいトーンでまとめられたオケが躍動します。展開部での転調の面白さが聴きどころですが、あまりハッタリをかませることなく正攻法でオーソドオックスにまとめてきます。要所がキリリと引き締まっているので、音楽の構成も明快。
続くアンダンテは前曲同様、丁寧な演奏、丁寧な録音相まって実に聴きごたえ十分。ハイドンが仕込んだいたずらがそこここに仕掛けられており、それに対応しながらだんだん変化していく曲の面白さがしっかりと描かれます。
非常に変わった響きが特徴のメヌエット。ここでは日本センチュリー響のシルキーな弦の美しい響きが活きていますね。広いホールの自然な残響が美しい録音。
フィナーレはハイドンのコミカルなメロディーを冷静に綺麗にまとめた感じ。ライヴ録音ですが、演奏はセッション録音のような完成度と冷静さを保っています。演奏の完成度は非常に高いものがあります。

Hob.I:101 Symphony No.101 "Clock" 「時計」 [D] (1793/4)
このシリーズ最初のザロモンセットの曲。予想通り冷静精緻な序奏から入りますが、ここにきてようやくライヴらしい勢いが出てきました。主題は覇気が漲り、躍動感もでてきました。時計の聴きどころは1楽章の緊密な構成感とする私にとっても、なかなかいい線いっている演奏です。いい意味でオケも荒々しさが出てきて、これまでの曲とは異なる次元の迫力を帯び、独特の高揚感に包まれます。
時計のアンダンテはリズムの刻みが丁寧なのが飯森流でしょう。変化に富んだアクセントのつけ方も曲の華やかさを増すなかなかいいアイデア。録音が鮮明なので音数も豊富に聴こえます。やはりここでもオケの迫力に圧倒されます。
メヌエットも前楽章のエネルギーを引き継ぐように、力感に富んだ入り。第1巻で少々感じが無理な力みはなく、曲の格に応じた力の入り方。これまでオーソドックスに来ましたが、メヌエットの中間部のテンポを上げたフルートの流れるような演奏は、ちょっとした変化球でハッとさせられます。これは面白いアイデア。ただメヌエット自体の演奏は若干一本調子な印象も持ちました。この辺がハイドンの難しいところでしょう。
フィナーレも正攻法による迫力の演奏。ここまでの演奏の総決算とばかりにオケに力が漲りますが、コントロールの冷静さは失われず最後までキリリとひきしまった演奏でした。実演では畳み掛けるような煽りを期待するところですが、録音を意識してか燃焼度よりは完成度を意識したコントロール。複雑に入り組むメロディーの面白さは少々後退して丁寧に響きを整えながらのフィニッシュでした。

飯森範親と日本センチュリー管による期待のハイドンの交響曲集の第2巻。第1巻に垣間見られた力みはなくなり、演奏もこなれて来た印象。第1巻よりも確実に良くなっています。非常に丁寧に演奏しているのが印象的で、指揮者の個性よりも曲の素の姿をきっちり描こうとしているような演奏で、そういった意味では日本的な演奏だと思います。アイデアのキレ、アーティスティックさよりも、質の高い細密画をあしらった図鑑のように、1曲1曲をきっちり紹介して行くスタイルを意図しているのではないかという印象。これまでのハイドンの全集とは異なるアプローチですね。また、鮮明な響きを再現する録音もそうした傾向を感じさせるのかもしれませんね。この巻では14番と77番は曲の魅力をしっかりと表現できていて気に入りました。評価は前2曲が[+++++]、時計は[++++]としました。

さて、第3巻のリリースの準備も進んでいることでしょう。さらなる進化を期待してリリースを待ちましょう。

最後に個人的な意見を少々。このアルバム、ジャケットの見た目は第1巻とほぼ同じ。今後何巻かリリースされると、同じデザインのジャケットが並ぶことになりそうですし、ダブり買いのリスクも高いです(笑) これまで色々出ているシリーズものでは基本デザインは揃っていても1巻1巻色々と工夫されていて、それがコレクション欲を刺激することもしばしば。このシリーズ、ジャケットにもう少し工夫が欲しいところです。現在進行中のアントニーニの交響曲全集などジャケットが実にアーティスティックで素晴らしいので購買意欲をくすぐるんですね〜。

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ドラティ/ロンドン響の軍隊、時計(ハイドン)

こちらも最近オークションで手に入れたLP。

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アンタル・ドラティ(Antal Doráti)指揮のロンドン交響楽団(London Symphony Orchestra)の演奏で、ハイドンの交響曲100番「軍隊」と101番「時計」の2曲を収めたLP。収録情報は記載されていませんが、ネットを調べると1960年にリリースされたとの情報があります。レーベルはMerkury RECORDSのフランス盤。

ドラティといえばハイドンの交響曲全集を最初に録音した人として、当ブログの読者の方なら知らぬ人はいない存在。ただその演奏はフィルハーモニア・フンガリカとの録音ですが、これはロンドン交響楽団との演奏。調べてみると、全集の録音は1969年から72年にかけてで、こちらは1960年以前の録音と全集の10年前の録音。しかもドラティが覇気あふれる50代の演奏。略歴を確認してみると1937年に渡米した以降、ミネアポリス交響楽団などアメリカの主要オケの音楽監督を務め、このアルバムが録音されたしばらく後の1963年にBBC響の首席指揮者としてヨーロッパの楽壇に復帰します。アメリカで名声を得てヨーロッパで活躍する足がかりとなったものでしょう。レーベルもDECCAではなくMercuryということで、もしかしたらこのアルバムがDECCAに全集録音を決意させたアルバムかもしれませんね。

ドラティのハイドンはもちろん何度か取り上げています。

2014/04/06 : ハイドン–交響曲 : アンタル・ドラティ/フィルハーモニア・フンガリカの84番(ハイドン)
2013/07/02 : ハイドン–交響曲 : アンタル・ドラティの交響曲全集英LONDONのLP入手!
2011/03/09 : ハイドン–交響曲 : アンタル・ドラティの受難
2011/01/24 : ハイドン–交響曲 : アンタル・ドラティのマリア・テレジア
2010/12/31 : ハイドン–オラトリオ : アンタル・ドラティ/ロイヤル・フィルの「トビアの帰還」2
2010/12/30 : ハイドン–オラトリオ : アンタル・ドラティ/ロイヤル・フィルの「トビアの帰還」
2010/01/24 : ハイドンねた : 私はなぜハイドンにはまったのか?-3

ドラティの略歴などについては84番の記事をご覧ください。

ハイドンの交響曲全集は今でこそアダム・フィッシャー、デニス・ラッセル・デイヴィス、NAXOSの複数の指揮者に夜全集、ユニバーサルのホグウッドらによる古楽器混成全集など選択肢も増えてきましたが、私のオススメはドラティです。以前の記事にも書きましたが、図太い筆で勢いよく書いた古老の楷書の書を見るような、なんとも身が引き締まる演奏であり、ドラティを聴かずにハイドンを語るなかれというほどの名盤です。

そのドラティの交響曲全集のオリジンたる演奏であり、嫌が応にも期待が高まります。

Hob.I:100 Symphony No.100 "Military" 「軍隊」 [G] (1793/4)
この演奏を聴くためにフィルハーモニア・フンガリカの全集の演奏も聴いてみましたが、全集の方は良くいうと非常にまとまりの良い演奏。ドラティの険しさも感じられますが、全集としての完成度の高さを感じさせる演奏。対してこちらは、特にヴァイオリンのキレの良いボウイングと畳み掛ける迫力で上回る感じ。若干荒削りな印象もなくはありませんが、演奏の面白さはこちらがうわまります。特にLP
ならではのダイレクト感のある音質もいい感じです。ドラティもグイグイと攻めてきます。1楽章の終盤への盛り上げ方はど迫力でキレキレ。
2楽章の軍隊の行進は一定のテンポでサクサクと進めながら一音一音の引き締まった響きがどんどん迫力を帯びていき、パーカッションが乱舞。ドラティらしい禁欲的に引き締まりまくった演奏。高音域のタイトな響きはLPならでは。流れではなくダイレクトに音を響かせて音楽を作っていきます。
流石なのがメヌエット。ドラティらしい彫刻的に引き締まった響きの魅力に溢れた演奏。筋骨隆々。ザクザクと彫りの深い演奏によってメヌエットのメロディーの面白さが際立ちます。
メヌエットのエネルギーを引き継ぎ、フィナーレは速めのテンポで冒頭から畳み掛ける気満点。ハイドンの展開の妙を感じさせながらもクライマックスまっしぐらに駆け込みます。最後はドラティもオケを煽ってさらにテンポを上げて素晴らしい高揚感。予想通り壮年期のドラティの気迫みなぎる熱演です。

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Hob.I:101 Symphony No.101 "Clock" 「時計」 [D] (1793/4)
LPをひっくり返して時計。序奏はゆったりとした入りで厳かな雰囲気が漂います。主題に入るといきなりギアチェンジして快速テンポに変わります。フィルハーモニア・フンガリカとの演奏では印象は似ているもののテンポの変化はここまで急ではなく、1楽章の緊密な構成感を表現することに重点が置かれているような気がします。こちらはやはり迫力と陶酔感重視。軍隊の方はLPの迫力に軍配が上がったのですが、時計の方は全集の方もいいですね。主題以降快速テンポでグイグイ飛ばします。徐々にヴァイオリンが赤熱してきて未曾有のキレ味で畳み掛けてきます。やはりドラティ、煽りまくってきました。1楽章なのにものすごいエネルギーで締めます。
1楽章のほとぼりを冷ますように時計のリズムのアンダンテはリラックスしてゆったりと入ります。おそらく中間部に爆発するだろうと期待して耳をそばだてながらリズムを楽しみます。するとゆったりしながらもざっくりとした迫力で中間部に入ります。ドラティ、こちらの期待をはぐらかすように落ち着いたコントロールでやり過ごします(笑) ドラティはあくまでもきっかりリズムを刻んできました。
そして軍隊でも素晴らしかったメヌエットはやはりオケの引き締まった響きの魅力に溢れた秀演です。ヴァイオリンパートの覇気がすごい。メヌエットの王道を行くような堂々とした迫力が魅力の演奏。
フィナーレは別の日に収録されたのか、音程が若干低いように感じます。序奏は非常に落ち着いた入りで、徐々に力感がみなぎってきますが、これまでの演奏に比べてやや鈍重。これは迫力を表すべくのことでしょう。最後は裕大なフィニッシュで曲を閉じます。

ハイドンの交響曲といえばドラティ。そのドラティが交響曲全集を録音する10年前にリリースされた軍隊と時計。予想通り覇気に溢れた演奏でした。後年の全集は非常に完成度の高い演奏として知られますが、この演奏にはドラティのハイドンの交響曲に対するスタンスがより明確に現れていると言えるでしょう。軍隊は迫力で押し通す素晴らしい演奏。そして時計はそれよりもバランスを少し意識した演奏ということで、ドラティのアプローチにも若さが感じられます。時計の後半が若干難ありということで、軍隊は[+++++]、時計は[++++]といたします。

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tag : 軍隊 時計 LP

ハンス・スワロフスキーの交響曲集(ハイドン)

4月のベスト盤を選んだと思っていたら世の中はすっかりゴールデンウィークです。こちらは例年通り渋滞を避けて歌舞伎見物をしたり、地元の温泉に行ったりと、近場でのんびり楽しんでおります。今日は最近手に入れたヒストリカルなアルバムです。

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ハンス・スワロフスキー(Hans Swarowsky)指揮のウィーン国立歌劇場管弦楽団(Vienna State Opera Orchestra)の演奏で、ハイドンの交響曲97番、ウィーン交響楽団(Wiener Symphoniker)の演奏で交響曲1番、45番「告別」の3曲を収めたアルバム。収録は97番が1953年、他2曲が1951年のセッション録音。録音場所の記載はありません。レーベルはSPURAPHON原盤の日本コロムビア。

スワロフスキーの録音は何点かあったと思って、所有盤リストを検索してみると、1点もヒットしません。おかしいなと思って確認すると、当アルバムのスワロフスキーの綴りが間違っていました。ジャケットには堂々と”SWAROWSKI”と記載されていますが、正しくは”SWAROWSKY”。そう末尾が違います。他のアルバムやネットでは全て”SWAROWSKY”ですので、このアルバムが間違いですね。ちなみにガラスによる宝飾品のスワロフスキーは”SWAROVSKI”。オーストリアのチロル地方の創業で、こちらは末尾は”I”ですが、途中の”W”が”V”となります。ということで正しい綴りで検索し直すと、ウィーン国立歌劇場管弦楽団との「軍隊」、「太鼓連打」、アルフレート・ホラーのソロによるトランペット協奏曲、そして同じくウィーン国立歌劇場管弦楽団を振った「哲学者の魂、またはオルフェオとエウリディーチェ」全曲などのアルバムがあり、軍隊、太鼓連打のアルバムは過去に取り上げています。スワロフスキーの略歴などは下記の記事をご参照ください。

2012/02/21 : ハイドン–交響曲 : ハンス・スワロフスキー/ウィーン国立歌劇場管弦楽団の軍隊、太鼓連打(ハイドン)

リンク先の記事にも書いたように、スワロフスキーは指揮法の「名教師」としても名高い人で、ウィーン国立音楽大学指揮科の教授として活躍し、門下にクラウディオ・アバド、マリス・ヤンソンス、ズービン・メータ、アダム・フィッシャー、イヴァン・フィッシャー、ヘスス・ロペス=コボス、ブルーノ・ヴァイルなど錚々たる指揮者を育てました。また、ウィーン国立歌劇場管弦楽団との演奏自体も、現在聴いてもそのコントロールの素晴らしさを堪能できるものです。

そのスワロフスキーのハイドンの未入手の録音と知ってオークションで手に入れたもの。日本コロムビアの「ハンス・スワロフスキーの芸術」というシリーズの第4巻になります。綴りの間違いはイマイチですが、良いシリーズをリリースしてくれたものです。このアルバム自体のリリースは1997年です。

Hob.I:97 Symphony No.97 [C] (1792)
1953年録音ということで、もちろんモノラル録音ですが、音質は充分みずみずしく聴きやすい録音。ゆったりした序奏の後、主題に入ると恐ろしいほどのキレ味で畳み掛けてきます。現代でもこれだけのキレを聴かせるコントロールは滅多にありません。インテンポで物凄い勢いで攻め込まれますが、ゆったりとした休符を挟むので力ませに聴こえない素晴らしいバランス感覚。と思いきや曲の変わり目は休符を半分にしたくらい被せてきます! オケはスワロフスキーに煽られて赤熱する鉄塊のようにヒートアップ。このど迫力、同じくど迫力の名盤、アンチェルの93番を上回るもの。音量を上げて聴くとトップギアのウィーン国立歌劇場管弦楽団の奏者の汗が飛び散ってきそうなほどの迫力。特に弦楽器のボウイングは驚愕の力感。
続く2楽章はリラックスした演奏で入ります。テンポは速めで見通しの良い演奏。典雅な演奏とはこのことでしょう。キリリと引き締まったリズムに乗って秩序正しい演奏。展開部に入ると、オケが牙を剥き始めます。それでも全体的に気品すら感じさせる落ち着いた構成を保って入るのが流石なところ。
メヌエットはちょっとテープのコンディションが悪く、冒頭から少々音程がふらつくところがあります。演奏は前楽章がリズムの軽さを感じさせていたのに対し、こちらは適度な重量感を加えて迫力を増します。音量の対比と表情の変化を一定のリズムにまとめる素晴らしいコントロール。
そして期待のフィナーレは冒頭から冴え渡るオケの音色に釘付け。徐々に赤熱してくるオケ。1楽章の未曾有のキレの再現に耳が集中しますが、今度はキレた流麗さで驚かせます。速めのテンポも手伝って爽快そのもの。オケは余裕たっぷりにキレまくります。ちょっと音が飽和するところもありますが、最後は期待通りオケがキリリと引き締めて終わります。いやいや見事。

Hob.I:1 Symphony No.1 [D] (before 1759)
オケがウィーン交響楽団に変わります。ハイドン最初の交響曲ですが、手元の所有盤リストでは、その1番でも最も録音年代が古いもの。97番の異常とも言える冴え方とは異なり、こちらは平常心(笑)での演奏。ハープシコードが入ります。ただこの曲でも迫力と流麗さは充分に感じられ、やはりバランスの良さを感じさせます。オケも流石にウィーン響ゆえ典雅な音色でスワロフスキーの指示に応えます。1楽章の覇気、2楽章のしっとりとした表情、3楽章のじっくりとした描写と文句なし。

Hob.I:45 Symphony No.45 "Abschied" 「告別」 [f sharp] (1772)
このアルバムのもう一つの聴きどころはこの告別でした。冒頭の97番の突き抜けたど迫力の演奏に対し、この告別は実に趣深い名演です。録音年代が信じられないほどニュートラルな演奏。オケの精度はウィーン国立歌劇場管弦楽団には及びませんが、情感の濃さはこちらが上。1楽章から旋律のしっとりとした美しさと見通しのよい構成感が両立する素晴らしい演奏。そして2楽章のアダージョに入ると情感はさらに色濃くなりメロディーの美しさに絶妙の翳りが加わり絵も言われぬ雰囲気に。そしてあえてさらりとしたメヌエットで気分転換。中間部の陰りが続く終楽章を暗示させるのが流石なところ。
聴きどころの終楽章。前半はインテンポで畳み掛けますが、響きに独特の味わいが乗って迫力ばかりではなく趣深い音楽になります。そして奏者が一人ずつ去っていく有名なアダージョはゆったり優雅な音楽なんですが、スワロフスキーのコントロールには物悲しさを助長するように木管楽器をくっきりと浮かび上がらせます。最初は柔らかく暖かい弦の音色に包まれながらも、楽器が減っていくごとに徐々に響きの純度が上がっていき、テンポも少しずつ遅くなっていきます。最後に残るヴァイオリンの音色の美しさが印象的。この曲の美しさを知り尽くした演奏と言っていいでしょう。

アバドやメータ、アダム・フィッシャーなど名指揮者を育てたハンス・スワロフスキーの振るハイドンの交響曲3曲を収めたアルバムでしたが、このアルバム、「ハンス・スワロフスキーの芸術」というアルバムタイトル通り、スワロフスキーという人の芸術を堪能できる素晴らしいアルバムでした。97番はこれまで聴いたどのアルバムよりも踏み込んだオーケストラコントロールで97番という曲に込められたエネルギーを爆発させたような素晴らしい演奏。ウィーン国立歌劇場管弦楽団がこれほどまでに赤熱した演奏は聴いたことがありません。一方ウィーン響を振った交響曲1番と告別は趣深い名演奏。どちらも古い録音ながら、聴き続けられるべき価値を持った素晴らしい演奏です。評価は全曲[+++++]とします。

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tag : 交響曲97番 交響曲1番 告別 ヒストリカル

【新着】イル・ジャルディーノ・アルモニコの交響曲全集第4巻(ハイドン)

待ってました!

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ジョヴァンニ・アントニーニ (Giovanni Antonini)指揮のイル・ジャルディーノ・アルモニコ(Il Giardiono Armonico)の演奏で、ハイドンの交響曲全集の第4巻としてリリースされたアルバム。ハイドンの交響曲60番「迂闊者」、70番、12番と、チマローザのカンタータ「宮廷楽長」の4曲が収められています。収録は2016年3月13日から17日にかけて、ベルリンのテルデクス・スタジオでのセッション録音。レーベルはouthereグループのALPHA-CLASSICS。

このアルバム、リリースされたのは先月ですが、注文するのが漏れており、先日はっと気づいて慌てて注文したもの。ハイドンの交響曲全集を目指したプロジェクトゆえ私も特に注視しているわけですね。もちろん、これまでリリースされた3巻は全て取り上げております。

2016/10/09 : ハイドン–交響曲 : 【新着】イル・ジャルディーノ・アルモニコの交響曲全集第3巻(ハイドン)
2015/06/08 : ハイドン–交響曲 : 【新着】イル・ジャルディーノ・アルモニコの交響曲全集第2巻(ハイドン)
2014/11/08 : ハイドン–交響曲 : 【新着】イル・ジャルディーノ・アルモニコの交響曲全集第1巻(ハイドン)

当ブログの読者の方ならこのシリーズの企画についてはご存知だと思いますが、ご存知ない方は第1巻の記事をご参照ください。このシリーズ、第2巻でちょっと力みが見られましたが、第3巻では見事にそれを修正してきて、非常にいい仕上がりを予感させます。果たしてこの巻は如何なものでしょう?

選曲はこれまでの3巻はシュトルム・ウント・ドラング期の曲を軸に構成されていましたが、この巻ではシュトルム・ウント・ドラング期以後の曲を軸においた構成となり、本格的に全集を企てないと録音しない曲に手を伸ばしてきました。そして、中でもリズムの面白さが際立つ曲を集めてきました。選曲に攻めの姿勢を感じるのは私だけでしょうか。

また、アルバムの造りはこれまで通り非常に手のかかった美しいもので、コレクション欲を満たすもの。1巻ずつレギュラープライスで集めるのは値が張りますが、リリースも長期間にわたるため、それほど負担感もありませんね。

Hob.I:60 Symphony No.60 "Il disrratto" 「迂闊者」 [C] (before 1774)
冒頭の力漲る響きがスカーッと響き渡り、この巻の出来も安心できそうです。もともと喜劇のための劇音楽として書かれた音楽を交響曲にまとめた曲。序奏が終わると喜劇のための音楽とは思えないほどの怒涛のキレ味鋭い響きが襲いかかってきます。まるで竜がのたうちまわるがごとき躍動感。ファイのように一音一音の変化で機知を聴かせるのではなくあくまでも正攻法でグイグイ攻めてくる快感。アクセントの鋭さと迫力はかなりのもの。1楽章は、もはや喜劇の域は完全に超え、神々しささえ感じるほど。
続く2楽章のアンダンテは快速かつ滑らかに行きます。6楽章構成のこの曲の展開上、速めのテンポによる見通しの良さを狙っているのでしょう。オケの各パートの反応の良さもあって多彩な響きを楽しめます。アクセントのキレ、クッキリとした構成感は流石なところ。
メヌエットも速めで通します。舞曲であることを忘れてしまいそうな迫力と展開の面白さ。中間部で漂う異国情緒で一息入れて、再び舞曲に戻ります。
通常はフィナーレとなりますが、フィナーレのような曲調なのに終わりません。嵐の到来を告げるような騒がしさと躍動感の入り混じった楽章。唸る低音弦にジプシー風の旋律が絡まりユニークにまとまっていきます。
この曲の聴かせどころであるアダージョからアレグロへ変化する5楽章。いつもながら入りのメロディーの黄昏た印象からファンファーレに入る予想外の展開に驚きます。ハイドンマジック。
そして本当の終楽章。冒頭ヴァイオリンが音程を外してあえて調弦する様子が盛り込まれていますが、これぞハイドンの遊び心でしょう。こけおどしの面白さ半分、真面目に追い込むのが半分といったところでしょう。

Hob.I:70 Symphony No.70 [D] (before 1779)
この曲もリズムの面白さが聞きどころ。冒頭からリズムの面白さで遊びまくるよう。一つのテーマで曲をまとめるハイドンのユーモアが元になっていますが、演奏の方は攻めの構成で、緊張感を持続します。もう少し遊び心があってもいい気がしなくもありませんが、オケを精緻にコントロールして大迫力で仕上げてきますので、聴き応え十分。
続くアンダンテは弱音器付きの弦楽器の緊密なアンサンブルが聴きどころ。メロディーを様々な楽器が受け継いで進めていく地味ながらなかなか深みのある演奏。
メヌエットはオケがスタジオ中に響き渡る快感に満ちた演奏。非常にしなやかな中間部がうまくエネルギーを中和して一旦落ち着きますが、再び響きのエネルギーが戻り、その対比の面白さを印象付けます。
フィナーレはフーガ風の展開で無限の広がりを感じさせる構成。ここでフーガを持ってくるところにハイドンの冴えたアイデアがあるわけです。メロディーのアイデアも展開もユニーク。

Hob.I:12 Symphony No.12 [E] (1763)
最後に初期の交響曲を持ってきました。素直に爽やかな響きに耳を奪われます。音色の多彩さ、リズムのキレの良さを併せ持つ正統派の古楽器の演奏と言っていいでしょう。欠点らいしいものを見つけるのが難しいバランスの良い演奏。そして迫力やエネルギーも申し分ありません。
短調のアダージョはしっかりと陰りを纏い、落ち着いてじっくりと進めます。この先に到達するシュトルム・ウント・ドラング期の仄暗い雰囲気を先取りするような曲。低音弦の分厚い響きが迫力十分。古楽器とはいえ迫力面で現代楽器に負けている感じはしません。
フィナーレは再び晴朗な空のような明るさを取り戻します。隙のない緊密な演奏が産む充実感。冒頭の主題が次々に展開する面白さ、徐々に迫力を帯びてくる構成の面白さを存分に味わえます。

このあとチマローザの祝祭的なカンタータが置かれています。初めて聴く曲です。悪く言えばどんちゃん騒ぎのような曲ですが、これがめくるめくように展開して意外に面白い。序曲にレチタティーヴォを挟んでバリトンによるアリア2曲が聴きどころ、と書きかけたら、実はアリアよりもレチタティーヴォの方が面白い。こればかりは聴いていただかなくてはわかりませんね。ハイドンの交響曲を聴き終えてちょっとくつろいで聴けるという構成を意図したものでしょう。アントニーニも思いっきりくつろいだコントロール。このノリがハイドンでも欲しいところです(笑)

ジョヴァンニ・アントニーニ率いるイル・ジャルディーノ・アルモニコによるハイドンの交響曲第4巻ですが、すでに安定期に入りましたでしょうか。古楽器にしては十分な力感を表現できるオケによるキレの良い演奏が揃っています。このアルバムの曲だともう少し遊びがあってもいい気もしますが、アントニーニの狙いはあくまで正攻法によるタイトな演奏ということでしょう。演奏のレベルは非常に高く、鮮度の高い録音も手伝って、ハイドンの交響曲全集の企画にふさわしい安定感もあります。これだけの演奏を揃えられたら、やはりリリースされるごとに揃えたくなってしますね。そういう意味で全集企画は成り立ちそうですね。評価は全曲[+++++]とします。

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tag : 迂闊者 交響曲70番 交響曲12番 古楽器

ニコラス・クレーマー/BBCフィルの哲学者、ラメンタチオーネなど(ハイドン)

今日はちょっと心ときめくマイナー盤。

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ニコラス・クレーマー(Nicholas Kraemer)指揮のBBCフィルハーモニック(BBC Philharmonic)の演奏で、ハイドンの交響曲22番「哲学者」、26番「ラメンタチオーネ」、67番、80番の4曲を収めたCD。収録は哲学者が2008年6月26日、ラメンタチオーネが2009年1月28日、残り2曲が2007年6月21日、マンチェスターの新放送室第7スタジオでのライヴ。2009年のBBC music誌(Vol.17 No.11)の付録CD。

BBC music誌の付録はこれまでにもホグウッドの未発表録音だった交響曲76番、77番や、ジャナンドレア・ノセダの太鼓連打など、珍しい録音を何枚か手に入れています。今日取り上げるアルバムも含めてこれらは全て中古での入手。このアルバムもディスクユニオンで入手しました。

ニコラス・クレーマーはあまり知らない人と思いきや、以前に一度演奏を取り上げていました。

2010/10/09 : ハイドン–声楽曲 : アンドレアス・シュペリングのカンタータ集

上の記事のアンドレアス・シュペリングの祝祭カンタータ集の最後に収められた交響曲12番がクレーマーの指揮でした。シュペリングの繰り出す華やかな響きに対して、ゆったり慈しみ深い演奏が印象に残っています。

Wikipediaなどによるとニコラス・クレーマーは1945年スコットランドのエジンバラ生まれの指揮者、ハープシコード奏者。最初はハープシコード奏者として主にオーケストラのコンティニュオを担当していましたが、徐々に指揮する機会に恵まれ、1970年代にはイギリス室内管などの弾き振りなどで活躍、レパートリーもバロックから現代音楽まで拡大しました。その後1986年から92年までアイルランド室内管弦楽団、1985年から93年までロンドン・バッハ管弦楽団の音楽監督を務め、現在はマンチェスター・カメラータとシカゴのミュージック・オブ・ザ・バロックの首席客演指揮者、スイスのヴィンタートゥール・ムジークコレギウム管弦楽団の永世客演指揮者となっています。ライナーノーツによると、このアルバムのオケであるBBCフィルハーモニックとは日常的に仕事をしているそうです。

このアルバムに収められた4曲の交響曲ですが、これがまた癒しに満ちた素晴らしい演奏でした。

Hob.I:22 Symphony No.22 "Philosopher" 「哲学者」 [E flat] (1764)
冒頭からゆったりとしたオーケストラの美しい響きに癒されます。規則的なテンポに乗って各楽器が独特のシンプルなメロディーを受け継いでいきますが、録音は非常に良く、オケのそれぞれの楽器が溶け合って極上のとろけるような響き。弦楽器のビロードのような柔らかさ、木管楽器の自然な表情、そしてホルンの膨らみある柔らかさと言うことなし。BBCフィル素晴らしいですね。いきなりこの曲の真髄を突く演奏に惹きつけられます。
つづくプレストは穏やかながら躍動感満点。オーソドックスな演奏なんですが、このしなやかに躍動するリズムと、実に丁寧に繰り出される旋律の美しいこと。メロディーよりも支える内声部のハーモニーの美しさを意識したのか、若干弱めのメロディーがいいセンス。
メヌエットも穏やかながら実にキレのいい表現。奏者が完全にクレーマーのリズムに乗って素晴らしい一体感。ただ演奏するだけでハイドンの名旋律の美しさにとろけます。そしてフィナーレも期待どおり。ホルンがここぞとばかりにキリリとエッジを効かせてアクセントを加えます。素晴らしい疾走感。オケの響きは相変わらず極上。速いパッセージも落ち着きはらってさらりとこなす余裕があります。これは素晴らしい名演奏。名演の多いこの曲のベストとしても良いでしょう。放送用の録音ということでしょうか、最後に拍手が入ります。

Hob.I:26 Symphony No.26 "Lamentatione" 「ラメンタチオーネ」 [d] (before 1770)
哲学者以上に好きな曲。仄暗い始まりはシュトルム・ウント・ドラング期のハイドン特有の気配を感じさせます。この曲はピノックのキビキビとした演奏や、ニコラス・ウォードの名演が印象に残っていますが、同じスコットランドのウォードの演奏と似たオーソドックスなスタイルながら、ニュアンスの豊かさと響きの美しさはウォードを凌ぐ超名演。この曲でも美しい響きとメロディーのしなやかな展開、さっと気配を変える機転とクレーマーの繰り出す音楽にノックアウト。これは素晴らしい。オケも素晴らしい安定感。ライヴのノイズも皆無なのにライヴらしい躍動感に溢れています。
聴きどころの2楽章は予想より少し速めのテンポでサラリと入ります。聴き進むうちにじわりとこの曲の美しさに呑まれていきます。1楽章の豊かな響きをサラリと流すような清涼感が心地よいですね。
フィナーレも素晴らしい充実度。微妙にテンポを動かして豊かな音楽に。いやいや参りました。

Hob.I:67 Symphony No.67 [F] (before 1779)
録音が少しクリア度を増した感じ。冒頭から素晴らしい迫力と躍動感に圧倒されます。オーソドックスな演奏なんですが、正攻法での充実した演奏に圧倒されます。時代は古楽器やノンヴィブラート流行りですが、こうした演奏を聴くと、小手先ではなく曲をしっかりふまえた演奏の素晴らしさこそが重要だと改めて思い知らされます。よく聴くと弱音部をしっかりと音量を落として、しっかりと彫りの深さを表現していることや、畳み掛けるような迫力と力を抜く部分の表現のコントラストを巧みにつけるなど、やることはしっかりやっています。
弱音器付きの弦の生み出すメロディーのユニークさが聴きどころの2楽章のアダージョ。うねる大波のような起伏と、木管の美しい響きを象徴的に配して、静けさのなかにアクセントを鏤める見事なコントロール。終盤のピチカートは聴こえる限界まで音量を落とす機転を利かせます。
堂々としたメヌエットにヴァイオリンのリリカルな演奏が印象的な中間部とこれも見事。大胆なコントラストをつけているのに落ち着ききった演奏。そしてフィナーレは素晴らしい覇気のオケの響きを楽しめます。前2曲よりも時代が下ったことでオーケストレイションも充実していることを踏まえての表現でしょう。この曲ではコントラストの鮮明さが印象的でした。この曲も見事。

Hob.I:80 Symphony No.80 [d] (before 1784)
最後の曲。さらに時代が下り、オケも迫力十分。クレーマーの丁寧なコントロールは変わらず、オケのとろけるような響きの良さと安定度も変わらず。この曲のみ低音弦の音量が他曲より抑えている感じ。
アダージョのしっとりと落ち着きながらのゆるやかに盛り上がる曲想の表現、メヌエッットの自然さを保ちながらのキビキビとしたリズムのキレ、フィナーレの掛け声の応報のようなコミカルな展開の汲み取り方など非常に鋭敏なセンスで演奏をまとめます。もちろんこちらも見事。

BBC music誌の付録としてリリースされたアルバムですが、これが類稀なる名演奏でした。指揮のニコラス・クレーマー、特に日本ではほとんど知られていないと思いますが、以前取り上げた交響曲12番とこのアルバムを聴くと、そのオーケストラコントロール力はかなりのもの。特にハイドンの交響曲のツボを押さえていますね。この優しい、しなやかな演奏を好む人は多いと思います。ニコラス・ウォードのハイドンを超える素晴らしい演奏です。ということで4曲とも評価は[+++++]とします。中古で見かけたら即ゲットをお勧めします。

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tag : 哲学者 ラメンタチオーネ 交響曲67番 交響曲80番 ライヴ録音

【新着】ハイデルベルク交響楽団の35番、46番、51番(ハイドン)

前記事で取り上げたトーマス・ファイとハイデルベルク交響楽団による交響曲全集の23巻ですが、今日はその続きでCD2を取り上げます。前記事はこちら。

2017/03/05 : ハイドン–交響曲 : 【新着】トーマス・ファイの交響曲全集第23巻(ハイドン)

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前記事の再掲になりますが、収録情報にも触れておきましょう。CD2はファイの名前はなく、ベンジャミン・シュピルナー(Benjamin Spillner)がコンサートマスターを務めるハイデルベルク交響楽団の演奏で、交響曲35番、46番、51番の3曲。収録は2016年6月、ハイデルベルクの西20kmくらいのところにあるバート・デュルクハイム(Bad Dürkheim)にあるナチュラルホルンアカデミーでのセッション録音。レーベルはhänssler CLASSIC。

CD1がファイの名前が冠されていただけに、素晴らしい演奏を期待してしまいましたが、ちょっと肩透かしのようになってしまいました。このCD2は、ファイの再起が難しいと判明した後、22巻まで到達した交響曲全集を、オケのみで完成させようと、ある意味開き直っての録音のように思われます。

Hob.I:35 Symphony No.35 [B flat] (1767)
冒頭から格別の覇気が宿っています。勢いだけはまるでファイが振っているように錯覚するほど。まさに開き直ったといわんばかりにオケも攻める攻める。この痛快さを待っていました。よく聴くとファイならもう少し意表をついてくると思わせなくはありませんが、CD1よりもずっとイキイキとした演奏に嬉しくなってしまいます。おそらくCD1がファイのコントロールを失った直後の演奏だったのに対し、こちらはファイの意思を受け継いで、ここまで到達した交響曲全集の完成を志すよう、あらためてファイならばどうしたかをオケ全員が考えて演奏しているようです。まるでファイの魂が乗り移ったようなオケの熱演。この鬼気迫るオケの熱演にちょっと込み上げてくるものを感じます。
驚いたのが2楽章のアンダンテ。まるでファイのようにさらりと来ました! これまでのファイの録音を聴いて研究しつくしたのでしょうか。このさりげなさこそファイの緩徐楽章。もちろん、ファイ自身が振っていたら、もっと閃いていたんでしょうが、CD1で感じたやるせなさとは別次元の仕上がり。
ファイの想像力を再現するのが最も難しいと思われるメヌエットは、若干物足りない印象もありますが、中間部をぐっと落とし込むことでなんとかレベルを保ちます。そしてフィナーレで再び痛快さを取り戻します。オケ全員が偉大な才能に追いつこうと決死の演奏で臨みます。オケの心意気が心を打ちます。

Hob.I:46 Symphony No.46 [B] (1772)
おそらく告別交響曲の後に書かれた曲。ここでもベンジャミン・シュピルナー率いるハイデルベルク交響楽団は、まるでファイが振っているがごとく振る舞い、起伏に富んだ1楽章聴き応え十分な彫りの深さと機知を織り交ぜていきます。これは素晴らしい。よく聴くとファイらしくもあり、ファイらしくなくもあり、ファイなきハイデルベルク響の新たな魅力といってもいいでしょう。指揮者の才能ではなくオケの意思でここまでの演奏に仕上げてくるあたり、気合十分と言っていいでしょう。
つづくポコ・アダージョに入ると表現の変化の幅も十分。ハイドンの音楽を完全に消化して自らの音楽として歌い、仄暗いシュトルム・ウント・ドラング期の静謐な気配まで表現しつくします。指揮者の個性に頼らぬ音楽に聴こえなくもありません。これは見事。
この曲のメヌエットは迷いが無くなり、音楽の説得力が上がります。完全にファイの演奏を真似から脱し、オケ自らの音楽になってきた感じ。フィナーレも絶品。

Hob.I:51 Symphony No.51 [B flat] (before 1774)
前曲同様、表現に迷いなく、素晴らしい演奏。この曲も絶品です。当ブログの読者の皆さんも是非この素晴らしい演奏を聴いていただきたいと思います。

前記事を書いた時に感じた、なんとなくやるせない気持ち、そして悲しい気持ち、そして改めてファイの才能の偉大さに気づいたという気持ち。記事にするかどうか、ちょっとためらい、そしてなんとなくそのまま記事にしてしまったわけですが、今日改めてCD2を聴いて、そうしたもやもやが吹っ切れました。このアルバムが2枚組としてリリースされた深い意味がようやくわかりました。ファイを失い、混乱した状態のCD1に対し、2年という時間をかけてそれを克服し、ファイの遺産に負けないレベルの演奏で残りの曲を演奏し、全集を完成させようとする力強いオケの意思を感じさせるCD2。それをあえてまとめてリリースすることがハイデルベルク交響楽団のやるべきことだと世に問うたのでしょう。私はファイなきハイデルベルク交響楽団の素晴らしい演奏に心から感動しました。評価は3曲とも[+++++]とします。

皆さん、このアルバムは買いです!

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テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽

tag : 交響曲35番 交響曲46番 交響曲51番

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Daisy


Author:Daisy

なぜかハイドン(Franz Joseph Haydn)が特に気に入り膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。東京在住のごく普通のサラリーマンです。

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