【新着】フリーダー・ベルニウスの「スタバト・マーテル」新盤(ハイドン)

新着アルバムが続きます。

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フリーダー・ベルニウス(Frieder Bernius)指揮のシュツットガルト室内合唱団(Kammerchor Stuttgart)、ホフカペレ・シュトゥットガルト(Hofkapelle Stuttgart)で、ハイドンの「スタバト・マーテル」。収録は2017年4月5日から7日にかけて、シュツットガルトの南にあるロイトリンゲン(Reutligen)にあるプロテスタント教会でのセッション録音。レーベルはCarus。

フリーダー・ベルニウスはハイドンのミサ曲などを色々録音している人。これまで聴いたアルバムはどれもピンとくるものがなかったんですが、この新着アルバムはなかなかいい演奏ということで取り上げた次第。

手元にあるアルバムを並べてみると下記の通り。

「スタバト・マーテル」旧盤(録音年不明、BRILLIANT CLASSICS)
大オルガンミサ(1979、LP、FSM)
ネルソンミサ、ラウダ・シオン、アヴェ・レジーナ(1981–82、Profil)
オラトリオ版「十字架上のキリストの最後の七つの言葉」(P1982–87、Profil)

スタバト・マーテルの旧盤は録音年が不明なものの、おそらく80年代より前と推定されますので、今から30年以上前の古い録音ばかり。そしてどの演奏もオーソドックスなスタイルで、特段キラリと光るものがあるわけではない演奏ということで、評価も [+++]中心。自身の設立したシュツットガルト室内合唱団とヴュルテンベルク室内管弦楽団との演奏で、ハイドンばかり聴いている私の知るベルニウスは過去の人でしたが、今回取り上げるアルバムのレーベルのCarusからはバッハのロ短調ミサ、マタイ、モーツァルトのレクイエム、ハ短調ミサをはじめとしてかなりのアルバムがリリースされているようで、まさに今が旬の人。おまけにトーマス・ファイの怪我により交響曲全集の進行が危ぶまれる中、ハイデルベルク・シンフォニカーをファイに代わって振る可能性もあるなどの話題もあって、ちょっと新しい録音を聴いてみたくなったところにこのアルバムがリリースされたという流れです。

歌手は下記の通り。

ソプラノ:サラ・ウェゲナー(Sarah Wegener)
アルト:マリー・ヘンリエッテ・ラインホルト(Marie Henriette Reinhold)
テノール:コリン・バルザー(Colin Balzer)
バス:セバスティアン・ノアック(Sebastian Noack)

また、スタバト・マーテルはコルボをはじめ名演奏が多く、過去に取り上げた3つの演奏はいずれも甲乙つけがたい名盤です。

2015/11/07 : ハイドン–声楽曲 : ラースロー・ヘルタイ/アルゴ室内管のスタバト・マーテル(ハイドン)
2014/12/12 : ハイドン–声楽曲 : ファビオ・チオフィーニ/アッカデミア・ヘルマンスのスタバト・マーテル(ハイドン)
2010/12/19 : ハイドン–声楽曲 : 【年末企画】ミシェル・コルボのスタバト・マーテル

今回のベルニウスの新盤はこれらに並ぶ素晴らしい演奏でした。

Hob.XXbis Stabat Mater スタバト・マーテル [g] (1767)
最新の録音だけあって、広い音場の中に古楽器オケの鮮明な音色が響きわたる気持ちのいい録音。ベルニウスは合唱指揮出身だけあって、オケのコントロールは外連味のない自然なもの。コーラスはもちろん透き通るようなハーモニーの美しさを見事にまとめる手腕を最初から楽しめます。入りの演奏の見事な展開に聴き入るうちに、この演奏がハイドンの音楽の自然な呼吸と敬虔な祈りの感情に包まれていることに気づきます。歌手もコーラスもオケの一部のように音色が揃って、オケのパートと同じような深い呼吸としなやかなフレージングにまとめられ、素晴らしい一体感を感じます。美しいフレーズが波打つように押し寄せながら曲が進みます。ベルニウスの語り口は、ハイドン自身が重い病気にかかって全快したことを聖母を讃えて作曲した心境に満ちたもの。まるで宇野重吉が読み語るように慈しみに満ちています。大指揮者がオケを豪腕でグイグイいわせながら制御する音楽とは対極にある演奏です。シュトルム・ウント・ドラング期の曲ゆえ短調の曲の憂いに満ちた陰りの美しさをあえてさっぱりとまとめて爽やかな美しさにまとめるところも見事。まさに美しいメロディーの宝庫たるこの曲の素晴らしさを知り尽くしているからこそのまとめ方でしょう。約1時間、全14曲が次々に展開するのがあっという間に感じるほど楽しい時間でした。

ベルニウスの演奏はハイドンの古い録音しか聴いていませんでしたが、最近Carusレーベルから色々な曲のリリースが続いている理由がわかりました。このスタバト・マーテルは旧盤とは全くレベルの異なる名盤と言っていいでしょう。もちろん評価は[+++++]とします。これは、天地創造や四季の録音を期待しないわけには参りませんね。リリース済みのアルバムではロ短調ミサも聴いてみたくなりました。声楽曲が好きな方にはオススメの1枚です。

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tag : スタバト・マーテル

ラインハルト・カムラーによるニコライミサ、小オルガンミサ(ハイドン)

たまにはCDを(笑)

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TOWER RECORDS / amazon / HMV&BOOKS onlineicon(いずれも別装丁10枚組)

ラインハルト・カムラー(Reinhard Kammler)指揮のアウグスブルク大聖堂聖歌隊(Soliesten und Kammerchor der Augsburger Domsingknaben), ミュンヘン・レジデンツ室内管弦楽団(Residenz-kammer-orchester München)の演奏で、ハイドンのニコライ・ミサ、小オルガン・ミサ、ミサ・ブレヴィスの3曲を収めたCD。収録は1985年、アウグスブルク西方のヴィオラウ(Violau)にある聖ミカエル巡礼教会(Wallfahrtskirche St. Michael)でのセッション録音。レーベルはEMIマークがついたdeutsche harmonia mundi。

このアルバムは最近オークションで仕入れたもの。ラインハルト・カムラーは手元に大オルガンミサを収めたdeutsche harmonia mundiの1978年録音のCDがありますが、これは少年合唱がかなり荒くちょっと楽しめませんでした。ということで、それから7年後に録音されたこちらのアルバムは、大オルガンミサの少し後に作曲された2曲と初期のミサ曲を収めたもので、コレクションを埋める目的で入手しましたが、これがなんと前アルバムとうって変わって素晴らしい演奏でびっくり! 指揮者の7年の熟成かはたまたプロデュサーの手腕かはわかりませんが、こういうこともあるものですね。

いつものようにラインハルト・カムラーについて調べてみました。1954年、ドイツのアウグスブルク生まれの合唱指揮者。地元アウグスブルクのレオポルド・モーツァルト音楽院、ミュンヘン音楽大学で学び、在学時にこのアルバムでコーラスを担当する少年合唱のアウグスブルク大聖堂聖歌隊を設立し、1982年ケルンで開かれたドイツ合唱コンクールで優勝しました。その後アウグスブルク大聖堂のオルガニストを経て、1995年に同音楽監督に就任。以後毎年クリスマスにはバッハのクリスマス・オラトリオ、イースターにはヨハネ受難曲やマタイ受難曲などを演奏するようになり、2003年からはカムラーとアウグスブルク大聖堂聖歌隊による「バッハインロココ(Bach in Rokoko)」という音楽祭を開催し、これは現在まで続いています。

ということでアウグスブルクで長らく活動を続けている合唱指揮者ラインハルト・カムラーによるハイドンのミサ曲ですが、天地創造も有名指揮者の演奏以上に合唱指揮者による渾身の演奏をいくつも聴いてきましたので、ちょっと納得の出来です。

Hob.XXII:6 "Missa Sancti Nicolai" "Nicolaimesse" 「ニコライミサ」 [G] (1772)
作曲年は1772年とハイドンマニアの方ならピンとくる年。そう、シュトルムウントドラング期のクライマックスの年で、告別交響曲や太陽四重奏曲が書かれた年に書かれたミサ曲。曲はこの創作期に漂う仄暗さとは無縁なほのぼのとした明るさを感じさせるもの。キリエの冒頭から深みのあるしなやかな響きが心地よい演奏。教会での録音らしく残響は多めながら鮮明さを失わない見事な録音。ソプラノからバスまでの歌手の配役を含めて少年合唱のようです。透き通るようなソロとコーラスは非常にレベルが高く大オルガンミサの録音は全く異なり安心して身を委ねられます。全体のコントロールは合唱指揮者らしく奇をてらったところがなく非常に誠実なもの。しかもソロとコーラス、オケが見事なバランスで調和しており、キリエからグロリア、クレド、サンクトゥス、ベネディクトゥスと大河の流れのような一貫した音楽で一気に聴かせ、最後のアニュス・デイの静謐な響きに神々しさが宿ります。最後に冒頭のキリエのメロディが流れると暖かい空気に一変。この曲のキーになる美しいメロディで最初と最後が美しく飾られるわけです。いつもながらハイドンの見事な構成力に唸ります。

Hob.XXII:7 "Missa brevis Sancti Joannis de Deo" "Klein Orgelmesse" 「小オルガンミサ」 [B flat] (c.1775)
ニコライミサとは異なる曲想ながら前曲以上に癒し成分に満ちた入りからグッときます。あくまでもコーラスが主体となる入りがこの演奏のポイントでしょう。華やぐキリエから、リズムを刻むグローリアと進み、クレドでしっとりと沈み込む展開の妙。終始一貫したカムラーのコントロールによって、この小ミサ曲のピュアな魅力が際立ちます。コーラスの響き純度の高さは少年合唱ならでは。サンクトゥスはフーガ的な幽玄な広がりを感じさせ、続くベネディクトゥスではオルガンの伴奏に乗ったボーイソプラノの魅力に圧倒されます。そして最後のアニュス・デイで前曲同様、険しさも感じさせる静謐な響きに至り、祈りの音楽たるミサ曲の核心に迫る見事な集中を見せます。透明な響きの彼方へワープしそうです。

Hob.XXII:1 Missa brevis [F] (1757)
最後の曲はぐっと作曲年代が遡ったハイドンの創作初期の音楽。曲のつくりはぐっと単純になりますが、メロディーラインの美しさはハイドンならでは。構成よりもメロディー自体で聴かせる音楽。カムラーのコントロールは前曲までと同様、非常に丹念なコントロール。曲の展開は前2曲とはかなり異なるので驚きに満ちた発見が多々あります。オケも落ち着いてハイドンの初期の名曲を丹念に描き、ソプラノとメゾソプラノ役の少年による掛け合いをゆったりと支えます。この初期の曲も見事に料理して、アルバム全体を通して敬虔な祈りを感じるピュアな演奏でした。

アウグスブルクの地元で一貫して活躍するラインハルト・カムラーと主兵のアウグスブルク大聖堂聖歌隊らによるハイドンの初期のミサ曲集ですが、この3曲については他の演奏を必要としないほどに一貫して誠実な演奏が心に残りました。オケのコントロールも、有名指揮者ならば聴かせどころを作るのでしょうが、これらの曲にはカムラーの誠実な演奏の方が映えるとの確信を持てる素晴らしい説得力に満ちた演奏です。評価はもちろん3曲とも[+++++]とします。

ちなみに上の写真につけたリンク先のアルバムはdeutsche harmonia mundiによるJ. Haydn Edition<完全生産限定盤>ということで、このアルバムを含む10枚組のCDで、内容も素晴らしい演奏ばかり集めたもので、しかも値段もCD1枚分くらいの廉価なものなので、いま手に入れるのはこのアルバムがいいと思います。

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tag : 小オルガンミサ ニコライミサ ミサブレヴィス

【新着】スーザン・ハミルトンのスコットランド歌曲集(ハイドン)

今日は久々の歌曲の新着アルバム。着いてビックリ、素晴らしいアルバムでした。

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スーザン・ハミルトン(Susan Hamilton)のソプラノ、マンフレート・クレーマ(Manfredo Kreamer)率いるレア・フルーツ・カウンシル(The Rare Fruits Council)の演奏で、ハイドンの編曲したスコットランド歌曲集から11曲、フランチェスコ・ジェミニアーニのスコットランド民謡を元にした曲11曲のあわせて22曲を収めたアルバム。収録はハイドンの没後200年である2009年の2月19日から23日にかけて、ベルギーのナミュール近郊のフラン=ワレ城近くのサン・レミ教会でのセッション録音。レーベルはludi musici。

もともとハイドンの歌曲は好きな方なので、未入手のアルバムを見かけると手に入れるようにはしてるんですが、歌手がスーザン・ハミルトンと知りすぐにamazonに注文。到着してビックリ。たしか1枚組のCDなのにずしりと重いではありませんか。開梱してまたビックリ。150ページ近くある4カ国語で書かれた非常に美しい印刷のブックレットにCDがさらりと挟んである体裁。このアルバムのコンセプトに、曲の解説、歌詞、そして間にはスコットランドを想起させる美しい絵画がふんだんに差し込まれており、体裁上は書籍がメインでCDがオマケといってもいいくらいの力の入りようです。ハイレゾにネット配信全盛の中、このプロダクションは見事。プロダクションとしての完成度は素晴らしいものがあります。

スーザン・ハミルトンがスコットランド歌曲集を歌うアルバムは以前に別のアルバムを取り上げていますが、このアルバムでノックアウトされた口です。

2010/07/23 : ハイドン–声楽曲 : スコットランド歌曲集、マリーの夢

スーザン・ハミルトンはスコットランド出身の歌手で、バロックから現代音楽までをこなす歌手とのこと。以前のアルバムでもネイティヴなスコットランド人らしい発音と透き通るような声がまさにスコットランド民謡のメロディーと溶け合ってえも言われぬ雰囲気を醸し出していました。

そして、このアルバムでは、前アルバムと重なる曲もあるにもかかわらず、そして前アルバムの2002年の録音から7年しか経過していないにもかかわらずリリースされたということで、その存在価値があるからこそのリリースだと思われます。
そもそもハイドンのスコットランド歌曲集はこれまでにも多くのアルバムがリリースされているのはご存知の通りですが、組み合わされたジェミニアーニはハイドンより半世紀近く前に生まれたイタリアの作曲家で、最後はイギリスやアイルランドで活動していたようですが、そのスコットランド民謡を基にした曲はあまり知られていないものかもしれません。そのような2人の作曲家の曲を組み合わせてアルバムを企画したところにこのアルバムの面白さがあるわけです。これがまた絶妙に合う。性格の異なるモルトのブレンドで香り高いウイスキーができるようなイメージでしょう。

伴奏を担当するのはレア・フルーツ・カウンシル。訳すと「珍果実評議会」あるいは「早熟果実評議会」となりますが、なんだかふざけた名前の団体。リーダーのマンフレート・クレーマーはアルゼンチン生まれのヴァイオリン奏者、指揮者。1986年から91年までムジカ・アンティクァ・ケルンのリーダーを務め、その後名だたる古楽器オケ、指揮者と共演を重ね、1996年に古楽器アンサンブルのレア・フルーツ・カウンシルを設立したとのこと。

ジェミニアーニの曲もなかなか面白いのですが、今日はハイドンの曲をピックアップしてコメントしておきましょう。メンバーや編成は曲名のリンク先の所有盤リストの情報をご覧ください。

ジェミニアーニの曲もスコットランドの風景が浮かび上がるようないい曲ばかり。その中にハイドンの曲がランダムに散りばめられた構成です。

Hob.XXXIa:18 - JHW XXXII/1 No.18 "My boy Tammy" 「私の坊やタミー」 (Hector Macnaill)
ヴァイオリン、チェロ、ハープシコードの伴奏。冒頭からスーザン・ハミルトンの独特の声に癒されます。険しさが畳み掛けてくるような曲想の曲を切々と歌います。伴奏は古楽器のキレの良さがそのまま活きています。

Hob.XXXIa:10 - JHW XXXII/1 No.10 "The ploughman" 「農夫」 (Robert Burns)
軽快なテンポに乗って農夫の日常を描く曲。今度はチェロは抜きでハープシコードがフォルテピアノに変わりますが、それだけで響のニュアンスが大きく変わります。

Hob.XXXIa:45 - JHW XXXII/1 No.45 "The gard'ner wi' his paidle" 「鍬の手をもつあの農夫」(Robert Burns)
徐々に心に沁みるいい曲になってきました。スーザン・ハミルトンの抜けるような自然な高音の魅力がすばらしく、聴いていながらゆりかごで揺られているような夢見心地になってきます。

Hob.XXXIa:71 - JHW XXXII/1 No.71 "Young Damon" 「若きデイモン」 (Robert Fergusson)
まさにスコットランドの空気を吸いながら聴いているような気にさせられる名曲。朗々と歌う自然な低音から高音への発声が実に爽やか。ヴァイオリンが寄り添うように伴奏し、ハープシコードは音量を抑えて優しく包み込むよう。

Hob.XXXIa:219bis - JHW XXXII/3 No.186 "The night her silent sable wore" "She rose, and let me in" 「彼女は立ちあがり、招き入れてくれた」
Brilliantのスコットランド歌曲集の第1巻の2曲目に配された曲なので、それこそ擦り切れるほど聴きました。ハイドントリオ・アイゼンシュタットの演奏に比べて陰影が深く、スコットランドらしい雰囲気はこちらが上でしょう。録音も素晴らしくまさに絶品。

Hob.XXXIa:143bis - JHW XXXII/3 No.254 "Morag" 「モラグ」 (Robert Burns)
寂しげなフォルテピアノの伴奏に、突き抜けるような素晴らしい高音の歌声が印象的な曲。シンプルな曲から詩情が溢れ出してきます。

Hob.XXXIa:44 - JHW XXXII/1 No.44 "Sleepy bodie" 「眠れる人」
前曲と対比させるように明るい入りの曲。伴奏のヴァイオリンとフォルテピアノが躍動。そしてスーザン・ハミルトンも本来の弾むこ声を聴かせます。

Hob.XXXIa:1 - JHW XXXII/1 No.1 "Mary's dream" 「メリーの夢」 (Alexander Lowe)
名曲。ヴァイオリンの序奏から沁みます。スーザン・ハミルトンの以前の録音にも含まれていた曲。訥々とした語り口から積む気出される詩情、風景、風、そして波。5分弱の曲に込められたドラマ。あんまりいいのでモルトウィスキーをちびりながらスコットランドの風景を想いながら聴きます。

Hob.XXXIa:149 - JHW XXXII/2 No.149 "O'er the hills and far away" 「丘を越え彼方へ」
癒しから疾風のような曲に転じます。曲の配置もよく考えられていますね。見事に曲想の変化に合わせていくヴァイオリンのマンフレート・クレーマの器の大きさがわかります。

Hob.XXXIa:2 - JHW XXXII/1 No.2 "John Anderson" 「ジョン・アンダーソン」(Robert Burns)
入りの印象的なヴァイオリンソロが曲の深さを象徴するよう。そのあとつづくスーザン・ハミルトンの孤高の歌唱が引き立ちます。

Hob.XXXIa:1bis - JHW XXXII/3 No.201 "Mary's dream" 「メリーの夢」 (Alexander Lowe)
先ほどの同名曲の異なるヴァージョン。やはり沁みます。こういう曲はスーザン・ハミルトン以外では聴けない体になりつつあります。美しいメロディーにつけられたハイドンの伴奏が曲の美しさを引き立てます。

スーザン・ハミルトンの歌う、スコットランド民謡をハイドンが編曲した歌曲集。ハイドンが最晩年に人助けからはじめたスコットランド民謡の編曲の仕事ですが、ハイドンの晩年の楽しみの一つだったのでしょう。1曲1曲に素晴らしい伴奏がつけられ、メロディーだけでなく伴奏も相まってスコットランドの自然を想起させる素晴らしい曲に仕上がっています。そしてハミルトンの歌で聴くこれらの曲は、その最良の演奏でもあります。冒頭にふれたようにプロダクションとしても素晴らしいものに仕上がっていますので、歌曲が好きな方には絶対のオススメ盤です。評価は全曲[+++++]とします。

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tag : スコットランド歌曲 古楽器

ミシェル・コルボのテレジアミサ(ハイドン)

再びLPに戻ります。

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ミシェル・コルボ(Michel Corboz)指揮のローザンヌ室内管弦楽団とローザンヌ声楽アンサンブルの演奏で、ハイドンの「テレジアミサ」を収めたLP。収録情報は掲載されていませんが、リリースは1977年の模様。レーベルはERATOの国内盤。

このLP、最近オークションで手に入れたもの。コルボのハイドンは以前に2度ほど取り上げており、そのどちらも絶妙な美しさの超名演だっただけに、このアルバムがオークションに出品されているのを発見した時は息を殺して周囲の動向に最新の注意を払い、厳かに落札した次第。

2010/12/19 : ハイドン–声楽曲 : 【年末企画】ミシェル・コルボのスタバト・マーテル
2010/09/20 : ハイドン–声楽曲 : ミシェル・コルボのチェチーリアミサ

もちろん、コルボと言えばフォーレのレクイエムが有名で、まさに天上の音楽のようなしなやかな音楽が刷り込まれていますが、ハイドンのチェチーリアミサもスタバト・マーテルもどちらも絶品。実演でもラ・フォル・ジュルネでモーツァルトのレクイエムにバッハのロ短調ミサの名演を聴いていますので、実力は折り紙つき。このLPのテレジアミサも悪かろうはずもなく、いつものように到着したLPをクリーニングして針を落とすと、期待通りあまりに素晴らしい音楽が湧き出してくるではありませんか! 幸いLPも素晴らしいコンディションで、スピーカーの奥にオケとコーラスがしなやかに広がります。

歌手は次の通り。

ソプラノ:ユタ・シュプレッケルセン(Uta Spreckelsen)
アルト:ハンナ・シャウアー(Hanna Schaer)
テノール:ジョン・エルウィス(John Elwes)
バス:ミシェル・ブロダール(Michel Brodard)

Hob.XXII:12 Missa "Theresienmesse" 「テレジアミサ」 [B flat] (1799)
期待通り、いきなり透明感溢れるオケの音色に耳を奪われます。国内盤ですが音のキレも十分。導入のキリエから大河の流れの五とき盤石の安定感あるサウンドがスピーカーから吹き出します。なんでしょう、この図太い音色は。歌手陣もコルボの好みでしょうか、ソプラノからバスまで声質が揃って見事なハーモニーを作っていきます。そしてもちろん、コーラスが大波のうねりのごとき広がりでオケを包み込みます。ソプラノのユタ・シュプレッケルセンののびのびとした高音は見事。
スクラッチノイズは皆無で、続くグローリアも大河の如し。すべての音符が自然に鳴らされるコルボの至芸。曲に素直に演奏することが最上の結果をもたらすことを確信するいつものコルボの素晴らしいアプローチ。オケとコーラスの雄大な響きだけでもこの曲の真髄に触れた気分。途中から音量を落としアルト、バス、ソプラノ、テノールの順にソロに入りますが、全員がしっとりと落ち着いた歌唱でまとめてくるあたりの演出の見事さもコルボならでは。もはや自然さに神がかったようなオーラが滲みます。

LPを裏返してクレド。もはや完全にコルボのコントロールに身を任せて、オケとコーラスの大波のうねりを楽しみます。演奏者の煩悩は全く介在せず、ハイドンが書いたままの音楽が完全に再現されているような気になります。それだけ説得力のある演奏ゆえ、この演奏以外の演奏には混ざり物があるように聴こえるほど。宗教曲ゆえ、演奏者自身の心の純粋さが問われるのでしょうね。深く沈む所の闇の深さも見事。テンポもアクセントもハーモニーも全てが曲の定め通りに進んでいるように聴こえる快感。音楽に一本揺るぎない統一感が感じられます。
続いて短いサンクトゥスですが、この幸福感はなんでしょう。あまりの素晴らしさに言葉もありません。
そしてベネディクトスに入ると、一旦冷静さを取り戻しますが、実に味わい深いソプラノのソロが入るとやはり落ち着いていられないほどの見事な歌唱に釘付けになります。知らぬ間に4人のアンサンブルになりますが、バランスが完璧すぎて現実のことと思えないほど。奇跡のアンサンブルとはこのことでしょう。全員が完璧なタイミングで入り。全員が完全にコルボの棒の支配下にあります。これ以上の演奏がありえないほどの凄みを感じます。
そして最後のアニュス・デイ。なぜか終末を感じさせる陰りが、迫力を増して迫ってきます。これほど真剣な響きが心に迫る演奏はかつてあったでしょうか。コルボのコントロールの頂点はここにありました。そして曲は一変して明るい調子に変わり、最後に神への感謝の気持ちに包まれるよう。この表情の描きわけの自然ながらくっきりとした変化は多くの宗教音楽を振ってきたコルボならではのものでしょう。オケの表現力は最後まで見事の一言。最後は華やかに盛り上がって終わります。

コルボのミサ曲が悪かろうはずはないとの、それなりの感触を持って聴き始めましたが、さにあらず。悪かろうはずはないどころか、これ以上の演奏が誰ができるのかわからないほどの素晴らしい説得力に満ちた演奏に打ちのめされました。LPのコンデションも最高ゆえ、スピーカーから分厚いコーラスとオケの響きが溢れ出し、これまでのすべての演奏の記憶を塗り替えるような素晴らしい演奏でした。もしかしたらコルボのベスト盤と言ってもいいかもしれません。このテレジアミサの素晴らしい音楽はこのLPを聴いて初めて真価に触れた気分です。もちろん評価は[+++++]とします。

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tag : テレジアミサ LP

カスタリアン・バンドのスコットランド歌曲集(ハイドン)

今日は久々の歌曲。歌曲の未入手盤を見かけることもあまりない中、オークションで手に入れたアルバム。

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カスタリアン・バンド(Castalian Band)によるハイドンが編曲を担当したスコットランド歌曲集から12曲(曲名別記)とピアノソナタを編曲したヴァイオリンソナタ(XVI:24)、ピアノ三重奏曲(XV:23)を収めたアルバム。収録は1990年12月、ロンドン西方の街、ニューベリー(Newbury)にあるイースト・ウッドヘイ教会でのセッション録音。レーベルは独musicaphon。

演奏者のカスタリアン・バンドはソプラノ、ヴァイオリン、チェロ、フォルテピアノの4人組。ジャケットを開いてみるとメンバーの写真があり、男性1人、女性3人の組みあわせ。よく見ると見覚えのある顔が。そう、Brilliantのスコットランド歌曲全集で美声を聴かせるロルナ・アンダーソンではありませんか。

調べてみると、カスタリアン・バンドは1988年に設立され、バロックから古典期に書かれたソプラノとトリオのための音楽をレパートリーとしています。創立メンバーは全員スコットランド出身であることから、スコットランドの音楽に格別の愛着を持っています。そもそもカスタリアン・バンドという名前はスコットランドのジェームズ6世(イングランドのジェームズ1世)統治下の16世紀末の詩人、音楽家の集まりに因んで付けられたものとのことです。メンバーは次の通り。

ソプラノ:ロルナ・アンダーソン(Lorna Anderson)
ヴァイオリン:リチャード・グウィルト(Richard Gwilt)
チェロ:イモージェン・セス=スミス(Imogen Seth-Smith)
フォルテピアノ:ルーシー・キャロラン(Lucy Carolan)

このアルバム、Brilliantの全集のロルナ・アンダーソンの素晴らしい歌唱そのまま。このアルバムがあったことでBrilliantが全集に起用したのではないかと想像しています。声質も美しいのですが、スコットランド風の英語の発音もあって歌にスコットランドの魂が宿っているように感じます。演歌はサブちゃん、レゲエはボブ・マーリー、スコットランド歌曲はロルナ・アンダーソンです。伴奏も古楽器の腕利き揃いでしっとりと見事なもの。曲数が多いので、曲ごとに簡単なコメントを。

Hob.XXXIa:115bis - JHW XXXII/3 No.239 "The minstrel" (Mr Pickering)
広い空間に古楽器の弦楽器とフォルテピアノの仄暗くも味わい深い伴奏が響き渡り、ロルナ・アンダーソンが入ります。いきなり素晴らしい歌唱にうっとり。minstrelとは吟遊詩人のこと。いきなりスコットランドの空気に包まれるよう。録音も歌曲にふさわしいしっとりとした響きの表情をうまくとらえたもの。

Hob.XXXIa:20bis - JHW XXXII/3 No.212 "Fy let's a' to the bridal - The blithsome(blythsome) bridal"
陽気な結婚式とでも訳したらいいのでしょうか、速めのテンポの快活な曲調の曲。アンサンブルも伴奏に徹して艶やかな響きでアンダーソンを支えます。

Hob.XXXIa:232 - JHW XXXII/4 No.289 "The border widow's lament" (Walter Scott)
隣の未亡人の嘆きという意味でしょうか。この曲は伴奏がフォルテピアノのみ。伴奏のフォルテピアノから滲みでる情感の深さが印象的。ロルナ・アンダーソンの歌の美しいことと言ったらありません。これは名曲。絶品。

Hob.XXXIa:1 - JHW XXXII/1 No.1 "Mary's dream" 「メリーの夢」 (Alexander Lowe)
前半4曲の締めにあたる曲。聴いているうちにちょっと感極まるような美しい曲。この曲にはスーザン・ハミルトンの名盤がありますが、聴き比べてみたところ、ハミルトンが透き通るような声の美しさで聴かせたのに対し、このロルナ・アンダーソンの方がオーソドックスな良さがあります。伴奏もこちらの方が味わい深く、この曲のベストと言っていいでしょう。ハミルトン盤はアーティスティック過ぎるかもしれません。

Hob.XVI:24 Piano Sonata No.39 [D] (1773)
4曲の歌曲の後に、ピアノソナタXVI:24をヴァイオリンとフォルテピアノのためのに編曲した曲が挟まります。もともとピアノソナタの演奏が刷り込まれているので、フォルテピアノ主体の演奏にヴァイオリンがちょっとした伴奏を加えているように聴こえてしまいます。軽い曲想を生かした演奏。フォルテピアノはあまり大きく抑揚をつけず、ヴァイオリンの音色が加わることによる華やかさで聴かせる演奏。古楽器による雅な音色の美しさと、大らかな表情の変化がかえって心地よいですね。歌曲の合間の箸休め的演奏と割り切れる面白さがあります。

Hob.XXXIa:226 - JHW XXXII/4 No.226 "The braes of Ballochmyle" (Robert Burns)
中盤の4曲の歌曲に入ります。バロックマイルの丘という曲。バロックマイルはグラスゴーの南にある街。穏やかな丘陵を思わせるしっとりとした曲。

Hob.XXXIa:227 - JHW XXXII/3 No.229 "O wise and valiant Willy" "Rattling roaring Willy" 「おおかしこき勇敢なウィリー」 (Anne Grant)
1分ちょっとの短い曲。この曲も伴奏はフォルテピアノのみ。軽快なテンポのフォルテピアノに合わせてロルナ・アンダーソンも軽快に歌います。

Hob.XXXIa:229 - JHW XXXII/3 No.213 "Sleep'st thou, or wak'st thou" "Deil tak' the wars" 「眠っているの、それとも起きているの?」 (Robert Burns)
中盤の聴きどころ。穏やかな曲ながら、郷愁を感じるメロディーがしっとりと響きます。伴奏が時に非常にシンプルになりますが、それが実にセンスが良く、曲を引き立てます。流石ハイドン。

Hob.XXXIa:28 - JHW XXXII/1 No.28 "Up in the morning early" (Robert Burns)
中盤最後の曲。スコットランド歌曲の中では比較的録音が多く、先に触れたスーザン・ハミルトン盤があります。軽快な中に独特の雰囲気が宿り、伴奏と歌が掛け合いながら曲が展開します。

Hob.XV:23 Piano Trio (Nr.37/op.71-3) [d] (before 1795)
そして、今度は短調のピアノトリオを1曲挟みます。短調による影のある入りですが、曲が進むにつれて適度な鮮やかさと適度にリラックスしたアンサンブルとわかり、こちらの聴き方もゆったりしながら聴きます。こちらも単独で演奏する時のように攻め込む様子はなく、歌曲の箸休め的な配置なんですね。最近冴えたトリオの演奏が多かったので、対峙して聴くスタンスになっちゃってたことを少し反省。ピアノトリオはこうしてリラックスした演奏もいいものです。展開部も余裕たっぷりに繰り広げられる演奏にゆったりと身を任せます。
素晴らしいのが続く2楽章。ゆったりしていながら深みを感じる展開。特にフォルテピアノのルーシー・キャロランの表現力によるものでしょう。しなやかなタッチから繰り出させる慈しみ深い響き。
フィナーレはいつもながらハイドンの想像力に驚かされるところ。先ほどからルーシー・キャロランのフォルテピアノに耳をそばだてながら聴き入りますが、ここでも見事なタッチで演奏を支えます。キャロランの穏やかなたちがヴァイオリンとチェロを引き立てます。

Hob.XXXIa:201 - JHW XXXII/3 No.251 "The tears of Caledonia" (Tobias Smollet)
終盤の歌曲4曲に入ります。カレドニアの涙という曲。カレドニアとはグレートブリテン島の北部を指す言葉とのこと。ゆったりとした哀愁に満ちた伴奏から情感がこもります。ロルナ・アンダーソンの美声がそれに乗って物憂げな美しいメロディーを置いていきます。メロディーの美しさだけでグッとくる曲。

Hob.XXXIa:247 - JHW XXXII/4 No.285 "Happy Dick Dawson" (Hector Macneill)
幸せ者、ディック・ドーソンとでも訳すのでしょうか。穏やかな明るい曲調に影を感じるロルナ・アンダーソンの声が乗って、なんとも言えない柔らかい曲。

Hob.XXXIa:81bis - JHW XXXII/4 No.81bis "Macgregor of Ruara's lament" (translated from the Gealic by Anne Grant)
終盤で一番美しい曲。典雅の極み。ロルナ・アンダーソンの声質に合っているからでしょうか、高音の響きの美しさは素晴らしいものがあります。

Hob.XXXIa:252 - JHW XXXII/3 No.232 "Jenny's bawbee" 「ジェニーのボービー」 (Alexander Boswell)
最後は明るい有名曲を持ってきました。最後にさらりとした曲で終わるこの配置はハイドンらしいですね。

スコットランド出身の歌手と奏者による、スコットランド民謡にハイドンが伴奏をつけたスコットランド歌曲集。歌も伴奏も録音も非常にレベルが高く、そして、本場物らしい説得力もある素晴らしいアルバムでした。評価は全曲[+++++]とします。途中で触れたスーザン・ハミルトン盤は伴奏も一流どころですがオーセンテックさを強調した演奏のため、オーソドックスな演奏を楽しむには、このカスタリアン・バンド盤かキャサリーン・ボット盤がオススメです。特にこのカスタリアン・バンド盤は選曲がよく、名曲ぞろい。スコットランド歌曲集のファーストチョイスとしてもオススメできます。が、古いアルバム故、手に入るうちにどうぞ。

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ゲルハルト・ウィルヘルム/ヴェルナー・ケルチュ器楽アンサンブルのチェチーリアミサ(ハイドン)

またまたLPです。

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amazon(合唱曲集9CD) / amazon(mp3) / ローチケHMVicon(合唱曲集9CD)

ゲルハルト・ウィルヘルム(Gerhard Wilhelm)指揮のヴェルナー・ケルチュ器楽アンサンブル(Instrumentalensemble Werner Keltsch)、シュツットガルト・イムヌス少年合唱団(Stuttgarter Hymnuschorknaben)の演奏でハイドンの「チェチーリア・ミサ」、カール・フォルスター(Karl Forster)指揮のベルリン交響楽団(Berliner Symphoniker)、ベルリン聖ヤドヴィガ教会合唱団(Chor der St.-Hedwigs- Kathedrale Berlin)の演奏でハイドンのテ・デウム(Hob.XXIIIc:2)の2曲を収めた2枚組のLP。今日取り上げるチェチーリア・ミサの収録はLPにはPマークが1971年とだけ記されていますが、CDの方には1969年11月、シュヴァイゲルン(Schwaigern)の教会堂でのセッション録音と記載されています。レーベルはEMI ELECTROLA。

このアルバム、先日オークションで手に入れたもの。未入手の演奏だと思って手に入れたところ、よく調べたらCD化もされていました。最近はダブり買いを避けるためにも、店頭で欲しいアルバムがあると、まずは自分の所有盤リストを確認するのですが、このアルバム、見覚えもなければ、リストへの登録もないため入札したのですが、リストへの登録のためネットで色々検索して調べていたところ、このアルバムと同じ演奏のCDがあるではありませんか。しかもそのCD、見覚えがあるどころか、手元にありました。未登録だった理由はマリナーとドレスデン・シュターツカペレの廉価盤セットものCDがヴァージョン違いで2組あるのですが、その片方はダブり盤としてしまってあったというわけ。やはり収録曲はよく確認しないといけませんね。

くだらん前振りはこのくらいにして、演奏者のことをさらっておきましょう。

指揮のゲルハルト・ヴィルヘルムは1918年、シュツットガルトに生まれた合唱指揮者。幼少期に両親から耳の良さを見出され、このアルバムの合唱を担当するシュツットガルト・イムヌス少年合唱団に入ります。またシュツットガルトとベルリンでピアノを学び、エドウィン・フィッシャーに師事。ピアノの腕に限界を感じると、指揮の道に進み、ヴュルテンベルク国立劇場の楽長の地位につきます。戦後すぐの1946年には、1900年に創設され、かつて自らメンバーだったシュツットガルト・イムヌス少年合唱団を再興し、1987年まで合唱団を指導したとのこと。彼の名を冠した録音はあまり多くなく他にはバッハのクリスマス・オラトリオやクリスマスソング集など数枚を見かけるくらい。

また、歌手は下記のとおり。

ソプラノ:エリザベス・スペイサー(Elisabeth Speiser)
アルト:ヘレン・ワッツ(Helen Watts)
テノール:クルト・エクヴィルツ(Kurt Equiluz)
バリトン:ジークムント・ニムスゲルン(Siegmund Nimsgern)

なんと、先日素晴らしい歌曲集をとりあげたエリザベス・スペイサーがソプラノを担当。

Hob.XXII:5 Missa Cellenisis in honorem Beatissimate Virginis Mariae "Caecilienmesse" 「チェチーリアミサ」 (1766)
安定したCDも悪くはないのですが、LPの彫りの深い音色で聴くとこの演奏の魅力が一層引き立ちます。何度か聴き比べたんですが、断然LPの実体感ある響きが勝ります。指揮者のゲルハルト・ウィルヘルムが合唱指揮者と知って聴くと少年合唱の制御の確かさとオケの自然なコントロールに耳が行きます。入りのキリエから無欲の指揮者による切々とした音楽にぐっときます。最初のソロはテノールのクルト・エクヴィルツ。叙情的な伴奏に乗って軽くよく通る声で律儀な名唱を聴かせます。全体にゆったりと響くオケに透き通るような少年合唱がメロディーを乗せ恍惚たる音楽を奏でます。

グローリアは大波が押し寄せるような迫力ある響きから入ります。合唱指揮者だからかオケもコーラスの1つのパートのように音量バランスと素直なフレージングが行き渡って素晴らしいハーモニーを形成しています。豊かな残響の教会堂に満ちる幸せな響きをバックに、今度はエリザベス・スペイサーが驚くほど磨き込まれたビロードのような美声を轟かせます。以前で取り上げた歌曲集でも弱音のコントロールが秀逸でしたが、このアルバムでもコントロールが隅々まで行き渡った美声は健在。

LPをひっくり反して長大なグローリアの続き。今度はアルトのヘレン・ワッツのふくよかに体に響く声と、キリリと角が立ったジークムント・ニムスゲルンのデュエットから四重唱への推移など美しいメロディーが次々と顔をだす聴きどころ。やはり少年合唱が基調となっているので響きの鮮度が高く、オケとコーラスがクッキリと分離して、それにソロが加わることで得られる華やかな響きがえも言われぬ美しさを感じさせます。それにしてもゲルハルト・ウィルヘルムは合唱指揮者とはいえ、あまりに見事なオーケストラコントロール。落ち着いて、この曲独特の愉悦感をじっくりと絞り出すような手綱さばき。これほどじっくりとにじみでるグローリアの美しさはこれまで聴いたことがありません。指揮、コーラス、ソロ、オケすべて完璧に調和して、ハイドンの傑作ミサ曲を見事に盛り上げます。この面はただただ美しいメロディーに打たれるばかり。

レコードを2枚目に変えてクレドに入ります。もはやゲルハルト・ウィルヘルムの術中に完全にはまっています。レコードの面を変えて響きもクリアになるのがアナログの楽しみの一つ。グローリアの美しいメロディーの連続から、切々と迫る音楽に変わりますが、変わらないのがウィルヘルムの見事なコントロール。ぐっと沈み込む曲を経て、祝祭的なサンクトゥス。そして最後に面を裏返して終局のアニュス・デイと最後まで緊張感を保ちながらじっくりと名ミサ曲を聴かせきりました。

これまで聴いたチェチーリア・ミサの中でも出色の出来。とくに宗教音楽の真髄にせまる敬虔な響きと、素晴らしい歌手たちの歌唱、そしてなにより少年合唱の清らかな響き。これらをゲルハルト・ウィルヘルムが見事にまとめ、大曲にふさわしい雄大さと、自然なフレージング、バランスでまとめた完璧な演奏でした。LP独特の彫りの深い響きも手伝って、名曲の風格が一段上がった感じです。もちろん音源は同じですが、このリアルな響きだからこそ感じるエネルギーがあり、素晴らしい録音にも酔いしれました。もちろん評価は[+++++]。この響きに打たれる快感に溺れそうです。

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エリザベス・スペイサー/ジョン・バトリックの歌曲集(ハイドン)

今月は週末しか記事が書けてなくてスミマセン。今日は久々の歌曲のアルバム。

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エリザベス・スペイサー(Elizabeth Speiser)のソプラノ、ジョン・バトリック(John Buttrick)のピアノによるハイドンの英語によるカンツォネッタ4曲、ピアノソナタ(Hob.XVI:50) 、ナクソスのアリアンナ、アンダンテと変奏曲(Hob.XVII:6)を収めたアルバム。収録は1987年とだけ記載されています。レーベルはスイスのJecklin disco。

このアルバム、少し前にディスクユニオンで仕入れたのですが、歌曲の未入手盤を売り場で見かけるのは珍しいこと。いつものように所有盤リストを見ててダブり買いではないことのみ確認して、にんまりするのを抑え気味でレジに向かいゲット。未入手盤を手にいれるのは心躍ることなんですね。

歌手のエリザベス・スペイサーは1940年スイスのチューリッヒ生まれのソプラノ。スイスのウィンタートゥル、チューリッヒ、ウィーンなどで学び、当初はコンサートや歌曲のソロ歌手として国際的に活躍しはじめました。レパートリーは現代音楽にも広がりましたがオペラはごく一部をのぞき出演していないとのことですが、記録に残っているのは魔笛のパミーナなどわずか。他にはヘルムート・リリングとバッハの録音が何枚かあるようです。ハイドンについてはテレジアミサのソプラノを歌ったアルバムが1枚あるのみ。要はあまり知られていない人と言う感じです。

ピアノの伴奏を務めるジョン・バトリックもあまり知られていない人ですね。アメリカ生まれのようですが、腕から肩にかけての病気で一度は演奏者の道を諦めたものの、ピラティス、漢方などにより復帰し、今日取り上げるアルバムのリリース元であるJecklinより12枚のアルバムをリリースするに至っているとのこと。

ということで、このアルバム、知る人ぞ知るというか、知らない人はまったく知らない奏者による歌曲集ということになります。もちろんレビューに取り上げたのは演奏が素晴らしいからに他なりません。

Hob.XXVIa:32 6 Original Canzonettas 2 No.2 "The Wanderer" 「さすらい人」 [g] (1795)
しっとりとしたピアノの伴奏。伴奏者になりきった自己主張を抑えた穏やかなピアノの佇まい。録音のバランスはもう少し歌手に焦点をあててもよさそうですが、ピアノがぐっと前に来て、歌手はピアノの横というより後ろにいるようなバランス。ピアノから香り立つ穏やかな詩情がなんとも言えず素晴らしいです。ソプラノのエリザベス・スペイサーはよく通る声で、派手さはありませんが歌い回しは自然で、伸びやかな中音の響きが特徴。声量はピアノに負けていますが、声の余韻のデリケートなコントロールが秀逸で、聴き応え十分。この陰りのある曲の陰影を実に深々と感じさせます。アルバムの冒頭に置かれたのがわかります。

Hob.XXVIa:34 6 Original Canzonettas 2 No.4 "She never told her love" 「彼女は決して愛を語らなかった」 [A sharp] (1795)
この曲でもピアノが実に詩情豊かに伴奏を奏で、歌が入る前に雰囲気を整えます。ジョン・バトリック、素晴らしい腕前です。豊かなピアノの表情だからこそ、繊細なスペイサーの声の表情が引き立つというもの。全般に静寂のなかでの歌唱を意識させる透明感があります。

Hob.XXVIa:41 "The Spirit's Song" 「精霊の歌」 [f] (c.1795)
カンツォネッタ集の中では情感の濃い曲ばかりを集めているのがわかります。穏やかな表情ながら、集中力あふれる展開。前半の暗いメロディーからすっと明るさが射すところでの変化。暖かい光が射したときのじわりとくる深い感動。この曲の勘所を知っての選曲でしょうが、実に見事な歌にしびれます。

Hob.XXVIa:42 "O tuneful Voice" 「おお美しい声よ」 [E flat] (c.1795)
なんという澄んだ響き。序奏でのハイドンのひらめきだけでノックアウト。カンツォネッタ集から最後の曲にこの曲を選んでくるとは。伴奏の劇的な展開と、それに乗ってしっとりと響きを重ねるスペイサーのソプラノ。歌曲の素晴しさに満ち溢れた演奏。最後にゆったりと終わるあたりのセンスも見事。

Hob.XVI:50 Piano Sonata No.60 [C] (probably 1794)
ジョン・バトリックによるソナタの演奏が挟まります。これも見事。腕の病気で演奏を断念していたことが信じられません。ハイドンのソナタのツボであるリズムをしっかり刻みますが、珍しく高音のアクセントで印象づけてきます。歌曲の伴奏同様、力むようなところはなく、力の抜けた演奏。適度なしなやかさを保ちながら初見で楽しんで弾いているような自在さを感じさせる不思議な演奏。ソナタに正対するのではなく、友人の書いた曲を楽しんで弾いているような印象。この晩年の見事なソナタから、実に楽しそうな雰囲気が伝わってきます。
続くアダージョでは、しなやかさはそのままに美しいメロディーを実に美しいピアノの響きで飾ります。これまで聴いた磨かれたタッチによる緩徐楽章の美しさとは少し異なり、透徹したというよりざっくりとしたタッチで一音一音が磨かれているという感じ。また、老成したという感じでもなく、適度に凸凹したところが持ち味。それでいてこの楽章の美しさを表現しきっている感もある実に不思議な演奏。
フィナーレの入りのリズミカルな表現の素晴らしいこと。間の取り方ひとつで、ハイドンの書いたメロディーがまるで生き物のように弾みます。余裕綽々の演奏からハイドンのソナタの真髄がじわりと伝わります。これは見事な演奏。

Hob.XXVIb:2 Cantata "Arianna a Naxos" 「ナクソスのアリアンナ」 [E flat] (c.1789)
名曲「ナクソスのアリアンナ」。ジョン・バトリックはことさら劇的になるのを避け、さらりと流すような入り。スペイサーの入るところでさっと間を取り、最初の一声が入るところは鳥肌が立つような絶妙さ。これほど見事な歌の入りかたは聴いたことがありません。歌が入るとピアノは実に巧みにフレーズを組み立て、オケには真似のできないような変化に富んだサポート。スペイサーの透明感溢れる真剣な歌唱を十分に活かすようよく考えられた伴奏。スペイサーはカンツォネッタ同様、響きの余韻のコントロールが素晴らしく、この劇的な曲の美しさを緻密に表現しています。三部構成で19分と長い曲がバトリックの見事な伴奏で緊張感が緩むことなく劇的に展開します。各部の描き分けも見事。コレペティートル的なざっくりとした良さを持ったピアノですね。

Hob.XVII:6 Andante con Variazioni op.83 [f] (1793)
ナクソスのアリアンナの最後の響きの余韻が残っているところでさっと始まりますが、この入りがまた絶妙。最初から完全にバトリックのピアノに引き込まれます。前曲のざっくりとした印象は影を潜め、今度は透徹した響きの美しさが印象的。特に高音のアクセントが冴えて、曲をきりりと引き締めています。変奏が進むたびに、ハイドンのアイデアに呼応してバトリックのピアノも敏感に反応します。ハイドンのアイデアを次々にバトリックの表現でこなしていく見事な展開。変奏曲とはかく弾くべしとでもいいたそうですね。聴く方は耳と脳が冴えわたってピキピキ。高音の速いパッセージの滑らかなタッチは快感すら感じさせます。曲が進むにつれてバトリックの孤高の表現の冴えはとどまるところを知らず、どんどん高みに昇っていきます。一度ピアノが弾けなくなった経験があるからこそ、一音一音の意味をかみしめながら弾いているのでしょうか。これほどまでに透明な情感の高まるピアノは聴いたことがありません。奏者の魂が音になっているような珠玉の演奏。これほどの演奏をする人がマイナーな存在であること自体が驚きです。この曲には名演が数多くありますが、最近聴いた中ではベストの演奏と言っていいでしょう。見事。

このアルバム、エリザベス・スペイサーの歌も素晴らしかったですが、それよりさらに素晴らしいのが伴奏のジョン・バトリック。音符を音にするというのではなく、音符に潜む魂を音にしていくような素晴らしい演奏。歌手と伴奏の息もピタリとあって歌曲は絶品。そして2曲収められたピアノ独奏の曲も歌曲以上の素晴らしさ。これほど見事な演奏が埋もれているとは人類の損失に他なりません。もちろん全曲[+++++]とします。歌曲が好きな方はもちろん、ピアノソナタの好きな方、このアルバムを見逃してはなりません。いつもながらですが手にはいるうちにどうぞ。

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【初録音】「聖なる十戒のカノン」、オフェトリウム、モテット集(ハイドン)

今日はハイドンが作曲した曲で、録音がない曲を録音するというコンセプトのアルバム。当ブログが取り上げなくて、誰が取り上げましょう!

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TOWER RECORDS / amazon / HMV ONLINEicon

オーストリア放送(ORF)のÖ1(FM放送の1チャンネル)の制作によるIn Nomine「(神の)御名において」と題されたアルバム。ジャケットには、”HAYDN 2009 Erstaufnahmen”と記されており、ハイドン没後200年のアニヴァーサリーの年2009年のプロダクツとしてリリースされ、そしてこのアルバムが初録音となる曲を中心に構成されています。収録された曲は18曲で、そのうちハイドンの曲が17曲。おそらくこのアルバムの録音が初録音となるのは、「聖なる十戒のカノン」と呼ばれる3声から5声の10曲のカノンと、XXIIIa系列の2曲のオフェトリウムと1曲のモテット、XXIIIc:3の「ハレルヤ」他数曲。逆に初録音でないハイドンの曲はおそらく冒頭と最後に置かれた2曲のみだと思います。

このアルバム、かなり前から手元にあったのですが、ほとんどの曲が初録音ということで、所有盤リストに登録するにも、曲の情報を調べて曲を特定してリストに掲載するなど、けっこうな作業が必要なんですね。ちなみにそれがおっくうで(笑)ちょっと寝かせてあったアルバムですが、最近宗教音楽をいろいろ取り出して聴いているうちにこのアルバムもそろそろ取り上げねばと思うに至り、ここ一週間ぐらいかけて一曲一曲、曲からリストに登録などをしていた次第。これらの一連の作業は楽しくもありますが、いい加減なこともできないので、なんだかとっても時間がかかります。手元にはかなりの未聴盤がある上、いつも素晴らしいアルバムを貸していただく湖国JHさんからも新たなアルバムが到着している状況の中、先週末をはさんでやりかかった作業を片付けていたんですね。

いつもは冒頭に収録曲、演奏者、録音情報などを明記するんですが、曲も演奏者も、収録もいろいろなので、これらは曲と一緒に紹介することにしましょう。

アルバムの冒頭を飾るのはドイツ国歌のメロディーで有名な曲。もちろんこの曲にはすでに何種かの録音があるのはご承知のことでしょう。手元の所有盤リストには他に3種の録音がありますが、いずれも歌手とクラヴィーアの組み合わせ。

Hob.XXVIa:43 Das Kaiserlied "Got! erhalte den Kaiser!" 皇帝讃歌「神よ,皇帝を守らせたまえ」 [G] (1797)
オーケストラ版ということで歌は入りません。クレア・ルヴァシエ(Claire Levache)指揮のORFウィーン放送交響楽団の演奏。このアルバムでこのオケによる収録は2009年5月18日から19日、ウィーンのORF放送センターでのセッション録音。ハイドンの録音史上極めて貴重なこのアルバムの冒頭にふさわしい優雅な祝祭感。ルヴァシエは女流指揮者でオケを実に自然に鳴らします。変に強調感がなく音楽がさらりと流れるのが好感触。広々としたホールにオケが自然に響く感じの録音も悪くありません。聴きなれたメロディーながらハイドンの時代を彷彿とさせる郷愁を感じさせます。

このあと途中に何曲かのオフェトリウムを挟みながら10曲のカノンが続きますが、最初にまとめてカノンを紹介しておきましょう。曲は十戒をテーマにした10曲のカノン(Hob.XXVIIa:1~10)で作曲は1791年から95年にかけての時期。このころハイドンは2度にわたってロンドンに旅しています。このカノンはこれまで私も存在を知らず、録音もこれまでありませんでした。

ハイドンのカノンといえば、以前に別のアルバムを記事にしています。私の知る限り、ハイドンのカノンについてはこの2組のアルバム以外に録音はないのではないかと思います。何か情報をお持ちの方がありましたら是非教えてください。

2011/11/11 : ハイドン–声楽曲 : ミクローシュ・サボー/ジュール女声合唱団の世俗カノン集

サボー盤はHob.XXVIIb系列の46曲、1曲のみヴァージョン違いを含む47曲を収めたアルバムで、今回聴き直したところ、女性コーラスによる非常に美しいカノンが楽しめるアルバム。なんと1曲目のHob.XXVIIb:46と、今回取り上げるHob.XXVIIa:1~10の1曲目のHob.XXVIIa:1はほぼ同じメロディー。両者のアルバムを聴き始めたときには軽い驚きを覚えました。

Hob.XXVIIa:1 Canon "Die heiligen zehn Gebote" 「聖なる十戒のカノン」 "Du sollst an einen Gott glauben"「汝、唯一の神を信ずるべし」 [C] (1791-95)
カノンの演奏は全てヨハネス・プリンツ(Johannes Printz)指揮、グラーツ芸術大学室内合唱団(Kammerchor der Kunstuniversität Graz)の演奏で、収録はオーストリアのグラーツ、ミュンツグラーベン教区ローマカトリック教会アルベルトスホール(Albertussaal der römisch-katholischen Pfarre Münzgraben, Graz)でのセッション録音。1曲目は先に触れたとおり、サボー盤を思い起こさせるもの。4分弱の曲。コーラスの透明感はサボー盤ですが、しなやかで自然な表情はプリンツ盤。そして、こちらのプリンツ盤には男性も加わり、録音も新しいため、より自然なコーラスを楽しめます。コーラスのみによって描かれる純粋な音楽。聴いているうちにコーラスの透明な響きに吸い込まれていくような不思議な感覚に包まれます。

Hob.XXVIIa:2 Canon "Die heiligen zehn Gebote" 「聖なる十戒のカノン」 "Du sollst den Namen Gottes nicht eitel nennen"「汝、神の名をみだりに口にすべからず」 [G] (1791-95)
2分弱の曲。1曲目を受けてメロディーよりも語りかけるような音楽の素朴なメロディーを4声のコーラスが編んでいきます。

Hob.XXVIIa:3 Canon "Die heiligen zehn Gebote" 「聖なる十戒のカノン」 "Du sollst Sonn- und Feiertag heiligen"「汝、日曜日を安息日とし、聖とせよ」 [B] (1791-95)
2分ちょうどの曲。今度はコーラスの純度が一気に高まり、魂が昇華するような天上への上昇感。各パートが完全に溶け合い、教会堂に一筋の光がスッと射すようなイメージ。前曲の響きの余韻を踏まえながら限りなく透明なハーモニーへの展開が見事。

この後オフェトリウムが挟まりますが、後にまわしましょう。

Hob.XXVIIa:4 Canon "Die heiligen zehn Gebote" 「聖なる十戒のカノン」 "Du sollst Vater und Mutter verehren"「汝、父と母とを敬え」 [Es] (1791-95)
3分弱の曲。カノンが続くことによるある種の単調さを避けるためにオフェトリウムが挟まれたのでしょうか? ただ、この10曲のカノンの完成度はそれはそれでかなりのもの。続く第4曲もコーラスの純度と特に男性による低音部の雄弁さと全体の溶け合う響きはかなりのもの。テキストはドイツ語で十戒によるものということで想像力で補いますが、大きなうねりの表現が秀逸で音量を上げて合唱指揮者のような耳で聴くとかなりの迫力。

Hob.XXVIIa:5 Canon "Die heiligen zehn Gebote" 「聖なる十戒のカノン」 "Du sollst nicht töten"「汝、殺すなかれ」 [g] (1791-95)
1分36秒。今度は男性のみのカノン。これまでの曲がしなやかなメロディーの魅力で聴かせてきたのに対し、この曲では男性コーラスの爽やかな迫力で聴かせますが、最後に一際力が入ります。

Hob.XXVIIa:6 Canon "Die heiligen zehn Gebote" 「聖なる十戒のカノン」 "Du sollst nicht Unkeuschheit treiben"「汝、姦淫するなかれ」 [C] (1791-95)
2分少々の曲。タイトルから想像されるよりも穏やかに語りかけるような展開の曲。純粋なコーラスの魅力をあますところなく響かせます。メロディーのしなやかな展開に引き込まれます。

そしてまたモテットをはさみます。これも後回し。

Hob.XXVIIa:7 Canon "Die heiligen zehn Gebote" 「聖なる十戒のカノン」 "Du sollst nicht siehlen"「汝、盗むなかれ」 [a] (1791-95)

2分21秒。旋律が繰り返されるのにしたがって徐々に祈りの感情に近づくような印象。音楽の繰り返しの本質を突こうということでしょうか。

Hob.XXVIIa:8 Canon "Die heiligen zehn Gebote" 「聖なる十戒のカノン」 "Du sollst kein falsch Zeugnis gehen"「汝、偽証するなかれ」 [B] (1791-95)
2分16秒。再び透き通るようなメロデイーの上昇にとろけます。この曲の白眉。光に満ち溢れる天上に導かれるような上昇感。

またしてもオフェトリウムが入り祝祭感を煽ります。

Hob.XXVIIa:9 Canon "Die heiligen zehn Gebote" 「聖なる十戒のカノン」 "Du sollst nicht begehren deines Nächsten"「汝、隣人の妻を貪るなかれ」 [C] (1791-95)
1分弱の曲。こちらも噛んで含んで聞かせるような語り口。タイトルをどう表現するのか興味深々でしたが、あまりに短いメロディーに逆に説得力を感じるほど。

Hob.XXVIIa:10 Canon "Die heiligen zehn Gebote" 「聖なる十戒のカノン」 "Du sollst nicht begehren deines Nächsten Gut"「汝、隣人の物を貪るなかれ」 [f] (1791-95)
最後は1分30秒少々の曲。これまでの曲想を保ちながら最後は空間に溶けていくようなコーラス。曲自体のシンプルさを踏まえてどう聴かせるかは難しいところでしょうが、この響きがはじめて録音された意義に思いを馳せます。

これまでいくつかのオフェトリウムやモテットを飛ばてきましたので、最後にまとめて取り上げましょう。

トラック5のオフェトリウム。

Hob.XXIIIc:3 "Alleluya" 「アレルヤ」 [G] (1768/69)
冒頭の「神よ,皇帝を守らせたまえ」 のオケにソプラノのウルスラ・フィードラー(Ursula Fiedler)、アルトにマルティナ・ミケリッチ(Martina Mikelić)、ゴットフリード・ザヴィチョフスキ(Gottfried Zawichowski)の合唱指揮によるトゥルン室内合唱団(A-Cappella-Chor Tulln)が加わります。素朴な祝祭感に満ちた晴朗な曲。オケの軽やかな序奏に乗ってソプラノ、アルト、そしてコーラスが祈りと幸福感に満ちた音楽を奏でていきます。どのような機会のための作曲かまではわかりませんが、教会などでの祝い事のために書かれたものと推察されます。ハイドンの音楽の素晴らしさが詰まった名旋律。以前取り上げた、こちらも初録音であったアンドレアス・シュペリングによるカンタータ集同様の見事な祝祭感。短い短調の中間部を挟んで再び喜びが爆発。ハレルヤコーラスが寄せては返す波のように迫ります。指揮、オケ、コーラス、ソロが見事に溶け合った演奏。

2010/10/09 : ハイドン–声楽曲 : アンドレアス・シュペリングのカンタータ集

つづいてトラック9のモテット。

Hob.XXIIIa:4 Motetto di Sancta Thekla Protho Martyr "Quis stellae radius" [G] (c.1760)
オルガンの序奏から入るモテット。しなやかなオケの伴奏から癒されます。先ほどのオフェトリウムからアルトが除かれた奏者構成。ソプラノのソロはいきなり夜の女王ばりの技巧凝らしたアリアのようなソロ。これほどの曲が今まで録音されなかった理由がわかりません。もちろんハイドンらしい素晴らしいメロディーの宝庫のような曲。前曲同様演奏も虚飾を排した見事なもの。のびのびとしたヴァイオリン、柔らかいのにキレのいいリズム。そして透明感あふれるウルスラ・フィードラーのソプラノ。文句のつけようがありません。

トラック12のオフェトリウム。

Hob.XXIIIa:3 Offertorium "Ens aeternum aattende votis" [G] (c.1760)
アルバムへの曲名表記はXXIII:3とありますが、照合の結果XXIIIa:3だとわかりました。冒頭から祝祭感爆発。なんという高揚感。なんという祝祭感。幸福感に満たされます。オケとコーラスによる構成。ソロは入りません。実に自然な高揚感。この内なるエネルギーの爆発ようなしなやかな高揚、相当なコントロール力の賜物。とくに抜けるようなトランペットが華を添えています。

トラック15のオフェトリウム。

Hob.XXIIIa:2 Offertorium "Animae Deo gratae ovantes jubilate" [C] (c.1760)
再びソプラノとアルトが加わります。どのミサ曲よりも凝った筆致による序奏。またまたいきなり素晴らしい祝祭感につつまれます。ここまでのオフェトリウムとモテットが初録音であるというのが信じがたい名曲の数々。なんという完成度。こんどはソプラノとアルトが両者とも夜の女王のよう。光と影、陰と陽、高揚と陰りが繰り返しせめぎ合う巧みな構成。オケ、コーラス、ソロの見事な掛け合い、そしてそれを包む祈りの感情。ホールに幸福感が満ち溢れます。

このあとヨハン・ジキスムンド・リッター・フォン・ノイコムのカノンを挟んでハイドンのグラデュアーレ。

Hob.XXXIc:1 Graduale "Vias tuas Domine demonstra mihi" [C] (1757)
ホーボーケン番号ではアリアのアレンジに入りますが、なんとなく宗教曲の香りが漂います。この曲も初録音のもよう。オケもソロも加わらない純度の高いコーラスとオルガンのみの響き。このアルバムを象徴する純粋なコーラスの響きに引き込まれます。2分少々の短い曲のなかに宇宙のような幽玄さを感じます。

Hob.XXVIIb:41 Canon "Frag und Antwort zweier Fuhrleut"「二人の御者の問答」 [?] (1795-99)
そして最後は「聖なる十戒のカノン」と同様の演奏者によるカノン。こちらはミクロシュ・サボー盤に録音があります。最後にカノンの透明な響きで終わろうということでしょう。オフェトリウムの祝祭感とは対照的なストイックと言ってもいい純度の高いコーラスの響き。ことさら透明感を極めた曲ではない曲で終わるあたりにこのアルバムの含蓄を感じます。

いろいろ調べながら何度も聴いてのレビュー。このアルバムに収録されているXXIIIa系列のオフェトリウムとモテットは、祈りの悦びと音楽の悦びを昇華したような名曲揃い。何度も書きますが、これらの曲がこれまで録音されてこなかったのが実に不可解。宗教音楽ながら、交響曲やミサ曲、オラトリオなどで素晴らしいメロディーと構成を極めたハイドンの作品の中でも瞠目すべき出来であることは間違いありません。これらの曲の作曲年代は1760年代から70年代と比較的早い時期なのに対し、カノンの方は1790年代と晩年のもの。多彩な筆致を極めた作品を書いた末にたどりついた純粋無垢な音楽がカノンということなのでしょうか。まだまだ調べ切れていないので、これらのカノンをどうして書くに至ったかなど興味は尽きません。カノンの方はコアなハイドンマニアの方以外にはお勧めしにくいですが、オフェトリウムの方の見事な高揚感はハイドンの音楽の魅力がしっかり感じられますし、これらの曲は今後演奏の機会にもっと恵まれるべきものだと思います。評価はオフェトリウムなどは[+++++]、カノンなどは[++++]としたいと思います。

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ラースロー・ヘルタイ/アルゴ室内管のスタバト・マーテル(ハイドン)

先日聴いたSkunjpさんのコンサート以来、宗教音楽と合唱指揮が気になって、手持ちのアルバムをいろいろととっかえひっかえ聴いたり、未入手盤を手に入れたりしています。今日はそんな中ぐっと引き寄せられる演奏に出会いましたので取り上げましょう。

HeltaiStabatMarter.jpg
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ラースロー・ヘルタイ(László Heltay)指揮のロンドン室内合唱団(The London Chamber Choir)、アルゴ室内管弦楽団(Argo Chamber Orchestra)の演奏でハイドンのスタバト・マーテルを収めたアルバム。収録は1979年2月、ロンドン北部のハンプステッド(Hampstead)の聖ユダ・オン・ザ・ヒル教会(St Jude-on-the-Hill)でのセッション録音。レーベルは豪DECCAのELOQUENCE。

ラースロー・ヘルタイはイギリス合唱指揮界の大御所とのこと。手元にはこのアルバムの他、ドラティの天地創造に併録されている「サルヴェ・レジーナ」を振っているほか、そのドラティとは天地創造、四季、トビアの帰還でブライトン祝祭合唱団の合唱指揮を担当、またマリナーとの天地創造、四季ではアカデミー室内管と合唱団(Academy and Chorus of St Martin in the Fields)の合唱指揮を担当しているなどハイドンの録音でも重要なアルバムに登場しています。

いつものように略歴を調べてみると名前のつづりから想像されるとおり1930年、ハンガリーのブダペスト生まれの指揮者、合唱指揮者です。フランツ・リスト音楽院で指揮と作曲をコダーイらに学び、1957年渡英してオックスフォードのメットン大学(Metton Collage)に入りイギリスに帰化。1964年に今度はニュージーランドに渡り、ニュージーランド放送交響楽団の副指揮者とニュージーランド歌劇場の音楽監督となり、そこでブリテンの「アルバート・ヘリング」など多くの現代音楽の初演を指揮。イギリスに戻るとクレンペラーのアシスタントとなり、またフェニクス・オペラの指揮者としてブリテンの「ネジの回転」のフランス初演、同「ルクレツィア」のニューヨーク初演を果たします。また1967年にはブライトン音楽祭に招かれ、ブライトン・フェスティバル合唱団の創設に携わり、その音楽監督となった他、1975年にはアカデミー室内管弦楽団に付属する合唱団(Chorus of St. Martin-in-the-Fields)を創設し、1999年まで合唱指揮者を務めました。先に触れたハイドンの録音での合唱指揮はいづれもその合唱団の創設者だったからということになりますね。こうした活動から1985年から99年まで王立合唱協会(Royal Choral Society)の音楽監督を務めました。ブライトンフェスティバル合唱団とはカール・リヒター、イストヴァン・ケルテス、アンタル・ドラティなどの多くの録音で合唱指揮を執っているとのこと。近年はバルセロナに住んでスペインで合唱指揮などの指導をしていましたが、現在はブダペストに戻り、まだご存命とのこと。

このアルバム、虚心坦懐なヘルタイのコントロールでオケとコーラスの柔らかな響きが、敬虔な演奏とともにさらに透明に昇華していくような至福の演奏です。ハイドンが自身で大病を患ったあとに神への感謝を込めて書いた名曲がその心情そのままに蘇ります。歌手は下記のとおり。

ソプラノ:アーリーン・オジェー(Arleen Augér)
コントラルト:アルフレーダ・ホジソン(Alfreda Hodgison)
テノール:アンソニー・ロルフ・ジョンソン(Anthony Rolfe Johnson)
バス:グウィン・ハウエル(Gwynne Howell)

Hob.XXbis "Stabat Mater" 「スタバト・マーテル」 [g] (1767)
録音は時代なりですが、流石DECCAという分厚いながらもしなやかな響きが楽しめます。教会での録音らしく残響も多めですが、音が溶け合って見事な録音。冒頭からオケは完全にリラックスしてゆったりと広い教会堂に広がる残響を楽しむがごとき演奏。

第1曲「悲しみに沈める御母は涙にむせびて」
テノールのアンソニー・ロルフ・ジョンソンの芯のしっかりとした声がクッキリとメロディーを進め、オケとコーラスはそのまわりに広がります。コーラスは驚くべき透明感。滑らかに起伏を変化させしなやかな波に包まれるような至福の瞬間。いきなり敬虔な祈りの感情に包まれます。ハイドンのすぐれた演奏に共通する作意のない謙虚なコントロールによる自然な表情が心を打ちます。

第2曲「天主の御ひとり子の尊き御母は」
ハイドンのスタバト・マーテルは13曲構成。第2曲はコントラルトのアルフレーダ・ホジソンのソロ。オケの序奏から癒しに満ちたメロディーが沁みます。ホジゾンはヴィブラートがよくかかったふくよかな響き。高音の艶やかさが印象的。オケはこれ以上リラックスできないほどに力が抜けて、しっとりと美しいメロディーを奏でていきます。この至福感、演奏ではなく祈りの感情に素直に従ったコントロールなのでしょう。

第3曲「キリストの御母のかく悩み給えるを見て」
ソロはなくオケとコーラスのみの進行。よく聴くとやはりコーラスのしなやかさが絶品。各パートが次々にメロディーを歌っていきますが完璧な響きの重なりに鳥肌がたちます。

第4曲「尊き御母の御子とともにかく苦しみ給えるを見て」
ここにきてようやくお気に入りのオジェー登場。しばらくゼーフリートに浮気してましたが、やはりオジェーもいいですね(笑)。清流のようなしなやかなオケの伴奏に乗って、オジェーの爽やかな美声が控えめに教会堂に響きわたります。オジェーとオケのあまりの美しい響に絶句です!

第5曲「聖母はイエズスが人々の罪のため責めらむち打たるるを見給えり」
バスのソロ。グウィン・ハウエルは個性的な声。バスにしては異例に音程と歌詞がクッキリとして、響きが引き締まります。オケも音階のキレをきりりとエッジを効かせて応じます。

第6「聖母はまた最愛の御子が御死苦のうちに棄てられ生き絶え給うを眺め給えり」
スタバトマーテルの中でも一際美しい短調のメロディーが聴かれる第6曲。テノールソロのロルフ・ジョンソンが切々と歌うメロディーを、オケが深い響きで支えます。こうした曲でじっくりと沈みこむことで曲の深みが増すわけです。ヘルタイも実に深い呼吸で応じます。

第7曲「慈しみの泉なる聖母よ」
怒涛のコーラスが押し寄せます。実演で聴いたら素晴らしい迫力なんでしょう。迫力ばかりでなく響きが消え入るところまで完璧にコントロールされています。

第8曲「ああ聖母よ、十字架に釘づけにせられ給える御子の傷を」
ソプラノとテノールのデュエット。いきなりオジェーの美声に癒されます。きっちりしたロルフ・ジョンソンと抜けるようなオジェーの美声との掛け合いですが、徐々に両者とも表現の幅が広がり、お互いに刺激しあってのデュエット。それをヘルタイも表現力豊かなサポートで盛りたてます。この曲一番のクライマックスでしょう。

第9曲「命のあらん限り御身とともに熱き涙を流し」
そして続く第9曲はコントラルトの静かな曲。どの曲にもヘルタイが仕込んだ敬虔な祈りと癒しが満ちていて、それに合わせて歌手が華を添えている感じ。伴奏の表現力の重要さを思い知ります。このへんの表現力はヘルタイならではなのでしょうね。

第10曲「処女のうちいともすぐれたる処女」
4人のクァルテットとコーラス。管楽器はイングリッシュホルンだけという単純な構成ながら絃楽器にイングリッシュホルンがところどころで響きに変化を与えています。オケよりもコーラスの分厚い響きが素晴らしい迫力で押し寄せる合間にソロがメロディーを置いていく感じ。シュトルム・ウント・ドラング期特有の仄暗い雰囲気が音楽を深くしています。

第11曲「聖なる処女よ、われの地獄の火にやかれざらんため」
スタバト・マーテルでは珍しい速いテンポの曲。バス独唱。オケのしなやかなクレッシェンドに乗ってハウエルがキレのいい歌を聴かせます。

第12曲「キリストの死によりてわれを守らしめ給え」
テノールのロルフ・ジョンソンのソロが気品溢れるソロを披露。大詰めにきて、徐々に癒しが満ち溢れてきます。

第13曲a「肉体は死して朽つるとも」 第13曲b「天国の栄福をこうむらしめ給え」
最後の曲。コーラスのしっとりとした響きがつくる大波が過ぎるとコーラスによる圧倒的なフーガになり、ソプラノ、コントラルト、最後はテノールとバスも加わりクライマックスへ。終曲らしく引き締まって最後はアーメンで終わります。

中野博詞さんの「ハイドン復活」には、このスタバト・マーテルによって声楽作曲家としてのハイドンの名がヨーロッパ中に轟くこととなった経緯が詳しく触れられてます。ハイドンの声楽曲といえば天地創造などのオラトリオにミサ曲といったところが有名ですが、このスタバト・マーテルも非常に重要な作品であり、天地創造などに劣らぬ素晴らしい作品だと思います。地味な曲ゆえいまひとつ録音数は多くありませんが、聴いていただけれればその素晴らしさはおわかりになると思います。このラースロー・ヘルタイ盤は、コーラスの素晴らしさはもとより、宗教音楽とは祈りの感情にもとづいた音楽であることをあらためて認識させてくれる素晴らしい演奏でした。一貫して敬虔な心境と癒しに包まれ、それでいて音楽に生命感が宿り、アーティスティックでもある稀有な演奏といっていいでしょう。
未聴の方は手にはいるうちにどうぞ! 評価はもちろん[+++++]とします。

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イルムガルト・ゼーフリートのカンツォネッタなど(ハイドン)

ゼーフリートの追っかけ的記事をもう一本。

SeefriedOrfeo.jpg
TOWER RECORDS / amazon / HMV ONLINEicon

イルムガルト・ゼーフリート(Irmgard Seefried)のアリアや歌曲の1944年から1967年までの録音を集めた4枚組のアルバム。この中にハイドンのアリア「情け深い人は」Hob.XXIVb-13(F.ビアンキの「インドのアレクサンドロス大王」への挿入曲、英語によるカンツォネッタ集から3曲が収められています。アリアはレオポルド・ルートヴィヒ(Leopold Ludwig)指揮のウィーン交響楽団の演奏で1944年10月、ウィーンのムジークフェライン・ザールでの録音。カンツォネッタ3曲はエリック・ウェルバ(Erik Welba)のピアノ伴奏で、1956年1月、ザルツブルクのモーツァルテウムでのオーストリア放送の録音。レーベルはORFEO D'OR。

このアルバムは、先日取り上げたゼーフリートの歌う天地創造のアルバムの記事を書いている時にゼーフリートのディスコグラフィを調べていて発見したもの。もちもとヨーゼフ・クリップスつながりでゼーフリートにつながり、そしてこのアルバムにつながったという流れです。天地創造のアルバムも発見と同時に注文。そしてこのアルバムも同じく発見と同時に注文ということで、短期間に未聴のハイドンの名演奏が3組つながった次第。いやいや世の中便利になりました。このへんのつながりについては前記事を御覧ください。

2015/10/31 : ハイドン–オラトリオ : ゼーフリート/クリップス/ウィーンフィルの天地創造から(ハイドン)

さて、このORFEOのゼーフリートの録音集ですが、ハイドンばかりでなくモーツァルト、ベートーヴェンからプッチーニ、ワーグナー、リヒャルト・シュトラウス、ムソルグスキーなどの曲が含まれています。特にモーツァルトのアリアは、カラヤン、フルトヴェングラー、ワルター、ベーム、ライトナー、アンセルメなどの名指揮者の振るウィーンフィルなどの有名オケの伴奏と超豪華な布陣。CD2の冒頭に置かれた1947年録音のカラヤン/ウィーンフィルとの「フィガロの結婚」のケルビーノのアリアはこれまでこのアリアでも最も芳しい歌唱でノックアウト! 憧れのゼーフリートの絶頂期の素晴らしい歌声にとろけそうです。1952年のフェルディナント・ライトナーとの「羊飼いの王様」のアリアはライトナーの沁みる伴奏にゼーフリート絶唱! そして1953年のワルター/ニューヨークフィルとの「エクスラーテ・ユビラーテ」など、ハイドンのレビューの前にメルトダウン。いやいやこのアルバム、ゼーフリートファンには宝物のようなアルバムです。ちなみにハイドンのうちカンツォネッタ3曲はこのアルバムが初出とのこと。

Hob.XXIVb:13 Aria di Errisena "Chi vive amante" for Bianchi's "Alessandro nell'lndie", Act 1 Scene 5 「情け深い人は」ビアンキの歌劇「インドのアレクサンドロス大王」への挿入曲 [B] (1787)
4枚組のCD1の冒頭に置かれた曲。どこかで聴いた曲だと思ったら、ヌリア・リアル盤、ベルガンサ盤に収録されていて、どちらもレビューしてました。この曲はハイドンの書いたアリアの中でも指折りの美しいメロディーの曲。冒頭から癒しが満ち溢れます。

2010/11/06 : ハイドン–オペラ : ヌリア・リアルのオペラ挿入アリア集
2010/11/03 : ハイドン–オペラ : ベルガンサのオペラアリア集

レオポルド・ルートヴィヒの振るウィーン響が実にしなやかな伴奏。ゆったりとした序奏に乗ってゼーフリートもゆったりと入ります。もちろんモノラルながら1944年とは思えないしっかりとした響き。ノイズも気になりません。流石ORFEOの技。神々しくもある非常に美しいメロディーをゼーフリートの芳しいソプラノが朗々と歌い上げていきます。ゼーフリート31歳の声の輝きが眩しいですね。至福の時間。5分くらいのこの短い曲1曲でもこのアルバムを手にいれる価値があります。オケも実に慈しみ深い響きで名サポート。アルバムの冒頭でいきなり昇天。

Hob.XXVIa:34 6 Original Canzonettas 2 No.4 "She never told her love" 「彼女は決して愛を語らなかった」 [A sharp] (1795)
カンツォネッタから有名な曲。カンツォネッタ3曲はCD3の冒頭に置かれています。非常に美しいメロディーの曲。ゼーフリートはハイドンの歌曲のなかでもメロディーの美しい曲を厳選して録音していることになります。ピアノのエリック・ウェルバは1913年生まれのドイツのピアニスト。ゼーフリートをはじめとしてペーター・シュライアーやニコライ・ゲッタの伴奏を長らく務めた人。流石に伴奏のプロ、ゆったりと濃密な音楽で、歌手が歌いやすいように気配を整えます。序奏からゆったりとドラマティック。すでに序奏で詩情がにじみ出てきます。ゼーフリートの歌は残念ながら他の録音ほど輝きを感じず、ゆったりと朗々とした歌唱ながらも、もう一歩の起伏が欲しいところ。

Hob.XXVIa:35 6 Original Canzonettas 2 No.5 "Piercing eyes" 「見抜く目」 [G] (1795)
2分弱の短い曲。ウェルバのしっとりとしたピアノは変わらず、ゼーフリートは高音を転がしながらこの曲を歌うことを楽しむよう。

Hob.XXVIa:41 "The Spirit's Song" 「精霊の歌」 [f] (c.1795)
ハイドンの歌曲の中ではもっとも暗澹とした曲。やはりゼーフリートの選曲眼の鋭さを感じます。この曲でもウェルバの饒舌なピアノが心に刺さります。ゼーフリートは安心してゆったりとピアノに乗って歌います。ゼーフリートの美声は楽しめるものの、歌自体に潜む魂のようなものにあと一歩届いていないかもしれません。この3曲でゼーフリートの声が少々平板に聴こえてしまうのはもしかしたら歌曲にしては少々デッドな録音のせいかもしれません。

ゼーフリートのハイドンの録音を探して辿り着いたこのアルバム。アルバムの冒頭に置かれたビアンキのオペラへの挿入曲はゼーフリートの素晴らしさを存分に味わえる録音。そして歌曲の方はこれまでリリースされていなかった理由があるような気がします。綺羅星のように輝くゼーフリートのアリアの数々を知る人にとって、ちょっと化粧乗りの悪いゼーフリートは見たくないかもしれません。もちろん歌唱は素晴らしいものなのですが、ゼーフリートの絶頂期の、あの芳しく可憐で胸躍るアリアの魅力からはちょっと差がついているということです。いずれにせよ、ハイドン以外も含めてゼーフリートファンの方は絶対手にいれるべき素晴らしい価値のあるアルバムと言っていいでしょう。ハイドンの評価はアリアは[+++++]、歌曲3曲は[++++]としておきます。

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Author:Daisy

なぜかハイドン(Franz Joseph Haydn)が特に気に入り膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。東京在住のごく普通のサラリーマンです。

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ハイドン所有盤リスト
Joseph Haydn Discography at H. R. A.
所有盤をジャンル別にリスト化しています。基本的に録音年順とし、録音年不明のものは末尾に記載。演奏者名はジャケットなどの表記に合わせています。

2017年7月のデータ(2017年7月31日)
登録曲数:1,361曲 登録演奏数:10,291
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