絶品! グラーフ/スタルク/デーラーによるフルート三重奏曲集(ハイドン)

今日は室内楽のLP。宝物がまた1枚増えました。

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ペーター=ルーカス・グラーフ(Peter-Lukas Graf)のフルート、クロード・スタルク(Claude Starck)のチェロ、ヨルグ・エヴァルト・デーラー(Jörg Ewald Dähler)のフォルテピアノで、ハイドンのフルート三重奏曲3曲(Hob.XV:16、XV:17、XV:15)を収めたLP。収録に関する情報は記載されていませんが、隣接するレコード番号のLPが1984年リリースとありますので、LPの状態も勘案して1980年代中盤の録音と想像しています。レーベルはclaves。

ハイドンのフルート三重奏曲はピアノトリオのヴァイオリンパートをフルートの華やかな音色で置き換えたもので、この曲の出版当時からフルート版の楽譜も出版されていたとのことでフルートでの演奏も多くなっているとのこと。これまでもかなりのアルバムを取り上げています。

2016/08/26 : ハイドン–室内楽曲 : ムジカ・ドメスティカのフルート三重奏曲集(ハイドン)
2016/06/21 : ハイドン–室内楽曲 : ラ・ガイア・シエンツァによるフルート三重奏曲と室内楽版「驚愕」(ハイドン)
2015/08/28 : ハイドン–室内楽曲 : 【新着】クイケン兄弟によるフルート三重奏曲集(ハイドン)
2015/02/21 : ハイドン–室内楽曲 : トーケ・ルン・クリスチャンセンのフルート三重奏曲(ハイドン)
2012/05/27 : ハイドン–室内楽曲 : ディター・フルーリーによるフルート三重奏曲

この録音が1980年代中頃の録音だとすれば、手元のアルバムでは古楽器による最も古い録音ということになります。

奏者のペーター=ルーカス・グラーフは有名なフルート奏者ゆえご存知の方も多いでしょう。1929年チューリッヒ生まれ。チェロのクロード・スタルクは1928年ストラスブール生まれ。フォルテピアノのヨルグ・エヴァルト・デーラーは1933年ベルン生まれと、録音当時50代の名奏者揃い。

Hob.XV:16 Piano Trio (Nr.28/op.59-1) [D] (before 1790)
LPのコンディションは最高。針を落とすと鮮明な響きが飛び出してきます。フォルテピアノのデーラーが刻む速めの一定したリズムに乗ってフルートのグラーフがきりりと引き締まったメロディーを重ねていきます。古楽器によるオーソドックスと思いきや、実に豊かなニュアンスを帯びた演奏にすぐに引き込まれます。フルートのリズムが冴えまくって超鮮明に曲を描いていきます。
続く2楽章は絶品。静寂にとぼとぼと刻まれるフォルテピアノのリズムに乗って幽玄なフルートの音色が響き渡ります。フォルテピアノの左手の刻むリズムと、右手の奏でるメロディーも絶美。デーラーも只者ではありませんね。チェロも含めてリズム感が良いので音楽が淀みなく流れます。
そのよさが活きるのが終楽章。くっきりとメロディーが浮かび上がり、ハイドン独特の絡み合うメロディーの面白さが際立ちます。思った以上にフォルテピアノが雄弁なのが効いています。

Hob.XV:17 Piano Trio (Nr.30/op.59-3) [F] (before 1790)
一転して軽やかなタッチのフォルテピアノの入り。リズムよりも流れの良さを感じさせます。相変わらずグラーフのフルートの音色は深みのある美しいもの。曲に合わせてか、両者ともリラックスした入り。中盤から印象的な慟哭が続きますが音色の硬軟を織り交ぜながら進みます。この曲ではタッチの変化を聴かせどころに持ってきました。

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ここでLPをひっくり返して2楽章へ。宝石のような響きの流れに身をまかせる快感に浸ります。一貫したリズムの流れの瞬間瞬間の情感のデリケートな変化が繰り返されるうちに至福の境地へ。最後は静寂に吸い込まれて終わります。

Hob.XV:15 Piano Trio (Nr.29/op.59-2) [G] (before 1790)
再び鮮明なリズムに乗った快活なメロディーへ。この曲の明るさと翳りが繰り返される美しさは筆舌に尽くしがたいもの。それをグラーフの見事なフルートとデーラーの表情豊かなフォルテピアノで鮮やかに演奏され、曲の美しさが完璧に表現されます。何気にチェロのスタルクもキレ味鋭く、2人に負けていません。世の中にこれほど美しい曲があるのでしょうか。そしてあまりに見事な演奏に言葉を失うほど。この曲の真髄に迫ります。
1楽章のあまりの完成度にのけぞっていたところに癒しに満ちたフォルテピアノの音色が沁み入ります。グラーフのフルートは素晴らしい音量と伸びやかさで孤高の境地。広い空間に響き渡るフルートの響き。これほど美しいフルートの音色は初めてです。
終楽章は前2楽章の素晴らしさの余韻の中、メロディーの戯れを楽しむような演奏。この軽さというか自在さはこれまでの妙技の数々をこなしてきたからこその境地でしょう。

絶品です! これまで取り上げてきたフルート三重奏曲はいずれも素晴らしい演奏でしたが、このアルバムはそれを超えるもの。この曲集の決定盤としていいでしょう。グラーフのフルートがこれほど素晴らしいものだと改めて認識しました。そしてデーラーのフォルテピアノも絶品。また曲の並びも作曲順ではXV:16、15、17ですが、このアルバムでは16、17、15の順で収録されており、LPのカッティングの都合で2楽章の17を真ん中に置いたものとは思いますが、そのおかげでXV:15の見事な演奏が最後に配置され、アルバムの完成度を上げる結果につながっています。特にこのXV:15の素晴らしさは心に刻まれました。評価はもちろん全曲[+++++]といたします。

世の中はお盆で帰省ラッシュですが、このお休みはのんびり過ごそうと思います。

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tag : フルート三重奏曲 LP 古楽器

ドイツ弦楽三重奏団のソナタ集(ハイドン)

8月最初のレビューは、涼風を感じるような演奏。久々にCDです(笑)

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ドイツ弦楽三重奏団(Deutsches Streichtrio)による、ハイドンのピアノソナタの編曲の弦楽三重奏曲3曲(Hob.XVI:40、XVI:41、XVI:42)と現在はミヒャエル・ハイドンの作と判明している弦楽三重奏曲(Hob.V:Es1)、ハイドンのディヴェルティメント(Hob.V:8)の5曲を収めたCD。収録情報はPマークが1981年とだけ記載されています。レーベルは独INTERCORD。

このアルバム、当ブログにいつも含蓄に富んだコメントをいただくSkunJPさんから、かなり前にいただいたもの。レビュー候補の棚に置いたまま結構な時間が経ってしまいました。最近改めて聴き直してみると、これがなかなかの演奏だったんですね。というわけで結構時間が経った今、タイムマシン的に取り上げます(笑)

奏者のドイツ弦楽三重奏団ははじめて聴きます。1972年にシュツットガルトで設立されたアンサンブル。メンバーは下記の通り。

ヴァイオリン:ハンス・カラフース(Hans Kalafusz)
ヴィオラ:クリスチャン・ヘドリッヒ(Christian Hedrich)
チェロ:ライナー・ギンツェル(Reiner Ginzel)

ヴァイオリンのハンス・カラフースは1940年オランダ生まれのヴァイオリニスト。チェロのライナー・ギンツェルはミュンヘン音楽演劇大学で教鞭をとる人というくらいの情報しかわかりませんでした。

このアルバムに収録されている弦楽三重奏曲の3曲は元はピアノソナタを原曲としたもの。この3曲については以前に一度グリュミオーらの演奏を取り上げたことがあります。

2012/08/29 : ハイドン–室内楽曲 : 【新着】グリュミオー三重奏団のピアノソナタ編曲集

Hob.XVI:40 Piano Sonata No.54 [G] (c.1783)
ピアノソナタでおなじみの穏やかなメロディーですが、こうして弦楽三重奏で演奏されても全く違和感のない見事な編曲。原曲のピアノソナタ自体はニコラウス・エステルハージII世侯の妻、マリア妃のために書かれたものですが、編曲はハイドン自身によるものか、出版を担当したホフマイスターによるものか判明していないとのこと。出だしは3人のバランスの良いオーソドックスなアンサンブルに聴こえましたが、曲が進むにつれてハンス・カラフースの弾くメロディーがくっきりと浮かび上がってきて、徐々にそのテクニックと美音が明らかになります。ヴィオラとチェロが伴奏に徹する中、赤熱してくるメロディー。演奏から別格のオーラが立ち上ります。
この曲集は3曲とも2楽章構成。2楽章のプレストは軽やかな弓さばきを聴かせながらも美音をチラつかせる巧みな演奏。速い音階のキレっぷりは見事。ピアノではキレを聴かせるように感じないところですが、ヴァイオリンで弾くと鮮やかな音階にうっとり。いやいや見事です。

Hob.XVI:41 Piano Sonata No.55 [B] (c.1783)
2曲目は冒頭からカラフースのヴァイオリンが抜群の存在感。ドイツらしい気骨と華美になりすぎないヴァイオリンの美音がカラフースの特徴でしょうか。楽器が良いのか、実に図太く深いに音色を繰り出します。ピアノでの演奏以上にメロディーの美しさが際立つ素晴らしい演奏。1楽章はカラフースの独壇場。ヴィオラとチェロも一歩下がって、慎み深くアンサンブルを支えます。
この曲でも2楽章のボウイングは見事。何気にヴィオラが影のようにヴァイオリンにピタリと寄り添い、チェロは少し離れて自在なところを聴かせてこの曲のコミカルな印象を垣間見せます。アンサンブルの完成度は非常に高く、表現が考えつくされていますね。

Hob.XVI:42 Piano Sonata No.56 [D] (c.1783)
録音の雰囲気が少し変わって、鮮明になります。この曲もピアノの印象が強いんですが、弦楽合奏で聴くと、この版がオリジナルと言われても疑いようがないくらいよくまとまっています。ヴァイオリンの奏でるメロディーはピアノよりもメロディーの美しさ、翳りの両面を描けるところが強み。曲が進むとチェロがこれまでにない活躍ぶりで、グッと前に出てきます。時折りうっとりするような美音を聴かせるところをみると、チェロも相当の腕の持ち主と見ました。クァルテットより楽器が少ないことからハーモニーよりもメロディーをくっきりと描くのに向いた編成なんでしょう。
美音の後は軽快なボウイングの妙技に酔いしれます。カラフースのボウイングは冴えまくって変幻自在。短い曲ですがあっという間にクライマックスに到達!

続くミヒャエル・ハイドンの曲は少し雰囲気が変わって、ヴァイオリンの美音よりも穏やかなアンサンブルを楽しめと言われているようにゆっくりと進みます。ハイドンほどのヒラメキを感じることはありませんが、これはこれでいい曲でしょう。

Hob.V:8 No.8 Divertimento for 2 Violins and Violoncello [Es] (1765)
一転、穏やかな入り。アダージョ、メヌエット、フィナーレの3楽章構成。前3曲のピアノソナタよりもだいぶ前に書かれたものなので、曲の起伏も比較にならないほど簡単。ただしこのディヴェルティメント自体が、演奏して楽しむような用途の作品ですので、これが本来の姿なのかもしれません。この曲では作品を鑑賞するというよりは、演奏しているような気になりながら聴くのがふさわしいでしょう。1楽章は次々と展開する変奏が聴きどころ。2楽章のメヌエットは後年の自在な筆致の萌芽は見られませんが、中間部がいきなり突き抜けるのがハイドンらしいところ。素朴なメロディーの美しさが聴きどころ。そしてフィナーレではハイドンのユニークなメロディーメーカーとしての才能がすでに開花。よくぞこのメロディーを思いついたと唸るばかりの進行。アンサンブルは力を抜いて演奏を楽しむように弾いてゆくので、こちらも非常にリラックスして聴くことができました。

ドイツ弦楽三重奏団によるハイドンのピアノソナタを原曲とする曲集。見事な編曲により、原曲以上にメロディーの美しさが感じられ、新たな発見がありました。演奏はヴァイオリンのハンス・カラフースの妙技が聴きどころ。ヴァイオリンはグリュミオーに劣るどころか、グリュミオーとは異なる輝きを放つ素晴らしいもの。アンサンブルの精度も素晴らしく、聴きごたえ十分でした。評価は最後の曲が[++++]、それ以外のピアノソナタを原曲とする3曲は[+++++]とします。クァルテットもいいものですが、トリオもいいですね〜。

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tag : 弦楽三重奏曲 ディヴェルティメント

ザロモン弦楽四重奏団らの室内楽版ロンドン、軍隊(ハイドン)

先日素晴らしい演奏を取り上げたザロモン弦楽四重奏団ですが、偶然ディスクユニオン店頭でこのアルバムを見つけてゲットしました。

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TOWER RECORDS(この演奏が含まれる全集CD) / amazon(CD) / ローチケHMVicon(この演奏が含まれる全集CD)

ザロモン弦楽四重奏団(The Salomon String Quartet)、リサ・ベズノシウク(Lisa Beznosiuk)のフルート、クリストファー・ホグウッド(Christpher Hogwood)のフォルテピアノによる、ハイドンの交響曲104番「ロンドン」、100番「軍隊」のザロモンによる室内楽への編曲版の演奏を収めたLP。収録は1982年11月、ロンドン北東部のウッドフォード教区教会(Woodford Parish Church)でのセッション録音。レーベルは英EDITION DE L'OISEAU-LYRE。

L'OISEAU-LYREのLPは裏面の文字のタイポグラフィーも含めて装丁が美しいのでコレクション意欲を満たしますね。私がL'OISEAU-LYREのLPを初めて手に入れたのは予備校生時代にかつて代々木にあったジュピターレコードでのこと。店頭のレコードラックを物色しているとL'OISEAU-LYREとかベルギーのACCENTのアルバムは特別なオーラを放っていました。あれからかれこれ35年くらい経ちます。このLPも偶然出会ったものですが、状態の良いジャケットからはかつて感じたオーラが出ていました。

ザロモン弦楽四重奏団の演奏は取り上げたばかりですね。

2017/06/26 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : ザロモン弦楽四重奏団の剃刀、ひばり(ハイドン)
2011/10/29 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : ザロモン四重奏団のOp.74のNo.2、騎士

前記事にも書きましたが、hyperionからリリースされているシリーズよりも、その前に録音されたL'OISEAU-LYREの演奏の方がいい演奏です。剃刀、ひばりを収めたLPの収録は、今日取り上げるLPと同じ1982年11月で、録音会場も同じ。ということでほぼ同時期の収録ゆえその演奏にも期待できますね。

収録曲目であるペーター・ザロモン(Peter Salomon)編曲の室内楽版交響曲については、以前取り上げたアルバムの記事をご参照ください。

2016/01/31 : ハイドン–交響曲 : アルコ・バレーノによる室内楽版「時計」、99番、「ロンドン」(ハイドン)

このアルコ・バレーノの演奏も素晴らしかったのですが、名手ヤープ・シュレーダー率いるザロモン弦楽四重奏団にホグウッドまで加わったメンバーによる演奏が悪かろうわけもありませんね。このLP、コンディションも最高。針を落とすと予想通り鮮烈な響きが広がりました。

Hob.I:104 Symphony No.104 "London" 「ロンドン」 [D] (1795)
有名なロンドンの序奏ですが、もちろん室内楽版ゆえ重厚な響きとはいきません。LPは万全なコンディションなのでノイズは皆無。LPに刻まれたクリアな響きによって丁寧に描かれるメロディーの面白さ際立ちます。主題に入ると推進力が漲り、グイグイと引っ張っていきます。脳内では大オーケストラのこの曲の響きを想像しながらの鑑賞でしたが、徐々にこの室内楽版の面白さに気づき、スケール感よりもメロディーの起伏とパート間のメロディーのつなぎに耳が集中してきます。演奏は変わらすグイグイと進みもう大オーケストラの演奏以上に迫力を感じさせます。極上のアンサンブルによりまさにロンドンの大オーケストラの響きが脳内に浮かび上がります。迫力は音量にあらず。室内楽版とはいえ素晴らしい盛り上がりに圧倒されます。
続くアンダンテは室内楽版らしくメロディーラインがクッキリと浮かび上がり、本来のオーケストラ版よりも楽しめる感じ。これもヤープ・シュレーダーのヴァイオリンとホグウッドのフォルテピアノ、そしてリサ・ベズノシウクのフルートの冴えによるもの。特にフルートが加わることでオーケストラの音色を想像しやすくなっていますね。
メヌエットは迫力ではオケ版にはかないませんが、絶妙なテンポ感とリズムのキレで十分聴かせます。アンダンテ同様、各パートの絡みはオケ版よりもはっきり認識できるので、音楽の面白さはこちらに軍配が上がります。
フィナーレも絶妙な入り。耳が慣れてきたせいか、迫力も十分なものに聴こえてきました。速めのテンポで鮮やかにまとめ、聞き進むうちに大迫力に聞こえてきました。それだけ演奏に生気が宿っています。最後は大いに盛り上がって終了。

Hob.I:100 Symphony No.100 "Military" 「軍隊」 [G] (1793/4)
もちろん、軍隊の方も悪かろうはずもなく、針を落とすとロンドン同様、緻密で丁寧な序奏に惹きつけられます。主題に入ると実に鮮烈な響きが繰り出され、快速テンポでグイグイ進みます。異様にキレの良いリズムが推進力の源になり、独特な構成の1楽章をまとめていきます。ロンドン以上にキレの良い演奏で、この曲の陶酔感までを表現しきります。
軍隊の行進のアンダンテはもちろん打楽器なしですが、脳内で打楽器群が盛大に鳴っているように聴こえるのが不思議なところ。演奏の方も雄大さを表すようにあえてゆったり進んでいるのがそう感じさせるのでしょう。最後のクライマックスもトランペットも打楽器もないのに素晴らしい迫力を感じさせるのが見事。神業ですね。これはすごい。
メヌエットはその迫力の余韻をさらりと消し去るように軽快そのもの。楽章ごとの演奏スタイルもよく考えられて、楽章間の変化をしっかりつけてきます。
そして聴きどころのフィナーレはキリリとメリハリを効かせてフレーズごとに表情をしっかりつけ、推進力も十分。ハイドンの見事なフィナーレの構成をオケ版以上にクッキリと描ききり、迫力も十分。そして最後の頂点は打楽器もないのにスリリングにパンチアウト! 見事としか言いようがありません。

この演奏を聴いて、ようやくザロモン版のこの編曲の真価がわかりました。当時ロンドンではハイドンは熱狂的に迎えられたと聞きます。そのハイドンの音楽を室内楽で演奏して楽しむというニーズはよくわかります。そしてこの演奏を聴くと、あたかもハイドンの交響曲が演奏されているような錯覚に陥るほどの素晴らしい演奏。室内楽版の交響曲の演奏はこれまでに数種のアルバムがリリースされていますが、この演奏は室内楽版の交響曲のベストと言っていいでしょう。今まで聴いていなかったのはたまたまですが、ようやくこの素晴らしさがわかりました。LPのみならず、CD化もされており、直近ではホグウッド、ブリュッヘン、ダントーネらによる古楽器の交響曲全集にも含まれていることから入手も難しくありません。ハイドンファンなら一度は聴いておくべき名盤だと思います。もちろん評価は両曲とも[+++++]といたします。

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アンサンブル・オブ・ザ・クラシック・エラのピアノ三重奏曲など(ハイドン)

久々のピアノトリオですね。

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TOWER RECORDS / amazon(mp3) / ローチケHMVicon

アンサンブル・オブ・ザ・クラシック・エラ(Ensemble of the Classic Era)の演奏で、ハイドンのピアノ三重奏曲(Hob.XV:14、XV:12)、交響曲92番「オックスフォード」(ヤン・ラディスラフ・ドゥシークによるフォルテピアノとヴァイオリンのための編曲版)、交響曲96番「奇跡」と94番「驚愕」(ヨハン・ペーターザロモンによるピアノ三重奏のための編曲版)、ピアノ三重奏曲(XV:18)の6曲を収めたアルバム。収録はオックスフォードまでの3曲が1998年9月21日から25日、残り3曲が1995年10月31日から11月4日、いずれもオーストラリアのメルボルンにあるオーストラリア放送サウスバンクセンターのイワキ・オーディトリウムでのセッション録音。レーベルはオーストラリア放送のABC Classics。

これまでも何度か取り上げたことのある、珍しいオーストラリアの奏者のハイドン。今日取り上げるアルバムはもちろん、珍しいからばかりではなく、なかなかいい演奏ということで取り上げました。オーストラリアの奏者によるオーストラリアでの録音は下の2つくらいでしょうか。

2014/02/24 : ハイドン–協奏曲 : オーストラリア・ソロイスツのヴァイオリン協奏曲(ハイドン)
2011/06/24 : ハイドン–声楽曲 : ジェーン・エドワーズの歌曲集

その他、オーストラリア出身の音楽家の演奏でこれまで取り上げたことがあるのはホルンのバリー・タックウェル、ソプラノのジョーン・サザーランド、指揮者のデニス・ヴォーン、ヴァイオリンのエリザベス・ウォルフィッシュといったところ。ヨーロッパから見るとアジア以上に辺境感のあるオーストラリアでもハイドンの音楽の素晴らしさは変わらないということでしょう。

さて、このアルバムの演奏を担当するアンサンブル・オブ・ザ・クラシック・エラのメンバーは下記の3人。

ヴァイオリン:ポール・ライト(Paul Wright)
チェロ:スーザン・ブレイク(Susan Blake)
フォルテピアノ:ジェフリー・ランカスター(Geoffrey Lancaster)

フォルテピアノのジェフリー・ランカスターは上にリンクを掲載したジェーン・エドワーズの歌曲集の伴奏をしている他、フォルテピアノによるハイドンのソナタ全集を3巻までリリースしており、ハイドンには格別のこだわりがありそうな人。

いつものように略歴を調べてみると、ジェフリー・ランカスターは1954年シドニー生まれの鍵盤奏者、指揮者。キャンベラ音楽学校、シドニー音楽院、タスマニア大学などで音楽を学び、1984年に渡欧してアムステルダム音楽院、王立ハーグ音楽院でフォルテピアノを学び、1996年からはロンドンの王立音楽大学で教職に着きました。奏者としてはハイドン、モーツァルト、ベートーヴェンなどをレパートリーとしてオーストラリアや欧米のオケとソリスト、指揮者として共演を重ねているそう。
ヴァイオリンのポール・ライトはアデレード生まれ、チェロのスーザン・ブレイクもシドニー音楽院出身といずれもオーストラリアの人ですね。

ということで、オーストラリア人トリオによる演奏を聴いてみましょう。

Hob.XV:14 Piano Trio (Nr.27/op.61) [A flat] (before 1790)
実に優雅な入り。基本に忠実にゆったりと楽器を鳴らした丁寧な演奏。やはりジェフリー・ランカスターのフォルテピアノがリードしてヴァイオリンとチェロが寄り添う形。奏者の純粋な心境を表すような無垢な優しさを感じる演奏。訥々と語りかけるようなタッチで音楽が進みます。録音は鮮度十分で、しかも響きは柔らかくふくよか。古楽器の美しい響きが見事に録られていますね。ヴァイオリンのポール・ライトは何気に美音を轟かせます。そして何より弱音の扱いがデリケートで上手いのが聴きごたえに繋がっています。
続く2楽章ではさらにリラックスして至福の境地。テクニックを極めた円熟の演奏という感じではなく、大自然の素朴さを音楽にしたような朗らかさを感じるのが不思議なところ。中間部のフォルテピアノの音色を変えて弦楽器のピチカートが華を添えるところの美しさは絶品。
そしてフィナーレはそれまでがしっとりとした音楽だったからこそ、しなやかな躍動感が映えて聴こえます。室内楽の聴かせどころ踏まえた構成に唸ります。一貫して柔らかな古楽器の音色による素朴な演奏。最後は転調の面白さ、リズムの変化の面白さ、弱音の美しさを存分に聴かせて曲を結びます。

Hob.XV:12 Piano Trio (Nr.25/op.57-2) [e] (1788)
短調の名曲。聴きなれた入りも、ダイナミックすぎず、力まず、さらりと入るあたりにこのトリオの巧さを感じます。込み入ったアンサンブルに聴こえますがいい意味で軽くこなしていくようなスタイルが深刻さを感じさせず、音楽の美しさを浮き彫りにしているようです。やはりジェフリー・ランカスターの軽やかなタッチがそう聴かせているよう。
続くアンダンテでも、そのタッチが音楽の軽やかさを創っていきます。ヴァイオリンはピチカートでフォルテピアノを引き立てたかと思うと、すぐに寄り添って響きに厚みをもたらします。かと思うと今度はフォルテピアノが静かにヴァイオリンとチェロを支える役に転じるという構成の面白さ。
終楽章は爽やかな入りから流れるようにしなやかに盛り上がり、畳み掛けるような迫力を何度か聴かせて、最後はテンポを落としたり楽器の表現力の限りを尽くした見事な終結。これも見事です。

このあと、オックスフォードをヴァイオリンとフォルテピアノの2台で、奇跡と驚愕をフォルテピアノトリオで聴かせますが、他の室内楽版よりも原曲のスケール感を表現しようとする意欲に満ちたなかなかの演奏。これはまた別の機会に取り上げましょう。

Hob.XV:18 Piano Trio (Nr.32/op.70-1) [A] (before 1794)
アルバムの最後に置かれた曲。このアルバムに収められたピアノトリオの中では録音が3年ほど古いもの。響きも前2曲とは異なり、シャープで鮮明さが勝った録音。前2曲が自然で柔らかな響きの魅力に溢れていたのに対し、こちらは一般的な古楽器の録音に近くちょっと鋭角的な響き。その分ジェフリー・ランカスターの演奏もゆったりとした余裕のある感じとはちょっと異なって聴こえます。もちろん録音ばかりではなく演奏自体も少し硬く精緻な印象。やはりハイドンの演奏は自然な演奏の方がしっくりきますね。ただ、聴き進んでいくうちにジェフリー・ランカスターの音色の変化や表現力は変わらず魅力的であることに気づきます。録音によって演奏が引き立つかどうかはアルバムでも重要であることがわかります。
2楽章では逆に精緻な印象が凛とした美しさに繋がっており、耳が慣れてきたのか演奏に集中できるようになります。そして3楽章はノリの良いメロディーをヴァイオリンのポール・ライトがくっきりと浮かび上がらせる見事な演奏。ここにきてヴァイオリンが主導権をしっかりと握り、覇気溢れる演奏。素晴らしい迫力ばかりではなく力を抜いたところとの対比で聴かせるところもあり、ここにきてこのトリオのテクニックを印象付けます。いやいや素晴らしい。

アンサンブル・オブ・ザ・クラシック・エラというオーストラリアのトリオによるハイドンのピアノ三重奏曲。2曲目までは自然な響きの魅力で聴かせる演奏でしたが、最後の曲でキリリと引き締まった迫力を聴かせて、表現力を印象付けました。やはりジェフリー・ランカスターのフォルテピアノの多彩な表現がこの団体の魅力ですが、ヴァイオリン、チェロもそれにピタリと合わせて一糸乱れぬ快演。かれこれ20年以上前の録音ですが古さは全く感じさせず、また欧米の一級の演奏に劣るようなところも全くありません。評価は3曲とも[+++++]とします。室内楽好きな人には一聴をお勧めいたします。

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【新着】フィンランド・バリトン三重奏団のバリトントリオ(ハイドン)

久々のバリトントリオの新譜です。しかも演奏も録音も素晴らしいもの。これは当ブログで取り上げないわけには参りません。

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TOWER RECORDS / amazon / ローチケHMVicon

フィンランド・バリトン三重奏団(The Finnish Baryton Trio)による、ハイドンのバリトン三重奏曲5曲(Hob.XI:63、XI:87、XI:32、XI:66、XI:97)を収めたSACD。収録は2008年2月28日から3月1日まで、フィンランド東部のアルヴァー・アアルトの教会で有名なイマトラ(Imatra)にあるコンサートホール(Konserttihovi of Imatra)でのセッション録音。レーベルはSIBARECORDSという、SIBELIUS ACADEMYの自主制作レーベル。

アルバムタイトルは"The Private Preasure of Prince Esterházy"とあり、「エステルハージ侯の密かな楽しみ」とでも訳すのでしょうか、バリトントリオという曲の本質をとらえたタイトルからただならない感じがしていました。ただし本当にただならないのは、このアルバムの奏者が時代も距離もかなり隔てた現代のフィンランドの奏者によって演奏されてるという点。

ご存知のとおり、バリトン三重奏曲はエステルハージ家の当主であるニコラウス侯の時代に仕えていたハイドンが、ニコラウス侯の命により大量に作曲したもの。またバリトンという楽器を使った曲も、ハイドンの作品の他にはニコラウス侯の命により他の一部の作曲家が書いたもの以外はあまり知られていません。そのただでさえ珍しい超ローカルなバリトンの曲を、独墺系ではなく、ヨーロッパの辺境である超ローカルなフィンランドの団体が録音しているというところにこのアルバムの不思議な立ち位置があるわけです。

奏者のフィンランド・バリトン三重奏団ですが、メンバーは下記のとおり。

バリトン:マルクス・クイッカ (Markus Kuikka)
ヴィオラ:マルクス・サラントラ (Markus Sarantola)
チェロ:ユッシ・セッパネン (Jussi Seppänen)

団体の設立は2002年と比較的最近で、主にフィンランドにてハイドンのバリトン三重奏曲をコンサートや放送のために演奏しているとのこと。バリトンのマルクス・クイッカ、ヴィオラのマルクス・サラントラはシベリウス・アカデミーの出身者、チェロのユッシ・セッパネンはフィンランド中部のタンペレ音楽院からややりシベリウス・アカデミーに移っており、全員シベリウス・アカデミー出身者ということになります。マルクス・クイッカはもともとヴィオールやバロックチェロを学び、またフィンランド北部のクオピオ交響楽団の首席チェロ奏者を30年近くに渡って務めてきた人ですが、バリトンの演奏に興味をもち、2009年にシベリウスアカデミーでバリトンの研究課程を卒業し、その後はヘルシンキを拠点としたフリーランスになっているとのこと。このアルバムがシベリウス・アカデミーでの成果ということでしょう。

このアルバムを聴いてまず特筆すべきなのは録音の良さ。SACDということで精緻かつ自然な響きなのはもちろん、収録会場であるイマトラのコンサートホールは写真でみると小規模な響きの良さそうなホールで、このホールの響きの良さが活かされている感じ。アルバムの収録場所を調べるときは、必ずネットで場所やホールのようすを調べるようにしていますが、ただでさえ田舎なイマトラのさらに街のはずれの森の中に1軒だけ建つ建物だけに周囲は静かな環境。スイスのラ・ショード・フォンのムジカ・テアトル同様、適度な大きさで響きが良さそうな室内楽の収録には最適な環境です。

そして肝心の演奏もバリトントリオの幽玄さを静寂感が支配するようなもの。フィンランドの自然を想起させる演奏といえばいいでしょうか。
 
Hob.XI:63 Divertimento a tre per il pariton, viola e violincello : Baryton Trio [D] (1767-68)
いきなりあまりに美しい響きに鳥肌がたつよう。バリトントリオの演奏は不可思議な開放弦の響きが加わりますが、意外に躍動感を感じる演奏も多いもの。このフィンランド・バリトン三重奏団の演奏は、穏やかで精緻さを保ちながら訥々と演奏していき、特に消え入るような弱音の表現が精緻な録音で録られており、ホールに消え入る響きの美しさが際立ちます。この訥々とした感じ、いい意味でアマチュアの演奏のような感じがニコラウス侯とハイドンらだけで演奏を楽しむような雰囲気を感じさせます。聴いているうちにホールで実際に演奏を聴いているように感じるほど録音は秀逸。少し遠くで演奏を楽しむような雰囲気です。
曲はアダージョ、アレグロ、メヌエットの3楽章構成。もちろんハイドンらしい機知に満ちていて、特にメヌエットの面白さは出色。

Hob.XI:87 Divertimento a tre per il pariton, viola e violincello : Baryton Trio [a] (before 1772?, 69-71)
シュトルム・ウント・ドラング期の作曲らしく、この時期の曲に多く見られる仄暗さが沁みる曲。淡々と落ち着いた演奏からしっとりと情感が満ちてきます。アダージョ、アレグロ・ディ・モルト、メヌエットの3楽章構成。一貫して表現を抑え気味に進めますが単調な印象は皆無。かえって曲自体の美しさがくっきりと浮かび上がります。微視的ではなく大きな起伏を穏やかに表現することで、曲の魅力が際立ちます。曲自体は激しい印象がある2楽章は禁欲的に感じるほど冷静に進めていきます。この楽章もこの控えめな表現によって曲に深みが加わります。そして終楽章のメヌエットは落ち着いたリズムの魅力に気付かされます。聴かせどころをリズムに絞った解釈。バリトンという楽器の音色も踏まえた曲の構成の巧みさに驚きます。

Hob.XI:32 Divertimento a tre per il pariton, viola e violincello : Baryton Trio [G] (1776-77)
この演奏の他にはBrilliantの全集しか録音がない珍しい曲。入りのメロディーもユニークでちょっと深みに欠ける印象もなくはありませんが、聴き進めるうちにハイドンの見事な展開に惹きつけられていきます。モデラート、メヌエット、プレストという構成。この曲ではメヌエットが弾みます。コミカルな印象のある1楽章に呼応してのことでしょう。節度ある躍動感が実に心地よい音楽。そしてフィナーレも小気味よい疾走感。曲によってしっかりとスタイルを変えてくる器ももっていました。アルバムの真ん中にこういった曲を挟むことで演奏の幅も広がって聴こえますね。

Hob.XI:66 Divertimento a tre per il pariton, viola e violincello : Baryton Trio [A] (1767-68)
こちらは比較的録音の多い曲。ピチカートでの入りがまさにバリトンの音色の面白さを特徴的に表す曲。アダージョ、アレグロ・ディ・モルト、メヌエットという構成。以前バレストラッチ盤で印象に残っている曲ですが、静寂感と深みでこちらの演奏に分があるでしょうか。ここまでで最もバリトンという楽器の不可思議な響きの面白さを感じられる曲。チェロと似てはいるものの独特の饐えたような音色と、開放弦の存在がざわめきのような響きを伴います。そして音色ばかりではなく、めくるめくように変化していく曲想の面白さ。2楽章はリズミカルに進みますが、驚くのは3楽章の入りのなんとユニークなことか。あまりの発想の斬新さにハイドンの天才を感じます。

Hob.XI:97 Divertimento a tre per il pariton, viola e violincello : Baryton Trio [D] (before 1778, 66?)
最後はバリトントリオの中でも最も有名な曲。手元にはこの演奏を含めて12種もの演奏があります。アダージョ、アレグロ・ディ・モルト、メヌエット、ポロネーズ、アダージョ、アレグレット、フィナーレ(フーガ)という7楽章構成。バリトントリオの魅力がすべて詰まった曲といっていいでしょう。フィンランド人のトリオの演奏はこれまでの曲同様、自然さと静寂感、時に躍動感を織り交ぜた見事なもの。1楽章の構成感、2楽章の穏やかな躍動、3楽章のメヌエットのシンプルな美しさ、4楽章の穏やかなキレ味、いきなり深みをかいまみせる5楽章、明るさを取り戻す6楽章、そしてユニークなメロディーをさらにユニークに展開していく終楽章のフーガと聴きどころ満載。このトリオの実力を遺憾無く発揮した素晴らしい演奏です。

フィンランドの奏者によるバリトントリオの演奏ですが、これはバリトントリオの演奏の中でも注目すべき演奏です。今回このアルバムを取り上げるにあたっていろいろ手元の演奏を聴き比べてみましたが、バリトンという楽器の響きを精緻に録られた録音の良さもあって、バリトントリオという曲の魅力が非常によくわかるプロダクションに仕上がっています。そもそもハイドンの曲がもつ中欧的な雰囲気を、北欧的な澄み切った雰囲気に仕立てあげることで、曲自体の純粋な魅力が浮かび上がった感じ。日本人の演奏するハイドンにも、良い意味でも悪い意味でも日本的な印象があるのと同様、この演奏にもフィンランドという辺境の国の澄み切った感性が宿っている感じがします。この演奏、多くの人に聴いていただく価値のある名盤と断じます。評価は全曲[+++++]とします。

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tag : バリトン三重奏曲 古楽器 SACD

ドイツ・バロックゾリステンによるディヴェルティメント「誕生日」(ハイドン)

今日は軽めのアルバム。先輩愛好家に教えていただいたアルバムが気になって、amazon.co.uk で注文したもの。

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ドイツ・バロックゾリステン(Die Deutschen Barocksolisten)の演奏で、ハイドンのディヴェルティメント「誕生日」(Hob.II:11)、フローリアン・レオポルド・ガスマンのオーボエ、ヴィオラ、チェロ、バッソのための四重奏曲、グレゴール・ヨゼフ・ヴェルナーのフルート、ヴァイオリン、通奏低音のための協奏曲の3曲を収めたアルバム。収録は1977年10月29日から30日、ドイツのケルンの西のブラウヴァイラー(Brauweiler)にあるブラウヴァイラー修道院(Abtei Brauweiler)でのセッション録音。レーベルは独FSM ADAGIO。

このアルバム、タイトルは”Galante Musik aus Wien”ということで、「ウィーンのギャラント様式音楽」とでも訳すのでしょうか。このアルバムは18世紀中盤、ハプスブルク家によって音楽の中心都市として栄えたウィーンにおけるバロックから古典期への移行期、装飾的な音楽から明晰な音楽への移行期の音楽を表すギャラント様式や多感様式の音楽音楽を集めたもの。このころウィーンの音楽は特に歌劇においてイタリアから大きな影響を受けつつありました。

ハイドンは18世紀中頃は、来たるシュトルム・ウント・ドラング期を前にして、1761年にエステルハージ家の副楽長に就任、その時の楽長がヴェルナーであったことは皆さまご存知のとおり。ヴェルナーは1693年生まれでハイドンが副楽長に就任した3年後の1766年に亡くなります。そしてこのアルバムに曲が収められたガスマンはウィーンで活躍したチェコの作曲家で、サリエリの師匠だったそう。1729年生まれとハイドンより3歳年長ですが、1774年と早くに亡くなっています。この18世紀中頃にウィーンの周りで活躍した3人の音楽家の作品を並べるという企画です。

ハイドンについては18世紀中盤、ハイドンの作品の中では初期の作品からギャラント様式を感じさせる曲を選んだということでしょう。もともとギャラントとは「軽快で優美な」との意ゆえ、ディヴェルティメントはそうした印象に最も近い曲と言っていいでしょう。だいぶ時を経た現代からみると、ハイドンだけが歴史の荒波を超えて聴き継がれてきたものであり、他の2曲とはやはり出来が違います。

ハイドンのこの曲は1763年ごろの作曲とされ4楽章構成で6声部のディヴェルティメント。既に1765年頃には多くの楽譜が出版され、広く知られた曲となっていたようです。このディヴェルティメントには「誕生日」というニックネームがついていますが、2楽章では2丁のヴァイオリンがオクターブはなれて、まるで夫婦のように寄り添って誕生日を祝うようすが描かれているとの事。この2楽章は「夫婦」とも呼ばれています。これはハイドン自身によって仕込まれたユーモアだと思われており、こうした特徴によって曲が有名になったものと思われています。

手元にはこのアルバムを含めて7組のアルバムがあり、そのうち4組はこれまでに記事にしています。

2014/08/11 : ハイドン–室内楽曲 : ディヴェルティメント・ザルツブルクのディヴェルティメント集(ハイドン)
2014/05/17 : ハイドン–室内楽曲 : シェーンブルン・アンサンブルのディヴェルティメント集(ハイドン)
2014/03/08 : ハイドン–管弦楽曲 : リンデ・コンソートのディヴェルティメント集(ハイドン)
2012/09/26 : ハイドン–室内楽曲 : ベルリン・フィルハーモニー・ソロイスツの「誕生日」

また、奏者のドイツ・バロックゾリステンはドイツ系の名手の集まりのようで、他のアルバムでもソロを担当する奏者が名を連ねます。

Hob.II:11 Divertimento "Der Geburtstag" 「誕生日」(6 Qurtette fur Flote, Violine, Viola und Violincello Op.5 Nr.6) [C] (c.1763)
入りから優雅の極み。まさに演奏を楽しむような愉悦感に富んだ演奏。ゆったりとしたテンポに合わせて、フラウトトラヴェルソにバロックオーボエが歌い、弦楽器陣が控えめながら楽しげにサポート。表現を追い込むなどという野暮なことはせず、ゆったりと演奏していきます。
2楽章のアンダンテは弱音器付きのオクターブはなれたヴァイオリンがさえずる鳥のように控えめな幸せを表現しているよう、メロディーもハーモニーもシンプルそのものですが、単調な印象はなく、実に奥行きのある音楽。これぞハイドンの真骨頂というところ。まさに夫婦が誕生日を祝いあうようなやりとりと聴こえます。
つづく3楽章のメヌエットもメロディーはシンプルそのものですが、丁寧な演奏から浮かび上がる音楽の楽しさ。中間部の変化もゆったりとした流れの中で聴かせる名人芸。この演奏、音楽の楽しさを表現することにかけてはこれ以上の演奏はありえないほど完成度が高く、実に微笑ましい。
そして終楽章は変奏曲。最初のテーマをもとに次々と変奏が進みます。まずはチェロがメロディーを繰り返し、そしてフラウトトラヴェルソが続き、装飾音を加えて華やかさを増します。そしてヴァイオリンソロ。バロックオーボエと続きますが、バロックオーボエの響きの艶やかさがひときわ鮮やか。再びヴァイオリンソロ、そしてこれまでの楽器が次々とメロディーを受け継いでアンサンブルの面白さが浮かび上がります。変奏のアイデアが次々と広がり、これほどシンプルな曲なのに音楽的な完成度は素晴らしいものがあります。最後は最初のテーマの提示部と同様の響きに戻って曲を閉じます。練習曲のように簡単な曲なのにハイドンの魔法がかかって素晴らしい音楽に仕上がります。

つづくガスマンの曲もシンプルながら華やかさとなかなか緻密な構成が魅力的な曲。ですが、ハイドンの曲のあまりの素晴らしさの前にはやはりレベルの差はついてしまうところ。そして、ハイドンの前任の楽長ヴェルナーの曲はかなり古風。時代もレベルもかなりの差があるのが正直なところ。

「ウィーンのギャラント様式音楽」と名付けられたアルバムですが、3人の作曲家の作品からこの時代の空気のようなものが浮かび上がってくる好企画と言っていいでしょう。そして結果的にはハイドンの先進性というか音楽性が際立つことになりました。ドイツ・バロックゾリステンの演奏は実に落ち着いたもので、この曲の魅力を完璧に表現する素晴らしい演奏。この演奏を聴くと、音楽とは技巧により成り立つものではないと改めて思い知らされます。技術的には難しいところは一つもなさそうな曲ですが、これほどに豊かな音楽を感じさせる演奏はそうできるものではありませんね。評価は[+++++]とします。

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エステルハージ・バリトン・トリオのバリトン三重奏曲集(ハイドン)

LPが続いてスミマセン。ただ、あまりに素晴らしい演奏なのでこのアルバムは取り上げざるを得ません。

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エステルハージ・バリトン三重奏団(Esterházy Baryton Trio)による、ハイドンのバリトン三重奏曲11曲(Hob.XI:85、XI:37、XI:121、XI:71、XI:117、XI:113、XI:97、XI:109、XI:70、XI:96、XI:48)を収めたLP2枚組。収録情報は記されておらずPマークが1977年との記載のみ。レーベルは独EMIのELECTROLA。

このアルバムもディスクユニオンの売り場で発見したもの。バリトントリオのアルバムは見かければ無条件に手に入れていますが、このアルバムの存在は知りませんでした。幸いLPのコンディションも非常に良く、針を落とすといきなりバリトントリオ独特の典雅な世界に引き込まれます。非常に落ち着いた演奏から漂う、バリトンの摩訶不思議な音色に興じます。

収録曲を所有盤リストに登録する段階で気づきましたが、ヴィオラの奏者のみ異なる同名のトリオによるEMIのCDを既に所有しており、そのCDはこのLPの続編として1980年にLPでリリースされたものとわかりました。このアルバムの奏者は次の通り。

バリトン:リッキー・ジェラルディ(Riki Gerardy)
ヴィオラ:チャバ・エルデーイ(Csaba Erdélyi)
チェロ:ジョナサン・ウィリアムス(Jonathan Williams)

リッキー・ジェラルディはチェリストで、ヨーロッパでは名の知れた人。バリトンは独学で習得し、チェロでの無伴奏の演奏同様、バリトンにおいても無伴奏のリサイタルを開くなどバリトンでの演奏技術についても意欲的に取り組んできた人とのこと。チャバ・エルデーイはブダペスト生まれで、メニューヒンに師事しイギリスを代表するヴィオラ奏者。ジョナサン・ウィリアムスはピエール・フルニエに師事し、イギリス室内管の世界ツアーなどにも帯同する他、BBCなどの放送でも活躍している人。それぞれ腕は確かな人のようです。

ちなみに手元にあったEMIのCDの方を聴いてみると、LPとは異なり、典雅なというよりかなりキビキビとした演奏で、奏者だけでなく演奏の雰囲気も少し異なります。また収録曲も今日取り上げるLPの方に有名曲が集中しているため、やはりこちらのLPの方が聴きごたえがあります。ということで、今日は11曲の収録曲の中から録音の多い有名な2曲のみ取り上げます。

Hob.XI:97 Divertimento a tre per il pariton, viola e violincello : Baryton Trio [D] (before 1778, 66?)
バリトントリオを代表する曲。3楽章構成の多い中、この曲だけがアダージョ、アレグロ・ディ・モルト、メヌエット、ポロネーズ、アダージョ、メヌエット、フィナーレの7楽章構成。厳かな入りから実に落ち着き払った演奏。いきなりチェロとヴィオラとバリトンのえも言われぬ不可思議な響きの世界に入ります。時折りポロリと鳴るバリトンの開放弦を爪弾く音がバリトンの存在感を主張しますが、低音楽器3本による音楽はもちろんゆったりとした雰囲気を醸し出します。この落ち着いた雰囲気がバリトントリオの真髄。メロディーは比較的単純で、ニコラウス・エステルハージ候と演奏するためにハイドンが大量にバリトントリオを書いた微笑ましい背景を考えると、テクニックを要さず不思議な響きのアンサンブルと楽しむという目的での完成度は非常に高いものと改めて唸ります。演奏はそうした背景も踏まえた、ストレートにアンサンブルを楽しむ感じがよく出たもの。
2楽章は、少し技巧が上がり、代わる代わる音階の面白さでアンサンブルを組み立てます。バリトンのちょっと潤いに欠けるざらついた音色と素朴なアンンサンブルが地味に曲を盛り上げます。これは演奏したら楽しいでしょうね。めくるめく音階の繰り返し。
続くメヌエットは、クァルテットのメヌエット同様、ハイドンの創意の素晴らしさが光りますが、楽器のバランスがクァルテットとは異なることで、曲の雰囲気も変わります。舞曲らしいリズムを楽しんでいるうちに、突然バリトンの開放弦の不可思議な響きが加わりハッとさせられます。これまでに聴いた録音の中でも最もバリトンが雄弁な演奏ですね。
続くポロネーズはかなり大胆にリズムを刻みます。ユニゾンでグイグイメロディーを引っ張りますが、この辺りのハイドンのアンサンブル構成も見事。
そして、ぐっと暗く沈むアダージョ。いつもながらこのハイドン独特の展開の面白さは絶品。このような曲であっても、音楽の展開の切れ味は手抜きなし。曲が進むにつれ、聴いている方も唸りっぱなし。特にこのエステルハージ・バリトン三重奏団の演奏も、曲を鮮やかに展開させるので、曲の面白さが思い切り引き立ちます。
短いメヌエットを挟んでフーガによるフィナーレに入りますが、ザクザクとダイレクトに響く各パートの織りなすアンサンブルの面白いことと言ったらありません。これは名演ですね。

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Hob.XI:109 Divertimento a tre per il pariton, viola e violincello : Baryton Trio [C] (before 1778, 72-78)
こちらはアダージョ、アレグロ、メヌエットの3楽章構成。郷愁を帯びた中世のころのようなメロディーを静かに奏でる入り。一つ一つのフレーズを実に丁寧に演奏していくことで、ハイドンの書いたメロディーがしっとりと響きます。1楽章のしっとり感を拭うように、2楽章はリズムの角を立てて各楽器がせめぎ合いながら音を重ねていきます。似た音域ながら、楽器それぞれの響きの違いがあり、その違いを生かして曲が書かれているのがわかり、流石のハイドン、玄人好みとはこのこと。それぞれの楽器の高音域の響きの違いにスポットライトが当たります。
そして、曲の最後に置かれたメヌエットは、曲間にある時に増して存在感が際立ちます。アンサンブルが単純なだけにリズムのキレの効果はてき面。弾む曲想に、独特の雰囲気の中間部、再びの弾むメヌエットで曲を閉じますが、見事に締まった感じがするのが流石です。こりゃ面白い。

エステルハージ・バリトン三重奏団による、ハイドンのバリトントリオ11曲を収めたLPですが、直接音重視の時代にしては超鮮明な録音によって3台の楽器が目の前で鳴り響く絶好の定位感。これまでに聴いたバリトントリオの録音の中でもバリトンという楽器が鮮明に響く演奏であり、しかも落ち着き払った堅実な演奏によって、曲自体の面白さも際立つ名演奏と言っていいでしょう。針を落として聴き始めるとグイグイと引き込まれる演奏です。不思議と同じアンサンブルによる別の曲のCDとは聴かせどころが異なり、こちらの方が数段面白いですね。評価は今日取り上げなかった曲も含めて全曲[+++++]としました。CD化に耐えるマーケットはないでしょうから、せめてデジタル音源などで残してほしいものです。そういう意味でこれは貴重なLPですね。

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tag : バリトン三重奏曲 古楽器 LP

ムジカ・ドメスティカのフルート三重奏曲集(ハイドン)

今日はフルートトリオ。

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TOWER RECORDS / amazon / ローチケHMVicon

ムジカ・ドメスティカ(Musica Domestica)の演奏で、ハイドンのフルート三重奏曲3曲(Hob.XV:16、XV:15、XV:17)を収めたアルバム。収録は1994年12月、ロンドンの南東50kmにあるフィンチコックス美術館(Finchcocks Museum)でのセッション録音。レーベルはノルウェーのSIMAX classics。

前記事に続き、このアルバムも湖国JHさんから貸していただいているもの。最近当ブログではトリオものの名演を相次いで取り上げているため、トリオには目を光らせているつもりが、これまたコレクションの隙間を突かれた形です。とは言っても突かれて嬉しいのが正直なところ。自ら選んでないアルバムは実に新鮮な気持ちで聴くことができます。

奏者のムジカ・ドメスティカは、古楽器で18世紀後半から19世紀初頭までの音楽を演奏する団体。団体名は「家庭の音楽」の意。当時は室内楽は演奏会などではなく、それぞれの家庭で自分たちで演奏して楽しむものだったということに因んでいます。メンバーはこのアルバムのトリオだけではないようで、デュオからより大きなアンサンブルまでの編成までのレパートリーをこなし、イギリス、北欧諸国等を中心に活動しているとのこと。このアルバムの演奏メンバーは下記の通り。

フォルテピアノ:ブレンダ・ブレウェット(Brenda Blewett)
フルート:パウル・ワールベルク(Paul Wåhlberg)
チェロ:トルレイフ・ホルム(Torleif Holm)

それぞれ検索してもあまり情報が出てきませんので、それほど有名どころではないようです。

Hob.XV:16 Piano Trio (Nr.28/op.59-1) [D] (before 1790)
キビキビと鮮やかなブレンダ・ブレウェットのフォルテピアノのタッチが印象的な入り。フルートのパウル・ワールベルクも音階のキレの良い安定したテクニックの持ち主。そして、チェロのトルレイフ・ホルムもかなり大胆な抑揚をつけた演奏でアンサンブルを支えます。団体名の由来の通り、聴かせるための演奏と言うより演奏している奏者が楽しむアンサンブルとして聴くとこのアルバムの真価がわかります。奏者の意図がパートの掛け合いの面白さ、リズムが重なる面白さ、ハイドンを演奏する喜び表現に集中しているようん聴こえます。もちろんテクニックは十分、アンサンブルの精度も一流の奏者の演奏に引けをとるものではなく素晴らしいもの。ただ、誰かを喜ばせるために演奏するというのではなく、純粋に奏者が音楽を楽しんでいるように聴こえるんですね。「どうだ、すごいでしょ」的感覚ではなく、「ん〜、演奏するのが楽しい」的感覚(笑)。
短調の2楽章も楽章間の対比よりはメロディーに応じた表情付けに意識が集中しているよう。聴いていくうちにこちらも奏者の気持ちになってまるで自分がフレーズに表情をつけに行っているように音楽に没入しているのに気づきます。音楽を非常に身近に感じられます。奏者の意図を知って聴くことで演奏の理解が深まる感じ。
そしてフィナーレでも、表現豊かなフォルテピアノに合わせて、フルートとチェロがいい愚会にカジュアルに重なり、手作り感覚溢れた音楽が流れます。ハイドンの音楽をこれほど身近に等身大で楽しめる感覚ははじめてのもの。録音もセッション録音ながらリアリティがあって、演奏を引き立てます。これこそハイドンのトリオの演奏の真髄ではないかと、いきなり最初の曲から悟った次第。

Hob.XV:15 Piano Trio (Nr.29/op.59-2) [G] (before 1790)
冒頭からフルートの素直な響きの美しさに痺れます。テクニックが先行した風には全く聴こえないのが素晴らしいところ。程よい上手さがここち良いですね。バルトルト・クイケンのような神秘的な静謐さ、パユのような濃厚な甘さなどを感じさせるだけがフルートではないことを教わっているような気分。このちょうど良い感じが貴重なのでしょう。まさにハイドンの音楽にはこうした演奏が相応しいということなのでしょう。フォルテピアノも同様。音色はフォルテピアノそのものですが、楽器は1801年製のJohn Broadwood & Sonのグランド・ピアノ。おそらく以前訪問した浜松市楽器博物館で見てきたものの中に近いものがあるのでしょう。実に華やかないい響きの楽器です。そうした古楽器で聴く、この曲の転調が繰り返される面白さは絶品です。
続くアンダンテは音量が落ちるので、楽器の響きにさらに集中することができます。よく聴くとブレウェットの弾くフォルテピアノのタッチはブラウティハムに似ているかもしれません。表現の幅、テンポの変化を比較的大きくとり、一貫したセンスでまとめていく手腕はなかなか見事。
そしてフィナーレも一貫した表現の幅の中で演奏を楽しみます。終盤フォルテピアノの響きの余韻を繰り返す部分など、ハイドンの意図をくみ取って曲をうまくまとめます。

Hob.XV:17 Piano Trio (Nr.30/op.59-3) [F] (before 1790)
いつもながら見事なハイドンの創意に関心しながら最後の1曲を聴き始めます。前2曲とは全く異なる入りに展開。3人とも楽器をよく鳴らして自然なアンサンブルをさらに豊かに感じさせています。フレーズのそこここにコミカルな印象の部分が組み込まれているので、ホッとする瞬間と、緊張を要する瞬間の織りなす綾のようなコントラストが味わえます。楽器の音色が本来持つ雰囲気を活かすのが上手いハイドンの筆が冴えまくっているのが伝わります。しかもこの曲では程よく力が抜けて大らかな起伏がいい雰囲気。音楽をリラックスして聴くことができます。
いつもながらこの展開には舌をまく2楽章への変化。2楽章で音楽をまとめるアイデアとそれを見事にまとめる演奏。音楽の展開の気配を読み解いてまとめるフォルテピアノの絶妙なフレージングを軸にフルートもチェロも寄り添って、しなやかに演奏が進みます。やはり最後までアンサンブルの演奏を純粋に楽しむような雰囲気は変わらず。最後はきっちりまとまった感を示して終わるあたりも手馴れたもの。いつものように演奏を楽しんだねとでも言いたそうに終わります。

このアルバム、ライナーノーツなどを読まずに最初聴いたときには、取り立てて個性的な演奏でもないことからレビューに取り上げるつもりはなかったんですが、一応演奏者のことなどを調べて見るうちにちょっと興味が湧いてきて、再度聴き治すと、この地味ながらしっかりとした演奏の良さが実にいいと思えてきた次第。このアルバムよりキレのいい演奏はたくさんありますが、ハイドンのトリオとは本来このアルバムのように、身近で演奏して楽しむものということが一番よくわかる演奏というのが私の見立て。最初は[++++]としていましたが、この演奏スタンスを買って[+++++]に修正です。鳥肌が立つような見事な演奏ではありませんが、じっくりと曲の面白さを味わうにはちょうどいいアルバムと言っていいでしょう。こう書くと、これも聴きたくなってくるはずです(笑)、皆さん!

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tag : フルート三重奏曲

トリオ・ヴィエナルテのピアノ三重奏曲集(ハイドン)

久々に湖国JHさんからアルバムの束が届きました。今日はその中からの一枚。

TrioViennarte.jpg
TOWER RECORDS / ローチケHMVicon

トリオ・ヴィエナルテ(Trio Viennarte)の演奏による、ハイドンのピアノ三重奏曲3曲(Hob.XV:27、XV:28、XV:29)を収めたアルバム。収録は2000年4月、旧自由ベルリン放送(現ベルリン=ブランデンブルク放送)第3ホールでのセッション録音。レーベルは独CAMPANELLA Musica。

このアルバム、ジャケットを見ると、手元にあると思って所有盤リストを見てみてもありません。ただし、このジャケットは確かに見覚えがあると思ってCDラックを探してみると、ありました! 実は同じレーベルの別のアルバム。同じような雰囲気のレイアウトでハイドンのモノクロの肖像画をあしらったジャケットゆえ既視感満点。ということで、これまでもいろいろなところで見かけても、手元にあると勘違いして注文もしてこなかったということです。こういうこともありますね。

さて、奏者のトリオ・ヴィエナルテは美人女性3人によるトリオ。いつもながら、それをアイドル路線でアルバムにしてくるのではなく、しっかりとしたプロダクツに仕立ててくるところにレーベルの見識を感じます。ジャケットの扉を開けるとこの写真が。

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この写真はアルバムの内側なので、このアルバムをもし店頭で見かけたとしても見られません。こちらを表にした方が売り上げに貢献したかもしれませんね(笑) メンバーは下記の通り。

ヴァイオリン:ヴェロニカ・シュルツ(Veronika Schulz)
チェロ:ジュリア・シュライフォーゲル(Julia Schreyvogel)
ピアノ:マリア・ロム(Maria Rom)

トリオ・ヴィエナルテは1996年に設立されたトリオ。メンバーは1970年から74年にウィーン生まれで、ウィーンで音楽を学んだ人。ウィーンのコンツェルトハウスで開催された青少年音楽コンクールでのデビューコンサートは非常に高く評価され、その後「若者の表彰台(Podium of Youth)」と題された一連のコンサートはヨーロッパ各国や南アフリカで開催されました。またシャーンドル・ヴェーグ・アカデミーではメナム・プレスラーやアルバン・ベルク四重奏団のメンバーに師事していました。なお、ヴァイオリンのヴェロニカ・シュルツは、ウィーンフィルの首席フルート奏者を長く勤めたウォルフガング・シュルツの娘とのこと。今回調べてみると、ウォルフガング・シュルツは2013年に亡くなっていたんですね。録音はこのアルバムの他にcamerataレーベルにブラームスのピアノトリオがあるくらいで、トリオのウェブサイトも見当たらないことから、現在は活動していないかもしれませんね。

さて、名盤ひしめくピアノトリオであり、しかもハイドン絶頂期の名曲3曲ということで。聴く方もちょっと前のめり気味(笑)

Hob.XV:27 Piano Trio (Nr.43/op.75-1) [C] (1796)
録音は残響が多めですが鮮明。鋭利な刃物で音楽を切り取っているような鮮度抜群な演奏。各パートが火花を散らしながらしのぎを削る感じがまさにライヴのよう。これは好みのタイプです! 各パートの精度はほどほどなんですが、勢いというかエネルギーはものすごいことになっています。マグマが噴出するような熱いエネルギーがほとばしります。この3曲セットの冒頭を飾るアレグロから見事の一言。
続くアンダンテでこのトリオの表現の幅を確認しようとする意図で聴きますが、意外にさりげないさっぱりとしたタッチできます。そうこうするうちにやはりライヴ的な盛り上がりに包まれます。やはりこのトリオ、ライヴ感が信条のようです。極上のライヴを楽しんでいるような至福の境地。
フィナーレも一貫した演奏。特にピアノのマリア・ロムの鮮やかなタッチが印象的。ヴァイオリンのヴェロニカ・シュルツも鮮やかなボウイングでキレの良さを見せつけ、チェロのジュリア・シュライフォーゲルも深みよりキレのタイプ。終盤の盛り上がりの集中度合いも見事なもの。1曲目からノックアウトです。

Hob.XV:28 Piano Trio (Nr.44/op.75-2) [E] (1796)
1曲目とまったく同じくライヴ感満点の演奏。音楽が活き活きと弾みダイナミックに展開します。どこかのパートが目立つということではなくアンサンブルとしてバランスが良く、ハイドンのピアノトリオの理想的な演奏。これは外連味なくキレのいいピアノの功績でしょうか。室内楽としての演奏の完成度が非常に高いということでしょう。耳を澄ますとピアノは早いパッセージをクリアにではなく流れるようなタッチで滑らかに弾いてきますが、それが過度に目立たぬことに貢献しているよう。覇気に満ちたピアノもいいものですが、こうして音楽の骨格を支えるピアノこそバランスの良い演奏の基本ですね。
続くアレグレットは前曲同様さっぱりとした表情で入りますが、その中から慈しみ深さが滲み出てくるような演奏です。ここではピアノの自然ながら彫りが深い美しいタッチが圧倒的な存在感。ヴァイオリンとチェロも寄り添いながら終盤にグッと力が入ります。
前楽章のエネルギーをさらりと受けて再びさっぱりとした入り。落ち着いた演奏からハイドンの終楽章のアイデアに満ちた構成の面白さが浮かび上がります。前曲同様非常に完成度の高いアンサンブル。

Hob.XV:29 Piano Trio (Nr.45/op.75-3) [E flat] (1796)
演奏が安定しているので、曲を存分に楽しむことができます。大波の合間に時計を刻むような瞬間が挟まれる独特の曲想の面白さが浮かび上がります。3人とも各パートの演奏はかなりダイナミックで、それが響きあうように重なり、3人の演奏なのに室内楽を超えるようなダイナミックさに聴こえます。この3曲の中でも格別構成感を感じさせる1楽章が見事に引き締まります。
すっと力を抜いた2楽章の入り。落ち着いた響きがこれまでのエネルギーを覚まし、ハイドンが書いた曲想の展開の面白さを鮮やかに印象付けます。曲の流れを踏まえていい具合に力が抜け続けているのがポイントでしょう。そしてそのまま終楽章に入ります。この3曲の結びのように華麗なメロディーが明るく鳴り響き、それにヴァイオリンとチェロがいい具合に寄り添います。展開部でアーティスティックに振りますが、最後はリラックスして爽やかに終えます。

トリオ・ヴィエナルテによるハイドンの傑作ピアノトリオ集、ライヴ感あふれる見事な演奏でした。際立つのはアンサンブルとしてのまとまりの良さ。全員が腕利き揃いなのに加え、室内楽としての呼吸がピタリと合って絶妙の演奏。セッション録音ながらライヴ収録と言われてもわからないくらいの活き活きとした表情が魅力の演奏です。これはウィーンを同郷とする同世代の女性のトリオだからでしょうか。残念なのはこのアルバムともう一枚のブラームス以外にアルバムがリリースされていないこと。これだけの才能を持つトリオゆえ、ぜひハイドンの録音ももう少し期待したいところです。評価は3曲とも[+++++]と致します。

湖国JHさん、今回もいきなりいいアルバム、ありがとうございます!

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バセットホルン三重奏によるバリトントリオ(ハイドン)

いやいや、珍しいアルバムを見つけました!

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ル・トリオ・ディ・バセット(Le Trio di Bassetto)による、ハイドンのバリトン三重奏曲6曲(Hob.XI:96、XI:97、XI:123のアダージョのみ、XI:65、XI:87、XI:69)を収めたアルバム。収録は2010年3月17日から19日にかけて、フランス東部のストラスブール近郊の街、サルブール(Sarrebourg)の聖ウルリッヒ修道院の講堂(auditorium du couvent de saint ulrich)でのセッション録音。レーベルはharmonia mundi傘下のK617。

このアルバム、amazonでハイドンのピアノ三重奏曲の未入手のアルバムを物色中に発見したもの。なぜかTOWER RECORDSなどでは見かけないアルバムです。

ご存知のとおり、ハイドンは仕えていたニコラウス・エステルハージ候が好んだバリトンと言う不思議な楽器のためにかなりの数の作品を残しており、バリトン・トリオを126曲、バリトン八重奏曲を7曲、バリトン五重奏曲を1曲残しています。バリトンのための曲は何度か取り上げてレビューしています。

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なかでもバリトンという不思議な音色を奏でる楽器のために書かれたトリオを、この不思議な音色の特色を取り除いて曲自体の面白さを浮き彫りにしたのがリンコントロの演奏ですが、今日取り上げるアルバムは、同様の趣旨でしょうか、全てのパートをバセット・ホルンというクラリネットのような楽器で演奏したもの。し、し、しかも演奏にはグラス・ハープ、一般にはグラス・ハーモニカと言われている楽器で演奏しているという、超マニアックな趣向のアルバム。

グラス・ハーモニカといえばモーツァルトが晩年に書いたk.356(617a)グラスハーモニカのためのアダージョが有名ですが、我々想像するグラスハーモニカはテーブルの上に水を入れたワイングラスを並べたもの。ところが、これは正式にはグラスハープと呼ぶそうで、グラスハーモニカとは異なるもの。詳しくはWikipediaをごらんください。

アルモニカ - Wikipedia

今日取り上げるアルバムのレーベル名はK617で、これも曰くありげですね(笑)

さて、奏者のル・トリオ・ディ・バセットはバセットホルン奏者のトリオであるのみならず、全員グラスハープも演奏しているようです。アルバムの中にテーブルに水の入ったワイングラスを並べ、3人がこすっている写真が収められています!

バセットホルン、グラス・ハープ:ジャン=クロード・ヴェイヤン(Jean-Claude Veilhan)
バセットホルン、グラス・ハープ:エリク・ロロ(Éric Lorho)
バセットホルン、グラス・ハープ:ジャン=ルイ・ゴシュ(Jean-Louis Gauch)

バリトンの不可思議な響きをバセットホルンとグラスハープで演奏するという奇妙奇天烈な企画、これが存外に素晴らしい響きを聴かせるんですね。

Hob.XI:96 Divertimento a tre per il pariton, viola e violincello : Baryton Trio [b] (before 1772?, 69-71)
1曲目は有名曲。3楽章構成。冒頭のメロディーは聴き覚えがあります。ちなみに上のバレストラッチ盤を取り出して比較してみましたが、バリトンのカサカサとした音色に弦楽器の織り成す独特の風情に対し、バセットホルン3本による響きは全く異なるものの、まろやかなのに陰のある不可思議な音色はバリトンに引けをとるものではありません。むしろ不可思議度はバリトンの上を行く感じ。これがクラリネットだったら、もっと洗練されているのでしょうが、いい具合に饐えた印象も加わり、味わい深い響きを聴かせます。ハイドンがバリトンのために書いた和音も実に不思議な音の組み合わせが多く、曲が進むにつれて、様々に表情を変えていく様はよく耳を澄ますとまるでラビリンスをさまよっていくよう。穏やかに曲が進みますが、音量はかなりの幅で変化していきます。最初のラルゴからアレグロに変わり、リズミカルにバセットホルンがメロディを刻みます。終楽章はメヌエットですが、いつものようにハイドンの想像力に驚きます。作曲したのはまさにシュトルム・ウント・ドラング期ということで、メロディーの端々に仄暗い気配が漂います。挨拶がわりの1曲目。

Hob.XI:97 Divertimento a tre per il pariton, viola e violincello : Baryton Trio [D] (before 1778, 66?)
つづく曲もバリトン三重奏曲で、こちらも7楽章構成で、録音も多い曲なので聴いたことがある人も多いのではないかと思います。前曲同様バセットホルンの不可思議な響きで再現されますが、前曲とちょっと異なるのが、1楽章からバリトン独特の、開放弦を響かせるところで、コップを叩くようなガラスの音色を加えているところ。これはグラスハープのグラスを叩いているに違いありません。実に奇抜な展開と驚きます。このバセットホルンとグラスハープによる響きがえも言われぬ心地を演出します。
1楽章のアイデアに驚くと、続く2楽章はバセットホルンの実に鮮やかなアンサンブルにハッとさせられます。木管楽器の音色の美しさを極めた演奏。
3楽章は1つ目のメヌエット。ここでもグラスハープを叩く音がそっと添えられバリトンを彷彿とさせます。あまりに巧みなバセットホルンの妙技と、グラス・ハープの織り成す音楽に興味津々。
アイデアはこれだけではありませんでした。つづく4楽章のポロナーゼでは足を踏み鳴らすような音も加わり、ほぼやりたい放題(笑) 音楽は音を楽しむと書くとおり、じつに楽しげな演奏です。
そして、またまた驚かされるのが続く短いアダージョ。ここでこれほど沈んでくるとは思いませんでした。完全に奏者の術中にはまっています。
そして6楽章目はこの曲2つ目のメヌエット。メヌエットが2つあってもアイデアとメロディーが尽きることはありません。そして最後のフィナーレはフーガでまとめてきました。驚かされるばかりの巧みな構成。メロディー、音色、アイデア、構成、演奏の全てが斬新。参りました。

Hob.XI:123 Divertimento a tre per il pariton, viola e violincello : Baryton Trio [G] (before 1778, 72-78)
3曲目はバリトントリオからアダージョのみ抜き出し、こんどは本当にグラスハープのみの演奏。モーツァルトのグラスハーモニカのためのアダージョを彷彿とさせる、繊細なグラスハープの演奏。暑い夏ですが、まるで風鈴で涼を楽しむごとき風流さ。原曲はBrilliantのエステルハージ・アンサンブルの演奏にのみ含まれている希少な曲ゆえ、原曲の印象はあまりなく、純粋にグラスハープの心地よい響きを楽しめます。曲の美しさはモーツァルトに劣るものではありません。モーツァルトの曲は亡くなる年、1791年の作曲で、ハイドンのこの曲は1770年代の作曲ということで、モーツァルトが最晩年に到達した境地にすでにはやくから到達していたのだとでも言いたげな演奏です。

Hob.XI:65 Divertimento a tre per il pariton, viola e violincello : Baryton Trio [G] (1767-68)
再びバセットホルン3本による快活な演奏に戻ります。アレグロ、メヌエット、フィナーレの3楽章構成。快活な導入に、独特なメロディーの面白さで聴かせるメヌエット、爽やかに展開するフィナーレとまさにディヴェルティメントの軽妙な楽しみが詰まったような曲。バリトンの演奏を愛したニコラウス侯の笑顔が目に浮かぶようです。

Hob.XI:87 Divertimento a tre per il pariton, viola e violincello : Baryton Trio [a] (before 1772?, 69-71)
一転してリリカルなメロディーが印象的な曲をもってきました。アダージョ、アレグロ・ディ・モルト、メヌエットという3楽章構成の曲。バセットホルンの音色がさらにイキイキと響き、曲の深い陰影を引き立てます。選曲のセンスも抜群。各パートの重なり合う響きの実に美しいこと。また、メロディーに紛れて微かにバセットホルンのメカニカルキーがパタパタいう音も聴こえて、それがリアリティを増しています。リリカルさを保ちながら、楽章がかわり、テンポが上がり、こちらが予想だにしないメロディーが展開します。いつもながらハイドンの豊富なアイデアに痺れます。そしてフィナーレは落ち着いて畳みにきます。

Hob.XI:69 Divertimento a tre per il pariton, viola e violincello : Baryton Trio [D] (1767-68)
アダージョ・アヴェック・ヴァリエーション、メヌエット、フィナーレという3楽章構成。まるでバセットホルンのために書かれた曲のように自然に響きます。ゆったりとした行進曲のような入り。表情を緩めたり、リズムを強調したり、穏やかさに包まれながらの妙技に惚れ惚れ。バセットホルンがこれほど豊かな表情を表現できるとは知りませんでした。最後の曲で忘れかけていたところにグラスハープが顔を出してコミカルな表情を加えます。バセットホルンも強弱硬軟織り交ぜてあらん限りのテクニックを駆使します。
メヌエットはいつもながらのハイドンのアイデア博覧会のごとき様相。そしてフィナーレはあっけらかんと明るい表情でこのアルバムの締めにふさわしい晴朗な表情で締めます。

これは、驚きのアルバムです。以前バリトントリオの曲をバリトンなしで演奏した、リンコントロのアルバムやウィーン・ベルヴェデーレ三重奏団のアルバムがあり、バリトントリオの独特の音色を取り去って、曲の美しさに焦点を当てたアルバムとして、素晴らしい成果を挙げていましたが、今日取り上げたル・トリオ・ディ・バセットの演奏は、バリトントリオのバリトンの不可思議な響きのイメージを、全く異なるバセットホルンとグラスハープを用いて再構成し、原曲より素晴らしいと思わせる恐ろしい説得力と完成度でまとめてきました。私自身ちょっと衝撃を受けたアルバムです。これは、当ブログ読者の中でも室内楽に造詣の深い諸兄には是非聴いていただかなくてはなりませんね。なぜかamazon以外では見かけませんが、手に入るうちに、この不可思議ながら実に趣深い音楽にふれていただきたいものです。評価はもちろん[+++++]といたします。

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tag : バリトン三重奏曲 古楽器

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なぜかハイドン(Franz Joseph Haydn)が特に気に入り膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。東京在住のごく普通のサラリーマンです。

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