ハインツ・ホリガーのオーボエ協奏曲(伝ハイドン)

暑いので、気楽に聴ける曲です。

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ハインツ・ホリガー(Heinz Holliger)のオーボエ、デヴィッド・ジンマン(David Zinman)指揮のアムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団(Concertgebouw-Orchester, Amsterdam)の演奏で、以前はハイドンの作とされたオーボエ協奏曲(Hob.VIIg:C1)、ロッシーニのオーボエと小オーケストラのための変奏曲、アントン・ライヒャのコール・アングレと管弦楽のための情景、ドニゼッティのコール・アングレ協奏曲の4曲を収めたLP。収録に関する情報は記されていませんが、レーベル面にはPマークが1979年と印刷されています。レーベルはもちろんPHILIPS。

ハイドンのオーボエ協奏曲はハイドン自身が書いたものではないというのはご承知の通りですが、意外にいい曲なのでそれがわかった上でも録音は結構な数がリリースされています。当ブログでもこれまでに3件レビューしています。

2015/04/28 : ハイドン–協奏曲 : 【新着】フランソワ・ルルーのリラ協奏曲、オーボエ協奏曲(ハイドン)
2015/03/23 : ハイドン–協奏曲 : パウルス・ファン・デア・メルヴェ/ヴァントのオーボエ協奏曲(伝ハイドン)
2015/03/22 : ハイドン–協奏曲 : エルネスト・ロンボーのオーボエ協奏曲(伝ハイドン)

オーボエ協奏曲についてはロンボーの記事をご覧ください。ちなみに取り上げた3枚のアルバムはいずれも名演奏。特にオーケストラパートの充実した演奏が印象に残るものでした。

そして、オーボエといえばもちろんハインツ・ホリガー、本命登場です。このアルバムを手に入れたのは昨年でしたが、それまでホリガーにこの曲の録音があることを知りませんでした。しかも、ジンマン指揮のコンセルトヘボウ管による全盛期の蘭PHILIPSの録音ということで言うことありません。ホリガーはモーツァルトのオーボエ協奏曲に素晴らしい演奏を残しています。これはかつての愛聴盤です。

2010/10/14 : ハイドン以外のレビュー : ホリガーのモーツァルトのオーボエ協奏曲

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Concerto per il oboe [C] (Hob.VIIg.C1)
スカッとホールに広がるオーケストラの響き。PHILIPSによるコンセルトヘボウの見事な響きにいきなりうっとり。LPのコンディションも最高で実体感溢れる響きに酔いしれます。さすがにデヴィッド・ジンマンが振るだけあってオーケストラのコントロールは精緻。ホリガーのソロはあの細めながら伸びやかな音色が期待通り。独特のアーティキュレーションによってホリガーの演奏だとすぐにわかります。モーツァルトの演奏でもそうでしたが、この天真爛漫な伸びやかさはホリガーならでは。ソロの伸びやかさに触発されてかどうかわかりませんが、オケの方も超高鮮度の演奏で応えます。スピーカーの周りがコンセルトヘボウになったような見事な録音に思わずヴォリュームを上げて美音を浴びる快感に身をゆだねます。実に克明なオケの演奏に対してオーボエのソロが可憐に飛び回り、天真爛漫な境地に至ります。音色が変化するわけではないのに実に多彩な表情の変化をを見せます。1楽章のカデンツァはホリガーのしなやかな音階が極限まで透明に昇華する見事なもの。1楽章からノックアウト気味です。
続くアンダンテは、ちょっとハイドンによるメロディーとは異なる趣を帯びているように感じますが、メロディーの美しさはモーツァルト的な洗練も感じる名曲。ハイドンだったらもっと多様な展開を絡ませてくるような気がします。ただモーツァルトで孤高の境地を聴かせたホリガーの手にかかると、この曲の美しさを見事に洗練の極致まで持っていきます。ここでもジンマンはホリガーの自在な表現にしっかりと寄り添って、テンポも呼吸も見事に合わせてきます。
フィナーレの入りも絶妙な軽さ。この入りしかないという見事なもの。そしてオケの反応の鮮やかさは神がかったもの。ホリガーは遊びまわるようにテンポを動かし、そして完全に透明な響きに吸い込まれて行くようにメロディーを伸びやかに描き続け、オケとの対話を楽しむよう。最後はオケがキリリと引き締めて終了。

ロッシーニの曲はオペラの1場面のような曲。ロッシーニ独特の明るいメロディーと翳りの交錯が見事に描かれた曲。ホリガーの妙技とオケの反応の鮮やかさがハイドンの曲以上に活きてきます。ライヒャの曲ははじめて聴きますがなかなか味わいのある美しいメロディーが聴きごたえ充分。オーボエよりも渋い音色のコール・アングレもホリガー流に見事に操ります。そしてドニゼッティの曲もオペラの一場面のようなドラマティックなもの。ホリガーのコール・アングレがちょうど歌手のアリアのような存在。もちろん歌手の表現をもうわまわらんとするホリガーの表現力が聴きどころ。B面の3曲は気軽に楽しめるくつろいだ曲ばかりでした。

このアルバム、流石ハインツ・ホリガーという演奏。やはり他の奏者とははっきりと異なるホリガーならではのオーボエの演奏を聴かせます。軽やかさと伸びやかさの表現は他の奏者とは一線を画するところ。そしてデヴィッド・ジンマンの振るアムステルダムコンセルトヘボウ管の伴奏も完璧。何より全盛期のPHILIPSの空気感溢れる素晴らしい録音がこの演奏に華を添えます。ハイドンの評価はもちろん[+++++]とします。

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tag : オーボエ協奏曲 ロッシーニ ライヒャ ドニぜッティ LP

ローズ・マリー・ツァルトナーのピアノ協奏曲、ピアノソナタ(ハイドン)

またまた未知の奏者の演奏です。

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ローズ・マリー・ツァルトナー(Rose Marie Zartner)のピアノ、ウォルフガング・ホフマン(Wolfgang Hofmann)指揮のニュルンベルグ交響楽団(Die Nürnberger Symphoniker)の演奏で、ハイドンのピアノ協奏曲(Hob.XVIII:3)、ピアノソナタ(XVI:20)の2曲を収めたLP。収録の情報は記載されていませんが、ネットを色々調べて見るとリリースは1970年と記載されたサイトを発見しました。レーベルはcolosseum。

このアルバムも最近オークションで手にいれたアルバムです。なんとなくいい雰囲気のジャケットにピンときた次第。

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ピアニストのローズ・マリー・ツァルトナーについては、ジャケット裏面に若き姿の写真があるだけで、ネットにも情報が見つかりません。アルバムについてもこのアルバムを含めて数枚確認できるのみ。ということでこのアルバムがリリースされたであろう1970年代の短期間のみ活動していた人との想像が働きます。
指揮者のウォルフガング・ホフマンは1922年ドイツのカールスルーエ生まれのヴァイオリン奏者、作曲家、指揮者で、若い頃からアーベントロートのもと、ライプツィヒ・ゲヴァントハウスのヴァイオリン奏者として活躍。大戦中は音楽活動を休止したものの1959年から指揮者として活躍し、プファルツ室内管(Kurpfälzischen Kammerorchester)の音楽監督を1987年まで続けたとのこと。また1963年からはカール・リスタンパルトが亡くなった後を受けてザールランド放送室内管(Kammerorchester des Saarländischen Rundfunk)を振るようになり、しばしばテレビに登場したとのこと。晩年はフリーランスの作曲家として活躍し、亡くなったのは2003年でした。

この日本ではほとんど知られていないピアニストと指揮者によるハイドンのピアノ協奏曲、これが実に味わい深い演奏なんです。

Hob.XVIII:3 Concerto per il clavicembalo(l'organo) [F] (1765)
見事に図太い音色のオケの序奏がテンポよく鳴り響きます。奥でホルンが響く奥行きを感じる非常にいい録音。これぞLPの真骨頂。ローズ・マリー・ツァルトナーのピアノはよく磨かれた音色を響かせますが、決して焦らず、オケを鎮めるように落ち着いてゆったりと音を置いていく感じ。ソロがオケを引っ張るようにグイグイ来るのが普通なんでしょうが、ツァルトナーは落ち着き払って典雅な雰囲気を率先して保つ感じ。テクニックの冴えとも解釈のキレとも無縁の落ちいた音楽。ピアノの響きの美しさを優しく表現することに集中しているよう。この曲でこれほどのピアノの穏やかな輝きを聴くのははじめてのこと。火花散らすだけが協奏曲の演奏ではないと諭されているよう。カデンツァでは少しテンポを上げ、指の動きの鮮やかさを聴かせますが、それも非常に落ち着いた演奏で、この典雅さを保ったもの。
続くアダージョはまさに至福の境地。ゆったりとしたオケの伴奏に乗ってツァルトナーのピアノが光り輝きます。ゆっくりと噛みしめるようなツァルトナーのタッチの美しさを存分に味わいます。指揮のホフマンはツァルトナーの引き立て役に徹するようにオケの柔らかな響きを引き出します。ツァルトナーはテンポを変えずに表情が千変万化する魔法のタッチで曲の美しさを浮かび上がらせます。あまりに見事な演奏に息を呑みます。
フィナーレも実にリラックスした演奏。1楽章とは異なりリズムで先導するツァルトナーのタッチの軽やかさ! ちゃんと楽章ごとに聴かせどころを用意していました。これぞハイドンという展開の妙をさらりと聴かせる妙技。最後までピアノの最も美しい響きを保つ見識が素晴らしいですね。フレーズの一つ一つまで磨き抜かれ、オケとの呼吸も絶妙。あまりに華麗な演奏にノックアウトです。

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Hob.XVI:20 Piano Sonata No.33 [c] (1771)
裏面は好きなソナタ。録音の状態は変わらず絶品。美しいピアノの響きが存分に楽しめる録音。リラックスしたツァルトナーの繰り出す音の流れに身を任せます。協奏曲同様、落ち着いたタッチからえも言われぬ芳香が立ちのぼります。起伏をあえて抑えながらサラサラと引き進めるスタイル。微妙なタッチの変化から生まれるフレーズのデリケートな表情の変化に耳を奪われます。この曲に潜む詩情を抑制された美しさに昇華。
好きな2楽章は響きを研ぎ澄ますのではなく、淡々と音を置いてく感じが新鮮。高音ではなく中音域をしっかりと響かせて確かな足取りで曲が進みます。今までのこの曲のイメージとは異なる面にスポットライトを当て、じっくりと曲の良さを描いていくことで、意外に骨太なこの曲の魅力を知った次第。情感を抑えた何か禁欲的な香りがする美しさにうっとり。
目を覚まされるようにくっきりとした3楽章の出だし。かっちりとしたタッチの中にも仄かに雰囲気を感じさせるツァルトナーの演奏。ツァルトナーとしては険しい演奏なのでしょうが、麗人の真剣な視線にも色気を感じるように、ハイドンの締まったフィナーレながら雰囲気のある演奏。1曲のみをゆったりとカッティングしたLPゆえ実にいい響きで演奏を楽しめました。

全く未知のピアニスト、ローズ・マリー・ツァルトナーによる協奏曲とソナタのアルバム。ピアノに詳しい方ならご存知なのかもしれませんが、これだけの演奏する人が今は全く知られていないのが不思議なくらい。特に協奏曲の演奏は絶品と言っていいでしょう。LPのコンディションも良く、素晴らしい演奏を楽しむことができました。また一枚、宝物が増えましたね。評価はもちろん両曲とも[+++++]といたします。

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tag : ピアノ協奏曲XVIII:3 ピアノソナタXVI:20 LP

ダヴィド・ゲリンガス/北ドイツ放送響のチェロ協奏曲2番(ハイドン)

お宝アルバム、見つけました! ディスクユニオンの店頭で見かけたとき、もちろん過呼吸気味(笑)

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ダヴィド・ゲリンガス(David Geringas)のチェロ、ヴォルデマール・ネルソン(Woldemar Nelsson)指揮の北ドイツ放送交響楽団(Das Sinfonieorchester des Norddeutschen Rundfunks)の演奏で、ハイドンのチェロ協奏曲2番、プロコフィエフのチェロ協奏曲Op.132の2曲を収めたLP。収録は1979年7月、ハンブルクにてとだけ記されています。レーベルはeurodisk。

ダヴィド・ゲリンガスといえばチェロの名手。特にハイドンの演奏はどれも素晴らしいもので、当ブログでも色々取り上げています。

2014/07/05 : ハイドン–協奏曲 : ダヴィド・ゲリンガス/チューリンゲン・ヴァイマル室内管のチェロ協奏曲2番(ハイドン)
2014/03/23 : ハイドン–室内楽曲 : ダヴィド・ゲリンガス/エミール・クラインのバリトン二重奏曲集(ハイドン)
2013/11/14 : ハイドン–室内楽曲 : ゲリンガス・バリトン・トリオのバリトン三重奏曲集(ハイドン)
2013/09/14 : ハイドン–協奏曲 : ダヴィド・ゲリンガス/チェコフィルのチェロ協奏曲集

今日取り上げるチェロ協奏曲の2番については、レビューに取り上げた2002年録音のチューリンゲン・ヴァイマル室内管との演奏、1993年録音のチェコフィルとの演奏の2種よりさらに古く1979年の録音。ゲリンガスは1946年生まれということで、33歳という年齢での録音となります。ジャケットに写るゲリンガスの姿も若い! これまでも色々な奏者の演奏を色々聴いてきましたが、後年有名になった奏者の若い頃の録音はおしなべて覇気に溢れた素晴らしい演奏であることが多いですので、今回入手したアルバムも期待すること大であります。

ゲリンガスの略歴についてはチェコフィルとの協奏曲の記事をご参照ください。

指揮者のヴォルデマール・ネルソンははじめて聴く人。1946年、ウクライナやベラルーシ国境に近いロシアのクリンツィ(Klinzy)生まれの指揮者で、1976年に西ドイツに亡命し、以後国際的に活躍した人とのこと。ロシア時代はヴァイオリニストとして中央ロシアのノヴォシビルスク交響楽団で活躍し、その後指揮を学んで、コンドラシンに見出されてモスクワフィルのアシスタント指揮者となり、オイストラフ、ロストロポーヴィチ、クレーメルなどの奏者と共演したり、ペルトやシュニトケと親交を持ったそう。亡命後はこのアルバムのオケである北ドイツ放送響とツアーを行い、西ドイツに定住。それまでオペラを振った経験がないにもかかわらずバイロイトに招かれローエングリンやさまよえるオランダ人を振ったそう。またカラヤンの招きでザルツブルク音楽祭に参加し、ペンデレツキのオペラを初演するなど、日本ではあまり知られていないもののなかなかの経歴の持ち主ですね。亡くなったのは2006年とのことです。

Hob.VIIb:2 Cello Concerto No.2 [D] (1783)
LPのコンディションは最高。柔らかなオケの序奏が心地よく響きます。律儀でオーソドックスなオケの入り。ゲリンガスのチェロはいきなりむせび泣くように入ります。健康的に響くオケに対しちょっと影のある音色で深みを感じさせます。徐々にオケの各パートもゲリンガスの音色に寄り添うようになっていくのが面白いところ。徐々にゲリンガスは深みのある響きを繰り出し、非凡なところを感じさせ始め、特に高音域の独特の輝きが眩しくなってきます。オケの方も純度の高い音色でゲリンガスのソロに呼応。オケは迫力よりは純度というか透明感で聴かせる感じ。これがヴォルデマール・ネルソンのセンスでしょう。中盤からはゲリンガスの美音とのびのびとしたボウイングに釘付け。この若さですでに至芸と言っていいでしょう。常に冷静に室内楽のように精妙にサポートするオケも非常にいい感じ。聴き進むうちにハイドンのめくるめくような名旋律の美しさにのまれるよう。1楽章のカデンツァはゲリンガスの自作。ここにきてゲリンガスの表現意欲が炸裂。糸を引くように美音を重ねて孤高の演奏が続きます。力まずまるで老成した奏者のような自在なボウイングの魅力を聴かせます。なんでしょう、この気高さは。
アダージョは、もはや燻し銀の響きと言っていいでしょう。1楽章では律儀に振っていたネルソンもここではゆったりと深い音楽を創り、ゲリンガスの音楽にスタイルを合わせてきます。ゲリンガスもネルソンも枯淡の境地。この楽章のカデンツァ、深い。オケの響きが消えた後の静寂にゲリンガスのチェロの響きだけが静かに置かれる名演奏。心が鎮まる音楽です。
そしてフィナーレでもオケはしなやかなまま。ゲリンガスのボウイングは力が抜けて魂そのものの音楽のように昇華されていきます。途中からオケが襟を正すように響きがフレッシュになって響きを引き締めることで曲が締まります。最後のカデンツァは音量を落として神がかったような透明感。ゾクゾクします。最後もオケがキリリと締まって曲を終えます。

いやいや絶品。ゲリンガスのこの曲の演奏の中で最もゲリンガスの個性が良く出た演奏と言っていいでしょう。サポートするヴォルデマール・ネルソン指揮の北ドイツ放送響も実に味わい深い演奏で華を添えます。今一度ジャケットに写るゲリンガスの表情を眺めると、ほのかに微笑むような優しい表情でこちらを見つめていますが、その表情にこの演奏の味わい深い響きがオーバーラップして見えるのは私だけでしょうか。若きゲリンガスが世に問うた素晴らしい演奏と言っていいでしょう。これは宝物になりそうです。もちろん評価は[+++++]とします。

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tag : チェロ協奏曲 LP

エーリッヒ・ペンツェル/コレギウム・アウレウムのホルン協奏曲(ハイドン)

久々の協奏曲のアルバム。最近オークションで手に入れたもの。

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エーリッヒ・ペンツェル(Erich Penzel)のホルン、コレギウム・アウレウム(Collegium Aureum)の演奏で、ハイドンのホルン協奏曲(Hob.VIId:3)と、以前はハイドンの作と見做されていた時期もあった、レオポルド・ホフマンのフルート協奏曲の2曲を収めたLP。収録はPマークが1966年との記載。シュツットガルト近郊にあるキルヒハイム(Kirchheim)にあるキルヒハイム城でのセッション録音。レーベルはdeutsche harmonia mundi。

エーリッヒ・ペンツェルは1930年、ライプツィヒに生まれたホルン奏者。ウィルヘルム・クリューガー(Wilhelm Krüger)とアルビン・フレーゼ(Albin Frehse)にホルンを師事し、1949年から1961年まで地元ゲヴァントハウス管のソロホルン奏者、1961年から1972年までケルンの西ドイツ放送交響楽団のホルン奏者を務めた人。また、バイロイト祝祭管のメンバーでもありました。教職ではデルモルト音楽院、ケルン音楽大学、マーストリヒト音楽大学などの教授を歴任し、多くのホルン奏者を育てました。

手元にペンツェルがホルンを吹くアルバムは数枚ありますが、いずれもハイドンの真作ではない曲の演奏。当ブログでも一度、2つのホルンのための協奏曲の演奏を取り上げています。

2011/10/05 : ハイドン–交響曲 : ヘルムート・ミュラー=ブリュール/ケルン室内管弦楽団の交響曲72番等

ということで、ようやく手に入れたハイドンのホルン協奏曲の演奏。名演奏の多い曲ですが、この演奏も負けず劣らず素晴らしいものでした。

Hob.VIId:3 Concerto per il corno [D] (1762)
絶妙のコンディションのLPから湧き出るしなやかなオケの響き。極めてキレの良いリズムで軽快な序奏が転がるように響き渡ります。ペンツェルのホルンはびっくりするほど柔らかく深い音色。オケのリズムのキレに劣らず素晴らしいリズム感で朗々とホルンを吹いていきます。音階の安定感、ハイドン特有の低音の響きの安定感も万全。コレギウム・アウレウムの素晴らしい伴奏に乗って、軽々とホルンを鳴らしていきます。ペンツェルの素晴らしいテクニックに惚れ惚れ。1楽章のカデンツァは音程のジャンプを多用したシンプルなものですが、微塵の揺らぎもない完璧な演奏で締めくくります。
聴きどころのアダージョは、ここでも伴奏のコレギウム・アウレウムのしっとりと濡れているような柔らかなオーケストラの響きだけで昇天しそう。そこにペンツェルの柔らかなホルンが加わってこの世のものとは思えない幸福感に包まれます。そして音程が下がっていくところのホルンの響きは実に自然。これほど美しいホルンの音色は聴いたことがないほど。極上のオケと極上のホルンの織りなす素晴らしい響きに酔いしれます。ハイドンの書いた美しいメロディーが染み渡ります。2楽章のカデンツァもテクニックではなく、美しい響きを楽しませるシンプルなもの。
予想通り落ち着いたフィナーレ。噛みしめるようにじっくりとしたリズムで入るオケに、ここでもペンツェルはさらりと軽やかにホルンの響きを乗せていきます。聴き進むうちにオケが音階をデフォルメする聴きどころを設けてハッとさせられます。実に自然な戯れにほくそ笑みます。最後のカデンツァは乱高下する音階を通してホルンの響きの魅力をじっくりと表現。いやいや素晴らしい演奏にノックアウトです。

ホルン奏者に詳しい訳ではありませんが、エーリッヒ・ペンツェルという人の印象はこのアルバムでしっかりと刻み込まれました。ホルンという楽器は演奏が難しいのはご存知の通りですが、このアルバムでのペンツェルの演奏は神々しささえ感じるほど見事なもの。テクニックは素晴らしいのでしょうが、アクロバティックな印象は皆無で、実に自然で美しい音色を自在に繰り出してきます。ジャケット裏面にはペンツェルがホルンを吹いている写真が掲載されていますが、優に60cmはありそうな円に巻かれたナチュラルホルンを吹く姿。このアルバムの演奏がこのナチュラルホルンだったとしたら超絶的なテクニックなのでしょう。

ふと出会ったアルバムでしたが、またまた宝物を見つけたレベルの名演でした。評価はもちろん[+++++]とします。

B面のハンス=マルティン・リンデのソロによるフルート協奏曲も演奏は絶品です。

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tag : ホルン協奏曲 フルート協奏曲 古楽器 LP

ニキタ・マガロフのピアノ協奏曲XVIII:11(ハイドン)

珍しいアルバムを見つけました。ニキタ・マガロフのピアノ協奏曲です。この触れ込みでギュンター・ヴァントの伴奏のものだろうと思った方はかなりのハイドン通ですが、今回見つけたのはその演奏ではありません。

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ニキタ・マガロフ(Nikita Magaloff)のピアノ、アゴスティーノ・オリツィオ(Agostino Orizio)指揮のブレシア・ベルガモ国際音楽祭室内管弦楽団(Orchestra da Camera del Festival Internationale di Bresia e Bergamo)の演奏で、ハイドンのピアノ協奏曲Hob.XVIII:11とボッケリーニの交響曲ニ短調Op.12-4「悪魔の家(La Casa del Diavolo)」の2曲を収めたアルバム。収録の詳細はこのアルバムには記載されていませんが、ハイドンに関しては同じソースだと思われる別のアルバムには1988年2月21日、ミラノのミラノ音楽院のヴェルディ・ホール(Sala Verdi)でのライヴとの記載があります。レーベルははじめて手に入れる、φωνη fonè。なんと読むのかわかりません(笑)

ニキタ・マガロフのアルバムは少し前に取り上げていて、その気品に溢れた演奏が印象に残っています。

2017/02/18 : ハイドン–ピアノソナタ : ニキタ・マガロフのピアノソナタXVI:48(ハイドン)

前回取り上げたソナタの演奏が1960年とマガロフの壮年期である48歳頃の録音だったのに対し、今回取り上げる協奏曲は亡くなる4年前の76歳頃の録音ということで、時代がかなり下ってからのもの。演奏スタイルがどのように変化したかも興味深いところでしょう。

気になるのは見たことのないレーベルであるφωνη fonè。もう消えてしまったレーベルかと思いきや、バリバリ現役のレーベルでした。

Fonè Records

レーベルは創立30年近くになるクラシックとジャズを主体とする音質にこだわったレーベル。ウェブサイトによると、現在はフィレンツェとピサの間にあるペッチョリ(Peccioli)という田舎町が本拠地のようです。SACDやLPまでリリースしている本格的なレーベルでした。

今日取り上げるアルバムは廃盤のようですが、この録音の1楽章のみ別途リリースされているベスト盤に収録されていますので、自信のある録音ということなのでしょうね。確かに録音にはこだわりを感じます。TELARKのようなダイナミックさを求める録音ではなく演奏のライヴ感を重視した録音。

Hob.XVIII:11 Concerto per il clavicembalo(l'fortepiano) [D] (1784)
いきなり透明感の高いオーケストラの響きが広がります。指揮者のアゴスティーノ・オリツィオは知らない人ですが、オーケストラコントロールはキリリと引き締まったリズムを基調とした堅実でキレもあるもの。オケは迫力十分。驚くのがニキタ・マガロフのピアノの瑞々しさ。落ち着いたテンポで堂々としていながら、キラメキ感に満ちた素晴らしいタッチ。70歳代の演奏ゆえリズムに鈍さを感じるところもなくはないのですが、それを上回る覇気に満ちた演奏。ハイドンの曲を味わいながら演奏しているのがよくわかります。フレーズの一つ一つを丁寧にこなしながら、全体にしっかりとしたエネルギーが込められ、実に気品と風格に溢れた演奏。まるでベートーヴェンを演奏しているような推進力と覇気に圧倒されます。オケの方もマガロフの気合に触発されて輝きを増していきます。名ピアニストの力演を支えよとする、こちらも奏者のエネルギーを感じます。カデンツァでもマガロフの放つオーラにホール中の聴衆が集中していることがわかります。
続くアダージョは力をスッと抜いたオケの伴奏の爽やかさに気を取られているうちにマガロフの磨き抜かれた美音によるメロディーが入ります。特に高音の澄んだ響きの美しさが印象的。老練なタッチから生み出されるしなやかな音楽。マガロフの意を汲んでか、オケが実に情感溢れるいい伴奏を聴かせます。ピアノに劣らず雄弁な伴奏にマガロフも高揚している様子。繰り返しゆったりと訪れる波のような起伏が音楽を心地良いものに感じさせます。そしてとどめはあまり聴いたことのない実に気品に溢れたカデンツァ。マガロフ自身のものでしょうか。
フィナーレは予想通り落ち着いた、そしてじっくりとした演奏。噛みしめるようにピアノとオケが旋律を展開させていきながら、ハイドンのアイデアの変化の面白さを次々と繰り出していきます。それぞれのフレーズに揺るぎない意味が込められていることがよくわかる演奏。ピアノからオケ、オケからピアノへ受け渡されるメロディーの面白さを存分に味わえます。マガロフのピアノのタッチはどんどん冴えてきて最後は鮮やかさで観客を圧倒。最後の音が消えるのを待たずに万雷の拍手に包まれます。

続くボッケリーニもはじめて聴く曲ですが、変化に富んだ奇妙な展開が繰り返される実に興味深い曲。ピアノが入る訳ではないので、オケの力量を示すものですが、こちらも見事なコントロールで拍手喝采。

ニキタ・マガロフの晩年の充実した演奏をたっぷりと楽しめる素晴らしいアルバムでした。堂々とた正統派のピアノの揺るぎない響きがこれほどまでに音楽を活き活きとさせる稀有な事例と言っていいでしょう。このアルバムはネットショップを探しても見当たらないことから既に廃盤かもしれませんので、なかなか入手は難しいかと思いますが、こうしたアルバムこそ、手に入るようにしておく価値がありますね。当ブログがその真価の証を刻んでおくべきでしょう。見かけたら是非入手をおすすめいたします。評価は[+++++]とします。

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tag : ピアノ協奏曲XVIII:11 ライヴ録音

【新着】ヴィヴィアヌ・シャッソのアコーディオンによるピアノ協奏曲集(ハイドン)

今日は変り種なんですが、聴いてびっくり、演奏は驚くべきもの。

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TOWER RECORDS / amazon / ローチケHMVicon

ヴィヴィアヌ・シャッソ(Viviane Chassot) のアコーディオン、バーゼル室内管弦楽団(Kammerorchester Basel)による、ハイドンのピアノ協奏曲など4曲(Hob.XVIII:11、XVIII:4、XVIII:3、XVIII:7)を収めたアルバム。収録は2016年9月19日から21日にかけて、フライブルクとバーゼルのちょうど中間あたりにあるドイツのミュールハイム(Müllheim)にあるマーティン教会(martinskirche)でのセッション録音。レーベルはSONY CLASSICAL。

ハイドンの協奏曲はピアノ、オルガン、ヴァイオリン、チェロ、ホルン、トランペットなど様々な楽器用の曲が作曲されていますが、それぞれ対象の楽器の特性や音色をしっかりと踏まえて書かれており、ソロのメロディーはその楽器でこそといえる響きが存分に活かされたもの。ホルン協奏曲に見られるホルンの低音を聴かせるところなど、まさにそうしたハイドンの周到な筆致の一例です。そうした協奏曲を他の楽器に置き換えて演奏する例は過去にもありました。

鍵盤楽器はオルガン、ハープシコード、フォルテピアノ、ピアノと時代のパースペクティヴを楽しむことができますし、楽器をなかな用意できないリラ・オルガニザータをフルートとオーボエで置き換えたりする例もあります。またピアノ協奏曲をハープで弾くなど、レパートリーの少ない楽器での例などもあります。

今回はピアノ協奏曲とオルガン協奏曲をアコーディオンで演奏するというもの。ハイドンの新譜をチェックしている際にこのアルバムをみかけて、アコーディオンでピアノ協奏曲を演奏するという企画は珍しいもののさして期待もせず、ちょっと美人奏者のルックスに気が緩んでポチりとしましたが、到着して聴いてみてびっくり。アコーディオンという楽器の表現力に驚くばかり。

そもそもアコーディオンは手動でフイゴをコントロールするオルガンのようなものですが、ポイントは2つ。1つは音を出した後に音量を自由に上げ下げできること。アコーディオンといえばピアソラでしょうが、あの多彩な響きはアコーディオンのこの特徴によるものですね。そして今回わかったのがアコーディオンの反応の俊敏さ。オルガンの長いパイプを空気が移動する時間、そして鍵盤からメカニックを通じて弦を打つまでのフリクションにくらべ、アコーディオンの俊敏さは比較にならないほど。このアルバムを聴くと、これまで鍵盤楽器で聴いていた協奏曲とはソロの俊敏さが段違い。鮮やかなメロディーの展開に圧倒されます。もちろん音色は皆さんの想像するアコーディオンの音色であり、ピアノやフォルテピアノとは雰囲気が一変しますが、なによりその俊敏さによって、曲に別の魂が入ったよう。これはすごい。

奏者のヴィヴィアヌ・シャッソは1979年、スイスのチューリッヒ生まれのアコーディオン奏者。12歳からアコーディオンのレッスンを受け、ベルン芸術大学のアコーディオン科に進み、その後様々な賞を受賞。アコーディオンのレパートリー拡大に努めており、デビュー盤はなんとハイドンのソナタ集だったとのことで、すかさず注文! その後ラモーのソナタ集やツィターとのアンサンブルなどの録音があり、このアルバムでメジャーレーベルであるSONY CLASSICALにデビューとのことです。

また、オケはバーゼル室内管ということで、古くはホグクッドの協奏交響曲などの録音によって知られたオケですが、最近では2032年の完結を目指して進められているジョヴァンニ・アントニーニのハイドンの交響曲全集をイル・ジャルディーノ・アルモニコと分担して録音することで知られたオケです。

Hob.XVIII:11 Concerto per il clavicembalo(l'fortepiano) [D] (1784)
序奏は快速テンポで爽やかそのもの。指揮者は置いていませんが、見事な入りに期待が高まります。普段はピアノかフォルテピアノで聴くソロは、アコーディオン独特の音色で置き換えられますが、最初に書いたように、あまりに俊敏な反応にのけ反らんばかり。ピアノやフォルテピアノとは反応速度が全く異なります。オケが快速なのに合わせて、それを上回る俊敏さでソロがグイグイきます。しかも音量のコントロールもダイナミックに変えてきて、うねるように音量を変えてきます。あまりに鮮やかなタッチに楽器の音色の違いが気になるどころか、鮮やかな音色に圧倒されっぱなしの1楽章です。終盤に至るまでに幾度かの波を超えているので、すでに違和感はありません。カデンツァはアコーディオン独特のタッチによりだいぶスッキリとしたもので、聴いているうちに哀愁に包まれる見事なもの。
続く2楽章も入りは序奏の滑らかさが印象的ですが、ソロが入るとアコーディオン独特の音色と俊敏な反応に釘付けになります。聞き進むうちに中盤のアクセントの鮮やかさにさらに釘付け! さすがに自身でフイゴのコントロールをしているだけのことはあります。アコーディオンの音色には慣れてきましたが、俊敏な反応には唸りっぱなしです。やはりカデンツァはアコーディオン独特の世界に入ります。
フィナーレは前2楽章以上に反応の鮮やかさが際立ちます。ソロに触発されて、オケの反応も異次元のレベルに。協奏曲だけにオケの方もソロの勢いに負けじと感覚が冴え渡って火花が散ります。そしてその刺激がソロに戻り、アコーディオンを操るシャッツにも戻って刺激が刺激を呼ぶ展開。あまりに鮮やかな展開に驚くばかり!

Hob.XVIII:4 Concerto per il clavicembalo(l'fortepiano) [G] (c.1770)
1曲目で完全にペースを掴まれ、すでにノックアウト気味。何気にオケの方もソロとは関係なく異常に興奮した感覚を保ち、序奏からソロに宣戦布告する始末。もう冴えまくった感覚を競い合うようなシャープな応酬に唖然とするばかり。聴き慣れた曲が鮮やかに蘇り、まるで初めて聴くような新鮮な響きで迫ってきます。ソロのないところでもオケに魂が乗り移っているよう。中間の展開部に入って以降、さらに2段ロケットに点火したような冴え方。もはや鮮やかさを通り越して別の曲を聴くような感覚に陥ります。この曲のカデンツァのキレはもはや神業のレベル。もともとアコーディオンのためにこの曲が書かれたのかと錯覚するほど。
2楽章はアダージョ・カンタービレ。穏やかな序奏が終わると、まるで中世の宗教音楽のような響きに今度は鳥肌が立つような思い。俊敏さだけではなく、こうした繊細な音色の感覚も持ち合わせていました。不思議な音色に包まれ、峻厳な雰囲気に一変します。アコーディオンという楽器の可能性を感じる楽章。
フィナーレは息を吹き返したようにオケとアコーディオンが乱舞。速いパッセージの音階のキレは他のどの楽器よりも鮮やか。この異次元の鮮やかさがキレまくり、ハイドンの書いたフィナーレのキレ味を飾ります。最後のカデンツァで我々の想像の彼方に行ってしまうことも忘れません(笑) こんなに高い音が出るんですね。

Hob.XVIII:3 Concerto per il clavicembalo(l'organo) [F] (1765)
次はどんな球が飛んでくるのドキドキしながら聴き始めます。すでに原曲がピアノやフォルテピアノのために書かれたことを忘れそうなほどアコーディオンの印象が刷り込まれてしまいました。軽やかな音階にキレ味鋭いアクセント、そしてグッと力むアクセントの連続攻撃にヘロヘロ。この曲ではソロもオケも少し力を抜いたような部分がさらに加わり、完全にペースを握られます。今更ながら同じメロディーからこれほど多彩な表情が生まれることに驚くばかり。アコーディオンという楽器の表現力に驚きます。めくるめくような展開の連続にすでにトランス状態に。音楽が脳にもたらす刺激としては最強の部類ですね。
2楽章は前曲同様、俊敏さではなく抑えた音色の冴えで聴かせる楽章。一定のテンポで訥々と進めていきますが、それでもアコーディオンという楽器の魅力がジワリと伝わります。ヴィヴィアヌ・シャッソという人、テクニックのみならず、音色に関する類い稀な感覚の持ち主と見ました。
フィナーレはこれまでの曲同様、鮮やかにまとめます。

Hob.XVIII:7 Concerto per il clavicembalo(l'organo) [F] (before 1766,1760?)
最後はオルガンのために書かれた曲。フォルテピアノよりもオルガンの方がアコーディオンと音色が近いですが、これまでオルガンで聴いてきた曲でも、これまでの演奏の印象が完全に塗り替えられるほどのインパクトがあります。オケの方も重厚なオルガンとの掛け合いではなく俊敏すぎるアコーディオン相手ということで、前曲までと同様冴えまくった状態で迎え撃ちます。もちろんオルガンの方が絶対音量は上でしょうが、強弱のダイナミクスはアコーディオンに分があり、それが大きな違いを生んでいます。鮮やかに吹き抜けるソロの印象が曲を支配します。
これまでの曲の緩徐楽章とは雰囲気が異なり、アコーディオンがオルガンを再現するような演奏になります。この変化の幅を聴かせるために最後にこの曲を持ってきたのでしょうか。最後までオルガン然とした演奏を保つ見識を持ち合わせているんですね。
そしてフィナーレも、これまでと異なるアプローチ。もちろんキレ味は変わらないんですが、オルガンの音色を意識しているようで、弾け飛ぶような展開には至らず。いやいやこの辺りのアプローチにはシャッソのこだわりを感じます。見事。

冒頭に書いた通り、何気なく手にいれたアルバムでしたが、これは驚きの素晴らしい出来。ハイドンの協奏曲のアルバムの中でも特別な一枚と言っていいでしょう。これまでピアノやフォルテピアノなどで聴いてきた曲が、初めからアコーディオンのために書かれたような説得力を持った演奏です。テクニックはもとより、曲ごとに演奏スタイルもしっかりと考えて演奏しており、ヴィヴィアヌ・シャッツという人の音楽性も類い稀なものです。このアルバム、すべての人に聴いていただく価値がある名盤と言っていいでしょう。評価は全曲[+++++]とします。

このアルバムの記事を書きかけたところで、カンブルランのコンサートに出かけたため、途中のままコンサートの記事を先にアップしたところ別記事のコメントにこのアルバムの凄さを知らせていただく書き込みがありました。いやいや、書いている最中にその記事を予測されたという展開に驚きました(笑)

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ファイ/シュリアバッハ室内管のピアノ協奏曲集(ハイドン)

当ブログの読者の皆さまならご存知の通り、トーマス・ファイが倒れる前に録音した交響曲のアルバムのリリース予告されています。予定のリリース日から少し遅れているようですが、そろそろ来るのではないかと心待ちにしております。そのファイのハイドンのアルバムは全て手元にあると思っていたのですが、意外に盲点があり、このアルバムが未入手だと最近気づき、あわてて注文した次第。新たなアルバムが到着するまで、こちらでしのぎます(笑)

FeyZitterbart.jpg
TOWER RECORDS / amazon / ローチケHMVicon

ゲリット・ツィッターバルト(Gerrit Zitterbart)のピアノ、トーマス・ファイ(Thomas Fey)指揮のシュリアバッハ室内管弦楽団(Schlierbacher Kammerorchester)の演奏で、ハイドンのピアノ協奏曲3曲(Hob.XVIII:3、XVIII:4、XVIII:11)を収めたアルバム。収録は1999年6月、フランクフルトのフェステブルク教会でのセッション録音。レーベルは独hänssler CLASSICS。

トーマス・ファイの振るハイドンの交響曲のシリーズですが、これまで取り上げた回数は10記事にもなります。

2014/08/18 : ハイドン–交響曲 : 【新着】トーマス・ファイ/ハイデルベルク響のの98番、太鼓連打(ハイドン)
2013/12/01 : ハイドン–交響曲 : 【新着】トーマス・ファイの交響曲99番,軍隊(ハイドン)
2013/04/12 : ハイドン–交響曲 : 【新着】トーマス・ファイ/ハイデルベルク響のラメンタチオーネ他
2012/11/20 : ハイドン–交響曲 : 【新着】トーマス・ファイ/ハイデルベルク交響楽団の交響曲1番他、爆速!
2012/07/08 : ハイドン–交響曲 : トーマス・ファイ/ハイデルベルク交響楽団の90番、オックスフォード
2012/06/11 : ハイドン–交響曲 : トーマス・ファイ/ハイデルベルグ交響楽団のマリア・テレジア、56番
2012/05/03 : ハイドン–交響曲 : トーマス・ファイ/シュリアバッハ室内管の「時の移ろい」「告別」
2011/07/06 : ハイドン–交響曲 : 【新着】トーマス・ファイの「帝国」、54番
2010/12/26 : ハイドン–協奏曲 : 【新着】トーマス・ファイのホルン協奏曲、ホルン信号
2010/08/01 : ハイドン–交響曲 : トーマス・ファイの69番、86番、87番

オケに着目すると、これまでリリースされた22枚のうち、第2巻が今日取り上げるアルバムと同じシュリアバッハ室内管である他はすべてハイデルベルク交響楽団。ハイデルベルク交響楽団の前身がシュリアバッハ室内管ということで、録音時期が1999年以降のアルバムからハイデルベルク響になっているという感じです。ということで、この協奏曲のアルバムは交響曲シリーズの第2巻の「告別」「時の移ろい」を収めたアルバムとともにファイのハイドンの録音の最初期のものということになります。ちなみアルバムの番号を比べてみるとこちらが98.354なのに対し、交響曲の第2巻の方は98.357と若干後。ということでもしかしたら、このアルバムがファイのハイドンの最初の録音ということかもしれませんね。そういった意味でも非常に興味深いアルバムです。

ピアノのソロはゲリット・ツィッターバルト、初めて聴く人かと思いきや、調べてみるとアベッグ・トリオのピアノを担当する人でした。1952年、ドイツのゲッティンゲン(Göttingen)に生まれ、カール・エンゲル、ハンス・ライグラフ、カール・ゼーマンら高名なピアニストに師事し、ドイツ音楽カウンシルのサポートを受けて若手芸術家のためのコンサートシリーズなどに出演。その後いくつかのコンクールで優勝してヨーロッパ各国で活躍するようになりました。1976年にアベッグ・トリオを設立後は室内楽の分野で活躍しています。ファイとはハイドンの前にモーツァルトのピアノ協奏曲の録音があり、ファイのお気に入りのピアニストだったのでしょう。

Hob.XVIII:3 Concerto per il clavicembalo(l'organo) [F] (1765)
ファイの演奏の記憶と比べると随分オーソドックスな伴奏の入り。オケは適度にリズミカルで快活。なんとなくこれからキレキレになりそうな予感を感じさせながらも穏やかさを保ちます。ツィッターバルトのピアノはファイのスタイルをピアノに移したように、適度なコントラストをつけながらクリアにリズムを刻んでいきます。オケもピアノもそこここにキラリと光る輝きがあり、ハイドンの晴朗な曲を爽快さ満点で描いていきます。まるでリズムに戯れて遊んでいるよう。凡庸さは全くなくフレーズの隅々まで閃きに満ちており、これに後年キレがくわわっていったわけですね。ツィッターバルトもかなり表現力。特に高音の抜けるような軽やかさを聴かせどころにして縦横無尽に鍵盤上を走り回る感じがこの曲にぴったり。カデンツァに入るところくらいから、ちょっとスイッチが入り表現意欲に火がつきましたね。
2楽章はラルゴ・カンタービレ。スイッチの入ったツィッターバルトは冒頭からタッチが冴え渡ります。ピアノの美しいメロディーをシンプルな伴奏で支え、ファイもここはツィッターバルトの引き立て役に徹します。このさりげないメロディーの美しさこそハイドンの真骨頂。絶品です。
フィナーレで攻守交代。ツィッターバルトのタッチのキレは変わらないのですが、今度はファイがこれまで抑えていた才気が解き放たれたように自在にオケを操り、とくにコントラバスの鋭いアクセントをかませながらテンポを上げ、ピアノを煽ります。火花散るようなデッドヒートを繰り広げながらも戯れて遊ぶような余裕があります。いやいや、この頃からキレていますね。

Hob.XVIII:4 Concerto per il clavicembalo(l'fortepiano) [G] (c.1770)
もうだめです(笑) 完全にファイのペースに引きこまれました。ゾクゾクするような序奏の入りもファイならではのアイデア満載です。ハイドンの書いた曲が完全にファイ流に再構成され、冒頭から冴え渡るリズム感。オケも様々に趣向を凝らしているんですが、ツィッターバルトのピアノもそれに呼応して軽やかさが際立つタッチで応じます。アクセントのつけ方がこれまでの演奏とは全くアプローチが異なり、スリリングさ満点。微妙にテンポを上げ下げしたり、アクセントの変化をつけたりといろいろやりますが、全てが痛快にハマって気持ちのいいことといったらありません。この曲ではカデンツァは時代もスタイルも超えてやりたい放題。ここまでやると逆に吹っ切れていいですね。
続く2楽章は、弱音器付きの弦楽器の潤いをあえて廃した抑えた序奏から入り、ツィッターバルトのピアノの雄弁さに主役を譲ります。あっさりとした伴奏がかえって深みをもたらしているよう。やはりファイは只者ではありません。
フィナーレはこれも痛快なほどの速さでめくるめくように音階の上下を繰り返しながらキレよく曲をまとめていきます。終盤、突然ぐっとテンポを落とすことでカデンツァを引き立たせるあたりの演出は流石です。キレキレで終了。

Hob.XVIII:11 Concerto per il clavicembalo(l'fortepiano) [D] (1784)
最後は有名曲。どうくるかと身構えていると、それをひるがえすようにオーソドックスに入ります。ただし、伴奏の各パートのアクセントのつけ方はファイならではのもので、聴いているうちにどんどんスリリングになっていきます。気づいてみると速めのテンポでグイグイ攻めるファイペース。一貫してトレモロのようにさざめくような音色に乗りながら寄せては返す波のように音楽の波が襲ってきます。これぞファイマジック!
続く2楽章はあえて表情を抑えて曲自体に語らせる大人な対応。この緩徐楽章を一貫して抑え気味にしてくることで、どの曲も両端楽章の冴え方が際立つわけですね。
フィナーレは予想どおり快速テンポで痛快なアクセント連発。ツィッターバルトのピアノもよくぞこれほど指が回ると驚くほどのめくるめくような冴え方。ファイとの呼吸もピタリで、大胆なデフォルメをそこここに散りばめ、もはや溶けてバターになっちゃいそう(ちびくろサンボ!) やはり只者ではありませんね。

ファイの最初期のハイドンの録音であるこのアルバムですが、すでにファイの魅力が満ち溢れていました。この録音のあとに22巻までつづく、いや、今度23巻がリリースされようとしている交響曲全集の録音が始まったわけです。この1枚を聴くだけでもファイの類い稀な才能がよくわかります。ピアノのゲリット・ツィッターバルトもファイと共通する音楽性を持った人で、ピアノもキレキレ。ファイのハイドンの原点たるこのアルバムの出来がその後の交響曲の録音を決定したことがよくわかりました。もちろん評価は全曲[+++++]とします。

さて、ファイの新譜はいつ手元につきますやら。ますます楽しみです。

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エリザベス・ウォルフィッシュのヴァイオリン協奏曲など(ハイドン)

ようやくCDに戻ります。最近手に入れた協奏曲のアルバム。これもいい。

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TOWER RECORDS(別装丁盤) / amazon / amazon(別装丁盤) / ローチケHMVicon(別装丁盤)

エリザベス・ウォルフィッシュ(Elizabeth Wallfisch)の指揮とヴァイオリン、エイジ・オブ・エンライトゥンメント管弦楽団の演奏による、ハイドンの協奏交響曲、ヴァイオリン協奏曲2曲(Hob.VIIa:4、VIIa:1)の3曲を収めたアルバム。収録は1990年2月、ロンドンのアビーロードスタジオの第1スタジオでのセッション録音。レーベルは英Virgin classics。

このアルバム、リリースされたのはだいぶ前のものですが、コレクションの穴になっていたもの。最近その存在に気づき入手しました。ジャケットのデザインが同じくVirginからリリースされているクイケン指揮のエイジ・オブ・エンライトゥンメント管によるパリセットとテイストが似ていて懐かしい感じ。クイケンのハイドンの交響曲はVirginからいろいろリリースされているのですが、他は手兵のラ・プティット・バンドでパリセットだけがエイジ・オブ・エンライトゥンメント管なんですね。しかもパリセットが抜群にいい出来だった上に録音時期も同じ頃のもということで、エイジ・オブ・エンライトゥンメント管のこの頃の演奏は悪かろうはずもないとの期待で入手です。

指揮とヴァイオリンのエリザベス・ウォルフィッシュについて、簡単にさらっておきましょう。

エリザベス・ウォルフィッシュは1952年オーストラリア生まれの古楽器ヴァイオリン奏者。12歳でABC(オーストラリア放送)のコンクールでデビュー。ロンドンの王立音楽アカデミーで学び、いくつかのコンクールで優勝して頭角を現しました。1974年にはカール・フレッシュコンクールで入賞し、ソリストとしてや、ロンドン・モーツァルト・プレイヤーズ、王立リヴァプール・フィルなどのオケのリーダーとして主にイギリスで活躍したとのこと。その後は古楽器奏者として活躍しており、このアルバムのオケであるエイジ・オブ・エンライトゥンメント管やハノーヴァー・バンドなどのリーダーを務めるとともに、祖国オーストラリアでもオーストラリア室内管、オーストラリア・ブランデンブルク管などのリーダーとして活躍。近年は教職にあり、王立ハーグ音楽院やロンドンの王立音楽アカデミーでバロック・ヴァイオリンを教えているとのことです。

さて、肝心の演奏ですが、ソロとオケが一体となって溶け合う素晴らしい演奏でした。

Hob.I:105 Sinfonia Concertante 協奏交響曲 [B] (No.105) (1792)
こちらのヴァイオリン以外のソロは次のとおり。

チェロ:デヴィド・ワトキン(David Watkin)
オーボエ:アンソニー・ロブソン(Anthony Robson)
バスーン:フェリックス・ワーノック(Felix Warnock)

この曲の優雅な入りの雰囲気が実にいい。古楽器オケですが響きが溶け合い、厚みもある聴きやすい録音。自然な定位感が心地よいですね。アビーロードスタジオの録音は何気にいい録音が多いんですね。ヴァイオリンをはじめとするソロ4人はことさら自己主張することもなく自然な演奏で、この曲を聴かせどころを踏まえているよう。特にヴァイオリンとオーボエの音色の美しさが一歩抜けている感じ。オケは非常にリズム感がよく、曲がいきいきと流れ、ソロも演奏しやすそう。ソロの間のメロディーの受け渡しの面白さと、ソロ陣とオケの呼応の双方の面白さに自然に酔える演奏。カデンツァも実に素直な演奏。祝祭感満点の1楽章を存分に楽しめます。
2楽章に入るとオーボエの妙技にヴァイオリンやチェロが寄り添い、メロディーを引き継いでいく手作りの素朴な音楽楽しみに包まれます。そして終楽章はソロとオケのスリリングな掛け合いが聴きどころですが、ソロもオケも実にリズム感がよく、ウォルフィッシュがそろだけでなくオーケストラコントロール能力でも類い稀な力をもっていることがわかります。ヴァイオリンも表現は控えめながらそつなく美音を聴かせます。この曲ではソロのバランスが悪いと流れが悪く聴こえてしまいますが、そうした心配も微塵もなく安定感抜群。オケが軽々と吹き上がる快感。これぞハイドン!

Hob.VIIa:4 Violin Concerto [G] (c.1765/70)
今度はヴァイオリン協奏曲ですが、一聴して以前高評価だったマルク・デストリュベ盤に非常に似たタイプの演奏。デストリュベ盤ではデストリュベのヴァイオリンの妙技も聴きどころだったんですが、いい意味でこちらはソロとオケの一体感が聴きどころ。ウォルフィッシュのヴァイオリンは上手いんですが、オケに溶け込むような上手さ。これはこれで非常にいい感じです。ソロもオケも非常に美しい音色で心地よさ満点。美音に癒されます。ウォルフィッシュはソリストでもありますが、オケのリーダーとしての役割りを踏まえたソリストといった立ち位置でしょう。オケの音色の調和を重視しソロの個性は少し弱める独特のバランス感覚ですね。どう個性を表現しようかというソロが多い中、逆に非常に新鮮に感じます。
その良さが光るのが続く2楽章。この演奏はハイドンのヴァイオリン協奏曲のアダージョ楽章の美しさをもっともいい形で表現した演奏の一つと言っていいでしょう。ソロとオケの素晴らしい一体感からハイドンの曲の美しさが素直に浮かび上がります。純粋無垢なヴァイオリンのメロディーが折り目正しく踊り、華やかさをふりまいていきます。
フィナーレは躍動感とキレが折り目正しく穏やかなテイストにまとまった秀逸なもの。古典期の曲にふさわしい器の中でスリリングさや起伏、変化を聴かせる実に座りのいいもの。ハイドンの協奏曲の理想的な演奏と言っていいでしょう。

Hob.VIIa:1 Violin Concerto [C] (c.1765)
ヴァイオリン協奏曲をもう1曲。普通はこちらを先にまわす曲順が多いんですが、こちらの方がメロディーが明快で明るく聴き映えがするということで最後にもってきたのでしょう。前曲以上にソロもオケもキレていて申し分なし。1楽章の晴朗な展開、2楽章の癒しに満ちた絶妙な美しさ、3楽章のそよ風のようなヴァイオリンのボウイングということなし。こればかりは聴いていただかなくてはわからないでしょう。

エリザベス・ウォルフィッシュの振る、エイジ・オブ・エンライトゥンメント管による協奏曲集ですが、これは名盤です。ソロもオケも隅々までウォルフィッシュのコントロールが行き渡り、リズミカルに音楽が弾みます。ハイドンの曲の楽しさ、美しさ、センスの良さが全てつまった演奏と言っていいでしょう。オケのエイジ・オブ・エンライトゥンメント管は非常に反応がよく、ハイドンの音楽のツボを完全に掌握。やはりハイドンのヴァイオリン協奏曲はモーツァルトの曲以上に魅力がありますね。評価はもちろん全曲[+++++]とします。

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【新着】クレメンス・ハーゲン/1B1室内管のチェロ協奏曲(ハイドン)

このところ意識して新着アルバムを聴いています。今日は久しぶりのコンチェルト。

ClemensHagenVCC.jpg
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クレメンス・ハーゲン(Clemens Hagen)のチェロ、ヤン・ビョーランゲル(Jan Bjøranger)指揮の1B1室内管弦楽団の演奏で、ハイドンのチェロ協奏曲1番、モーツァルトの協奏交響曲(K.364)の2曲を収めたアルバム。ハイドンの収録は2016年2月15日から17日にかけて、ノルウェーの南西端に近いスタヴァンゲル(Stavanger)のコンサートホールのファーティン・ヴァーレンホールでのセッション録音。

チェリストのクレメンス・ハーゲンは、ご存知4人兄弟のハーゲン四重奏団のチェロ奏者。1966年ザルツブルク生まれで、ザルツブルクのモーツァルテウム音楽院でハインリッヒ・シフらにチェロを学びます。ハーゲン四重奏団の他にクレーメルのクレメラータ・ムジカに定期的に出演しているそう。ソリストとしても世界の有名オケとの共演も多く、室内楽だけでなくソリストとしても活躍しているようですね。1989年以降はザルツブルク・モーツァルテウム音楽院でチェロと室内楽を教えています。

このアルバム、チェロをハーゲン四重奏団のクレメンス・ハーゲンが弾いているということで手に入れたものですが、よく見てみると、オケは1B1という不思議な名前のオケで、しかも本拠地はノルウェーのはずれにあるスタヴァンゲルという港町という超ローカルなアルバムでした。

スタヴァンゲルについてWikipediaなどで調べてみると、北海沿岸に位置しており、北海油田に近いことから石油産業や魚の缶詰工場などが主産業の町。人口12万人と小さな町ですが、このアルバムの録音されたスタヴァンゲルコンサートホールは非常に立派な建物。

Stavanger Konserthus

またそのホールの名前になっているファーティン・ヴァーレン(Fartein Valen)はこのスタヴァンゲルに生まれた作曲家の名前とのこと。そしてオケの1B1という不思議な名前ですが、このオケの本拠地の住所であるBjergsted 1(ビェルグステ1番地)からとったもので、設立時はEnsemble Bjergsted 1(EnB1)と名乗っていたそうですが、それが現在は1B1となっているということです。Googleマップでその住所を調べてみると、スタヴァンゲルコンサートホールに隣接する公園の中の建物。ここが本拠地なんですね。2008年にスタヴァンゲルがヨーロッパ文化の首都に選ばれたのを契機に設立され、メンバーはスタヴァンゲル大学の教師、優秀な学生、スタヴァンゲル交響楽団の団員などとのこと。

スタヴァンゲルを単なる単なる田舎町と思い込んで超ローカルと紹介しましたが、ヨーロッパ文化の首都とみなされるほど文化に力を入れているのは、おそらく石油産業で豊かな財政から文化に投資し続けてきた成果だと思われます。地理的にはかなりの僻地ながら、人口12万人の町にしては超立派なホールがあり、そして、驚くほどレベルの高いオーケストラがある理由がなんとなくわかってきました。

このアルバム、チェロもいいのですが、恐ろしくキレのいいオケも聴きどころです。

Hob.VIIb:1 Cello Concerto No.1 [C] (1765-7)
冒頭から非常にフレッシュなオケの序奏に驚きます。ノンヴィブラートのオケ特有の鮮度の高い透き通るような響き。ただでさえ晴朗なハ長調のハイドンのコンチェルトが、抜けるような青空のもと、くっきりと浮かび上がるよう。そしてクレメンス・ハーゲンのチェロもテンポよく溜めることなくサラサラと進みます。楽器は1698年作のストラディヴァリウスとあって、響きの余韻も絶品。なんとなくこの清々しい演奏にノルウェーらしい印象を感じるのは私だけでしょうか。ソロもオケも演奏自体は非常にオーソドックスながら、鮮度抜群に聴こえるところがすごいところ。リズムのあまりのキレの良さがそう聴こえさせます。クレメンス・ハーゲンはあまり冒険はせず、楽譜に忠実にメロディーを奏でていき、オケも誠実そのもの。よく聴くとオケのアクセントのキレの良さもフレッシュな印象を強くしていますね。カデンツァはノルウェーの作曲家でヴァイオリニストのヘニング・クラッゲルード(Henning Kraggerud)のもの。古典のハイドンの良さに現代音楽のような精妙な響きをちりばめた、なかなか深い音楽。もちろん技巧を尽くした部分もありますが、それほどアクロバティックなものではなくよくまとまっています。
続くアダージョは美しいメロディーの宝庫。キレの良いソロとオケを活かして速めに来るかと思いきや、じっくりとテンポを落とす正攻法できました。ゆったりとリラックスした音楽が流れます。丁寧にフレーズを膨らまし、そして弱音部にも緊張感が張りつめる素晴らしい演奏。クレメンス・ハーゲンも見事な弱音のコントロールで精妙かつ美しいメロディーが妖艶に輝きます。特にチェロの高音を意識的に鳴かせる訳ではなく、バランス良いボウイング。2楽章のカデンツァも前楽章同様ヘニング・クラッゲルードのもので、今度は低音弦の美しい響きを聴かせる、こちらもなかなかのもの。
そして、絶品なのがフィナーレ。これほどさわやかな入りはなかなか聴けません。チェロのキレの良さはご想像通りだと思いますが、オケがまことに素晴らしい。まるで本当のそよ風のような軽さを感じさせる見事なもの。ライナーノーツの写真を見るとメンバーは若手中心ですが、速いパッセージの切れ味と響きのクリアさは素晴らしい。欧米の一流オケでもなかなかこうはいきません。

この後のモーツァルトのヴァイオリンとヴィオラのための協奏交響曲ですが、こちらも見事。ソロは1B1の音楽監督であるヤン・ビョーランゲルのヴァイオリンに、ラーシュ・アネシュ・トムテルのヴィオラ。オーソドックスながらキレ味抜群の演奏でモーツァルトの名曲がいきいきと浮かび上がります。

ノルウェーのスタヴァンゲルという町のオケによるハイドンとモーツァルトのコンチェルト。さすがにヨーロッパ文化の首都に選ばれただけのことはある、非常にレベルの高い演奏でした。ハイドンのハ長調協奏曲はこれまで名盤がたくさんありますが、オーソドックスな新しい演奏のファーストチョイスとしてもいいレベルの素晴らしさ。この演奏によってハイドンのこの曲の素晴らしさを再認識しました。もちろん評価は[+++++]。こうなるとどうしてもこのコンビでニ長調の方も聴いてみたくなりますね。文句なしのオススメ盤です!

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エミール・ギレリスのピアノ協奏曲Hob.XVIII:11(ハイドン)

ピアノの演奏が続きますが、今日はヒストリカルなもの。

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エミール・ギレリス(Emil Gilels)のピアノ、ルドルフ・バルシャイ(Rudorf Barshai)指揮のモスクワ室内管弦楽団(Moscow Chamber Orchestra)の演奏で、ハイドンのピアノ協奏曲(Hob.XVIII:11)、モーツァルトのピアノ協奏曲21番(KV.467)の2曲を収めたLP。収録情報は記載されていませんが、ネットでギレリスのディスコグラフィを調べて見ると1959年の1月とのこと。レーベルはМелодия(Melodiya)。

このアルバムも先日オークションで手に入れたもの。もちろんギレリスのピアノがお目当てでした。エミール・ギレリスはみなさん良くご存知でしょう。あまりハイドンを演奏する人とのイメージはありませんが、数少ない録音のうち、当ブログでも2枚ほど取り上げています。

2015/10/29 : ハイドン–ピアノソナタ : エミール・ギレリスのXVI:20 1962年ライヴ(ハイドン)
2011/11/08 : ハイドン–室内楽曲 : ギレリス/コーガン/ロストロポーヴィチのピアノ三重奏曲

いずれもギレリスの「鋼鉄のタッチ」によってハイドンの音楽が揺るぎない格調高さを聴かせる名演奏。1950年代のギレリスの素晴らしさは深く記憶に刻まれておりますので、今日取り上げるアルバムを見つけるや否や迷わず入手した次第。早速針を落としてみます。

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Hob.XVIII:11 Concerto per il clavicembalo(l'fortepiano) [D] (1784)
ルドルフ・バルシャイの振るモスクワ室内管の序奏は実に軽やか。理想的な入りです。ギレリスのピアノは、ピアノの胴に響くような余韻を伴いながらこちらも最初は軽やかなタッチでリズミカルに音楽が進みますが、徐々に音量が上がってくると、ギレリスらしいキレの良い鋭いタッチが顔を覗かせてきます。バルシャイは一貫して爽やかな演奏でサポート。ギレリスのタッチの変化が聴きどころだと踏まえて、伴奏に徹している感じ。勢いを保ったまま、大きくうねるように表情を変化させていくギレリスのピアノ。速いパッセージの鮮やかなキレも抜群。指が回りまくってます! このコンチェルトは爽快さこそがポイントと踏まえたような演奏。
素晴らしいのが続く2楽章。バルシャイもぐっとテンポを落として音楽にえも言われぬ深みが宿ります。ギレリスもそれに応えて、じっくりとメロディーを紡いていきますが、ここにきてギレリスのタッチから生み出されるピアノの鋭くも深い音色が燦然と輝きだします。同じピアノなのにギレリスが弾くと、峻厳さ、孤高さを感じさせるところがすごいところ。バルシャイもそれに触発されて、伴奏も深く深く集中していきます。夢のような音楽が流れていきます。カデンツァは抑えた音量でピアノを鳴らしながら天上に登っていくような凝縮された時間が流れます。ピアノ1台から繰り出される音楽が、オケも含めて全員を惹きつける素晴らしいカデンツァ。
フィナーレで再びリズムと推進力を取り戻しますが、ここでもギレリスのピアノの鋼鉄のタッチが素晴らしい躍動感を帯びて圧倒的な存在感。コンチェルトのソロでテクニックではなく演奏の集中力でここまで他を圧倒する存在感を感じさせる演奏は滅多にありません。バルシャイもそれを踏まえて、控えめながら味わい深い伴奏で支えます。最後はキレのいいピアノの響きを轟かせて終了。いやいや素晴らしい演奏でした。

やはりギレリスはギレリス。奏者によって様々な響きを聴かせるピアノですが、ギレリスが弾くと、はっきりギレリスの音楽とわかる音楽が流れ出すのがすごいところ。鋼鉄のタッチでも、爽快な響きも孤高の響きもグイグイ推進する響きも自在に繰り出しながら、音楽を作っていきます。このコンチェルトでは、テクニックではなく音楽の深さで圧倒的な存在感を示し、特に2楽章のカデンツァでは微かなタッチの紡ぎ出す音楽の存在感に圧倒されました。録音も鮮明で1950年代のギレリスの魅力を余すところなく捉えた素晴らしいもの。これは文句なしの名演盤です。もちろん評価は[+++++]とします。

裏面のモーツァルトもこれまた素晴らしい演奏。バルシャイはハイドンの時よりも踏み込み、ギレリスのピアノも冴えまくってます。こちらもオススメです! 中古で見かけたら即ゲットですね。

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テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽

tag : ピアノ協奏曲XVIII:11 ヒストリカル LP

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Daisy


Author:Daisy

なぜかハイドン(Franz Joseph Haydn)が特に気に入り膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。東京在住のごく普通のサラリーマンです。

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