マッシモ・ザネッティ/読響の第九(東京芸術劇場)

昔は年末に大挙して第九を聴きにいくなんていう、我が国独自の風習について冷静な目で見ていたんですが、最近そうした心境は知らぬ間に消え去り、気づいてみるとその風習の体現者となっています(笑)

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読売日本交響楽団:第212回土曜マチネーシリーズ

このところはなぜか読響の第九に出かけています。今年もコンサートでもらうチラシを見て、在京各楽団の第九の中から気になったのが読響のもの。指揮者は全く未知のマッシモ・ザネッティという人ですが、イタリア人で歌劇場で活躍する人ということで、選んだ次第。ザネッティは読響にも初登場とのこと。昨年聴いたクリヴィヌの代役でのサッシャ・ゲッツェルも良かっただけに、ハイドンの演奏でもそうですが、コンサートでも未知の指揮者を聴くのは想像力を掻き立てるという意味で楽しみの一つです。

2017/12/24 : コンサートレポート : サッシャ・ゲッツェル/読響の第九(サントリーホール)
2013/12/26 : コンサートレポート : デニス・ラッセル・デイヴィス/読響の第九(東京オペラシティ)
2012/12/21 : コンサートレポート : カンブルラン/読響の第九(サントリーホール)
2011/12/27 : コンサートレポート : スクロヴァチェフスキ/N響の第九(サントリーホール)
2011/11/03 : コンサートレポート : 【サントリーホール25周年記念】ホグウッド/N響の第九

12月22日土曜のマチネーということで、この日の開演は14時。コンサート後の用事もあって、この日は車で池袋に向かい、芸術劇場の地下の駐車場に車を停めホールに上がります。

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この日のプログラムは第九1曲のみ。配役は下記の通り。

ソプラノ:アガ・ミコライ(Aga Mikolaj)
メゾ・ソプラノ:清水 華澄(Kasumi Shimizu)
テノール:トム・ランドル(Tom Ramdle)
バス:妻屋 秀和(Hidekazu Tsumaya)
合唱:新国立劇場合唱団(New National Theater Chorus)
合唱指揮:三澤 洋史(Hirofumi Misawa)

バスの妻屋秀和さんは、以前、高関健の天地創造のラファエル、昨年のゲッツェルの第九での素晴らしい歌唱を体験ずみ。今回の第九でもバスが妻屋さんというのがチケットを取る気になった理由の一つです。

プログラムが第九でマチネーということで客席は満員。やはり第九はお客さんが入るんですね。

定刻となり、コーラスの第二国立劇場合唱団から整然と入場。この日のコンサートミストレスは客演の日下紗矢子さん。チューニングを終えると、銀髪姿のザネッティが颯爽と登場。まずは1楽章はお手並み拝見です。ザネッティの指揮はかなりアクションが大きくオケにはわかりやすそう。最初の混沌とした序奏からキビキビとした音楽の運びは現代風ではありますが、古楽器風でもなく、やはり歌劇場で活躍する人だけに、オペラのように強音が吹き上がる反応の良さを引き出すようなコントロール。1楽章はそれでもベートーヴェンとしてはダイナミックでもあり、イタリア人らしく独墺系のベートーヴェンの重厚な響きとは異なりキレ味を感じさせる颯爽としたもの。特にティンパニを目立たせるあたりでキリリとした印象を引き出しているよう。
そのティンパニが大活躍する2楽章ではティンパニの岡田さんが次々と鋭い楔を打ち込むようにリズムを刻みます。キレの良いティンパニの連打がホールに響き渡り、オケもそのリズムに煽られながらダイナミックに響きます。
そして3楽章のアダージョは予想通り若干速めのテンポで見通しのよい展開。ザネッティはオペラティックな響きを引き出していきますが、そこはベートーヴェンということで、古典的な均衡を保とうとする意図も見え、ここまでは理性的なコントロールが優った感じ。
そして、第九の聴きどころ、終楽章に入ります。ここでザネッティが明らかにギアチェンジ。4楽章に入った途端に表現の起伏が大きくなります。ここでここまでザネッティがオケを抑えていたことがわかりました。冒頭からザネッティはオケを煽りまくりで、オケの方もそれに応えたキレキレ。そして声楽陣の第一声、妻屋さんのバスが圧倒的な声量でホール内に轟くと、ホールの緊張感が高まります。素晴らしかったのは合唱。第九なのにカルミナ・ブラーナのようなど迫力のコーラスが加わることで、広い芸術劇場の空間が大音量の響きに満たされます。やはりザネッティはオペラの人。終楽章の渾身の盛り上げ方はまるでヴェルディのオペラのような輝かしさに満ちたものでした。妻屋さん他の歌手も粒ぞろいで聴きごたえ十分。最後のフィニッシュもテンポをかなり上げて爆風のように終わり、もちろん会場のお客さんも拍手喝采。いやいや、ここまで4楽章に聴きどころを集中させるとは、なかなかの策士ですね。

もちろん熱演に対する拍手は何度もザネッティと歌手をステージに引き出し、奏者をねぎらっていました。この日はやはりコーラスの迫力が演奏の燃焼度に直結していましたね。観客も歌手もオケもコーラスの熱演を最後まで讃えていました。

この演奏を聴いた後でチラシをよく見ると、「年末に響く”歓喜の歌”」とのキャッチに続き、「心震わす壮大なクライマックス」とありますが、当初は第九の曲自体の作りを言っているものと思い込んでいました。演奏を聴いてこのコピーはザネッティの演奏のことを指していたものと、真意がわかりました。読響自体に初登場ということで、客演指揮者を探す読響の担当者がどこかでザネッティの第九を聴き、このコピーを考えたものでしょう。確かにこのキャッチコピーに偽りなしでした! マッシモ・ザネッティ、要注目です。

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この日は車で来たので、隣の東武百貨店で買い物をして、駐車の割引券を入手。そしてコンサートのチケットを見せると30分分割引ということで、駐車料金を安く抑える戦略(笑)。ということで最後に駐車場の出口で精算すると、狙い通り安く済ませることができました。ところが清算後、係りのオジサンがガサゴソと何か取り出し、こちらに笑顔で「クリスマスプレゼントです」と、お菓子をくれました(笑)

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こうしたちょっとした気配りは嬉しいものですね。素晴らしいコンサートもオジサンの気配りも人の心を暖かくするもの。オジサン、世界の平和に貢献してますね(笑) ありがとうございました。



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tag : 第九 ベートーヴェン

パーヴォ・ヤルヴィ/ドイツ・カンマーフィルのロンドンなど(東京文化会館)

先週金曜日に続いて月曜日もコンサートのチケットを取ってありました。

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都民劇場:公演ラインアップ 音楽サークル 第659回定期公演

パーヴォ・ヤルヴィ(Paavo Järvi)指揮のドイツ・カンマーフィルハーモニー管弦楽団(Deutsche Kammerphilharmonie Bremen)の来日公演。会場は東京文化会館ということで主催は古風なチラシで異彩を放つ都民劇場(笑)。プログラムは下記の通り。

シューベルト:交響曲5番
モーツァルト:ヴァイオリン協奏曲5番「トルコ風」 ヴァイオリン独奏はヒラリー・ハーン(Hilary Hahn)
ハイドン:交響曲104番「ロンドン」

このコンサートのチケットを取ったのはハイドンのロンドンがプログラムに組まれていて目に止まったせいもありますが、お目当てはヒラリー・ハーンです。

パーヴォ・ヤルヴィは、このカンマーフィルとのベートーヴェンの交響曲全集で一躍有名になり、2015年からはN響の首席指揮者を務めるなど、今をときめく存在。で、ですが、私はちょっと苦手な方。パーヴォは如何なものかとの興味で一昨年に聴いたコンサートは流石のコントロール能力の高さを見せつけたものの、ちょっと器用すぎて小手先的印象を感じたのも正直なところ。

2016/10/08 : コンサートレポート : パーヴォ・ヤルヴィ/N響のマーラー交響曲3番(サントリーホール)

そのヤルヴィがシューベルト、モーツァルト、そしてハイドンをどう料理するかにも興味はありましたが、やはり聴きどころはヒラリー・ハーン。ヒラリー・ハーンも2度ほど実演に接していますが、ブログを書く前のことで、記録が残っていないと記憶も曖昧(苦笑)。確か直近は2009年にポピュラー系のジョシュ・リッターとのデュオのコンサート。ヒラリー・ハーンのヴァイオリンは天才的なひらめきと、確かな音楽の骨格、表現をしっかり持った逸材との認識で、以前のコンサートの良い余韻が残っています。



このところ東京もぐっと冷え込んでくるなか、月曜日にもかかわらず、仕事をエイヤとやっつけて、久しぶりに上野の東京文化会館に向かいます。私が学生の頃は一流オケのコンサートは東京文化会館と決まっていましたね。前川國男先生のモダニズムの結晶のような建物は今でも素晴らしいオーラを放っていて、建築遺産としては揺るぎない価値を持つもの。

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ただし、コンサートホールとしては響きにかなり癖があり、ミューザ川崎をはじめとする音響の優れたホールとはかなり差がついてしまうのは致し方ないところ。

この日も開場時間にホールに参上。上野駅駅ナカで腹ごなしは済ませてきました。

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さて、この日の席は、いつも通り右側ですが、発売からだいぶ経ってからチケットを取ったのと、やはり舶来オケの価格帯のため、無理せず安い席をということで4階席。4回席までは階段です(笑)。眺めは上の写真の通りです。

開演時間になると会場内に盛大に学校のようにチャイム音が鳴るのはご愛嬌。場内の照明が徐々に落ちて、オケが入場。そして颯爽と洗われたヤルヴィが軽く観客に会釈して、1曲目のシューベルトが始まります。今回のこのコンビの来日ツアーではシューベルトがテーマの一つになっているようで、シューベルトだけのプログラムも用意されています。1曲目は響きに敏感。響きに癖がある東京文化会館のしかも4階ということで、音はあまり期待はしていなかったので、さして違和感はありませんでした。むしろ気になったのはヤルヴィのちょっとそそくさとした音楽の運び。ちょっと前に響きのいいミューザで、濃厚、流麗、分厚い響きのメータのシューベルトを堪能しているだけに、キリリと引き締まって、それはそれでスタイリッシュなヤルヴィの指揮はわかるものの、シューベルトの音楽とはもっとしなやかで、柔らかさがあってもいいと思わせてしまい、ヤルヴィ流のちょっと軽めの演奏はまずは前座という感じでした。

続いてお目当のヒラリーハーンの登場。白に金の柄のついた華やかなロングドレスで登場したヒラリー・ハーン、今度はモーツァルトということで軽やかさが曲にマッチしてヤルヴィのキレのいい伴奏を聴きながらリズムをとって入りを待ちます。静かな第一音から緊張感がみなぎり、抑制の効いたボウイングから繰り出される多彩な音色にうっとり。鋭さもあり、しなやかさもあり、そしてハーンの美点であるしっかりとハーンの音楽になっているところは期待通り。ヤルヴィが音色とキレという多彩な音色を繰り出すことに執心しているのに対し、ハーンは一貫してハーンの音楽を繰り出し、ハーンの方が格上に感じたのが正直なところ。テクニックを披露する曲ではなく、流麗な美しいメロディーを聴くべき曲ですが、ハーンは各楽章のカデンツァで、凝った構成のものを用意していましたが、いづれもヴァイオリンの音ではなくボウイングで音楽を作っていくという楽器の本質のようなものを聴かせたかったような構成。カデンツァでも唸らされました。流石にヒラリー・ハーン、モーツァルトでもただでは済ませない力量を見せつけました。もちろんほぼ満席の客席からは万雷の拍手が降り注ぎ、何度かのカーテンコールの後、アンコールを2曲。

バッハ 無伴奏ヴァイオリンパルティータ3番よりジーグ
バッハ 無伴奏ヴァイオリンソナタ2番よりアンダンテ

オケを前にして静まり返るホールにハーンの静謐なバッハが響き渡り、本編のモーツァルト以上の神々しいボウイングに圧倒されました。やはりハーンはすごいですね。



休憩後はハイドンの「ロンドン」。「ロンドン」はアルバムではリリースされているほとんどのものを聴いていますがの実演は2009年にホグウッドの振ったN響くらい。ハイドンの交響曲の集大成であり、壮大な構成で知られていますが、演奏は非常に難しく、特に3楽章、4楽章が力んで単調になりやすいもの。しっかりと構成を考えて、どこに聴かせどころを持ってくるかなかなか難しい曲でもあります。ヤルヴィは予想では速めのテンポで入るかと思いきや、序奏はかなりテンポを落としてきました。骨格の壮大さよりはフレーズごとの立体感を出そうというような感じ。1楽章は徐々にテンポを上げてきっちりとした構成感を出しまずまず。続く2楽章以降では、短い音でリズムを打つフレーズがたくさん出てきますが、それをあえてしているのでしょう、かなり均一に鳴らすのでリズムが単調に聴こえてしまい、本来味わい深いアンダンテとメヌエットが少し平板な印象に聴こえてしまいます。ただし、そこは流石にヤルヴィ、終楽章で最後のクライマックスに至る盛り上げ方は見事。インテンポでオケを煽りながら壮大な頂点を構築しフィニッシュ。もちろん観客も満足したようで拍手喝采。拍手に応えて、オケもアンコールを披露。非常に色彩感に富んだ曲でしたが聴いたことのない曲。帰り際、ホワイエの張り紙でシューベルトのイタリア風序曲2番と知りました。この日のステージにはティンパニが通常の2つの他、右側に大きなものがもう1つ。この3つ目のティンパニはアンコール曲でしか使っていなかったように見えましたので、アンコールは最初から予定されていたものでしょう。ハイドン以上に各パートが活躍する曲で、アンコールでオケの実力開帳といったところでしょう。

パーヴォ・ヤルヴィは流石にN響の首席指揮者を務めるだけあって、集客力もありますね。ただし、オケのドイツ・カンマーフィルですが、日頃聴く日本のオケと比べてレベルが高いという感じではなく、木管、金管などのソロを聴くとむしろ、東響や読響、N響の方が上手いかもしれませんね。日本での印象はやはりヤルヴィのベートーヴェン全集での鮮烈なキレ味の印象が強く、ドイツの一流オケという印象でしたが、やはりバイエルン放送響、ベルリンフィルなどとはそもそも格は違いますし、近年の日本のオケのレベルの高さを考えると、少し冷静な目で見た方が良いかもしれません。

この日の収穫はやはりヒラリー・ハーンでした。今月はハーンのバッハの無伴奏のコンサートも組まれていましたが、そちらもチケットとっておけばよかった、、、 次の機会を待つことにします(笑)



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tag : シューベルト モーツァルト ロンドン

ジョナサン・ノット/東響の「フィガロの結婚」(ミューザ川崎)

先週金曜日は楽しみにしていたコンサートを聴いてきました。

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東京交響楽団:コンサート情報(2018/19 Season)歌劇「フィガロの結婚」(演奏会形式)

一昨年より3年連続で東響の12月のプログラムにモーツァルトのダ・ポンテ三部作を取り上げたコンサート。その完結編となる「フィガロの結婚」。一昨年の「コジ・ファン・トゥッテ」があまりに素晴らしかったので、昨年に続き今回ももちろんチケットを取った次第。前二回の記事はリンク先をご覧ください。

2017/12/10 : コンサートレポート : ジョナサン・ノット/東響の「ドン・ジョヴァンニ」(ミューザ川崎)
2016/12/12 : コンサートレポート : ジョナサン・ノット/東響の「コジ・ファン・トゥッテ」(東京芸術劇場)

今回のキャストは下記の通り。演出監修はバルトロ役のアラステア・ミルズが担当。

指揮/ハンマーフリューゲル:ジョナサン・ノット(Jonathan Nott)
バルトロ/アントニオ:アラステア・ミルズ(Alstair Mils)
フィガロ:マルクス・ヴェルバ(Markus Werba)
スザンナ:リディア・トイシャー(Lydia Teuscher)
アルマヴィーヴァ伯爵:アシュリー・リッチズ(Ashley Riches)
アルマヴィーヴァ伯爵夫人:ミア・パーション(Miah Persson)
ケルビーノ:ジュルジータ・アダモナイト(Jurgita Adamonyte)
マルチェリーナ:ジェニファー・ラーモア(Jennifer Larmore)
バルバリーナ:ローラ・インコ(Laura Incho)
バジリオ/ドン・クルツィオ:アンジェロ・ポラック(Angelo Pollak)
合唱:新国立劇場合唱団(New National Theater Chorus)
合唱指揮:河原哲也(Tetsuya Kawahara)

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CDでも3枚組が当たり前の長さゆえ、この日は平日金曜にもかかわらす開演時間は18:30。やはり平日18:30に川崎に来れるお客さん層は限られるということで、素晴らしい公演になることは予想できたにもかかわらず、客席の埋まり具合は8割ほどでした。これはもったいないですね。いつも通り開場時刻過ぎにホールに入って、先に入場していた嫁さんと合流。サンドウィッチで腹ごしらえして、ホールに入ります。

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この日の席はステージ右側の2階席。先日のメータ/バイエルン放送響の公演の3階席でも音はまったく問題なかったので心配なしです。コンサート形式での上演ということで、ステージ上にはなぜかオフィスチェアとコートハンガーが並んでいます。

程なく開演時刻となり、オケが準備を整えノットが登壇。いつも通り小走りでハンマーフリューゲルの前に立ち、振り返って観客の拍手に笑顔で応えると、すぐに聴き慣れた序曲に入ります。ノットはモーツァルトが好きなのでしょう、序曲から実に楽しげに指揮棒なしで大きく体を使いながらオケに指示を出し、オケは湧き上がるような推進力で小気味よく吹き上がります。我々の世代のフィガロの刷り込みはもちろんベームのベルリンドイツオペラ盤。キリッと引き締まりながらどこかに微笑ましさと慈しみあふれるベーム盤とは異なり、自由自在に伸び伸びとしたノットのコントロールの魅力が序曲から満ち溢れます。

序曲が終わり、フィガロとスザンナが登場。フィガロのマルクス・ウェルバは一昨年のコジのグリエルモ役でおなじみ、スタイリッシュなイケメン。スザンナのリディア・トイシャーは手元のチェチーリアミサのインマゼール盤でソプラノを務めていましたが、こちらも美人ソプラノで若々しい美声。フィガロとスザンナははまり役。シーツを広げて部屋に見立てて寸法を測り始めるという最小限の小道具で情景を想像させるという手法は、このシリーズに共通した演出です。そしてハンマーフリューゲルはノット自身が演奏するのも共通。かなりゆったりと練って入るしっとりとしたつなぎも舞台の転換をしっかりと印象付けるもの。複雑なオペラを指揮しながらさらりとハンマーフリューゲルの演奏もこなすところは流石の処理能力。東響もノットのコントロールに見事に応える完璧な演奏。ベームのタイトさで聴かせる演奏とは異なり、しなやかな充実感で聴かせます。そして緊張感、充実感は素晴らしいものがありました。

フィガロとスザンナのデュエットから、この劇のキーパーソンとなるアラステア・ミルズのバルトロ登場。短い歌で性格俳優的な味わいを出すあたりは流石。続いてマルチェリーナ役のジェニファー・ラーモア、ケルビーノ役のジュルジータ・アダモナイトと登場。ラーモアはベテランらしく演技に味わい深い華やかさがあり、歌い終わった後の観客への礼一つとっても実に見事な振る舞い。ケルビーノはボーイッシュな感じを狙うには美人すぎる感じ(笑)。どちらも役に徹した歌唱で見事。

アルマヴィーヴァ伯爵のアシュリー・リッチズは長身のバリトン。伯爵にはちょっと若い感じですが、迫力よりはスタイリッシュに聴かせる歌唱は悪くありません。後半にかけて嫉妬に狂ったりダメダメな伯爵役の演技はなかなかよかったです。そしてバジーリオのアンジェロ・ポラックもスーツでビシッと決めた衣装で古風な演出での役柄とは印象は異なり、こちらもスタイリッシュ。そして伯爵の祝福に集まった村人の新国立劇場合唱団のメンバーはなぜかコミカルな体型の人を集めた感じで、演技もコミカル路線(笑)。第1幕の終結、フィガロの「もう飛ぶまいぞ」からケルビーノの出兵に向けたマーチの盛り上がりへの演出はノットの真骨頂。オケをグイグイ盛り上げてオペラの醍醐味を存分に感じさせました。



観客の万雷の拍手もそこそこに、すぐに第二幕に入りますが、第1幕は前座でした。第2幕で登場した伯爵夫人のミア・パーション、これが凄かった。登場するなり最初のカヴァティーナで異次元の歌を聴かせます。これまで聴いたどのソプラノのよりも素晴らしい歌唱に腰を抜かさんばかり。一流のソプラノの底力と迫力に圧倒されました。声の輝かしさ、圧倒的な声量、鳥肌ものの弱音のコントロール、そしてその存在感。ホール中の空気を凍りつかせる素晴らしい歌に酔いしれました。やはり生の声はいいですね。

続くケルビーノの有名なアリアは、トロヤノスの美声のイメージとは異なり、現代風にサラサラ流れるような可憐な歌唱。第2幕の伯爵夫人の部屋の化粧室にケルビーノが隠れていることを取り巻くやりとりも、舞台装置なしに小道具だけでの進行にもかかわらず、わかりやすい演出でかなり楽しめました。そして第2幕のフィナーレの三重唱から五重唱そして七重唱へ発展してクライマックスを迎える盛り上がりも圧巻。ノットが縦横無尽に動き回ってオケを煽り、前半の2幕が終わります。いやいや盛り上がりました。



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100分間の前半もあっという間。25分の休憩で、皆さんロビーに出てオペラの賑わいを肴に一献。こちらもワインで素晴らしい舞台の余韻を楽しみました。

休憩後は第3幕から。この時点でレロレロ(笑)。後半も素晴らしかったのですが、美しいアリアの続く第3幕の中でも、やはりミア・パーションの「楽しい思い出はどこへ」が圧巻。再び美しいソプラノに打ちのめされました。ホール全体が静寂に包まれ、パーションの歌に酔いしれました。アリアの後の嵐のような拍手がその素晴らしさを物語るようでした。

そして庭園でのスザンナと伯爵夫人が入れ替わって伯爵に一泡吹かせる第4幕。幕切れの全てを許す和音が響くと、このたわいもない戯れを描いた筋書きが、モーツァルトの素晴らしい音楽によって、人の心を癒す一夜のオペラとしてかけがえのない価値を持つものなったことがわかるわけです。もちろん最後の合唱が終わりを迎えると、客席からはブラヴォーの嵐。最初にコーラスメンバーが舞台に上がり、ついで歌手が上がり、もちろん何度も呼び戻されます。ノットも演奏に満足したのか歌手とオケを終始讃えていました。18:30に始まったコンサートは、すでに22:00近い時間。この間、全く緩むことなく演奏し続け、素晴らしい舞台を支えた東響。この日の演奏は本当にレベルが高かった。フィガロを実演で聴くのは初めてでしたが、全くもって堪能いたしました!



3年に渡って演奏されたダ・ポンテ三部作で、来年は魔笛か、、とも想像しましたが、直近に発表された来シーズンの12月の予定にはその予定はありませんでした。たまたま一昨年にコジ・ファン・トゥッテのチケットを取ったことから3年に渡ってノットのモーツァルトを聴きましたが、これは貴重な体験となりましたね。ノットが楽しそうにオケを煽る姿。そしてミア・パーションの魂を撼わすアリア、忘れません。



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ズービン・メータ渾身の春の祭典(ミューザ川崎)

母の葬儀後にも関わらず、事前にチケットをとってあったイベントが目白押し。くよくよもしていられませんので、予定をこなすことにしました。告別式翌日木曜は前記事に書いたポール・ルイスのコンサート、勤労感謝の日の金曜は友人の計らいで友人宅に招かれガーデンランチ、土曜日は歌舞伎座、そして日曜はバイエルン放送響のチケットをとってありました。それぞれチケットを取ったのは大分前なのでこのような流れになるとはついぞ思いませんでしたが、不思議と葬儀などと予定が重なることがなかったというか、かなり緊密なスケジュールとなってしまっています。

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ミューザ川崎:バイエルン放送交響楽団

このコンサートはご承知の通り、当初マリス・ヤンソンスの指揮ということでチケットを取りましたが、ヤンソンスが健康上の理由により来日できなくなり、代役としてズービン・メータが来日するとのアナウンスがありました。このチケットを取ったのは、一昨年、ミューザで聴いたヤンソンスの軍隊とアルプス交響曲が素晴らしかったからに他なりません。

2016/11/27 : コンサートレポート : マリス・ヤンソンス/バイエルン放送響の「軍隊」(ミューザ川崎)

そのヤンソンスが再びバイエルン放送響を従え、春の祭典を振るということで、チケットを取った次第。指揮者がメータに変わりましたが、私の年代はメータを随分聴いていますので、ヤンソンス以上に懐かしさもあって、チケットはそのまま確保しました。プログラムは春の祭典は変わらずですが、前半はドヴォルザークの交響曲7番から下記のように変わりました。

シューベルト:劇音楽「ロザムンデ」序曲(D.797)
シューベルト:交響曲第3番(D.200)
(休憩)
ストラヴィンスキー:「春の祭典」

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ミューザ川崎は意外と便利で、この日は日曜ということで車で行きましたが、自宅から40分ほどで着きます。世の中もうすぐクリスマスということで、イルミネーションが施され華やいだ雰囲気になってますね。

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この日は18時開演で17時開場ということで、開場時間にはホールについて、のんびりサンドウィッチなどをつまんで開演を待ちました。

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席はミューザ会員のみ発売の3階の一番安い席。視界はちょっと遮られますが、この席でも音響は非常に鮮明というか、正面の席より響きがダイレクトでこちらの席の方がいいくらい。3階席の音響が劣悪なオペラシティとはかなり違います。

この日のお客さんの入りは8割くらいだったでしょうか。チケットもそれなりの値段なので満員とはいきませんでした。

さて、開演時刻となり、後半の春の祭典ように設えられたステージの前の方に前半のシューベルトの演奏のメンバーが着席します。チューニングが終わると、メータが登場し、嵐のような拍手に迎えられます。というのもメータは介助者を伴い、杖をつきながらゆっくりと指揮台に向かいます。今年イスラエルフィルとの来日をがん性腫瘍の治療のために断念したとの情報は入っていましたが、恰幅のいいメータが歩くのもおぼつかないとは思ってもみませんでした。指揮台の下手側にはスロープがつけられ、介助者とコンサートマスターに支えられてようやくスロープを登れる状態。ヤンソンスの代理とはいえ、この体調でよくぞ日本までやってきました。ステージ上には椅子が置かれ、メータが椅子に腰掛けると介助者が15cmくらいの高さの脚台を置き、メータがその上に脚を置き準備万端。介助者が下手袖に戻る前にメータのタクトが上がり、1曲目のロザムンデ序曲が始まります。脚元はおぼつきませんが、眼光とタクトは鋭く、オケのコントロールするのは問題なさそう。そしてバイエルン放送響の奏でる響きは重厚かつうっとりするような柔らかく美しい響き。メータの指揮はゆったりと音楽をつくっていくまさに巨匠風。晩年のベームがウィーンフィルを振っているようなオケの自主性を活かした演奏。とろけるような響きに加えて、クライマックスへの持っていき方も若き日のメータの聴かせ上手さが感じられる見事なもの。一昨年に聴いたヤンソンスの滑らかなコントロールが行き届いた演奏とは異なり、味わい深さと響きの重厚な美しさが印象的な演奏でした。老いてしまったメータの姿に少々心配しましたが、演奏は見事なもの。もちろん盛大な拍手がふりそそぎました。

拍手に応えてメータが奏者をねぎらうと、メータは座ったまま、すぐに2曲目の交響曲3番に入ります。3階席から見下ろすとメータは上半身はしっかりしているものの、脚はかなりやせ細っています。おそらく長期間ベットに伏していたために脚の筋肉が落ちてしまったのでしょう。ただし、鋭い眼光とタクトが繰り出す音楽は弾んでいました。ここでも均整のとれた重厚な響きで観客を魅了。ゆったりとしたテンポは変わりませんが、やはりバイエルン放送響の木管陣は見事。クラリネットがくっきりと浮かび上がり、フルートやオーボエの美しさも流石なところ。まさに横綱相撲。円熟味と圧倒的な風格で聴かせます。1楽章の重厚な構成感、2楽章のコミカルなメロディーを優雅に聴かせる表現力、ホールを柔らかく包むように鳴り響く3楽章のメヌエット、調性の綾の美しさを織り込みながらリズミカルに盛り上がる終楽章。タクトの先で的確にオケに指示を出し、やはりメータの音楽をしっかりとつくりあげていました。ミューザの美しい残響に浮かび上がるあまりに美しい響きにうっとり。シューベルトも得意な方ではありませんが、存分に楽しめました。もちろん、前半終了時にも関わらずホールの興奮は最高潮。木管を中心に奏者をねぎらうと、介助人が杖を持って迎えに入り、拍手に包まれながらメータがステージを降りて前半終了。

休憩後再び介助者に付き添われてステージ上にメータが現れると、暖かい拍手がメータを包みます。前半同様指揮台の上のイスに腰掛けると、今度は介助者の退場を見送る余裕がありました。後半の春の祭典は本当に素晴らしかった! 前半のシューベルトは激しい曲ではないので座ったメータのタクトで十分コントロールできる範囲ですが、春の祭典は厳しいのではなかろうかという予想を完全に裏切る緻密なコントロール。春の祭典といえば今年の6月にロト/レ・シエクルの爆演を聴いたばかりですが、それにも劣らぬ感動的な演奏でした。テンポは比較的遅めで雄大な春の祭典。しかも全盛期のメータを彷彿とさせる重量級のど迫力。オケは世界最高峰の一つであるバイエルン放送響ということで、メータの眼力で一糸乱れぬ演奏を繰り広げました。春の祭典でも木管陣は完璧。そして肝心のパーカッションもリズムキレキレ。またしても風格ある横綱相撲を見せつけられた感じ。体の動きに制限のあるメータでしたが、各パートへの的確な指示を繰り返してこの難曲を見事にまとめあげました。スリリングさの極致に到達したロトに対し、この現代音楽の古典を太い軸でまとめたメータの至芸をたっぷりと味わいました。脚元のおぼつかないメータの熱演に会場からは文字通り嵐のような拍手とブラヴォーが降り注ぎました。メータもこの日の出来に納得したのか次々と奏者をたたえ拍手に応えます。ステージ袖と指揮台を往復する体力は残されていませんが、自力で立ち上がって観客の拍手に会釈する姿は感動的でした。こうしたコンサートで、ましてやこのメータの体調でアンコールはないと思いきや、拍手を制したメータが観客席に向かって「チャイコフスキー!」と告げるとすぐにくるりと振り返って白鳥の湖のワルツが始まりました。春の祭典の緊張感から一変して優雅なワルツ。しかも聴かせ上手なメータのゴージャスなワルツが流れ、場内が一気にリラックス。アンコールにしては長い10分近い演奏に皆夢見心地。コンサートに足を運んだお客さんにこれ以上のもてなしはないでしょう。もちろん、割れんばかりの拍手喝采が続き、皆立ち上がってスタンディングオヴェーション。もちろんメータが介助者に付き添われて舞台袖に下がった後も拍手は鳴り止まず、今度は車椅子に乗って再び登場すると拍手は一層激しくなり場内は歓喜に包まれました。

いやいや、感動的なコンサートでした。この体調では再度の来日ができるかわかりませんので、代役という奇遇とはいえメータのコンサートを聴くことができたことは忘れられない出来事として記憶に残ることでしょう。メータは母と同じく1936年生まれの82歳。入院して脚が細くなってしまうのも重なって深く心に刻まれました。

メータさんもし来日する機会があれば必ず聴きにきます!



コンサートの興奮が残る中、ミューザのコンサート時に定番にしている1階の牛タン屋さんで牛タン定食をいただいて帰りました。

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本日は車なので、私はノンアルコール(涙)

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ここの牛タンは旨味が濃くて美味しいです。本場仙台よりも旨いくらい。オススメです。



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ポール・ルイス、圧巻のXVI:52(王子ホール)

母が亡くなってから葬儀の手配、通夜、告別式とドタバタとしているうちに過ぎてしまいました。不思議と音楽を聴いたりブログを書いていると気が紛れるため、告別式の翌日でしたがコンサートに出かけ、普段通り記事も書くことにしました。

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銀座王子ホール:ポール・ルイス ~ HBB PROJECT 全4回 Vol.2、3~

ポール・ルイス(Paul Lewis)は最近、ハイドンのソナタ集をリリースして、演奏も素晴らしいものでしたので、記事にも取り上げました。

2018/05/10 : ハイドン–ピアノソナタ : 【新着】ポール・ルイスのピアノソナタ集(ハイドン)

その、ポール・ルイスが来日し、HBBプロジェクトと銘打って、ハイドン、ベートーヴェン、ブラームスの曲を織り交ぜたプログラムのコンサートを開くということで、母の体調が悪くなる前にチケットを取ってあったもの。しかも、この日のプログラムはありがちなハイドンが前座ではなく、むしろハイドンがメインという感じ。ポール・ルイスのソナタ集はおそらく全集を目指すものとみられ、しかもインタビュー記事などを見るとハイドンには一方ならぬ思い入れがありそうですので、期待できますね。

ブラームス:7つの幻想曲集(Op.116)
ハイドン:ピアノ・ソナタ(Hob.XVI:20)
 (休憩)
ベートーヴェン:7つのバガテル(Op.33)
ハイドン:ピアノ・ソナタ(Hob.XVI:52)

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この日のコンサート会場の王子ホールは私は初訪。銀座の三越裏と超一等地にあり非常に便利。この日は葬儀翌日ということで仕事はお休みしておりましたので、いろいろ片付けて、18時の開場時間にはホールに到着。

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いつものように、ビールなどでサンドウィッチをいただき腹ごしらえ。お酒の種類もいろいろ選べ、サンドウィッチも悪くありません。大きなホールよりもコンサート前の時間は楽しめていいですね。

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王子ホールは客席数315席と約400席の紀尾井ホールより少し小さめのホール。この日はホールのほぼ中央といい席。1時間前の開場時間には客席に座る人もまばらだったんですが、開演時間になるとほぼ満席。私はポール・ルイスは初めてでしたが、このホールでは度々コンサートを開いているようで、日本でもおなじみの人だったようですね。



さて、開演時間になると、黒い衣装に身を包んだポール・ルイスが登場。客席に軽く会釈すると、1曲目のブラームスの7つの幻想曲集が始まります。ご存知のように私はブラームスは苦手。指慣らしというスタンスで聴き始めましたが、出だしからどうもタッチが重め。しかもフォルテの音が割れ気味で中音部の響きが濁って聞こえます。ハイドンのアルバムでもアクセントをはっきりつけてリズムを自在に操るのがポール・ルイス流とはわかっていましたが、なんとなくまだ本調子ではないのかという印象が残りました。またピアノの響きのエネルギーに対してホールが小さいのと、響きに癖があるように聞こえましたが、そうではないことが休憩後にわかりました。ブラームスのピアノ曲は不雑に入り組む音が夕陽を浴びて陰りを伴って流れていくような印象を持っていましたが、ポール・ルイスの演奏はかなりはっきりとしたアクセントとテンポをかなり動かしながらフレーズを再構築していくような風情で、ブラームスらしい陰りよりも鮮明なコントラストをつけていくことで明晰さを重視した演奏。これでされに歯切れが良ければ印象が違ったでしょう。

拍手に包まれ、2度ほど下手舞台袖と往復すると、すぐに2曲目のハイドン、しかも期待のハ短調ソナタ、XVI:20に入ります。ハイドンに入ってもタッチに軽やかさが伴いません。流麗なこのソナタですが、テンポが遅めだったからかどことなくぎこちなく繋がりが滑らかでない印象を残します。流麗さよりもアクセントをくっきりつけながら陰影をしっかりつけていくところはブラームスと同様。この曲は好きな曲だけに、どこか自分の中で理想的な音形をイメージして、それと比べて聴いてしまっているのかもしれませんね。そして美しいメロディーがきらめくアダージョでもゆっくり目でじっくりと描いていき、きらめきよりも陰影重視という感じ。曲のもつ美しい詩情に対し、峻厳な詩情を伴います。これはこれでなかなかのものですが、どうしてもタッチのキレがもう少しあればと思ってしまいます。フィナーレも本来のポール・ルイスのキレではなかったように感じましたが、快速テンポ見事なテクニックを披露して、前半を終わります。

なんとなく、ホールがピアノのエネルギーを処理しきれない感じと、響きの濁りが気になる前半でしたが、原因は調律だったように思います。休憩時間になると調律師が入り、ピアノの音階を入念にチェックしてチューニング。

そして、後半の1曲目はベートーヴェンの7つのバガテル。このベートーヴェンに入るなり、前半のタッチの重さが嘘のようにタッチがキレ、そしてルイスも神がかってきたようにオーラに包まれます。7つの小品からなる曲ですが、リズムと音形の面白さをベートーヴェンが意図したであろう響きから諧謔性を強調して、アクセントの面白さが際立つように仕立てます。タッチはキレキレ、そして響きも濁らず、強音も歪まずにホールに響きわたります。この時点で調律が原因との想像が確信に至ります。ポール・ルイスもホールの響きに反応して表現の起伏を大きくしていき、ピアノの響きを自在にコントロールする、所謂ゾーンに入った状態。曲が進むごとに、表現の角度を変えながらめくるめくようにアイデアを披露。習作のような作品の軽さにとどまらずフォーマルな気品を纏わせる表現力は圧巻。ホール内にも緊張感が満ち溢れルイスのタッチにお客さんが集中していました。5曲目のアレグロ・マ・ノン・トロッポに入ると諧謔な曲調をさらに諧謔に仕立て、快刀乱麻のタッチで魅了。そして終曲は5曲目以上にタッチが冴えピアノという楽器の放出するエネルギーの限りを尽くしたような終結。それまでポーカーフェイスだったポール・ルイスも最後の一音を放つ瞬間にどうだと言わんばかりに客席をギッと睨み返す見得を切ります。もちろん演奏の迫力に完全に圧倒されたお客さんからは万雷の拍手が降り注ぎました。

そして舞台袖に1度下がって再び登壇するなり、拍手を断ち切って、すぐに最後のハイドンに入ります。ベートーヴェンの最後の一音と韻を踏むようにハイドンのソナタの冒頭にエネルギーが引き継がれ、これまでに聴いたどの演奏よりもエネルギーに満ちた入り。この日はプログラム構成のみならず演奏自体もこの最後のハイドンがメインでした。ブラームスが完全に前座。このハイドンのXVI:52は決定的な名演でした。なんというエネルギー、なんという集中力、そしてなんという推進力。ハイドン作曲時はフォルテピアノの時代からブロードウッドのピアノへの変遷期。鍵盤楽器が放出するエネルギーに触発されて書かれたと思われるこのソナタが現代のコンサートグランドピアノとポール・ルイスという類まれな奏者を得て、時代を超えて迫力とは何かを表現してきました。誠に圧倒的な演奏に打ちのめされるよう。このソナタに込められたエネルギーに今更ながら気付かされた次第。そのエネルギーを冷ますように諦観に満ちたアダージョを挟んで、終楽章は連続する打鍵音のメタファーが交錯しながら快速テンポで展開する見事な構成に再びエネルギーを込めて、ソナタに命を吹き込みます。ポール・ルイスは完全に曲を掌握して全ての曲を暗譜で弾き切りました。もちろん会場からは嵐のようなブラヴォーが降り注ぎ、前半とは明らかに異なる興奮状態に。いやいや、本領発揮とはこのことでしょう。

何度かのカーテンコールの後にはベートーヴェンの6つのバガテル(Op.126)からNo.5、11のバガテル(Op.119)からNo.1と2曲のアンコールが披露されました。

前半からカーテンコール時もポール・ルイスは表情を変えずにいたんですが、流石に最後はほんのり微笑んで、特に後半の出来には満足していたことでしょう。アルバムで聴かれる魅力とはまた異なる、ライヴならではのポール・ルイスのハイドンの魅力がしっかりと脳裏に焼き付けられました。おそらくこの後続くであろう、ソナタのアルバムも一層楽しみになりました。

しばらくドタバタとしそうですが、なるべく普段通りにやっていきたいと思いますので、皆さまよろしく願いいたします。



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tag : ピアノソナタXVI:20 ピアノソナタXVI:52

アントニーニ/読響による「軍隊」など(東京芸術劇場)

16日火曜日に続き、20日土曜はアントニーニの振る読響のコンサートを聴いてきました。

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読売日本交響楽団:第211回土曜マチネーシリーズ

火曜日はハイドンは歌劇「無人島」序曲だけだったんですが、この日は「軍隊」と本格的な曲がプログラムされ、しかもハイドンがとりを務めるというアントニーニらしい選曲。

ヴィヴァルディ:ドレスデンの楽団のための協奏曲(RV577)
ヴィヴァルディ:マンドリン協奏曲(RV425) マンドリン:アヴィ・アヴィタル(Avi Avital)
J.S.バッハ:マンドリン協奏曲(BWV1052) マンドリン:アヴィ・アヴィタル
ヴィヴァルディ:リコーダー協奏曲(RV443) リコーダー:ジョヴァンニ・アントニーニ(Giovanni Antonini)
ハイドン:交響曲100番「軍隊」

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この日はサントリーホールではなく、池袋の東京芸術劇場。同じ指揮者、オケでもホールが違うと響きがだいぶ違いますのでそのあたりがどう演奏の印象に影響するのかというのも聴きどころですね。

マチネーということで開演は14時。芸劇のマチネーの時には芸劇の1階のカフェで食事をしてコンサートに臨むのが習慣になりつつあります。お昼に到着してホールに上がるエスカレーターの裏のカフェでランチをいただきます。

食べログ:ベルギービール カフェ ベル・オーブ 東京芸術劇場

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お昼時だったので席に着くまでちょっと待ちましたが、5分ほどで座れ、まずはビールとスパークリングワインをいただきます。

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頼んだのはハンバーグにハヤシライス。ここは基本的に何を食べても美味しいですよ。

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ハヤシライスは牛スジを煮込んでコクがありました。

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お昼すぎについて、しばらくゆっくりして落ち着いてホールに上がります。

この日の席は2階席のやや右手。オケを遠くから見下ろす席でした。芸劇とサントリーホールはどちらも客席数約2000席で規模は変わらないんですが、サントリーがご存知のようにステージを囲うような客席で席からステージが比較的近いのに対し、こちらの東京芸術劇場は縦に長い構造のためステージが遠く感じます。席の位置の関係もありましたが、この違いが演奏の印象に結構大きな違いを生みました。

客席はほぼ満員。この日のプログラムはヴィヴァルディの比較的マイナーな曲がメインにしてはお客さんの入りはいいですね。やはりアントニーニの知名度が集客に大きく働いているのでしょう。

この日もコンサートミストレスは客演の日下紗矢子。1曲目のヴィヴァルディのドレスデンの楽団のための協奏曲ではヴァイオリンなどソロ楽器を立たせて協奏交響曲のような布陣。火曜のコンサートでは出だしの「無人島」序曲からフルスロットルの演奏だったのに対し、このヴィヴァルディは典雅に音楽を流す感じでテンションがだいぶ異なります。アントニーニは腰を落とすことなく、リズムを少々煽り気味に曲に緊張感を与える程度。ホールの容積に対してオケも小編成のため、アントニーニに期待される前衛的な踏み込みよりも、心地よくキレのいい音楽が流れるように聴こえます。オーボエとファゴットのソロが活躍する曲で、日下さんのヴァイオリンを含めてソロのレベルは非常に高く、引き締まった演奏にまとまりました。

続く2曲目はマンドリンがソロを務めるマンドリン協奏曲。マンドリン協奏曲とは非常に珍しく、私も初めて聴く曲。マンドリンという楽器がオケに対して音量的にソロとして目立つ存在となるかという点も危惧しましたが、結果的には全く問題ありませんでした。というのも伴奏は基本的にピチカートでの伴奏故、柔らかな音色の響きでの伴奏でマンドリンのメロディーにかぶることはありませんでした。この曲はもとよりマンドリンのために書かれた曲ということで、ヴィヴァルディもそのあたりをしっかり考慮して書いたということでしょう。解説を読むとヴィヴァルディがマンドリンのために書いた協奏曲はこの曲1曲のみとのこと。マンドリンのアヴィ・アヴィタルのマンドリンは音量、コントラスト、リズムのキレとも見事で、この短い曲の魅力がよくわかりました。帰って調べてみたところDGからアルバムがリリースされており、その道では有名な人なのでしょう。末尾に参考アルバムとしてリンクをつけておきました。アントニーニはここでもマンドリンを引き立てることに徹している感じで、腰は立ったままでした(笑)

ヴィヴァルディに続いて大バッハのマンドリン協奏曲が続きますが、バッハにマンドリン協奏曲があったかと思うと、これはチェンバロ協奏曲1番をアヴィタルがマンドリン用に編曲したものとのこと。こちらは聴き慣れた曲。ヴィヴァルディの方はマンドリン用に書き下ろしたということでマンドリンの音色と音楽性を活かし切ったものだったのに対し、こちらのバッハの方はマンドリンの音色の面白さは活きていたものの、音階の鮮やかさや速いパッセージの切れ味はチェンバロには及ばずという印象も残しました。こちらは古楽器オケの演奏はいくつも聴いているため、現代楽器のオケでの演奏で、ソロが古楽器で音色の澄んだマンドリンということで、ザラついたオケの感触がなく、ソロが浮かび上がるということで意外にいい響きに聴こえます。ただアントニーニはこの曲でも攻めてくる感じはせずキレ味を感じさせるのみ。マンドリンは速い音階が多い分技術的にはかなり高度なものがあり、最難部分では少しテンポを落とすことでその苦労を共有するような演出。バッハは古楽器演奏の刷り込みが多い分、マンドリンの音色の面白さを味わえるところはあるもののバッハの真髄に迫るという感じまでには至りませんでした。それでもお客さんはもちろんマンドリンの妙技に拍手喝采。

アンコールはちょっとクラシックのレパートリーではなさそうなアヴィタルの演奏に会場が釘付けになる素晴らしいものでした。終演後に張り出されたアンコール曲の張り紙には「アヴィタル:プレリュード(Bucimis)とありましたが、Bucimisを調べてみると、「ブチミシュ(Bučimiš)」とありブルガリア(西トラキア)地方で踊られる15/16拍子のダンスのこととのこと。こちらもベストアルバムに収録されていましたのでリンクを貼っておきます。

休憩を挟んでヴィヴァルディをもう1曲。

今度はアントニーニ自身がリコーダーソロを受け持つヴィヴァルディのリコーダー協奏曲。この曲も初めて聴きます。アントニーニは指揮台の横のソロが立つ席にリコーダーを持って立ち、すっと首を振って演奏に入ります。かなり小さなリコーダーですので、ソプラノあるいはソプラニーノでしょう。冒頭からリコーダーソロが大活躍。この曲は晴朗快活なアレグロ、リコーダーの哀愁漂うメロディーが印象的なラルゴ、アントニーニの指づかいの限界まで攻めるフィナーレで10分少しの小曲ですが、マンドリン同様、ソロの超絶技巧で聴かせる曲。関心はオケよりもソロに集まります。アントニーニはリコーダーソロで指が追いつかなくなる寸前まで攻めまくり(笑) こう来るとは思いませんでした。

そしてようやく最後のハイドンです。リコーダー協奏曲の演奏が終わるとステージ中央に置かれたチェンバロがステージ脇に移動され、オケも人数が増え、ようやくティンパニやグランカッサ、シンバルの出番です。アントニーニの進行中の交響曲全集の録音ではこれまでパリセット以降の曲の収録には至っておりませんので、ハイドンの大曲においてアントニーニがどのような演奏をするかを初めて聴くことになります。もちろん脳裏には数日前に聴いた、キレキレの「無人島」序曲とベートーヴェンの交響曲2番の余韻が残っておりますので、ようやくこの日のメインディッシュに至り、聴覚に全神経を集中させて聴き始めました。

ぐっと腰をかがめて入るかと思いきや、1楽章は意外に抑えた入り。序奏のコントラストをくっきりとつけて来るかと思いきや、それほどでもなく、金管を唸らせてくるかと思いきやこちらもそれほどでもなく、均衡を保ち、ティンパニも時折り皮を破らんばかりに強打する岡田さんも、そこまで力を入れない感じ。これは後半にクライマックスを持ってくる計算が働いているのではと察します。続く軍隊の行進場面のアレグレットでも、同様。もちろんアントニーニ風にくっきりとした表情と前衛的な雰囲気を漂わせるのですが、現代オケでは音量を上げて迫力で聴かせる終盤の盛り上がりも明らかにフルスロットル寸前で抑えているよう。パーカッション陣の表情を見ていてもそのことがわかります。
アントニーニの動きに少々変化が見られたのがメヌエットから。明らかに少しコントラストを上げ、オケに対する指示も綿密になってきます。ハイドンの真髄はメヌエットにありとの確信があるよう。挟まれるトリオとの表情のコントラスト、低音弦のゴリっとした感触もはっきりしてきました。
そして、やはりフィナーレに入るアントニーニ、腰が落ちてきました! しかも弱音部をかなり音量を落としてコントラストを最大限に高めようという意図も汲み取れ、オケを煽り始めます。きましたきました! ハイドンの書いた当時は最前線を行っていた音楽を現代の最前線に持ってくるように、オケを煽りまくるアントニーニ。読響の方もアントニーニのギアチェンジに鋭敏に反応してテンションを高めます。この終楽章に明確にポイントを置いたアントニーニの戦略に会場のお客さんも身を乗り出して聴き入ります。そして最後のクライマクッスへ向けて集中。ティンパニ、シンバル、グランカッサ奏者も先ほどまでと力の入り方が違い最後は風圧を感じさせて締めます。

やはりアントニーニが振ると読響の響きが引き締まります、ヴァイオリンのソロの場面の多いプログラムでしたので、古楽にも通じる音色を持つ日下さんが合っていましたね。そしてハイドンはやはりアントニーニの才能を感じさせる素晴らしいものでした。惜しむらくは席が遠かったのとホールの容積がこの規模のオケには大きすぎたのか、飽和感を感じさせるまでに至らなかったことでしょうか。響きの印象はサントリーホールとは大きく異なりました。今回、アントニーニ自身も読響に対していい印象を持ったことでしょうから、この先も客演の機会はあろうかと思います。その際には是非、サントリーホールでの演奏を期待したいと思います。



(参考アルバム)




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tag : ヴィヴァルディ バッハ 軍隊

アントニーニ/ムローヴァ/読響によるハイドン・ベートーヴェン(サントリーホール)

昨日10月16日は楽しみにしていたコンサートへ。

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読売日本交響楽団:第616回名曲シリーズ

ハイドンが好きな方ならよくご存知の鬼才、現在ハイドンの交響曲全集の録音に取り組んでいるジョヴァンニ・アントニーニ(Giovanni Antonini)が読響に客演するということでチケットを取ったんですが、プログラムがまた絶妙。

ハイドン:歌劇「無人島」序曲
ベートーヴェン:ヴァイオリン協奏曲
ベートーヴェン:交響曲2番

ハイドンは序曲1曲だけですが、中でも劇的な展開で知られる「無人島」序曲。それにヴィクトリア・ムローヴァを迎えてのベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲に、おそらく火の玉のように燃え上がるであろうことが容易に想像できる交響曲2番。プログラムを見ただけでも過呼吸でした(笑)

アントニーニが取り組むハイドンの交響曲全集については、これまで逐一取り上げています。

2018/07/07 : ハイドン–交響曲 : 【新着】ジョヴァンニ・アントニーニの交響曲全集第6巻(ハイドン)
2017/11/22 : ハイドン–交響曲 : 【新着】ジョヴァンニ・アントニーニの交響曲全集第5巻(ハイドン)
2017/04/18 : ハイドン–交響曲 : 【新着】イル・ジャルディーノ・アルモニコの交響曲全集第4巻(ハイドン)
2016/10/09 : ハイドン–交響曲 : 【新着】イル・ジャルディーノ・アルモニコの交響曲全集第3巻(ハイドン)
2015/06/08 : ハイドン–交響曲 : 【新着】イル・ジャルディーノ・アルモニコの交響曲全集第2巻(ハイドン)
2014/11/08 : ハイドン–交響曲 : 【新着】イル・ジャルディーノ・アルモニコの交響曲全集第1巻(ハイドン)

リリース当初はちょっと力みも感じる演奏だったんですが、巻を重ねるごとに演奏の完成度も高まり、ここ数巻は非の打ち所のない仕上がりになっています。少し前に全集を目指して進行中だったトーマス・ファイも素晴らしかったんですが、即興性を重んじることで曲ごとにけっこうムラがあったのに対し、アントニーニは自分の理想の響きにきちんと磨き込んでくる完成度の高さがあります。今回は主兵ではない読響の客演で、どこまでアントニーニ流の響きの完成度に近づくことができるかが聴きどころと睨んでおりましたが、結論から言うと、読響がまるでバーゼル室内管になったような完成度に仕上がっていました!

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さて、いつものように嫁さんと待ち合わせて、開場時間にサントリーホールへ入ります。直前まで仕事に追われてドタバタでしたので、まずはいつものように適量のワインとビールで大脳皮質と聴覚神経を覚醒させます(笑)

この日の席はRAの前から2列目。もちろん指揮者の指示をくまなく把握しようと言うことで取った席です。アントニーニが読響初登場ということで、読響の方にもかなりの緊張感があったものと想像されます。お客さんもほぼ満席ということで注目度も十分。集客にはアントニーニもさることながらムローヴァ目当てのお客さんも少なくなかったことでしょう。この日は客演で日下紗矢子がコンサートミストレスでした。

チューニングを終え、アントニーニが登場。写真ではちょいワルおやじ風というかやさぐれおやじ風な風貌ですが、銀縁の眼鏡をかけて颯爽と登場する姿はむしろ知的な感じ。第一印象は事前の想像とはちょっと違いました。ホールが静まると、ぐっと腰を落としてかなり低い姿勢からタクトなして両手を対称に静かに振り上げ、最初の短調の「無人島」序曲の序奏に入ります。いきなりかなり引き締まった響きにただならぬ緊張感が宿り、弱音が続くなか、期待通りアントニーニのコントロールが隅々にまで行き渡ったタイトな響きに包まれます。主題に入ると予想通り爆発! かなり頻繁に腰を落として低い姿勢から伸び上がるようにオケに強奏を要求するアントニーニのアグレッシブな指揮にオケも完璧に追随してまさに鬼気迫る演奏。オケに粗はなく、読響の緊張感もひしひしと伝わります。鋭角的なアクセントや鋭い音量変化、フレーズごとに完璧に表情を変えながら劇的に展開する絶妙なコントロール。会場のお客さんもアントニーニの挨拶がわりの完璧なハイドンに仰け反らんばかり。いやいや素晴らしい。想像以上のオケの統率力を見せつけられ、こちらも仰け反りました。出会い頭にアントニオ猪木のビンタを食らったような衝撃。この曲は既発売の全集の3巻に収録されていますので帰ってから聴き直してみましたが、ライブの迫力が加わり完全に実演に軍配です。もちろん会場からは痛快すぎる見事なハイドンの序曲に拍手喝采。アントニーニも読響が意図通りに響き満足そう。何度かのカーテンコールで一旦静まり、続いてはベートーヴェン。

オケの編成が少し変わって、アントニーニとムローヴァが並んで登場。ムローヴァ、アントニーニよりも背が高く来年60歳とは思えぬすらりとした立ち姿にうっとり。再びアントニーニがぐっと沈んで、ハイドンとは異なる長い序奏にくっきりと陰影をつけながらノンヴィブラートのオケで描いていきます。先ほどのハイドンが集中度100だったとすると、こちらは80くらい。アントニーニの方はハイドンで短距離を全力疾走したので、ここは少し気合いを緩めてソロとの掛け合いを楽しむといった趣向でしょう。というかハイドンでの集中力が尋常ではなかったということでしょう。ムローヴァのヴァイオリンはいくつかの録音でかなりさっぱりしたものだという感触を持っていたので、その先入観のせいか、意外に豊穣に聴こえました。特に伸びやかな高音域が印象的。アントニーニの先鋭的な響きと伸びやかで屈託のないムローヴァの掛け合いはそれなりに面白い組み合わせ。お互いに自己主張をぶつけ合いながらも音楽としてはまとまっていました。2楽章のラルゲットでは弱音部とハーモニーの美しさをさらりと垣間見せ、フィナーレではオケが気持ちよく吹き上がるところを生かした見事なコントロール。ムローヴァの張り詰めた弓さばきもあって、お客さんも拍手喝采。アントニーニもムローヴァもニコやかに拍手に応じていました。アンコールはバッハのパルティータ第2番からサラバンド。さらりとしたサラバンドで虚飾を廃した純粋無垢、無色透明のような演奏。これはムローヴァならではですね。もちろんお客さんは大喜びでした。

休憩後はベートーヴェンの2番。おそらくアントニーニの演奏スタイルに最も合うのが2番でしょう。これがすごかった。才気爆発のキレキレの演奏。1曲目のハイドン以上に表情の変化の幅を大きくとり、時折り楔を打つような鋭角的なアクセントを織り交ぜながらも、曲の流れをバランスよく保ちます。読響も万全の体制でアントニーニの指示に的確に応える熱演。火の玉のように燃えたぎるとはクライバーのような演奏ですがアントニーニの演奏は目にもとまらぬ速さで快刀を振り回しながらデフォルメの効いたアーティスティックな彫像を彫り出していく感じ。しかも前のめりにオケを煽る面白さに満ちていて、目で聴くという意味でも実に面白い。独特の腰をかがめて沈み込むユニークな動きに合わせてオケも沈み込んだかと思うと炸裂し、速いパッセージのキレ味も抜群。1楽章は痛快の極み。お客さんも圧倒されっぱなしな感じ。この曲はハイドンの交響曲と近い構成のため、緩徐楽章にコンパクトなメヌエット、終楽章と続きますが、聴かせどころはハイドンの録音で心得ている感じ。曲の作りがハイドンでは構成の面白さに行き、ベートーヴェンではより力感を重視している感じで、アントニーニもそれを踏まえてしっかりとスロットルをコントロールしてオケを吹きあがらせます。メヌエットの諧謔性と、フィナーレの炸裂感はアントニーニの類い稀な才能があってこそと唸らされました。読響も熱演で、オケの仕上がりは以前ファビオ・ルイージとの共演時以上の素晴らしさ。終演後の満足気なアントニーニの表情を見ると、まんざらでもないとの印象を持ったと思います。

ということで、ハイドンの演奏ではおなじみのジョヴァンニ・アントニーニによる、ハイドンとベートーヴェンは期待を大きく上回る素晴らしい演奏でした。やはりオーケストラコントロール能力は図抜けたものがあります。ハイドンの交響曲全集についてもまだまだ先が長いですが録音が完結することを祈りたいと思います。

週末に同じくアントニーニが読響を振るヴィヴァルディとハイドンのプログラムもチケットを取ってあり、こちらも今から楽しみですね。



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tag : オペラ序曲 ベートーヴェン

ウィーン・ニコライ弦楽四重奏団の皇帝など(日経ホール)

なんだか、記事を書き終わらぬうちにコンサートの予定になっちゃってます。コンサートでもらったチラシから気になるコンサートに出かけています。

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日経イベントガイド:第477回日経ミューズサロン

10月10日に日経ホールで行われたコンサート。ウィーン・ニコライ弦楽四重奏団(Wien Nicolai Quartett)によるハイドン、モーツァルト、ベートーヴェンの弦楽四重奏曲を並べたプログラム。ウィーン・ニコライ弦楽四重奏団とは聴きなれない名前でしたが、メンバーはウィーンフィルのメンバーで、もらったチラシには『ウィーンフィルの創始者「オットー・ニコライ」の名を冠する』とあり、至極由緒正しい感じがして、しかも今回の来日が日本のデビューコンサートということで、それならば聴いてみようということでチケットを取った次第。

しかもプログラムは下記の通り、有名曲ばかりを組み合わせた、かなり集客を意識した構成。

ハイドン:弦楽四重奏曲Op.76 No.3「皇帝」
モーツァルト:弦楽四重奏曲14番K.387「春」
ベートーヴェン:弦楽四重奏曲7番Op.59-1「ラズモフスキー1番」

日本で絶大な人気を誇るウィーンフィルのメンバーがこれらの曲を弾くということで、客層の裾野はかなり広がるでしょう。メンバーは下記の通り。

第1ヴァイオリン:ヴィルフリート・和樹・ヘーデンボルク(Wilfried Kazuki Hedenborg)
第2ヴァイオリンベンジャミン・モリソン(Benjamin Morrison)
ヴィオラ:ゲルハルト・マルシュナー(Gerhard Marschner)
チェロ:ベルンハルト・直樹・ヘーデンボルク(Bernhard Naoki Hedenborg)

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日経ホールは読響以来2度目です。この日の席はやや右後方。規模は室内楽にはぴったりですが、多目的ホールなため弦楽四重奏には少々デッドで響きが痩せて聞こえるのではとの危惧がありましたが、だいたい予想通り。お客さんの入りはほぼ満員で、さすがにウィーンフィルというブランドが効いていると納得ですね。

1曲目の皇帝は、予想通りオーソドックスな演奏。1曲目ということでちょっと硬さも感じさせ、特に第1ヴァイオリンの音程が少し落ち着かない感じでした。響きがデッドなため、このあたりの粗が少し目立った感じ。ただし、1楽章で目立った粗も徐々に収まり、2楽章ではアンサンブルがかみ合ってきて、特に弱音のバランスの良さを感じさせるようになります。美しいメロディーを聴かせるところは流石にウィーンフィルということで味わい深い響きを作り出します。ヴィオラやチェロは盤石の安定感。メヌエットではこちらの耳がホールの響きに慣れてきたのか、デッドな響きがかえって心地よく感じられてくるのが不思議なところ。各パートの見通しが良くメロディーの受け渡しとリズムが鮮明に聞き取れるからでしょう。そして終楽章は複雑にメロディーが絡み合いながらまとまっていくところが聴きどころですが、弾き慣れているからでしょう、音楽が収束に向かうのを安心して聴いていられます。ということで、1曲目のハイドンはアイドリング的な感じがなくもありませんでした。

続くモーツァルトは、1曲目でアイドリングが済んだのか、冒頭から緊張感あふれる素晴らしい出来でした。ハイドンではどこか流れに淀みがあったように感じていたのが、モーツァルトでは実に楽しげにリラックスして4人のボウイングが揃って響きの統一感も上がった感じ。何よりのびのびとしてメロディーが心地よく流れ、アゴーギクもより自然に感じられました。この曲はモーツァルトがハイドンのロシア四重奏曲に深く感銘を受け、ハイドンに献呈したハイドンセットの6曲の最初の曲。作曲は1782年ということで、1曲目のハイドンの皇帝の1797年よりも15年も前に書いたことになります。こうして並べて聴くと流石にメロディーラインの美しさはモーツァルトならでは。ハイドンが構成の面白さに聴きどころを設けていたのに対し、モーツァルトはメロディーの流麗な美しさと、パートの絡み合いの面白さにこだわっていたことがよくわかります。天真爛漫にさえずるような音楽を聴いて、ハイドンがモーツァルトの才能を見抜いた時の様子を想像しながら楽しみました。特に3楽章のアンダンテ・カンタービレのジワリと染み透るような美しさ、終楽章のフーガの幽玄な感じは見事でした。

休憩を挟んで最後の曲はベートーヴェンのラズモフスキー1番。何度も書いていますが、ベートーヴェンのクァルテットは苦手分野の一つ。この曲の刷り込みは同じくウィーンフィルのウェルナー・ヒンク率いるウィーン弦楽四重奏団のもの。なんとなくウィーン風にまとめられたこのアルバムの演奏と比べて聴いてしまっていましたが、同じウィーンフィル母体のクァルテットながら、このウィーン・ニコライの方は、それと比べるとだいぶストイックに聴こえました。あえて流れの連続性を分断してキレ味を追求するような姿勢の演奏。ベートーヴェンを聴き慣れた人の耳にどう聴こえたかはわかりませんが、私には少し力入りすぎに聴こえました。まあ、ハイドンやモーツァルトはともかくベートーヴェンの感想はおまけ程度にご理解ください。この日のお客さんは迫真の力演に盛大な拍手で讃えていました。

そしてアンコールにはラズモフスキー3番のメヌエット。アンコール演奏前のアナウンスでラズモフスキーの3曲を録音して発売予定であることが告げられていましたので、番宣ならぬ盤宣という意味もあったのでしょう。

このコンサート、お手並み拝見的な気分でもありましたが、良い意味でも悪い意味でもウィーンフィルブランドに印象を引っ張られたような気がしました。ウェルナー・ヒンクやライナー・キュッヒル率いるウィーンフィル出身者のクァルテットが、ある意味ウィーン風の伝統の中で演奏してきたのに対し、このクァルテットもその期待を背負ってのスタートとなるわけです。伝統的な看板を背負ってこれからどのようにやっていくのか気になるところですね。もちろん、ハイドンの本格的な録音への期待も込めて見守りたいと思います。



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ユベール・スダーン/東響の軍隊、田園など(サントリーホール)

金曜に続き、土曜もコンサートに出かけました。土曜日はサントリーホールです。

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東京交響楽団:第663回定期演奏会

チケットを取ったコンサートはユベール・スダーン指揮の東京交響楽団のコンサート。プログラムは下記の通りです。

ハイドン:交響曲 第100番「軍隊」
モーツァルト:ヴァイオリン協奏曲第4番 (K.218)
ベートーヴェン:交響曲第6番「田園」

もちろん、プログラムにハイドンが含まれるからに他なりませんが、それだけではありません。実はユベール・スダーンのハイドンは、スダーンがジョナサン・ノットに音楽監督を譲る直前、2014年3月のオールハイドンプログラムを聴いて以来で、しかもそのコンサートが私が東響を初めて聴いたコンサート。その時ももちろんハイドン目当てだったんですが、今回は前回のハイドンのコンサートから久々のスダーンのハイドンを聴きたくてチケットを取った次第。

2014/03/22 : コンサートレポート : ユベール・スダーン/東京交響楽団のオール・ハイドン・プログラム(東京オペラシティ)

今回はハイドンは1曲だけですが、モーツァルテウムの首席指揮者を務めた人だけに、モーツァルトも悪かろうはずもなく、そしてベートーヴェンの田園と親しみやすい古典の名曲が並ぶプログラムということで、楽しみにしていたコンサートです。

IMG_3136_201809262155196f1.jpg

この日は土曜のコンサートということで、いつもより少し早めにサントリーホールに着いたので、サントリーホールの脇の階段を登ってちょうどホールの上にあたるアークガーデンを散策。巨大オフィスビルコンプレックスの庭園にしては、立ち入る人が少ないようで、手入れもさほどされておらず、いい意味で野趣あふれる感じ(笑)

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近所にお住まいの方の犬の散歩コースくらいの感じですね。普段足を踏み入れないところを歩くと世界が広がります(笑)

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うだうだしているうちに開場時刻になりホールに入ります。

IMG_3144 (1)

もちろん、散歩で喉が渇いたので、いつものようにビールとワインで喉を潤し、コンサートに臨む準備完了。

さて、この日の席は初めてのP席。P席とはオケの背後の第9だったら合唱団が座る席。オケを背後から眺めるんですが、指揮者の指示は克明にわかります。お客さんの入りは流石に元東響の音楽監督の指揮で有名曲ということでほぼ満員。ジョナサン・ノットの振る時よりもお客さんの年齢層はかなり高めのようですね。

期待の1曲めの軍隊ですが、ほぼ予想通り、非常にオーソドックスな演奏。軍隊の生はヤンソンスとバイエルン放送響を聴いていますが、ヤンソンスらしく非常に丁寧に仕上げられた華麗な盛り上がりと高揚感に満ちた演奏でした。スダーンのコントロールはそれよりだいぶ古典的。楽章ごとの起承転結の面白さに焦点を当て、2楽章と終楽章で大活躍するティンパニがバロックティンパニでしかも節度をわきまえた盛り上がりにコントロールされていたのに加えて、オケも節度を保ったバランスの良い演奏。実にノーブルなハイドンという演奏でした。印象的だったのが東響の奏者の上手さ。特に木管陣は惚れ惚れするような美しい響き。スダーンのコントロールが行き渡って、奏者も見事にそれに応える阿吽の呼吸を味わえました。

2曲めはモーツァルトのヴァイオリン協奏曲4番。ヴァイオリンソロは堀米ゆず子で私は生では初めて聴きます。ハイドンも良かったんですが、このモーツァルトがさらに良かった。流石にモーツァルテウムを率いてきた人だけに音楽に華があり、実に軽やか且つ典雅な演奏。堀米ゆず子のヴァイオリンの響きの美しさも最高。モーツァルトは流石に自家薬籠中の物と言っていいでしょう。前日に聴いたホーネックのモーツァルトは弾き振りの堅固な一体感が聴きどころでしたが、この日のコンチェルトはスダーンと堀米ゆず子の仲睦まじい掛け合いの妙と、モーツァルトらしい華やかさに満ちた音楽の躍動感が聴きどころ。連夜のモーツァルトの名演に心打たれました。もちろんこの日の観客の皆さんもうっとり。万雷の拍手でもてなし、堀米ゆず子さんは何度もステージに呼び戻されますが、アンコールはなし。これも爽やかでいいですね。

前半の素晴らしい演奏にうっとりとしながら休憩時間を過ごしましたが、後半の田園は、それよりさらに凄かった! この日はハイドンを聴きにきたはずなんですが、この田園には圧倒されました。冒頭から非常に研ぎ澄まされた東響の弦楽セクションの奏でる美しいメロディに惹きつけられますが、スダーンのメロディの膨らませ方とフレーズごとのコントラストのつけ方が見事で、実に美しい音楽に聴こえます。それがただ美しいだけではなく、揺るぎない説得力を徐々に帯びてきて、だんだん鬼気迫るような迫力まで帯びてくるではありませんか。どの音もどの瞬間もどれを変えても音楽が崩れてしまうほどの完成度。先ほどモーツァルトで自家薬籠中と言いましたが、この田園はスダーン渾身の完成度。楽章が進むにつれて、どんどんしなやかに迫力を増し、もはや圧倒的な支配力で、素晴らしく自然な、しかも並みの指揮者には到達できないような三昧の境地に入って、こちらはただただ音楽に打たれるだけ。4楽章の嵐のあとの5楽章の牧歌の研ぎ澄まされた美しさ、さらにフィナーレに向かうクライマックスのノーブルな仕上げ。古楽器やらノンヴィブラートやらなどの演奏スタイルの議論などを吹き飛ばすようなオーソドックスに磨かれた音楽の持つ説得力の素晴らしさに打たれました。もちろんこの日の観客はこの素晴らしい田園に拍手喝采。いやいや本当に連日の名演にクラクラです(笑)

この素晴らしい演奏には長年音楽監督としてオケを育ててきたスダーンと東響の信頼関係、そしてユベール・スダーンという人の音楽への理解の深さが滲み出ていたのだろうと想像しています。

結果として、ハイドンの演奏も素晴らしかったものの、この日の軍隊はやはり前座でしたね。この日のメインディッシュはベートーヴェン。この田園は私の心に深く刻まれました。時代の先端をゆくヤルヴィのベートーヴェンも、ラトルのベートーヴェンもいいですが、私はこのスダーンの流行とは関係なく揺るぎない古典的美しさを帯びたベートーヴェンが最も好きですね。

ユベール・スダーン、また聴きに行きます!



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tag : 軍隊 モーツァルト ベートーヴェン

ホーネック/紀尾井ホール室内管のハフナー・セレナーデなど(紀尾井ホール)

昨日9月21日金曜日はチケットを取ってあったコンサートへ。

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紀尾井ホール:紀尾井ホール室内管弦楽団 第113回定期演奏会

今年の6月に初めて聴いたライナー・ホーネックと紀尾井ホール室内管弦楽団のコンサート。この時はハイドンの受難がプログラムに入っていたのでハイドン目当てで行きましたが、意外にもショスタコーヴィチのピアノ協奏曲が精緻な熱演、そしてベートーヴェンの田園は流石にウィーンフィルのコンサートマスターが振るだけあって実に自然なアーティキュレーションが素晴らしい演奏。正直ハイドンは前座という位置付けでした。

2018/06/19 : コンサートレポート : ホーネック/紀尾井ホール室内管の受難など(紀尾井ホール)

そのホーネックなら、モーツァルトはさらに素晴らしかろうということでチケットを取った次第。その読みは期待を大きく上回って当たりました! この日のプログラムとソリストは次の通り。

モーツァルト:ヴァイオリンとヴィオラのための協奏交響曲(KV364)
モーツァルト:ハフナー・セレナーデ(KV250)

指揮・ヴァイオリン:ライナー・ホーネック(Rainer Honeck),
ヴィオラ:今井信子
紀尾井ホール室内管弦楽団

モーツァルトの曲の中でもこの協奏交響曲は特に好きな曲なので楽しみにしていました。

この日はあいにくの大雨。開場前はホールの外で待たなくてはならないので、ギリギリに到着して、まずは2階のカフェでビールとワインで景気づけ。

IMG_3132 (1)

冷えたグラスにプレミアムモルツと、赤ワインは常温と冷えたものが選べるなど酒飲みの好みを心得たサービスが心地よいですね。

この日の席はオケの右手2階。オケを右上から見下ろす席。客席には所々空席がありますが、チケットは売り切れていましたので、ほぼ満員。お客さんもホーネックのモーツァルトには期待しているのでしょう。

定刻になり、オケのメンバーが席につき、チューニングが終わると、ヴァイオリンを持ったライナー・ホーネックとヴィオラを持った今井信子が登場。客席に挨拶して、ホーネックがオケの方に振り向いて軽く合図すると、聴きなれたこの曲の序奏が始まります。前回のコンサートでは明らかにオケが寝起きが悪かったんですが、この日は最初から冴えていました。この曲の刷り込みはクレーメル、カシュカシアンがソロを務めるアーノンクール盤。オケはウィーンフィル。鋭利なクレーメルのヴァイオリンと外連味たっぷりのアーノンクールによるギャラントな演奏が印象に残っています。前回のコンサートでのハイドンやベートーヴェンの演奏から、ホーネックはオーソドックスな演奏で来るだろうと想像していましたが、それはこちらの読み違いでした。もちろんオーソドックスなスタイルに違いありませんが、まずはヴァイオリンのキレ方が凄まじい。テンポがキレているというか、弓の運びが曲のテンポの先を行きオケを類まれなリーダーシップで先導します。クレーメルが現代性を感じさせる鋭利なアーティキュレーションで圧倒するのに対し、ホーネックはモーツァルトの曲に内在する音楽のエネルギーを引き出すようにくっきりとメリハリをつけ、音量、テンポ、音色と全ての次元でハッキリとしたコントラストをつけて彫りの深い曲に仕立てていきます。あまりに見事なホーネックのヴァイオリンソロに釘付け。そしてそのソロが今井信子のヴィオラとオケを、タクトではなく音でコントロールしてき、類まれな一体感を感じさせるまとまり。ハッキリ言ってクレーメル盤の演奏の上を行く感じ。そしてヴァイオリンのキレもクレーメルより上と感じました。また、ホーネックが大柄な体を揺らしながら正確無比のボウイングで演奏する姿は視覚にも訴え、マゼールの指揮をみるのと同じような刺激に満ちたもの。ホーネックのヴァイオリンがここまでキレているとは思いませんでした。さざめくような序奏から愉悦感と推進力に満ちた展開が魅力の1楽章は、ホーネックのヴァイオリンの妙技と、類まれなコントロールを得て、緊張感に満ちたオーケストラが素晴らしい。
続く2楽章は、情感に流されず音楽の緊張感を保ったまま美しいメロディーをくっきりと浮かび上がらせるこれまた妙技の連続。特に弱音のコントロール、ホーネックのヴァイオリンソロが絶品。そして3楽章も同様。ハイドンの協奏曲の終楽章も手の込んだものですが、モーツァルトのメロディーのひらめきは流石なところ。構成はハイドンの方が面白さを味わいやすいですね。モーツァルトはメロディーの美しさをこれでもかと言わんばかりに技巧を凝らしして展開するところがハイドンファンとしてはちょっとくどく感じてしまいます(笑) 演奏の方はもちろん見事に曲を閉じて拍手喝采。いやいやこれは素晴らしい!

あまりに見事な協奏交響曲の余韻が残る中、休憩をはさんで、今度はハフナー・セレナーデ。ホーネックはヴァイオリンを持って登場。この曲でもヴァイオリンソロはホーネック。全8楽章の長い曲ですが、協奏交響曲以上にオケの集中度が上がって、いわゆるゾーンに入る至福の演奏。1楽章はホーネックは座ってコンマス役だったが、2楽章からは立ち上がってソロを担当。ヴァイオリンソロは協奏交響曲以上に絶品。2楽章の美しいカンタービレ、4楽章のさざめくような音階の繰り返しに多彩な表情をつける見事な手腕と圧倒的なテクニックに酔いしれました。曲中3つのメヌエットが挟まり、ハイドンのディヴェルティメントと同様の構成ながら展開の精緻さはハイドンとは桁違いに緻密。ハイドンの才能にも普段驚きっぱなしですが、モーツァルトの天才に改めて驚く瞬間多数。至福の時間とはこのことでしょう。紀尾井室内管のメンバーもホーネックにコントロールされて異次元の出来。いやいや素晴らしい演奏でした。

もちろんほぼ満員の客席はこの素晴らしいコンサートに万雷の拍手で応じていました。何回かのカーテンコールの後、アンコールはモーツァルトのマーチ(K.249)。コミカルな曲想にオケも少しリラックスして楽しげに演奏。オケを讃えるためか、ホーネックは最後の音が終わる前に下手に下がり、舞台上にはオケのみとなり、再び万雷の拍手に包まれました。ホーネックもオケのメンバーも笑顔で拍手に応えていて、この日の充実した演奏に満足していたのでしょう。

今まで聴いたモーツァルトでは最も心に残るコンサート。この先にもモーツァルトのプログラムが用意されているようですので、もう一度ホーネックの素晴らしいヴァイオリンを聴いてみたいと思います。



コンサート後、外に出ると雨はほとんど上がっていました。赤坂見附方面に歩いて帰り、駅の横の牛タンねぎしで夕食をいただいてコンサートの余韻を楽しみました。

IMG_3133.jpg

牛タンねぎしに入るのは20年ぶりくらいでしょうか(汗)

IMG_3134 (1)

お店は綺麗に改装されていてなかないい感じでした。さて、本日もコンサート。ユベール・スダーンの軍隊をサントリーホールに聴きに行ってきます。



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tag : モーツァルト

プロフィール

Daisy


Author:Daisy

なぜかハイドン(Franz Joseph Haydn)が特に気に入り膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。東京在住のごく普通のサラリーマンです。

最新記事
カテゴリ
ハイドン所有盤リスト
Joseph Haydn Discography at H. R. A.
所有盤をジャンル別にリスト化しています。基本的に録音年順とし、録音年不明のものは末尾に記載。演奏者名はジャケットなどの表記に合わせています。

2017年7月のデータ(2017年7月31日)
登録曲数:1,361曲 登録演奏数:10,291
タグリスト
クリックするとそのタグに関する記事が表示されます。特定の曲に関する記事の表示ができます。

ピアノ三重奏曲ベートーヴェン第九オックスフォードヒストリカル太鼓連打交響曲99番時計ボッケリーニモーツァルトシューベルトロンドン天地創造交響曲5番交響曲61番ピアノソナタXVI:46チャイコフスキーストラヴィンスキーピアノソナタXVI:52ピアノソナタXVI:20チェロ協奏曲ライヴピアノ協奏曲XVIII:11弦楽四重奏曲Op.2序曲軍隊ヴィヴァルディバッハオペラ序曲アリア集パイジェッロ弦楽四重奏曲Op.76皇帝日の出ピアノとヴァイオリンのための協奏曲XVIII:6すみだトリフォニーホールピアノソナタXVI:34ピアノソナタXVI:49ラヴェルブーレーズサントリーホール弦楽四重奏曲Op.71弦楽四重奏曲Op.74アルミーダ哲学者の魂、またはオルフェオとエウリディーチェ無人島変わらぬまことチマローザ騎士オルランド英語カンツォネッタ集ピアノ協奏曲XVIII:3ピアノ協奏曲XVIII:1ピアノ協奏曲XVIII:4弦楽四重奏曲Op.20古楽器交響曲3番アレルヤ交響曲79番ラメンタチオーネチェロ協奏曲1番交響曲88番驚愕交響曲19番交響曲27番交響曲58番アンダンテと変奏曲XVII:6紀尾井ホールショスタコーヴィチドビュッシーミューザ川崎LP協奏交響曲オーボエ協奏曲ヴァイオリンとヴィオラのためのソナタピアノソナタXVI:50ピアノソナタXVI:32ピアノソナタXVI:40ピアノソナタXVI:29ピアノソナタXVI:38スタバト・マーテルピアノソナタXVI:48ピアノソナタXVI:39ピアノソナタXVI:37ブルックナーマーラー十字架上のキリストの最後の七つの言葉交響曲97番交響曲90番告別交響曲18番奇跡ひばり弦楽四重奏曲Op.64フルート三重奏曲悲しみ交響曲102番交響曲86番ヴァイオリン協奏曲哲学者ミサブレヴィスニコライミサ小オルガンミサ交響曲95番交響曲93番交響曲78番ピアノソナタXVI:23王妃SACDライヴ録音武満徹交響曲80番交響曲全集交響曲81番マリア・テレジア交響曲21番クラヴィコード豚の去勢にゃ8人がかりBlu-ray東京オペラシティ交響曲9番交響曲11番交響曲12番交響曲10番交響曲15番交響曲4番交響曲2番交響曲37番交響曲1番弦楽四重奏曲Op.54ピアノソナタXVI:8ピアノソナタXVI:2ピアノソナタXVI:14ピアノソナタXVI:12ピアノソナタXVI:42ピアノソナタXVI:25ピアノソナタXVI:1ピアノソナタXVI:4ピアノソナタXVI:5ピアノソナタXVI:3ディヴェルティメントリヒャルト・シュトラウス東京芸術劇場交響曲98番ピアノソナタXVI:7ピアノソナタXVI:36ピアノソナタXVI:35ドニぜッティロッシーニライヒャ弦楽三重奏曲シェーンベルク東京文化会館フルート協奏曲ホルン協奏曲弦楽四重奏曲Op.9弦楽四重奏曲Op.17剃刀弦楽四重奏曲Op.103弦楽四重奏曲Op.77ピアノソナタXVI:31ファンタジアXVII:4ピアノソナタXVI:26アレグリモンテヴェルディパレストリーナバードタリスピアノソナタXVI:6美人奏者四季迂闊者交響曲70番アコーディオンピアノ協奏曲XVIII:7バリトン三重奏曲スコットランド歌曲ヴェルナーガスマン交響曲67番ピアノソナタXVI:24交響曲46番交響曲51番交響曲35番DVD交響曲47番テレジアミサピアノソナタXVI:21ピアノソナタXVI:28アリエッタと12の変奏XVII:3帝国ラ・ロクスラーヌハイドンのセレナードピアノソナタXVI:51ラルゴ五度ピアノソナタXVI:44ラウドン将軍弦楽四重奏曲Op.1弦楽四重奏曲Op.33騎士交響曲17番ピアノソナタXVI:27シベリウス時の移ろい交響曲42番ベルリンフィルホルン信号弦楽四重奏曲Op.55交響曲87番トランペット協奏曲リュートピアノソナタXVI:10ピアノ五重奏曲チェチーリアミサラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン東京国際フォーラム雌鶏交響曲39番冗談ナクソスのアリアンナピアノ協奏曲XVIII:9ピアノ協奏曲XVIII:5ヴァイオリンソナタ交響曲52番ピアノ協奏曲XVIII:2ロンドン・トリオオフェトリウムモテットドイツ国歌カノン弦楽四重奏曲Op.50よみうり大手町ホールパッヘルベルアダージョXVII:9受難交響曲84番パリセットベルク主題と6つの変奏オペラアリアピアノソナタXVI:41スクエアピアノ交響曲68番交響曲57番リラ・オルガニザータ協奏曲リーム交響曲89番交響曲50番偽作CD-Rトビアの帰還ホルン三重奏曲薬剤師オルガン協奏曲火事交響曲38番リベラ・メピアノ協奏曲XVIII:10交響曲77番交響曲34番温泉フルートソナタドイツ舞曲誕生日校長先生ピアノソナタXVI:11ピアノ小品音楽時計曲ピアノソナタXVI:47bisカートリッジ雅楽プロコフィエフヘンデルサン=サーンス交響曲36番リストオーディオバリトン二重奏曲交響曲75番交響曲66番交響曲91番長岡鉄男歌舞伎おすすめ盤ピアノソナタXVI:47読売日響オペラ歌舞伎座スケルツァンド弦楽四重奏曲op.33ザルツブルク音楽祭ピアノソナタXVI:22変奏曲XVII:7天地創造ミサジャズネルソンミサ弦楽四重奏曲Op.42交響曲76番ピアノソナタXVI:43古楽器風東急文化村ノットゥルノヴェーベルン府中の森芸術劇場裏切られた誠実バリトン五重奏曲ハイドン入門者向け歌曲ピアノソナタXVI:G1ウィーンフィル月の世界交響曲72番建築ファリャマリアテレジア交響曲56番2つのホルンのための協奏曲展覧会ピアノソナタXVI:19弦楽四重奏曲全集シャンゼリゼ劇場皇帝讃歌交響曲24番大オルガンミサ新橋演舞場テ・デウムサルヴェ・レジーナカッサシオン室内楽曲ピアノソナタXVI:45ベトナム料理国立新美術館高音質CD交響曲28番交響曲13番交響曲107番交響曲108番交響曲62番ジプシー・ロンドチェンバロ四重奏曲スカルラッティ声楽曲カンタータ戦時のミサ珍盤ザロモンセットN響ハルモニーミサミサ曲全集NHKホールハインリッヒミサピアノソナタ全集ジュピターレコードマーキュリー管弦楽曲室内楽変奏曲XVII:5交響曲54番交響曲41番ギターピアノソナタXVI:33府中ピアノソナタXVI:30カラヤンスウェーリンク書籍交響曲65番交響曲71番アプラウスピアノソナタXVI:13魂の歌仙台ヤナーチェク現代音楽狩りピアノソナタ

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