インバル/都響のマーラー「大地の歌」(東京芸術劇場)

前日のジョナサン・ノットの「復活」に続き連日のマーラー! 別にハイドンに愛想を尽かした訳ではありません(笑)

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東京都交響楽団:都響スペシャル

プログラムはエリアフ・インバル(Eliahu Inbal)指揮の東京都交響楽団の演奏で、マーラーの交響詩「葬礼」と「大地の歌」の2曲。コントラルトにアンナ・ラーション(Anna Larsson)、テノールにダニエル・キルヒ(Daniel Kirch)。

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こちらも最近行ったコンサートでチラシを見てチケットを取りました。インバルのマーラーはDENONのワンポイント録音の4番、5番あたりが話題になった時に5番のアルバムを手に入れ、その後かなり後に8番千人を手に入れたくらいで、その後はほとんど聴いていません。手元の5番のアルバムがリリースされたのが1986年ということで、かれこれ30年以上前のことになりますね。この頃のインバルのマーラーは非常に見通しの良い透明感に溢れた演奏。世の中ではバーンスタインの濃厚なマーラーが話題をさらっていました。私はこの頃までに、実演では小澤/新日本フィルの8番、カラヤン/ベルリンフィルの6番、アバド/ロンドン響の5番などを聴いていましたが、インバルのマーラーはちょっとアクがなさすぎて録音という面以外ではあんまり印象に残っていなかったのが正直なところ。ところが最近リリースされているアルバムやコンサートはなかなかいい評判ではありませんか。ということで、最近の充実ぶりを聴いてみようということでチケットを取った次第。都響はつい前週にミンコフスキのハイドンとブルックナーを聴いていますので2週連続ですね。

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最近東京は猛暑続き。ということで、池袋の東京芸術劇場に着くと、すでに汗だく。1階エスカレーターの裏にあるカフェでビールを煽って、クールダウンしながら開場時刻を待ちます。

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この日のコンサートは発売開始後しばらくしてから取ったものなので、あまりいい席は取れませんでした。2階席のいつもの右側ですが、3階席が庇のように張り出た下ということで、オケへの視線は確保できるものの、ちょっと圧迫感のある席。

1曲目は前日にジョナサン・ノットと東響の素晴らしい演奏の興奮さめやらん、マーラーの「復活」の1楽章の原曲。細かい部分はともかく、ほぼ「復活」の1楽章そのままの曲ということで、前日の演奏との嫌が応にも比較してしまいます。

ジョナサン・ノットのオケの配置は左右に第一、第二ヴァイオリンが別れコントラバスが第一ヴァイオリンのすぐ横にくる編成なのに対し、この日のインバルはオーソドックスに右にチェロ、その後ろにコントラバスというもの。席がオケから遠いのでその違いを視覚的に感じるのが精一杯でしたが、ノットがコントラバスを重要視していたのに対し、インバルはバランスを重視していたよう。

1曲目は、ジョナサン・ノットが新鮮なフレージングで常に緊張感を保っていたのに対し、インバルは流石に王道を行く安定感とバランスの良さ。オケの風圧は座席の影響を受けますが、1楽章中程の爆発は流石に大迫力。昔ほど透明感重視ではなく、オケをよく鳴らし、迫力も流石と思わせる演奏。私の印象ではこの曲では前日のノットの新鮮な解釈に分がありました。もちろん観客は拍手喝采でインバルを讃えます。この時点で私のインバルの演奏への印象は昔の演奏からは大分深みを感じられるようになったというもの。

ところが、休憩後の「大地の歌」を聴いてその印象も吹き飛びました。この大地の歌には心底驚きました。まさに奇跡の名演と言っていいでしょう。ワルターやクレンペラーの録音はそれこそ擦り切れるほど聴きましたが、今日のインバルの演奏はそれをはるかに超えるこの曲の凄みと深みの淵を見せてくれる圧倒的なものでした。大地の歌の特徴的な響きの中にも艶やかで流麗な響きをうまく救いあげて、晩年のカラヤンを上回る耽美的な美しさ、ジュリーニやアバドらのイタリアの指揮者の伸びやかさを、節度あるコントロールでまとめ上げ、響きの一つ一つを非常にデリケートに扱いながら、この曲に潜む厭世観を見事に表現仕切っていました。

オケは上手いというレベルではなく、インバルの流麗な棒に乗って妖艶な響きを聴かせ、ソロや静けさには凄みを感じさせるほど。何と言ってもホルンやトロンボーンのブワッっと響く大地の歌特有の響きの迫力も素晴らしいものがありました。これが日本のオケとはとても思えない素晴らしい響き。私は生で大地の歌を聴くのはこれがはじめてですが、これほどの演奏に出会うとは思ってもみませんでした。庇の下の席は横にお客さんがいないことを見計らって、休憩後はちょっと横にスライドしたせいか、響きも良く聴こえるようになったのも良かったですね。

コントラルトのアンナ・ラーションはまさに絶唱。アバドとルツェルン祝祭管と2番と3番のブルーレイに登場していますのでマーラーは得意としているのでしょうが、膨よかで艶やかな声は絶品。特に最後の告別はキャスリーン・フェリアの絶唱を過去のものとする現代の深みを感じさせました。テノールのダニエル・キルヒもアンナ・ラーションとは格が違うものの見事な歌唱でこなしていましたね。

告別の最後の一音が消え、インバルがタクトを下ろすと、ジワリと盛り上がる拍手。この大地の歌も都響の演奏史上に残る演奏として語り継がれる価値のある演奏でしょう。インバルという指揮者、今回の演奏会でその素晴らしさがしっかりと刷り込まれました。最近の評判が良いのが良くわかりました。

前日のジョナサン・ノットといい、この日のインバルといい、現在の日本のオケの素晴らしさは一昔前とは隔世の感がありますね。ここまでの演奏を聞ければ、高いチケットを買ってウィーンフィルやベルリンフィルの演奏を聴く価値も揺らごうというもの。インバルのコンサートは要注目ですね。

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tag : マーラー 東京芸術劇場

ジョナサン・ノット/東響のマーラー「復活」(ミューザ川崎)

7月16日(土)は以前からチケットを取ってあったコンサートに出かけました。

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東京交響楽団:川崎定期演奏会 第61回

このチケットを取ったのも、昨年12月に聴いたモーツァルトの「コシ・ファン・トゥッテ」が非常に面白かったからに他なりません。ジョナサン・ノットはフォルテピアノを弾きながらの指揮でしたが、実にイキイキとした音楽を繰り出し非常に引き締まった舞台を作っていたのが印象的でしたが、そのジョナサン・ノットがマーラーを振ったらどうなるのかというのが今回の聞きどころということでチケットを取った次第。

2016/12/12 : コンサートレポート : ジョナサン・ノット/東響の「コジ・ファン・トゥッテ」(東京芸術劇場)

この日のプログラムは下記の通り。

細川俊夫:「嘆き」 ~メゾ・ソプラノとオーケストラのための〜
グスタフ・マーラー:交響曲2番 「復活」

指揮:ジョナサン・ノット(Jonathan Nott) 東京交響楽団
ソプラノ:天羽明恵
メゾ・ソプラノ:藤村実穂子
合唱:東響コーラス

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会場は東響のホームグラウンドで、響きのとても良いミューザ川崎シンフォニーホール。この日の席は2階のオケの真右で上から指揮者とオケを俯瞰できる好きな席。ミューザ川崎は客席が螺旋状にオケを取り囲む座席配置なので、奏者との一体感もあり、サントリーホールや東京オペラシティよりも響きに癖がないのでお気に入りのホールです。1曲目の細川俊夫の曲も大編成のようで、ステージいっぱいに座席が設けられ、ホールに入った時には一部の奏者が音出しをしているのはいつもの通り。この時点でホールの響きの良さがわかります。

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1曲目の細川俊夫の「嘆き」は解説によればこの東日本大震災の津波の犠牲者、特に子供を失った母親に捧げられる哀悼歌とのこと。歌詞はザルツブルクの表現主義の詩人ゲオルク・トラークルによる2通の手紙と嘆きという構成。ザルツブルク音楽祭の委嘱により2011年から12年にかけて作曲され、2013年の同音楽祭でデュトワ指揮のN響、アンナ・プロハスカの独唱で初演。今回はメゾ・ソプラノの藤村実穂子のために書き下ろされた改訂版ということで、2015年5月に京都市交響楽団のヨーロッパ公演の壮行演奏会で広上淳一指揮で初演されたとのこと。私は現代音楽も嫌いではないんですが、細川俊夫の作品は初めて聴きます。手元にもアルバムはありません。

定刻になり、団員が登場。チューニングを終えるとジョナサン・ノットと真っ赤なドレスの藤村実穂子が登壇。ジョナサン・ノットがタクトを下ろすと、精緻な弱音での序奏が始まります。藤村実穂子は最初は手紙の朗読が中心、歌わないかと思いきや、途中から美声を轟かせ、会場の視線を釘付けにします。解説の歌詞対訳を見ながら聴きますが、「最近、恐ろしい出来事があり、私はもはやその影から逃れることができない。(訳:細川俊夫)」と始まるテキストの深い心の傷を表すような暗澹たる印象を感じますが、静寂に響きが浮かび上がるような現代音楽特有の感覚が続き、時折トラアングルやタムタム、風鈴など響きが印象的な打楽器を織り交ぜて色彩感を巧みに表現していきます。響きの精緻さ、美しさは武満に迫るものがあり、日本人らしい清透な感覚に貫かれた素晴らしい響きに満たされます。ジョナサン・ノットは非常に丁寧に響きを作っていき、この曲に込められた心情をしっかりと表現できていたと思います。素晴らしかったのは藤村実穂子のメゾ・ソプラノ。流石に一流どころだけあって圧倒的な存在感でした。最後の一音の余韻が静寂に吸い込まれて沈黙が続き、ノットがタクトをすっと下ろすと万雷の拍手。これは素晴らしかった! 会場が完全にのまれた感じでした。東響も完璧な演奏で最後まで集中力を保ってノットの指示に見事に応えていました。

休憩を挟んで、マーラーの復活。これまた素晴らしかった!

冒頭の唸るような低音弦から東響のコントラバス奏者の迫真の演奏に釘付け。鬼気迫るとはこのこと。ノットのマーラーは初めてですが、フレーズごとに非常に丁寧に曲を描いていくセンスとここぞという時の鋭いアクセントが絶妙。モーツァルトでも感じたフレッシュさを感じさせる音楽づくりがマーラーでもいきていました。その上、この日のオケの集中力は素晴らしく、オーボエのくっきり浮かび上がるようなソロをはじめとして、2台のティンパニ、トランペットなど金管陣も絶品。弦楽器の迫力、特にコントラバスは往時のベルリンフィルのような地響きを伴うようなうねりを感じるほど。1楽章半ばのクライマックスの炸裂で観客の度肝を抜き、完全にノットペースに。これは録音では味わえないもの。そして思った以上にバンダ隊の演奏箇所が多いこともわかりました。
1楽章のほとぼりを冷ますように、ゆっくりとコーラスが入場する間、しばらくノットもオケも静止。2楽章はゆったりとした音楽。こうした音楽でもジョナサン・ノットは華やかさをしっかり感じさせ、くっきりとした印象を保ちます。そして3楽章の「魚に説教するパドヴァの聖アントニウス」は各パートの音色の変化を巧みに強調していきます。ここでもコントラバスとティンパニが大活躍。フレーズごとに変化をさせながらバランス良く統一感を保っているのがノットの非凡なところでしょう。時折グランカッサが微弱音で不気味な気配を感じさせるのも実演で初めてわかること。
4楽章からメゾソプラノの藤村実穂子が入ります。1楽章終わりのコーラスの入場時にもソロの入場がないなと思っていたところに、いきなり藤村実穂子の声が轟きびっくりしますが、どうやら指揮者から見てオケの右側にいたらしく、私の席から死角になっていたようです。やはり艶やかで見事な歌。
最後の長大な5楽章は4楽章の響きが消えかかるところにノットが振りかぶって渾身の一撃から始まります。オケもこれまでノットのタクトに俊敏に反応して大音響を轟かせてきましたが、この静寂を断ち切るような大音響こそマーラーの真髄。このキレ味はこのコンビの現在の調子を物語るようですね。そしてそれに続いて美しい牧歌的なメロディーが流れ、曲が進みます。ここでもバンダ隊の金管陣とステージ上のピッコロとの掛け合いが見事にキマリます。終楽章でようやくコーラスが登場しますが、思ったより終盤の出でしたね。そして最初は座ったまま精妙な弱音のハーモニーを聴かせます。このコーラスの純度の高い響きも素晴らしかった。そしてソプラノの天羽明恵とメゾ・ソプラノの藤村実穂子も加わり、壮大なクライマックスへノットが最後の煽りをかけていきます。驚いたのはそれまでトライアングルやグロッケンシュピールを担当していたパーカッションの女性が終盤ティンパニの横に移動し、2台のティンパニを3人で同時に演奏する場面があること。これが楽譜の指示かはわかりませんが、巧みに書かれた大曲にも意外に細かい工夫があることがわかりました。最後は未曾有の迫力で鐘が打ち鳴らされながらのフィナーレ。観客もこのクライマックスには我慢できず、最後の音が消える前に大拍手に包まれました。これは致し方ないでしょう。

私が聴いたマーラーの演奏では間違いなく一番素晴らしかった演奏。昔小澤征爾が新日本フィルを振った千人も素晴らしかったですが、ジョナサン・ノットは見事なコントロールでこの大曲の真髄に迫る圧倒的な迫力と情感溢れる美しい響きをバランス良くまとめ上げました。拍手は弱まる気配を見せず、何度もジョナサン・ノットと歌手、合唱指揮者が呼び戻され、この日の素晴らしい体験を共有した観客と喜びを分かち合っていました。ノットは定年退団するメンバーを讃え、観客もひときわ大きい拍手を送っていたのが印象的でした。これは東響の演奏史に残る名演と言っていいでしょう。

これは東響とジョナサン・ノット、今後も楽しみですね。

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tag : マーラー ミューザ川崎

マルク・ミンコフスキ/都響の102番(東京文化会館)

昨日7月10日は気になっていたコンサートに出かけました。

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東京都交響楽団:第836回定期演奏会Aシリーズ

場所は上野の東京文化会館。プログラムはマルク・ミンコフスキ(Marc Minkowski)指揮の東京都交響楽団の演奏で、ハイドンの交響曲102番、ブルックナーの交響曲3番(ノヴァーク1873年初稿版)の2曲。もちろんお目当はハイドンです。

ミンコフスキはハイドン好きの方ならご存知のことでしょう。主兵のルーブル宮音楽隊とのザロモンセットやチェチーリアミサの録音があり、当ブログでもかなり前に取り上げています。

2012/05/18 : ハイドン–声楽曲 : マルク・ミンコフスキ/ルーブル宮音楽隊によるチェチーリア・ミサ
2010/05/15 : ハイドン–交響曲 : 流石だったぜ、ミンコフスキ
2010/05/15 : ハイドン–交響曲 : 古楽器新世代、弾む機知
2010/05/14 : ハイドン–交響曲 : ミンコフスキのザロモンセット到着

ザロモンセットの方は太鼓連打の奇抜な入りといい、遊び心たっぷりの演奏は世評もかなり良かったように記憶しています。録音では聴いていたものの、この演奏スタイルは是非一度生の演奏を聴いて見たいと思っていた人でした。そのミンコフスキが来日してハイドンの、それも実に通好みの102番を振ると聞いてチケットをとった次第。

ミンコフスキは1962年パリ生まれと私と同世代。米ピエール・モントゥー・スクールで指揮を学び、1982年に自身でルーブル宮音楽隊を設立し、バロックオペラを中心に活動してきました。ハイドンでは上記の通り、ザロモンセットの録音が話題になりましたね。有名オケとの共演歴も豊富で、ベルリンフィル、ウィーンフィル、シュターツカペレ・ドレスデンなどを筆頭に各地のオケに招かれています。あんまり知りませんでしたが、来日歴も何度かあり、このコンサートでのオケである都響は2014年8月、2015年12月に続き3回目の客演とのこと。また手兵のルーブル宮音楽隊ともハイドンの没後200年の2009年に初来日以降、2013年にもコンサートを開いていますし、2012年からオーケストラ・アンサンブル金沢のプリンシパル・ゲスト・コンダクターを務めるなど、意外と日本で活動していることがわかりました。

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この日のコンサート会場は東京文化会館。昔はコンサートといえばここが定番でしたがサントリーホール、東京オペラシティ、すみだトリフォニーと新しいホールができて、ここ東京文化会館に来るのは実に20年ぶりくらい。上野には美術館には適当な頻度で来るのですがコンサートでは来なくなっていました。

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先日向かいのル・コルビュジエ設計の国立西洋美術館が世界遺産に登録されていますが、その日本での一番弟子格であった前川國男設計の東京文化会館は意外に綺麗にメンテナンスされていて、ホワイエに入ると広々とした空間が実に心地よい。やはり名建築ですね。ただ、長年の利用の慣習か什器などが雑然と置かれ、空間の気高さに比べてちょっと雑然とした印象なのが惜しいところ。もう少し綺麗に使ってあげて欲しいところです。

ホール内部もカラフルなシートと昔から変わらぬ壁面の木製のオブジェ的装飾など懐かしい限り。ホール内を見渡し懐かしがっているうちに定刻となりオーケストラの団員が登壇。拍手に迎えられてミンコフスキも笑顔で登場しました。

前半はハイドンの102番。ミンコフスキがタクトを下ろすと音量とテンポを落とした序奏が丁寧に描かれ進みます。オケは出だしだからかちょっと不揃いなところもありましたが主題に入るとミンコフスキ特有の弾力的なリズムと推進力がみなぎり、オケも調子が出てきます。ことさらノンヴィブラート風に演奏するのではなく、躍動感、高揚感を保つよう非常に細かくタクトを震わせオケを煽っていくのが特徴でしょうか。ルーブル宮音楽隊とのザロモンセットの録音でも102番は名演ですので、その録音のオケと比べて聴くとオケの反応の鮮やかさに差があるのは致し方ないところ。ですが、現代楽器のオケによる演奏では、音楽のヴォリューム感というか大きな構造のバランスの良さがよく感じられる面もありますね。1楽章は流石ハイドンを得意とするミンコフスキ、手堅くまとめた印象。
柔らかく美しいアダージョは奇を衒うことなく比較的速めのテンポで色彩感とアゴーギクの面白さを生かした演奏。惜しむらくは、この東京文化会館の硬く乾いた響きで本来ならばもう少し感じられるであろう潤いに欠けていたこと。これはホールの所為でしょうが、都響のホームグラウンドですのでやむを得ないでしょう。
メヌエットは予想通り軽やか、そして生での聴きどころであるフィナーレもオケのキレと高揚感が素晴らしく聴きごたえがありました。意外と言ってはなんですが、都響もこの曲も終盤になると弦パートを始めとしてなかなかの切れ味。都響を聴くのも実に久しぶりですので改めて最近の充実ぶりがうかがえました。もう一つ流石だったのはミンコフスキが古典のハイドンの整然とした印象を保っていたこと。流石ハイドンを得意としている人ですね。

もちろん会場からは期待通りの演奏に拍手が降り注ぎました。

休憩後はブルックナーの3番。しかもノヴァーク1873年初稿版ということで、非常に珍しい版での演奏。解説によるとよく演奏されるのはノヴァーク第3稿でこの1873年版の16年後の版。ブルックナーは自身の曲をなんども修正したことで知られますが、この3番も今回演奏される版は作曲当初の若書きの部分があったりという版とのこと。ブルックナーは嫌いではないんですが、3番はほとんど馴染みがない上に、この若書き版ということで、非常に新鮮に聴けたんですが、、、 ブルックナーとは荘重に響くものという思い込みを木っ端微塵に打ち砕く、ミンコフスキならではの創意というか独創的な解釈というか、もしかしたらハイドンの驚愕で聴かせた悪ふざけというような演奏。速めのテンポでオケをグイグイ煽りながらバリバリ鳴らし、響きの変化とダイナミクスの変化を畳かけるように聴かせる演奏。ブルックナーに詳しい方にこの解釈の評価はお任せすることにして、私自身は驚きというか、違和感というか、アンマッチ感覚を覚えたのが正直なところ。それでも素晴らしかったのはオケの熱演。特にヴィオラやヴァイオリンの熱気は素晴らしく金管も安定感抜群。とにかく良くオケが鳴った演奏でした。

演奏が終わると、オケをフルスロットルで鳴らしきった充実感から、盛大な拍手とブラヴォーが降り注ぎましたが、一方瞬時に席を立って帰るお客さんも目立ち、ミンコフスキの解釈の評価は割れた感じでした。確かにオケの迫力とミンコフスキのコントロールは素晴らしかったんですが、これがブルックナーかと言われると、私は前衛的でちょっと奇異な解釈という印象を受けました。もちろん、私がブルックナーを語れる立場でもなく、一個人の感想に過ぎませんが、ハイドンの演奏でも前衛的で素晴らしい演奏があるのに対し、前衛的でちょっとハイドン本来の魅力をスポイルしてしまっている演奏もあり、どちらかというと後者に近い印象でした。

まあ、私のお目当のハイドンについては前半の素晴らしい演奏で満足しておりますので、この日の目的は達成というところでした。

ミンコフスキは今後も来日公演が予定されているようですので、またの機会にその音楽を確かめたいと思います。

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tag : 交響曲102番 東京文化会館

タリス・スコラーズ 2017年日本公演(東京オペラシティ)

このところ、コンサートにはよく出かけています。昨日6月5日(月)は、雷を伴う集中豪雨の中、東京オペラシティに行ってきました。

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アレグロミュージック タリス・スコラーズ 2017年 東京公演

ピーター・フィリップス(Peter Philips)指揮のタリス・スコラーズ(The Tallis Scholars)の2017年の日本公演。プログラムは下記の通り。

トマス・タリス:ミサ曲「おさな子われらに生まれ」(Missa Pour natus est nobis)
ウィリアム・バード:めでたし、真実なる御体(Ave verum corpus)
ウィリアム・バード:義人らの魂は(Justorum animae)
ウィリアム・バード:聖所にて至高なる主を賛美もて祝え(Laudibus in sanctis)
(休憩)
グレゴリオ・アレグリ:ミゼレーレ(Miserere)
クラウディオ・モンテヴェルディ:無伴奏による4声のミサ曲(Messa a quattro voci da capella)
ジョヴァンニ・ピエルルイジ・ダ・パレストリーナ:しもべらよ、主をたたえよ(Laudate Pueri)

タリス・スコラーズは古楽ファンならばご存知のことでしょう。ルネサンスの曲を中心に英Gimellレーベルから多くのアルバムがリリースされています。普段ハイドンばかり聴いている私も、タリス・スコラーズのアルバムは7枚ほど手元にあり、昔はよく聴いていました。そもそもの出会いは1988年のレコードアカデミー賞に、タリス・スコラーズのジョスカン・デ・プレのミサ曲集が選ばれたのきっかけに、そのアルバムを手に入れたこと。その澄み切ったコーラスのハーモニーの美しさに惹きつけられ、その後、パレストリーナやタリス、ヴィクトリアなど何枚かのアルバムを手に入れました。その中にアレグリのミゼレーレのアルバムがあり、これもリリース当時非常に話題になりました。そして、そのミゼレーレが再録音されたとの情報をききつけその再録音盤も手に入れました。そうこうしていた時に来日コンサートの情報が目に止まり、一度コンサートにも行っています。調べてみると、ブログを書き始める前の2007年の6月、当時の自宅の近くのパルテノン多摩でのコンサートでした。録音で聴いていた天にも昇るような透明なハーモニーがまさに目の前で歌われる感動に包まれたものでした。あれからもう10年もたったんですね。

今回は最近出かけたコンサートでもらったチラシにタリス・スコラーズのもの見つけ、迷いなくチケットを取った次第。またあの至福の時間を過ごせると思うとチケットを取らざるを得ません。しかもホールは東京オペラシティということで、さらに美しい響きが味わえるに違いありません。

今年一番楽しみにしていたコンサート故、いつも以上に仕事をそそくさと片付け、遅れてはならぬと余裕を持って会社を出ようとすると、外は雷が鳴り、バケツをひっくり返したような豪雨。もちろん、豪雨などにこの楽しみを奪われてはならぬと飛び出し、決死の形相でタクシーを捕まえ、歩けば職場から15分ほどのところにある東京オペラシティへ向かいます。タクシーに乗るまでと、降りてからホールに入るまでの短時間でスーツのズボンの裾はビッショリ(笑) ですが、そんなことより遅れずに到着した喜びが上回ったのは言うまでもありません。いつものように先にホールについていた嫁さんと合流して、ワインとサンドウィッチで体調を整え、演奏を待ちます。

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この日の席は2階席の右側1列目、ステージより少し客席側に入ったところ。先日このホールの3階席で聴いたサロネン/フィルハーモニア管があまり良い音響でなかったので、響きの良い2階を取った次第。ステージを至近距離で見下ろす良い席でした。

定刻前になってもいつものような鐘は鳴らず、自然にお客さんが座るのをゆっくり待ちます。ホール内が落ち着いたところでゆっくりと客席の照明が落ちてきて、衣装を黒で統一したメンバー10人とピーター・フィリップスがステージに登壇。日本の観客の暖かい拍手を楽しむように笑顔で登場。ソプラノが音叉で音程を確認すると、1曲目のタリスのミサ曲が始まります。

もう最初から絶妙なハーモニーにいきなり釘付け。10年前のコンサートの感動が蘇ります。単に精度の高いコーラスというのではなく、10人の声が織りなす純度の高い和音の絶妙なる響きに互いに共鳴するような圧倒的な透明感。声の出し方、響かせ方、音量のコントロールがおそらく相当精緻にコントロールされているのでしょうが、精緻すぎて超自然な領域にまで達している感じ。しかも以前聴いたパルテノン多摩とは異なり、教会堂に近いような木質系の柔らかい残響に包まれ、理想的な響きを作っています。ピーター・フィリップスは前回同様、最小限の小さなアクションでコーラスに指示を与えますが、オーケストラとは異なり、各パートは完全に指揮者からの指示が身についているようで、指示でコントロールされているという感じではなく、自然に指示とシンクロしている感じ。繰り出される目眩くようなポリフォニーに身を委ね、極上の響きに酔いしれます。最初の曲で早くも昇天しそうになります。グロリアに続き、サンクトゥス、ベネディクトゥス、アニュス・デイと続いて、最後のコーラスの余韻が静寂の中に消え、ピーター・フィリップスの手が降ろされると、ゆったりとした暖かい拍手に包まれます。この日のお客さんはこの響きを待っていたのでしょう。

2曲目からはウィリアム・バードの曲が3曲続きます。タリスの重厚なハーモニーから一転、静謐なメロディーを軸にしながらしなやかに展開するバードの恍惚とした音楽にかわります。やはりハーモニーの美しさにとろけっぱなしの至福のひとときでした。いくら録音のいいGimellのアルバムでも、実演のこの美しい響きは再現出来ません。前半の演奏時間は正味40分ぐらいだったでしょうか、それでも純度の高いコーラスの響きに癒され、この日のお客さんは皆笑顔で休憩時間を過ごされていました。

休憩の終わりにも何の合図もなく、お客さんが席に収まったところを見計らって照明がゆっくりと落ち、後半が始まります。我々は以前のコンサートで体験済みだったので、ステージ上に歌手が5人しかいない訳を知っていました。視線を客席の後ろの方に向けると2階席の左後ろ隅に4人、そして私たちの席からは死角でしたが、おそらく1階席の右側のどこかに1人歌手が立ち、後半の最初のアレグリのミゼレーレが始まります。この曲はバチカンのミケランジェロのフレスコ画で有名なシスティーナ礼拝堂でのみ演奏が許された曲とのこと。5声の第一合唱と4声の第二合唱が交互に歌いあい、間にテノールの語りが入るためホールの前と後ろと天から降り注ぐようなテノールによる立体的な響きに初めて聴く観客の方は驚くばかり。聴き進むうちにまるでシスティーナ礼拝堂にいるような錯覚に襲われます。この曲も新旧2枚のアルバムで聴くのとはレベルの異なるリアリティ。休憩前とはまた異なる響きのヴァリエーションに観客もうっとりするばかり。もちろん最後は後方の歌手にも惜しみない拍手が降り注ぎ、ホール全体が素晴らしい音楽に包まれる悦びを共有しました。

歌手がステージに戻ると、続いて今年生誕450年のアニヴァーサリーであるモンテヴェルディのミサ曲にパレストリーナの曲と続きます。あんまり馴染みのある曲ではないのですが、モンテヴェルディの陰りとパレストリーナの多彩な表情の違いを堪能し、まだまだ美しいポリフォニーに包まれていたいと思っているところで、プログラムは終了。暖かい拍手に2度目にステージに呼び戻されてたところでピーター・フィリップスが今年はモンテヴェルディの生誕450年に当たるのでと前置きしてアンコールの曲が始まりました。ほど拍手で

(アンコール)
モンテヴェルディ:主にむかいて新しき歌をうたえ(Cantate Domino)
トレンテス:今こそ主よ、僕を去らさせたまわん(Nunc Domittis)

結局2曲分、幸せな時間が過ごせてこの日のコンサートが幕切れに。いやいや素晴らしい一夜でした。一夜のコンサートがこれほどまでに人を癒すとは。やはり人の声というのはどんな楽器よりも心に響くものなのだと再認識した次第。ちょっと残念だったのはお客さんの入りは5割ほどでしょうか。この日の素晴らしいコンサートを堪能した身からすれば、これはもったいない。札幌でのコンサートを挟んでプログラムを変えて7日水曜にもオペラシティでの公演があります。スケジュールが調整できる方は、是非聴かれることをお勧めします!

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鈴木秀美/新日本フィルの天地創造(すみだトリフォニーホール)

昨日はすみだトリフォニーホールのコンサートに行ってきました。普段コンサートは夫婦2人で行くのですが、この日は嫁さんは学生時代の友人らと飲み会ということで、行く予定ではなかったこのコンサートの情報を数日前に思い出し、急遽1人分チケットをとった次第。

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新日本フィルハーモニー交響楽団 トパーズ #574

この日のプログラムは鈴木秀美の振る新日本フィルの「天地創造」。

鈴木秀美はご存知の通り、オーケストラ・リベラ・クラシカとハイドンの交響曲などをライヴで継続して録音している他、チェリストとしてはクイケンの指揮でのチェロ協奏曲の録音もあり、日本における近年のハイドン演奏の草分け的存在です。私もリベラ・クラシカとの録音は手元に10枚以上持っているんですが、特に初期にリリースされた交響曲の録音がピンと来ず、収集癖では誰にも負けない私も最近はあまり手を出していない状態なんですね。オケの精度は良いものの、リズムが重く、なんとなく教科書的な解説調の演奏で、フレーズやリズムに表情はあるのですが、音楽に表情がない感じがいつもつきまとう印象を拭えないという感じでしょうか。そんなこともあって、これまで記事にも取り上げてきませんでした。ただ、食わず嫌いも良くないと思って、このコンサートのことを思い出し、直前でも空席ありということでチケットをとった次第です。

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この日のソロと合唱は下記の通り。

ガブリエル/エヴァ:中江早希(Saki Nakae)
ウリエル:櫻田 亮(Makoto Sakurada)
ラヴァエル/アダム:多田羅 迪夫(Michio Tatara)
コーラス:コーロ・リベロ・クラシコ・アウメンタート(Coro Libero Classico Aumentato)

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土曜のコンサートなので開演は14:00。前々日にとったチケットということで、席は1階の後ろの方ですが、眺めも音も問題ありませんでした。この日の入りは6割くらいだったでしょうか。前日夜にも同じプログラムでのコンサートでしたので、まあまあの集客だったということでしょうか。

定刻になり、コーラスが整然と入場。そしてオケとコンサートマスターが揃ってチューニングを終えると、歌手と鈴木秀美が登壇。タクトなしで腕を振り上げ、第一部が始まります。いつもオケの近くで奏者や指揮者の表情が見える席が多いので、この日の席は遠くでバランスの良いオケの響きが鳴り響く感じで音は悪くありませんが、逆に奏者の表情まではわからないもどかしさがありますね。現代オケでの演奏ですが、やはりノンヴィブラート気味で古楽器らしい雰囲気を感じさせる演奏。オケは弦も金管も安定していてなかなかいい感じ。ただ、冒頭に書いた鈴木秀美風なリズムの重さというかちょっと説明調の雰囲気が残っており、まあ、入りは少し硬さがあるのかなといった感じで始まりました。なかなかの入りと思っていたのですが、混沌の描写でのラファエルの第一声で雰囲気が一変。ラファエルの多田羅さん、音程とリズムがかなりふらつきます。以前アーノンクールとコンツェントゥス・ムジクスの最後の来日公演となる天地創造でのフローリアン・ベッシュのホールを揺るがすような図太い第一声が印象に残っていますが、天地創造ではラファエルの存在は曲の主軸となるもの。この日の多田羅さんは終始この調子で、歌うたびに失速気味。逆にその直後のコーラスは精妙な透明感あふれる素晴らしい響きで持ち直します。そしてウリエルの櫻田さん、ガブリエルの中江さんともに非常にいい出来だっただけに、多田羅さんがかなり足を引っ張った形になりました。やはり、天地創造はラファエルが非常に重要な存在と再認識した次第。演奏の方は第一部のクライマックスにかけて、やはり生ならではの迫力で盛り上がり、演奏の方は期待以上。第二部もウリエル、ガブリエルのアリアは楽しめましたが、ラファエルは全く調子が上がりません。調子の問題ではないかもしれませんね。

休憩を挟んで、第三部はアダムとエヴァのデュエットが聴かせどころですが、変わらず。オケの方は冒頭の硬さがほぐれて朗々とクライマックスに向けて盛り上がりました。最後は拍手に包まれましがが、いつもは拍手が途絶えるまでコンサートの余韻を楽しんで退席するところ、なんとなくすぐに席を立って会場を後にしました。

この日に初めて天地創造を聴く人にとっては、迫力あるオーケストラによってハイドンの名曲を楽しめるコンサートだったと思いますが、私はちょっと楽しめませんでした。これは演奏の問題ではなく、配役の問題でしょう。

逆にテノールの櫻田さんは、バッハ・コレギウム・ジャパンとの共演で何度か聴いていましたが、よく通る透明感あふれる歌唱がなかなか良かったですし、ソプラノの中江さんも、おそらく生で聴くのは初めてでしたが、安定した歌唱でガブリエルとエヴァを好演、何よりコーラスの精度と透明感は印象に残りました。配役に穴があってはいけないといういい事例でしたね。

鈴木秀美とリベラ・クラシカのアルバム、もう少し集めて見ようかと思います。

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tag : すみだトリフォニーホール 天地創造

エサ=ペッカ・サロネン/フィルハーモニア管のマーラー「悲劇的」(東京オペラシティ)

5月18日(木)は、以前からチケットを取ってあったコンサートに行ってきました。

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東京オペラシティコンサートホール エサ=ペッカ・サロネン指揮 フィルハーモニア管弦楽団

エサ=ペッカ・サロネン(Esa-Pekka Salonen)指揮のフィルハーモニア管弦楽団の演奏で、プログラムはストラヴィンスキーの「葬送の歌」とマーラーの交響曲6番「悲劇的」の2曲。

1曲目のストラヴィンスキーの「葬送の歌」とは聞き覚えのない曲でしたが、それもそのはず。解説によれば、長らく紛失とされていた曲で、2015年にサンクトペテルスブルク音楽院の図書館で発見されたばかりのものとのこと。もともとストラヴィンスキーの師であった、リムスキー・コルサコフが1908年に亡くなった際に書かれた曲とのことで、ストラヴィンスキー26歳の頃の作品。

もちろん、この日のお目当は2曲目のマーラー。サロネンはあまり馴染みがなかったので一度聴いてみようと思っていたところしかも難曲のマーラー6番。日頃はハイドンばかり聴いていますが、ご存知のとおり、コンサートではマーラーやブルックナーは結構聴いています。逆に家でマーラーを1曲聴き通す忍耐力もあまりなくなってきていますので、コンサート以外ではなかなか聴くことができません。もちろん、大編成オケの迫力は実演に限りますね。

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この日は仕事を早々に切り上げ、勤務先からも近い東京オペラシティに向かいます。いつものように嫁さんが先に着いていて、サンドウィッチとワインを買って待っていたので、軽く腹ごしらえをして準備万端。

この日の席は、海外オケでチケットも高いので、ちょっと節約して3階席。ステージの右側で、指揮者とオケを真上から見下ろす感じの席でした。ステージ右側の低音弦やトロンボーンやチューバなどは見えませんが、指揮者の表情やアクションがよく見えて視覚的にはなかなかいい席でした。

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ステージ上は、1曲目のストラヴィンスキーもかなりの大編成の曲ということで、タケミツメモリアルホールのステージいっぱいにオケの席が配置され、かなりの数の団員が音出しをしています。定刻になりオケのメンバーが登壇しますが、日本のオケと異なり、演奏しないスタッフ(マネジメント?)の人もステージ上でメンバーと何やら談笑していて、緊張感のレベルが違うのが微笑ましいところ。

客席のライトが暗くなって、チューニングが始まり、程なくサロネン登場。1曲目のストラヴィンスキーが始まります。葬送の曲だけにゆったりとした曲調で暗澹、雄大な響きの曲。リズムが爆発することもないですが、調性には緊張感が伴います。解説にはストラヴィンスキー自身の言葉が引用されていました。

「巨匠の墓の周りを、オーケストラのソロ楽器の奏者たちが、皆で列をなして、進んでゆく。低い声で歌われる合唱の震え声を模倣するかのようにざわめくトレモロ。その深遠なる後景とともに、花輪を捧げるかのごとく旋律がかけめぐる。」

サロネンはかなり丁寧に奏者に指示を出しながらオケを緻密にコントロール。静かな葬儀の様子を描くような指揮ぶり。オケも緻密さを保って15分くらいの曲をまとめました。もちろん聴きなれぬ曲なのでサロネン自身の音楽がどのようなものかを感じ取るほどには至りませんが、響きの中には日本人同様の透明感が漂い、フレーズの一つ一つを練るようなヨーロッパの伝統とは別のものを感じました。フィンランド出身ということもそんなイメージにつながっているのかもしれませんね。日本初演との触れ込みも手伝って、観客も温かい拍手でサロネンを称えます。そしてサロネンは指揮台の楽譜を高く持ち上げ作曲者を称えました。

この曲の初演はついこの間の2016年12月にゲルギエフ指揮のマリインスキー歌劇場管弦楽団によるもので、一部が下記のリンク先で見られます。
Grammphone Live Streaming

一旦サロネンが袖に下がり、団員が一部入れ替わった後、休憩なしでマーラーに入ります。

サロネンは拍手が鳴り止まぬうちに、タクトを振り上げ演奏を始めます。1楽章のチェロとコントラバスによるリズムが始まりますが、速い。しかもその後のオケの入りのタイミングが乱れて聴こえます。これは後でわかったんですが席の問題でしょう。オケ直上の3階席で、ご存知のようにこのタケミツメモリアルホールは天井が非常に高い。そしてオケの真上には大きな反射板。直接音と反射板による間接音、そしてホールの残響が音域によって異なったタイミングで到着することに原因がありそうです。これが2階席だったら明らかに直接音がメインとなるでしょうが、3階席ということで直接音と間接音の差が少なくなります。金管の音も派手に滲んだ響きに聴こえるので嫁さんはずいぶん迫力があったとの感想。このホールの3階席ははじめてでしたが注意が必要ですね。
演奏に戻ると、サロネンは最初から超ハイテンションでオケを煽ります。一貫して早めのテンポを保ち、しかも所々でテンポをさらに上げたり独特のコントロール。先日聴いたカンブルランの巨人では強奏以外の部分を非常に丁寧に描いてしっとりとした旋律の美しさでハッとさせられましたが、そう言った意図は皆無。むしろ細かい点に気をとられることなくグイグイオケを煽ってマーラーのこの曲に仕込まれた分裂症的連鎖爆発をあぶり出すかのようにエネルギッシュな指揮。フレージングもあっさりというより淡白に近い割り切り方で逆に畳み掛けるようなエネルギーで聴かせます。オケはサロネンの煽りに懸命に合わせている感じ。精度は最近の日本のオケの方が上かもしれませんが、逆にこの割り切り方は日本のオケにはない響きかもしれません。日本のオケだともう少し行儀よくなってしまいそうですね。長い1楽章でサロネンの意図がハッキリと伝わりました。1楽章の指揮だけでボクシングの試合12ラウンド分のカロリーを消費した感じ。聴く方にもそのエネルギーが伝わります。
続くスケルツォは弦のキレとリズムのキレが印象的。相変わらずサロネンはテンポを速める煽りを随所に挟んで曲を引き締めます。特徴的なサロネンの解釈の中でも最もオーソドックスだったでしょうか。直裁なサロネンのコントロールが最もマッチしたというところでしょう。
そして天上の音楽のような3楽章はタクトを置いての指揮。やはりすっきりとした速めのテンポで見通しの良さが信条のような演奏。この曲の刷り込みは1979年の来日公演の予習用に買ったカラヤン/ベルリンフィルのLP。磨き抜かれたベルリンフィルの弦楽セクションの響きにうっとりとしたものです。サロネンはこれまでの楽章とは変わってフレージングは丁寧にこなしフィルハーモニア管の弦の美しさを印象に残します。ただチェレスタやハープはキリリとしたリズムを保つことでサロネンらしい引き締まった音楽が展開します。
そしてこの日の演奏を決定的に印象付けた終楽章。1楽章の演奏から予想はしていましたが、その予想を上回るエネルギー。もうハチャメチャに煽る。もちろん秩序が乱れることはありませんが高速道路フルスロットルでぶっ飛ばすような激演。やはり背景にはマーラーの分裂症的連鎖爆発があるのでしょう。サロネンも超ハイテンションで終楽章を通します。感動的だったのは最後の一撃がホールに消え入り、静寂をサロネンがゆったりと顔を上げるまで続いたこと。もちろんブラヴォーが降り注ぎ、最近聴いたコンサートの中では一番の嵐のような拍手に包まれました。

やはり録音で聴くのとはレベルの違うエネルギーに圧倒されたというのが正直なところでしょう。おそらく録音でこの演奏を聴いてもその凄さは伝わらないかもしれませんね。ホールにいた人だけが味わえるたぐいまれな完全燃焼の瞬間。拍手はオケが退場しても続きサロネンはスタンディングオベイションを続ける観客に深々とこうべを垂れ、拍手に応えていました。

細かいことにこだわらず、この曲の表現を一点絞ったサロネンの戦略が功を奏したということでしょう。

ホールを去る観客の興奮気味の笑顔が印象に残った一夜でした。

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tag : 東京オペラシティ マーラー ストラヴィンスキー

カンブルラン/読響:太鼓連打、巨人(東京芸術劇場)

4月8日土曜は以前からチケットを取ってあったコンサートに出かけました。

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読売日本交響楽団:第196回土曜マチネーシリーズ

現在読響の常任指揮者として活躍しているシルヴァン・カンブルランが、ハイドンの太鼓連打を取り上げるということでチケットを取ったもの。組み合わされる曲はマーラーの巨人。上のチラシのデザインを見ても明らかなとおり、メインディッシュはマーラーですが、もちろん私の興味は太鼓連打。

カンブルランが特別に好きなわけではありませんが、これまで随分コンサートに行っています。

2017/02/01 : コンサートレポート : カンブルラン/読響:メシアン「彼方の閃光」(サントリーホール)
2015/04/11 : コンサートレポート : カンブルラン/読響のリーム、ブルックナー(サントリーホール)
2014/04/18 : コンサートレポート : カンブルラン/読響のマーラー4番(サントリーホール)
2012/12/21 : コンサートレポート : カンブルラン/読響の第九(サントリーホール)
2012/04/16 : コンサートレポート : カンブルラン/読響の牧神の午後、ペトルーシュカ
2010/11/22 : コンサートレポート : カンブルラン/読売日響の朝、昼、晩
2010/07/14 : コンサートレポート : カンブルランのデュティユー
2010/05/02 : ハイドン–交響曲 : カンブルランのハイドン
2010/05/01 : コンサートレポート : カンブルランのハルサイ爆演

これまで読響のコンサートにはいろいろなプログラムが取り上げられましたが、私の聴いたなかでよかったのはやはり現代音楽。先日聴いたメシアンも素晴らしかったし、デュティユー、リームも絶品。最初にカンブルランを聴いたのが春の祭典でしたが、そのあと火の鳥もペトルーシュカも聴いて、こうしたプログラムでのカンブルランの色彩感豊かなコントロールが現代曲に華やかさを加え、フランス人らしいキレを感じさせているんですね。

逆にあまり良くなかったのはブルックナー。読響でブルックナーといえばスクロヴァチェフスキですが、カンブルランの演奏はフレーズがせかせかして明らかにブルックナーには合わない感じがしました。

やはりカンブルランは現代音楽で、独墺系の音楽に合わないのかといえば、さにあらず。2010年にはハイドンの朝、昼、晩を聴いていますが、これがなかなか良かったんですね。その記憶があって、今回は太鼓連打目的でチケットを取ったわけです。



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会場は池袋の東京芸術劇場。前日に母親が骨折の治療のため入院したのでバタバタしていましたが、前日中に手続きまで含めて終わりましたので、コンサートに行ける余裕ができました。

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マチネーということで開演は14時。いつもどおり少し早めについて、バーラウンジでワインを飲みながら腹ごしらえです。

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席は2階のステージ右脇。サントリーホールならRAあたりです。15分前くらいに席についてもらったチラシなど眺めながら開演時刻を待ちます。ステージ上は1曲目のハイドンに合わせて小編成のオーケストラ用の配置、、ですが、ハイドンの演奏に使うティンパニの後ろにはさらにティンパニが2台用意されており、後半のマーラー用のパーカッション群もちらほら見えます。

程なく開演時刻になり、オケのメンバーが登壇。コンサートマスターは荻原尚子さん。4月1日付でコンサートマスターに就任とのことで、このコンサートがデビューのようです。チューニングが終わり、カンブルランが登場。最初の入りはタクトで指示せず、ティンパニに任せます。遠雷のように入るものの最近の流行りか、途中から乱打に。1楽章は非常にシャープな演奏。ノンヴィブラート気味な弦の透明な響きをベースに、テンポよく各パートがクッキリ鮮明にメロディーを重ねます。カンブルランが首席指揮者になってからかなり演奏を重ねているので、各楽器もカンブルランの指示どおりに鮮やかな演奏。木管のニュアンスの豊かさに、金管群も非常に緻密な演奏で応えます。1楽章の構成感の見事さは惚れ惚れするほど。一部トランペットが音を外したところがある他は完璧な演奏でした。
素晴らしかったのが2楽章。一定のテンポでサクサク進めますが、音楽自体は非常に豊か。特に新コンサートマスターの荻原尚子さんのソロヴァイオリンのゆったりとした美音は別格。いい人をコンサートマスターに迎えましたね。
そしてメヌエットも見通しの良い展開。音量をスッと落としたり、気持ちよく吹き上がったりとスロットルコントロールの面白さが存分に活かされた演奏。
フィナーレは、この曲の総決算とばかり、古典の枠の中で自在に吹き上がるオケの小気味好いキレ味と、実にニュアンス豊かに鳴り響くメロディーの交錯に、最後は分厚く響き渡るオケの迫力を存分に聴かせて終了。やはりカンブルランの抑制を効かせながらも巧みにオケをコントロールするハイドンは素晴らしいですね。充実した演奏に会場からも万雷の拍手が降り注ぎます。

休憩中にステージ上は大オーケストラ用の配置に様変わり。休憩後もコンサートマスターは萩原さん。マーラーも実演では色々聴いていますが、1番「巨人」は初めて。カンブルランが登壇し、最初のフラジオレットの弱音が鳴り出し、遅めのテンポで入ります。カンブルランは弱音部を実にニュアンス豊かに丁寧に描いていくので、録音ではなかなかニュアンスが伝わりにくいところがしっかりと描かれていきます。1楽章ではステージ下手の扉を開け舞台裏からファンファーレが鳴り響く箇所が何箇所かありますが、扉の開き具合を微妙に変えて音量をコントロールしているのが印象的でした。太鼓連打同様、木管楽器の柔らかな響きと、金管陣の安定感は素晴らしいものがありました。流石にハイドンとは規模が異なる大オーケストラゆえ迫力はかなりのもの。静寂からオケの爆発に至るコントロールも見事に決まり1楽章を終えます。
2楽章はヴィオラやヴァイオリン、チェロ、コントラバスなどの弦楽器が大活躍。特にヴィオラの力感漲るボウイングは見事。オケを俯瞰できる席だったので、メロディーをパートごとに受け継いでいくやり取りの面白さが視覚的に入って来ます。タイトに引き締まったオケの響きがグイグイ迫ってくる快感。暗澹たる3楽章も実に丁寧なコントロールで聴きごたえ十分。3楽章までは冷静さも緊張感も保ち続けて見事な展開でした。
そしてフィナーレはオケの爆発に始まり、何度かの爆発を経て壮麗な最後に至りますが、このフィナーレの最後が少し力みが見られてちょっとくどい感じを残してしまいました。ここがマーラーの難しいところでしょう。4楽章の中盤までは理性的にコントロールが行き渡っていましたが、最後はゴリ押しした感じで惜しかったですね。もちろん会場のお客さんからはブラヴォーの嵐。ほおがびりつくほどの迫力でのフィナーレは素晴らしい迫力でした。読響も素晴らしい精度でカンブルランの指示に応じていましたので、カンブルランも満足そうに奏者を讃えていました。

おなじみのカンブルランの振ったハイドンの太鼓連打とマーラーの巨人。大迫力の巨人を楽しんだ人も多かったと思いますが、私はカンブルランの太鼓連打が深く印象に残りました。交響曲の父が書いた古典の完成形としての交響曲の秩序と機知と美しいメロディーが溶け合った曲に対し、その100年近く後に交響曲がたどり着いた、世紀末の成熟と退廃。演奏の方も。古典の名曲を現代音楽の奇才がきっちり料理しきった演奏と、マーラーという作曲家の作品を丹念に描きつつも、その演奏の難しさも感じさせたコンサートでした。

この秋、カンブルランはメシアンの歌劇「アッシジの聖フランチェスコ」を取り上げるとのこと。まずは手元のメシアン全集のケント・ナガノの演奏でも聴いて、どうするか決めようと思います。CD4枚分は長いですからね〜(笑)

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tag : 東京芸術劇場 マーラー 太鼓連打

アンドラーシュ・シフ ピアノリサイタル(東京オペラシティ)

3月21日月曜は、コンサートに出かけてきました。

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ハイドンファンにはおなじみのアンドラーシュ・シフ(András Schiff)による「ザ・ラスト・ソナタ」と銘打たれた2017年のコンサート。このコンサートに注目したのは、もちろんハイドンのソナタが演奏されるからに他なりません。

当初は3月25日土曜の彩の国さいたま芸術劇場のチケットを取っていたんですが、なんとドンピシャの日に仕事が入ってしまい、やむなくそのチケットを友人に譲り、ネットを駆使して(笑)あらためて東京オペラシティのチケットを取った次第。普段だったら、譲ってあきらめるだけで終わるんですが、なんとなくこういうコンサートは機会を逃すと再びチャンスがこないような気がしたので、私にしては珍しく深追いしたもの。

そういえば、以前もスクロヴァチェフスキと読響のブルックナーの7番も仕事で聴き逃しましたが、あとから考えるとあれを聴いておきたかったという思うばかり。

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この日の公式のプログラムは下記のとおり。

モーツァルト:ピアノ・ソナタ第17番 変ロ長調 K.570
ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第31番 変イ長調 op.110
ハイドン:ピアノ・ソナタ ニ長調 Hob. XVI:51
シューベルト:ピアノ・ソナタ第20番 イ長調 D959

「ザ・ラスト・ソナタ」と名を冠するのにふさわしく、モーツァルトもベートーヴェンもシューベルトも最晩年のソナタを並べていますし、ハイドンもロンドンで作曲された最後の3つのソナタの一つであるXVI:51が選ばれるなど、コンサートの企画としては一本筋の通ったもの。円熟の境地にあるシフの演奏とあって期待が高まりますね。

シフのハイドンのソナタ自体はDENONから1枚、TELDECから2枚組がリリースされていますが、DENON盤が1978年、TELDEC盤が1997年の録音と結構古いもの。フレージングはシフ独特の個性的なもので、多彩なタッチの変化とダイナミクスを強調した演奏が印象に残っています。また奥さんの塩川悠子とボリス・ベルガメンシコフと組んだピアノトリオのアルバムは昨年レビューに取り上げました。

2016/03/15 : ハイドン–室内楽曲 : アンドラーシュ・シフ/塩川 悠子/ボリス・ベルガメンシコフのピアノ三重奏曲(ハイドン)

ピアノソナタ集の方は、ハイドンの曲の良さをもう少し素直に出してもいいのではないかとも思われるもので、今回の実演でそのあたりのシフの個性がどう響くのかを確かめたかった次第。



さて、この日は年度末でバタバタのなか、仕事をやっつけて会場の東京オペラシティには開演の15分前に駆け込み到着。外はあいにくの雨でしたが、ホワイエにはすでに多くの人が駆けつけ、かなりの熱気でした。

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昼飯も抜きで仕事を片付けてきたのでお腹エコペコ。いつものようにサンドウィッチと赤ワインを5分で平らげ、プログラムを買って3分前に着席。この日の席は1階正面8列目とピアノを聴くにはベストポジション。会場はもちろん満員。

定刻の19:00を過ぎると会場の照明が少し落ちて、下手からシフが登場。

すぐにモーツァルトが始まります。コンサートの1曲目ということで、若干硬さも感じられるなか、シフらしく緩急とメリハリをしっかりつけながらフレーズごとの巧みな描き分けが徐々にくっきりと焦点が合ってきて、音楽が淀みなく流れるようになります。ピアノは最近のシフの定番ベーゼンドルファー。厚みというか独特の重みをもった低音に、すこしこもり気味に聴こえる石のような響きの高音が特徴ですが、モーツァルトの曲にはスタインウェイのようなクリアな響きの方が合うような気がしながら聴き進めます。そのうちに左手の表情の豊かさがこの演奏のポイントだという気にさせられ、シフがキレより迫力の表現が引き立つベーゼンドルファーを好む理由がわかったような気がしました。アレグロの起伏の陰影の深さに対し、アダージョの響きの柔らかさの対比は見事。タッチの多様さ表現の変化は流石なところ。そしてアレグレットではタッチの鮮やかさ、躍動感で圧倒されました。弾き進むうちに場内もシフに魔法をかけられたように集中度が上がります。もちろん盛大な拍手が降り注ぎますが、袖に下がることなくすぐに続くベートーヴェンに入ります。

ベートーヴェンは最初の入りは柔らかなハーモニーと力強いアクセントが豊かな情感のなかに交錯するような音楽でした。普段あまり聴かないせいか新鮮に聴こえます。暖かな音色と楔を打つような鋭い音にフレーズごとに巧みに変化する曲想がシフの魔法のようなタッチから紡ぎ出される感じ。ベーゼンドルファーだけに高音の輝きではなく、中低音の輝きが優先するような分厚い響きがベートーヴェンの力感を表すよう。2楽章は分厚い音色に襲われる感じ。タッチの軽さをかなり綿密に制御して、重厚さと軽やかさの対比のレンジが広大。そして3楽章の荘厳な印象も楽章間のコントラストの演出が完璧に決まります。モーツァルトでも豊穣だった響きがさらに豊穣さを増して、観客は皆前のめりでシフのタッチに集中します。またまた拍手が降り注ぎますが、シフはステージを囲う四方の観客に丁寧にお辞儀をしてすぐにピアノに向かいます。

もちろん私の興味はハイドンですが、このコンサートにおけるハイドンの役割はシフの表現力のうち軽やかな機知に満ちた表現に対する適性を垣間見せるという構図のよう。晩年のソナタでも珍しい2楽章構成の曲。最初からタッチのキレの良さが際立ちます。音が跳ね回るように見事な展開。ハイドンのソナタの演奏としては味付けは濃い目ですが、中音部で奏でられるメロディーの面白さはベーゼンドルファーならでは。そしてハイドンだからこそフレーズごとのタッチの変化の面白さが聴きどころ。やはり圧倒的な表現力はシフならではのもの。ハンガリー生まれのDNAに由来するのでしょうか。続く2楽章でもタッチの軽やかが際立ちます。うっとりとしながら人一倍聞き耳を立てて聴き入りますが、短い曲ゆえ、あっと言う間に終わってしまいます。私は2楽章構成と知って聴きますが、他の人は3楽章の始まりを期待しているような終わり方なので、拍手が湧き上がる間も無くすぐに続くシューベルトに入ってしまいます。

この日はやはりシューベルトがメインプログラムでした。普段ほとんどシューベルトは聴きません。その私が聴いてもこれは素晴らしい演奏でした。長大なソナタですが、シフがその魂を抜き取りピアノで再構成したような劇的かつ壮大な音楽。ちょっとくどい感じさえする低音の慟哭がシフの手にかかるとキレよく図太い低音の魅力に昇華され、時折聞かせる長い間が時空の幽玄さすら感じさせます。シューベルトが終わると、まさに嵐のような拍手が降り注ぎ、まさに観客の心をシフが鷲掴みにしてしまったがごとき状況。何度かのカーテンコールにつづいて、アンコールの演奏にシフがピアノの前に座り、演奏を始めました。

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最初はシューベルトの3つの小品から。アンコールとは思えない本格的な構成の曲に再び場内が静まり返ります。コンサートのプログラムも全て暗譜。そしてアンコールに入ってもさらりと演奏をはじめ、はじまると実に豊かな音楽が流れます。すべての曲を完全に自分のものにしきっているところに一流どころのプライドを感じます。シューベルトが終わったところで席を立つ人もいましたが、アンコールは1曲ではありませんでした。プログラム最後のシューベルトの演奏に酔いしれた観客に、さらにシューベルトがだめ押しで加わったかと思うと次はバッハのイタリア協奏曲の1楽章。バッハのアルバムをいろいろリリースしているだけあってシフのバッハを待っていた人も多かったのでしょう。アンコールに寄せられた拍手はどよめきにも近いものに変わります。これで終わりかと思っていると、シフはまたまたピアノに向かい、なんとイタリア協奏曲の2楽章、3楽章を演奏。すでに観客はクラクラ(笑)。完全にシフに魂もってかれてます。もちろん盛大な拍手に迎えられ、シフも引き下がれず、今度はゴリっとした感触が印象的なベートーヴェンの6つのバガテルから。ここまでくると、休憩なしで張り詰めっぱなしの観客とシフの根比べ(笑)。盛大な拍手にアンコールで応えるシフも引き下がらず、その後モーツァルトに最後はシューベルトの楽興の時を披露。聴き慣れた曲が異次元の跳躍感に包まれる至福のひととき。そして盛大な拍手が鳴り止まず、シフが再びピアノの前に座ると、そっと鍵盤の蓋を笑顔で下ろし、長い長いアンコールの終わりを告げ、観客も満足感に包まれました。

プログラムの演奏だけで90分ほど。そしてアンコールを入れると2時間半弱。休憩まったくなしで完璧な演奏を続けたシフ。私はプログラム最後のシューベルトの余韻に浸っていたかった気もしましたが、最後まで聴いてみると、シフの観客をもてなそうとする気持ちもわかり、これがシフの流儀だと妙に納得した次第。ピアノという楽器の表現力の偉大さをまざまざと見せつけられたコンサートでした。

先に紹介したようにシフのハイドンの録音は古いものばかり。この円熟の境地で再びハイドンのソナタに挑んでほしいと思うのは私ばかりではないはず。こころに響くいいコンサートでした。

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カンブルラン/読響:メシアン「彼方の閃光」(サントリーホール)

1月31日は楽しみにしていたコンサートに出かけました。

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読売日本交響楽団:第566回定期演奏会

シルヴァン・カンブルランの振る読響の演奏で、プログラムはメシアンの晩年の大作「彼方の閃光」。当ブログの読者の方ならご存知の通り、カンブルランが特別ご贔屓というわけではありませんが、カンブルランのコンサートには今まで結構な数通ってます。

2015/04/11 : コンサートレポート : カンブルラン/読響のリーム、ブルックナー(サントリーホール)
2014/04/18 : コンサートレポート : カンブルラン/読響のマーラー4番(サントリーホール)
2012/12/21 : コンサートレポート : カンブルラン/読響の第九(サントリーホール)
2012/04/16 : コンサートレポート : カンブルラン/読響の牧神の午後、ペトルーシュカ
2010/11/22 : コンサートレポート : カンブルラン/読売日響の朝、昼、晩
2010/07/14 : コンサートレポート : カンブルランのデュティユー
2010/05/01 : コンサートレポート : カンブルランのハルサイ爆演

カンブルランはこれまでにハイドンも振っていますが、カンブルランのコンサートのお目当はやはり現代物。最初に聴いた春の祭典も良かったんですが、そのあとのデュティユー、ペトルーシュカ、シェーンベルク、リームなどどれも素晴らしい出来でした。ということで、カンブルランがメシアンを振るとのことで楽しみにしていたコンサートです。

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今週は仕事がお休み。年に2度の長期休暇をとならくてはいけないんですが、年度末を前に1月末に2度目のお休みを消化です。せっかくのお休みなのにちょっと風邪気味ということで、この日は車でサントリーホールに出かけました。だいぶ早めについたので、ホールの向かいのオー・バカナルでサンドウィッチで腹ごしらえ。

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のんびり開場時間を待っているうちに、ホールの前に人が集まり始めたのでお店を出ます。いつも通り入り口上のからくり付きのパイプオルゴールが鳴って会場時刻を知らせると、ホールの前の人がホールに吸い込まれていきます。この日はメシアン1曲というハードなプログラムでしたが、かなりの人出。現代音楽でもこれだけの人を集められるあたり、カンブルランの功績でしょうね。

チケットを取るのが遅かったので好きなRA席は取れず、少し高いRB席。RA席がオケの真横からなのに対し、少し客席よりからのため、眺めはいいですね。

メシアンの「彼方の閃光(Éclairs sur L'au-delà)」は1992年のニューヨーク・フィルの創立150周年を記念してズービン・メータとニューヨーク・フィルの委嘱により作曲されたもの。1987年から91年にかけて作曲され、初演は1992年10月5日、メータ指揮のニューヨーク・フィルによってされましたが、メシアンは初演を聴くことなくその年の4月に亡くなりました。曲のテーマは神の地、彼岸とエルサレムへの瞑想とのこと。

手元には、リリース時に話題となったラトルの振るベルリンフィル盤と、DGのメシアンの32枚組全集のチョン・ミョンフンの振るバスティーユオペラ座管の2組がありますが、どちらも聴いたのはだいぶ前。メシアンの独特の音楽は現代音楽の中でも我々日本人には理解しにくい音楽ではないでしょうか。武満やブーレーズ、デュティユーなどはなんとなく作曲の動機というかやりたいことがなんとなく想像できるのですが、メシアンの音楽の展開はこちらの想像をかなり超えたところにあり、それが面白さでもあるように感じます。全11楽章で、随所にメシアンが採譜した鳥の鳴き声が散りばめられ、晩年の作品らしく内省的、静的な深みに溢れた曲です。

難曲だからか、会場直後でもステージ上には多数の奏者が練習中。始まる前からホールに鳥の声が満ち溢れていました。

開演時刻となり、オケがステージ上に勢ぞろい。もちろん大編成ですが、特徴的だったのがグランカッサはあるのにティンパニはなし。パーカッションはかなりの数に上り、ウィンドマシーンもありました。また木琴のような楽器が3台登場しますが、これはシロフォン、シロリンバ、マリンバとのこと。音色的にもこのシロフォン、シロリンバ、マリンバがオケに加わることで独特の響きを産むことがわかりました。

カンブルランがステージ上に現れ、第1楽章のトロンボーンなどを主体としたコラールをゆったりとしたテンポで紡いでいきます。刷り込みはラトル盤ですが、ラトルが現代音楽らしい冷静な透明感でコントロールしていたのとは異なり、カンブルランはやはり色彩感を大事にしているのか、透明感よりはハーモニー重視でしっかりと管を鳴らして入ります。11楽章の構成は下記の通り。

1.栄光あるキリストの出現 (Apparition du Christ glorieux)
2.射手座 (La Constellation du Sagittaire)
3.コトドリと神と婚姻した都 (L'Oiseau-lyre et la Ville-fiancée)
4.刻印された選ばれし人々 (Les Élus marqués du sceau)
5.愛の中に棲む (Demeurer dans l'Amour)
6.トランペットを持った7人の天使 - Les Sept Anges aux sept trompettes)
7.神は人々の目から涙をあまさず拭いたもう (Et Dieu essuiera toute larme de leurs yeux)
8.星たちと栄光 (Les Étoiles et la Gloire
9.生命の樹に棲む多くの鳥たち (Plusieurs Oiseaux des arbres de Vie)
10.見えざる道 (Le Chemin de l'Invisible)
11.キリスト、天国の栄光 (Le Christ, lumière du Paradis)

やはり眼前で大オーケストラが緻密な音楽を奏でていくのは迫力があります。この日の読響は精度抜群。ミスらしいミスはなく、カンブルランの棒に完全に集中できていました。ラトルが作品からちょっと距離を置いて冷静なコントロールに終始していたのとは異なり、カンブルランは積極的に音色をコントロールして丁寧に曲のメロディーを拾い上げ、フレーズの意味をかみしめるようにコントロールしていきます。大振りなアクションはいつも通りですが、メシアンのこの曲でも表情付けは緻密。同じフランス人だからでしょうか、音楽に共感したような踏み込んだところも多々あり、濃いめの演奏。素晴らしかったのが、フルートと木琴3台を中心とした鳥の鳴き声。鳥の鳴き声はあの世ではこう聴こえるのかと一瞬あちら側に行ったような気になります。楽章ごとに大きく表情を変え、特に5楽章の弦楽合奏の透明感、7楽章の木琴による鳥の描写の精妙さ、そして最終11楽章のトライアングルの微かなトレモロに乗った弦楽器による天上に昇りつめるような上昇感が印象に残りました。

約75分の大曲の最後にカンブルランのタクトが下され、ホールが静寂に包まれてしばし。そっと顔をあげると、暖かい拍手が降り注ぎ、カンブルランも読響の熱演を称えます。いやいや、この日の読響は上手かった。完璧な出来と言っていいでしょう。客席も満員とはいきませんが、9割方埋まり、しかもカンブルランのメシアンの熱演を皆称えるという、上質な観客でした。日頃はメジャー曲ばかりが取り上げられがちですが、このようなコンサートが埋まること自体、日本のコンサート文化も捨てたもんではありませんね。個人的には非常に感銘を受けたコンサートとなりました。



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終演後は皆笑顔で帰途につきます。私たち夫婦は、もちろん、いつも通り食事をして帰ります。最近お気に入りのホールの入り口向かいにあるスペインバル。

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食べログ:スペイン バレンシアナバル ブリーチョ

この日はちょっと風邪気味だったことから車で来ましたので、いつものようにワインガブリとはいきません。私はザクロジュース(涙)、嫁さんはサングリアを注文。

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いつも通り、入るとすぐに注文して、テキパキと運ばれて来ます。コンサート後なのでさらりといきたいところに、ピタリ。こちらはズッキーニのグラタン。

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最近いつも頼むムール貝のワイン蒸し。岩手産のムール貝がたっぷり。身も大きく食べ応えがあります。スープをパンに浸して食べるとなお旨し。

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そしてこちらはレンズ豆とチョリソの煮込み。こちらもお気に入りでいつも頼みます。チョリソの独特の風味が癖になる味なんですね。小一時間でお腹も満ちて、いい気分。本来ならワインをクイッといきたいところですが、車なのでそうもいきませんね。



さて、カンブルランは、今度はメシアンの「アッシジの聖フランチェスコ」を取り上げるそう。調べてみると4時間超のオペラとのことで、これはどうしようかと、、、(笑)

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長原幸太/宮田大/田村響のジプシーロンド(所沢市民文化センターミューズ)

12月23日天皇誕生日は、チケットを取ってあったコンサートへ。

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所沢市民文化センターミューズ:ミューズ主催公演 長原幸太[ヴァイオリン]×宮田大[チェロ]×田村響[ピアノ]

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会場は所沢と自宅からはちょっと遠いホールでのコンサートでしたが、ハイドンのピアノトリオがプログラムに入っているということと、奏者がよく聴いている読響のコンサートマスター長原幸太さんということ、また、会場の所沢のミューズも休みの日でないと行けない場所ということで、チケットを取った次第。プログラムは下記の通り。

ハイドン:ピアノ三重奏曲 Hob.XV:25「ジプシー・ロンド」
コダーイ:ヴァイオリンとチェロのための二重奏曲 Op.7
ベートーヴェン:ピアノ三重奏曲第7番 変ロ長調 Op.97「大公」

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メンバーの長原幸太はよくコンサートに行っている読響のコンアートマスターとして私にはお馴染みな人でしたが、今回調べて見ると生まれは1981年ということでまだ30代半ば。見た目より若いですね(笑)。小学生時代から頭角を現し、全日本学生音楽コンクール全国大会(小学校の部)で1位となり、以降名門藝大を出て、こちらも名門ニューヨークのジュリアード音楽院に留学、最年少でサイトウキネンオーケストラに入団するなど才能に溢れた人。2004年から大阪フィルの首席客演コンサートマスター、2006年より同首席コンサートマスター、2014年から読響のコンサートマスターとなっています。

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宮田大は、以前小澤征爾の振る水戸室内管弦楽団とハイドンのチェロ協奏曲を演奏した映像が放送され、Blu-rayディスクもリリースされているのでご存知の方も多いでしょう。1986年生まれで、同じく若い頃からチェロを学び、桐朋学園を卒業し、2009年日本人として初めて、ロストロポーヴィチチェロコンクールで優勝した経歴の持ち主。
ピアノの田村響も同じく1986年生まれ、ザルツブルクのモーツァルテウムで学び、2007年、パリで開催されたロン=ティボー国際コンクールピアノ部門で優勝しています。現在は京都市立芸術大学の講師とのこと。

ということで、メンバーは皆若手実力派というところ。



この日はホールまで遠いので結構早めに家を出ましたので、ホールに着いたのは開場時間のかなり前。ここは大ホール、中ホール、小ホールなどいろいろある総合施設で、ぶらりと歩きまわって見るとレストランがありましたので、時間つぶしに寄ってみます。

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食べログ:響

自宅で昼食をとって出かけてきましたので、14時前のこの時間はお腹が空いているわけではありません。ということで頼んだのは地ビールの所沢ビールの4種テイスティングセット! 野老ゴールデン、スモーキン、ダークホース、ファラオの4種ですが、これがちょっといけません。ビールはいいと思うのですが、グラスがビールに全く合わず、泡も切れた状態で供され、ビール好きな人からしたら、出し方が台無です。しかも最初に3種出てきて、残りは結構経ってからということで、せっかくの地ビールが残念な感じでした。

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つまみのピクルス。こちらは浅い漬かり具合。ビールのつまみにするにはもう少ししっかり漬かっていた方がいいでしょう。

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嫁さんはあんみつ! この日はポカポカ陽気でしたので正解です。

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あんみつにはお茶でしょうが、ここは狭山茶の産地ということで、極上狭山茶「極」。こちらはまあまあでした。

ひとしきりのんびりして、時刻は開演30分前くらいになりましたのでホールに移動します。

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この日の席はステージ前の左側の前から3列目。ミューズの大ホール、アークホールは平面を見るとウィーンのムジークフェラインそっくりのシューボックス型。1993年オープンということでもう20年以上経っていますが、それほど古びた感じもなく、ホールはかなり本格的な作りで綺麗。正面には本格的なパイプオルガンがあり、その両脇には彫像が立つなどバブル期に計画されたと思わせる豪華な感じ。設計は公共建築の多い石本建築事務所。ホールの音響設計はヤマハとのこと。初めて聴くホールなので色々気になります。



この日のお客さんの入りは5割程度だったでしょうか。この演目で都心から離れたこのホールとしては健闘しているところでしょう。開演時刻になると、3人の奏者がステージに上がり、簡単なチューニングを済ませると、すぐにハイドンの名曲です。

冒頭から非常にキレのいい演奏。まるで録音を聴いているような完璧な演奏に驚きます。ヴァイオリンの長原さんは冒頭から安定感抜群。オケではソロの部分は多くはありませんが、こうして聴くと素晴らしいテクニックの持ち主であることがわかります。美音を轟かせながらも、どっしりと揺るぎない堅固な演奏。他の2人もキレ味抜群。何よりピアノトリオとしてのアンサンブルのまとまりは録音を含めて一流どころに劣るどころか、1、2を争うような素晴らしい出来。3人とも若手にモカ関わらず、鮮度抜群な上に非常に冷静に音楽を造っていく才能に溢れ、アンサンブルの絶妙な掛け合いの魅力も、繊細な表情の変化も聴かせる完璧な出来。今日初めて聴くピアノの田村さん、こちらもリズムの安定感とタッチのキレが素晴らしく、トリオの骨格を見事に支えていました。ステージにかなり近い席だったせいか、強音の後の余韻がホールに吸い込まれていく響きの美しさは惚れ惚れするほど。3人のアンサンブルが絶妙に美しく響き渡ります。これでこそピアノトリオ。
胸のすくような1楽章のアンサンブルから、ゆったりと宝石のように輝くポコ・アダージョに入ると。ピアノの田村さんの繰り出すまさに転がりながら光り輝くピアノの音にうっとり。ちょっと怖い人のような風体ですが、流れ出す音楽のピュアさはかなりのもの。ヴァイオリンとチェロが代わる代わる美しいメロディーを紡いでいきますが、メランコリックになることなく、透明感溢れる音楽を維持します。
そしてフィナーレのジプシーロンドは再び、ヴァイオリンとチェロの快刀のごとき弓使いに圧倒される楽章。速いパッセージのキレ味は火花が散るよう。そしてジプシー風のメロディーに入ると長原さんの弓が飛び回るように走ります。以前聴いたリッカルド・ミナーシの路上パフォーマンスのような砕け方はしないものの、手に汗握るようなパフォーマンスは流石なところ。最後の一音をかき消すように拍手が降り注ぎました。いやいや、若手実力者が揃ったとはいえ、ここまでの完成度だとは思いませんでした。実演の迫力も手伝って、この曲のベストの演奏を聴いた気分。

次はピアノなしの、コダーイのヴァイオリンとチェロのための二重奏曲。この曲は初めて聴きますが、技巧が凝らされた複雑な曲だけに演奏は極めてむずかしそう。演奏は神がかったような集中力を伴ったもの。2人のテクニックを存分に活かした素晴らしいもので、2人が織りなす素晴らしいア濃密なアンサンブルを堪能できました。これにはハイドンを上回る拍手が降り注ぎました。

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休憩を挟んで、後半は再びピアノトリオになりベートーヴェンの大公。もちろん素晴らしい演奏だったんですが、曲自体を苦手としているためか、あるいは前半の鮮烈なキレの良い演奏に対して、後半のプログラムの曲想がしなやかなものだったので、3人のアンサンブルの緻密な魅力が映えなかったからか、前半ほどのインパクトは感じられませんでした。ベートーヴェンの代表的なピアノトリオですが、ハイドンのシンプルな曲想に比べてどうも音符に無駄が多く、曲の緻密さの違いから楽しめなかったのかもしれません。まあ、ハイドンのブログということでお許しいただきたいと思います。もちろん会場からは割れんばかりの拍手がふりそそき、何度か拍手に促されて登壇したのちにアンコールということで、最初のジプシーロンドの3楽章を再度演奏。もちろんアクロバティックな弓さばきに拍手喝采でコンサートを終えました。

後半のベートーヴェンにちょっと難癖つけちゃいましたが、この日のコンサートは大満足。特に前半は今まで聴いた室内楽のコンサートではベストのものでした。何より若手3人の息の合った精緻なアンサンブルの素晴らしさは録音を含めても非常にレベルが高く、欧米の一流どころに引けをとるものではありませんね。いいコンサートでした。また所沢のミューズも素晴らしい響きということがわかりましたので、機会があればまた来てみたいところですね。

さて、もうクリスマスになっちゃいましたネ。いよいよ年の瀬です。

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なぜかハイドン(Franz Joseph Haydn)が特に気に入り膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。東京在住のごく普通のサラリーマンです。

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