アンドラーシュ・シフ ピアノリサイタル(東京オペラシティ)

3月21日月曜は、コンサートに出かけてきました。

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ハイドンファンにはおなじみのアンドラーシュ・シフ(András Schiff)による「ザ・ラスト・ソナタ」と銘打たれた2017年のコンサート。このコンサートに注目したのは、もちろんハイドンのソナタが演奏されるからに他なりません。

当初は3月25日土曜の彩の国さいたま芸術劇場のチケットを取っていたんですが、なんとドンピシャの日に仕事が入ってしまい、やむなくそのチケットを友人に譲り、ネットを駆使して(笑)あらためて東京オペラシティのチケットを取った次第。普段だったら、譲ってあきらめるだけで終わるんですが、なんとなくこういうコンサートは機会を逃すと再びチャンスがこないような気がしたので、私にしては珍しく深追いしたもの。

そういえば、以前もスクロヴァチェフスキと読響のブルックナーの7番も仕事で聴き逃しましたが、あとから考えるとあれを聴いておきたかったという思うばかり。

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この日の公式のプログラムは下記のとおり。

モーツァルト:ピアノ・ソナタ第17番 変ロ長調 K.570
ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第31番 変イ長調 op.110
ハイドン:ピアノ・ソナタ ニ長調 Hob. XVI:51
シューベルト:ピアノ・ソナタ第20番 イ長調 D959

「ザ・ラスト・ソナタ」と名を冠するのにふさわしく、モーツァルトもベートーヴェンもシューベルトも最晩年のソナタを並べていますし、ハイドンもロンドンで作曲された最後の3つのソナタの一つであるXVI:51が選ばれるなど、コンサートの企画としては一本筋の通ったもの。円熟の境地にあるシフの演奏とあって期待が高まりますね。

シフのハイドンのソナタ自体はDENONから1枚、TELDECから2枚組がリリースされていますが、DENON盤が1978年、TELDEC盤が1997年の録音と結構古いもの。フレージングはシフ独特の個性的なもので、多彩なタッチの変化とダイナミクスを強調した演奏が印象に残っています。また奥さんの塩川悠子とボリス・ベルガメンシコフと組んだピアノトリオのアルバムは昨年レビューに取り上げました。

2016/03/15 : ハイドン–室内楽曲 : アンドラーシュ・シフ/塩川 悠子/ボリス・ベルガメンシコフのピアノ三重奏曲(ハイドン)

ピアノソナタ集の方は、ハイドンの曲の良さをもう少し素直に出してもいいのではないかとも思われるもので、今回の実演でそのあたりのシフの個性がどう響くのかを確かめたかった次第。



さて、この日は年度末でバタバタのなか、仕事をやっつけて会場の東京オペラシティには開演の15分前に駆け込み到着。外はあいにくの雨でしたが、ホワイエにはすでに多くの人が駆けつけ、かなりの熱気でした。

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昼飯も抜きで仕事を片付けてきたのでお腹エコペコ。いつものようにサンドウィッチと赤ワインを5分で平らげ、プログラムを買って3分前に着席。この日の席は1階正面8列目とピアノを聴くにはベストポジション。会場はもちろん満員。

定刻の19:00を過ぎると会場の照明が少し落ちて、下手からシフが登場。

すぐにモーツァルトが始まります。コンサートの1曲目ということで、若干硬さも感じられるなか、シフらしく緩急とメリハリをしっかりつけながらフレーズごとの巧みな描き分けが徐々にくっきりと焦点が合ってきて、音楽が淀みなく流れるようになります。ピアノは最近のシフの定番ベーゼンドルファー。厚みというか独特の重みをもった低音に、すこしこもり気味に聴こえる石のような響きの高音が特徴ですが、モーツァルトの曲にはスタインウェイのようなクリアな響きの方が合うような気がしながら聴き進めます。そのうちに左手の表情の豊かさがこの演奏のポイントだという気にさせられ、シフがキレより迫力の表現が引き立つベーゼンドルファーを好む理由がわかったような気がしました。アレグロの起伏の陰影の深さに対し、アダージョの響きの柔らかさの対比は見事。タッチの多様さ表現の変化は流石なところ。そしてアレグレットではタッチの鮮やかさ、躍動感で圧倒されました。弾き進むうちに場内もシフに魔法をかけられたように集中度が上がります。もちろん盛大な拍手が降り注ぎますが、袖に下がることなくすぐに続くベートーヴェンに入ります。

ベートーヴェンは最初の入りは柔らかなハーモニーと力強いアクセントが豊かな情感のなかに交錯するような音楽でした。普段あまり聴かないせいか新鮮に聴こえます。暖かな音色と楔を打つような鋭い音にフレーズごとに巧みに変化する曲想がシフの魔法のようなタッチから紡ぎ出される感じ。ベーゼンドルファーだけに高音の輝きではなく、中低音の輝きが優先するような分厚い響きがベートーヴェンの力感を表すよう。2楽章は分厚い音色に襲われる感じ。タッチの軽さをかなり綿密に制御して、重厚さと軽やかさの対比のレンジが広大。そして3楽章の荘厳な印象も楽章間のコントラストの演出が完璧に決まります。モーツァルトでも豊穣だった響きがさらに豊穣さを増して、観客は皆前のめりでシフのタッチに集中します。またまた拍手が降り注ぎますが、シフはステージを囲う四方の観客に丁寧にお辞儀をしてすぐにピアノに向かいます。

もちろん私の興味はハイドンですが、このコンサートにおけるハイドンの役割はシフの表現力のうち軽やかな機知に満ちた表現に対する適性を垣間見せるという構図のよう。晩年のソナタでも珍しい2楽章構成の曲。最初からタッチのキレの良さが際立ちます。音が跳ね回るように見事な展開。ハイドンのソナタの演奏としては味付けは濃い目ですが、中音部で奏でられるメロディーの面白さはベーゼンドルファーならでは。そしてハイドンだからこそフレーズごとのタッチの変化の面白さが聴きどころ。やはり圧倒的な表現力はシフならではのもの。ハンガリー生まれのDNAに由来するのでしょうか。続く2楽章でもタッチの軽やかが際立ちます。うっとりとしながら人一倍聞き耳を立てて聴き入りますが、短い曲ゆえ、あっと言う間に終わってしまいます。私は2楽章構成と知って聴きますが、他の人は3楽章の始まりを期待しているような終わり方なので、拍手が湧き上がる間も無くすぐに続くシューベルトに入ってしまいます。

この日はやはりシューベルトがメインプログラムでした。普段ほとんどシューベルトは聴きません。その私が聴いてもこれは素晴らしい演奏でした。長大なソナタですが、シフがその魂を抜き取りピアノで再構成したような劇的かつ壮大な音楽。ちょっとくどい感じさえする低音の慟哭がシフの手にかかるとキレよく図太い低音の魅力に昇華され、時折聞かせる長い間が時空の幽玄さすら感じさせます。シューベルトが終わると、まさに嵐のような拍手が降り注ぎ、まさに観客の心をシフが鷲掴みにしてしまったがごとき状況。何度かのカーテンコールにつづいて、アンコールの演奏にシフがピアノの前に座り、演奏を始めました。

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最初はシューベルトの3つの小品から。アンコールとは思えない本格的な構成の曲に再び場内が静まり返ります。コンサートのプログラムも全て暗譜。そしてアンコールに入ってもさらりと演奏をはじめ、はじまると実に豊かな音楽が流れます。すべての曲を完全に自分のものにしきっているところに一流どころのプライドを感じます。シューベルトが終わったところで席を立つ人もいましたが、アンコールは1曲ではありませんでした。プログラム最後のシューベルトの演奏に酔いしれた観客に、さらにシューベルトがだめ押しで加わったかと思うと次はバッハのイタリア協奏曲の1楽章。バッハのアルバムをいろいろリリースしているだけあってシフのバッハを待っていた人も多かったのでしょう。アンコールに寄せられた拍手はどよめきにも近いものに変わります。これで終わりかと思っていると、シフはまたまたピアノに向かい、なんとイタリア協奏曲の2楽章、3楽章を演奏。すでに観客はクラクラ(笑)。完全にシフに魂もってかれてます。もちろん盛大な拍手に迎えられ、シフも引き下がれず、今度はゴリっとした感触が印象的なベートーヴェンの6つのバガテルから。ここまでくると、休憩なしで張り詰めっぱなしの観客とシフの根比べ(笑)。盛大な拍手にアンコールで応えるシフも引き下がらず、その後モーツァルトに最後はシューベルトの楽興の時を披露。聴き慣れた曲が異次元の跳躍感に包まれる至福のひととき。そして盛大な拍手が鳴り止まず、シフが再びピアノの前に座ると、そっと鍵盤の蓋を笑顔で下ろし、長い長いアンコールの終わりを告げ、観客も満足感に包まれました。

プログラムの演奏だけで90分ほど。そしてアンコールを入れると2時間半弱。休憩まったくなしで完璧な演奏を続けたシフ。私はプログラム最後のシューベルトの余韻に浸っていたかった気もしましたが、最後まで聴いてみると、シフの観客をもてなそうとする気持ちもわかり、これがシフの流儀だと妙に納得した次第。ピアノという楽器の表現力の偉大さをまざまざと見せつけられたコンサートでした。

先に紹介したようにシフのハイドンの録音は古いものばかり。この円熟の境地で再びハイドンのソナタに挑んでほしいと思うのは私ばかりではないはず。こころに響くいいコンサートでした。

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tag : 東京オペラシティ モーツァルト ベートーヴェン シューベルト

カンブルラン/読響:メシアン「彼方の閃光」(サントリーホール)

1月31日は楽しみにしていたコンサートに出かけました。

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読売日本交響楽団:第566回定期演奏会

シルヴァン・カンブルランの振る読響の演奏で、プログラムはメシアンの晩年の大作「彼方の閃光」。当ブログの読者の方ならご存知の通り、カンブルランが特別ご贔屓というわけではありませんが、カンブルランのコンサートには今まで結構な数通ってます。

2015/04/11 : コンサートレポート : カンブルラン/読響のリーム、ブルックナー(サントリーホール)
2014/04/18 : コンサートレポート : カンブルラン/読響のマーラー4番(サントリーホール)
2012/12/21 : コンサートレポート : カンブルラン/読響の第九(サントリーホール)
2012/04/16 : コンサートレポート : カンブルラン/読響の牧神の午後、ペトルーシュカ
2010/11/22 : コンサートレポート : カンブルラン/読売日響の朝、昼、晩
2010/07/14 : コンサートレポート : カンブルランのデュティユー
2010/05/01 : コンサートレポート : カンブルランのハルサイ爆演

カンブルランはこれまでにハイドンも振っていますが、カンブルランのコンサートのお目当はやはり現代物。最初に聴いた春の祭典も良かったんですが、そのあとのデュティユー、ペトルーシュカ、シェーンベルク、リームなどどれも素晴らしい出来でした。ということで、カンブルランがメシアンを振るとのことで楽しみにしていたコンサートです。

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今週は仕事がお休み。年に2度の長期休暇をとならくてはいけないんですが、年度末を前に1月末に2度目のお休みを消化です。せっかくのお休みなのにちょっと風邪気味ということで、この日は車でサントリーホールに出かけました。だいぶ早めについたので、ホールの向かいのオー・バカナルでサンドウィッチで腹ごしらえ。

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のんびり開場時間を待っているうちに、ホールの前に人が集まり始めたのでお店を出ます。いつも通り入り口上のからくり付きのパイプオルゴールが鳴って会場時刻を知らせると、ホールの前の人がホールに吸い込まれていきます。この日はメシアン1曲というハードなプログラムでしたが、かなりの人出。現代音楽でもこれだけの人を集められるあたり、カンブルランの功績でしょうね。

チケットを取るのが遅かったので好きなRA席は取れず、少し高いRB席。RA席がオケの真横からなのに対し、少し客席よりからのため、眺めはいいですね。

メシアンの「彼方の閃光(Éclairs sur L'au-delà)」は1992年のニューヨーク・フィルの創立150周年を記念してズービン・メータとニューヨーク・フィルの委嘱により作曲されたもの。1987年から91年にかけて作曲され、初演は1992年10月5日、メータ指揮のニューヨーク・フィルによってされましたが、メシアンは初演を聴くことなくその年の4月に亡くなりました。曲のテーマは神の地、彼岸とエルサレムへの瞑想とのこと。

手元には、リリース時に話題となったラトルの振るベルリンフィル盤と、DGのメシアンの32枚組全集のチョン・ミョンフンの振るバスティーユオペラ座管の2組がありますが、どちらも聴いたのはだいぶ前。メシアンの独特の音楽は現代音楽の中でも我々日本人には理解しにくい音楽ではないでしょうか。武満やブーレーズ、デュティユーなどはなんとなく作曲の動機というかやりたいことがなんとなく想像できるのですが、メシアンの音楽の展開はこちらの想像をかなり超えたところにあり、それが面白さでもあるように感じます。全11楽章で、随所にメシアンが採譜した鳥の鳴き声が散りばめられ、晩年の作品らしく内省的、静的な深みに溢れた曲です。

難曲だからか、会場直後でもステージ上には多数の奏者が練習中。始まる前からホールに鳥の声が満ち溢れていました。

開演時刻となり、オケがステージ上に勢ぞろい。もちろん大編成ですが、特徴的だったのがグランカッサはあるのにティンパニはなし。パーカッションはかなりの数に上り、ウィンドマシーンもありました。また木琴のような楽器が3台登場しますが、これはシロフォン、シロリンバ、マリンバとのこと。音色的にもこのシロフォン、シロリンバ、マリンバがオケに加わることで独特の響きを産むことがわかりました。

カンブルランがステージ上に現れ、第1楽章のトロンボーンなどを主体としたコラールをゆったりとしたテンポで紡いでいきます。刷り込みはラトル盤ですが、ラトルが現代音楽らしい冷静な透明感でコントロールしていたのとは異なり、カンブルランはやはり色彩感を大事にしているのか、透明感よりはハーモニー重視でしっかりと管を鳴らして入ります。11楽章の構成は下記の通り。

1.栄光あるキリストの出現 (Apparition du Christ glorieux)
2.射手座 (La Constellation du Sagittaire)
3.コトドリと神と婚姻した都 (L'Oiseau-lyre et la Ville-fiancée)
4.刻印された選ばれし人々 (Les Élus marqués du sceau)
5.愛の中に棲む (Demeurer dans l'Amour)
6.トランペットを持った7人の天使 - Les Sept Anges aux sept trompettes)
7.神は人々の目から涙をあまさず拭いたもう (Et Dieu essuiera toute larme de leurs yeux)
8.星たちと栄光 (Les Étoiles et la Gloire
9.生命の樹に棲む多くの鳥たち (Plusieurs Oiseaux des arbres de Vie)
10.見えざる道 (Le Chemin de l'Invisible)
11.キリスト、天国の栄光 (Le Christ, lumière du Paradis)

やはり眼前で大オーケストラが緻密な音楽を奏でていくのは迫力があります。この日の読響は精度抜群。ミスらしいミスはなく、カンブルランの棒に完全に集中できていました。ラトルが作品からちょっと距離を置いて冷静なコントロールに終始していたのとは異なり、カンブルランは積極的に音色をコントロールして丁寧に曲のメロディーを拾い上げ、フレーズの意味をかみしめるようにコントロールしていきます。大振りなアクションはいつも通りですが、メシアンのこの曲でも表情付けは緻密。同じフランス人だからでしょうか、音楽に共感したような踏み込んだところも多々あり、濃いめの演奏。素晴らしかったのが、フルートと木琴3台を中心とした鳥の鳴き声。鳥の鳴き声はあの世ではこう聴こえるのかと一瞬あちら側に行ったような気になります。楽章ごとに大きく表情を変え、特に5楽章の弦楽合奏の透明感、7楽章の木琴による鳥の描写の精妙さ、そして最終11楽章のトライアングルの微かなトレモロに乗った弦楽器による天上に昇りつめるような上昇感が印象に残りました。

約75分の大曲の最後にカンブルランのタクトが下され、ホールが静寂に包まれてしばし。そっと顔をあげると、暖かい拍手が降り注ぎ、カンブルランも読響の熱演を称えます。いやいや、この日の読響は上手かった。完璧な出来と言っていいでしょう。客席も満員とはいきませんが、9割方埋まり、しかもカンブルランのメシアンの熱演を皆称えるという、上質な観客でした。日頃はメジャー曲ばかりが取り上げられがちですが、このようなコンサートが埋まること自体、日本のコンサート文化も捨てたもんではありませんね。個人的には非常に感銘を受けたコンサートとなりました。



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終演後は皆笑顔で帰途につきます。私たち夫婦は、もちろん、いつも通り食事をして帰ります。最近お気に入りのホールの入り口向かいにあるスペインバル。

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食べログ:スペイン バレンシアナバル ブリーチョ

この日はちょっと風邪気味だったことから車で来ましたので、いつものようにワインガブリとはいきません。私はザクロジュース(涙)、嫁さんはサングリアを注文。

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いつも通り、入るとすぐに注文して、テキパキと運ばれて来ます。コンサート後なのでさらりといきたいところに、ピタリ。こちらはズッキーニのグラタン。

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最近いつも頼むムール貝のワイン蒸し。岩手産のムール貝がたっぷり。身も大きく食べ応えがあります。スープをパンに浸して食べるとなお旨し。

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そしてこちらはレンズ豆とチョリソの煮込み。こちらもお気に入りでいつも頼みます。チョリソの独特の風味が癖になる味なんですね。小一時間でお腹も満ちて、いい気分。本来ならワインをクイッといきたいところですが、車なのでそうもいきませんね。



さて、カンブルランは、今度はメシアンの「アッシジの聖フランチェスコ」を取り上げるそう。調べてみると4時間超のオペラとのことで、これはどうしようかと、、、(笑)

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tag : サントリーホール

長原幸太/宮田大/田村響のジプシーロンド(所沢市民文化センターミューズ)

12月23日天皇誕生日は、チケットを取ってあったコンサートへ。

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所沢市民文化センターミューズ:ミューズ主催公演 長原幸太[ヴァイオリン]×宮田大[チェロ]×田村響[ピアノ]

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会場は所沢と自宅からはちょっと遠いホールでのコンサートでしたが、ハイドンのピアノトリオがプログラムに入っているということと、奏者がよく聴いている読響のコンサートマスター長原幸太さんということ、また、会場の所沢のミューズも休みの日でないと行けない場所ということで、チケットを取った次第。プログラムは下記の通り。

ハイドン:ピアノ三重奏曲 Hob.XV:25「ジプシー・ロンド」
コダーイ:ヴァイオリンとチェロのための二重奏曲 Op.7
ベートーヴェン:ピアノ三重奏曲第7番 変ロ長調 Op.97「大公」

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メンバーの長原幸太はよくコンサートに行っている読響のコンアートマスターとして私にはお馴染みな人でしたが、今回調べて見ると生まれは1981年ということでまだ30代半ば。見た目より若いですね(笑)。小学生時代から頭角を現し、全日本学生音楽コンクール全国大会(小学校の部)で1位となり、以降名門藝大を出て、こちらも名門ニューヨークのジュリアード音楽院に留学、最年少でサイトウキネンオーケストラに入団するなど才能に溢れた人。2004年から大阪フィルの首席客演コンサートマスター、2006年より同首席コンサートマスター、2014年から読響のコンサートマスターとなっています。

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宮田大は、以前小澤征爾の振る水戸室内管弦楽団とハイドンのチェロ協奏曲を演奏した映像が放送され、Blurayディスクもリリースされているのでご存知の方も多いでしょう。1986年生まれで、同じく若い頃からチェロを学び、桐朋学園を卒業し、2009年日本人として初めて、ロストロポーヴィチチェロコンクールで優勝した経歴の持ち主。
ピアノの田村響も同じく1986年生まれ、ザルツブルクのモーツァルテウムで学び、2007年、パリで開催されたロン=ティボー国際コンクールピアノ部門で優勝しています。現在は京都市立芸術大学の講師とのこと。

ということで、メンバーは皆若手実力派というところ。



この日はホールまで遠いので結構早めに家を出ましたので、ホールに着いたのは開場時間のかなり前。ここは大ホール、中ホール、小ホールなどいろいろある総合施設で、ぶらりと歩きまわって見るとレストランがありましたので、時間つぶしに寄ってみます。

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食べログ:響

自宅で昼食をとって出かけてきましたので、14時前のこの時間はお腹が空いているわけではありません。ということで頼んだのは地ビールの所沢ビールの4種テイスティングセット! 野老ゴールデン、スモーキン、ダークホース、ファラオの4種ですが、これがちょっといけません。ビールはいいと思うのですが、グラスがビールに全く合わず、泡も切れた状態で供され、ビール好きな人からしたら、出し方が台無です。しかも最初に3種出てきて、残りは結構経ってからということで、せっかくの地ビールが残念な感じでした。

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つまみのピクルス。こちらは浅い漬かり具合。ビールのつまみにするにはもう少ししっかり漬かっていた方がいいでしょう。

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嫁さんはあんみつ! この日はポカポカ陽気でしたので正解です。

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あんみつにはお茶でしょうが、ここは狭山茶の産地ということで、極上狭山茶「極」。こちらはまあまあでした。

ひとしきりのんびりして、時刻は開演30分前くらいになりましたのでホールに移動します。

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この日の席はステージ前の左側の前から3列目。ミューズの大ホール、アークホールは平面を見るとウィーンのムジークフェラインそっくりのシューボックス型。1993年オープンということでもう20年以上経っていますが、それほど古びた感じもなく、ホールはかなり本格的な作りで綺麗。正面には本格的なパイプオルガンがあり、その両脇には彫像が立つなどバブル期に計画されたと思わせる豪華な感じ。設計は公共建築の多い石本建築事務所。ホールの音響設計はヤマハとのこと。初めて聴くホールなので色々気になります。



この日のお客さんの入りは5割程度だったでしょうか。この演目で都心から離れたこのホールとしては健闘しているところでしょう。開演時刻になると、3人の奏者がステージに上がり、簡単なチューニングを済ませると、すぐにハイドンの名曲です。

冒頭から非常にキレのいい演奏。まるで録音を聴いているような完璧な演奏に驚きます。ヴァイオリンの長原さんは冒頭から安定感抜群。オケではソロの部分は多くはありませんが、こうして聴くと素晴らしいテクニックの持ち主であることがわかります。美音を轟かせながらも、どっしりと揺るぎない堅固な演奏。他の2人もキレ味抜群。何よりピアノトリオとしてのアンサンブルのまとまりは録音を含めて一流どころに劣るどころか、1、2を争うような素晴らしい出来。3人とも若手にモカ関わらず、鮮度抜群な上に非常に冷静に音楽を造っていく才能に溢れ、アンサンブルの絶妙な掛け合いの魅力も、繊細な表情の変化も聴かせる完璧な出来。今日初めて聴くピアノの田村さん、こちらもリズムの安定感とタッチのキレが素晴らしく、トリオの骨格を見事に支えていました。ステージにかなり近い席だったせいか、強音の後の余韻がホールに吸い込まれていく響きの美しさは惚れ惚れするほど。3人のアンサンブルが絶妙に美しく響き渡ります。これでこそピアノトリオ。
胸のすくような1楽章のアンサンブルから、ゆったりと宝石のように輝くポコ・アダージョに入ると。ピアノの田村さんの繰り出すまさに転がりながら光り輝くピアノの音にうっとり。ちょっと怖い人のような風体ですが、流れ出す音楽のピュアさはかなりのもの。ヴァイオリンとチェロが代わる代わる美しいメロディーを紡いでいきますが、メランコリックになることなく、透明感溢れる音楽を維持します。
そしてフィナーレのジプシーロンドは再び、ヴァイオリンとチェロの快刀のごとき弓使いに圧倒される楽章。速いパッセージのキレ味は火花が散るよう。そしてジプシー風のメロディーに入ると長原さんの弓が飛び回るように走ります。以前聴いたリッカルド・ミナーシの路上パフォーマンスのような砕け方はしないものの、手に汗握るようなパフォーマンスは流石なところ。最後の一音をかき消すように拍手が降り注ぎました。いやいや、若手実力者が揃ったとはいえ、ここまでの完成度だとは思いませんでした。実演の迫力も手伝って、この曲のベストの演奏を聴いた気分。

次はピアノなしの、コダーイのヴァイオリンとチェロのための二重奏曲。この曲は初めて聴きますが、技巧が凝らされた複雑な曲だけに演奏は極めてむずかしそう。演奏は神がかったような集中力を伴ったもの。2人のテクニックを存分に活かした素晴らしいもので、2人が織りなす素晴らしいア濃密なアンサンブルを堪能できました。これにはハイドンを上回る拍手が降り注ぎました。

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休憩を挟んで、後半は再びピアノトリオになりベートーヴェンの大公。もちろん素晴らしい演奏だったんですが、曲自体を苦手としているためか、あるいは前半の鮮烈なキレの良い演奏に対して、後半のプログラムの曲想がしなやかなものだったので、3人のアンサンブルの緻密な魅力が映えなかったからか、前半ほどのインパクトは感じられませんでした。ベートーヴェンの代表的なピアノトリオですが、ハイドンのシンプルな曲想に比べてどうも音符に無駄が多く、曲の緻密さの違いから楽しめなかったのかもしれません。まあ、ハイドンのブログということでお許しいただきたいと思います。もちろん会場からは割れんばかりの拍手がふりそそき、何度か拍手に促されて登壇したのちにアンコールということで、最初のジプシーロンドの3楽章を再度演奏。もちろんアクロバティックな弓さばきに拍手喝采でコンサートを終えました。

後半のベートーヴェンにちょっと難癖つけちゃいましたが、この日のコンサートは大満足。特に前半は今まで聴いた室内楽のコンサートではベストのものでした。何より若手3人の息の合った精緻なアンサンブルの素晴らしさは録音を含めても非常にレベルが高く、欧米の一流どころに引けをとるものではありませんね。いいコンサートでした。また所沢のミューズも素晴らしい響きということがわかりましたので、機会があればまた来てみたいところですね。

さて、もうクリスマスになっちゃいましたネ。いよいよ年の瀬です。

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tag : ピアノ三重奏曲

ジョナサン・ノット/東響の「コジ・ファン・トゥッテ」(東京芸術劇場)

12月11日、日曜は以前からチケットを取って合ったコンサートに。

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東京芸術劇場:コンサートオペラvol.4 モーツァルト/歌劇「コジ・ファン・トゥッテ」

このところ気になるコンサートには出かけるようにしているのですが、オペラは滅多に食指が動きません。ところがこのジョナサン・ノットの振る東京交響楽団のコジ・ファン・トゥッテは、なぜか気になりチケットを取った次第。

モーツァルトはブログの初期にも書いた通り、1991年のアニヴァーサリーまでは随分アルバムを集めていました。オペラの中ではコジ・ファン・トゥッテはドン・ジョヴァンニと並んで好きなオペラのの一つ。もちろん刷り込み盤は1962年録音のベーム/フィルハーモニア管の名盤。エリザベート・シュワルツコップ、クリスタ・ルートヴィッヒ、アルフレート・クラウス、ジュゼッペ・タディなど目も眩むような名歌手揃いのアルバム。筋はたわいもない色恋沙汰の喜劇を、禁欲的に彫りの深い指揮を旨とするベームが振っているのに実に深い音楽となっているのは皆さまご存知の通り。怖い顔のベームが繰り出す魔法のような音楽と、名歌手たちの素晴らしい歌唱に痺れたものでした。

その、コジ・ファン・トゥッテを最近評判の良いジョナサン・ノットと東京交響楽団、そして豪華な歌手陣で聴け、しかもコンサート形式ということもあってオペラにしてはチケット代も破格の安さとあって、チケットを取った次第。ジョナサン・ノットも今回初めて聴きます。

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この日のキャストは次の通り。

指揮、ハンマーフリューゲル:ジョナサン・ノット(Jonathan Knot)
舞台監修、ドン・アルフォンソ:サー・トーマス・アレン(Sir Thomas Allen)
フィオルディリージ:ヴィクトリヤ・カミンスカイテ(Viktorija Kaminskaité)
グリエルモ:マルクス・ウェルバ(Markus Werba)
フェルランド:アレック・シュレイダー(Alek Shrader)
ドラベッラ:マイテ・ボーモン(Maite Beaumont)
デスピーナ:ヴァレンティナ・ファルカス(Valentina Farcas)
管弦楽:東京交響楽団
合唱:新国立劇場合唱団

フィオルディリージは当初、ミア・パーションが予定されていましたが急病のため代役でリトアニア出身のヴィクトリヤ・カミンスカイデとなった次第。ミア・パーションといえば、アイヴァー・ボルトン盤、ポール・マクリーシュ盤の天地創造でガブリエル/エヴァを歌っているほか、ルツェルン音楽祭でアバトのマーラーにも登場している名ソプラノということで期待していたのですが、これは残念でした。

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この日の東京は快晴。日曜日なので、ウィークデーのコンサートの時のように開演時間ギリギリに駆けつけるという苦労もありません。会場となる池袋の東京芸術劇場に早めについて、いつものようにワインを煽って、長いオペラの舞台に備えます。

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この日の席は2階席のほぼ正面ということで、舞台を俯瞰するなかなかいい席。ステージ上には中央にジョナサン・ノットが弾くハンマーフリューゲルが置かれ、その周りに2管編成の小規模なオケ用の座席がステージ中央に固められています。オケの後ろにはコーラス用の段、そして、オケの前にコンサート形式でのオペラ上演用に椅子4つと中央に小さなテーブルとシンプルな舞台。

定刻となり、東京交響楽団のメンバーがステージに上がりチューニングを終えると、ジョナサン・ノットがすぐに登場。ハンマーフリューゲルの横に立ち、指揮棒なしでさっと手を振り上げると、有名な序曲が流れ出します。ヴィブラートを抑えた弦楽器を中心に実にしなやかな響きがホールに満ちます。これから始まるドラマを暗示させるような不思議な旋律の繰り返し。モーツァルトならではのめくるめくような音楽がノットのコントロールで色彩感豊かに鳴り響いていきます。また寄せては返す波のように盛り上がる序曲を聴いただけでもこの日の演奏の素晴らしさを直感。テンポは速めで来るかと思っていたところ、落ち着いた進行。序曲が終わると、上手からグリエルモとフェルランド、老哲学者ドン・アルフォンソがスーツ姿で登場。舞台正面の椅子を使って、劇が始まります。

あらすじは、当ブログの読者の方なら大方ご存知でしょう。グリエルモとフェルランドがそれぞれの恋人が自分たちを裏切るようなことはないと信じているところにドン・アルフォンソは女性にも出来心はあると説き、どちらの言い分が正しいかを確かめるために賭けることになります。ドン・アルフォンソが仕掛けた、偽の出兵騒ぎによって恋人を失ったフィオルディリージとドラベッラ姉妹が、新たな恋人の恋心に翻弄される顛末の一部始終のドタバタ劇が展開するもの。聴きどころはフィオルディリージとドラベッラの美しいアンサンブル、ドン・アルフォンソと女中のデスピーナの悪役ぶり、そしてモーツァルトが恋心の変化を克明に描いたとめどなく湧き出るような美しい音楽でしょう。

素晴らしかったのは、まずはジョナサン・ノットが繰り出す音楽。ベームの名盤も素晴らしかったんですが、この日のオケは絶品。長いオペラなのに、ほぼノーミスで最初から最後までいきいきとした音楽が溢れ出て来るよう。ノットのコントロールが完全に行き渡っており、オケも見事に応じていました。東京交響楽団、見直しました。ジョナサン・ノットはハンマーフリューゲルを弾きながらの指揮でしたが、このハンマーフリューゲルにレチタティーヴォの場面転換が見事。要所でかなりテンポを落として場面転換を鮮明に印象付け、オケが加わった時の推進力が際立つ効果が実によくわかりました。
それから、ドン・アルフォンソのサー・トーマス・アレンの老練な演技と歌唱。老哲学者をまさに地で行く切れ味。やはりこうゆう役がキレてないとドラマの面白みが活きませんね。トーマス・アレンは舞台演出も担当していましたので、この日の劇のスリリングな展開はトーマス・アレンの功績でしょう。
そして女中デスピーナ役のヴァリンティナ・ファルカスの小悪魔的演技も絶妙でした。ミア・パーションの代役、ヴィクトリヤ・カミンスカイテは見事に代役をこなし、この日の聴衆の拍手を一番受ける好演。フィオルディリージの難度の高いアリアを溢れんばかりの声量と輝かしい高音で見事にこなし、圧倒的な存在感。他のキャストも歌手は粒ぞろいで、皆欠点らしいところ感じさせない素晴らしい仕上がりでした。
加えて、字幕の翻訳が巧妙で実に面白かった。ダ・ポンテが書いた台本の素晴らしさを実感できました。歌舞伎で言えば河竹黙阿弥の七五調に近い、言葉の綾の面白さを存分に味わえました。この日の舞台の裏方の隅々まで質の高いサービスが提供されていたのが印象的でしたね。

3時に始まり、途中幕間に25分の休憩を挟んで、終わったのが7時近く。長いオペラですが、劇の展開に惹きつけられっぱなしであっという間のひと時。もちろん最後のクライマックスのオケの熱演に会場からは万雷の拍手が降り注ぎ、ジョナサン・ノットも満足げに歌手と奏者を讃えていました。

コンサート形式のオペラを実演で観るのは初めてでしたが、かえって歌と音楽に集中できる分、悪くないですね。この日のコンサートは日本でのオペラの演奏のレベルの高さを実感できました。だいぶ前の海外旅行時にウィーンやケルン、フランクフルトなどで何度かオペラを見ていますが、これほどの集中力で全編をこなしてはいませんでした。このコンビでの次の出し物も是非聴いて見たくなりましたね。

オペラの分野では、ハイドンはモーツァルトには敵わなかったんだなぁと実感したコンサートでした。

(参考アルバム)
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TOWER RECORDS / amazon /


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tag : 東京芸術劇場

マリス・ヤンソンス/バイエルン放送響の「軍隊」(ミューザ川崎)

11月26日土曜は、午前中は歯医者さんの定期健診、午後はチケットをとってあったコンサートに出かけました。

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ミューザ川崎シンフォニーホール:マリス・ヤンソンス指揮バイエルン放送交響楽団

マリス・ヤンソンス(Mariss Jansons)指揮のバイエルン放送交響楽団の来日公演で、プログラムはハイドンの交響曲100番「軍隊」とリヒャルト・シュトラウスの「アルプス交響曲」の2曲。メインディッシュはアルプス交響曲ですが、私のお目当てはもちろん軍隊です(笑)。

マリス・ヤンソンスはウィーンフィルのニューイヤーコンサートを3度も振っている人ですので当ブログの読者の皆さまはよくご存知でしょう。ヤンソンスはこれまでにもコンサートでもハイドンを取り上げていて、ハイドンのアルバムも2枚ほどリリースされていますので、得意としているのでしょう。2枚とも当ブログでもレビューしています。

2013/05/11 : ハイドン–交響曲 : マリス・ヤンソンス/バイエルン放送響のロンドン、軍隊
2011/08/11 : ハイドン–声楽曲 : 【お盆特番2】マリス・ヤンソンス/バイエルン放送交響楽団のハルモニーミサライヴ

レビューを読んでいただければわかるとおり、軍隊は素晴らしい演奏だったわけですが、それゆえ今回の来日時に軍隊を振ると知り、ウィーンフィルもベルリンフィルも来日するなか、あえてこのコンサートのチケットをとったわけです。そもそもウィーンフィルはウィーンで聴いてますし、ベルリンフィルもはるか昔ですが、カラヤン時代の来日公演を聴いていますが、バイエルン放送響は一度も生できいたことがないということもこのコンサートのチケットをとった理由の一つ。そして、響きのいいミューザ川崎が会場だったのもありますね。

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ということで期待のコンサート。この日は土曜ゆえ、開演時間に駆けつけるという必要もなく、ゆったり出かけて、開演の1時間前にはホールに到着。

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都心の平日のコンサートは開演30分前に開場が定番ですが、1時間前に開場ということで、ホールに入ってのんびりすることにしました。

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土曜日ということで皆さん早めに到着しているようで、すでにホワイエではコーヒーやビールなどを楽しんで談笑している方多数。こちらはいつものように、ワインとサンドウィッチなどで軽く腹ごしらえ。

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この日の席は指揮者の正面、パイプオルガンの真下の席。オケに近い割には安い席です。日本のオケとはチケット代が違いますので座席も重要です(笑)。 ミューザ川崎はステージのまわりを客席が取り囲むヴィンヤード型ですが、音響効果を狙ってか、左右非対称に渦巻きのように客席が取り囲む構造。ステージ正面の席は席数が少なく、ステージがほぼホールの中央にある感じがよくわかります。これがこのホールの響きが良いことのに繋がっているのでしょう。ステージ上には後半のアルプス交響曲用の大編成のオーケストラ用の打楽器やオルガンなどがところ狭しと並べられていますが、前半のハイドン用に多くがステージ脇に寄せられているのが微笑ましいところ。ホールの入りは9割くらいでしょうか。チケット代が高いせいか1階席の空きが目立ちました。

やがて定刻になり、オケのメンバーが登場。照明がゆっくり落ちて、ヤンソンスが登壇すると期待の大きさからか、盛大な拍手が降り注ぎます。

予想通り、軍隊の序奏はヤンソンスらしくビロードのような響き。フレーズが丁寧に面取りされて実に柔らかに響きます。主題に入るとギアチェンジして抜群の推進力。流石なのは木管陣。フルート、オーボエ、クラリネット、ファゴットそれぞれ実にイキイキとした演奏。フレーズの躍動感が違います。皆大きくを体を揺らしながらイキイキとメロディーを奏でていきます。ヤンソンスの指揮はハイドンを得意としているらしく、フレーズごとに巧みに変化をつけ、特にアゴーギグの変化をかなり大きくとりながらもしっとりと音楽が流れるロマンティックなコントロール。しかも、力まず、全体の流れも見通しよく、気品を保っているので古典派のハイドンの演奏としても何ら違和感はありません。1楽章はハイドンの構成感の緊密さと、次々と繰り出される響きの多彩さがバランス良くまとまって流石のまとまり。
続く2楽章のアンダンテは、周到に磨かれた入り。美しいメロディーが一通り奏でられたあと、中盤から、ティパニ、トライアングル、シンバル、グランカッサが加わりますが、グランカッサはただ叩くだけではなく、中華鍋を洗うササラのようなもので、太鼓の胴をパシパシ叩いてリズムをとるんですね。コンサートで軍隊を聴くのは初めてのことなので、このあたりは視覚情報が重要です。クライマックスではやおら打楽器陣が炸裂するかと思いきや、意外に節度ある範囲での演奏。やはりここでもヤンソンス流の上品さが漂います。メヌエットに入る前にグランカッサなどを担当していた打楽器陣が上手のドアから撤収してしまいます。確か終楽章にも登場するはずだったのですが、、、
メヌエットはヤンソンスの緻密なコントロールの真骨頂。柔らかなのに起伏に富んだ表情で軽快に進みます。時折りレガートでアクセントをつけたり、ハイドンが書いたメロディーに仕込まれた機知に鋭敏に反応したコントロールで聴かせます。中間部の木管の色彩感豊かな演奏も絶品。ヤンソンスの棒に機敏に反応するオケの吹き上がりが見事。
そして、このクライマックスのフィナーレではオケの吹き上がりがさらに鮮やかになり、ヤンソンスの細かい指示にしたがってオケが俊敏に反応します。ティンパニのリズムがもう少しキレていればと思わせなくはありませんでしたが、オケのパート間をリレーしながら流れるメロディーの視覚的な面白さはアルバムではわからないもの。びっくりしたのはフィナーレの終盤、先ほど袖に下がってしまった打楽器陣が上手の客席のドアから行進してきて入場。ステージ前の客席最前列を行進しながらグランカッサとトライアングルなどを熱演するという粋な演出。この演出、ヤンソンス独自のものかハイドンの時代からのものかわかりませんが、打楽器陣の活躍に終演後場内は拍手喝采。なんとなくロンドンで初演された時も、ハイドンの粋な音楽に聴衆が沸き返ったとの情景が想像されるようでした。音楽とは楽しむものというハイドンの音楽の真髄を踏まえた見事な演出でした。

オケは精度で言えば日本のオケよりも劣るように感じるところもなくはありませんが、ハーモニーに宿るしなやかさや歌う表現力がやはり違いました。嫁さんも日本のオケの直裁な印象とは全く違うと感じ入っていました。おそらくそれもこれもヤンソンスの棒が豊かな音楽を引き出していたからに他なりません。

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休憩を挟んで後半は、アルプス交響曲。休憩中に先ほどまで脇にあった椅子や打楽器などを並べ直して、ステージが大オーケストラ用に生まれ変わります。開演前は気づかなかったのですが、ほとんどの椅子が、スタッキング用の椅子を2脚重ねていたこと。日本の椅子のシートハイは43〜44cm。海外のものは45〜46cm。おそらく体格の大きなオケの団員は椅子を重ねることでシートハイを上げていたのでしょう。

もちろん、アルプス交響曲は圧巻でした。前半のハイドンが古典の均整の範囲でのダイナミクスを聴かせたのとはことなり、今度は大規模オケがフルスロットルで炸裂します。この曲はベームの手綱を引き締めまくった辛口の演奏が刷り込み。他にもケンぺ、カラヤン、マゼールなどいろいろ聴いていますが、ヤンソンスの演奏は、色彩感豊かでダイナミックなもので、前半のアルプスの威容をスペクタクルに描くところの輝かしさは、ドイツ風の演奏とは異なり、純粋にダイナミック。ハイドンの音楽とは次元の異なる複雑なオーケストレイションを見事にコントロールしていましたし、中盤のメロディーが朗々と歌うところの圧倒的に流麗な感じもヤンソンスならでは。純ドイツ風の演奏ではなく、やはりヤンソンス流のしなやかさに包まれた演奏でした。

今回の席は指揮者の指示がよくわかるところで、またオケを上から俯瞰できたので、登山の場面での舞台裏のホルンの効果、カウベルやウィンドマシーン、サンダーマシーン、パイプオルガン、チェレスタなどの効果が手に取るようにわかりました。雷雨と嵐の場面でのウィンドマシーンはかなりの重労働。かなりの時間自転車のペダルのようなマシンの取手を変化をつけながら回しつづけなくてはなりません。

全22場面も終盤に至ると徐々に喧騒から耽美的な美しい描写に移り、オケが音量を落としながら静寂に吸い込まれるように終わります。ヤンソンスがタクトを下ろす前に拍手がフライングで、静寂が途切れてしまいますが、拍手は一旦途絶えて、ヤンソンスがタクトを下ろすと一斉にブラヴォー。やはり大オーケストラの迫力は生ならでは。そして響きのよいこのホールならではの素晴らしい響きを堪能できました。ヤンソンスも満足そうで、オケの奏者を代わる代わる讃え、何度も拍手に呼び戻されていました。

バイエルン放送響の来日公演で、どちらも独墺物の前半ハイドン、後半リヒャルト・シュトラウス。前半できりりとしたところを聴かせ、後半ではオケをフルに鳴らしきって実力を見せつけるなどなかなかよく考えられたプログラム。印象に残ったのはやはりヤンソンスのしなやかなコントロール力とそこから引き出されたオケの豊かな響き。日本のオケからここまで豊かなハーモニーが聴かれるかといえば、ことハイドンやリヒャルト・シュトラウスについて言えば、まだ少し差があるというのが正直なところでしょう。嫁さんも「やっぱり本場物は違うわね〜と関心しきりでした。



ミューザ川崎でのコンサート後の定番は、ホールの1階の牛タンやさん。

食べログ:杉作

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幸いすぐに入れて、まずはビール(笑) アルプス交響曲でアルプス登山を体験したような気分なので、ビールが沁みます。

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注文した牛タン定食はあっという間に出てきて、非常に回転がいいですね。仙台在住時には喜助の牛タンをよく食べたので、たまに牛タン定食が恋しくなります。このお店もテールスープに漬物、麦飯と本格仙台風で懐かしい味でした。オススメです!

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tag : 軍隊 リヒャルト・シュトラウス

バッハ・コレギウム・ジャパンのロ短調ミサ(東京オペラシティ)

11月11日金曜は仕事帰りにコンサートへ。

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Bach Collegium Japan:J. S. バッハ:ミサ曲 ロ短調

この日のプログラムはバッハのロ短調ミサ。バッハはこのところクイケンのマタイやブランデンブルク協奏曲などを聴きに行ってます。ロ短調ミサは2009年にラ・フォル・ジュルネ音楽祭でミシェル・コルボとローザンヌ声楽・器楽アンサンブルの演奏を聴いていいます。クイケンの淡々と精緻な演奏や、コルボの自然でのびのびとした演奏も素晴らしいのですが、世界が注目するバッハ・コレギウム・ジャパンでロ短調ミサが聴けると知りチケットをとった次第。バッハ・コレギウム・ジャパンは今年調布で行われた調布音楽祭でヘンデルの水上の音楽を聴いていますが、古いホールのせいかなんとなくもうひとつな感じがしたので、あらためて響きのよい東京オペラシティのタケミツメモリアルホールでのコンサートということで、BISのアルバムでの素晴らしい響きが聴かれるか期待のコンサートです。

歌手陣は下記のとおり。

ソプラノ:朴 瑛実、ジョアン・ラン
アルト:ダミアン・ギヨン
テノール:櫻田 亮
バス:ドミニク・ヴェルナー

このところ嫁さんからうつった喉風邪で喉がガラガラ。医者でもらった薬を飲んで咳は引くんですが、ちょっと薬でぼ〜っとしながら、コンサート会場である東京オペラシティに向かいます。

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仕事でバタついていたので、ついたのは開演10分前とギリギリ。嫁さんが赤ワインとサンドウィッチを買ってホワイエで待っていてくれたので、着くなりサンドウィッチをワインでかき込んで席に着きます。席はお気に入りの2階右ステージのちょっと手前の席です。



流石にバッハ・コレギウム・ジャパンの東京定期公演ということで、ホールはほぼ満員。定刻になり、メンバーが入場してきますが、オケの配置は指揮者の正面にフラウト・トラヴェルソ2人が座わり、その奥にオルガンとチェンバロが配置されるという変わった配置。左端にはナチュラル・トランペットが3人、右端にはオーボエ3人が並び、後ろにコーラスが1列に並びます。オルガンのキーで丹念にチューニングを終えたあと、指揮者の鈴木雅明さんが手を振り上げると、キリエの鮮明な響きがホールに轟きます。いきなり素晴らしいのがコーラスの透明感。普通のコーラスの混濁感が全くなく、絶妙なハーモニーに圧倒されます。オケも冒頭からじっくりと落ち着いた演奏で指揮に合わせていきます。冒頭のキリエはコーラスの素晴らしさに打たれました。ソロがいないと思いきや、全員コーラスを兼ねて、ソロの部分になると前にそろりと出てきます。ソロは皆素晴らしい歌唱なんですが、特に素晴らしかったのがアルトを担当するカウンターテナーのダミアン・ギヨン(Damian Guillon)とテノールの櫻田亮。ダミアン・ギヨンの声は男性とは思えない美しさ。そして櫻田亮は日本人離れした透き通るようなクリアな声。オケの方は、2曲目以降落ち着いたテンポを保ちながら、要所でグッともりあがっていくコントロールはアルバムで聴くよりも指揮姿と合わせてみることで迫力が違います。オケではティンパニのリズムが冴えまくっていて要所の盛り上がりをキレで支えています。そして左端のトランペットは3人とも片手で高らかにナチュラルトランペットを掲げ、祝祭的な音色でバッハらしい音色を加えていきます。キーのないトランペット故、演奏は難しいのでしょうが、アルバムで聴かれるほどの安定感には至っていません。6曲目のヴァイオリンソロはコンサートマスターの若松夏美で、キレが良いのに妙にしっとりとした見事な弓さばき。そして11曲目にようやく登場する、ホルン(コルノ・ダ・カッチャ)オリヴィエ・ピコンは立ち上がってアクロバティックなメロディーを事も無げにこなしていきます。そして、第一部のクライマックスの12曲は、素晴らしい上昇感。タケミツメモリアルホールに古楽器オケの響きが満ちていきます。

休憩を挟んで、後半もコーラス、ソロ、オケの素晴らしさは変わらず。特にコーラスの弱音部の透明感溢れるコントロールは秀逸。オケの響きの余韻とコーラスの余韻がえもいわれぬハーモニーをつくり、観客もそのハーモニーに心地よく酔っていました。コルノ・ダ・カッチャのオリヴィエ・ピコンは前半のみの登場にもかかわらず、後半もステージに上がって譜面を追っています。その辺のことがパンフレットのインタビュー記事に触れられており、1箇所の登場にもかかわらず集中力を保つコツと後半ステージになぜ上がっているのかが触れられていました。なんでも世界有数のバッハをステージ上で聴ける貴重な時間ということで、ずうっと譜面を追いながら集中していました。長大な第2部のクレド、第3部のサンクトゥスを経て、あっという間に第4部へ。フラウト・トラヴェルソとテノールのソロや、カウンターテナーのソロを挟んで、終曲のコーラスへ至ります。終曲は厳かな威厳に満ちたゆったりとしたコーラスの魅力に溢れた演奏で締めくくります。もちろん素晴らしい演奏に場内からは拍手が降り注ぎます。鈴木雅明さんも会心の演奏だったのか満面の笑みで奏者を次々と称えます。

調布音楽祭の演奏では、いまひとつオケのハーモニーの美しさがが感じられなかったのですが、この日の演奏はバッハ・コレギウム・ジャパンの素晴らしさがしっかりとつたわりました。バッハの演奏の頂点の一つであると納得の演奏。やはりコンサートではホールも重要ですし、その響きが奏者の集中を促す働きもあるような気がしますね。心に残るコンサートでした。



コンサート後は小田急線の参宮橋まで歩いて、先日よって美味しかったお店で反省会。

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LIFE son

風邪気味ではあってもワインは欠かせません(笑)。スパークリングに白で乾杯。

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コンサート後でラストオーダー間近なので、最初に一気に注文。前菜盛り合わせ2人前。

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そしてピッツァはシラスとドライトマト。シラスは生シラスをたっぷり乗せて焼いてあり、シラスの旨味が素晴らしい。記事は厚めのナポリ風。

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パスタはマッシュルームをペースト状にしてスパゲティに絡めたもの。これもマッシュルームの穏やかな風味が感じられていい味でした。

ワインに美味しい料理で風邪も流して、ほろ酔い加減で帰途につきました。

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tag : 東京オペラシティ

オッコ・カム/神奈川フィルのシベリウス(みなとみらいホール)

なんだかハイドンのレビューをする間もないくらいのタイミングでコンサートに行ってます。後先考えずにチケットを取るとこうなっちゃうんですね。まあ、いいでしょう。

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神奈川フィル:定期演奏会 みなとみらいシリーズ 第323回

奏者とプログラムは下記の通り。

オッコ・カム(Okko Kamu)指揮の神奈川フィルハーモニー管弦楽団
シベリウス:交響詩「フィンランディア」Op.26
シベリウス:交響曲第7番ハ長調Op.105
(休憩)
シベリウス:交響曲第1番ホ短調Op.39

シベリウスはフィンランドを代表する作曲家であることは皆さんご存知でしょう。何を隠そう、私は大学院生の頃は建築史・建築芸術論を専攻し、アルヴァー・アアルトとフィンランド建築に関して研究していました。当時心酔していたフィンランドを代表する建築家であるアルヴァー・アアルトと、その背景となるフィンランドの建築史について研究室や大学図書館の蔵書の洋書を読んだり、色々調べていました。フィンランドはヨーロッパの辺境にあり、1809年まで隣国スウェーデンの支配下、その後1917年まではロシアの支配下にあり、独立したのは1917年。アールトはまさにこの頃から活躍し始め、世界にフィンランドを知らしめました。音楽ではシベリウスがフィンランドの独立の頃、フィンランド人の愛国心を高揚させる曲を次々と書き、こちらも世界にフィンランドを強烈に印象づけたのでしょう。当時色々とフィンランドのことを調べていたため、音楽では当時通っていた代々木のジュピターレコードでシベリウスのLPも何枚か手に入れ、まだ見ぬフィンランドのことを想像しながら聴いていました。その最初に買ったLPがDGからリリースされていたオッコ・カム指揮のヘルシンキ放送交響楽団のカレリア組曲とレミンカイネン組曲のアルバム。その後カラヤンの交響曲、バーンスタイン/ニューヨークフィルの交響曲などを聞きましたが、フィンランドの空気のようなものを一番感じたのはやはり、オッコ・カムの演奏でした。卒業旅行で念願のフィンランドを旅した時にはアアルトの建物を色々見て、お土産に当時リリースされたばかりのオッコ・カムのFINLANDIAレーベルのCDをヘルシンキで買って帰ったくらい。そう、オッコ・カムは私にとって最もフィンランドを感じる指揮者なんですね。その後、ベルグルンドやヴァンスカなど色々聴きましたが、オッコ・カムの強烈な印象に勝るものはなく、以来シベリウスといえば、真っ先にオッコ・カムと刷り込まれています。

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というわけで、前記事の武満以上にこのコンサートは楽しみにしていたもの。シベリウスは1865年生まれで、昨年2015年は生誕150年に当たるアニヴァーサリー。フィンランドからもいくつかのオケが来日してコンサートを開いたんですが、オッコ・カムも現在芸術監督を務めるラハティ交響楽団を伴って来日し、交響曲の全曲演奏を行ったそうですが、それを聴きもらしていましたので、今回の公演は情報を見た途端にチケットを取りました。

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みなとみらいホールは、以前デニス・ラッセル・デイヴィス/読響の惑星を聴いて以来の訪問。サントリーホールに似たシューボックス型の綺麗なホールで、残響はサントリーホールほど混濁感がなくスッキリ響きますので、割と好きなホールです。

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この日は土曜なので開演のしばらく前について、ホワイエでのんびり。ホワイエではプレトークイベントが行われて結構な混み具合ですが、それとは別にコーヒーとスパークリングワインを頼んで窓の外の快晴の景色を楽しんで開演を待ちました。

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神奈川フィルのコンサートは初めて。開演時間となり、ステージ上にオーケストラのメンバーが入り始めるだけで拍手が始まります。バラバラと入場するのではなく整然と入場し、全員揃ったところで客席に向かって深くお辞儀。これがこのオケの流儀なのでしょう、なかなかいい感じです。そしてチューニングの後、待望のオッコ・カム登場。照れ屋なのかそそくさと指揮棒を振り上げ、すぐに1曲目に入ります。

交響詩「フィンランディア」
オッコ・カムにとって、フィンランディアは名刺がわりなのでしょう、いきなり古い記憶が呼び覚まされ、フィンランディアの荘重な入りのブラスが脳に直撃。神奈川フィルは弦の音色の艶やかさに限界はあるものの、金管も木管も想像以上に上手い。昔よく聴いていたFINLANDIAレーベルのオッコ・カムの響きと違わぬ響きにうっとりします。カラヤンのように響きで圧倒したりせず、自然な呼吸の進行。楽器の響かせ方は流石本場の演奏と思われるもの。溜めは最小限で響きが刻々と変化しながら、よく知った曲が脳内で完全に再構成されます。シベリウスの音楽は感情直撃、普段聴いているハイドンの理性的で構成感と機知に訴える音楽とは聴き方が全く違います。私ははるか昔の学生時代のことが思い出されて実に感慨深かったですね。頭の中で森と湖の澄んだ空気を想像していた頃の記憶が蘇りました。終盤のフィンランディア賛歌では管楽器のメロディーに続き、森の響きのような弦楽器での演奏に入るとあまりにの懐かしさに感無量。カムによる本場のフィンランディアにちょっとうるっときちゃいました。最初から見事な演奏に会場は拍手喝采でしたが、オッコ・カムは一礼するだけでサッと下がり、再度拍手に呼び戻されてもう一礼して終わり。なんとなくあっさりとしたステージマナー。フィンランド人の奥ゆかしいマナーと言うことでしょうか。

交響曲第7番
4番とともに溺愛する7番。シベリウスの交響曲の中でも最も書法が洗練された曲。手元にカムの7番のアルバムはありませんが、フィンランディアの演奏から想像される通りの素朴な響きの魅力に溢れた7番。カムは記憶の中にあるこの曲のメロディーをかなりオーバーラップさせるように煽り気味に指揮しながら、徐々に表情を変えながら進むこの曲をまるで森の響きのこだまのように追い込んでいきます。我々が楽譜を見て得るインスピレーションとは別次元のものに従ってタクトを振っているよう。そして繰り出される音楽はやはりフィンランドらしさを感じさせる素朴なもの。終盤の穏やかに盛り上がるクライマックスでは神奈川フィルもかなりの頑張りでカムの棒についていく力演。オケもオッコ・カムのコントロールで日本のオケではないような響きに包まれます。これも見事な演奏に拍手喝采ですが、カムはさらりとかわして引っ込んでしまいます。
帰ってからベルグルンドの旧盤を聴いてみますが、印象がまるで違い、旧盤ですら洗練されすぎて、朴訥な力強さはやはりカムの方が好みと再認識した次第。これはカムの新しい交響曲全集を手に入れるしかありませんね。

交響曲第1番
休憩を挟んで、後半は交響曲1番。実は1番はかなり苦手。シベリウスの音楽が洗練される前のロマン的な曲であり、曲の完成度もイマイチに感じてしまう部分が多々あります。アルバムで聴くことは滅多にありません。それゆえ久しぶりに聴くと新鮮に感じるのも事実ですね。
ティンパニのトレモロに乗って演奏されるクラリネットの物憂げなメロディーが見事でいきなり引き込まれます。また印象的な旋律を挟んでくるフルートも見事。続いてさざめく弦と激しい慟哭に弾むリズム。カムの棒に完璧に追従しながらオケが爆発。先にも書きましたが神奈川フィル、なかなか上手いです。次々に現れるシベリウスらしいメロディーを経て、1楽章の壮大なクライマックスが訪れ、その熱を冷ますようにフルートやハープがそよ風のように通り抜けます。最後は再びブラスの号砲で幕を閉じます。
2楽章のアンダンテはハイドンのアンダンテとは全く異なり、郷愁に満ちた優しいメロディーから入ります。主題が展開した後も時折り断片的に冒頭のメロディーが顔をだしながら進みます。ひとしきり展開したあと静かに冒頭のメロディーに戻るあたりの有機的な展開はハイドンの時代の書法を踏まえたもの。
スケルツォも展開は古典期の書法を感じさせるものですが、北欧らしい響きと中間部の大胆な崩し方はシベリウスならでは。日頃ハイドンを聴く耳からすると、交響曲の発展の歴史のパースペクティブを感じます。意外にハイドンの時代との共通する構成を再発見。
そしてフィナーレは劇的な弦のメロディーから入ります。オッコ・カムはフィンランドらしいさざめきや凍てついた大地の香りを感じさせる響きを神奈川フィルから引き出し、オケは何度も小爆発。そしてこの曲の聴きどころである哀愁に満ちた大河のようなメロディーに呑まれていきます。中間部はこれまでの楽章の余韻を感じさせるコラージュのような断片の再構成。そして再び源流から大河に育っていくように展開する美しいメロディー。不思議とフィンランドの自然を想起させるのはメロディーの力でしょうか。こうして聴くとシベリウスも交響曲の構成としては、交響曲の父、ハイドンの影響下にあることがわかります。壮大なクライマックスを経て最後の一音の響きがホールに消え去ると万雷の拍手。オッコ・カムはこれまで通り、さっと下がってしまいますが、もちろん何度も呼び戻され、オケの熱演を称えます。何度目かの登壇時にタクトを振り上げ、アンコールの演奏に入ります。

カレリア組曲から「行進曲風に」(アンコール)
そう、あのカレリア組曲の最後の行進曲です。いきなりリズミカルな行進曲が流れます。まるでウィーンフィルのニューイヤーコンサートの締めにラデツキー行進曲が演奏されるような祝祭感。私が最初に手に入れたオッコ・カムのLPの最初に収められた曲がカレリア組曲でしたが、まさにその響きそのままの音楽が流れ出してくるではありませんか。帰って、おそらく30年ぶりくらいにそのLPを引っ張り出して聴いてみると、寸分違わぬ響きが流れ出します。テンポも高揚感もフレージングも全く変わらず、30年の時をタイムマシンで行き来しているように錯覚します。カムにとってこの曲はアンコールに何度も取り上げているのでしょう。なんだかわかりませんが、冒頭のフィンランディアを聴いた時の胸の高まりと同じく、ものすごく懐かしい感情に襲われます。短い曲で、深みのある音楽ではありませんが、この日の観客も何か特別なものを感じたのでしょう。再び万雷の暖かい拍手に包まれました。この曲を初めて聴いた時の新鮮な驚きというか、まだ見ぬフィンランドに想いを馳せていた頃の気持ちに30年の時をへて戻ってきたような気持ちになりました。

コンサート後は、神奈川フィルの演奏者がホワイエに出て観客を見送るという熱心さ。なんとなくまた神奈川フィルのコンサートに来てみようと思わせる暖かさに包まれました。晴れ渡る横浜の空を眺めながら帰途につき、天気同様、なんとなく晴れやかな気持ちになった、心に染みるコンサートでした。

久しぶりにシベリウスを聴いて普段のハイドンのレビューは、これに比べると随分分析的に聴いているのだと再認識。音楽とは理屈なしに感情に訴えるものと、身を以て再認識した次第。たまには、ハイドンを離れてみる必要もあるんですね。個人的にはとても楽しい1日でした。

(参考アルバム)
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amazon(別装丁CD)

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没後20年武満徹オーケストラコンサート(東京オペラシティ)

先週木曜の10月13日は以前からチケットを取ってあったコンサートに行って来ました。

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東京オペラシティ:没後20年武満 徹 オーケストラ・コンサート

日頃ハイドンばかり聴いていますが、武満徹も好きで、手元には30枚くら武満のアルバムがあります。一般的には武満などの現代音楽を好む人は少ないのでしょうが、夢千代日記の音楽などで武満の音楽の魅力は日本では割と知られているのではないでしょうか。その武満が亡くなったのが1996年2月ということで、今年は武満の没後20年に当たる年。そのアニヴァーサリーに、武満の名を冠した東京オペラシティのタケミツメモリアルホールで行われるということで、このコンサートの存在を知った4月にチケットを取ってあったもの。奏者も武満にゆかりのある人が揃い、指揮はイギリスの現代作曲家で武満の音楽に心酔し、武満のアルバムも多く残しているオリヴァー・ナッセン、ピアノには当初タッシなどで武満の音楽を好んで演奏していたピーター・ゼルキンが参加する予定だったものの、体調不良とのことで、こちらも縁のある高橋悠治が代役に入りました。オケは日本フィル。

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いつものように仕事を早めに終えて、初台の東京オペラシティに向かいます。いつものように嫁さんが先に待っていてくれるはずでしたが、この日は嫁さんが出がけにばたついて珍しく財布とチケットを忘れたというメールが途中で入ります。これが歌舞伎でしたら入り口で告げるだけでちゃんと松竹の方で調べて何事もなく入れてくれるんですが、会場に向かう電車の中からメールでやり取りして、私の方のチケットに書かれているオペラシティのチケットセンターに嫁さんから電話を入れても、相手にしてくれないとのこと。仕方なくそのまま会場に向かうように告げ、会場で落ち合い、入り口の偉そうな方に相談すると、予約一覧をチェックの上、確認を取ってくれて事無きを得ました。この辺の対応は松竹とは大違い。歌舞伎のお客さんは高齢者が多いのでしょうから、チケット忘れなど日常茶飯事なのでしょうね。やはり民間の方がサービスが進んでいます。

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会場に無事入れて嫁さんも一安心。いつものようにワインとサンドウィッチで軽く腹ごしらえ。今日はチケット忘れ騒動でばたついていたので、ワインが沁みます(笑)

この日のプログラムは下記の通り。

地平線のドーリア(The Dorian Horizon for 17 strings)  
環礁 - ソプラノとオーケストラのための(Coral Island for soprano and orchestra)
(休憩)
テクスチュアズ - ピアノとオーケストラのための(Textures for piano and orchestra)
グリーン(Green for orchestra)
夢の引用 - Say sea, take me! - 2台ピアノとオーケストラのための(Quotation of Dream - Say sea, take me! - for two pianos and orchestra)

もちろんオール武満プログラムで、この手のコンサートはお客さんの入りが良くないこともありますが、この日はほぼ満員。芸術文化振興基金助成事業ということでチケットが安かったのもあるでしょう。私に取っては好きな武満の特に1960年代の若い頃の挑戦的な作品が多い絶好のプログラム。

席について配られたプログラム冊子を読んでいると、この冊子が実によくできています。武満徹の研究者である小野光子さんによる作品解説が読み応えがあって素晴らしいもの。この解説一つでこの日の体験の深さが変わるだけの価値があります。

聴き慣れたこのホールの鐘の合図で開演時間となったことを知らせます。ステージ上には大オーケストラ用の楽器が配置される中、打楽器やピアノが脇に避けられ、中央に小編成のオケ用の椅子だけが並びます。

地平線のドーリア(1966)
最初は弦楽器だけの「地平線のドーリア」。オリヴァー・ナッセンの武満はDGからロンドン・シンフォニエッタのアルバムが何枚かリリースされているため、外人らしからぬ日本的に精緻なコントロールの行き渡った演奏をする人だとは知っていましたが、実演は初めて。超巨漢で脚が悪いのでしょう、杖をつきながらゆっくりと指揮台に登壇する姿は、想像とは結構違っていてビックリ。弦楽器は前後2群に別れて配置されます。ナッセンが体の大きさに比して非常に小さな指揮者用の椅子に腰掛け、タクトをすっと下ろすと、静寂の中から不協和音がさざめくように鳴り始めます。奏者が互いの響きを確かめながら進むように、それぞれが微妙なタイミングで音を響かせます。解説によると、音が方々から発せられ立体的に聴こえるように意図された、ドビュッシーの手法に影響されたものとのこと。絶妙な緊張感が漂いながら、弦楽器が弦楽器らしからぬ響きで空間を切り裂いていくように音楽が進みます。武満の響きに対する鋭敏な感覚が冴え渡る音楽。ヴァイオリンの高音は笙のように澄み渡り、コントラバスはザラついたただならぬ気配を発します。10分少しの曲ですが、いきなりホールが武満の音楽で包まれます。家に帰って若杉弘と読響による初演時の演奏を聴き直してみた所、若杉の演奏にはより日本的な、鉋をかけたてのヒノキの柱のような凛とした風情が感じられました。ナッセンの演奏はウェーベルンの延長のような、よりインターナショナルな響きを感じた次第。世界から見た武満のより普遍性を感じる演奏との印象を深くしました。

続いて今度は大オーケストラ用の曲に変わるため、舞台の座席を作り変えます。

環礁 - ソプラノとオーケストラのための(1962)
今度はソプラノやピアノ、打楽器群も加わります。ソプラノはイギリスのクレア・ブース(Claire Booth)で、今回が初来日とのこと。解説によると、武満が1961年に京都の苔寺(西芳寺)を訪ね、その回遊式庭園に啓示を受け1962年に作曲した曲とのこと。歌詞は詩人の大岡信に依頼した日本語のシュールレアリスティックなもの。5部構成で15分ほどの曲。
弦のさざめきから入るところは変わりませんが、すぐにピアノとパーカッションが加わり、武満らしいモノクロームなのに色彩感を感じるような独特の精妙かつ豊かな響きに包まれます。ウェーベルンの引用のように感じる部分と、武満独特の弦の深い響きの交錯。弱音の連続で緊張感が高まったところにピアノ、フルート、シロフォンやマリンバなどの響きでパッと色彩が加えられる独特の響き。第2部と第4部にソプラノが加わります。クレア・ブースはかなりの声量。日本語の歌詞は解説を見なければちょっと聞き取れませんが、音程の安定感、声の艶はなかなかで、適切な配役でしょう。実際の歌詞もメロディーも実にシュールレアリスティック。

前半は曲自体は正味25分程度ですが、曲感のオーケストラの席の配置替えにも随分時間がかかるため、特段短いと感じることはありません。むしろその間に解説などに目を通す余裕があって悪くありません。

休憩を挟んで後半に入ります。

テクスチュアズ - ピアノとオーケストラのための(1964)
ステージ中央にピアノが置かれます。ピアノは高橋悠治。解説によると36人づつ2群に分けられたオーケストラとピアノのための作品で、奏者が一人一人個として織物を織るようにテクスチャーを構成することを求めたもの。この曲は1965年に国際現代作曲家会議で最優秀賞に輝き、武満が欧米で本格的に認められるきっかけとなった曲とのこと。ちょっとリゲティ風の宇宙空間の描写のように無限を感じさせる場面がある一方、個と群を意識させ、喧騒と静寂を行き来、高橋悠治のピアノの強打音が散りばめられ、弦も管も入り乱れて混沌とした音の塊が飛び交うような強靭な音楽。終盤の澄んだ弦の響きがすっと消え入り終了。8分くらいの小曲ですが、武満らしい透明な響きの魅力を存分に味わえる曲でした。ナッセンは相変わらず、精緻ながら非常にしなやかな音楽を繰り出します。

グリーン(1967)
この曲は有名なノヴェンバー・ステップスの続編として、作曲時は「ノヴェンバー・ステップス第2番」と題されていたが、その後「グリーン」へと改題されたとのこと。また、指揮者のナッセンが1960年代に武満の音楽を知り、中でもこの「グリーン」に惹きつけられ、その後武満と親交を結ぶまでになったきっかけとなった曲とのこと。手元にはロンドン・シンフォニエッタの自主制作盤で武満の曲を集めたアルバムがありますが、そこにも最初にこのグリーンが収録されており、ナッセンのお気に入りだということがわかります。50年代から60年代初頭までの前衛的な作風から、少し叙情的なメロディーが含まれるように変化してきました。ナッセンの演奏もニュートラルなオーケストラの響きの魅力に溢れたもの。帰ってから先のアルバムを聴いてみた所、まさにコンサートの演奏と非常に近い柔らかな響きに包まれた素晴らしい演奏。過度に日本を意識することなく響きの純度を高めて行った先にある究極のニュートラルさにたどり着いたような素晴らしい録音に、コンサートの情景が重なりました。

後半に入っても曲ごとにステージ上の座席配置を大きく変更することは変わりませんが、最後の曲はピアノが2台となり、2台目のピアノをステージ脇から中央に配置します。2台のピアノと大オーケストラの配置は壮観。ピアノは高橋悠治と台湾出身のジュリア・スー(Julia Hsu)。

夢の引用 - Say sea, take me! - 2台ピアノとオーケストラのための(1991)
このコンサート最後の曲。この曲のみ1990年代の曲。バービカンセンターとロンドン交響楽団の委嘱により作曲された曲。初演はマイケル・ティルソン・トーマス指揮のロンドン交響楽団の演奏で、ピアノを今回来日するはずだった、ピーター・ゼルキンとポール・クロスリーが担当していました。この曲の世界初録音はナッセンとロンドン・シンフォニエッタで、同じくピーター・ゼルキンとポール・クロスリーでDGからリリースされており、手元にもあります。
ピアノの印象的な響きから始まる曲。途中、夢千代日記の音楽の一部やドビュッシーの「海」やの一部がコラージュのように散りばめられたり、解説によると武満自身の作品からの引用もされているとのこと。60年代の緊張感溢れる音楽からは大きく変化し、ゆったりとした色彩感に溢れた見事なオーケストレイションが聴きどころの曲。千変万化する魅力的な響き、そしてドビュッシーの断片が泡沫のように浮遊する心地よい音楽。ナッセンは適度にオケを引き締めながらも、独特のニュートラルな響きで武満の作品をさらに魅力的に響かせていました。ピアノの高橋悠治もジュリア・スーも録音よりもオケに埋もれがちでしたがきらめくようなピアノの美音を置いていき、まるで響きに宝石をちりばめていくよう。まさに「夢の引用」とのタイトルにぴったりな演奏でした。

もちろん、素晴らしい演奏に会場からは万雷の拍手が降り注ぎ、ナッセンは脚が悪いのに何度もステージに引き戻されていました。オケの東京フィルも素晴らしい集中力。数カ所ホルンの音がひっくり返ったところがあったくらいで、あとは完璧。特にコンサートマスターを中心に弦楽セクションの表現力は見事でした。ナッセンもオケの好演に満足気な表情を浮かべていました。現在武満を演奏する理想的なメンバーによる素晴らしいコンサートでした。普段もちろん武満など聴かない嫁さんも満足げ。チケット騒動のことも忘れてコンサート後の余韻を楽しみました。

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(参考アルバム)
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帰りは、近くの参宮橋駅まで10分ほど歩いて、以前から気になっていた駅前のお店で反省会を兼ねた夕食をとりました。

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以前テレビで取り上げていたのを見て、気になっていたお店。オーナーが好きなことをやり続けるために、営業時間や競合などにこだわらず一本筋の通った運営を続けるお店。イタリアン風ですが、メニューも個性的でなかなかいいですね。

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グラスワインはフレンチ中心。オーガニックのすっきりしたところを揃えていて、セレクトも悪くありません。

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コンサート後ということで入ったのは9時半すぎ。10時ラストオーダーということで、頼んだのはサラダとパスタ2皿。パスタは手打ちパスタが名物ということで見本を前に丁寧に説明してくれました。

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こちらは山のサラダ。こちらも名物とのこと。

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こちらはうさぎ肉のラグー。麺はタリアテッレをセレクト。

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こちらは鴨とごぼうの赤ワイン煮込みに赤い手打ちパスタを合わせました。どちらも手打ち麺の適度なもちもち感と優しい味付けですっきり系のワインと相性ピタリ。コンサート後の反省会にぴったりということで、今後も寄らせてもらいそうです。

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tag : 東京オペラシティ 武満徹

パーヴォ・ヤルヴィ/N響のマーラー交響曲3番(サントリーホール)

昨日10月6日は以前からチケットを取ってあったN響のコンサートへ行ってきました。

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ここ数年コンサートは適度に通ってますが、なぜか読響のコンサートが多かったですね。あんまり理由はないんですが、スクロヴァチェフスキなどのコンサートチケットをとった勢いでいろいろコンサートのチケットをとっているというのが正直なところ。N響もホグウッドの第九とか、デュトワのマーラー千人などを聴いていますが、読響ほどの頻度ではありません。

この日のコンサートは7月に行った読響のコンサートでもらったチラシを見て、N響の音楽監督に就任し、ヨーロッパでもすこぶる評判の良いパーヴォ・ヤルヴィがマーラーでも好きな3番を振るということで、久々に行く気になったもの。

また、先週の放送でヤルヴィ武満と「展覧会の絵」を放送していたのをたまたま見る機会があり、特に武満が存外にすばらしかったので、このコンサートを楽しみにしていました。

N響:N響90周年&サントリーホール30周年 パーヴォ・ヤルヴィ指揮NHK交響楽団特別公演

この日のコンサートはN響の定期公演ではなくサントリーホールの30周年とN響の90周年を記念した特別公演とのこと。出演者は下記のとおり。

パーヴォ・ヤルヴィ指揮
NHK交響楽団
メゾ・ソプラノ:ミシェル・デ・ヤング
東京音楽大学合唱団
NHK児童合唱団

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この日はいつも通り仕事を早めに切り上げ、溜池山王のサントリーホールに向かいます。こちらもいつも通り嫁さんが向かいのオーバカナルでワインとサンドイッチを注文して待ってましたので、軽く一杯あおって開場時間を待ちます。

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席はいつものライトスタンドにあたるRA席ではなく、少し高いRB席の一番前。AよりB席の方が高いというわかりにくい席名ですが、指揮者を右真横からみる絶好の席。ステージではかなりの奏者が練習に励んでおり、開演前にしては賑やか。とくに長大な交響曲中出番の多いトロンボーン奏者は最後まで響きを確認するように音出ししていました。

流石にマーラーの大交響曲、ステージ一杯に椅子が並び、正面奥のパイプオルガン前の席は合唱団の席。開演時間になると児童合唱団から入場、オケの奏者まで揃うと見た目だけでも圧巻のステージ。そしてヤルヴィの登壇で拍手喝采。この特別公演への期待の大きさが伺えます。

俊敏なヤルヴィのアクションでタクトが振り下ろされるとトロンボーンの象徴的なメロディーが轟きますが、意外と速めでサクサク入ります。入りからしばらくは期待したほどキレの良さはきかれず、マーラーでは個性が出し切れないのかと危惧させましたが、曲が進むにつれて徐々にオケも覚醒。そこここにキリリと鋭いアクセントをつけることで、マーラーの深層心理をえぐるような曲想が明るいライトに照らされて超鮮明に解像しクッキリと浮かび上がります。特にチェロやコントラバスのかき鳴らすような激しいアクセントがマーラー特有のドロドロとした響きではなく、峻厳さを帯びた険しい響きとなって襲い掛かり、非常にコントラストの強い音楽になっていきます。オケの方もヤルヴィのタクトに見事に反応し、特に金管群の安定感は見事なもの。静寂と爆発を繰り返えしながらもマーラーにしては楽天的な展開のこの長大な1楽章が超タイトに引き締まり、幾度かの強音の炸裂を経て、最後はビッグバンのように炸裂した響きをタクトがブラックホールのように吸い取る見事なもの。オケの集中力は尋常なレベルではありませんでした。
続くメヌエットは、直前の放送で聴いた武満の演奏の、豊かに響きながらも透明感を保った弦楽器の魅力で聴かせる演奏。楽章間の変化をかなりしっかりとつけてきます。好きなアバド盤はイタリア人らしい流麗さに溢れたコントロールですが、ヤルヴィは流れの良さはよりはフレーズごとの変化の巧みさで聴かせてきます。
3楽章のスケルツァンドは「子供の不思議な角笛」からの引用で、ここでもフレーズごとにキリリとまとめながら軽々とオケを吹き上がらせ、まるでオケの反応を楽しむような指揮ぶり。中間部に入ると1階席L側の扉がすっと開き、廊下の奥からトランペットによる見事なポストホルンが響き、ステージ上のオーケストラと一糸乱れぬアンサンブルを繰り広げます。このポストホルンは絶品でした。
そして4楽章に入るといよいよメゾ・ソプラノのミシェル・デ・ヤングが立ち上がり、深々とした美声を披露。この楽章は雄大な流れのように聴かせるかと思いきや、やはり響きを磨きコントラストで聴かせるヤルヴィ独特の音楽を色濃く感じさせるもの。フレーズのあちこちにエキセントリックな響きの面白さをまぶしてマーラーをリヒャルト・シュトラウスのように感じさせます。
5楽章の児童合唱団による有名なメロディーに入りますが、場内が若干ざわつきます。児童合唱の前列の一人が4楽章の入りから一人だけ立ち上がらず、5楽章の歌唱に入る場面でも一人だけ歌いません。まわりも心配そうにする中、清らかなコーラスは進み、鐘やトライアングルがちりばめられた祝祭的な音楽が終わります。
そして、この曲最大の聴かせどころの6楽章に入ります。これまでヤルヴィらしいアクセントをちらばめた音楽が、マーラーらしいというよりヤルヴィらしいと感じさせていて、この6楽章はどうくるかと構えていると、ここは響きの深みとしなやかさを前面に出してきました。武満できかせた弦の透明感あふれる響かせ方が活きて、実に美しいメロディーが重なります。終盤に入ると再び俊敏なヤルヴィの棒が目を覚まし、オケをぐいぐい煽りますが、オケの方も40キロ過ぎのマラソンランナーが最後の力を振り絞ってラストスパートをかけるがごとき様相。長大なこの曲最後の踏ん張りどころを管、弦、パーカッションなど全員が総力を振り絞ってクライマックスに向けてじっくり歩みを進めます。寄せては返すような大波の連続を経て、ティンパニ2台が揃って強打する終結への歩み。最後はホールを揺るがすような風圧を伴ってフィニッシュ。

ヤルヴィのタクトが降ろされると同時にブラヴォーと拍手が降り注ぎました。N響のメンバーも皆熱演。アクシデントはありましたが、児童合唱も女声合唱も完璧と言って良い出来でした。やはりヤルヴィの超鮮明、ハイレゾ的コントロールにオケが応えたということでしょう。特に金管の安定感は素晴らしいものがありましたし、個人的にはコントラバスやチェロの存在感のある演奏が印象に残りました。

ヤルヴィのマーラーは複雑な楽譜に記された音楽を微視的に、そしてアーティスティックにデフォルメして聴かせるもので、余韻に精神分裂的、あるいは暗澹たるマーラーらしさを感じさせることなく、純粋にアーティスティックなもの。そして、最近の演奏らしくコントロールを隅々まで行き渡らせ、その圧倒的なコントロール力で聴かせるもの。サヴァリッシュの音楽にはドイツの香りが、デュトワにはフランスの香りが感じられましたが、ヤルヴィの音楽にはには新時代の息吹が感じられました。現代の一流シェフを招き、欧米に引けを取らない素晴らしい音楽を楽しめるようになったと思わせるコンサートでした。

この日はNHKのカメラが多数客席に配置されてましたので、近日中に放送されることになるのではないかと思います。皆さんの目と耳で新時代の息吹を感じてみてください。



終演後は最近お気に入りのサントリーホール向かいのスペインバルで反省会。

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食べログ:バレンシアナバル ブリーチョ

2時間休憩なしの長丁場は聴き手も喉がカラカラ。ということでテンプラニーリョとサングリアを注文。このサングリアが美味い。

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ここは少なめの料理をいろいろ頼んでつまめるのでコンサートの後のちょい飲みに最適。いつも頼むレンズ豆とチョリソの煮込み。チョリソの濃厚な香りでワインが進みます。

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そしてムール貝のワイン蒸し。これはたっぷり出てきました。プリプリのムール貝も美味いんですが、パンを残ったスープに浸していただくのがグー。

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この日のパエリアはエスカルゴとウサギ肉。うちでも最近パエリアは作るのですが、ウサギ肉とエスカルゴは手に入りませんので無理。やはりプロの料理は違いますね。ひとしきりコンサートの余韻とおしゃべりを楽しんで帰途につきました。

これからはN響のプログラムもチェックしておかなくてはなりませんね。

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コルネリウス・マイスター/読響の「朝」「悲劇的」(サントリーホール)

一昨日7月14日は、チケットを取ってあったコンサートに行ってきました。

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読売日本交響楽団:第560回定期演奏会

指揮者のコルネリウス・マイスターは今まで知らなかった人ですが、今回はプログラムにハイドンの交響曲6番「朝」が含まれていたということでチケットを取ったもの。もちろん「朝」は前座で、メインディッシュはマーラーの交響曲6番「悲劇的」。ハイドンにマーラーを組み合わせるというプログラムの妙に加え、ハイドンもマーラーもいくらでも交響曲がある中、6番と6番をもってくる語呂合わせとも思える企画ながら、ハイドンの交響曲の中でも一際爽やかな「朝」と、マーラーの中でもこれまた重苦しい「悲劇的」を組み合わせてくるあたり、一夜のコンサートで音楽の表現出来るコントラストを極めようという粋な企画と見抜きました。チラシの情報ではコルネリウス・マイスターはヨーロッパで最近頭角を現している若手ということでチケットを取った次第。

コルネリウス・マイスターの略歴をあたっておくと、1980年、ドイツのハノーヴァー生まれの指揮者ということでまだ36歳。父はピアニストでハノーヴァー音楽大学の教授、母もピアニストという音楽一家の出身です。ハノーヴァー音楽演劇大学でピアノと指揮を学び、師事した中には大植英次さんも含まれます。またザルツブルクのモーツァルテウムではデニス・ラッセル・デイヴィスに師事しています。2001年からのエアフルト(Erfurt)歌劇場のアシスタント、ハノーヴァー州立歌劇場の首席指揮者を経て2005年にはハイデルベルク州立劇場の音楽監督、2010年からはウィーン放送交響楽団の首席指揮者兼音楽監督に就任するなど飛ぶ鳥を落とす勢いで活躍しています。コンサートのチラシによると読響を振るのは今回が2度目とのことです。



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このところ仕事がバタバタで連日遅い帰りでしたが、強引にひと段落させて仕事を切り上げ(笑)、サントリーホールに向かいます。東京はなんとなくはっきりしない天気でしたが、幸い雨に当たらずにホールに到着。向かいのオーバカナルで嫁さんと待ち合わせをしていましたので、ビールとサンドウィッチでお腹を落ち着かせて開場を待ちます。

席はいつものステージ右横のRA席。見下ろすとステージ上にはマーラーのために楽器と椅子が所狭しと並べられていますが、そこにハイドンの演奏用にチェンバロが並んでいるのが微笑ましいところ。ステージ上で楽器の調整をする音をBGMに、いつものようにもらったチラシから興味のあるものだけ抜き出したりしてのんびり過ごします。開演時刻になると、客席の明かりがスッとおちて団員がステージ上に登壇。配置された大オーケストラ用の椅子の前の方に弦楽器奏者を中心に少人数のオケが着席してチューニング。この日のコンサートマスターは小森谷さん。ほどなく指揮者のコルネリウス・マイスターが颯爽と登場します。ポスターのイメージとは少々異なり、ミッチー(及川光博)風の明るくコミカルなキャラ。服装もハイドンを意識してか、なんか侯爵風です(笑)。

さっと指揮棒を振り上げ、期待の「朝」が始まります。コルネリウス・マイスターの振る「朝」、絶品でした。もちろんゆったりとした序奏から入りますが、すぐにハイドンらしい快活なメロディーが乱舞。大きめのアクションで各楽器に次々と指示を出して響きを完璧にコントロール。すべてのパートに躍動感を感じさせる大胆なデフォルメを仕込み、インテンポで畳みかけるように疾走するハイドン。特に速い音階のキレに徹底的にこだわり、朝にふさわしい爽快感に満ちた響きを創り出していきます。読響もマイスターの指示に完璧に応じて見事な演奏。特にフルートの音階のキレ、艶やかなファゴットの響き、ホルンのリズムの正確さ、小気味良い小森谷さんのヴァイオリンソロともに絶品でした。音楽は完全にコルネリウス・マイスターのもので、かなり大胆なコントラストをつけての演奏ながら、自然なハイドンの音楽の美しさを乱さぬもので、これほど快活かつ爽快な朝はこれまで聴いたことが無いほど。コンサート会場に駆けつけた観客のほとんどはマーラー目当でしょうが、ハイドン目当ての私には、この「朝」でコルネリウス・マイスターの非凡さを見抜きました。この音楽の構成力とオケの掌握力は只者ではありませんね。もちろん前座のハイドンで会場にただならぬ興奮をもたらしたコルネリウス・マイスターに拍手の嵐が降り注ぎました。いやいや本当に素晴らしかった。

15分の休憩を挟んで、今度はマーラー。しかも最も暗澹たる6番です。

私も若い頃は(笑)マーラーは好きでしたが、最近家でマーラーを聴くことは滅多にありません。マーラーやブルックナーはコンサートで爆音を浴びる快感に浸るための音楽という感じ。特にこの6番は1979年のカラヤン、ベルリンフィルのコンサートを聴きにいったのが懐かしく思い出されます。方南町の巨大な普門館でのコンサートでしたが、ベルリンフィルをもってしても、このホールの巨大な空間は広すぎる感じで、予習のために買ったLPで刷り込んだ機械仕掛けのような精密な演奏を頭のなかで響かせながら生のコンサートを聴くような不思議な体験でした。当時はアンダンテ・モデラートが3楽章に配置され、カラヤンの繰り出すビロードのような弦の響きが印象に残っています。以降、6番はよく知る曲ですが、あんまり集中して聴いた覚えの無い曲です。

前半のハイドンで圧倒的な存在感をみせたコルネリウス・マイスターですが、後半のマーラーも制御力は圧巻でした。冒頭から大きめのアクションでオケを制御するのはハイドンと同様でしたが、楽器の数と楽譜の複雑さは桁違い。音楽の方向性は全く異なりますが、制御能力はマゼールを思わせる緻密なもの。1楽章はやはりフレーズごとにところどころに大胆なデォルメを効かせて、精緻さと、ほのかなグロテスクさと、深い彫りを感じさせる演奏。基本的にきっちりとした制御が行き届いているので、バーンスタインのようなおどろおどろしい感じはせず、ディティールはダイナミッックですが全体的にスタティックな感じを受ける演奏。この辺はマーラー好きな方から好き嫌いが分かれるところかもしれませんね。ただ、このマーラーでも読響の演奏精度は素晴らしかった。ミスらしいミスは全くなく、完全にコルネリウス・マイスターの棒に応えていました。前半のハイドンで脳内に満ちていた幸福物質が、マーラーの分裂的音楽の大音響によってかき消され、両曲が作曲された間の140年間に音楽というものがたどった変化の大きさを改めて感じた次第。マーラーが音符と楽器と規模を変えて繰り出す音楽は、我々の脳の「音を楽しむ」中枢ではないところに大きく働きかけ、全く異なる衝撃をもたらします。ステージ奥でカウベルが鳴り、ハープやチェレスタがメロディーではなく響きを置いていくように配されることもハイドンの時代とは全く異なるもの。コルネリウス・マイスターの指揮は、マーラーの音楽の深層心理的側面ではなく、複雑に折り重なる響きのコントロールの快感に訴えるものと言っていいでしょう。それを象徴するのが時折はっとさせる大胆なデフォルメ。特にヴィオラには印象的なボウイングを度々指示して、マーラーの音楽の複雑な響きに特徴的な個性を与えるのに貢献していました。

そして、この日の音楽の深さを印象づけたのが楽章間の長い間。1楽章最後の音の余韻が消えさると、客席の緊張も解け、咳ばらいが聞こえますが、その咳払いが静まってもコルネリウス・マイスターはしばらく微動だにしません。観客の視点がマイスターの動きに集中して完全な無音が訪れ、しばらくその無音に吸い込まれるような時間を皆が共有したところで、すっとタクトが上がり、マーラーの天上の音楽に入ります。ヴァイオリンの奏でる微音が静寂にすっと浮かび上がる絶妙な入り。ホールの観客ごと制御するマイスターの手腕に驚きます。

ハッとさせられるような美しいヴァイオリンの響きで始まるアンダンテ・モデラートですが、音楽が進むにつれてマイスターによる響きの制御が行きわたり、音楽の一音一音のディティールにフォーカスを合わせた展開。カラヤンの流麗さとは対極にある演奏です。ちょっと思い出したのが、以前聴いたデニス・ラッセル・デイヴィスの振る読響での惑星。

2015/07/27 : コンサートレポート : デニス・ラッセル・デイヴィス/読響の惑星(みなとみらいホール)

このディティールへの執着は、師事していたデニス・ラッセル・デイヴィスと同じようなものを感じます。デニス・ラッセル・デイヴィスの方がより灰汁の強い感じがしますが、パートごとに巧みに表情を変えていくあたりはディヴィスの手法を受け継いているのでしょう。このアンダンテ・モデラートでは、マーラーの音楽の持つ天上的美しさと分裂的展開の拮抗に対して、マイスターの制御過剰的側面が分裂よりに音楽をシフトしてしまった印象もありました。続くスケルツォへの間も同じく長くとり、最初の1音へ集中。このスケルツォと終楽章は逆にマイスターの制御によってマーラーの複雑な音楽を解き解しながら進める快感を味わえました。カラヤンは曲全体の構造を見据えた大局を踏まえた展開を得意としていますので、大波のような盛り上がりに力点を置いていましたが、マイスターはディテールの彫りの深さに集中しているよう。それだけにオーケストラコントロールは圧倒的な迫力を帯び、大編成の金管楽器群、ハープやチェレスタなどの特殊な音色をもたらす楽器、カウベル、ドラ、ハンマー、2台のティンパニなどの打楽器群が大活躍。読響も完璧な仕事で応えていました。生のコンサートゆえ、終楽章で打楽器奏者がハンマーを振り上げステージを揺るがすような一撃を加えるところは圧巻。バックスイングがステージ裏のお客さんの目の前だったのも迫力十分。フレーズの離合集散を繰り返しながらフィナーレに至る長大な終楽章を見事に制御しきって、最後の一音がサントリーホールの静寂の中に消え、やはり微動だにしないコルネリウス・マイスターがすっと力を抜いた瞬間、拍手が降り注ぎました。この日の観客はマイスターの躾が行き届いていたので、最後の余韻を十分に堪能できました。



コルネリウス・マイスターのオーケストラコントロールは圧巻でしたので、観客も大編成のマーラーを堪能したことでしょう。私はもちろん、前半のハイドンの素晴らしさでコルネリウス・マイスターという人の音楽が心に刻まれました。マーラーについても素晴らしい演奏でしたが、私のハイドンに対する姿勢同様、マーラー好きな人からは意見が分かれる演奏だったかもしれませんね。なにしろマーラー好きの日本人はアバドやバーンスタイン、インバルらの名演奏が刷り込まれ、最近も多くの名演奏が都内のコンサートで聴ける環境にありますので(笑)。

コンサートのパンフレットによると、コルネリウス・マイスターは2018年のシーズンから読響の首席客演指揮者に就任するとのこと。また、カンブルランの後を受けて、同じく2018年のシーズンからシュツットガルト歌劇場の音楽監督になるとのこと。これからが楽しみな人ですね。今後、読響でのコンサートプログラムは注目要です。

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テーマ : クラシック
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tag : マーラー サントリーホール

プロフィール

Daisy


Author:Daisy

なぜかハイドン(Franz Joseph Haydn)が特に気に入り膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。東京在住のごく普通のサラリーマンです。

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所有盤をジャンル別にリスト化しています。基本的に録音年順とし、録音年不明のものは末尾に記載。演奏者名はジャケットなどの表記に合わせています。

2016年9月のデータ(2016年9月30日)
登録曲数:1,361曲(前月比+3曲) 登録演奏数:9,608(前月比+87演奏)
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