ジョン・ネルソン/オランダ放送室内フィルの「天地創造」(ハイドン)

久々の映像ものです。しかもこれがなかなか良い。

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ジョン・ネルソン(John Nelson)指揮のオランダ放送合唱団(The Netherland Radio Choir)、オランダ放送室内フィルハーモニー管弦楽団(The Netherlands Radio Chamber Ohilharmonic)の演奏で、ハイドンのオラトリオ「天地創造」のライヴ映像を収めたDVD。収録は2010年6月、オランダのアムステルダム近郊の五稜郭のような要塞都市ナールデン(Naarden)のナールデン大聖堂でのコンサートのライヴ。レーベルはEUROARTS。

天地創造をとりあげるのは久しぶりです。しかも今回は映像。前からちょっと気になっていたアルバムですが、入手していないことに気づき手に入れました。指揮者もオケもなじみのないものでしたが、同じ組み合わせでバッハのマタイ受難曲、ロ短調ミサやベートーヴェンのミサ・ソレムニスなどもセットになった宗教音楽集バージョンもリリースされているなどかなり本格的な内容。また天地創造の歌手は一流どころが揃っており、期待できそうな予感がありました。歌手は下記のとおり。

ガブリエル:リサ・ミルン(ソプラノ)
ウリエル:ウェルナー・ギューラ(テノール)
ラファエル:マシュー・ローズ(バリトン)
エヴァ:ルーシー・クロウ(ソプラノ)
アダム:ジョナサン・ベイヤー(バス)

指揮者のジョン・ネルソンは1941年、アメリカ人の両親のもと、コスタリカで生まれ、シカゴ近郊のホィートン・カレッジ(Wheaton College)、ニューヨークのジュリアード音楽院で学び、1976年から87年までインディアナポリス交響楽団の音楽監督、1985年から88年までセントルイス歌劇場の音楽監督、以後91年まで首席指揮者、1983年から90年まではニューヨーク州カトナーのカラマー国際音楽祭の音楽監督などを歴任。欧米の主要オケへの客演履歴も豊富で、欧米では知られた人のようです。1998年はら2008年までパリ室内管弦楽団の音楽監督。現在はパリに住み、古典的な宗教曲の普及や合唱指揮などで活躍しているとのこと。一連のDVDは最近の活動の記録ということでしょう。

このDVDを記事に取り上げたということは、もちろん演奏が良いからに他なりません。

Hob.XXI:2 "Die Schöpfung" 「天地創造」 (1796-1798)
冒頭のメニュー映像は美しい要塞都市のナールデンの空撮映像から始まり、演奏会場となったナールデン大聖堂が素晴らしいロケーションにあることがわかります。大聖堂といっても十字のプランをもつゴシック様式の聖堂で小規模なオケと合唱で聖堂の半分がうまり、奏者と観客がほぼ同人数という規模。もちろん天井は高く石造りのため残響は豊かですが、鑑賞に問題があるほどではなく、録音は上手く処理しています。映像はカメラに動きがあってかなり凝ったもので、美しい聖堂でのコンサートを十分活かしたもの。
第1部のはじまりから、堅実な手腕でネルソンがオケをコントロールしていきますが、オケはまったく乱れを見せず、かなりの腕前揃いとみました。オケの規模の割に迫力は素晴らしく、タイトに引き締まっていい演奏。そしてコーラスも大聖堂に響きわたる迫力があり、オケとコーラスのコントロールは流石なところ。なにより素晴らしいのが歌手陣。最近では珍しい、5人構成でガブリエルとエヴァ、ラファエルとアダムはそれぞれ2人づつ設定されますが、ラファエルのマシュー・ローズが図太く鋼のような響きで存在感十分。ラファエルは天地創造の演奏の要だけに、この演奏の大きなポイント。ウリエルは古楽での登場が多いウェルナー・ギューラでしなやかな歌唱。そしてガブリエルのリサ・ミルンは可憐というよりよく響く声で迫力十分。ガブリエルのアリアの表情の豊かさはかなりもの。この3人の素晴らしい安定感がこの演奏の魅力の一つですね。そして聴き進むうちに、ネルソンの棒がオケをグイグイ引っ張り、ライヴらしい素晴らしい高揚感を表出していきます。盛り上げどころを心得た煽りが実に的確。オケも見事にそれに応え、第1部の終盤から小規模オケながら怒涛の高揚感に包まれます。そしてこうしたところでのコーラスの分厚いハーモニーが大聖堂に満ちていく幸福感。オケもコーラスも渾身の演奏でクライマックスを迎えます。

第2部は名曲の宝庫。ガブリエル、ラファエル。ウリエルともに聴かせどころを見事な歌唱でこなし、ネルソンはこんどはじっくりと歌手を支える側にまわって堅実な伴奏に徹します。速めのテンポで曲を進めるので見通しよく進め、第2部が間延びすることなく、美しい曲が代わる代わる響きわたるネルソンの酔眼。

第3部に登場するエヴァとアダムは如何にと思って聴き始めると、最初のウリエルのウェルナー・ギューラのあまりに見事な歌唱といままでで一番艶やかなオケの演奏に耳を奪われます。エヴァのルーシー・クロウは高音の透明感が素晴らしい歌唱。そしてデュエットの相手のアダムのジョナサン・ベイヤーもキリリと引き締まった硬質な声でいいアンサンブル。オケも曲の流れに乗って包み込むように歌手を支えます。ネルソンはかなり丁寧に指示を出して曲をまとめていきます。2つ目のアダムとエヴァのデュエットのなんという癒しに満ちた入り。デュエットも天上の歌声のよう。特にルーシー・クロウの声の抜けるような美しさは素晴らしいですね。そして終盤に差し掛かると大きなうねりの波に乗りながらも細かい指示で全メンバーのまとめて曲の大きな渦に乗せていきます。ハイドンが晩年に全精力を傾けて書いた名曲のすばらしさが圧倒的な高揚感のなかに浮かび上がります。そして終曲の冒頭の力みなぎる響きから、フーガのようにメロディーが繰り返されクライマックスへ。ネルソンは最後まで集中してオケとコーラスに指示を出しながら頂点を目指します。最後は神々しさを交えた響きに至り終了。大聖堂に暖かい拍手が満ちました。全員がスタンディングオベイション。この日の会場にいた観客は幸福感につつまれたでしょう。

ジョン・ネルソンという未知の指揮者による天地創造のライヴ。映像作品としてはコンサートの模様を丁寧に収録し、当日のライヴを見ているような感動を味わうことができる素晴らしいプロダクションです。歌手、コーラス、オケともにレベルが高く、しかも天地創造の演奏としては理想的なロケーションでのコンサートで、映像作品としては非常に楽しめるものに仕上がっています。演奏だけをとればこれより上の演奏もありますが、これはこれで貴重なもの。評価は[+++++]とします。オススメです!
惜しむらくはBlu-rayではないこと。ハイヴィジョン映像に慣れた現代の視聴環境にDVDの品質はちょっと難ありといったところでしょう。

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tag : 天地創造

エノッホ・ツー・グッテンベルク/バッハ・コレギウム・ミュンヘンの「四季」(ハイドン)

すみません、年明けから怒涛の新年会ラッシュでだいぶ間が空いてしまいました。久しぶりに大曲四季を取り上げます。

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エノッホ・ツー・グッテンベルク(Enoch zu Guttenberg)指揮のノイボイエルン合唱団(Chorgemeinschaft Neubeuern)、バッハ・コレギウム・ミュンヘン(Bach Colleggium München)の演奏で、ハイドンのオラトリオ「四季」を収めたLP。収録は1988年4月24日、ミュンヘンのガスタイク・フィルハーモニーでのライヴ。レーベルは独obligat。

このアルバム、最近ディスクユニオンで仕入れたもの。売り場でこのアルバムを見たときはエノッホ・ツー・グッテンベルクの振る四季はCDが手元にあったはずだと思って所有盤リストを確認してみると、CDとしてリリースされている録音とは別物ということが判明したため、いそいそとレジに進みました(笑) CDの方は2004年のセッション録音で、オケはクラング・フェアヴァルトゥング管。それに対してこちらは1988年と16年遡った日のライヴでオケはバッハ・コレギウム・ミュンヘンです。指揮者のエノッホ・ツー・グッテンベルクはあまり知られた人ではありませんが、CDの方の演奏は引き締まった秀演だったため、ちょっと記憶に残っていました。

エノッホ・ツー・グッテンベルクは、1946年、ドイツのバイロイト近郊のグッテンベルク(Guttenberg)に生まれた指揮者。グッテンベルク家はバイロイト一帯を含むフランケン地方の貴族であり、父カール・テオドールは1967年から69年までクルト・ゲオルク・キージンガー内閣の首相府政務次官を務めた政治家、息子カール=テオドールはメルケル内閣で経済・科学技術相、国防相を務めた政治家。息子の方はメルケルの有力な後継者とみなされるほど人気があったそうですが2011年、バイロイト大学に提出した論文に盗用疑惑が持ち上がり辞任したとのこと。
本人もドイツの大規模なワイナリーの所有者だったりと貴族の流れを汲む資産家のようですね。もともと、このアルバムで合唱を担当するノイボイエルン合唱団を1967年に創設し、すぐにドイツ国内のコンクールなどで優勝し、1980年からはフランクフルト・チェチーリア協会の合唱指揮者にも就任し、以後2つの合唱団や各地のオケなどを指揮して様々な音楽祭に招かれ、特に現代楽器でのバッハの演奏で知られるようになります。レパートリーはオラトリオを中心に現代音楽までとのこと。

歌手は下記の通り。

ハンネ:平松 英子(Eiko Hiramatsu)
ルーカス:ウェルナー・ホルウェグ(Werner Hollweg)
シモン: アントン・シャリンジャー(Anton Scharinger)

Hob.XXI:3 "Die Jahreszeiten" 「四季」 (1799-1801)
後のCDの引き締まった演奏とは異なり、かなり自然でおおらかな入り。LPですがデジタル録音の時代に入っていますので、録音は自然かつ精緻で聴きやすいもの。LPもいいコンデションのためノイズもほとんどなくスピーカーの周りにホールの空間が広がります。シモンのアントン・シャリンジャー、ルーカスのウェルナー、ハンネの平松英子ともに、ホールによく響く通りの良い声。特にコーラスは大河の流れのように分厚いハーモニー。流石に合唱指揮出身のグッテンベルクのコントロールというところでしょう。ジャケットの中開きには演奏風景の写真がありますが、コーラスは100人規模の大編成。第4曲のシモンのアリア「農夫は今、喜び勇んで」に入ると美しいアリアのメロディーに乗ってオケがだんだん引き締まってきて、ライヴらしい陶酔感が漂います。そして第6曲のソロに合唱が加わるところが圧巻。まさにコーラスの海に包まれるような幸福感。ハイドンが農夫の喜びを描いた心情がまさに音楽の悦びとして歌われる至福の瞬間。ライヴそのままの盛り上がりを味わえます。グッテンベルクはオケをことさら煽らず、曲に素直に大局を見据えて自然なコントロールに徹しており、歌手もオーソドックスながら皆素晴らしい歌唱で支えます。そして、第8曲の「おお、今や何と素晴らしい」の冒頭、オケがホールいっぱいに響き渡る素晴らしい迫力。録音の素晴らしさも手伝って類い稀な高揚感。まさにコンサート会場にいるような盛り上がりに圧倒されます。

LPをひっくり返して夏。前曲最後の盛り上がりから一転して、暗く静かな音楽に変わりますが、音楽の自然でしなやかな流れは変わらず。最初のシモンのアリア「眠りを覚ました羊飼いは今」はしっとりと美しく響きます。そして「朝焼けが訪れて」の輝かしいクライマックスでは再び大河のようなコーラスに包まれます。オケとコーラスのスロットルコントロールが自然ながらかなりの幅で、フルスロットルのエネルギーはかなりのもの。この自然なダイナミクスのコントロールがグッテンベルクの魅力でしょう。この後、レチタティーヴォなどで代わる代わるしっとりとソロを聴かせたあと、終盤のコーラスによる「ああ、嵐が近づいた」で再びオケとコーラスが爆発。そして最後の「黒い雲は切れ」でもコーラスが加わると一段とハーモニーが厚みを帯びて音楽に生気が宿りが宿ります。まさにコーラスが曲の中心にあるよう。

レコードを替えて後半へ。秋は収穫の喜びが満ち溢れた曲が続きます。三重唱とコーラスによる「こんなに自然は、勤労に報いてくれた」で最初のクライマックスに至り、ハンネとルーカスによる美しいヂュエット「町から来た美しい人、こちらへおいで!」、そしてシモンのアリア「広い草原を見渡してごらん!」では実にデリケートなオケの伴奏によって絶妙なニュアンスが引き出されます。そしてホルンのファンファーレが轟く「聞け、この大きなざわめき」では、ホルンが朗々と響き渡りますが、弱音のコントロール、遠方で鳴る響きのパースペクティブの演出まで含めて見事。オケのテクニックは素晴らしいものがあります。秋の終曲はコーラスによる「万歳、万歳、ぶどう酒だ」。舞曲が流れる中、コーラスが最高に盛り上がって終わります。

そして最後の冬。しっとりと沈んだ描写の美しさもこの演奏の特徴。音量を落としてもデリケートなニュアンスと陰影がしっかり描かれているので音楽が雄大に展開していきます。前半は歌手が絶妙なレチタティーヴォで引き締め、中盤の聴きどころの糸車の歌では、コーラスが土着的なメロディーを素朴に歌い上げます。その後もアリアとレチタティーヴォの美しいメロディーの連続にとろけそう。オケは要所でキリリと引き締まり、終曲で明るい和音が轟く瞬間の自然な輝かしさはなんとも言えない朗らかさ。節度を伴ってじんわり盛り上がる終曲のコントロールまで緊張感が保たれました。

エノッホ・ツー・グッテンベルクによるハイドン最後のオラトリオ「四季」の1988年のライヴでしたが、流石に合唱指揮者出身だけあって分厚く響くコーラスの魅力に溢れた名演でした。この大曲を実に自然な流れの中でまとめ上げる手腕は見事。オケのコントロールも素晴らしく、ハイドンの農民讃歌たるこの曲の理想的な演奏と言っていいでしょう。演奏のキレを聴かせるという意図は皆無で全編自然な音楽に溢れた演奏でした。残念ながらCD化はされていないようで、入手は容易ではないかとは思いますが、この素晴らしさは多くの人に聴いていただくべき価値があると思います。後年録音されたCDも引き締まったいい演奏ですが、私はこの自然な大河の流れのようなライヴの方が好みです。評価は[+++++]です!

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tag : 四季 ライヴ録音 LP

コリン・デイヴィス/BBC響の「四季」旧録音(ハイドン)

4月最初のレビューは最近手にいれたアルバム。

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サー・コリン・デイヴィス(Sir Colin Davis)指揮のBBC交響楽団(BBC Symphony Orchestra)の演奏でハイドンのオラトリオ「四季」。収録は1968年7月、ロンドン北西にあるワトフォードのワトフォード・タウン・ホール(Watford Town Hall)でのセッション録音。レーベルは今は亡きPHILIPS。

コリン・デイヴィスはハイドンの交響曲のPHILIPSへのアムステルダム・コンセルトヘボウ管との交響曲の録音で知られていますが、その録音は1970年代から80年代にかけてのもの。今日取り上げるアルバムはそれらの録音よりかなり前の1968年に収録されたもの。また、オケがアムステルダム・コンセルトヘボウではなくBBC響というのが珍しいところ。調べたところコリン。デイヴィスはアンタル・ドラティの後を受けて1967年から71年までBBC響の首席指揮者の地位にあったとのこと。

このアルバムを見かけるまでその存在に気づいていませんでしたが、CDプレイヤーにかけてみると、引き締まりまくった素晴らしい響きにすぐに耳を奪われました。デイヴィスの四季には2010年のロンドン交響楽団とのライヴの録音もありますが、デイヴィス特有の引き締まった響きが聴かれず、今ひとつピンとこない演奏でした。また、このアルバムと同じ体裁であるPHILIPS DUOシリーズのザロモンセットがLPで聴かれた彫りの深い見事な響きをまったく感じさせない劣悪なデジタルリマスタリングだったのでちょっと危惧しましたが、こちらはリマスタリングに問題なく、録音も万全。おそらくこの四季の録音の見事な出来栄えが、のちにコンセルトヘボウとの交響曲集の録音へつながったのではないかと推測しています。

さて、デイヴィスのハイドンはこれまで結構な数を取り上げています。デイヴィスのハイドンはキリリと引き締まり筋骨隆々としたオーケストラの響きの魅力で聴かせるものゆえ録音も非常に重要。最近LPも随分集めて、CDで聴くのとはやはり印象が違うことに気づいた次第。ザロモンセットはPHILIPSのCDよりもタワレコの復刻盤の方がはるかにいい音がしますので、これから入手されるかたは気をつけてください。もちろん状態のいいPHILIPSのLPが最高だと思います。

2014/07/21 : ハイドン–交響曲 : 【新着】コリン・デイヴィス/LSOのライヴ交響曲集(ハイドン)
2013/04/21 : ハイドン以外のレビュー : 【番外】コリン・デイヴィス/アムステルダム・コンセルトヘボウの「春の祭典」
2013/04/19 : ハイドン–交響曲 : 【追悼】コリン・デイヴィスの88番、99番
2011/10/28 : ハイドン–交響曲 : コリン・デイヴィス/バイエルン放送響の「ロンドン」ライヴ
2011/08/19 : ハイドン–交響曲 : コリン・デイヴィス/アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団の熊、雌鶏
2011/08/13 : ハイドン–声楽曲 : 【お盆特番3】コリン・デイヴィス/バイエルン放送交響楽団のネルソンミサ
2011/06/16 : ハイドン–オラトリオ : コリン・デイヴィスの天地創造ライヴ-2
2011/06/14 : ハイドン–オラトリオ : コリン・デイヴィスの天地創造ライヴ-1
2010/07/17 : ハイドン–交響曲 : コリン・デイヴィスの時計ライブ

なおこのアルバムは歌詞がドイツ語ではなく、英語版です。このアルバムの奏者は下記のとおり。

ハンネ:ヘザー・ハーパー(Heather Harper)
ルーカス:ライランド・デイヴィス(Ryland Davies)
シモン:ジョン・シャーリー=クァーク(John Shirley-Quirk)
合唱:BBC合唱団(BBC Chorus)

Hob.XXI:3 "Die Jahreszeiten" 「四季」 (1799-1801)
冒頭から隅々までコントロールが行き渡った引き締まった響き。言われなければアムステルダム・コンセルトヘボウ管だと思ってしまいます。テンポは遅めでフレーズをくっきり丁寧に描いていきます。流れよりもリズムを強調したいのか、一拍一拍にキリッとアクセントがつけられ、まさにボディービルダーのごとき筋骨隆々とした力強い響きに圧倒されます。オケは分厚い弦楽セクションが迫力十分。シモンのジョン・シャーリー=クァークは、くっきりとしながらもちょっと響きが個性的なバリトン、サイモンのライランド・デイヴィスはよく通る抜けの良いテノール、そして目玉のハンネのヘザー・ハーパーは悪くありません。しなやかで可憐な表情をもつソプラノ。そしてコーラスはオケの後ろに大海原のように広がる量感豊かな響き。オケの引き締まった響きと調和がとれていい感じです。コリン・デイヴィスのコントロールは、フレーズごとにテンポを大きく変えながら実に丁寧に描いていきます。音楽がイキイキと踊りますが、一貫して彫りが深く、音楽の表情も引き締まって聴こえます。第6曲の「慈悲深い天よ、恵みを与えてください」では、ハイドンらしい晴朗さに満ちあふれたメロディーを三重唱とコーラスで描きますが、劇的というより理性的にコントロールされた晴朗さを保ち、曲の面白さ自体に語らせるデイヴィスらしいアプローチ。そして春の終曲である第8曲の「おお、今や何と素晴らしい」のクライマックスでは陽光に輝く白亜の神殿のような構築感に圧倒されます。このあたりの演出の巧みさは流石デイヴィスといったところ。

夏では、春で聴かせた迫力だけでなく、冒頭の憂鬱な音楽に代表されるしっとりとした部分で情感溢れる表情をつくり、オケが爆発する部分との見事な対比で聴かせます。後年のデイヴィスよりも表情の描きかたが丁寧で、長大な四季であっても集中力が途切れることがありません。特になにげないフレーズの表情をイキイキと聴かせるところはこれまで聴いた現代楽器の四季の中でも出色。ハイドンが最晩年にたどり着いた音楽的成熟の極みであるこの曲を実に楽しげに奏でます。夏の音楽がこれほどまでに美しく響くことに改めて驚きます。第15曲のハンネのアリア「何という爽やかな感じでしょう」はヘザー・ハーパーのソプラノも素晴らしいのですが、デイヴィスの伴奏も絶品。終盤の「ああ、嵐が近づいた」での荒れ狂うオケから、終曲の三重唱と合唱「黒い雲は切れ」に入って幸福感に満ちた三重奏とコーラスによる大きなうねりへの変化も見事。

CDを変えて秋から冬へ。オケもソロも集中力は変わらず、秋の聴かせどころ第26曲の「聞け、この大きなざわめき」でのホルンのファンファーレもホルンが超絶的な巧さ。これほどキレの良いホルンは久しぶり。BBC響、見事です。収穫の秋の喜びの音楽が天真爛漫に響きわたり、秋を終えます。そして暗い冬の景色の描きかたも見事。凍てつく雪原を想起させる情景描写。第34曲の「くるくる回れ」(糸車の歌)の軽いコミカルな伴奏に乗ったヘザー・ハーパーのしっとりとしたソプラノ、第38曲のシモンのアリア「これを見るが良い、惑わされた人間よ」のゆったりとした伴奏に乗ったシャーリー=クァークの朗々としたアリアとぐっと引き込まれるような聴きどころがあります。そして終曲の三重唱と合唱「それから、大いなる朝が」でクライマックスを迎えますが、最後までオケの引き締まった響きの魅力を保ち、情に流されないシンフォニックな響きで聴かせます。

コリン・デイヴィスとBBC響による1968年、デイヴィス41歳の時に録音されたハイドンの「四季」。この演奏、これまで聴いたデイヴィスのハイドンではベストといえる出来です。晩年のすこしゆとりをもった演奏とは異なり、キリリと引き締まった響きをオーケストラから引き出していますが、それに加えてさりげないフレーズにも実に豊かな音楽が流れ、まさに緩急自在。ハイドンの音楽に内在する理性的な面、ユーモラスなところ、機知に富んだところをバランスよく踏まえて、タイトなばかりではない素晴らしい表情を引き出しています。録音もPHILIPSの黄金期の空気感を感じさせる素晴らしいもの。現代楽器の四季のなかでもオススメ盤の一つと言っていいでしょう。評価は[+++++]とします。手に入るうちにどうぞ。

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ゼーフリート/クリップス/ウィーンフィルの天地創造から(ハイドン)

月末ですが、もう一つ小物をとりあげます。先日取り上げたヨーゼフ・クリップスとウィーンフィルの交響曲を取り上げた際に、ネットのディスコグラフィを調べていて発見したアルバム。

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新星堂とEMIによる”栄光のウィーンフィルハーモニー管弦楽団II~その指揮者とソリストたち~”というシリーズの第24集の「ウィーン国立歌劇場の名歌手たち」というアルバム。この中に「天地創造」からガブリエルのアリアを2曲が入っています。ガブリエルはイルムガルト・ゼーフリート(Irmgard Seefried)、ヨーゼフ・クリップス指揮のウィーンフィルの演奏。このアリアの演奏は1946年11月3日、4日です。

先日クリップスの振るウィーンフィルの素晴らしいハイドンに酔いしれましたが、冒頭に書いたとおり、他に録音がないかと調べていたところ、驚くべき録音が存在することがわかりました。ハイドンはハイドンでも天地創造であり、しかもガブリエルが好きなイルムガルト・ゼーフリート! アリアの抜粋とはいえ録音は1946年と戦後間もなく。録音が古いのが嬉しいのではなく、ゼーフリートのハイドンの中では一番若い時の録音ということで、ネットで発見して、マイクロセカンド単位の早業でamazonに注文を入れました。到着がこれほど待ち遠しいアルバムはありませんでした。

これまでゼーフリートの歌うハイドンは2度ほどレビューしていますが何れも天地創造。

2011/09/22 : ハイドン–オラトリオ : オイゲン・ヨッフム/バイエルン放送交響楽団の天地創造ライヴ-2
2011/09/20 : ハイドン–オラトリオ : オイゲン・ヨッフム/バイエルン放送交響楽団の天地創造ライヴ
2011/02/20 : ハイドン–オラトリオ : マルケヴィチ/ベルリンフィルの天地創造、ゼーフリート絶唱

マルケヴィチのアルバムでのゼーフリートのガブリエルのアリアを聴いたときの衝撃は忘れられません。アリアの音程がゆっくりと上がるのに合わせてこちらも昇天。この世のものとは思えない美しさに完全にノックアウトされました。この録音が1957年ということでゼーフリートは44歳、そして次に手にいれたヨッフムのアルバム1951年録音、ゼーフリート38歳。若干古目の録音からも可憐で艶やかなソプラノに痺れたものです。そして今回のアルバムは1946年録音ということでゼーフリート33歳。ちょっと平常心を失い気味です(笑)

このアルバムに収録されているのは第1部のガブリエルの第7曲のレチタティーヴォと第8曲のアリア、そして第2部冒頭の第14曲のレチタテイーヴォと第15曲のアリアです。

Hob.XXI:2 "Die Schöpfung" 「天地創造」 (1796-1798)
(Recitativo: Und Gott sprach, Aria: Num beut die Flur)
LPから起こしたものでしょうか、わずかながらスクラッチノイズが聞こえますが、音の鮮度は悪くありません。レチタティーヴォから憧れのゼーフリートの若々しい声にうっとり。かえってノイズがノスタルジックな雰囲気を盛り上げます。ガブリエルのアリアに入ると序奏からクリップスはかなりゆっくり目のテンポでウィーンフィルからゆったりとした響きを引き出しています。それに合わせてゼーフリートも朗々とアリアを歌います。ゆったりとした静けさの支配するアリア。マルヴィッチとの歌唱は成熟した魅力に溢れていましたが、こちらは若々しく可憐な印象。声の伸びはマルケヴィチ盤ですが、この清純な感じもいいですね。最後にすっと突き抜ける高音の魅力を聴かせます。

(Aria: Auf starkem Fittige)
第二部の冒頭の序奏から入ります。クリップスは相変わらず落ち着いてウィーンフィルを捌きます。しっとりとした響きが古きよきウィーンフィルの良さ。ゼーフリートは声量を抑えて可憐に入ります。歌のテクニックは後年のものには敵いませんが、持って生まれた声の美しさで聴かせるもの。憧れのゼーフリートですが、アリアの聴かせどころの演出などは、まだまだ工夫の余地があり、やはりマルケヴィチ盤の素晴らしい完成度、ヨッフム盤の声の輝きとは一段差がありました。

若かりしゼーフリートの美声を味わえる貴重なアルバム。よくぞこのアルバムを企画してくれました。このアルバム自体は1998年のもので、リリースから17年も経ってしまったことになります。戦後のウィーンの時代の空気を味わったような暖かい心になるアルバムでした。ちなみに他にもエーリッヒ・クンツのレポレッロ、シュワルツコップのトゥーランドットなど1940年代後半の華やかなウィーン国立歌劇場のアリアを楽しめる好企画です。ハイドンのアリアは[++++]としておきましょう。

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【新着】フィリップ・ヘレヴェッヘ/シャンゼリゼ管の天地創造(ハイドン)

最近リリースされた大物、ヘレヴェッヘの天地創造。

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TOWER RECORDS / amazon / HMV ONLINEicon

フィリップ・ヘレヴェッヘ(Philippe Herreweghe)指揮のシャンゼリゼ管弦楽団(Orchestre des Champs-Elysées)、コレギウム・ヴォカーレ・ヘント(Collegium Vocale Gent)の演奏で、ハイドンのオラトリオ「天地創造」を収めたアルバム。収録は2014年3月24日から26日、ベルギーのブリュッセルにあるフラジェー(Flagey)第4スタジオでのセッション録音。レーベルはヘレヴェッヘの録音を専門にリリースするφ PHI。

ヘレヴェッヘのハイドンは今日取り上げるアルバムと同じ合唱団、オケとの組み合わせで収録した「四季」を昨年5月に取り上げています。

2014/05/12 : ハイドン–オラトリオ : 【新着】フィリップ・ヘレヴェッヘ/シャンゼリゼ管の四季(ハイドン)

その時にも近いうちに天地創造もリリースされるであろうことはなんとなく予想していましたが、これほど早いリリースになるとは思ってもみませんでした。四季が未曾有の名演だったということもあり、この天地創造も期待のアルバムです。

ヘレヴェッヘの略歴などは四季のレビューの方をご参照ください。このアルバムに参加している歌手は下記のとおり。

ガブリエル/エヴァ(ソプラノ):クリスティーナ・ランズハマー(Christina Landshamer)
ウリエル(テノール):マクシミリアン・シュッミット(Maximilian Schmitt)
ラファエル/アダム(バス):ルドルフ・ローゼン(Rudolf Rosen)

歌手の方は四季とバスが違うだけで、ヘレヴェッヘのお気に入りの人でしょう。

Hob.XXI:2 "Die Schöpfung" 「天地創造」 (1796-1798)
第一部
ヘレヴェッヘらしい、ニュートラルな響きの序奏。シャンゼリゼ管は古楽器オケではありますが、低音楽器も厚みがあり、迫力も十分。同じ古楽器オケで愛聴しているクリスティ盤と比べると、クリスティの方が響きを整理して旋律がくっきりと浮かび上がる感じ。一方こちらのヘレヴェッヘ盤はまさに混沌から秩序が生まれ出てくるようすそのままのよう。響きの柔らかさ、フレージングのしなやかさはこちらの方が上。よりニュートラルといったらいいでしょうか。中庸なテンポで自然に進行、まさに中庸の美学のような演奏。ソロはバスのルドルフ・ローゼンは迫力よりも風格で聴かせる歌。四季のフローリアン・ベッシュが圧倒的な声量の存在感で聴かせたのとは異なるスタイル。テノールのマクシミリアン・シュミットは実に柔らかな声。キレのいい歌唱で、曲が引き締まります。これもヘレヴェッヘの好みでしょう。ガブリエルのクリスティーナ・ランズハマーはコケティシュといっていいほど線が細い声ですが高音の響きが美しく可憐。録音はソロがオケに溶け込みながらすっと浮かぶいいバランス。第一部の終盤のクライマックスへの道程は静寂と間を存分に活かして、やはりニュートラルなもの。力みは皆無。オケが軽々と吹け上がり、音楽のエッセンスが盛り上がることが本質だと言わんばかり。弦楽器がキレよくコーラスを伴って幾重もの波となって押しかけるよう。

第二部
ヘレヴェッヘの演奏スタイルに最もマッチしそうなのが第二部。フレーズを丁寧に描きながらテンポよく曲が進みます。第一部よりもテンポを上げ、曲の見通しをよくしようということでしょうか。ソプラノのクリスティーナ・ランズハマーは第一部よりも滑らかになり、しっとりとした美声の魅力が引き立ちます。第二部の途中でCD2に変わる一般的な区切り方。後半はラファエル、ウリエルのレチタティーヴォと美しいメロディーのアリアがつづきますが、ここにきてラファエルのルドルフ・ローゼンの語り口が実に巧い。この演奏でも歌の巧さが聴きどころ。第二部終盤の合唱、三重唱、合唱と進むところでの盛り上がりでもローゼンが絶妙な語り口を聴かせます。さっぱりとしながらもグイグイオケが攻めてくる感じはヘレヴェッヘの真骨頂というところでしょう。最後のハレルヤコーラスはコレギウム・ヴォカーレ・ヘントの透き通るようなコーラスが絶品。

第三部
ここまで、中庸の美学を保ちながら自然な演奏を繰り広げてきましたが、最後の第三部では染み入るようなしなやかな入りで緊張感が途切れません。実に美しい音楽。ウリエルのマクシミリアン・シュッミットの柔らかい歌唱が花を添えます。アダムとエヴァのデュエットはしなやかなな流れの中にパッと明かりが差したような華やかさ。長大な曲にもかかわらず、ディティールまで磨き抜かれたレベルの高い演奏。デュエットの最後の盛り上がりも一貫してしなやか。レチタティーヴォを挟んで、2番目のデュエットでもしっとりとした音楽が流れ、うっとりするばかり。金管の響きも絶妙にコントロールされていて、ところどころでアクセントをつけます。最後の合唱で再びコレギウム・ヴォカーレ・ヘントが透明な響きによる音の洪水のような素晴らしいコーラスを聴かせます。最後までしなやかさを失わない素晴らしい演奏でした。

フィリップ・ヘレヴェッヘによるハイドンのオラトリオ第二弾の天地創造ですが、聴けば聴くほど完成度の高さに唸らされる素晴らしい演奏。長大な曲があっという間に感じられるほどの夢のような時間でした。天地創造は演奏によっては力みを感じさせてしまうものですが、この演奏に力みは皆無。そして何より歌手とコーラスが素晴らしい出来です。聴き始めはバスが弱いかと思ったんですが、ルドルフ・ローゼン、実に印象的な語り口にグイグイ引き込まれます。美しいメロディーのアリアもいいのですが、表現力豊かなフォルテピアノによってレチタティーヴォも聴き応え十分。そしてヘレヴェッヘに隅から隅までコントロールされたシャンゼリゼ管も見事。天地創造の決定盤的存在と言ってもいいでしょう。評価はもちろん[+++++]とします。

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tag : 天地創造 古楽器

【新着】サヴァリッシュ/フィレンツェ五月音楽祭管天地創造ライブ(ハイドン)

リリースされたばかりのアルバムが到着!

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TOWER RECORDS / amazon / HMV ONLINE

ウォルフガング・サヴァリッシュ(Wolfgang Sawallisch)指揮のフィレンツェ五月音楽祭管弦楽団、フィレンツェ五月音楽祭合唱団(Orchestra e Coro del Maggio Musivale Fiorentino)の演奏によるハイドンのオラトリオ「天地創造」。収録は1999年6月11日、12日、フィレンツェのペルゴラ劇場(Teatro della Pergola)でのライヴ。レーベルはフィレンツェ五月音楽祭の自主制作。

日本でもN響の育ての親的存在として広く知られるウォルフガング・サヴァリッシュの振る天地創造の1999年のライヴ。あんまりハイドンを振った印象が残っていなサヴァリッシュですが、実はサヴァリッシュの振るハイドンは過去に3度ほど取り上げています。

2013/03/04 : ハイドン–交響曲 : 【追悼】ヴォルフガング・サヴァリッシュ ウィーン響との「驚愕」「軍隊」「時計」
2010/11/15 : ハイドン–オラトリオ : サヴァリッシュ、N響の天地創造ライヴ
2010/06/10 : ハイドン–オラトリオ : 重厚、サヴァリッシュの四季

このうち天地創造は1991年に行われたBMWジャパン設立10周年を記念してサントリーホールで行われた演奏会の様子を収録して顧客に配られたもので市販品ではありません。私がBMWの優良顧客なわけもなくこのアルバムはいつも通りディスクユニオンで中古盤を仕入れたものです。このサントリーホールライヴはサヴァリッシュらしい重厚ながら見通しの良い秀演。特にバスのクルト・モルの図抜けた存在感が聴きどころでした。

今日取り上げるライヴ盤は先のサントリーホールでの91年のライヴから下ること8年の1999年、フィレンツェ五月音楽祭でのライヴ。なんとバスは同じくクルト・モルで、テノールも同じくヘルベルト・リッペルトということで、この2人、サヴァリッシュのお気に入りということででしょうか。ソプラノはアンドレア・ロスト(Andrea Rost)という布陣。この演奏当時75歳のサヴァリッシュがどのようにオケと歌手をコントロールしているかが聴きどころでしょう。

Hob.XXI:2 "Die Schöpfung" 「天地創造」 (1796-1798)
冒頭から力感に満ちつつも枯れた表情も見せる大迫力のオーケストラサウンド。比較のために取り出したN響を振ったサントリーホールライヴがスタイリッシュに聞こえるほど、こちらの方がテンポが遅く、構えが大きく聴こえます。録音はライヴとしては水準レベルですが迫力は十分つたわります。いきなり驚かされるのがクルト・モルのラファエルの第一声のど迫力。録音のバランスかもしれませんが、圧倒的な声量でいきなり度肝を抜かれます。以前アーノンクールの来日公演でのフローリアン・ベッシュの同じくラファエルの第一声のホール中に轟く声に驚かされたのを思い出させます。人間の声がオケを圧倒するほどのの迫力を持つこともあるんですね。最初のクライマックスで床を踏み鳴らす音が聞こえますが、指揮台の上のサヴァリッシュでしょうか。テノールのヘルベルト・リッペルトは声量は普通ながらキレの良い通りの良い声での安定した歌唱。ソプラノのアンドレア・ロストはテンションの高い高音よく通る声。聴きどころのガブリエルのアリアでは癒しというよりは艶やかな強い女を演じる感じ。ゆったりと歩んできた第一部ですが、第12曲の「いまや輝きに満ちて、陽は光を放ちながら昇る」からのクライマックスへのじっくりとした盛り上がりは、まさに晩年のサヴァリッシュの面目躍如。あわてずにじっくりと歩みを進めながら確実に頂点に近づいていく巨匠の技。ソロ、コーラス、オケが渾然一体となって昇り詰め、観客もその勢いに応えて拍手してしまいます。

CDを入れ替え第二部。迫力の第一部に対しアリアの美しさ、メロディーの面白さでは第一部以上に期待できる第二部ですが、サヴァリッシュも歩みをかなり遅くとった第一部に対して、すこし流れの良さを聴かせようとする方向にシフトしたのか、メロディーラインをくっきりと浮かび上がらせることに意識が向いてきたよう。最初のガブリエルのアリアは第一部よりもしなやかに演出します。続く三重唱とコーラスではソロがそれぞれ突き抜けるようにアリアを聴かせた上で再び頂点を迎え、サヴァリッシュが実に自然な歩みでクライマックスを築きます。そして第二部の一番の聴きどころのラファエルのアリア「いまや天は光に溢れて輝き」はクルト・モルの絶唱。生で聴いたらその声量と迫力に圧倒されたでしょう。身震いするほどの見事なコントロール。続くウリエルのレチタティーヴォとアリアに至ってサヴァリシュは音楽の純度を高め、透き通るようなリッペルトの声質をしなやかにサポートします。そして第二部の終曲は素晴らしいアリアの洪水の締めくくりとしてリズミカルにハレルヤコーラス。中間部のソロではクルト・モルが圧倒的な存在感。再びハレルヤコーラスに包まれ音楽は陶酔の彼方へ。

最後の第三部。冒頭から癒しに満ちた音楽。最初はちょっと鈍重だったオケも、第二部で完全に音楽を掌握し、第三部に至ってサヴァリッシュの棒に完全に一体となって音楽がいきいきと弾むようになってきました。第三部の聴きどころ、アダムとエヴァのデュエット、純度は最高潮。まさに至福に時の流れ。クルト・モルはこれまでの圧倒的な声量をあえて抑えて、エヴァをやさしく支えます。サヴァリッシュは天地創造に込められた音楽の素晴らしさをしなやかに表現することに徹して、水も漏らさぬコントロール。このゆったりとした音楽の流れを保つ円熟の棒捌き。ゆったりとゆったりと音楽が波打ち、湧き上がる感興に純粋に身を任せる喜び。第三部を神がかったような集中力でコントロール。まさに滔々とした大河の流れのよう。アダムとエヴァの第二のデュエットに至り、クルト・モルとアンドレア・ロストの至芸に完全にノックアウト。眼前で繰り広げられる迫真のデュエットを浴びるよう。そして徐々に終曲に近づく足音のようなメロディの緊張感。たまりません。本当の終曲はいきなりギア5段チェンジ! なんという展開。オケの音量が突然一気に上がります。これは録音レベルの調整でしょうか。天地創造の終曲はあっさりと終わる演奏もある中、この演奏は無理やりというか確信犯的に終曲に最高到達点をもってきました。驚愕のフィナーレ! 最後は拍手で終わりますが、これは衝撃的なフィナーレです。

日本のクラシックファンの育ての親的存在のウォルフガング・サヴァリッシュの振る天地創造のライヴ。重厚な演奏であろうことは以前のライヴからも想像できましたが、この展開は予想外。最後の外連味あふれる展開はまったく想定していませんでしたのでかなり驚きました。冒頭の第一部はちょっと重苦しい面もあり、第一部を聴いた時点では以前のN響のライヴの方に分があるとの印象でした。ただし、第二部、第三部と進むにつれ、サヴァリッシュの円熟の棒に引き込まれ、天地創造に込められた素晴らしい音楽の流れの魅力に圧倒されることになります。天地創造は第一部のドラマティックな展開が聴きどころでもありますが、最近は第二部、第三部の素晴らしい音楽にこそこの曲の真の魅力があると思うようになり、このサヴァリッシュの演奏はまさに第二部、三部が真の聴きどころということになります。評価は第一部の鈍重さを補って余りある後半のすばらしさを買って[+++++]とします。

ジャケットに写るサヴァリッシュの表情をまぶたに思い浮かべながら聴く第三部はまさにハイドンの音楽の素晴らしさにどっぷりと浸れる至福の時間でした。サヴァリッシュが亡くなってから2年余りが過ぎようとしていますが、あらためてその音楽の素晴らしさに触れられましたね。あちらでハイドンと仲良くやっているのでしょうか、、、

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tag : 天地創造 ライヴ録音

【新着】ハイティンク/バイエルン放送響の天地創造ライヴ(ハイドン)

書きかけの記事があるのですが、大物が手に入ったので、横入りでレビューです! 湖国JHさん、スミマセン!

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HMV ONLINEicon / TOWER RECORDS

ベルナルド・ハイティンク(Bernard Haitink)指揮のバイエルン放送合唱団、バイエルン放送交響楽団の演奏で、ハイドンのオラトリオ「天地創造」。合唱指揮はペーター・ダイクストラ(Peter Dijkstra)。収録は2013年12月19日から20日にかけて、ミュンヘンのヘラクレスザールでのライヴ。レーベルはバイエルン放送響の自主制作BR KLASSIK。

このアルバム、巨匠ハイティンクの最新のライヴということで、リリースが発表されたときより心待ちにしていたもの。注文をいれておいたものがようやく届き、早速のレビュー。ハイティンクのハイドンは正規録音は少なく、CD-Rがほとんど。これまでとりあげたハイティンクのハイドンの演奏はどれも素晴しいものでした。

2014/02/22 : ハイドン–交響曲 : ハイティンク/コンセルトヘボウ管の奇跡、99番(ハイドン)
2014/01/20 : ハイドン–交響曲 : ハイティンク/クリーヴランド管 交響曲86番1976年ライヴ(ハイドン)
2011/07/21 : ハイドン–交響曲 : ベルナルド・ハイティンク/ベルリンフィルの95番ライヴ
2011/06/28 : ハイドン–交響曲 : ハイティンク/ドレスデン・シュターツカペレの86番ライヴ!
2011/05/12 : ハイドン–交響曲 : ベルナルド・ハイティンク/ウィーンフィルの時計ライヴ

今日取り上げるアルバムはハイティンクのハイドンの正規録音としては非常に貴重なものです。しかも曲目は天地創造、昨年のライヴということで否が応でも期待が高まります。ハイティンクのビシッとオケを引き締めた筋肉質の演奏がきかれるでしょうか。

ソロは下記のとおり。

ガブリエル/エヴァ:カミラ・ティリング(Camilla Tilling)
ウリエル:マーク・パドモア(Mark Padmore)
ラファエル/アダム:ハンノ・ミュラー=ブラッハマン(Hanno Müller-Brachmann)

ソプラノのカミラ・ティリングははじめて聴く人。1971年生まれのスウェーデンのソプラノ。テノールのマーク・パドモアはマクリーシュの天地創造でもウリエルを歌ってました。そしてバス=バリトンのハンノ・ミュラー=ブラッハマンはアンドレアス・シュペリングの天地創造で、ラファエルとアダムを歌っている人。決して豪華な布陣ではありませんが、堅実な歌手をそろえているといっていいでしょう。オケと合唱は名門バイエルン放送響ということで、ハイティンクの相手としては申し分ありません。

Hob.XXI:2 / "Die Schöpfung" 「天地創造」 (1796-1798)
冒頭からこれ以上図太い響きはないほどの渾身の一撃。録音は流石に最新のものだけあって、広大なダイナミックレンジを感じさせるもの。響きの良いヘラクレスザールらしく、ホール内に響きの余韻が消え入るようすが手に取るようにわかります。ゆったりとしたテンポながらタイトに攻めていくのはハイティンクならでは進行。第1部は特に静けさの表現が見事。静寂から轟音が轟く場面の迫力は素晴しいものがあります。ヴォリュームの調整を誤るともの凄い音量になります。ウリエルのパドモアはヴィブラートがかかった独特の歌唱。ミュラー=ブラッハマンは声量よりもエッジを立ててクッキリと語るように聴かせる声。そして期待のカミラ・ティリングは余韻がふくよかななかなか美しい声。ハイティンクの重厚なコントロールに従い、それぞれ独特ながら落ち着いた歌唱を聴かせます。第1部のガブリエルのアリアはすこしメロディーがふらつくもののティリングは独特の色っぽさのある歌唱を聴かせます。期待の第1部終盤の盛り上がりはやはりハイティンクの盤石のコントロール。消え入るような弱音からクライマックスに至る盛り上がりは、オケの奏者全員が筋肉質に鍛え上げられたような力感あふれるもの。どうしても耳が歌手よりもオーケストラにいってしまいます。重厚に響くオケとコーラスの快感。ヘラクレスザールに響きわたる大音響。大津波のようなクライマックス! 汗かいちゃいます(笑)

ここでCDを入れ替えて、第2部以降を聴きます。第1部は重厚長大な印象が強かったんですが、第2部に入ると、軽やかな表情も見せ始めます。ガブリエルのティリングはやはり独特な雰囲気を感じさせる個性的な歌唱で冒頭のレチタティーヴォとアリアを支配。純粋に美しい音楽を楽しめる第2部、やはりハイティンクの操るオケの魅力が際立ちます。分厚い響きに乗ってソロとコーラスを交えて昇天。特に低音弦の迫力はちょっと類が無いほど。素晴しく自然で鮮明な録音のおかげで自宅がヘラクレスザールになったようにスピーカーのまわりに響きが満ちあふれます。次々と流れる素晴しいメロディーの数々に痺れます。それぞれ個性的な歌手の声にも馴れて、心地よく響きを楽しめるようになってきました。オケがこれほどに気持ちよく鳴る演奏がこれまであったでしょうか。ハイティンクの絶妙なオーケストラコントロールに完全にやられてます。オケもコーラスも渾然一体になってハイティンクにグイグイドライブされていきます。第2部の終結部のハレルヤコーラスも天から光が射してくるような神々しい雰囲気に満たされ、最後は響きの坩堝に巻き込まれるよう。

第3部は、自然なメロディーをハイティンクの作為はないものの自然な迫力を加えた演奏で聴きます。ここにきてウリエルの歌唱がしなやかさを増し、実にいい感じ。アダムとエヴァのデュエットはハイティンクの純粋無垢な伴奏が心を打ちます。さっぱりとしていながらも、柔らかな厚みで支える円熟の境地。ここはソロを引き立て、オケもコーラスも絶妙に抑えます。デュエットの後のじわりと盛り上ってくるところの燻し銀の演出にも痺れます。ハイドンの曲に宿る気配のようなものまで含めて、ダイナミックに、しかもしっとりと描いて行く手腕な見事。特に第2部以降の自然な佇まいは神がかっています。終曲にいたるまで、ハイティンクのコントロールに圧倒されっぱなしでした。終曲のオケ、コーラス、ソロの渾然一体となった壮麗さにも打たれました。

巨匠ベルナルド・ハイティクの指揮する名門バイエルン放送響の2013年12月の天地創造ライブ。ヘラクレス・ザールの素晴しい響きをそのままアルバムにしたような完璧な録音によって会場の興奮がつたわります。この天地創造はハイティンクの見事なオーケストラコントロールが圧倒的な魅力になっています。歌手はハイティンクの好みかもしれませんが、かなり個性的な布陣。歌手だけスポットライトを当てれば、このアルバムよりすぐれたものは沢山ありますが、オケとコーラスの圧倒的な存在感はこのアルバムを越えるものはあまりないでしょう。ハイティンクはこの演奏時84歳。円熟は感じさせても老いは一切感じさせない力強い音楽は流石です。このアルバム、大音量で聞くとまさに天地を創造しているよう。これは名演です。歌手の分を割り引くと言う考えもありましたが、ハイティンクの圧倒的な音楽に敬意を評して[+++++]とします。

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tag : 天地創造 ライヴ録音

【新着】フィリップ・ヘレヴェッヘ/シャンゼリゼ管の四季(ハイドン)

久々の新着アルバムです。

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HMV ONLINEicon / amazon / TOWER RECORDS

フィリップ・ヘレヴェッヘ(Philippe Herreweghe)指揮のシャンゼリゼ管弦楽団(Orchestre des Champs-Elysées)、コレギウム・ヴォカーレ・ヘント(Collegium Vocale Gent)の演奏で、ハイドン最後のオラトリオ「四季」を収めたアルバム。収録は2013年4月10日から13日、オーストリアのインスブルック公会堂でのセッション録音。レーベルはヘレヴェッヘの録音を専門にリリースするφ PHI。

古楽器演奏においては知らぬ人はいないヘレヴェッヘですが、手元のアルバムを調べてもヘレヴェッヘの指揮するハイドンの録音はありませんでした。唯一クイケンの指揮する天地創造で合唱指揮を担当してるアルバムがあるのみでした。手元にあるのはharmonia mundiに大量に録音したバッハのカンタータ集の録音が十数枚ほどとヨハネ、マタイ受難曲など。ヘレヴェッヘのバッハは透明感とほどよいしなやかさからハイドン以外では結構集めたほうです。

フィリップ・ヘレヴェッヘは1947年、ベルギーのヘント生まれの指揮者。少年時代はイエズス会の少年聖歌隊員だったそうで、実家が医者であったことから精神科医を目指してヘント大学医学部で心理学を学びましたが、ヘント音楽院でピアノ、チェンバロ、オルガンなどを学び、結局医学をあきらめ音楽家になることになりました。1970年代には指揮活動に従事し、コレギウム・ヴォカーレ・ヘントを創設。その演奏がアーノンクールらに注目され、レオンハルトなどと共同で進められていたバッハのカンタータ全集の一部を担当したということです。1977年にはルネサンスから現代音楽までをレパートリーとするシャペル・ロワイヤルを設立、他にもルネサンス音楽を専門に演奏するヨーロッパ声楽アンサンブル、ロマン派などを中心に演奏するシャンゼリゼ管弦楽団、現代音楽を専門とするアンサンブル・ミュジック・オブリークなどを主宰。現代楽器のオケでは王立フランダース・フィルハーモニー管弦楽団の音楽監督に就任するなど活動は多彩です。

歌手は下記の通り。
ハンネ(ソプラノ):クリスティーナ・ランズハマー(Christina Landshamer)
ルーカス(テノール):マクシミリアン・シュッミット(Maximilian Schmitt)
シモン(バス):フローリアン・ベッシュ(Florian Boesch)

Hob.XXI:3 / "Die Jahreszeiten" 「四季」 (1799-1801)
第一部「春」
バッハのカンタータなどで親しんだ柔かな肌合いの古楽器の演奏。適度な覇気に落ち着いたテンポでじっくりと踏みしめていくような展開。メロディーの語り口の上手さは流石ヘレヴェッヘというところ。録音は癖のない自然なもの。残響も適度で非常にバランスの良いものです。冒頭からティンパニの自然な迫力を感じる理想的な録音と言っていいでしょう。
歌手は、バスのフローリアン・ベッシュはクッキリとエッジの利いた硬質の声。テノールのマクシミリアン・シュミットは柔らかい透明感に溢れた声。そしてソプラノのクリスティーナ・ランズハマーは高音の伸びが素晴しい可憐な声。そしてやはり合唱はヘレヴェッヘの演奏に共通した柔らかなハーモニーが特徴。天地創造のクリスティ盤と同様、自然な歌を楽しめる名盤の予感です。曲がすすむにつれて自然なハーモニーの美しさに徐々に引き込まれていきます。ハイドン最晩年の澄みきった心情を表すように淡々と演奏が進んでいきます。最後の三重唱と合唱による「おお、今やなんと素晴らしい!」では自然さを保ちながら、オケが渾身の響きで入り、リズミカルに美しいメロディーを奏で、清透なコーラスのやまびこのように重なっていく様は、清らかな迫力。この演奏の特徴が最も良く出たところでしょう。第一部から高い完成度にもかかわらず、それを感じさせない自然な演奏にうっとりです。

第二部「夏」
物憂い雰囲気ではじまる夏もヘレヴェッヘの自然な語り口は変わらず、淡々と音楽が流れ、徐々に起伏の面白さに引き込まれていきます。迫力で聴かせる演奏ではなく、音楽の流れと語り口の面白さでで聴かせる演奏。夏の前半のハイライト「朝焼けが訪れて」では、オケとコーラスがここぞとばかりに盛り上がりますが、それまでのしなやかさがあっての盛り上がりが映えるというもの。力まかせなところはなくてもかなりの起伏です。そしてルーカスのカヴァティーナ「自然は、重圧に喘いでいる」ではマクシミリアン・シュッミットが染み渡るような柔らかい声でじっくりメロディーを聴かせます。そしてハンネのアリア「何という爽やかな感じでしょう」ではクリスティーナ・ランズハマーのどこまでも延びていく高音の魅力にうっとり。ちょっと好みです。ざっくりと生成りの肌合いのオケに乗って気持ち良さそうに歌うランズハマーの美声に酔います。終盤はティンパニによる雷鳴が近づいてくるところの静寂感から嵐に変わるところの演出の見事さで、再びガッチリとつかみます。最後の「黒い雲は切れ」では癒しに戻ります。

第三部「秋」
CDを換えて2枚目。ヘレヴェッヘの指揮は緩む事なく淡々と進み、ハイドンの書いた音楽のとおり進みます。やはり、3曲目の「ごらんなさい、あそこのしばみの茂みの方へ」でオケが大波が来たように盛り上がります。軽快な曲の多い秋ですが、ここに来てオケの演奏精度の高さは流石というべきところ。終盤の狩のホルンによるファンファーレが高揚感ばかりでなく渋い表情も併せ持ち、このあたりのコーラスも見事。いつ聴いても盛り上がる最後の「万歳、万歳、ぶどう酒だ」もコーラスの圧倒的存在感。オケよりもコーラスが主導権をとっているよう。舞曲が宴席の興奮を伝え、まるでオペラのような展開に。オケとコーラスと鳴りものが渾然一体になって陶酔します。

第四部「冬」
モノクロームの冬の暗い風景のような序奏から入りますが、徐々に色彩が戻ってくるようにオケの表情がはっきりとしてきます。このあたりの微妙な表情の変化のコントロールは実に緻密。半ばでハンネと合唱による不思議なメロディーが出現。いつもこの曲の響きに惹き付けられます。「くるくる回れ」という糸車の歌。終曲の前のシモンのアリア「これを見るが良い、惑わされた人間よ」から、終曲三重唱と合唱「それから、大いなる朝が」は派手さはない展開なんですが、この大オラトリオの最後にふさわしい、神々しい雰囲気が漂います。最後に明るい響きが鳴り響くところは、フィガロの最後のすべてを許すメロディーが鳴る場面を彷彿とさせる癒しに満ちた聴き所。最後のコーラスによるフーガ締めくくります。

フィリップ・ヘレヴェッヘが満を持して録音した、ハイドン最後のオラトリオ「四季」。期待に違わぬ素晴しい出来です。私の好きなウィリアム・クリスティの「天地創造」と同様、古楽器ながら実に素朴にハイドンの名旋律をじっくりと奏でていき、歌の素晴らしさ、コーラスの素晴らしさに溢れた演奏。歌手、コーラス、オケそれぞれ万全。そして自然でじっくりと盛り上がりを楽しめる録音の良さもポイントです。久しぶりの大型プロダクションということで聴く方も力が入りました。手元のアルバムは輸入盤に丁寧な日本語訳をつけたマーキュリーのリリース。いつもながら丁寧な仕事に感服です。評価はもちろん[+++++]です。久々に四季の素晴らしさに打たれました!

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tag : 四季 古楽器

【新着】カール・フォルスターの天地創造(ハイドン)

実に、実に久しぶりに天地創造のアルバムを聴きます。

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カール・フォルスター(Karl Forster)指揮のベルリン交響楽団(Berliner Symphoniker)、ベルリン聖ヘトヴィヒ大聖堂聖歌隊(Chor der St. Hedwigs-Kathedrale Berlin)の演奏で、ハイドンのオラトリオ「天地創造」。収録は1960年1月27日から30日、2月17日、ベルリンのグリューネヴァルト教会(Grünewaldkirche)でのセッション録音。レーベルはEMI CLASSICSのELECTROLA COLLECTION。

ソロは次のとおり。

ガブリエル/エヴァ:エリザベート・グリュンマー(Elisabeth Grümmer)
ウリエル:ヨゼフ・トラクセル(Joseph Traxel)
ラファエル/アダム:ゴットローブ・フリック(Gottlob Frick)

このアルバム、タワーレコードの店頭で発見したもの。2013年にリリースされたものながらネットショップでは見つかりません。なぜでしょうか。

LP時代、ドイツプレスのEMI盤であるELECTROLA盤は、フランスプレスのPATHE MARCONI盤とともに音が良いので知られていましたが、CD時代に入ってELECTROLAの名前を見ることはなくなりました。このアルバムは久々にELECTROLAの名を冠したアルバムと言う意味でも感慨深いものがあります。

指揮者のカール・フォルスターは1904年ドイツのバイロイト東方、チェコ国境に近いティルシェンロイト近郊のグロースクレナウ(Grossklenau)生まれの指揮者、合唱指揮者。最初はレーゲンスブルクで哲学、神学を学び、その後ミュンヘンのルートヴィッヒマクシミリアン大学で教会音楽や音楽学を学ぶようになり、1934年から亡くなるまで、このアルバムの合唱を担当するベルリン聖ヘトヴィヒ大聖堂聖歌隊のカペルマイスターとして活躍しました。1963年に若くして亡くなっていますので、この録音は亡くなる3年前、56歳での録音ということになります。私はこのアルバムではじめてカール・フォルスターの音楽を聴きました。

歌手も当ブログではなじみのない人なのでさらっておきましょう。

ソプラノのエリザーベート・グリュンマーは1911年生まれのドイツのソプラノ。アーヘン歌劇場でカラヤン指揮のもと1940年にデビューし、その後デュイスブルグ、プラハの歌劇場で歌うようになり、戦後ベルリンに移って、ベルリン市立歌劇場(現ベルリン・ドイツ・オペラ)に出演するようになります。その後ヨーロッパやアメリカの主要な歌劇場に出演するようになりますが、出演はドン・ジョバンニのドンナ・アンナ、パルジファルの花の乙女、魔弾の射手のアガーテなど、ごく限られたものに制限していたそう。1986年に亡くなっています。

テノールのヨゼフ・トラクセルは1916年マインツ生まれのドイツのテノール。ダルムシュタット音楽院で学びましたがすぐに徴兵されますが、病気で離隊した後、1942年にドン・オッターヴィオ役でデビュー。その後捕虜としてイギリスにで過ごしたあと1946年にニュルンベルクで音楽界に復帰、シュツットガルト歌劇場、ザルツブルク音楽祭、バイロイト音楽祭などに出演。モーツァルトやワーグナーを得意としていたよう。亡くなったのは1975年。手元のアルバムでは同じ天地創造のウリエルをカイルベルト盤で歌っています。

バスのゴットローブ・フリックは1906年、シュツットガルト近郊のエールブロン=デュロン出身のバス。シュツットガルト州立歌劇場合唱団のメンバーから、フライブルク、ケーニヒスブルク(現ロシアカリーニングラート)などで働き、ケーニヒスブルクでカール・ベームに見いだされ、ドレスデン州立歌劇場と契約することになりました。その後ベルリン・ドイツオペラに移りましたが、以降はヨーロッパの主要な歌劇場に出演するようになります。亡くなったのは1994年。フルトヴェングラーから「ドイツで最も闇を感じるバス」と称された声の持ち主とのこと。録音はワーグナーが多いようです。手元のアルバムではヨッフム盤でもアダム/ラファエルを歌っています。

調べてみるとソロは大物揃いということがわかりました。

Hob.XXI:2 / "Die Schöpfung" 「天地創造」 (1796-1798)
第1部
歌手の起用から予想は出来ましたが、朗々としたソロが聴き所の演奏。適度に粗いオケはまさにオペラのよう。ちょっと時代がかった演奏スタイルではありますが、これがすぐに慣れてしまって、違和感はありません。それよりも、まずはフリックの鋼のような芯のあるラファエル、意外に堂々とキレのあるトラクセルのウリエル、体中に余韻が響き渡るグリュンマーのガブリエルと、ソロの素晴しい存在感に圧倒されます。オペラ黄金期の覇気が伝わるような歌唱。これでは現代の演奏が敵いそうにありません。フォルスターの指揮はベテランのオペラ指揮者のごとく、歌手を引き立てながら、所々で個性的なフレージングで自己主張。火の玉のような熱くたぎる音楽が吹き出していきます。聴き所のガブリエルのアリアは夢の国のよう。グリュンマーの美しすぎるソプラノに完全にノックアウトです。高音から低音まで磨き抜かれた美声。特にヴィブラートが良くかかった高音の美しさは筆舌に尽くし難いもの。溺愛するヤノヴィッツ、ゼーフリート以上かもしれません。第1部のクライマックスを構成する第10曲から13曲までの盛り上げは、コーラスがずば抜けた迫力。粗さはあるものの、荒削りな表情だけがもつ迫真の迫力を感じさせるもの。フォルスターのコントロールは堅実かつ要所をビシッと決め、静けさも戦慄を感じさせるなど、ポイントを押さえた職人らしいもの。特に第13曲の大神殿のような構築感は見事。鳴門の渦潮に巻き込まれていくような陶酔感、あ〜れ〜っ。

第2部
間をおかずすぐに第2部。名曲連発の第2部はこのアルバムの真の聴き所。すぐにガブリエルのアリアで、再びグリュンマーの美声にうっとり。適度にノリのいいフォルスターの伴奏にグリュンマーも歌いやすそう。つづいて圧倒的な迫力のゴットローブ・フリックのレチタティーヴォ、それから三重唱を経て第2部前半のクライマックスですが、最後の部分をテンポを落として朗々と演奏するあたり、古風ではありますが、独特の迫力を帯び、悪くありません。多くの演奏で三重唱でテノールが聴き劣りするんですが、トラクセルはむしろ対等以上の覇気を感じさせます。
CD2に変えて第2部後半。オケは調子が上がって鳴りが非常に良くなっています。ラファエルのアリア、第22曲「いまや天は光に溢れて輝き」の遠くから響き来る荘厳な輝き、ウリエルのアリア、第24曲「威厳と気高さを身につけ」の弾むような華麗さも盤石。トラクセルの表情豊かな伸びやかな声もこの曲のベストと思わせるもの。第2部のクライマックスのハレルヤコーラス、三重唱、ハレルヤコーラスでの三重唱の沈み込むコントロールが効いていて、対比の効果抜群。最後のコーラスはやはりテンポを落として荘厳に。

第3部
聴き所のアダムとエヴァの最初のデュエットは期待通りの素晴しさ。極上のオペラの一場面のような息のあったデュエット。アダムのフリックがあまりに揺るぎないので可憐というより鉄壁という感じ。2番目のデュエットはグリュンマー、絶唱。そして第34曲は、荘厳な入りから、例によって落としたテンポで神々しいばかりのクライマックス。演奏によっては構築感が出にくい難しい終曲をしっかりまとめる手腕は見事でしょう。

久々に聴いた大曲天地創造。歴史を感じさせる時代がかった演奏でもありますが、3人の名歌手と怒濤の迫力を生むコーラスをまとめあげ、劇的に展開するカール・フォスターの手腕は見事と言う他ありません。ソロはソプラノのグリュンマーが特に素晴しいと言いたいのですが、聴いてみると3人とも素晴しい出来。どのパートも天地創造のベストと言っても過言ではありません。このアルバムがこれまで眠っていたのは人類の損失です。評価はもちろん[+++++]をつけます。大変気に入りました。

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エドワード・ヒギンボトムの天地創造

実に久しぶりの天地創造。これまでいろいろレビューしていますが、久しぶりに取りあげたいアルバムに出会いました。

Higginbottom.jpg
HMV ONLINEicon / TOWER RECORDS

エドワード・ヒギンボトム(Edward Higginbottom)指揮のオックスフォード・ニュー・カレッジ合唱団(Choir of New Collage Oxford)、オックスフォード・フィロムジカ(Oxford Philomusica)の演奏による、ハイドンのオラトリオ「天地創造」。収録は2008年4月14日から17日にかけて、ロンドン郊外の聖ユダ・オン・ザ・ヒル教会(St Jude-on-the-Hill)でのセッション録音。レーベルはオケの自主制作レーベルでしょうか、op(Oxford Philomusica Records)というもの。

ソロは下記のとおり。
ガブリエル/エヴァ:ムハイリ・ローソン(Mhairi Lawson)
ウリエル:ルフス・ミュラー(Lufus Müller)
ラファエル/アダム:デイヴィッド・ストウト(David Stout)

このアルバム、先日銀座山野楽器店頭で見かけて手に入れたもの。天地創造などオラトリオのアルバムは、見かけるものはほとんど手中にあるため、店頭では滅多に新たなアルバムに出会わないのですが、やはり未知のアルバムはまだあるものですね。演奏者もレーベもはじめてのものですが、CDプレイヤーにかけてみると、私の好きな自然な響きの引き締まった演奏が聴こえてくるではありませんか。意外に素晴しい演奏にすっかり聴きほれてしまいました。特に合唱の精妙なコントロールが素晴しいく、ソロも粒ぞろいなんですね。合唱は少年と男性による合唱団のようです。

エドワード・ヒギンボトムは調べてみると、ホグウッドの天地創造のCDとDVDの演奏で、オックスフォード・ニュー・カレッジ合唱団の合唱指揮を担当していた人。ホグウッド盤ではエンシェント室内合唱団も加わっており、こちらの合唱指揮はサイモン・ハルセイでした。

ヒギンボトムはイギリスでも著名な合唱指揮者。ケンブリッジでオルガンを学んでいた時に指揮を学ぶ機会があり、その後のキャリアが開かれました。1976年からこのアルバムの合唱を担当するオックスフォード・ニュー・カレッジ合唱団の音楽監督を務めており、近年はエンシェント室内管やこのアルバムの演奏を担当するオックスフォード・フィロムジカなどの器楽オケの指揮もするようになったとのこと。このアルバムを聴く限りかなり堅実な手腕の持ち主。オケのオックスフォード・フィロムジカはオックスフォード大学のレジデントオケ。

Hob.XXI:2 / "Die Schöpfung" 「天地創造」 (1796-1798)
最新の録音らしく、じつに自然な音響。適度な残響の教会にゆったり轟くオーケストラの響き。迫力もかなりあり、分厚いながらも自然さを失わず、劇的な入りの曲を、特に大きな誇張もなく堅実に演奏していきます。歌は英語。ラファエルのストウトは余裕たっぷりの艶やかな歌唱。何より素晴しいのが少年合唱による女性パートを含むコーラス。清透ながらしっとりとした歌いぶりは流石。ウリエルのミュラーもストウトと声のタイプが近く、非常に艶やか。ソロは有名どころではないようですが、レベルは高いですね。適度な迫力に適度な緊張感。しなやかに曲を進めるようすは以前聴いたペーター・シュライアー盤に近い自然な良さをもったもの。ガブリエルのローソンも悪くありません。ソロも合唱もヒギンボトムの好みとコントロールが行き届いているのでしょう、非常に安定感がありますね。純粋に曲を楽しむのにうってつけ、メロディーラインの美しさが沁みてきます。全編癒しを感じる柔らかな感触に満ちてます。第一部の聴き所、ガブリエルのアリアは、ローソンのコケティッシュな魅力で聴かせるもの。時折抜けるような高音の美しい上昇がアクセントになってます。第一部の終結へ向けたクライマックスの表現は流石に一流オケとは迫力で差がつきますが、機敏さを保って緩む所はないのはかなりの実力とみました。

美しいメロディー連発の第二部はこのアルバムの聴き所。ヒギンボトム、しなやかに合唱とオケを歌わせるところは素晴しいコントロール。迫力や構成で聴かせる演奏が多い中、実に良く歌う演奏です。各奏者が非常に活き活きと演奏しているのが印象的。おそらく奏者どうしのつながりも深いものと想像できます。通例CDが2枚目に変わる第二部の前半の終結部、しなやかに盛り上がって、実に清々しい。終わると思ったら次に続きます。このアルバムでは第二部は終わりまでがCD1におさまってます。第二部後半のラファエル、ウリエルそれぞれのアリアは歌が沸き上がってくるような素晴らしい高揚感。単に自然な演奏というレベルではなく、しなやかさの限りを尽くした非常に美しい演奏というのが正しい認識でしょう。第二部はまさに歌が溢れ出てくる素晴しさ。

ようやくCDを変えて第三部。入りのウリエルのレチタティーヴォからとろけます。聴き所の2つのアダムとエヴァのデュエットは期待通り天上のセッションのような清らかさ。少年の声を活かしたコーラスも素朴な美しさも華を添えます。最後まで一気に聴いてしまう素晴しいメロディーの連鎖。終曲の何と神々しい事。ぐっさり刺さる演奏でした。

ここ数日何度か聴き直してのレビューですが、このアルバム、実に深い演奏。歌の美しさの限りを尽くした名演奏といっていいでしょう。正直期待した演奏を遥かに超える素晴しさ。天地創造がこれほどまでに美しいメロディーに満ちた「歌の曲」であると気づかされたというのが正直な所。久々に天地創造に打ちのめされました。評価はもちろん[+++++]を進呈です。このアルバム、歌曲好きな方には絶対のオススメ盤です。だまされたと思って手に入れるべし!

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Daisy


Author:Daisy

なぜかハイドン(Franz Joseph Haydn)が特に気に入り膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。東京在住のごく普通のサラリーマンです。

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