プラハ四重奏団の「皇帝」、「セレナード」(ハイドン)

まだまだ真価を知らなかった演奏はいろいろあるものですね。今日は弦楽四重奏の名演奏を。

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プラハ四重奏団(Prager Quartett)の演奏で、ハイドンの弦楽四重奏曲Op.76のNo.3「皇帝」、伝ハイドン作の「セレナード」の2曲を収めたLP。収録は1972年5月、プラハでとのみ記載されています。レーベルは日本のキングレコードによるeurodiscの国内盤。

プラハ四重奏団は1956年、プラハ交響楽団の首席奏者であったブレティスラフ・ノヴォトニーを中心に結成されたクァルテット。結成当初はプラハシティ四重奏団と呼ばれており、プラハ四重奏団と名乗るようになったのは1965年からとのこと。結成直後の1958年にはベルギーのリエージュで開催された国際コンクールで優勝し、国際的に注目されるようになり、活躍の場は世界に広がりました。メンバーは、結成後1957年、1968年にノヴォトニー以外のメンバーが入れ替わって、このアルバム演奏時の下記のメンバーとなりました。

第1ヴァイオリン:ブレティスラフ・ノヴォトニー(Bretislav Novotny)
第2ヴァイオリン:カレル・ブジビル(Karel Pribyl)
ヴィオラ:リュボミール・マリー(Lubomir Mary)
チェロ:ヤン・シルツ(Jan Sirc)

日本にも1965年をはじめに度々来日しており、日本で録音したアルバムも多数リリースされているということで、年配の方にはおなじみのクァルテットかもしれませんね。レパートリーはモーツァルト、ハイドン、ベートーヴェンなどの古典から現代ものまで幅広く、ハイドンについてはこのアルバムの他にもOp.20のNo.5、Op.54のNo.2があるそうです。

ちなみにこのアルバムは最近オークションで手に入れたもの。eurodiscの国内盤ですが、ミントコンディションの盤面に針を落とすと、いきなり鮮烈、華やかな演奏に引き込まれました!

Hob.III:77 String Quartet Op.76 No.3 "Kaiserquartetett" 「皇帝」 [C] (1797)
鮮烈に響く4本の弦楽器。緊密かつ華やかにリズムを刻み、音楽がイキイキと弾みます。演奏によってここまで躍動するのかと関心しきり。そして交錯するメロディーの美しさが浮かび上がります。緊密なハイドンも鋭いハイドンもいいものですが、やはり明るく華やかに弾むハイドンの楽しさに勝るものはないとの確信に満ちた演奏。陽光のもとに輝く骨格が圧倒的な美しさで迫ります。1楽章は別格の出来。
そして有名な2楽章はヴィブラートがしっかりかかった弦のハーモニーがしっとりと沁みる演奏。訥々と変奏を重ねて行く毎に枯淡の境地に至り、色数をだんだん減らし淡色の景色に変わります。最後はモノクロームの透徹した美しさに。よく見るとモノクロなのに色が見えるような豊かさも感じさせるアーティスティックな世界。絶品。
メヌエットでは、躍動感はそこそこながらしなやかに流れるメロディーを丁寧になぞりながら曲そのものの美しさをしっかりと印象付け、フィナーレでは精緻すぎることなく手作り感を程よく残しての迫力でまとめます。適度な音程のふらつきも手作り感に繋がっているんですね。クァルテットの勘所を押さえた実に見事な演奏でした。

String Quartet Op.3 No.5 "Serenadequartett" [F] (Doubtful 疑作 Composed by Roman Hoffstetter)
1楽章の弾むような華やかさは皇帝と同じですが、こちらの方は曲の作りも手伝って、より気楽さを感じさせる演奏。演奏する方も楽しんで演奏しており、奏者もリラックスしているように聴こえます。ハイドンの作ではないことがわかっていますが、長年ハイドンの曲として演奏されてきた伝統もあり、実にこなれた演奏。この力の抜け具合がこのクァルテットの実力を物語っています。
ピチカートに乗ったセレナードも同様、リラックスして実に楽しげ。このさりげない美しさこそハイドンの本質でもあります。簡単そうに見えて、この境地に至るには並みの力では及びません。やはりこの曲は名曲ですね。
メヌエットも見事に力が抜けて軽やか。そして終楽章のスケルツァンドも同様。曲自体に込められたウィットを見抜いて全編を貫く軽やかさで包んできました。この辺りも手慣れた感じながら、曲の本質を突く見事なアプローチです。

プラハ四重奏団による皇帝とセレナード。名演奏揃いのこの曲の中でも指折りの名演奏と言っていいでしょう。やはりハイドンの演奏にはこの明るさ、軽やかさが似合います。鬼気迫る精緻なハイドンもいいものですが、このような演奏を聴くと、ハイドンはこう演奏するのが粋なのだとでも言いたげな余裕を感じます。おそらくCD化はされていないものと思いますので、このLPが彼らのハイドンの貴重な証ということでしょう。評価はもちろん両曲とも[+++++]とします。



最近手元には幸松肇さんの「世界の弦楽四重奏団とそのレコード」というシリーズものの書籍があり、それを参照するとクァルテットの情報はかなりわかりますので調べるのに苦労することは少なくなりました。こちらは第3巻の東欧諸国編です。



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tag : 皇帝 ハイドンのセレナード 弦楽四重奏曲Op.76 LP

モードゥス四重奏団の五度、皇帝、ラルゴ(ハイドン)

今日は変わり種です。

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モードゥス四重奏団(Quartetto Modus)によるハイドンの弦楽四重奏曲Op.76のNo.2「五度」、No.3「皇帝」、No.5「ラルゴ」の3曲を収めたアルバム。ただし通常の編成ではなく、第1ヴァイオリンをフルートに変えたもの。収録はイタリア、トスカーナ州のピサ近郊にある温泉街のサン・ジュリアーノ・テルメ(San Giuliano Terme)にあるヴィラ・ディ・コルリアーノ(Villa di Corliano)でのセッション録音。レーベルは伊stradivalius。

ハイドンが弦楽四重奏曲の父と呼ばれ、存命中にヨーロッパで絶大な人気を博していたのは皆さんご存知の通り。そしてハイドンの時代、アマチュア音楽家にとって最も人気のある楽器はフルートであったことから、ハイドンの最も有名な弦楽四重奏曲をフルート四重奏曲に編曲するニーズがあったものと思われます。この辺りの経緯は以前取り上げた別のフルート四重奏曲のアルバムの記事に詳しく記載しておりますので、ご参照ください。

2011/04/09 : ハイドン–室内楽曲 : フルート四重奏による太陽四重奏曲

今日取り上げるフルート四重奏曲への編曲は、こうした世相を踏まえて弦楽四重奏曲からフルートと弦楽のための四重奏に編曲されたものと思われ、ハイドン自身によるものかはわかりませんが1800年頃にドイツのジムロック社から出版されたものとのこと。ハイドンの弦楽四重奏曲の頂点たるこれらの曲の、当時人気の編成への編曲版の楽譜が出版されるのは時代の流れでしょう。ただし、ハイドンの楽曲は楽器の音色を踏まえて書かれており、楽器が変わると表情もかなり異なります。果たして第1ヴァイオリンをフルートに持ち替えたことが吉と出ますでしょうか。

モードゥス四重奏団についてはライナー・ノーツなどにも何も記述がなく、また、Webを探してもこれといった情報が出てきません。この録音のために結成されたクァルテットということでしょうか。メンバーは2枚とも共通で下記の通り。

フルート:ロベルト・パッパレッテーレ(Roberto Pappalettere)
第2ヴァイオリン:クラウディオ・マッフェイ(Claudio Maffei)
ヴィオラ:ファブリツィオ・メルリーニ(Fabrizio Merlini)
チェロ:カルロ・ベンヴェヌーティ(Carlo Benvenuti)

このアルバムの他に、同じ奏者による2015年録音のOp.76の残り3曲を収めたアルバムもリリースされていますが、聴き比べてみると今日取り上げるアルバムの方が演奏の流れが自然なため、こちらを取り上げた次第。

Hob.III:76 String Quartet Op.76 No.2 "Quintenquartetett" 「五度」 [d] (1797)
聴き慣れた五度のメロディー。フルートの響きによってメロディーが華やかに浮かび上がります。パッパレッテーレのフルートはタンギングのキレ味良く、メロディーが爽やかに響きます。弦楽四重奏では鬼気迫るような1楽章も、メロディーがフルートに変わっただけで印象がガラリと変わります。音楽自体も少し軽く響くように感じます。また弦楽四重奏ではパート間の緊密な連携に耳が向きますが、フルートではメロディーが頭一つ抜き出ているので、メロディー自体の印象が非常に強くなります。アマチュア演奏家にとっては、有名なハイドンのメロディーでアンサンブルを楽しめるということで、これはこれでアリでしょう。現代におけるカラオケのような楽しみ方ができるような気がします。そうした気楽さで聴くとなかなか面白いものです。演奏も変にアーティスティックなところはなく、純粋に演奏を楽しむよう。また録音もフルートが心地よく聴こえるよう残響が多めで、音量もフルートが一番目立ち、弦は逆に残響の所為で穏やかに響きます。これはこの曲の位置づけを良く考えての録音なんでしょう。
2楽章は屈託無く明るいメロディーがフルートによって響きわたり、爽やかそのもの。テンポもほぼ揺らさず淡々と演奏して行きますが、それがなんとも心地良い。普通は曲に挑むところですが、そういった邪心は皆無。メヌエットでもハイドンのメロディーを楽しむようなサラサラストレートな演奏。
気楽に聴いてきたんですが、フィナーレに入ると速めのテンポでグイグイくるではありませんか。曲自体も緊密な構成ゆえのこととは思いますが、やはりここは聴きどころとばかりにアンサンブルが引き締まります。ハイドンのフィナーレはやはり聴き応え十分。

Hob.III:77 String Quartet Op.76 No.3 "Kaiserquartetett" 「皇帝」 [C] (1797)
続いて皇帝。前曲よりフルートに対して弦の音量がわずかに増したような気がします。バランスはこちらの方がいいですね。やはり響きはかなり華やかになりますが、、、五度では原曲のメロディーを楽しむ程度に聴こえていたものが、この皇帝では弦とのバランスが取れたことで、なんとなくより本格的なアンサンブルの面白さも感じられるようになってきました。1楽章は五度のフィナーレ同様緊密さで聴かせる見事な演奏。そして皇帝讃歌のメロディーの変奏となる2楽章は、通常は定位で聴き分けるしかない第1ヴァイオリンと第2ヴァイオリンがはっきりと聴き分けられ、ハイドンがこの曲に仕込んだ変奏の面白さが際立ちます。これは非常に面白い。続くメヌエットもメリハリがキリリとついて奏者も楽しそう。特にフルートのタンギングの鋭さが増して、実にリズムのキレが良い。弦楽器の擦るという行為で表現できる鋭さとは異なりますね。またフルートの響もぐっと深くなり音色の魅力も増してきました。そしてフィナーレの緊密なアンサンブルは期待通り。ここでもフルートのヴァイオリンの掛け合いの面白さが際立ちます。

Hob.III:79 String Quartet Op.76 No.5 [D] (1797)
最後はラルゴ。一貫して華やかさ、爽やかさを保っていますが、ここにきてふくよかさも加わります。皇帝同様アンサンブルもバランス良く、ここまでくると元の弦楽四重奏曲のイメージが邪魔せず、純粋にフルート四重奏の響きを楽しめるように耳も慣れてきました。これまで触れてこなかった、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロのバランスですが、前曲までは掛け合いを目立たせることなく、フルートとの対比の面白さを際立たせるために過度な表現を抑えているように聴こえましたが、このラルゴに入ると、それぞれ燻し銀ともいうべき味わいの深さを感じさせるようになります。
ラルゴの聴きどころである2楽章は、ぐっとテンポを落としてこれまでで一番抑揚をつけてしっとりと描きます。徐々に響きが深く沈みフルートの低音とヴィオラやチェロの響きが重なってえも言われぬ雰囲気に。そこにふっと高音のヴァイオリンが入るところは、これまでと異なる対比が顔を出し、ハッとさせられます。そしてメヌエットの大胆な音形、中間部ではチェロが初めて踏み込んだボウイングを聴かせるなど徐々に各奏者もちらりと腕を見せます。最後のフィナーレは弦楽器以上の爽快感を伴いながらの疾走。あえてフルート四重奏曲として演奏しているだけに、最後はフルートの音階の鮮やかさを印象づけて終わります。

モードゥス四重奏団のフルート四重奏による五度、皇帝、ラルゴのハイドン名曲3点セット。最初に聴いた時には弦楽四重奏との音色の違いの印象が強く、フルートの華やかな響きによってちょっと深みに欠けるという印象が強かったんですが、五度ではその華やかな気楽さこそがこうした編曲ものの演奏にはふさわしいと思うようになり、聴き進めていくと、だんだんこの編成の面白さと深みを感じられるようにこちらの耳も変化してきました。この面白さは弦楽四重奏を聴き込んだベテランの方にはわかっていただけるでしょう。評価は五度[++++]、皇帝とラルゴは[+++++]とします。

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tag : 弦楽四重奏曲Op.76 五度 皇帝 ラルゴ

ベレヌス四重奏団の「五度」(ハイドン)

本日は美女揃いのクァルテット。

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ベレヌス四重奏団(Belenus Quartett)の演奏による、ハイドンの弦楽四重奏曲Op.76のNo.2「五度」、バルトークの弦楽四重奏曲4番の2曲を収めたアルバム。収録は2012年7月10日から12日にかけて、スイスのチューリッヒ芸術大学室内楽ホール(Kammermusiksaal der Zürcher Hochschule der Künste)でのセッション録音。レーベルは独ACOUSENCE CLASSICS。

いきなり目を引く4人の女性奏者。皆楽器を手に持ち、暗闇を背景にこちらを凝視する「目力」を感じるジャケット。久々に妖気が漂うジャケットです。そう、かつてこのブログで多くの読者の心を奪った、ヴィヴェンテ三重奏団のアルバムに出会った時と同様の気配を感じます。そしてレーベルのACOUSENCE CLASSICSもはじめて手に入れるレーベルということで、ジャケットをパラパラとめくって見ると中には表紙とは異なり、リラックスして微笑む4人の写真が2枚掲載されており、多少安心させます(笑)。また、ライナーノーツの末尾には、今回の録音にあたってのマイクセッティング図と使用したマイク、マイクアンプ、コンバーター、調整卓がリストアップされ、音質にこだわったアルバムであることがわかります。ACOUSENCEというレーベル名もそれらしいもの。

ベレヌス四重奏団は2004年、スイスのバーゼルで設立され、2010年にチューリッヒ芸術大学の学生により新たな体制になったもの。モザイク四重奏団やアマティ四重奏団について学び、その後カルミナ四重奏団のステファン・ゲルナー、アルバン・ベルク四重奏団のイザベル・カリシウス、ラサール四重奏団のヴァルター・レヴィン、クス四重奏団のオリヴァー・ヴィレら豪華な講師陣に師事しているとのこと。2011年にはスイス・オルフェウス室内楽コンクールで優勝、その後も様々なコンクールに入賞しており、それらの実績によりこのアルバムがデビュー盤として録音されたものと思われます。メンバーは下記の通り。

第1ヴァイオリン:セライナ・プフェニンガー(Seraina Pfenninger)
第2ヴァイオリン:アンネ・バテガイ(Anne Battegay)
ヴィオラ:エスター・フリッチェ(Esther Fritzche)
チェロ:ゼラフィナ・ルーファー(Seraphina Rufer)

Belenus Quartett

なお、彼らのサイトを見て見ると、現在はチェロが男性に代わっているようですね。

さて、この妖気漂うアルバム、演奏は如何に。

Hob.III:76 String Quartet Op.76 No.2 "Quintenquartetett" 「五度」 [d] (1797)
流石に録音にこだわっているレーベルだけに、いきなりクァルテットの気迫みなぎる響きに圧倒されます。残響は比較的多めで木質系の小ホールで聴いているようなプレゼンス。肝心の演奏は推進力もあり、ダイナミックさとしなやかさを併せ持つナカナカのもの。一音一音のデュナーミクをかなりつけて五度の名旋律が驚くほど豊かに響きます。言われなければ女性だけのクァルテットとはわかりませんが、これが女性ならではのデリカシーかもしれません。第1ヴァイオリンのセライナ・プフェニンガーは少し細身ながらかなり流麗な弓さばきでメロディーをしなやかに歌い上げます。アンサンブルは精緻というよりはいい意味で勢いがあり音楽がよく弾みます。よく聴くとチェロの迫力はかなりのもの。これがこのクァルテットの響きの特徴になっているようですね。1楽章から覇気あふれる演奏に引き込まれます。
2楽章はピチカートの伴奏にヴァイオリンのメロディーでの入りで、静寂の中に弦楽器の音色が響きわたる入り。録音の良さが一層引き立ちます。セライナ・プフェニンガーのボウイングも自在さを増して、ハイドンの名旋律をリラックスしながら楽しげに演奏していきます。デビュー盤とは思えない成熟した音楽に唸ります。
続くメヌエットはこの曲を引き締める鋭いアクセント。それを踏まえて、しなやかにたたみかけ、弦楽器による迫力と響きの美しさの絶妙なバランスを保った演奏。強音の迫力とさざめくような弱音のコントラストも絶品。そして迫力だけでなくどこかに華やかさを感じさせるのが流石なところ。
そしてさらりとフィナーレに入りますが、キレ味の良さを随所に感じさせながら、ハイドンの複雑に絡み合う音楽を織り上げていきます。力みはなく、風通しの良さを保ちながらの演奏。やはり録音が弦楽器の響きの良さを引き立て、聴きごたえ十分。最後はたたみかけるようにエネルギーを集中させて終わります。

いやいや素晴らしい演奏ということでまとめに入ろうとしたところ、続くバルトークの4番の鋭利な響きに、ハイドンを聴き終えた幸福感が木っ端微塵に打ち砕かれます(笑) 聞き手にも極度の緊張を求めるアーティスティックな曲の開始に背筋ピーン(笑) 私が語れる立場ではありませんが、このバルトークも並の演奏ではありません。赤熱した鋼のごときエネルギーの塊のような音楽。このバルトークを聴いた上で、このアルバムのジャケット写真を見返してみると、「女だと思ってなめてかかるんじゃないわよ」とでもいいたげに見えます。やはりジャケットから感じた妖気は本物でした!

さて、女性4人によるベレヌス四重奏団の「五度」ですが、これはかなりのレベルの名演奏とみなして良いでしょう。クァルテットとしての完成度も素晴らしいものがあり、これがデビュー盤という気負いは全くなく、すでに円熟の境地に到達しています。選曲、演奏、録音、ジャケットを含めたプロダクションとも非常に高いレベルで言うことありません。評価は文句なしに[+++++]を進呈いたします。手に入るうちにどうぞ!

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tag : 五度 弦楽四重奏曲Op.76

絶品! バルトーク四重奏団のひばり、皇帝、日の出(ハイドン)

今日は弦楽四重奏曲のアルバムですが、少々古めのもの。先日ディスクユニオンで入手しました。

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バルトーク四重奏団(The Bartók Quartet)によるハイドンの弦楽四重奏曲Op.64のNo.5「ひばり」、Op.76のNo.3「皇帝」、Op.78のNo.4「日の出」の3曲を収めたアルバム。収録は1993年5月12日から15日にかけて、富山湾の東端にある富山県下新川郡入善町の入善コスモホールでのセッション録音。レーベルはCANYON Classics。

バルトーク四重奏団は1957年にブダペストのフランツ・リスト音楽院の卒業生によって設立されたクァルテット。設立当初は第1ヴァイオリンのペータル・コムロシュの名前をとってコムロシュ四重奏団と名乗っていましたが、1962年にバルトークの未亡人の同意を得てバルトーク四重奏団と改名しました。1963年にブダペストで開催されたワイナー室内楽国際コンクールで優勝、翌1964年にはベルギーのリエージュ国際弦楽四重奏コンクールでも第1位、さらに1963年までに数多くの国際コンクールに優勝し、世界的に注目されるようになりました。レパートリーはバルトークはもちろん現代ハンガリーの作曲家の作品から、ハイドン、モーツァルト、ベートーヴェン、ブラームス、メンデルスゾーン、ラヴェル、ドビュッシー、シェーンベルクなどと幅広く、膨大な録音が残されているとのこと。日本には1971年の初来日以来、度々来日していたとのことで、実演に接した方もいるかもしれませんね。2006年のバルトークの弦楽四重奏曲全曲演奏会を最後に解散しています。メンバーは下記の通り。

第1ヴァイオリン:ペータル・コムロシュ(Péter Komlós)
第2ヴァイオリン:ゲーザ・ヘルギタイ(Geza Hargitai)
ヴィオラ:ゲーザ・ネーメト(Géza Németh)
チェロ:ラースロー・メズー(László Mezö)

膨大な録音を残し、日本との関わりも深いバルトーク四重奏団ですが、私はこのアルバムで初めて演奏を聴きます。なおヴィオラのゲーザ・ネーメトはHUNGAROTONからヴァイオリンとヴィオラのための二重奏曲のアルバムのヴィオラを弾いていて、以前に取り上げています。

2012/06/05 : ハイドン–室内楽曲 : デーネシュ・コヴァーチュ/ゲーザ・ネーメトによるヴァイオリンとヴィオラのためのソナタ集

このバルトークの名を冠したクァルテットによるハイドン、さぞかしキレ味鋭い演奏が聴かれるだろうと思って、聴きはじめたところ、さにあらず。いやいや実に趣深い燻し銀の演奏でした。

Hob.III:63 String Quartet Op.64 No.5 "Lerchenquartetett" 「ひばり」 [D] (1790)
広い空間に伸び伸びと響くクァルテットの音色。落ち着いたテンポでゆったりと音楽が流れます。非常にリラックスして演奏しているのがわかります。奏者が演奏を存分に楽しんでいる感じ。もちろん第1ヴァイオリンのコムロシュのボウイングは伸びやかで他のパートから首一つ抜け出してくっきりとメロディーを奏でていきます。まさに折り目正しい一級品の演奏。ひばりの1楽章がこれほど伸びやかかつキレのいい響きで始まろうとは思っていなかっただけに、驚きに近い衝撃がありました。まさに晴天の中、囀りながら空高く飛び回るひばりの気分。
続くアダージョ・カンタービレは歌う歌う。伸びやかさの限りを尽くした演奏に聴いているこちらまで伸びやかな気分になります。まるでバルトークと違って、技巧を凝らさなくていいことを余裕たっぷりに楽しんでいるような演奏。よくぞこれだけリラックスできるものかと唸ります。
メヌエットでも楽器が思い切りよく鳴り響き、晴朗かつ屈託のない響きにハイドンの曲の本質が宿ります。これぞメヌエットという鮮明な響き。中間部で一旦トーンをすっと落として翳りを見せたかと思うと、再び陽光の下に輝かしい音楽が蘇ります。このテンションの変化が実に心地良い、見事なメヌエット。
さざなみのように峙つヴァイオリンの伴奏に乗ってメロディーが弾む最後のヴィヴァーチェ。適度な揺らぎの中メロディーが飛び回る感じがライヴ感に溢れた演奏。1曲目から驚きの名演奏でした。まるで古典をホームグラウンドとするような均整の取れた演奏。

Hob.III:77 String Quartet Op.76 No.3 "Kaiserquartetett" 「皇帝」 [C] (1797)
続く皇帝もリラックスした演奏は変わらず、揺るぎない安定感を伴い、またまた歌う歌う。音符がひとりでに遊びまわるような愉悦感。あまりの見事さに息を飲みます。4本の楽器が鬩ぎ合いながらも一体となって音楽を作っていく様子はスリリングながら、音楽は楽しげに弾んで行きます。圧倒的な音楽の完成度に唸り続けます。これほど見事な皇帝の1楽章は初めて。
有名なドイツ国歌の2楽章は、少しテンションを落として質実な響きを聴かせます。これは変奏に入ると少しづつ自在さを加えて展開していく面白さのためのわかり、設計の確かさにまたまたまた唸ります。変奏ごとに長く間を取り変化を深く印象付けます。ただでさえ美しいメロディが孤高の美しさを帯びて輝きます。一つのメロディに宿る美しさに様々な角度からスポットライトを当てて味わい尽くす見事な演出。最後は枯淡の境地へモーフィング。絶品。
美しさの限りを尽くした2楽章の余韻を慈しむかのように少し寂しげに響くメヌエット。この辺りの感情の変化はデリカシーに富んでいてまさにハイドンが楽譜に込めた魂を汲んでいるよう。途中からさっと霧が晴れ、陽の光が差し込むような変化も見事。メヌエットだけでも曲ごとの描き分けの巧みさにこのクァルテットの表現力を思い知らされます。
激しく鋭い終楽章も、余裕たっぷりに入ります。険しい音楽もあえて少し緩めに演奏することで、バランスを保ち、力が入り過ぎるのを抑えて終えます。

Hob.III:78 String Quartet Op.76 No.4 "Sonnenaufgang" 「日の出」 [B flat] (1797)
最後の日の出。すでにこのクァルテットの素晴らしさに酔っています。ゆったりと溜めを効かせてざっくりと刻む音楽が心地よい響きに感じられ、まるでライヴを聴いているような不思議な一体感に包まれます。これぞ弦楽四重奏の醍醐味。よく聴くとこの曲ではざっくりとした織目の感触の面白さがポイントと見えてきます。手編みのような味わい深いテクスチャーと織り出される模様のリズムが絶妙。この味わい深さはまさに燻し銀。
さらに圧巻なのは続くアダージョ。4本の楽器の織りなす綾のデリケートな変化が生み出す豊かな音楽。まさに至福のひととき。単なる音符にあらず、人の温もりを感じる生きた音楽が滔々と流れ、完全にバルトーク四重奏団の音楽になっています。天上の世界を垣間見たような感覚に襲われます。
そしてこの曲のメヌエットは入りから安らぎと幸福感に満ちたもの。どうしたらメヌエットからこのような感情を呼び起こせるのでしょうか。魔法をかけられたよう。ほんの少しのニュアンスの付け方で音楽がこれほどまでにいきいきとしてくる不思議さ。中間部のゆったりとした緊張感! 完全に彼らの音楽に仕上がっています。
そしてフィナーレは爽快に来る演奏が多い中、リズムの面白さを強調して、メリハリをつけてきました。ざっくりと始まったこの曲をリズミカルな終楽章で締めるなかなかの組み立て。最後はサラサラと流すサラサラ感をかなり強調した、これまた創意に溢れた演出。味わい深いばかりではなく、さらりと見せるアイデアのセンスの良さにも唸ります。

バルトーク四重奏団という名前から想像した演奏とはあまりに異なり、実に味わい深い演奏にノックアウト。このハイドンは現代音楽を得意とするクァルテットから想像される鋭角的な響きは皆無。むしろどのクァルテットの演奏よりもハイドンの真髄を射抜く絶妙な演奏と言っていいでしょう。選曲もハイドンの有名曲の組み合わせで入門盤としても最適なもの。もちろん評価は[+++++]を進呈いたします。ただし、現在入手しやすいとは言えない状況なのが残念なところ。これは是非再販してほしいですね。

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tag : ひばり 皇帝 日の出 弦楽四重奏曲Op.64 弦楽四重奏曲Op.76

【新着】ゴルトムント四重奏団の弦楽四重奏曲集(ハイドン)

弦楽四重奏曲の新譜です。当ブログにいつも含蓄のあるコメントをいただくSkunjpさんから「レビューせよ」とのお告げをいただいていたもの(笑)

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ゴルトムント四重奏団による、ハイドンの弦楽四重奏曲Op.1のNo.1、Op.33のNo.5、Op.77のNo.1の3曲を収めたアルバム。収録は2016年4月18日から21日にかけて、ミュンヘンの北の街、イスマニンング(Ismaning)のガブリエル教会(Gabrielkirche)でのセッション録音。レーベルは、な、なんとNAXOS。

なんと、NAXOSと言ったのは、もちろん廉価盤の雄であり、作曲家の作品のフルレコーディングに執念を燃やし、しかもハイドンの弦楽四重奏曲についてはすでにコダーイ四重奏団との素晴らしい全集を完成させたあのNAXOSが、新たな奏者との録音を始めたとの驚きを隠せないからに他なりません。コダーイ四重奏団との全集がリリースされ始めたのはかなり前になりますが、リリース当初は廉価盤ゆえ一流の演奏とは差があるだろうとたかをくくっていましたが、リリースされるたびにその円熟の演奏の素晴らしさが判明し、現在選択できる弦楽四重奏曲全集でも、1、2を争う素晴らしいものであるのは皆さんご存知の通り。そのNAXOSが新たに世に問う弦楽四重奏曲の新譜ということで、ちょっと普通のアルバムとは見方が違ってしまうのは無理からぬことでしょう。

しかも、選曲は、作品ごとではなく、Op.1、Op.33、Op.77と初期、中期、晩年の作品からセレクトしたもの。さらに、ジャケットに写る姿がまた意味ありげです。まるでコダーイ四重奏団の偉業である弦楽四重奏曲全集をアルプスの山に象徴させ、それを遠景に自信ありげに崖に立ちすくむ4人組。まるでコダーイを過去のものにしてしまうことを暗喩するようなジャケット写真にこのクァルテットに寄せられる期待の大きさと、NAXOSというレーベルの尽きない野心を感じてしまうのは私だけでしょうか。

ゴルトムント四重奏団は、ミュンヘンで学んでいた学生たちによって2009年に設立されたドイツのクァルテット。マドリードの室内楽国際研究所でアルバン・ベルク四重奏団のゲルハル卜・シュルツとギュンター・ピヒラーに師事。デビューはミュンヘンのプリンツレゲンテン劇場(Prinzregententheater)で、以来国際的な音楽祭などに出演を重ねて腕を磨いてきたとのこと。メンバーは下記の通り。

第1ヴァイオリン:フローリアン・シェッツ(Florian Schötz)
第2ヴァイオリン:ピンカス・アド(Pinchas Adt)
ヴィオラ:クリストフ・ヴァンドリー(Christoph Vandory)
チェロ:ラファエル・パラ卜ーレ(Raphael Paratore)

Goldmund Quartet

彼らのウェブサイトを見ると、これまでにリリースされたアルバムは今日取り上げるハイドンだけしか掲載されていませんので、もしかしたらこれがデビュー盤かもしれませんね。

いずれにせよ楽しみなアルバムに他なりませんね。

Hob.III:1 String Quartet Op.1 No.1 [B flat] (c.1757-59?)
音に芯を感じる現代楽器による堅実な響き。ハイドンらしいリズムの軽さもあり、正攻法の演奏です。何気に精度も高く、規律もあっていきなりハイドンらしい朗らかな良さがじわじわと伝わってきます。これは名演の予感。
初期のクァルテットは5楽章構成で2楽章、4楽章にメヌエットが挟まりますが、このメヌエットが実に心地よい演奏。短い楽章の中に流麗さ、規律、機知、ハーモニーの全てが感じられる実に深い演奏。ここでもハイドンらしい明るくユーモアのある規律が支配しています。
アダージョに入るとそれに精妙さが加わり、深い陰影の美しさが際立ちます。ヴァイオリンのフローリアン・シェッツの弱音から伸びやかに響きわたるメロディーの美しさはかなりのもの。アンサンブルも音色がそろって緊張感を保ちます。
後半のメヌエットもよく聴くと非常にニュアンス豊か。シンプルなメロディから非常に多彩な音楽を繰り出してきます。このメヌエットからこのクァルテットの力量がよくわかります。
フィナーレに入って、ヴァイオリンが牙をむいてきました。ただ軽やかにまとめてくるかと思いきや、ヴァイオリンが意外性のある踏み込みをみせて、只者ではないとさりげなく主張しているよう。最後にチラッと牙を剥くあたりのセンスも秀逸です。ハイドンの最初の弦楽四重奏曲を1曲目に持ってきながら、この曲でこれだけの表現を仕込んでくるあたり、大物ですね。非常に完成度の高い演奏です。

Hob.III:41 String Quartet Op.33 No.5 [G] (1781)
冒頭からハイドンの筆致の変化に驚きます。前曲に比べると驚くほど豊かな響き。この曲の配置は秀逸。この曲でも速めのテンポにってリズミカルかつ規律ある演奏。アクセントのつけ方もフレージングもわずかに個性的な変化をつけて新鮮さを感じさせます。曲の起伏を急な音量変化で印象付けながら、流麗さは保っているので流れの自然さと、ユニークさを両立させています。この表現力、創造力によって聴き慣れたこの曲が実にスリリングに響きます。
2楽章のラルゴ・カンタービレはヴァイオリンのくっきりと浮かび上がるメロディーを強調、冴え冴えとしたこの曲の魅力が際立ちます。あえてヴァイオリンだけにスポットライトを当てた割り切りが見事。
前曲でもメヌエットが絶品でしたが、この曲でも素晴らしい躍動感が味わえます。ハイドンのメヌエットの理想形。要所での崩しと、流れの維持のコントラストも見事。創意が冴えまくってます。
フィナーレは変奏。リズムと戯れるのが楽しくてしょうがないような演奏。天真爛漫とはこのことでしょう。ハイドンがこの曲に込めたニュアンスを見事に掘り起こして、我々に最上の形でとどけてくれたような演奏。絶品です。

Hob.III:81 String Quartet Op.77 No.1 [G] (1799)
最後は最晩年の曲。やはり速めの快活な入り。最初の数フレーズを聴いただけで、巧みなアクセントと豊かなデュナーミクに惹きつけられます。冴え渡るアイデア。聴き慣れた曲の垢がすっかり落ちてメロディーが実に新鮮に響き渡ります。ボウイングのキレが良いというのではなく、パート間のやりとりのスリリングさが尋常ではないレベルで火花が散っています。それでいて古典の規律は守っているところが素晴らしいところ。
アダージョもやはり精妙な入りですが、太めのチェロの音色がぐっと迫りながら波を作ってき、それに各パートが合わせていく感じ。途中すっと音量を落として静けさを感じさせるところの演出も巧み。音の硬軟を鮮やかに切り替えながら音楽を作っていきます。ふと気づくと、深い音楽の淵をのぞいているような気分にさせられます。ハイドンの晩年の心境を鮮やかに再現。
そしてゴルトムント得意のメヌエットはここでも神々しいほどの切れ味でリズミカルなメヌエットから、ただリズミカルなだけでなく古典期のハイドンが到達した極北の表現の深さを描き切ります。このメヌエットは絶品。千変万化、快刀乱麻、風味絶佳!
フィナーレはこのアルバムの終結にふさわしいキレと風格と規律が高次にバランスしたもの。曲が進むに連れて軽やかな音楽の深みにはまっていきます。最後はキレよく多彩な響きの織りなすクライマックスに至り、すっと終わります。いやいや見事。

NAXOSレーベルが放つ、新たなハイドンの弦楽四重奏曲の第一矢は、このレーベルがこれまで築きあげてきた、大手レーベルの存在を脅かすような品質、ブランドの底力を示す、素晴らしいプロダクションです。新たなシリーズに発展するかどうかの情報はありませんが、これは新たな金字塔になる予感も感じさせます。ゴルトムント四重奏団、素晴らしい才能の持ち主と見抜きました。ハイドンの演奏にこれほどふさわしいクァルテットをよくぞ掘り起こしたというのが正直な感想。これは是非シリーズ化してほしい。いや、シリーズ化しないと人類の損失です。もちろん、評価は全曲[+++++]とします。

少し前に記事にしたキアロスクーロ四重奏団といい、このゴルトムント四重奏団といい、新たな才能を感じさせる若手クァルテットが次々とハイドンに挑み、しかも素晴らしい演奏を聴かせてくれるということで、ハイドンの弦楽四重奏曲の演奏も新時代に突入したという印象を強くしました。このアルバムも是非、聴いてみてください。

Skunjpさん、こんなところで如何でしょうか!

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tag : 弦楽四重奏曲Op.1 弦楽四重奏曲Op.33 弦楽四重奏曲Op.77

シュトラウス四重奏団の騎士、皇帝(ハイドン)

新着アルバムが2枚続きましたので、最近聴いてよかったLPを取り上げます。先日オークションで手に入れたもの。

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シュトラウス四重奏団(Strauss Quartett)の演奏で、ハイドンの弦楽四重奏曲Op.74のNo.3「騎士」、Op.76のNo.3「皇帝」、伝ハイドンによるセレナード(Op.3のNo.5)の3曲を収めたLP。収録年も場所も記載がありませんが、いろいろ調べて見ると1960年代の録音との情報が出てきました。レーベルは独TELEFUNKEN。

シュトラウス四重奏団ははじめて聴くクァルテット。メンバーは下記のとおり。

第1ヴァイオリン:ウルリッヒ・シュトラウス(Ulrich Strauss)
第2ヴァイオリン:ヘルムート・ホーヴァー(Helmut Hoever)
ヴィオラ:コンラート・グラーエ(Konrad Grahe)
チェロ:エルンスト・シュトラウス(Ernest Strauss)

クァルテットの名前は第1ヴァイオリンとチェロのシュトラウス兄弟からとったもの。1957年から80年代まで、主にドイツ西部のエッセンにあるフォルクヴァンク美術館をで活動していたとのこと。録音は今日取り上げるLP以外にはハイドンの「日の出」と「ラルゴ」があるくらいのようで、知る人ぞ知る存在という感じでしょうか。

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このアルバム、TELEFUNKENの黒地に金文字の厳かなデザインがなかなかいいですね。いつものように、VPIのクリーナーでクリーニングして針を落とすと、スクラッチノイズもほぼ消え、ちょっと古風ながらドイツ風の質実剛健な弦の響きがスピーカーから流れ出してきました。

Hob.III:74 String Quartet Op.74 No.3 "Reiterquartetett" 「騎士」 [g] (1793)
聴き慣れた騎士の入りのフレーズ。速めのテンポでサクサクと入りますがフレーズごとにテンポと表情をくっきりと変えてくるので、実にニュアンス豊かな演奏に聴こえます。険しい響きの中から明るいメロディーがすっと浮かび上がる面白さ。一人一人のボウイングが適度に揺れているので、かっちりとしたハーモニーを作るのではなく、旋律のざっくりとしたリズミカルな綾の味わい深かさが聴きどころの演奏。
騎士の白眉であるラルゴは前楽章以上に味わい深いハーモニーを堪能できます。力が抜け、ゆったりとリラックスできる演奏。LPならではのダイレクトな響きの美しさに溢れています。途中からテンポをもう一段落としてぐっと描写が丁寧になったり、アドリブ風に飛び回るようなヴァイオリンの音階を挟んだり、軽妙洒脱なところも聴かせるなかなかの表現力。
続くメヌエットはこのクァルテットの味わい深くもさりげなくさらさらとした特徴が一番活きた楽章。この表現、この味わい深さに至るには精緻な演奏よりも何倍も難しいような気がします。
その味わい深さを保ったままフィナーレに突入。サクサクさらさらと楽しげに演奏していきます。どこにも力みなく、どこにも淀みなく流れていく音楽が絶妙な心地良さ。それでいてフレーズ毎に豊かな表情と起伏が感じられる見事な演奏。騎士のフィナーレは力む演奏が多い中では、この軽やかさは貴重。まるでそよ風のように音楽が吹き抜けていきます。

Hob.III:77 String Quartet Op.76 No.3 "Kaiserquartetett" 「皇帝」 [C] (1797)
名曲皇帝も前曲同様、比較的速めのテンポでさらりとした入り。音楽をどう表現しようかというコンセプトを考える前に、体に染みついているハイドンのメロディーが自然に音楽になって流れ出している感じ。この自然体の演奏スタイルなのに、音楽に躍動感と気品のようなものがしっかりと感じられるのが素晴らしいところ。よく聴くとアンサンブルもまったく乱れるところはなく、音楽の推進力に完全に身を任せているよう。
レコードをひっくり返してドイツ国歌の2楽章。媚びないさっぱりと演奏から滲み出る情感に咽びます。この悟りきったような自然さがこのクァルテットの真髄でしょう。よく聴くとヴァイオリンのみならず、ヴィオラ、チェロもかなりのしなやかさ。全員のボウイングのテイストがしっかり統一されていて、それぞれが伸びやかに演奏することから生まれる絶妙なハーモニー。第1ヴァイオリンのウルリッヒ・シュトラウスは1929年生まれなので録音当時は30代ですが、その年代とは思えない達観した演奏。
メヌエットも前曲同様屈託のないもの。そしてさっとフィナーレに入り、劇的なフィナーレをさらりとまとめてくるのも同様。この曲のクライマックスは2楽章であったとでも言いたげに、さらりとやっつけます。

String Quartet Op.3 No.5 "Serenadequartett" [F] (Doubtful 疑作 Composed by Roman Hoffstetter)
ご存知セレナーデ。速めなテンポは同様。味わい深さもさらりとした展開も同様。ただそれだけならばそれほど聴き応えのある演奏にはならないのですが、音色の美しさとフレーズ一つ一つがイキイキとしているので不思議と引き込まれるのも同様。特に2楽章のピチカートの響きの美しさはかなりのもの。こちらも素晴らしい演奏でした。

実にさりげない演奏なんですが、実に味わい深く、LPであることも手伝って美しい響きに包まれたハイドンの名曲をさらりと楽しめる、通向けの演奏。ハイドンのクァルテットをいろいろ聴いてきた人にはこの味わい深さはわかっていただけるでしょう。入手はなかなか容易ではないでしょうが、中古やオークションでは見かける盤ですので、みかけた方は是非この至福の自然体を味わっていただきたいと思います。評価は全曲[+++++]とします。

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tag : 騎士 皇帝 ハイドンのセレナード 弦楽四重奏曲Op.74 弦楽四重奏曲Op.76 ヒストリカル LP

【新着】キアロスクーロ四重奏団のOp.20(ハイドン)

珍しく新着アルバムが続きます。巷で話題のようなので、興味津々で入手!

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TOWER RECORDS / amazon / ローチケHMVicon

キアロスクーロ四重奏団(Chiaroscuro Quartet)の演奏で、ハイドンの弦楽四重奏曲Op.20のNo.1、No.2、No.3の3曲を収めたSACD。収録は2015年2月、ドイツはブレーメンの放送ホールでのセッション録音。レーベルはBIS。

不思議な名前のクァルテットですが、キアロスクーロとは絵画における明暗法のことで、光の効果やコントラストで明暗の対比をつけ立体的に描くルネサンス以来の技法のこと。クァルテットにこの名前を冠する時点で並々ならぬ表現意欲を感じます。設立は2005年、今では人気のロシア人ヴァイオリニストのアリーナ・イブラギモヴァらによって設立されました。メンバーは下記のとおり。

第1ヴァイオリン:アリーナ・イブラギモヴァ(Alina Ibragimova)
第2ヴァイオリン:パブロ・エルナン・ベネディ(Pablo Hernán Benedí)
ヴィオラ:エミリー・ヘルンルンド(Emilie Hörnlund)
チェロ:クレア・ティリオン(Claire Thirion)

ヴァイオリンのベネディはスペイン人、ヴィオラのヘルンルンドはスウェーデン人、チェロのティリオンはフランス人と国際色豊か。ジャケットに写るメンバーはモデル集団のようでもあり、一見くつろいでいるように見えながら、視線には自信が漲っているよう。久しぶりに妖気の漂うジャケットです。レパートリーはモーツァルト、ベートーヴェンなど古典期が中心で、現代楽器にガット弦を張り、コンサートではチェロ以外は立って演奏するとのこと。わたしはこのディスクではじめて聴きますが、ヨーロッパでは非常に評価が高く、各地の音楽祭などに多数出演しています。イブラギモヴァは度々来日しているようですし、キアロスクーロ四重奏団も今年来日しているようですので、生でお聴きになった方もいらっしゃるのではないかと思います。ウェブサイトはこちら。

Chiaroscuro quartet

この切れ味鋭そうな新進気鋭のクァルテットが名盤ひしめくハイドンの名曲をどう料理するのか、聴く方もちょっと身を乗り出して聴きます!

Hob.III:31 String Quartet Op.20 No.1 [E flat] (1772)
予想に反して、非常に柔らかかつ、しなやかな演奏。ガット弦だからか、アルカイックな響き。もう少し鋭角的な演奏を想像したのですが、暗闇からふわっとしなやかに浮かび上がるダ・ヴィンチのデッサンのようなアーティスティックさがあります。それぞれ個性的なメンバー構成のように見受けましたが、音色、ボウイングともに非常によく揃っていて、アンサンブルは見事。音量を抑え気味にしながら静謐に曲を描いていくスタイル。ハイドンを聴いているというよりパレストリーナでも聴いている気分になります。ハイドンの時代よりも100年くらい前の響きを想像させるような超個性的な解釈です。これまでのハイドンの演奏の伝統とはまったく傾向が異なり、ハイドンの音楽の構造を隠蔽してメロディーの流れだけを抽出したよう。
つづくメヌエットも演奏スタイルは変わらず、そして1楽章との対比などつける必要はないとの思い切りすら感じる一貫したテイスト。そうした中からハイドンのメロディーの展開の面白さだけが浮かび上がって聴こえてくるのが不思議なところ。リズムのキレで聴かせる演奏が多い中、音量を抑えていく方向のデリカシーが際立ちます。
キアロスクーロのスタイルがもっともマッチしたのがつづく3楽章。中世の音楽かペルトでも聴いているよう。ハイドンの楽譜からこの響きをよく想像したものだと、彼らの想像力に驚きます。ハイドンはこの楽章に中世へのオマージュを込めたのでしょうか? この楽章の新たな魅力にスポットライトがあたります。聴いているうちに音楽が大きくうねり、しなやかなクライマックスの面白さに打たれます。
フィナーレは羽毛のような非常に軽いタッチでサクサクと進めていきます。ハイドンの描いたメロディーの絡み合いを極度に音量を落として精緻に描き、交錯の面白さを凝縮していきます。最初は楽章ごとのスタイルの対比を抑えているように聴こえましたが、非常にデリケートな部分では実に豊かな対比がなされていることに気づいた次第。曲も暗闇に消えるようにさらりと終わります。ガット弦の音色とか時代考証という次元ではなく、演奏のコンセプトと音色、スタイルが非常に高いレベルで融合していることに改めて驚きます。こりゃすごい!

Hob.III:32 String Quartet Op.20 No.2 [C] (1772)
朗らかな曲想の曲。前曲同様の音色とスタイルで始まったように聴こえたのですが、微妙にこの曲の朗らかな明るさにあわせて伸びやかなボウイングに変えてきています。曲から得るインスピレーションに敏感に反応しているよう。前曲でも気になっていたんですが特にイブラギモヴァのヴァイオリンの早いパッセージのキレかたが尋常ではありません。曲が進むとイブラギモヴァのヴァイオリンのメロディーがさらに一段とくっきり浮かび上がり、この曲のもつ伸びやかさに徐々に触発されていくよう。前曲の暗闇のなかでのわずかな光でのコントラストから、この曲ではくっきりとした明るい光の中でのコントラストを描いていきます。さすがにキアロスクーロと名乗るだけあって、コントラストの描きかたも多様です。
つづく2楽章は、ガット弦によるちょっとざらっとしたハーモニーの魅力を生かした入り。1曲目に比べると普通の演奏ですが、よく聴くとフレーズのひとつひとつごとのフレージングにくっきりとメリハリをつけ、丁寧に描いて、4本の楽器のハーモニーの美しさを聴かせるところと、単独のメロディーのコントラストが実に巧みで、聴き応えがあります。特に抑えた部分は鋭い音色によるきりりと引き締まった響き、ハーモニーは柔らかくしなやかな響きと、ここでも多様なコントラストは健在。
メヌエットではガラスのような硬質な音色で繊細な透明さを際立たせてきました。こうした音色のコントロールはイブラギモヴァのヴァイオリンが引っ張りますが、表現は全員統一されていて見事な効果。
そしてフィナーレはその響きの余韻を受け継ぎながらフーガに突入。耳が音色に集中しているなか変奏が折り重なる面白さとそれぞれの表現、音色が絡まっていく推移に関心が移ります。くっきりしたフレーズばかりではなく、抑えも効いて、キアロスクーロらしい多彩な音色とキリリと引き締まった響きでフーガを締めくくります。

Hob.III:33 String Quartet Op.20 No.3 [g] (1772)
曲ごとに演奏コンセプトをしっかりと作ってくることがわかりましたので、どんな3曲目も入りが楽しみ。予想通り、予想を上回る表現で入ってきます。ハイドンの書いたメロディーにインスピレーションを得ながらサクサクと速めのテンポで刻んできたと思いきや、大胆なためやテンポの変化をつけて、この曲の面白さをアーティスティックにデフォルメしてくる見事な展開。あまりの面白さに仰け反ります。アイデア満載の演奏にこちらの聴覚中枢が冴え渡り、おまけにフレーズごとの激しい音量変化に聴神経も感度最高。激しい音量変化も全く力みはなく、完全にコントロールされたもの。この曲がこれほどまでにスリリングだと気付かされました。ハイドンという素材をキアロスクーロ流に完全に再構成する見事な演奏。1楽章の時点で完全にノックアウト。ハイドンは過度な表現を加えると逆効果なことも多いのですが、この演奏にそうしたやりすぎ感は全く感じません。
メヌエットは後ろ髪引かれるような独特の郷愁を感じる音楽ですが、キアロスクーロの手にかかって純音楽的な洗練の極みに至り、実に美しい音楽になります。ハイドンが曲に込めた情感が昇華してエッセンスがまったく別の音楽に変移したよう。特に中間部の透明感が印象的。
さらに見事なのがつづくアダージョ。またしてもペルトのような静謐な響きの連続に完全にキアロスクーロペース。途中イブラギモヴァの透き通るようなヴァイオリンの音色の魅力を散りばめ、断片的にハイドンの美しいメロディーのコラージュが配された現代絵画を見るような趣。絶品です。
フィナーレも有り余る創造力で料理され、複雑なメロディーの交錯を絶妙な軽さにで包んで、聴き手の想像を超えた味付けでまとめた一品。いやいや見事の一言です。

キアロスクーロ四重奏団によるハイドンの太陽四重奏曲の前半3曲をまとめたアルバムでしたが、絶品の演奏。これまでのハイドン演奏の伝統とは全く異なるアプローチでハイドンの名曲を超個性的な表現でまとめた、創造力と刺激に満ちた素晴らしい演奏。これはハイドンが聴いたらさぞかし驚くでしょうが、自身の作品が死後200年以上も経て、アーティスティックに再構成されることをきっと喜んだに違いありません。ハイドンのクァルテットを愛する全ての人が聴くべきアルバムでしょう。もちろん評価は全曲[+++++]とします。

キアロスクーロ四重奏団のこのアルバム、レーベルと選曲を手がかりに想像すると、ハイドンの弦楽四重奏曲全集に発展するような気がしてなりません。レーベルはBIS。ハイドンではKochレーベルで途中まで進んでいたマンフレート・フスによるディヴェルティメントなどを引き継いで全集化したり、ブラウティハムによるピアノソナタ全集など、ハイドンには格別な執着心をもつレーベルですし、奏者のキアロスクーロもモーツァルトの弦楽四重奏の全曲演奏チクルスを進めていてるなど、全曲演奏にこだわりをもっているよう。そしてこのアルバムが彼らにとってBISからリリースされる初めてのアルバムで、しかも選曲はよくある有名曲セットではなく、Op.20の前半3曲というもの。どう考えても後半3曲や、そのほかの曲がつづくイメージがあります。いや、この1枚目の出来の素晴らしさを考えると、全集に発展すべきです。キアロスクーロによるハイドンの弦楽四重奏曲全集となれば、新時代のスタンダートとなることは想像に難くありません。1ハイドンファンとして是非BISには頑張ってほしいものです。

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tag : 弦楽四重奏曲Op.20

コチアン四重奏団のOp.77、Op.103(ハイドン)

しばらくコンサートレポートにかまけており、レビューは久しぶりです。室内楽の秋ということで、これまで取り上げてこなかった奏者の演奏を選びました。

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コチアン四重奏団(Kocian Quartet)による、ハイドンの弦楽四重奏曲Op.77のNo.1、No.2、Op.103の3曲を収めたアルバム。収録は2000年6月21日から23日にかけてプラハの福音派教会(The Evangelic Church)でのセッション録音。レーベルはPRAgA Digitals。

コチアン四重奏団はチェコのクァルテット。1972年に設立され、1975年から名ヴァイオリニストのヤロスラフ・コチアンの名を冠してコチアン四重奏団と名乗っています。チェコの先達、スメタナ四重奏団のチェリスト、アントニン・コホウトに師事し、今やチェコを代表するクァルテットです。レパートリーはモーツァルト、ハイドン、ベートーヴェン、ブラームスなどの他、スメタナ、ドヴォルザーク、ヤナーチェク、マルティヌーなどのチェコの音楽も得意としており、またヒンデミットの弦楽四重奏曲全集の世界初録音などで知られているとのこと。このアルバム録音時のメンバーは下記の通り。

第1ヴァイオリン:パヴェル・ヒューラ(Pavel Hůla)
第2ヴァイオリン:ヤン・オトストルチル(Jan Odstrčil)
ヴィオラ:ズビニェク・パドーレク(Zbyněk Paďourek)
チェロ:ヴァーツラフ・ベルナシェク(Václav Bernášek)

チェコは弦楽器の名奏者の宝庫。ついこの間もパノハ四重奏団やの名演奏に触れたばかりです。コチアン四重奏団の演奏はこれまで手元になかったんですが、amazonを検索中に見かけて気になって手に入れたもの。このアルバムの他に、Op.74やOp.20のアルバムもリリースされているようで、気になる存在です。

Hob.III:81 String Quartet Op.77 No.1 [G] (1799)
いきなり鮮度の高いリズミカルなアンサンブルが展開します。教会の録音としては残響は少なめでいい雰囲気の中ダイレクトにクァルテットが定位する理想的なもの。演奏は響きを揃えるという拘りに囚われず、一人一人の音楽が揃いながらも自発性が感じられる実に玄人好みの演奏。第1ヴァイオリンのパヴェル・ヒューラの存在感もありながら一人一人の演奏の味わい深さが感じられて悪くありません。一貫してリズミカルでハイドンの書いた曲をキリリと引き締めながらさりげなくクァルテットの醍醐味を感じられる素晴らしい1楽章です。
続くアダージョは沈むのではなく晴朗かつ張りのある響きにハッとさせられます。響きは鮮明なのに燻し銀の味わいに満ちた響きはクァルテットの年輪を感じさせます。曲が進むにつれて徐々に弦の響きが柔らかく変化し、微妙に表情をコントロールしていることがわかります。知らぬ間にアダージョの深い呼吸の安らぎの音楽に引き込まれていました。
ハイドン晩年の澄み切った心境を表すような吹っ切れたメヌエット。この演奏で聴くとくっきりとしたメロディーに、ほのかに味わいのようなものが感じられる絶妙なバランス。これは若手には真似のできない至芸と言っていいでしょう。演奏そのものに年輪を感じさせる素晴らしいひととき。
フィナーレは予想に反してそっと入ってきました。各パートの音程が少し揺らぐ感じも味わいの範囲。それぞれのパートが音楽の勢いに乗りながらアンサンブルをまとめていきます。まさに円熟の境地のようなフィナーレ。曲の最後にたどり着いたクライマックスで牙を剥くような演奏もありますが、テクニックの誇示ではなく、逆に絡み合う音符の糸を少し荒くざっくりと編んでいくような温もりのある演奏。もう少しキレがあってもいいように感じる瞬間もありますが、逆にフィナーレの頂きの高さを感じさせる演奏でもあります。

Hob.III:82 String Quartet Op.77 No.2 [F] (1799)
この曲でも鮮明かつ推進力に溢れた入り。前曲同様、この晩年の曲の澄み切った心境を鮮明に映した演奏。あまりに鮮明な風情が心地よいほど。主題が展開し始めると活力溢れる各パートのせめぎ合いのごとき様相。微妙に音色が重なり渋めなのにうっすらと色彩が乗って明るさを保ちます。チェロの意外に図太い音色が印象的。それでも一貫した推進力に支えられてテンポよく進むのが心地よいですね。
2楽章のメヌエットも推進力抜群。ハイドンの演奏を楽しんでいるのでしょう、リズムは弾み、ボウイングは冴え、音楽が転がります。中間部でふと息を抜いて興奮を冷まし、再びリズムが弾むのを楽しみます。
ハイドンの最晩年の境地を表すようなアンダンテ。さっぱりとした演奏から情感が滲み出す素晴らしい楽章。コチアンの演奏はその理想的な表現と言っていいでしょう。どの演奏で聴いてもぐっとくるこの楽章、ことさら媚びずに淡々と演奏するほどに枯れた心情が滲む見事なものです。これまでの人生を振り返りながら、秋空の下を晴れやかな気持ちで散歩するような音楽。良い思い出を回想しながら景色や花に目をやり、遊ぶ子供の声の喧騒を楽しみ、空に目をやる、そんな気分にさせられます。冴え渡った演奏ではなく手作りの音楽のように演奏するコチアンのセンス。この絶妙なセンスこそがこのアルバムの聴きどころでしょう。幸せな音楽に感極まります。
そしてなんと見事なフィナーレの入り。人生の総決算に用意された舞台の幕が上がるようなフォーマルな雰囲気。そして、音楽は様々に展開して遊びまわります。前曲のフィナーレが少し安定感に欠けるような雰囲気があったのとは異なり、こちらは見事な完成度。というか完璧でしょう。艶やかかつ伸びやかなヴァイオリンの魅力と燻し銀のアンサンブル。素晴らしい演奏にノックアウト。

Hob.III:83 String Quartet Op.103 [d] (before 1803)
ご存知ハイドン絶筆の作品。これまでの演奏同様、さりげなさの中に味わいが満ちた演奏。パヴェル・ヒューラの媚びないヴァイオリンの魅力がこの曲でも深みをもたらしています。耳を澄ますと、これまでの曲以上にデュナーミクの変化の幅を大きくとって、音楽の自然な起伏を強調してきます。あっと言う間に2楽章となり、適度に劇的な音楽をさりげなくこなしていきます。過去の心の振れを回想しながらも、今だに揺れ動く心情を表すような、劇性と冷静さを行き来するような音楽がコチアンの演奏でぐさっと刺さりました。

チェコを代表するコチアン四重奏団によるハイドンの晩年のクァルテット集。知と情のバランスがとれ、テクニックを誇示することなく、オーソドックスながら実に味わい深い演奏でした。胸のすくような精緻な演奏もある中、純粋に演奏から音楽の面白さが滲みてくる玄人好みの演奏です。聴く人によっては最初の曲の4楽章のちょっと不安定な印象があるところを欠点とみなす方もあるかもしれませんが、色々クァルテットを聴いてきた私の耳には味わいというか、逆にハイドンの書いた音楽のすごさを感じさせるポイントとも取れるところ。私はこの演奏、気に入りました。評価は全曲[+++++]とします。

こりゃ、コチアンの未入手のアルバム、集めねばなりませんね!

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tag : 弦楽四重奏曲Op.77 弦楽四重奏曲Op.103

ファイン・アーツ四重奏団のOp.64(ハイドン)

秋は室内楽。と言いながら交響曲のアルバムが続いていましたので、とびっきりのクァルテットを取り上げます。

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amazon(弦楽四重奏曲全集mp3)

ファイン・アーツ四重奏団(Fine Arts Quartet)による、ハイドンの弦楽四重奏曲Op.64のNo.1からNo.6、Op.2のNo.5、No.6、Op.1のNo.0の9曲を収めた3枚組のLP。収録情報は記載されていませんが、奏者のウェブサイトには1972年?との情報が記載されています。レーベルは米VOX。今日はこの中からOp.64を取り上げます。

このLPは先日オークションで手に入れたもの。ファイン・アーツ四重奏団の素晴らしさは、以前取り上げた記事で触れておりますので、是が非にでもということで落札したもの。

2013/10/05 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : ファイン・アーツ四重奏団のOp.74
2012/05/07 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : ファイン・アーツ四重奏団の「ひばり」
2011/01/04 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : ファイン・アーツ四重奏団のOp.77(ハイドン)

Fine Arts Quartet

ファイン・アーツ四重奏団はメンバーを変えながらも現在でも活動しており、彼らのウェブサイトのディスコグラフィーには過去の演奏の一覧が載っています。この演奏当時のメンバーは先に取り上げたOp.74と同じく下記の通り。

第1ヴァイオリン:レオナルド・ゾルキン(Leonard Sorkin)
第2ヴァイオリン:アブラム・ロフト(Abram Loft)
ヴィオラ:ベルナルド・ザスラフ(Bernard Zaslav)
チェロ:ジョージ・ソプキン(George Sopkin)

到着してみると、盤のコンディションは上々。このVOXのシリーズはちょっと前に取り上げたデカニー四重奏団のものも非常にいい音だったので不安はありませんでしがが、針を落としてみるとあまりの素晴らしい響きに鳥肌が立ちそうなほど。いきなり絶品の予感です。

Hob.III:65 String Quartet Op.64 No.1 [C] (1790)
非常に広い空間に4本の楽器が鮮明に定位し、木質系の美しい響きを聴かせる見事な録音。クァルテットの録音としては最上と言っていいでしょう。この雰囲気はCDでは味わえないんですね。Op.74の演奏に非常に近い演奏。ゆったりと音楽を慈しむように演奏していきます。適度な音程の揺れが味わい深さを感じさせます。朴訥ですらあるこの雰囲気の中にハイドンの音楽の魅力が詰まっています。精度抜群の演奏や火花散るような演奏とは全く異なる音楽の魅力。身近な人が演奏しているような温もりを感じます。1楽章から楽章間の対比はほとんどつけず、適度な躍動感を伴いながら淡々と進めます。ことさら素晴らしいのが3楽章。リズムが適度に弾みながら質実さを保った気高さがあります。フィナーレも力が抜けたいい演奏。

Hob.III:68 String Quartet Op.64 No.2 [b] (1790)
短調から入る独特の曲想をファイン・アーツ流にゆったりと奏でていきます。途中のピチカートの音がやけにリアルに響き、またユニークな展開部をさもユニークにトレースしていくところがハイドンを深く理解しているこのクァルテットならではの至芸。ヴァイオリンの味わい深いボウイングでメロディーラインがしなやかに響きわたります。2楽章では各パートの響きが独立していながらも溶け合う様子が見事。チェロが今まで以上にクッキリとした音色を聴かせます。決して精度が高い演奏ではないんですが、不思議に味わい深いアンサンブルで、不揃いなところがむしろ美点となっているのが不思議なところ。メヌエットでは中間部に伸び伸びとしたヴァイオリンによるメロディーを持ってきたのが新鮮。レオナルド・ゾルキンの美音が轟きます。そしてフィナーレはメロディーが奇想天外に展開する実に興味深い曲。高望みせず、味わい深さこそが聴かせどころとの確信に満ちた演奏でした。

Hob.III:67 String Quartet Op.64 No.3 [B flat] (1790)
行進曲風のリズミカルな入り。相変わらず録音は素晴らしく、眼前の空間にクァルテットがはっきりと定位します。弓が弦をこする振動が直接伝わって来るようなリアルさ。パート間のメロディーの受け渡しの面白さが際立つ曲。そしてこの曲の白眉は香り立つような芳しいメロディーのアダージョ。古典派の枠から一歩踏み出したかのようなロマンティックな音楽。ファイン・アーツの演奏で聴くとまるでセザンヌの静物画を見るように、音楽を大きな目で捉えて、太い筆でグイグイとヴォリューム感を出して描いていく感じ。この曲でもメヌエットはほのかに躍動するのみでも、味わい深さが滲み出てきます。1曲1曲の展開の面白さの縮図のようなフィナーレ。フィナーレになるとピシッとアンサンブルの精度が上がるのが音楽に応じて集中度を変えている証拠。なぜか引き込まれます。

Hob.III:66 String Quartet Op.64 No.4 [G] (1790)
非常に楽天的な曲想の曲。サクサク憂いなく弾き進めていくかと思いきや、さっと陰りを見せ、またまたサクサクと自在な演奏。表現意欲のレベルでそうした演奏をしているのではなく、まるで練習でもしているような屈託のなさを伴いながらの表現ということで、このあたりがこのクァルテットの特徴なのかもしれません。アルバム全編にそういった直裁な雰囲気が宿っています。この曲は2楽章がメヌエットで、メロディーと戯れるように自在にテンポを変えながらの舞曲。自在さは続くアダージョにも残り、他の曲よりも躍動感がアップします。フィナーレでも流れの良さが耳に残る鮮やかなアンサンブルを聴かせます。

Hob.III:63 String Quartet Op.64 No.5 "Lerchenquartetett" 「ひばり」 [D] (1790)
以前も取り上げたひばりですが、以前の演奏は1986年とかなり後の録音でメンバーも4人とも異なります。冒頭からレオナルド・ゾルキンのヴァイオリンの味わい深い響きがリードする聴き慣れた入りの展開。有名曲だけにいい演奏も多い曲ですが、このさりげなくも味わい深いファイン・アーツの演奏は、この曲の演奏として実に説得力のあるもの。磨き抜かれた秀演よりも、素朴な味わいを醸し出す方がこの曲にふさわしいと思わせてしまいます。自宅の庭にひばりがきた喜びを演奏しているような親近感。
2楽章のアダージョ・カンタービレではここまでで一番攻め込んだ演奏。曲が進むに連れて、これまでの素朴さを吹き払うように集中してタイトな展開となり、見違えるように引き締まったアンサンブルを聴かせます。
メヌエットもこれまでの曲と集中力が違い、これまた引き締まったアンサンブルとなります。そして早送りのようなフィナーレでも集中力は途切れず、このアルバム中最もタイトな演奏となります。

Hob.III:64 String Quartet Op.64 No.6 [E flat] (1790)
前曲の集中を癒すように穏やかな入りにホッと一息。テンションのコントールもなかなか巧みで、この曲では穏やかな音楽が流れます。微妙な調性の変化と暖かな響きのコントラストが曲に深みを与えます。虚心坦懐なファイン・アーツの演奏が映え、曲そのものの魅力が輝きます。アンダンテも同様、穏やかな表情に柔らかなコントラストが加わる絶妙の表情。メヌエットはハイドンらしいユーモアが詰まったもの。ヴァイオリンの高音の隈取りが爽やかさを加えます。さりげなくサクサク進める展開がこの楽章の面白さをきわだ立たせます。そしてフィナーレもハイドンらしいユーモラスなテーマが様々に展開、交錯する期待通りのもの。作為のないアンサンブルの面白さを存分に楽しませてもらいました。

タイミングよく手に入れたファイン・アーツ四重奏団のLP。この演奏よりも精度の高い演奏、緊張感溢れる演奏はあるんですが、この演奏よりもハイドンの音楽を味わい深く表現したアルバムはそうありません。アンサンブルもあえて粗めで、音程が揺らぐとこもありながら、これぞハイドンのクァルテットの演奏の流儀だとの揺るぎないスタイルを身につけた歴史あるクァルテットだけに、説得力は十分。クァルテットに何を求めるかは色々あるかと思いますが、私は非常に気に入りました。のんびりしたいときに旨い酒でも飲みながら、ゆったり楽しみたいアルバムという感じですね。LPは素晴らしい音を奏でてくれますが、もちろん入手は容易ではありません。幸いmp3で聴くことは可能ですので、興味のある方は聴いてみてください。評価は全曲[+++++]とします。

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tag : 弦楽四重奏曲Op.64 LP

フィルハーモニア・クァルテット・ベルリンの「五度」「皇帝」(ハイドン)

このところ新譜も色々聴いているのですが、結果的に古い録音のばかりを取り上げています。やはり、時を経て聴き続けられるだけあって味わい深さが違います。

PQBerlin.jpg
amazon(別装丁盤)

フィルハーモニア・クァルテット・ベルリン(Philharmonia Quartet Berlin)による、伝ハイドンの弦楽四重奏曲Op.3のNo.5「セレナード」、ハイドンの弦楽四重奏曲Op.76のNo.2「五度」、No.3「皇帝」の3曲を収めたアルバム。収録は1983年9月10日、11日、西ベルリンのジーメンス・ヴィラでのセッション録音。レーベルはDENON。

このアルバム、最近ディスクユニオンで手に入れたもの。フィルハーモニア・クァルテット・ベルリンによるハイドンは以前に一度取り上げています。

2012/06/28 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : フィルハーモニア・クァルテット・ベルリンの十字架上のキリストの最後の七つの言葉

こちらは1999年の録音ということで、今日取り上げるアルバムから約16年あとの録音。フィルハーモニア・クァルテット・ベルリンはご想像の通り、ベルリンフィルの団員で構成されたクァルテットですが、メンバーはチェロが替わっていないだけで他の3人は入れ替わっています。この録音時のメンバーは下記の通り。

第1ヴァイオリン:エドワルド・ジェンコフスキー(Edward Zienkowski)
第2ヴァイオリン:ワルター・ショーレフィールド(Walter Scholefield)
ヴィオラ:土屋邦雄(Kunio Tsuchiya)
チェロ:ヤン・ディーゼルホルスト(Jan Diesselhorst)

第1ヴァイオリンのエドワルド・ジェンコフスキーはベルリンフィルに在籍していましたが、この録音時にはケルン放送交響楽団のコンサートマスターに転出していました。土屋邦雄さんはカラヤン時代のベルリンフィルのヴィオラ奏者として有名ですね。

上の「十字架上のキリストの最後の七つの言葉」は冷徹なまでに冴え冴えとしたまさにベルリンフィルらしい精緻な演奏でした。この録音の前、1989年にカラヤンが亡くなり、1990年からアバド時代に突入しており、まさにアバドがベルリンフィルに持ち込んだ精緻な音楽を象徴するような演奏と言ってもいいでしょう。今日取り上げる方の録音はカラヤンの晩年のベルリンフィルのメンバーによる録音ということで、メンバーも含めてクァルテットの背景も異なりまうす。カラヤンが指揮した録音は特に晩年は徹底的にカラヤン流に仕立てられ、レガートを効かせて磨き込んでいますが、ライヴは意外にオケに任せている印象があります。今日のアルバムもまさにメンバーが演奏を楽しむような屈託のなさを感じる演奏です。

String Quartet Op.3 No.5 "Serenadequartett" [F] (Doubtful 疑作 Composed by Roman Hoffstetter)
最初はハイドンの真作ではないですが、有名な「セレナード」。この曲のみ違うパッケージで2種の録音が手元にあったため、馴染みの演奏。腕利き揃いの奏者が軽々と演奏を楽しむような力の抜けた余裕たっぷりの演奏。この力の抜け方こそが、ハイドンの音楽を楽しむポイントだと見抜いての確信犯的演奏ですね。どの楽章も見事に軽々と演奏して、この美しいメロディーの曲をさらりと仕上げています。曲に対するスタンス自体ですでに勝負あったと言っていいでしょう。攻め込もうとか表現を極めようなどという無粋なことは一切頭の中になく、ただただ演奏を楽しむという一貫した姿勢が生む素晴らしい説得力。メインディッシュたるOp.76からの名曲2曲の前座としては十分な演奏です。

Hob.III:76 String Quartet Op.76 No.2 "Quintenquartetett" 「五度」 [d] (1797)
前曲と同様、力の抜けた演奏が冒頭から心地よいのですが、曲が真正面から切り込むようなタイトなものだけに、同じような演奏でも若干テンションが上がって聴こえます。耳をすますと演奏の精度が高いわけではなく、適度に荒いところもあり、これが緊張感を高めすぎず、おおらかな印象を保っているよう。適度な緊張感と適度に楽天的な絶妙なバランスを保っています。
素晴らしいのが続く2楽章。実にカジュアルな語り口で淡々と進め、あえてメリハリを抑えているようですが、そのような演奏がハイドンの素朴な音楽の魅力を引き立てているよう。彫り込みを深くすることだけが音楽を深めるわけではないという好例。ボブ・ディランの歌が、彼の素朴な声の魅力で成り立っているのと同様、この語り口はを聴いていただかなくてはわからないかもしれませんね。
メヌエットもあえて表現の幅を抑えた演奏。淡々を進む音楽からメロディーのおもしろさが滲みます。中間部の弦楽器の音が重なりあう面白さの表現も聴かせどころを集中させているからこそ際立つもの。音の重なりの推移の面白さだけが際立つようにあえて仕組まれています。
フィナーレもさらりとしたもの。抑えた表現から音楽が湧き上がります。もちろん力みも変な表現意欲のかけらもなく、ただただ素直な演奏こそがハイドンの音楽の魅力を伝えると確信を持っているように弾き続けます。短調の陰りも過度にとらえず、最後まで一貫したスタンスを貫き、余裕たっぷりの演奏で結びます。

Hob.III:77 String Quartet Op.76 No.3 "Kaiserquartetett" 「皇帝」 [C] (1797)
名曲「皇帝」。もちろんこちらも力ヌケヌケ! まるで練習でもしているようにやさしく自然な演奏。ただし流石はベルリンフィルの一流どころだけあって、締めるところはキリリと締めてきます。力んだ演奏は無粋だとでもいいたげな気楽さ。ピシッとしていながらどこか楽天的な音楽はまさにハイドンの音楽の肝そのもの。名手がさらりと演奏する余裕を楽しみます。ところどころ音階のキレを楽しむような部分で遊び心を見せながらも、純粋無垢な心境を映すような演奏にほくそ笑みます。
有名な2楽章もちょっと枯れ気味になりそうなほど力を抜いた自然な音楽を楽しみます。変奏は蝶が優雅に花の間を飛び回るがごとき風情。適度にくだけた弓づかいが生み出すしなやかなフレージング。酔拳のようなふらつきの美学も感じさせます。技は音楽にあらずという信念が感じられる優雅さが満ちています。実に味わい深いひととき。音楽を知り尽くしているからこその達観した境地。
夢から覚まされたかのように筋の通ったメヌエットの入りで、我にかえります。媚びない素朴な演奏は前曲同様、かえってメヌエットのメロディーの面白さが際立ちます。淡々サラサラ枯淡の境地。
曲の締めくくりのフィナーレでもやはり力みは皆無。八分の力でカジュアルにアンサンブルを楽しむ余裕があります。一貫して素朴さが生み出す味わい深さが聴きどころの演奏。最後もアンサンブルを精緻にキメようというような感じは全くなく、複雑な音階の絡みあいの複雑さを楽しむがごとき境地に至っています。

振り返ってみると、冒頭の「セレナーデ」が一番きっちりした演奏。本命たるOp.76からの2曲は、力をかなり抜いて、奏者がアンサンブルを楽しむような演奏でした。このアルバム自体は3,800円との値付けを見ればわかる通り、CD発売初期の1984年にリリースされたもの。その後この中の「セレナーデ」が他の演奏とセットされて発売されたのに対して、Op.76の方は他の演奏に置き換えられたことを見ても、「セレナード」の方が一般受けするとの判断があったのでしょう。しかし、私はこのアルバムの聴きどころはOp.76の方だと思います。一般受けは「セレナード」だと思いますが、Op.76の方はハイドンのクァルテットの演奏スタイルとしては実に興味深く、クァルテット好きなベテランにこそ聞いていただきたい演奏です。綺麗に響かせるとかくっきり響かせるというところではなく、屈託ない音楽を演奏して楽しむとはこのような演奏のことだと言いたげなほど飾り気も外連味もなく、さりとて凡庸な演奏でもなく、実に味わい深い音楽が流れます。ハイドンの音楽の多様性を示す好例と言ってもいいでしょう。ということで評価は全曲[+++++]をつけます。

このところ所有盤リストの修正に明け暮れ、ちょっと記事をアップするまで間が空いてしまいました。もう少しペースアップせねば、、、

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tag : ハイドンのセレナード 五度 皇帝 ベルリンフィル

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なぜかハイドン(Franz Joseph Haydn)が特に気に入り膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。東京在住のごく普通のサラリーマンです。

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