コダーイ四重奏団のOp.1のNo.1からNo.4(ハイドン)

今更ですが、良いものは良いということで。

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コダーイ四重奏団(Kodály Quartet)の演奏で、ハイドンの弦楽四重奏曲Op.1のNo.1からNo.4の4曲を収めたアルバム。収録は1991年4月8日から11日にかけて、ブダペストのユニテリアン派教会でのセッション録音。レーベルはもはやメジャーレーベルのNAXOS。

ふとしたことから、最近聴き直したアルバム。コダーイ四重奏団はハイドンの弦楽四重奏の全集をリリースしているのは当ブログの読者の皆様ならもちろんご存知のことと思います。すでにコダーイの全集をお持ちの方も少なくないのではないかと想像していますが、私は全集ではなく、次々とリリースされたアルバムを1巻づつコツコツと集めていたため、古く手に入れたものは記憶も朧げになってます。加えて集め始めた当初はNAXOSというレーベルのイメージも廉価盤専門ということで、さして期待もせず集めていたのが正直なところ。

コダーイ四重奏団の演奏はこれまでに3度ほど取り上げております。

2017/05/17 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : コダーイ四重奏団のOp.9(ハイドン)
2013/02/23 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : コダーイ四重奏団のOp.20のNo.4からNo.6
2011/10/23 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : コダーイ四重奏団のOp.74

あらためて聞き直してみると、このコダーイ四重奏団の演奏が実に素晴らしい。特にこのごく初期のOp.1のおおらかな魅力に溢れた曲を見事に表現しています。この曲集ではペターセン四重奏団のキレキレの演奏とエミール・クライン/ハンブルク・ソロイスツの弦楽合奏ならではのおおらかな演奏が印象に残っていますが、このコダーイの演奏はクァルテットによる伸びやかな名演としてお勧めできるものです。

2014/08/09 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : 絶品! ペターセン四重奏団の弦楽四重奏曲Op.1(ハイドン)
2012/06/19 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : エミール・クライン/ハンブルク・ソロイスツのディヴェルティメント集

Hob.III:1 / String Quartet Op.1 No.1 [B flat] (c.1757-59?)
いきなり伸びやかな音色に惹きつけられます。虚飾も技巧の誇示もなく純粋に奏者全員が完全にリラックスして楽しみながら弾いているのが伝わります。弦楽四重奏というジャンルを確立したハイドンが当初ディヴェルティメントとして5楽章構成で書き始めたまさに最初の曲。このおおらかな演奏こそこの曲の本質的な魅力を突いた演奏でしょう。教会に響き渡る豊かな残響を伴った録音も絶品。リズミカルにメロディーを刻む1楽章、愉悦感に溢れる2楽章のメヌエット、ラチュード豊かな陰影が美しい3楽章のアダージョ、後年の展開の面白さを予感させる4楽章のメヌエット、軽やかに疾走するフィナーレといきなり見事な構成で、これが最初の曲とは思えない完成度。コダーイの素晴らしいところは、4人の奏者の音楽性が見事に揃っていて、完璧な一体感を保っているところ。穏やかで無難な演奏とも聴こえるかもしれませんが、こういう演奏が一番難しいんじゃないかと思います。1曲めから完璧な演奏。

Hob.III:2 / String Quartet Op.1 No.2 [E flat] (c.1757-59?)
見事な一体感は続きます。そして美しいアンサンブルも変わらず。4人が絶妙な呼吸で音楽が微塵も揺らぎません。まるで一人の奏者が弾いているように音楽が流れます。フレーズはメリハリがついて、メロディーは味わい深く、朗らかな気配に包まれます。このアルバムにはOp.1の6曲中4曲が収められていますが、4つの曲は全て2つのメヌエットを伴った5楽章構成と共通の構成を持ちながら、それぞれの曲の変化の面白さが仕込まれ、そこが聴きどころ。このコダーイの演奏がその変化を聴き分ける面白さに集中できる安定感がありますね。特にその面白さを感じるのがこの曲の3楽章のアダージョ。美しいメロディーにピチカートが散りばめられる秀逸なアイデアに加え、曲の展開もあっと言わせるような驚きに満ちています。いつもながらハイドンの想像力の冴えに感心しきり。4楽章の2つ目のメヌエットに織り込まれた短調の陰りも曲に深みを与える見事なもの。

Hob.III:3 / String Quartet Op.1 No.3 [D] (c.1757-59?)
今度は冒頭にアダージョを持ってきました。しかも非常にデリケートな表情を重ねていきながら曲想が徐々にくっきりと描いてくる展開の面白さを見せつけます。メヌエットの表情も豊かになり、ここでもピチカートが効果的に使われます。そして中間楽章の3楽章には今度はスケルツォが置かれ、型の中での変化を色々とつけて実験しているよう。このような試行錯誤を繰り返しながら弦楽四重奏というジャンルを確立して行ったわけですね。そして5楽章のフィナーレでは実に巧みなリズムを刻んで、湧き出るようにアイデアを披露。タダでは終わらないというハイドンのプライドを感じます。

Hob.III:4 / String Quartet Op.1 No.4 [G] (c.1757-59?)
アイデアは湧き出し続けます(笑)。入りから巧みな構成に舌を巻きます。どうしてこのようなメロディーが思いつくのか、一つとして同じアイデアを繰り返しません。それでいて曲としてのまとまり、聴かせどころをしっかりと持っているのが流石なところ。演奏の方はあまりに自然で堂に入っていて、演奏のあれこれに気をとられることなく純粋に曲の面白さに没入できる理想的なもの。続くメヌエットでもハッとするような展開が織り込まれます。そして、この曲のアダージョは7分を超える長いもので、パート間がゆったりと会話するような曲が続きます。ヴァイオリンの高音の透き通るような響きの美しさが華を添えます。それを受けてかメヌエットのトリオも輪唱のようなこだまするよう。アイデアの連鎖がテーマになっていますね。最後のフィナーレはヴァイオリンが天真爛漫に躍動。ここもアイデアの連鎖ですね。最後は総決算的に曲をキリリとと終わらせる見事な構成感。

実に久しぶりに聴き直してみると、若書きとはいえハイドンの素晴らしい曲想を堪能できる素晴らしい演奏でした。以前の評価を訂正して全曲[+++++]と修正です! これから手に入れる方は迷わず全集をオススメします。



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【新着】ドーリック四重奏団のOp.64(ハイドン)

久々の新着アルバムです。

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ドーリック弦楽四重奏団(Doric String Quartet)によるハイドンの弦楽四重奏曲Op.64のNo.1からNo.6までの6曲を収めたアルバム。収録はNo.3、4、5が2017年5月5日から7日、その他の曲が同10月23日から25日、イングランド東部の北海沿岸で、オールドバラ音楽祭で知られるオールドバラの北方10kmにあるダンウィッチ(Dunwich)のポットンホールでのセッション録音。レーベルは英CHANDOS。

ドーリック弦楽四重奏団の演奏はこれまでに2度取り上げています。

2015/04/16 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : ドーリック弦楽四重奏団の太陽四重奏曲集(ハイドン)
2013/06/20 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : ドーリック弦楽四重奏団のウィグモアホールライヴ

今日取り上げるアルバムはCHANDOSレーベルからリリースされているハイドンの弦楽四重奏曲集の第3巻。2009年のウィグモアホールでの素晴らしいライブの後、第1巻のop.20が2013年の収録、第2巻のOp.76が2015年の収録、今回リリースされた第3巻のOp.64が2017年の収録ということで、非常に計画的にリリースを重ねてきている状況。第1巻はまだちょっと固さが残っているようで、ウィグモアホールの熱気あるライヴとはちょっと差があったというのが正直なところ。そして第2巻はわずかに表現意欲が過ぎてハイドンの流れの良さを活かしきれない感じもしたので取り上げませんでしたが、今度の第3巻はどのような仕上がりか気になり取り上げた次第。1巻以降はメンバーに変動はありません。

第1ヴァイオリン:アレックス・レディントン(Alex Redington)
第2ヴァイオリン:ジョナサン・ストーン(Jonathan Stone)
ヴィオラ:エレヌ・クレモン(Hélène Clément)
チェロ:ジョン・マイヤースコウ(John Myerscough)

ただし、ライナーノーツを見てみると、新たに全員の弓がルイス・エミリオ・ロドリゲス・キャリントン(Luis Emilio Rodriguez Carrington)作のバロックボウを使っていると書かれています。第1巻、第2巻ともその表記はなく、また録音会場は3巻共通ということで、この巻から弦の音色の違いにも関心が集まります。

ということで、第2巻のOp.76をちょっと聴いてから第3巻を聴き始めると、確かに弦の音色のニュアンスが変わりました。第2巻までは現代楽器の音色ですが、第3巻では透明感よりは色彩感が感じられる柔らかな音に変化。特に低音部の芯がしっかりした印象に。これが音楽の作りにも影響するんですね。

Hob.III:65 String Quartet Op.64 No.1 [C] (1790)
ちょっと古楽器に近いニュアンスを帯びることで、このクァルテットのメリハリの効いた表現がかえって自然な印象に聴こえてくるから不思議ですね。特にチェロのフレーズがくっきりと浮かび上がって聴こえます。基本的にはかなり表現意欲が先走って大げさに聴こえる演奏なんですが、それがキアロスクーロのような洗練の極致を感じさせるかというと、そこまでではなく、もう少し抑えた方がハイドンの曲の面白さが映えるという感じ。ただしそれが古楽器風の響きによって、美化されるというニュアンスでしょうか。楽章が進むうちに、この表現の起伏の大きさが曲自体の持つドラマティックな印象をしっかりと描いているように思えてきます。柔らかくデフォルメされていくうちにその魅力がわかってきた感じです。その意を強くしたのが3楽章。フィナーレはちょっとパート間のメロディーの受け渡しと音色がバラつき、ハイドンのコミカルな音楽を持て余す感じ。パート間の音楽の揃いがピタリと来ないのがこのクァルテットのちょっともの足りないところ。

Hob.III:68 String Quartet Op.64 No.2 [b] (1790)
短調の入り。1曲目と同じ録音期日ゆえ音色にさしたる変化はありません。1楽章途中のピチカートをかなり目立つように強調。相変わらず若干大げさな表現が印象的。ハイドンの曲の面白さよりも、このクァルテットの踏み込んだ表現がちょっと気になり音楽に没入できません。初めてファイの交響曲の演奏を聴いた時の違和感に似た感触を感じます。続く2楽章ではくっきりとした起伏も徐々に表現に滑らかさと一体感が加わることでまとまりも良くなってきます。チェロの雄弁なボウイングからヴィオラとヴァイオリンにフレーズをつないでいきながら静かに楽章を終えます。メヌエットに入るとさらにしなやかさが加わり、特にトリオ部分のヴァイオリンの高音の艶やかさはなかなかもの。そしてフィナーレはくどい表現は少し後退して流すように展開して終わります。

Hob.III:67 String Quartet Op.64 No.3 [B flat] (1790)
この曲は前2曲とは収録日が異なるためか、響きもちょっと異なり、演奏も冒頭から伸びやかさが目立って、パート間のバランスもだいぶ整って聴こえます。ほんのわずかな違いなんですが、音楽の印象がガラリと変わります。表現の濃さはあまり変わらないのですが、響きの統一感がそう聴こえさせるのでしょう。1楽章の踏み込みに対して、続くアダージョでゆったりと受けますが、このリラックス感の深さも表現の本質的な幅の大きさを感じさせる見事なもの。ここにきてようやくこのクァルテットの良さをしっかりと印象付けます。特に弱音部の美しさは惚れ惚れとするほど。奏者間のバランスも非常に良く、メヌエットに入るとさらにキレ良く響きます。トリオ部分のユーモラスなボウイングも効果的。全てがいい方向に作用してこれがこのクァルテットの本領を感じさせる出来。ハイドンのクァルテットにしては大規模なフィナーレも力みなくバランスも良い期待通りの素晴らしさ。いやいや、これは納得の出来でしょう。

レビューはここまでにしておきます。CD2の3曲も収録時期がNo.3と同じNo.4とNo.5のひばりはいい出来でした。先にレビューした第1巻の時もそうでしたが、曲によってばらつきがかなりあるというのが正直なところ。この第3巻でもNo.3の演奏を聴くと素晴らしい才能の持ち主であることは明白。ただしNo.1、No.2の演奏を聴くと表現意欲が少し空回りして聴こえるの正直なところ。これがセッション録音であることを考慮すると、これは奏者のみならず、プロデューサーの耳の問題もあるのかもしれないとの想像が働きます。というのもこのシリーズのプロダクションの仕上がりもジャケット写真やデザインを見る限り今ひとつ垢抜けない感じを残してしまっている感じ。同じく新進気鋭のキアロスクーロ四重奏団の太陽四重奏曲集は演奏、プロダクション共に素晴らしいレベルでリリースしてきています。こうなると、このドーリック四重奏団のライヴを聴いてみたくなるところですね。評価はNo.3、No.4、No5が[+++++]、その他が[++++]とします。

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tag : 弦楽四重奏曲Op.64 ひばり

アルミン四重奏団のOp.20のNo.4(ハイドン)

久々にCDに戻ります。最近仕入れたアルバムですが、クァルテットの名前も知らない、知る人ぞ知るアルバム。こういうアルバムを聞くのはワクワクしますね(笑)

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アルミン四重奏団(Armin Quartet)による、ハイドンの弦楽四重奏曲Op.20のNo.4、メンデルスゾーンの弦楽四重奏曲Op.13の2曲を収めたアルバム。レーベルはバイエルン放送響などのライブのリリースで知られるaudite。収録は1994年10月25日から28日かけて、auditeレーベルの創業者であるフリードリヒ・マウアーマン(Friedrich Mauermann)の名を冠したマウアーマンスタジオ(Tonstudio Mauermann)でのセッション録音。

このアルバムは最近偶然手に入れたもの。好きなOp.20が入っているということで入手しましたが、CDプレイヤーにかけてみると、なかなか充実した響きが流れ出し、素晴らしい演奏に耳を奪われました。

auditeと言えば歴史的な録音の復刻で有名なレーベル。私はクーベリックがバイエルン放送響を振ったマーラーのライブ盤が印象に残っていて、1、2、5、9、大地の歌と結構な枚数が手元にあります。今回ちょっと調べたところauditeレーベルの創始者であるフリードリヒ・マウアーマンの兄弟であるエーリッヒ・マウアーマンがその当時の先代のバイエルン放送響のマネージャーだったということで、クーベリックのマーラーの録音やリリースに繋がったのだと思われます。クーベリックのマーラーの録音がauditeレーベルの主力のアルバムだったということです。

一方アルミン四重奏団はあまり知られた団体ではありません。この録音時のメンバーは下記のとおり。

第1ヴァイオリン:オットー・アルミン(Otto Armin)
第2ヴァイオリン:永富美和子(Miwako Nagatomi)
ヴィオラ:イングリト・フィリッピ(Ingrid Philippi)
チェロ:アンスガー・シュナイダー(Ansgar Schneider)

第1ヴァイオリンのオットー・アルミンは1943年カナダ生まれで1977年にドイツに移住するまではカナダなどを中心に活動していた人。彼の略歴を見ると1950年代からアルミン弦楽四重奏団というクァルテットを結成して活動していたようですが、カナダ国内での演奏やCBC放送への出演が多く、のちに米国インディアナ州のインディアナ大学のレジデント・クァルテットとなった経緯などを含めるとこのアルバムを録音した頃まで継続して活動していたかどうかはわかりません。オットー・アルミンは著名なヴァイオリンのコンクールに入賞したのちにヴィクトリア響、クリーヴランド管などのヴァイオリン奏者として活躍し、CBCモントリオール管ではコンサートマスターを務めました。教職ではケベック音楽院、マギル大学、カナダのナショナル・ユース・オーケストラなどを歴任。その後ドイツに渡り、ハンブルクフィル、シュツットガルト放送響のコンサートマスターを務めています。このアルバムのクァルテットのメンバーは皆シュツットガルト放送響のメンバーということで、50年代に活動したアルミン弦楽四重奏団とはアルミンが第1ヴァイオリンということだけが共通の模様。ちなみに第2ヴァイオリンの永富美和子さんは桐朋音大を出て室内楽をジュリアード四重奏団に学び、ジュネーヴでヘンリク・シェリングのマスタークラスを学び1973年からシュツットガルト放送響のアシスタント・コンサートマスターを務めているそう。

ということでレビューに入ります。

Hob.III:34 String Quartet Op.20 No.4 [D] (1772)
程よい残響を伴った鮮明な録音でしっかりと実体感のあるクァルテットがスピーカーの前に出現します。演奏は現代楽器によるオーソドックスなものですが、4人の息がピタリと合って精度は抜群。全員のボウイングが揃って奏でるハーモニーが絶妙な雰囲気を醸し出します。聴き進むとオットー・アルミンの第1ヴァイオリンの伸びやかなボウイングの魅力が徐々に際立ってきます。特段個性的なものではありませんが、ハイドンのこの曲を素直に料理することが最も作品の真髄に近づけるとの確信を持った演奏のように聴こえます。
続く2楽章に入るとヴァイオリンが奏でる短調のメロディーを次々とヴィオラ、チェロが受け継ぎじっくりと、しかし淡々と発展させていく妙味を味わえます。ヴィオラもチェロもかなり雄弁で聴きごたえ十分。再びヴァイオリンに戻ると短調の中にも艶やかさにハッとさせられる見事な展開。やはりハイドンの構成の見事さが印象に残る、オーソドックスなのに深い演奏。弱音部の精妙さと強奏部の堂々とした響の対比も見事。
メヌエットはメロディーラインに小節を効かせながらもチェロの軽やかな音階でさっぱりとまとめます。そしてフィナーレでは速いパッセージでも4人のアンサンブルの息の合ったところを見せつけますが、終盤に近づくにつれてオットー・アルミンのヴァイオリンの鮮やかなキレ味が牙を剥き始めます。録音がいいのでヴァイオリンの響きも実に心地よく感じます。4楽章を通して穏やかな起承転結がついて、ハイドンのこの時期のクァルテットの仄暗い雰囲気をくっきりと描き切りました。

やはり未知の奏者の演奏を聴くのはスリリングですね。先入観なく虚心坦懐に聴いた演奏は、このOp.20のNo.4の素朴な良さをくっきりと浮かび上がらせる名演奏でした。しっかりと地に足がついて弦楽器の響きも実体感十分。そして第1ヴァイオリンを軸にしながらもバランスの良い息のあったアンサンブルでまとめた手堅さが印象に残りました。ハイドンの演奏のツボを押さえた名手の集まりということでしょう。評価は[+++++]とします。

このアルバムの他に数枚しか録音が見つからないということで、現在も活動しているかどうかはわかりませんが、このアルバムに収録されたハイドンは皆さんに聴いていただくべき価値は有りです!

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tag : 弦楽四重奏曲Op.20

ボロディン四重奏団のひばり(ハイドン)

月末ですが、一本追加です!

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ボロディン四重奏団(Borodin Quartet)の演奏による、ハイドンの弦楽四重奏曲Op.64のNo.5「ひばり」、モーツァルトの弦楽四重奏曲KV421(417b)、クラリネット五重奏曲KV581の3曲を収めたアルバム。ハイドンの収録は1958年。レーベルは露Мелодия(Melodiya)。

ボロディン四重奏団や、メンバーの一部で構成されたボロディン三重奏団の演奏はこれまで4度ほど取り上げています。

2012/09/17 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : ボロディン四重奏団の十字架上のキリストの最後の七つの言葉
2012/07/02 : ハイドン–室内楽曲 : ボロディン三重奏団のXV:27
2011/08/21 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : 【新着】ボロディン四重奏団のロシア四重奏曲
2011/08/06 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : ボロディン弦楽四重奏団の十字架上のキリストの最後の七つの言葉ライヴ

一番下の記事に書いたように、ボロディン四重奏団は終戦の年1945年に結成されたクァルテットですが、メンバーを替え現在も活動している世界でも最も活動期間の長いクァルテットの一つ。最初に取り上げた「十字架上のキリストの最後の七つの言葉」のライヴは鋼のような引き締まりまくった素晴らしい演奏が鮮明に印象に残っています。そのあと比較的最近の録音を取り上げていますが、今日取り上げるアルバムは手元の録音の中でも最も古い1958年の録音。ボロディン四重奏団のオリジンに迫ることができるでしょうか。
この演奏のメンバーは下記の通り。

第1ヴァイオリン:ロスティラフ・ドゥビンスキー(Rostislav Dubinsky)
第2ヴァイオリン:ヤロスラフ・アレクサンドロフ(Yaroslav Alexandrov)
ヴィオラ:ディミトリー・シェバリーン(Dmitri Shebalin)
チェロ:ユーリ・トゥロフスキー(Yuri Turovsky)

Hob.III:63 String Quartet Op.64 No.5 "Lerchenquartetett" 「ひばり」 [D] (1790)
なんと禁欲的な入りでしょう。各パートが引き締った音色を重ねますが、滲みも厚みも皆無。デッドな録音であることも手伝って非常にタイトなアンサンブル。鋭利な響きが耳に刺さります。ひばりという優雅な曲から優雅さを取り払って、真剣による居合いの勝負のような険しい響きになっちゃってます。アンサンブルの険しさは類を見ないほど。ヴァイオリンのドゥビンスキーのボウイングに隙はなく、他のメンバーもそれに触発されて全く隙のない緻密な演奏にこちらも襟を正さざるを得ません。
続くアダージョでも、張りつめた緊張感はかわらず。本来は癒されるような音楽なのに、それとは正反対に緊張を強いるテンションの高さ。そう思って聴いているとチェロばぐっと踏み込んできて、音楽に厚みをもたらし、少し緊張をほぐしてくれます。緻密なアンサンブルだけにこうしたちょっとした変化が鋭敏に察せれ、それが音楽の豊かさをもたらします。
メヌエットでも鋭利な表現は変わらず。リズミカルなんですが鋭利さが鋭いアタックを印象づけ、舞曲とは感じられませんが、この曲の本質には関係ありません。パートごとにメロディーを重ねていくところでは滲みのない鮮明な録音によって重なりのおもしろさが鮮明によみがえります。そしてフィナーレは上下する音階を完璧に再現して、複雑な楽譜がさも簡単に演奏されているが如き磐石の安定感でまとめます。

こちらが想像した通りのボロディン四重奏団のタイトな響が聴かれtました。このあとのモーツァルトのクァルテットとクラリネット五重奏曲もこのクァルテットらしくタイトなものですが、最後に収められたクラリネット五重奏曲が絶品です。こちらは録音のせいかあじわい深い演奏。

ボロディン四重奏団のオリジンを知るべく取り上げた1958年メロディアによる録音。予想どおり超タイト、超辛口の演奏を堪能する事ができました。ボロディン四重奏団のオリジンはやはりこの引き締ったタイトさにありましたね。メンバーを替えて今もこの往時の響きがこのクァルテットの個性の雛形になっているということで、クァルテットの個性はメンバーのみにあらずということを証明しているようでもあります。もちろん評価は[+++++]とします。

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tag : ひばり ヒストリカル

パルカニ四重奏団のOp.54(ハイドン)

最近手に入れたアルバム。少し前に素晴らしい演奏を取り上げたオルランド四重奏団が名前を変えて活動していました!

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パルカニ四重奏団(Párkányi Quartet)による、ハイドンの弦楽四重奏曲Op.54のNo.1、No.2、No.3の3曲を収めたSACD。収録は2010年5月17日から19日にかけて、プラハのドモヴィアスタジオ(Domovia Studio)でのセッション録音。レーベルはPRAgA Digitals。

オルランド四重奏団の記事はひと月前に取り上げたばかりです。

2017/08/27 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : オルランド四重奏団のOp.54(ハイドン)

しかも収録曲は今日取り上げるアルバムと同じOp.54からNo.1とNo.2です。オルランド四重奏団の収録が1981年(Pマーク)、今日取り上げるアルバムはその約30年後の録音ということになります。メンバーはチェロを除く3人がオルランドから変わらず。

第1ヴァイオリン:イシュトヴァン・パルカニー(István Párkányi)
第2ヴァイオリン:ハインツ・オーベルドルファー(Heinz Oberdorfer)
ヴィオラ:フェルディナント・エルブリヒ(Ferdinand Erblich)
チェロ:ミヒャエル・ミュラー(Michael Müller)

オルランド四重奏団は1997年に一旦解散したとのことですが、その後、1998年には新たなチェロ奏者ミヒャエル・ミュラーを迎えて現在のパルカニ四重奏団を結成しています。パルカニ四重奏団となった後には、メンバーのお国ものであるバルトークや、ラヴェル、ドビュッシー、ベートーヴェン、シューベルト、チャイコフスキーなどの録音も残しており、ハイドンについてはこのアルバムの他にOp.33とOp.42の録音を残しています。2007年から2009年にかけてOp.33とOp.42を録音しており、その後に別の曲を取り上げることもできたにもかかわらず、オルランド時代に録音したOp.54を再び取り上げたということは、この曲が彼らにとって特別な存在なのかもしれませんね。あの、オルランドの素晴らしい演奏から約30年を経た演奏はどうでしょうか?

Hob.III:58 String Quartet Op.54 No.1 [G] (1788)
ちょっと予想に反して非常にフレッシュかつ若々しい演奏に驚きます。残響は比較的多めですが、流石にSACDだけあって録音は非常に鮮明。響きの良いホールの最前列でクァルテットの音を浴びるような快感。冒頭から素晴らしい推進力と精緻なデュナーミクのコントロールでキレキレ。特に音の出端のエッジが剃刀のように鋭利なので非常にシャープに感じますが、そのあとの持続音の音量を実に巧みにコントロールしていくので冷たい感じはせず、巧みなコントロールの魅力が圧倒的な印象を残します。最初の曲の1楽章がアルバムの印象を大きく左右しますが、あまりに見事な入りに仰け反ります。続くアレグレットは実に豊かな表情をつけてデリケートなニュアンスを完璧に表現。弱音のさざめきに美しいメロディーがくっきり浮かび上がり、陰と陽の交錯の妙を味わえます。そしてメヌエットはしっかりとリズムをためて舞曲のリズムの面白さを強調し、チェロが踏み込んだ表現で存在感を発揮します。楽章間の対比をかなり鮮明につけて、ハイドンの曲の構成美を浮かび上がらせるのが彼らのスタイルとみました。そしてフィナーレは速いテンポで全員が妙技を披露しますが、表情が巧みにコントロールされ、フレーズごとにかなり表情を変化させてきます。ハイドンの仕込んだアイデアに隈取りをつけて強調するような踏み込んだ表現。1曲目からその表現意欲に圧倒されます。

Hob.III:57 String Quartet Op.54 No.2 [C] (1788)
ハイドンの創意が爆発するお目当てのNo.2。シャープな印象は前曲同様。冒頭から水も漏らさぬ集中力で4人の緊密なアンサンブルが進みます。力の入れどころ、抜きどころをわきまえているので力んだ感じは残さず、メリハリの効いた演奏になります。特にすっと力を抜いてハーモにを楽しむ余裕があるので音楽の流れが良い印象を残します。ゆったりとハーモニーが膨らんだかと思うとキリリと引き締めてきて、1楽章はまさに自在な表現。
2楽章はハイドンの時代の音楽とは思えない踏み込んだ音楽が流れます。特に前楽章ではあれほどくっきりシャープだったヴァイオリンがフラフラとさまようような表情を見せるあたりは、いつ聴いてもしびれます。そしてそこから救い出してくれるように優しく響くメヌエット。適度にコミカルな表情が安堵感を与えます。そして珍しいアダージョから入るフィナーレは予想通りしっかりと沈み込んでじっくりとした入り。深い淵をしっかりと覗いたからこそ続くプレストが華やかに映ります。

Hob.III:59 String Quartet Op.54 No.3 [E] (1788)
最後の曲。前2曲よりも落ち着いた曲想ゆえか、演奏の方もゆったりした感じ。曲に応じて変幻自在に演奏スタイルを変えてきます。表現のメリハリも前2曲よりも落ち着いて、逆に淡々と進めていきます。このあたりの表現はまさに円熟のなせる技。クリアばかりではない弦楽四重奏の魅力をたっぷりと伝えます。4本の楽器が響きあうハーモニーの美しさこそがこの曲のポイントとでも言いたげな演奏。そのまま続くラルゴ・カンタービレに入ると響きの深さがどんどん深くなり、パルカニのヴァイオリンは枯淡の響きを聴かせます。メリハリではなく音色の深さとバランスを巧みに組み合わせて長い楽章にしなやかな変化をもたらします。続くこの曲のメヌエットも非常にユニークなもの。ここでアンサンブルはクッキリとした響きを取り戻し、このユニークなメロディーを精緻に描き出します。そしてフィナーレはハイドンにしてはアクロバティックな音楽。各楽器の音域いっぱいを使って小気味好いメロディーを重ねながら次々と展開していく快感。最後は余裕たっぷりにこの技巧的な曲を軽々とこなして、キリリとまとめて終わります。

先にも書きましたが、彼らが若かりし頃、オルランド四重奏団として演奏した録音よりも、約30年の時を経て円熟を重ねた今回のアルバムの演奏の方が枯れているのではとの想像は見事に打ち砕かれ、もちろん円熟味も加わってはいるものの、逆に若々しくシャープな演奏にまとめてきました。もちろん、メンバーが1人入れ替わったことで、彼らの音楽の方向性が変化したのかもしれませんが、この鮮明かつ表現意欲に溢れた演奏は、このクァルテットが目指す音楽を研ぎ澄ましながら長い時間をかけて純度を上げてきた成果であろうと思います。飛ぶ鳥を落とす勢いを感じさせるオルランド、そして円熟を重ねながら純度を上げ、鮮明な音楽にまとめたパルカニといったところでしょう。私はどちらも甲乙つけがたい魅力を持っていると思います。ということで評価は全曲[+++++]といたします。未聴のOp.33とOp.42も間も無く入手できる見込みですので、こちらも楽しみです。

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tag : 弦楽四重奏曲Op.54 SACD

オルランド四重奏団のOp.54(ハイドン)

通常のレビューに戻ります。

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オルランド四重奏団(Orlando Quartet)の演奏で、ハイドンの弦楽四重奏曲Op.54のNo.1とNo.2の2曲を収めたLP。収録情報には触れられていませんが、レーベル面にはPマークが1981年と印刷されています。レーベルは今は亡き名門蘭PHILIPS。

オルランド四重奏団は1976年にアムステルダムで設立されたクァルテットで、1997年まで活動していました。この演奏当時のメンバーは下記の通り。

第1ヴァイオリン:イシュトヴァン・パルカニー(István Párkányi)
第2ヴァイオリン:ハインツ・オーベルドルファー(Heinz Oberdorfer)
ヴィオラ:フェルディナント・エルブリヒ(Ferdinand Erblich)
チェロ:シュテファン・メッツ(Stefan Metz)

幸松肇さんの「世界の弦楽四重奏団とそのレコード第5巻英加北欧諸国編」を紐解くと、活動当初、1978年10月ヘルシンキで開催されたヨーロッパ放送連合の国際コンクールで優勝し、その特典で与えられたムジークフェラインザールでのコンサートがヨーロッパ各国で放送され、以来ヨーロッパで活躍することになったとのこと。手元にはこのLPの他、Op.76のNo.4「日の出」、No.6の2曲を収めたCDもありますが、そちらの録音表記はPマークが1982年。ということで今日取り上げるLPの方が録音が古いことになります。幸松さんの本にはこのLPが彼らの最初の録音であるように書かれているので、これがデビュー盤ということでしょう。

手に入れたLPはミントコンディション。針を落とすとPHILIPSらしい透明感溢れるクァルテットの響きに釘付けになります。

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Hob.III:58 String Quartet Op.54 No.1 [G] (1788)
これぞハイドンのクァルテットの理想的な響き。軽快なテンポで瑞々しく伸びやかな響きが広がります。メロディー上のアクセントが4人ともピタリと揃う快感。鮮烈さも力強さもあり、1楽章からオルランドの覇気に呑まれます。
続くアレグレットでは第1ヴァイオリンのパルカニーのみならず4人それぞれがかなりの表現意欲を見せ、緩徐楽章にもかかわらず素晴らしい充実感。パルカニーのヴァイオリンはすぅっと伸びる自然な高音の美しさが魅力でしょう。燦々と輝く陽の光を浴びて陰影もくっきりとつく素晴らしい立体感。
メヌエットは晴朗な響きに満ちながらもフレーズごとに推進力をはっきりと変えて音楽の表情をクッキリと浮かび上がらせます。このメヌエットの表情の描きわけの面白さこそオルランドの真骨頂かもしれません。そしてフィナーレは一段テンポを上げて曲の締めにふさわしい充実感を残します。もちろん集結に至るまでのコミカルな展開の描きわけも見事。ハイドンが仕込んだウィットに鮮やかに反応します。極めて正当的な充実したアンサンブル。弦楽四重奏の魅力をストレートに表現した名演奏。

Hob.III:57 String Quartet Op.54 No.2 [C] (1788)
この曲独特の鮮烈な入りも、このクァルテットのキレの良い響きでいきなりあっと言わせます。あまりに見事な入りに言葉が出ません。たかが4本の楽器ですが、素晴らしい迫力に圧倒されます。ハイドンが織り込んだメロディーの美しさを最上の形で響きに変換していきます。曲が進むにつれて、少しずつメロディーを崩しながらこちらの予測を超える表情をつけていきます。時折音量を極端に落とす場面を設けてこの曲に仕込まれたハイドンの仕掛けを次々と掘り起こしていきます。1楽章から圧倒的なパフォーマンス。
2楽章はすすり泣くような実にユニークな短調のアダージョですが、ヴァイオリンの自在なボウイングに対し、伴奏の音量のコントロールが実に緻密でここでも曲に仕込まれた音楽をしっかりと汲みとります。そこからメヌエットへの入りの絶妙な間。次に流れる音楽の気配が無音の中に響くよう。恐ろしい集中力。そしてメヌエットも漆黒の夜に気配を頼りに歩くような見事な進め方。
そして、非常に珍しいアダージョからは始まるフィナーレ。彼らがなぜこの2曲をデビュー盤に選んだかわかりました。ハイドンのクァルテットの中でもことさら表現力が試される構成の曲ゆえ、このオルランド四重奏団のもっとも得意なところが活かせる曲ということでしょう。4人の創意が見事に統一されて、このユニークな終楽章の最上の姿が浮かび上がります。最後のプレストは爆速! そして最後は静寂の中に消え入るように終わります。

いやいや、見事の一言。特にNo.2の方は超絶的名演と言っていいでしょう。全盛期のオランダPHILIPSの名録音によって、全盛期のオルランド四重奏団の演奏が記録された名盤。LPの方はオークションなどでもまだまだ見かけますので、好きな方は是非入手してみてください。

(参考)Op.76のCD
OrlandoQ_Op76.jpg
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tag : 弦楽四重奏曲Op.54 LP

マルシュナー=コッホ四重奏団のひばり、皇帝(ハイドン)

またまたLPです。こちらも最近オークションで手に入れたもの。

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マルシュナー=コッホ四重奏団(Marschner-Koch Quartett)の演奏による、ハイドンの弦楽四重奏曲Op.64のNo.5「ひばり」、Op.76のNo.3「皇帝」の2曲を収めたLP。収録年の記載はありませんが、ステレオであることやレコード番号から1960年代後半のリリースでしょう。レーベルは独フライブルクのCHRISTOPHORUS。

このクァルテット、ジャケットには下記の4名の奏者の名があるだけで、クァルテットの名前は記されていませんでした。

第1ヴァイオリン:ウォルフガング・マルシュナー(Wolfgang Marschner)
第2ヴァイオリン:ウルリッヒ・ゲーリング(Ulrich Grehling)
ヴィオラ:ウルリッヒ・コッホ(Ulrich Koch)
チェロ:アティス・タイヒマニス(Atis Teichmanis)

色々調べたところ、手元にあった幸松肇さんの「世界の弦楽四重奏団とそのレコード」のドイツ・オーストリア編に「マルシュナー=コッホ四重奏団として掲載されていて、ようやく情報が掴めたもの。LPの裏面にもドイツ語でクァルテットの説明はあるのですが、スイスイ読めるわけではありませんので日本語の情報があるのは助かります。

幸松さんの本によれば、このクァルテットは1960年代後半、フライブルク音楽大学で教鞭ととっていた上記メンバー4人によって設立されたもの。
ウォルフガング・マルシュナーは1926年ドレスデン生まれ。ハノーファー国立歌劇場やケルン放送交響楽団のコンサートマスターとして活躍し、1963年からフライブルク音楽大学の教職にありました。
第二ヴァイオリンのウルリッヒ・ゲーリングは1917年生まれで1942年から1947年までベルリンフィルのコンサートマスターを務めた人。1946年以降はフライブルク音楽大学で教職についています。
ヴィオラのウルリッヒ・コッホは1921年ブラウンシュヴァイク生まれでブラウンシュヴァイク国立劇場管弦楽団コンサートマスターを経て南西ドイツ放送交響楽団の首席ヴィオラ奏者として活躍、フライブルク音楽大学では弦楽器長を務めた人。
そして、チェロのアティス・タイヒマニスはネットで調べてもなかなか情報がありませんでしたが、1907年ラトヴィアのリパエーヤという町の生まれで1955年にフライブルク音楽大学で夏季セミナーを受けたということがわかりました。

クァルテットに名前がないことと、これ以外に録音も見当たらないことから、この録音を行なった時期だけしか活動していなかったのかもしれませんね。

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LPに針を落とすと、非常に伸びやかなクァルテットの響きがザクザク迫ってきます。というのもカートリッジを最近手に入れたSHUREのV-15 TypeIIIに変えたばかりで、これまでのDL-103Rをフェーズメーションのトランス経由で聴いていた厚みと安定感重視の組み合わせとの差がそういう印象を強調しているかもしれませんね。もともとアームが軽針圧向けのものなのでこちらの方があるべき組み合わせなんでしょう。オリジナル針のコンディションも良いのでしばらくこの環境で聴いてみようと思います。

Hob.III:63 String Quartet Op.64 No.5 "Lerchenquartetett" 「ひばり」 [D] (1790)
1960年代の録音であるというのが信じられないほど鮮明な響きに驚きます。そしてスピーカーの周りに広がる音場も広大でびっくり。レオポルド・マルシュナーのヴァイオリンの伸びやかさはかなりのもの。楽器が非常によく響いてヴァイオリンの胴鳴りの迫力が感じられるほど。アンサンブルも実に見事。ひばりの入りはオーソドックスなテンポながら響き渡る伸びやかさで圧倒される感じ。ひばりのさえずりもこれほどの美しさで響くとさらに印象深く聴こえます。
続くアダージョに入ると、マルシュナーのヴァイオリンは美しさの限りを尽くすように鳴り響きます。そしてそれに呼応するように各パートもよく鳴る鳴る。往時のベルリンフィルの弦楽セクションの怒涛の響きを思い起こさせます。よく響くホールでの録音でしょうが、ダイレクト感もかなりあり、冒頭に書いたように超鮮明な録音。手元のCDやSACDでもこれほどキレのある録音はありません。
メヌエットもこれが王道というような演奏。小細工なしにグイグイ来ます。全員がベストコンディションでそれをベストなロケーションで録音し、この当時のベストな録音で残したもの。千載一遇の演奏を収めた録音といっても過言ではないでしょう。
フィナーレも楽器が鳴りすぎて抑えが効かないというか、抑える必要もないので、ハイドンの書いた音楽をベストなアンサンブルで演奏するとこうなる的完璧な演奏。あまりに圧倒的なパフォーマンスにノックアウトです。

Hob.III:77 String Quartet Op.76 No.3 "Kaiserquartetett" 「皇帝」 [C] (1797)
皇帝も同様、冒頭からアンサンブルが響きまくって素晴らしい響きに包まれます。4人がそれぞれ畳み掛けるようにインテンポで演奏しながらアンサンブルの線がぴしっとそろって響く快感。しかも全員楽器が鳴りまくってるのは前曲同様。曲毎の演奏スタイルの変化は感じず、それよりも普遍的な表現を目指しているよう。あまりの説得力に圧倒されるというのが正直なところです。

偶然見かけて手に入れたアルバムでしたが、あまりに見事な演奏と時代の空気までも閉じ込めたような見事な録音に脱帽です。フライブルク音楽大学の教職にあったとはいえ、この完璧なアンサンブルはこれまでのどの録音よりも見事なもの。しかも弦楽器がこれほどまでによく響いた演奏も稀なものでしょう。ハイドンの有名弦楽四重奏曲2曲の決定盤としても良いでしょう。私は非常に気に入りました。ということで評価は両曲とも[+++++]といたします。

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tag : ひばり 皇帝 LP

【新着】キアロスクーロ四重奏団のOp.20後半(ハイドン)

話題盤の続編がリリースされましたので取り上げます。

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TOWER RECORDS / amazon / ローチケHMVicon

キアロスクーロ四重奏団(Chiaroscuro Quartet)の演奏で、ハイドンの弦楽四重奏曲Op.20のNo.4、No.5、No.6の3曲を収めたSACD。収録は2015年12月、ドイツはブレーメンの放送ホールでのセッション録音。レーベルはBIS。

以前取り上げたキアロスクーロ四重奏団のアルバムは、衝撃的な内容で、もちろん[+++++]としましたが、最終的に2016年にレビューした弦楽四重奏のアルバムで最も感銘を受けたアルバムとしてH. R. A. Award 2016に選定したことは、当ブログの読者の皆さんならご存知のことでしょう。これまでの伝統的な演奏とは全く異なるアプローチで、ハイドンのこの曲集の魅力を見事に浮かび上がらせました。

2016/12/31 : H. R. A. Award : H. R. A. Award 2016
2016/11/30 : Haydn Disk of the Month : Haydn Disk of the Month - November 2016
2016/11/23 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : 【新着】キアロスクーロ四重奏団のOp.20(ハイドン)

そのあたりのことは上のリンク先をご覧ください。

そのキアロスクーロ四重奏団が予想通り、Op.20の後半3曲をリリースしてきたということで、これは取り上げないわけには参りません。奏者などの情報については前半3曲の記事をご参照ください。

今日取り上げる録音は、前盤の10ヶ月後に同じ録音会場であるブレーメンの放送ホールでの録音ということで、録音を含めた環境は前盤とほぼ同一で、メンバーも前盤から変わりありません。

第1ヴァイオリン:アリーナ・イブラギモヴァ(Alina Ibragimova)
第2ヴァイオリン:パブロ・エルナン・ベネディ(Pablo Hernán Benedí)
ヴィオラ:エミリー・ヘルンルンド(Emilie Hörnlund)
チェロ:クレア・ティリオン(Claire Thirion)

Hob.III:34 String Quartet Op.20 No.4 [D] (1772)
前盤の最初の曲であるOp.20のNo.1を聴き始めた時と同じく、しなやかな演奏の中に何やらメラメラと青い炎のような前衛性が感じられる演奏。微妙な音量の変化とフレージングによって緊張感溢れる現代性が宿り、これまでの他の奏者の演奏とは一味違ったスリリングさに支配された音楽が流れます。特に音量を極端に落としたところの緊張感が最高。聴き進むうちにヴァイオリンのアリーナ・イブラギモヴァのキレ味鋭い音階が冴えてきます。まるでペルトの曲でも聴いているような雰囲気が漂いますが、紛れもなくこれはハイドンの音楽であり、現代風に料理した古典の名曲であることがわかります。予想通り冒頭からキレキレ。
続く2楽章も抑制された表現の中に緊張感をたたえた演奏が続きます。時折装飾音を交えながら変奏を重ね、徐々に徐々に音楽を膨らませていきます。瞬間瞬間の響きの現代性とメロディーラインのしなやかさが相まって独特の雰囲気。
メヌエットはガット弦らしいキレの良い響きが、無印良品のテナントで流れるBGMのようなブルガリア民謡風の響きを生み出します。このあたりのセンスは他のクァルテットの追随を許さないもの。
そして、フィナーレでようやくやりたい放題、緩急自在の賑やかさが聴かれました、まさにハイドンの書いた音楽の真髄に触れようと、音符を彼らなりにかなり自由に解釈して再構成。終盤、弦がはち切れんばかりの強奏でクライマックスを盛り上げます。この振り切れ方は尋常ではありません。相変わらず見事の一言。

Hob.III:35 String Quartet Op.20 No.5 [f] (1772)
短調の名曲。冒頭から独特のセンスが光ります。従来の演奏の影響を全く感じさせない個性的な入り。緊密に書かれたハイドンの音楽が現代風な装いを纏って光り輝きます。ここでもイブラギモヴァのボウイングが冴え渡ります。テンポやアクセントは独特ながらこの曲独特の推進力は健在。見事な演出に唸ります。この人たち、やはり只者ではありませんね。曲の大きなうねりを実に見事に表現していきながら、ディティールは非常に緻密。この表現は即興性を加えたものなのでしょうか。非常に緻密な設計が必要な演奏に聴こえますが、このスリリングさはライヴに近い緊張感から生まれるものと思われます。機会があれば是非実演を聴いてみたくなりました。こんこんと湧き出る創造力にノックアウト。
メヌエットはじっくり取り組んだ1楽章を際立たせるようにあえてさらりと入ります。サクサクと進めることで曲の構造がくっきりと浮かび上がります。この辺りのセンスが流石なところ。
そしてアダージョもメヌエットの延長のように一体感を感じさせる解釈。この楽章のメロディーの素朴な美しさを活かすためか、イヴラギモヴァは遊びまわるようにしなやかな弓使いで流れるようにメロディーを描いていきます。
フィナーレのフーガはバッハを思わせるような厳粛な雰囲気で始まりますが、あえて音程を微妙にずらして翳りを加え、まさにキアロスクーロといった表現でまとめてきます。

Hob.III:36 String Quartet Op.20 No.6 [A] (1772)
メロディーと戯れるハイドンの創意をそのまま演奏したような軽妙洒脱な入り。曲ごとに表現をまったく変えてくるあたりは、このクァルテットの表現力を物語ります。時折レガートを混ぜて変化をつけ、音量を落としてざわめくような気配を感じさせたかと思うと一転して伸びやかなボウイングで音階を刻みハッとさせるなど語り上手。さして起伏をつけているわけではないのにしっかりと表情がついてくるのが流石。
アダージョに入ると、テクニックを見せるという次元とは真逆に朗らかなメロディーの朗らかさに浸るような楽しみながらの演奏。お互いの音の出方を探りながらメロディーを重ねていく至福のアンサンブル。
この曲では入りも締めも実にデリケート。2楽章の消え入るような終わりから、メヌエットのあまりに繊細な響きの入り驚きます。なんと聞き進むとユーモラスさを強調するためか明らかに音程を外して遊びます。「迂闊者」のチューニングほどではありませんが、確信犯ですね(笑) ハイドンもこう来るとは思わなかったに違いありません。
そして最後のフーガでも抑制された表現の中に宇宙のような広がりを感じさせます。フーガが進むに連れて響きが鮮明になり、最後は幽玄さを感じさせるようにスッと終わります。いやいや素晴らしい創造力ですね。

キアロスクーロ四重奏団によるハイドンの弦楽四重奏曲Op.20の後半3曲をまとめたアルバムですが、予想に違わす、過去の演奏とは異なるアプローチでこの曲集の新たな姿を描き切りました。前盤と合わせて6曲のまとまりも良く、新たなスタンダード盤としても良いと思います。前盤での衝撃を体験しているぶん本盤は落ち着いて聴くことが出来ましたが、それでもこちらの想像力のさらに上をいく創造性に唸りっぱなし。評価は3曲とも[+++++]とします。

シリーズものの録音に執念を燃やすBISレーベルゆえ、このあともハイドンの録音が続きそうな気がしています。次はロシア四重奏曲でしょうか、、、

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tag : 弦楽四重奏曲Op.20

フランチスカス四重奏団のOp.2のNo3(ハイドン)

7月最初のレビューは弦楽四重奏の珍しいアルバム。

FranciscusQ2.jpg
TOWER RECORDS / amazon

フランチスカス四重奏団(Franciscus Quartet)による"Special Arrangements"というタイトルのアルバム。アストル・ピアソラ、ベートーヴェン、ショスタコーヴィチ、ドヴォルザーク、ルイス・ヒアネオ、シューベルトの曲に混ざってハイドンの弦楽四重奏曲Op.2のNo.3が収められています。ハイドン以外の曲目はTOWER RECORDSのリンク先をご参照ください。収録は2003年7月3日から4日、オランダのヒルフェルスム(Hilversum)のMCOスタジオでのセッション録音。レーベルはCHALLENGE CLASSICS。

ご記憶の方もいらっしゃるかもしれませんが、フランチスカス四重奏団の演奏は以前、SkunJPさんからの道場破り的投げかけ(笑)で記事にしたことがあります。一部で神格化された演奏との触れ込みで持ち込まれたアルバム。

2016/09/10 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : フランチスカス四重奏団の弦楽四重奏曲集(ハイドン)

その経緯についてはリンク先をご覧ください。今日取り上げるのはその時別の録音があるということで存在を知ったアルバムがようやく手に入ったので取り上げた次第。前出のアルバムは1998年の録音であるのに対し今日取り上げるアルバムは2003年とその5年後の録音。メンバーを調べてみると、第2ヴァイオリンとヴィオラは変わっていましたので、改めてメンバーを記載しておきましょう。

第1ヴァイオリン:ダイアナ・モリス(Diana Morris)
第2ヴァイオリン:パメラ・クービク(Pamela Kubik)
ヴィオラ:フランク・ブラッケー(Frank Brakkee)
チェロ:セバスチャン・ファン・エック(Sebastiaan van Eck)

気になるのはこのアルバムのタイトル。"Special Arrangements"とは、直訳すれば「特別な編曲」ということでしょう。解説によれば、もともと弦楽四重奏のために書かれたものではない曲が集められているとのこと。ハイドンの作品はもともと、2本のホルンと弦楽四重奏のために書かれたディヴェルティメント(Hob.II:21)であり、弦楽四重奏曲の中では録音は極端に少ないものです。ということでなかなか凝った企画のアルバムであることがわかります。

ハイドンの前にアストル・ピアソラ、ベートーヴェン、ショスタコーヴィチ、ドヴォルザークの曲が配されますが、これが皆なかなか良い。冒頭のピアソラも色彩感がありタンゴのリズムのような独特の感じがよく出ています。そして特にショスタコーヴィチのユーモラスな展開も見事。まるでクレーメルの企画のような選曲のキレ。ハイドンは8トラック目からです。

Hob.II:21(III:9) String Quartet Op.2 No.3 [E flat] (c.1760-62)
この曲はアレグロ-メヌエット-アダージョ-メヌエット-アレグロの5楽章構成です。周りに違う時代や地域の音楽が置かれることで、ハイドンという古典期の作曲家による美しいメロディーとキリッとした構成がハイドンだけ並べた時よりも引き立ちます。フランチスカス四重奏団はそれを意識させようとしてるのか、演奏はオーソドックスですが音色に明るさを帯びているので、古典の均整のとれた構造美が印象的。ヴァイオリンのダイアナ・モリスの弓使いはノビノビとして輝かしい音色。
続くメヌエットはリズムに溜めがあってまさにディヴェルティメント然とした音楽。素朴なリズムの面白さを散りばめた名曲ですね。演奏は肩肘張らず、前出のハイドンのアルバムが音色を揃えるのに集中していたのと比べると、こちらの方がいい感じ。
そしてアダージョもハイドンならではの美しいメロディーラインが聴きどころ。別に特別なことはしてないのですが、曲に潜む素朴さをうまく汲み取っての演奏が実にいい感じ。
後半のメヌエットはビチカートに誘い出されたヴァイオリンパートが遊びまわるような曲調。そのテーマを変奏で展開していきます。変奏のアイデアの豊富さはこの時代の曲にも見られ、各パートが自在に絡みながら進んでいきます。メロディーの彫り込みが深いのでシンプルな曲ながら飽きさせません。
そしていつもながら充実した筆致のフィナーレ。曲の終わりを華やかに締める短いフィナーレですが、実に楽しげな演奏がまさにディヴェルティメントらしい雰囲気を残します。素晴らしい演奏でした。

そのあとのルイス・ヒアネオの不思議な響きの曲がまたハイドンの曲の華やかな余韻をさっと拭い去って雰囲気を一変させます。選曲のセンスのキレはここでも感じられます。そして最後はシューベルトの有名な楽興の時。どの曲も実にいい演奏で、クァルテット好きな方の厳しい耳も十分楽しませる素晴らしい構成です。

フランチスカス四重奏団の企画ものでしたが、前出のアルバムの演奏とはかなり異なる実にくだけた楽しい演奏で、ハイドンの曲の面白さをきちんと踏まえた演奏。しかも非常に珍しい曲目を見事にこなす秀演。ハイドン以外の曲も全て素晴らしい出来なので、アルバムを通じて楽しめる構成です。これはオススメ。ハイドンの評価は[+++++]とします。

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tag : 弦楽四重奏曲Op.2

スミソン弦楽四重奏団のOp.9、Op.17(ハイドン)

1501記事目は先日コダーイ四重奏団のOp.9を激賞した記事を書いた際に、いつも含蓄に富みまくったコメントをいただくSkunJPさんからその存在を教えていただき入手したアルバム。ようやく手に入りました!

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スミソン弦楽四重奏団(Smithson String Quartet)の演奏による、ハイドンの弦楽四重奏曲Op.9のNo.4、Op.17のNo.3とNo.5の3曲を収めたアルバム。収録は1986年10月23日から25日にかけて、米国ワシントンD.C.のスミソニアン美術館レンリック・ギャラリー(Renwick Gallery of the Smithsonian American Art Museum)のグランド・サロンでのセッション録音。レーベルは優秀録音の多いDORIAN。

このアルバム、冒頭に書いたようにSkunJPさんから教えていただいたもの。このアルバムと同時に頼んで先についたOp.77とOp.103があまりに見事な出来だったので、そちらを先に記事にしてしまったもの。それも合わせて、このアルバムが3枚目のレビューとなります。

2017/06/13 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : スミソン弦楽四重奏団のOp.77/103(ハイドン)
2011/06/10 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : スミソン弦楽四重奏団のOp.54

スミソン弦楽四重奏団については、リンク先をご覧ください。録音年代はOp.54が1985年、Op.77が1988年、今日取り上げるアルバムが1986年ということで、集中した時期に録音されていることがわかります。したがって、このアルバムも前出2盤と同じメンバーでの録音ということになります。

第1ヴァイオリン:ヤープ・シュレーダー(Jaap Schröder)
第2ヴァイオリン:マリリン・マクドナルド(Marilyn McDnald)
ヴィオラ:ジャドソン・グリッフィン(Judson Griffin)
チェロ:ケネス・スロウィック(Kenneth Slowik)

まだ、Op.77とOp.103の名演の余韻が耳に残る中、早速聴きはじめます。

Hob.III:22 String Quartet Op.9 No.4 [d] (c.1769-70)
Op.20の前の目立たない存在の曲ですが、作曲年代は名作が並ぶシュトルム・ウント・ドラング期。しかも短調のグッと沈む曲想が見事な曲。前盤同様古楽器の木質系の響きの美しさは見事なもの。前盤がヴァイオリンのヤープ・シュレーダーがとりわけ目立っていたのに対し、この演奏では4人のバランスの良いアンサンブルで聴かせる演奏。しかもその一体感は絶妙なるレベルでこの曲の魅力をゆったりと描いていきます。たっぷりを墨を含んだ鮮やかな筆の運びでメロディーが活き活きと躍動するところは流石スミソンと唸ります。この時期はこのクァルテットにとっても絶頂期だったのでしょう。神がかったような妙技に冒頭から惹きつけられます。
続くメヌエットもしなやかなアンサンブルが仄暗い舞曲の魅力を存分に炙り出していきます。徐々にヤープ・シュレーダーの美音の存在感が増してきて、演奏の隈取りがキリリと明らかになってきます。素晴らしいのが中間部の音色を少しざらつかせた表現。艶やかな音色との対比で音楽の深みを増しています。このあたりの音楽の造りは絶妙。
そしてラルゴに入ると晴れやかな音楽の魅力が全開。糸を引くようにシュレーダーのヴァイオリンのメロディーが伸び伸びと躍動します。そしてすっと翳ったかと思うと、再び伸びやかに展開する妙技の連続。この曲の面白さを再認識させられます。他のパートもも音量を絶妙にコントロールしてヴァイオリンパートを引き立てます。終盤カデンツァのようなヴァイオリンのソロが印象的。
フィナーレはフーガのような展開からハイドンならではの複雑に絡み合う音楽。全パートのボウイングが冴えまくってここぞクライマックスという緊張感に包まれます。これほど緊密なこの曲のフィナーレは聴いたことがありません。予想通りとはいえ見事すぎる演奏にいきなりノックアウト。

Hob.III:27 String Quartet Op.17 No.3 [E flat] (1771)
いつもながらハイドンのアイデアというかメロディーの展開の見事さに驚きます。冒頭からメロディーラインの面白さに釘付け。特にクァルテットというジャンルはメロディーと各パートの絡み合う展開の面白さを純粋に味わえるため、この曲でも冒頭から全神経が曲の展開の面白さに集中します。もちろんスミソンの演奏は絶妙を通り越して神々しささえ漂うレベルなのは前曲同様。Op.17ももちろんシュトルム・ウント・ドラング期の作品。こうして聴くとOp.20と比較しても決して劣らない素晴らしい作品であることがわかります。この曲ではメンバーも演奏を存分に楽しんでいる様子が伝わります。それこそが音楽。溢れんばかりの楽しさに包まれます。
驚くのがメヌエットのメロディーの奇抜さ。奏者もハイドンのアイデアの冴えの素晴らしさを解して、微笑みながら演奏しているよう。創意に満ち溢れる音楽。これぞハイドンの音楽の真髄でしょう。
そしてアダージョのなんたる癒し。大海原にプカプカと浮かびなながらのんびりとする心境になったかと思うと切々と切り込んでくるヴァイオリンの美しいメロディーにうっとり。しかも間近で聴くライヴのような素晴らしい録音によってグイグイとこちらの心に浸透してきます。ヴァイオリン以外のパートも素晴らしい演奏で迫ってきます。絶品。
深い感動の淵から涼風に目覚めさせられたようなフィナーレの入り。軽やかな各パートのさえずりからはじまり、音色とダイナミクスがめくるめくように変化していく快感に浸れます。

Hob.III:29 String Quartet Op.17 No.5 [G] (1771)
Op.17の最後の曲。もうすぐそこに太陽四重奏曲があります。このアルバムに収められた3曲がどうして選ばれたかはわかりませんが、この3曲にはハイドンの音楽のエッセンスが全て含まれているような気がします。有名曲ではありませんが、ハイドンのアイデアと創意の豊富さと音楽の展開の独創性の面で突き抜けた魅力をもつ3曲のように感じます。ひばりや皇帝も素晴らしいですが、こうした曲にこそハイドンの音楽の真髄が詰まっていますね。この曲でもハイドンの斬新さに驚かせられ続けます。なんたるアイデア。なんたる展開。なんたる構成力。もう全てがキレキレ。そしてスミソンもキレキレ。ハイドンの時代の人々が聴いたら前衛音楽と聴こえたかもしれません。
この曲でも2楽章がメヌエット。ハイドンのアイデアの暴走は止まりません(笑) ユニークなメロディーを展開しながら曲としてまとめていく手腕の鮮やかさ。これぞ創意とハイドンがほくそ笑む姿が目に浮かびます。
そしてアダージョではグッと沈み、闇の深い黒色のグラデーョンの魅力で聴かせる音楽のような入り。そしてさっと光が射し、ゆったりとした音楽のほのかな輝きが、入りの闇の深さによって浮かび上がります。こうした表情の変化の面白さはスミソンの素晴らしい演奏だからこそ楽しめるもの。並みの演奏ではハイドンの音楽の真髄にはたどり着けません。
フィナーレはリズミカルな入りから意外にオーソドックスな展開に逆に驚きます。ここまでの3楽章のユニークさからするとちょっと意外でしたが、ハイドンの意図が聴くものを驚かせるような創意にあるとすれば、ユニークな曲の連続をオーソドックスなフィナーレで締めることこそハイドンの意図だったのかもしれません。最後はなんとフェードアウト! あまりに見事な展開にやられた感満点(笑) 曲の真髄に迫る素晴らしい演奏ゆえ、演奏ではなく曲自体を楽しめたということでしょう。

SkunJPさんに教えていただいたアルバムですが、やはりただのアルバムではありませんでした。このアルバムの中にハイドンの弦楽四重奏曲の真髄が全て詰まっています。Op.77とOp.103の方も曲の本質を突く素晴らしい演奏でしたが、こちらはさらに一歩、ハイドンの創意の源に迫る迫真の演奏。選曲、演奏、録音とも絶品。全ての人に聴いていただくべき名盤と断じます。もちろん評価は[+++++]といたします。

前記事でブログ開設1500記事となりましたが、実はこのアルバムのレビューとしてまとめる予定でした。ただ、聴き進むうちに、単独の記事としてまとめるべきアルバムだと思い別記事にした次第。その痕跡を前記事の写真に残したところ、すかさずSkunJPさんに気づかれてしまいました(笑) いやいや素晴らしいアルバムの情報をありがとうございました!

(追伸)
月末企画は次の記事です! 遅れてスミマセン!

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tag : 弦楽四重奏曲Op.9 弦楽四重奏曲Op.17 古楽器

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なぜかハイドン(Franz Joseph Haydn)が特に気に入り膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。東京在住のごく普通のサラリーマンです。

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2017年7月のデータ(2017年7月31日)
登録曲数:1,361曲 登録演奏数:10,291
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