【新着】モリッツ・エルンストのピアノソナタ全集第1巻(ハイドン)

久々にCDに戻ります。ちょっと気になっていたアルバムが到着しました。

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モリッツ・エルンスト(Moritz Ernst)のピアノによる、ハイドンのピアノソナタ全集の第1巻で、6曲のソナタ(Hob.XVI:7、XVI:8、XVI:35、XVI:36、XVI:37、XVI:49)が収められたアルバム。収録は2015年、バイロイトにあるピアノメーカー、シュタイングレーバー&ゼーネ社(Steingraeber & Söhne)の室内楽ホールでのセッション録音。レーベルはPerfect Noiseという不思議な名前のレーベル。

最近リリースされたこのアルバム。タイトルにJoseph Haydn Complete Sonatas Vol.1との記載があり、気になっていたもの。ピアニストもレーベルも全く未知のものでしたので、まずは当ブログが取り上げないわけにはいかないとのことで注文を入れていたもの。到着して手に取ってみると、まずは未知のレーベルながらなかなかセンスのいい造りで一安心。ライナーノーツに目をやると、ドイツのワーグナーの聖地バイロイトにあるピアノメーカーのシュタイングレーバー&ゼーネ社のピアノでの録音とのこと。ハイドンのソナタの録音はスタインウェイが多いのはもちろん、ウィーンのベーゼンドルファーによるものや、最近ではジャン=エフラム・バヴゼが日本のヤマハで全集の録音を進めています。変わったところでは、アンジェラ・ヒューイットがイタリアのファツィオーリを弾いて録音を残しています。が、このアルバムで弾かれているシュタイングレーバーは初めて聴くもの。ピアノの楽器に詳しいわけではありませんが、ちょっと珍しい選択でしょう。気になったのでシュタイングレーバーについてちょっと調べてみました。

Steingraeber & Söhne(日本語)

メーカーのウェブサイトには日本語のページも用意され、リンクされているPDFにもちょっと怪しげな訳ではありますが日本語の解説がつけられています。創立は1852年とハイドンが生きていた時代で、シュタイングレーバー家による家族経営の小規模なピアノメーカーのようですが、リリースされているモデルは多岐にわたり、有名なピアニストにも愛用者がいるようです。このアルバムでもハイドンのソナタ全集を録音するにあたり、このピアノを選んだ理由はライナーノーツにも記載されていませんので、音色で確認するしかないでしょう。

奏者のモリッツ・エルンストは1986年、ドイツの押すとヴェストファーレン地方で生まれたピアニスト、チェンバリストでヨーロッパでは広く活躍している人のよう。特に現代音楽を中心に活動してきたようで、これまでにリリースされたアルバムは現代ものが多いですね。

Moritz Ernst

このアルバム、ハイドンのピアノソナタ全集を標榜するだけあって選曲もなかなか考えられています。初期のソナタ、中期のソナタ、晩年のソナタをうまく配置した選曲。さて、肝心の演奏、そしてシュタイングレーバーによる響きは如何なものでしょう。

Hob.XVI:7 Piano Sonata No.2 [C] (before 1760)
比較的狭い空間で残響共々とらえた録音。少し遠くにピアノが位置するワンポイント録音のような感じ。もちろん現代ピアノなんですが、ちょっと古めかしい印象もある独特の音色。これがハイドンのソナタに合いますね。最初は非常に短い曲ですが、エルンストの演奏はかなり客観的に主情を廃した演奏。演奏のスタンスとしてはオルベルツに近いかもしれません。現代音楽を得意としているだけにタッチは正確で、初期のハイドンのソナタをまるで慣らし運転のようにさらりとこなします。

Hob.XVI:8 Piano Sonata No.1 [G] (before 1760)
中音域の独特の音色がシュタイングレーバーの特徴でしょうか。この曲でもさらりとしたタッチでハイドンの諧謔的なフレーズを冷静に展開していきます。まるで練習曲をさらりとこなすようなスタンスのエルンスト。この初期の曲にはこのようようなスタンスがふさわしいのでしょう。少し表現が踏み込んでくるのが2楽章のメヌエット以降。メヌエットからアンダンテの穏やかな表情への変化はなかなかのもの。そして転がるような終楽章へ。ハイドンの音楽に潜む機知をしっかりと汲みとります。

Hob.XVI:35 Piano Sonata No.48 [C] (c.1780)
中期のソナタに入ります。速いパッセージの入りはスタインウェイでの華麗な響きに慣れていますが、このシュタイングレーバーの家庭的な響きで聴くと、ソナタ自体が身近な存在に聞こえます。もちろんエルンストの指は軽やかに回り少しの破綻も見せません。それどころ左手のアクセントの力強さはかなりのもの。なんとなくもう少し聴きどころを作った方が良さそうとは思いながらも、さらりとしたタッチで押し通します。2楽章に入ると少しくつろぎながらくっきりとメロディーラインを浮かび上がらせ、音楽の琴線に触れるようになります。全集を一定の水準で統一感を持たせようとしている中での、しっかりと盛り上げる聴きどころも必要ですね。エルンストの手の内がだんだんわかってきました。フィナーレはまたさらりとこなします。ハイドンの演奏に必要な軽さをしっかりと表現できています。

Hob.XVI:36 Piano Sonata No.49 [c sharp] (before 1780)
あえて少しリズムを重くしたのでしょう。ゴリっとした感触の印象的な入りはなかなかの迫力。基本的に一定のスタンスによる安定した演奏ながら、曲ごとに少しづつ表情をつけてきます。さっと音量を落とした直後のアクセントなどエルンストならではの個性的な表現もちりばめます。この曲ではリズムもテンポも自在に操ることで曲の面白さをうまく引き出しています。2楽章のスケルツァンドも自在なタッチでハイドン独特のメロディーをアクロバティックに再構成。そして短調のメヌエットもどこか冷静な視点でさらりとこなします。この冷静さはどこかに現代音楽の演奏に通じる視点を持っているよう。

Hob.XVI:37 Piano Sonata No.50 [D] (c.1780)
聴き慣れた曲ですが、ピアノの音色が異なるのと、エルンスト流のクールさ、現代性で新鮮な響きを作っています。ここにきてリズムもタッチも少しづつ思い切った表現が見られるようになってきます。これがちょっとハイドンのソナタとしては前衛的でもあり、ちょっとバランスに欠ける印象にもつながります。ここがハイドンの難しいところ。
聴きどころのドラマティックな2楽章。1楽章の演奏で少し外れ感があったんですが、2楽章に入るとこれが実に素晴らしい演奏に変わります。1楽章の先走り感はどこへやら。しっとりと落ち着いた音楽が流れます。そしてフィナーレも落ち着きを保ちながら多彩なタッチでまとめます。

Hob.XVI:49 Piano Sonata No.59 [E flat] (1789/90)
最後はハイドン晩年の傑作ソナタ。多くの名演奏がひしめく曲。ここまで聴いてきて、シュタイングレーバーのピアノは、少々古風な音色の面白さがある一方、複数の音が鳴った時のハーモニーの美しさに少々難ありだということがわかりました。この最後のソナタでもメロディーラインのタッチの面白さが浮かび上がる一方、ハーモニーのが単音的に聴こえるのが曲の印象を左右していますね。現代ピアノでのハイドンのソナタの豊かな響きよりも音色はピアノながらフォルテピアノに近い一音一音の存在感が特徴になるでしょうか。エルンストの冷静なタッチもそう感じさせている一因かもしれませんね。この曲では表現は今までの曲同様多彩なんですが、曲に込めらた心情のようなものよりもタッチの変化のようなものに気を取られ、表現がちょっと表面的な印象につながっています。
アダージョでは前曲同様、エルンストの現代的ながら自在な表現がマッチして曲の深みを感じさせます。そしてフィナーレはさっぱりとした表情で弾き抜けます。

ハイドンのピアノソナタ全集を意図するモリッツ・エルンストの演奏ですが、曲から一定の距離をおいて客観的な視点で曲を捉えた演奏で、使用しているシュタイングレーバーという楽器の響きもあって、さらりとした表情の印象が強く残る演奏でした。楽器の選択はハイドンの時代の響きに対するイメージを優先させたものだと思いますが、悪くはありません。この演奏の印象はやはりモリッツ・エルンストのタッチにあり、独特の現代的感覚がそのような印象を残していると思われます。これからハイドンのソナタ全集を残すという一大プロジェクトに挑むということで、今後の演奏に注目したいと思います。評価は全曲[++++]とします。

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ジャン=クロード・ぺヌティエのピアノソナタ集旧録音(ハイドン)

またまたお宝盤発掘! どうしてもLPにいってしまいます。

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ジャン=クロード・ぺヌティエ(Jean-Claude Pennetier)のピアノによるハイドンのピアノソナタ3曲(Hob.XVI:34、XVI:48、XVI:49)を収めたLP。収録は1984年10月、南仏マルセイユの北にあるソーヴァン城(Château de Sauvan)でのセッション録音。レーベルはharmonia mundi FRANCE。

ぺヌティエのハイドンのソナタの録音は以前に取り上げていますし、ラ・フォル・ジュルネで実演も聴いています。

2015/05/04 : コンサートレポート : ジャン=クロード・ペヌティエの「十字架上のキリストの最後の七つの言葉」(ラ・フォル・ジュルネ)
2010/11/24 : ハイドン–ピアノソナタ : ジャン=クロード・ペヌティエのピアノソナタ集

以前取り上げたピアノソナタ集のCDは曲はXVI:50、51、52などで、録音は1999年から2000年にかけて。今日取り上げるアルバムの録音はその約15年前の1984年の録音で、曲はXVI:34、48、49とCDとは重なっておらず、ハイドンのピアノソナタの晩年の名曲を網羅する形になっています。CDというメディアが世の中に出回ったのが1982年ということでこのLPはその直後の録音ということになります。ネットで調べてみた限りではこの録音がCD化された形跡もなく、知る人ぞ知る存在でしょう。

針を落としてみると、驚くほど瑞々しい響き。ジャケットにはピアノはベーゼンドルファーを使っていると書かれています。気になってCDの方をチェックしてみるとこちらはスタインウェイ。CDも非常に響きに美しい録音でしたが、このLPにはベーゼンドルファーの豊穣な響きが最上の形で記録されています。

Hob.XVI:34 Piano Sonata No.53 [e] (c.1782)
少し遠くに残響を伴って定位するピアノ。LPのコンディションは最高で響きの美しさが際立ちます。ぺヌティエの強力な左手のアクセントがメリハリをつけながらの流麗なタッチ。後年の悟ったような表情は見せず、曲の淀みない流れの美しさに焦点を当てた演奏。1楽章はあっという間に流れていきます。1楽章の演奏から想像できましたが、続くアダージョは自然なデュナーミクの美しさが極まる絶美の演奏。ぺヌティエの自在なタッチの魅力にとろけそう。そしてフィナーレも自然な表情の美しさを保ったまま、流れるようなタッチでどこにもストレスを感じさせない演奏。ピアノの純粋無垢な響きの美しさが楽しめます。時折り響きをざらりと分解するような表現でハッとさせるのも効果満点。最後にクライマックスを持ってくるあたりのマナーもオーソドックスでいいですね。

Hob.XVI:48 Piano Sonata No.58 [C] (1787/9)
続くソナタも響きの美しさと流れの良さは変わらず。しかも一音一音の表情が実に豊かで、ハイドンのピアノソナタのオーソドックスな演奏の最上の姿と言っていいでしょう。特に低音の余裕のある図太い響きの魅力はLPならでは。ちょっと強面のぺヌティエのぶっとい指からこれほどの詩情が立ち上るとは。タッチに余裕があるからこそコントロールできる柔らかさということでしょう。まさに夢見心地で響きに酔います。ゆったりとした雰囲気をさらりとかわすかのようにそよ風のような優しさて、驚くほど流麗なタッチで2楽章に入ります。テンポはかなり速めにもかかわらず、まるで魔法のように鮮やかなタッチで弾き進めます。若きぺヌティエの驚くべきテクニック。タッチの冴えをここぞとばかりに聴かせますが、驚くほど自然に響くところに凄みを感じさせます。これは凄い!

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Hob.XVI:49 Piano Sonata No.59 [E flat] (1789/90)
LPをひっくり返して最後のソナタ。片面に1曲ゆったりとカッティングされているため響きにも余裕があります。この曲はリズムとメロディーの面白さを融合したハイドンの見事な筆致を楽しめる曲。ぺヌティエの自然なタッチは変わらず、左手の図太いアクセントと流麗な右手のパッセージが乱舞する絶妙な演奏。スタインウェイよりも内声部が豊かに響くように感じるためか、非常に豊穣に響きわたります。フレーズ毎の表情ではなく流れるように表情を変えていくことでメロディーの自然なつながりの面白さが浮かび上がります。2楽章は前2曲同様自然な詩情の美しさが沁みます。もう少し表情が濃いとロマン派の曲のように聴こえてしまう寸前のバランス感覚。大きな波のようにうねる曲想をしっかりと捉えてゆったりと盛り上げます。宝石のように磨き抜かれた響きに三度うっとり。この曲はフィナーレがメヌエット。最後まで落ち着き払ったぺヌティエの見事なコントロールで、ハイドンの機知に溢れたソナタを一貫してロマンティックな姿に仕立て上げてきました。この曲も最後の一音を轟かせて終了。

ジャン=クロード・ぺヌティエの1984年に録音されたハイドンのピアノソナタ集。ベーゼンドルファーの豊かな響きを活かした秀逸な録音によって若きぺヌティエがハイドンを流麗にまとめた演奏。後年の録音では枯れたところも聴かせましたが、このころのぺヌティエの演奏はタッチの鮮やかさも、バランスよくまとめる力も後年よりも上と聴きました。この3曲は絶品の出来と言っていいでしょう。評価はもちろん3曲とも[+++++]とします。LPの再生環境がある方、見かけたら即ゲットをオススメします!

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アレクサンドル・スロボジャニクのXVI:48(ハイドン)

またしてもLPです。

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アレクサンドル・スロボジャニク(Alexander Slobodyanik)のピアノによる、ハイドンのピアノソナタ(Hob.XVI:48)、ショパンのマズルカから4曲(No.19、20、21、42)、プロコフィエフのピアノソナタNo.6(Op.82)の6曲を収めたLP。残念ながら録音年に関する記載はなく、またネットを調べても判明しませんでした。LPの状態などから1970年代の録音かなと想像しています。レーベルは露Мелодия(Melodiya) 。

こちらは最近オークションで手に入れたもの。見たことも聞いたこともない奏者のアルバムを手に入れるのは実にスリリングで楽しいものですね。このアルバムの奏者のアレクサンドル・スロボジャニクもそうした奏者で、これまで全く知らなかった人。Wikipediaなどによれば、1941年、現ウクライナ、旧ソ連のキエフ生まれのピアニスト。アルバムの解説では1942年生まれとありますが、どちらが正しいかはちょっとわかりません。7歳でウクライナの西端、ポーランド国境近くにあるリヴィウ(Lvov)にあるリヴィウ音楽院でピアノを学び、その後モスクワ音楽学校でリヒテルの師でもあるゲンリフ・ネイガウスに学び、またモスクワ音楽院でヴェラ・ゴルノスタエヴァに師事しました。1966年に開催されたチャイコフスキー国際コンクールのピアノ部門で4位に入るなどして国際的に名が知られるようになり、以来50年にわたってピアニストとして活躍したそう。1968年にアメリカにデビューツアーを行い、カーネギーホルでのコンサートが評判となり、米ソの文化交流が途絶える1979年までアメリカ、カナダツアーを繰り返していました。9年間のブランクの後、1988年のアメリカツアーはシカゴ・トリビューン紙から「勝利の帰還」と称賛されました。以後欧米の主要なオケとの共演するなど国際的に活躍し、亡くなったのは2008年とのこと。欧米での活躍に比べ日本での知名度は今ひとつだったのでしょう。

このスロボジャニクの弾くハイドン、これがなかなか凄みを感じさせる演奏なんですね。

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Hob.XVI:48 Piano Sonata No.58 [C] (1787/9)
適度に残響が含まれる澄んだピアノの響きの美しさが感じられる録音。冒頭からデリケートなタッチで豊かな詩情を醸し出す演奏。それでいて徐々に直裁なタッチも垣間見せ、霊気を帯びたような独特の雰囲気にただならぬ迫力を感じます。スロボジャニクの特徴はこの雰囲気のある直裁なタッチでしょう。1楽章はしなやかな静寂感と強奏部分の力強さとを織り交ぜ聴かせたりと表現の幅の大きさを印象付けます。この曲は2楽章構成。続くプレストへの入りは微風のような爽やかさを感じさせる絶妙なもの。軽やかなタッチでコミカルなメロディーを刻み徐々に強音を織り交ぜていくタッチの鮮やかさは流石なところ。短い楽章ですが聴きごたえ十分。この小曲でも冷静に起伏をつけながらこれだけの表現の変化を聴かせる手腕は見事でした。

続くショパンのマズルカはちょっと録音の印象が変わってハイドンの方が鮮度が高く音がいいですね。スロボジャニクの演奏はハイドンと同様の傾向を感じますが、ショパンとしてはかなり辛口の演奏でしょう。そして裏面のプロコフィエフも録音はショパンと同様。スロボジャニクの冴え冴えとしたタッチの魅力と迫力にはこの曲が一番合うでしょう。音が飛び散るようなプロコフィエフ独特の雰囲気を見事に表現しています。このアルバムの聴きどころはハイドンと並んでこのプロコフィエフでしょうね。

このハイドンの演奏で思い起こしたのは若い頃のグールドのキレ。もちろんグールドの強烈な個性とは比べられませんが、変幻自在のタッチのコントロールとその鮮やか、そして主情を排した冷徹な雰囲気はグールドに近い凄みを感じます。また硬めのピアノの音色もそう思わせるのでしょうね。現在入手できる音源は少ないものの、この見事な演奏から往時の凄みは感じることができました。ハイドンの評価は[+++++]といたします。

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tag : ピアノソナタXVI:48 LP

【新着】フランチェスコ・コルティのソナタ集(ハイドン)

今日はハープシコードによるソナタ集。

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フランチェスコ・コルティ(Francesco Corti)のハープシコードによる、ハイドンのファンタジア(XVII:4)、ピアノソナタ(XVI:37、XVI:31、XVI:32、XVI:46、XVI:26)、カプリッチョ「8人のヘボ仕立屋に違いない」(XVII:1)の7曲を収めたアルバム。収録はパリのピエール・マルボスというピアノ販売店の4'33ホールでのセッション録音。レーベルは初めて手に入れるevidenceというレーベル。

フランチェスコ・コルティという人は初めて聴く人。調べてみると、何と今週近所で行われる調布音楽祭に来日するとのこと。いつものように略歴をさらっておきましょう。イタリアのフィレンツェの東南にあるアレッツォで1984年に生まれ、ペルージャでオルガン、ジュネーブとアムステルダムでハープシコードを学びました。2006年ライプツィヒで開催されたヨハン・セバスチャン・バッハ・コンクール、2007年に開催されたブリュージュ・ハープシコード・コンクールで入賞しているとのこと。2007年からはマルク・ミンコフスキ率いるレ・ミュジシャン・ドゥ・ルーヴルのメンバーとして活躍している他、主要な古楽器オケとも多数共演しているそうで、ハープシコード界の若手の注目株といったところでしょうか。

Hob.XVII:4 Fantasia (Capriccio) op.58 [C] (1789)
速めのテンポでハープシコード特有の雅な音色が響き渡ります。使っている楽器はDavid Ley作製の1739年製のJ. H. Gräbnerと記載されています。録音は割と近めにハープシコードが定位するワンポイントマイク的なもので、ハープシコードの雅な響きを堪能できる録音。約6分ほどの小曲ですが、ハープシコードで聴くとメロディーラインが全体の響きの中に調和しつつもくっきりと浮かび上がり、この曲の交錯するメロディーラインの面白さが活きます。しかも速めにキリリと引き締まった表情がそれをさらに強調するよう。最後に音色を変えるところのセンスも出色。普段ピアノやフォルテピアノで聴くことが多い曲ですが、ハープシコードによる演奏、それもキレキレの演奏によってこの曲のこれまでと違った魅力を知った次第。

Hob.XVI:37 Piano Sonata No.50 [D] (c.1780)
軽快なテンポは変わらずですが、今度は所々でテンポをかなり自在に動かしてきます。また、休符の使い方も印象的。ちょっとした間を効果的に配置して、ソナタになると少し個性を主張してきます。速いパッセージのキレの良さは変わらず、ハープシコードという楽器につきまとう音量の変化の幅の制限を、テンポと間の配置で十分解決できるという主張でしょうか。次々と繰り出される実に多彩なアイデアに驚くばかり。ピアノとは異なる聴かせどころのツボを押さえてますね。驚くのが続く2楽章。予想に反してグッとテンポを落とし、一音一音を分解してドラマティックに変化します。ハープシコードでここまでメリハリをつけてくるとは思いませんでした。そしてフィナーレでは軽快さが戻り、見事な対比に唸ります。フィナーレもハイドンの機知を上手く汲み取ってアイデア満載。見事なまとめ方です。

Hob.XVI:31 Piano Sonata No.46 [E] (1776 or before)
冒頭のメロディーのハープシコードによるクリアな響きが印象的。この曲では落ち着いた入り。一音一音のタッチをかみしめるように弾いて行きながら、徐々にタッチが軽くなっていく様子が実に見事。曲想に合わせて自在にタッチを切り替えながら音楽を紡いでいきます。瞬間瞬間の響きに鋭敏に反応しているのがわかります。ここでも印象的な間の取り方で曲にメリハリがしっかりとつきます。アレグレットの2楽章は壮麗な曲の構造を見事に表現、そしてフィナーレではハープシコードの音色を生かしたリズミカルな喧騒感と楽章に合わせた表現が秀逸でした。

Hob.XVI:32 Piano Sonata No.47 [b] (1776 or before)
ピアノでの演奏が耳に残る曲で、低音の動きの面白さが聴きどころの曲ですが、コルティのハープシコードで聴くと、新鮮な響きでその記憶が刷新されるよう。ハイドンはハープシコードの華やかな響きも考慮して作曲したのでしょうか。古楽器では迫力不足に聴こえる演奏も少なくない中、そういった印象は皆無。むしろキレのいいタッチの爽快感が上回ります。続くメヌエットでは調が変わることによる気配の変化が印象的に表現されます。ピアノではここまで変化が目立ちません。そして短調のフィナーレは目眩くような爆速音階が聴きどころ。コルティ、テクニックも素晴らしいものを持っていますね。最後の一音の余韻に魂が漲ります。

Hob.XVI:46 Piano Sonata No.31 [A flat] (1767/70)
初期のお気に入りの曲。壮麗な1楽章、この曲が持つ静かな深みのような不思議な気配を見事に捉えたタッチに引き込まれます。メロディ中心の穏やかな曲想だけに、落ち着いたタッチで穏やかに変化する曲想をじっくり楽しむことができます。やはり曲想に応じて巧みにタッチをコントールしており、その辺りの音楽性がハイドンの真髄を捉えているのでしょう。特に高音のメロディの研ぎ澄まされた美しさを聴かせどころで披露するあたりも見事。そして、アダージョではさらに洗練度が上がり、響の美しさは息を呑むほど。このアルバム一番の聴きどころでしょう。微視的にならずに曲全体を見渡した表現に唸ります。比較的長い1楽章と2楽章をこれだけしっかり聴かせるのはなかなかのものですね。そしてそれを受けたフィナーレは爽快さだけではなく、前楽章の重みを受けてしっかりとしたタッチで応じ、最後に壮麗な伽藍を見せて終わります。

Hob.XVI:26 Piano Sonata No.41 [A] (1773)
ソナタの最後はリズムの面白さが際立つハイドンらしい曲。コルティは機知を汲み取り、リズムの変化を楽しむかのようにスロットルを自在にコントロールしていきます。そして明るさと陰りが微妙に入れ替わるところのデリケートなコントロールも見事。途中ブランデンブルク協奏曲5番の間奏のようなところも出てきますが、これぞハープシコードでの演奏が活きるところ。曲が進むにつれて繰り出されるアイデアの数々。コルティの多彩な表現力に舌を巻きます。メヌエットは端正なタッチで入りますが、終盤音色を変えてびっくりさせ、非常に短いフィナーレではさらに鮮やか。

Hob.XVII:1 Capriccio "Acht Sauschneider müssen sein" 「8人のへぼ仕立屋に違いない」 [G] (1765)
最後はユーモラスなテーマの変奏曲。この曲を最後に持ってくるあたりにコルティのユーモアを感じざるを得ません。ハープシコードでの演奏に適したソナタ数曲のまとめに、軽い曲を楽しげに演奏するあたり、かなりハイドンの曲を研究しているはずですね。もちろん演奏の方はソナタ同様素晴らしいものですが、力を抜いて楽しんでいる分、こちらもリラックスして聴くことができます。まるでソナタ5曲をおなかいっぱい味わった後のデザートのよう。聴き進むとデザートも本格的なものでした! 最後はびっくりするような奇怪な音が混じるあたりにコルティの遊び心とサービス精神を味わいました。

久々に聴いたハープシコードによるソナタ集。まるで眼前でハープシコードを演奏しているようなリアルな録音を通してフランチェスコ・コルティの見事な演奏を存分に楽しめました。これは名盤ですね。評価は全曲[+++++]とします。調べてみると、これまでにも色々とアルバムをリリースしているようですので、私が知らなかっただけだと思いますが、若手の実力派と言っていいでしょう。コルティのウェブサイトにもリンクしておきましょう。

Francesco Corti

これは是非実演を聴いてみたいところですが、折角近所で行われる調布音楽祭にコルティが出演する6月14日も17日もあいにく都合がつきません。次回の来日を期待するとしましょう。

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フランツペーター・ゲーベルスのソナタ集(ハイドン)

ちょっと間が空いてしまいました。今日は最近オークションで手に入れたLP。

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フランツペーター・ゲーベルス(Franzpeter Goebels)のフォルテピアノによるハイドンのピアノソナタ(Hob.XVI:6)、カプリッチョ「8人のへぼ仕立屋に違いない」(XVII:1)、ピアノソナタ(XVI:48)、アンダンテと変奏曲(XVII:6)の4曲を収めたLP。収録は1981年10月、ハイデルベルクの音楽スタジオとフランクフルトのフェステブルク教会でのセッション録音。レーベルはmusicaphon。

なんとなくスッキリとしたデザインのLPジャケットに惹かれて手に入れたもの。いつものようにLPをVPIのレコードクリーナーと必殺超音波極細毛美顔ブラシで丁寧にクリーニングして針を落としてみると、ジャケットのデザインのイメージそのままのスッキリとした響きが流れ出します。律儀な普通の演奏にも聴こえますが、何度か聴くうちに実に深い演奏であることがわかり取り上げた次第。

奏者のフランツペーター・ゲーベルスは1920年、ドイツ東部のミュールハイム(Mülheim an der Ruhl)に生まれたピアニスト、フォルテピアノ奏者、教育者。修道院のオルガン奏者の父を持ち、ピアノを学ぶ他、音楽学、文学、哲学などを学びました。1940年からはドイツ放送(Deutschlandsender)のソロピアニストととして活躍しましたが、兵役に徴収されたのち収監されました。戦後はデュッセルドルフのロベルト・シューマン音楽院で教鞭をとるようになり、1958年からはデトモルトの北西ドイツ音楽アカデミーでピアノとハープシコード科の教授を1982年の定年まで勤めたそう。亡くなったのはデトモルトで1988年とのこと。ほぼ教職の人ということで、あまり知られた存在ではありませんが、演奏はまさに教育者の演奏と感じられる手堅さに溢れています。

Hob.XVI:6 Piano Sonata No.13 [G] (before 1760)
鮮明に録られたフォルテピアノの響き。LPならではのダイレクトな響きによってフォルテピアノを眼前で弾いているようなリアリティ。一定の手堅いテンポでの演奏ながら、硬めの音と柔らかめな音を巧みに組み合わせて表情を変化させていきます。純粋に内声部のハーモニーの美しさが実に心地良い。素直な演奏によってフォルテピアノの木質系の胴の響きの余韻と曲の美しさが際立ちます。
続くメヌエットは左手の音階を短く切ってアクセントをつけます。ちょっと音量を落としたところの響きの美しさが印象的。高音の典雅な響きも手伝って、リズミカルな中にも優雅な雰囲気が加わります。実に素朴なタッチからニュアンス豊かな響きが生まれます。鍵盤から弦を響かせるフリクションの範囲での穏当な表現ですが、この音色の変化は見事。妙に沁みる演奏です。
そしてこの曲で最も美しいアダージョ楽章。ピアノの澄んだ響きとは異なり、微妙に音程が干渉するようなフォルテピアノ独特の音色が味わい深い響きを生んでいきます。楽器と訥々と会話するような孤高の響きの連続に心が安らぎます。
フィナーレは軽すぎず、穏当な表現が心地良いですね。しっかりと音を響かせながら決して焦らず、一音一音をしっかり響かせての演奏。さりげない終わり方もいいセンス。

Hob.XVII:1 Capriccio "Acht Sauschneider müssen sein" 「8人のへぼ仕立屋に違いない」 [G] (1765)
ユニークなメロディーを変奏で重ねていく7分弱の曲。今度は音色をあまり変えることなく、ちょっとギクシャクした印象を伴いながらもフレーズごとのメリハリをつけながら弾き進めていきます。変奏の一つ一つを浮かび上がらせるというよりは、渾然一体となったメロディーを訥々と弾いていく感じ。終盤はバッハのような印象まで感じさせて、これはこれで面白いですね。

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Hob.XVI:48 Piano Sonata No.58 [C] (1787/9)
LPをひっくり返して再びソナタに戻ります。晩年の傑作ソナタの一つ。今度は間をしっかりとっての演奏。ソナタによってしっかり演奏スタイルを変えてきますが、それでもすっきりとしたゲーベルスのタッチの特徴は残しています。ソリストというよりは教育者としての演奏といえば雰囲気が伝わるでしょうか。かといって教科書的な厳格さではなく、抑えた表現の深みと円熟を感じるすっきりさ。やはりLPならではの響きの美しさが最大の魅力となる演奏ですね。眼前でフォルテピアノが鳴り響く快感。
2楽章のロンド、3楽章のプレストとも落ち着いたタッチからジワリと音楽が流れ出します。噛みしめるような音楽。フォルテピアノをしっかりと鳴らし切った演奏に不思議に惹きつけられます。

Hob.XVII:6 Andante con Variazioni op.83 [f] (1793)
最後は名曲。予想通り、さりげなく入り淡々とした演奏です。まさにハイドンの書いた音楽自身に語らせようとする自然体の演奏。この曲はそうした演奏スタイルが最も曲の良さが映えますね。流石に変奏の一つ一つの扱いは丁寧で、フレーズごとに素朴な詩情が立ち上り、曲の美しさが際立っていきます。まさにいぶし銀の演奏。A面の変奏曲とは扱いが全く異なります。このアルバムの演奏の中では最も音色とダイナミクスの変化をつけた演奏で、変奏毎の表情の変化の多彩さが印象的。最後までフォルテピアノの美しい音色による演奏を堪能できました。

実はこのアルバム、前記事を書いてからほぼ毎日、なんとなく針を落として聴いていました。最近仕事の帰りが遅いので、聴いているうちに寝てしまうのですが、最初はただのさりげない演奏のように聴こえていたものが、だんだんと深みを感じるようになり、特に音色の美しさが非常に印象に残るようになりました。ということで、私にしては珍らしく聴き込んだ上で取り上げたものですが、書いた通り、実に良い演奏です。フランツペーター・ゲーベルスという人の演奏は初めて聴きますが、なかなか含蓄のある演奏で、流石に教育者という演奏。どう表現しようかというスタンスではなく、曲の真髄に迫る演奏スタイルを地道に探求するようなスタンスですね。私は非常に気に入りましたので、評価は全曲[+++++]とします。

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【新着】カロリーネ・フィッシャーのピアノソナタXVI:39(ハイドン)

色々発注したついでに買ったアルバムです。

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カロリーネ・フィッシャー(Caroline Fischer)のピアノによるハイドンのピアノソナタ(Hob.XVI:39)の他、ベートーヴェン、ウェーバー、ショパン、リスト、サン=サーンス、モシュコフスキ、リャプノフのピアノ小品を集めたアルバム。収録は2016年5月5日、6日、9日、ライプツィヒ・ゲヴァントハウスのメンデルスゾーンホールでのセッション録音。レーベルはライプツィヒのGENUIN。

奏者のカロリーネ・フィッシャーは1982年にベルリンで生まれたピアニスト。ドイツと韓国のハーフのようで、アジア系の美形ピアニストですね。ベルリンのハンス・アイスラー音楽アカデミー、マンハイム、ジュネーブ、オスロ、ハンブルクで学び、その後多くのコンクールに入賞して頭角を現しました。これまで欧米やアジアの主要なホールで演奏しているとのこと。ネットを検索してみると2012年に東京のドイツ文化センターでコンサートを行ったようですね。

このアルバム、もちろんハイドンのソナタが含まれていることから入手したものですが、ちょっとアイドル系のアルバムの造りゆえ、さして期待せずに注文しました。アルバムタイトルは" Pearls of Classical Music"とあり「クラシック音楽の宝物」とでも訳すのでしょう。ハイドンから近代までの作曲家の小品を集めた構成。気になるのはアルバムにメルセデス=ベンツのロゴが記されており、メルセデスがサポートしているのでしょう。やはりそれなりの才能がなければサポートすることはないでしょうから、ちょっと期待が上がって、聴き始めました。

Hob.XVI:39 Piano Sonata No.52 [G] (1780)
非常にクリアで爽やかなピアノの響き。特段個性的な演奏ではありませんが非常に上質感を感じる演奏。なんとなくメルセデスがサポートする理由がわかります。キラキラと輝くように音階が輝き、小気味好いタッチのキレも感じさせます。これがハイドンのソナタに実によくマッチしていて、アーティスティックというよりは洗練されたハイドンのソナタに聴こえます。小綺麗と片付ける演奏ではなく、非常にバランス感覚に優れた見事な演奏です。このような爽やかさを感じるのは珍しいこと。
聴きどころの短調のアダージョですが、輝きに満ちた陰りを帯びて非常に美しい入り。この美しさはなかなかのもの。そして途中で、ふっと暖かさが差し込む絶妙の瞬間があるのですが、ここの演出もさりげなくて素晴らしい。ハイドンのハーモニーのコントールの見事さをさりげなくちらつかせる見事な表現。表現を抑えながら美しい瞬間を保ち続ける演奏に身を乗り出します。
そしてフィナーレは軽さとさりげなさが高度に融合したサラサラ感。これは女性奏者ならではの表現でしょう。美音を撒き散らすようなきらめき感が秀逸。短いソナタなのに、そして表現を凝った訳ではないのにこれだけの聴きごたえある演奏をするとは。素晴らしいバランス感覚の持ち主ですね。

この後の曲も、ハイドン同様の表現力で聴かせます。

カロリーネ・フィッシャー、日本ではあまり知られていない人でしょうが、このハイドンは素晴らしいですね。ハイドンのソナタは力任せでも個性的過ぎてもうまく響きませんが、こうして一音一音のタッチを研ぎ澄ましたさりげない演奏をされると輝きます。冒頭に置かれたハイドンの演奏でこの人の音楽感が見えてくるようでした。流石メルセデスの広報、目が肥えてます。アルバムにはハイドンは1曲のみですが、この1曲のためにこのアルバムを入手する価値はあります。評価は[+++++]とします。

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カール・ゼーマンのピアノソナタ(ハイドン)

仕事がひと段落したので、LPをじっくり。

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カール・ゼーマン(Carl Zeemann)のピアノでハイドンのピアノソナタ2曲(XVI:31、XVI:38)とアンダンテと変奏曲(XVII:6)、ブラームスの16のワルツを収めたLP。収録情報は記載されていませんが、ネットなどを調べてみると1959年制作のよう。手元のアルバムは米DECCAプレスですが元はDeutsche Grammophoneのプロダクションとのこと。

アルバムにはSonata No.30、No.35と表記されていますが、調性が合わないのでよく調べてみると、ライナーノーツに正しいソナタ番号が記載されており、上の収録曲目のとおり。

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カール・ゼーマンは1910年、ドイツのブレーメンに生まれたピアニスト。ライプツィヒで聖トーマス教会のカントルであったギュンター・ラミン(Günter Ramin)にオルガンを学び、ベルギー国境に近いドイツの街、フレンスブルクとブレーメン近くのフェルデンという街でオルガニストとして働いていました。1935年からピアニストに転向し、独奏のほか、高名なヴァイオリニスト、ウォルフガング・シュナイダーハンの伴奏者としても活躍しました。1960年代からは指導者としての活動が中心となり、1964年から1974年までフライブルク音楽大学の学長を務め、亡くなったのは1983年とのこと。ドイツのピアノの伝統を感じさせる人でしたが、同時代的にはリヒテル、ホロヴィッツ、ギレリスなどロシアのピアニストの存在感の影にかくれて地味な存在でしたが、近年なそのいぶし銀の演奏が再評価されているとのことです。

ゼーマンのハイドン、やはりいぶし銀という言葉がぴったり。揺るぎない安定感とドイツらしい質実剛健さが感じられる演奏でした。

Hob.XVI:31 Piano Sonata No.46 [E] (1776 or before)
ステレオ最初期という録音年代を考えるとピアノの音に芯があってしっかりとしたいい音。軽々と弾いているようですがタッチのキレは良く、特にサラサラと流れの良い演奏。速いパッセージのタッチの鮮やかさは素晴らしいですね。2楽章のアレグレットに入ると徐々に詩情が溢れ出てきます。さりげない演奏ながら、メロディーに孤高の輝きと強さがあり、じわりと沁みてきます。ハイドン特有のハーモニーの変化の面白さもデリケートに表現してきます。3楽章のプレストに入るときの切り替えの鮮やかさもハイドンの面白さをわかってのこと。一瞬にして気配を変え、流れの良い音楽に入ります。ピアノの中低音の力強さが印象的。

Hob.XVII:6 Andante con Variazioni op.83 [f] (1793)
名曲アンダンテと変奏曲。予想通りかなりさらりとした入り。リズムをはやめに打つことでサラサラ感が際立ちます。ここでもタッチの鮮やかさが印象的。大きな起伏をともなう曲想ですが、ゼーマンは逆に起伏を抑え気味にして、フレーズ単位のメロディーのタッチの微妙な弾き分けに集中し、変奏をつぎつぎとこなしていきます。徐々に演奏にも勢いというか力強さが増してきて、大きなクライマックスをつくっていきます。後半に入るとタッチに力が漲り、まさに孤高の境地。一貫して速めの流れの良さを活かした演奏でした。

Hob.XVI:38 Piano Sonata No.51 [E flat] (before 1780)
優しいそよ風のようなしなやかな入り。曲想をふまえてタッチを自在にコントロールしてきます。速いパッセージのタッチのかっちりとした確かさはそのままに、淡々とした演奏から詩情が立ち上ります。アダージョも速めですが、不思議に力が抜けた感じがよく出ています。そしてプレストでは表情の変化を強弱に集中させ、リズムは一貫しているのに実に豊かな表情。ピアノの表現の奥深さを改めて知りました。

カール・ゼーマンの弾くハイドンのソナタですが、速めのテンポでさらりとした演奏ながら、くっきりとメロディーが浮かび、そしてハイドンのソナタらしいハーモニーの変化の面白さもしっかりと味わえる素晴らしい演奏でした。この高潔な表現はドイツのピアノの伝統なんでしょうね。古い演奏ではありますが、今聴いても古さを感じるどころか、新鮮そのもの。現代のピアニストでこれだけの透徹した音色を出せるひとがどれだけいるでしょうか。評価は3曲とも[+++++]とします。

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ベリーナ・コスタディノヴァによるピアノソナタXVI:24(ハイドン)

今日は久々に癒し系、美貌のピアニストの演奏です。

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ベリーナ・コスタディノヴァ(Belina Kostadinova)のピアノによる、ハイドンのピアノソナタ(Hob.XVI:24)、ショパンの4つの練習曲(Op.10)、
リストの「葬送」、バルトークのブルガリアのリズムによる6つの舞曲(ミクロコスモス第6集より)の4曲を納めたアルバム。収録は2007年7月13日から14日にかけて、スイスのチューリッヒの放送スタジオでのセッション録音。レーベルはgega new。

このアルバム、最近オークションで手にいれたもの。ハイドンのピアノソナタが含まれているアルバムということで入手しましたが、気になるのはジャケットの写真。ベリーナ・コスタディノワというピアニストは未知の人ですが、ぐっと惹きつけられる美貌の持ち主。ということで、オークションの一覧でこの写真と「目が合った」という感じで出会いました。

BELINA

ベリーナ・コスタディノヴァはブルガリアのピアニスト。5歳のときに叔父と母の弾くピアノを聴いてピアノを志すようになり、ブルガリアの黒海沿岸の街ブルガス(Bourgas)の音楽高校、そして首都ソフィアのソフィア音楽アカデミーで専門的教育を受けました。アカデミーではレフ・オボーリン(Lev Oborin)門下生で、ロシアピアニズムの継承者と見做されていたマーシャ・クラステワ(Mascha Krasteva)とともに学び、古典派からロマン派にかけての音楽にとロシア音楽もレパートリーに加えるよう取り組み、また、祖国ブルガリアの音楽にも取り組みました。1989年にルドルフ・ブッフビンダーと出会い、スイスのバーゼル音楽院で彼に師事し、以後アレクシス・ワイゼンベルクやパウル・バドゥラ=スコダらのマスタークラスに参加し、ヨーロッパ各国で活躍しているとのこと。

このアルバムはコスタディノヴァのデビューアルバムで、彼女にとっては、デビューまでの間に思い入れのある曲を集めた特別な選曲のアルバムということです。ハイドンとリストの曲は若い頃から好んで演奏し、特にハイドンはハイドンの大家とされたブッフビンダーの前で最初に弾いた曲。そしてブルガリア人としてバルトークのブルガリアのリズムによる6つの舞曲も研究しつくしてきた曲。ショパンは、ゲサ・アンダの録音が決定的な影響をもたらした曲とのことです。

Hob.XVI:24 Piano Sonata No.39 [D] (1773)
粒立ちの良いピアノの響きでテンポよく入りますが、経歴からの想像力が働いたのか、ロシアのピアニスト特有のグイグイと引っ張っていく勢いも感じられます。女性ならではのタッチのしなやかさもあるんですが、それを上回る流れの良さと色彩感がポイント。音がコロコロと弾んでゆく心地よさに耳を奪われます。フレーズ毎にあえて印象的な間というか、リズムの分断を設けるのが個性的。1楽章はオーソドックスなようでよく聴くと個性的な仕上がり。
アダージョはしっとりではなく訥々とした表情が印象的。冒頭のきらめくような緊張感から暖かい風に包まれるような展開が一般的な入りなんですが、その瞬間に緩まず、緊張感を保ち、寂しさを突き詰めていくようなストイックさがあります。やはりロシア的な感性がそうさせるのでしょうね。
フィナーレはサクサクと入り、あえてサラサラとした感触を保ち、よく聴くと激しく展開する曲をサラリとこなしていきます。最後はリズムとフレーズを誇張してキリリと引き締めて終わります。

つづくショパン、リスト、バルトークもコスタディノヴァがそれぞれ得意としていた曲というのがよくわかります。ハイドン同様、楽譜に込められた情感に至るまで弾きこなしており、思い入れを感じる演奏でした。特にバルトークのキレ味鮮やかながら、しっとりとした演奏は流石と思わせるものでした。

美貌のピアニスト、ベリーナ・コスタディノヴァのハイドンのソナタですが、ジャケットの造りから想像されるアイドル系の演奏とは異なり、なんとなく奏者の芸術的表現の吐露と思わせる息吹を感じる本格的なものでした。タッチが冴え渡る演奏は他にもいろいろあり、そういう視点での優れた演奏というより、ブルガリア出身の彼女がピアノで世界に羽ばたいたバックボーンとうか、苦労の積み重ねが詰まった音楽と聴こえました。選曲と解説によって奏者の息吹が浮かび上がる好企画ですね。ハイドンのソナタは[+++++]とします。

美貌の奏者のアルバムに癒しを感じるおじさん層のために、このアルバムを含めて「美人奏者」というタグをつけました。意外とマーケットでは重要な要素ですネ(笑)

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テレーズ・デュソーのピアノソナタ集(ハイドン)

なんだかピアノの響きにはLPが合うようで、ピアノソナタの名録音がつづきます。

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テレーズ・デュソー(Thérèse Dussaut)のピアノによる、ハイドンのピアノソナタ2曲(Hob.XVI:49、XVI:52)とファンタジア(Hob.XVII:4)の3曲を収めたLP。収録についてはネットで色々調べるとおそらく1972年にリリースされたもののよう。レーベルはARION。

こちらも先日ディスクユニオン新宿店で仕入れたもの。LP売り場は適度に分類されているんですが、交響曲や弦楽四重奏曲はハイドンのコーナーがあるもののピアノ曲はH前後のいろいろな作曲家のアルバムが混ざっており、LP時代には現在もCD化されていない未知のピアニストのアルバムがまだまだあるようで、売り場構成と相まって宝探し的楽しみがあります。このアルバムもそうして発見した一枚。

ジャケットをよく見ると古いスケッチですが、明らかにハイドンのような顔をした男がフォルテピアノの横に座り、鍵盤の前には貴婦人が立っているスケッチ。調べてみるとフランスの画家、ドミニク・アングルの1806年の習作「森の家族」とのこと。アングルは1780年、南仏のモントーバン(Montauban)生まれで、トゥールーズ、パリで学んだのち、当時の若手の登竜門だったローマ賞を受賞し、政府給費留学生として1806年にローマに渡ります。この絵がパリトローマのどちらで書かれたのかはわかりませんが、ハイドンはパリにもローマにも行っていませんので、実際の場面ではなく、当時ヨーロッパ中で知られていたハイドンから音楽を学んでいる姿を想像してスケッチしたものでしょうね。当時のハイドンの人気を物語るものでしょう。LPの魅力はこうしたジャケットにもあるわけで、たかが印刷ですが、なんとなくいい雰囲気が漂うわけです。

さて、本題に戻って、奏者のテレーズ・デュソーについて調べてみます。

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テレーズ・デュソーは1939年、ヴェルサイユ生まれのピアニスト。父は作曲家のロベール・デュソー(Robert Dussaut)、母も作曲家のエレーヌ・コルヴァティ(Hélène Corvatti)。フランスでマルグリット・ロンとピエール・サンカンにピアノを学び、ドイツではロシアのピアニスト、ウラディミール・ホルボフスキに師事しました。1957年には国際ARDコンクールで優勝し、以後はコンサートピアニストとして活躍、現代音楽にも積極的に取り組んできたそうです。近年は教育者として活躍しているとのこと。

Hob.XVI:49 Piano Sonata No.59 [E flat] (1789/90)
しっとりとしたタッチから流れ出る音楽。女性奏者らしいタッチの柔らかさが印象的。サラサラと流れながらも要所でのアクセントはくっきりとつけていきます。まさに気品に溢れた演奏。LPだからか研ぎ澄まされたピアノの音色の美しさが際立ちます。ハイドンの曲のメロディーの美しさも展開の面白さもアイデアの豊富さもすべて折り込んでさらりと美しくまとめいる感じ。ジャケットのスケッチが、女性ピアニストが演奏を終え、ハイドンが満足げに微笑んでいる姿にも見えてきました(笑) 実に品のいい演奏。
アダージョに入ると、実際の音量以上に静けさを感じさせます。楽章がかわって、気配も変わった感じ。聴き手を包み込むようなオーラが発散しています。心に沁み渡るような浸透力。仄暗い部屋の真ん中でスポットライトを浴びながら静かにピアノの響きと向き合うッデュソーの心境がつたわるようです。後半の左手のアクセントの連続は澄み渡るような美しさ。実際の力感ではなく、力感を表現するのは音の対比のみでできるのだとでも言いたげなほど、力が抜けているのに音楽の起伏は険しく感じられる演奏。美しすぎるアダージョ。
3楽章はメヌエット。ことさら演奏スタイルを変えることなくさらりと入り、淡々と進めていきます。キラメキを増す右手にと、絶えず静けさを保ち続ける冷静さのバランスが絶妙。

Hob.XVII:4 Fantasia (Capriccio) op.58 [C] (1789)
こだまのようにメロディーが響き合う小曲。テンポよくすすむ曲想にあわせてタッチのキレも一段と鮮やかになりますが、なにより素晴らしいのが可憐な雰囲気に満ちていること。やはりデュソーの演奏の特徴はこの気品にあります。時折前曲のソナタの演奏では見せなかった激しいアクセントが姿を現してちょっとびっくりしますが、この小曲でのメリハリをきっちりつけようということでしょう。最後の終わり方もちょっと驚く間をとって遊び心をみせます。最後まで透徹したタッチとしなやかさが感じられる名演奏です。

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Hob.XVI:52 Piano Sonata No.62 [E flat] (1794)
曲の構えが大きい分、ぐっと迫力を増した入り。最初の曲ではしなやかさが印象的だったんですが、この曲では力感は十分。素晴らしい迫力に圧倒されます。もちろん繊細な響きの魅力は保っていますので気品に満ちた迫力です。この曲ではやはり力感の表現がポイントとみたのでしょう、1楽章はしなやかな中にも迫力が満ち溢れ、力で押していくようなところもある演奏。
そしてアダージョも打鍵の余韻を実に品良く響かせます。余韻の隅々までしっかりコントロールされた演奏。ところどころでかなり力を抜いた音階をちりばめたり、アクセント、特に左手のメロディーをデフォルメしたりすることで、この優雅な曲にくっきりとした表情の変化をつけていき、音楽の彫りを深くしていきます。
終楽章のプレストへの入りが実に印象的。連続音から始まるこの曲の表情を見事に演じます。タタタタと続く音を実に表情豊かにしあげてきます。このセンスこそデュソーの演奏の真骨頂。全編に気品が満ちているのは音の響きに関する鋭敏な感覚があってのことでしょう。この曲でも一つとして同じ音をならさぬようタッチは非常にデリケート。速い音階の滑らかさとアクセントの対比も見事。突然テンポを落としたりとハイドンのしかけた機知にも呼応します。曲の読みが深いですね。この曲も見事の一言。

ディスクユニオンの売り場から掘り起こしたアルバムですが、これは宝物レベルの名盤でした。まったくしらなかったテレーズ・デュソーというピアニストによるハイドンでしたが、ジャケットに移る美麗な姿そのままの気品に溢れた名演奏でした。音に対する鋭敏なセンスを持ち合わせ、ハイドンのソナタから実に深い音楽を引き出す腕前の持ち主。1曲目のXVI:49ではそのセンスの良さで聴かせ、ファンタジアではタッチのキレのよさ、そして最後のXVI:52では迫力と彫りの深さで圧倒されました。LPのコンディションも悪くなく、美しいピアノの響きを堪能できました。評価は全曲[+++++]とします。

このところの陽気でだんだん目の周りが痒くなってきました。魔のシーズン突入ですね(笑) めげずに頑張ります!

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ニキタ・マガロフのピアノソナタXVI:48(ハイドン)

なんだかLPの勢いが止まりません。こうなったら今月はLPに特化します!

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amazon(別装丁CD)

ニキタ・マガロフ(Nikita Magaloff)のピアノによる、ハイドンのピアノソナタ(Hob.XVI:48)、ベートーヴェンのピアノソナタ30番、リストの「パガニーニによる大練習曲」の3曲を収めたLP。収録情報は記載されていませんが、同音源を収録したCDの情報によると1960年8月のおそらくセッション録音。レーベルはPHILIPSの日本盤ですが、フォノグラムではなく日本ビクター時代のもの。解説にソナタが奏鳴曲と記されているところに時代を感じますね。

このLPは最近オークションで手に入れたもの。手元にマガロフの弾くハイドンのアルバムはヴァントが伴奏を務めるピアノ協奏曲くらいで、その演奏もあまり記憶にありませんでした。ところが最近記事にした、フレデリク・マインダースのピアノソナタを聴いて、マインダースのしなやかな演奏の原点がマガロフに師事していたというところにあるような気になり、マガロフのソナタを聴いてみたいと思っていたところ、タイミングよくオークションで見つけて手に入れたという次第。こうした巡り合わせもあるもんですね。

2017/02/03 : ハイドン–ピアノソナタ : フレデリク・マインダースのピアノソナタXVI:49(ハイドン)

ピアニストの演奏の個性というのはなんとなく師事したピアニストの影響を受けるもの。ブログを始めたばかりの頃、カルメン・ピアッツィーニの演奏が師事したハンス・レイグラフの演奏にそっくりだったので調べたらレイグラフに師事していたことがわかりびっくりしたことが、当ブログで奏者の略歴などをいちいち調べるようになったきっかけとなりました。

2010/02/15 : ハイドン–ピアノソナタ : ピアノソナタ全集のあれこれ

ということで、マインダースの、ハイドンの演奏としては珍しくリズムよりもしなやかさに聴きどころを持ってきた背景には師事したマガロフの影響があるだろうとの仮説を検証するためにマガロフを手に入れたという、歴史を遡る仮説検証的興味が脳内に充満している状態。ハイドン以外に特段詳しくもない私でも、ニキタ・マガロフといえばショパンを得意としていたようであるというくらいの感触は持っていて、仮説もそれほど的外れなものではなさそうであるとの憶測もあり、興味津々といったところ。

さらに歴史を遡るわけではありませんが、一応マガロフの略歴もwikipediaなどからさらっておきましょう。

ニキタ・マガロフは1912年、ロシアのサンクト・ペテルスブルクでジョージア(グルジア)貴族の家系に生まれたピアニスト。1918年に家族共々ロシアを離れてフィンランドに渡ります。家族ぐるみの付き合いだったプロコフィエフに刺激を受け、ウクライナ出身のピアニスト、アレクサンドル・ジロティとともに音楽を学び、その後パリ音楽院に進みピアノ学部長のイシドール・フィリップに師事、またパリ音楽院を卒業した1929年にはラヴェルに才能を認められます。マガロフも恩師であるイシドール・フィリップから優雅で折り目正しい趣味のよさを受け継いでいるとのこと。ピアニストとして活躍し始めたのは戦後になってからで、やはり、ショパンの演奏で知られるようになり、特に1974年から78年にかけてPHILIPSレーベルに録音したショパンのピアノ音楽全集は、初めての全曲録音としてのみならず、録音も良く、またマガロフの叙情的かつ端正な演奏が評判となった名盤とのことです。
教育者としても有名で、1949年、あのディヌ・リパッティの後任として1949年から1960年までジュネーブ音楽院の教授を務め、教え子にはマルタ・アルゲリッチ、マリア・ティーポ、イングリット・ヘブラーなど錚々たるピアニストがいます。
私生活ではヨーゼフ・シゲティの伴奏を務めていた縁で、シゲティの娘と結婚し、スイスのジュネーブに居を構えました。亡くなったのは1992年、スイスレマン湖畔のヴェヴェイトのこと。

マガロフの録音履歴を見ると、1950年代後半からポツポツと録音され始めていますので、今日取り上げるアルバムも1960年とごく初期のもの。しかも、ジャケットにもレーベル面にも誇らしげに”HI-FI STEREO”とグィーンと表示されており、ステレオ初期のもの。このレーベルは珍しいですね。

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Hob.XVI:48 Piano Sonata No.58 [C] (1787/9)
盤のコンディションはそこそこでしたが、2度ほどクリーニングしてノイズは綺麗さっぱり無くなり、演奏に集中できます。多少歴史を感じる雰囲気はありますが、ピアノの響きは非常にいい感じ。しなやかさは期待通りですが、叙情的すぎず、落ち着いたタッチから紡ぎ出されるピアノの音色が心地よいですね。前の記事のハンス・シュタットルマイアの演奏でも感じた「気品」に満ちた演奏。端正な中にも程よい芳香が感じられる演奏。この録音当時48歳くらいですので、この味わい深さは流石です。
このソナタは2楽章構成。2楽章に入ると、クッキリとメロディーを浮かび上がらせるタッチのキレを感じさせます。曲の勢いよりも少し遅れて盛り上がる独特の雰囲気。早いパッセージもさりげなくこなしますが、どこかに力の抜けた感じを伴い、優雅さがあります。ハイドンのソナタからは展開の面白さを強調する演奏が多い中、あえてさり気なく弾き進め、メリハリはメロディーを浮かび上がらせるところくらいで、やはりしなやかかつ雰囲気を重視した演奏。そう、仮説通り、フレデリク・マインダースの演奏の原型を感じさせる演奏でした。ただ鍵盤へのタッチから音がなるだけのピアノですが、こうした気配や魂のようなものが師から弟へ受け継がれていくわけですね。

つづいてベートーヴェンの30番、B面はリストの「ラ・カンパネッラ」を含む「パガニーニによる大練習曲」。ベートーヴェンも力感よりも味わいが勝る、まさに気品に満ちた演奏。そして、ショパンとともに得意としていたリストでは、驚くようなきらめきに満ちた演奏でした。これはいいですね。

わたしは、あまりイメージのなかったニキタ・マガロフでしたが、ひょんなきっかけから興味をもち、マガロフという人のことを調べ、その音楽を聴き、なんとなくこの人の音楽というか、独特の美学にふれたような気になりました。また、このところいろいろピアノの古い演奏を聴き、ピアノという楽器の表現力の幅広さをあらためて知った気がします。さらっと聴くとなにげない演奏ですが、実に深い演奏でした。ベートーヴェンとリストと組み合わされたハイドンという構図もいいですね。いいアルバムを手にいれることができました。評価は[+++++]とします。

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tag : LP ピアノソナタXVI:48 ヒストリカル

プロフィール

Daisy


Author:Daisy

なぜかハイドン(Franz Joseph Haydn)が特に気に入り膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。東京在住のごく普通のサラリーマンです。

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2017年7月のデータ(2017年7月31日)
登録曲数:1,361曲 登録演奏数:10,291
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