Haydn Disk of the Month - June 2011

Haydn Disk of the Month - June 2011

早くも6月が終わってしまいますね。ちょっと涼しいかもしれないと思っていた今月初めでしたが、月末になったら6月としてはかなりムシムシする気候に変わっていました。震災の影響で節電モードとなり、電車も会社も冷房が効いた状態にはなりません。この夏は厳しい夏となりそうですね。

今月のHaydn Disk of the Monthですが、厳正なる審査の結果、このアルバムを選びました。

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2011/06/18 : ハイドン–室内楽曲 : 絶品、ラフラム、シェーンヴィーゼ=グシュルバウアー、フラーのピアノ三重奏曲

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2011/06/06 : ハイドン–協奏曲 : エンリコ・マイナルディのチェロ協奏曲2番

今月は2組。ラフラム、シェーンヴィーゼ=グシュルバウアー、フラーのピアノ三重奏曲は新着アルバム。ヴァイオリンの代わりにフルート・トラヴェルソで弾いたピアノ三重奏曲集。音色の変化のある3種の楽器による緊密なアンサンブル。非常にバランスの良い落ち着いた名演奏でした。最近目覚めたピアノ三重奏曲の魅力が詰まった名演盤です。

もう一組はヒストリカルアルバム。現代の価値観からすると演奏スタイルは古いものの、現代の価値観と言う限定された耳で聴いていることにはっと気づかされるような素晴らしい演奏。そして何より決定的なのがリマスターの質。マイクロの重量級ターンテーブルの大地と一体化したような揺るぎない安定感が感じられる完璧なリマスター。このアルバムは自身の視点をリセットせざるを得ないようなカルチャーショックがありました。

この他に今月素晴らしい演奏を聴かせたアルバムは下記の通り。

2011/06/30 : ハイドン–室内楽曲 : 【新着】バレストラッチのバリトン三重奏曲集
2011/06/28 : ハイドン–交響曲 : ハイティンク/ドレスデン・シュターツカペレの86番ライヴ!
2011/06/27 : ハイドン–交響曲 : ショルティ/ウィーンフィルの「ロンドン」1996年ライヴ!
2011/06/20 : ハイドン–交響曲 : フィリップ・アントルモン/ウィーン室内管のオックスフォード、悲しみ
2011/06/11 : ハイドン–協奏曲 : ターニャ・テツラフのチェロ協奏曲集
2011/06/03 : ハイドン–室内楽曲 : アベッグ・トリオのピアノ三重奏曲集

なかでも、ショルティのロンドンの素晴らしいオーラ、ハイティンクの質実剛健筋骨隆々の86番、フィリップ・アントルモンの悲しみ他、ターニャ・テツラフの隠れたチェロ協奏曲の名演奏が記憶に残りました。

今月も素晴らしい演奏に出会えたことに感謝ですね。7月は今まで手に入れてあまりレビューしてこなかったライヴCD-Rを少し多めに取りあげようかと考えております。

2011年6月のデータ
登録曲数:1255曲(前月比+3曲)
登録演奏数:5,637件(前月比+72演奏)

テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽

【新着】バレストラッチのバリトン三重奏曲集

今日はハイドンの真髄、バリトン三重奏曲の最近手に入れたアルバム。

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グイード・バレストラッチ(Guido Balestracci)のバリトン、アレッサンドロ・タンピエーリ(Alessandro Tampieri)のヴィオラ、ブリュノ・コクセ(Bruno Cocset)のチェロによるハイドンのバリトン三重奏曲7曲(Hob.XI:66、XI:13、XI:96、XI:70、XI:59、XI:42、XI:101)を収めたアルバム。収録は2010年10月、南フランスのシランのサンテーユ聖母教会でのセッション録音。最新の録音です。レーベルはマーキュリーが輸入するRICERCAR。

ハイドンが仕えたエステルハージ家のニコラウス候が愛好したバリトンと不思議な楽器のために書かれた100曲以上の三重奏曲。この世では不可能かと思われた全曲録音も、廉価盤の雄、Brilliant Classicsで成し遂げられてしまいました。バリトンという楽器の不思議な響きは今になっても魅力は尽きません。

演奏者を紹介しておきましょう。

バリトンを弾くグイード・バレストラッチは1971年イタリアのトリノ出身のヴィオラ・ダ・ガンバ奏者。ヴィオラのアレッサンドロ・タンピエーリもイタリア出身。そしてチェロはフランスのブリュノ・コクセ。3人あわせてバリトントリオの演奏の練習を相当したと思わせるアルバム構成。充実の響きですね。

バリトン三重奏曲 ディヴェルティメントイ長調(Hob.XI:66)1767-68年作曲
最初の曲から何という繊細かつ豊かな響き。鮮明に録られたバリトンの共鳴弦の不思議な音色。木質系の非常に美しい響き。残響は大目ではないんですが、わりと近くに定位するバリトンとヴィオラ、チェロ。中低音域楽器の厚めの音色の中にバリトンの弦の固い音がクッキリと浮かび上がり、暖かいメロディーと不思議な響きのアクセントの織りなすトランス状態のような不思議な音響。1楽章がアダージョ、2楽章がアレグロ・ディ・モルト、3楽章がメヌエット。これは素晴らしい演奏。いままで聴いた中で一番の充実感。

バリトン三重奏曲 ディヴェルティメントニ長調(Hob.XI:13)1765-66年作曲
途中にギターのアルペジオのような部分が入る、バリトントリオの典型的な曲。しっかりとった休符がとても効果的。バリトンを愛好し、ハイドンの最高の理解者だったエステルハージ家のニコラウス候との演奏風景を想像してしまいますね。2楽章のアレグロ・ディ・モルトは凄いエネルギーで疾風のよう。そして3楽章のメヌエットは曲想はシンプルながらバリトン大活躍。

バリトン三重奏曲 ディヴェルティメントロ短調(Hob.XI:96)1769-71年作曲
バリトンとヴィオラ、チェロによって奏でられる短調の影のある響き。年代をみるとシュトルム・ウント・ドラング期の絶頂期の作品。納得の充実感。1楽章のラルゴにつづいて2楽章はアレグロ。ヴィオラとバリトンがそろってメロディーラインを奏でていきますが、バリトンの音色が変化を持ち込み、非常に興味深い音響に。チェロの図太い低音が随所でアクセントになる工夫が。最後のメヌエットは回想シーンのような曲想。繰り返し現れる曲想が静かに終了。

バリトン三重奏曲 ディヴェルティメントト長調(Hob.XI:70)1767-68年作曲
前曲とは打って変わって明るい入り。非常に快活なメロディーライン。この曲では各楽器が交互に畳み掛けるようなスリリングな演奏。2楽章のアンダンテは音量の変化を少しずつつけながらフレーズを重ねていくところが聴き所。バリトンのフレットつきの明確な音色の音階が華を添えます。最後のメヌエットはヴィオラとバリトンが寄り添うような演奏。

バリトン三重奏曲 ディヴェルティメントト長調(Hob.XI:59)1767-68年作曲
1楽章がアダージョはほぼ定番。このアルバムに共通する非常に呼吸の深い休符。音楽の息吹をうまく表しています。バリトンの弦を弾く音色と他の楽器のピチカートの対比の妙。ちょっとバリトンのカデンツァのようなところがあって興味深いですね。2楽章のアレグロはタイトなメロディーラインが魅力。バリトンが不思議トーン炸裂の伴奏にまわり、素晴らしい楽興。3楽章はまたバリトンのアルペジオの響きに打たれます。

バリトン三重奏曲 ディヴェルティメントニ長調(Hob.XI:42)1767-68年作曲
穏やかな入り。歌うような入りで、巧みなデュナーミクのコントロール。チェロの低域の音階のコントロールは流石のものと聴きました。今までの曲の中で最も充実している響き。それぞれ曲想の面白さと、楽器に合わせて音符を書いているあたりはやはりハイドンならでは。

バリトン三重奏曲 ディヴェルティメントハ長調(Hob.XI:101)1778年以前作曲
最後はこのアルバムの中で一番色彩感豊かな演奏。ハ長調の晴朗な響きを楽しむかののような演奏。この曲のみ2楽章がメヌエット。ある意味普通の構成ですが、やはり中間楽章にメヌエットが入り両端楽章が速いのは落ち着きますね。バリトントリオのみかわかりませんが、終楽章がメヌエットであるのは落ち着きませんね。

バリトン三重奏曲を7曲収めたこのアルバム。音色の特殊さは慣れてしまえば気になりません。それぞれの曲に小さなドラマがあり、それぞれの曲に特色あるメロディーが配されていて、全く飽きさせません。このアルバムのバリトンと弦楽器のアンサンブルは見事そのもの。評価は全曲[+++++]としました。バリトントリオもずいぶんアルバムが出ていますので皆さんそれぞれお好みの演奏があろうかと思いますが、今回はほんとうにいいアルバム。精妙なバリトンとヴィオラ、チェロの織りなすハーモニーに酔いしれるべき一枚だと断定します。

テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽

tag : バリトン三重奏曲 古楽器 おすすめ盤

ハイティンク/ドレスデン・シュターツカペレの86番ライヴ!

こんなニッチなブログにも愛読していただいている方がおり、最近メールの交換やアルバムの貸し借りをさせていただいております。世の中でハイドンを偏愛する方は数えるほどでしょうが、それも私とかなり趣味が合い、当ブログで評価しているアルバムのなかでも、このアルバムこそはというアルバムを聴いてみたいとおっしゃられます。ハイドンの一般的には無名な演奏のなかにも、心にふれる素晴らしい演奏があり、そのような良さを分ち合える方がいるというのは、まことにうれしいものです。こんなブログでも続けているといいことがあるものですね。

今日はそんな関西在住の湖国JHさんからお借りした貴重なアルバムです。

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ベルナルド・ハイティンク(Bernard Haitink)指揮のドレスデン・シュターツカペレの演奏によるハイドンの交響曲86番とモーツァルトの交響曲41番「ジュピター」の2曲を収めたアルバム。収録はハイドンが2004年8月25日、モーツァルトがその前日8月24日のライヴ。En LarmesというアメリカのCD-Rレーベルのアルバム。

ハイティンクについては当ブログでも先月に一枚取りあげています。その時の記事へのリンクを張っておきましょう。

2011/05/12 : ハイドン–交響曲 : ベルナルド・ハイティンク/ウィーンフィルの時計ライヴ

PHILIPSレーベルにはマリナーやコリン・デイヴィスなどハイドンの交響曲を振る人がいたため、ハイティンクのハイドンの録音はほとんどないのではないでしょうか。質実剛健で生真面目、筋肉質の演奏が多いハイティンクですが、そのハイティンクが、ハイドンの交響曲の中でも最も純音楽的な魅力がある86番を、それもドレスデン・シュターツカペレという燻し銀の音色で知られる名オーケストラのライヴで聴けるということで、このアルバムに対する期待は非常に大きなものがあります。しかも2004年とごく最近のもの。ハイティンクの円熟の至芸がついに火を吹くのでようか。

交響曲86番ニ長調(Hob.I:86)1786年作曲
冒頭から非常に瑞々しい音色。ハイティンクらしいあっさりしながら筋骨隆々な序奏。録音は最新のものらしく鮮明で実体感も十分。音響処理をしているようで演奏中はほとんど会場ノイズは聴こえません。若干ながら音響処理の影響で響きが薄い音域があるように聴こえますが、中低域の図太さはかなりの迫力。序奏から主題に入ると快速テンポにギアチェンジ。歳のわりに若々しいハイティンクの指揮姿が目に浮かぶような、これぞハイティンクというまさに質実剛健な演奏。端正な大理石のギリシャ彫像を見るような趣。冷静ながらたくみに力感を表現してハイドンの名曲を起伏豊かに表現。86番の1楽章はオーケストラの強弱とメリハリの表現の課題曲のような雰囲気があり、その見本の演奏のような演奏。ハイティンクがオーケストラの団員から評価が高い理由がよくわかります。自己主張が強い訳でもなく、特別なことをせず、しかし楽譜から音楽が溢れ出すような自然さ。背筋ピーンです。

2楽章のラルゴは、ラルゴにしては速めで、曲全体の構造を浮き立たせようと言う意図でしょう。途中呼吸は深くはならないんですが陰影はしっかりついてハイドンの音楽の器楽曲としての面白さをうまく表現しています。あっさりと速めのテンポがうまくハマったようです。後半の盛り上がりはほどほどながら、軽さをうまく表現してます。

メヌエットは引き締まったオケの音色が心地よいですね。良く聴くとやはり弦楽器のボウイングが弓をフルにつかうというより、こする強さで力強さを表現するような独特のフレージングが特徴。ドイツ的でもラテン的でもなく、非常に主観的にいえばオランダ的な中庸さを感じます。シューリヒトの86番では枯淡の境地を聴かせるのに対してハイティンクのメヌエットは力感の表現の課題曲の演奏のような正統的な演奏。文字通り力漲る演奏。

そしてフィナーレ。期待どおりハイティンクはこの楽章に焦点を合わせていました。弾むような音色でしっかりアクセントをつけ、徐々にオーケストラが全開に。あくまできっちりコントロールされた状態での盛り上がり。徐々にテンションがあがり、オケもフルスロットルに。音の塊に打ちのめされる快感、楽興のひと時。昨夜とりあげたショルティが観客を打ちのめさんばかりの迫力だったのに対し、ハイティンクのクライマックスは等身大で、何度もふれるように質実剛健なもの。素晴らしい充実感が残ります。最後は鮮明に録音された拍手に包まれ終了。

ついでにジュピターにも聴き入ってしまいました。こちらはもう少しクッキリ派手な演奏を聴きたくなるかと思いきや、意外とハイティンクのコントロールがクッキリメロディーを描いて、ハイドンよりも良い意味で派手な演奏でした。質実剛健なテイストに変わりはないんですが、フィナーレのフーガはちょっと色っぽいところまで感じさせる名演。こちらもいい演奏でした。

ハイティンクの円熟のライヴ。86番は86番の真髄に触れるハイティンクらしいハイドンの名演奏。もちろん[+++++]です。演奏、録音ともに文句なし。ハイティンクの数少ないハイドンの交響曲の演奏として貴重なものといえるでしょう。

湖国JHさん、貴重なアルバムを貸していただきありがとうございました!

追伸:毎度お土産すみません。

テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽

tag : 交響曲86番 ライヴ録音 おすすめ盤

ショルティ/ウィーンフィルの「ロンドン」1996年ライヴ!

今日はちょっと前にディスクユニオンで手に入れたCD-R。

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サー・ゲオルク・ショルティ(Sir George Solti)指揮のウィーンフィルの演奏でハイドンの交響曲104番「ロンドン」、ベートーヴェンの交響曲2番の2曲を収めたアルバム。収録は1996年8月23日とだけ記載されています。ん、、、8月ということは、、、もしかしてザルツブルク音楽祭では? と思っていつものようにザルツブルク音楽祭のサイトのアーカイヴを調べてみると、ありました。

ザルツブルク音楽祭:1996年8月23日、24日のプログラム(英文)

ザルツブルク音楽祭の1996年8月23日、24日にモーツァルテウムにて行われたコンサートのようです。当日は収録された2曲の他にバルトークの弦楽のためのディヴェルティメントSz.113がプログラムに載っています。

CD-Rですので、当時の放送録音が元でしょうか。レーベルは何枚か持っているアメリカのGNPというレーベル。

ショルティのアルバムはこれまで2回、3つの記事で取りあげています。

2011/03/27 : ハイドン–交響曲 : 爆演、ショルティの指揮者デビュー録音、ロンドンフィルとの太鼓連打他
2010/12/03 : ハイドン–交響曲 : ショルティ/ロンドンフィルによる102番、103番「太鼓連打」2
2010/12/02 : ハイドン–交響曲 : ショルティ/ロンドンフィルによる102番、103番「太鼓連打」

私はショルティの魔笛やワーグナーなど一部の演奏は評価していたものの、これまであまり積極的に評価してきていませんでした。転機となったのが上の指揮者デビュー録音となるロンドンフィルとの太鼓連打、102番、軍隊の演奏の素晴らしいエネルギーを聴いて、ショルティの真髄を知った次第。

今日取り上げるアルバムは1996年のザルツブルク音楽際のライヴですが、ショルティが亡くなったのが翌1997年の9月5日ということで、最晩年の録音の一つでしょう。指揮者デビューの鮮烈な演奏と、最晩年、しかもウィーフィルとのロンドンという交響曲の最高傑作の演奏は、50年近くという時を経た二つの演奏はどのような違いと成熟を聴かせるのか、興味は尽きません。

交響曲104番「ロンドン」(Hob.I:104)1795年作曲
ウィーンフィル特有の柔らかな音色の弦楽器による序奏。柔らかではあっても非常に良くそろってテンションの高い響き。録音はライヴ盤としては上出来。若干デッド気味ながら厚みもあり聴きやすい録音。序奏以降は予想通りショルティらしい速めのテンポに変わりぐいぐい行きます。ただ晩年の演奏らしく力みはなく、まだ豪腕は表に出しません。全体から発せられるオーラのようなものは流石ショルティ。オケ全体にエネルギーが満ちあふれ、オケもそのエネルギーをホール中に発散しています。
2楽章のアンダンテはかなりさっぱりとした表情を意図しているんでしょう。速めのテンポで奏でられる柔らかな弦と木管の美しい響きは流石ウィーンフィル。途中からの盛り上がりは巨大なものを表現するような大きなうねり。終始速めのテンポが曲の真髄を捉えきります。
3楽章のメヌエットはこの曲で最もさりげない楽章ですが、ショルティの手にかかると聴き応え十分。起伏とキレとバランスと円熟の高度な融合。ライヴの荒削りな感じもいいですね。
フィナーレはようやくショルティ豪腕が牙を剥きます。ホール中に轟音が響き渡りますが、ハンガリー出身のショルティらしくハイドンにふさわしい品格も感じさせます。老年のショルティのにらみが効いてオケは素晴らしい緊張感。特に弦楽器のキレは最高。ウィーンフィルの弦楽セクションが松ヤニ飛び散らせながら弓をフルに使ってエネルギー大爆発。最後は万来の拍手に包まれます。当日のモーツァルテウムの興奮はいかほどだったでしょうか。会場にいたらさぞかし素晴らしい演奏に痺れたことでしょう。

つづくベートーヴェンの2番にも聴き入ってしまいました。83歳という年齢が信じられない素晴らしい統率とエネルギー。ショルティの魂が音楽に乗り移ったような素晴らしい覇気。1楽章の推進力の凄まじいこと。あまりのオーラに打ちのめされそう。音楽の神様、今日はこっちにも降りてきてます! ショルティはスタジオ盤より明らかにライヴがいいですね。このライヴは凄いですね。

貴重なショルティ最晩年のロンドンのライヴ、もちろん評価は[+++++]です。老いてもショルティのエネルギーはデビュー盤のころから衰えることなく、保たれていました。ロンドンフィルとのザロモンセットがショルティのハイドンの交響曲の定番ですが、デビュー録音とこの晩年のライヴはスタジオ盤を遥かに上回るエネルギーを放出する類いまれな演奏。ショルティという音楽家を語る上ではずすことのできない素晴らしい演奏だと思います。

テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽

tag : ロンドン ライヴ録音 ザルツブルク音楽祭

ガリー・クーパー/アリオン・バロック管の41番、受難、悲しみ

今日は昨日銀座山野楽器で手にいれたアルバムからの1枚。歌曲をいろいろ手に入れたんですが、今日は交響曲から。

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ガリー・クーパー(Gary Cooper)のチェンバロと指揮、アリオン・バロック管弦楽団(Arion Orchestre Baroque)の演奏するハイドンの交響曲41番、49番「受難」、44番「悲しみ」の3曲を収めたアルバム。収録は2008年11月24日~26日までカナダのケベック州の街ケベックのサントーギュスタン・ド・ミラベル教会でのセッション録音。レーベルは私の好きなマーキュリーが輸入するearly-music.comというカナダのレーベル。レーベルのウェブサイトがありますので、紹介しておきましょう。

early-music.com

このアルバムは、普段あまり見かけなかったので、その存在を知りませんでした。手に入れたのはいつも丁寧な解説や帯がついているマーキュリーから出ているアルバムということと、その帯に「スリリングに、鮮やかにーラテンの情感を能勢、端正に織り上げられるアンサンブル。作曲者の想い通りの編成で興趣のつきないかくれ傑作3編をたっぷりと!」と書かれたキャッチに乗って。マーキュリーの帯は信用しています。

ガリー・クーパーはChannel Classicsからフォルテピアノを弾いたハイドンの後期ソナタ集やレイチェル・ポッジャーと組んだモーツァルトのヴァイオリンソナタ集8巻がリリースされているのでご存知の方も多いでしょう。私は指揮者として活動しているのは知りませんでした。

オケのアリオン・バロック管弦楽団はモントリオールを本拠地とする古楽器オケ。1981年の設立。小編成での演奏にこだわっているようで、このアルバムの演奏も全部で17名での演奏。early-music.comレーベルには何枚かのアルバムの録音がありますが、マイナーな存在でしょう。日本ではほとんど知られていないオケですね。

最初にアルバムをCDプレイヤーにかけた瞬間、小編成のオケの鮮明な音色が鮮烈に飛び出してくるリアリティ抜群の音響。刺さるくらいに鮮明な演奏という印象を持ちました。

交響曲41番ハ長調(Hob.I:41)1770年以前作曲
ハ長調の晴朗な導入部から始まる曲。小編成の古楽器オケゆえ鮮明な響き。ただし録音が最近のものにしてはちょっと混濁感と歪みっぽさを感じる録音。残響はそこそこあるんですがもう少し自然な感じがするといいでしょう。刺激的な音響でメリハリもかなりしっかり着いて、ことさらアクセントを強めにつける演奏。トーマス・ファイのような前衛を感じさせるものではなく、強い表現意欲が迸っているよう。まさにマーキュリーの帯通り、「スリリングに、鮮やかに」というイメージぴったりの演奏。
2楽章はウン・ポーコ・アンダンテ。表現を極端に抑えるのではなく前楽章の鮮烈なメリハリの余韻を感じさせながら、静かに歩む楽章を表現。
3楽章のメヌエットはレガートを多用したキレより流麗さに重点をおいたようなコントロール。
そして終楽章は速いテンポに乗って素晴らしいキレと推進力。メリハリと流麗さの同居した演奏。このようなことを帯では「ラテンの情感」と表したのでしょう。たしかにドイツ圏の演奏とは基本的にトーンが異なり、楽天的な明るさが根底にあるようですね。これはフランス語圏、しかもヨーロッパからはなれたカナダのオケということが影響しているかもしれませんね。

交響曲49番「受難」へ短調(Hob.I:49)1768年以前作曲
つづいて名曲受難。特徴的な1楽章のアダージョ。クッキリした旋律で描くハイドン入魂のシュトルム・ウント・ドラング期の傑作交響曲。たしかにドイツ的と言うよりラテン的なほのかな明るさが漂うのが不思議なところ。前曲よりフレーズがシンプルゆえ演奏もくっきり。静寂感をうまく表現していて前曲よりも一段上の出来と感じられます。
2楽章はアレグロ・ディ・モルト。快速、軽快な入り。リズムをクッキリ浮かび上がらせながら入れ替わり立ち替わり楽器が登場してメロディーを奏でます。インテンポでしっかりデュナーミクの幅をとった生気漲る演奏。この楽章は素晴らしい緊張感。
3楽章のメヌエットは前曲同様流麗さが特徴。基本的に音楽が澱みなく滑らかに流れ、メヌエットの既成概念とは明らかに異なる趣を醸し出しています。
そして、この曲の最大の聴き所は畳み掛けるように幾重の波が襲うような終楽章。こうゆう動的な楽章を活き活きと演奏することににかけてはこのオケはすばらしい音響で応えます。これはライヴで聴いたら素晴らしいでしょう。

交響曲44番「悲しみ」ホ短調(Hob.I:44)1772年以前作曲
前2曲より明らかに残響の多い録音。このアルバムでもっとも力の入った演奏。冒頭から凄いエネルギー。これが17人のオケとは信じられない迫力。このところ悲しみの名演奏を聴く機会が多いんですが、この演奏もまた違った意味で名演奏。演奏の精度は明らかに落ちますが、不揃いの迫力というか、細かいところを気にしないというか荒削りな魅力があって悪くありません。ヴァイオリンも精度というかリズムの線が粗く、そこを聴くとそれほどでもないんですが、全体から迸るエネルギーは素晴らしいものがあります。古楽器で迫力といえばブリュッヘンと18世紀オーケストラですが、ブリュッヘンの演奏はやはりヨーロッパの伝統に根付いたもの。こちらはそこの箍がハマっていない分ラテン風でもありアメリカ風(カナダですが、、、)でもある演奏。すばらしい迫力の演奏ですがこの辺のテイストがこのアルバムの評価を左右しそうですね。
この曲は2楽章がメヌエット。この曲が一番普通のメヌエットっぽい演奏。それでも情感が強く歌が濃い感じ。
3楽章のアダージョ。ハイドンが自身の葬儀の際に演奏してほしいと語り、実際1809年の追悼行事の際に演奏され、「悲しみ」というニックネームがついたとされます。この演奏は徐々に明るい色彩感を感じさせる陽性の演奏。あとひと踏み込み影があってもいいのかもしれません。
そして、激情的なフィナーレ。すべての奏者が強弱をフルにつけて演奏しているような手に汗握るフィナーレ。低音弦楽器の素晴らしいエネルギー。この曲は多くの演奏のように陰影の美しさではなくダイナミックさで聴かせる演奏。1楽章と終楽章のエネルギー感が一番の聴き所でしょう。

ガリー・クーパーのハイドンの交響曲集。ライヴで聴いたら、あるいはライヴ盤だったとしたら素晴らしいエネルギー感に打たれる演奏でしょう。ただ、ハイドンの演奏ばかりを専門にレビューする当ブログの評価としては、それぞれ[++++]というところでしょう。演奏の生気は素晴らしいものの、ちょっとハイドンの曲の表現としてはやり過ぎというか、ハイドンのこの時期の交響曲の憂いに満ちた影の部分の深みを表現しきれていないという面もあります。音楽とは複雑なものですね。

テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽

tag : 交響曲41番 受難 悲しみ 古楽器

新橋演舞場へ六月大歌舞伎、染五郎、吉右衛門、仁左衛門!

前回歌舞伎を見たのは3月5日でした。国立劇場での片岡仁左衛門の初日の舞台。片岡仁左衛門の悪役三昧、素晴らしい舞台でしたが、一週間もたたないうちに大震災に見舞われ公演も中止となってしまったようです。結果的には貴重な舞台となってしまいました。

2011/03/05 : お出かけ・お散歩・展覧会 : 仁左衛門悪役三昧、通し狂言「絵本合法衢」初日

昨日、6月25日は久しぶりの歌舞伎見物。新橋演舞場の六月大歌舞伎の昼の部へ。今日がが千秋楽です。

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歌舞伎美人(かぶきびと)六月大歌舞伎

演目は、市川染五郎主演の「頼朝の死」、中村吉右衛門主演の「梶原平三誉石切(かじわらへいぞうほまれのいしきり)」、片岡仁左衛門主演の有名な「連獅子」の3本。

1幕目の「頼朝の死」は、大正時代の真山青果の作を昭和7年に歌舞伎座で再演した際に現在の形になったもの。頼朝は表向きは落馬で死去したと伝えられるが、実際は女性のもとに忍び込もうとして警護の侍に斬られたというスキャンダラスな死に方をしたということの秘密を守るために、頼朝の妻尼御台所政子と頼朝の嫡男源頼家、頼朝が忍び込もうとした女性の小周防、小周防の警護にあたって頼朝を斬った畠山六郎重保たちの心の葛藤を描いたもの。父の三回忌になっても父の死の真相を知らない頼家が短気を起こし、真相を知る者たちに迫っていくが、周りのものが命を断っても、源氏の最高位にある自身に父の死の真相を知らせない。そのことを母政子に訴えるが、政子は「家は末代、人は一世」と、息子よりも代々の源氏のお家が大事として真実を語らないという物語。
染五郎はちょっと線が細い演技が気になりましたが、筋書きが良く出来ていて、緊迫感溢れる舞台でした。尼御台所政子のお家を守る緊迫の台詞が見事。面白い舞台でしたね。

ここでちょうどお昼。今日は地下の食堂「東」でのお弁当とお土産がついたチケットでしたので、食堂でゆったり食事ができました。

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今日のお弁当(食べる前に写真撮り忘れたので食べかけで失礼)

午後は中村吉右衛門の「梶原平三誉石切」これは、筋は上のサイトを参照いただきたいんですが、吉右衛門の男気溢れる役という長谷川平蔵ばりの梶原平三影時の演技が見物。刀を鑑定する場面の見栄のキレ、そして人を二人重ねて試し斬りする場面(実はわざと一人しか斬らない)の演技、そして最後に刀の切れ味を証明するために石の手水台をまっぷたつに斬るところなど、見所満載の舞台映えするお話。最後吉右衛門が花道を退場すところのゆったりとした間と、会場の反応を楽しむような吉右衛門の余裕たっぷりの至芸に痺れましたね。これは名舞台。

最後は紅白の髪を振り乱す場面が有名な連獅子です。片岡仁左衛門と孫の千之助の共演。仁左衛門はいつも通り緊張感溢れる凛々しい演技だったんですが、今日のエースは千之助。まだ小さい子なんですが、非常にうまい。すべての演技がびしっときまり、獅子の首振りの部分は柔らかな体をフルに使って見せもの的にも完璧なもの。この演目は首振りの部分のみが非常に有名なんですが、今日の舞台は素晴らしかった。とくに最後の獅子の姿で二人が登場してから首振りの部分までの進行、こちらも痺れました。水を打ったように静まりかえる客席のなか、二人が登場し、ゆっくりと交互に見栄を切り、鮮烈な色彩の衣装と紅白の髪のインパクトに圧倒されるような素晴らしい緊張感。花道と舞台の見栄の交換。歌舞伎の様式美の極致のような素晴らしい時間でした。最初は踊りを見る舞台だろうくらいに思っていましたが、歌舞伎の真髄にふれるいい舞台でした。

3本とも大満足でした。終わったのが4時近く。



歌舞伎が終わって夕方の銀座を散策。小雨がぱらついてきましたので、雨宿りがてらまだ入ったことがなかった三越の新館をうろうろ。それから久しく行ってなかった山野楽器の銀座本店。最近タワーレコードなどにはたまに行っていたものの、山野楽器は久しぶり。お店の系列が違うと並んでいるアルバムも結構違います。主に歌曲、室内楽の未入手盤がいろいろありましたので、何枚か手に入れました。こちらは、追ってレビューで取りあげたいと思います。

夕食は東北支援で、有楽町にある盛岡冷麺のお店「ぴょんぴょん舎」。

ぴょんぴょん舎:GINZA UNA店

今日は嫁さんと友人合わせて4人。生ビールで喉を潤し、3800円のコースを注文。これがお腹いっぱいになるバランスのいいコースでした。

ぴょんぴょん舎は仙台に住んでいる時に、盛岡の稲荷町本店に何度か行ったことがあります。本店の方も冷麺の店としては綺麗な造りだったんですが、GINZA UNA店は新しいこともあって、とても綺麗なお店。こちらも今回がはじめてではなく、以前に一度来たことがあります。

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コースの最初の小皿。

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チャプチェとサラダ。

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最初はアサヒの生だったんですが、途中から盛岡の地ビール「ベアレン」。黒の「シュバルツ」とラガーの「クラシック」を交互に頼んで、勝手にハーフ・アンド・ハーフにして楽しみました。シュバルツは意外とまろやかでバランスの良い黒ビールですね。ハーフ・アンド・ハーフにする必要もないくらい。

盛岡地ビールベアレン

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写真はハラミ。写りが貧相ですが、焼き肉はタン塩からカルビ、ハラミ、ホルモンなどお腹いっぱいになるくらい出てきます。味も悪くありません。

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そして冷麺と石焼ビビンパ。いくつかのメニューのなかから選べます。冷麺はいつもながら腰のある麺と、こくのあるスープでこのお店ならではの美味しさ。石焼ビビンパもお焦げがちゃんとバランスよく出来ていて美味しかったです。コースメニュー故小さな器で出てきますが、焼き肉でお腹が満ちてますのでこのくらいじゃないと入りません。そうゆう意味でも焼き肉と冷麺を楽しみたい人にはいいコースですね。

IMG_1823.jpg

最後はアイスクリームにフルーツと値段にしては非常に豪華なメニューでした。このコースはおすすめですね。

ひとしきりおしゃべりを楽しんだ後、久しぶりにカラオケまで行ってしまいました(笑)

今日は、午前中やむなく仕事に出かけますので、午後は山野楽器で仕入れたアルバムでも聴いてのんびり過ごしたいと思ってます。

テーマ : 歌舞伎
ジャンル : 学問・文化・芸術

tag : 歌舞伎

ジェーン・エドワーズの歌曲集

今日は激マイナー盤。

Edwards.jpg
HMV ONLINEicon

ジェーン・エドワーズ(Jane Edwards)のソプラノ、ジェフリー・ランカスター(Geoffrey Lancaster)のフォルテピアノによるハイドンの歌曲集。ドイツ語による12曲の歌曲集第1集、第2集とカンタータ「ナクソスのアリアンナ」の25曲を収めたアルバム。収録は1997年10月20日、21日、24日、25日、オーストラリアのシドニー、オーストラリア放送ウルティモ・センター、ユージン・ゴッセン・ホールでのセッション録音。レーベルはオーストラリア放送のDISCOVERYというレーベル。

ハイドンの歌曲集をオーストラリアの奏者で収録したアルバムというだけでも珍しいもの。しかもフォルテピアノの伴奏と言う本格派。

ジェーン・エドワーズはオーストラリアのソプラノ歌手。現在はシドニー音楽院の教職にあるそう。エドワーズを紹介したオーストラリアのピアノメーカーのサイトがありますの紹介しておきましょう。

Jane Edwards Bio' - Overs Pianos(英文)

久しぶりの歌曲のアルバム故、収録順ではなく目玉の「ナクソスのアリアンナ」から取りあげましょう。曲の解説は以前の記事で取りあげましたのでそちらをご参照ください。

2010/08/08 : ハイドン–声楽曲 : アンナ・ボニタティバスのオペラアリア集(つづき)

カンタータ「ナクソスのアリアンナ」(Hob.XXVIb:2)1789年頃作曲
非常にゆったりと抑えながらもドラマティックに始まるランカスターのフォルテピアノ。中域重視の柔らかな音色のフォルテピアノによるなかなかの語り口。エドワーズの声はわかわかしく張りのあるソプラノ。透明感もあり声質はいいですね。ヴォリュームを大きくするとなかなかの迫力。ランカスターのフォルテピアノの落ち着き払った語り口が演奏のペースを支配していますね。この曲は構えが大きくていい演奏。4曲構成のこの曲。3曲目に感情が爆発する場面の吹っ切れ具合もなかなかのもの。エドワーズも髪を振り乱さんばかりの熱演。ランカスターのフォルテピアノも迫力のサポート。終曲はほのかな光がさすような回想的な明るさからはじまり、徐々に力感を増し最後は本当にぶっちぎるように振り切れて終了。声の美しさを最初は感じたんですが最後は力んでしまったような力の入り方。ライヴであればなかなかの迫力ですが、アルバムとして聴くともうすこし歌曲の美しさを感じさせてもいいのではと思う余地がありました。歌も伴奏も非常にデリケートなニュアンスが求められますね。

ドイツ語による12曲の歌曲集第1集、第2集(Hob.XXVIa:1~24)1781年作曲
先に聴いたナクソスのアリアンナと同様のトーンで進めます。こちらの曲集とナクソスのアリアンナではフォルテピアノが別物のような演奏。前曲ではとぼとぼと語りかけるような演奏でしたが、こちらでは割と几帳面に変化の幅も小さくなった、ある意味ごく普通の演奏。伴奏が主導権をとるようなそぶりは見せません。1曲1曲語りかけるような歌を楽しめますが、逆にナクソスのアリアンナよりも平凡な印象もあります。歌の表情の豊かさ、フォルテピアノとの相性などにおいて、ちょっと全曲と差がある印象をもっています。ここでは1曲づつ取り上げないことといたします。

評価は「ナクソスのアリアンナ」が[++++]、その他の曲は[+++]としました。オーストラリアの歌手によるハイドンの歌曲集という珍しさに背中を押されて手に入れたアルバムですが、そういう意味ではよく録れているアルバムと言うことができるでしょう。

なかなか狙っても素晴らしい盤にたどり着かないものですね。明日は新橋演舞場に歌舞伎見物です。

テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽

tag : 歌曲 古楽器 ナクソスのアリアンナ

ロンドン・フォルテピアノ・トリオのピアノ三重奏曲集

最近のお気に入りはピアノ三重奏曲。今日はCDラックの中から最近あまり取り出していないアルバムを取りあげました。

LondonFPT.jpg
amazon

ロンドン・フォルテピアノ・トリオ(London Fortepiano Trio)の演奏でハイドンのピアノ三重奏曲の有名どころ3曲(Hob.XV:24、XV:25、XV:26)を収めたアルバム。収録は1988年1月30日、31日のセッション録音。ロケーションは記載されていません。レーベルはロンドンのhyperion。

このアルバムを取りあげたのは、最近いろいろと素晴らしい演奏を聴くピアノ三重奏曲ですが、以前わりといい感触をもっていたこのアルバムが、最近の肥えた耳で聴いてみたくなったから。フォルテピアノのリンダ・ニコルソンも以前聴いた録音がなかなか良かったので、この古いアルバムを再び手に取ったという流れです。

ロンドン・フォルテピアノ・トリオについて、このアルバムにも解説はなくネット上にもあまり情報がありません。そこでリンダ・ニコルソンのことを調べてみるとありました。

Linda Nicholson, Harpsichord, Clavichord, Fortepiano(英独文)

このアルバムの演奏当時のロンドン・フォルテピアノ・トリオのメンバーは次の通り。
モニカ・ハゲット(Monica Huggett、ヴァイオリン)
ティモシー・メイソン(Timothy Mason、チェロ)
リンダ・ニコルソン(Linda Nicholson、フォルテピアノ)

これに対し、現在もロンドン・フォルテピアノ・トリオという名前で継続していますが、ニコルソン以外は入れ替わっています。
ヒロ・クロサキ(Hiro Kurosaki、ヴァイオリン)
マーティン・フリッツ(Martin Fritz、チェロ)

ニコルソンとヒロ・クロサキの弾いたモーツァルトのヴァイオリンソナタのアルバムが以前聴いて印象に残ったアルバム。

このアルバムは1988年と今から23年も前の録音ゆえ、ライナーノーツの写真のニコルソンも若々しいですね。若きニコルソンの弾くハイドンの三重奏の出来は、いまどう聴こえるでしょうか。

ピアノ三重奏曲Op.38 [D] Hob.XV:24(1795年作曲)
鮮烈な開始が印象的な曲。古楽器の鋭利な音色が耳に刺さります。今聴くと意外と溜めもありテンポも緩急を結構つけて曲のメリハリを良く表現しています。少し音量を上げて聴くと自宅にトリオが出現するようなリアルな音像。やはりニコルソンが主導権を握ってアンサンブルを引っ張ります。休符の使い方が効果的でフレーズごとのメリハリが見事。ハゲットのヴァイオリンは直裁な音色が魅力。チェロのメイソンは少し控えめながら力強い演奏でアンサンブルを締めています。やはりピアノトリオはいいですね。アンサンブルの妙味を味わえます。
2楽章は古楽器の尖った音色がちょっと険しすぎるのかもしれません。特にヴァイオリンのアクセントは刺さるような鋭利さで迫ります。ニコルソンの豊かな情感を感じさせるフレージングと比べるとヴァイオリンに若干単調さを感じなくはありません。
フィナーレは前楽章のすこし単調な印象を引き継いでしまっているため、乗り切れないで音を重ねて行ってしまっているのが残念なところ。念入り、濃いめの表情なんですが、音楽に踊る感じがあまりせず、曲から音楽を紡ぎ出せていない感じを残してしまいます。

ピアノ三重奏曲Op.39 [G] Hob.XV:25(1795年作曲)
終楽章が有名なジプシー・ロンドの曲。1楽章は最近聴き慣れた演奏の中では念入りな遅めの演奏の一つ。ヴァイオリンの響きは前曲よりも変化をつけて豊かさを増しています。ヴァイオリンの出来は明らかに前曲よりも良い感じ。
2楽章はポコ・アダージョ。穏やかな曲調ですが、古楽器のダイレクト感のある音色で弾き進め、若干刺激をのこしている印象。前に出てくるフレージングでぐいぐい攻める感じもします。
3楽章のジプシー・ロンド。ヴァイオリンが今までと替わり引きずるような独特な弓使い。徐々にスピードが上がりアンサンブルの興奮も高まります。

ピアノ三重奏曲Op.40 [F Sharp] Hob.XV:26(1795年作曲)
最後の曲は1楽章からヴァイオリンのフレージングに変化が見られます。オーソドックスな範囲な演奏から、ヴァイオリンが少し変化で自己主張をしているようですね。基本的に前曲と同様ですが、曲が成熟して聴こえる分少し落ち着いた演奏でもあります。メリハリの幅が広がり、アクセントも決まります。
2楽章はどこかで聴いたフレーズ。そう、交響曲102番のあの穏やかなメロディー。オーケストラの柔らかいフレーズではなくクッキリしたピアノトリオで聴くメロディーもいいものですね。
最後の楽章は決まったリズムを基調とした曲ですが、やはりちょっと単調さを垣間見せてしまいます。

遠い昔の記憶では古楽器のいい演奏との印象でしたが、最近素晴らしい演奏を聴き続けている耳からすると、演奏の単調さが気になる部分があります。とくにヴァイオリンがちょっと弱いのが全体の印象を左右している感じがします。ニコルソンのフォルテピアノは流石にニュアンスも豊かですが、アンサンブルゆえ全体の印象はいろいろな要素が影響してしまいます。評価は全曲[+++]としました。最近いろいろな演奏に出会い、昔の記憶も当てにならなくなってきましたね。音楽とは奥が深いものですね。これはニコルソンの新しいアルバムも聴いてみなくてはなりませんね。

テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽

tag : ピアノ三重奏曲 古楽器 ジプシー・ロンド

バボラークのホルン協奏曲2番(VIId:4)

今日は珍しい曲のアルバム。かなり以前に手に入れたものですが、ハイドンの曲が含まれていると気づかなかったものをCDラックから発見!

Baborak.jpg

どうやら、このアルバムも廃盤のようです。

ラデク・バボラーク(Radek Baborák)のホルン、ペトル・ヴロンスキ(Pet)指揮チェコ室内フィルハーモニックの演奏でハイドンのホルン協奏曲、ただし有名な方ではなく2番と呼ばれるHob.VIId:4と、J.V.スティッチのホルン協奏曲第5番、ミヒャエル・ハイドンのロマンス、ロセッティのホルン協奏曲、モーツァルトのホルンと管弦楽のためのロンドKV371の5曲を収めたアルバム。収録は2001年3月、プラハのARCO DIVAスタジオでのセッション録音。レーベルはチェコのGZ Digital Mediaというレーベル。

バボラークは今やベルリンフィルの首席ホルン奏者として、世界で最も有名なホルン奏者、現代のデニス・ブレインのような存在でしょう。1976年チェコのプラハの東方約100キロのパルドゥビツェという街の生まれということで、現在でも35歳とまだまだ若い人。この演奏は2001年ですので25歳の録音です。若い時から数々のコンクールで賞をとり、既に18歳でチェコフィルの首席ホルン奏者に。その後ミュンヘンフィル、バンベルク交響楽団で経験を重ね、2003年にはベルリンフィルの首席ホルン奏者に。日本ではEXTONがいろいろアルバムを出しているのでおなじみの方も多いでしょう。このアルバムもベルリンフィルの首席奏者に抜擢される前の録音。残念ながらHMV ONLINEにもamazonにも見当たりませんし、バボラーク本人のサイトのディスコグラフィーにも掲載されていません。

www.baborak.com(英語あり)

このアルバムに含まれるハイドンのホルン協奏曲(Hob.VIId:4)はハイドンの真作性未確定とのことで、ミヒャエル・ハイドンの作との説もあります。聴くとわかりますが、Hob.VIId:3の方とは明らかに出来が異なり、ハイドンのその他の協奏曲の充実した響きとは明らかに差があります。そのへんはともかくとして、このアルバム、バボラークの腕前が噂に違わぬものかが聴き所でしょう。

ホルン協奏曲(Hob.VIId:4-真作性未確定)1782年以前作曲
穏やかな表情のオケの入り。ちょっと単調な感じもしなくもない冒頭のメロディーを、ヴロンスキが非常に律儀に描いていきます。現代楽器の小編成オケの演奏ですが、落ち着き払った展開。バボラークのホルンはその律儀なオケに乗って素晴らしく正確なリズムと音程で教科書を吹くような模範的演奏。ホルンのソロよりオケの方が出遅れるように聴こえるのが微笑ましい演奏。なんてことはないフレーズなんですがホルンのリズムと音程のキレは流石天才の名を欲しいままにしているバボラークならでは盤石の演奏。1楽章のカデンツァはこれ以上正確に吹くことはもはや誰もできないような演奏。
2楽章のアダージョは影のあるうら悲しい旋律。ヴァイオリン主体のオケによる切々とした響きにホルンが1楽章とは異なる影のあるフレージングでメロディーを重ねていきます。おおらかな音色と憂いのある旋律のコントラストはこの楽章の聴き所ですね。
フィナーレはアレグロ。オケの推進力は節度を保った控えめなものですが、ホルンが気持ちよくメロディーを吹き抜いていき、もはや独壇場。ホルン1本で存在感では完全にオケを上回っています。何気ない律儀な演奏なんですが、今まで聴いたホルンの演奏を思い起こすとこのリズムのキレと音程の安定感はやはり神がかっているというレベルですね。地味な曲ながらホルンの名演奏を味わえるアルバムですね。

オケは平凡なものですが、バボラークの痛快なホルンの演奏を楽しめるということで、評価は[++++]としておきます。バボラークにはまだ他にハイドンの室内楽などの録音があるようですので、未入手盤リストに書き込んでいつか入手したいと思います。バボラークのテクニックとキレたオケの組み合わせでホルン協奏曲やホルン信号などの名曲を聴く機会を楽しみにしておきましょう。

追記:バボラークは既にベルリンフィルを退団しているとのこと。ご指摘ありがとうございました。(2011年6月22日)

テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽

tag : ホルン協奏曲

フィリップ・アントルモン/ウィーン室内管のオックスフォード、悲しみ

今日は交響曲です。

Entremont92.jpg

フィリップ・アントルモン(Philippe Entremont)指揮のウィーン室内管弦楽団の演奏で、ハイドンの交響曲92番「オックスフォード」と交響曲44番「悲しみ」の2曲を収めたアルバム。収録は1990年の12月、収録場所は不明です。レーベルはharmonia mundi。このアルバム自体は残念ながら廃盤の模様。

アントルモンにはハイドンの録音がいろいろあるのですが、これまでちゃんと取りあげていませんでした。

フィリップ・アントルモンはWikipediaの情報によると1934年、フランスのランス生まれのピアニストで指揮者。父は指揮者、ヴァイオリニスト、母はピアニストと音楽家一家に生まれました。パリ音楽院に学び、若い時からエリザベート王妃国際音楽コンクールやロン=ティボー国際コンクールなどで入賞や最高位を得るなど輝かしい業績。このアルバムのオケであるウィーン室内管弦楽団では指揮・音楽監督を30年間にわたり務め、現在は終身桂冠指揮者に就任している。教える方ではウィーン国立音楽院の教職にあり、また日本ではNHKの「スーパーピアノレッスン」モーツァルト編に講師として出演したのでご覧になった方も多いのではないでしょうか。

ハイドンでは有名なところで言うとピアノ協奏曲のまとまった録音があり、現在でもWARNER CLASSICS & JAZZのハイドンの協奏曲ボックスに収められて現役盤です。こちらもそのうち取りあげねばなりませんね。

このアルバムを取りあげたのはその素晴らしい演奏から。密かな愛聴盤でもあります。

交響曲92番「オックスフォード」(Hob.I:92)1789年作曲
小編成の現代楽器オケによるタイトな響き。冒頭からキビキビとしたフレージングが心地よいですね。録音も流石harmonia mundiらしく適度な残響と力強さが両立する素晴らしいもの。いい演奏の見本のように変な癖もなく、キレのよいテンポ、素晴らしい力感、フレーズごとの表情をしっかりつけて1楽章の立体感溢れる音響を万全の響きで聴かせます。
2楽章は現代楽器らしいゆったりとした響きではじまり、特にウィーンのオケらしく木管楽器の美しい響きが印象的。こうしたゆったりした楽章キビキビ感を失わないのは流石。展開部に入りオケはフルスロットル。火照りが静まったところで再び木管楽器の美しいフレーズで癒されます。
3楽章は非常に均整のとれたメヌエット。ウィーンの室内オケゆえ、ハイドンの交響曲を演奏し慣れているんでしょうか、まさに理想的なメヌエット、力感、均整、機知の何れも十分。
そして非常に抑えた音量から微風のような終楽章の有名なメロディーが響きます。これしかないと言う完璧なテンポ。すぐにオケの爆発に飲み込まれますが、再びこのメロディーが入る時にはこの抑えが非常に効いて素晴らしいメリハリ。いつ聴いても素晴らしいフィナーレの複雑なメロディーの構成。やはりハイドンは天才。最後の盛り上がりも素晴らしいんですが、合間に入るフルートの音色の美しさが際立ちます。安心して聴けるプロの名演といったところでしょう。

交響曲44番「悲しみ」(Hob.I:44)1772以前年作曲
ぐっと時代が遡ってシュトルム・ウント・ドランク期の名曲。音が鳴り響くと同時に憂いのあるハイドンのこの時期独特のほの暗い響きにいきなり惹き付けられます。前曲同様キビキビ感の素晴らしい演奏。この曲の1楽章はヴァイオリンの音階のキレが聴き所の一つなんですが、これまた素晴らしい演奏。悲しみといえば以前とりあげたシュミット=ゲルテンバッハ指揮のワルシャワ・シンフォニアが神がかったヴァイオリンのキレで痺れましたが、その演奏とくらべて精度は粗いもののエネルギーは劣りません。ハイドンの名旋律にただ痺れるひと時。この溢れ出る生気は素晴らしいですね。
2楽章はメヌエット。ほの暗い美しい旋律の海に呑まれるような素晴らしい楽章。弦楽器のあいかわらずキビキビ感に溢れた分厚い音色によって奏でられる旋律。素晴らしい立体感。溢れる詩情。ハイドンの魂が乗り移ったかのような素晴らしい音楽です。アントルモンの巧みなコントロールにより、深い影が心に刺さります。
そして3楽章はアダージョ。弱音器つきのヴァイオリンの美しすぎる旋律に木管が重なりとろけそう。完璧なテンポ、深い呼吸、ゆったりとした感興。この楽章は完璧。
そしてフィナーレ。渾身の力で最後の楽章を盛り上げます。もはや言葉は必要なし。溢れる生気と、迸るエネルギー。オーケストラも完全燃焼で終了。

いやいや、何度聴いても素晴らしい演奏。このアルバムが現在廃盤なのは人類の損失でしょう。是非再発売させてほしいですね。評価はもちろん両曲とも[+++++]。特に「悲しみ」は図抜けて素晴らしい演奏。先に触れたシュミット=ゲルテンバッハ指揮のワルシャワ・シンフォニアが演奏の素晴らしい精度で聴かせたのに対し、こちらはしっとりと情感の乗った心に触れる名演奏。いちど皆さんに聴いていただきたい演奏ですね。タワーレコードの復刻シリーズなどに取りあげてもらえないでしょうかね。

今日は最近休日出勤などが多かったのでお休みをとっています。これから散歩にでも出てのんびりしてきます。

テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽

tag : オックスフォード 悲しみ ハイドン入門者向け

プロフィール

Daisy


Author:Daisy

なぜかハイドン(Franz Joseph Haydn)が特に気に入り膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。東京在住のごく普通のサラリーマンです。

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