東京オペラシティでスクロヴァチェフスキ/読響の英雄に打たれる

今日は台風17号迫る中、以前からチケットを取ってあったコンサートに。

第147回オペラシティ・マチネーシリーズ-読売日本交響楽団

スクロヴァチェフスキはハイドンを振る訳ではありませんが、以前に行ったコンサートはどれも素晴らしく、年齢が信じられないほどの活き活きとした音楽を楽しめるので、やはりコンサートには足が向きます。これで4回目のスクロヴァチェフスキのコンサートです。

2011/12/27 : コンサートレポート : スクロヴァチェフスキ/N響の第九(サントリーホール)
2011/10/19 : コンサートレポート : スクロヴァチェフスキ、オペラシティでのブルックナー爆演
2010/03/25 : コンサートレポート : 読響最後のスクロヴァチェフスキ

今日は東京オペラシティでのベートーヴェンの2番と3番「英雄」という正統派プログラム。ベートーヴェンの交響曲でも2番はハイドン時代の構成の延長にある曲なので好きな曲。そして英雄はハイドンが到達した交響曲の高みに対して、次元を超える創造で新境地を切り開いた曲でしょう。この名曲をスクロヴァチェフスキがどう料理するのか、期待は高まります。

今日の東京はお昼までは台風襲来を感じさせない平常を保っていました。開場のだいぶ前にオペラシティについて、ホールの下の階にある本屋さんで少々のんびり。英気十分で開場を待ちました。

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もちろん開場後、すぐにビュッフェに立ち寄り、珈琲と赤ワインで喉を潤します。

イメーシ#12441;

今日の赤ワインは勝沼、鳥居平の「鳥居平ルージュ」。山梨特産のブラック・クィーンのワイン。こうして音楽ホールでも国産のワインを名前を出して給するようになったんですね。口当たりが柔らかい優しい味の赤ワインでした。

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開演前に練習するステージ上の奏者たち。今日の席は1階の右前の方。

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ついでに、上方をパチリ。東京オペラシティのタケミツ・メモリアル・ホールの高い天井。この時間はまだ台風の影響もなくホール内はこれから起こるただならぬ演奏を待つ、まさに嵐の前の静けさの状況。



開演時間である14:00の少し前に、ステージ上には読売日本交響楽団の団員が登場しだします。1曲目はベートーヴェンの2番。つづく3番のために少し席を残した規模のオーケストラ。

ベートーヴェンの交響曲2番は1801年から2年の作曲で、初演は1903年4月5日、アン・デア・ウィーン劇場とのこと。1803年といえば、ハイドン最後の作品である弦楽四重奏曲Op.103が作曲された年。

この日のコンサートマスターはデヴィッド・ノーランさん。いつものように調律が終わると、袖から元気そうなスクロヴァチェフスキさん登場で、拍手喝采。指揮台に登る時に脚を気にする様子は、以前と変わりません。演奏前なのに万来の拍手を浴びて、にこやかに応ずる様子もいつも通りで一安心。

2番は、最初の一音から最後まで、圧巻の出来でした。いつもハイドンばかり聴いている私の耳には、交響曲というジャンルを確立したハイドンのなし得た偉業を、新しい世代が、これまでとは異なる次元の力感を込めて超えていった様子が手に取るようにわかる演奏でした。
スクロヴァチェフスキらしい、引き締まった響きと、時折聴かせる弦楽器のうなりを伴うような深い響きで、ベートーヴェンの初期の交響曲を描いていきます。1楽章は長い序奏をじっくりと聴かせたあと、主題に入ると、テンポを上げ、アポロン的な均衡を保ちながら、沸き上がる力感をじっくり描いていきます。スピーディにまとめる演奏が多い中、スクロヴァチェフスキはスピーディななかに、ミケランジェロの彫刻のように筋肉のディティールをデフォルメするように強調しながら、全体のバランスを躍動的に描くような演奏。スクロヴァチェフスキ流のデュナーミクの変化が引き締まった表情を保ち、徐々にエネルギーを増していくようになり、クライマックスではスクロヴァチェフスキは両手を震えるように振り上げて、オケを煽りまくり、もの凄いエネルギーを引き出します。
2楽章のラルゲットはスクロヴァチェフスキの真骨頂。時折まるでブルックナーのアダージョのような深い響きを時折聴かせながらも引き締まった規律を保った演奏。後半の盛り上がりはまさにブルックナーの大伽藍を思わせる神々しさ。ベートーヴェンの2番からこのような荘厳な響きを聴けるとは思いませんでした。
3楽章のスケルツォはハイドン時代のメヌエットによる均衡から一段と力の表現が濃くなり、オケは、エネルギーの塊のように荒れ狂います。つづくフィナーレもあわせて、徐々にクライマックスにいたる大きな流れをつくり、頂点を鮮明に意識して、スロットルを少しづつ開いていきます。静と動の変化も巧みにコントロールして、豊かな表情と引き締まった響きを両立した素晴らしい感興。いやいや、ここまでの高みに至るとは。1曲目なのに割れんばかりの嵐のような拍手に迎えられます。スクロヴァチェフスキさん、満面の笑顔で拍手に応えます。

休憩を挟んで、今日の本命、英雄です。作曲は1802年から4年、初演は1904年12月、ロプコヴィッツ伯爵邸でということです。ロプコヴィッツ伯爵はハイドンが弦楽四重奏曲Op.77を献呈した人です。

こちらは、さらなる高みに。まずは、英雄の最初の一撃の集中力、凝縮感に圧倒されます。スクロヴァチェフスキは震えるようにタクトを振り上げ、素人にはどこで入るのか全くわからないタイミングでの入り。この一音、というかニ音ですが、響きの緊張感はただならぬもの。最初の一撃のみで、開場の聴衆の耳を鷲掴みにします。以降は2番と同様、引き締まった響きで音楽をつくっていきますが、聴き進むうちに2番はそれでも抑制していたことがわかります。要所で見せるスケールの大きさは2番とはやはり差がつきます。オケの編成も少し大きくなり、コントラバスの図太く深い響きや、オーボエの美しい響きが音色の幅を広げています。1楽章は寄せては返す大波のように何度かの盛り上がりのあと、最後のクライマックスはそれまでの音楽の造りも含めて、素晴らしい上昇感と力感。CDで聴くのも悪くありませんが、やはり渾身の生は違いますね。
2楽章の葬送行進曲は、実に深いフレージングでじっくりと攻め込みます。静寂と弦楽器の唸るような響きの繰り返しはやはりスクロヴァチェフスキの得意とするブルックナーのアダージョを思わせるもの。ただ、ブルックナーの響きに没入するような圧倒的な轟音とは異なり、古典の均衡をきっちり意識して、ベートーヴェンらしさも保っています。
スケルツォはホルンの名旋律で知られますが、この日の読響のホルンは絶妙な上手さ。スクロヴァチェフスキの渾身の指揮に奏者が完璧な演奏で応えます。今日はミスらしいミスはなく、読響は素晴らしい演奏で華を添えています。
そしてフィナーレはスクロヴァチェフスキ圧巻のコントロール。とくに極端にテンポを落とすさざめくような場面を意識的に作って、盛り上がりを演出するあたりは、並の指揮者とは異なります。完全にスクロヴァチェフスキのベートーヴェンになっていました。長大な英雄ですが、引き締まってかつ、彫りの深い音楽として、実に聴き応えのあるものでした。最後は嵐のような拍手とブラヴォーに何度も呼び返され、今日の充実振りを楽しむようなスクロヴァチェフスキの笑顔が印象的でした。コンサートマスターのデヴィッド・ノーランとガッチリ握手してずいぶんにこやかに話していたところをみると、今日の演奏はスクロヴァチェフスキにとっても納得の演奏だったのでしょう。

今日は素晴らしいベートーヴェンでした。おそらくテレビでも放送されるでしょうから、このコンサートを聴けなかった人にもこの様子を味わってほしいですね。昨年末に聴いたN響との第九も素晴らしいものでしたが、振り慣れた読響との2番と英雄はそれを上回る出来と言えるでしょう。

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今日は9割5分の入りというところでしょう。心なしか年配者が多かったようですが、皆さん満足げに開場を後にされていました。

いつもだと、このあと食事をして帰るのですが、今日は台風接近に備えて、おとなしく家路につきました。明日からまた、忙しい仕事ですね、、、

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Haydn Disk of the Month - September 2012

先週あたりから東京もだいぶ涼しくなり、すっかり秋らしくなってきました。音楽を聴くにはいい季節ですが、今月は仕事が怒濤の忙しさで、レビューに取りあげるアルバムも多くありませんでした。いつもながらですが、1本レビューを書くためにはアルバム選びもにも意外と時間がかかります。新着盤で演奏が良ければ一瞬なのですが、そうでない場合はいろいろ試行錯誤して、何枚か聴いて気に入ったアルバムを取りあげることになります。ということで、今月は聴いた枚数も少なく、また、厳選度合いも下がってしまいました。なお明日は用事があるので、都合により1日早く今月の1枚を選びます。

Haydn Disk of the Month - September 2012

今月は、実に久しぶりに、ビシッと1枚に絞りました。

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2012/09/17 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : ボロディン四重奏団の十字架上のキリストの最後の七つの言葉

今月は文句なくこれでしょう。ハイドンの弦楽四重奏曲の極北の姿。精緻、鋭敏、冷徹な響きが耳を通じて心に刺さります。ボロディン四重奏団は今でも現役ですが、メンバーも変わり、この冴え冴えとした響きは聴かれなくなってしまいました。この録音の頃が全盛期でしょう。素晴らしいアルバムです。

今月注目すべきアルバムは下記の通り。

2012/09/23 : ハイドン–声楽曲 : ロバート・クンシャクのサルヴェ・レジーナ、テ・デウム
2012/09/21 : ハイドン–協奏曲 : 【新着】オリヴァー・シュニーダー/イギリス室内管のピアノ協奏曲集
2012/09/02 : ハイドン–オラトリオ : トーマス・ビーチャム/ロイヤル・フィルの四季

ロバート・クンシャクのサルヴェ・レジーナ、テ・デウムは自主制作盤故、入手はほぼ困難でしょうが、美しいバロック様式の聖堂であるディーセン・マリア聖堂で収録した、演奏者の志がじわりと伝わる感動的な演奏。オリヴァー・シュニーダーはタッチの切れ味が絶妙の若手ピアニストで、ハイドンとの相性はばっちり。将来が楽しみです。そして、今更ですがビーチャムの四季はハイドンの音楽を知り尽くしたビーチャムの円熟の指揮。程よいコントロールと要所を締め、またユーモアのセンス等を含めてハイドンの音楽を知り尽くしたビーチャムならではの音楽です。

明日は、東京オペラシティでスクロヴァチェフスキの英雄などを聴きにいきます。スクロヴァチェフスキのコンサートは毎回素晴らしい覇気に心を打たれます。御大はなんと88歳。今回もスクロヴァチェフスキが読響の導火線に火をつけますでしょうか。期待大です。

2012年9月のデータ(2012年9月30日)
登録曲数:1,313曲(前月比±0曲)登録演奏数:6,720件(前月比+10演奏)

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オーフラ・ハノーイのチェロ協奏曲集

今日は色物(笑)

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オーフラ・ハノーイ(Ofra Harnoy)のチェロ、ポール・ロビンソン(Paul Robinson)指揮のトロント室内管弦楽団(Toronto Chamber Orchestra)の演奏でハイドンのチェロ協奏曲1番と2番を収めたアルバム。収録は1983年、カナダ、トロントのマッセイ・ホールでのセッション録音。レーベルはRCA GOLD SEAL。
※収録年が当初1993年と誤った表記となっておりました。

オーフラ・ハノーイは一時美人チェリストとして人気のあった人。日本でもおなじみの人は多いかもしれませんが、私は実ははじめて聴く人。いつものように略歴を紹介しておきましょう。

1965年、イスラエルのハデラ(Hadera)生まれのチェリスト。1971年家族とともにイスラエルからカナダ、トロントに移住。父親からチェロを習うようになり、ピエール・フルニエ、ジャクリーヌ・デュ・プレ、ムスティスラフ・ロストロポーヴィチなど錚々たるチェリストに師事した。オーケストラとの共演したデビューは早くも10歳のときで、1982年にはニューヨークのカーネギーホールでリサイタルを開く等、若くして才能が開花しました。
一方、1983年にはオッフェンバックのチェロ協奏曲の初演および初録音、翌1984年にはイギリスの作曲家アーサー・ブリスのチェロ協奏曲を北米初演、そしてヴィヴァルディのいくつかのチェロ協奏曲の世界初演を果たす等アカデミックな側面も持っています。1987年以降RCA Victorの看板チェリストとして多くの有名曲の録音を残しました。日本でもずいぶん露出されていたように記憶しています。
またクラシック以外のジャンルにも積極的に取り組み、スティングやカナダのケルティック・ハープ奏者、ロリーナ・マッケニット(Loreena McKennitt)などとも共演しているそうです。

本人のサイトがありましたので、紹介しておきましょう。

OfraHarnoy.com

HMV ONLINEなどをみると現役盤もあまりないことから、最近活動しているのかどうかわかりません。ハノーイのハイドンはどのような音楽を聴かせてくれるでしょうか?

Hob.VIIb:1 / Cello Concerto No.1 [C] (1765-7)
オケは堅実、ゆったり気味のテンポですが、エッジはキリッと立てて、マナーのいい伴奏。ハノーイのチェロもクッキリとエッジがたったものですが、女性奏者らしく高音の鳴きが印象的。聴き進めていくと、フレージングは耽美的ですらあるように変化していきます。オケもそれに合わせて流麗に変化。要所のアクセントによってメリハリも保ちながら、チェロ本来の高音の美しさをうまく表現した演奏。カデンツァはかなり力の入った意欲的なもの。。オケの落ち着いたサポートにのってオーフラ・ハノーイのチェロが心地よく演奏している感じ。
アダージョは一気にロマンティックに変化。さらにゆったりとしたテンポで、ハイドンの美しい旋律を入念に練り上げていきます。ハノーイのチェロはヴィブラートをたっぷりかけて、流麗至極。くどくなるかと思いきや、それほどでもなく、ハノーイ節をたっぷりと楽しむ事ができます。デュプレのような渾身の演奏というより、どこか落ち着いた流麗さという面もあって、朝焼けを眺めるような爽やかさも感じます。
フィナーレはオケの上手さが際立ちます。非常によく訓練され、リズムとテンポのキレがよく、絢爛豪華な感じがよく出ています。ハノーイのチェロも歯切れのよい伴奏に乗って、チェロも立体的に浮かび上がるような鮮烈な演奏。1番の朗らかさを上手く表現した演奏です。

Hob.VIIb:2 / Cello Concerto No.2 [D] (1783)
2番の入りはこの曲の円熟を示すように、非常に味わい深い伴奏から。指揮のポール・ロビンソン、かなりの腕前とみました。ハノーイのチェロも老成を感じるような落ち着き。大きな構えでテンポが落ち着いているので、演奏がしっかりと地に足をつけている感じに聴こえるのがいい印象につながっています。良く鳴く演奏ですが情緒に流されている感は微塵もなく、しっかりとした骨格設計があるように聴こえます。耽美的なのに落ち着いて聴けるなかなかの演奏ですね。2番のカデンツァは女性らしいタッチの軽さで深い淵を覗き込むような表現の陰影をつけていく秀逸なもの。表現を凝らしているのに不自然さが皆無なところはやはり才能だと言えるでしょう。長大な2番の1楽章をきっちりまとめあげます。
2楽章のアダージョはまさにそよ風のような演奏。美しい高音、完璧なオケとの掛け合い、そして以外にデュナーミクの幅も大きいハノーイのチェロ。音の軽さがいい方向に働いて華麗さにつながっています。
そして回想シーンのようなフィナーレも基本的に冷静さを保ちながらの耽美的な演奏。オケとの一体感も抜群で不揃いなところは皆無。非常にまとまりの良い演奏でした。

美人チェリスト、オーフラ・ハノーイによるハイドンのチェロ協奏曲集。ハノーイ28歳頃の録音で、もうすこし若々しい演奏を想像していましたが、むしろ老成した耽美的な演奏。女性らしい演奏ではありますが、音色の軽さから来る爽やかさと確かな技術に裏付けられた安定感が相俟ったチェロ。当時の人気に恥じない演奏ということが出来るでしょう。このアルバムではポール・ロビンソンの指揮によるトロント室内管弦楽団がキリッと引き締まった伴奏で好サポート。オケの響きの良さも聴き所です。評価は両曲とも[++++]とします。

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tag : チェロ協奏曲 美人奏者

ベルリン・フィルハーモニー・ソロイスツの「誕生日」

今日もマイナー盤。最近お店に仕入れに行く時間が取れないので、オークションなどで未入手盤を集めています。

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ベルリン・フィルハーモニー・ソロイスツ(Philharmonische Solisten Berlin)の演奏による、ハイドンのディヴェルティメント(Hob.II:11)「誕生日」などを収めたアルバム。収録は1982年とだけ記載されています。レーベルはDeutsche Grammophonの廉価盤であるeloquenceシリーズ。

このアルバム、ハイドンの他にカール・シュターミツ、フランツ・ダンツィ、アントン・ライヒャ、モーツァルトの管楽器のための室内楽曲を集めたアルバム。奏者はベルリン・フィルの奏者を中心としたもの。

ハイドンの演奏を担当するベルリン・フィルハーモニー・ソロイスツのメンバーは下記の通り。

フルート:カールハインツ・ツェラー(Karlheinz Zoeller)
オーボエ:ローター・コッホ(Lother Koch)
ヴァイオリン:ライナー・ゾンネ(Rainer Sonne)
ヴァイオリン:ハンス=ヨアヒム・ヴェストファル(Hans-Joachim Westphal)
チェロ:ヨルグ・バウマン(Jörg Baumann)
コントラバス:クラウス・シュトル(Klaus Stoll)
チェンバロ:ワルデマール・デリング(Waldemar Döling)

1982年といえばカラヤンがベルリンフィルを振ってた時代ゆえ、そのころのベルリンフィルの腕利き奏者が集まったアンサンブルという事でしょう。ローター・コッホは皆さんご存知の名オーボエ奏者。いちおう名前で検索してみましたが他のメンバーもベルリンフィルの奏者です。

今日取り上げる曲はハイドンの作品群のなかでも、おそらく最もマイナーなジャンルであるディヴェルティメントです。ここで、あらためてディヴェルティメントとはどのような音楽かということを、Wikipediaから引用しておきましょう。

ディヴェルティメント(伊: divertimento)は、18世紀中頃に現れた器楽組曲である。語源はイタリア語の「divertire(楽しい、面白い、気晴らし)」に持ち、明るく軽妙で楽しく、深刻さや暗い雰囲気は避けた曲風である。フランス語ではディヴェルティスマン(divertissement)。日本語では嬉遊曲(喜遊曲、きゆうきょく)とも訳される。
貴族の食卓・娯楽・社交・祝賀などの場で演奏され、楽器編成は特に指定はなく、三重奏、四重奏、弦楽合奏、管楽合奏、小規模のオーケストラなど様々である。また形式・楽章数ともに自由である。演奏の目的を同じとするセレナーデと似ているが、セレナーデが屋外での演奏用であるのに対し、ディヴェルティメントは室内での演奏用だとされる。
18世紀にハイドンやモーツァルトらによって多くの作品が書かれ、19世紀にはいったん廃れたが、20世紀に復活し、バルトークらによって作品が残されている。


また、この曲の成り立ちを手元のマンフレート・フスのアルバムのライナーノーツから紹介しておきましょう。

ハイドンのこの曲は1763年ごろの作曲とされ4楽章構成で6声部のディヴェルティメント。既に1765年頃には多くの楽譜が出版され、広く知られた曲となっていたようです。このディヴェルティメントには「誕生日」というニックネームがついていますが、2楽章では2丁のヴァイオリンがオクターブはなれて、まるで夫婦のように寄り添って誕生日を祝うようすが描かれているとの事。この2楽章は「夫婦」とも呼ばれています。これはハイドン自身によって仕込まれたユーモアだと思われており、こうした特徴によって曲が有名になったものと思われています。まさにディヴェルティメントが楽しむものだということの真髄を突く曲と言っていいでしょう。

ベルリンフィルの名手たちはこのディヴェルティメントに仕込まれたウィットをどう料理するでしょうか。

Hob.II:11 / Divertimento "Der Geburtstag" 「誕生日」(6 Qurtette fur Flote, Violine, Viola und Violincello Op.5 Nr.6) [C] (c.1763)
録音はちょっと古さを感じさせます。デッドな空間に6本の楽器とチェンバロが並びますが、空気感、定位感が今ひとつなので、オンマイクによる収録でしょう。もう少しライヴ感というか祝祭感があったほうが曲に合っているような気がします。
1楽章のプレストは華やかな曲想。2分少々の曲ですが、2本のヴァイオリンとフルート、オーボエ、チェロ、コントラバスが活き活きと躍動する感じ。最近感じるベルリンフィルのソリストたちの華やかな表現力と比べると地味というか生真面目な印象。
2楽章の「夫婦」のモチーフは、非常にシンプルなもの。敢えて単調さを前面に出すような意図を感じる演奏。素朴な音楽。チェンバロも抑えた音色で合わせます。
3楽章はメヌエットで、この曲でもっともしっくり来る演奏。ハイドンのメヌエットだと安心して聴けるメロディー。中盤はヴァイオリンのピチカートによる美しいメロディーが挟まり、ふたたび前半部の繰り返し。
この曲の聴き所は4楽章の7つの変奏曲。ベルリンフィルの名手たちが次々とメロディーを引き継いでいきます。これはまさに演奏者自身が楽しむような音楽です。楽譜が広く行き渡るのが頷ける面白さ。やはりオーボエのローター・コッホは一段プレゼンスが違う見事な演奏。変奏がすすむにつれ楽器の絡み合いが増え、音楽も饒舌に。最後の変奏は期待通り全楽器が重なり、大団円になります。

ベルリンフィルの名手たちによるハイドンのユーモアに富んだディヴェルティメントの演奏。今更ですが、この曲のことを調べた上でこの演奏を聴いてディヴェルティメントの魅力がなんとなく今までよりわかった気がします。このような音楽を自分たちで演奏して楽しむとか、身近な人たちに演奏してもらって楽しむというのが、ディヴェルティメントのあるべき姿でしょう。演奏自体は今から30年前のカラヤン時代のベルリンフィルの重厚さ、真面目さの余韻を感じるもの。コッホのオーボエを中心とした名手の演奏を楽しめるものです。評価は[++++]としたいと思います。

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tag : ディヴェルティメント

ロバート・クンシャクのサルヴェ・レジーナ、テ・デウム

今日はマイナー盤というか、自主制作盤。最近オークションで手に入れたもの。

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ロバート・クンシャク(Robert Kunschak)指揮のディーセン聖チェチーリア室内合唱団(Der Kammerchor des Cäcilienvereins Dießen)とミュンヘン・レジデンス室内管弦楽団(Das Residenz-Kammerorchester München)の演奏でハイドンのサルヴェ・レジーナ(Hob.XXIIIb:2)、同じくロバート・クンシャク指揮のディーセン聖チェチーリア大合唱団(Der Große Chor des Cäcilienvereins Dießen)、バイエルン州立管弦楽団のメンバー(Mitglieder des Bayerischen Staatsorchesters)の演奏でハイドンのテ・デウム(Hob.XXIIIc:1)などを収めたアルバム。収録はサルヴェ・レジーナが1993年7月、ドイツのミュンヘンの西40kmほどのところにあるディーセンという街のディーセン・マリア聖堂(Marienmünster Dießen)でのセッション録音、テ・デウムの方は1992年10月、同じ教会でのライヴ。自主制作盤ですのでレーベル名はありません。

指揮のロバート・クンシャクをはじめとして、合唱団やオケの情報もネットでもあまり詳しい事はわかりません。ライナーノーツもドイツ語ですが、演奏者は名前のみの紹介。このアルバムは自主制作ということで、演奏者自身の記録として製作されたものと想像しています。層の厚いドイツのことですから、レコード会社からアルバムを出せるのは一握りの演奏者に限られるということでしょう。

このアルバムの収録曲は下記の通り。
1. アルビノーニのアダージョ
2. ハイドン/サルヴェ・レジーナ
3. モーツァルト/教会ソナタ(KV144)
4. モーツァルト/教会ソナタ(KV67)
5. モーツァルト/教会ソナタ(KV244)
6. ディーセン・マリア聖堂の歴史解説
7. ハイドン/テ・デウム(ライヴ)
8. ディーセン・マリア聖堂の鐘の音

アルバムの1曲目は有名なアルビノーニのアダージョです。オーソドックスな響きで、ヴァイオリンソロ、オルガンソロも含めて非常に落ち着いた演奏。控えめな表現から切々とした感情が滲む秀演。録音も聖堂の残響はありますが、程よく解像感もあり、聴きやすいものです。自主制作アルバムということで演奏の質はどうかという危惧がありましたが、これは商業リリースに耐える素晴らしさ。

Hob.XXIIIb:2 / Salve Regina 「サルヴェ・レジーナ」 [g] (1771)
この曲はまさにシュトルム・ウント・ドラング期最盛期の作曲。頂点をなす[告別】交響曲が1772年作曲ということで、その直前に作曲されたもの。曲想にはハイドンの絶頂期の創意が漲っています。ソロの歌手は下記の通り。

ソプラノ:アデルハイド・マリア・ターナー(Adelheid Maria Thanner)
アルト:バーバラ・ミュラー(Barbara Müller)
テノール:ロバート・ヴェルレ(Robert Wörle)
バス:ペーター・リカ(Peter Lika)
オルガン:クリスティアン・フリーゼ(Christian Friese)

聖堂に響き渡る心に沁みるようなオルガンの音色。こちらはセッション録音ですですが、ライヴのような緊張感が漲り、ハイドンの書いたメロディーの一音一音に神経が集中します。今更ながらこれは名曲ですね。テンポは中庸、演奏は1曲目のアルビノーニのアダージョ同様落ち着いたというか、非常にしっとりしたもの。録音の感じも同じく、1993年としては悪くありません。何より聖堂の録音としては十分な鮮明さがあり悪くありません。4人のソロは声色がそろって、アンサンブルの質は高いですね。唯一知っているバスのペーター・リカはキリリと引き締まった抜群の声量で存在感十分。4楽章構成の曲ですが、敬虔な心境をじっくりと歌い上げるソロ陣とそれを支える良く鳴るコーラス、そして非常にオーソドックスなオーケストラによる演奏が心を打つ演奏と言えるでしょう。

このあと、モーツァルトの教会ソナタが3曲続きますが、ハイドンの陰りのある静謐な音楽から、雲が晴れて、碧々と抜ける青空が顔を覗かせたような変化。晴朗な転がるような音階や巧みな転調から生まれる音楽的快感は麻薬的。やはりモーツァルトは天才なんでしょう。この曲の配置は見事。演奏もハイドン同様、非常に真面目な演奏がかえって心を打ちます。

Hob.XXIIIc:1 / Te Deum 「テ・デウム」 [C] (1764)
ハイドンにはテ・デウムが2曲残されており、この1764年作曲のものと1798年から1800と最晩年に作曲されたもので、どちらもハ長調。一般的には後者のものの方が有名で、手元の録音も後者の方が多いです。3楽章で10分ほどの小曲。1764年ということはもちろん、シュトルム・ウント・ドラング期の前夜という、ハイドンの気力が漲っていた時期の作品。曲自体も素晴らしい構成感とハイドン独特の美しいメロディーがふんだんに配された曲。

ソロはサルヴァ・レジーナからテノールとバスが入れ替わってます。

ソプラノ:アデルハイド・マリア・ターナー(Adelheid Maria Thanner)
アルト:バーバラ・ミュラー(Barbara Müller)
テノール:クリストフ・レーゼル(Christoph Rösel)
バス:ウォルフガング(Wolfgang Babl)
オルガン:クリスティアン・フリーゼ(Christian Friese)

こちらはライブ収録。この収録があってこの曲の前に置かれた曲の録音が企画されたのでしょう。前のセッション録音にくらべて多少の混濁感はありますが、それほど聴きにくい訳ではありません。ノイズも咳払い等がうっすら聴こえる程度。ライブならではの入りが少々ばらつくようなところはあるものの、いい意味で活き活きとした表情につながっており、この曲の祝祭感溢れる雰囲気を高めているように聴こえます。演奏の基調は前曲と同様、じっくりと慈しむような進行。個性的な演奏ではありませんが、むしろこのオーソドックスさがいい意味で曲の素朴な良さを引き立てています。テノールのクリストフ・レーゼルの柔らかく心地良い声が聴き所でしょう。小曲らしく力強く聖堂響きわたるような盛り上がりを聴かせて終了。拍手はカットされています。

このあと、最後のトラックにはディーセン・マリア聖堂の8種の鐘が打ち鳴らされる音が10分ほど鮮明に録られています。鳥の鳴き声や車の音もうっすらと聴こえるなか、我々日本人には新鮮に響く、大きく重い教会の鐘の響き。ヨーロッパの街で聴かれるあの響きです。このトラックもなにかこのアルバムの志を象徴するようなトラック。

ロバート・クンシャク指揮によるアルビノーニ、ハイドン、モーツァルトの宗教曲をミュンヘン近郊の美しいバロック様式の聖堂であるディーセン・マリア聖堂で収録したアルバム。自主制作ということで、演奏者や関係者に配られたものかとは思いますが、そのアルバムが巡り巡ってオークションを経由して手元に届きました。市販のアルバムはもちろん演奏者の自己表現もありますが、やはり売れる価値のあるものという側面もあるでしょう。このアルバムは自主制作ということから前者に特化したもの。演奏は慈しみ深いと言うか敬虔なというか、演奏者の純粋な心境が良く出たもの。そういう意味では実に興味深いものと言えます。評価はサルヴェ・レジーナが[+++++]、テ・デウムが[++++]とします。

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【新着】オリヴァー・シュニーダー/イギリス室内管のピアノ協奏曲集

いや、今週は仕事が忙しかったです。4日に分けてようやく書いた記事。
最近HMV ONLINEから届いたアルバム。

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HMV ONLINE / amazon / TOWER RECORDS

オリヴァー・シュニーダー(Oliver Schnyder)のピアノ、アンドリュー・ワトキンソン(Andrew Watkinson)指揮のアカデミー室内管弦楽団(Academy of St Martin in the Fields)の演奏で、ハイドンのピアノ協奏曲3曲(Hob.XVIII:3、XVIII:4、XVIII:11)を収めたアルバム。収録は2011年12月15日、16日、ロンドンのヘンリー・ウッド・ホールでのセッション録音。レーベルは今やSONY MUSICグループとなったRCA RED SEAL。

ピアノのオリヴァー・シュニーダーは1973年、スイス、チューリッヒの北西の街、ブルック生まれの若手ピアニスト。チューリッヒ芸術大学でオメロ・フランセシュに、またマンハッタン音楽院でルース・ラレードに、ボルチモアでレオン・フライシャーにピアノを学びました。アメリカ、ワシントンD.C.のジョン・F・ケネディー・センターでのデビューを皮切りに世界中で活躍するピアニストです。

Oliver Schnyder Piano | Offical Site of Pianist Oliver Schnyder

私ははじめて聴く人。HMV ONLINEでは他に数枚のアルバムがあるのみで、このアルバムが看板アーティストとしての本格的なアルバムのようです。ここでハイドンを持ってくるあたりに、いわくがありそうですね。

指揮のアンドリュー・ワトキンソンはイギリス室内管弦楽団、ロンドン・モーツァルト・プレイヤーズ、ロンドン・シンフォニエッタなどロンドンに拠点をもつほとんどの室内オーケストラを振っている指揮者。このアルバムのオケであるアカデミー室内管弦楽団の音楽監督だった時期もありました。また、彼自身が設立したシティ・オブ・ロンドン・シンフォニアの音楽監督として15年以上にわたって演奏を続けているとのこと。実力派の一人でしょう。ワトキンソンもはじめて聴く人。

ということで、はじめて聴く2人の組み合わせによる協奏曲、どう響くでしょうか。

Hob.XVIII:3 / Concerto per il clavicembalo(l'organo) [F] (1765)
最新のものらしくキレの良い録音。オケは現代楽器による弾むような響き。音符を切り気味にして爽快感を表現。シュニーダーのピアノはタッチの軽さ、打鍵のキレの良さに神経が行き届いたもの。落ち着いていながらもリズム感のよさはかなりのもの。小編成オケとキレのいいピアノのアンサンブルで表現されたハイドンのピアノ協奏曲。シュニーダーなりの古典の表現でしょう。ワトキンソンの指揮は低音弦の音階に独特の雰囲気のあるこの曲を上手く表現しています。オーソドックスながら今風のキレの良い響きでまとめる手腕はかなりの実力とみました。シュニーダーも後半になるにつれて恍惚感のようなものがにじみ出てきます。驚くのはカデンツァ。ハイドンの協奏曲のカデンツァとは思えない不思議な響き。まるでチックコリアのよう。はっきり言って違和感がある程変わったカデンツァですが、面白い事は面白いもの。
2楽章はラルゴ・カンタービレ。ここはシュニーダーのテンポ感の良さが最良の形で発揮されます。オケのピチカートとピアノの掛け合いは孤高の響宴。これは見事。
フィナーレはもちろんテンポを上げますが、古典の均衡は崩れず、むしろ速いテンポの爽快感の上に古典の造形美を感じさせる、非常に美しい演奏。基本的に音楽に華があり、ちょっとしたフレーズにもきっちりとメリハリがついて見事な構成感。ピアノもオケも素晴らしいテクニックと音楽性を持ち合わせていることがわかりました。1曲目からグロッキーです。

Hob.XVIII:4 / Concerto per il clavicembalo(l'fortepiano) [G] (c.1770)
この曲でもリズムが活き活きと弾んで入り、前曲同様、古典の均衡を感じさせながらディテールはキレキレ。シュニーダーの意図がわかってきました。軽いタッチ、しっかりしたタッチと変幻自在、鮮度抜群のピアノ。やはりカデンツァではかなり踏み込んだ表現をして個性をアピール。それに合わせて、ワトキンソンのコントロールするオケも引き締まった響きでサポート。前曲よりも楽章間の緩急の対比が鮮明。躍動する1楽章、なだらかな丘を散策しながらきらめきを感じる2楽章。力感極まるフィナーレと続きます。ピアノのキレの極致を感じるほどの見事なタッチ。フィニッシュも素晴らしい勢い。

Hob.XVIII:11 / Concerto per il clavicembalo(l'fortepiano) [D] (1784)
最後は名曲XVIII:11です。数多の演奏のイメージの交錯する曲ですが、先人の演奏の垢をすべて洗い流したような純粋な響き。オケの鮮度は抜群、ピアノのキレも素晴らしく、このアルバムの最後に相応しい演奏。速めのテンポでグイグイ攻めていきます。ピアノは左手の力感と右手のきらめき感が抜群のリズム感で結びついたもの。クッキリと浮かび上がるメロディーの面白さがうまく表現できています。カデンツァは意表をついたもので、もはやシュニーダーのトレードマークですね。
2楽章は、聴き慣れたこの曲から静けさを引き出し、ピアノ表情をよりクッキリ表しています。オケの表情は素朴でニュアンス豊かというより、響きの純粋さをベースとしたもの。その上でピアノは緩む事なくキリッとした引き締まった響きで規律あるアダージョ。
フィナーレは前曲よりも軽さを意識してメロディーが転がるような流麗さ。ピアノはまさにコロコロ転がるようなタッチです。敢えてすこしメリハリを抑えて流れの良さを強調しているよう。最後はすこし盛り上げてフィニッシュ。

はじめて聴くオリヴァー・シュニーダーのピアノでしたが、かなりの実力者と聴きました。演奏スタイルは、まさにハイドンにピタリと合ったもので、タッチの鮮やかさ、軽やかさはかなりのもの。決してコンセプチュアルなアプローチではありませんが、邪心もなく純粋に音楽を奏でようといういともしっかり伝わります。これからが楽しみなピアニスト。カデンツァで個性を印象づけることも怠らないあたりも、なかなかです。指揮のアンドリュー・ワトキンソンのコントロールもタイトで見事。最近のハイドンのピアノ協奏曲の中ではオススメのアルバムと言えるでしょう。評価は[+++++]とします。

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tag : ピアノ協奏曲XVIII:3 ピアノ協奏曲XVIII:4 ピアノ協奏曲XVIII:11

ボロディン四重奏団の十字架上のキリストの最後の七つの言葉

最近オークションで手に入れたアルバム。

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ボロディン四重奏団(Borodin Quartet)の演奏によるハイドンの弦楽四重奏版「十字架上のキリストの最後の七つの言葉」。収録は1993年10月、ベルリンのテルデック・スタジオでのセッション録音。レーベルはTELDEC。

ボロディン四重奏団のハイドンはこれまでいくつか取りあげています。ついでにボロディン三重奏団の演奏も。

2012/07/02 : ハイドン–室内楽曲 : ボロディン三重奏団のXV:27
2011/08/21 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : 【新着】ボロディン四重奏団のロシア四重奏曲
2011/08/06 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : ボロディン弦楽四重奏団の十字架上のキリストの最後の七つの言葉ライヴ

ボロディン四重奏団は終戦の年1945年にロシアで創設された弦楽四重奏団。メンバーは入れ替わっていますが、現在でも活躍しているクァルテット。十字架上のキリストの最後の七つの言葉は、1984年12月7日モスクワ音楽院の大ホールでのライヴ盤を取りあげています。これは鋼のような冷徹な演奏として記憶に残るもの。今日取り上げるのはそれから10年近く経ってからのセッション録音で、メンバーの変更はありません。

第1ヴァイオリン:ミハイル・コペルマン(Mikhail Kopelman)
第2ヴァイオリン:アンドレイ・アブラメンコフ(Andrei Abramenkov)
ヴィオラ:ディミトリー・シェバリーン(Dmitri Shebalin)
チェロ:ヴァレンティン・ベルリンスキー(Valentin Berlinsky)

ライヴの興奮とより円熟を深めたセッション録音のどちらに軍配があがるでしょうか。

Hob.III:50-56 / String Quartet Op.51 No.1-7 "Musica instrumentare sopra le 7 ultime parole del nostro Redentore in croce" 「十字架上のキリストの最後の七つの言葉」 (1787)
ボロディン四重奏団のトレードマークである、鋼のようなタイトな音色は健在。テンポはかなり遅めで、じっくりというより黒沢映画の重厚な構成のようなただの遅いテンポとは異次元の構成感。録音は鋭角的なこのクァルテットの特徴を良くとらえたもの。非常にテンションの高い直接音重視の録音。時代なりの古さはありますが、弦楽四重奏でこれだけワイドレンジな音響、録音は滅多にありません。各楽器が独立してのびのびと弾いているような素晴らしい臨場感。アンサンブルは精緻。やはりコベルマンのヴァイオリンのクッキリと浮かび上がる旋律の姿は絶品。丁寧に描かれるメロディーラインは現在の演奏とは異次元の深みを感じさせます。古楽器の演奏が幅を利かせる現代にあってスタイルとしては伝統的なものですが、この深みは時空を超える普遍性を持っていると言わざるを得ません。セッション録音とは思えない抜群の集中力で、1曲1曲をじっくり進めていきます。硬質な各楽器の響きは変わらず、伸びの良いメロディーラインを丁寧に描いていきます。響きのベースをヴァレンティン・ベルリンスキーのチェロの凛々しい演奏が支えています。第1ソナタから第7ソナタまで、曲に応じた変化はなくただ、ただタイトな響きで攻め込む一方です。テンションは高いまま鎮まる気配は微塵もなく、部屋中にボロディン四重奏団のタイトな響きが響き渡ります。第5ソナタのピチカートの部分でもピチカート自体にテンションが宿り、メロディーラインはつんざくようなプレゼンスで心に迫ります。もはやボロディン四重奏団の術中に完全にハマった感じ。最後まで息つく暇もないほどのスタティックなハイテンション。最後の地震の場面は、剃刀の切れ味と鉈の力強さを併せ持った感じ。暴風が吹き抜けるような弩迫力の演奏でした。

ボロディン四重奏団によるハイドンの傑作「十字架上のキリストの最後の七つの言葉」の弦楽四重奏版、定番曲のまさに定番クァルテットの演奏ですが、その迫力と説得力は異次元のものでした。以前聴いたライヴ盤も凄い演奏でしたが、こちらのセッション録音盤はそれを上回る素晴らしい演奏。この曲を聴くならボロディンをはずすことは出来ません。評価はもちろん[+++++]とします。残念ながら現役盤ではありませんが、amazonならまだ手に入ります。

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tag : 十字架上のキリストの最後の七つの言葉

【番外】越後湯沢・四万温泉紀行

昨日は久々の日帰り温泉ドライブに。父が亡くなったり、嫁さんが入院したりとしばらく温泉旅行などにいける状況じゃありませんでしたので、結構久しぶりです。いつもは嫁さんと二人ですが、今回は母親も一緒にとのことで、未踏の地よりは安心していけるところを選びました。

最初は東御市の玉村豊男さんのヴィラデストで食事をしようと、土曜に予約の電話をいれてみたところ、流石に連休とあって満席。ならばと向かったのが越後湯沢です。

この日は朝6:00に実家に立ち寄り、母親をピックアップ。連休中ゆえ高速道路の渋滞をなるべく避けようということで早く出ましたが、すでに実家近くの調布インターから渋滞がはじまっており、圏央道に出るまでにも時間がかかってしまいました。

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関越嵐山で一休み。沖縄には台風来襲のようですが、幸い天気は良さそうです。

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10時くらいには越後湯沢に着き、まずは温泉に。越後湯沢の温泉といえば、温泉の鮮度と質から、まずは山の湯です。街はずれの急坂の上にある山の湯を目指します。ここは越後湯沢に来れば必ず立ち寄るお気に入りのお湯。何度来ても最高です。

山の湯の駐車場からは越後湯沢市内を一望できます。

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越後湯沢温泉 外湯めぐり:山の湯

いつも通り山の湯は最高でした。うっすらと硫黄の香りが漂い、とろとろと注がれるお湯。無色透明のお湯にかすかに白い湯の花が浮かび、温度は42度くらいでしょうか。熱くもなく温くもない適温。体を流してからゆったりとお湯につかり、しばらく上がってから、また浸かって至福の一時。地元の方数人がのんびりとお湯を楽しんでいました。最後は汗を引かせるために水をかぶって出ます。

ここは脱衣所にエアコンがかかっていて温泉の火照りを鎮めてくれるのもいいですね。ドライブの疲れが一気に吹き飛びました。

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上がって嫁さんたちを待つ間、あたりを歩きながら涼しくなってきた風を楽しみます。入口の前はいつも草花が綺麗に手入れされ花を咲かせています。駐車場にそびえ立つ大木の木漏れ陽が美しいですね。

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山の湯に登ってくる坂の途中には「湯坂」の看板が。この横にある雪国の宿高半に川端康成が逗留して雪国を執筆したということでです。

そろそろ時間は11時。今日のランチの目的地、ピットーレが開店する時刻です。

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ピッツェリア ラ・ロカンダ・デル・ピットーレ岩原

ピットーレもいつ来ても最高のお店。岩原スキー場の目の前にある雰囲気のあるロッジ風の建物。スキーシーズンがお店の繁忙期なんでしょうが、来るのはいつも雪のない季節。お店の前からは緑のスキー場と越後湯沢の街というより谷全体が見渡せる絶景。すすきの穂が辺り一面に出て、すでに秋の気配を感じさせます。

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今日は連休なので混み合うことを予想して、11時の開店直後の入店を目指しましたが、幸い先客は一組だけ。ただしお店を出る頃にはかなり席が埋まり、早く来て正解でした。まだ、お客さんの少ない店内。いつもながらいい雰囲気です。

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車でなければ、食前酒からビール、ワイン、グラッパまでいきたいところですが、嫁さんと母親を連れてますので、ノンアルコールビールで我慢します。向かいでビール好きの母親は生ビールをグビり、横で嫁さんは白ワインをゴクリ。自分で自分をほめてあげたくなります(笑)

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山の中のお店ですが、海鮮も悪くないんですね。オススメのタコのカルパッチョ。

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そしてこちらもオススメのイカの窯焼き。これはピットーレの名物。これも来ると必ず頼むもの。イカのはらわたの旨味が素晴らしい。今日は生のルッコラが添えられて、イカの旨味とルッコラのうっすらとした胡麻風味がマッチしてえも言われぬ香りに。勢いでノンアルコールビールおかわりです(苦笑)

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そして、こちらもピットーレ名物の巨大な石釜で焼いたピッツァ。今日は生のピーマンをあしらったもの。オーナーの畑でとれた新鮮なピーマンだそうです。これもピーマンのパリパリとした食感と、ソーセージの塩味、ピッツァの香ばしさがいいコンビネーション。

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パスタはマッシュルームのトマトベースのもの。ピッツァとパスタを3人で取り分けて戴きましたが、これで満腹。3人分じゃなくて良かったです。そして、やはりデザートは別腹でした(笑)

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嫁さんはチョコレートのジェラート、母親はカフェ・アフォガート、私はエスプレッソで締めます。と思ったら2人とも食べきれず、二つとも残りを戴きました(苦笑)

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この日もピットーレは最高。抜群のロケーションと雰囲気のいいお店、おいしい料理、気さくな店員さんと言うことなし。玄関には持ち帰り自由と書かれた自家栽培野菜の山。巨大なキュウリ2本を戴いて帰りました。

あたりですすきの穂を少し摘ませていただき、のんびりしたあと、このあとどうするかと母親に尋ねると、四万温泉に行ってみたいとのこと。そのうち四万に泊まりにいこうと普段から話していたので、気になっていたのでしょう。それほど遠くないのでカーナビにセットして四万温泉に向かいます。



あんまりルートを良く見ずにセットしたので、カーナビに言われるままに越後湯沢インターから関越に乗ります。渋川まで戻ると思ったら月夜野インターで降りろとの指示が。月夜野から三国街道を再び越後湯沢方面に進むよう指示が出て、湯宿温泉あたりから山道に。県道で峠を越えるルートでした。

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途中で道ばたに道祖神が。

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今日は四万温泉は観光客でごった返していました。流石に三連休の中日ですね。これほどの人が四万温泉にいるのははじめてのこと。温泉も満員かと思い、四万のイコン、積善館の温泉へいきますが、どうやらさほどの混雑ではなさそうです。

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四万温泉:旅館積善館公式ホームページ

積善館のお風呂「元禄の湯」は現存する日本最古の湯宿建築との事。国の登録文化財、群馬県近代化遺産。写真は撮れませんでしたので積善館のホームページをご覧ください。

積善館の入口の赤い橋近辺は観光客がひっきりなしに写真を撮っていました。元禄の湯の男湯は先客が5~6人ほど。特段混んでるというほどではありません。ここまで来て積善館のお風呂に入らないとはもったいない(観光客のこと)

積善館のお風呂に入るの2度目。四万では河原の湯や御夢想の湯、四万清流の湯などいろいろ入りましたが、雰囲気は一番。お湯も御夢想の湯は別格として、なかなかいいお湯です。

5つに切られた浴槽には蛇口と底の穴から温泉が絶えず注がれています。お湯はどちらかと言うと温め。40度あるかどうかというところでしょう。浴槽ごとに微妙に温度が異なります。昭和5年に建てられたという建物の中で、外の喧噪とは全く別世界ののんびりした時間が流れます。

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四万の街は人は多いものの、うらぶれた感じもそのまま。

温泉でのんびりして、帰途に。帰りは渋川伊香保インター近くの・道の駅こもちでで野菜やらお土産やらを買い込んで関越に。関越はやはり渋滞していましたが、流れがそこそこあり、それほど時間がかからず帰ることができました。今日は連休最終日なので、もっと混むのでしょうね。



地元についてから帰って夕食も大変なので、生まれてはじめて実家近くの華屋与兵衛に。

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ヒレカツ御膳に鴨汁蕎麦、野菜ちゃんぽんうどんなどを頼み、この日3本目のノンアルコールビールで喉を潤しました(笑)

今日も無事帰宅できました。久々に温泉と旨いものを楽しめました。明日からまた忙しい仕事に戻ります。

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テーマ : 温泉♪
ジャンル : 旅行

【新着】メータ/イスラエル・フィルの天地創造1986年ライヴ

最近発売されたアルバム。天地創造は久しぶりですね。

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HMV ONLINEicon / amazon / TOWER RECORD

ズビン・メータ(Zubin Mehta)指揮のパリ管弦楽団合唱団、イスラエル・フィルハーモニー管弦楽団の演奏でハイドンのオラトリオ「天地創造」。収録は1986年12月25日、イスラエルの首都テル=アヴィヴのマン・オーディトリウムでのライヴ。レーベルはイスラエルのhelicon classics。

このアルバムはHMV ONLINEの解説によれば、イスラエル・フィルの創立50周年記念コンサートとして開かれたコンサートの模様をライヴ収録したもの。

イスラエル・フィルは1936年、ヴァイオリニストのブロニスラフ・フーバーマンの呼びかけでヨーロッパ各地で政治的理由で解雇された若いユダヤ人演奏家が集まって設立されたオーケストラ。設立当初はパレスチナ管弦楽団と呼ばれていましたが、1948年にイスラエル・フィルハーモニー管弦楽団と改称されました。最初の演奏会は、1936年12月26日にテル=アヴィヴでトスカニーニの指揮によって行われました。1968年からはズビン・メータが終身音楽監督を務めており、メータとの録音が多いことでも知られています。またユダヤ系ということでレナード・バーンスタインとも多くの演奏があります。このイスラエル・フィルのアニヴァーサリーに際して、メータが天地創造を振るというのは頷けるところ。

メータの若い頃の演奏は学生時代にかなり聴きました。当時はLPがメインのソースの時代。ロサンジェルス・フィルで有名曲をずいぶん録音し、中でもマーラーの3番や惑星、シェエラザードなどはなじみのアルバム。曲をわかりやすくスペクタクルに聴かせるところがメータの真骨頂でした。LPで聴いたLondon/DECCAのオンマイク気味の録音のロサンジェルス・フィルの張りのある響きは、新しい時代を感じさせるようなワクワク感がありました。ロサンジェルス・フィルの低音弦と弾むように打たれるティンパニの響きはメータのコントロールならではのもの。また、当時重量盤でリリースされていたシェエラザードは音溝がもの凄い幅で刻まれ、終楽章ではウーファーが吹き飛ばんばかりの超優秀録音でした。
ただ、その鮮烈な印象は徐々に薄れ、最近ではウィーンフィルをたびたび振るなどメジャーな存在ながら、その演奏の印象は大人しく、地味なもに変わってきていました。日本での人気も昔程ではないように感じます。
メータを少し見直したのが、東日本大震災のチャリティとして企画されたN響の第九とミュンヘンで3つのオケを振った第九。何れもテレビで観ましたが、これまで地味に聴こえた最近のメータの演奏に、静かな魂の炎が見えるような素晴らしい演奏でした。これまでのメータの演奏には聴こえなかったのか、それともこちらに聴き取る耳がなかったのかはわかりませんが、メータの最近の演奏のツボがわかった気がしました。

今日取り上げる天地創造は先にも触れた通り、1986年と今から四半世紀以上前の演奏。メータの手兵イスラエル・フィルの創立50周年を記念するライヴという事で、メータの気合いも充実していたはず。突然リリースされたこのアルバムでしたが、個人的には期待の大きいアルバムです。

歌手陣はガブリエルとエヴァ、ラファエルとアダムを1人でこなす3人構成。歌手も一流どころが配されてます。
 
ガブリエル/エヴァ:バーバラ・ヘンドリックス(Barbara Hendrics)
ウリエル:クリス・メリット(Chris Merrit)
ラファエル/アダム:ホセ・ヴァン・ダム(José Van Dam)

メータの魂の炎が見えますでしょうか。

Hob.XXI:2 / "Die Schöpfung" 「天地創造」 (1796-1798)
第一部
メータは予想通りゆったりとしたオーソドックスな響きをつくっていきます。序奏は弱音のコントロールが緻密なため緊張感を保っています。録音は1986年としてはもう少し鮮明さと潤いが欲しいところ。響きはデッドで足音のような低音のゴトゴトした音が少し入りますが、咳払い等はほとんど聴こえません。オケの迫力、コーラスの厚みなど天地創造では聴き所になる部分で録音がもうすこし良ければと思わせてしまいます。歌手陣は少し奥に定位する感じ。ラファエルのホセ・ファン・ダムは安定感抜群の輝かしいバス。円熟の至芸。自分の声の響きを完全にコントロールしているよう。ガブリエルのバーバラ・ヘンドリクスは声の伸び、安定感、緻密なヴィブラートと流石の出来。独特コケティッシュさが魅力。ウリエルのクリス・メリットは他の2人に比べてちょっと地味ですが、リズムや安定感はわるくありません。第一部の聴き所、ガブリエルのアリアでのヘンドリクスは絶品。可憐な声色と素晴らしい高音の伸び、最後の部分のホール中に轟く声量と神憑っています。これほど表情豊かなガブリエルのアリアは滅多にありません。メータはいい意味で力が抜けて淡々と進め、要所でパワーを入れる感じ。もう少し気負ってくるかと思いましたが、流石に全体を見通したコントロール。第九を聴いてから、このさりげないコントロールも悪くないと思っています。第10曲から13曲までの第一部のクライマックスへは、淡々とした中かに、メータ独特の旋律をわかりやすく浮かび上がらせてまとめて聴かせるスタイルで、大河のようにというよりは、1曲1曲の特徴を明確に描き分けながら、クッキリ感を主体にしたような流れ。最後はやはり大迫力ですが、第一部だからでしょうか、大爆発ではなくきっちりコントロールされたクライマックス。

第二部
第一部で聴き所が迫力ではなく緻密なコントロールにあるとわかり、名曲の多い第二部が楽しみになります。徐々にライヴとは思えないほどのメータの緻密なコントロールのペースにハマります。それぞれの曲をクッキリと描きながら、情緒的になることなく、大曲をきっちり進めていく感じは悪くありません。曲の美しさに焦点を当てるためにあえてダイナミックレンジを抑えているようにも聴こえます。歌手ではヘンドリクスが図抜けた存在感。
CDを2枚目に換えた途端、鮮明さが上がったように聴こえます。唸る低音弦! 歌手もオケも徐々に調子が上がってきて、演奏に力が宿り始めました。 3曲目のラファエルの「いまや天は光に溢れて輝き」、5曲目のウリエルの「威厳と気高さを身につけ」と、歌手もオケもクッキリと浮かび上がり、迫力も一段アップ。第26曲から29曲にかけての第二部のクライマックスへの流れは、第一部よりが盛り上がりを意識したものですが、やはり理性的なコントロールの効いたものでした。

第三部
目玉はやはりアダムとエヴァのデュエット。前半はひじょうにゆっくりとしたメータのテンポに乗ってヘンドリクスとファン・ダムの至福の掛け合い。遅めのテンポが実にいい雰囲気。歌を存分に楽しめます。後半はメータは歌手を引き立てるように伴奏に徹して歌主体のメリハリ。最後はこの曲一番の盛り上がり。レチタティーヴォを挟んで、再びアダムとエヴァのデュエット。デュエットの面白さは最初のものと同様素晴らしいのですが、最後のオケの聴かせどころの演出の面白さがメータならでは。やはり引き締まった表情のなかでコミカルなメロディーを非常にうまく聴かせています。最後の第34曲はやはりここにクライマックスがあったかと思わせる渾身の一撃から入ります。これまでの理性的なコントロールを振り返って、最後の瞬間にむけて歌手もコーラスもオケも振り切れます。最後はホールにアーメンの残響が消え入ります。拍手はカットされています。

ズビン・メータ指揮のイスラエル・フィルによるイスラエル・フィル創立50周年の記念コンサートのライヴ。ライヴだけにもうすこし祝祭的な演奏かと思いましたが、なんと爆発しない、歌の美しさ、曲の美しさを引き出す引き締まった演奏。この記念すべき日に、勢いや情緒に流されない緻密な演奏。これもメータのスタイルでしょう。ソロではバーバラ・ヘンドリクスが図抜けた存在感。他の歌手やコーラスもなかなかの出来です。前半の録音の鮮明さが足りないのが惜しいところです。評価は[++++]とします。

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ハワード・シェリー/スイス・イタリア語放送管弦楽団の97番

少し涼しくなってきたので、さっぱり地味目の交響曲の演奏を。前記事のレストロ・アルモニコの演奏を聴いて、穏やかな交響曲の演奏をもう少し聴いてみたくなった次第。

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ハワード・シェリー(Howard Shelley)指揮のスイス・イタリア語放送管弦楽団(Orchestra della Svizzera Italiana)の演奏でハイドンのザロモンセットを収めた4枚組のアルバム。今日はこの中から交響曲97番を取りあげます。97番の収録は2008年5月、スイス、ルガーノにあるステリオ・モーロ・オーディトリウムでのセッション録音。レーベルは英hyperion。

このアルバムがリリースされたのは2009年と比較的最近のことでハイドン没後200年に合わせて発売されたものだと思います。もちろん発売直後に手に入れましたが、オーソドックスな演奏という印象だけで、特段記憶に残るものではありませんでした。ただ、ハイドンのザロモンセットをいきなりセットでリリースするということは、よほどの自信があってのことでしょう。もう少しちゃんと聴かなくてはと思っていたアルバムです。

指揮のハワード・シェリーは1950年ロンドン生まれのイギリス人ピアニスト、指揮者。ロンドンの王立音楽大学で学び、1971年、ピアニストとしてウィグモア・ホールでデビューしました。同年マイケル・ティルソン・トーマス指揮のロンドン交響楽団とも共演し、以降世界的に活躍するようになり、またレコーディングも数多くこなすようになりました。1985年には指揮者として活動するようになり、ロンドン・フィルやロンドン交響楽団、ロイヤル・フィルなどのイギリスのオケをはじめとして、ヨーロッパやオーストラリアのオケ等を指揮、ロンドン・モーツァルト・プレイヤーズの首席客演指揮者として20年以上にわたって緊密な関係を保っています。他にスウェーデンのウプサラ室内管弦楽団やカメラータ・ザルツブルクなどとも演奏を重ねています。

この実力派のシェリーのアルバムのなかから何曲か聴いて、相性の良さそうな97番を取り上げた次第。

Hob.I:97 / Symphony No.97 [C] (1792)
序奏からバランスの良いタイトな響き。さっぱりと爽快感のある響きの序奏ですが、主題に入ると、小規模ながらキレのいい推進力のあるメロディーを聴かせます。小気味好くエネルギーを感じさせ、畳み掛けるような演奏。オーソドックスなテイストながら、ハイドンの面白さのツボを押さえた演奏。現代楽器による演奏ですが、古楽器風のさっぱり感。ノリントンのようにことさらノンヴィブラートを強調するのではなく、自然さを基調としたもの。要は癖のない演奏という印象です。97番の1楽章ように適度なアタック感のある曲としてはなかなかの感興。前におかれた奇跡では此処ぞというところでかなり派手にスローダウンしますが、この曲では平静を保って、逆にいい感じ。
2楽章は教科書的なオーソドックスさで入りますが、中盤の強奏から宿るエネルギーで目が覚めます。シェリーの音楽は誠実そのもので、いい意味でも悪い意味でも遊びがなく、穏やかな理想のイメージの演奏に追い込んでいくようなアプローチが特徴。音楽の幅を広げるのにはもう一歩の踏み込みが欲しい反面、このオーソドックスさが貴重と思える部分もあります。
メヌエットも同様のスタンス。楽章間で変化をつけるよりは、流れの一貫性を旨としているよう。様々な演奏がリリースされているこの実直さは逆に貴重でしょう。メヌエットの中間部に至って少し華やいだ感じを強めるのが新鮮。
フィナーレでは流石に鮮明さを上げ、クッキリした表情と沸き上がる音楽の魅力を放ちます。それでも八分の力で余裕を残した感じ。金管の隈取りが効果的に決まり、オケの響きに彩りが加わり、徐々にメリハリがついてきた感じをうまく表現しています。最後はキリッと引き締めて終わります。

ハワード・シェリーの97番は、ハイドンの交響曲を聴き込んできたベテランの方にオススメしたい、ノンヴィブラート気味の透明感をベースにした小気味好いオーソドックスな演奏。伝統的な演奏とは確かに違いを感じますが、全体を貫く一貫したオーソドックスさはハイドンの交響曲としては定番のアプローチ。違いのわかる人には、じつに慈しみ深く聴こえるかもしれません。逆に一聴して地味な演奏でもあります。97番と言う小気味好い演奏が似合う曲と相性の良い演奏でしょう。評価は[++++]とします。

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Daisy


Author:Daisy

なぜかハイドン(Franz Joseph Haydn)が特に気に入り膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。東京在住のごく普通のサラリーマンです。

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2017年7月のデータ(2017年7月31日)
登録曲数:1,361曲 登録演奏数:10,291
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