Haydn Disk of the Month - February 2013

毎月感じますが、月末がやってくるのはあっという間。当然、2月は日が少ないのでなおさら早く感じます。今月は結果的には前半が交響曲、後半は弦楽四重奏曲を集中的にとりあげたことになります。特に意図してということではないのですが、いいアルバムを聴くとその分野のいい演奏を聴きたくなってしまうという習性に由来するものでしょう。弦楽四重奏曲は特にその傾向が強く、同じ曲でも奏者によってずいぶん聴かせどころが変わるため、曲のどこにスポットライトを当てているのか、奏者ごとの個性の変化に引き込まれるわけです。

Haydn Disk of the Month - February 2013

今月はビシッと1組に絞りました。

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2013/02/26 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : ヨアヒム四重奏団の「ひばり」「皇帝」

2月最後に取りあげたアルバム。迷ったのは実はコダーイ四重奏団と。このヨアヒム四重奏団は完全にマーク外でした。ただ聴いてみるとレビューに書いた通り、ハイドンの弦楽四重奏曲の模範的な演奏。これほどハイドンの弦楽四重奏曲の良さを素直に表現した演奏には滅多にお目にかかれません。そういった意味で、コダーイ四重奏団の演奏も久々に感動を味わうことになったアルバム。NAXOSから全集としてリリースされていることもあり、身近な演奏ですが、あまりの良さに認識を新たにした次第。希少性とまとまりでヨアヒムを選んだもののコダーイ四重奏団の演奏の素晴らしさに変わりはありません。正直どちらも取りあげる価値のある演奏ですが、当ブログの立ち位置を考えるとマイナー盤ではあっても、その演奏の質の素晴らしさを純粋に評価して、ヨアヒムを選んだ次第です。

今月コダーイの他に気になったアルバムは、カルロス・クライバー/ケルン放送交響楽団のライヴ。もちろんクライバーの演奏は既に世の中の評価を得た演奏ゆえ、賞の趣旨にあいませんが、今更ながらクライバーの煽るオケの爆風のような演奏の恍惚とさえする演奏は異次元のもの。やはり他の指揮者とは器がちがうと実感しました。

今月高評価だったアルバムは下記のとおり。仕事が忙しくレビューも毎日出来ない中、選りすぐりのアルバムを取りあげたつもりです。忙しいなか、音楽を聴くよろこびをじわりと感じるアルバムが多く、癒しにもなりました。いつになったら時間に余裕のある生活ができるのでしょうか(苦笑)

2013/02/24 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : アウリン四重奏団の「五度」「皇帝」
2013/02/23 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : コダーイ四重奏団のOp.20のNo.4からNo.6
2013/02/21 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : 【新着】レティーツィア四重奏団の「十字架上のキリストの最後の七つの言葉」
2013/02/18 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : メロス四重奏団のOp.76のNo.5シュベツィンゲン音楽祭ライヴ
2013/02/16 : ハイドン–交響曲 : ザンデルリンク/読響の「熊」1990年サントリーホールライヴ
2013/02/09 : ハイドン–交響曲 : カルロス・クライバー/ケルン放送交響楽団の驚愕1972年ライヴ!
2013/02/03 : ハイドン–協奏曲 : ティルシャル兄弟による2つのホルンのための協奏曲(新盤)



2013年2月のデータ(2013年2月28日)
登録曲数:1,313曲(前月比±0曲)登録演奏数:6,860(前月比+45演奏)

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ヨアヒム四重奏団の「ひばり」「皇帝」

今日は先日ディスクユニオンで発見したお宝盤。

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amazon(MP3)

ヨアヒム四重奏団(Joachim Quartett)の演奏でハイドンの弦楽四重奏曲Op.64のNo.5「ひばり」、Op.76のNo.3「皇帝」の2曲を収めたアルバム。収録は1986年秋、収録場所は記載されていませんが、このアルバムのレーベルであるTHOROFONとブレーメン放送の共同制作とのことですのでブレーメン放送のスタジオでの収録でしょうか。

ヨアヒム四重奏団はドイツのハノーファーを拠点とする四重奏団。名称はもちろん有名なヴァイオリニスト、作曲家、指揮者だったヨーゼフ・ヨアヒム(1831-1907)からとったもの。ヨアヒムはブラームスらと同世代の人。偶然にもアイゼンシュタットの近くに生まれ、ハノーファーにも長年にわたって住み続けハノーファー王家の音楽家として雇われていた事もあるそう。ヨアヒム自身も1869年、ヨアヒム弦楽四重奏団を結成し、当時世界屈指の弦楽四重奏団との名声を得ています。このアルバムのヨアヒム四重奏団は、もちろん全く新たな四重奏団でこの録音当時は若手のクァルテットでした。設立間もなくボンで開催されたドイツのコンクールで優勝すると、ヨーロッパで有名になり、ドイツ各地でコンサートを開くようになりました。ベルリンにあるドイツ連邦大統領宮殿であるベルヴュー宮殿で大統領を前に演奏した事もあるそうです。第1ヴァイオリンのフォルカー・ヴォルリッツシェが使っているのはヨアヒムのコレクションだった「グランチーノ」という楽器ということです。メンバーは下記のとおりです。

第1ヴァイオリン:フォルカー・ヴォルリッツシェ(Volker Worlitzsch)
第2ヴァイオリン:フリーデマン・コベル(Friedemann Kober)
ヴィオラ:モニカ・ヒュールス(Monika Hüls)
チェロ:ステファン・ハーク(Stephan Haack)

ヨアヒム四重奏団の名前でリリースされているアルバムはごくわずかであり、私も名前も演奏も聴いた事のない団体でしたが、なんとなくTHOROFONのアルバムにはいい演奏が多いので手に入れたもの。以前デートレフ・クラウスの老練なピアノソナタが印象に残っています。早速聴いてみると予感ズバリ的中で、このアルバム、最初の一音からただならぬ緊張感を帯びています。

Hob.III:63 / String Quartet Op.64 No.5 "Lerchenquartetett" 「ひばり」 [D] (1790)
これまた非常にいい録音。鮮明な定位感でアンサンブルが目の前に浮かび上がります。ひばりの入りは羽毛でなでるような軽さがポイントですが、ヨアヒム四重奏団の演奏はまさにその通りの演奏。糸を引くように伸びるヴァイオリンの音色も存在感たっぷり。特にいいのがヴィオラとチェロの低音域の豊かな表情。音楽が踊るには低音弦の機敏な演奏が効きます。演奏スタイルは古風といっていいくらいオーソドックスですが、完成度は非常に高く、ダイナミクスの幅もきっちりとれて、フレーズごとの明確な表情付けもしっかり。少し前の時代の理想的な演奏といったらわかりますでしょうか。
アダージョ・カンタービレはかなり抑えた伴奏に乗って、ヴァイオリンも抑え気味の表情。ヴィブラートが心地良く感じられるのが嬉しいですね。
メヌエットまできて気がつくのが、楽章間のつながりの良さ。楽章間の対比もついているのですが、楽章の終わりから次の楽章への入りかたが、実に自然で、音楽的なつながりも再確認できるように演奏しています。音量とリズムのつながりがいいので、非常に滑らかに楽章がつながります。
フィナーレはヴァイオリンの名人芸。抑えながらも速い音階をさらりとこなしていき、次々の楽器をリレーしていく様は、まさに音楽の真髄を伝えるもの。等身大の大きさの身近な演奏という感じですが、演奏のキレのよさと録音の良さが相俟って、非常に素晴らしい印象を残しました。

Hob.III:77 / String Quartet Op.76 No.3 "Kaiserquartetett" 「皇帝」 [C] (1797)
つづいて、こちらも名曲です。ヨアヒム四重奏団もこの演奏を聴く限り、非常に安定感の高い演奏が特徴。前曲同様の演奏をいともサラッとこなしていきます。ちょっと懐かしくなるような郷愁を感じさせるような雰囲気もあって、テクニックばかりを聴かせる演奏ではありません。
おなじみのドイツ国歌のメロディーを奏でる2楽章は、流れの良さよりも、コンパクトにまとまった箱庭的な美しさを意図しているように聴こえます。もちろんテクニックは万全ですが、あえてスケール感を狙わず、旋律の美しさを手の届く範囲で表現してみているようですね。ここでもチェロ、ヴィオラの奏でる音の美しい音色がポイント。非常に親しみやすい演奏。最後は徐々にテンポを落として、とぼとぼとさまよい歩くようなテンションになり、抜け殻のようになるまで音を削いで、表現を極めます。いい演奏。
前曲同様、メヌエットへの自然な入りが絶妙ですね。こういった聴かせ所のセンスは抜群。楽章間の対比という視点ではなく、曲の流れの良さを保ちながら、さりげない曲調の変化を気づかせるというような意図があるのでしょう。メヌエット自体、オーソドックスな演奏ながら非常に豊かな音楽を聴かせる、実に奥行きの深い演奏。
激しい曲調のフィナーレも九分の力で余裕をもった演奏。常にハイドンの意図を踏まえて、踏み込みすぎず、それでいてキレに欠けることもない、素晴らしいコントロール。冷めているというのではなく、すべてが意図通りにいくように常に監視の行き届いた演奏という感じ。もちろん音楽の楽しさとユーモアを理解する心がともなったもの。

このところいろいろな奏者で弦楽四重奏曲を聴いてきましたが、同じ曲でも聴かせどころがかなり異なり、表現できる音楽の幅もずいぶんと違うものです。ソロはテクニックとインパクトに耳がいきますが、室内楽は奏者同士の一体感や対比、そして、各奏者の音楽性が絡まり合って一つの音楽をつくっていく面白さがあり、古来より数多の団体に演奏され続けてきたハイドンの曲でさえ今もって新鮮な感動を味わえます。今日取りあげたヨアヒム四重奏団の演奏もハイドンの演奏史に残すべき素晴らしい演奏です。聴き終わって、ハイドンとはこのように演奏するものだと教わったような気持ちになる、これぞハイドンのクァルテットというイメージがぴったりの演奏。大げさでなく、粋な感じも、音楽の深さも、アンサンブルの面白さも感じさせ、決して古さを感じさせない演奏と言えばいいでしょうか。評価は連日ですがやはり[+++++]以外をつける訳にはまいりませんね。

残念ながら、このアルバムはamazonのMP3版くらいしか入手できないようですが、聴く価値のある演奏です。ハイドンの弦楽四重奏曲を愛する皆さん、是非聴いてみてください。

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tag : 弦楽四重奏曲Op.64 弦楽四重奏曲Op.76 ひばり 皇帝

アウリン四重奏団の「五度」「皇帝」

このところ弦楽四重奏曲のいい演奏を聴いて、ますます弦楽四重奏曲の魅力に取り憑かれています。今日は少しづつ収集を続けているこちら。スポーツクラブでひと泳ぎしてかえってくるとamazonから到着していました。

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HMV ONLINEicon / amazon / TOWER RECORDS

アウリン四重奏団(Auryn Quartet)の演奏による、ハイドンの弦楽四重奏曲Op.76の6曲を収めたアルバム。収録は2009年、ドイツ、ケルンの東20kmほどにある街ホンラートにあるホンラート教会でのセッション録音。レーベルはドイツのTACET。

アウリン四重奏団の弾くハイドンの弦楽四重奏曲は非常に気に入っているのですが、アルバムはすべてバラで、レギュラープライスということで、全14巻のうち手元にあるのはまだ6巻。すこしづつ買い集めていては楽しんでいます。これまで2度取りあげていますので、いつものように記事へのリンクを貼っておきましょう。

2012/08/03 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : アウリン四重奏団のOp.77
2012/01/07 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : アウリン四重奏団のOp.74

演奏者の紹介などはOp.74の記事の方をご参照ください。

TACETのこのシリーズはアウリン四重奏団の伸び伸びとした透明感のある演奏を極上の録音で録られた非常に完成度の高いシリーズ。アウリン四重奏団は一貫して安定感のある演奏ですが、曲ごとに微妙に演奏スタイルを変えてくることもあり、今日とりあげるキラ星のごときハイドンの最高傑作がどう響くか、コンサートの開演前のような気持ちにさせられます。Op.76という全曲名曲揃いの作品ですが、今日は中でも皆さんにおなじみのNo.2の「五度」とNo.3の「皇帝」を取りあげましょう。

Hob.III:76 / String Quartet Op.76 No.2 "Quintenquartetett" 「五度」 [d] (1797)
やはり録音の素晴らしさが際立ちます。いきなり広い空間にクッキリと4人が定位する見事なもの。非常にキレのいいクァルテットの響きが部屋に出現します。演奏の方も一人一人の奏者がクッキリとメロディーラインを描き、特に第1ヴァイオリンのマティアス・リンゲンフェルダーの糸を引くような伸びのあるクリアな音色がアンサンブルの響きを華やかにしています。短調の入りはクリアに畳み掛けるようにグイグイ入ってきますが、洗練された印象を与えるのがアウリンの特徴でしょう。4人の演奏がそれぞれ分離して聴こえるのに見事にアンサンブルがそろっていて、お互いに響きを確認しあっているのがわかるような素晴らしい掛け合い。
2楽章のアンダンテはそれぞれの奏者が抑えた表現ながら、さらに響きが深くなります。ピチカートが教会内に響く余韻の美しいこと。途中のアクセント以外の部分はかなり抑えて、自身の演奏の余韻を楽しんでいるような余裕のある演奏。
非常に強い印象の残るハイドンとしては珍しいメヌエット。アウリン四重奏団は強さばかりではなくかなり大胆な音量変化をつけて繊細さも聴かせところとばかりに音量を落とすところしっかり落とす事でクッキリとしたメリハリをつけていきます。
フィナーレは鋭く疾走するような演奏。ヴァイオリンの細身ではありながらもクッキリとした音色が全体の響きに隈取りをつけて、鮮明さを保ちながら、劇的に畳み掛けるので、激しさばかりではなく、どこか都会的な洗練を感じさせます。最後にすこし溜めて曲の終わりを演出します。

Hob.III:77 / String Quartet Op.76 No.3 "Kaiserquartetett" 「皇帝」 [C] (1797)
入りの前の呼吸が鮮明に録られてまるでライヴのような緊張感。前曲より演奏自体がリラックスしているのか、活き活きとした、ノリのよい演奏に聴こえます。奏者も脂が乗って弓さばきに勢いがあります。録音前にワインでも引っ掛けたのでしょうか(笑) もともとクッキリしているヴァイオリンに対し、ヴィオラとチェロが前曲以上のプレゼンスで音を乗せていってます。録音は基本的に前曲とそろっていますが、演奏のノリが良いのでよりライヴに近いバランスに聴こえます。具体的には残響が少し増えて、華やいだ感じが強まってます。この楽章、弦楽四重奏の表現としては力感に溢れ、強い響きと精妙な響きの間を繰り返し往復しながら感興が渦巻いて高まるような名演です。
ドイツ国歌のメロディーとして知られる2楽章は、前楽章の興奮を鎮めるように、抑えてはじまりますが、いつものクリアな感じより少し叙情的な面が強くなっています。変奏は各楽器が雄弁になり、鳴きも少し入ります。ガラス細工のような光り輝く繊細さと、叙情的なフレージングが相俟ってえも言われぬ美しさ。
メヌエットは再びアウリン四重奏団特有の洗練されたクリアさが戻ります。静寂を切り裂くように入る鋭さ、鮮明なリズム、各楽器の自在な表現とまさにアウリンならではの響き。
フィナーレはここぞとばかりに切り込むようにはじまります。凄まじい集中力と響きの凝縮力。ともすると単調さをはらみそうなフィナーレの強奏ですが、フレーズごとの表情付けがうまく、また快速の音階と強音のバランスが良いせいか、非常に変化と緊張感の富んだ素晴らしいフィナーレになっています。最後は凄まじいエネルギーを放出して終了。

お気に入りのアウリン四重奏団の「五度」と「皇帝」は、やはり期待した以上の素晴らしい演奏でした。鋭さ、強さにしなやかさ、繊細さを兼ね備えた演奏。そしてまるでライヴかと思わせるすばらしい緊張感。ハイドンの弦楽四重奏曲を聴く楽しみ、悦びを満喫できる名演奏と言うべきでしょう。そして極上の録音もこのアルバムの価値を高めています。もしかしたらそのうちセットで発売されるかもしれませんが、それまで収集を思いとどまることはできませんので、継続して収集いたします。もちろん評価は[+++++]とします。

このアルバム、出だしのOp.76のNo.1もアウリンらしい名演。もしかしたら録音面ではNo.1が弦楽四重奏曲の面白さが伝わるかもしれません。各楽器が次々にメロディーを重ねていく部分など、絶品の録音です。

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tag : 弦楽四重奏曲Op.76 皇帝 五度

コダーイ四重奏団のOp.20のNo.4からNo.6

まだまだ弦楽四重奏曲がつづきます。

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HMV ONLINEicon / amazon / TOWER RECORDS

コダーイ四重奏団(Kodály Quartet)の演奏でハイドンの弦楽四重奏曲Op.20のNo.4、No.5、No.6の3曲を収めたアルバム。収録は1992年6月26日から29日、ブダペストにあるユニタリアン教会でのセッション録音。レーベルは廉価盤中興の祖NAXOS。

今手に入れるなら、このアルバムを含むハイドンの弦楽四重奏曲全集の方でしょうか。

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HMV ONLINEicon / amazon / TOWER RECORDS

皆様良くご存知の廉価盤レーベルNAXOSのハイドンの弦楽四重奏曲全集を担当するコダーイ四重奏団。廉価盤レーベルだから、そこそこの演奏のものだろうという風に思われがちですが、このコダーイ四重奏団の演奏するハイドンの弦楽四重奏曲、これがかなりいい演奏なんですね。安定した表現力と鮮明な響きは滅多に聴かれないレベルの演奏です。コダーイ四重奏団の演奏は以前に一度だけ取りあげたことがあります。演奏者の紹介などはこちらをご覧ください。

2011/10/23 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : コダーイ四重奏団のOp.74

このところいろいろ弦楽四重奏曲を聴いてきて、原点に戻るためにオーソドックスな演奏を聴きたくなって取り出したアルバム。やはりコダーイのハイドンは安心して身を任せられる定番の演奏です。

Hob.III:34 / String Quartet Op.20 No.4 [D] (1772)
ゆったりとしたテンポながら、クッキリとメリハリのついた安定感抜群の入り。録音も適度な残響と適度な距離感のバランスの良いもの。コダーイ四重奏団の特徴は4人の音色とフレージングがピタリと合った一体感。4人とも良く磨かれた美しい音色。ことさらアクセントを強調することなどなく、ハイドンの書いた楽譜に忠実に音をおいていくような演奏。演奏からじわりとにじみ出る音楽。
2楽章に入ると、シュトルム・ウント・ドラング期特有の憂いに満ちたメロディを切々と奏でていきます。ただただハイドンの書いた音楽をしっとりと奏でていくことで立ちのぼる情感。ゆったりとした語り口が音楽の表情を深くしていきます。ゆったりゆったり美しいメロディを引き継いでいきます。奏者全員が神憑ったような表現領域に入ってます。この楽章の美しさは言葉にすることができないほど。
3楽章はジプシー風メヌエット。前楽章の祈りのような深みを断ち切るように、明るいフレーズをリズミカルに刻みます。
フィナーレは力む事なく、軽々と転がるようにメロディーを流します。迫力を増す方向ではなく、そよ風が吹き抜けるような爽やかを残すような表現。4人のテクニックが確かだからこそできるこの軽さの表現でしょう。1曲目から記憶に残る演奏を遥かに上回るすばらしさ。こちらの耳が肥えたのでしょうか。

Hob.III:35 / String Quartet Op.20 No.5 [f] (1772)
短調の入りは、流麗そのもの。前曲が比較的遅めのテンポでじっくり聴かせたのに対して、この曲ではテンポは標準的ですが、力が抜けた流麗な弓さばきと枯淡の境地ともいえる、さっぱり爽やかな印象はコダーイならでは。各楽器が奏でるメロディーの織りなす綾の色彩感が素晴らしいですね。絹の織物が光を浴びて様々に輝く様子を見るよう。しなやかな光沢と絶妙な手触り、そして洗練された感じ。老練というより大人の演奏という印象。もとから行書体のような演奏ですが、徐々に書体が崩れ最後は草書体のような音楽。
2楽章のメヌエットは大きな流れの単位で音楽をつくっているよう。前曲のようにリズムを強調するのではなく、短調の切々とした感じをベースに、コダーイ流のあっさりとした流麗な響き。
つづくアダージョは、しっとりと心に響く演奏。ゆったりと力をぬいたフレーズから慈しみ深い音楽がにじみ出てくるよう。コダーイ四重奏団の表現力に今更ながら打たれます。
フィナーレは切々としたフーガ。ここまでしなやかにかつあっさりとしながらも、4人の弦からは豊かな表情の音楽が沸き上がる素晴らしい演奏。最後のフーガも一体感ある力の抜けた完璧なアンサンブルで締めくくります。

Hob.III:36 / String Quartet Op.20 No.6 [A] (1772)
コミカルなメロディーから入るこの曲も、それぞれの奏者がかわるがわる主導権をとりながら音楽をつくっていきます。こうした曲調の曲では絶妙の軽さとしなやかさでハイドンのユーモラスな創意を引き立てます。コダーイ四重奏団の奏でる旋律は自然と音楽が滲み出すように、弾くフレーズそれぞれが実に自然なもの。力みという言葉の当てはまるところは皆無。
この曲のアダージョは実に楽しげなメロディーに溢れています。ヴァイオリンの抜けるような高音の美しさも、非常に力が抜けて、演奏を楽しんでいるよう。非常に美しい音色ですが、意図した美音というより、自然に磨かれた表情と言った方がいいかもしれません。このアルバムのアダージョ楽章はどれもほれぼれするよう出来。この境地を何と例えたらいいでしょうか。
メヌエットはリズムを強調するタイプ。メヌエットも曲に合わせてかなり演奏スタイルを変えてきていますが、曲の流れのなかにある意図を汲んでの事でしょう。ここでは珍しくクッキリととエッジを立ててシャープな表情。
そして最後のフーガは入りからメロディーの交錯を予想させるようにきっちりとコントロールされたアンサンブル。これまでとスタイルを変えて、フーガの複雑な響きをクッキリ表現するために、敢えてクッキリした表情付けをするあたり、かなりのセンスですね。最後は4人がピタリと合わせて終わります。

久々に取り出して聴いたコダーイ四重奏団のハイドン。あらためてこのアルバムの出来はコダーイ四重奏団の音楽性の高さを物語る素晴らしさです。4人それぞれがざっくりと音楽を創っているのに、アンサンブルはピタリとあって、実に慈しみ深い音楽が湧き出てきます。長年ハイドンの弦楽四重奏曲を弾いているからこその円熟の音楽と言っていいでしょう。やはりコダーイ四重奏団のハイドンは素晴らしかったと再認識。1曲1曲聴かせどころがちゃんとあり、弦楽器の美しい響きを堪能できる素晴らしい録音。オススメです。評価はもちろん3曲とも[+++++]とします。

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tag : 弦楽四重奏曲Op.20 弦楽四重奏曲全集

【新着】ウィーン弦楽四重奏団の「皇帝」

弦楽四重奏が続きます。

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HMV ONLINEicon / amazon / TOWER RECORDS

ウィーン弦楽四重奏団の演奏による、ハイドンの弦楽四重奏曲Op.76のNo.3「皇帝」、ベートーヴェンの弦楽四重奏曲第7番「ラズモフスキー第1番」の2曲を収めたアルバム。ハイドンの収録は2010年11月16日、17日、草津音楽の森国際コンサートホールでのセッション録音。レーベルはcamerata。

ウィーン弦楽四重奏団のハイドンは以前に一度取りあげています。

2011/11/13 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : ウィーン弦楽四重奏団の五度、ひばり、セレナーデ

「五度」と「ひばり」などを収めた同じくcamerataのアルバムですが、録音は1978年と今日取り上げるアルバムから32年も前のもの。メンバーもヴァイオリンは変わりませんが、ヴィオラとチェロは入れ替わっています。今日取り上げるアルバムのメンバーは下記の通り。

第1ヴァイオリン:ウェルナー・ヒンク(Werner Hink)
第2ヴァイオリン:フーベルト・クロイザマー(Hubert Kroismar)
ヴィオラ:ハンス・ペーター・オクセンホファー(Hans Peter Ochsenhofer)
チェロ:フリッツ・ドレシャル(Fritz Dolezal)

ヴィオラとチェロは、それぞれ1998年、1995年に前任者から入れ替わっています。

このアルバムをリリースしているcamerataのサイトを見ると、このウィーン弦楽四重奏団のアルバムは40枚以上リリースされており、人気のあるシリーズなのだと想像できます。やはり日本でのウィーンフィルの人気は特別なものなのでしょう。

このアルバム、前に取りあげた「五度」「ひばり」が素晴らしい出来だったので、それから30余年経たアンサンブルはどのようなものかが聴き所でしょう。

Hob.III:77 / String Quartet Op.76 No.3 "Kaiserquartetett" 「皇帝」 [C] (1797)
録音はヴィオラとチェロのバランスが強く、ヴァイオリンにかぶる感じ。ウェルナー・ヒンクのヴァイオリンのキビキビとしたキレの良さは健在ですが、以前にくらべて張りとか伸びは少しおとろえているように聴こえます。音程も高音が抜けきらない感じがあります、逆に味わいのある演奏と聴く事もできます。流石はウィーンフィルメンバーの演奏だけあって、華やかさと典雅さをほんのり感じさせるオーソドックスなハイドンの演奏です。以前取りあげた演奏はアンサンブルの精度や音楽性までかなりの緊張感だったのに比べると、力の抜けた燻し銀の演奏という感じ。力みもなく、細部へのこだわりもほどほどで、ハイドンらしさと楽しげな音楽の流れの良さを感じさせるもの。
ドイツ国歌のメロディーとして有名な2楽章は、のどかな草原でたたずむような音楽。1楽章ですこし奏者間にテンションの差を感じたのがおさまり、息の合った音楽になりました。変奏がすすむにつれてリリカルな表情が濃くなり、各奏者の感覚が研ぎすまされていくのがわかります。このあたりは流石ウィーンフィル奏者というところでしょう。
メヌエットはキビキビとしたテンポでサクサクすすめます。この軽さの感覚というかセンスがなかなか出せないのですね、普通のアンサンブルには。さりげない表情のひとつひとつに音楽を豊かに聴かせるエッセンスが込められているのでしょう。
フィナーレは力強くもありますが、老練な力強さという感じ。各楽器の鬩ぎ合う感じも同じく老練。聴かせどころはウィーン風というよりは、燻し銀の至芸というところに移っているようですね。もちろん演奏の精度が落ちるほどではありませんが、いい意味で枯れた感じも加わっているのでこう感じるのでしょう。音楽の流れと言うかつくりは一貫した安定感があり、最後までしっかりとした足取り。最後の盛り上がりも見事なものです。

ウィーン弦楽四重奏団によるハイドン晩年の傑作弦楽四重奏曲の演奏。やはり名手4人によるアンサンブルの妙を聴かせる仕上がりは流石です。若手の溌剌としたハイドンもいいですが、こうした名人芸もいいものです。とくにこの皇帝という晩年の曲だけに、曲想にも合った演奏という印象もあります。30余年を経て、聴かせどころもかわり、年輪を重ねていっていることがわかりますね。評価は[++++]といたします。

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tag : 皇帝 弦楽四重奏曲Op.76

【新着】レティーツィア四重奏団の「十字架上のキリストの最後の七つの言葉」

今日は先日TOWER RECORDS新宿店にて仕入れたアルバムから。

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HMV ONLINEicon / amazon / TOWER RECORDS

レティーツィア四重奏団(Laetitia-Quartett)の演奏によるハイドンの弦楽四重奏版「十字架上のキリストの最後の七つの言葉」。収録は2011年9月にライプツィヒとだけ記載されています。レーベルは初めて手に入れる独TALANTON。

レティーツィア四重奏団ははじめて聴くクァルテット。ライナーノーツによると1996年にライプツィヒで設立された弦楽四重奏団で、メンバーはゲヴァントハウス管弦楽団とMDR交響楽団で経験を積んだ人たち。長年にわたるオケでの交響曲やオペラの演奏に加えて室内楽やバロックオペラ、教会でのカンタータの演奏などによって、緊密さを磨き、現代楽器による独特の演奏スタイルを確立していったということです。独特の演奏スタイルとは、すでに広い歴史的な視野から様々な演奏スタイルがあるなか、バロック期、古典期の作品を楽器を時代に合わせて古楽器で演奏するのではなく、演奏方法を時代に合わせて、楽器は現代楽器のままというもの。実際の演奏は良く鳴る現代楽器でのノンヴィブラートの精妙さが際立つ演奏です。メンバーは下記のとおり。

第1ヴァイオリン:カトリン・ペンツィアー(Kathrin Pantzier)
第2ヴァイオリン:ルドルフ・コンラード(Rudolf Conrad)
ヴィオラ:ディートリヒ・ハーゲル(Dietrich Hagel)
チェロ:ギュンター・クラウセ(Günter Krause)

彼らのサイトがありましたので紹介しておきましょう。

LAETITIA-Quartett

Hob.III:50-56 / String Quartet Op.51 No.1-7 "Musica instrumentare sopra le 7 ultime parole del nostro Redentore in croce" 「十字架上のキリストの最後の七つの言葉」 (1787)

序章
最新の録音らしくカミソリのような鮮明な切れ味の録音。教会での録音のような響きがともないますが、かなりオンマイクなので超鮮明。ノンヴィブラートの各楽器が精度高く重なっていきます。テンポは遅めですが、ゆったりという印象ではなく、日本刀の居合いをみるような凛とした緊張感がともないます。響きだけ聴くと現代音楽のようですね。

第1ソナタ
ソナタに入っても鋭さは変わらず、特に第1ヴァイオリンのペンツィアーの伸びのある音色に耳を奪われます。ノンヴィブラートの遅めの進行から、ちょっと平板な印象に聴こえるのではないかと危惧したのですが、精妙な音色で、適度な表情づけで淡々とすすむと、かえってメロディーに集中できて、悪くありません。確かに独特の演奏スタイルと言えるでしょう。

第2ソナタ
曲ごとに表情を変えてくる演奏ではなく、一貫したスタイル。ここに来て現代楽器だからこそ響きが良く通ることが活きているように感じてきました。弦楽器の美しい響き自体の存在感が際立ちます。その美しさを知っているからこそできる、淡々とした演奏という事でしょう。遅い楽章が続くこの曲ならではのアプローチ。そういえば、上で紹介した彼らのサイトのコンサートスケジュールにも、この十字架上のキリストの最後の七つの言葉があり、得意としていることが窺えますね。

第3ソナタ
音符が減って研ぎすまされた緊張感が増していきます。信号のようなチェロの音にのってヴァイオリンを中心としたメロディーが孤高の演奏。凝縮された美しさ。引きずるように絡むフレーズの魅力も乗っていきます。響きの余韻が録音会場の中にさっと広がるようすが見事。

第4ソナタ
前楽章の研ぎすまされた美しさから、和音の重なりの見事さに聴き所が移ります。波頭が次々と襲ってくるようすが克明に表現されています。相変わらず遅めの展開ですが、奏者にはまだまだ美音を奏でられる元気さがあります。ゆったりしているのに緊張感が保たれています。

第5ソナタ
有名なピチカート主体の楽章。さらにテンポが落ちて、ピチカート自体もスローモーションを見るような克明かつ正確な刻み。中間部は大胆なヴァイオリンのフレーズに寄り添うようにまわりの楽器が続きます。鮮明なヴァイオリンの音色の魅力、迫力が圧倒的な音像として迫ってきます。有無をも言わせぬ迫真の演奏。再びピチカートが戻りますが、音楽の起伏が大河のごとく壮大になって、もはやクァルテットの枠におさまらないほど。

第6ソナタ
峻厳さが増して、音楽は類いまれな険しさに。険しい音色の合間から垣間見える明るさと険しさの織りなす鮮明な綾。一人一人の奏者の隙のない音楽。作為のない直裁な音の迫力に打たれます。ここに来て、弦楽四重奏、しかもノンヴィブラートの浸透力ある音色の四重奏に圧倒されます。風もないのに風圧に圧倒される感じ。鋭さが心に刺さります。これまで聴いたことのない純粋で険しい音楽。最後に射す一筋の光のような明るさ意味が引き立ちます。

第7ソナタ
予想外に太い弦楽器の音色から入ります。全員の無垢な心境がそのまま音楽になったような、これまでの音楽の向こう側のような澄み渡った景色が広がります。それぞれの奏者の音色が克明に聴き分けられるような鮮明な録音。音楽は孤高の領域に一歩づつ進み、聴くものを追い払うような、神聖な輝きを帯びてきます。神々しいとはこのこと。今更ながらこの曲の素晴らしさを思い知る瞬間です。

終章
激しさが極まるかと思いきや、激しさをスローモションで見るような澄みきった心境の吐露のような演奏。地震ではなく地震の映像のような美化された激しさ。現実ではなく象徴的な表現なのでしょう。

聴き始めは単調さをはらむのではないかと予想した、レティーツィア四重奏団の現代楽器によるノンヴィブラートの演奏。聴き進むうちに、表面的な表現ではなく、音楽の核心にせまる険しさと、表現意図と言うレベルではない迫力に圧倒される名演奏だと気づきました。歴史の長いクァルテットではありませんが、それぞれの奏者の意図が重なり合って素晴らしい緊張感を保った、まさに4人の息がピタリと合った見事なアンサンブル。これは素晴らしい演奏。難曲であるこの曲の新たな魅力を浮かび上がらせた秀演でした。もちろん評価は[+++++]とします。

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tag : 十字架上のキリストの最後の七つの言葉

メロス四重奏団のOp.76のNo.5シュベツィンゲン音楽祭ライヴ

手元にはレビューすべきアルバムが沢山ありますが、昨日昼前にamazonに注文したらその日のうちに到着したアルバム。

MelosQuartettLive.jpg
HMV ONLINE / amazon / TOWER RECORDS

メロス四重奏団(Melos Quartett)の演奏でハイドンの弦楽四重奏曲Op.76のNo.5、ウォルフガング・フォルトナーの弦楽四重奏曲、ラヴェルの弦楽四重奏曲ヘ長調の3曲を収めたアルバム。収録は1979年5月9日、シュベツィンゲン音楽祭でのライヴ。会場はドイツ、ハイデルベルクの西隣のシュベツィンゲンにあるシュベツィンゲン宮殿。レーベルは独hänssler CLASSIC。

メロス四重奏団のハイドンは以前に一度取りあげています。

2010/12/01 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : メロス四重奏団の「皇帝」、「日の出」、「鳥」

いつものようにWikipedia等から演奏者の情報を紹介しておきましょう。

メロス四重奏団は、1965年にヴュルテンベルク室内管弦楽団とシュトゥットガルト室内管弦楽団の首席奏者らによって結成されたドイツの弦楽四重奏団。結成間もない1966年に、ジュネーヴ国際音楽コンクールで最高賞を受賞して世界的に有名になりました。得意とするのはベートーヴェン、シューマン、ブラームス等のドイツものということです。ただし、惜しいことに設立以来30年を経過して、第1ヴァイオリンのヴィルヘルム・メルヒャーが亡くなった事にともない2005年に解散したとのことです。以前も触れましたがメンバーは下記の通り。

第1ヴァイオリン:ヴィルヘルム・メルヒャー(Wilhelm Melcher)
第2ヴァイオリン:ゲルハルト・フォス(Gerhard Voss)※1993年以降 イーダ・ビーラー(Ida Bieler)
ヴィオラ:ヘルマン・フォス(Hermann Voss)
チェロ:ペーター・ブック(Peter Buck)

なお、「メロス」の名称の由来は、第1ヴァイオリンのメルヒャーのMelと第2ヴァイオリンとヴィオラのフォス兄弟兄弟のosを組み合わせ、ラテン語で「歌」「音楽」「旋律」を意味する言葉にかけたものとのことです。

以前に取りあげたアルバムもおそらく1970年代の録音であり、このアルバムの演奏も70年代ということで、設立後最も油の乗った時期のライヴということで期待の一枚。ジャケット写真からも音楽が沸き上がってくるセンスのいいもの。

Hob.III:79 / String Quartet Op.76 No.5 [D] (1797)
直接音重視で、比較的デッドながら図太い音のする独特の録音。古典の規律ではなく、明らかにロマン派の音楽を奏でるような自在な演奏。テンポをかなり揺らしながら聴き慣れたハイドンのこの曲のメロディーに自在な流れによる起伏をつけて、いきなり弓をきりきりフルに使ったタイトな演奏。まるでベートーヴェンかヤナーチェクの曲の演奏のように攻めていきます。1楽章からテンションは最高。ベートーヴェンの曲への橋渡しをかなり意識した演奏なのでしょうか。ただ、この張りつめながらも音楽のテンションを楽しもうというところが残っていて、それがハイドンらしくもあります。
2楽章のラルゴもいきなり引きずるようにテンションがかかったヴァイオリンの力強い演奏に耳を奪われます。この濃い音楽もハイドンの一面ということでしょう。各楽器がかなり良く歌うためクァルテットとしても歌に満ちた演奏となり、かなり情感が乗ってきます。弦楽器の持つ起伏をフルに表現したようなクッキリしたフレージング。チェロまで雄弁にメロディーを奏でていきます。磨き抜かれた実に劇的なラルゴ。それぞれの楽器が良く鳴って、恍惚感すら感じさせる程。
3楽章のメヌエットは、前楽章からの劇的な演奏に加えて刺さるような鋭さもある演奏。チェロ主導のさざめくような中間部を挟んで両端の雄弁なメロディーが聴き所。
そしてフィナーレはさらに鋭さを増して、超ハイテンションの演奏。ヴァイオリンのメルヒャーが軽々とかつ非常に鋭利にメロディーラインを演奏していき、他の奏者も完全に追随して、エクスタシーを感じるほどのテンション。ただ速い演奏ではなく、鋭利な推進力に満ちたアクロバティックな演奏と言っていいでしょう。最後は突き抜けるように終わります。拍手は省略されています。演奏中に会場ノイズがありますので、ライヴ収録であることは間違いありません。

メロス四重奏団のシュベツィンゲン音楽祭でのハイドンのOp.76のNo.5の演奏、演奏によっては秩序と規律に満ちた曲が、まるでベートーヴェンのクァルテットのように強い響きと圧倒的なテンションで立ちはだかります。ハイドンによる音楽に間違いないのですが、ハイドンの弦楽四重奏曲の演奏としてはかなり特殊なものでしょう。この曲に続いて現代音楽の作曲家ウォルフガング・フォルトナーの曲が置かれていますが、こちらも見事な演奏。演奏スタイルとテンションは一貫したものです。このライヴ、良くも悪くもメロス四重奏団のこうしたテンションがポイントです。ハイドンのクァルテットの演奏として聴くというより、メロスの濃い音楽としてどうかということがポイントとなるでしょう。評価は、ライヴ好きな私としてはこのテンションの突抜け具合を評価して、[+++++]とします。

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tag : 弦楽四重奏曲Op.76 ライヴ録音

ザンデルリンク/読響の「熊」1990年サントリーホールライヴ

昨夜は実に久しぶりにTOWER RECORDS新宿店に。いつものようにエスカレーターで9階に行きましたが、クラシック売り場がありません! もしやクラシック売り場がなくなってしまったのではと嫌な予感がよぎりましたが、店内表示を見ると10階がクラシック売り場とあり、一安心。あんまり久しぶりだったので、クラシック売り場が移動したのに気づいていませんでした。しかも10階に上がると、ちょうど9階にあった売り場とほぼ同じ構成で見やすいままでした。仕事が忙しくなかなかお店で買う機会がありませんでしたが、やはり見ながら買うのは楽しいですね。いろいろ仕入れました(笑)

今日はその中からの1枚。

SanderlingYNSO82.jpg
HMV ONLINEicon / amazon / TOWER RECORDS

クルト・ザンデルリンク(Kurt Sanderling)指揮の読売日本交響楽団の演奏で、ハイドンの交響曲82番「熊」とブラームスの交響曲1番の2曲を収めたアルバム。収録は1990年2月7日、サントリーホールでの読響「第283回名曲シリーズ」のライヴ。レーベルはクラシックアルバムの輸入を手がける東武トレーディングの読響アーカイブシリーズ。

読響のコンサートは割合気に入っていて、スクロヴァチェフスキやカンブルランの振る読響のコンサートにちょくちょく出かけて、当ブログでも何度か取りあげていることはご存知の通り。ただ、読響のコンサートに出かけるようになったのは最近のことで、このアルバムが収録された頃には読響のコンサートには通っていませんでしたので、この千載一遇の機会は知る由もなかった訳です。

このアルバムの解説によると、このコンサートで取りあげられた熊はザンデルリングのお気に入りだそうで、コンサートの前半に置かれることがしばしばあったとのこと。これまで取りあげたザンデルリンクの演奏でもここ一番、ベルリンフィルに客演した際にも熊とショスタコーヴィチという組み合わせでした。

ザンデルリンクの情報はリンク先の39番の記事をご参照ください。

2012/11/13 : ハイドン–交響曲 : クルト・ザンデルリンク/ベルリン交響楽団の王妃、86番
2012/06/30 : ハイドン–交響曲 : 【新着】ザンデルリンク/スウェーデン放送交響楽団の39番ライヴ
2010/11/04 : ハイドン–交響曲 : クルト・ザンデルリンク/ベルリン・フィルの熊ライヴ
2010/06/18 : ハイドン–交響曲 : クルト・ザンデルリンクの86番

ザンデルリンクが読響を初めて振ったのは1976年。その後1978年、1980年、そしてこの録音の1990年と4たび客演し、読響の名誉指揮者となっていましたが、2011年9月、ベルリンで98歳で亡くなっています。この録音はザンデルリンクの最後の来日の際の貴重な記録ということです。

Hob.I:82 / Symphony No.82 "L'Ours" 「熊」 [C] (1786)
ちょっと古びた音色のながら鮮明に録られ、少し遠めに定位するオーケストラ。残響は少し多めで、ホールに響きわたる響きの余韻まで楽しめます。入りは中庸なテンポで、キリッと引き締まった表情を聴かせながら、熊のユーモラスなメロディーをまるで教科書にとりあげるように、きっちり描いていきます。ヴァイオリンパートの響きの良さが印象的。テンポはかなり一貫してていて、この曲からアポロン的均衡を浮かび上がらせます。きっちりと隈取りをテンポ良く描いていくヴァイオリン。1楽章からハイドンの交響曲の均整とのとれた魅力にハマります。
つづくアレグレットも、一貫したテンポでのクッキリした表情が魅力の演奏。すこしザラッとした読響の弦楽器群がザンデルリンクの几帳面なフレージングにきちんとついていきます。途中からの盛り上がりでは、かなりの力感となりますが、少しも乱れる事なくキリッとした風情は保ちます。タイトにコントロールが行き届いています。
ちょっと予想と異なったのがメヌエット。かなりレガートを効かせたフレージング。リズムがキリッとしているのは変わらないのですが、非常に優雅と言うか典雅な演奏。奏者一人一人が楽しんで弾むような旋律を奏でていきます。木管楽器群が見事に歌っています。非常に優雅にダンスを踊っているようなメヌエット。
フィナーレも予想とはちょっと異なる演奏。入りはすこし遅めで、速度よりも演奏がスローモーションを見ているように感じられる面白い表現。なかなか粋な演出です。曲が進むにつれてテンポが少しづつ上がり、オケに力も宿ってきますが、メヌエットの余韻か、そこはかとない典雅さも感じさせます。展開部のメロディーが交錯するところに至って盛り上がりも頂点に達しますが、一杯飲んで楽しんでいるような余裕のある盛り上がり。最後はしっかり聴かせどころをつくって、サントリーホールの観客からブラヴォーが降り注ぎます。

クルト・ザンデルリンクが得意としていた熊の、読響との1990年という晩年の貴重なライヴ。なにより読響がザンデルリンクの指示に忠実に従って、非常によくコントロールされた演奏なのが素晴らしいですね。オケが一体となってザンデルリンクのキリッとしていながら非常に優雅なハイドンを表現しています。会場の興奮も伝わる臨場感のある録音も悪くありません。もちろん評価は[+++++]とします。
このあとに置かれたブラームスの1番もハイドン以上の名演です。濃密な音楽が観客の心を鷲掴みにしているようすが伝わる素晴らしいライヴですね。東武トレーディングさん、いい仕事です!

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tag : ライヴ録音 おすすめ盤

カレル・アンチェル/オランダ放送フィルの「ロンドン」ライヴ

Twitterで気になるつぶやきをみつけて、アンチェルのアルバムを久しぶりに取り出しました。

Ancerl104.jpg
amazon

カレル・アンチェル(Karel Ančerl)指揮のオランダ放送フィルハーモニー管弦楽団(Netherlands Radio Philharmonic Orchestra)の演奏で、ハイドンの交響曲104番「ロンドン」などを収めたアルバム。ハイドンの収録は、1970年7月6日、アムステルダム・コンセルトヘボウでのライヴ。レーベルは仏TAHRA。

気になるつぶやきとは、宇都宮のAujancoolさんが、THARAのアンチェルのロンドンの演奏について「まるでりんごをガブリッと齧ったときの新鮮さと沸き立つ香りの嵐」との書き込み。私のアカウントでリツイートしていますので、ご確認ください。

そもそも当ブログでは同じくTAHRAのカレル・アンチェルの93番を以前に取りあげ、その鋼のような引き締まりまくった音楽にいたく感銘した覚えがあります。

2010/06/13 : ハイドン–交響曲 : 剛演、アンチェルの93番

そのアンチェルのロンドンの演奏からりんごを齧った時の新鮮な香りが感じるとの鋭い感覚、確かめてみたくなるというものです。

このアルバム、Karel ANCERL "Encores"というタイトルで、ライナーノーツによればアンチェルの未発表録音集としてTAHRAのカレル・アンチェルシリーズの7番目のリリースとのこと。2枚組CDで、他に1969年アムステルダム・コンセルトヘボウとのブラームスの2番、1959年チェコフィルとのスメタナ「わが祖国」から3曲と「売られた花嫁」序曲、1966年チェコフィルとのヴォジーシェクの交響曲など、何れも未発表のライヴばかりが収められた貴重なもの。中古以外での入手は難しそうです。

カレル・アンチェルは、1908年チェコ南部、南ボヘミアののトゥチャピ(Tučapy)と言う街に生まれた指揮者。プラハ音楽院に入り作曲を学びましたが、学生時代にワルターと出会い、才能を認められて指揮者を志すように。その後、ヘルマン・シェルヘンのアシスタントを経て、プラハ解放劇場の伴奏指揮者となり、またチェコフィルを振っていたヴァーツラフ・ターリヒのマスタークラスを受講して腕を磨きました。1933年にはプラハ交響楽団の音楽監督に就任しますが、父がユダヤ人だったアンチェルは1939年チェコがナチス・ドイツの支配下となるとプラハ交響楽団の音楽監督の地位を奪われ、また家族共々収容所に送られ、アンチェル以外の家族は虐殺されてしまったとのこと。
戦後になって楽壇に復帰すると、1945年からプラハ歌劇場の指揮者、1947年からチェコ放送交響楽団の指揮者、1950年にはクーベリックの後任としてチェコ・フィルハーモニー管弦楽団の常任指揮者に就任します。低迷していたチェコフィルを見事立て直してターリヒ時代の栄光をとりもどしたと伝えられています。1959年にチェコフィルと来日、また1969年にアメリカへの演奏旅行中にチェコ事件がおこり、そのまま亡命、翌1969年から小沢征爾の後任としてカナダのトロント交響楽団の常任指揮者となるも、4年後の1973年に65歳で亡くなったという事です。

この前取りあげたゲオルク・ティントナー同様、数奇な運命に翻弄された人ですね。今日とりあげるロンドンの演奏は1970年の収録ゆえ、亡命直後で、亡くなる3年前の録音という事です。

Hob.I:104 / Symphony No.104 "London" 「ロンドン」 [D] (1795)
拍手から始まります。かなり賑やかな会場ノイズが臨場感たっぷり。ロンドンの有名な序奏の入りは険しく彫刻的、マッシヴなもの。場内のざわめきがサーっと引いて、アンチェルの奏でる音楽に集中します。主題に入るとかなりテンポ良く、爽やかなフレージング。グイグイすすめていくのが痛快。かなりの早さで煽っているようで、オケがついていき損ないそうになる場面もありますが、かまわずグイグイ行きます。素晴らしい推進力と高揚感。1楽章からエネルギー炸裂。豪速球投手が1回から全力投球している感じ。津田か小松の快投を見るよう(古いか)
アンダンテは一転、抑えて冷静な表現の演奏。上手く対比をつけて楽章間のメリハリがクッキリつきます。中間部の盛り上がりも、すこし余力を残して落ち着いた表現。細かいところにあまりこだわりはなさそうで、オケも気持ちよく鳴らしている感じです。
つづくメヌエットはちょっと予想と異なり、かなり溜めたフレージング。楽章間の変化が実に効果的。特にこのメヌエットはかなりじっくりと落ち着き、1楽章の入りの火照りを鎮めているように感じます。
フィナーレは期待通り、冒頭から少し経つとギアチェンジして1楽章同様、グイグイすすむように煽りが入ります。唸る低音弦とキレまくるヴァイオリン、そして全楽器がおくれてはなるまいという事で団員が髪を振り乱してついてくるようすが見えるよう。最後まで熱い演奏でした。

悲劇の人、カレル・アンチェルがコンセルトヘボウでオランダ放送フィルを振った「ロンドン」のライヴ、ハイドンの最後の交響曲に込められたエネルギーを見事に音楽に乗せた演奏でした。録音はちょっと鮮明度に難ありですが、それほど悪くありません。Aujancoolさんの「まるでりんごをガブリッと齧ったときの新鮮さと沸き立つ香りの嵐」とは、アンチェルが醸し出す、細かいところではなく音楽の鮮度を引き出すような直裁な表現をりんごを齧ったときのサクッとした感触と、新鮮な歯ごたえに例えたものと理解できました。丁寧に磨き込んだ音楽ではなく、素材そのものの良さを引き出すアンチェルの技をうまく言い当てたものでしょう。評価は[+++++]と行きたいところですが、以前取りあげた93番の恐ろしいまでにキレた演奏と比較すると、ちょい落としてということになり、[++++]としたいと思います。

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テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽

tag : ロンドン ライヴ録音 ヒストリカル

【番外】イクラをパスタに?

最近はもっぱらレビュー記事に集中していますが、レビューばかりしている訳ではありません(笑)

母が友人からおいしいイクラの瓶詰めをいただき、イクラでパスタをとのご注文(笑) しばし考えて、細めのフェデリーニに、イクラの塩気を考えてじゃがいもの薄切りをオリーブオイルをからめて炒めたものをあわせようということに。今日は、生ガキをつまみに南アフリカの白ワインを飲みながら料理開始です。

IMG_3918.jpg

ジャガイモの薄切りをオリーブオイルで炒めているあいだに、瓶詰めのイクラをちょっとつまむと、なんと、あまり塩っぱくありません。ということで、少し軌道修正して、ジャガイモにも塩をふって白ワインで酸味も加えます。アルデンテに茹でたパスタをからめて、最後に大量のイクラを乗せます。色合いは見事。ただし、途中で胡椒を振る際、蓋が取れて、適量以上に胡椒が,,,(笑) イクラのパスタは胡椒がビリリと効いたスパイシー系となりましたが、じゃがいもに胡椒は合いますので、それほど違和感わありませんでした。一応成功。

IMG_3916.jpg

メインはスーパーで半額になっていた大振りのいさき。ここはお腹にタイムの葉を大量に詰めて、塩をしっかり振り、香草焼きに。火加減がよかったのかイサキがしっとりふかふかに。オリーブオイルと醤油をよく混ぜたソースをからめていただきました。こちらは大成功。

3連休でしたが、スポーツクラブで2回、都合4キロ泳いだのと、家の掃除に墓参り、そして料理とのんびり休みました。

手元のハイドン・トータルやら、ティントナーをしのんでブルックナーを聴いたり、久々にくつろいだ週末でした。さて、次のレビューは何にしましょうか、、、

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テーマ : イタリアン
ジャンル : グルメ

プロフィール

Daisy


Author:Daisy

なぜかハイドン(Franz Joseph Haydn)が特に気に入り膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。東京在住のごく普通のサラリーマンです。

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Joseph Haydn Discography at H. R. A.
所有盤をジャンル別にリスト化しています。基本的に録音年順とし、録音年不明のものは末尾に記載。演奏者名はジャケットなどの表記に合わせています。

2017年7月のデータ(2017年7月31日)
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