Haydn Disk of the Month - February 2015

忙しく過ごしているうちに花粉にまみれる2月となってしまいました。

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自宅の庭の梅も何本かあるうちの半分くらいに花がつき、庭は梅のいい香りに包まれています。梅の香りはいいのですが、厄介なのは花粉。大学時代に花粉症になってからかれこれ30年以上経ちますが、毎年この季節は憂鬱ですね。最近は鼻より目がゴロゴロ。ちょっと外出をすると目の周りに花粉がつき、ちょっとこすると目が真っ赤になります。慣れているものですし、死ぬわけではないのですが、厄介には違いありません。これも季節の風物詩と諦めるしかありませんね。

さて、今月のベスト盤ですが、このアルバムです!

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2015/02/14 : ハイドン–交響曲 : ジョン・ラボック/セント・ジョーンズ・スミス・スクエア管の悲しみ、受難(ハイドン)

ジョン・ラボックによるハイドンのシュトルム・ウント・ドラング期の名曲「悲しみ」「受難」の2曲を集めたアルバム。なんとなく廉価盤然とした佇まいから、さして期待せず聴いたのですが、これはこの2曲の決定盤的名演盤です。現代楽器によるオーソドックスな演奏ながら、両曲のアダージョ楽章の深い深い慈しみといったら、この盤の右に出るアルバムはないほど。ハイドンの名曲の真髄に迫る素晴らしい演奏でした。有名曲ゆえ名盤も多いですが、このアルバムこそハイドンの書いた曲の素晴らしさに迫る決定盤と断じます。未聴の方、手に入るうちに是非聴いてみてください。

そのほか、今月聴いて素晴らしかったアルバムは下記の通り。

2015/02/28 : ハイドン–協奏曲 : エルヴェ・ジュランのホルン協奏曲など(ハイドン)
2015/02/25 : ハイドン–オペラ : ヨハネス・ゴリツキの「薬剤師」全曲(ハイドン)
2015/02/21 : ハイドン–室内楽曲 : トーケ・ルン・クリスチャンセンのフルート三重奏曲(ハイドン)
2015/02/13 : ハイドン–協奏曲 : エドウィン・フィッシャー/ウィーンフィルのピアノ協奏曲(ハイドン)
2015/02/12 : ハイドン–交響曲 : 【新着】マックス・ゴバーマンの交響曲集14枚組(ハイドン)
2015/02/05 : ハイドン–ピアノソナタ : キャロル・セラシのクラヴィコードによるXVI:20(ハイドン)

印象に残ったのはゴリツキの「薬剤師」と、エドウィン・フィッシャーのピアノ協奏曲。特に後者はエドウィン・フィッシャーという人の偉大さを再認識させる妙技が聴かれます。録音は古いのですが、スクラッチノイズの向こうからピアニストの覇気が伝わってきます。あと、忘れてならないのがゴバーマンの交響曲集。急逝しなければドラティの交響曲全集の前にハイドンの交響曲の全曲録音という偉業を成し遂げたかもしれない、幻の録音。今まで正規盤でリリースされていなかったものの意義深い復刻です。こちらもハイドンファンなら手に入れておくべきアルバムですね。

花粉で憂鬱な季節でもありますが、音楽の癒しの力に助けられて、こうしていい音楽を聴き続けられております。次回3月末には桜の開花も伝えられるでしょうか。春ですねぇ。



2015年2月のデータ(2015年2月28日)
登録曲数:1,336曲(前月比±0曲) 登録演奏数:8,326件(前々月比+97演奏)

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エルヴェ・ジュランのホルン協奏曲など(ハイドン)

本日はホルンもの。

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ホルンのエルヴェ・ジュラン(Hervé Joulain)が様々な演奏家を招いて、ハイドンのホルン三重奏曲(Hob.IV:5)、ホルン協奏曲(VIId:2)ほか合わせて8曲を収めたアルバム。ホルン三重奏曲のヴァイオリンはジャン・ジャック・カントロフ(Jean-Jacques Kantorow)、チェロはロラン・ピドゥー(Roland Pidoux)、ホルン協奏曲はフィリップ・ヘレヴェッヘ(Philippe Herreweghe)指揮のフランス放送フィルハーモニー管弦楽団(Orchestre Philharmonique de Radio-France)の演奏。収録は1994年の3月から5月にかけて、パリのフランス放送103スタジオでのセッション録音。レーベルは仏ARION。

アルバムの企画はジュランが有名奏者を招いて様々なホルンの難曲を弾くというリサイタルのような仕立て。ハイドンの2曲の他はシニガリア、モーツァルト、リヒャルト・シュトラウス、ケックラン、フランツ・シュトラウス、グリエールのホルンが活躍する曲。

エルヴェ・ジュランは1966年ボルドーの北にあるサン=ロマン=レ=メル(Saint-Romans-lès-Melle)生まれのホルン奏者。1987年に20歳の若さでマルク・ヤノフスキ時代のフランス放送フィルの首席ホルン奏者に就任したとのことで早くから才能が開花。10年後にはシャルル・デュトワ時代のフランス国立管の首席ホルン奏者に、そしてその後マゼール率いる、イタリアパルマのトスカニーニフィルの首席奏者となっています。オーケストラでのみではなく、パリ・バスティーユ吹奏八重奏団のメンバーとして多数の録音があり、またソリスト、室内楽でも活躍しているとのことで、共演者はバーンスタイン、メータ、バレンボイム、ブーレーズ、マゼール、ジュリーニ、ムーティ、小澤征爾など一流どころが並んでいます。

私自身ホルン奏者に詳しいわけではありませんので、ジュランのアルバムを聴くのは初めてのこと。しかもハイドンのホルンの難曲、ホルン三重奏曲でカントロフ、ホルン協奏曲ではヘレヴェッヘとの共演ということで興味津々ですね。遅ればせながらこのアルバムも湖国JHさんに借りているものです。いつもながらマイナーではありますが、実に興味深い演奏を送り込んでこられます。

Hob.IV:5 Divertimento à tre [flat] (1767)
聴きなれたシンプルな曲。ジュランのホルンは軽快。バウマンのように磨きぬかれた正確な安定感という感じではなく、さらりと爽快な印象。リズム感は抜群で、音に力があります。音階のキレも素晴らしいですね。録音のバランスは自然なままなのでしょうが、ホルンの音量が勝る感じ。スタジオでの収録ですが適度に残響もあり、部屋に響く感じが程よく加わって、小ホールでの録音のような印象。カントロフのヴァイオリンは軽々としたタッチで、曲の軽さをよく表現しています。アンサンブルの制度は抜群。最後のカデンツァのような部分でホルンが法螺貝のごときテクニックで聴かせる音階のジャンプが見事。

Hob.VIId:3 / Concerto per il corno [D] (1762)
こちらも速めのテンポでの軽快な入り。ヘレヴェッヘは古楽器のイメージがありますがフランス放送フィルは現代楽器オケ。ヴィブラートは抑え気味で響きに透明感があります。ジュランのホルンは前曲そのまま軽快そのもの。変に緻密な感じがなく、適度に開放感があっていい感じ。オケも同じテイストで、楽天的な軽快さ。イキイキとした表情は流石ヘレヴェッヘ。こちらも録音はそこそこいいのですが、ホルンのソロとオケが一体となって聴こえ、協奏曲としてはもう少しオケを引いて録ったほうたソロが引き立ちますね。1楽章のカデンツァはジュランの自然ながらさりげない軽さとホルンの音色の存在感を感じさせる見事なもの。
聴きどころのアダージョ。ヘレヴェッヘはゆったりとしながらも、適度な規律を感じさせる流石のサポート。ジュランは爽やかさたもちながら、徐々に音程とテンポを落とし、ホルンの絶妙な音色を紡ぎ出していきます。ジャケットの姿通り爽やかなイケメンキャラを崩しません。何度聴いてもゾクゾクするホルンの低音の唸るような音色。ハイドンの楽器の音色の魅力を踏まえた音楽の素晴らしさに打たれるところ。カデンツァは短いながら深々としたホルンの音色の魅力を際立たせます。
フィナーレでもヘレヴェッヘは素晴らしい安定感でオケをコントロール。軽さと節度を保ちながらイキイキとした表情を作っていきます。ジュランは一貫して爽やか。フランス人らしい華やかさも持っているので実に上品な演奏。よく聴くと音階の切れ目のアクセントが効いているのでこの活気が感じられることがわかります。最後のカデンツァでのホルンの高音と低音のコントラストをうまくつけて聴かせています。実に爽やかな演奏でした。

フランスのホルン奏者エルヴェ・ジュランのホルンによるハイドンの名曲2曲。ジュランのホルンはやはりフランスらしい華やかな爽やかさを基調としたもので、ハイドンの名曲に独墺系の演奏とは異なる華やかな余韻が感じられる名演でした。共演するカントロフのヴァイオリンやヘレヴェッヘ/フランス放送フィルのサポートも万全。ジュランのこだわらない自然な妙技が楽しめるいいアルバムでした。ハイドンの2曲の評価は[+++++]とします。

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tag : ホルン三重奏曲 ホルン協奏曲

ヨハネス・ゴリツキの「薬剤師」全曲(ハイドン)

珍しくオペラを取り上げます。ちょうどハイドンの声楽曲の所有盤リストの整理をしていて、いろいろ聴き直していたら、目からウロコの名演奏盤だったということで、あらためて聴き直した次第。

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ヨハネス・ゴリツキ(Johannes Goritzki)指揮のノイス・ドイツ室内アカデミー(Deutsche Kammerakademie Neuss am Rhein)の演奏によるハイドンの歌劇「薬剤師(Lo Speziale)」全曲。収録は1999年1月、ドイチュランド・ラジオ・ケルンの放送センター大ホールでのセッション録音。レーベルはBERLIN Classics。

思い立って先週から、オラトリオの四季の所有盤リストのメンテナンスをしており、四季がひと段落。そして続くオペラのリストの誤り探しをしながら、いろいろなアルバムのつまみ聴きをしていました。初期のオペラ「薬剤師」は手元にDVDを含めて全曲盤が4種ありますが、それぞれ聞いてみると、今日取り上げるアルバムが格別にスバラシイことがわかりました。ハイドンのオペラは日本ではかなりマイナー。ちょいあとのモーツァルトのオペラに比べると日本での聴かれ方は天と地ほど違い、ハイドンのオペラを聴く機会はほとんど無きに等しいほどでしょう。愛聴するヴァイオリン協奏曲でさえ、モーツァルトに比べるとかなりマイナーな存在。これではいけません。ということで、勇気をもってオペラのアルバムを取り上げる次第。

この「薬剤師」というオペラ、作曲は1768年ということで、シュトルム・ウント・ドラング期の真っ最中に書かれたもの。この年エステルハーザ宮廷歌劇場か完成し、そのこけら落としのために作曲されたもの。筋は薬剤師センプローニオとそのイケメン助手メンゴーネ、恋敵のヴォルピーノの3人がヒロインのグリレッタの心を射止めようとするドタバタ劇。3幕物ですが、このアルバムはCD1枚に収まるコンパクトなもの。音楽はまさにハイドンらしい晴朗、快活で変化に富んだ素晴らしいもの。

指揮者のゴリツキは、ハイドン好きな人の間では知られた人でしょう。cpoからハイドンの弟、ミヒャエル・ハイドンの交響曲集を何枚もリリースしている人。指揮者であり、チェロ奏者でもあるそう。彼のウェブサイトがありましたのでリンクしておきましょう。

Johannes Goritzki

教育者といしてはスイス南部のルガーノにあるイタリア語スイス音楽院やロンドンの王立音楽大学で教えているとのこと。ディスコグラフィーを見ると、ミヒャエル・ハイドン以外にもいろいろなアルバムがリリースされており、ヨーロッパでは知られた存在であることがわかります。

歌手は下記のとおり。初めて聴く人ばかりで、有名どころではありませんが、聴く限り皆素晴らしい歌唱。

薬剤師センプローニオ:ジュゼッペ・モリーノ(Giuseppe Morino)テノール
助手メンゴーネ:ハウケ・メラー(Hauke Möller)テノール
グリレッタ:バーバラ・メザロス(Barbara Meszaros)ソプラノ
ヴォルピーノ:アリソン・ブラウナー(Alison Browner)ソプラノ

テノール2人とソプラノ2人というシンプルな配役。しかも敵役の金持ちな若者ヴォルピーノがソプラノというのが変わった構成でしょうか。ケルビーノのような存在ということでしょう。

Hob.XXVIII:3 / "Lo speziale" 「薬剤師」 (1768)
序曲は馴染みのあるもの。幕が上がる前のざわめきがつたわる快活かつスリリングな入り。録音もキレ良く問題ありません。第一幕は薬の調合をする助手のメンゴーネと薬剤師のセンプローニオとのやり取りから入り、そこにメンゴーネの恋敵のヴォルピーノが現れます。密かにグリレッタの心をつかみたいセンプローニオ、愛し合うメンゴーネとグリレッタ、ライバルヴォルピーノの間のやり取り。軽快かつ滑稽な音楽とともに進むレチタチィーヴヴォ。トラック4の薬剤師センプローニオのアリアはモリーノの朗々とした歌が見事。続いてトラック6のメンゴーネのアリアもテノール版の夜の女王のアリアのような聴かせどころがあり、実に愉快。メラーもコミカルな歌いぶりがなかなか素晴らしいです。そしていよいよヒロイン、グリレッタの登場。レチタティーヴォを挟んで、これまた素晴らしいアリア! なんと美しいメロディーの連続。癒しに満ちた素晴らしい音楽。ソプラノのバーバラ・メザロスはコケティッシュな魅力のある声。つづいてグリレッタと二人きりになって気持ちを打ち明けたものの、あしらわれたヴォルピーノの恨み節のアリア。そして第一幕の最後のメンゴーネ、グリレッタ、センプローニオの三重唱。ようやくメンゴーネとグリレッタの恋人どうしが2人きりになろうとしたところに、センプローニオが入ってきて大混乱。このトラックの音楽、実によくできていて面白い。場面転換の緊張感と3人の美しい歌唱が渾然一体となった素晴らしい音楽。

第二幕はセンプローニオとヴォルピーノがグリレッタの心をつかもうと挽回を企むストーリー。グリレッタは恋人メンゴーネの態度が煮え切らないことに業を煮やし、ヴォルピーノと結婚すると言い出して大喧嘩。その隙を狙ってセンプローニオがグリレッタとの結婚証書を作るともちかけますが、偽の公証人がそれぞれ新郎の欄にそれぞれの名を書こうとして大混乱するという筋。比較的わかりやすいドタバタ劇ですが、これまた音楽が面白くて、一気に聴き進められます。ゴリツキはオペラを得意としているのか、ミヒャエル・ハイドンの交響曲集の時の演奏以上に間の取り方が巧みで、展開の面白さがしっかり描けています。第二幕でもヴォルピーノ、センプローニオ、グリレッタのアリアを経て、最後に4重唱でクライマックスに至ります。ここでもトラック20の4重唱が素晴らしい充実度。ゆったりと始まり、混乱を経て、クライマックスに。

第三幕はいきなりトルコ趣味の音楽から入ります。トルコでペストが大流行して、王様が高額で薬剤師を雇うとの話をヴォルピーノが持ってきて、センプローニオはすっかりトルコに行く気に。すっかりその気になったセンプローニオが、ヴォルピーノの企みにもかかわらず、仲直りしたメンゴーネとグリレッタの結婚をあっさりオッケーしてしまい大団円。最後は愛の神を皆で称えてハッピーエンドという筋です。やはりポイントは入りのトルコ趣味の音楽の独特の表情と、最後の4重唱。ここでもメリハリのある音楽で劇のストーリーがくっきりと浮かび上がります。

ヨハネス・ゴリツキによるハイドンの初期の傑作オペラ「薬剤師」全曲。いまいち地味な存在のハイドンのオペラの入門盤として絶好の1枚です。実に表情豊かなオケに隙のない4人の歌唱。特にアリアの美しさや3重唱、4重唱のなどの音楽の面白さは群を抜いたもの。これはハイドンの交響曲や弦楽四重奏好きな方にも好まれる素晴らしい音楽だと思います。手に入るのは輸入盤のみで、このアルバムに限ってはライナーノーツの歌詞も原語のイタリア語とドイツ語訳のみ。手元の別のアルバムに英語訳があるのでなんとなく筋はわかりますが、この辺が敷居を高くしているかもしれませんね。だまされたと思ってこのオペラの素晴らしい音楽に触れていただきたいものです。評価は[+++++]です。「薬剤師」の決定盤はこのアルバムです。

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テーマ : クラシック
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tag : 薬剤師

トーケ・ルン・クリスチャンセンのフルート三重奏曲(ハイドン)

連日仕事が遅く、ちょっと間が空いてしまいました。週末になってようやくゆっくり音楽を聴くことができるようになりました。最近入手したものから、のんびり室内楽を楽しみたいということでセレクトしたアルバム。

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トーケ・ルン・クリスチャンセン(Toke Lund Christiansen)のフルート、エリザベト・ウェステンホルツ(Elisabeth Westenholz)のピアノ、アスガー・ルン・クリスチャンセン(Toke Lund Christiansen)のチェロによる、ハイドンのフルート三重奏曲3曲(Hob.XV:15、XV:16、XV:17)と弦楽四重奏曲Op.77のNo.1をフルート三重奏曲に編曲したものの合わせて4曲を収めたアルバム。収録は1991年1月、録音場所は記載されていません。レーベルはデンマークのKontra Punkt。

フルートによるピアノ三重奏曲の演奏を収めたアルバム。ハイドンの緊密な構成を楽しめるピアノ三重奏曲のメロディーを美しい音色のフルートで楽しもうということでしょう。ハイドンのフルート三重奏曲はもともとピアノ三重奏曲として作曲されたものを、当時フルートの演奏が貴族の間で流行ったことからフルート三重奏曲に編曲されたもの。これらの曲のフルート三重奏による演奏は、これまで2度取り上げています。

2012/05/27 : ハイドン–室内楽曲 : ディター・フルーリーによるフルート三重奏曲
2011/06/18 : ハイドン–室内楽曲 : 絶品、ラフラム、シェーンヴィーゼ=グシュルバウアー、フラーのピアノ三重奏曲

この3曲はヴァイオリンの演奏よりもフルートでの演奏の方が多いくらいですので、フルートによる演奏はかなり一般的なんでしょう。そもそも1790年ロンドンのブラントから作品59として出版される際、ヴァイオリンのかわりにフルートが指定されていたことからも、フルートでの演奏は作曲当時から行われていたものと思われます。

また、最後に置かれた弦楽四重奏曲の編曲もこれまでに2度取り上げています。

2014/09/15 : ハイドン–室内楽曲 : ジュリエット・ユレル/エレーヌ・クヴェールによるフルートソナタ集(ハイドン)
2011/04/20 : ハイドン–室内楽曲 : 佐藤和美とバティックのフルートソナタ

この曲は今日取り上げるアルバムには記載がありませんが、おそらく佐藤和美盤同様、弦楽四重奏曲Op.77のNo.1をA. メラーという人がメヌエットを省いて編曲したものと思われます。

さて、演奏者のトーケ・ルン・クリスチャンセンは1947年生まれのデンマークのフルート奏者。デンマーク放送交響のフルート奏者とのこと。チェロのアスガー・ルン・クリスチャンセンはトーケの父。ピアノのエリザベト・ウェステンホルツはデンマークのピアニストで、デンマークで学んだのちアルフレート・ブレンデルに師事した人。BISからベートーヴェンのピアノ協奏曲全集をリリースしているということでもそれなりの人であろうと想像されます。

このアルバムをCDプレイヤーにかけると、少し遠目に適度な残響をともない3人の奏者の響きが広がるなかなかいい録音。音量を上げると、鮮明度はほどほどですが室内楽を楽しむツボを心得た録音。演奏も派手さはないのですが、キリリと引き締まったテンポ感の良いもの。なぜかトラックが楽章毎に切られず、曲ごとになっていますので、楽章を繰り返し聴けません。こうゆうアルバムでは珍しい仕様ですね。

Hob.XV:15 / Piano Trio (Nr.29/op.59-2) [G] (before 1790)
キビキビとしたピアノにテンポの良いフルートが乗り、チェロはすこし抑え気味なバランス。特にピアノの切れ味がよく演奏自体にかなりの活気があります。演奏自体はオーソッドックスなものですが、鮮度が良いので実にイキイキとしています。私の好きなタイプの演奏。特に個性的なアプローチではないのですが、凡庸な印象がないのは3人の演奏が冴えているから。弦楽器だけの演奏ではこれだけの快活さは得られませんので、まさにピアノが加わった効果が大きいでしょう。ピアノのキラめく感じとフルートの華やかさが見事に活かされています。
素晴らしいのは2楽章のアンダンテ。抑えた表現からにじみ出る美しさ。ウェステンホルツのピアノのさりげない表現がたまりません。トーケのフルートは爽やかな音色が特徴でしょうか。高音のさらりとした感触と控えめなヴィブラートがアンサンブルに合ってます。アスガーのチェロは柔らかく包み込むような音色。3人ともリズム感が非常に良いのでアンサンブルがキレているわけです。
フィナーレに入っても演奏スタイルは一貫していて、楽章間のコントラストよりも一貫性を重んじているよう。肩の力が抜けているので、安心して音楽に身をまかせることができます。1曲目から素晴らしい演奏にうっとり。

Hob.XV:16 / Piano Trio (Nr.28/op.59-1) [D] (before 1790)
キビキビとした演奏スタイルは変わらず、ピアノのキラメキとフルートの華やかさも十分。演奏の安定感は素晴らしいものがあります。強奏部分の力感に対して、テンポと音量を落とすところをしっかり落とすので曲の立体感が際立ちます。この曲の華やかさをうまく捉えた演奏。
短調に変わる2楽章も、あえて淡々と刻み、媚びない演奏姿勢からにじみ出る深みを堪能できます。微妙に表情が変化していくところのデリケートさは素晴らしいものがあります。このあたりの表情付けのコントロールは巧み。淡々とした演奏の中にも非常にデリケートな変化があり、それが音楽を豊かにしています。
フィナーレはウェステンホルツの右手の音階がキレてます。トーケのフルートもそれに劣らずキレよくメロディーを乗せていきます。よく聴くとアスガーのチェロも実にテンポがよく、最後になかなかの存在感を感じさせます。やはりアンサンブルは3人のテクニックに裏付けられていることがわかります。痛快なフィナーレ。

Hob.XV:17 / Piano Trio (Nr.30/op.59-3) [F] (before 1790)
このアルバム、曲ごとの演奏のムラは皆無。3曲目も完璧な入り。聴いているうちに音楽の面白さに飲み込まれてレビューするのを忘れてしまいそう。もはやただただ3人の素晴らしい演奏に打たれるように聴き入ります。この曲に仕組まれたピアノの創意も見事にウェステンホルツが応えます。一貫したテクニックで、一貫した演奏。そして時折り見せる変化。こうした流れの面白さこそハイドンの真髄だと訴えているよう。ウェステンホルツ、かなりのキレものですね。
この曲は2楽章構成。楽章毎に変化するハイドンの素晴らしい創意に釘付け。フルートとピアノ、チェロによる楽興に酔います。

Hob.III:81 / String Quartet Op.77 No.1 [G] (1799)
この曲はもちろん、弦楽四重奏曲の響きが頭に残っているので、フルートとピアノの加わった響きに最初はすこし違和感があります。同じメロディーをヴァイオリンではなくフルートで演奏されると、やはり華やかさと弦とは違う響きに包まれる感じが独特。しばらく聴くうちに慣れてきますが、やはりハイドンの曲はオリジナルな編成で弾いてこそという感も残りますね。奏者の頭にもその印象が残っているのか、前3曲に比べると切れ味が劣り、むしろ弦楽器での演奏のようにゆったりとした感じに演奏しているように聴こえます。演奏自体の精度が落ちたわけではありませんので、これは編曲の出来、もしくは表現する側の腑に落ち度合いのような気がします。

デンマークの腕利き奏者3人によるハイドンのフルート三重奏曲と弦楽四重奏曲のフルート三重奏への編曲を収めたこのアルバム、演奏は素晴らしいものでした。有名どころではありませんが、このようなアルバムを聴かされてしまうと、ヨーロッパの演奏家の層の厚さを痛感させられますね。ここで聴かれるフルートもピアノもチェロも、そして3人のアンサンブルも第1級のもの。演奏者の控えめながら、透徹した表現を通してハイドンの音楽の素晴しさを感じられる名演奏と言っていいでしょう。評価はフルート三重奏曲3曲は[+++++]、最後の1曲は[++++]とします。最後の曲はこのアルバムの中ではオマケといっていいでしょうから、このアルバムの価値を下げるものではありません。ハイドンの室内楽好きな方、必聴です。

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tag : フルート三重奏曲 弦楽四重奏曲Op.77

イザベル・ファン・クレーンのヴァイオリン協奏曲(ハイドン)

懐かしい人を取り上げます。

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イザベル・ファン・クレーン(Isabelle van Keulen)のヴァイオリン、アントニ・ロス=マルバ(Antoni Ros-Marba)指揮のオランダ室内管弦楽団(Nederlands Kamerorkest)の演奏で、ハイドンのヴァイオリン協奏曲(Hob.VIIa:1)、モーツァルトのヴァイオリン協奏曲2番(KV.211)の2曲を収めたアルバム。収録は1984年9月、アムステルダムにてとの記載のみです。レーベルは黄金期の蘭PHILIPS。

やはりこのブラウンとゴールドのラインの入ったPHILIPSのアルバムは懐かしいですね。今では当時ライバルだったDECCAのマークをつけて再発売されているものが多いので、私の世代の方にはかなり違和感があるのではないでしょうか。
このアルバム、例によって湖国JHさんから貸していただいているもの。残り数枚ですが未レビューのアルバムが残っています。

奏者のイザベル・ファン・クレーンは、懐かしい人。昔はアイドル的存在で多くのアルバムをリリースしていましたが、最近はあまり姿を見る機会はありません。手元にもアルバムはなく、FM放送からエアチェックして聴いていたのが懐かしいですね。生まれは1966年、オランダ、アムステルダム近郊のマイドレヒト。ヴァイオリン、ヴィオラに指揮もこなすようです。アムステルダムのスウェーリンク音楽院で学んだのち、ザルツブルクに渡り、モーツァルテウムにてシャンドール・ヴェーグに師事したとのこと。その後1984年のBBC若手音楽家コンクールで優勝したことで彼女の名がヨーロッパ中に広まりました。今日取り上げるアルバムはまさにその1984年の録音。コンクールとの前後関係は分かりませんが、その人気にあやかって録音されたものでしょう。活動はヴァイオリンやヴィオラのソリスト、室内楽と多彩で、なかでも1997年から2006年にかけて、オランダのデルフト室内楽音楽祭を自ら興し芸術監督を務めるなど、単なるソリストにとどまりません。なお、同じオランダ出身のロナルド・ブラウティハムとは20年来コンビを組んで演奏しているとのこと。最近では2012年からルツェルン芸術大学でヴァイオリン、ヴィオラ、室内楽の教授職にあるということです。

ジャケットの写真を見ると、みるからに少女の姿。それもそのはずで、録音時には18歳ということです。最近の姿は彼女のサイトを御覧ください。美しい大人の女性に変貌しております。

Isabelle van Keulen

このアルバムにはもう一つ着目すべき点があります。それは指揮者のアントニ・ロス=マルバ。ロス=マルバのアルバムは以前に2度ほど取り上げていますが、なかでもグラン・カナリア・フィルとの演奏は見事の一言。

2013/03/31 : ハイドン–協奏曲 : グラン・カナリア・フィルのトランペット協奏曲、2つのホルンのための協奏曲
2011/01/22 : ハイドン–管弦楽曲 : ロス=マルバ/カタルーニャ室内管弦楽団の十字架上のキリストの最後の七つの言葉

十字架上のキリストの最後の七つの言葉が1965年、今日取り上げるアルバムが1984年、そしてグラン・カナリア・フィルとの演奏はごく最近とかなり録音年代に開きがあります。上記の二つのアルバムの演奏が良かっただけに今回取り上げるアルバムの伴奏にも期待できそうですね。

Hob.VIIa:1 / Violin Concerto [C] (c.1765)
やはり期待通りおおらかにオケを鳴らすロス=マルバの特徴がよく出た録音。PHILIPSにしては音像が近い、まるでDECCAのような録音です。ファン・クレーンのヴァイオリンはロス=マルバの伴奏に安心して乗っかっていきます。さすがにヴァイオリンの高音の伸びは素晴らしいものがありますが、演奏スタイルはオーソドックス。前のめりにはならず、かなり落ち着いたテンポでじっくりメロディーを描いていくところはロス=マルバがペースを握っているからでしょう。そのような中で、ファン・クレーンのヴァイオリンの音色が磨かれ、研ぎ澄まされていくところが聴きどころでしょうか。テンションは上がらずリラックスしながらヴァイオリンの音色を磨いていくような演奏。カデンツァも落ち着いたテンポの中、高音の音色の美しさをじっくりと聴かせるもの。この年でこの落ち着いた音楽作りはなかなかのもの。力みは一切なく、堂々とした美音を轟かせます。
予想はしていましたが、2楽章のアダージョはファン・クレーンの落ち着いた美音の魅力がいい形ではまりました。あまり音量は落とさず、堂々と来るかと思いましたが、ロス=マルバ、ぐっと音量を落として、ファン・クレーンのヴァイオリンにスポットライトを当てる気配り。相変わらずテンポは動かさず、ゆったりとした音楽が流れます。じつに慈しみ深い音楽。これが18歳の女性の奏でる音楽でしょうか。落ち着き払って美しいメロディーを置いていく揺るぎない姿勢。好きなアダージョですが、ファン・クレーンの大人びた少女のような美しさもいいものです。
フィナーレは再び、ロス=マルバがペースを握り、おおらかながら隈取りのはっきりしたわかりやすい音楽。ファン・クレーンは相変わらず、マルバのゆったりとしたテンポに安心してよりかかり、ヴァイオリンの響きを磨くことに集中。キビキビとした演奏に慣れている耳には、すこし遅すぎと聞こえなくはありませんが、これがロス=マルバの演奏スタイルでしょう。

つづくモーツァルトも同様のスタイルでの演奏。ロス=マルバはテンポをあまり動かしませんが、オケのコントロールはちみつで各パートがよく揃いながらも躍動かんもそれなりにあります。

昔アイドル系、今は実力派美女ヴァイオリニスト、イザベル・ファン・クレーンのデビュー当時の貴重な録音。何度も言いますがハイドンのヴァイオリン協奏曲はモーツァルト以上の傑作であり、名盤ひしめく状態のなか、テビュー直後の録音とは思えない落ち着いた表情が印象的なハイドンでした。特に2楽章のアダージョの美しさはかなりのもの。まだまだオケや指揮者に張り合うというインパクトはありませんが、自身の個性を美音に込めたこの演奏は流石一流どころというところでしょう。他のアルバムの出来と比べるとやはり、最高評価とはできず[++++]というところでしょう。

最近も主にオランダのChallenge Classicsからいろいろアルバムがリリースされているようですので、ハイドンの協奏曲の録音も期待したいところですね。

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tag : ヴァイオリン協奏曲

ジョン・ラボック/セント・ジョーンズ・スミス・スクエア管の悲しみ、受難(ハイドン)

あまり知られていない超名演奏、見つけました。

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ジョン・ラボック(John Lubbock)指揮のセント・ジョーンズ・スミス・スクエア管弦楽団(The Orchestra of St. John's Smith Square, London)の演奏による、ハイドンの交響曲44番「悲しみ」、49番「受難」の2曲を収めたアルバム。収録年に関する表記はなくPマークが1986年とだけあります。レーベルは名録音の多いMCA CLASSICS。

ちょっと廉価盤然としたジャケットに「悲しみ」と「受難」というハイドンのシュトルム・ウント・ドラング期の短調の傑作交響曲2曲を組み合わせたアルバム。さして期待せずCDプレイヤーにかけてみると、実にしなやかかつ緻密な音楽が流れてきてびっくり。何気なく聴きはじめましたが、あまりの充実度に集中。これは衝撃的に素晴らしい演奏です。

ということでまったく未知だった奏者の情報を調べます。

指揮者のジョン・ラボックは検索するといろいろなアルバムをリリースしているようですが、あまり情報がありません。指揮者であり歌手であるようで、1967年にこのアルバムの演奏を担当するセント・ジョーンズ・スミス・スクエア管弦楽団を設立。Promsには1976年から2006年の間に6度出演しており、現代作曲家の作品の初演などを担当しているとのこと。1999年にはロンドンの王立音楽院の名誉フェローに選ばれています。

ということで今ひとつよくわかりませんが、このハイドンの稀有な名演をレビューすることにいたしましょう。

Hob.I:44 / Symphony No.44 "Trauer" 「悲しみ」 [e] (before 1772)
極めてオーソドックスな入り。程よい躍動感を伴ってよくコントロールされたオケがほの暗い悲しみのメロディーを奏でていきます。ただし、ただオーソドックスな演奏なだけではなく、くっきりとしたバランスの良い陰影がついて、ほのかにアーティスティック。適度に写実的な風景画を見るようですが、色のバランスや構図の設定がよく、まるでフェルメールが書いたような穏やかな個性があります。このコントロールは相当の技術的裏付けと音楽性が必要。演奏のタイプはニコラス・ウォードやロバート・ハイドン・クラークのような方向性。この曲の1楽章に潜む劇性をしなやかに描ききります。こうした円熟の技によるオーソドックスな演奏こそ、ハイドンの名曲を引き立てます。1楽章から身を乗り出して音楽に入りこみます。
続く2楽章に入っても演奏スタイルは変わらず、滔々と音楽が流れます。一貫して堅固な構成。全ての音に必然性があり、実にしなやかな音楽。素晴らしい完成度。弦によるメロディーをうっすらと隈取る木管やホルン。各奏者はハーモニーを乱すことなくそっと音を乗せていき、まるで一人の奏者による演奏の重ね録りのような一体感。
絶品なのが続く3楽章のアダージョ。テンポをかなり落としてビロードのような肌触りの極上の癒しに満ちた音楽が流れます。この楽章をここまで磨き込んだ演奏を知りません。音楽がとろけて心に染み込んできます。バーンスタインのような脂っこさはなく、清々しい練りによって、ハイドンらしさを保っています。絶品。悲しみが昇華されて天に昇っていくよう。
フィナーレは、節度を取り戻すようにオーソドックスな演奏に戻ります。深く燻らしたような陰影を伴いながらもオケの表現は穏やかに踏み込んで、躍動感もかなりのもの。気づいてみれば色彩感豊かなバランスの良い演奏できりりと締まって終わります。

Hob.I:49 / Symphony No.49 "La passione" 「受難」 [f] (before 1768)
入りはアダージョ。前曲の3楽章の素晴らしいアダージョの再来のような、いきなりぐっと沈み込む情感が伝わります。この遅いテンポの描き方の深さは相当なもの。冒頭から惹きつけられます。ヴァイオリンの高音部を強調してメロディーをくっきり浮かび上がらせるなど、演出上手なところも垣間見せます。迫真のアダージョ。
大波が寄せては返すような大きな流れを彷彿とさせる2楽章。前楽章の暗く沈む情感から激しく展開して各パートもかなり踏み込んだ表現に変わりますが、相変わらずオケの一体感は素晴らしく、すばてのパートが完璧にコントロールされています。ジョン・ラボックはよほどの完璧主義者だと想像。
メヌエットは穏やかな劇性を感じるこの曲一番の聴きどころ。この穏やかさを保ちながら音楽の起伏を表現するあたり、やはり只者ではありません。あえて淡々と刻む伴奏に対し、非常に深い音色のヴァイオリンの奏でるメロディーが孤高の表情。
フィナーレは疾走するオケの魅力で一気に聴かせます。かなりのテンポにもかかわらず各パートのつながりの良さが印象的。要所できりりと引き締まりながらも疾走を続け、最後はきっちり終えます。

いやいや、このアルバムの演奏、この2曲のなかでも指折りの名演と断じます。悲しみ、受難といえば名演盤が多い名曲ですが、その中にあっても燦然と輝く価値があるといっていいでしょう。特にアダージョ楽章の濃密な情感と癒し音楽、全体のバランスを崩さないコントロール、そして何より素晴らしいのがオケの一体感。これが今では無名に近い演奏者の演奏というのが驚きです。有名どころの演奏よりよほどハイドンの真髄に迫っていると言っていいでしょう。この2曲はハイドンの交響曲でも名曲であり、その名曲の代表的な名演として永く聴き続けられるべき価値のあるアルバムです。評価はもちろん[+++++]。手に入るうちにどうぞ!

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tag : 悲しみ 受難

エドウィン・フィッシャー/ウィーンフィルのピアノ協奏曲(ハイドン)

今日はヒストリカルなアルバム。

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エドウィン・フィッシャー(Edwin Fischer)のピアノと指揮、ウィーンフィルの演奏によるハイドンのピアノ協奏曲(Hob.XVIII:11)などを収めたアルバム。収録は1942年10月28日ウィーンでのセッション録音。レーベルはEMI CLASSICSですが、新星堂のThe Great Recordings of EMIというシリーズの一枚。

エドウィン・フィッシャーは高明なピアニストであり、手元にもバッハなど何枚かのアルバムがあったはずです。今回このアルバムを手に入れたの機に聴いてみようといろいろひっくりかえして探したのですが見つかりません(苦笑)

仕方なくライナーノーツなどから略歴を紹介しておきましょう。生まれは1886年、スイスのバーゼル。父はバーゼル市管弦楽団のオーボエ奏者とのこと。バーゼル音楽院でハンス・フーバーに師事、1904年に父が亡くなったのを機にベルリンに移り、シュテルン音楽院でリストの弟子だったマルティン・クラウゼに師事。次第にピアニストとして頭角を現します。同音楽院を卒業後演奏活動を開始すると同時にいきなり音楽院で教鞭をとることになります。1920年代以降ベルリン、リューベック、ミュンヘンなどで演奏活動を行い、当初はバッハを得意としていました。1931年、シュナーベルの後任としてベルリン音楽大学ピアノ科の教授に就任し、このころから積極的に録音を残すようになります。1933年にバッハの平均律、1934年にシューベルトの「さすらい人幻想曲」、1937年にフルトヴェングラーの「ピアノと管楽のための交響的協奏曲、そして1942年にフルトヴェングラーとブラームスのピアノ協奏曲2番を録音しています。このアルバムに収められたハイドンはまさにその頃の録音。その後ナチスから逃れるためスイスに戻り、1958年までルツェルン音楽院で教鞭をとります。1950年にはバッハの没後200年を記念してヨーロッパの主要都市でバッハの鍵盤用の全協奏曲を演奏、その後1954年まで演奏、録音活動を続けましたが神経性の腕の麻痺などに悩まされ、54年以降は録音から遠ざかり指揮などで活躍。亡くなったのは1960年、チューリッヒで。74歳でした。

同時代の演奏家である、コルトー、ギーゼキング、フルトヴェングラーと親交がありたびたび共演、またヴァイオリンのクーレンカンプ、チェロのマイナルディとはトリオを結成していた。クーレンカンプ没後シュナイダーハンが加わったとのこと。ピアニストのバドゥラ=スコダ、バレンボイム、ブレンデルはフィッシャー門下ということで教育者としても多くの名演奏家を育てた人でした。

このアルバムにはハイドンの協奏曲の他に、1937年収録のモーツァルトのピアノ協奏曲17番(K.453)、ダラバーゴの教会のための4声の協奏曲 作品2の9が収められています。ハイドン以外のオケはフィッシャー自身が1934年に結成した室内管弦楽団です。

Hob.XVIII:11 / Concerto per il clavicembalo(l'fortepiano) [D] (1784)
原盤は独ElectrolaのSP盤。ヒスノイズとわずかにスクラッチノイズが聴こえますが音質は良好。ちょっと低域が薄いですがキレは十分。もちろんモノラルです。速めの快活なテンポに乗ってウィーンフィルのキレのいい弦楽セクションが伴奏で入ります。フィッシャーのピアノは鮮烈なキレ味。速めのテンポに合わせて実に鮮やかなタッチで音階を刻んでいきます。くっきりとアクセントをつけて音楽が立体的に浮かび上がります。ちょっとドイツ風の重厚な演奏を想像していたのですが、ドイツ風のくっきりした面は感じさせつつもここまでキレたタッチを聴くことができるとは思いませんでした。録音の古さを脳内フィルターで除去するとドイツ風なアルゲリッチのようなピアノのキレ。いやいや見事なタッチです。さらりとしながらもくっきりと香り立つハイドンの古典的楽興。見事な1楽章です。
2楽章は先ほどまでの軽快さから一転、ぐっとウィーンフィルが沈み込み、なかなか深い情感を感じさせます。それに合わせてフィッシャーのピアノは今度は磨き抜かれた輝きを発します。ピークでちょっと音が歪むのはご愛嬌ですが、やはり脳内フィルターで録音のアラを除去すると素晴らしい音楽が流れます。ピアノのメロディーと伴奏のコントラストをかなりはっきりとつけるところなど、現代のピアニストでもこれだけの表現はなかなか聴くことができません。リリカルなメロディーが沁みますが、さすがフィッシャーとウィーンフィルの演奏だけあって高雅さも失いません。カデンツァはシンプルながらピアノの音の美しさは感極まるほど。極上のの輝き。ハイドンの協奏曲のピアノの輝きの極北。最後に暖かい音色のオケが向かいに来るところの安心感はすばらしいものがあります。
フィナーレは再びフィッシャーのピアノの鮮やかなタッチを堪能できます。ピアノの音階はまったく抵抗なく転がり、タッチが冴え渡ります。並のピアニストとは次元の違うタッチの冴え。これを実演で聴いたら鳥肌ものでしょう。最後は迫力よりもキレ味で聴かせて終わります。

このあとのモーツァルトのピアノ協奏曲もハイドン同様の魅力をもった素晴らしい演奏です。録音はさらに古いですが原盤のコンディションが良くノイズは逆に少なく聴きやすい録音です。こちらもオススメ。

エドウィン・フィッシャーのピアノと指揮、ウィーンフィルの演奏によるハイドンのピアノ協奏曲でしたが、あらためてエドウィン・フィッシャーという人の偉大さを再認識した次第。今聴くと録音のアラが少々気にならなくはないですが、その録音の奥に広がる深淵な魅力は十分伝わります。冴え冴えとしたタッチ、くっきりと浮かび上がるメロディー、恐ろしく立体感にあふれた音楽、そして気高さもあり、ピアノという楽器の表現できる音楽の素晴らしさに打ちのめされた感じ。脳内にアドレナリンが充満です(笑)。もちろん評価は[+++++]。ヒストリカル好きな方は是非入手すべき素晴らしい演奏です。

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tag : ピアノ協奏曲XVIII:11 モーツァルト

【新着】マックス・ゴバーマンの交響曲集14枚組(ハイドン)

待ちに待ったアルバムがついにリリースされました!

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HMV ONLINEicon / amazoon / TOWER RECORDS

マックス・ゴバーマン(Max Goberman)指揮のウィーン国立歌劇場管弦楽団(Vienna State Opera Orchestra)の演奏で、ハイドンの交響曲45曲、歌劇の序曲3曲(収録曲目はHMV ONLINEのリンクをご覧ください)の合わせて48曲を収めた14枚組のアルバム。収録は1960年から62年にかけて、ウィーンでのセッション録音。レーベルはSONY CLASSICAL。

ゴバーマンのハイドンは過去にLPとCD-Rで2度ほど取り上げていますが、その驚きに満ちた出会いはマリア・テレジアと56番の記事の方をご覧ください。以前は名前をゴーバーマンと記載しておりました。

2013/07/01 : ハイドン–交響曲 : マックス・ゴーバーマン/ウィーン国立歌劇場管の交響曲集
2013/04/15 : ハイドン–交響曲 : マックス・ゴーバーマン/ウィーン国立歌劇場管弦楽団のマリア・テレジア、56番

ハイドンの交響曲の金字塔といえばアンタル・ドラティとフィルハーモニア・フンガリカによる交響曲全集ですが、その録音のほぼ10年前に、ウィーン国立歌劇場管弦楽団とハイドンの交響曲全集を目指して45曲もの録音が残されたことは、最近でもよほどのハイドンマニアでない限りご存知ないことでしょう。そのゴバーマンのハイドンの録音が正規盤として初めてCD化されたということで、このアルバムは大変意義深いものです。リリースに至る経緯はHMV ONLINEの解説をご覧いただきたいと思います。

特にこのアルバムは、当時3トラックで録音されたものの、LPとしてリリースされた際にはセンターチャネルをミックスしなかったため、音響的に問題がありましたが、今回のCD化に際してマスターテープの3トラックをきちんとミックスダウンしているとされ、往時の録音のクォリティが復元されているとの触れ込みとのことで、万全の体制でのリリースということです。

このアルバムが到着したのが、10日火曜日。到着してすぐに、CD1から全14枚を所有盤リストに登録しながら3日かけて聴きました!
手元にあるマリア・テレジア、56番のLPと同曲を聴き比べると、確かにセンターチャネルのミックスの有無で、響きの実在感が多少違うように聴こえますが、LPも鮮度が高く、特にヴァイオリンの響きの透明感や艶はLPの方がいいほど。ただし聴きやすさではCDに分がありますね。

ざっと全48曲を聴いてみると、やはり曲によって出来に差があります。CD1の出だしの交響曲1番などは、音も演奏も固い印象で、ちょっと期待した演奏と異なる印象を残しますが、聴き進めていくと、徐々に本領を発揮します。良かったのは次の曲。

11番、24番、26番「ラメンタチオーネ」、27番、32番、34番、37番、41番、48番「マリア・テレジア」、49番「受難」、55番「校長先生」、57番、60番「迂闊者」、65番、92番「オックスフォード」

これらは[+++++]を進呈しております。
演奏はドラティの男性的な彫りの深いものとくらべるとオーソドックスですが、弦楽器のヴィブラートが弱く、逆にちょっとモダンな印象もあります。上にあげたなかでもラメンタチオーネ特有の情感の深さ、中盤の曲のハイドンならではの生気に満ちた躍動感などが特徴ですが、特に印象に残ったのは57番のしなやかかつ精緻な演奏。意外にも曲ごとにスタイルも少しずつ異なり、聴かせどころも多彩でした。逆に上にあげた曲以外は少々単調なところもあるなど、やはりドラティの偉大な全集とは少し差がつくところでしょう。

いつものように曲を詳細に聴いたわけではありませんが、たまにはこういったスタイルでレビューするのもいいですね。このアルバムを手に入れた皆さんの印象は如何に。コメントなどいただけるとありがたいです。

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【新着】ラザール・ベルマンのXVI:27 1972年ミラノライヴ(ハイドン)

今日は先日届いたばかりのアルバム。

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ラザール・ベルマン(Lazar Berman)のピアノによるベートーヴェンのピアノソナタ29番「ハンマークラヴィーア」、ハイドンのピアノソナタ(Hob.XVI:27)の2曲を収めたアルバム。ハイドンの収録は1972年11月12日、ミラノでのライヴ。レーベルは伊Istituto Discografico。

大変珍しいラザール・ベルマンのハイドン。ラザール・ベルマンといえば、我々の世代には懐かしい人。突如老舗Deutche Grammophoneからカラヤンとのチャイコフスキーのピアノ協奏曲がリリースされ、彗星のごとくメジャーに登場したロシアの剛腕ピアニスト。燃えたぎる岩の塊のような轟音を鳴らすことで剛腕ピアニストと言われましたが、あまりデリケートなピアノを弾く人との印象はありません。チャイコフスキーにリストなどを得意としていたと記憶しています。

そのベルマンがハイドンを弾いたライヴということでちょっと興味をもった次第。もちろんベルマンに詳しいわけではないので、ちょっと略歴などをさらっておきましょう。

ベルマンは1930年、レニングラード(現サンクトペテルスブルク)生まれのピアニスト。母がピアニストだったことから手ほどきを受け、3歳でコンクールに参加し、4歳で最初の演奏会を開くなど早くから才能が開花。7歳でモーツァルトの幻想曲を録音し、ギレリスから神童と呼ばれるほどの才能だったとのこと。その後リヒテルなどに師事し、公式デビューは10歳の時、モスクワフィルハーモニーとの共演でモーツァルトのピアノ協奏曲25番を演奏。しかしユダヤ系だったベルマンは1941年の第二次大戦勃発を機に疎開し、生活も困窮するようになります。戦後は1951年のベルリン国際青少年音楽祭と1956年のブダペスト国際音楽コンクールにおいて優勝し、ハンガリーではリストの再来と絶賛されるも、西側諸国には鉄のカーテンに包まれ、その存在が知られることはありませんでした。転機は1975年のアメリカへの演奏旅行。リストの超絶技巧練習曲の演奏がホロヴィッツと双璧と伝えられ、評判になり、前出のカラヤンとのチャイコフスキーのピアノ協奏曲の録音もこの直後ということです。その後当時のソ連からの活動制限に対する反発から1990年にイタリアに渡り95年にはフィレンツェに定住することになります。日本には1977年に来日しておりコンサートも開いていることから、生でベルマンを聴いた人もいるかもしれませんね。2005年2月にフィレンツェで亡くなっています。ということで、この2月で没後10年なんですね。

このベルマンのハイドン、録音はカラヤンとのチャイコフスキーのピアノ協奏曲の録音の3年前、西側にその名が轟く少し前のライヴということで、ベルマンが最も充実していた時期の貴重な記録と言うことができるでしょう。

Hob.XVI:27 / Piano Sonata No.42 [G] (1776 or before)
録音はモノラルで、会場のざわめきと咳払いが時折聞こえるもの。ベルマンは予想とは異なり、古典の矜持を守るように、まるで練習曲をさらりとこなすような超平常心での入り。ベルマンにとってハイドンとは穏やかな心情をベースとした音楽なのでしょう。非常に落ち着いて小気味好いテンポ感での入り。徐々にメロディーを表す右手にアクセントが効いてきて、クッキリとした表情が浮かび上がります。後年のパワーをふまえると嵐の前の静けさ的落ち着きが心地よいですね。1楽章はそれでも緊密な演奏に聴こえましたが、2楽章に入るとさらりとした演奏なのに情感が乗って、なかなかの盛り上がり。途中からグールドばりにベルマンの鼻歌が入り、入魂の演奏であることが伝わります。ベルマンの録音を調べて見るとハイドンの録音は唯一この曲ばかりで、他に何組かの演奏がありますが、同じ音源かどうかはわかりません。ベルマンがこの曲を愛好していたのでしょうか。特にこの2楽章の入れ込みぶりは特別なものと感じます。
フィナーレに入るとタッチの力感が増し、リズムのキレと迫力は、あのパワーで押すベルマンを彷彿とさせますが、さすがにハイドンで野暮なキレ方はしません。古典のバランスを保ちながらの抑えたメリハリが心地よいですね。最後はものすごい拍手が降り注ぎ、当日のミラノの聴衆のベルマンの演奏に対する歓待ぶりがわかります。

剛腕ピアニスト、ラザール・ベルマンの珍しいハイドンのソナタの演奏。西側に忽然と現れる直前のミラノでの貴重なライヴ。もちろんハイドンでは爆発することはありませんが、剛腕ピアニストでもハイドンの魅力をクッキリと描き、その古典的魅力をしっかり伝えていることが、この人の芸風の深さを感じさせるところ。私はカラヤンとベルマンのチャイコフスキーをエアチェックしてカセットで随分聴いたほうですのでベルマンの印象は圧倒的な迫力を持つ人だという世代です。このハイドンはそうしたベルマンの演奏の原点たる基本に忠実なところの良さを表していると思います。個人的に演奏の面白さを堪能できる良いアルバムであると思っていますが、他の方への推薦度合いという点ではこの特殊な状況を加味して[++++]としておきたいと思います。

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tag : ピアノソナタXVI:27

キャロル・セラシのクラヴィコードによるXVI:20(ハイドン)

久しぶりクラヴィコードの深淵な響きを求めて手に入れたアルバムを聴きます。

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キャロル・セラシ(Carole Cerasi)のクラヴィコードによるC.P.E.バッハの小品4曲、ヨハン・ゴットフリート・ミューテルのアリオーソと12の変奏曲、モーツァルトのアダージョ(K.540)そしてハイドンのクラヴィーアソナタ(Hob.XVI:20)の7曲を収めたアルバム。収録はロンドン近郊のサリー(Surrey)にあるハッチランズ・パーク(Hatchlands Park)でのセッション録音。レーベルは英METRONOME。

キャロル・セラシのクラヴィコードによるハイドンはソナタ集を以前に取り上げています。奏者の情報は下の記事をご参照ください。

2013/03/02 : ハイドン–ピアノソナタ : キャロル・セラシのフォルテピアノ/クラヴィコードによるソナタ集

前のアルバムが2009年の録音であり、ハイドンばかりを集めたアルバムだったのに対し、その4年後の2013年にハイドンやモーツァルト、C.P.E.バッハなどハイドンと同時代の4人の作曲家の作品を集めて録音されたこのアルバム、タイトルには"Treasures of the Empfindsamkeit”との表記があり、いろいろ調べてみると「多感様式の重要作品」とでも訳すのでしょうか。Empfindsamkeitは文学や哲学におけるシュトルム・ウント・ドラング期の生まれる前の構図としての啓蒙主義の対極にあった心情主義、感傷主義のことを指すらしいのですが、音楽においてはC.P.E.バッハに代表される多感様式のことをのようです。そもそもその辺りを専門とするわけではないので本当のところはわかりませんが、このアルバムに収録された曲を聴く限り、それまでのバロック期からくらべると心情の赴くままに自在に作られた音楽の時代を感じるわけで、なにやらタイトルに合点がいくわけです。
ハイドンの前の時代の音楽も、ハイドンを聴いているわりにはちゃんと聴いてはいないのでC.P.E.バッハの音楽は新鮮で、同じバッハと名のつく作曲家としてはかなり斬新な曲調。クラヴィコードという響きの髄を聴くような楽器で奏でられているからかもしれませんが、繊細な響きの変化に耳を奪われます。そしてミューテルの変奏曲も展開の面白さに引き込まれます。そしておなじみのモーツァルトのロ短調のアダージョは、フォルテピアノやハープシコードで弾かれるよりも、音楽がダイナミックに聞こえます。もちろん実際の音量はずっと小さいわけですが、耳を澄まして聴く響きのエッセンスや響きの変化がそう感じさせるわけです。最初に聴いた印象よりも、何度か聴くうちにクラヴィコード独特の世界に慣れて、実に深い音楽に聴こえます。さて、肝心のハイドン。このXVI:20はピアノソナタの中でも独特の美しさをもつ2楽章のアンダンテが好きでよく聴く曲ですが、ハイドンの数多の曲からこの曲が選ばれたということは、やはりこの2楽章の響きの変化の面白さからだと想像してます。このアルバムのコンセプトにピタリとはまる選曲と言わざるを得ません。楽器は1784年製のクリスチャン・ゴットヘルフ・ホフマン(Christian Gotthelf Hoffmann)。

Hob.XVI:20 / Piano Sonata No.33 [c] (1771)
1楽章の始まりから、クラヴィコードの繊細な響きの面白さにうっとり。ヴォリュームを上げて聴くと眼前にクラヴィコードの響きが浮かぶよう。クラヴィコードの録音はあまりの音量の低さに暗騒音のようなものが付きまとうことが多いのですが、このアルバムの録音は森の中の一軒家のような場所だけに、静寂のなかにクラヴィコードの美しい響きがしっかりと録られて、録音も見事。強音はしっかりアクセントがつけられて迫力もあります。音が歪むことなく、クラヴィコードの美しい響きが保たれます。音域ごとに変化する音色。そして強弱による音色の変化。キータッチが直に音になる面白さ。そしてキャロル・セラシの確信に満ちた音楽。これまで聴いたなかではデレク・アドラム盤のクラヴィコードが最も印象に残っていますが、このアルバムの演奏はそれに勝るとも劣らないもの。か弱さがないのがポイントでしょうか。
聴きどころの2楽章の美しさはピアノで聴くのと全く異なるもの。ピアノではきらめくようなメロディーの美しさに耳がとらわれますが、クラヴィコードでは逆に仄暗い繊細な響きの変化にスポットライトが当たります。特に左手の伴奏の面白さに初めて気付きました。あえてクラヴィコードでこの曲を演奏する理由がなんとなく飲み込めました。中盤から終盤の盛り上がるところの迫力もまったく問題ありません。むしろ強音でほんの少し音程が下がるところが逆に迫力を増して聴こえるほど。
フィナーレに入るとタッチのキレが際立ち、クラヴィコードという楽器のハンデを全く感じさせません。中低域の音のちょっと本つくようなコミカルな響きがかえって面白く、楽器全体が様々に共鳴するのを全身で受け止める感じ。

キャロル・セラシのクラヴィコードによる、ハイドンの名曲Hob.XVI:20。クラヴィコードという楽器の面白さを存分に生かした演奏。ピアノによるこの曲もいいですが、クラヴィコードの実に繊細、雅な響きも悪くありません。このアルバム、デレク・アドラム盤と並んで、クラヴィコードの面白さを知るには絶好のもの。選曲、録音、演奏とも揃った名盤です。特にクラヴィコードの響きを楽しむには録音の良さは必須条件ですね。評価は[+++++]を進呈です。クラヴィコードの面白さに開眼したい方、是非聴いてみてください!

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tag : ピアノソナタXVI:20

プロフィール

Daisy


Author:Daisy

なぜかハイドン(Franz Joseph Haydn)が特に気に入り膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。東京在住のごく普通のサラリーマンです。

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2017年7月のデータ(2017年7月31日)
登録曲数:1,361曲 登録演奏数:10,291
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