Haydn Disk of the Month - May 2015

なんだかこのところ大涌谷の火山、関東の地震、そして口永良部島の噴火と不穏な出来事が続いております。東日本大震災の余韻がようやく鎮まろうとしているなか、日本近辺の地殻の変動は鎮まるどころかちょっと活発化しているのかもしれませんね。こういうときは音楽にでも浸って、落ち着くしかありませんね。

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庭の紫陽花は昨年刈り込むタイミングが遅かったので、花芽が少ないのですが、それでもなんとなくいい感じに咲き始めました。



さて、今月レビューしたアルバムからベスト盤を選ぶ、月末恒例の企画。今月はビシッと1枚に絞りました。

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2015/05/09 : ハイドン–交響曲 : 絶品、ニコラス・マギーガンの交響曲集第2弾(ハイドン)

第1弾が今ひとつの出来だったので、食指が伸びなかったアルバムですが、いざ聴いてみると、その素晴らしさに驚きました。選曲もハイドンのマイナーな交響曲ばかり3曲集めたアルバムですが、聴いていただくとわかるとおり、ハイドンの交響曲の素晴らしさが詰まった名演奏ばかり。ハイドンの交響曲の入門アルバムとしても絶好のもの。ハイドンの交響曲はなにも有名曲ばかりではなく、こうした地味な曲であっても創意の限りを尽くして書かれていることを知るべきとでも言いたげなプロダクション。このアルバムは演奏史に残る名盤となることでしょう。



最近1ヶ月の間に取り上げるアルバムの数に限りがありますが、今月もレビューするアルバム以外にもかなりの数のアルバムを聴いた上で、皆様に紹介すべきアルバムを選りすぐって記事にしています。今月聴いて素晴らしかったアルバムは下記の通り。

2015/05/27 : ハイドン–声楽曲 : 【新着】ジェニファー・ヴィヴィアンの歌曲集(ハイドン)
2015/05/23 : ハイドン–声楽曲 : 【新着】野々下由香里/桐山建志/小倉貴久子の歌曲集(ハイドン)
2015/05/18 : ハイドン–室内楽曲 : 【新着】トリオ・ショーソンのピアノ三重奏曲集(ハイドン)
2015/05/06 : ハイドン–室内楽曲 : 【新着】トリオ・フリューシュチュックのXV:13(ハイドン)

どのアルバムも聴いたときの驚きというか、反応は記事に記してありますので、そちらをご覧ください。もう少しレビュー数が伸びれば良いのですが、先に触れたとおり記事にするまでに聴いているアルバムはかなりの数になり、記事にする時点でかなり絞り込んでいるので、必然的に素晴らしい演奏が記事になっているということをご理解ください。

昨年の6月は5月末に出かけた旅行記の執筆にかまけていたのですが、今年はそんな暇ははく、忙しく仕事に追われていますので、6月は地味に過ごしたいと思います。だんだん暑い日が増え、夏も目の前。読者の皆様も季節の変わり目ゆえ、ご自愛ください。



2015年5月のデータ(2015年5月31日)
登録曲数:1,336曲(前月比±0曲) 登録演奏数:8,461件(前々月比+59演奏)

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【新着】ジェニファー・ヴィヴィアンの歌曲集(ハイドン)

ちょっと流れを変えてヒストリカルの新着アルバム。

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ジェニファー・ヴィヴィアン(Jennifer Vyvyan)のソプラノ、ハリー・ニューストン(Harry Newstone)指揮のハイドン管弦楽団(The Haydn Orchestra)の演奏で、ハイドンのベレニーチェのシェーナ「ベレニーチェ、何をしようとしているのか?」、チェチーリア・ミサからグローリア、モーツァルトの歌曲などを収めたアルバム。ハイドンの収録は1957年5月7日、8日、ロンドンのキングスウェイホールでのセッション録音。レーベルはDECCAで、ライナーノーツによるとどうやら初CD化とのことです。

このアルバムを取り上げたのは、もちろん演奏が絶品だからということに他なりません。

ジェニファー・ヴィヴィアンは、1925年、イングランドの東南端にあるブロードステアーズ(Broadstairs)生まれのコロラトゥーラ・ソプラノ。当初は王立音楽アカデミーでピアノを学んでいましたが、在学中にメゾ・ソプラノに転向、そしてソプラノ歌手を目指すようになりました。卒業後、ミラノ、ジュネーヴなどで学び、1951年、ジュネーヴ国際歌唱コンクールで優勝。歌手としての最初のキャリアはベンジャミン・ブリテン率いる英国オペラグループでスタートさせ、その後英国を中心に、オペラ、コンサートなどで活躍しました。1974年、長年の気管支炎のため49歳という若さで亡くなったとのこと。

指揮者のハリー・ニューストンとハイドン管弦楽団については一度交響曲の演奏を取り上げていますので、情報はそちらの記事を御覧ください。

2014/03/27 : ハイドン–交響曲 : レイモン・レッパード/イギリス室内管の交響曲39番(ハイドン)

Hob.XXIVa:10 Scena di Berenice "Berenice, che fai" ベレニーチェのシェーナ「ベレニーチェ、何をしようとしているのか?」 [D-f] (1795)

1957年としては最上の録音。若干の古さは感じさせるものの、それがいい味も含む深みのある音。DECCAの面目躍如。ハリー・ニューストン率いるハイドン管のみずみずしい音色に痺れます。そしてジェニファー・ヴィヴィアンのソプラノの美しいこと。転がるように鮮やかに歌い上げます。この名曲をじっくりと描くオケにのって、まさに名人芸。特にゆったりとした部分のオケと歌唱の美しさは筆舌に尽くしがたいもの。この録音がCD化されずに眠っていたというのが信じがたいことです。後半劇的に展開する部分に入るところでもヴィヴィアンは余裕たっぷり。コロラトゥーラだけあって、高音の伸びの素晴らしさは半端ではありません。最上のオペラのアリアを聴く悦びが溢れてきます。

Hob.XXII:5 Missa Cellenisis in honorem Beatissimate Virginis Mariae "Caecilienmesse" 「チェチーリアミサ」 (1766)
続いてはチェチーリアミサの第2曲のグローリアからソプラノソロが活躍するLaudamus teとQuoniam。前曲のオペラティックな展開から、ぐっと神々しい雰囲気に変わり、ヴィヴィアンの歌唱も折り目正しい歌唱に変わります。もちろんニューストンの方のコントロールもミサ曲にふさわしい端正な雰囲気になりますが、やはりハイドンの曲に不可欠な気配というか間のようなものを踏まえていて、実に落ち着いたオーケストラコントロール。この雰囲気に癒されるんですね。一部の指揮者だけがもつこの気配。ハイドンの音楽を完全に掌握して自在にコントロールする境地。アドレナリン噴出です。非常に短い2曲ですが、ハイドンの真髄に触れられる素晴らしい演奏でした。

初CD化であり、ジャケットにはMOST WANTED!と誇らしげに記されているだけある演奏でした。ソプラノのジェニファー・ヴィヴィアンの歌唱は絶品。この声で夜の女王のアリアを歌われたらノックアウトでしょう。そしてさらに素晴らしいのがハリー・ニューストン指揮のハイドン管弦楽団。ハイドンの名を冠したオケだけに、ハイドンの音楽をイキイキと演奏し、完璧な伴奏。こうした素晴らしい仕事こそ、多くの人に聴いていただく価値があろうというものです。評価はもちろん[+++++]。ただし、ライナーノーツがデータだけというのがちょっと寂しいところ。演奏者の解説くらいはつけてほしいところでした。

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【新着】野々下由香里/桐山建志/小倉貴久子の歌曲集(ハイドン)

今日は最近仕入れた珍しいアルバム。

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浜松市楽器博物館コレクションシリーズ52「スクエアピアノとイギリス家庭音楽の愉しみ」と題されたアルバム。収録曲目はハイドンの歌曲3曲、クラヴィーアソナタ1曲、他にクレメンティ、ヨハン・クリスチャン・バッハのクラヴィーアソナタ、モーツァルトの歌曲、キラキラ星変奏曲などを収めたアルバム。収録は2013年1月2日から4日、アクトシティ浜松音楽工房ホールでのセッション録音。浜松市楽器博物館オリジナルプロダクション。

もちろんハイドンの曲目当てということで手に入れたアルバムです。まずはこのアルバムをリリースしている浜松市楽器博物館について調べてみます。

浜松市楽器博物館

浜松といえヤマハ、カワイ、ローランドなど音楽に関係する企業の本社があるため、浜松市も「音楽のまち」として音楽で町おこしをしています。浜松駅前のアクトシティには立派なコンサートホールが2つもあり、また、この楽器博物館もそうした音楽振興の一環でつくられたものでしょう。浜松駅の北口からすこしのところに博物館があるそうで今年で20周年とのこと。今日取り上げるアルバムジャケットの右上にも楽器博物館20周年と誇らしげに記されています。ウェブサイトを見てみると収集している楽器はヨーロッパのみならずアジアやオセアニア、もちろん日本のものもあり、雅楽器から現代の洋楽器、電子楽器までと幅広いコレクション。そしてお気づきだと思いますが、今日取り上げるアルバムは浜松市楽器博物館コレクションシリーズのなんと52巻目ということで、楽器収集のみならず、こうしたプロダクションにもかなり力を入れていることがわかります。

このアルバムは楽器博物館の所蔵品である1805年クレメンティ社によって発売されたトーマス・ラウド(Thomas Loud)制作のスクエアピアノを演奏したもの。1806年といえばまだハイドンが存命、と言っても最晩年ですが、同じ時代のもの。スクエアピアノは現代のグランドピアノのような大型のものと異りリーズナブルな価格やコンパクトな形状からこの頃以降、イギリスの中産階級の家庭で大流行したとのことで、このピアノで歌曲などを楽しむというのは誠に理にかなったもの。所有する楽器の楽しみ方を心得たプロダクションですね。ライナーノーツには楽器の詳細な解説、演奏者の情報、曲目解説、歌詞まできちんと載せられ、しっかりとしたプロダクションであることがわかります。

演奏者について触れておきましょう。
スクエアピアノは小倉貴久子さん。コンサートや録音でご存知の方も多いでしょう。芸大、アムステルダム音楽院を卒業後、1993年ブルージュ国際古楽コンクールのアンサンブル部門、1995年同フォルテピアノ部門で1位となり、以後国際的に活躍しています。
ヴァイオリンの桐山建志さんは、芸大、フランクフルト音楽大学を卒業後、1998年同じくブルージュ国際古楽コンクールソロ部門で1位となった人。
そしてソプラノの野々下由香里さんは、芸大、パリのエコール・ノルマル音楽院を卒業、バッハ・コレギウム・ジャパンのソプラノソリストとして多くのアルバムの録音に参加しているのでご存知の方も多いでしょう。

Hob.XXXIa:112bis - JHW XXXII/3 No.262 "Green sleeves" (Robert Burns)
古楽器のヴァイオリン特有の鋭い音色と、フォルテピアノのような音色のスクエアピアノによる伴奏から入ります。ハイドンの編曲によるスコットランド歌曲集では本来チェロが入るのでしょうが、このアルバムではヴァイオリンが加わるのみ。ヴァイオリンの桐山建志さんは非常に存在感のある音色。メロディはシンプルなのにぐっと沁みるヴァイオリン。よく聴くとスクエアピアノはフォルテピアノと比べて特に低音部の迫力は抑え気味、楽器の大きさからでしょうか、優しい音色ですね。ただ驚くのは音色のピュアさ。よほど調律が追い込まれているのでしょう、響きに濁りがなく、高音から低音まで、実に気持ちよく響きます。録音はこうした楽器に焦点を合わせたプロダクションとしてはちょっと異例で、ホールでゆったり音楽を楽しむような残響が比較的多めの録音。もう少しスクエアピアノの音色をオンマイクで拾っても良いかもしれませんが、ゆったりと音楽を楽しむには絶好のもの。
ここまで歌に触れずにきましたが、このアルバムの聴きどころは野々下由香里さんの歌でしょう。出だしから素晴らしい歌唱。日本人の歌唱だと言われなければ気づかないほど自然な英語で、しかも古楽器に合う透明感のある声。私は野々下さんは初めて聴く人、と思ってバッハ・コレギウム・ジャパンの手元のアルバムを何枚か見てみたら、野々下さんの参加しているアルバムがありました。ということで、私は野々下さんは「意識して」聴くのは初めて、ということになります(笑)
このグリーン・スリーブスはおなじみのヴォーン・ウィリアムスのメロディーのものとは違う曲ですが、スコットランド歌曲集の特徴である郷愁を感じさせる独特な雰囲気を持っています。小倉貴久子さんのスクエアピアノは実に端正。最初はちょと踏み込み不足に聴こえなくもありませんが、聴きなおすと、清々しさを感じさせるような心地良さがあり、リズム感も抜群、そして音の粒が揃って、理想的な演奏。完璧な自然さとでも言ったらいいでしょうか。1曲目から素晴らしい演奏に酔います。

Hob.XXVIa:25 6 Original Canzonettas 1 No.1 "The Mermaid's Song" 「人魚の歌」 [C] (1794)
おなじみの曲。この曲の伴奏はスクエアピアノのみ。小倉貴久子さんの華麗な伴奏に乗って野々下さんも気持ち良さそうに歌います。スクエアピアノの音階が宝石のように光り輝き、美しく躍動します。この曲の伴奏の中ではピカイチ。前曲同様、非常に楽器の響きが澄んでいますね。3分少々の曲ですが既にうっとり。

Hob.XVI:41 Piano Sonata No.55 [B] (c.1783)
2曲の歌曲の後に2楽章のピアノソナタが入りますが、このあたりでスクエアピアノの音色を純粋に楽しめということでしょう。ここでも小倉貴久子さんのタッチは冴え渡って、まるで自分が所有する楽器のように馴染んでます。非常に演奏しやすそう。先日生で聴いたクラヴィコードもそうでしたが、家庭などの少人数で楽しむには必要十分というより、むしろ、この身近さがよりふさわしいと言ったほうがよいのでしょう、ほどほどのダイナミクスに透明な響き、楽器のそばで演奏を楽しむという意味ではピアノやフォルテピアノよりもふさわしいと思わせる説得力がある音色。それにしてもコピーではなく実際に1806年に製造された楽器ということで、この楽器のコンディションは驚異的。高音から低音までの音の素晴らしい音のバランス。ビリつきは皆無。実に澄んだ音色と三拍子そろっています。そして小倉さんの素晴らしい演奏で、楽器も喜んでいることでしょう。まさに自宅でハイドンのソナタを楽しむ境地。絶品。

この後、クレメンティ、クリスチャン・バッハ、モーツァルトの曲が挟まりますが、中でもクリスチャン・バッハのクラヴィーアソナタ(Op.5-3)のスクエアピアノから繰り出される色彩感豊かな響きと、モーツァルトのおなじみのキラキラ星変奏曲の純粋無垢な音色は秀逸。スクエアピアノのニュアンス豊かな響きに引き込まれます。

Hob.XXXIa:218 - JHW XXXII/5 No.388 "Auld lang syne" (Robert Burns)
アルバムの最後に置かれたスコットランド歌曲集から蛍の光。ヴァイオリンとスクエアピアノに乗って野々下さんの歌う、スコットランド風の蛍の光。いやいや、スコットランドの草原に立って風を浴びているような心境になりますね。名手3人が繰り出す自然な音楽の浸透力の素晴しさに打たれます。音楽の力とはすごいものですね。日本では卒業式の合唱か閉店のBGMのメロディでしょうが、こうしてソプラノとヴァイオリン、スクエアピアノでハイドンの手による伴奏で聴く蛍の光の深さはまったく異なる力をもっていることがわかります。いやいや、いいアルバムです。

まことに失礼ながら、浜松市楽器博物館コレクションシリーズというプロダクションから想像される出来とは異なり、まことに素晴らしいプロダクションでした。貴重なコレクションであろうこのスクエアピアノの素晴らしさを完璧に伝える好企画。しかも演奏者、選曲、楽器のコンディション、調律、録音、すべてお見事。公共の仕事でここまでレベルの高い仕事はそうあるものではありませんね。評価は全曲[+++++]です。これはこのシリーズの他のハイドンの録音、聴かなくてはなりません。

期待を込めてあえて一つだけ課題をあげればジャケットでしょうか。タイトルもスクエアピアノの写真をメインとしたデザインも悪いわでではありませんが、このアルバムの中身の素晴しさ、演奏者の素晴しさを伝え切れていない感じも残ります。このプロダクションにデザインの力が加われば世界で勝負できると思います。今後に期待です。

そして、この楽器博物館、一度訪れてみなくてはなりませんね。このアルバムから伝わる制作者の心意気、しっかり受け止めました。当ブログの読者のハイドン好きな皆さん、このアルバムは買いです。ハイドンの時代の空気を吸ったような気持ちになります。

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tag : スクエアピアノ スコットランド歌曲 英語カンツォネッタ集 ピアノソナタXVI:41

【新着】トリオ・ショーソンのピアノ三重奏曲集(ハイドン)

いろいろ仕入れているんですが、いつもながら消化の速度が追いついていません。

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トリオ・ショーソン(Trio Chausson)によるハイドンのピアノ三重奏曲3曲(XV:27、XV:1、XV:12)、フンメルのピアノ三重奏曲No.2 opus 22の4曲を収めたアルバム。収録は2014年7月、パリ近郊のアンギャン=レ=バンにあるアートセンターでのセッション録音。レーベルは仏MIRARE。

トリオ・ショーソンはもちろんはじめて聴く団体。ちょっと前にレビューしたトリオ・フリューシュチュックもそうですが、若手演奏家のアルバムを聴くのは楽しみですね。いつものようにちょっと調べてみました。

Trio Chausson

トリオ・ショーソンの結成は2001年。フランスはボルドーの南東にある街クラレック(Clairac)で同年に開催されたクラレック音楽祭で最初のコンサートを行い、その時ショーソンの作品を演奏したことからトリオ・ショーソンと命名したとのこと。3人ともパリ国立音楽院で器楽と室内楽をピエール=ローラン・エマールの元で学び、卒業後も室内楽コースで学んでいます。2005年にはドイツのワイマールで開催されたヨゼフ・ヨアヒムコンクールで1等を獲得、そして2007年には将来性ある若手音楽家に贈られる「ライジング・スター賞」を受賞。その年、ニューヨークのカーネギーホールをはじめとする有名ホールでの演奏機会に恵まれ、以後世界的に活躍しています。録音はMIRAREレーベルからリリースされ、このハイドンが最新盤で5枚目になります。メンバーは下記のとおり。

ピアノ:ボリス・ド・ラロシェランベール(Boris de Larochelambert)
ヴァイオリン:フィリップ・タレク(Philippe Talec)
チェロ:アントワーヌ・ランドウスキ(Antoine Landowski)

ピエール=ローラン・エマールに師事したフランスの若手トリオということで、エマールのピアノのような色気さえ感じられるような眩いばかりの輝かしさが聴かれるのでしょうか。

Hob.XV:27 Piano Trio (Nr.43/op.75-1) [C] (1796)
非常にクリアな録音。しかも緻密で奥行きの深いいい響き。有名曲を最初にもってきましたが、まさにエマールを彷彿とさせるクリアなピアノ。ヴァイオリンもチェロもリズムが軽く、カミソリのようなキレ。ピアノがつくるリズムにのって実に軽やかに演奏していきます。独墺系のトリオと異なり、響きがカラッと明るく、しかも時折り華やかな装飾音を織り交ぜ、フランスの香りを加えます。重厚さはあえて避け、チェロの音色も軽め、そしてヴァイオリンとピアノがクッキリと浮かび上がる鮮鋭な表情。ハイドンのピアノトリオはどれも素晴らしい曲なんですが、トリオ・ショーソンの演奏で聴くと、華やかさが際立ちます。
アンダンテに入るとピアノの磨き抜かれた美しい響きに耳を奪われます。途中から鋭いアクセントが連続しますが、キレの良さで聴かせ、ゆったりと癒される部分に楔を打つような迫力。
フィナーレもこれ以上ないようなリズムのキレが痛快。キレの良さが半端ではありません。ハイドンらしいかどうかということを超越して、この曲に仕込まれた楽興をトリオ・ショーソン流に引き出したという感じ。

Hob.XV:1 Piano Trio (Nr.5) [g] (c.1760-62?)
ハイドンのピアノトリオの中でもかなり早期の作品。作曲年代はシュトルム・ウント・ドラング期の前になるもの。前曲とはかなり構成も違い、後年の成熟とは異なり、素朴なハイドンの魅力溢れる曲。これだけのテクニックの持ち主たるトリオ・ショーソンがこの曲を選んだということで、やはりハイドンの音楽の魅力は後年の鮮やかな筆致にのみあるのではないとでも言いたいというところでしょうか。この素朴な曲も最上の演奏で輝きを帯び、実に美しい表情を魅せます。音数も起伏も前曲とは比べるべくもありませんが、音楽の輝きは勝るとも劣りません。
2楽章はメヌエットで、不思議に哀愁を帯びたメロディーがぐぐっと迫ります。メロディーと構成がシンプルな分、演奏のキレの良さが鮮明に伝わります。ピアノのラロシェランベールの見事なリードにヴァイオリンのタレクが完璧に追随、そしてチェロのランドウスキも完璧に寄り添います。
フィナーレでもピアノの堅固なリズムにのってヴァイオリンとチェロが完璧なアンサンブルを聴かせます。見事。

Hob.XV:12 Piano Trio (Nr.25/op.57-2) [e] (1788)
フンメルのピアノトリオを挟んで、最後の曲。短調の劇的な始まりが印象的な曲。すでにトリオ・ショーソンの妙技に釘付けゆえ、ゆったりと曲を楽しむスタンス。この曲ではキレの鮮やかさのみならず、間をしっかりとって曲の構造をクッキリと浮かび上がらせて、印象付けます。この余裕はテクニックばかりではないとの自信からでしょう。音楽的な表現力も素晴らしいものを持っています。
アンダンテはピチカートが効果的に使われ、詩情が漂う曲。独特の間の美しさと諦観を感じさせるようなメロディーが交錯するかなり変わった曲調。相変わらずピアノの磨き抜かれた響きは絶品。アンサンブルの精度もスキのないもの。
最後のフィナーレは小気味良いキレでまとめますが、中間部の迫力も、最後のフィニッシュも見事。名演です。

トリオ・ショーソンによるハイドンのピアノトリオ3曲。盛期、初期、中期の作品を並べ、それぞれの良さをしっかりと描きわけてくるあたり、ただのキレもの3人組という存在ではなく、音楽的に実に深いところをしっかりと押さえる力量の持ち主と見ました。このハイドン、絶品の仕上がりと言っていいでしょう。演奏、選曲、録音ともに素晴らしい出来。流石エマール門下といったところでしょう。ピアノ三重奏曲のオススメアルバムですね。評価は3曲とも[+++++]とします。

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tag : ピアノ三重奏曲

茗荷谷のカフェでクラヴィコードの響きに耳を欹てる

今週は水曜日にサントリーホールのコンサートに出かけたばかりですが、もう一つコンサートの予約をしておりました。

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珈琲と古楽 Vol.2 最も静かな鍵盤楽器、クラヴィコード

茗荷谷の学下コーヒーというカフェでクラヴィコードを聴くという15人限定のコンサート。

学下コーヒー
食べログ:学下コーヒー

当ブログのコアな読者の方ならご存知のとおり、いろいろなご縁から、クラヴィコードという楽器の素晴らしさに開眼したのは割と最近のこと。きっかけはたまたま取り上げたマーシャ・ハジマーコスのクラヴィコードによるハイドンのピアノソナタ集の記事に新潟のクラヴィコード製作者の高橋靖志さんからコメントをいただいたこと。高橋さんの推薦されたデレク・アドラム盤を聴いて、クラヴィコードの深遠な世界を初めて知った次第。以来、クラヴィコードによる演奏は気になって取り上げている次第。

2015/02/05 : ハイドン–ピアノソナタ : キャロル・セラシのクラヴィコードによるXVI:20(ハイドン)
2013/07/21 : ハイドン–ピアノソナタ : ウルリカ・ダヴィッドソンのソナタ集
2013/06/05 : ハイドン–ピアノソナタ : 綿谷優子の初期ソナタ集(クラヴィコード&ハープシコード)
2013/03/02 : ハイドン–ピアノソナタ : キャロル・セラシのフォルテピアノ/クラヴィコードによるソナタ集
2013/01/27 : ハイドン–ピアノソナタ : デレク・アドラムのクラヴィコードによるソナタ集
2012/12/22 : ハイドン–ピアノソナタ : マーシャ・ハジマーコスのクラヴィコードによるソナタ集

ハジマーコス盤のレビューでのコメントのやりとりを見ていただければわかるとおり、今回のコンサートの奏者である筒井一貴さんともご縁があったのでしょう。

クラヴィコードはピアノやフォルテピアノと比較すると極端に音量が低い楽器。多くのアルバムが録音に苦労しており、クラヴィコードのひっそりとした美音が自動車の通過音や暗騒音に紛れて聴こえる録音も少なくありません。このクラヴィコードの美しい音を是非生で聴いてみたいと思っていたところ、たまたまネットでこのコンサートの存在を知り、しかも席は15席限定で残り1席という状態だったので、慌てて予約したという次第。生のクラヴィコードをもしかしたら理想的な環境で聴ける千載一遇のチャンスかもしれないと思ったわけです。

当日は19:30開演のところ開場時間の19:00には駆けつけましたが、着いてみると既にほとんどのお客さんが席でコーヒーを楽しんでいるではありませんか。ちょっと出遅れ感です(笑)。

コンサート会場の学下コーヒーは茗荷谷駅から3分ほどの春日どおり沿いにあるカフェ。オーナーの方によると少し前まで目白の学習院下にあったお店がビルの建て替えにともなって茗荷谷に移り、元の学習院下、「学下」の名前のままやっているとのこと。お店のオーナーも古楽好きとのことで、このような企画となっているとのことでした。

お店の入り口からちょっと奥に入ったところに小部屋のような空間があり、そこにテーブル席がいくつかあるという構えですが、その隅にクラヴィコードが置かれ、まわりの席をコンサート向けに少し動かして、15人入るとちょうどいい感じの空間。白壁にシンプルなインテリアで、まるでハイドンの生家でクラヴィコードを聴くような心境になります。

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この日使われた楽器は1763年製Johann Andreas Steinの旅行用クラヴィコードの複製でAlfons Huber & Albrecht Czernin(2002)。演奏前には、この繊細かつ不思議な楽器を皆さんしげしげと見入ってました。

プログラムは次のとおり。

J. S. バッハ:平均律クラヴィーア曲集より 第1巻第1番プレリュード(BWV846)
モーツァルト:アレグロ(K.3)、メヌエット(K.4)、メヌエット(K.5)
モーツァルト:アレグロ(K.9a)
モーツァルト:ヴィレム・ファン・ナッソーの歌による7つの変奏曲(K.25)
J. S. バッハ:リュートまたは鍵盤楽器のためのプレリュード、フーガ、アレグロ(BWV998)
(休憩)
モーツァルト:クラヴィーアのための小品(K.33B)
パッヘルベル:アリエッタと変奏ヘ長調
フィッシャー(Johann Caspar Ferdinand Fischer):組曲集「音楽のパルナス山」より No.3 Melpomene:音楽・叙情詩の女神

まさにこの日のクラヴィコードが使われていた時代の音楽。ほどなく開演時時刻になり、奏者の筒井一貴さんが笑顔で登場。

筒井一貴/HASSEL 古典鍵盤楽器奏者(クラヴィコード/フォルテピアノ/チェンバロ)

筒井さんが、作品のことをお話しされて演奏するという、コンサートというよりはまさにサロンで演奏を楽しむという、クラヴィコードの時代のスタイルのような進行。クラヴィコードが最も静かな鍵盤楽器と呼ばれるように、最初にさらりと奏でられた音は、アルバムのみでクラヴィコードを聴いていた私の想像よりもかなり小さなものでした。まさに人が静かにしゃべる声と同じ程度の音。1曲目はバッハの平均律クラヴィーア曲集の冒頭の1曲。馴染みのメロディーですが、まだ耳が慣れないのか、身を乗り出して耳を澄ませて繊細な音色を聴きます。実は最初の1曲の印象はやはりか細いなかの繊細な音色という感じだったのですが、これが曲が進むにつれて、実にニュアンス豊かに聴こえるようになってきます。ちょうど暗い部屋に入ったときにはよく見えないのですが、目が慣れると暗さのなかにも陰影がくっきりついて見えてくる感じ。そう、バッハの曲は耳ならしという意図で配置されていたのでしょう。最初の曲が終わると15人の拍手がクラヴィコードの音以上にカフェに響きわたりますが、曲が進むにつれて拍手も小さな音になります(笑) これは皆さんがクラヴィコードの音に耳があってきたからということでしょう。

そして、続くモーツァルトの幼少時代の曲が何曲か続きます。作曲の背景や曲の成り立ちについてのとてもわかりやすい話に続いて、モーツァルトの天真爛漫なメロディーが奏でられますが、ケッヘル番号の1桁台ということで、1曲ごとにどんどんひらめきが加わり、モーツァルトの才能が急激に開花するようすが手に取るようにわかります。耳がなれて、クラヴィコードの繊細なニュアンスを伴った音楽に引き込まれます。すぐ外は春日通りということで、もちろん車の通る音も聞こえるのですが、お客さんはクラヴィコードの繊細な音色に集中しているので、ほとんど気になりません。小さな部屋で耳を澄ましてひっそりと音楽を楽しむ至福の時間とはこのことでしょう。

前半は小曲が中心で、前半の最後はバッハ。それまでのモーツァルトがクラヴィコードから閃きの進化を聞かせたのに対し、普段はハープシコードでの印象の強いバッハでは、バッハの音楽から華やかな音色という飾りを取り去った素朴な姿を想起させます。静かに耳を澄ませて聴くバッハの音階。静寂に潜む空気のようなものに触れたような気持ちになりました。演奏を終えて静かな拍手に笑顔で応えた筒井さんでした。



休憩を挟んで後半はモーツァルトから。最初の曲はもともと管楽器による演奏をイメージして書かれた曲。筒井さんの説明に従って、これまでの速い曲調ではなく、ゆったりとした曲調の曲を脳内で管楽器の音色を想像して聴いてみると、まさに楽器としてのクラヴィコードの優れた点がわかりました。

クラヴィコードは鍵盤を打鍵すると張られた弦の中央部を下から金属で「押して」その両側の弦が振動して音が鳴る仕組み。鍵盤を打鍵している間だけ音がなり、打鍵している鍵盤を抑える指に弦の振動がつたわってきます。以前クラヴィコードはヴィブラートがかけられると聞き、いったいどういうことなのか想像できなかったんですが、実際に楽器を目の前にして、自身で打鍵してみて初めて仕組みがわかりました。

このようなクラヴィコードだからこそ、管楽器の曲をイメージして演奏できるというわけです。このころの作曲家がクラヴィコードを愛用していた理由もなんとなくわかりました。

続いて演奏されたパッヘルベルのアリエッタと変奏曲。この曲はオルガンのための曲ですが、今度はオルガン用の曲をクラヴィコードで楽しみます。このパッヘルベル、素晴らしかったです。前曲同様、クラヴィコードの音色を聴きながら、オルガンの音色を想像して音楽を楽しみます。最初のテーマから次々と変奏がつづき、耳は完全にクラヴィコードの繊細な響きの変化のレンジに一体化して、デリケートに変化するメロディと音楽に引き込まれます。体を揺らしながら次々に変奏を繰り出す筒井さんの演奏に、カフェの小空間は完全に引き込まれました。カノンばかりが有名なパッヘルベルですが、このアリエッタと変奏曲はいいですね。特にこの日のクラヴィコードの演奏は絶品でした。筒井さんも満足そうに笑顔で暖かく静かな拍手に応えていました。

最後は大バッハがその作品を研究して、影響を受けたと言われるフィッシャーの曲。パッヘルベルに比べて明るく鮮やかなメロディーが織り込まれた組曲。曲が進むにつれて筒井さんのタッチも鮮やかになり、こちらも引き込まれる本格的な演奏。皆さん最初の曲の時とは異なり、クラヴィコードの音量と音色に完全にフォーカスが合って、音楽を楽しまれていました。

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最後も拍手につつまれ、アンコールで弾かれたのはモーツァルトのグラスハーモニカのためのアダージョ(K.617a)。いやいやクラヴィコードは想像力を掻き立てられます。この曲では天上から振り注ぐようなグラスハーモニカの繊細な音色を想像させます。

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いやいやいいコンサートでした。クラヴィコードを楽しむには絶好の規模。カフェの一室がバッハ、モーツァルト、ハイドンの時代にタイムスリップしたようでした。やはり生で聴くクラヴィコードは素晴らしいものでした。

終演後は筒井さんが皆さんの質問に気さくに応えたり、楽器を触らせていただいたりしながらしばらく談笑。リクエストに応じて愛器の前で写真も撮らせていただきました。

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大ホールでのコンサートとはまったく異なり、小さなカフェでクラヴィコードという楽器を存分にたのしませてもらう、まさに至福の時間。今週は仕事が忙しくお昼もろくに食べられないほど忙しかったのですが、このコンサートで心のそこから癒されました。主催者の皆さん、学下コーヒーの皆さん、筒井さん、ありがとうございました!

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イェンセン/読響/シュタイアーのモーツァルト、ショスタコーヴィチ(サントリーホール)

昨日は仕事山積みのなか、そそくさと切り上げてチケットをとってあったコンサートにでかけました。

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読売日本交響楽団:第548回定期演奏会

お目当てはフォルテピアノで自在な演奏を聴かせるアンドレアス・シュタイアー。あまりよく考えずにシュタイアーのフォルテピアノを生で聴いてみたいと思ってチケットをとったんですが、ホールに入ってステージに準備されていたのはフォルテピアノではなくピアノ! 先入観からシュタイアーはフォルテピアノを弾くイメージしかなかったため、ちょっと裏をかかれた感じ。プログラムはよく見てチケットを買わなくてはいけませんね(笑)

曲目はモーツァルトのピアノ協奏曲17番とショスタコーヴィチの交響曲7番「レニングラード」。まあ、このコンサートの来場者の半分以上はショスタコーヴィチ目当てかと思われますが、私はあまりそちらに関心はありませんでした。ハイドンやモーツァルト、ベートーヴェンは好きですし、ブルックナー、マーラー、ファリャ、プロコフィエフ、ストラヴィンスキー、デティユー、メシアン、ブーレーズも守備範囲ですが、正直ショスタコーヴィチは守備範囲外です(笑) 唯一好きなのは交響曲9番とショスタコーヴィチでは変り種。ということで、事前の関心はもっぱらモーツァルト。ショスタコーヴィチは完全にオマケあつかいでした。

奏者についても、この日の指揮者、エイヴィン・グルベルグ・イェンセンは読響初登場ということで、未知の若手指揮者を聴くのも悪くないという程度。

しかし、この日のコンサートで衝撃を受けたのはエイヴィン・グルベルグ・イェンセンのショスタコーヴィチでした。



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いつもどおり、仕事を切り上げてサントリーホールについたのは開演15分前くらい。先に入っていた嫁さんが首尾よくドリンクコーナーでサンドウィッチとワインを注文して待ってましたので、軽く腹ごしらえして、いざホールに入ります。座席はお気に入りのRA席。この日は前から2列目でした。

1曲目のモーツァルトの17番。全く未知のイェンセンでしたが、モーツァルトの序奏からいきなりしなやかな響きを聴かせ、引き込まれます。読響がまるでウィーンフィルのように柔らかに、しかも非常に美しい音色に響きます。優雅にのびのび、しかも要所でクッキリ緩急とアクセントをつける見事なコントロール。イェンセンの略歴を見ると直前までハノーファー北ドイツ放送フィルの首席指揮者を務め、また多くの歌劇場でオペラを振ってきただけにオケを実に巧みにコントロールします。かなりアクションは大きいのですが、動作が流麗なので指示が非常にわかりやすいです。ピアノソロは、ピアノの蓋が正面に向けて開けられていたのでRA席からだと直接音があまり聴こえず、ホールに響くピアノの音を聴く感じ。ピアノ協奏曲の時はRA席ではない方がいいかもしれません。肝心のシュタイアー、手元にある多くのフォルテピアノの録音では鮮烈なキレと自在な緩急による素晴らしい演奏が多く、やはりそんな演奏を期待して聴いてしまうのですが、ピアノでのシュタイアーは、そうしたキレの片鱗を感じさせるものの、演奏スタイルはリズムを少し砕いて、力を抜いた大人な表現。まるで自宅でピアノを前に指慣らしをしながら軽くオケに合わせていくよう。モーツァルトを自身で楽しむような演奏でした。
1曲目のモーツァルトですが、印象に残ったのはイェンセンの繰り出すしなやかな音楽。読響もイェンセンに応えて素晴らしい出来。お客さんも万雷の拍手で演奏を称えました。シュタイアーも快心の出来だったようで、アンコールでモーツァルトのソナタK.330の1楽章が演奏され、こちらも力の抜けた流して弾くようなタッチで聴かせる大人の技。フォルテピアノの冴え渡るキレとは全く別のシュタイアーを楽しむことができました。

休憩の間にピアノが下げられ、ステージ上は大オーケストラ用の配置に転換されます。

オケが入場して、笑顔のイェンセンが颯爽と登場。守備範囲外のショスタコーヴィチをどう料理してくるのか恐る恐る聴き始めます。ショスタコーヴィチ独特の散らかり感ですが、イェンセンの非常に丹念な描写に、あっという間に引き込まれます。長大な(本当に長大!)な1楽章、中間部にラヴェルのボレロを丸ごとショスタコーヴィチ流にアレンジしたような曲が挟まりますが、オケの精度が素晴らしく、特に小太鼓が極度の緊張感の中一定のテンポでリズムを刻み続ける姿を観客も固唾を飲んで見守ります。のけぞるようにバックスイングをともなってオケを煽るイェンセンですが、紡ぎ出される音楽は素晴らしい精度。1楽章はパーカッション郡も金管も大活躍。そして何より素晴らしかったのが各パートの音色の美しさ。途中ヴィオラが奏でるメロディーには鳥肌がたつような美しさ。木管、弦楽器、そしてピアノまでが響きの美しさの限りを尽くした演奏。戦争をテーマにした抑圧された心情のこの曲のなかの一瞬のきらめきのような瞬間がそこここに降り注ぎ、不協和音のなかに虹が浮かぶような不思議な美しさがちりばめられます。読響は私が聴いたなかでは一番の精度。この難曲なのに完璧な演奏で指揮者の期待に応えました。圧倒的な1楽章から普通の長さの2楽章、3楽章、そして間をおかずにフィナーレに続き、最後はブルックナーばりの大伽藍。ホールを揺るがすような大音響がイェンセンに巻き取られて、しばしの沈黙。イェンセンがタクトを下ろした途端にブラヴォーの嵐が降り注ぎました。正直ショスタコーヴィチの真価を初めて身をもって浴びた感じです。もちろんショスタコーヴィチなど詳しいわけもない嫁さんも圧倒され、ワナワナしてました。

イェンセンも会心の出来に満足したようで、小太鼓を皮切りに全奏者を丁寧に指名して祝福。やはり奏者の努力があっての名演奏であることをよくわきまえているようで、なかなかの人柄であることもわかりました。スクロヴァチェフスキからカンブルランときている首席指揮者ですが、つぎはこのイェンセンなどいいかもしれません。

イェンセン、ショスタコーヴィチ、そしてシュタイアーを目一杯楽しめたコンサートでした。今後イェンセンからは目が離せませんね。



ということで、モーツァルトとショスタコーヴィチに酔いしれたコンサートでした。サントリーホールを出るといつものように目の前のアークヒルズのなかの適当なお店で夕食をとって帰ります。この日はおなじみのカレー。

食べログ:フィッシュ

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ここは遅くまでやっているのでコンサート帰りにたまに寄るのでですが、前より味が良くなってますね。まずはビールとコンビネーションサラダ。

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こちらが定番白身魚のカリーライス。揚げた白身魚の旨みがカレーにいい香りを加えていて、癖になる味。

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こちらはキーマカリーライス。なんでしょう、日本のカレーとはかなり異なる香辛料の強烈な香りをベースとしたカレー。こちらも旨いです。

ショスタコーヴィチに酔ったところでカレーを食べながら反省会。このあとの読響のスケジュールを見るとハイドンも幾つかあります。どうしようかな~(笑)

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tag : サントリーホール モーツァルト ショスタコーヴィチ

マクシミリアン・ホルヌングのチェロ協奏曲集(ハイドン)

SONY CLASSICALから続々とリリースされているハイドンの新譜からの1枚。

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マクシミリアン・ホルヌング(Maximilian Hornung)のチェロ、アントネッロ・マナコルダ(Antonello Maanacord)指揮のポツダム室内アカデミー(Kammerakademie Potsdam)の演奏で、ハイドンのチェロ協奏曲1番、ラトヴィアの作曲家、ヴァージャ・アザラシヴィリのチェロ協奏曲を挟んでハイドンのチェロ協奏曲2番の曲を収めたアルバム。収録は2014年3月5日から7日、ベルリンのイエス・キリスト教会でのセッション録音。レーベルはSONY CLASSICAL。

最近続々とハイドンの新譜をリリースしているSONY CLASSICAL。このアルバムも例に漏れずなかなか質の高いプロダクションに仕上がってます。

ネットをいろいろ調べてみるとチェロのマクシミリアン・ホルヌングは1986年、ドイツのアウグスブルク生まれの若手チェリスト。8歳からチェロを始め、あのダヴィド・ゲリンガスにも師事。2005年にはドイツ音楽評議会のコンクールで入賞して頭角を現わします。その後テックラー・トリオ(Tecchler Trio)のチェリストとして2011年まで活躍します。2007年にはARD音楽コンクールで優勝。2010年からはSONY CLASSICALと専属録音契約を結び、最初にリリースしたアルバムでエコー・クラシックで年間最優秀新人賞受賞、そして翌年リリースしたセバスチャン・テヴィンケル指揮のバンベルク響とのドヴォルザークのチェロ協奏曲のアルバムで同じくエコー・クラシックの年間最優秀チェロ協奏曲賞を受賞するなど目覚ましい活躍ぶりです。2009年から2013年までバイエルン放送響で首席チェロ奏者を務めたほか、アンネ=ゾフィー・ムター財団からも支援を受けるなど、すでに大物への道を歩んでいるようです。2014年に来日しているのでおなじみの方もいるでしょう。また今年の7月にも来日予定が組まれています。

指揮者のアントネッロ・マナコルダは2010年よりこのアルバムのオケであるポツダム室内アカデミーの首席指揮者であり、ヨーロッパの名だたるオケ、歌劇場に客演している人。日本での知名度はイマイチですが、録音を聞く限りスッキリとした音楽を作る人というところでしょう。

すでに名盤が数多あるチェロ協奏曲の新録音。新風を吹かせることができるでしょうか。

Hob.VIIb:1 Cello Concerto No.1 [C] (1765-7)
速目のテンポでのそよ風のような心地良い入り。オケはかなり爽やか系。ところどころにキリリとアクセントを効かせてきますが、全く練らず、一貫して爽やかな伴奏。ホルヌングのチェロはそれを受けて、こちらも爽やか系。弓の抵抗が感じられないほどにサラサラとメロディーを置いていきます。まさに淡麗系の演奏。オケ同様よく聴くとアクセントはくっきり明快につけ、サラサラながらキリリとした表情を保ちます。さすがにチェロの高音の伸びは素晴らしく、時折ドキッとさせられます。1番のハ長調の晴朗さが、5月の湿度の低い爽やかな風を浴びて一層爽やかさを増しているように聴こえます。カデンツァではホルヌングの軽さを活かした美音の魅力をたっぷり聴かせます。
アダージョは爽やかな魅力を保ちつつ、ホルヌングの美音をゆったりと響かせる聴かせどころ。オケはかなり抑えてホルヌングのチェロの引き立て役に徹します。録音は自然な残響が美しいなかなかいい録音。さっぱりとスタイリッシュながら詩情も濃く乗った名演奏。
フィナーレはかなりエッジを立てて粒立ちの良さを鮮明にしようとしています。ヴァイオリンの音階をあえてクッキリと目立たせることでシャープな印象が際立ちます。ホルヌングのテクニックが冴え渡り、オケもそれに呼応。疾風のようなフィナーレでした。

Hob.VIIb:2 Cello Concerto No.2 [D] (1783)
1番同様、ちょっと早めなテンポに乗って、爽やか系の演奏。もとより癒し系の2番ですが、ハイドンの曲自体よりも、このホルヌングとマナコルダのコンビによる演奏のキレの良さに耳がいきます。よく聴くとホルヌングのチェロは音色が刻々と変わり、変化の幅も見事なもの。ともすると単調になりがちな部分も実に爽やかにまとめてきます。特に速い音階の爽やかな切れ味が聴き所。ただし長大な1楽章の音楽の構造を前にすると表現が音色と演奏スタイルというちょっと表面的な部分で勝負しているように感じなくもありません。音色の美しさキレの良さの魅力が目立たちすぎて、音楽の深みにまで到達してこない印象も残してしまいます。カデンツァはホルヌングの美音とテクニックが堪能できるもの。
短いアダージョでは逆に音量を落として、音色ではなく音楽の深みが感じられるから不思議なものです。そしてフィナーレも晴れ渡る秋空のような爽やかでまとめました。

新進気鋭の若手チェリスト、マクシミリアン・ホルヌングによるハイドンのチェロ協奏曲集ですが、これまでの数多のこの曲の演奏のなかでは、やはり新しさを感じさせる演奏であり、このチェリストの才能はかなりのものとわかりました。1番はそうしたホルヌングの演奏がマッチしていましたが、2番では特に1楽章でちょっと音色の方に関心が移り、音楽の深遠さを感じさせるところまでいいっていない印象でした。ここがハイドンの演奏の難しいところでしょう。これだけの才能がある人ゆえ、歳を重ねていくにつれ、音楽に深みがでてくるでしょう。評価は1番が[+++++]、2番は[++++]としたいと思います。

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絶品、ニコラス・マギーガンの交響曲集第2弾(ハイドン)

先日注文して届いたばかりのアルバム。

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amazon / HMV ONLINE
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ニコラス・マギーガン(Nicholas McGegan)指揮のフィルハーモニア・バロック管弦楽団(Philharmonia Baroque Orchestra)の演奏によるハイドンの交響曲57番、67番、68番の3曲を収めたアルバム。収録は68番が2014年2月8日から9日、他2曲が2014年10月11日から12日にかけて、何れもサンフランシスコの対岸、バークレーにある第一組合教会(First Congregational Church)でのライヴ。レーベルはフィルハーモニア・バロック・プロダクションというオケの自主制作レーベル。

このアルバム、気にはなっていたものの注文せずにいたもの。ニコラス・マギーガンのハイドンの交響曲の第2弾なんですが、第1弾としてリリースされたアルバムが今ひとつピンとこなかったからに他なりません。

2011/09/03 : ハイドン–交響曲 : 【新着】ニコラス・マギーガンのロンドン、88番、時計

連休中にamazonを物色していてこのアルバムをよく見てみると、曲目が57番、67番、68番とよほどのハイドンマニアしか手を出さないマイナー曲ばかり。最初のアルバムが有名曲ばかりだったのとは打って変わってこの選曲でアルバムを作ったのが気になって、注文に至った次第。将棋のさし手で言えば、1手目は定石どおり、そして2手目に意外な手を打ってきたという感じでしょうか。

マギーガンやオケについては前記事をご参照ください。

さて、このアルバム、早速CDプレイヤーにかけてみると、前作とは異次元の緊張感。いやいやこれはなかなかの演奏ではありませんか。

Hob.I:57 Symphony No.57 [D] (1774)
地味ながらハイドンの交響曲の面白味が詰まった名曲。気配を探るような序奏から躍動感あふれる主題に入るあたりの演出は実に見事。古楽器ながら非常にプレーンなコントロールがマギーガンの特徴ですが、前作のロンドンではちょっと踏み込み不足な印象を残してしました。この曲ではそのプレーンさが逆に功を奏して、曲の面白さがくっきりと浮かび上がり、わくわくするような躍動感に至ります。ハイドンの交響曲が好きな人の心に刺さる晴朗さ。音符から音楽が踊りだしてくるよう。たまりません! マギーガンの誠実なコントロールでハイドンの音楽に生気を与えます。そして繰り返される転調の妙、オケの奏者全員が一体になって音楽を作り、素晴らしい推進力を生み出しています。1楽章から絶品です。
続くアダージョはゆったりと間を生かした演奏。静けさに安らぎが宿るような癒しに満ちた表情が素晴らしいですね。ライブながら会場ノイズは皆無で、教会での録音らしく深い響きが心地よい録音。シュトルム・ウント・ドラング期の作品を思い出させるようなハイドン独特の仄暗い雰囲気がたまりません。小手先ではなく音楽の芯をとらえた解釈なのでしょう、じわりと心にしみる音楽。
メヌエットも力まず、ゆったりとした拍子の変化、オケの響きの余韻を楽しむような演奏。時折鋭い音色を織り交ぜてアクセントをつけます。よく聴くと弦楽器の音色がよく揃って、厚みもあり、弦楽セクションの優秀さがうかがわれます。
フィナーレは蚊が飛ぶような音色のヴァイオリンから入るユニークなもの。これまで同様余裕のある演奏で強奏でも力むことがなく、鮮やかなオケの吹き上がりを楽しむことができます。軽やかにコミカルな表情をまとめる見事な手腕。1曲目からノックアウトです。

Hob.I:67 Symphony No.67 [F] (before 1779)
1曲目同様、余裕たっぷりに曲想をじっくりトレースする入り。この時期の成熟したハイドンの筆致の素晴らしさを確信的に描いていきます。力みは全くなくオケが軽々と自然に響き、古楽器によるピュアな響きと相俟って素晴らしい感興をつくります。ときおりホルンがキリッとした音色でアクセントを加えます。
素晴らしいのが2楽章のアダージョ。とぼとぼとした素朴な音楽からにじみ出るえも言われぬ実に豊かな音楽。この朴訥さをマギーガンが実に穏やかにまとめていきます。これ以上の自然な表現はできないほど。必要十分な抑揚が音楽をいかに豊かにすることか。沁みます。
そして力の抜けたメヌエット。フィナーレもよく力が抜けて美しい響きを堪能できます。木管陣の音色の美しさが華を添えます。中間部でさらに脱力。ライヴでこれだけ落ち着いた演奏とは驚きます。悟りを開いたがごとき達観でしょう。まるで102番のアダージョのように癒しが溢れる音楽。この曲の終楽章がこれほど素晴らしいとは今まで気づいていませんでした。最後は躍動感を取り戻して終了。いやいや見事。

Hob.I:68 Symphony No.68 [B flat] (before 1779)
収録日は異なりますが、演奏、録音の質は変わらず素晴らしさを保っています。この時期のハイドンの曲の素朴な良さを力を抜いて表現しているところは変わらず、オペラの間奏曲のような不思議な曲想をうまくまとめています。リズムと調が次々と変化していく場面の描写はまさにオペラを見ているよう。いつもながらハイドンの巧みな描写能力に唸るばかりです。
この曲では2楽章がメヌエット。変わったメロディーが印象的なメヌエットですが、そのメロディーがさらに変化して奇異な印象すら与える独特の曲想。その表情を淡々と澄み切った音色で描いていくことで音楽の面白さが引き立ちます。
そしてさらに独特な3楽章のアダージョ・カンタービレ。繰り返されるリズムに乗ってユニークなメロディーが繰り替えし変化しながら行き来する、誰にも想像しようがないほどのユニークなもの。哲学者を思い起こさせます。ハイドンの機知の面目躍如。マギーガンは13分近い長大な楽章を実に丁寧に描き、やはり音楽がにじみ出てハイドンの創意に直に触れるような体験を与えてくれます。
フィナーレに至ってハイドンの総意が爆発。何でしょう、このシンプルなのに深い音楽は。何者にも縛られず自らの創意のままのメロディーを音符に落としたのでしょうが、メロディー自体の変化に加え、楽器間の受け渡しや、変奏の面白さまで、隅から隅までユニーク。その面白さの真髄を味あわせてくれる見事な演奏でした。この面白さ、聴いていただかなくてはわかりませんね。この曲、名曲です。

ニコラス・マギーガン指揮するサンフランシスコの古楽器オケ、フィルハーモニア・バロック管弦楽団によるハイドンの交響曲集第2弾。ハイドンの面白さの最もコアなところを知っているのでしょう、実に地味な選曲ながら、このアルバムにはハイドンの交響曲の魅力がすべて詰まっているような見事な仕上がりです。ライヴ収録とのことですが、セッション録音と言われてもわからぬほどの仕上がりで、その上音楽はライヴのようにイキイキと弾みます。ライヴらしい盛り上がりではなく、実に冷静な指揮によって心にぐっと響くような魅力に溢れています。第1弾が今ひとつだったのにたいし、このアルバムは絶品。ハイドンの交響曲の最上の魅力を知りたい人、必聴です! もちろん評価は全曲[+++++]とします。

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tag : 交響曲57番 交響曲67番 交響曲68番

【新着】トリオ・フリューシュチュックのXV:13(ハイドン)

世の中はゴールデンウィーク。当方は先日書いたようにラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポンに出かけたり、歌舞伎に出かけたり、近所の神代植物公園に出かけたり、庭の草むしりをしたり、そして所有盤リストをHTML5に書き換えたりと、なんだか適当にすごしました。報道では高速道路は軒並み大渋滞。この時期は遠出はご法度と決めております。ということで、音楽も少しは聴く余裕ができたのでレビューです。

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トリオ・フリューシュチュック(Trio Frühstück)の演奏で、ハイドンのピアノ三重奏曲(Hob.XV:13)、オーストリアの若手作曲家トーマス・ワリー(Thomas Wally)のカプリース、ブラームスのピアノ三重奏曲(Op.101)の3曲を収めたアルバム。収録は2014年4月14日から16日にかけて、オーストリア東部のライディング(Raiding)にあるフランツ・リスト・センターでのセッション録音。レーベルは墺Gramola。

トリオ・フリューシュチュックは初めて聴く団体。手に入れたアルバムのジャケットには奏者の姿はなく、楽器とそれを掴む手などにスポットライトを当てただけのアーティスティックなもの。一目でGramolaとわかる赤茶の帯も印象的ですが、CDを取り出そうとパッケージを開けてみると、ライナーノーツの裏側には思わせぶりな美女3人が写っているではありませんか。若い女性3人によるトリオと手に入れてからわかりました。日本では明らかにアイドル系に振ってきそうな予感がしますが、このジャケットの造りはなかなか凝っています。

メンバーは下記の通り。

ピアノ:クララ・フリューシュチュック(Clara Frühstü)
ヴァイオリン:マリア・サヴェルタール(Maria Sawerthal)
チェロ:ゾフィー・アブラハム(Sophie Abraham)

トリオの名前はピアノのクララ・フリューシュチュックの名からとったもののようですね。結成は2010年と最近。当初はウィーン音楽院で学び、近年はウィーン音楽大学で学んでいるとのこと。2011年にはブラームス国際コンクールで特別賞を受賞しています。演奏活動はヨーロッパが中心のようですが2013年にはサントリーホールでも演奏していますので、お聴きになった方もいらっしゃるかもしれませんね。

さて、肝心の演奏。ハイドンのピアノトリオでもかなり地味な曲、そして現代音楽、ブラームスのピアノトリオを組み合わせてくるという意欲的な構成。冒頭のハイドンは、アイドル系ではなく、静寂さ、精緻さを感じさせる名演でした。

Hob.XV:13 Piano Trio (Nr.26/op.57-3) [c] (before 1789)
2楽章構成の曲。1楽章はアンダンテ。静寂の中にピアノと弦がすっと現れる印象的な入り。ゆったりとしながらも精妙な雰囲気が漂い、演奏の精度は緻密。実に自然で各楽器の存在感が際立ちます。ゆったりとメロディーを奏でているのに現代音楽のようなクッキリとした翳りを感じる、緊張感あふれる演奏。フリューシュチュックのピアノの詩情が際立ち、それに合わせてヴァイオリンとチェロが従う感じ。各奏者の腕はかなりのもの。フレーズ毎に表情を巧みに切り替えながらも、実にゆったりと詩情を醸し出します。短調の入りから、陽が射すような明るさへの変化の実にデリケートなこと。聴き進むうちにフリューシュチュックのピアノの表情の豊かさに打たれます。これほどデリケートなニュアンスに富んだピアノは滅多に聴けるものではありません。曲が心にじわりと沁みてきます。響きの良いフランツ・リスト・センターでの最新の録音とあって、録音は超鮮明。名演を余すところなく伝えます。
2楽章はアレグロ・スピリトーソ。冒頭から、フリューシュチュックのピアノに釘付けです。豊かなニュアンスのピアノに寄り添うようにヴァイオリンとチェロが合いの手を入れるよう。チェロのアブラハムもかなりキレ良いボウイング。ヴァイオリンのサヴェルタールは存在感のあるヴァイオリンの音色で、じっくり合わせてきます。3人の息はピタリとあって終盤の盛り上がりの切れ味も抜群。フレーズ毎の表情の切り替えも鮮やか。実に見事な演奏でした。

この後のトーマス・ワリーのカプリースは、これぞ現代曲という音符とリズムの破裂のような音楽。こちらも演奏のキレと、現代性の表現は素晴らしいものがあります。もちろん初めて聴きますが、気に入りました。

オーストリア、ウィーンで学んだ若手美女3人組トリオ・フリューシュチュックによるハイドンのピアノトリオ。ジャケットがアイドル系ノリではない理由がわかりました。一流どころの演奏と比べても全く遜色ないどころか、ハイドンのピアノ三重奏曲の新たなスタンダードを築く演奏といってもおかしくないほどの素晴らしい演奏。しかも表現が先走るようなところは皆無で、自然な流れを保ちながらキリリと引きしまり、しかも詩情の深さも素晴らしいものがあります。私はかなり気に入りました。ということで評価[+++++]とします。この冴え渡る感覚、皆さんも味わってみてください。

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tag : ピアノ三重奏曲

ジャン=クロード・ペヌティエの「十字架上のキリストの最後の七つの言葉」(ラ・フォル・ジュルネ)

このところゴールデンウィークには毎年出かけているラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン。東京のゴールデンウィークの風物詩として定着しています。今年のテーマは、これまでの特定の作曲家、特定の時代などをテーマとしていた流れから変わり、PASSIONS(パシオン)「恋と祈りといのちの音楽」ということです。

ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン「熱狂の日」2015公式サイト

ここ数年聴いたプログラムは下記のとおり。なかでもアンサンブル・アンテルコンタンポランのブーレーズはライヴにもかかわらず超精密な演奏に衝撃を受けるほどのすばらしさでした。

2014/05/06 : コンサートレポート : トリオ・カレニーヌのピアノトリオ(ハイドン)、アンヌ・ケフェレックの「ジュノム」(ラ・フォル・ジュルネ)
2014/05/04 : コンサートレポート : アルゲリッチ、クレーメルによる動物の謝肉祭(ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン)
2013/05/05 : コンサートレポート : 【番外】ラ・フォル・ジュルネで衝撃のブーレーズライヴ

さて、今年チケットを取ったのは1つだけです。

公演番号:252 “受難曲の傑作~ハイドンの劇的受難曲(ピアノ独奏版)”

今年のプログラムでハイドンが含まれるのはいくつかありましたが、日程があったのがこれ。祈りのパシオンということで、ハイドンの傑作「十字架上のキリストの最後の七つの言葉」のピアノ演奏版です。他に弦楽四重奏曲版、珍しいハープ独奏版のコンサートプログラムも入っていましたが、ハイドンの祈りはこの曲ばかりではないんですが、それでも今やメジャーとなったラ・フォル・ジュルネでハイドンが取り上げられるだけでもよしとしましょう。

奏者はフランスのピアニスト、ジャン=クロード・ペヌティエ。以前にソナタ集を取り上げています。奏者の情報はこちらをごらんください。

2010/11/24 : ハイドン–ピアノソナタ : ジャン=クロード・ペヌティエのピアノソナタ集



さて、昨日5月3日は快晴。汗ばむほどの陽気でした。毎年ゴールデンウィークに開催されるラ・フォル・ジュルネの時期は暑い日が多いですね。

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東京国際フォーラムの中庭に植えられた欅は新緑の緑が濃くなり、葉が鬱蒼と茂り始めてます。

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コンサートの始まる12:15より少し前について、会場をうろうろ。プログラムを見るとほとんどの公園が売り切れで、会場はすでに多くのお客さんで賑わっています。

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お昼時とあって中庭では食事を楽しむ人たちでごった返していました。この陽気、もちろんコンサート前に一杯煽らずにはいられません(笑)

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屋台でプレミアムモルツと白ワインを手に入れ、グビッと一杯。いやいやキンキンに冷えた生ビールを青空の下で飲むというのはいいものです。そうこうしているうちに開場時間となります。

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開場は有楽町から東京国際フォーラムに入ってすぐ左のD7ホール。エレベーターに乗り、ホールに入ると、席はピアノの正面の絶好の席でした。

ステージを見ると、ピアノとは別に譜面台が置かれています。ハイドンの「十字架上のキリストの最後の七つの言葉」は、1786年、スペインのカディス大聖堂からの依頼によって作曲された曲で、聖金曜日の礼拝において、福音書のキリストの十字架上での七つの言葉をそれぞれ読み、瞑想する時間に演奏されるための音楽ということ。ヨーロッパの録音では曲間にこの福音書の朗読が入るものもあります。ということで、今日の演奏は、音楽祭のテーマである「祈りのパシオン」らしく、福音書の朗読が入るものと想像されました。

定刻となり、ピアニストのペヌティエがのそのそと登場。すると、ピアノを弾く前に自ら譜面台の前に立ち、ドスの効いたフランス語の低い声で朗読を始めます。壁面に字幕が投影され、この十字架上のキリストの最後の七つの言葉の語りの意味を噛み砕いて始めて聴くという機会となりました。

ペヌティエの語りは、語り役としても素晴らしいほどのもの。暗闇の中でスポットライトを浴び、オーソン・ウェルズのような鋭い眼光で会場をギラリとにらみながらの語りは雰囲気抜群。ピアノより語りの方が印象的といったら怒られますでしょうか。

序奏から生のピアノの力感はかなりのもの。演奏は虚飾を配して、ゆったり訥々と進めるものですが、やはり左手から繰り出される図太い低音はかなりのもの。時折タッチが乱れることもありましたが、図太い音楽の一貫性は流石なところ。そして各ソナタの間に語りが挟まれ、かなりゆったりとした進行。キリストが磔にされ、絶命するまでの様子が語られ、その物語の余韻に浸りながら聴く音楽ということがよくわかりました。プログラムでは12:15から13:25までと70分の予定でしたが、終わったのは13:30過ぎ。ゆったりとした音楽と、ゆったりとした語りを存分に楽しめました。特に第5ソナタから第7ソナタに至る後半の曲調の変化の演出は流石というところ。そして最後の地震はタッチはかなり乱れたものの、迫力で押し切る気迫の演奏。

最後は会場から拍手が降り注ぎ、何度も呼び戻され嬉しそうにそれに応えるペヌティエの笑顔が印象的でした。

ラ・フォル・ジュルネではこれも恒例ですが、コンサートが伸びると、次のプログラムの始まりに間に合わない方が席を立ち、そそくさと出ていく姿が見られました。幸いこのプログラムでは語りが挟まれるので、演奏中に離席するひとがいなかったのが幸い。これもこの音楽祭の風物詩でしょう。



会場から出るのはエレベーターのみということで少々待ってから外に出ると、先ほどよりさらに気温が上がって汗ばむほど。お昼の時間ということで、となりの旧読売会館、今はビックカメラの上にあるタイ料理、コカレストランに向かいました。

食べログ:コカレストラン&マンゴツリーカフェ 有楽町

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なにはともあれシンハービール(笑) 先ほどビールを飲んだのですが、暑い日は喉が乾くのです(笑)

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そしてトムヤムヌードルに蟹チャーハン。トムヤムヌードルは酸味とピリッとした辛味が流石。スープの完成度高いです。実に旨味の濃いスープでした。蟹チャーハンもタイ風の味付けでこれも絶品。これはおすすめですね。

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そして嫁さん注文のデザート。マンゴプリンにタロイモケーキ。こちらも美味しかった。ここは2度目ですがリーズナブルで美味しいいい店です。



さてお腹も未知たので、この日最後の行き先は上野の西洋美術館。

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国立西洋美術館:グエルチーノ展 よみがえるバロックの画家

こちらは本題から外れてしまいますので、紹介だけ。日本ではイマイチマイナーな存在のグエルチーノですので、連休中でも比較的ゆったり観られます。おすすめです。

ということで連休後半は文化的に始まりました。

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テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽

tag : ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン 十字架上のキリストの最後の七つの言葉 東京国際フォーラム

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Daisy


Author:Daisy

なぜかハイドン(Franz Joseph Haydn)が特に気に入り膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。東京在住のごく普通のサラリーマンです。

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2017年7月のデータ(2017年7月31日)
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