Haydn Disk of the Month - June 2015

ついこの前桜を詣でたと思えばあっという間に夏に入らんとする季節。相変わらずマイペースで記事を書かせていただいておりますが、あっという間に月末となってしまいます。最近はレビューもなかなか数が伸びませんので、旅行には行っているのですが旅行記など番外記事を書く時間もないので本来のレビュー記事に特化させていただいております。ということで、今月選んだアルバムはこちら。



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2015/06/20 : ハイドン–協奏曲 : マリア・クリーゲルのチェロ協奏曲集(ハイドン)

いやいや、虚心坦懐に聴き始めましたが聴いてびっくりのド名演。至芸とはこの演奏のことをいうほどの素晴らしい演奏。NAXOSの面目躍如。マリア・クリーゲルははじめて聴きましたが、自在な弓使いからほとばしる深い情感にただただ圧倒される演奏です。こちらもNAXOSの看板指揮者ヘルムート・ミュラー=ブリュールによるサポートも万全。最近はメジャーレーベルも激安ボックスセット乱発で、いまいち廉価盤の草分け的存在のNAXOSの存在感が薄れつつあったのですが、どっこいメジャーレーベルもびっくりするほど素晴らしい演奏をもカタログに加えていたわけです。やはり目が離せませんね。

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2015/06/01 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : テルプシコルド四重奏団の十字架上のキリストの最後の七つの言葉(ハイドン)

そしてもう一組。こちらも今月のベストからは外せません。テルプシコルド四重奏団によるハイドンの第2作。これは古楽器によるこの曲の演奏のベストです。ハイドンの楽譜を噛み砕いて完全に彼らの音楽になり、滔々とした音楽の流れに引き込まれます。この曲の難しさは、劇的なメロディーの展開ながら、普通に弾くとどうしても平板な印象を伴うところ。このアルバムにはそうした印象は皆無で、どのソナタでもハイドンの書いた音楽の深い意味をじっくりと味わえるところ。若手ながらあっぱれの演奏です。今後が実に楽しみなクァルテットです。



その他、今月は実はかなりのアルバムを聴いて、いいものばかりを記事にしていますので、どのアルバムもおすすめ盤です。詳しくはリンク先の記事を御覧ください。

2015/06/27 : ハイドン–協奏曲 : エリック・オービエ/ブルターニュ管のトランペット協奏曲(ハイドン)
2015/06/16 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : エルデーディ弦楽四重奏団のOp.76(ハイドン)
2015/06/11 : ハイドン–ピアノソナタ : リヒテルのXVI:52 1967年ロンドンライヴ(ハイドン)
2015/06/06 : ハイドン–ピアノソナタ : 【新着】深沢亮子のピアノソナタ集(ハイドン)
2015/06/04 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : 【新着】ラサール四重奏団のOp.71のNo.2(ハイドン)



月末には季節感くらい感じさせないとという変なこだわりから最近の番外を少々。このところ歌舞伎にも温泉にも適当に行っておりますがこのところのマイブームは山梨。勝沼、塩山あたりにはちょくちょく出かけてワイナリー巡りをしております。意外とこの辺りの名刹、恵林寺には立ち寄っていなかったので今月はじめて訪問した次第。

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甲斐武田氏の菩提寺として知られる恵林寺。入り口にあたる三門に書かれた「滅却心頭火自涼」の文字。調べてみると甲州征伐で武田氏が滅亡した後、織田勢によって焼き討ちにあった際、恵林寺大導師の快川紹喜が燃え盛る三門の上で「安禅必ずしも山水を須いず、心頭を滅却すれば火も自ら涼し」と発して焼死したとのこと。この三門は再建後のものとのこと。歴史を感じる佇まい。

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恵林寺には武田信玄に加えて、時代劇では悪役が多い柳沢吉保の墓もあったんですね。恵林寺の見学入り口の風林火山の書が趣深いです。

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主目的はワイナリー巡り。最近日本のワイン、特に甲州の白のミネラルと酸味の織りなす味わいの面白さに開眼し色々飲んでますが、やはりワイナリーに行って直接ワインを仕入れると作り手の心意気を直に感じられてなおさら味わい深く感じます。いろいろ仕入れて楽しんでおります。これもストレス発散ですな(笑)

さてさて、そろそろ夏本番。7月もどのような名演に出会えますでしょうか、、、



2015年6月のデータ(2015年6月30日)
登録曲数:1,336曲(前月比±0曲) 登録演奏数:8,542件(前々月比+81演奏)

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エリック・オービエ/ブルターニュ管のトランペット協奏曲(ハイドン)

いやいや、仕事が忙しい。そういうときは1曲ものということで、トランペット協奏曲を取り上げます。

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TOWER RECORDS / amazon

エリック・オービエ(Eric Aubier)のトランペット、ヴァンサン・バルト(Vicent Barthe)指揮のブルターニュ管弦楽団(Orchestre de Bretagne)の演奏でフンメル、テレマン、バッハ、レオポルド・モーツァルト、ハイドンのトランペット協奏曲を収めたアルバム。収録情報は記載されておらずPマークが2009年。レーベルは仏indesens。

このアルバム、トランペット協奏曲の所有盤を整理していたときに演奏の印象があまりないアルバムということで取り出し聴いてみたところ、出だしのフンメルが素晴らしいので、ハイドンも悪かろうはずがないということで聴き直したもの。フランスのオケは金管楽器が優秀なところが多く、このアルバムでトランペットを吹くエリック・オービエもフランス人ということで、ちょっと期待です。

エリック・オービエは1960年パリ生まれのトランペット奏者。14歳でパリ音楽院に入学、かのモーリス・アンドレに師事。1976年にトランペット、1977年にコルネット、1978年に室内楽にそれぞれ1等で卒業。翌1979年にはパリオペラ座管弦楽団首席奏者に就任しました。コンクールでは1979年パリ国際コンクール4位、1981年トゥーロン国際コンクール3位、1987年プラハの春国際コンクール2位などの受賞歴があります。近年ではリュエイユ・マルメゾン国立音楽院で教鞭を取り、後進の教育を行っています。amazonなどでアルバムを検索すると、このアルバム以外にも数多くのアルバムがリリースされており、かなりの実力者とみました。

Hob.VIIe:1 Concerto per il clarino [E flat] (1796)
オケはオーソドックス。最近の録音だけにクオリティは良く、序奏からオケの厚みと溶け合いをうまくとらえて、この曲独特の高揚感が心地よいですね。エリック・オービエのトランペットも最初はオーソドックスな印象。テンポ感もよく押し出しもなかなか。流石にアンドレ門下と思わせる存在感のある音色でメロディーを正確に置いていきます。ソロとオケが対等な音量でオケもソロに負けない勢いがあります。うまい具合にオケとソロが溶け合いこの曲の面白さを引き立てます。オケは音量をすっと落とす演出が効いて、引き締まった表現。そしてトランペットは朗々と吹き抜きます。途中からトランペットがところどころアクセントをつけ、徐々に本領発揮、終盤の速いパッセージの音階の鮮やかさ、そしてカデンツァに至りテクニック炸裂。羊の皮を脱いだように伸びの良い高音とキレの良い音階で圧倒します。これは見事。
アンダンテは実にゆったりとしたオケの序奏から入り、オービエはトランペットは王者の風格を帯びるような朗々たる演奏。曲調をふまえてこちらも実に堂々としたもの。中盤の伸びやかな盛り上がりは、圧倒的な音量と厚みのある音色で聴かせます。
フィナーレは期待通り、キレよくしかも適度に柔らかなオケが心地よい入り。すぐにオービエの圧倒的なプレゼンス。演奏のキレの良さからか、これまでの楽章より録音のリアリティが上がったように聴こえます。やはりリズム感の良さとリアリティあってのこの躍動感でしょう。良く聴くとオケの木管陣の爽やかな音色が印象的。トランペットのソロに花を添えています。最後はやはり圧倒的な迫力でさっと締めくくり曲を終えます。

フランスのトランペッター、エリック・オービエとフランスのオケによるハイドンのトランペット協奏曲の秀演。やはりフランスものらしく華やかな響きがあり、独墺系の演奏とは一味ちがう印象を残すのは流石です。オービエのトランペットはアンドレ門下らしい輝かしさと音量があり、最初はオーソドックスに聴こえましたが、やはりインパクトのあるソロを披露。そしてヴァンサン・バルト率いるブルターニュ管弦楽団も演奏に華やかさを加えるナイス・サポート。オケも見事でした。短いながらも独特の高揚感をもつハイドンのトランペット協奏曲には名演が多いですが、その名演にこのアルバムも加わりますね。評価は[+++++]とします。

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tag : トランペット協奏曲

マリア・クリーゲルのチェロ協奏曲集(ハイドン)

コレクションの穴だったアルバムです。

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TOWER RECORDS / amazon / HMV ONLINE

マリア・クリーゲル(Maria Kliegel)のチェロ、ヘルムート・ミュラー=ブリュール(Helmut Müller-Brühl)指揮のケルン室内管弦楽団(Cologne Chamber Orchestra)の演奏で、ハイドンのチェロ協奏曲2番、ハイドンの作とされたチェロ協奏曲(Hob.VIIb:4)、ハイドンのチェロ協奏曲1番の3曲を収めたアルバム。収録は2000年5月22日から25日にかけて、ケルンのドイツ放送の放送ホールでのセッション録音。レーベルは廉価盤中興の祖、NAXOS。

このアルバム、リリースは2001年とかなり前のものですが、なぜか手元になかったもの。NAXOSのハイドンのアルバムは交響曲、弦楽四重奏曲、ピアノソナタなど逐一リリースされる度に集めていたのですが、このアルバムはなぜか見逃していました。最近それに気づいて注文していたもの。

指揮のヘルムート・ミュラー=ブリュールはハイドン好きな方ならご存知でしょう。NAXOSのハイドンの交響曲全集リリースの中期以降8枚のアルバムを手兵ケルン室内管と担当している他、協奏曲の伴奏も何枚か担当し、NAXOSのハイドン録音の中核指揮者といった存在です。キレのよい響きをベースとした手堅い演奏をする人です。当ブログでもNAXOSの交響曲から1枚と、1966年録音のシャルランレコードの1枚をレビューしています。略歴などは交響曲72番の記事の方をご覧ください。

2012/03/22 : ハイドン–交響曲 : ヘルムート・ミュラー=ブリュール/ケルン室内管の13番、36番、協奏交響曲
2011/10/05 : ハイドン–交響曲 : ヘルムート・ミュラー=ブリュール/ケルン室内管弦楽団の交響曲72番等

今日取り上げるアルバムの目玉はなんといってもチェロのマリア・クリーゲルでしょう。アルバムの帯によるとクリーゲルもNAXOSの中核アーティストとのこと。ネットで検索してみると、NAXOSではバッハのチェロソナタ、ベートーヴェンのチェロソナタ、ピアノトリオ、ドヴォルザークのチェロ協奏曲のほか、現代音楽までかなりのレパートリーを担当していることがわかりました。彼女も名実ともにNAXOSの看板アーティストと言っていいでしょう。

マリア・クリーゲルは1952年ドイツのヘッセン州ディレンブルク生まれのチェリスト。アメリカインディアナ大学で名手ヤーノシュ・シュタルケルに師事。1981年にロストロポーヴィチ国際コンクールでグランプリ輝き、その後ロストロポーヴィチの指揮でアメリカ、フランスでコンサートツアーを行ったとのことです。楽器はフランスのモーリス・ジャンドロンが使っていたストラディバリウス「エクス・ジャンドロン」を使っているいうことです。

NAXOSの録音は廉価盤にもかかわらず質の高い録音が多いのですが、中には廉価盤という但し書きをなしにしても、素晴らしいレベルの演奏があります。ハイドンの交響曲ではニコラス・ウォードのしっとりとした名演が記憶に残るところですが、このマリア・クリーゲルのチェロ協奏曲もそのレベルです。実に素晴らしい演奏にうっとり。

Hob.VIIb:2 Cello Concerto No.2 [D] (1783)
冒頭は2番。ミュラー=ブリュールの操るケルン室内管はいつも通りオーソドックスな折り目正しい響き。序奏から癒しに満ちたしなやかな響きに聞き惚れます。マリア・クリーゲルのチェロは冒頭から燻し銀。落ち着き払ってゆったりとメロディーを奏でていきますが、ハイドンの書いたこの曲のメロディーに潜む枯淡の気配のようなものを踏まえて、実に味わい深いフレージング。いきなり巨匠の風格を感じさせます。ミュラー=ブリュールの完璧なサポートによりそって自在にチェロを操り、天上の音楽のごとき癒し。シュタルケルから灰汁の強さを除いたような風格もあり、なにものにも影響されない独自性もあります。爽やかさ、味わい深さが凄みさえ感じさせるレベル。フレーズをひとつひとつ味わい深く丁寧に重ねていきながら、ゆったりと音楽を織り上げていく快感を味わえます。素晴らしいのがカデンツァ。静寂の中にエクス・ジャンドロンの美音が響きわたり、クリーゲルの至芸を堪能できます。放送ホールでの録音にしては残響は豊かで、チェロの録音としては理想的。チェロの美音にアドレナリン噴出しっぱなし。見事。
アダージョはクリーゲルのチェロの独壇場。ゆったりと奏でられる音楽。ハイドンの書いた美しいメロディーの髄を置いていくように切々と弾いていくクリーゲル。クリーゲルの孤高の表現をあえてゆったりとオーソドックスに支えるミューラー=ブリュールの完璧なコンビネーション。1楽章と表現は変わらず一貫した音楽。
フィナーレに入ると若干テンポを上げ、ほのかに活気を感じさせますが、究極のしなやかさは保たれ、達人の草書のようなクリーゲルの筆の見事さに聴き惚れます。この楽章独特の郷愁を感じさせる曲想が一層際立ち、時折り聴かせる高音の枯れたような美音にドキッとさせられます。最後はチェロとオケがとろけるように一体となって終わります。いやいや、ここまで見事なチェロを聴かせるとは思いませんでした。

Hob.VIIb:4 Cello Concerto [D] (previously attributed to Haydn)
現在ではハイドンの作品ではないと確定している曲。手元には他に2種の録音がありますが、ハイドンの時代の空気のようなものを感じる音楽。ミュラー=ブリュールの折り目正しい伴奏によってこの曲の面白さはかなり伝わります。クリーゲルは前曲とは異なり、かなり気さくな演奏。メロディーをしっかりとトレースしながら演奏を楽しむよう。

Hob.VIIb:1 Cello Concerto No.1 [C] (1765-7)
そして1番。相変わらず安定感抜群のミュラー=ブリュールの伴奏を聴きながら2番は曲想の真髄を捉えた燻し銀の演奏でしたが、この晴朗な1番ではクリーゲルがどう来るか興味津々。クリーゲルは出だしから今度は少々インテンポでハツラツさを感じさせる入り。曲想を踏まえてスタイルを変えてきました。音色の美しさと力のぬけたボウイングは健在。徐々に表現の幅が広がり、すぐにクリーゲルのチェロの魅力に惹きつけられます。ここでもミュラー=ブリュールの伴奏は完璧。控えめながら折り目正しく、色彩感も保ち、クリーゲルのソロを支えることに徹します。中盤以降の美しいメロディーの演出は2番では感じなかった軽快さも加わり、まさに桜の花の香りを乗せたそよ風のよう。高音の磨き抜かれた音色の美しさは鳥肌が立つほど。1楽章のカデンツァに至り、もはやこの世のものとは思えない自在なチェロの美音に包まれ、至福の極致。参りました。これほど美しいチェロの音色には滅多にお目にかかれません。
アダージョではぐっとテンポを落として沈みます。2番での表現とは異なり、ここはかなりの変化。晴朗な曲想から一転、三途の河の向こう側のような世界。チェロのゆったりとゆったりと深い音色が心に響きます。かなり遅めのテンポがこの曲の新たな魅力を際立たせます。表現を含めてこれほど深く沈み込むこの楽章は聴いたことがありません。
そして再び、快活なフィナーレ。夕立のあとの青空のように晴朗さが際立ちます。この変化をさらりと聴かせるミュラー=ブリュールも見事。時折踏み込んでチェロを震わせる音色を織り交ぜながら軽やかにメロディーをこなすクリーゲル。この楽章ではボウイングのキレの良さを印象付けます。ただし並みのチェロ奏者とは一線を画す味わい深い音色をもっているので、ただキレが良いだけではなく、音楽としてのキレの良さを感じさせるレベル。最後はぐっとためて曲を終えます。

NAXOSの看板チェリスト、マリア・クリーゲルと同じく看板指揮者ヘルムート・ミュラー=ブリュールによるハイドンのチェロ協奏曲集。そのレッテルから想像される演奏とは全く異なり、このアルバム、ハイドンのチェロ協奏曲のベスト盤といってもいい素晴らしい出来です。ハイドンのチェロ協奏曲には名盤が多く、有名なところではデュプレ、ロストロポーヴィチ、ゲリンガスなど巨匠と呼ばれるチェリストの名演、最近ではアルトシュテットやマリー=エリザベート・へッカーなどの名演がひしめいています。このマリア・クリーゲル盤、それらの名演と比べても劣るどころかそれらを凌ぐ素晴らしいものです。ハイドンのチェロ協奏曲の現代楽器による演奏として、ファーストチョイスとしておすすめしてもいいくらい。オーソドックスながら1番、2番ともに踏み込んだ表現で、曲の魅力を余すところなく伝える素晴らしいアルバムです。これまで聴いたNAXOSのハイドンの演奏では間違いなくベスト。評価も[+++++]以外につけようがありません。未聴の方、是非。

これは月末がたいへんですね。今月は本当に素晴らしい演奏が続きます。

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tag : チェロ協奏曲

エルデーディ弦楽四重奏団のOp.76(ハイドン)

最近、意図して取り上げている日本人奏者のアルバム。

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エルデーディ弦楽四重奏団(Erdödy String Quartet)によるハイドンの弦楽四重奏曲Op.76のNo.4「日の出」、No.5「ラルゴ」、No.6の3曲を収めたアルバム。収録は2004年2月25日から27日にかけて、山梨県牧丘町文化ホールでのセッション録音。レーベルはこのクァルテットの自主制作。

このアルバムは先日新宿のdisc unionで見かけて手に入れたもの。さりげないアルバムの造りから日本人奏者のものとは気づかずに手に入れましたが、帰って開封してはじめてそれと気づいたもの。ブログを書くために調べたところ、amazonなどネットショップには流れていないもののようです。クァルテットのウェブサイトを紹介しておきましょう。

エルデーディ弦楽四重奏団

エルデーディとはハイドンファンの方なら先刻ご承知のとおり、ハイドンに弦楽四重奏曲Op.76の作曲を依頼したエルデーディ伯爵のこと。このアルバム、エルデーディ伯爵の注文で作曲した曲を、エルデーディ弦楽四重奏団が演奏したという、クァルテットのオリジンのようなアルバムということです。このアルバムにはエルデーディ四重奏曲の後半3曲が収められていますが、もう1枚、前半3曲を収めたアルバムがあり、そちらも今回入手済みです。

エルデーディ弦楽四重奏団は1989年、藝大出身者によって結成されたクァルテット。メンバーを見ると、奇遇にも先日浜松市楽器博物館のリリースするアルバムでヴァイオリンを弾いていた桐山建志さんがヴィオラを弾いています。

第1ヴァイオリン:蒲生克郷(Katsusato Gamo)
第2ヴァイオリン:花崎淳生(Atsumi Hanazaki)
ヴィオラ:桐山建志(Takeshi Kiriyama)
チェロ:花崎薫(Kaoru Hnazaki)

設立後すぐの1990年から1992年、ロンドンでアマデウス弦楽四重奏団のメンバーによるサマーコースに参加しているとのこと。以後、国内を中心に活躍しています。弦楽四重奏好きな方ならご存知かもしれませんね。

このアルバムを取り上げたのは、もちろん演奏が素晴らしいということからですが、もう一つ奇遇が重なっています。このアルバムの録音会場となっている山梨県牧丘町の牧丘町文化ホールは、武田信玄の墓所がある恵林寺のすぐそば。実はこの春以降このあたりの恵林寺、放光寺、はやぶさ温泉、道の駅牧丘、近くのワイナリーなどには3度ほど訪れており、このアルバムの録音会場がすぐそばにあったことを知り、ちょっとびっくりした次第。なんとなく偶然にもご縁があったということでしょう。

アルバムをCDプレイヤーにかけた瞬間、瑞々しい響きが溢れてくる一聴して素晴らしい演奏。いやいや、これは名演ですよ。

Hob.III:78 String Quartet Op.76 No.4 "Sonnenaufgang" 「日の出」 [B flat] (1797)
日の出のゆったりとした柔らかい導入部。最初の研ぎ澄まされた一音にこのクァルテットのセンスが現れているよう。録音は実に自然で、鋭すぎず、弦楽器の実体感と自然な響きがうまく録られています。眼前でクァルテットが演奏しているような名録音。演奏も自然体でオーソドックスなものですが、落ち着いているのにスリリングで、各楽器の音色が微妙に異なるのがかえって心地よい印象を与えます。各パートが実にしなやかに歌い、アンサンブルの精度もなかなかのもの。ハイドンの音楽を自然体であらわした清々しい演奏。4人の音楽の重なりがいぶし銀のような味わい深さを醸し出します。1楽章から、ぐっと引き込まれます。
続くアダージョは素朴な響きの魅力で聴かせます。自然な呼吸が聞き手とシンクロ。まさに癒しの音楽。作為なく純粋に音楽を奏でているだけで、ハイドンの音楽の魅力が溢れ出してきます。素朴な表情と枯れた心境が交錯する魅力。無欲の音楽。絶品です。
メヌエットもそよ風のように入ります。この絶妙な入りのセンス、これまた絶品。音楽とはテクニックばかりではなく、こうした冴えた感覚が重要ですね。一貫して自然さを失わないこの感覚。音楽はしなやかに流れ続け、曲が進みます。さらりとレガートをかけ、さらりとリズムを取り戻す微妙な変化の連続に聞き手の感覚が研ぎ澄まされます。
フィナーレはしなやかで時に重厚。精度が高いというわけではないのですが響きは複雑で深く、音楽は実に豊か。最後は軽やかさも垣間見せて終了。見事。

Hob.III:79 String Quartet Op.76 No.5 [D] (1797)
1曲目から引き込まれっぱなしですが、続くこの曲でも緊張感とスタイルは保たれ、実に複雑な響きが繰り出されていきます。よく聴くとチェロの安定感がこのクァルテットの魅力の一つとなっているよう。パートごとに音色が微妙に異なるものの、音楽は一貫しているので、この複雑な響きを織り成していることがわかります。研ぎ澄まされた精度の高い演奏もいいものですが、このエルデーディ弦楽四重奏団のざっくりとした響きもいいものです。ハイドンの弦楽四重奏曲の素朴な魅力を表現し尽くしているよう。リズムに推進力があり、それが音楽をイキイキとさせています。
題名楽章のラルゴは、曲の美しさを知り尽くしたもののみが取りうるアプローチ。さらりとしながらも適度にしなやか。そして自然な呼吸によって浮かびあがる感興。静けさすら感じる終盤。これまた絶品。
そしてこの曲でもこれ以上しなやかには入れないほどのメヌエットの入り。このあたりの感覚の冴えは驚くほど。その後の自然な音楽の流れも素晴らしいのですが、曲の入りにハッとさせられるのもいいですね。あまりの自然さに驚きを覚えるとはこのことでしょう。
演奏によってはエキセントリックにも聴こえるフィナーレですが、もちろん非常にまとまりのよい入り。適度に躍動するリズムの心地よさが聴きどころでしょう。この曲でも音楽の深さを思い知らされます。

Hob.III:80 String Quartet Op.76 No.6 [E flat] (1797)
最後の曲も出だしの分厚いアンサンブルから惹きつけられます。音色に関する冴えた感覚はここでも健在。すぐにヴァイオリンの自在な掛け合いにハッとさせられます。円熟の極致のような技が次々と繰り出され、ハイドン晩年の機知の連続に酔いしれます。曲の魅力を知り尽くしているからこそできる表現と納得させられます。抑えた表情にも音楽の神様が宿っているよう。自在な表現はこのアルバムの総決算にふさわしい完成度。終盤のフーガのような深遠な音楽はハイドンの創意を踏まえて遊びまわるような自在さに至ります。
2楽章は1楽章で昇りつめたかと思った表現にさらに磨きがかかり、孤高の領域。神々しいまでの気高さ。この曲の到達した高みは、登ってみなければわからないほど。山頂で澄み切った黒にちかい紺色の天空を眺めるよう。凄みすら感じるそぎ落とされた音楽。絶句。
いつも不思議に感じるこの曲のメヌエット。昇りつめた向こう側は、極度にあっさりとした世界。それを知ってか演奏も純粋無垢な汚れのない屈託のないもの。超えるものを超えてしまった心境なんでしょうか。そしてフィナーレも同様。無邪気に遊びまわるような表情の連続。曲に仕込まれた気配までさらけ出してしまう凄い解釈と言わざるを得ません。参りました。

エルデーディ弦楽四重奏団によるエルデーディ四重奏曲集の後半3曲。ここまで素晴らしい演奏とは想像できませんでした。精緻な演奏ではありませんが、表現は他のどの演奏よりも本質を突く名演奏。まるで自宅が名ホールになってしまったような実体感溢れる録音によって、ハイドンの円熟の筆致による弦楽四重奏曲を堪能できる名盤です。自主制作盤のようなので大手には流通しておりませんが、上のウェブサイトで購入できるようですので、入手は難しくないでしょう。これはハイドンの弦楽四重奏好きな方は必聴のアルバムです。エルデーディ四重奏曲の真髄に触れられます。評価はもちろん全曲[+++++]です。

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tag : 弦楽四重奏曲Op.76 日の出 ラルゴ

リヒテルのXVI:52 1967年ロンドンライヴ(ハイドン)

ライヴを中心にいろいろな演奏が出回っているリヒテルのハイドン。未入手の音源が手に入りました。

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TOWER RECORDS / amazon

スヴャトスラフ・リヒテル(Sviatoslav Richter)のピアノによるハイドンのピアノソナタ(XVI:52)、ウェーバーのピアノ・ソナタ3番(Op.49)、シューマンの2つのノヴェレッテ Op.21より第4番、第8番、ショパンの舟歌(Op.60)、ドビュッシーの前奏曲集第2集より4曲(妖精たちはあでやかな舞姫/エジプトの壺/交替する3度/花火)などを収めたアルバム。収録は1967年6月11日、ロンドンのロイヤル・フェスティヴァル・ホールでのリサイタルの模様をBBCが収録したライヴ。レーベルはica CLASSICS。

リヒテルはハイドンを気に入っていたようで、リサイタルでもかなりの回数取り上げていました。リヒテルの力感溢れるハイドンは好きなので未聴のアルバムを少しずつ手に入れては楽しんでいます。これまでにもリヒテルのハイドンは何回か取り上げています。

2014/01/24 : ハイドン–ピアノソナタ : 【新着】スヴャトスラフ・リヒテル1984年東京ライヴ(ハイドン)
2013/07/15 : ハイドン–ピアノソナタ : 【新着】リヒテルのピアノソナタライヴ集
2010/11/23 : ハイドン–ピアノソナタ : リヒテルの1993年のソナタ録音
2010/02/23 : ハイドン–ピアノソナタ : リヒテルのソナタ録音

今日取り上げるのはハイドン晩年の傑作ソナタXVI:52ですが、この曲のリヒテルの演奏はネットを調べたところ下記の録音があります。

1949年5月30日モスクワライヴ:Venezia(所有盤)
1960年2月27日ブカレストライヴ:AS disc
1960年3月3日キエフライヴ:TNC
1966年11月3日メッシーナライヴ:MESSINA
1966年11月19日フェラーラライヴ:PHILIPS
1967年5月8日モスクワライヴ:RUSSIAN MASTERS
1967年6月11日ロンドンライブ:ica(所有盤:今日取り上げるアルバム)
1987年2月マントヴァセッション録音:DECCA(所有盤)
1993年セッション録音:DECCA(所有盤)

今日取り上げるアルバムを含めて4種が手元にあります。つまりまだ未入手のものが5種あるということで、コレクション意欲が高まります。手元のアルバムでは1967年録音のDECCAのセッション録音がピアノの美しい響きが録られたバランスの良い名演奏としておすすめできるものですが、リヒテルの鋼のような強靭なタッチの快感に酔うという面は少し弱いもの。ということでコンサートの模様を興奮とともに詰め込んだライヴ盤に興味が湧くわけです。このアルバムは1967年とライヴの中では最も新しいもの。しかもロンドンでBBCによる放送用の録音ということで、録音にも期待できそう。アルバムの解説によればもともとモノラルの音源をアンビエント・マスタリングで聴きやすく仕上げたということです。

Hob.XVI:52 Piano Sonata No.62 [E flat] (1794)
冒頭の分厚い響きは流石にリヒテル。セッション録音とは異なり豪放な入りに電気ビリビリ。速めのテンポで音楽に力と勢いが漲り、そしてこれぞリヒテルという彫刻的な立体感。あまりに見事なフォルムにうっとりします。この力感とイキイキとしたリズム感、そしてふと力を抜いた部分の静寂感の神がかったバランス。録音はセッション録音とはだいぶ差がつきますが、1967年のライヴとしては悪くありません。モノラルをアンビエント・マスタリングで処理しているのも不自然ではありません。リヒテルの力感は力任せというのとまったく異なり、一人だけ異次元の走りをみせるウサイン・ボルトのように圧倒的な余裕のなかでの迫力。アムランに代表される、青白い炎をカミソリでえぐるような切れ味の最新の演奏と比べると、古風に感じなくもありませんが、それでもその個性は際立つもの。
アダージョでは鋼のような強靭さをすこし緩めて孤高の表情で美しいメロディーを置いていきます。それでも左手による低音の強靭さは隠しきれず、何か背後に大きな意思があるのを不気味に感じさせるような大きな音楽を造っていきます。
フィナーレはキレキレ。これで録音がよけれがものすごい迫力を味わえたことでしょう。リヒテルがさらりと弾きこなす速いパッセージの鮮やかなキレをそこここに散りばめ、そして余裕をもってそれをつなぎ合わせて音楽組み立てます。あまりに鮮やかなフィニッシュに最後は拍手が降り注ぎます。

リヒテルの1967年のロイヤル・フェスティヴァル・ホールでのライブの冒頭に演奏されたハイドンの傑作ソナタ。期待を裏切らない名演でした。強靭なタッチによる険しいハイドン。ただし表現には余裕があり、力任せの演奏とはまったく異なり、孤高の個性という次元。ハイドンの曲のなかでも力感が映える曲をこれほどまでに見事に演奏されてはかないません。ライブなので少々のタッチの乱れはありますが、音楽の乱れは微塵もなく堅固なもの。流石リヒテルという演奏でした。評価は[+++++]とします。

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tag : ピアノソナタXVI:52 ライヴ録音 ヒストリカル

【新着】イル・ジャルディーノ・アルモニコの交響曲全集第2巻(ハイドン)

なんとなく、このアルバムがリリースされているのは知ってましたが、手元に来たのはつい最近です。

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ジョヴァンニ・アントニーニ(Giovanni Antonini)指揮のイル・ジャルディーノ・アルモニコ(Il Giardino Armonico)の演奏で、ハイドンの交響曲46番、22番「哲学者」、ヴィルヘルム・フリーデマン・バッハの交響曲(BR C-2)、ハイドンの交響曲47番ののあわせて4曲を収めたアルバム。収録は2014年6月16日から20日、ベルリンのテルデクス・スタジオでのセッション録音。レーベルはAlpha Productions。

このアルバム、ジョヴァンニ・アントニーニ指揮のイル・ジャルディーノ・アルモニコによるハイドンの交響曲全集の第2巻に当たるもの。第1巻については以前に記事にしております。

2014/11/08 : ハイドン–交響曲 : 【新着】イル・ジャルディーノ・アルモニコの交響曲全集第1巻(ハイドン)

全集の完成はハイドンの生誕300周年にあたる2032年と、東京オリンピックのさらに12年後という気の長い話ですが、ハイドンの全交響曲を演奏、録音するというプロジェクトの大きさを考えると妥当なものでしょう。デビュー盤の第1巻はなかなかの出来だっただけに、2枚目の出来は今後の全集の成否を占うものということで、これまた関心が集まるものです。世の中のハイドンファンもその出来に注目していることでしょう。また、現在全集の半ばまで来ているトーマス・ファイにとっては商業的なライバル出現ということで、うかうかしていられない存在ということかもしれません。

Hob.I:46 Symphony No.46 [B] (1772)
前作と同様、古楽器のざらついた音色による迫力あふれる演奏が特徴。冒頭から躍動感にあふれ、かなりオケに力が入り、アクセントを執拗につけていくスタイル。ヴィヴァルディを得意としているアントニーニの得意とするスタイルといっていいでしょう。曲はシュトルム・ウント・ドラング期の最高傑作45番「告別」交響曲と同じ頃の作品。演奏によっては構成の見事さに焦点を合わせてくるところですが、アントニーニは荒々しさと力感を強調してきます。前作でアントニーニのアプローチは新鮮に映りましたが、この曲で改めて聴くとハイドンのこの時期の交響曲の魅力の一面を強調しているものの、ちと迫力に焦点を合わせ過ぎというように聴く人もあるかもしれません。このあたりが古楽器演奏の難しいところ。
つづく2楽章のポコ・アダージョは、この時期のハイドン特有の仄暗い情感を味わうべき楽章ですが、アントニーニは表情と音量を抑えて逆にさらりとこなしてきます。1楽章の喧騒に対して、あえて抑えて対比を鮮明にしようということでしょう。
そしてメヌエットは、堂々としたというよりも、こちらも淡々とした表情で描きます。どうしてももう少し豊かな表情づけを期待してしまうのはこちらの聴き方の問題でしょうか。
そして、フィナーレは1楽章の迫力の再来を予感させ、音量を抑えて始まりますが、そここで炸裂を予感させるようなキレ味を垣間見せて、盛り上がり切らず、聴くものをじらすようなコミカルな展開。非常にユニークな構成の曲を力感ではなくユーモアで聴かせる器を見せます。フィナーレはいい仕上がり。

Hob.I:22 Symphony No.22 "Philosopher" 「哲学者」 [E flat] (1764)
なぜか惹きつけられるユニークなメロディーのこの曲。アントニーニはこのユーモラスな1楽章を古楽器独特のさらりとした表現でゆったりと描きます。音楽自体の愉悦感に加えて古楽器のちょっとしたフレージングの面白さを織り交ぜて遊び心を加えていきます。弦楽器による伴奏の音階の音量を極端に抑えて静けさのようなものを感じさせ、結果的にユニークなメロディーを引き立てるといった具合。このアプローチはいいですね。
2楽章のプレスト、よくコントロールされた躍動感が心地よい楽章。前曲1楽章のちょっと力任せなところは影を潜め、曲の面白さを踏まえた粋な表現。ところどころで聴かせるキレの良いアクセントが効果的。
前曲につづきこの曲でも、早めのテンポであえてあっさりとしたメヌエットの表現。この曲ではこの表現に一貫性を感じます。最後の一音をさっとたたむように鳴らすあたりにもそうしたアントニーニの意図が見えるよう。そしてフィナーレは快速な躍動感で一気に聴かせます。この哲学者はしっくりきました。

この後、なんとも独特なヴィルヘルム・フリーデマン・バッハの曲を挟みますが、この全集、ハイドン第1巻にもハイドンと同時代のグルックの曲を挟んでいるところをみると、時代の空気を他の作曲家の作品から呼び込もうという狙いでしょうか。私にはハイドンの引き立て役と感じられます(笑)

Hob.I:47 Symphony No.47 [g] (1772)
このアルバム最後の曲。このアルバムで一番力入ってます。素晴らしい迫力ですが、私にはちと力みすぎに聴こえてしまいます。いきなり耳をつんざくようなアクセントの連続。響きも少々濁って楽器が美しく鳴る範囲を超えているような印象。曲自体はとても美しいメロディーがちりばめられた曲ですが、アントニーニは完全にスロットル全開できます。抑えるところはもちろん抑えているのですが、やはり力みすぎて単調に聴こえてしまうような気がします。
2楽章はこれまで同様、さらりと表情を抑えた速めのアプローチ。あえて歌いすぎないところは古楽器による演奏としては珍しくありません。そしてさらりとしたメヌエットですが、この曲では1楽章からの力感重視のスタイルからか、かなりアクセントを明確につけてきます。そしてフィナーレは予想どおり嵐のような盛り上がり。強音の迫力は1楽章同様ですが、不思議とここでは1楽章ほどクドさを感じません。鮮やかなキレ味でたたみかけて終わります。

ジョヴァンニ・アントニーニ指揮のイル・ジャルディーノ・アルモニコによるハイドンの交響曲全集の第2巻。名刺がわりの第1弾につづいて、アントニーニのやりたいことがより鮮明に表されたアルバムということでしょう。演奏評に書いたように、哲学者ではこの曲を面白さを踏まえて余裕あるコントロールで曲を表現しているのに対し、最後の47番ではフルスロットルで痛快という領域を超える灰汁の強い表現を聴かせます。聴く人によって評価が分かれる演奏かもしれません。私の評価は哲学者が[+++++]、冒頭の46番が[++++}、そして47番は[+++]としたいと思います。

膨大なハイドンの交響曲全集の2枚目ですが、力まかせの演奏はちょっと心配です。古楽器では全集に至らぬものの、ホグウッド、ピノック、グッドマンなどの先人の録音がありそれぞれ良さがあります。現代楽器でもファイの知的な解釈による全集がある中、アントニーニのこのシリーズがハイドンの交響曲全集に一石を投じることができるかは、今後のリリースにかかっているといっていいでしょう。

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tag : 交響曲全集 交響曲46番 交響曲47番 哲学者 古楽器

【新着】深沢亮子のピアノソナタ集(ハイドン)

今日は日本人奏者のアルバム。

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深沢亮子のピアノによるハイドンの主題と6つの変奏(Hob.XVII:5)、アンダンテと変奏曲(XVII:6)、ピアノソナタ(XVI:52)、シューベルトのピアノソナタ18番「幻想」の4曲を収めたアルバム。収録は2014年10月21日から22日にかけて東京の稲城市立iプラザホールでのセッション録音。レーベルは日本のART UNION。

いつものようにハイドンに関する最近リリースされたアルバムを検索していて出会ったアルバム。日本人によるハイドンの演奏は多くはありませんので目につきます。しかもアンダンテと変奏曲やXVI:52などハイドンも名曲を配置したアルバム。深沢亮子さんは初めて聴く人ということで気になって注文を入れた次第。

深沢亮子さんは私が知らなかっただけで、よく知られた人のようですね。12歳で日本学生音楽コンクール小学校の部で1位、15歳で日本音楽コンクール1位を獲るなど早くから才能が開花、17歳でウィーン音楽大学に留学し同校を首席で卒業、翌年にはムジークフェラインのブラームスザールでデビューリサイタルを開きました。1961年にはジュネーブ国際音楽コンクールで1位なしの2位となり、以後ヨーロッパ、アジアなどでソロやオケとの共演を重ねてきたとのこと。近年ではウィーンのベートーヴェン国際ピアノコンクールの審査員や、日本音楽舞踏会議の代表理事などを務めているとのこと。

このアルバムのタイトルは"Fantasie(幻想曲)"ということで、最後に置かれたシューベルトのソナタがメインのようですが、私にはもちろんその前に置かれたハイドンの3曲がメイン。早速CDプレイヤーにかけます。

Hob.XVII:5 Tema con 6 variazioni "Faciles et agreables" 「やさしく快適」 [C] (1790)
最新の録音だけあって超鮮明なピアノにホールの空気感まで伝わる素晴らしい録音。ピアノの実在感もあり、響きも非常に美しく録られています。事前に想像したよりかなりハツラツとした演奏。かっちりとした明確なタッチでハイドンの変奏曲がクッキリと描かれます。ほのかに情感も漂う理想的な演奏。高音の磨き抜かれたタッチ、そして左手のタッチも力強く、淀みなく音楽が流れます。教科書的な堅苦しさは微塵もなく澄み渡る奏者の心境を表すような晴朗さ。1曲目から引き込まれます。

Hob.XVII:6 Andante con Variazioni op.83 [f] (1793)
そして名曲のアンダンテと変奏曲。15分以上の演奏もあるなか、9’25とかなり短めの演奏時間。速めのテンポで今度は行書体のようなしなやかなタッチで入ります。磨き抜かれた美しいピアノの響きはそのままに、アゴーギクを効かせて流れるような演奏。前曲の明晰なタッチとは表現を変えてきます。詩情はより濃くなり、さながら桜の花びらが川面を流れていくような景色を感じさせます。変奏ごとにメロディが恣意的に踊り、短調のメロディーの微妙な翳りの変化を描き分けていきます。終盤の盛り上がりはベートーヴェンのような力感ではなく、枯淡の境地を表すような風情。曲ごとにアプローチを周到に変えています。

Hob.XVI:52 Piano Sonata No.62 [E flat] (1794)
そしてこちらもハイドンの最後期の傑作ソナタ。どちらかというとアンダンテと変奏曲に近い自在な表現から入ります。堂々としたこのソナタの1楽章に、少々の軽妙さを与えたいのでしょうか、力任せではなく、柔らかなタッチも織り交ぜ、特徴的な高音の輝きを帯びたメロディーをベースとした表現。リズムをすこし溜めながらアクセルをコントロールして曲に立体感を与えています。アンダンテと変奏曲では、しなやかな表情の変化が詩情を生んでいましたが、このソナタの1楽章では、そのしなやかさとデリケートさが、もう少し骨太な演奏を求めてしまう印象も残しました。
続くアダージョは逆にしなやかな音楽がすっと耳に馴染みます。このソナタに私が期待するものが既存の演奏の影響で残っているのでしょう、それがアダージョではすんなりと入るということかもしれません。きらめく星空のようなメロディーがゆったりと心に沁みます。
フィナーレでは最初の連続音の鳴らし方に音色に対する感覚の鋭さに驚かされます。スタイルは一貫してしなやかな流れのなかででのきらめきと詩情。やはり他の演奏の刷り込みからか左手のアタックの力強さや響きの厚みがもう少し加わればとの期待も感じさせます。

この後のシューベルトは流石にアルバムタイトルにしているように、じっくりと染み入るような響きを楽しめます。

深沢亮子さんの奏でるハイドンのピアノソナタ。ハイドンとシューベルトを並べてベテランピアニストの今の音楽を世に問う意欲的なアルバム。冒頭に置かれた珍しい主題と6つの変奏はこの曲でも指折りの出来と言っていいでしょう。素晴らしく鮮明な録音によって輝かしくも晴朗な音楽が流れます。そして名曲アンダンテと変奏曲ではこの素晴らしい構成の曲に柔らかな詩情ときらめきを与え、こちらも絶品。ハイドン最後のソナタは、あと少しの力感がと思わせますが、やはりその表現には色濃い音楽が宿っていました。流石の出来といって良いでしょう。評価は最後のソナタが[++++]、前2曲の変奏曲は[+++++]とします。

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tag : アンダンテと変奏曲XVII:6 ピアノソナタXVI:52 主題と6つの変奏

【新着】ラサール四重奏団のOp.71のNo.2(ハイドン)

最近リリースされたヒストリカルなアルバム。

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ラサール四重奏団(LaSalle Quartet)の演奏で、ハイドンの弦楽四重奏曲Op.71のNo.2、ブラームスの弦楽四重奏曲3番Op.67、ツェムリンスキーの弦楽四重奏曲3番Op.19の3曲が収められたアルバム。ハイドンの収録は1968年12月14日、ドイツのバーデン=バーデンのハンス・ロズバウド・スタジオでのセッション録音。レーベルは独hänssler CLASSIC。

ラサール四重奏団といえば、現代音楽を得意としていたクァルテット。手元にはシェーンベルクの浄夜などを収めたアルバム、バッハとモーツァルトのプレリュードとフーガなどを収めたアルバムがありますが、ハイドンの演奏は初めて聴きます。念のためさらっておきましょう。

ラサール四重奏団は1946年、ヴァイオリン奏者のヴァルター・レヴィンによって設立されたクァルテット。ラサールという名前は、クァルテットの結成当時にメンバーが住んでいたマンハッタンのアパートメントの面していたラサール通りにちなんだもの。クァルテットに寄贈されたアマティを演奏して精緻なアンサンブルを誇ってきました。古典派はもとより、新ウィーン楽派などの演奏によって知られ、特にDGからリリースされたツェムリンスキーの弦楽四重奏曲全集によって、当時まだ謎の作曲家とみなされていたツェムリンスキーを世に知らしめたことが重要な業績とみなされています。またリゲティの弦楽四重奏曲2番は彼らに献呈され、1969年に彼らによって初演されています。

第1ヴァイオリン:ヴァルター・レヴィン(Walter Levin)
第2ヴァイオリン:ヘンリー・メイヤー(Henry W. Meyer)
ヴィオラ:ピーター・カムニツァー(Peter Kamnitzer)
チェロ:ジャック・キルステイン(Jack Kirstein)

そのラサール四重奏団によるハイドン、しかもOp.71のNo.2という比較的地味な選曲。ラサールが現代音楽で聴かせるカミソリのようなキレ味が味わえるでしょうか。

Hob.III:70 String Quartet Op.71 No.2 [D] (1793)
非常に状態のいい録音。冒頭から緊密なアンサンブル。キリリと引き締まり、ピタリと各パートが重なる快感。期待通りのキレ味にうっとり。鋭利なヴァルター・レヴィンのヴァイオリンに隈取られたワイドレンジな響き。シャープに陰影がついて、階調豊かなモノクロームのオリジナルプリントのようなアーティスティックな世界。現代のモダンさとは少々異なり、少々クラシカルな雰囲気がこれまたいい感じ。くっきりとしたアクセントによってハイドンの時に素朴な印象さえ与える音楽が実にフォーマルな姿に映ります。1楽章は完璧なアンサンブルの魅力に圧倒されます。
続くアダージョはゆったりとした音楽をスリリングな緊張感で聴かせるラサールならではの演奏。冷静に品良くデフォルメされたメロディーに酔いしれます。冷徹さも感じさせる引き締まった響きなのに、妙に暖かさを感じる完成度。
メヌエットはまさにカミソリ。ヴァイオリンの鋭い響きが自在に楔を打ちながら、チェロの厚みのある響きに支えられたアンサンブルが呼応。そしてフィナーレはメヌエットの余韻を残しながらも、冷静にリセットされて、妙に乾いた響きのアンサンブルで始まりますが、演奏が進むにつれて、しっとりとしなやかさを加えながらクッキリとメロディーが発展して終わります。

弦楽四重奏とは演奏者によってかくも個性的に響くものでしょうか。ラサール四重奏団のまさにカミソリのようなキレ味のアンサンブルによるハイドン。この孤高の響きは真似のできるものではありませんね。同じくクッキリとした表情で完成度の高い演奏を誇るアルバン・ベルク四重奏団のハイドンにはどこか人工的な印象が付きまとい、あまり好きにはなれなかったんですが、このラサールによるハイドンは、人工的などという枠を突き抜けるアーティスティックさがあり、逆に圧倒的な凄みを感じます。この微妙なのに決定的な違いこそ音楽の面白さの源でしょう。この演奏、ハイドンの弦楽四重奏曲の極北の姿と言っていいでしょう。評価は[+++++]です。一聴あれ。

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tag : 弦楽四重奏曲Op.71 ヒストリカル

テルプシコルド四重奏団の十字架上のキリストの最後の七つの言葉(ハイドン)

先日、Op.33を取り上げたテルプシコルド四重奏団。その少し後の録音が手に入りましたので取り上げます。

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テルプシコルド四重奏団(Quatuor Terpsycordes)によるハイドンの弦楽四重奏版「十字架上のキリストの最後の七つの言葉」。収録は2008年10月21日から25日にかけて、スイスのベルン州のブルーメンシュタインの教会(Église de Blumenstein)でのセッション録音。レーベルはベルギーのRICERCAR。

テルプシコルド四重奏団の情報については以前取り上げたアルバムの記事をご参照ください。

2015/03/26 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : テルプシコルド四重奏団のOp.33(ハイドン)

Op.33の演奏が2005年の録音、そして今日取り上げる演奏はその3年後の2008年の録音ということでいずれも比較的最近の録音。前アルバムでは若手クァルテットながら非常に成熟した演奏を聴かせていただけに、その実力で「十字架上のキリストの最後の七つの言葉」を弾かれたらさぞかし素晴しかろうと思っていたもの。奏者も変わらず、この切々たる曲をスイスの片田舎の小さな教会で録音するというところで、このアルバムへの意気込みがつたわってこようというもの。

実際に聴いてみると、いや、予想が的中。これはなかなかの出来です。

Hob.III:50-56 String Quartet Op.51 No.1-7 "Musica instrumentare sopra le 7 ultime parole del nostro Redentore in croce" 「十字架上のキリストの最後の七つの言葉」 (1787)
ストイックな演奏も多いこの曲ですが、テルプシコルド四重奏団の手にかかると、この曲の劇性が色気を伴い実にアーティスティックに響きます。演奏は語りなどを含まないオーソドックスなタイプで、序奏から穏やかながら雄弁。一音一音の響きをじっくりと練った形跡があり、4人の響きがピタリと合って、まるで一人で演奏しているような純度で迫ってきます。
ソナタに入ると余裕たっぷりに落ち着きはらった安定した表情を保ちます。聴覚に全神経を集中させ、覚醒しきったようなキレ味での演奏が続きます。力みは皆無。しなやかにメリハリをつけながらソナタを刻んでいきます。ハイドンの美しいメロディーがキラ星のように輝きながら次々に奏でられる快感。この曲でこれだけ癒させるような快感を覚えるのは珍しいこと。どこかに宗教曲的な印象が残るのですが、テルプシコルド四重奏団の演奏は恍惚とした音楽の魅力一色。ソナタごとにどう弾きわけるかといったことではなく、一巻の絵巻物を描いていこうとしているよう。ここには音楽の気配や心のざわめき、色気のようなものが潜んでいて、次々とめくるめくように現れる美しいメロディーに合わせて代わる代わる顔を出してきます。テクニックで聴かせようというようなところはなく、純粋に音楽の力だけで曲を描いていきます。鳥肌がたつような静けさ、鋭く楔を打つようなアタックもありますが、すべてほどよく力が抜けた表現で、結果的にコントロールされたアーティスティックな彫りの深い音楽になっているという具合。第1ソナタから第7ソナタまで水も漏らさぬ集中力を保ち、一気に聴いてしまいます。
最後の地震はこれまでの流れから予想されるとおり、力任せではなく、アーティスティックにまとめます。

いやいや、ここまで素晴らしい音楽が聴けるとは思いませんでした。古楽器による「十字架上のキリストの最後の七つの言葉」でここまで表現を凝らせた演奏はこれまで聴いたことがありません。詩情あふれる映画を一本見終えたような充実感。この名曲を完全に彼らのものに噛み砕いて演奏しています。この曲には別にオラトリオ版、ピアノ版がありますが、この演奏を聴くと、この弦楽四重奏版が最も音楽の本質を捉えているように感じざるを得ません。いろいろ名演奏の多いこの曲ですが、私はこの曲のベスト盤としてもいいと思います。絶品の演奏、皆さんも是非どうぞ。もちろん評価は[+++++]です。

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tag : 十字架上のキリストの最後の七つの言葉 古楽器

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Daisy


Author:Daisy

なぜかハイドン(Franz Joseph Haydn)が特に気に入り膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。東京在住のごく普通のサラリーマンです。

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Joseph Haydn Discography at H. R. A.
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2017年7月のデータ(2017年7月31日)
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