Haydn Disk of the Month - April 2016

いやいや、年度末も忙しかったんですが、年度始めも仕事が忙しいのと風邪気味だったり、脚に怪我したりとドタバタしているうちに月末になってしまいました。

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写真は庭の木瓜の木陰に毎年咲くエビネ蘭。毎年この季節の楽しみの一つです。あまり手入れもしていませんが、毎年少しずつ増えて、今年は20株くらいが花をつけているでしょうか。

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こちらも毎年梅の老木の下に春になるとニョキニョキ生えてくる浦島草。こちらも毎年大きくなってきています。なんとなくグロテスクな感じもありますが、4月の風物詩といういことで。

さて、肝心の本企画ですが、やはりもう少し記事を書かないとベスト盤を選ぶのに差し障りがあろうかとおもいますが、そんな中でも素晴らしい演奏には出会うもの。やはりその素晴らしさに応じた扱いは必要ということで、地味に続けます。今月のベスト盤はこちら。



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2016/04/03 : ハイドン–オラトリオ : コリン・デイヴィス/BBC響の「四季」旧録音(ハイドン)

コリン・デイヴィスのハイドンはこれまでいろいろ取り上げていますが、その中でも1968年録音とかなり古いもの。しかも後年交響曲集を録音したアムステルダム・コンセルトヘボウではなくBBC響との録音によるハイドン最後のオラトリオ四季。冒頭から最後まで引き締まりまくったオケのタイトな響きに圧倒される録音です。歌手も粒ぞろいで現代楽器の四季ではオススメの一枚。デイヴィスといえば均整のとれたオードックスな響きでハイドンの交響曲をダイナミックに聴かせる印象ですが、この四季では一段と響きが引き締まって筋骨隆々。デイヴィスの若さも感じられる力演です。このアルバムの存在は最近まで知りませんでしたが、四季の愛聴盤になりそうです。



その他、今月高評価だったアルバムを再掲しておきましょう。

2016/04/24 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : ヤナーチェク四重奏団の「冗談」「五度」「セレナード」(ハイドン)
2016/04/23 : ハイドン–声楽曲 : エリザベス・スペイサー/ジョン・バトリックの歌曲集(ハイドン)
2016/04/16 : ハイドン–交響曲 : 井上道義/オーケストラ・アンサンブル金沢の「アレルヤ」(ハイドン)
2016/04/10 : ハイドン–協奏曲 : オリヴィエ・ロベルティのピアノ協奏曲集(ハイドン)

中でも印象的だったのがエリザベス・スペイサーの歌曲集。スペイサーは有名な人ではありませんが、隅々までコントロールが行きわたった素晴らしい歌唱。そして何より素晴らしかったのがジョン・バトリックのピアノ。ジョン・バトリックも有名な人ではありませんが、ピアノのから湧き出てくる活き活きとした音楽にしびれました。まだまだ未知の名演奏は数知れずあるのでしょう。他のアルバムもこれに勝るとも劣らない素晴らしさ。少ないながらも今月も名演奏に癒されました。

さて、5月に入るとゴールデンウィークということで、4月の記事数を挽回すべく、名盤探しの巡礼は続きます。



2016年4月のデータ(2016年4月30日)
登録曲数:1,356曲(前月比±0曲) 登録演奏数:9,160件(前々月比+58演奏)

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クイケン/グダニスク音楽アカデミー室内管の39番(ハイドン)

たまにはリリースされたばかりのアルバムを取り上げましょう。

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シギスヴァルト・クイケン(Sigiswald Kuijken)指揮のグダニスク音楽アカデミー室内管弦楽団(The Chamber Orchestra of the Academy of Music in Gdańsk)の演奏で、C. P. E. バッハの交響曲(Wq.183/3)、ハイドンの交響曲39番、ベートーヴェンの交響曲1番の3曲を収めたSACD。収録は2015年4月13日から15日にかけて、ポーランドのグダニスクにあるスタニスワフ・モニューシュコ音楽アカデミーのコンサートホールでのセッション録音。レーベルはポーランドのDUX Recording Products。

クイケンは私のお気に入りの音楽家であることは、当ブログの読者の皆さんはご存知のことでしょう。そのクイケンが聞き慣れぬオケを振ったアルバムがリリースされると知り、注文を入れていたもの。

いつものように過去に取り上げたクイケンが振ったアルバムの記事へのリンクをつけておきましょう。

2016/03/03: ハイドン–交響曲 : クイケン/ラ・プティット・バンドのラメンタチオーネ、52番、帝国(ハイドン)
2016/01/05 : ハイドン–協奏曲 : エヴァルト・デマイヤー/ラ・プティット・バンドのハープシコード協奏曲集(ハイドン)
2012/11/18 : ハイドン–交響曲 : 【新着】クイケン/ラ・プティット・バンドの「朝」、「昼」、「晩」
2011/09/14 : ハイドン–声楽曲 : シギスヴァルト・クイケン/ラ・プティット・バンドのテ・デウム
2011/07/04 : ハイドン–オラトリオ : クイケン/ラ・プティット・バンド1982年の天地創造ライヴ
2010/03/22 : ハイドン–交響曲 : クイケンのザロモンセット
2010/03/21 : ハイドン–交響曲 : クイケンのパリ交響曲集

このアルバムのオケはグダニスクのスタニスワフ・モニューシュコ音楽アカデミーで1999年に設立され、弦楽器専攻者を中心にアカデミーの選りすぐりのメンバーで構成されているとのこと。これまで多くのポーランドや国外の指揮者を招いて演奏活動をしてきましたが、その中でも別格の実績をもつシギスヴァルト・クイケンを招いて録音されたのがこのアルバムということです。選曲も古典派の交響曲の発展の歴史を俯瞰するような意欲的な構成ということで、なかなかの好企画と言っていいでしょう。

1曲目のC. P. E. バッハの交響曲は、ハイドンに比べると構成の緊密さではかなり劣るものの奇想天外なメロディーと野性味あふれる低音弦の迫力が特徴。この曲を聴く限りオケは優秀。特に弦楽セクションの鋼のようなキレ味はなかなかのもの。ハイドンで聴かせる冷静ななかから音楽の悦びがにじみ出るクイケンのコントロールとは一味ちがって、ちょっと踏み込んだ表現が新鮮。SACDらしく録音は鮮度の高いものですが、オケがちょっと平板に聴こえるのは会場もしくはマイクセッティングの問題でしょうか。

Hob.I:39 Symphony No.39 [g] (before 1770)
2曲目が肝心のハイドン。ハイドンではいつものクイケンの素晴らしいコントロールが聴かれました。やはりC. P. E. バッハとは異なり、疾走しながら流れる短調のメロディーの美しさは文句無し。耳を澄ますと、やはり弦楽器がキリリとキレていて、実に端正な趣。しかもフレーズのコントロールの緻密さ、響きの多彩さは期待どおり。1楽章からグイグイ引き込まれていきます。全般にテンポ設定が自然なのに劇的に聴こえるいつものクイケンの素晴らしさ。
つづくアンダンテでは弦楽セクションの優秀さがさらに際立ちます。フレーズごとにくっきり鮮やかにコントラストをつけ、ハイドンの機知に富んだメロディーをアーティスティックなレベルに昇華させた完璧な演奏。
メヌエットでも弦楽器が主体。ホルンや木管はレベルを落として控え目な存在になっています。クイケンの意図か、オケの意図かはわかりませんが、弦楽器の表現力がこの演奏のポイントになっています。そしてフィナーレも弦にみなぎる覇気は素晴らしいものがあります。若手中心のオケが発散する素晴らしいエネルギー。クイケンもそれを素直に活かそうということで、あえて抑えにいきませんので、最後は少々力任せな印象が残ります。手兵のラ・プティット・バンドとの演奏のようにクイケンの意図が隅々までいきわたった洗練の極みのような演奏とは少々差がつくところですね。

このあとに間をあまりおかずにベートーヴェンの1番が始まります。ハイドンの余韻を鎮める間をとった方がいいですね。ベートーヴェンの演奏は均整のとれた中にも弦の迫力を生かした、ハイドンと同じ路線のものですが、ハイドンがいい線いっているのに対し、ベートーヴェンでは、ベートーヴェンの音楽に込められたエネルギーや多彩な変化をより豊かに表現する演奏が多いなか、個性を発揮しきれていない感も残してしまいます。

ハイドン自体はなかなかいい演奏ですが、クイケンのこれまでリリースした演奏とは少々路線が異なり、あのクイケンのハイドンの素晴らしさとは少々レベル差があるのが正直なところ。学生中心の若手オケの演奏としてみればテクニックも精度も確かであり、それなりに評価できますが、プロダクションとしての完成度など若干難があるところです。これはプロデューサー、プロダクションの差なのかもしれませんね。ハイドンの評価は[++++]としておきます。

クイケンはベルギーのACCENTからいまも少しずつハイドンのアルバムをリリースしています。直近では朝、昼、晩がありますが、これらの続きのアルバムのリリースを期待しましょう。

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tag : 交響曲39番 SACD

ヤナーチェク四重奏団の「冗談」「五度」「セレナード」(ハイドン)

今週末はちょっと体調がすぐれず、金曜日に家に帰ると38度くらいの熱。葛根湯やらを飲んでちょっと落ち着き、土曜日には元気に歌舞伎に出かけて楽しみました。特に具合は悪くありませんでしたが今日、日曜の朝起きてみると体の節々が痛い。熱も一時39度台まで上がり、心配して休日診療に出かけ、インフルエンザの検査をしてもらったところ、陰性。なんだかよくわかりませんが、とりあえず1日静かにしておりました。今月は記事数も伸びていないため、熱っぽい中記事を書きます(気合!)

今日はオークションで手にいれた LP。

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ヤナーチェク四重奏団(Janáček Quartet)の演奏で、ハイドンの弦楽四重奏曲Op.33のNo.2「冗談」、伝ハイドン作の弦楽四重奏曲Op.3のNo.5「セレナード」、ハイドンの弦楽四重奏曲Op.76のNo.2「五度」の3曲を収めたLP。1963年5月、ウィーンのソフィエンザールでのセッション録音。レーベルはLONDON。

このLP、ただのLPではなくアナログ全盛期にキングレコードがリリースしていた"THE SUPER ANALOGUE DISC"というシリーズの1枚。同じシリーズのLPでメータとロスフィルによる「シエェラザード」が手元にありますが、当時のシステムで聴いてもスピーカーのウーファーを吹き飛ばさんばかりの重低音が刻まれており、愛聴したものです。若い頃は迫力に弱かったわけですね(笑)。今回手に入れたLPはほぼ新品というか完璧なコンディション。盤面も綺麗でジャケットにも微塵も古びたところがありません。中には「スーパーアナログディスクについて」というちらしが入っており、マスターテープから調整卓をスルーして真空管カッティングアンプにダイレクトにつなぎカットされたとの説明があります。プレスは米国。もちろんずしりと重い180gの重量盤。

あまりの見事なコンディションにためいきをつきつつ、一応VPIのクリーナーで洗浄の上針を落とすと、見事な響きが部屋に満ちます。スクラッチノイズゼロ。CDでは絶対に聴くことのできない実体感あるキレ味。そして音量を上げると録音会場の周りを車が走っているのでしょうか、低い暗騒音も加わり、迫力十分。このLPがリリースされたのが1996年ということでちょうど20年前になりますが、デジタルでもハイレゾでもこの痛快なキレ味を再現することは難しいのではないかと思います。あまりの迫力に熱も吹き飛びそうですが、そうはうまくいきません(笑)

ヤナーチェク四重奏団のハイドンは以前にも一度CDを取り上げています。

2012/07/28 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : ヤナーチェク弦楽四重奏団の「冗談」

こちらは録音も新しく2000年のもの。よく見てみると、メンバーは一人も共通しておらず、世代が変わっているのですね。今日取り上げる演奏の奏者は下記の通り。

第1ヴァイオリン:イルジー・トラヴニチェク(Jiri Traviniček)
第2ヴァイオリン:アドルフ・シーコラ(Adolf Sykora)
ヴィオラ:イルジー・クラトホヴィル(Jiri Karatachvil)
チェロ:カレル・クラフカ(Karel Krafka)

ヤナーチェク四重奏団の創立は1947年とのことですが、このLPの録音時のメンバーのうち第2ヴァイオリンのアドルフ・シーコラ以外は創立時からのメンバーということで、今回のアルバムは創立時に近い響きが聴かれるわけですね。

録音のことばかり書きましたが、このアルバム、演奏も超一級品です。

Hob.III:38 String Quartet Op.33 No.2 "The Joke" 「冗談」 [E flat] (1781)
冒頭から素晴らしい覇気。切れ込み鋭いタイトな響きに惚れ惚れ。落ち着いたテンポで入りますが、実体感あふれる4人のアンサンブルの緊密さに圧倒されます。4人ともに音色が揃い、じっくりと進みます。つづくスケルツォでもじっくりと畳み掛けるような充実した響きに聴き入るのみ。中間部の軽やかなメロディーも実に味わい深い音色なので高貴に聴こえます。絶品なのが3楽章のラルゴ。チェロの胴鳴りの美しい響きに乗ってゆったりとヴァイオリンがメロディーを乗せていきます。4人が織り上げる響きの美しさがLP独特のダイレクトな響きによって際立ちます。そしてコミカルな終楽章も4本の弦楽器の絶妙な響きの美しさに彩られ、一気に聴かせきってしまいます。演奏もさることながら、この素晴らしいLPの響きの魅力は圧倒的。

String Quartet Op.3 No.5 [F] (Doubtful 疑作 Composed by Roman Hoffstetter)
ホフシュテッターの作曲によるセレナード。1楽章は前曲同様落ち着いたテンポで弦楽器のダイレクトな響きで聴かせます。肝心の2楽章のセレナードもピチカートの音色が冴えまくって絶品。ヴァイオリンがこれほど豊かに響くことに驚かされるような鮮明な録音。弱音器付きのヴァイオリンのメロディーがピチカートに乗ってアーティスティックに響きわたります。続くメヌエットは音楽が優美に弾み、明るいメロディーが次々に登場します。ハイドンのメヌエットの緊密さとはやはり異なりますね。そしてコミカルなフィナーレ。ヤナーチェク四重奏団のタイトな演奏によって、このセレナードもフォーマルに響きます。聴き応え十分。

Hob.III:76 String Quartet Op.76 No.2 "Quintenquartetett" 「五度」 [d] (1797)
一転して重厚な入り。あいかわらず録音の良さは惚れ惚れするほど。主旋律ではないパートの音色の多彩さまでしっかりと伝わるので響きが実に豊かに聴こえます。曲の構成はより緊密となり、骨格ががっしりとした演奏により迫力も素晴らしいものがあります。畳み掛けるように進む1楽章では、優秀な録音もあって、見事な構成感。
この曲のアンダンテでもピチカートの音色の美しさが冴え渡ります。曲が進むにつれて様々な表情を見せますが、フレーズごとに各パートの豊かな響きが微妙に表情に影響を与え、たった4本の弦楽器なのに実に多彩な表情をつくります。演奏はどちらかといえばオーソドックスなんですが、音楽は豊か。
メヌエットは実にユニークなメロディー。チェロパートに耳を傾けて聴くとユニークさが際立ちます。そしてフィナーレは軽やかに入りますが、すぐに構成の緊密さに引き込まれます。最後は力強いフィニッシュ。

このヤナーチェク四重奏団によるスーパーアナログディスク、実に考えさせられるLPでした。演奏は一級品ですが、なによりその響きが素晴らしいんですね。CDでは絶対に味わえないタイトでダイレクトな響き。ビニールの円盤に溝を刻んだだけのLPから、このように迫力あふれる響きが聴かれるのに対し、技術の粋を尽くしたデジタル録音からはこのような心に刺さる響きは聴こえません。おそらく物理特性などではハイレゾなどまで含めればLP時代とは段違いのものが実現されているのでしょうが、音楽の完成度はLP時代の方が高かったのではないかと思わざるを得ません。このLPは家宝にします。評価はもちろん全曲[+++++]とします。

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tag : 冗談 五度 ハイドンのセレナード LP

エリザベス・スペイサー/ジョン・バトリックの歌曲集(ハイドン)

今月は週末しか記事が書けてなくてスミマセン。今日は久々の歌曲のアルバム。

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エリザベス・スペイサー(Elizabeth Speiser)のソプラノ、ジョン・バトリック(John Buttrick)のピアノによるハイドンの英語によるカンツォネッタ4曲、ピアノソナタ(Hob.XVI:50) 、ナクソスのアリアンナ、アンダンテと変奏曲(Hob.XVII:6)を収めたアルバム。収録は1987年とだけ記載されています。レーベルはスイスのJecklin disco。

このアルバム、少し前にディスクユニオンで仕入れたのですが、歌曲の未入手盤を売り場で見かけるのは珍しいこと。いつものように所有盤リストを見ててダブり買いではないことのみ確認して、にんまりするのを抑え気味でレジに向かいゲット。未入手盤を手にいれるのは心躍ることなんですね。

歌手のエリザベス・スペイサーは1940年スイスのチューリッヒ生まれのソプラノ。スイスのウィンタートゥル、チューリッヒ、ウィーンなどで学び、当初はコンサートや歌曲のソロ歌手として国際的に活躍しはじめました。レパートリーは現代音楽にも広がりましたがオペラはごく一部をのぞき出演していないとのことですが、記録に残っているのは魔笛のパミーナなどわずか。他にはヘルムート・リリングとバッハの録音が何枚かあるようです。ハイドンについてはテレジアミサのソプラノを歌ったアルバムが1枚あるのみ。要はあまり知られていない人と言う感じです。

ピアノの伴奏を務めるジョン・バトリックもあまり知られていない人ですね。アメリカ生まれのようですが、腕から肩にかけての病気で一度は演奏者の道を諦めたものの、ピラティス、漢方などにより復帰し、今日取り上げるアルバムのリリース元であるJecklinより12枚のアルバムをリリースするに至っているとのこと。

ということで、このアルバム、知る人ぞ知るというか、知らない人はまったく知らない奏者による歌曲集ということになります。もちろんレビューに取り上げたのは演奏が素晴らしいからに他なりません。

Hob.XXVIa:32 6 Original Canzonettas 2 No.2 "The Wanderer" 「さすらい人」 [g] (1795)
しっとりとしたピアノの伴奏。伴奏者になりきった自己主張を抑えた穏やかなピアノの佇まい。録音のバランスはもう少し歌手に焦点をあててもよさそうですが、ピアノがぐっと前に来て、歌手はピアノの横というより後ろにいるようなバランス。ピアノから香り立つ穏やかな詩情がなんとも言えず素晴らしいです。ソプラノのエリザベス・スペイサーはよく通る声で、派手さはありませんが歌い回しは自然で、伸びやかな中音の響きが特徴。声量はピアノに負けていますが、声の余韻のデリケートなコントロールが秀逸で、聴き応え十分。この陰りのある曲の陰影を実に深々と感じさせます。アルバムの冒頭に置かれたのがわかります。

Hob.XXVIa:34 6 Original Canzonettas 2 No.4 "She never told her love" 「彼女は決して愛を語らなかった」 [A sharp] (1795)
この曲でもピアノが実に詩情豊かに伴奏を奏で、歌が入る前に雰囲気を整えます。ジョン・バトリック、素晴らしい腕前です。豊かなピアノの表情だからこそ、繊細なスペイサーの声の表情が引き立つというもの。全般に静寂のなかでの歌唱を意識させる透明感があります。

Hob.XXVIa:41 "The Spirit's Song" 「精霊の歌」 [f] (c.1795)
カンツォネッタ集の中では情感の濃い曲ばかりを集めているのがわかります。穏やかな表情ながら、集中力あふれる展開。前半の暗いメロディーからすっと明るさが射すところでの変化。暖かい光が射したときのじわりとくる深い感動。この曲の勘所を知っての選曲でしょうが、実に見事な歌にしびれます。

Hob.XXVIa:42 "O tuneful Voice" 「おお美しい声よ」 [E flat] (c.1795)
なんという澄んだ響き。序奏でのハイドンのひらめきだけでノックアウト。カンツォネッタ集から最後の曲にこの曲を選んでくるとは。伴奏の劇的な展開と、それに乗ってしっとりと響きを重ねるスペイサーのソプラノ。歌曲の素晴しさに満ち溢れた演奏。最後にゆったりと終わるあたりのセンスも見事。

Hob.XVI:50 Piano Sonata No.60 [C] (probably 1794)
ジョン・バトリックによるソナタの演奏が挟まります。これも見事。腕の病気で演奏を断念していたことが信じられません。ハイドンのソナタのツボであるリズムをしっかり刻みますが、珍しく高音のアクセントで印象づけてきます。歌曲の伴奏同様、力むようなところはなく、力の抜けた演奏。適度なしなやかさを保ちながら初見で楽しんで弾いているような自在さを感じさせる不思議な演奏。ソナタに正対するのではなく、友人の書いた曲を楽しんで弾いているような印象。この晩年の見事なソナタから、実に楽しそうな雰囲気が伝わってきます。
続くアダージョでは、しなやかさはそのままに美しいメロディーを実に美しいピアノの響きで飾ります。これまで聴いた磨かれたタッチによる緩徐楽章の美しさとは少し異なり、透徹したというよりざっくりとしたタッチで一音一音が磨かれているという感じ。また、老成したという感じでもなく、適度に凸凹したところが持ち味。それでいてこの楽章の美しさを表現しきっている感もある実に不思議な演奏。
フィナーレの入りのリズミカルな表現の素晴らしいこと。間の取り方ひとつで、ハイドンの書いたメロディーがまるで生き物のように弾みます。余裕綽々の演奏からハイドンのソナタの真髄がじわりと伝わります。これは見事な演奏。

Hob.XXVIb:2 Cantata "Arianna a Naxos" 「ナクソスのアリアンナ」 [E flat] (c.1789)
名曲「ナクソスのアリアンナ」。ジョン・バトリックはことさら劇的になるのを避け、さらりと流すような入り。スペイサーの入るところでさっと間を取り、最初の一声が入るところは鳥肌が立つような絶妙さ。これほど見事な歌の入りかたは聴いたことがありません。歌が入るとピアノは実に巧みにフレーズを組み立て、オケには真似のできないような変化に富んだサポート。スペイサーの透明感溢れる真剣な歌唱を十分に活かすようよく考えられた伴奏。スペイサーはカンツォネッタ同様、響きの余韻のコントロールが素晴らしく、この劇的な曲の美しさを緻密に表現しています。三部構成で19分と長い曲がバトリックの見事な伴奏で緊張感が緩むことなく劇的に展開します。各部の描き分けも見事。コレペティートル的なざっくりとした良さを持ったピアノですね。

Hob.XVII:6 Andante con Variazioni op.83 [f] (1793)
ナクソスのアリアンナの最後の響きの余韻が残っているところでさっと始まりますが、この入りがまた絶妙。最初から完全にバトリックのピアノに引き込まれます。前曲のざっくりとした印象は影を潜め、今度は透徹した響きの美しさが印象的。特に高音のアクセントが冴えて、曲をきりりと引き締めています。変奏が進むたびに、ハイドンのアイデアに呼応してバトリックのピアノも敏感に反応します。ハイドンのアイデアを次々にバトリックの表現でこなしていく見事な展開。変奏曲とはかく弾くべしとでもいいたそうですね。聴く方は耳と脳が冴えわたってピキピキ。高音の速いパッセージの滑らかなタッチは快感すら感じさせます。曲が進むにつれてバトリックの孤高の表現の冴えはとどまるところを知らず、どんどん高みに昇っていきます。一度ピアノが弾けなくなった経験があるからこそ、一音一音の意味をかみしめながら弾いているのでしょうか。これほどまでに透明な情感の高まるピアノは聴いたことがありません。奏者の魂が音になっているような珠玉の演奏。これほどの演奏をする人がマイナーな存在であること自体が驚きです。この曲には名演が数多くありますが、最近聴いた中ではベストの演奏と言っていいでしょう。見事。

このアルバム、エリザベス・スペイサーの歌も素晴らしかったですが、それよりさらに素晴らしいのが伴奏のジョン・バトリック。音符を音にするというのではなく、音符に潜む魂を音にしていくような素晴らしい演奏。歌手と伴奏の息もピタリとあって歌曲は絶品。そして2曲収められたピアノ独奏の曲も歌曲以上の素晴らしさ。これほど見事な演奏が埋もれているとは人類の損失に他なりません。もちろん全曲[+++++]とします。歌曲が好きな方はもちろん、ピアノソナタの好きな方、このアルバムを見逃してはなりません。いつもながらですが手にはいるうちにどうぞ。

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井上道義/オーケストラ・アンサンブル金沢の「アレルヤ」(ハイドン)

4月に入って相変わらずドタバタと仕事が忙しくなかなかレビューが進みません。ようやく3本目の記事。

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井上道義(Michiyoshi Inoue)指揮のオーケストラ・アンサンブル金沢(Orchestra Ensemble Kanazawa)の演奏で、ハイドンの交響曲30番「アレルヤ」他を収めたアルバム。ハイドンの収録は2007年9月21日、金沢駅前にある石川県立音楽堂コンサートホールでのライヴ。レーベルはWarner Classics。

普段はあまり国内盤には手を出さない方ですが、売り場で見かけてハイドンの曲が入っているので入手した次第。ハイドンは交響曲30番という渋めの1曲ですが、その他にはニコライの「ウィンザーの陽気な女房たち」、オーケストラ・アンサンブル金沢の創設者でこのコンサートの前年に亡くなった岩城宏之の追悼のために書かれた一柳慧の交響曲7番「イシカワ・パラフレーズ」、武満徹の3つの映画音楽よりワルツ、チャイコフスキーの弦楽のためのセレナードからワルツ、ヨハン・シュトラウスII世の「芸術家カドリーユ」と多彩なプログラム。なんとなく統一感のない曲の並びだと思ったら、ハイドン以外の曲は2008年1月8日とまったく別の日のコンサートでの収録でした。ネットで調べてみると、ハイドンが演奏された2007年9月21日には、ハイドンに続きベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲に交響曲5番「運命」と古典派の曲を並べたコンサートということで、この配曲はアルバムの都合ということでした。

井上道義さんはおなじみでしょうが、1946年生まれで桐朋学園で斎藤秀雄に師事。1971年にミラノ・スカラ座でのグィド・カンテルリ指揮者コンクールで優勝し、活躍するようになります。これまでニュージーランド国立管弦楽団首席客演指揮者や新日本フィルの音楽監督などを歴任しています。2007年からオーケストラ・アンサンブル金沢の音楽監督に就任して、この9月21日のコンサートが就任後初の指揮だったとのこと。

このアルバムを取り上げたのは、もちろんハイドンの演奏が良かったからに他なりません。

Hob.I:30 Symphony No.30 "Alleluja" 「アレルヤ」 [C] (1765)
冒頭からキビキビとした進行で入ります。石川県立音楽堂コンサートホールは響きがいいのでしょう。小編成のオケが程よい残響につつまれながらスピーカーの少し奥に定位して、オケの響きは厚みもあって実に理想的。1楽章はコミカルなメロディが次々と顔を出すのですが、驚いたのがその表情付けの面白さ。ユーモラスな表情の演出が実に上手い。オケも見事に指揮に合わせて、この初期の曲の軽快な面白さにあわせて吹き上がります。アクセントも実に軽快。このメロディーラインをクッキリと浮かび上がらせて陽気で弾むような演出、井上道義さんの天性のものがあるのでしょう。オーケストラ・アンサンブル金沢の奏者の腕もなかなかです。録音が良いので生のオケをホールの最上の席で聴いているよう。
つづくアンダンテではリズミカルに刻む弦楽器に合わせて木管楽器が代わる代わるメロディーをつないでいきますが、とりわけフルートが絶妙な巧さ。ホールに響きわたるフルートの音が実に爽快。そして弦楽器もメリハリがきちんとついて表情豊かな演奏。
フィナーレも自然に弾む美しいメロディーの宝庫。アンサンブルの精度も高く、またフレーズごとの表情の変化も絶品。実に聴き応えがあります。

アルバムの最後に収められたハイドンの小交響曲ですが、この1曲のためにこのアルバムを買う価値があります。大変失礼なことにさして期待せず手にいれたアルバムですが、あまりのすばらしさに驚いた次第。先に書いたようにハイドンの収録日は井上道義さんがオーケストラ・アンサンブル金沢の音楽監督に就任してから最初のコンサートの1曲目ということで、もっとも集中して臨んだコンサートに違いありません。このハイドンの演奏、オーケストラ・アンサンブル金沢率いる井上道義さんの演奏の素晴らしさを伝えるばかりではなく、ハイドンの交響曲の真髄を突く見事な演奏といっていいでしょう。レビューのために何度か聴きましたが、聴けば聴くほどに味わいのある名演奏です。評価は[+++++]をつけます。なお、ハイドン以外の曲も井上道義さんの聴かせ上手な演奏が楽しめますので念のため。いつもながらですが、交響曲好きな方、手にはいるうちにどうぞ!

熊本では連夜の大地震。今も余震が絶え間なく不安な状況が続いています。音楽を聴く余裕などないかもしれませんね。謹んでお見舞い申し上げます。早く地震が収まりますように。

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オリヴィエ・ロベルティのピアノ協奏曲集(ハイドン)

少々間があいてしまいました。今日は知る人ぞ知るマイナー盤です(笑)

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オリヴィエ・ロベルティ(Olivier Roberti)のピアノ、クルト・レーデル(Kurt Redel)指揮のイギリス室内管弦楽団(English Chamber Orchestra)の演奏でハイドンのピアノ協奏曲(Hob.XVIII:9)、ピアノとヴァイオリンのための協奏曲(Hob.XVIII:6)、ディヴェルティメント(Hob.XIV:8)、ピアノ協奏曲(Hob.XVIII:5)の4曲を収めたアルバム。収録は1993年1月28日から30日にかけて。収録場所は記載されていません。レーベルは仏PIERRE VERANY。

このアルバム、最近ディスクユニオンで見かけて手に入れたもの。聴いてみてなかなか素晴らしい演奏ということで取りあげた次第です。同じ奏者による別のピアノ協奏曲集(Hob.XVIII:11、4、F2、XIV.4)が手元にあり、そちらは1991年の録音。今回聴き比べてみたところ、たった2年さかのぼった録音なだけですが、そちらはピアノもオケもキレがイマイチ。曲の仕上がりにかなりの差があります。前に出たアルバムを聴いてたいしたことないやと思って次にリリースされるアルバムに手を出さないというのはよくあることですが、今回のように、前のリリースよりもはるかにいい演奏という場合もあるので侮れません。

さて奏者の情報ですが、ピアノのオリヴィエ・ロベルティについてはライナーノーツにも情報の記載がなくネットにもあまり詳しい情報がありません。おそらくベルギー生まれのピアニストで、ブリュッセル王立音楽院、ジュネーブ音楽院などで学び、カルロ・ゼッキ、レオン・フライシャー、クラウディオ・アラウなどに師事しています。録音はこのハイドンの協奏曲2枚の他にはメンデルゾーンの協奏曲くらいしかない模様ですが、ヨーロッパでは広く演奏活動をしていたようで、2004年からは小澤征爾がスイスで設立した国際音楽アカデミーの音楽監督をしています。
指揮者のクルト・レーデルは1918年生まれのドイツの指揮者。終戦までドイツ領で現ポーランド領のブレスラウ(ウロツワフ)音楽院で指揮、フルートなどを学び、1938年、20歳の時にマイニンゲン州立オーケストラの首席フルート奏者になりました。1942年にはバイエルン国立オーケストラの首席奏者に就任、1952年にはミュンヘン・プロ・アルテ室内管弦楽団を創設し音楽監督となりエラートレーベルなどに多くの録音を残していますが、2013年に亡くなられています。日本では今ひとつ知られていない人ですね。

こういった未知の演奏者の素晴らしい演奏を聴くのは無上の喜びなんですね。

Hob.XVIII:9 Concerto per il clavicembalo(l'fortepiano) [G] (before 1767)
みずみずしく小気味好いオケの序奏。残響は適度で響きの良い会場での録音のよう。オリヴィエ・ロベルティのピアノはオケのキレ味の良さを受けて、絶妙のリズム感。シンプルな曲ほどタッチのキレの鮮やかさが活きてきます。ピアノが実に軽々とリズムを刻み、曲の華やかさが浮かびあがります。この曲自体はハイドンの真作ではない可能性が高い曲ですが、晴朗なメロディーの美しさはなかなかのもの。ハイドンらしい凝った構成感や展開の意外さは少々劣りますが、なかなかいい曲です。鮮度の高い演奏で曲の面白さが際立ちます。
アダージョはしなやかで叙情的な曲。まるでロマン派の曲を聴くよう、オケもピアノもすっと沈み、音色も柔らか。ところどころで明るい響きが射すような微妙な表情の変化が実に美しい。ピアノとオケは完全に一体化して見事に息が合っています。とろけるようなひと時。カデンツァは程よい陰りと美しいピアノの響きがバランスよく表現されています。
フィナーレも力が抜けて余裕たっぷりに流す感じがいいですね。ロベルティのピアノもタッチの軽さを保ったままさらりといきます。そしてクルト・レーデルの振るイギリス室内管もさらりと受け、演奏自体を純粋に楽しむようなおおらかさが滲みます。これだけリラックスしたフィナーレはなかなかありません。1曲目から極上のリラックスした演奏。

Hob.XVIII:6 Concerto per violino, cembalo e orchestra [F] (1766)
ヴァイオリン独奏は、マチェイ・ラコフスキ(Maciej Rakowski)。この曲でもみずみずしく小気味好いオケの序奏は変わらず。ソロもオケもうまく聴かせようというのではなく、やはり演奏を奏者自身で楽しむような愉悦感に溢れています。ロベルティのピアノは前曲同様。ラコフスキのヴァイオリンはことさら存在感を感じさせるのではなく、ヴァイオリンパートがソロになったような自然なもので、ピアノやオケのとの掛け合いも自然。かえってこの曲のこの演奏ではいい感じにまとまってます。作曲年代的にはシュトルム・ウント・ドラング期のもので、まるでエステルハーザの楽団でニコラウス侯に聴いてもらうための演奏のような素朴なまとまり。
演奏によっては透徹した美しさを引き出してくる2楽章のラルゴですが、ここでも等身大の演奏するための音楽といった風情は変わらず、むしろ素朴な美しさの方が浮かび上がってきます。これはこれで素晴らしい演奏です。
フィナーレでも流れの自然さと余裕は変わりません。協奏曲とはステージ上ではなく、練習場で弾いて楽しむものかもしれないと思ってしまいます。表現意欲にあふれた演奏という感じではありませんが、抗しがたい魅力を持っています。

Hob.XIV:8 Divertimento [C] (c.1768/72)
3楽章で10分弱の小曲。これまでの協奏曲同様の演奏ですが、小編成な分、より響きが純粋になり、虚心坦懐な演奏。ロベルティとレーデルの特質がより活きて、しなやかな演奏。これ以上のどのような演奏も必要ないような説得力に満ちた自然さ。純粋無垢な奏者の心を写したような演奏。絶品です。

Hob.XVIII:5 Concerto per il clavicembalo(l'fortepiano) [C] (before 1763)
このアルバム最後の曲。完全にロベルティとレーデルの術中にはまっています。冴え冴えとしたテクニックを聴かせるばかりが音楽ではないと言われているよう。演奏する喜びが満ち溢れ、手作りの音楽の素朴な美しさがハイドンの真髄なのでしょう。聴いているうちにメロディーの美しさ、ピアノの響きの美しさ、管弦楽のとろけあうハーモニーの美しさと、音楽のもっとも基本的な魅力の絶大な威力に圧倒されて、聴いているこちらがとろけてしまいそう。オケもピアノも演奏のイメージが完全に重なってソロとオケの対決姿勢など微塵もなく、平和そのもの協奏曲。
つづく2楽章のアンダンテはオケの温かい響きとピアノの響きが溶け合いながら癒しに満ちたメロディーを紡いでいき、そしてフィナーレでは、ピアノが晴れ晴れとしたクリアな響きでオケをリードしながら美しい響きの響かせ合いのごとき風情。さらりと終えるところもなかなかのセンスです。

聴き終えると音楽の喜びに満たされたような幸せな気持ちになる素晴らしいアルバム。もちろん、これだけの演奏をするにはかなりのテクニックが必要だとは思いますが、そういったことをまったく感じさせない自然な音楽が満ち溢れ、純粋にハイドンの書いた音楽の素晴らしさに触れられるような演奏です。これはピアノのオリヴィエ・ロベルティと指揮のクルト・レーデルの目指す音楽が完全に一致しているからこそのものと思います。私は激気に入りました。もちろん全曲[+++++]をつけさせてもらいます。

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tag : ピアノ協奏曲XVIII:9 ピアノ協奏曲XVIII:5 ピアノとヴァイオリンのための協奏曲XVIII:6

コリン・デイヴィス/BBC響の「四季」旧録音(ハイドン)

4月最初のレビューは最近手にいれたアルバム。

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サー・コリン・デイヴィス(Sir Colin Davis)指揮のBBC交響楽団(BBC Symphony Orchestra)の演奏でハイドンのオラトリオ「四季」。収録は1968年7月、ロンドン北西にあるワトフォードのワトフォード・タウン・ホール(Watford Town Hall)でのセッション録音。レーベルは今は亡きPHILIPS。

コリン・デイヴィスはハイドンの交響曲のPHILIPSへのアムステルダム・コンセルトヘボウ管との交響曲の録音で知られていますが、その録音は1970年代から80年代にかけてのもの。今日取り上げるアルバムはそれらの録音よりかなり前の1968年に収録されたもの。また、オケがアムステルダム・コンセルトヘボウではなくBBC響というのが珍しいところ。調べたところコリン。デイヴィスはアンタル・ドラティの後を受けて1967年から71年までBBC響の首席指揮者の地位にあったとのこと。

このアルバムを見かけるまでその存在に気づいていませんでしたが、CDプレイヤーにかけてみると、引き締まりまくった素晴らしい響きにすぐに耳を奪われました。デイヴィスの四季には2010年のロンドン交響楽団とのライヴの録音もありますが、デイヴィス特有の引き締まった響きが聴かれず、今ひとつピンとこない演奏でした。また、このアルバムと同じ体裁であるPHILIPS DUOシリーズのザロモンセットがLPで聴かれた彫りの深い見事な響きをまったく感じさせない劣悪なデジタルリマスタリングだったのでちょっと危惧しましたが、こちらはリマスタリングに問題なく、録音も万全。おそらくこの四季の録音の見事な出来栄えが、のちにコンセルトヘボウとの交響曲集の録音へつながったのではないかと推測しています。

さて、デイヴィスのハイドンはこれまで結構な数を取り上げています。デイヴィスのハイドンはキリリと引き締まり筋骨隆々としたオーケストラの響きの魅力で聴かせるものゆえ録音も非常に重要。最近LPも随分集めて、CDで聴くのとはやはり印象が違うことに気づいた次第。ザロモンセットはPHILIPSのCDよりもタワレコの復刻盤の方がはるかにいい音がしますので、これから入手されるかたは気をつけてください。もちろん状態のいいPHILIPSのLPが最高だと思います。

2014/07/21 : ハイドン–交響曲 : 【新着】コリン・デイヴィス/LSOのライヴ交響曲集(ハイドン)
2013/04/21 : ハイドン以外のレビュー : 【番外】コリン・デイヴィス/アムステルダム・コンセルトヘボウの「春の祭典」
2013/04/19 : ハイドン–交響曲 : 【追悼】コリン・デイヴィスの88番、99番
2011/10/28 : ハイドン–交響曲 : コリン・デイヴィス/バイエルン放送響の「ロンドン」ライヴ
2011/08/19 : ハイドン–交響曲 : コリン・デイヴィス/アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団の熊、雌鶏
2011/08/13 : ハイドン–声楽曲 : 【お盆特番3】コリン・デイヴィス/バイエルン放送交響楽団のネルソンミサ
2011/06/16 : ハイドン–オラトリオ : コリン・デイヴィスの天地創造ライヴ-2
2011/06/14 : ハイドン–オラトリオ : コリン・デイヴィスの天地創造ライヴ-1
2010/07/17 : ハイドン–交響曲 : コリン・デイヴィスの時計ライブ

なおこのアルバムは歌詞がドイツ語ではなく、英語版です。このアルバムの奏者は下記のとおり。

ハンネ:ヘザー・ハーパー(Heather Harper)
ルーカス:ライランド・デイヴィス(Ryland Davies)
シモン:ジョン・シャーリー=クァーク(John Shirley-Quirk)
合唱:BBC合唱団(BBC Chorus)

Hob.XXI:3 "Die Jahreszeiten" 「四季」 (1799-1801)
冒頭から隅々までコントロールが行き渡った引き締まった響き。言われなければアムステルダム・コンセルトヘボウ管だと思ってしまいます。テンポは遅めでフレーズをくっきり丁寧に描いていきます。流れよりもリズムを強調したいのか、一拍一拍にキリッとアクセントがつけられ、まさにボディービルダーのごとき筋骨隆々とした力強い響きに圧倒されます。オケは分厚い弦楽セクションが迫力十分。シモンのジョン・シャーリー=クァークは、くっきりとしながらもちょっと響きが個性的なバリトン、サイモンのライランド・デイヴィスはよく通る抜けの良いテノール、そして目玉のハンネのヘザー・ハーパーは悪くありません。しなやかで可憐な表情をもつソプラノ。そしてコーラスはオケの後ろに大海原のように広がる量感豊かな響き。オケの引き締まった響きと調和がとれていい感じです。コリン・デイヴィスのコントロールは、フレーズごとにテンポを大きく変えながら実に丁寧に描いていきます。音楽がイキイキと踊りますが、一貫して彫りが深く、音楽の表情も引き締まって聴こえます。第6曲の「慈悲深い天よ、恵みを与えてください」では、ハイドンらしい晴朗さに満ちあふれたメロディーを三重唱とコーラスで描きますが、劇的というより理性的にコントロールされた晴朗さを保ち、曲の面白さ自体に語らせるデイヴィスらしいアプローチ。そして春の終曲である第8曲の「おお、今や何と素晴らしい」のクライマックスでは陽光に輝く白亜の神殿のような構築感に圧倒されます。このあたりの演出の巧みさは流石デイヴィスといったところ。

夏では、春で聴かせた迫力だけでなく、冒頭の憂鬱な音楽に代表されるしっとりとした部分で情感溢れる表情をつくり、オケが爆発する部分との見事な対比で聴かせます。後年のデイヴィスよりも表情の描きかたが丁寧で、長大な四季であっても集中力が途切れることがありません。特になにげないフレーズの表情をイキイキと聴かせるところはこれまで聴いた現代楽器の四季の中でも出色。ハイドンが最晩年にたどり着いた音楽的成熟の極みであるこの曲を実に楽しげに奏でます。夏の音楽がこれほどまでに美しく響くことに改めて驚きます。第15曲のハンネのアリア「何という爽やかな感じでしょう」はヘザー・ハーパーのソプラノも素晴らしいのですが、デイヴィスの伴奏も絶品。終盤の「ああ、嵐が近づいた」での荒れ狂うオケから、終曲の三重唱と合唱「黒い雲は切れ」に入って幸福感に満ちた三重奏とコーラスによる大きなうねりへの変化も見事。

CDを変えて秋から冬へ。オケもソロも集中力は変わらず、秋の聴かせどころ第26曲の「聞け、この大きなざわめき」でのホルンのファンファーレもホルンが超絶的な巧さ。これほどキレの良いホルンは久しぶり。BBC響、見事です。収穫の秋の喜びの音楽が天真爛漫に響きわたり、秋を終えます。そして暗い冬の景色の描きかたも見事。凍てつく雪原を想起させる情景描写。第34曲の「くるくる回れ」(糸車の歌)の軽いコミカルな伴奏に乗ったヘザー・ハーパーのしっとりとしたソプラノ、第38曲のシモンのアリア「これを見るが良い、惑わされた人間よ」のゆったりとした伴奏に乗ったシャーリー=クァークの朗々としたアリアとぐっと引き込まれるような聴きどころがあります。そして終曲の三重唱と合唱「それから、大いなる朝が」でクライマックスを迎えますが、最後までオケの引き締まった響きの魅力を保ち、情に流されないシンフォニックな響きで聴かせます。

コリン・デイヴィスとBBC響による1968年、デイヴィス41歳の時に録音されたハイドンの「四季」。この演奏、これまで聴いたデイヴィスのハイドンではベストといえる出来です。晩年のすこしゆとりをもった演奏とは異なり、キリリと引き締まった響きをオーケストラから引き出していますが、それに加えてさりげないフレーズにも実に豊かな音楽が流れ、まさに緩急自在。ハイドンの音楽に内在する理性的な面、ユーモラスなところ、機知に富んだところをバランスよく踏まえて、タイトなばかりではない素晴らしい表情を引き出しています。録音もPHILIPSの黄金期の空気感を感じさせる素晴らしいもの。現代楽器の四季のなかでもオススメ盤の一つと言っていいでしょう。評価は[+++++]とします。手に入るうちにどうぞ。

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なぜかハイドン(Franz Joseph Haydn)が特に気に入り膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。東京在住のごく普通のサラリーマンです。

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