Haydn Disk of the Month - March 2017

我が家では庭にある梅の木の開花が春の知らせ。2月から早咲きの梅が何種か咲き始め、3月に入ると遅咲きの豊後や楊貴妃が満開になります。そして木瓜の花が開くと桜のシーズンになるという具合。木瓜の蕾が開く3月末頃には足元にひっそりとハナニラが白い花をつけます。梅や桜もいいものですが、このハナニラの花がなんとも可憐で美しい。iPhoneのカメラで写真を撮ろうとすると、わずかな風に花がゆられてなかなかピタッととまらないのですが、しばらく頃合いを見計らって息を止めてパチリ。この花を楽しむのが毎年の小さな喜びです。年を追うごとに趣味が老けてきております(笑)

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さて、3月にレビューしたアルバムからその月のベスト盤を選ぶ月末恒例の企画。今月は2組選定しました。まずはこちら。

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2017/03/03 : ハイドン–協奏曲 : ファイ/シュリアバッハ室内管のピアノ協奏曲集(ハイドン)

今月は、待ちに待ったトーマス・ファイのハイドンの交響曲全集の第23巻がリリースされました。ファイが倒れる直前の録音と、ファイなきハイデルベルク響が全集の継続のために収録した新たな録音を合わせた2枚組のアルバム。もちろんこのアルバムもレビューした通り、新たな録音が期待以上に素晴らしかったんですが、選んだのはそのアルバムではありません。おそらくファイがhänssler CLASSICSに録音したハイドンのアルバムでは最も古い録音である、ゲリット・ツィッターバルトのピアノによるピアノ協奏曲のアルバム。ファイのハイドンは交響曲のイメージが強いんですが、このピアノ協奏曲集が原点といってもいいでしょう。私もこのアルバムの存在に気づいたのはつい最近。聴いてみるとツィッターバルトのピアノもキレキレ、ファイのコントロールもキレキレで、あまりの切れ味にビックリ。ファイの才能がアルバムから噴き出してくるような快演でした。このキレ味がもう録音でしか聴くことができないと思うと、残念でなりませんね。この素晴らしい録音を当ブログが世に問うべきであるとの判断での選定です。皆さんもファイとツィッターバルトの火花散る演奏をぜひ体験していただきたいですね。

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2017/03/30 : ハイドン–声楽曲 : 【新着】スーザン・ハミルトンのスコットランド歌曲集(ハイドン)

そしてもう一組は、前記事で取り上げたスーザン・ハミルトンのスコットランド歌曲集。ハイドンとフランチェスコ・ジェミニアーニの曲を組み合わせた見事な企画と、以前のANDaNTEを彷彿とさせる豪華な装丁によるブックレットが魅力的なプロダクション。もちろん聴きどころは、スコットランド出身のスーザン・ハミルトンの天使の歌声のような透き通るソプラノ。伴奏を担当するレア・フルーツ・カウンシルも古楽器による深い陰影を加えてハミルトンのソプラノが引き立ちまくり。これほど癒しに満ちた歌唱が聴けるアルバムはなかなかありません。こちらも歌曲のアルバムとしては絶対のオススメ盤。聴いているとスコットランドの風の音が聞こえてきそうになります。どうしてもシングルモルトに手が伸びてしまいますね。



この他、今月の高評価盤はこちら。

2017/03/28 : ハイドン–室内楽曲 : ドイツ・バロックゾリステンによるディヴェルティメント「誕生日」(ハイドン)
2017/03/20 : ハイドン–ピアノソナタ : カール・ゼーマンのピアノソナタ(ハイドン)
2017/03/12 : ハイドン–交響曲 : ニコラス・クレーマー/BBCフィルの哲学者、ラメンタチオーネなど(ハイドン)
2017/03/10 : ハイドン–ピアノソナタ : ベリーナ・コスタディノヴァによるピアノソナタXVI:24(ハイドン)
2017/03/06 : ハイドン–交響曲 : 【新着】ハイデルベルク交響楽団の35番、46番、51番(ハイドン)
2017/03/05 : ハイドン–交響曲 : 【新着】トーマス・ファイの交響曲全集第23巻(ハイドン)

どのアルバムも素晴らしいんですが、なかでもニコラス・クレーマーの哲学者は雑誌の付録としておくのはもったいない名演奏。日本ではあまり知られていない人ですが、この演奏を聴く限り、かなりのコントロール力のある人です。ぜひハイドンの録音を残してほしいですね。

東京はここ数日肌寒い日が続き、開きかけた桜の花も足止めをくらっている状況です。年度末のドタバタも少しおちつきましたので、4月もいいアルバムを聴いて、いいレビューができるよう精進いたします。



2017年3月のデータ(2017年3月31日)
登録曲数:1,361曲(前月比±0曲) 登録演奏数:10,047(前月比+59演奏)

(追伸)ついに登録演奏数が10,000を超えました。ハイドンのコレクションが全体の過半を超え、収納場所問題が深刻化しつつあります

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【新着】スーザン・ハミルトンのスコットランド歌曲集(ハイドン)

今日は久々の歌曲の新着アルバム。着いてビックリ、素晴らしいアルバムでした。

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TOWER RECORDS / amazon / ローチケHMVicon

スーザン・ハミルトン(Susan Hamilton)のソプラノ、マンフレート・クレーマ(Manfredo Kreamer)率いるレア・フルーツ・カウンシル(The Rare Fruits Council)の演奏で、ハイドンの編曲したスコットランド歌曲集から11曲、フランチェスコ・ジェミニアーニのスコットランド民謡を元にした曲11曲のあわせて22曲を収めたアルバム。収録はハイドンの没後200年である2009年の2月19日から23日にかけて、ベルギーのナミュール近郊のフラン=ワレ城近くのサン・レミ教会でのセッション録音。レーベルはludi musici。

もともとハイドンの歌曲は好きな方なので、未入手のアルバムを見かけると手に入れるようにはしてるんですが、歌手がスーザン・ハミルトンと知りすぐにamazonに注文。到着してビックリ。たしか1枚組のCDなのにずしりと重いではありませんか。開梱してまたビックリ。150ページ近くある4カ国語で書かれた非常に美しい印刷のブックレットにCDがさらりと挟んである体裁。このアルバムのコンセプトに、曲の解説、歌詞、そして間にはスコットランドを想起させる美しい絵画がふんだんに差し込まれており、体裁上は書籍がメインでCDがオマケといってもいいくらいの力の入りようです。ハイレゾにネット配信全盛の中、このプロダクションは見事。プロダクションとしての完成度は素晴らしいものがあります。

スーザン・ハミルトンがスコットランド歌曲集を歌うアルバムは以前に別のアルバムを取り上げていますが、このアルバムでノックアウトされた口です。

2010/07/23 : ハイドン–声楽曲 : スコットランド歌曲集、マリーの夢

スーザン・ハミルトンはスコットランド出身の歌手で、バロックから現代音楽までをこなす歌手とのこと。以前のアルバムでもネイティヴなスコットランド人らしい発音と透き通るような声がまさにスコットランド民謡のメロディーと溶け合ってえも言われぬ雰囲気を醸し出していました。

そして、このアルバムでは、前アルバムと重なる曲もあるにもかかわらず、そして前アルバムの2002年の録音から7年しか経過していないにもかかわらずリリースされたということで、その存在価値があるからこそのリリースだと思われます。
そもそもハイドンのスコットランド歌曲集はこれまでにも多くのアルバムがリリースされているのはご存知の通りですが、組み合わされたジェミニアーニはハイドンより半世紀近く前に生まれたイタリアの作曲家で、最後はイギリスやアイルランドで活動していたようですが、そのスコットランド民謡を基にした曲はあまり知られていないものかもしれません。そのような2人の作曲家の曲を組み合わせてアルバムを企画したところにこのアルバムの面白さがあるわけです。これがまた絶妙に合う。性格の異なるモルトのブレンドで香り高いウイスキーができるようなイメージでしょう。

伴奏を担当するのはレア・フルーツ・カウンシル。訳すと「珍果実評議会」あるいは「早熟果実評議会」となりますが、なんだかふざけた名前の団体。リーダーのマンフレート・クレーマーはアルゼンチン生まれのヴァイオリン奏者、指揮者。1986年から91年までムジカ・アンティクァ・ケルンのリーダーを務め、その後名だたる古楽器オケ、指揮者と共演を重ね、1996年に古楽器アンサンブルのレア・フルーツ・カウンシルを設立したとのこと。

ジェミニアーニの曲もなかなか面白いのですが、今日はハイドンの曲をピックアップしてコメントしておきましょう。メンバーや編成は曲名のリンク先の所有盤リストの情報をご覧ください。

ジェミニアーニの曲もスコットランドの風景が浮かび上がるようないい曲ばかり。その中にハイドンの曲がランダムに散りばめられた構成です。

Hob.XXXIa:18 - JHW XXXII/1 No.18 "My boy Tammy" 「私の坊やタミー」 (Hector Macnaill)
ヴァイオリン、チェロ、ハープシコードの伴奏。冒頭からスーザン・ハミルトンの独特の声に癒されます。険しさが畳み掛けてくるような曲想の曲を切々と歌います。伴奏は古楽器のキレの良さがそのまま活きています。

Hob.XXXIa:10 - JHW XXXII/1 No.10 "The ploughman" 「農夫」 (Robert Burns)
軽快なテンポに乗って農夫の日常を描く曲。今度はチェロは抜きでハープシコードがフォルテピアノに変わりますが、それだけで響のニュアンスが大きく変わります。

Hob.XXXIa:45 - JHW XXXII/1 No.45 "The gard'ner wi' his paidle" 「鍬の手をもつあの農夫」(Robert Burns)
徐々に心に沁みるいい曲になってきました。スーザン・ハミルトンの抜けるような自然な高音の魅力がすばらしく、聴いていながらゆりかごで揺られているような夢見心地になってきます。

Hob.XXXIa:71 - JHW XXXII/1 No.71 "Young Damon" 「若きデイモン」 (Robert Fergusson)
まさにスコットランドの空気を吸いながら聴いているような気にさせられる名曲。朗々と歌う自然な低音から高音への発声が実に爽やか。ヴァイオリンが寄り添うように伴奏し、ハープシコードは音量を抑えて優しく包み込むよう。

Hob.XXXIa:219bis - JHW XXXII/3 No.186 "The night her silent sable wore" "She rose, and let me in" 「彼女は立ちあがり、招き入れてくれた」
Brilliantのスコットランド歌曲集の第1巻の2曲目に配された曲なので、それこそ擦り切れるほど聴きました。ハイドントリオ・アイゼンシュタットの演奏に比べて陰影が深く、スコットランドらしい雰囲気はこちらが上でしょう。録音も素晴らしくまさに絶品。

Hob.XXXIa:143bis - JHW XXXII/3 No.254 "Morag" 「モラグ」 (Robert Burns)
寂しげなフォルテピアノの伴奏に、突き抜けるような素晴らしい高音の歌声が印象的な曲。シンプルな曲から詩情が溢れ出してきます。

Hob.XXXIa:44 - JHW XXXII/1 No.44 "Sleepy bodie" 「眠れる人」
前曲と対比させるように明るい入りの曲。伴奏のヴァイオリンとフォルテピアノが躍動。そしてスーザン・ハミルトンも本来の弾むこ声を聴かせます。

Hob.XXXIa:1 - JHW XXXII/1 No.1 "Mary's dream" 「メリーの夢」 (Alexander Lowe)
名曲。ヴァイオリンの序奏から沁みます。スーザン・ハミルトンの以前の録音にも含まれていた曲。訥々とした語り口から積む気出される詩情、風景、風、そして波。5分弱の曲に込められたドラマ。あんまりいいのでモルトウィスキーをちびりながらスコットランドの風景を想いながら聴きます。

Hob.XXXIa:149 - JHW XXXII/2 No.149 "O'er the hills and far away" 「丘を越え彼方へ」
癒しから疾風のような曲に転じます。曲の配置もよく考えられていますね。見事に曲想の変化に合わせていくヴァイオリンのマンフレート・クレーマの器の大きさがわかります。

Hob.XXXIa:2 - JHW XXXII/1 No.2 "John Anderson" 「ジョン・アンダーソン」(Robert Burns)
入りの印象的なヴァイオリンソロが曲の深さを象徴するよう。そのあとつづくスーザン・ハミルトンの孤高の歌唱が引き立ちます。

Hob.XXXIa:1bis - JHW XXXII/3 No.201 "Mary's dream" 「メリーの夢」 (Alexander Lowe)
先ほどの同名曲の異なるヴァージョン。やはり沁みます。こういう曲はスーザン・ハミルトン以外では聴けない体になりつつあります。美しいメロディーにつけられたハイドンの伴奏が曲の美しさを引き立てます。

スーザン・ハミルトンの歌う、スコットランド民謡をハイドンが編曲した歌曲集。ハイドンが最晩年に人助けからはじめたスコットランド民謡の編曲の仕事ですが、ハイドンの晩年の楽しみの一つだったのでしょう。1曲1曲に素晴らしい伴奏がつけられ、メロディーだけでなく伴奏も相まってスコットランドの自然を想起させる素晴らしい曲に仕上がっています。そしてハミルトンの歌で聴くこれらの曲は、その最良の演奏でもあります。冒頭にふれたようにプロダクションとしても素晴らしいものに仕上がっていますので、歌曲が好きな方には絶対のオススメ盤です。評価は全曲[+++++]とします。

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tag : スコットランド歌曲 古楽器

ドイツ・バロックゾリステンによるディヴェルティメント「誕生日」(ハイドン)

今日は軽めのアルバム。先輩愛好家に教えていただいたアルバムが気になって、amazon.co.uk で注文したもの。

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ドイツ・バロックゾリステン(Die Deutschen Barocksolisten)の演奏で、ハイドンのディヴェルティメント「誕生日」(Hob.II:11)、フローリアン・レオポルド・ガスマンのオーボエ、ヴィオラ、チェロ、バッソのための四重奏曲、グレゴール・ヨゼフ・ヴェルナーのフルート、ヴァイオリン、通奏低音のための協奏曲の3曲を収めたアルバム。収録は1977年10月29日から30日、ドイツのケルンの西のブラウヴァイラー(Brauweiler)にあるブラウヴァイラー修道院(Abtei Brauweiler)でのセッション録音。レーベルは独FSM ADAGIO。

このアルバム、タイトルは”Galante Musik aus Wien”ということで、「ウィーンのギャラント様式音楽」とでも訳すのでしょうか。このアルバムは18世紀中盤、ハプスブルク家によって音楽の中心都市として栄えたウィーンにおけるバロックから古典期への移行期、装飾的な音楽から明晰な音楽への移行期の音楽を表すギャラント様式や多感様式の音楽音楽を集めたもの。このころウィーンの音楽は特に歌劇においてイタリアから大きな影響を受けつつありました。

ハイドンは18世紀中頃は、来たるシュトルム・ウント・ドラング期を前にして、1761年にエステルハージ家の副楽長に就任、その時の楽長がヴェルナーであったことは皆さまご存知のとおり。ヴェルナーは1693年生まれでハイドンが副楽長に就任した3年後の1766年に亡くなります。そしてこのアルバムに曲が収められたガスマンはウィーンで活躍したチェコの作曲家で、サリエリの師匠だったそう。1729年生まれとハイドンより3歳年長ですが、1774年と早くに亡くなっています。この18世紀中頃にウィーンの周りで活躍した3人の音楽家の作品を並べるという企画です。

ハイドンについては18世紀中盤、ハイドンの作品の中では初期の作品からギャラント様式を感じさせる曲を選んだということでしょう。もともとギャラントとは「軽快で優美な」との意ゆえ、ディヴェルティメントはそうした印象に最も近い曲と言っていいでしょう。だいぶ時を経た現代からみると、ハイドンだけが歴史の荒波を超えて聴き継がれてきたものであり、他の2曲とはやはり出来が違います。

ハイドンのこの曲は1763年ごろの作曲とされ4楽章構成で6声部のディヴェルティメント。既に1765年頃には多くの楽譜が出版され、広く知られた曲となっていたようです。このディヴェルティメントには「誕生日」というニックネームがついていますが、2楽章では2丁のヴァイオリンがオクターブはなれて、まるで夫婦のように寄り添って誕生日を祝うようすが描かれているとの事。この2楽章は「夫婦」とも呼ばれています。これはハイドン自身によって仕込まれたユーモアだと思われており、こうした特徴によって曲が有名になったものと思われています。

手元にはこのアルバムを含めて7組のアルバムがあり、そのうち4組はこれまでに記事にしています。

2014/08/11 : ハイドン–室内楽曲 : ディヴェルティメント・ザルツブルクのディヴェルティメント集(ハイドン)
2014/05/17 : ハイドン–室内楽曲 : シェーンブルン・アンサンブルのディヴェルティメント集(ハイドン)
2014/03/08 : ハイドン–管弦楽曲 : リンデ・コンソートのディヴェルティメント集(ハイドン)
2012/09/26 : ハイドン–室内楽曲 : ベルリン・フィルハーモニー・ソロイスツの「誕生日」

また、奏者のドイツ・バロックゾリステンはドイツ系の名手の集まりのようで、他のアルバムでもソロを担当する奏者が名を連ねます。

Hob.II:11 Divertimento "Der Geburtstag" 「誕生日」(6 Qurtette fur Flote, Violine, Viola und Violincello Op.5 Nr.6) [C] (c.1763)
入りから優雅の極み。まさに演奏を楽しむような愉悦感に富んだ演奏。ゆったりとしたテンポに合わせて、フラウトトラヴェルソにバロックオーボエが歌い、弦楽器陣が控えめながら楽しげにサポート。表現を追い込むなどという野暮なことはせず、ゆったりと演奏していきます。
2楽章のアンダンテは弱音器付きのオクターブはなれたヴァイオリンがさえずる鳥のように控えめな幸せを表現しているよう、メロディーもハーモニーもシンプルそのものですが、単調な印象はなく、実に奥行きのある音楽。これぞハイドンの真骨頂というところ。まさに夫婦が誕生日を祝いあうようなやりとりと聴こえます。
つづく3楽章のメヌエットもメロディーはシンプルそのものですが、丁寧な演奏から浮かび上がる音楽の楽しさ。中間部の変化もゆったりとした流れの中で聴かせる名人芸。この演奏、音楽の楽しさを表現することにかけてはこれ以上の演奏はありえないほど完成度が高く、実に微笑ましい。
そして終楽章は変奏曲。最初のテーマをもとに次々と変奏が進みます。まずはチェロがメロディーを繰り返し、そしてフラウトトラヴェルソが続き、装飾音を加えて華やかさを増します。そしてヴァイオリンソロ。バロックオーボエと続きますが、バロックオーボエの響きの艶やかさがひときわ鮮やか。再びヴァイオリンソロ、そしてこれまでの楽器が次々とメロディーを受け継いでアンサンブルの面白さが浮かび上がります。変奏のアイデアが次々と広がり、これほどシンプルな曲なのに音楽的な完成度は素晴らしいものがあります。最後は最初のテーマの提示部と同様の響きに戻って曲を閉じます。練習曲のように簡単な曲なのにハイドンの魔法がかかって素晴らしい音楽に仕上がります。

つづくガスマンの曲もシンプルながら華やかさとなかなか緻密な構成が魅力的な曲。ですが、ハイドンの曲のあまりの素晴らしさの前にはやはりレベルの差はついてしまうところ。そして、ハイドンの前任の楽長ヴェルナーの曲はかなり古風。時代もレベルもかなりの差があるのが正直なところ。

「ウィーンのギャラント様式音楽」と名付けられたアルバムですが、3人の作曲家の作品からこの時代の空気のようなものが浮かび上がってくる好企画と言っていいでしょう。そして結果的にはハイドンの先進性というか音楽性が際立つことになりました。ドイツ・バロックゾリステンの演奏は実に落ち着いたもので、この曲の魅力を完璧に表現する素晴らしい演奏。この演奏を聴くと、音楽とは技巧により成り立つものではないと改めて思い知らされます。技術的には難しいところは一つもなさそうな曲ですが、これほどに豊かな音楽を感じさせる演奏はそうできるものではありませんね。評価は[+++++]とします。

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tag : ディヴェルティメント ヴェルナー ガスマン

アンドラーシュ・シフ ピアノリサイタル(東京オペラシティ)

3月21日月曜は、コンサートに出かけてきました。

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ハイドンファンにはおなじみのアンドラーシュ・シフ(András Schiff)による「ザ・ラスト・ソナタ」と銘打たれた2017年のコンサート。このコンサートに注目したのは、もちろんハイドンのソナタが演奏されるからに他なりません。

当初は3月25日土曜の彩の国さいたま芸術劇場のチケットを取っていたんですが、なんとドンピシャの日に仕事が入ってしまい、やむなくそのチケットを友人に譲り、ネットを駆使して(笑)あらためて東京オペラシティのチケットを取った次第。普段だったら、譲ってあきらめるだけで終わるんですが、なんとなくこういうコンサートは機会を逃すと再びチャンスがこないような気がしたので、私にしては珍しく深追いしたもの。

そういえば、以前もスクロヴァチェフスキと読響のブルックナーの7番も仕事で聴き逃しましたが、あとから考えるとあれを聴いておきたかったという思うばかり。

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この日の公式のプログラムは下記のとおり。

モーツァルト:ピアノ・ソナタ第17番 変ロ長調 K.570
ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第31番 変イ長調 op.110
ハイドン:ピアノ・ソナタ ニ長調 Hob. XVI:51
シューベルト:ピアノ・ソナタ第20番 イ長調 D959

「ザ・ラスト・ソナタ」と名を冠するのにふさわしく、モーツァルトもベートーヴェンもシューベルトも最晩年のソナタを並べていますし、ハイドンもロンドンで作曲された最後の3つのソナタの一つであるXVI:51が選ばれるなど、コンサートの企画としては一本筋の通ったもの。円熟の境地にあるシフの演奏とあって期待が高まりますね。

シフのハイドンのソナタ自体はDENONから1枚、TELDECから2枚組がリリースされていますが、DENON盤が1978年、TELDEC盤が1997年の録音と結構古いもの。フレージングはシフ独特の個性的なもので、多彩なタッチの変化とダイナミクスを強調した演奏が印象に残っています。また奥さんの塩川悠子とボリス・ベルガメンシコフと組んだピアノトリオのアルバムは昨年レビューに取り上げました。

2016/03/15 : ハイドン–室内楽曲 : アンドラーシュ・シフ/塩川 悠子/ボリス・ベルガメンシコフのピアノ三重奏曲(ハイドン)

ピアノソナタ集の方は、ハイドンの曲の良さをもう少し素直に出してもいいのではないかとも思われるもので、今回の実演でそのあたりのシフの個性がどう響くのかを確かめたかった次第。



さて、この日は年度末でバタバタのなか、仕事をやっつけて会場の東京オペラシティには開演の15分前に駆け込み到着。外はあいにくの雨でしたが、ホワイエにはすでに多くの人が駆けつけ、かなりの熱気でした。

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昼飯も抜きで仕事を片付けてきたのでお腹エコペコ。いつものようにサンドウィッチと赤ワインを5分で平らげ、プログラムを買って3分前に着席。この日の席は1階正面8列目とピアノを聴くにはベストポジション。会場はもちろん満員。

定刻の19:00を過ぎると会場の照明が少し落ちて、下手からシフが登場。

すぐにモーツァルトが始まります。コンサートの1曲目ということで、若干硬さも感じられるなか、シフらしく緩急とメリハリをしっかりつけながらフレーズごとの巧みな描き分けが徐々にくっきりと焦点が合ってきて、音楽が淀みなく流れるようになります。ピアノは最近のシフの定番ベーゼンドルファー。厚みというか独特の重みをもった低音に、すこしこもり気味に聴こえる石のような響きの高音が特徴ですが、モーツァルトの曲にはスタインウェイのようなクリアな響きの方が合うような気がしながら聴き進めます。そのうちに左手の表情の豊かさがこの演奏のポイントだという気にさせられ、シフがキレより迫力の表現が引き立つベーゼンドルファーを好む理由がわかったような気がしました。アレグロの起伏の陰影の深さに対し、アダージョの響きの柔らかさの対比は見事。タッチの多様さ表現の変化は流石なところ。そしてアレグレットではタッチの鮮やかさ、躍動感で圧倒されました。弾き進むうちに場内もシフに魔法をかけられたように集中度が上がります。もちろん盛大な拍手が降り注ぎますが、袖に下がることなくすぐに続くベートーヴェンに入ります。

ベートーヴェンは最初の入りは柔らかなハーモニーと力強いアクセントが豊かな情感のなかに交錯するような音楽でした。普段あまり聴かないせいか新鮮に聴こえます。暖かな音色と楔を打つような鋭い音にフレーズごとに巧みに変化する曲想がシフの魔法のようなタッチから紡ぎ出される感じ。ベーゼンドルファーだけに高音の輝きではなく、中低音の輝きが優先するような分厚い響きがベートーヴェンの力感を表すよう。2楽章は分厚い音色に襲われる感じ。タッチの軽さをかなり綿密に制御して、重厚さと軽やかさの対比のレンジが広大。そして3楽章の荘厳な印象も楽章間のコントラストの演出が完璧に決まります。モーツァルトでも豊穣だった響きがさらに豊穣さを増して、観客は皆前のめりでシフのタッチに集中します。またまた拍手が降り注ぎますが、シフはステージを囲う四方の観客に丁寧にお辞儀をしてすぐにピアノに向かいます。

もちろん私の興味はハイドンですが、このコンサートにおけるハイドンの役割はシフの表現力のうち軽やかな機知に満ちた表現に対する適性を垣間見せるという構図のよう。晩年のソナタでも珍しい2楽章構成の曲。最初からタッチのキレの良さが際立ちます。音が跳ね回るように見事な展開。ハイドンのソナタの演奏としては味付けは濃い目ですが、中音部で奏でられるメロディーの面白さはベーゼンドルファーならでは。そしてハイドンだからこそフレーズごとのタッチの変化の面白さが聴きどころ。やはり圧倒的な表現力はシフならではのもの。ハンガリー生まれのDNAに由来するのでしょうか。続く2楽章でもタッチの軽やかが際立ちます。うっとりとしながら人一倍聞き耳を立てて聴き入りますが、短い曲ゆえ、あっと言う間に終わってしまいます。私は2楽章構成と知って聴きますが、他の人は3楽章の始まりを期待しているような終わり方なので、拍手が湧き上がる間も無くすぐに続くシューベルトに入ってしまいます。

この日はやはりシューベルトがメインプログラムでした。普段ほとんどシューベルトは聴きません。その私が聴いてもこれは素晴らしい演奏でした。長大なソナタですが、シフがその魂を抜き取りピアノで再構成したような劇的かつ壮大な音楽。ちょっとくどい感じさえする低音の慟哭がシフの手にかかるとキレよく図太い低音の魅力に昇華され、時折聞かせる長い間が時空の幽玄さすら感じさせます。シューベルトが終わると、まさに嵐のような拍手が降り注ぎ、まさに観客の心をシフが鷲掴みにしてしまったがごとき状況。何度かのカーテンコールにつづいて、アンコールの演奏にシフがピアノの前に座り、演奏を始めました。

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最初はシューベルトの3つの小品から。アンコールとは思えない本格的な構成の曲に再び場内が静まり返ります。コンサートのプログラムも全て暗譜。そしてアンコールに入ってもさらりと演奏をはじめ、はじまると実に豊かな音楽が流れます。すべての曲を完全に自分のものにしきっているところに一流どころのプライドを感じます。シューベルトが終わったところで席を立つ人もいましたが、アンコールは1曲ではありませんでした。プログラム最後のシューベルトの演奏に酔いしれた観客に、さらにシューベルトがだめ押しで加わったかと思うと次はバッハのイタリア協奏曲の1楽章。バッハのアルバムをいろいろリリースしているだけあってシフのバッハを待っていた人も多かったのでしょう。アンコールに寄せられた拍手はどよめきにも近いものに変わります。これで終わりかと思っていると、シフはまたまたピアノに向かい、なんとイタリア協奏曲の2楽章、3楽章を演奏。すでに観客はクラクラ(笑)。完全にシフに魂もってかれてます。もちろん盛大な拍手に迎えられ、シフも引き下がれず、今度はゴリっとした感触が印象的なベートーヴェンの6つのバガテルから。ここまでくると、休憩なしで張り詰めっぱなしの観客とシフの根比べ(笑)。盛大な拍手にアンコールで応えるシフも引き下がらず、その後モーツァルトに最後はシューベルトの楽興の時を披露。聴き慣れた曲が異次元の跳躍感に包まれる至福のひととき。そして盛大な拍手が鳴り止まず、シフが再びピアノの前に座ると、そっと鍵盤の蓋を笑顔で下ろし、長い長いアンコールの終わりを告げ、観客も満足感に包まれました。

プログラムの演奏だけで90分ほど。そしてアンコールを入れると2時間半弱。休憩まったくなしで完璧な演奏を続けたシフ。私はプログラム最後のシューベルトの余韻に浸っていたかった気もしましたが、最後まで聴いてみると、シフの観客をもてなそうとする気持ちもわかり、これがシフの流儀だと妙に納得した次第。ピアノという楽器の表現力の偉大さをまざまざと見せつけられたコンサートでした。

先に紹介したようにシフのハイドンの録音は古いものばかり。この円熟の境地で再びハイドンのソナタに挑んでほしいと思うのは私ばかりではないはず。こころに響くいいコンサートでした。

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tag : 東京オペラシティ モーツァルト ベートーヴェン シューベルト

カール・ゼーマンのピアノソナタ(ハイドン)

仕事がひと段落したので、LPをじっくり。

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カール・ゼーマン(Carl Zeemann)のピアノでハイドンのピアノソナタ2曲(XVI:31、XVI:38)とアンダンテと変奏曲(XVII:6)、ブラームスの16のワルツを収めたLP。収録情報は記載されていませんが、ネットなどを調べてみると1959年制作のよう。手元のアルバムは米DECCAプレスですが元はDeutsche Grammophoneのプロダクションとのこと。

アルバムにはSonata No.30、No.35と表記されていますが、調性が合わないのでよく調べてみると、ライナーノーツに正しいソナタ番号が記載されており、上の収録曲目のとおり。

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カール・ゼーマンは1910年、ドイツのブレーメンに生まれたピアニスト。ライプツィヒで聖トーマス教会のカントルであったギュンター・ラミン(Günter Ramin)にオルガンを学び、ベルギー国境に近いドイツの街、フレンスブルクとブレーメン近くのフェルデンという街でオルガニストとして働いていました。1935年からピアニストに転向し、独奏のほか、高名なヴァイオリニスト、ウォルフガング・シュナイダーハンの伴奏者としても活躍しました。1960年代からは指導者としての活動が中心となり、1964年から1974年までフライブルク音楽大学の学長を務め、亡くなったのは1983年とのこと。ドイツのピアノの伝統を感じさせる人でしたが、同時代的にはリヒテル、ホロヴィッツ、ギレリスなどロシアのピアニストの存在感の影にかくれて地味な存在でしたが、近年なそのいぶし銀の演奏が再評価されているとのことです。

ゼーマンのハイドン、やはりいぶし銀という言葉がぴったり。揺るぎない安定感とドイツらしい質実剛健さが感じられる演奏でした。

Hob.XVI:31 Piano Sonata No.46 [E] (1776 or before)
ステレオ最初期という録音年代を考えるとピアノの音に芯があってしっかりとしたいい音。軽々と弾いているようですがタッチのキレは良く、特にサラサラと流れの良い演奏。速いパッセージのタッチの鮮やかさは素晴らしいですね。2楽章のアレグレットに入ると徐々に詩情が溢れ出てきます。さりげない演奏ながら、メロディーに孤高の輝きと強さがあり、じわりと沁みてきます。ハイドン特有のハーモニーの変化の面白さもデリケートに表現してきます。3楽章のプレストに入るときの切り替えの鮮やかさもハイドンの面白さをわかってのこと。一瞬にして気配を変え、流れの良い音楽に入ります。ピアノの中低音の力強さが印象的。

Hob.XVII:6 Andante con Variazioni op.83 [f] (1793)
名曲アンダンテと変奏曲。予想通りかなりさらりとした入り。リズムをはやめに打つことでサラサラ感が際立ちます。ここでもタッチの鮮やかさが印象的。大きな起伏をともなう曲想ですが、ゼーマンは逆に起伏を抑え気味にして、フレーズ単位のメロディーのタッチの微妙な弾き分けに集中し、変奏をつぎつぎとこなしていきます。徐々に演奏にも勢いというか力強さが増してきて、大きなクライマックスをつくっていきます。後半に入るとタッチに力が漲り、まさに孤高の境地。一貫して速めの流れの良さを活かした演奏でした。

Hob.XVI:38 Piano Sonata No.51 [E flat] (before 1780)
優しいそよ風のようなしなやかな入り。曲想をふまえてタッチを自在にコントロールしてきます。速いパッセージのタッチのかっちりとした確かさはそのままに、淡々とした演奏から詩情が立ち上ります。アダージョも速めですが、不思議に力が抜けた感じがよく出ています。そしてプレストでは表情の変化を強弱に集中させ、リズムは一貫しているのに実に豊かな表情。ピアノの表現の奥深さを改めて知りました。

カール・ゼーマンの弾くハイドンのソナタですが、速めのテンポでさらりとした演奏ながら、くっきりとメロディーが浮かび、そしてハイドンのソナタらしいハーモニーの変化の面白さもしっかりと味わえる素晴らしい演奏でした。この高潔な表現はドイツのピアノの伝統なんでしょうね。古い演奏ではありますが、今聴いても古さを感じるどころか、新鮮そのもの。現代のピアニストでこれだけの透徹した音色を出せるひとがどれだけいるでしょうか。評価は3曲とも[+++++]とします。

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tag : ピアノソナタXVI:31 ピアノソナタXVI:38 アンダンテと変奏曲XVII:6 ヒストリカル

【番外】ワイン、顕微鏡、フマキラー(笑)

このところ年度末で家に帰っても仕事に追われてます(涙) いろいろCDやレコードを聴きながら、適当に気楽にやっておりますが、ちゃんとした記事を書くほど時間がないので、脱線記事を1本。

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こちらは、先日sifareさんの情報でNHKの「旅するドイツ語」のハイドン特集の回で、ハイドンが働いていたオーストリアのアイゼンシュタットがワインの産地であることを知り、すかさずネットを探して注文したもの。エステルハージ家の畑のピノ・ノアールから造られたワイン。他にもハイドンのアニヴァーサリーイヤーである2009年に発売された「オマージュ・ハイドン」もあるのですが、ネットでいろいろテイスティングコメントなどを見て、とりあえずこちらを注文した次第。特にエステルハージ宮殿のイラストがなんともいえずいい雰囲気を醸し出しています。まだ飲んでませんので、開栓後あらためてレビューします(笑)

(3月18日追記)
開栓しました! オーストリアのワインは初めてでしたがこれはおすすめです。ピノ・ノアールらしい熟した果実のような香りがあるのに、ミディアム・ボディで華やかな軽さもあり、和食などにも合いますね。エステルハージ家、ワイナリーとしてもいい仕事しています。これはハイドン・オマージュ、注文しなくては!

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つづいてこちらは顕微鏡。何に使うかといえば、カートリッジの針先の確認や、レコードの溝のチェック。倍率は60倍から120倍とかなりのもので、LEDライト付きなのでかなり鮮明に見えます。これでカートリッジの針先を見ると、摩耗度合いが鮮明に、、、とまではいきませんが、針先の形状ははっきりとわかります。値段は1700円少しと、驚くほどの安さ。これでちょっと安心できます。ちょっと工夫がいるのが逆像なこと。倍率が高いだけに対象物を見るのに少々慣れが必要です。


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最後が重度花粉症の私の最近のお気に入り、フマキラーのアレルシャット。顔にスプレーすると、イオンというか静電気で花粉微粒子が顔に近づかないというすぐれもの。顔を洗うとすぐにスプレーします。外出先でもウェットティッシュで顔を拭いてスプレーするとかなり楽です。特に目はこれで目の周りに花粉がつきにくくなるので、だいぶ楽になります。私的には[+++++]を進呈するレベル。オススメです!

つまらん記事でスミマセン!

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ニコラス・クレーマー/BBCフィルの哲学者、ラメンタチオーネなど(ハイドン)

今日はちょっと心ときめくマイナー盤。

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ニコラス・クレーマー(Nicholas Kraemer)指揮のBBCフィルハーモニック(BBC Philharmonic)の演奏で、ハイドンの交響曲22番「哲学者」、26番「ラメンタチオーネ」、67番、80番の4曲を収めたCD。収録は哲学者が2008年6月26日、ラメンタチオーネが2009年1月28日、残り2曲が2007年6月21日、マンチェスターの新放送室第7スタジオでのライヴ。2009年のBBC music誌(Vol.17 No.11)の付録CD。

BBC music誌の付録はこれまでにもホグウッドの未発表録音だった交響曲76番、77番や、ジャナンドレア・ノセダの太鼓連打など、珍しい録音を何枚か手に入れています。今日取り上げるアルバムも含めてこれらは全て中古での入手。このアルバムもディスクユニオンで入手しました。

ニコラス・クレーマーはあまり知らない人と思いきや、以前に一度演奏を取り上げていました。

2010/10/09 : ハイドン–声楽曲 : アンドレアス・シュペリングのカンタータ集

上の記事のアンドレアス・シュペリングの祝祭カンタータ集の最後に収められた交響曲12番がクレーマーの指揮でした。シュペリングの繰り出す華やかな響きに対して、ゆったり慈しみ深い演奏が印象に残っています。

Wikipediaなどによるとニコラス・クレーマーは1945年スコットランドのエジンバラ生まれの指揮者、ハープシコード奏者。最初はハープシコード奏者として主にオーケストラのコンティニュオを担当していましたが、徐々に指揮する機会に恵まれ、1970年代にはイギリス室内管などの弾き振りなどで活躍、レパートリーもバロックから現代音楽まで拡大しました。その後1986年から92年までアイルランド室内管弦楽団、1985年から93年までロンドン・バッハ管弦楽団の音楽監督を務め、現在はマンチェスター・カメラータとシカゴのミュージック・オブ・ザ・バロックの首席客演指揮者、スイスのヴィンタートゥール・ムジークコレギウム管弦楽団の永世客演指揮者となっています。ライナーノーツによると、このアルバムのオケであるBBCフィルハーモニックとは日常的に仕事をしているそうです。

このアルバムに収められた4曲の交響曲ですが、これがまた癒しに満ちた素晴らしい演奏でした。

Hob.I:22 Symphony No.22 "Philosopher" 「哲学者」 [E flat] (1764)
冒頭からゆったりとしたオーケストラの美しい響きに癒されます。規則的なテンポに乗って各楽器が独特のシンプルなメロディーを受け継いでいきますが、録音は非常に良く、オケのそれぞれの楽器が溶け合って極上のとろけるような響き。弦楽器のビロードのような柔らかさ、木管楽器の自然な表情、そしてホルンの膨らみある柔らかさと言うことなし。BBCフィル素晴らしいですね。いきなりこの曲の真髄を突く演奏に惹きつけられます。
つづくプレストは穏やかながら躍動感満点。オーソドックスな演奏なんですが、このしなやかに躍動するリズムと、実に丁寧に繰り出される旋律の美しいこと。メロディーよりも支える内声部のハーモニーの美しさを意識したのか、若干弱めのメロディーがいいセンス。
メヌエットも穏やかながら実にキレのいい表現。奏者が完全にクレーマーのリズムに乗って素晴らしい一体感。ただ演奏するだけでハイドンの名旋律の美しさにとろけます。そしてフィナーレも期待どおり。ホルンがここぞとばかりにキリリとエッジを効かせてアクセントを加えます。素晴らしい疾走感。オケの響きは相変わらず極上。速いパッセージも落ち着きはらってさらりとこなす余裕があります。これは素晴らしい名演奏。名演の多いこの曲のベストとしても良いでしょう。放送用の録音ということでしょうか、最後に拍手が入ります。

Hob.I:26 Symphony No.26 "Lamentatione" 「ラメンタチオーネ」 [d] (before 1770)
哲学者以上に好きな曲。仄暗い始まりはシュトルム・ウント・ドラング期のハイドン特有の気配を感じさせます。この曲はピノックのキビキビとした演奏や、ニコラス・ウォードの名演が印象に残っていますが、同じスコットランドのウォードの演奏と似たオーソドックスなスタイルながら、ニュアンスの豊かさと響きの美しさはウォードを凌ぐ超名演。この曲でも美しい響きとメロディーのしなやかな展開、さっと気配を変える機転とクレーマーの繰り出す音楽にノックアウト。これは素晴らしい。オケも素晴らしい安定感。ライヴのノイズも皆無なのにライヴらしい躍動感に溢れています。
聴きどころの2楽章は予想より少し速めのテンポでサラリと入ります。聴き進むうちにじわりとこの曲の美しさに呑まれていきます。1楽章の豊かな響きをサラリと流すような清涼感が心地よいですね。
フィナーレも素晴らしい充実度。微妙にテンポを動かして豊かな音楽に。いやいや参りました。

Hob.I:67 Symphony No.67 [F] (before 1779)
録音が少しクリア度を増した感じ。冒頭から素晴らしい迫力と躍動感に圧倒されます。オーソドックスな演奏なんですが、正攻法での充実した演奏に圧倒されます。時代は古楽器やノンヴィブラート流行りですが、こうした演奏を聴くと、小手先ではなく曲をしっかりふまえた演奏の素晴らしさこそが重要だと改めて思い知らされます。よく聴くと弱音部をしっかりと音量を落として、しっかりと彫りの深さを表現していることや、畳み掛けるような迫力と力を抜く部分の表現のコントラストを巧みにつけるなど、やることはしっかりやっています。
弱音器付きの弦の生み出すメロディーのユニークさが聴きどころの2楽章のアダージョ。うねる大波のような起伏と、木管の美しい響きを象徴的に配して、静けさのなかにアクセントを鏤める見事なコントロール。終盤のピチカートは聴こえる限界まで音量を落とす機転を利かせます。
堂々としたメヌエットにヴァイオリンのリリカルな演奏が印象的な中間部とこれも見事。大胆なコントラストをつけているのに落ち着ききった演奏。そしてフィナーレは素晴らしい覇気のオケの響きを楽しめます。前2曲よりも時代が下ったことでオーケストレイションも充実していることを踏まえての表現でしょう。この曲ではコントラストの鮮明さが印象的でした。この曲も見事。

Hob.I:80 Symphony No.80 [d] (before 1784)
最後の曲。さらに時代が下り、オケも迫力十分。クレーマーの丁寧なコントロールは変わらず、オケのとろけるような響きの良さと安定度も変わらず。この曲のみ低音弦の音量が他曲より抑えている感じ。
アダージョのしっとりと落ち着きながらのゆるやかに盛り上がる曲想の表現、メヌエッットの自然さを保ちながらのキビキビとしたリズムのキレ、フィナーレの掛け声の応報のようなコミカルな展開の汲み取り方など非常に鋭敏なセンスで演奏をまとめます。もちろんこちらも見事。

BBC music誌の付録としてリリースされたアルバムですが、これが類稀なる名演奏でした。指揮のニコラス・クレーマー、特に日本ではほとんど知られていないと思いますが、以前取り上げた交響曲12番とこのアルバムを聴くと、そのオーケストラコントロール力はかなりのもの。特にハイドンの交響曲のツボを押さえていますね。この優しい、しなやかな演奏を好む人は多いと思います。ニコラス・ウォードのハイドンを超える素晴らしい演奏です。ということで4曲とも評価は[+++++]とします。中古で見かけたら即ゲットをお勧めします。

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tag : 哲学者 ラメンタチオーネ 交響曲67番 交響曲80番 ライヴ録音

ベリーナ・コスタディノヴァによるピアノソナタXVI:24(ハイドン)

今日は久々に癒し系、美貌のピアニストの演奏です。

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ベリーナ・コスタディノヴァ(Belina Kostadinova)のピアノによる、ハイドンのピアノソナタ(Hob.XVI:24)、ショパンの4つの練習曲(Op.10)、
リストの「葬送」、バルトークのブルガリアのリズムによる6つの舞曲(ミクロコスモス第6集より)の4曲を納めたアルバム。収録は2007年7月13日から14日にかけて、スイスのチューリッヒの放送スタジオでのセッション録音。レーベルはgega new。

このアルバム、最近オークションで手にいれたもの。ハイドンのピアノソナタが含まれているアルバムということで入手しましたが、気になるのはジャケットの写真。ベリーナ・コスタディノワというピアニストは未知の人ですが、ぐっと惹きつけられる美貌の持ち主。ということで、オークションの一覧でこの写真と「目が合った」という感じで出会いました。

BELINA

ベリーナ・コスタディノヴァはブルガリアのピアニスト。5歳のときに叔父と母の弾くピアノを聴いてピアノを志すようになり、ブルガリアの黒海沿岸の街ブルガス(Bourgas)の音楽高校、そして首都ソフィアのソフィア音楽アカデミーで専門的教育を受けました。アカデミーではレフ・オボーリン(Lev Oborin)門下生で、ロシアピアニズムの継承者と見做されていたマーシャ・クラステワ(Mascha Krasteva)とともに学び、古典派からロマン派にかけての音楽にとロシア音楽もレパートリーに加えるよう取り組み、また、祖国ブルガリアの音楽にも取り組みました。1989年にルドルフ・ブッフビンダーと出会い、スイスのバーゼル音楽院で彼に師事し、以後アレクシス・ワイゼンベルクやパウル・バドゥラ=スコダらのマスタークラスに参加し、ヨーロッパ各国で活躍しているとのこと。

このアルバムはコスタディノヴァのデビューアルバムで、彼女にとっては、デビューまでの間に思い入れのある曲を集めた特別な選曲のアルバムということです。ハイドンとリストの曲は若い頃から好んで演奏し、特にハイドンはハイドンの大家とされたブッフビンダーの前で最初に弾いた曲。そしてブルガリア人としてバルトークのブルガリアのリズムによる6つの舞曲も研究しつくしてきた曲。ショパンは、ゲサ・アンダの録音が決定的な影響をもたらした曲とのことです。

Hob.XVI:24 Piano Sonata No.39 [D] (1773)
粒立ちの良いピアノの響きでテンポよく入りますが、経歴からの想像力が働いたのか、ロシアのピアニスト特有のグイグイと引っ張っていく勢いも感じられます。女性ならではのタッチのしなやかさもあるんですが、それを上回る流れの良さと色彩感がポイント。音がコロコロと弾んでゆく心地よさに耳を奪われます。フレーズ毎にあえて印象的な間というか、リズムの分断を設けるのが個性的。1楽章はオーソドックスなようでよく聴くと個性的な仕上がり。
アダージョはしっとりではなく訥々とした表情が印象的。冒頭のきらめくような緊張感から暖かい風に包まれるような展開が一般的な入りなんですが、その瞬間に緩まず、緊張感を保ち、寂しさを突き詰めていくようなストイックさがあります。やはりロシア的な感性がそうさせるのでしょうね。
フィナーレはサクサクと入り、あえてサラサラとした感触を保ち、よく聴くと激しく展開する曲をサラリとこなしていきます。最後はリズムとフレーズを誇張してキリリと引き締めて終わります。

つづくショパン、リスト、バルトークもコスタディノヴァがそれぞれ得意としていた曲というのがよくわかります。ハイドン同様、楽譜に込められた情感に至るまで弾きこなしており、思い入れを感じる演奏でした。特にバルトークのキレ味鮮やかながら、しっとりとした演奏は流石と思わせるものでした。

美貌のピアニスト、ベリーナ・コスタディノヴァのハイドンのソナタですが、ジャケットの造りから想像されるアイドル系の演奏とは異なり、なんとなく奏者の芸術的表現の吐露と思わせる息吹を感じる本格的なものでした。タッチが冴え渡る演奏は他にもいろいろあり、そういう視点での優れた演奏というより、ブルガリア出身の彼女がピアノで世界に羽ばたいたバックボーンとうか、苦労の積み重ねが詰まった音楽と聴こえました。選曲と解説によって奏者の息吹が浮かび上がる好企画ですね。ハイドンのソナタは[+++++]とします。

美貌の奏者のアルバムに癒しを感じるおじさん層のために、このアルバムを含めて「美人奏者」というタグをつけました。意外とマーケットでは重要な要素ですネ(笑)

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tag : ピアノソナタXVI:24 美人奏者

【新着】ハイデルベルク交響楽団の35番、46番、51番(ハイドン)

前記事で取り上げたトーマス・ファイとハイデルベルク交響楽団による交響曲全集の23巻ですが、今日はその続きでCD2を取り上げます。前記事はこちら。

2017/03/05 : ハイドン–交響曲 : 【新着】トーマス・ファイの交響曲全集第23巻(ハイドン)

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前記事の再掲になりますが、収録情報にも触れておきましょう。CD2はファイの名前はなく、ベンジャミン・シュピルナー(Benjamin Spillner)がコンサートマスターを務めるハイデルベルク交響楽団の演奏で、交響曲35番、46番、51番の3曲。収録は2016年6月、ハイデルベルクの西20kmくらいのところにあるバート・デュルクハイム(Bad Dürkheim)にあるナチュラルホルンアカデミーでのセッション録音。レーベルはhänssler CLASSIC。

CD1がファイの名前が冠されていただけに、素晴らしい演奏を期待してしまいましたが、ちょっと肩透かしのようになってしまいました。このCD2は、ファイの再起が難しいと判明した後、22巻まで到達した交響曲全集を、オケのみで完成させようと、ある意味開き直っての録音のように思われます。

Hob.I:35 Symphony No.35 [B flat] (1767)
冒頭から格別の覇気が宿っています。勢いだけはまるでファイが振っているように錯覚するほど。まさに開き直ったといわんばかりにオケも攻める攻める。この痛快さを待っていました。よく聴くとファイならもう少し意表をついてくると思わせなくはありませんが、CD1よりもずっとイキイキとした演奏に嬉しくなってしまいます。おそらくCD1がファイのコントロールを失った直後の演奏だったのに対し、こちらはファイの意思を受け継いで、ここまで到達した交響曲全集の完成を志すよう、あらためてファイならばどうしたかをオケ全員が考えて演奏しているようです。まるでファイの魂が乗り移ったようなオケの熱演。この鬼気迫るオケの熱演にちょっと込み上げてくるものを感じます。
驚いたのが2楽章のアンダンテ。まるでファイのようにさらりと来ました! これまでのファイの録音を聴いて研究しつくしたのでしょうか。このさりげなさこそファイの緩徐楽章。もちろん、ファイ自身が振っていたら、もっと閃いていたんでしょうが、CD1で感じたやるせなさとは別次元の仕上がり。
ファイの想像力を再現するのが最も難しいと思われるメヌエットは、若干物足りない印象もありますが、中間部をぐっと落とし込むことでなんとかレベルを保ちます。そしてフィナーレで再び痛快さを取り戻します。オケ全員が偉大な才能に追いつこうと決死の演奏で臨みます。オケの心意気が心を打ちます。

Hob.I:46 Symphony No.46 [B] (1772)
おそらく告別交響曲の後に書かれた曲。ここでもベンジャミン・シュピルナー率いるハイデルベルク交響楽団は、まるでファイが振っているがごとく振る舞い、起伏に富んだ1楽章聴き応え十分な彫りの深さと機知を織り交ぜていきます。これは素晴らしい。よく聴くとファイらしくもあり、ファイらしくなくもあり、ファイなきハイデルベルク響の新たな魅力といってもいいでしょう。指揮者の才能ではなくオケの意思でここまでの演奏に仕上げてくるあたり、気合十分と言っていいでしょう。
つづくポコ・アダージョに入ると表現の変化の幅も十分。ハイドンの音楽を完全に消化して自らの音楽として歌い、仄暗いシュトルム・ウント・ドラング期の静謐な気配まで表現しつくします。指揮者の個性に頼らぬ音楽に聴こえなくもありません。これは見事。
この曲のメヌエットは迷いが無くなり、音楽の説得力が上がります。完全にファイの演奏を真似から脱し、オケ自らの音楽になってきた感じ。フィナーレも絶品。

Hob.I:51 Symphony No.51 [B flat] (before 1774)
前曲同様、表現に迷いなく、素晴らしい演奏。この曲も絶品です。当ブログの読者の皆さんも是非この素晴らしい演奏を聴いていただきたいと思います。

前記事を書いた時に感じた、なんとなくやるせない気持ち、そして悲しい気持ち、そして改めてファイの才能の偉大さに気づいたという気持ち。記事にするかどうか、ちょっとためらい、そしてなんとなくそのまま記事にしてしまったわけですが、今日改めてCD2を聴いて、そうしたもやもやが吹っ切れました。このアルバムが2枚組としてリリースされた深い意味がようやくわかりました。ファイを失い、混乱した状態のCD1に対し、2年という時間をかけてそれを克服し、ファイの遺産に負けないレベルの演奏で残りの曲を演奏し、全集を完成させようとする力強いオケの意思を感じさせるCD2。それをあえてまとめてリリースすることがハイデルベルク交響楽団のやるべきことだと世に問うたのでしょう。私はファイなきハイデルベルク交響楽団の素晴らしい演奏に心から感動しました。評価は3曲とも[+++++]とします。

皆さん、このアルバムは買いです!

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tag : 交響曲35番 交響曲46番 交響曲51番

【新着】トーマス・ファイの交響曲全集第23巻(ハイドン)

前記事でファイのハイドンの最初の録音を取り上げアップした翌日に、偶然にも待っていた新譜がamazonから届きました。

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トーマス・ファイ(Thomas Fey)指揮のハイデルベルク交響楽団(Heidelberger Sinfoniker)の演奏で、ハイドンの交響曲6番「朝」、7番「昼」、8番「晩」の3曲に、ファイの名前はなく、ベンジャミン・シュピルナー(Benjamin Spillner)がコンサートマスターと記されハイデルベルク交響楽団の演奏による、交響曲35番、46番、51番の3曲、合わせて6曲を収めた2枚組のアルバム。収録はファイの3曲が2014年3月、他の3曲が2016年6月、どちらもハイデルベルクの西20kmくらいのところにあるバート・デュルクハイム(Bad Dürkheim)にあるナチュラルホルンアカデミーでのセッション録音。レーベルはもちろんhänssler CLASSIC。

このアルバムですが、CD1の3曲はファイの指揮とされる録音。ファイの交響曲集のこれまで最後にリリースされた22巻が2013年の9月から10月の録音。そしてこの23巻の収録が約半年後の2014年の3月とのことですが、22巻のリリースは2014年8月でしたので、このアルバムはそれから2年半も経ってからのリリースとなります。ファイが脳損傷になって再起が危ぶまれるという情報は出回ったのですが、いつ頃のことなのかなど詳しいことはわかりません。私の想像ですが、このアルバムがファイの指揮で編集まで済んでいた状態だったとしたらもう少し早くリリースされていたはずですので、編集段階か、あるいは録音の途中でアクシデントに襲われたのではないかと思います。とすると、このアルバム、前半のファイの指揮の曲の出来もそうした状況の手がかりとなります。

2017/03/03 : ハイドン–協奏曲 : ファイ/シュリアバッハ室内管のピアノ協奏曲集(ハイドン)

前記事のファイの原点たる1999年録音の協奏曲集が素晴らしいキレで度肝を抜く演奏だったのもあって、このアルバムにファイの最後の魂が乗っているかが非常に気になり聴き始めた次第。

Hob.I:6 Symphony No.6 "Le matin" 「朝」 [D] (1761?)
聴く耳を立てているせいか、厳かな始まりに聴こえます。演奏としては快活ないい演奏なんですが、ファイらしい個性というか突き抜けたところが影を潜め、普通に精緻ないい演奏。低音弦のキレ方などはファイの特徴を感じさせますが、ファイだったこちらの想像を超えるアイデアが次々とくりだされてくるはずとの先入観に対して、普通に精緻な今風の演奏。もしかしたら、この録音、最後までファイが振ったものではないのではないかとの想像がよぎります。こちらの期待を蹴散らす豪放さがないのでちょっと肩透かし。
つづくアダージョ楽章はファイならば表情を抑えて淡々とくるところですが、ほどほどに起伏もあり、こちらも普通にいい演奏。録音がいいので弦楽器の響きの美しさは惚れ惚れするほど。落ち着いたテンポによる丁寧な表現がかえってファイっぽくない感じを醸し出してしまいます。こちらも普通にいい演奏なんですが、ファイらしさがあまり感じられません。
メヌエットも実にゆったりとした表情で進みます。ファイだったらこうはしないと思います。導入も展開部も勢いで攻めてくるところはなく、落ち着いた判断で乗り切ります。
なんとなくここまで特段オケが一肌脱ぐ感じとなったことはなく、終楽章もそれぞれ役割を果たすべくオケの奏者がしっかりと実力を発揮して、演奏を律儀にまとめています。どうしたことでしょう。繰り返しに閃きが宿るわけでもなく、非常にオーソドックスな演奏が続きます。もちろんいい演奏なんですが、ちょっと肩透かしを食らった感じです。

Hob.I:7 Symphony No.7 "Le midi" 「昼」 [C] (1761?)
つづく昼ですが、朝よりもキレていてひと安心。曲想のせいか、展開の速さに合わせて生気が戻ります。朝では踏み込めなかったエネルギッシュな場面も多々あり、なかなかスリリングです。ただ、ファイ特有の多様な変化にまではいたっていません。
2楽章は交響曲には珍しいレチタティーヴォアダージョ。劇的な展開の面白さが聴きどころ。徐々に曲の面白さの真髄にせまりつつあります。次々と繰り出される変化球のようなメロディーの描き分けもなかなかのレベル。かなり踏み込んできていますが、ファイの突き抜けた想像力の域と同じようにはいかないようです。
メヌエットはかなりテンポを落として念入りな描写。念入りなところがちょっと一本調子な印象を残してしまいます。そしてフィナーレもちょっと重さを感じさせるもの。ファイのフィナーレでこのようなことはありません。

Hob.I:8 Symphony No.8 "Le soir" 「晩」 [G] (1761?)
CD1の最後の曲。ここまで一番生気を感じる楽章。勢いで曲をあおっていく迫力を感じます。この曲にはファイの存在が感じられなくもありません。2楽章のアンダンテでも楽器感のバランスやアクセントには閃きが感じられ、穏やかな音楽にもかかわらずキラリとひかるものがあります。音楽も今までで一番起伏に富んでいます。そして3楽章のメヌエットへの入りのセンスも悪くありません。コントラバスのユーモラスなメロディーもそれなりにこなし、演出も十分表現力豊か。ですが、ファイだったらさらに突き抜けた面白さを聴かせるだろうと想像してしまいます。フィナーレも雄弁。あのスリリングさ戻ってきました。

今日のレビューはここまでにしておきます。

ちょっと複雑な心境となってしまった、トーマス・ファイの交響曲の23巻。まったく私の勝手な想像ですが、なんとなくこのアルバムの朝、昼、晩の3曲の録音にあたり、晩はリハーサルまでこなしたところまでファイが関わり、その他の曲は関わってもごく浅いレベルまでだったような気がします。特に昼はまったくファイらしくない単調さや重さが見られ、朝も演奏自体は悪くないものの、これまでの多くの演奏からつたわるファイの個性が感じられません。リリースまで時間がかかったのもこの状態でのリリースについていろいろ考えるところがあったのかもしれませんね。ただ、このアルバムの演奏は、このアルバム自体の良し悪し以上に、この演奏から逆にファイのこれまでの非凡さが浮かび上がるという意味でもリリースした意味があると思います。やはりオーケストラで最も重要なのは指揮者だということがよくわかりますね。これまでファイの全集を応援してきた私としては、このあとリリースされるアルバムの状態如何にかかわらず、サポートしていきたいと思います。評価は晩が[++++]、朝と昼は[+++]とします。

ファイの名をはずしたCD2については次の記事で!

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プロフィール

Daisy


Author:Daisy

なぜかハイドン(Franz Joseph Haydn)が特に気に入り膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。東京在住のごく普通のサラリーマンです。

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2017年7月のデータ(2017年7月31日)
登録曲数:1,361曲 登録演奏数:10,291
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