Haydn Disk of the Month - July 2017

すでに七月も終わろうとしています。先月、梅雨にもかかわらず尾瀬や奥日光に旅した時は幸い雨も降らず好天に恵まれました。その後関東ではさしてまとまった雨も降らずに茹だるような暑い日々が続き、空梅雨気味に梅雨明けを迎えました。そんなこんななうちに今度は九州や秋田で集中豪雨による大災害に見舞われるなど、落ち着かない日々が続いていますね。

うちでは4月に膝の骨折で入院していた母親が先週ようやく退院に漕ぎ着け、また家族3人の生活に戻りました。入院中は見舞いが大変でしたが、退院すると今度は介護があり気が休まらない日々に戻りました。私は日中仕事に出ておりますが、一日家にいる嫁さんは特に大変です。入院前には使っていなかったデイサービスやショートステイなどを適度に利用しながらなんとかやっていこうと思っております。

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さて、東京は七月がお盆。父が亡くなってから月命日には毎月墓参りに行くなどお寺が身近な存在となり、お盆にはお坊さんが来てくれるので、迎え火や送り火を焚いたりしています。これも我が家の季節の節目になりつつあります。

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そして、七月といえば毎年楽しみにしているサクランボ。今年も毎年お願いしている山形はかみのやま温泉のマルホ観光果樹園から紅秀峰が届きました! 昨年よりちょっと遅めの収穫時期でしょうか。いつもながらこれは絶品。夏の楽しみの一つですね。



さて、毎月その月にレビューしたアルバムの中からベスト盤を選ぶ月末恒例の企画。今月は久しぶりに16記事も書きましたが、なぜかコンサートに4回も出かけたので、レビューは10件。それでも例月よりは多かったですね。これは意図してというよりも良い演奏に出会う頻度が高かったからに他なりません。特にLPのレビューが7件あり、そのいずれもが素晴らしい演奏だったことが大きいですね。ということで、今月のベスト盤はこちら!

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2017/07/31 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : マルシュナー=コッホ四重奏団のひばり、皇帝(ハイドン)

前記事で取り上げたばかりのアルバム。偶然手に入れたアルバムから瑞々しい音楽が溢れ出て来ます。1960年代のドイツのクァルテットの絶妙な演奏。LPならでは素晴らしい録音によって眼前で演奏しているような迫真のリアリティが味わえます。詳しくはリンク先をごらんください。

そのほかのアルバムも非常に良い演奏ばかり。

2017/07/25 : ハイドン–協奏曲 : ローズ・マリー・ツァルトナーのピアノ協奏曲、ピアノソナタ(ハイドン)
2017/07/22 : ハイドン–ピアノソナタ : アレクサンドル・スロボジャニクのXVI:48(ハイドン)
2017/07/19 : ハイドン–交響曲 : 【新着】飯森範親/日本センチュリー響の交響曲集第2巻(ハイドン)
2017/07/13 : ハイドン–協奏曲 : ダヴィド・ゲリンガス/北ドイツ放送響のチェロ協奏曲2番(ハイドン)
2017/07/10 : ハイドン–室内楽曲 : ザロモン弦楽四重奏団らの室内楽版ロンドン、軍隊(ハイドン)
2017/07/08 : ハイドン–交響曲 : ドラティ/ロンドン響の軍隊、時計(ハイドン)
2017/07/07 : ハイドン–協奏曲 : エーリッヒ・ペンツェル/コレギウム・アウレウムのホルン協奏曲(ハイドン)
2017/07/06 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : 【新着】キアロスクーロ四重奏団のOp.20後半(ハイドン)
2017/07/03 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : フランチスカス四重奏団のOp.2のNo3(ハイドン)

できればCDからも選びたかったんですが、キアロスクーロはOp.20の前半を以前選んでいますのでちょっと重複感があり、フランチスカスも演奏は良いものの、ハイドンが主役のアルバムではありません。飯森範親のハイドンマラソンの2巻は聴きどころの時計がちょと弱いということで選びきれませんでした。
それ以外のLPの方は正直絶品揃い。実に可憐なローズ・マリー・ツァルトナーのピアノ、スロボジャニクの霊気を帯びた迫力、若きゲリンガスの自在な弓さばき、ザロモン四重奏団の雅な響き、ドラティの全集前の覇気溢れる録音、そしてエーリッヒ・ペンツェルのあまりに見事なホルンさばき! あえてマルシュナー=コッホ四重奏団を選んだのは演奏の良さで一歩抜けていたのに加えて、それまで名盤として知られていたかどうかも影響しています。おそらくリストアップしたアルバムの中での知名度は今ひとつなのではないでしょうか。こうしたアルバムこそ当ブログがその価値を世に問うべきとの判断でした。

このところLPの素晴らしさに打たれ続けておりますので、新譜のフォローもおろそかになりがちでした。8月はちょっと意識して新譜を取り上げなければなりませんね。



2017年7月のデータ(2017年7月31日)
登録曲数:1,361曲(前月比±0曲) 登録演奏数:10,291(前月比+51演奏)

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マルシュナー=コッホ四重奏団のひばり、皇帝(ハイドン)

またまたLPです。こちらも最近オークションで手に入れたもの。

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マルシュナー=コッホ四重奏団(Marschner-Koch Quartett)の演奏による、ハイドンの弦楽四重奏曲Op.64のNo.5「ひばり」、Op.76のNo.3「皇帝」の2曲を収めたLP。収録年の記載はありませんが、ステレオであることやレコード番号から1960年代後半のリリースでしょう。レーベルは独フライブルクのCHRISTOPHORUS。

このクァルテット、ジャケットには下記の4名の奏者の名があるだけで、クァルテットの名前は記されていませんでした。

第1ヴァイオリン:ウォルフガング・マルシュナー(Wolfgang Marschner)
第2ヴァイオリン:ウルリッヒ・ゲーリング(Ulrich Grehling)
ヴィオラ:ウルリッヒ・コッホ(Ulrich Koch)
チェロ:アティス・タイヒマニス(Atis Teichmanis)

色々調べたところ、手元にあった幸松肇さんの「世界の弦楽四重奏団とそのレコード」のドイツ・オーストリア編に「マルシュナー=コッホ四重奏団として掲載されていて、ようやく情報が掴めたもの。LPの裏面にもドイツ語でクァルテットの説明はあるのですが、スイスイ読めるわけではありませんので日本語の情報があるのは助かります。

幸松さんの本によれば、このクァルテットは1960年代後半、フライブルク音楽大学で教鞭ととっていた上記メンバー4人によって設立されたもの。
ウォルフガング・マルシュナーは1926年ドレスデン生まれ。ハノーファー国立歌劇場やケルン放送交響楽団のコンサートマスターとして活躍し、1963年からフライブルク音楽大学の教職にありました。
第二ヴァイオリンのウルリッヒ・ゲーリングは1917年生まれで1942年から1947年までベルリンフィルのコンサートマスターを務めた人。1946年以降はフライブルク音楽大学で教職についています。
ヴィオラのウルリッヒ・コッホは1921年ブラウンシュヴァイク生まれでブラウンシュヴァイク国立劇場管弦楽団コンサートマスターを経て南西ドイツ放送交響楽団の首席ヴィオラ奏者として活躍、フライブルク音楽大学では弦楽器長を務めた人。
そして、チェロのアティス・タイヒマニスはネットで調べてもなかなか情報がありませんでしたが、1907年ラトヴィアのリパエーヤという町の生まれで1955年にフライブルク音楽大学で夏季セミナーを受けたということがわかりました。

クァルテットに名前がないことと、これ以外に録音も見当たらないことから、この録音を行なった時期だけしか活動していなかったのかもしれませんね。

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LPに針を落とすと、非常に伸びやかなクァルテットの響きがザクザク迫ってきます。というのもカートリッジを最近手に入れたSHUREのV-15 TypeIIIに変えたばかりで、これまでのDL-103Rをフェーズメーションのトランス経由で聴いていた厚みと安定感重視の組み合わせとの差がそういう印象を強調しているかもしれませんね。もともとアームが軽針圧向けのものなのでこちらの方があるべき組み合わせなんでしょう。オリジナル針のコンディションも良いのでしばらくこの環境で聴いてみようと思います。

Hob.III:63 String Quartet Op.64 No.5 "Lerchenquartetett" 「ひばり」 [D] (1790)
1960年代の録音であるというのが信じられないほど鮮明な響きに驚きます。そしてスピーカーの周りに広がる音場も広大でびっくり。レオポルド・マルシュナーのヴァイオリンの伸びやかさはかなりのもの。楽器が非常によく響いてヴァイオリンの胴鳴りの迫力が感じられるほど。アンサンブルも実に見事。ひばりの入りはオーソドックスなテンポながら響き渡る伸びやかさで圧倒される感じ。ひばりのさえずりもこれほどの美しさで響くとさらに印象深く聴こえます。
続くアダージョに入ると、マルシュナーのヴァイオリンは美しさの限りを尽くすように鳴り響きます。そしてそれに呼応するように各パートもよく鳴る鳴る。往時のベルリンフィルの弦楽セクションの怒涛の響きを思い起こさせます。よく響くホールでの録音でしょうが、ダイレクト感もかなりあり、冒頭に書いたように超鮮明な録音。手元のCDやSACDでもこれほどキレのある録音はありません。
メヌエットもこれが王道というような演奏。小細工なしにグイグイ来ます。全員がベストコンディションでそれをベストなロケーションで録音し、この当時のベストな録音で残したもの。千載一遇の演奏を収めた録音といっても過言ではないでしょう。
フィナーレも楽器が鳴りすぎて抑えが効かないというか、抑える必要もないので、ハイドンの書いた音楽をベストなアンサンブルで演奏するとこうなる的完璧な演奏。あまりに圧倒的なパフォーマンスにノックアウトです。

Hob.III:77 String Quartet Op.76 No.3 "Kaiserquartetett" 「皇帝」 [C] (1797)
皇帝も同様、冒頭からアンサンブルが響きまくって素晴らしい響きに包まれます。4人がそれぞれ畳み掛けるようにインテンポで演奏しながらアンサンブルの線がぴしっとそろって響く快感。しかも全員楽器が鳴りまくってるのは前曲同様。曲毎の演奏スタイルの変化は感じず、それよりも普遍的な表現を目指しているよう。あまりの説得力に圧倒されるというのが正直なところです。

偶然見かけて手に入れたアルバムでしたが、あまりに見事な演奏と時代の空気までも閉じ込めたような見事な録音に脱帽です。フライブルク音楽大学の教職にあったとはいえ、この完璧なアンサンブルはこれまでのどの録音よりも見事なもの。しかも弦楽器がこれほどまでによく響いた演奏も稀なものでしょう。ハイドンの有名弦楽四重奏曲2曲の決定盤としても良いでしょう。私は非常に気に入りました。ということで評価は両曲とも[+++++]といたします。

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tag : ひばり 皇帝 LP

ローズ・マリー・ツァルトナーのピアノ協奏曲、ピアノソナタ(ハイドン)

またまた未知の奏者の演奏です。

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ローズ・マリー・ツァルトナー(Rose Marie Zartner)のピアノ、ウォルフガング・ホフマン(Wolfgang Hofmann)指揮のニュルンベルグ交響楽団(Die Nürnberger Symphoniker)の演奏で、ハイドンのピアノ協奏曲(Hob.XVIII:3)、ピアノソナタ(XVI:20)の2曲を収めたLP。収録の情報は記載されていませんが、ネットを色々調べて見るとリリースは1970年と記載されたサイトを発見しました。レーベルはcolosseum。

このアルバムも最近オークションで手にいれたアルバムです。なんとなくいい雰囲気のジャケットにピンときた次第。

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ピアニストのローズ・マリー・ツァルトナーについては、ジャケット裏面に若き姿の写真があるだけで、ネットにも情報が見つかりません。アルバムについてもこのアルバムを含めて数枚確認できるのみ。ということでこのアルバムがリリースされたであろう1970年代の短期間のみ活動していた人との想像が働きます。
指揮者のウォルフガング・ホフマンは1922年ドイツのカールスルーエ生まれのヴァイオリン奏者、作曲家、指揮者で、若い頃からアーベントロートのもと、ライプツィヒ・ゲヴァントハウスのヴァイオリン奏者として活躍。大戦中は音楽活動を休止したものの1959年から指揮者として活躍し、プファルツ室内管(Kurpfälzischen Kammerorchester)の音楽監督を1987年まで続けたとのこと。また1963年からはカール・リスタンパルトが亡くなった後を受けてザールランド放送室内管(Kammerorchester des Saarländischen Rundfunk)を振るようになり、しばしばテレビに登場したとのこと。晩年はフリーランスの作曲家として活躍し、亡くなったのは2003年でした。

この日本ではほとんど知られていないピアニストと指揮者によるハイドンのピアノ協奏曲、これが実に味わい深い演奏なんです。

Hob.XVIII:3 Concerto per il clavicembalo(l'organo) [F] (1765)
見事に図太い音色のオケの序奏がテンポよく鳴り響きます。奥でホルンが響く奥行きを感じる非常にいい録音。これぞLPの真骨頂。ローズ・マリー・ツァルトナーのピアノはよく磨かれた音色を響かせますが、決して焦らず、オケを鎮めるように落ち着いてゆったりと音を置いていく感じ。ソロがオケを引っ張るようにグイグイ来るのが普通なんでしょうが、ツァルトナーは落ち着き払って典雅な雰囲気を率先して保つ感じ。テクニックの冴えとも解釈のキレとも無縁の落ちいた音楽。ピアノの響きの美しさを優しく表現することに集中しているよう。この曲でこれほどのピアノの穏やかな輝きを聴くのははじめてのこと。火花散らすだけが協奏曲の演奏ではないと諭されているよう。カデンツァでは少しテンポを上げ、指の動きの鮮やかさを聴かせますが、それも非常に落ち着いた演奏で、この典雅さを保ったもの。
続くアダージョはまさに至福の境地。ゆったりとしたオケの伴奏に乗ってツァルトナーのピアノが光り輝きます。ゆっくりと噛みしめるようなツァルトナーのタッチの美しさを存分に味わいます。指揮のホフマンはツァルトナーの引き立て役に徹するようにオケの柔らかな響きを引き出します。ツァルトナーはテンポを変えずに表情が千変万化する魔法のタッチで曲の美しさを浮かび上がらせます。あまりに見事な演奏に息を呑みます。
フィナーレも実にリラックスした演奏。1楽章とは異なりリズムで先導するツァルトナーのタッチの軽やかさ! ちゃんと楽章ごとに聴かせどころを用意していました。これぞハイドンという展開の妙をさらりと聴かせる妙技。最後までピアノの最も美しい響きを保つ見識が素晴らしいですね。フレーズの一つ一つまで磨き抜かれ、オケとの呼吸も絶妙。あまりに華麗な演奏にノックアウトです。

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Hob.XVI:20 Piano Sonata No.33 [c] (1771)
裏面は好きなソナタ。録音の状態は変わらず絶品。美しいピアノの響きが存分に楽しめる録音。リラックスしたツァルトナーの繰り出す音の流れに身を任せます。協奏曲同様、落ち着いたタッチからえも言われぬ芳香が立ちのぼります。起伏をあえて抑えながらサラサラと引き進めるスタイル。微妙なタッチの変化から生まれるフレーズのデリケートな表情の変化に耳を奪われます。この曲に潜む詩情を抑制された美しさに昇華。
好きな2楽章は響きを研ぎ澄ますのではなく、淡々と音を置いてく感じが新鮮。高音ではなく中音域をしっかりと響かせて確かな足取りで曲が進みます。今までのこの曲のイメージとは異なる面にスポットライトを当て、じっくりと曲の良さを描いていくことで、意外に骨太なこの曲の魅力を知った次第。情感を抑えた何か禁欲的な香りがする美しさにうっとり。
目を覚まされるようにくっきりとした3楽章の出だし。かっちりとしたタッチの中にも仄かに雰囲気を感じさせるツァルトナーの演奏。ツァルトナーとしては険しい演奏なのでしょうが、麗人の真剣な視線にも色気を感じるように、ハイドンの締まったフィナーレながら雰囲気のある演奏。1曲のみをゆったりとカッティングしたLPゆえ実にいい響きで演奏を楽しめました。

全く未知のピアニスト、ローズ・マリー・ツァルトナーによる協奏曲とソナタのアルバム。ピアノに詳しい方ならご存知なのかもしれませんが、これだけの演奏する人が今は全く知られていないのが不思議なくらい。特に協奏曲の演奏は絶品と言っていいでしょう。LPのコンディションも良く、素晴らしい演奏を楽しむことができました。また一枚、宝物が増えましたね。評価はもちろん両曲とも[+++++]といたします。

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tag : ピアノ協奏曲XVIII:3 ピアノソナタXVI:20 LP

ジョナサン・ノット/東響の「浄められた夜」、「春の祭典」(ミューザ川崎)

前週に続き、ミューザ川崎にジョナサン・ノットを聴きに行きました。

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フェスタ サマーミューザ KAWASAKI 2017 東京交響楽団オープニングコンサート

前週に聴いた細川俊夫の「嘆き」とマーラーの「復活」ががあまりに素晴らしかったので楽しみにしていたコンサート。この日のプログラムはジョナサン・ノット(Jonathan Nott)指揮の東京交響楽団でシェーンベルクの「浄められた夜」にストラヴィンスキーの「春の祭典」の2曲。小規模な弦楽合奏に大規模オーケストラの代表曲という絶妙な組み合わせ。これがジョナサン・ノットで聴けるということで、聴く前から期待に胸膨らみます。

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このコンサートはミューザ川崎で毎年行われている夏の音楽祭「フェスタ サマーミューザ KAWASAKI 2017」のオープニングコンサート。チケットも通常の公演より安いので何らかの助成があるのでしょう。

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東京も川崎もこの日は酷暑。日なたにいると干物になってしまいそうな強烈な日差しの中、コンサートを楽しみにミューザに向かいました。川崎駅からデッキで直結という便利な立地にもかかわらずホールに着くと汗だく。開演40分前に到着しましたが、幸い既に開場していましたので勝手知ったる2階のドリンクコーナーに直行。ビールで喉を潤します。このビールがよく冷えてて実にうまい。ミューザのドリンクコーナーは年配のバーテンダーのような方が睨みを効かせていて、なかなかサービスが良いのでお気に入りです。

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この日の座席は3階のオケ右。上からオケを見下ろすような席でした。ステージいっぱいにパーカッションなどが配置されていますが、前半の浄められた夜は弦楽合奏の皆ので、前の方にまとめられた小編成の席がオケの配置になります。

プログラムとしては春の祭典が目当てで取ったチケットでしたが、前半の浄められた夜は絶品の出来。前週の細川俊夫の精妙な響きは堪能していたんですが、それをさらに上回る精妙さを聴かせてくれました。

この浄められた夜の刷り込みはカラヤン/ベルリンフィルの弦楽合奏版とラサールクァルテットらによる弦楽六重奏版。特に1970年代の凄みのあるベルリンフィルの弦楽陣の分厚い響きが印象に残っていました。実演でこの曲を聴くのは初めてです。解説にはこの曲の元になったリヒャルト・デーメルの詩の訳が掲載されていて、この詩を読んでこの曲を聴くのは初めてでしたので、曲の理解が深まりました。

冒頭からノットが静寂感をベースに各パートのフレーズをかなり丁寧にコントロールして、静かな夜の情景を彷彿とさせる静謐なアンサンブルを聴かせます。東響のメンバーも見事にノットの棒に応えて緻密な演奏。カラヤンの唸るような分厚い弦の響きが頭に残る中、冷たい空気に満たされた暗い夜空のような空気感に驚きます。まさに精緻な響き。そして曲が進むにつれて弦の響きの艶やかさと、弦の響きの余韻までコントロールされ尽くしたアンサンブルの美しさにさらに耳を奪われます。観客もノットの棒から繰り出される緻密な音楽にのまれるように集中して聴いています。繊細な感情の変化を実にデリケートに扱い、特に後半の第4部「君の身ごもっている子供をきみの心の重荷と思わないように」との詩に対応する部分の深く暖かい響きは印象的、そしてさざめくようなトレモロの美しさ等、ノットの得意とするダイナミクスとは異なる非常にデリケートな弦の扱いに鳥肌がたたんばかり。この第4部の美しさは絶品でした。そして最後の第5部の最後の消え入るような響きの美しさ。最後の音の余韻が静寂に吸い込まれ、ノットがタクトを下ろしながらオケの熱演を両手で讃えようと手を少しあげかかったところで会場からの惜しみない拍手の波に包まれました。いやいや素晴らしい。この曲に込められた心の変化を見事に表現しきった絶美の演奏でした。東響の弦楽陣も絶美。この演奏を共有した観客の感動の深さが伝わるような心がこもった拍手が続き、ジョナサン・ノットも演奏の出来に満足気。前半からあまりに素晴らしい演奏にこのチケットを取って良かったと感慨しきり。

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休憩時間のホワイエは笑顔に包まれた観客がくつろぐ姿が印象的でした。

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そして休憩中に春の祭典に向けて、ステージいっぱに席を作り直し、重要な役割をもつパーカッション奏者が楽器の鳴りを確かめるようにステージ上で調整を始めます。中でもグランカッサは休憩中から不気味な重低音をホール内に轟かせ、まるでスーパーの試食品コーナーのホットプレートが放つ香ばしい焼けた香りが客の購買意欲を煽るように、次なる春の祭典の大爆発を予感させ、休憩中の観客の期待を煽っていました(笑)

お目当ての春の祭典は期待通りの素晴らしい演奏でした。出だしのファゴットから東響は素晴らしい演奏。もちろん春の祭典は手元に色々なアルバムがあり、実演でもカンブルラン/読響のフランスのエスプリ香る演奏を聴いています。録音でもブーレーズの新旧名演、コリン・デイヴィスのコンセルトヘボウの空気ごと揺らす怪演、アバドの鋭利な刃物のような切れ味、マゼールのおどろおどろしい外連味、ムーティのスーパーカーのようなスピード感など、それぞれ指揮者の個性が生きる曲でもあります。ノットは出だしで持ち前のデリケートなコントロールで現代音楽としてのキレ味よりもメロディーの美しさにスポットライトを当て、最初はノットらしく非常に丁寧な入り。ただ、曲が進むにつれてオケもノットのタクトが非常に細かく指示する通りにコントラストを上げ、すぐに響きの渦を巻き起こすように炸裂。細かくテンポを変えるノットの指示にしっかりと追随して見事な演奏を聴かせます。やはりダイナミクスのコントロールはノットの真骨頂。緻密に表情を変えながら曲の本質をしっかりと見据えて大局的な視点で曲の頂点を見据えてオケを煽ります。ここぞという時の爆発力はその前後の緻密なコントロールによって鋭利さと迫力を見事に演出します。ノットの体の動きが奏者にわかりやすいのか各パートもノットの意図通りにダイナミクスをコントロールできているので全体として見事な統一感に包まれます。第二部の「乙女の神秘的な踊り」の最後の11発のど迫力の打撃から始まる終盤への畳み掛けるような展開は、静寂と爆発のコントラスト操縦の見事さを見せつけ観客を圧倒。ここにきて3階席だと打楽器陣の低音の圧倒的な音量の反射に他の楽器の演奏が埋もれてしまいます。つくづくもう少し良い席を取っておけば良かったと反省。そんなこととは関係なくオケは大爆発を続け、最後の「生贄の踊り」は打楽器陣が快演。ティンパニの刻むの鋭いリズムに皆が引っ張られるように乱舞。グランカッサも銅鑼も荒れ狂うリズムに乗って渾身の一撃を繰り返します。この音楽を書いたストラヴィンスキーの尋常でない狂気の冴え方に圧倒されながらのオケの熱演に身を任せます。最後の一撃が観客全員にぶっ刺さって観客も腰が抜けたことでしょう。もちろん嵐のような拍手とブラヴォーで場内騒然でした。ノットも演奏に満足したのか、何度も拍手に呼び戻される度に深々と観客に一礼していました。

やはりジョナサン・ノットは只者ではありませんね。繰り出す音楽の幅の広さが違います。コジ・ファン・トゥッテで聴かせた鮮やかなモーツァルトに細川俊夫の静謐な響き、マーラーの雄大さ、そしてこの日のシェーンベルクの精妙な弦のコントロール。とどめは春の祭典のダイナミクスの表現。東響とは2026年までと異例の長期契約を結んだとのことですので、ノットも東響とこのミューザでの演奏がお気に入りなのでしょう。これからも目が離せませんね。

ノットと東響は10月にハイドンの86番とチェロ協奏曲のプログラムがあるんですね〜。また12月にはドン・ジョバンニも。もちろん両方すでにチケットは押さえてあります。ハイドンの交響曲の中から86番を選ぶとはハイドン通でもあります! いやいや、今から楽しみです。

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tag : シェーンベルク ストラヴィンスキー ミューザ川崎

アレクサンドル・スロボジャニクのXVI:48(ハイドン)

またしてもLPです。

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アレクサンドル・スロボジャニク(Alexander Slobodyanik)のピアノによる、ハイドンのピアノソナタ(Hob.XVI:48)、ショパンのマズルカから4曲(No.19、20、21、42)、プロコフィエフのピアノソナタNo.6(Op.82)の6曲を収めたLP。残念ながら録音年に関する記載はなく、またネットを調べても判明しませんでした。LPの状態などから1970年代の録音かなと想像しています。レーベルは露Мелодия(Melodiya) 。

こちらは最近オークションで手に入れたもの。見たことも聞いたこともない奏者のアルバムを手に入れるのは実にスリリングで楽しいものですね。このアルバムの奏者のアレクサンドル・スロボジャニクもそうした奏者で、これまで全く知らなかった人。Wikipediaなどによれば、1941年、現ウクライナ、旧ソ連のキエフ生まれのピアニスト。アルバムの解説では1942年生まれとありますが、どちらが正しいかはちょっとわかりません。7歳でウクライナの西端、ポーランド国境近くにあるリヴィウ(Lvov)にあるリヴィウ音楽院でピアノを学び、その後モスクワ音楽学校でリヒテルの師でもあるゲンリフ・ネイガウスに学び、またモスクワ音楽院でヴェラ・ゴルノスタエヴァに師事しました。1966年に開催されたチャイコフスキー国際コンクールのピアノ部門で4位に入るなどして国際的に名が知られるようになり、以来50年にわたってピアニストとして活躍したそう。1968年にアメリカにデビューツアーを行い、カーネギーホルでのコンサートが評判となり、米ソの文化交流が途絶える1979年までアメリカ、カナダツアーを繰り返していました。9年間のブランクの後、1988年のアメリカツアーはシカゴ・トリビューン紙から「勝利の帰還」と称賛されました。以後欧米の主要なオケとの共演するなど国際的に活躍し、亡くなったのは2008年とのこと。欧米での活躍に比べ日本での知名度は今ひとつだったのでしょう。

このスロボジャニクの弾くハイドン、これがなかなか凄みを感じさせる演奏なんですね。

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Hob.XVI:48 Piano Sonata No.58 [C] (1787/9)
適度に残響が含まれる澄んだピアノの響きの美しさが感じられる録音。冒頭からデリケートなタッチで豊かな詩情を醸し出す演奏。それでいて徐々に直裁なタッチも垣間見せ、霊気を帯びたような独特の雰囲気にただならぬ迫力を感じます。スロボジャニクの特徴はこの雰囲気のある直裁なタッチでしょう。1楽章はしなやかな静寂感と強奏部分の力強さとを織り交ぜ聴かせたりと表現の幅の大きさを印象付けます。この曲は2楽章構成。続くプレストへの入りは微風のような爽やかさを感じさせる絶妙なもの。軽やかなタッチでコミカルなメロディーを刻み徐々に強音を織り交ぜていくタッチの鮮やかさは流石なところ。短い楽章ですが聴きごたえ十分。この小曲でも冷静に起伏をつけながらこれだけの表現の変化を聴かせる手腕は見事でした。

続くショパンのマズルカはちょっと録音の印象が変わってハイドンの方が鮮度が高く音がいいですね。スロボジャニクの演奏はハイドンと同様の傾向を感じますが、ショパンとしてはかなり辛口の演奏でしょう。そして裏面のプロコフィエフも録音はショパンと同様。スロボジャニクの冴え冴えとしたタッチの魅力と迫力にはこの曲が一番合うでしょう。音が飛び散るようなプロコフィエフ独特の雰囲気を見事に表現しています。このアルバムの聴きどころはハイドンと並んでこのプロコフィエフでしょうね。

このハイドンの演奏で思い起こしたのは若い頃のグールドのキレ。もちろんグールドの強烈な個性とは比べられませんが、変幻自在のタッチのコントロールとその鮮やか、そして主情を排した冷徹な雰囲気はグールドに近い凄みを感じます。また硬めのピアノの音色もそう思わせるのでしょうね。現在入手できる音源は少ないものの、この見事な演奏から往時の凄みは感じることができました。ハイドンの評価は[+++++]といたします。

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tag : ピアノソナタXVI:48 LP

【新着】飯森範親/日本センチュリー響の交響曲集第2巻(ハイドン)

進行中の「ハイドンマラソン」プロジェクトの第2弾がリリースされました!

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TOWER RECORDS / amazon / ローチケHMVicon

飯森範親(Norichika Iimori)指揮の日本センチュリー交響楽団(Japan Cetury Symphony Orcestra)の演奏による、ハイドンの交響曲14番、77番、101番「時計」の3曲を収めたSACD。収録は2015年9月25日、大阪のいずみホールでのライヴ。レーベルは日本のEXTON。

このアルバム、冒頭に記したように大阪をホームグラウンドとする日本センチュリー交響楽団とその首席指揮者の飯森範親が8年をかけてハイドンの交響曲全集を演奏しようとする「ハイドンマラソン」という企画の第2回のコンサートの模様をライブ収録したもの。もちろん、第1巻のアルバムも取り上げています。

2016/11/19 : ハイドン–交響曲 : 【新着】飯森範親/日本センチュリー響の交響曲集第1巻(ハイドン)

この企画についてと、飯森範親の略歴などについては前記事をご参照ください。

第1巻がリリースされた時には、ハイドン・マラソンという交響曲全曲演奏会を集録したにもかかわらず、帯には「交響曲集Vol.1」というだけで、レーベルとしては全集という踏ん切りはついていないと理解していました。とりあえず1巻以降の数巻の売り上げが、今後継続して録音がリリースされるかの鍵を握ることになろうかと思います。ハイドン啓蒙を旨とする当ブログがそれを応援しないわけには参りませんので、しばらくはリリースされるアルバムをレビューして行こうかと思っております。演奏の内容については、第1巻の内容やNHKで放映された映像を見ても十分全集に耐えるものと思っていますが、心配なのはSACDフルプライスでの1巻ずつの進行。第1巻よりも第2巻が値上がりしているのも気にかかるところ。膨大なハイドンの交響曲の全集をフルプライスで揃えるのはなかなか大変だということを考えると、リリース展開がどこまで先を見ているのかが少々気がかりではありますね。

さて、肝心の演奏について触れることにいたしましょう。

Hob.I:14 Symphony No.14 [A] (before 1764)
冒頭からいきなり落ち着いた演奏なので、調べてみると実際のコンサートプログラムでは冒頭ではなく後半に演奏されていたことがわかりました。アレグロ・モルト、アンダンテ、メヌエット、フィナーレという構成。1楽章は第1巻でちょっと力みが感じられたのとは異なり、適度な緊張感はあるものの、非常にリラックスしての演奏。もう少し躍動感を強調してくると踏んでいましたが、これはこれでいい演奏でしょう。録音は第1巻同様、透明感のある日本的なHi-fi録音。ヴァイオリンパートはシルキーな音色できっちりとしたボウイング。ハイドンの初期の交響曲のフレッシュな感じも出ています。
良かったのがアンダンテの丁寧なフレージング。この素朴なメロディーを丁寧に描くことでハイドンの音楽の深みをしっかりと表現できています。淡々と描かれる音楽にこそ、音楽そのものの美しさが宿ります。
そしてメヌエットでは、テンポを上げ、音楽の起伏をクッキリと出し始め徐々に音楽が快活さを取り戻します。全てのパートの奏者のエンジンがかかった感じ。中間部ですっとリラックスし、再びメヌエットで華やかに。
フィナーレも適度に落ち着いた演奏なのが実にいい感じ。上下に展開する音階が舞う中しっかりとした足取りで冷静な曲の運びが印象的でした。

Hob.I:77 Symphony No.77 [B flat] (1782?)
実際のコンサートではこの曲が冒頭に演奏されていたようです。前曲同様落ち着いた演奏ですが、冒頭に置かれたぶん奏者も挨拶代わりということで、クッキリとしたメリハリをつけて、音楽も心なしか明るい方向にシフトしている感じ。明るいトーンでまとめられたオケが躍動します。展開部での転調の面白さが聴きどころですが、あまりハッタリをかませることなく正攻法でオーソドオックスにまとめてきます。要所がキリリと引き締まっているので、音楽の構成も明快。
続くアンダンテは前曲同様、丁寧な演奏、丁寧な録音相まって実に聴きごたえ十分。ハイドンが仕込んだいたずらがそこここに仕掛けられており、それに対応しながらだんだん変化していく曲の面白さがしっかりと描かれます。
非常に変わった響きが特徴のメヌエット。ここでは日本センチュリー響のシルキーな弦の美しい響きが活きていますね。広いホールの自然な残響が美しい録音。
フィナーレはハイドンのコミカルなメロディーを冷静に綺麗にまとめた感じ。ライヴ録音ですが、演奏はセッション録音のような完成度と冷静さを保っています。演奏の完成度は非常に高いものがあります。

Hob.I:101 Symphony No.101 "Clock" 「時計」 [D] (1793/4)
このシリーズ最初のザロモンセットの曲。予想通り冷静精緻な序奏から入りますが、ここにきてようやくライヴらしい勢いが出てきました。主題は覇気が漲り、躍動感もでてきました。時計の聴きどころは1楽章の緊密な構成感とする私にとっても、なかなかいい線いっている演奏です。いい意味でオケも荒々しさが出てきて、これまでの曲とは異なる次元の迫力を帯び、独特の高揚感に包まれます。
時計のアンダンテはリズムの刻みが丁寧なのが飯森流でしょう。変化に富んだアクセントのつけ方も曲の華やかさを増すなかなかいいアイデア。録音が鮮明なので音数も豊富に聴こえます。やはりここでもオケの迫力に圧倒されます。
メヌエットも前楽章のエネルギーを引き継ぐように、力感に富んだ入り。第1巻で少々感じが無理な力みはなく、曲の格に応じた力の入り方。これまでオーソドックスに来ましたが、メヌエットの中間部のテンポを上げたフルートの流れるような演奏は、ちょっとした変化球でハッとさせられます。これは面白いアイデア。ただメヌエット自体の演奏は若干一本調子な印象も持ちました。この辺がハイドンの難しいところでしょう。
フィナーレも正攻法による迫力の演奏。ここまでの演奏の総決算とばかりにオケに力が漲りますが、コントロールの冷静さは失われず最後までキリリとひきしまった演奏でした。実演では畳み掛けるような煽りを期待するところですが、録音を意識してか燃焼度よりは完成度を意識したコントロール。複雑に入り組むメロディーの面白さは少々後退して丁寧に響きを整えながらのフィニッシュでした。

飯森範親と日本センチュリー管による期待のハイドンの交響曲集の第2巻。第1巻に垣間見られた力みはなくなり、演奏もこなれて来た印象。第1巻よりも確実に良くなっています。非常に丁寧に演奏しているのが印象的で、指揮者の個性よりも曲の素の姿をきっちり描こうとしているような演奏で、そういった意味では日本的な演奏だと思います。アイデアのキレ、アーティスティックさよりも、質の高い細密画をあしらった図鑑のように、1曲1曲をきっちり紹介して行くスタイルを意図しているのではないかという印象。これまでのハイドンの全集とは異なるアプローチですね。また、鮮明な響きを再現する録音もそうした傾向を感じさせるのかもしれませんね。この巻では14番と77番は曲の魅力をしっかりと表現できていて気に入りました。評価は前2曲が[+++++]、時計は[++++]としました。

さて、第3巻のリリースの準備も進んでいることでしょう。さらなる進化を期待してリリースを待ちましょう。

最後に個人的な意見を少々。このアルバム、ジャケットの見た目は第1巻とほぼ同じ。今後何巻かリリースされると、同じデザインのジャケットが並ぶことになりそうですし、ダブり買いのリスクも高いです(笑) これまで色々出ているシリーズものでは基本デザインは揃っていても1巻1巻色々と工夫されていて、それがコレクション欲を刺激することもしばしば。このシリーズ、ジャケットにもう少し工夫が欲しいところです。現在進行中のアントニーニの交響曲全集などジャケットが実にアーティスティックで素晴らしいので購買意欲をくすぐるんですね〜。

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インバル/都響のマーラー「大地の歌」(東京芸術劇場)

前日のジョナサン・ノットの「復活」に続き連日のマーラー! 別にハイドンに愛想を尽かした訳ではありません(笑)

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東京都交響楽団:都響スペシャル

プログラムはエリアフ・インバル(Eliahu Inbal)指揮の東京都交響楽団の演奏で、マーラーの交響詩「葬礼」と「大地の歌」の2曲。コントラルトにアンナ・ラーション(Anna Larsson)、テノールにダニエル・キルヒ(Daniel Kirch)。

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こちらも最近行ったコンサートでチラシを見てチケットを取りました。インバルのマーラーはDENONのワンポイント録音の4番、5番あたりが話題になった時に5番のアルバムを手に入れ、その後かなり後に8番千人を手に入れたくらいで、その後はほとんど聴いていません。手元の5番のアルバムがリリースされたのが1986年ということで、かれこれ30年以上前のことになりますね。この頃のインバルのマーラーは非常に見通しの良い透明感に溢れた演奏。世の中ではバーンスタインの濃厚なマーラーが話題をさらっていました。私はこの頃までに、実演では小澤/新日本フィルの8番、カラヤン/ベルリンフィルの6番、アバド/ロンドン響の5番などを聴いていましたが、インバルのマーラーはちょっとアクがなさすぎて録音という面以外ではあんまり印象に残っていなかったのが正直なところ。ところが最近リリースされているアルバムやコンサートはなかなかいい評判ではありませんか。ということで、最近の充実ぶりを聴いてみようということでチケットを取った次第。都響はつい前週にミンコフスキのハイドンとブルックナーを聴いていますので2週連続ですね。

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最近東京は猛暑続き。ということで、池袋の東京芸術劇場に着くと、すでに汗だく。1階エスカレーターの裏にあるカフェでビールを煽って、クールダウンしながら開場時刻を待ちます。

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この日のコンサートは発売開始後しばらくしてから取ったものなので、あまりいい席は取れませんでした。2階席のいつもの右側ですが、3階席が庇のように張り出た下ということで、オケへの視線は確保できるものの、ちょっと圧迫感のある席。

1曲目は前日にジョナサン・ノットと東響の素晴らしい演奏の興奮さめやらん、マーラーの「復活」の1楽章の原曲。細かい部分はともかく、ほぼ「復活」の1楽章そのままの曲ということで、前日の演奏との嫌が応にも比較してしまいます。

ジョナサン・ノットのオケの配置は左右に第一、第二ヴァイオリンが別れコントラバスが第一ヴァイオリンのすぐ横にくる編成なのに対し、この日のインバルはオーソドックスに右にチェロ、その後ろにコントラバスというもの。席がオケから遠いのでその違いを視覚的に感じるのが精一杯でしたが、ノットがコントラバスを重要視していたのに対し、インバルはバランスを重視していたよう。

1曲目は、ジョナサン・ノットが新鮮なフレージングで常に緊張感を保っていたのに対し、インバルは流石に王道を行く安定感とバランスの良さ。オケの風圧は座席の影響を受けますが、1楽章中程の爆発は流石に大迫力。昔ほど透明感重視ではなく、オケをよく鳴らし、迫力も流石と思わせる演奏。私の印象ではこの曲では前日のノットの新鮮な解釈に分がありました。もちろん観客は拍手喝采でインバルを讃えます。この時点で私のインバルの演奏への印象は昔の演奏からは大分深みを感じられるようになったというもの。

ところが、休憩後の「大地の歌」を聴いてその印象も吹き飛びました。この大地の歌には心底驚きました。まさに奇跡の名演と言っていいでしょう。ワルターやクレンペラーの録音はそれこそ擦り切れるほど聴きましたが、今日のインバルの演奏はそれをはるかに超えるこの曲の凄みと深みの淵を見せてくれる圧倒的なものでした。大地の歌の特徴的な響きの中にも艶やかで流麗な響きをうまく救いあげて、晩年のカラヤンを上回る耽美的な美しさ、ジュリーニやアバドらのイタリアの指揮者の伸びやかさを、節度あるコントロールでまとめ上げ、響きの一つ一つを非常にデリケートに扱いながら、この曲に潜む厭世観を見事に表現仕切っていました。

オケは上手いというレベルではなく、インバルの流麗な棒に乗って妖艶な響きを聴かせ、ソロや静けさには凄みを感じさせるほど。何と言ってもホルンやトロンボーンのブワッっと響く大地の歌特有の響きの迫力も素晴らしいものがありました。これが日本のオケとはとても思えない素晴らしい響き。私は生で大地の歌を聴くのはこれがはじめてですが、これほどの演奏に出会うとは思ってもみませんでした。庇の下の席は横にお客さんがいないことを見計らって、休憩後はちょっと横にスライドしたせいか、響きも良く聴こえるようになったのも良かったですね。

コントラルトのアンナ・ラーションはまさに絶唱。アバドとルツェルン祝祭管と2番と3番のブルーレイに登場していますのでマーラーは得意としているのでしょうが、膨よかで艶やかな声は絶品。特に最後の告別はキャスリーン・フェリアの絶唱を過去のものとする現代の深みを感じさせました。テノールのダニエル・キルヒもアンナ・ラーションとは格が違うものの見事な歌唱でこなしていましたね。

告別の最後の一音が消え、インバルがタクトを下ろすと、ジワリと盛り上がる拍手。この大地の歌も都響の演奏史上に残る演奏として語り継がれる価値のある演奏でしょう。インバルという指揮者、今回の演奏会でその素晴らしさがしっかりと刷り込まれました。最近の評判が良いのが良くわかりました。

前日のジョナサン・ノットといい、この日のインバルといい、現在の日本のオケの素晴らしさは一昔前とは隔世の感がありますね。ここまでの演奏を聞ければ、高いチケットを買ってウィーンフィルやベルリンフィルの演奏を聴く価値も揺らごうというもの。インバルのコンサートは要注目ですね。

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tag : マーラー 東京芸術劇場

ジョナサン・ノット/東響のマーラー「復活」(ミューザ川崎)

7月16日(土)は以前からチケットを取ってあったコンサートに出かけました。

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東京交響楽団:川崎定期演奏会 第61回

このチケットを取ったのも、昨年12月に聴いたモーツァルトの「コシ・ファン・トゥッテ」が非常に面白かったからに他なりません。ジョナサン・ノットはフォルテピアノを弾きながらの指揮でしたが、実にイキイキとした音楽を繰り出し非常に引き締まった舞台を作っていたのが印象的でしたが、そのジョナサン・ノットがマーラーを振ったらどうなるのかというのが今回の聞きどころということでチケットを取った次第。

2016/12/12 : コンサートレポート : ジョナサン・ノット/東響の「コジ・ファン・トゥッテ」(東京芸術劇場)

この日のプログラムは下記の通り。

細川俊夫:「嘆き」 ~メゾ・ソプラノとオーケストラのための〜
グスタフ・マーラー:交響曲2番 「復活」

指揮:ジョナサン・ノット(Jonathan Nott) 東京交響楽団
ソプラノ:天羽明恵
メゾ・ソプラノ:藤村実穂子
合唱:東響コーラス

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会場は東響のホームグラウンドで、響きのとても良いミューザ川崎シンフォニーホール。この日の席は2階のオケの真右で上から指揮者とオケを俯瞰できる好きな席。ミューザ川崎は客席が螺旋状にオケを取り囲む座席配置なので、奏者との一体感もあり、サントリーホールや東京オペラシティよりも響きに癖がないのでお気に入りのホールです。1曲目の細川俊夫の曲も大編成のようで、ステージいっぱいに座席が設けられ、ホールに入った時には一部の奏者が音出しをしているのはいつもの通り。この時点でホールの響きの良さがわかります。

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1曲目の細川俊夫の「嘆き」は解説によればこの東日本大震災の津波の犠牲者、特に子供を失った母親に捧げられる哀悼歌とのこと。歌詞はザルツブルクの表現主義の詩人ゲオルク・トラークルによる2通の手紙と嘆きという構成。ザルツブルク音楽祭の委嘱により2011年から12年にかけて作曲され、2013年の同音楽祭でデュトワ指揮のN響、アンナ・プロハスカの独唱で初演。今回はメゾ・ソプラノの藤村実穂子のために書き下ろされた改訂版ということで、2015年5月に京都市交響楽団のヨーロッパ公演の壮行演奏会で広上淳一指揮で初演されたとのこと。私は現代音楽も嫌いではないんですが、細川俊夫の作品は初めて聴きます。手元にもアルバムはありません。

定刻になり、団員が登場。チューニングを終えるとジョナサン・ノットと真っ赤なドレスの藤村実穂子が登壇。ジョナサン・ノットがタクトを下ろすと、精緻な弱音での序奏が始まります。藤村実穂子は最初は手紙の朗読が中心、歌わないかと思いきや、途中から美声を轟かせ、会場の視線を釘付けにします。解説の歌詞対訳を見ながら聴きますが、「最近、恐ろしい出来事があり、私はもはやその影から逃れることができない。(訳:細川俊夫)」と始まるテキストの深い心の傷を表すような暗澹たる印象を感じますが、静寂に響きが浮かび上がるような現代音楽特有の感覚が続き、時折トラアングルやタムタム、風鈴など響きが印象的な打楽器を織り交ぜて色彩感を巧みに表現していきます。響きの精緻さ、美しさは武満に迫るものがあり、日本人らしい清透な感覚に貫かれた素晴らしい響きに満たされます。ジョナサン・ノットは非常に丁寧に響きを作っていき、この曲に込められた心情をしっかりと表現できていたと思います。素晴らしかったのは藤村実穂子のメゾ・ソプラノ。流石に一流どころだけあって圧倒的な存在感でした。最後の一音の余韻が静寂に吸い込まれて沈黙が続き、ノットがタクトをすっと下ろすと万雷の拍手。これは素晴らしかった! 会場が完全にのまれた感じでした。東響も完璧な演奏で最後まで集中力を保ってノットの指示に見事に応えていました。

休憩を挟んで、マーラーの復活。これまた素晴らしかった!

冒頭の唸るような低音弦から東響のコントラバス奏者の迫真の演奏に釘付け。鬼気迫るとはこのこと。ノットのマーラーは初めてですが、フレーズごとに非常に丁寧に曲を描いていくセンスとここぞという時の鋭いアクセントが絶妙。モーツァルトでも感じたフレッシュさを感じさせる音楽づくりがマーラーでもいきていました。その上、この日のオケの集中力は素晴らしく、オーボエのくっきり浮かび上がるようなソロをはじめとして、2台のティンパニ、トランペットなど金管陣も絶品。弦楽器の迫力、特にコントラバスは往時のベルリンフィルのような地響きを伴うようなうねりを感じるほど。1楽章半ばのクライマックスの炸裂で観客の度肝を抜き、完全にノットペースに。これは録音では味わえないもの。そして思った以上にバンダ隊の演奏箇所が多いこともわかりました。
1楽章のほとぼりを冷ますように、ゆっくりとコーラスが入場する間、しばらくノットもオケも静止。2楽章はゆったりとした音楽。こうした音楽でもジョナサン・ノットは華やかさをしっかり感じさせ、くっきりとした印象を保ちます。そして3楽章の「魚に説教するパドヴァの聖アントニウス」は各パートの音色の変化を巧みに強調していきます。ここでもコントラバスとティンパニが大活躍。フレーズごとに変化をさせながらバランス良く統一感を保っているのがノットの非凡なところでしょう。時折グランカッサが微弱音で不気味な気配を感じさせるのも実演で初めてわかること。
4楽章からメゾソプラノの藤村実穂子が入ります。1楽章終わりのコーラスの入場時にもソロの入場がないなと思っていたところに、いきなり藤村実穂子の声が轟きびっくりしますが、どうやら指揮者から見てオケの右側にいたらしく、私の席から死角になっていたようです。やはり艶やかで見事な歌。
最後の長大な5楽章は4楽章の響きが消えかかるところにノットが振りかぶって渾身の一撃から始まります。オケもこれまでノットのタクトに俊敏に反応して大音響を轟かせてきましたが、この静寂を断ち切るような大音響こそマーラーの真髄。このキレ味はこのコンビの現在の調子を物語るようですね。そしてそれに続いて美しい牧歌的なメロディーが流れ、曲が進みます。ここでもバンダ隊の金管陣とステージ上のピッコロとの掛け合いが見事にキマリます。終楽章でようやくコーラスが登場しますが、思ったより終盤の出でしたね。そして最初は座ったまま精妙な弱音のハーモニーを聴かせます。このコーラスの純度の高い響きも素晴らしかった。そしてソプラノの天羽明恵とメゾ・ソプラノの藤村実穂子も加わり、壮大なクライマックスへノットが最後の煽りをかけていきます。驚いたのはそれまでトライアングルやグロッケンシュピールを担当していたパーカッションの女性が終盤ティンパニの横に移動し、2台のティンパニを3人で同時に演奏する場面があること。これが楽譜の指示かはわかりませんが、巧みに書かれた大曲にも意外に細かい工夫があることがわかりました。最後は未曾有の迫力で鐘が打ち鳴らされながらのフィナーレ。観客もこのクライマックスには我慢できず、最後の音が消える前に大拍手に包まれました。これは致し方ないでしょう。

私が聴いたマーラーの演奏では間違いなく一番素晴らしかった演奏。昔小澤征爾が新日本フィルを振った千人も素晴らしかったですが、ジョナサン・ノットは見事なコントロールでこの大曲の真髄に迫る圧倒的な迫力と情感溢れる美しい響きをバランス良くまとめ上げました。拍手は弱まる気配を見せず、何度もジョナサン・ノットと歌手、合唱指揮者が呼び戻され、この日の素晴らしい体験を共有した観客と喜びを分かち合っていました。ノットは定年退団するメンバーを讃え、観客もひときわ大きい拍手を送っていたのが印象的でした。これは東響の演奏史に残る名演と言っていいでしょう。

これは東響とジョナサン・ノット、今後も楽しみですね。

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tag : マーラー ミューザ川崎

ダヴィド・ゲリンガス/北ドイツ放送響のチェロ協奏曲2番(ハイドン)

お宝アルバム、見つけました! ディスクユニオンの店頭で見かけたとき、もちろん過呼吸気味(笑)

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ダヴィド・ゲリンガス(David Geringas)のチェロ、ヴォルデマール・ネルソン(Woldemar Nelsson)指揮の北ドイツ放送交響楽団(Das Sinfonieorchester des Norddeutschen Rundfunks)の演奏で、ハイドンのチェロ協奏曲2番、プロコフィエフのチェロ協奏曲Op.132の2曲を収めたLP。収録は1979年7月、ハンブルクにてとだけ記されています。レーベルはeurodisk。

ダヴィド・ゲリンガスといえばチェロの名手。特にハイドンの演奏はどれも素晴らしいもので、当ブログでも色々取り上げています。

2014/07/05 : ハイドン–協奏曲 : ダヴィド・ゲリンガス/チューリンゲン・ヴァイマル室内管のチェロ協奏曲2番(ハイドン)
2014/03/23 : ハイドン–室内楽曲 : ダヴィド・ゲリンガス/エミール・クラインのバリトン二重奏曲集(ハイドン)
2013/11/14 : ハイドン–室内楽曲 : ゲリンガス・バリトン・トリオのバリトン三重奏曲集(ハイドン)
2013/09/14 : ハイドン–協奏曲 : ダヴィド・ゲリンガス/チェコフィルのチェロ協奏曲集

今日取り上げるチェロ協奏曲の2番については、レビューに取り上げた2002年録音のチューリンゲン・ヴァイマル室内管との演奏、1993年録音のチェコフィルとの演奏の2種よりさらに古く1979年の録音。ゲリンガスは1946年生まれということで、33歳という年齢での録音となります。ジャケットに写るゲリンガスの姿も若い! これまでも色々な奏者の演奏を色々聴いてきましたが、後年有名になった奏者の若い頃の録音はおしなべて覇気に溢れた素晴らしい演奏であることが多いですので、今回入手したアルバムも期待すること大であります。

ゲリンガスの略歴についてはチェコフィルとの協奏曲の記事をご参照ください。

指揮者のヴォルデマール・ネルソンははじめて聴く人。1946年、ウクライナやベラルーシ国境に近いロシアのクリンツィ(Klinzy)生まれの指揮者で、1976年に西ドイツに亡命し、以後国際的に活躍した人とのこと。ロシア時代はヴァイオリニストとして中央ロシアのノヴォシビルスク交響楽団で活躍し、その後指揮を学んで、コンドラシンに見出されてモスクワフィルのアシスタント指揮者となり、オイストラフ、ロストロポーヴィチ、クレーメルなどの奏者と共演したり、ペルトやシュニトケと親交を持ったそう。亡命後はこのアルバムのオケである北ドイツ放送響とツアーを行い、西ドイツに定住。それまでオペラを振った経験がないにもかかわらずバイロイトに招かれローエングリンやさまよえるオランダ人を振ったそう。またカラヤンの招きでザルツブルク音楽祭に参加し、ペンデレツキのオペラを初演するなど、日本ではあまり知られていないもののなかなかの経歴の持ち主ですね。亡くなったのは2006年とのことです。

Hob.VIIb:2 Cello Concerto No.2 [D] (1783)
LPのコンディションは最高。柔らかなオケの序奏が心地よく響きます。律儀でオーソドックスなオケの入り。ゲリンガスのチェロはいきなりむせび泣くように入ります。健康的に響くオケに対しちょっと影のある音色で深みを感じさせます。徐々にオケの各パートもゲリンガスの音色に寄り添うようになっていくのが面白いところ。徐々にゲリンガスは深みのある響きを繰り出し、非凡なところを感じさせ始め、特に高音域の独特の輝きが眩しくなってきます。オケの方も純度の高い音色でゲリンガスのソロに呼応。オケは迫力よりは純度というか透明感で聴かせる感じ。これがヴォルデマール・ネルソンのセンスでしょう。中盤からはゲリンガスの美音とのびのびとしたボウイングに釘付け。この若さですでに至芸と言っていいでしょう。常に冷静に室内楽のように精妙にサポートするオケも非常にいい感じ。聴き進むうちにハイドンのめくるめくような名旋律の美しさにのまれるよう。1楽章のカデンツァはゲリンガスの自作。ここにきてゲリンガスの表現意欲が炸裂。糸を引くように美音を重ねて孤高の演奏が続きます。力まずまるで老成した奏者のような自在なボウイングの魅力を聴かせます。なんでしょう、この気高さは。
アダージョは、もはや燻し銀の響きと言っていいでしょう。1楽章では律儀に振っていたネルソンもここではゆったりと深い音楽を創り、ゲリンガスの音楽にスタイルを合わせてきます。ゲリンガスもネルソンも枯淡の境地。この楽章のカデンツァ、深い。オケの響きが消えた後の静寂にゲリンガスのチェロの響きだけが静かに置かれる名演奏。心が鎮まる音楽です。
そしてフィナーレでもオケはしなやかなまま。ゲリンガスのボウイングは力が抜けて魂そのものの音楽のように昇華されていきます。途中からオケが襟を正すように響きがフレッシュになって響きを引き締めることで曲が締まります。最後のカデンツァは音量を落として神がかったような透明感。ゾクゾクします。最後もオケがキリリと締まって曲を終えます。

いやいや絶品。ゲリンガスのこの曲の演奏の中で最もゲリンガスの個性が良く出た演奏と言っていいでしょう。サポートするヴォルデマール・ネルソン指揮の北ドイツ放送響も実に味わい深い演奏で華を添えます。今一度ジャケットに写るゲリンガスの表情を眺めると、ほのかに微笑むような優しい表情でこちらを見つめていますが、その表情にこの演奏の味わい深い響きがオーバーラップして見えるのは私だけでしょうか。若きゲリンガスが世に問うた素晴らしい演奏と言っていいでしょう。これは宝物になりそうです。もちろん評価は[+++++]とします。

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tag : チェロ協奏曲 LP

マルク・ミンコフスキ/都響の102番(東京文化会館)

昨日7月10日は気になっていたコンサートに出かけました。

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東京都交響楽団:第836回定期演奏会Aシリーズ

場所は上野の東京文化会館。プログラムはマルク・ミンコフスキ(Marc Minkowski)指揮の東京都交響楽団の演奏で、ハイドンの交響曲102番、ブルックナーの交響曲3番(ノヴァーク1873年初稿版)の2曲。もちろんお目当はハイドンです。

ミンコフスキはハイドン好きの方ならご存知のことでしょう。主兵のルーブル宮音楽隊とのザロモンセットやチェチーリアミサの録音があり、当ブログでもかなり前に取り上げています。

2012/05/18 : ハイドン–声楽曲 : マルク・ミンコフスキ/ルーブル宮音楽隊によるチェチーリア・ミサ
2010/05/15 : ハイドン–交響曲 : 流石だったぜ、ミンコフスキ
2010/05/15 : ハイドン–交響曲 : 古楽器新世代、弾む機知
2010/05/14 : ハイドン–交響曲 : ミンコフスキのザロモンセット到着

ザロモンセットの方は太鼓連打の奇抜な入りといい、遊び心たっぷりの演奏は世評もかなり良かったように記憶しています。録音では聴いていたものの、この演奏スタイルは是非一度生の演奏を聴いて見たいと思っていた人でした。そのミンコフスキが来日してハイドンの、それも実に通好みの102番を振ると聞いてチケットをとった次第。

ミンコフスキは1962年パリ生まれと私と同世代。米ピエール・モントゥー・スクールで指揮を学び、1982年に自身でルーブル宮音楽隊を設立し、バロックオペラを中心に活動してきました。ハイドンでは上記の通り、ザロモンセットの録音が話題になりましたね。有名オケとの共演歴も豊富で、ベルリンフィル、ウィーンフィル、シュターツカペレ・ドレスデンなどを筆頭に各地のオケに招かれています。あんまり知りませんでしたが、来日歴も何度かあり、このコンサートでのオケである都響は2014年8月、2015年12月に続き3回目の客演とのこと。また手兵のルーブル宮音楽隊ともハイドンの没後200年の2009年に初来日以降、2013年にもコンサートを開いていますし、2012年からオーケストラ・アンサンブル金沢のプリンシパル・ゲスト・コンダクターを務めるなど、意外と日本で活動していることがわかりました。

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この日のコンサート会場は東京文化会館。昔はコンサートといえばここが定番でしたがサントリーホール、東京オペラシティ、すみだトリフォニーと新しいホールができて、ここ東京文化会館に来るのは実に20年ぶりくらい。上野には美術館には適当な頻度で来るのですがコンサートでは来なくなっていました。

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先日向かいのル・コルビュジエ設計の国立西洋美術館が世界遺産に登録されていますが、その日本での一番弟子格であった前川國男設計の東京文化会館は意外に綺麗にメンテナンスされていて、ホワイエに入ると広々とした空間が実に心地よい。やはり名建築ですね。ただ、長年の利用の慣習か什器などが雑然と置かれ、空間の気高さに比べてちょっと雑然とした印象なのが惜しいところ。もう少し綺麗に使ってあげて欲しいところです。

ホール内部もカラフルなシートと昔から変わらぬ壁面の木製のオブジェ的装飾など懐かしい限り。ホール内を見渡し懐かしがっているうちに定刻となりオーケストラの団員が登壇。拍手に迎えられてミンコフスキも笑顔で登場しました。

前半はハイドンの102番。ミンコフスキがタクトを下ろすと音量とテンポを落とした序奏が丁寧に描かれ進みます。オケは出だしだからかちょっと不揃いなところもありましたが主題に入るとミンコフスキ特有の弾力的なリズムと推進力がみなぎり、オケも調子が出てきます。ことさらノンヴィブラート風に演奏するのではなく、躍動感、高揚感を保つよう非常に細かくタクトを震わせオケを煽っていくのが特徴でしょうか。ルーブル宮音楽隊とのザロモンセットの録音でも102番は名演ですので、その録音のオケと比べて聴くとオケの反応の鮮やかさに差があるのは致し方ないところ。ですが、現代楽器のオケによる演奏では、音楽のヴォリューム感というか大きな構造のバランスの良さがよく感じられる面もありますね。1楽章は流石ハイドンを得意とするミンコフスキ、手堅くまとめた印象。
柔らかく美しいアダージョは奇を衒うことなく比較的速めのテンポで色彩感とアゴーギクの面白さを生かした演奏。惜しむらくは、この東京文化会館の硬く乾いた響きで本来ならばもう少し感じられるであろう潤いに欠けていたこと。これはホールの所為でしょうが、都響のホームグラウンドですのでやむを得ないでしょう。
メヌエットは予想通り軽やか、そして生での聴きどころであるフィナーレもオケのキレと高揚感が素晴らしく聴きごたえがありました。意外と言ってはなんですが、都響もこの曲も終盤になると弦パートを始めとしてなかなかの切れ味。都響を聴くのも実に久しぶりですので改めて最近の充実ぶりがうかがえました。もう一つ流石だったのはミンコフスキが古典のハイドンの整然とした印象を保っていたこと。流石ハイドンを得意としている人ですね。

もちろん会場からは期待通りの演奏に拍手が降り注ぎました。

休憩後はブルックナーの3番。しかもノヴァーク1873年初稿版ということで、非常に珍しい版での演奏。解説によるとよく演奏されるのはノヴァーク第3稿でこの1873年版の16年後の版。ブルックナーは自身の曲をなんども修正したことで知られますが、この3番も今回演奏される版は作曲当初の若書きの部分があったりという版とのこと。ブルックナーは嫌いではないんですが、3番はほとんど馴染みがない上に、この若書き版ということで、非常に新鮮に聴けたんですが、、、 ブルックナーとは荘重に響くものという思い込みを木っ端微塵に打ち砕く、ミンコフスキならではの創意というか独創的な解釈というか、もしかしたらハイドンの驚愕で聴かせた悪ふざけというような演奏。速めのテンポでオケをグイグイ煽りながらバリバリ鳴らし、響きの変化とダイナミクスの変化を畳かけるように聴かせる演奏。ブルックナーに詳しい方にこの解釈の評価はお任せすることにして、私自身は驚きというか、違和感というか、アンマッチ感覚を覚えたのが正直なところ。それでも素晴らしかったのはオケの熱演。特にヴィオラやヴァイオリンの熱気は素晴らしく金管も安定感抜群。とにかく良くオケが鳴った演奏でした。

演奏が終わると、オケをフルスロットルで鳴らしきった充実感から、盛大な拍手とブラヴォーが降り注ぎましたが、一方瞬時に席を立って帰るお客さんも目立ち、ミンコフスキの解釈の評価は割れた感じでした。確かにオケの迫力とミンコフスキのコントロールは素晴らしかったんですが、これがブルックナーかと言われると、私は前衛的でちょっと奇異な解釈という印象を受けました。もちろん、私がブルックナーを語れる立場でもなく、一個人の感想に過ぎませんが、ハイドンの演奏でも前衛的で素晴らしい演奏があるのに対し、前衛的でちょっとハイドン本来の魅力をスポイルしてしまっている演奏もあり、どちらかというと後者に近い印象でした。

まあ、私のお目当のハイドンについては前半の素晴らしい演奏で満足しておりますので、この日の目的は達成というところでした。

ミンコフスキは今後も来日公演が予定されているようですので、またの機会にその音楽を確かめたいと思います。

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tag : 交響曲102番 東京文化会館

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Author:Daisy

なぜかハイドン(Franz Joseph Haydn)が特に気に入り膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。東京在住のごく普通のサラリーマンです。

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