ダニエル・ブルグ/カメラータ・ド・ヴェルサイユのホルン協奏曲(ハイドン)

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ダニエル・ブルグ(Daniel Bourgue)のホルン、アモーリ・ドゥ・クルーセル(Amaury du Closel)指揮のカメラータ・ド・ヴェルサイユ(Camerata de Versailles)の演奏で、ハイドンのホルン協奏曲(Hob.VIId:3)、歌劇「変わらぬまこと」序曲、歌劇「報いられた誠意」序曲、歌劇「薬剤師」序曲、そしてハイドン作とされていたホルン協奏曲(Hob.VIId:4)の5曲を収めたアルバム。収録は1987年5月、パリのシテ島から南に下ったパンテオンのすぐ裏にあるノートルダム・ドゥ・リバン教会でのセッション録音。レーベルは仏Forlane。
ダニエル・ブルグは1937年、南仏アヴィニョン生まれのホルン奏者。地元の音楽院でチェロやホルンを学び、国立パリ高等音楽院のホルン科を首席で卒業し、ソロ及び室内楽で活動するようになりました。その後パリオペラ座の首席ホルン奏者として活躍。教育者としてはヴェルサイユ国立音楽院の教授の他、ロサンジェルスのアメリカン大学、ポツダム、ボルチモアなどでマスタークラスを持っていたそうです。またフランスホルン奏者協会の理事長も務めているとのことで、フランスホルン界の代表的な人でしょう。
カメラータ・ド・ヴェルサイユは今日取り上げるアルバムの指揮者であるアモーリ・ドゥ・クルーセルが1982年に設立したオケ。アモーリ・ドゥ・クルーセルは1956年パリ生まれの指揮者で、フランスの他ウィーンでも学び、ハイドンをはじめとして古典派からロマン派の音楽を得意としているそう。
このアルバム、前記事のペーター・ダムほどの力強さはないものの、フランスらしいとろけるような柔らかさで、またもや素晴しい演奏なんですね。
Hob.VIId:3 / Concerto per il corno [D] (1762)
教会での録音らしく少し遠めにゆったりと定位するオケ。表情の濃さは控えめながら、速めのテンポで爽やかに流れる序奏。ブルグのホルンはフランス人らしい華やかかつ軽めの音色。レガートを強めにかける部分もあり、個性的なところもありますが、一貫してホルンもオケも爽やかな演奏。まるでモーツァルトのように転がるような音階の美しさ。カデンツァではやはりテクニックと美音が炸裂。流石にフランスホルン奏者協会の代表を務めているだけあります。
アダージョはペーター・ダムの聴かせた深い淵のような芸術性に対して、美しい花束のような華やかさのある演奏。オケのとろけるような響きも抜群。アンサンブルは素晴しい一体感。ゆったりとした呼吸が最上のくつろぎを提供します。これほどの癒しを感じる演奏はなかなかありません。
フィナーレに入ってもホルンとオケのとろけるような響きは変わりません。極上の響きに言葉が見つからないほど。カデンツァでブルグのホルンのテクニックにあらためて気づかされますが、テクニックを感じさせない音楽のしなやかさ。ペーター・ダム盤も素晴しかったですが、こちらも負けず劣らずです。
Hob.XXVIII:8 / "La vera costanza" 「変わらぬまこと」 (before 1779)
アモーリ・ドゥ・クルーセルとカメラータ・ド・ヴェルサイユ、侮れません。ハイドンの小曲の楽しさのツボを押さえた素晴しい演奏。協奏曲の伴奏も良かったんですが、この序曲も、オペラの幕が上がる前のソワソワ感と、沸き上がるような推進力を実にうまく表現していて、豊かな残響に美しい音楽が漂う名演奏。3楽章構成で交響曲のようなこの曲の変化を巧みに描いていきます。
Hob.XXVIII:10 / "La fedeltà premiata" 「報いられた誠意」 (before1781)
ホルン大活躍の曲で交響曲73番の終楽章にも転用されています。アダム・フィッシャー盤のレビューでも取りあげましたし、アダム・フィッシャーの来日公演のアンコールでもとり上げられたスペクタクルな曲。クルーセルはこの曲の面白さを活かしながらもしなやかな筆致でまとめることで、曲自体をじっくり聴かせていきます。やはりオケのまとまりは見事です。
Hob.XXVIII:3 / "Lo speziale" 「薬剤師」 (1768)
3曲置かれた序曲、それぞれの曲想の面白さを描き分けてメロディーが活き活きと弾みます。この「薬剤師」序曲もよく聴くとフレーズの音階の一音一音のメリハリがかなり巧みにつけられていることで、この躍動感が出ていること気づかされます。ハイドンにたいする深い畏敬を感じる演奏です。非常に繊細なハープシコードの音色も典雅。この曲も3部構成で緩急自在。実に見事な演奏です。
この3曲を聴くと今一マイナーなハイドンのオペラの序曲はもうすこし世の中で取りあげられてもいいのではと思ってしまいます。これは傑作ですよね。誰に同意を求めているのでしょう?(笑)
Hob.VIId:4 / Concerto per il corno [D] (1781) by Michael Haydn?
最後はおそらくミヒャエル・ハイドン作であろうと考えられているホルン協奏曲。ハイドンの作としては、すこしメロディーも固く、構成の閃きも劣る感じがする曲。ただし演奏は冒頭のハイドン自身のホルン協奏曲に劣らず素晴らしい物。ホルンの安定感と、オケの一体感はやはり見事。2楽章の憂いに満ちた表現も華やかさを孕んだ次元の高い表現。ホルンは天から降り注ぐよう協奏曲を超越した演奏。フィナーレは次につづく音楽の気配のようなものを鋭敏に感じる演奏。オケの演奏も一人一人の奏者の感覚が冴え渡って、全員の感覚が鋭敏に働いているよう。聴いているこちらの感覚も冴えてくるような演奏です。最後のカデンツァはアルペンホルンのような深い響きと余韻が絶妙。こちらも素晴しい演奏。
ホルン、指揮、オケ、すべてはじめて聴くものでしたが、いやいや素晴しい。このアルバムに収められた曲を、完全に掌握して、すべて自身の音楽として弾いており、曲のまとまりは一分の隙もありません。爽快で優雅、優美。ハイドンの音楽の美しさを完璧に表現している演奏と言っていいでしょう。ホルンのダニエル・ブルグも完璧。ペーター・ダムとはまた違った華やかなホルンの響きを聴かせる人。なぜかフランスっぽく聴こえるのが伝統と言うものでしょうか。取りあげた全曲[+++++]とします。偶然ではありますが、このところ素晴しいアルバムつづきで毎晩至福のひと時を過ごしています。
今日は母親の通院付き添いで会社をお休み。夕食はきりたんぽ鍋に福井の銘酒「一本義」で、こちらも至福なんです(笑)


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