エアリング・ブロンダル・ベンクトソンのチェロ協奏曲集(ハイドン)

年末になり、連日連夜の忘年会。ちょっと間が空いてしまいました。今日は珍しいデンマークもの(本当はポーランドものでしょう)。

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エアリング・ブロンダル・ベンクトソン(Erling Blöndal Bengtsson)のチェロ、イリア・ストゥペル(Ilya Stupel)指揮のアルトゥール・ルービンシュタイン・フィルハーモニー管弦楽団(Artur Rubinstein Philharmonic Orchestra)の演奏で、ハイドンのチェロ協奏曲2番、1番、ボッケリーニのチェロ協奏曲の3曲を収めたアルバム。収録は1993年4月、ポーランド中部のウッチ(Łódź)のフィルハーモニー・ホールでのセッション録音。レーベルはデンマークのdanacord。

このアルバム、またしても湖国JHさんから貸していただいたもの。そこそこのコレクションである当ブログのハイドンコレクションにリストアップされていない名演奏が次々と送り込まれてきます(汗)

早速奏者の情報を調べてみます。

チェロのエアリング・ブロンダル・ベンクトソンは1932年、デンマークのコペンハーゲン生まれのチェリスト。なんと4歳の時に最初のコンサートを開いたとのこと。16歳からフィラデルフィア州のカーティス音楽院でグレゴール・ピアティゴルスキーにチェロを学びました。その後その助手となり、1950年からは彼自身のチェロの講座を開きました。1953年からはコペンハーゲンの王立デンマーク音楽アカデミーに移り、1980年からはケルン音楽大学の教授となりました。1990年からはアメリカに戻り、ミシガン大学音楽演劇舞踊学校で2006年の引退まで教えたとここと。今年2013年の6月に亡くなられたようです。今日取り上げるデンマークのdanacordから多くのアルバムがリリースされ、また2006年にはデビュー70周年を記念した「チェロと私」というDVDがリリースされているそうです。

指揮者のイリア・ストゥペルは1948年、リトアニアの首都ヴィリニュス生まれの指揮者。代々音楽家の家で、3歳からピアノを学びヴィリニュス音楽院に入学、神童と呼ばれたそう。1957年からはポーランドに移り、ポーランド国立放送交響楽団のボーダン・ヴォディチコ(Bohdan Wodiczko)のアシスタントとして働き、指揮者としての腕を磨きました。1968年からはスウェーデンに移り、以降スウェーデンに住んでいるとのこと。リトアニア、ポーランド、スウェーデン、デンマーク、イタリアなど様々な国で経験を積みスウェーデンのマルメ(Malmö)の歌劇場の指揮者となりました。その間、スカンジナヴィア諸国などで活躍し、1990年からはこのアルバムのオケであるポーランドのウッチを本拠地とするアルトゥール・ルービンシュタイン・フィルハーモニー管弦楽団の音楽監督となりました。このオケはストコフスキーやパウル・クレツキ、ハチャトゥリアンなども振っている名門オケとのこと。

これまで聴いたポーランドもののハイドンは、どれも自然で雄大な表情が印象的な良い演奏が多かっただけに、このアルバムも期待が持てそうです。

Hob.VIIb:2 / Cello Concerto No.2 [D] (1783)
珍しく2番が最初に収められていますが、理由がわかりました。いきなりまさに自然で雄大な2番の序奏が鳴り響きます。オケの序奏だけでもかなりの聴き応え。ベンクトソンのチェロは良い意味で枯れた音色で、しなやかにオケにあわせていくもの。グイグイ引っ張る演奏ではなく、控えめにオケに寄り添います。この演奏当時ベンクトソンは61歳ということになりますが、いい感じに枯れて、実に味わい深いチェロを聴かせています。1楽章も後半になってくるとチェロが徐々に主導権を握るようになりますが、ストゥペルのコントロールするオケは相変わらず雄弁。揺るぎない構築感と分厚い響きで盤石の支え。ベンクトソンも安心してオケに乗ります。1楽章のカデンツァは師匠のピアティゴルスキーのもの。かなり長いものですが、チェロは老練な弓さばきで実に趣き深い表情を醸し出します。1楽章の終わりはまさに雄大そのもの。オケの分厚い響きの魅力が溢れます。
アダージョに入るとベンクトソンの真髄が見えてきました。やはり安定感抜群のオケにのって、ゆったりと気負いなく円熟の技を聴かせます。奏者の心理状況が揺らがないのか、しなやかな弓さばきは一貫していて、じっくりとフレーズを重ねていきます。通常かなり情感を乗せてくるところですが、一貫して枯れた表情を保っているところが経験を物語るよう。チェロの高音は良く延びて、深く燻したような独特の音色。フレージングの呼吸も深くえも言われぬ味わいの深さ。
フィナーレに入ると、オケは秋の夕焼けのような哀愁を帯びたこの曲独特の雰囲気をよく捉えて、分厚い音色はそのままに、すこしスッキリとした響きに変わります。ベンクトソンのチェロも弓さばきが少々軽くなって、曲の陰りある華やかさを上手く表現していきます。最後はがっちりと締まります。

Hob.VIIb:1 / Cello Concerto No.1 [C] (1765-7)
変わって晴朗な1番。やはりストゥペルのコントロールするオケが見事。2番もそうだったんですが、録音のバランスはチェロが前に定位、音量バランスは控えめ。オケに包まれる感じです。1番に入って気づいたのはベンクトソンのチェロのフレージングにかなりメリハリがあること。オケの音量に負けないようにか、かなりくっきりとした表情をつけて、ハイドンの美しいメロディーを描いていきます。この曲では低音の深い響きの美しさも聴かれるようになります。メロディーラインの華やかな軽さ、チェロののびのびとした美音、キレの良いテンポと、明らかに前曲と聴かせどころを変えてきています。この曲のカデンツァはベンクトソン自身のもの。チェロの高音の美しさを活かした詩情あふれるカデンツァですね。
2番で深い渕のようなものを聴かせたのですが、この1番のアダージョは逆にまさに天上の美しさ。力の抜けた素晴しいチェロの弓さばきで、ハイドン独特の美しいメロディーラインを描いていきます。オケも力を抜いて絶妙なサポート。まさに、オケとチェロが天上で掛け合っているよう。別世界の美しさ。
フィナーレは意外とどっしりした入り。オケは相変わらず分厚い響きで万全のサポート。ベンクトソンは我が道を行く感じで、しなやかにチェロを操り、オケの秩序にそって、ゆったりとリズムを合わせていきます。楷書体のしっかりとしたフィナーレに行書のチェロが変化を付けている感じ。ここまでくるとチェロも雄弁さを増し、味わい深さだけではない懐の深さを感じさせます。いやいや素晴しい演奏でした。

私はチェロのベンクトソンも指揮のストゥベルもはじめ聴く人でしたが、予想を大きく超える、素晴しい演奏でした。特にオケはポーランドのオケの伝統である、自然で雄大さを感じさせる素晴しい演奏でした。今の世の中でこれほど雄大にハイドンを演奏できるオケはないのではないでしょうか。ただ自然で雄大なだけではなく、極めてデリケートなフレージングによって、音楽は生気を帯び、えも言われぬ味わいを帯びています。ベンクトソンのチェロはテクニックや気負いを感じさせる瞬間は皆無。安心して音楽に身を任せられるものでした。評価は両曲ともに[+++++]とします。

日本では知る人はわずかだと思いますが、このチェロ協奏曲集は見事のひとこと。知る人ぞ知る名演奏だと思います。幸い入手は容易そうですので、是非聴いてみてください。

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なぜかハイドン(Franz Joseph Haydn)が特に気に入り膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。東京在住のごく普通のサラリーマンです。

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