【新着】スヴャトスラフ・リヒテル1984年東京ライヴ(ハイドン)

今日は最近リリースされたアルバム。

Richter84Tokyo.jpg
HMV ONLINEicon / amazon / TOWER RECORDS

スヴャトスラフ・リヒテル(Sviatoslav Richter)のピアノで、ハイドンのピアノソナタ2曲(Hob.XVI:24、XVI:32)、ドビュッシーの前奏曲集第1巻より10曲、映像第1集より1曲の合わせて13曲を収めたアルバム。収録は1984年3月27日、東京文京区の蕉雨園でのライヴ。レーベルはNHK CD。

突如リリースされたこのアルバム。リヒテルはレコーディングが好きではなかったとのことで、ご存知のとおり、残された録音の多くはライヴ。ハイドンは好きだったようで、ライヴで残されたハイドンのソナタはかなりの数にのぼります。手元にもかなりの数のアルバムがあり、これまでに3度ほどリヒテルのソナタを取りあげています。リヒテルのハイドンは、恐ろしいまでの力感の表現に特徴があり、リヒテルのハイドンのライヴと聞けば、手を出さざるを得ません。

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2010/02/23 : ハイドン–ピアノソナタ : リヒテルのソナタ録音

今日取り上げるアルバムはなかでも非常に変わったもの。アルバムにつけられた帯には「リヒテル 幻の東京リサイタル」とあります。ライナーノーツによれば、リヒテルが企画していたフランス、トゥールの音楽祭に、日本のセゾングループのデヴェロッパーだった西洋環境開発が日本からも集客しようと協力したことから、リヒテルがこれに感謝し、日本への演奏旅行の合間に開いた、ブライヴェートコンサートの様子を収めたものとの事。場所はリヒテルが気に入ったと言う理由で、文京区にある日本家屋の蕉雨園。

この蕉雨園は明治30年(1897年)、当時の宮内大臣、田中光顕(たなかみつあき)が建てた回遊式庭園をもつ日本家屋。場所はちょうど目白の椿山荘の裏あたりにあります。所有者は講談社とのことで、撮影などにも利用されており、私も仕事のロケで1992年頃訪れたことがあります。蕉雨園という名は漢学者の諸橋轍次博士がここに来たおり、園内にある松尾芭蕉ゆかりの芭蕉庵、五月雨庵などにちなみ、「芭蕉葉上孤村の雨 蟋蟀聲中驛路の塵」という詩を詠み、その中の「蕉」と「雨」の二文字をとって蕉雨園という名がついたそう。

このコンサートは、当時のセゾングループの代表でリヒテルのファンだった堤清二さんが、セゾングループのお客さんなどを100名を集めた非公開のコンサートとして開催したとのこと。日本家屋でのコンサートということで、当初は畳敷きだったものを、急遽板張りに変えるなどの突貫工事もあったようです。ライナーノーツには、当時リヒテルが好んで弾いていたヤマハのピアノをもちこみコンサートにこぎつけたようすを、当時リヒテルのピアノの調律を担当していた村上輝久さんが回想された文章が付され、そのときの苦労がつたわってきます。

プログラムのハイドンはリヒテルが日本建築に合うだろうと選んだものとのこと。リヒテルはハイドンの音楽に和の印象をもっていたのでしょうか。

ちなみに、今回リヒテルについて調べているうちに、リヒテルの詳細な演奏履歴をまとめた年表をもつサイトを発見しました。

リヒテルさんのお部屋

この「リヒテルさん年表」がスゴイ。今回の演奏会の前後を記した1980年代のページにしても、詳細なコンサートの開催日とプログラムまで精緻にまとめられており、この日の演奏会についても触れられています。これは一見の価値有です。

Hob.XVI:24 / Piano Sonata No.39 [D] (1773)
ヤマハらしい硬質なピアノが、超デッドな日本建築の空間に響きます。スタジオとはまた異なる解放感のあるデッドさ。楽器は響いているのに空間がが響いていない不思議な雰囲気。リヒテル特有の険しさが、ダイナミックさではなく禁欲的に響くデッドなピアノ音によって伝わってくるよう。ところどころタッチが乱れるところがありますが、それも音楽の乱れとは感じさせない一貫した強さと聴かせるのがリヒテルの凄いところ。ピアノの響きの髄の部分だけで推進するハイドン。中音域のクッキリとした表情だけで進む感じ。音量を上げると強靭なタッチの迫力に打たれます。ソナタ形式の充実を構造から体験できるような演奏。
つづくアダージョは短調の憂いに満ちた穏やかな曲調から、ほのかに明るい光が射すようになり、じっくりと和音の余韻を楽しむような演奏。リヒテルはデッドな空間に漂うピアノ余韻をもコントロール。
フィナーレは再び鋼のようなタッチでピアノを鳴らしきります。これを狭い日本家屋で眼前で聴いたらさぞや凄い迫力だったでしょう。和室に響く乾いた拍手が印象的です。

Hob.XVI:32 / Piano Sonata No.47 [b] (1776 or before)
気のせいか前曲よりもピアノの響きが滑らかになったように聴こえます。聴き慣れた名曲。同じ空間のはずですが、左手で弾く低音の迫力が俄然アップして図太い隈取りがついたようなメリハリ。超リアルなピアノの骨格が鳴るような響き。あまりのリアリティと迫力に圧倒されます。リヒテルも空間の響きに慣れたのか、余韻のコントロールがつながりよくなっています。演奏によっては色っぽく響く事のあるこの曲が、峻厳な険しさに満ち、クリスタルのような冷たい輝きを帯びています。終盤、インテンポで攻め込むような鬼気迫る印象まで帯びて、やはりリヒテルのタッチの力感に打ちのめされるよう。
もうすこし詩的な余韻を含むと予想したメヌエットは、かなりあっさりした表情。さらさらとした潔い音楽。中間部の強いタッチも少し抑えて、後半のきらめくような美しいメロディの部分に移ります。この抑えが効いて、フィナーレの恐ろしく強靭なタッチがぐっと引き立ちます。力強い打鍵の連続に、リヒテルの気合いが乗り移ったよう。スピーカーから音が飛んでくるような超ハイテンションなフィナーレ。波動に立ち向かうように聴きます。響きの滝に打たれるよう。最後まで強靭なタッチに圧倒されました。ふたたび乾いた拍手に包まれました。

このあとのドビュッシーはこれほどの強靭さは陰を潜め、響きの少ない空間で、余韻の伝搬を楽しむように響きに戯れるリヒテルの姿が印象的。ドビュッシーはハイドンより平常心で楽しめました。リヒテルはやはりハイドンには力感を求めていたのでしょう。最初のハイドン2曲の演奏は、コンサートではなく、まさに禅の修行のごとし。楽しむのではなく、勝負のような演奏でした。この演奏、ある意味リヒテルのハイドンの真髄に迫る演奏かもしれません。ハイドンのソナタの極北の姿をあらわした究極の演奏でしょう。この演奏は明らかにマニア向け。一般の方へお薦めするにはハード過ぎる演奏かもしれません。評価が難しい演奏ですが、いちおう[++++]としておきましょう。修行されたい方は是非(笑)

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なぜかハイドン(Franz Joseph Haydn)が特に気に入り膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。東京在住のごく普通のサラリーマンです。

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