ウィーンコンツェルトハウス四重奏団のOp.20-5聴き比べ(ハイドン)

ご存知のようにウィーン・コンツェルトハウス四重奏団には、WestminsterとPREISER RECORDSからかなりの数のハイドンの弦楽四重奏曲の録音がリリースされています。PREISER RECORDSからリリースされたアルバムにつけられた解説にはWestminsterの他にVanguardやDeutsche Grammophone、そしてコロムビアにも録音がある旨記されていて気になっていたもの。

こちらが先日ディスクユニオンで手に入れたアルバム。

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ウィーン・コンツェルトハウス四重奏団(Wiener Konzerthaus Quartett)の演奏による伝ハイドンのセレナード、ハイドンの弦楽四重奏曲Op.20のNo.5、モーツァルトの弦楽四重奏曲KV.458「狩」の3曲を収めたアルバム。収録は1960年11月、東京とだけ記されていますが、セッション録音のようです。レーベルはDENON。

このアルバムに収録された当時のメンバーは下記のとおり。

第1ヴァイオリン:アントン・カンパー(Anton Kamper)
第2ヴァイオリン:ヴァルター・ヴェラー(Walter Weller)
ヴィオラ:エーリッヒ・ヴァイス(Erich Weiss)
チェロ:ルートヴィヒ・バインル(Ludwig Beinl)

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こちらはご存知PREISER RECORDSの全3巻のハイドンの弦楽四重奏曲集の第2巻。この2枚目に上のDENONのアルバムに収められているOp.20のNo.5が収録されています。収録年、収録場所などは記載されていませんが、解説などから1956年以前の収録でしょう。

PREISER RECORDSの解説によれば、WestminsterとPREISER RECORDSの録音はすべて1956年以前のもので、メンバーも1934年創設当時のメンバーとのこと。

第1ヴァイオリン:アントン・カンパー(Anton Kamper)
第2ヴァイオリン:カール・マリア・ティッツェ(Karl Maria Titze)
ヴィオラ:エーリッヒ・ヴァイス(Erich Weiss)
チェロ:フランツ・クワルダ(Franz Kwarda)

比較的近い間にいろいろなレーベルに録音しているウィーン・コンツェルトハウス四重奏団ですが、その違いはどのようなものか、興味は尽きません。当ブログでは過去2回レビューで取りあげていますが、何れもWestminster盤。

2013/08/23 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : ウィーン・コンツェルトハウス四重奏団のOp.64のNo.6
2011/10/08 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : ウィーン・コンツェルトハウス四重奏団のOp.64のNo.2

Westminster盤は鮮明ながら耳に刺さるような鋭い響きが特徴で、このクァルテット独特の味わい深い響きを楽しむのには向かないのが正直なところ。今回手に入れたDENON盤は日本での録音のため、また違った響きが聴かれそうですね。

Hob.III:35 / String Quartet Op.20 No.5 [f] (1772)
シュトルム・ウント・ドラング期の頂点である1772年に作曲された短調の傑作。最初は、聴き慣れたPREISER RECORDS盤からいきましょう。

ウィーン・コンツェルトハウス四重奏団の一番の特徴である、アントン・カンパーのゆったりと、まったりとしながらもところどころで伸び伸びとした美しい響きを聴かせるヴァイオリンの音色が心地良い演奏。全体にゆったりとした間が支配し、この曲がはらむ緊張感のようなものは前に出てこず、逆に優雅なえも言われぬ雰囲気に包まれる演奏。録音はもちろんモノラルで、Westminster盤のような尖ったところはなく、実にマイルド。時代なりですが、非常に聴きやすいもの。ヴァイオリンも鮮明さよりも中音の響きの厚さが良く出て、良い味わいが感じられます。ウィーン・コンツェルトハウス四重奏団の演奏スタイルにぴったり。
2楽章のメヌエットはアダージョのような風情。ポルタメントを効かせるほどではありませんが、演奏は古き良き時代を感じさせるもの。アンサンブルは良くそろっているのですが、エッジが立っていないので、リズムではなく響きを乗せているようなアンサンブル。これはこれで他のパートの響きをよく聴いての演奏でしょう。じっくりと燻らしたように音楽が進みます。燻製が出来上がるのを煙を見ながら待つような心境。
3楽章のアダージョはウィーン・コンツェルトハウス四重奏団のゆったりとした音楽が最もマッチした楽章。この曲のこの時代を代表する演奏でしょう。優雅に響く弦楽器の響きにとろけそう。これぞ古き良きウィーンの香り。ハイドン弦楽四重奏のヒストリカルな演奏に我々が期待する美しさすべて詰まっています。技術を超えた音楽がここにあります。
終楽章はフーガの旋律を実に堂々と奏でて、メロディーが象徴的にそびえ立つように感じる入り。演奏が進むにつれて味わい深いアンサンブルの魅力に包まれますが、メロディーラインの複雑に絡み合うようすをわかりやすく整理して聴かせてくれているようで、主旋律がクッキリ、堂々と描かれることで音楽の印象も現代の印象とはだいぶ異なって聴こえます。

久しぶりにPREISER RECORDSの美音を堪能。つづいて今回手に入れた日本での録音。

比較すると録音は鮮明さが上がって、ステレオ空間に各楽器がクッキリ定位するもの。ライナーノーツにはマスターテープの保存状態が悪く、このCDはLPから起こしたものと記載されています。スクラッチノイズなどは皆無で品質は悪くありません。響きはデッドで、スタジオでの録音でしょうか。PREISER RECORDSのえも言われぬ味わい深い音色とはことなり、音が少し痩せて、線が細い感じ。特にヴァイオリンなどの高音の線が細い感じ。演奏の基調はゆったりとヴァイオリンをならしていくアントン・カンパーが握り、演奏自体の方向性は変わらないものの、録音によって音楽の印象は大きく異なります。鮮明な分、音程の粗がちょっと目立ったり、乾いた感じの弦の音色がが雰囲気を冷静にさせていますが、逆に鮮明な分、各パートがクリアに浮かびあがってボウイングが手に取るようにわかります。録音の違いを脳内で補正すると演奏はほぼ同じ方向性。録音による古き良き時代のウィーンの印象ではなく、演奏自体からにじみ出るエッセンスがウィーン風であったことっがわかり、日本での録音ということで、その貴重さもつたわって来ます。
2楽章のメヌエットはPREISER RECORDS盤よりもテンションが高く、タイトさが緊張感ををはらみます。アンサンブルも今度はエッジがクッキリとして、ざらついた各弦楽器の浸透力のある響きが呼応。チェロの弓さばきも鮮明に録られ、非常に鮮明に各楽器が響きます。
聴き所のアダージョは、前盤が録音の雰囲気の影響が色濃く出た、味わいの深さだったのに対し、このアルバムでは録音のベールをはがし、演奏自体のもつ響きの強さに裏付けられた味わいが聴こえてきます。かなり鮮明に録られていますが、味わいの深さはもしかたら前盤以上。音量を上げて聴くと心に刺さるよう。奏者の息づかいが聴こえてくるような鮮明さ。
フィナーレのフーガのメロディーの象徴的な扱いは前盤同様。まるでバッバを聴いているような厳粛な気持ちになります。ゆったり刻むテンポで逆に迫力を増し、かなり克明なメリハリがついたフィナーレ。冬の陽で立体感が際立つ山容を見るよう。

ウィーン・コンツェルトハウス四重奏団の時期を違えた2種の録音。PREISER RECORDSのアルバムはまろやかな録音と相俟って、このクァルテットに我々がイメージする古き良きハイドンの弦楽四重奏曲の理想的な響きが聴かれます。久しぶりに聴き直してみると、この演奏の貴重さをあらためて感じた次第。とくにアダージョ楽章のえも言われぬ陶酔感は貴重ですね。一方、1960年の来日時に録音されたであろうDENON盤は、響きが鮮明なぶん、このクァルテットの演奏自体の貴重なスタイルを解き明かしているよう。各奏者の音色やボウイングまで鮮明に録られており、PREISER RECORDS盤と同様の味わいの秘密に近づいた気にさせるもの。人によってはこちらの鮮明な響きを好まれる方も少なくないのではないかと想像しています。評価は両盤[++++]とします。古き良きウィーン情緒を感じたいのなら、間違いなくPREISER RECORDSをお薦めします。

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tag : 弦楽四重奏曲Op.20 ヒストリカル 偽作 ハイドンのセレナード

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なぜかハイドン(Franz Joseph Haydn)が特に気に入り膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。東京在住のごく普通のサラリーマンです。

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