ヒクメット・シムセク/ハンガリー国立管の驚愕、ロンドン(ハイドン)

いつも通り、マイナー盤。不思議な組み合わせの演奏です。

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ヒクメット・シムセク(Hikmet Şimşek)指揮のハンガリー国立管弦楽団(Hungarian State Orchestra)の演奏で、ハイドンの交響曲94番「驚愕」、交響曲104番「ロンドン」の2曲を収めたアルバム。収録情報は記載されておらず、Pマークが1990年。レーベルはハンガリーのHUNGAROTON。

こちらも最近ディスクユニオン店頭で発掘したもの。最近はディスクユニオンの交響曲の棚は見ても未知の盤の発掘につながることがあまりないため、滅多に寄りません。先日神保町のディスクユニオンに実に久しぶりに寄ったところ、神保町の棚はジャンル別・作曲家別ではなく、作曲家別・ジャンル別に並んでいるため、久々に交響曲の棚を見る事になり、このアルバムを発見した次第。まだまだ未聴盤がありますね。

指揮者のヒクメット・シムセクはトルコの東端、イラクにも近いスィイルト(Siirt)県のペルヴァリ(Pervari)生まれの指揮者。生まれるとすぐにアンカラの南のコンヤ(Konya)に移り、1936年、コンヤの兵学校に入ります。アンカラに移り、軍隊の教育を受け続けましたが、1946年、卒業を待たずに、突然アンカラ音楽院に移り音楽の道に転身、1953年にアンカラ音楽院を卒業しました。卒業後アンカラ音楽院で教える事となり、1959年以降は、トルコ大統領府交響楽団の副指揮者となります。シムセクはトルコで日曜に放送されるトルコ放送のクラシック番組に出演していた事から、トルコで最も知られた指揮者と言う存在だったようです。演奏の前には曲の解説等も織り交ぜ、日本で言えば山本直純さんのような存在といったところでしょうか。また、トルコ放送の外国語放送でトルコの作曲家を国外に紹介するなどの功績が認められ、1981年、トルコ政府よりState Artist(文化勲章のようなものでしょうか)を授与されました。また1980年代にはトルコの作曲家による音楽のシリーズものをリリースしています。調べてみると、まさにトルコ音楽界を代表する人のようですね。ライナーノーツによるとヨーロッパや、アメリカ、日本なども含む地域で国際的に活躍したそうです。2001年、アンカラの陸軍病院にて脳腫瘍で亡くなったとのことです。

このアルバム、トルコのシムセクが、ハンガリーを訪れ、ハンガリーのレーベルに、ハンガリーの地元の作曲家であるハイドンの交響曲、それも最も有名な「驚愕」と「ロンドン」を収録したということで、それだけでも「驚愕」の存在!

よほど素晴しい演奏をして、HUNGAROTONのプロデューサーを唸らせたことと想像されますが、アルバムを聴いてみると、その想像もあながち見当違いとも言い切れません。冒頭から分厚い響きのオケが素晴しい覇気の演奏。グイグイ来ます!

Hob.I:94 / Symphony No.94 "Mit dem Paukenschlag" 「驚愕」 [G] (1791)
厳かな序奏から緊張感が伝わります。主題に入ると分厚い響きのオケに力が漲り、素晴しい覇気。オーソドックスな演奏なんですが、力感の素晴らしさはこの曲に期待される理想の響きといっていいでしょう。トルコと聞くと派手な鳴りものを想像しますが、それとは正反対。ぐっと沈み込む重心の低い迫力の響き。派手さはありませんが、その代わりに内なる赤熱するマグマのようなエネルギーを感じる演奏。独墺系のオケよりよほど正統な響きです。音量を上げて聴くとまさに響きの良いコンサートホールで聴く実物大のオケのよう。録音も自然な定位感と素晴しい力感をうまく録っています。HUNGAROTONとしてはかなりいい録音でしょう。1楽章は力感に圧倒されます。
ビックリの2楽章はアンダンテらしい、少し速めの足取りで、例のところはビックリさせるよりは雄大に響かせるような演出。聴衆はビックリしないのを踏まえた演出のよう(笑) 以降はしなやかにオケをコントロールして、やはり図太い響きを織り交ぜながら、誠実かつ豪快に曲を進めます。オケの低音セクションの安定感は素晴しいものがあります。
メヌエットは分厚いオーケストラを軽々と響かせ、まさに踊り出さんばかりにオケが弾みます。曲の真髄に迫っているからこその自然な音楽の流れ。単調さは微塵もなく、オケの反応から指揮者の指示を想像しながら音楽を楽しみます。実に伸びやかな音楽。これがハイドンが意図したメヌエットでしょう。
フィナーレもまるでハイドン自身の指揮のように、曲が本来そうあるべき姿のように軽々とした入り。オケは緩急織り交ぜ、非常にリラックスして要所でガッチリと響きの印象を残し、また、つなぐ部分では軽やかに弾み、まさしくハイドンの音楽はかくあるべしとの確信に満ちた演奏。良く聴くとティンパニが実にいいタイミングで響きを引き締めているのも安定感に寄与しているようですね。1曲目から、期待を大きく上回る素晴しい演奏に驚きます。

Hob.I:104 / Symphony No.104 "London" 「ロンドン」 [D] (1795)
驚愕の調子でこのロンドンを演奏すれば、名盤というか、決定盤間違いなしの素晴らしさでしょう。力感も陰りも憂いもある素晴しい序奏。響きも深く、慈愛に満ちた神々しさ。あまりの素晴しさに感情の高ぶりを抑えられません。ハイドンの最後の交響曲の輝きに満ちたメロディーが分厚い響きで鳴り渡り、まさに古典と言う時代の頂点に相応しい演奏。表現が大げさすぎず端正な印象さえあるのが美点でしょう。カラヤン/ウィーンフィルの名演奏を彷彿とさせ、響きはそれよりスケール感を感じるもの。シムセクのコントロールは力感がありながら響きに優しさもあるのが特徴。ロンドンも万全の入り。
ロンドンのアンダンテは、今度は少し遅め。しかも暮れる前の夕日のような静かな情緒に満ちた音楽。間をたっぷりと取りながら音量を落としてじっくり音楽を奏でていきます。木管群の美しい響きと、それをきっかけに唸るようなオケの波が押し寄せます。長大なアンダンテをニュアンス豊かに進め、そこここで情感が迸ります。このアルバム一番の聴き所。
メヌエットも前曲の踊るようなメヌエットとはスタンスが異なり、ぐぐっと攻め込むメヌエット。ハイドンを得意としていたのかはわかりませんが、この楽章毎にアプローチをデリケートに変えてくるシムセクのコントロールはハイドンに対する深い理解を感じさせます。
フィナーレはようやくオーソドックスなアプローチ。キレよく盛り上がり、徐々に恍惚とするほどのクライマックスに至ります。ここに来て虚心坦懐にハイドンの書いた複雑に絡み合う楽譜をクッキリと描いていきます。分厚い響きのオケがタクトに俊敏に反応して鮮やかに吹き上がる様子は、まさにロンドンのフィナーレのクライマックスに相応しいもの。最後は素晴しい盛り上がりで曲を終えます。

いままであまり聴いた事のないトルコの指揮者のハイドン。マイナーな演奏どころか、独墺系のどの演奏よりもハイドンの本質に近い、雄大なスケールながら端正さ、響きの深さ、優しさに溢れた演奏。これほどまでに素晴しいとは思っていませんでした。ネットを検索したところ、amazonでも中古は欠品中。これほど素晴しい演奏が現役盤ではないことは、大きな損失です。この演奏、多くの人に聴いていただきたい名演と断じます。もちろん両曲とも[+++++]とします。
タワーレコードの中の人、日本とトルコの更なる友好のために、是非このアルバムを日本で復刻すべきです。声が届かないかしら(笑) 意外といい企画だと思うんですが、、、

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なぜかハイドン(Franz Joseph Haydn)が特に気に入り膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。東京在住のごく普通のサラリーマンです。

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