ショルティ/ロンドンフィルの「奇跡」、「時計」(ハイドン)

年度はじめに相応しく、メジャーアーティスト、メジャーレーベルのメジャーな曲。私個人の嗜好のままレビュー盤を選んでいくと、どんどんマイナーなアルバムになってしまいますので、意図してメジャーなアルバムをセレクトします。

Solti96_101.jpg
amazon / amazon(ザロモンセット)/TOWER RECORDS(ザロモンセット)

サー・ゲオルク・ショルティ(Sir Georg Solti)指揮のロンドン・フィルハーモニー管弦楽団(London Philharmonic Orchestra)の演奏で、ハイドンの交響曲96番「奇跡」、101番「時計」の2曲を収めたアルバム。収録は1981年3月、ロンドンのキングスウェイホールでのセッション録音です。レーベルは英DECCA。

ショルティはマーラー等派手なオーケストレイションの曲を得意としていたからか、はたまたかなり強引な指揮姿からか、豪腕なイメージが強い人ですが、このロンドンフィルとのハイドンを聴くとさにあらず。オケを思い切り煽って鳴らしまくるのですが意外とダイナミクスを強調した演奏ではなく、アクセントはあまり強調せず流れの良い大きな起伏で聴かせる演奏なんですね。これまで当ブログでもいろいろ演奏をとりあげています。

2012/02/25 : ハイドン–オラトリオ : ショルティ晩年の天地創造ライヴDVD
2012/01/02 : ハイドン–オラトリオ : ショルティ/シカゴ響による天地創造旧盤
2011/06/27 : ハイドン–交響曲 : ショルティ/ウィーンフィルの「ロンドン」1996年ライヴ!
2011/03/27 : ハイドン–交響曲 : 爆演、ショルティの指揮者デビュー録音、ロンドンフィルとの太鼓連打他
2010/12/03 : ハイドン–交響曲 : ショルティ/ロンドンフィルによる102番、103番「太鼓連打」2
2010/12/02 : ハイドン–交響曲 : ショルティ/ロンドンフィルによる102番、103番「太鼓連打」

ただし、最も録音年代の古いロンドンフィルとの太鼓連打の指揮者デビュー録音でははち切れんばかりの覇気に満ちた爆演。この演奏が最もショルティらしい演奏と言っていいでしょう。デビュー当時のショルティの気合いの入りかたは尋常ではありませんでしたが、今日取り上げる1980年前後のザロモンセットでは、いい具合に力が抜け、ハイドンとはしゃにむに振るのではないとの悟りを得たのか、適度に力がぬけたショルティの余裕が感じられる演奏だと言うところでしょう。

Hob.I:96 / Symphony No.96 "The Miracle" 「奇跡」 [D] (1791)
響きの良い録音会場として多くの名録音を生んだ今は亡きキングスウェイホールの豊かな響きにつつまれた奇跡の序奏。ショルティらしい精緻なゆったり感。主題に入るとテンポを一気に上げ、いきなり素晴しい躍動感。インテンポで畳み掛け、この曲独特のコミカルなメロディーを素晴しいキレの弦楽器群が描いて行きます。意外と低音弦は抑え気味で主に高音弦の迫力で聴かせ、この推進力とハンガリーの伝統と思わせるヴァイオリンのキレは見事。オケはいい意味で適度な粗さもあり、それが迫力にもつながっています。ショルティがオケを煽っているのがよくわかります。
つづくアンダンテも基本的に落ち着いた表現ながらインテンポの余韻がのこってヴァイオリンパートの流麗さで聴かせる演奏。弦楽器の雄弁さと、奏者全員がショルティの煽りにしっかりとついて行っているのが流石。木管、金管もすこし控えめであくまで弦楽器主体なところにこのしなやかな表情が生まれるのでしょう。
メヌエットは流石に迫力に振ってきますが、それでも力ませではなく、あくまで音楽が一貫して流れ、特に弦楽器の雄弁さに裏付けられた一貫性があります。徐々に迫力を増し、オケが怒濤の迫力を帯びてきます。木管のソロは落ち着きはらって美しいメロディーラインをこともなげに吹いてきます。テンポは乱れず、音楽が滔々と流れて行きます。
アバド盤で鮮烈なキレが印象的だったフィナーレ。ショルティのコントロールはミクロ的なキレではなく大局的な見地でのキレがあります。最初は抑えて入りますが、徐々にマグマにエネルギーが満ち、オケの底力が発揮されます。それでも高音弦中心のスタイリッシュなイメージを保ちます。非常に高揚感を感じながらもオケの力が抜けた名演奏。

Hob.I:101 / Symphony No.101 "Clock" 「時計」 [D] (1793/4)
続いてこちらも名曲「時計」です。ことさら1楽章の緊密な構成感が聴き所ゆえ、このアルバムのショルティの録音の出来が素直に刺さります。またまた緊張感を帯びたゆったりさで入ります。序奏の規模が奇跡よりも大きいので、しなやかにオーケストラが響くのをゆっくり楽しめます。そしておもむろにギアチェンジして怒濤のインテンポ。特に低音弦を抑えながらのこの高揚感。あえて旋律の美しさに目を向けさせようと言うのでしょうか。高音弦だけでもこれだけ迫力を出せることを誇示したいのでしょうか。真意はわかりませんが、いずれにせよ素晴しい高揚感。時計の1楽章の理想的な演奏でしょう。
有名な時計のリズムを刻むアンダンテは、予想通り速めのテンポでいきます。おそらく途中からのうねりも速めに畳み掛けてくるのでしょう。速めののテンポと軽々としたリズムからハイドンの諧謔的なメロディーの面白さが滲み出てきます。このあたりはショルティの面目躍如。時計の面白さを良く踏まえた演奏。中盤からの盛り上がりもテンポを落とさずしっかりと隈取りを重ねて素晴しい迫力。再び枯れてもテンポは落とさず、オケは規律を失いません。最後まで弦楽器のボウイングに力が漲り、エネルギーはおとろえません。
メヌエットは前曲と異なり、かなりアトラクティヴ。クッキリと旋律を描き、色彩感も抜群。陽光に映える白亜の神殿のような圧倒的存在感。丁寧にフレーズを重ね、徐々にクライマックスに近づいていきます。間奏のフルートが妙に上手くて気になります。冴え冴えとした動と静の対比が見事。
最後のフィナーレに集中。入りはオーソドックスですが、おそらくトランス状態のような陶酔がまっているでしょう。やはり低音弦を抑えてメロディー主体の盛り上がり。これがショルティのハイドンのスタイルでしょうか。不思議に落ち着いてもいながら響きは陶酔まっしぐら。明らかにこの楽章に焦点を合わせてきています。最後はやはりショルティ、オケを鳴らしきって終わります。

サー・ゲオルク・ショルティ指揮のロンドンフィルによるザロモンセットのアルバムから「奇跡」と「時計」というハイドンの交響曲でも指折りの名曲。やはり一流どころのハイドンたる雄弁な演奏だと再認識。ショルティの古典派が良いというイメージを持たない方も多いかもしれませんが、これは名演です。私はカラヤン/ベルリンフィルのザロモンせっとよりもショルティの方を推します。この2曲の評価は[+++++]ですね。未聴の方は是非聴いてみてください。

にほんブログ村 クラシックブログ クラシックCD鑑賞へ
関連記事

テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽

tag : 奇跡 時計

コメントの投稿

非公開コメント

No title

ハイドンに傾倒するずっと以前から、ショルティの信奉者である小生にとって、
大変うれしい記事&評価です!
ちょうどこの録音の頃に、ショルティ/LPOの来日公演に行ったことを懐かしく
思い出しました。

Re: No title

だまてらさん、いつもコメントありがとうございます。
ショルティ/LPOの来日公演行かれたんですね。今となっては実演に触れた思い出は貴重なものでしょうね。ショルティのライヴは凄まじい迫力だと伝え聞きますが、さぞかし素晴しかったでしょうね!
プロフィール

Daisy


Author:Daisy

なぜかハイドン(Franz Joseph Haydn)が特に気に入り膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。東京在住のごく普通のサラリーマンです。

最新記事
カテゴリ
タグリスト
スクロールできます。

四季迂闊者交響曲70番交響曲12番古楽器ライヴ録音天地創造マーラー太鼓連打東京芸術劇場ピアノ協奏曲XVIII:7アコーディオンピアノ協奏曲XVIII:3ピアノ協奏曲XVIII:11ピアノ協奏曲XVIII:4バリトン三重奏曲SACDスコットランド歌曲ガスマンヴェルナーディヴェルティメント東京オペラシティベートーヴェンモーツァルトシューベルトアンダンテと変奏曲XVII:6LPピアノソナタXVI:38ヒストリカルピアノソナタXVI:31ラメンタチオーネ交響曲80番交響曲67番哲学者美人奏者ピアノソナタXVI:24交響曲35番交響曲51番交響曲46番協奏交響曲ヴァイオリン協奏曲DVDファンタジアXVII:4ピアノソナタXVI:52ピアノソナタXVI:49交響曲47番ピアノソナタXVI:48十字架上のキリストの最後の七つの言葉テレジアミサピアノソナタXVI:23ピアノソナタXVI:34ピアノソナタXVI:46ピアノソナタXVI:21ピアノソナタXVI:28ピアノソナタXVI:20ピアノソナタXVI:40アリエッタと12の変奏XVII:3サントリーホールラ・ロクスラーヌ帝国ハイドンのセレナード弦楽四重奏曲Op.76皇帝ピアノソナタXVI:50ピアノソナタXVI:51ラルゴ五度交響曲1番ピアノ三重奏曲弦楽四重奏曲Op.64日の出ひばりチェロ協奏曲ピアノソナタXVI:44ピアノソナタXVI:36ピアノソナタXVI:32ラウドン将軍弦楽四重奏曲Op.1弦楽四重奏曲Op.33弦楽四重奏曲Op.77軍隊リヒャルト・シュトラウス弦楽四重奏曲Op.74騎士弦楽四重奏曲Op.20交響曲17番ピアノソナタXVI:27ピアノソナタXVI:1弦楽四重奏曲Op.103シベリウス武満徹時の移ろい無人島交響曲42番交響曲4番ベルリンフィル交響曲19番ホルン信号告別弦楽四重奏曲Op.55弦楽四重奏曲Op.54交響曲87番交響曲86番王妃弦楽四重奏曲Op.9フルート三重奏曲トランペット協奏曲ピアノソナタXVI:26ピアノソナタXVI:29ピアノソナタXVI:25驚愕時計ロンドンリュートピアノソナタXVI:10ピアノとヴァイオリンのための協奏曲XVIII:6ピアノ五重奏曲チェチーリアミサラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン東京国際フォーラム雌鶏交響曲39番冗談英語カンツォネッタ集ナクソスのアリアンナアレルヤピアノ協奏曲XVIII:5ピアノ協奏曲XVIII:9ヴァイオリンソナタバッハ交響曲52番ホルン協奏曲ピアノ協奏曲XVIII:2交響曲81番交響曲79番交響曲78番交響曲99番ロンドン・トリオブルックナー交響曲88番オックスフォードモテットドイツ国歌カノンオフェトリウムピアノソナタXVI:37スタバト・マーテルピアノソナタXVI:42弦楽四重奏曲Op.50よみうり大手町ホールクラヴィコードパッヘルベル弦楽四重奏曲Op.17交響曲102番アダージョXVII:9受難ピアノソナタXVI:35パリセット交響曲84番ベルクブーレーズピアノソナタXVI:6交響曲全集主題と6つの変奏弦楽四重奏曲Op.71オペラアリアピアノソナタXVI:41スクエアピアノショスタコーヴィチ交響曲57番交響曲68番リラ・オルガニザータ協奏曲オーボエ協奏曲悲しみリーム交響曲50番交響曲89番CD-R偽作トビアの帰還ホルン三重奏曲薬剤師ヴァイオリンとヴィオラのためのソナタオルガン協奏曲交響曲38番火事リベラ・メピアノ協奏曲XVIII:10交響曲97番奇跡交響曲34番交響曲77番交響曲18番ストラヴィンスキー温泉フルートソナタ交響曲98番ドイツ舞曲誕生日交響曲90番校長先生交響曲93番ピアノソナタXVI:47bis音楽時計曲ピアノ小品ピアノソナタXVI:11カートリッジ雅楽プロコフィエフヘンデルサン=サーンス交響曲36番リストシェーンベルクピアノソナタXVI:14オーディオバリトン二重奏曲交響曲75番交響曲91番交響曲66番長岡鉄男歌舞伎おすすめ盤ピアノソナタXVI:47読売日響第九オペラ歌舞伎座スケルツァンド弦楽四重奏曲op.33ザルツブルク音楽祭ピアノソナタXVI:39ピアノソナタXVI:12ピアノソナタXVI:22変奏曲XVII:7オペラ序曲天地創造ミサジャズネルソンミサ弦楽四重奏曲Op.42交響曲76番ピアノソナタXVI:4ピアノソナタXVI:43古楽器風東急文化村ノットゥルノピアノソナタXVI:2ヴェーベルン哲学者の魂、またはオルフェオとエウリディーチェライヴ府中の森芸術劇場マリア・テレジア裏切られた誠実バリトン五重奏曲ハイドン入門者向け歌曲ピアノソナタXVI:G1ピアノソナタXVI:8ウィーンフィル月の世界交響曲72番建築ファリャマリアテレジア交響曲56番交響曲27番2つのホルンのための協奏曲展覧会ピアノソナタXVI:19弦楽四重奏曲全集シャンゼリゼ劇場8人のへぼ仕立て屋に違いない弦楽四重奏曲Op.2皇帝讃歌交響曲24番大オルガンミサ小オルガンミサ新橋演舞場交響曲10番交響曲5番サルヴェ・レジーナテ・デウムカッサシオン室内楽曲ピアノソナタXVI:45ベトナム料理国立新美術館高音質CD剃刀ドビュッシー交響曲28番交響曲13番交響曲95番交響曲107番交響曲62番変わらぬまこと交響曲108番ジプシー・ロンドチェンバロ四重奏曲交響曲9番交響曲3番交響曲2番スカルラッティカンタータ声楽曲戦時のミサ珍盤ザロモンセットN響ハルモニーミサミサ曲全集NHKホールハインリッヒミサピアノソナタ全集ジュピターレコードマーキュリー管弦楽曲室内楽変奏曲XVII:5交響曲54番交響曲41番ギターピアノソナタXVI:33府中交響曲58番ピアノソナタXVI:30カラヤン弦楽三重奏曲スウェーリンク書籍交響曲65番ニコライミサ交響曲71番アプラウスピアノソナタXVI:13魂の歌仙台ヤナーチェク現代音楽Blu-ray狩りピアノソナタ

ハイドン所有盤リスト
Joseph Haydn Discography at H. R. A.
所有盤をジャンル別にリスト化しています。基本的に録音年順とし、録音年不明のものは末尾に記載。演奏者名はジャケットなどの表記に合わせています。

2016年9月のデータ(2016年9月30日)
登録曲数:1,361曲(前月比+3曲) 登録演奏数:9,608(前月比+87演奏)
月別(表示数指定)
リンク
全記事表示リンク

全ての記事を表示する

カウンター
カレンダー
03 | 2017/04 | 05
- - - - - - 1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 - - - - - -
ブログ内検索
Translation(自動翻訳)
ブログランキング等
当Blogへお越しの際は、下のバナーをクリックの上お仲間のBlogも是非お楽しみください。
クラシック音楽鑑賞の情報満載。
にほんブログ村 クラシックブログ クラシック音楽鑑賞へ

クラシックの膨大なブログランキング。更新もクイック。
人気ブログランキングへ

音楽家、音大生、音楽愛好家のブログランキング。
音楽ブログランキング

このブログの成分解析。キーワードによるブログランキング。
blogram投票ボタン

大家さんFC2のクラシックブログランキング。


おすすめ(音楽)
ハイドンの超厳選名演盤。
AdamFischer97.jpg
沸き上がる興奮(Blog記事

Gloukhova2.jpg
ピアノソナタ新風(Blog記事

RialAria.jpg
恋人のための...(Blog記事

書籍もCDも送料1点から無料。配送クイック。


クラシックのアルバム・日本語解説が一番充実。
HMVジャパン
HMV ONLINEでハイドンのアルバムを検索icon
HMV ONLINEでハイドン関係書籍・楽譜を検索 icon

クラシックの独自企画・復刻盤は要注目。


おすすめ(音楽以外)




アクセスランキング(FC2)
[ジャンルランキング]
音楽
157位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
クラシック
11位
アクセスランキングを見る>>
twitter
ブログの更新情報などをつぶやいています。
最新コメント
最新トラックバック
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

RSSリンクの表示
Powered By FC2ブログ

今すぐブログを作ろう!

Powered By FC2ブログ