【新着】ウェルナー・ギュラのスコットランド歌曲集(ハイドン)

歌曲のアルバムが続きます。テノールによるスコットランド歌曲集。

WernerGura.jpg
HMV ONLINEicon / amazon / TOWER RECORDS

ウェルナー・ギュラ(Werner Güra)のテノール、クリストフ・ベルナー(Chirstoph Berner)のフォルテピアノ、ジュリア・シュレーダー(Julia Schröder)のヴァイオリン、ロエル・ディールティエンス(Roel Dieltiens)のチェロによる、ハイドンのスコットランド歌曲集から13曲とピアノ三重奏曲(Hob.XV:27)のあわせて14曲を収めたアルバム。収録は2012年3月、ドイツ南部のノイマルクトにあるライトシュターデル文化センターでのセッション録音。レーベルは名門仏harmonia mundi。

歌手のウェルナー・ギュラはジャケット写真を見る限り、いい感じのおじさん。調べてみると、1964年ドイツのミュンヘン生まれとの事。同世代です(笑)。手元のアルバムでは、ルネ・ヤーコプスの四季、アーノンクールの四季の新盤でルーカスを歌っている他、アーノンクールの「騎士オルランド」にも登場しています。ザルツブルク・モーツァルテウムで学んだ後、バーゼル、アムステルダムでクルト・ヴィドマー、テオ・アダムらに師事しました。フランクフルト歌劇場、バーゼル歌劇場に客演したのち、1994年から99年までドレスデンのゼンパー・オーパーで主にモーツァルト、ロッシーニ歌いとして活躍、1998年以降はベルリン国立歌劇場に客演しています。録音ではルネ・ヤーコプスやアーノンクールの他、フィリップ・ヘレヴェッヘなどのアルバムにも登場し、主に古楽系のアーティストとの共演が多いようですね。ソロをちゃんと聴くのははじめての人。

フォルテピアノのクリストフ・ベルナーはウィーン生まれの若手。弾いているのはCollard & Collardのフォルテピアノ。ヴァイオリンのジュリア・シュレーダーは1978年南ドイツのシュトラウビング生まれ。チェロのロエル・ディールティエンスは1957年ベルギーに生まれのベテラン。聴く限り皆かなりのテクニシャンです。

なぜかこのところスコットランド歌曲集のアルバムないろいろリリースされています。一つ前のレビューで取りあげたドロテー・ミールズのアルバムでもソプラノによる素晴しいスコットランド歌曲が聴かれました。このウェルナー・ギュラの歌うアルバムもそれに負けず劣らず魅力的。もちろん、スコットランド歌曲集にはBrilliant Classicsの全集という燦然と輝く名盤がありますが、この素朴なメロディーにハイドンが創意を凝らしてピアノトリオの伴奏をつけた膨大な曲集には、様々な演奏が光を当てて多様な美しさを演出する価値があります。

このギュラ盤はフォルテピアノと古楽器による伴奏ですが、Collard & Collardの響きはフォルテピアノといってもかなり現代ピアノに近い響きのもので、古楽器らしい雅な魅力ではなく、古楽器を感じさせるオーセンティックな音色による、精緻な躍動感と多彩なデュナーミクのコントロールを感じさせるもの。ギュラの声も豊かな響きで堂々としながら、この素朴な歌曲のデリケートなニュアンスを実に良く汲んだもの。ときおり見せるくだけた表情も表現の幅を感じさせ、歌うことを心から楽しんでいるように聴こえます。

収録曲は下記のとおり。独特なのが、1曲含まれているピアノトリオが、1楽章ずつ細切れにされ、スコットランド歌曲の間にはさまれていること。当時はこうした形で演奏されたということなのでしょうか。そして、曲を登録していて気づいたのですが、このアルバムに収録された13曲のスコットランド歌曲のうち、実に6曲がBrilliant Classicsの全集の一番最初にリリースされた第1巻に含まれる曲。私がスコットランド歌曲集の魅力に取り憑かれたのもBrilliant Classicsの第1巻があまりに素晴しかったからで、それこそ擦り切れるほど聴いたアルバムです。

ということで、このアルバム、名門harmonia mundiが、新興勢力であるBrilliant Classicsの後塵を拝することになってしまったスコットランド歌曲集という分野での起死回生の刺客という位置づけかもしれません。重なる曲の出来を聴けといわれているような気分になります。そういった視点でも面白い企画ということが出来るでしょう。

主だった曲のみコメントをつけます。

Hob.XXXIa:31bis - JHW XXXII/3 No.152 / "The lea-rig" 「リー・リグ」 (Robert Burns)
いきなりスコットランドの空気につつまれるよう。Brilliant Classicsの第1巻に含まれる曲。フォルテピアノはかなりリズムに抑揚をつけて、爽やかながら豊かな表情をリード。晴朗さで聴かせるBrilliant Classics盤とはアプローチが異なり、精緻な録音と相俟って彫りの深い音楽が流れます。

Hob.XXXIa:143bis - JHW XXXII/3 No.254 / "Morag" 「モラグ」 (Robert Burns)
重くたれ込める鉛色の雲の無限の階調を詩情深く歌うような曲。陰る表情の余韻の美しさが際立ちます。フォルテピアノの音色の美しさが印象的。この曲もBrilliant Classicsの第1巻に含まれる曲。

Hob.XXXIa:229 - JHW XXXII/3 No.213 / "Sleep'st thou, or wak'st thou" "Deil tak' the wars" 「眠っているの、それとも起きているの?」 (Robert Burns)
同様第1巻に含まれています。ホーボーケン番号がBrilliant Classics盤と合いません。ここではBrilliant Classicsの番号で記載しています。

Hob.XXXIa:227 - JHW XXXII/3 No.229 / "O wise and valiant Willy" "Rattling roaring Willy" 「おおかしこき勇敢なウィリー」 (Anne Grant)

この間にピアノトリオの1楽章が挟まりますが、まとめて最後に記載します。

Hob.XXXIa:11bis - JHW XXXII/3 No.166 / "Twas at the hour of dark midnight" "Barbara Allan" 「それは暗い真夜中のことだった」 (Sir Gilbert Elliot of Minto)
ピアノトリオの快活な響きからさっと切り替え、しっとりと沈んだ表情の曲。叙情的になりすぎることなく、キレ味の鋭い沈み方。ヴァイオリンとチェロがフォルテピアノのテンポに寄り添うように音を重ねていきます。ギュラの歌唱は余裕があり、フレーズごとの表情をかなりくっきりとつけて、曲の流れをしっかりとコントロールし、歌手と伴奏の音楽が見事に呼応しています。こうゆう遅い曲を表情豊かに演奏するのはかなりの腕と見ました。

Hob.XXXIa:252 - JHW XXXII/3 No.232 / "Jenny's bawbee" 「ジェニーのボービー」 (Alexander Boswell)

Hob.XXXIa:1bis - JHW XXXII/3 No.201 / "Mary's dream" 「メリーの夢」 (Alexander Lowe)
お気に入りの曲。この曲はBrilliant Classics盤には2つのバージョンが収めらていますが、ドロテー・ミールズ盤とは違うホーボーケン番号のもの。曲の詳細はわかりませんが、この郷愁あふれる曲をギュラは凛々しくも朗々と歌い上げていきます。男声による歌も悪くありません。

このあとピアノトリオのアンダンテ。

Hob.XXXIa:219bis - JHW XXXII/3 No.186 / "The night her silent sable wore" "She rose, and let me in" 「夜に喪服を着て」
Brilliant Classics盤の第1巻の2曲目に収められた名曲。擦り切れるほど聴いた曲。ハイドン・トリオ・アイゼンシュタットよりもすこし冷静な演奏。凛々しさが心に刺さるよう。響きの良いホールに余韻が広がる様が手に取るようにわかる素晴しい録音。

Hob.XXXIa:153 - JHW XXXII/3 No.159 / "William and Margaret" 「ウィリアムとマーガレット」 (David Mallet)
Brilliant Classicsの第1巻に含まれる曲。ほの暗い曲を、ざらついた音色のヴァイオリンのあえてくだけたボウイングがさらに表情を濃くして独特の雰囲気をつくります。

Hob.XXXIa:178bis - JHW XXXII/5 No.422 / "Bessy Bell and Mary Gary" 「ベッシー・ベルとメリー・グレイ」 (Allan Ramsay)

Hob.XXXIa:4bis - JHW XXXII/3 No.216 / "There was a lass" "Willie was a wanton wag" 「とある小娘」 (Robert Burns)
Brilliant Classicsの第1巻に含まれる曲はこの曲でおわり。

Hob.XXXIa:175 - JHW XXXII/3 No.245 / "Highland Air. The lone vale" 「孤立した谷」 (The Hon. Andrew Erskine of Kellie)
タイトルからハイランドのシングルモルトをいただきたくなるような曲。ちょうどハイランドモルトのように、強烈な個性のアイラと甘みのスペイサイドとは異なる、クラインリーシュのような気高い香りを感じるような曲。

Hob.XXXIa:194 - JHW XXXII/3 No.236 / "My Love she's but a lassie yet" 「好きなあの娘はまだ小娘」 (Robert Burns, Hector Macnail)
最後はギュラのくだけた表現で聴かせる曲。

Hob.XV:27 / Piano Trio (Nr.43/op.75-1) [C] (1796)
3つの楽章が歌曲の間にバラバラに収められているのですが、今はCD時代ゆえまとめて1曲として聴く事ができます。ちなみにこのピアノトリオの演奏も爽やかさを保ちながら曲の起伏をきっちり表現した名演奏。これだけでも伴奏の3人の素晴らしい腕がわかります。

ウェルナー・ギュラの歌うハイドンが伴奏をつけたスコットランド歌曲集。これまたすばらしい出来でした。響きの良いホールでのびのびと演奏する様子が鮮明な録音で録られています。ギュラははじめてちゃんと聴きましたが、表現に余裕があり、歌詞とメロディーを完全にコントロールしています。伴奏の3人も伴奏にしておくにはもったいないほどの腕前。やはり老舗レーベルのプロダクションと唸る出来映えです。スコットランド家曲のアルバムは良いアルバムがいろいろありますが、このアルバムも歌曲好きの人には絶対のオススメ盤ですね。評価はご想像のとおり、全曲[+++++]としました。

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テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽

tag : スコットランド歌曲 古楽器

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非公開コメント

楽しみです!

おはようございます~

このアルバム取りよせに時間がかかっています(・_・;)でもますます楽しみになってきました!先日のミールズの盤は発売を知らなかったので次回購入時の一つに加えたいと思っています。有難うございました!

p.s. 願いがかなって三徳山から三朝温泉GoGo tour実現しそうです(笑)

Re: 楽しみです!

sifareさん、いつもコメントありがとうございます。
ギュラ盤、いいですよ〜。素朴な歌こそ、歌手の力量をあぶり出してしまうものですが、実に余裕たっぷりの歌い回し。着いたらゆっくりと楽しんでください。

三朝温泉行きもご計画とのこと。こちらも楽しんできてください!
共同浴場の株湯、素朴な風情で染み渡るような柔らかいお湯が素晴らしいです。旅館もいいですが、共同浴場も素晴らしいです。
プロフィール

Daisy


Author:Daisy

なぜかハイドン(Franz Joseph Haydn)が特に気に入り膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。東京在住のごく普通のサラリーマンです。

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